説明

耐熱性膨張黒鉛シート

【課題】700℃を超える高温領域においても黒鉛の酸化抑制作用を発揮し、耐酸化消耗率の高い耐熱性膨張黒鉛シートを提供すること。
【解決手段】耐熱性膨張黒鉛シートの製造方法は、黒鉛原料を強酸で処理した酸処理黒鉛原料に、有機リン化合物の粉末を配合し均一に攪拌混合して混合物を得たのち、この混合物を950〜1200℃の温度で1〜10秒間加熱処理して分解ガスを発生せしめ、そのガス圧により黒鉛層間を拡張して膨張倍率200〜300倍の膨張黒鉛粒子を得、この膨張黒鉛粒子を加圧成形することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性膨張黒鉛シート、詳細には高温時での耐酸化消耗性に優れた耐熱性膨張黒鉛シートに関する。
【背景技術】
【0002】
膨張黒鉛シートは、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、熱分解黒鉛等の黒鉛を、濃硫酸、濃硝酸、濃硫酸と塩素酸カリウム、濃硫酸と硝酸カリウム、または過酸化水素等の強酸化剤、臭素あるいは塩化アルミニウム等のハロゲン化物で処理することにより層間化合物を形成し、この層間化合物の形成された黒鉛粒子(酸処理黒鉛原料)を急激に加熱、例えば950℃以上の高温で1〜10秒間加熱処理して分解ガスを発生せしめ、そのガス圧により黒鉛層間を拡張して膨張黒鉛粒子を形成し、この膨張黒鉛粒子を結合剤の存在下または不存在下で圧縮成形ないしロール成形して形成される。このようにして製造された膨張黒鉛シートは、黒鉛自体が具有する耐熱性を有し、また可撓性を有することから曲げ加工、圧縮成形加工等の造形性に優れており、例えばガスケット、シーリング、断熱材、クッション材等の広い分野において使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この膨張黒鉛シートを形成する膨張黒鉛粒子としては、その膨張倍率が20〜70倍程度の低いものと、その膨張倍率が200〜300倍程度の高いものとが使用される。前者の膨張倍率が低い膨張黒鉛粒子を使用したものでは、シート化するにあたり結合剤の使用を余儀なくされるため、膨張黒鉛シートの純度低下及び物性低下を来す。
【0004】
これに対し、後者の膨張倍率が高い膨張黒鉛粒子を使用したものでは、結合剤を使用することなく膨張黒鉛粒子のみでシート化することができるため、膨張黒鉛シートの純度が高く、各種の物性に優れたものとなる。
【0005】
上述した膨張黒鉛シート、とくに膨張倍率が高倍率の膨張黒鉛粒子から製造された膨張黒鉛シートは各種の物性に優れているが、その使用条件が空気中であって、700℃を超える高温度領域での使用においては、耐熱性に問題があり、結果として黒鉛の酸化消耗を惹起するという、所謂酸化消耗率が高いという欠点がある。
【0006】
この欠点を解消するべく、低い膨張倍率の膨張黒鉛粒子を用い、この膨張黒鉛粒子にリン酸またはリン酸塩を含有させて黒鉛の酸化を抑制させた膨張黒鉛シートが提案されている(特公昭54−30678号公報所載)。このものではリン酸又はリン酸塩を使用することにより、接着剤を使用することなくシート化できる旨開示されているが、たとえシート化できても基本的に接着剤を使用していないので、膨張黒鉛シートとしての各種物性、とくに機械的特性、シートの均一性等において必ずしも満足の行くものではない。加えて、耐酸化性が向上されている旨開示されているが、長時間暴露した場合は、酸化消耗が激しく、決して満足の行くものではない。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、700℃を超える高温領域においても黒鉛の酸化抑制作用を発揮し、耐酸化消耗率の高い耐熱性膨張黒鉛シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様の耐熱性膨張黒鉛シートは、有機リン化合物が0.1〜10重量%の割合で分散含有されてなる。
【0009】
第一の態様の耐熱性膨張黒鉛シートによれば、当該シート中に分散含有された有機リン化合物により耐熱性が付与されているとともに、常温から700℃を超える広い温度領域においても耐酸化消耗率が高く、各種の用途に適用することができる。また、当該シートはこの種の膨張黒鉛シートに要求される、例えば可撓性、易加工性等の諸性質を具備しているので、用途に応じた形状への造形が可能である。
【0010】
当該シート中に分散含有される有機リン化合物の含有量の多寡が当該シートの耐熱性及び酸化消耗率に影響を与えるものである。有機リン化合物の含有量が0.1重量%未満では、耐熱性に充分寄与せず、該シートの耐酸化消耗率を著しく向上させることができず、また含有量が10重量%を超えると耐熱性のそれ以上の向上は望めず、また耐酸化消耗率のそれ以上の向上に効果が認められない。また、含有量が10重量%を超えると、該シートを硬くする傾向を示し、該シートの具有する可撓性を阻害することになる。
【0011】
膨張黒鉛の酸化消耗を好ましく低減させる有機リン化合物は、本発明の第二の態様の耐熱性膨張黒鉛シートのように、有機ホスホン酸及びそのエステル、有機ホスフィン酸及びそのエステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル並びに次亜リン酸エステルから選択される。
【0012】
有機ホスホン酸及びそのエステルとしては、本発明の第三の態様の耐熱性膨張黒鉛シートのように、下記一般式(1)で表される有機ホスホン酸及びそのエステルが好適に使用される。
【0013】
【化1】

【0014】
〔式(1)中、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基であり、R及びRは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基である。〕
【0015】
有機ホスフィン酸及びそのエステルとしては、本発明の第四の態様の耐熱性膨張黒鉛シートのように、下記一般式(2)で表される有機ホスホン酸及びそのエステルが好適に使用される。
【0016】
【化2】

【0017】
〔式(2)中、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基であり、R及びRは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基である。〕
【0018】
リン酸エステルとしては、本発明の第五の態様の耐熱性膨張黒鉛シートのように、下記一般式(3)で表されるリン酸エステルが好適に使用される。
【0019】
【化3】

【0020】
〔式(3)中、R、R、Rは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基である。ただし、すべて水素原子の場合を除く。〕
【0021】
亜リン酸エステルとしては、本発明の第六の態様の耐熱性膨張黒鉛シートのように、下記一般式(4)で表される亜リン酸トリエステル並びに下記一般式(5)で表される亜リン酸ジエステル及び亜リン酸モノエステルが好適に使用される。
【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
〔式(4)、(5)中、R10、R11、R12は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基であり、R13、R14は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基である。ただし、R13、R14共に水素原子の場合を除く。〕
【0025】
次亜リン酸エステルとしては、本発明の第七の態様の耐熱性膨張黒鉛シートのように、下記一般式(6)で表される次亜リン酸ジエステル(ホスホナイト)又は下記一般式(7)で表される次亜リン酸モノエステルが好適に使用される。
【0026】
【化6】

【0027】
【化7】

【0028】
〔式(6)、(7)中、R15は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基であり、R16、R17、R18は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基である。〕
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、酸処理黒鉛原料に所定量の有機リン化合物を配合することにより、700℃を超える温度においても耐酸化消耗率が高い耐熱性膨張黒鉛シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は膨張黒鉛シートの可撓性を評価する試験装置の一例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明及び本発明の実施の形態を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施の形態に何等限定されないのである。
【0032】
本発明の耐熱性膨張黒鉛シートの製造方法について説明する。
【0033】
<耐熱性膨張黒鉛シートの製造方法:I>
濃度98%の濃硫酸300重量部を攪拌しながら、酸化剤として過酸化水素の60%水溶液5重量部を加え、これを反応液とする。この反応液を冷却して10℃の温度に保持し、粒度30〜80メッシュの鱗片状天然黒鉛粉末を添加し、30分間反応を行う。反応後、吸引濾過して酸処理黒鉛を分離し、該酸処理黒鉛を水で10分間攪拌して吸引濾過するという洗浄作業を2回繰り返し、酸処理黒鉛から硫酸分を十分除去する。ついで、硫酸分を十分除去した酸処理黒鉛を110℃の温度に保持した乾燥炉で3時間乾燥し、これを酸処理黒鉛原料とする。
【0034】
酸処理黒鉛原料を攪拌しながら、該酸処理黒鉛原料に有機リン化合物の粉末又は溶液を所定量の割合で配合し、均一に攪拌して混合物を得る。この混合物を、950〜1200℃の温度で1〜10秒間加熱(膨張)処理して、分解ガスを発生せしめ、そのガス圧により黒鉛層間を拡張して膨張黒鉛粒子(膨張倍率200〜300倍)を形成する。この膨張黒鉛粒子を双ローラー装置に供給してロール成形し、所望の厚さの耐熱性膨張黒鉛シートを作製する。
【0035】
<耐熱性膨張黒鉛シートの製造方法:II>
前記製造方法Iと同様にして酸処理黒鉛原料を作製する。この酸処理黒鉛原料を950〜1200℃の温度で1〜10秒間加熱(膨張)処理して、分解ガスを発生せしめ、そのガス圧により黒鉛層間を拡張して膨張黒鉛粒子(膨張倍率200〜300倍)を形成する。このようにして得た膨張黒鉛粒子に有機リン化合物の粉末又は溶液を所定量の割合で配合し、均一に攪拌して混合物を得る。この混合物を双ローラー装置に供給してロール成形し、所望の厚さの耐熱性膨張黒鉛シートを作製する。
【0036】
上記製造方法I及び製造方法IIで作製した耐熱性膨張黒鉛シートは、所定量の有機リン化合物及び膨張黒鉛を含んでおり、可撓性を有するシートである。
【0037】
耐熱性膨張黒鉛シート中に分散含有された有機リン化合物は、膨張黒鉛の700℃を超える高温における酸化消耗を抑制する作用を発揮するものであり、有機リン化合物の含有量は0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜7.0重量%、さらに好ましくは2.0〜5.0重量%である。有機リン化合物の含有量の多寡は耐熱性膨張黒鉛シートの可撓性に影響を及ぼすものであり、その含有量が10.0重量%を超えるとシート自体が硬く、脆くなる傾向を示し、各種用途に応じた形状等に形成する際の造形性や加工性を阻害することになる。また、有機リン化合物の含有量が0.1重量%未満では、耐熱性を充分付与し難く、高温時の酸化抑制効果が充分ではない。
【0038】
有機リン化合物としては、有機ホスホン酸及びそのエステル、有機ホスフィン酸及びそのエステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル並びに次亜リン酸エステル等が挙げられる。
【0039】
有機ホスホン酸及びそのエステルとしては、下記一般式(1)で表される有機ホスホン酸及びそのエステルが好適に使用される。
【0040】
【化8】

【0041】
上式(1)中、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基であり、R及びRは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基である。
【0042】
アルキル基としては、直鎖又は分岐鎖の、好ましくは炭素数1〜10、さらに好ましくは炭素数1〜6のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等)であり、アリール基としては、好ましくは炭素数6〜18、さらに好ましくは炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基、エチルフェニル基、トリル基、キシリル基等)であり、アラルキル基としては、そのアルキレン部が、直鎖又は分岐鎖の、好ましくは炭素数1〜10、さらに好ましくは炭素数1〜6のアルキレンであり、アリール部が、好ましくは炭素数6〜18、さらに好ましくは炭素数6〜10のアリールである(例えば、ベンジル基、ナフチルメチル基等)。
【0043】
具体例としては、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、トリルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、メチルホスホン酸メチル、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチル等が挙げられる。
【0044】
有機ホスフィン酸及びそのエステルとしては、下記一般式(2)で表される有機ホスホン酸及びそのエステルが好適に使用される。
【0045】
【化9】

【0046】
上式(2)中、Rは、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を、R、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基である。アルキル基、アリール基及びアラルキル基については上記と同じである。
【0047】
具体例としては、メチルホスフィン酸、エチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、メチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、メチルホスフィン酸エチル、ジメチルホスフィン酸エチル、メチルホスフィン酸フェニル、フェニルホスフィン酸エチル等が挙げられる。
【0048】
リン酸エステルとしては、下記一般式(3)で表されるリン酸エステルが好適に使用される。
【0049】
【化10】

【0050】
上式(3)中、R、R、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基である。ただし、すべて水素原子の場合を除く。
【0051】
アルキル基、アリール基及びアラルキル基については上記と同様である。具体例としては、リン酸メチル、リン酸ブチル、リン酸フェニル、リン酸ジエチル、リン酸ジフェニル、リン酸ジベンジル、リン酸トリメチル、リン酸トリフェニル、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸メチルジフェニル等が挙げられる。
【0052】
亜リン酸エステルとしては、下記一般式(4)で表される亜リン酸トリエステル並びに下記一般式(5)で表される亜リン酸ジエステル及び亜リン酸モノエステルが好適に使用される。
【0053】
【化11】

【0054】
【化12】

【0055】
上式(4)、(5)中、R10、R11、R12は、アルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、R13、R14は、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基である。ただし、R13、R14共に水素原子の場合を除く。
【0056】
アルキル基、アリール基及びアラルキル基は、上記と同様である。具体例としては、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸ブチル、亜リン酸フェニル等が挙げられる。
【0057】
次亜リン酸エステルとしては、下記一般式(6)で表される次亜リン酸ジエステル(ホスホナイト)又は下記一般式(7)で表される次亜リン酸モノエステルが好適に使用される。
【0058】
【化13】

【0059】
【化14】

【0060】
上式(6)、(7)中、R15は、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、R16、R17、R18は、アルキル基、アリール基又はアラルキル基である。
【0061】
アルキル基、アリール基及びアラルキル基は、上記と同様である。具体例としては、ジメチルホスホナイト、ジフェニルホスホナイト、ジベンジルホスホナイト、ジエチルフェニルホスホナイト、次亜リン酸メチル、次亜リン酸エチル、次亜リン酸フェニル等が挙げられる。
【0062】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
実施例1〜8
濃度98%の濃硫酸300重量部を撹拌しながら、酸化剤として過酸化水素の60%水溶液5重量部を加え、これを反応液とした。この反応液を冷却して10℃の温度に保持し、粒度30〜80メッシュの鱗片状天然黒鉛粉末100重量部を添加し、30分間反応を行った。反応後、吸引濾過して酸処理黒鉛を分離し、該酸処理黒鉛を300重量部の水で10分間撹拌して吸引濾過するという洗浄作業を2回繰り返し、酸処理黒鉛から硫酸分を充分除去した。ついで、硫酸分を充分除去した酸処理黒鉛を110℃の温度に保持した乾燥炉で3時間乾燥し、これを酸処理黒鉛原料とした。
【0064】
酸処理黒鉛原料100重量部を攪拌しながら該酸処理黒鉛原料に、有機リン化合物としてフェニルホスホン酸の粉末を(1)0.1重量部、(2)0.5重量部、(3)1.0重量部、(4)2.0重量部、(5)4.2重量部、(6)6.4重量部、(7)8.7重量部、(8)11.1重量部それぞれ配合し、均一に攪拌混合して8種類の混合物を得た。これらの混合物をそれぞれ、1000℃の温度で5秒間加熱処理して分解ガスを発生せしめ、そのガス圧により黒鉛層間を拡張して膨張倍率240倍の膨張黒鉛粒子を得た。この膨張処理工程において、フェニルホスホン酸は膨張黒鉛粒子に分散含有されている。この膨張黒鉛粒子を圧延ロールに通してロール成形を施し、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シートを作製した。この膨張黒鉛シートは、(1)フェニルホスホン酸0.1重量%及び膨張黒鉛99.9重量%、(2)フェニルホスホン酸0.5重量%及び膨張黒鉛99.5重量%、(3)フェニルホスホン酸1.0重量%及び膨張黒鉛99.0重量%、(4)フェニルホスホン酸2.0重量%及び膨張黒鉛98.0重量%、(5)フェニルホスホン酸4.0重量%及び膨張黒鉛96.0重量%、(6)フェニルホスホン酸6.0重量%及び膨張黒鉛94.0重量%、(7)フェニルホスホン酸8.0重量%及び膨張黒鉛92.0重量%、(8)フェニルホスホン酸10.0重量%及び膨張黒鉛90.0重量%を含んでいる。
【0065】
実施例9〜12
前記実施例と同様にして、酸処理黒鉛原料を作製した。該酸処理黒鉛原料100重量部を撹拌しながら、該酸処理黒鉛原料に、有機リン化合物としてフェニルホスホン酸ジエチルの粉末を(9)1.0重量部、(10)2.0重量部、(11)4.2重量部、(12)6.4重量部それぞれ配合し、均一に攪拌混合して4種類の混合物を得た。これらの混合物をそれぞれ、1000℃の温度で5秒間加熱処理して分解ガスを発生せしめ、そのガス圧により黒鉛層間を拡張して膨張倍率240倍の膨張黒鉛粒子を得た。この膨張処理工程において、フェニルホスホン酸ジエチルは膨張黒鉛粒子に分散含有されている。
【0066】
この膨張黒鉛粒子を圧延ロールに通してロール成形を施し、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シートを作製した。このようにして作製した膨張黒鉛シートは、(9)フェニルホスホン酸ジエチル1.0重量%及び膨張黒鉛99.0重量%、(10)フェニルホスホン酸ジエチル2.0重量%及び膨張黒鉛98.0重量%、(11)フェニルホスホン酸ジエチル4.0重量%及び膨張黒鉛96.0重量%、(12)フェニルホスホン酸ジエチル6.0重量%及び膨張黒鉛94.0重量%を含んでいる。
【0067】
実施例13〜16
前記実施例と同様にして、酸処理黒鉛原料を作製した。該酸処理黒鉛原料100重量部を撹拌しながら、該酸処理黒鉛原料に、有機リン化合物としてジフェニルホスフィン酸の粉末を(13)1.0重量部、(14)2.0重量部、(15)4.2重量部、(16)6.4重量部それぞれ配合し、均一に攪拌混合して4種類の混合物を得た。これらの混合物を、1000℃の温度で5秒間加熱処理して分解ガスを発生せしめ、そのガス圧により黒鉛層間を拡張して膨張倍率240倍の膨張黒鉛粒子を得た。この膨張処理工程において、ジフェニルホスフィン酸は膨張黒鉛粒子に分散含有されている。
【0068】
この膨張黒鉛粒子を圧延ロールに通してロール成形を施し、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シートを作製した。このようにして作製した膨張黒鉛シートは、(13)ジフェニルホスフィン酸1.0重量%及び膨張黒鉛99.0重量%、(14)ジフェニルホスフィン酸2.0重量%及び膨張黒鉛98.0重量%、(15)ジフェニルホスフィン酸4.0重量%及び膨張黒鉛96.0重量%、(16)ジフェニルホスフィン酸6.0重量%及び膨張黒鉛94.0重量%を含んでいる。
【0069】
実施例17〜20
前記実施例と同様にして、酸処理黒鉛原料を作製した。該酸処理黒鉛原料100重量部を撹拌しながら、該酸処理黒鉛原料に、有機リン化合物としてフェニルホスフィン酸の粉末を(17)1.0重量部、(18)2.0重量部、(19)4.2重量部、(20)6.4重量部それぞれ配合し、均一に攪拌混合して4種類の混合物を得た。これらの混合物を、1000℃の温度で5秒間加熱処理して分解ガスを発生せしめ、そのガス圧により黒鉛層間を拡張して膨張倍率240倍の膨張黒鉛粒子を得た。この膨張処理工程において、フェニルホスフィン酸は膨張黒鉛粒子に分散含有されている。
【0070】
この膨張黒鉛粒子を圧延ロールに通してロール成形を施し、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シートを作製した。このようにして作製した膨張黒鉛シートは、(17)フェニルホスフィン酸1.0重量%及び膨張黒鉛99.0重量%、(18)フェニルホスフィン酸2.0重量%及び膨張黒鉛98.0重量%、(19)フェニルホスフィン酸4.0重量%及び膨張黒鉛96.0重量%、(20)フェニルホスフィン酸6.0重量%及び膨張黒鉛94.0重量%を含んでいる。
【0071】
実施例21〜24
前記実施例と同様にして、酸処理黒鉛原料を作製した。該酸処理黒鉛原料100重量部を撹拌しながら、該酸処理黒鉛原料に、有機リン化合物としてリン酸エステル、具体的にはリン酸ジフェニルの粉末を(21)1.0重量部、(22)2.0重量部、(23)4.2重量部、(24)6.4重量部それぞれ配合し、均一に攪拌混合して4種類の混合物を得た。これらの混合物を、1000℃の温度で5秒間加熱処理して分解ガスを発生せしめ、そのガス圧により黒鉛層間を拡張して膨張倍率240倍の膨張黒鉛粒子を得た。この膨張処理工程において、リン酸ジフェニルは膨張黒鉛粒子に分散含有されている。
【0072】
この膨張黒鉛粒子を圧延ロールに通してロール成形を施し、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シートを作製した。このようにして作製した膨張黒鉛シートは、(21)リン酸ジフェニル1.0重量%及び膨張黒鉛99.0重量%、(22)リン酸ジフェニル2.0重量%及び膨張黒鉛98.0重量%、(23)リン酸ジフェニル4.0重量%及び膨張黒鉛96.0重量%、(24)リン酸ジフェニル6.0重量%及び膨張黒鉛94.0重量%を含んでいる。
【0073】
実施例25〜28
前記実施例と同様にして、酸処理黒鉛原料を作製した。該酸処理黒鉛原料100重量部を撹拌しながら、該酸処理黒鉛原料に、有機リン化合物として亜リン酸エステル、具体的には亜リン酸トリフェニルの溶液を(25)1.0重量部、(26)2.0重量部、(27)4.2重量部、(28)6.4重量部それぞれ噴霧状に配合し、均一に攪拌混合して4種類の混合物を得た。これらの混合物を、1000℃の温度で5秒間加熱処理して分解ガスを発生せしめ、そのガス圧により黒鉛層間を拡張して膨張倍率240倍の膨張黒鉛粒子を得た。この膨張処理工程において、亜リン酸トリフェニルは膨張黒鉛粒子に分散含有されている。
【0074】
この膨張黒鉛粒子を圧延ロールに通してロール成形を施し、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シートを作製した。このようにして作製した膨張黒鉛シートは、(25)亜リン酸トリフェニル1.0重量%及び膨張黒鉛99.0重量%、(26)亜リン酸トリフェニル2.0重量%及び膨張黒鉛98.0重量%、(27)亜リン酸トリフェニル4.0重量%及び膨張黒鉛96.0重量%、(28)亜リン酸トリフェニル6.0重量%及び膨張黒鉛94.0重量%を含んでいる。
【0075】
実施例29〜32
前記実施例と同様にして、酸処理黒鉛原料を作製した。該酸処理黒鉛原料100重量部を撹拌しながら、該酸処理黒鉛原料に、有機リン化合物として次亜リン酸エステル、具体的にはジメチルホスホナイトの粉末を(29)1.0重量部、(30)2.0重量部、(31)4.2重量部、(32)6.4重量部それぞれ配合し、均一に攪拌混合して4種類の混合物を得た。これらの混合物を、1000℃の温度で5秒間加熱処理して分解ガスを発生せしめ、そのガス圧により黒鉛層間を拡張して膨張倍率240倍の膨張黒鉛粒子を得た。この膨張処理工程において、ジメチルホスホナイトは膨張黒鉛粒子に分散含有されている。
【0076】
この膨張黒鉛粒子を圧延ロールに通してロール成形を施し、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シートを作製した。このようにして作製した膨張黒鉛シートは、(29)ジメチルホスホナイト1.0重量%及び膨張黒鉛99.0重量%、(30)ジメチルホスホナイト2.0重量%及び膨張黒鉛98.0重量%、(31)ジメチルホスホナイト4.0重量%及び膨張黒鉛96.0重量%、(32)ジメチルホスホナイト6.0重量%及び膨張黒鉛94.0重量%を含んでいる。
【0077】
比較例1〜3
前記実施例と同様にして酸処理黒鉛原料を作製した。該酸処理黒鉛原料100重量部を撹拌しながら、該酸処理黒鉛原料に濃度84%のオルトリン酸水溶液を(1)0.33重量部、(2)0.99重量部、(3)1.66重量部の割合で噴霧状に配合し、均一に撹拌して湿潤性を有する混合物を作製した。以下、前記実施例と同様の方法で、膨張倍率250倍の膨張黒鉛粒子を作製し、前記実施例と同様の方法で厚さ0.38mmの膨張黒鉛シートを作製した。この比較例で、酸処理黒鉛原料の配合したオルトリン酸は膨張処理工程において脱水反応を生じて五酸化リンを生成する。このようにして作製した膨張黒鉛シートは、(1)五酸化リン0.2重量%及び膨張黒鉛99.8重量%、(2)五酸化リン0.6重量%及び膨張黒鉛99.4重量%、(3)五酸化リン1.0重量%及び膨張黒鉛99.0重量%を含んでいる。
【0078】
比較例4〜6
前記実施例と同様にして酸処理黒鉛原料を作製した。該酸処理黒鉛原料100重量部を撹拌しながら、該酸処理黒鉛原料に濃度50%の第一リン酸アルミニウム水溶液(4)8.4重量部、(5)17.4重量部、(6)38重量部をメタノール30重量部で希釈した溶液を噴霧状に配合し、均一に撹拌して湿潤性を有する混合物を作製した。以下、前記実施例と同様の方法で、膨張倍率250倍の膨張黒鉛粒子を作製し、前記実施例と同様の方法で厚さ0.38mmの膨張黒鉛シートを作製した。このようにして作製した膨張黒鉛シートは、(4)第一リン酸アルミニウム4.0重量%及び膨張黒鉛96.0重量%、(5)第一リン酸アルミニウム8.0重量%及び膨張黒鉛92.0重量%、(6)第一リン酸アルミニウム16.0重量%及び膨張黒鉛84.0重量%を含んでいる。
【0079】
上述した実施例1ないし実施例32及び比較例1ないし比較例6で得た膨張黒鉛シートについて、酸化消耗率を試験した。試験方法は、膨張黒鉛シートを720℃の温度に保持した空気中に3時間放置したのちの該膨張黒鉛シートの重量減少率(%)で表示した。また、実施例1ないし実施例32及び比較例1ないし比較例6で得た膨張黒鉛シートの可撓性について試験した。試験方法は、図1に示す試験装置を用いて幅10mm、長さ100mmの膨張黒鉛シートを交互に90度の角度に曲げて当該シートが切断するまでの回数で示した。図1中、1は膨張黒鉛シート、2は50gの重り、3は曲げ範囲を示す。これらの試験結果を表1〜表10に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
【表5】

【0085】
【表6】

【0086】
【表7】

【0087】
【表8】

【0088】
【表9】

【0089】
【表10】

【0090】
以上の試験結果から明らかなように、実施例からなる耐熱性膨張黒鉛シートは、当該シート中に有機リン化合物として、フェニルホスホン酸(実施例1ないし8)、フェニルホスホン酸ジエチル(実施例9ないし12)、ジフェニルホスフィン酸(実施例13ないし16)、フェニルホスフィン酸(実施例17ないし20)、リン酸エステル(リン酸ジフェニル:実施例21ないし24)、亜リン酸エステル(亜リン酸トリフェニル:実施例25ないし28)、次亜リン酸エステル(ジメチルホスホナイト:実施例29ないし32)を分散含有したことにより、比較例の膨張黒鉛シートと比較して、耐熱性が向上され、かつ700℃を超える温度においても耐酸化消耗率が高いという効果を発揮するものであり、また本来具有する可撓性等の諸性質を何ら損うことなく同等の性質を具備するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機リン化合物が0.1〜10重量%の割合で分散含有されている耐熱性膨張黒鉛シート。
【請求項2】
有機リン化合物が、有機ホスホン酸及びそのエステル、有機ホスフィン酸及びそのエステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル並びに次亜リン酸エステルから選択される請求項1に記載の耐熱性膨張黒鉛シート。
【請求項3】
有機ホスホン酸及びそのエステルが下記一般式(1)で表される請求項2に記載の耐熱性膨張黒鉛シート。
【化1】


〔式(1)中、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基であり、R及びRは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基である。〕
【請求項4】
有機ホスフィン酸及びそのエステルが下記一般式(2)で表される請求項2に記載の耐熱性膨張黒鉛シート。
【化2】


〔式(2)中、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基であり、R及びRは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基である。〕
【請求項5】
リン酸エステルが下記一般式(3)で表される請求項2に記載の耐熱性膨張黒鉛シート。
【化3】


〔式(3)中、R、R、Rは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基である。ただし、すべて水素原子の場合を除く。〕
【請求項6】
亜リン酸エステルが下記一般式(4)で表される亜リン酸トリエステル並びに下記一般式(5)で表される亜リン酸ジエステル及び亜リン酸モノエステルから選択される請求項2に記載の耐熱性膨張黒鉛シート。
【化4】


【化5】


〔式(4)、(5)中、R10、R11、R12は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基であり、R13、R14は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基である。ただし、R13、R14共に水素原子の場合を除く。〕
【請求項7】
次亜リン酸エステルが下記一般式(6)で表される次亜リン酸ジエステル(ホスホナイト)又は下記一般式(7)で表される次亜リン酸モノエステルである請求項2に記載の耐熱性膨張黒鉛シート。
【化6】


【化7】


〔式(6)、(7)中、R15は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基であり、R16、R17、R18は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は炭素数1〜10のアルキレン部と炭素数6〜18のアリール部とからなるアラルキル基である。〕

【図1】
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【公開番号】特開2009−286691(P2009−286691A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205957(P2009−205957)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【分割の表示】特願2004−539535(P2004−539535)の分割
【原出願日】平成15年9月25日(2003.9.25)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】