耐移行性通信ケーブル
【課題】シールド性能の低下を抑制することが可能な耐移行性通信ケーブルを提供する。
【解決手段】耐移行性通信ケーブル1は、1本又は複数本の導体10と、導体10上に被覆された絶縁体20と、絶縁体20の外周に形成されたシールド層30と、シールド層30を被覆する絶縁性のシース40と、絶縁体20とシース40との間に設けられ、絶縁体20の外周を覆う二軸延伸されたフィルム層50と、を備えることを特徴とする。特に、フィルム層50は、シース40とシールド層30との間に設けられている。
【解決手段】耐移行性通信ケーブル1は、1本又は複数本の導体10と、導体10上に被覆された絶縁体20と、絶縁体20の外周に形成されたシールド層30と、シールド層30を被覆する絶縁性のシース40と、絶縁体20とシース40との間に設けられ、絶縁体20の外周を覆う二軸延伸されたフィルム層50と、を備えることを特徴とする。特に、フィルム層50は、シース40とシールド層30との間に設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐移行性通信ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シールド線や同軸ケーブルが提案されている。これらの電線は、導体上に設けられた絶縁層と、絶縁層上に形成されたシールド層とを備え、これらがシースにより被覆されて構成されている。このような構成であるため、電線の外部からノイズが照射された場合、ノイズはシールド層により遮断されることとなり、導体を伝送されるデータにノイズが重畳し難いようになっている(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−186722号公報
【特許文献2】特開2009−146704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の電線はシースに可塑剤が用いられていることが多く、高温環境下においては可塑剤が揮発してシールド層内側の絶縁体に移行してしまうことがある。可塑剤が絶縁体に移行すると、絶縁体の誘電率が高くなってしまい、シールド性能を低下させてしまう。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、シールド性能の低下を抑制することが可能な耐移行性通信ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の耐移行性通信ケーブルは、1本又は複数本の導体と、導体上に被覆された絶縁体と、絶縁体の外周に形成されたシールド層と、シールド層を被覆する絶縁性のシースと、絶縁体とシースとの間に設けられ、絶縁体の外周を覆う二軸延伸されたフィルム層と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の耐移行性通信ケーブルによれば、絶縁体とシースとの間に設けられ、絶縁体の外周を覆う二軸延伸されたフィルム層を備えているため、高温環境下に曝されてシースの可塑剤が揮発したとしても、可塑剤はフィルム層により遮られることとなり絶縁体に移行し難くなる。この結果、絶縁体の誘電率を高め難くなり、シールド性能の低下を抑制することができる。さらに、フィルム層は二軸延伸されているため、縦方向及び横方向に強度が強く、耐移行性通信ケーブルが屈曲等して配索されたとしても、フィルム層が破け難くなり、配索環境によっては減衰量の低下効果を得られなくなってしまう事態を防止することができる。
【0008】
また、本発明の耐移行性通信ケーブルにおいて、フィルム層は、シースとシールド層との間に設けられていることが好ましい。
【0009】
この耐移行性通信ケーブルによれば、フィルム層はシースとシールド層との間に設けられている。ここで、シールド層と絶縁体との間にフィルム層が介在すると、導体とシールド層との静電容量・特性インピーダンスに多少の影響を与えることとなるが、シースとシールド層との間にフィルム層を設けることで、このような事態を防止でき、一層減衰量の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シールド性能の低下を抑制することが可能な耐移行性通信ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る耐移行性通信ケーブルを示す構成図であって、(a)は断面図であり、(b)は側面図である。
【図2】本実施形態に係る耐移行性通信ケーブルの実施例及び比較例を説明するグラフである。
【図3】本実施形態に係る耐移行性通信ケーブルの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る耐移行性通信ケーブルを示す構成図であって、(a)は断面図であり、(b)は側面図である。図1(a)及び図1(b)に示すように、耐移行性通信ケーブル1は、1本の導体10と、導体10上に被覆された絶縁体20と、絶縁体20の外周に設けられたシールド層30とを備えている。
【0013】
導体10は、例えば軟銅線、銀メッキ軟銅線、錫メッキ軟銅線、及び錫メッキ銅合金線などが用いられる。なお、本実施形態において導体10は1本であるが、2本以上であってもよい。
【0014】
絶縁体20は、導体10上に被覆される部材であって、例えばPE(polyethylene)やPP(polypropylene)などが用いられている。この絶縁体20は、誘電率が3.0以下となっている。
【0015】
シールド層30は、銅線等の導体線が複数本の束にされ、この束が編み込まれることによって形成されるものである。シース40は、シールド層30の外周を被覆する絶縁体である。
【0016】
このような、電線では、電線の外部からノイズが照射された場合、ノイズはシールド層30により遮断されることとなり、導体10を伝送するデータ等にノイズが重畳し難いようになっている。
【0017】
しかし、このような電線(特に自動車用のケーブル)は高温環境下に曝され易く、シース40には可塑剤が添加されており、高温環境下では可塑剤が揮発してシールド層30の内側の絶縁体20に移行することがある。可塑剤が絶縁体20に移行すると、絶縁体20の誘電率を高めることとなり、ノイズの減衰量の低下を招き、シールド性能の低下を招いてしまう。
【0018】
より具体的には、絶縁体20に可塑剤が移行してくることにより絶縁体20の誘電率及び誘電正接が増大する。その移行の度合いは絶縁体20の場所によって異なるため、その結果、インピーダンスが大きく乱れ、減衰量が大きく低下する。又、減衰量の低下度合いは周波数が高い程大きくなる。
【0019】
そこで、本実施形態に係る耐移行性通信ケーブル1は、フィルム層50を備えている。フィルム層50は、シース40と絶縁体20との間に介在されるシート状の部材である。具体的にフィルム層50は、PET(polyethylene terephthalate)により構成されており、可塑剤が侵入しないように充分な目の細かさを有している。なお、フィルム層50は、フッ素樹脂により構成されていてもよい。
【0020】
このように構成されることにより、シース40に添加された可塑剤が高温環境下において揮発したとしても、フィルム層50によって遮られて絶縁体20に到達し難くなり減衰量の低下を抑制することとなる。
【0021】
なお、本実施形態においてフィルム層50は、熱可塑性フィルムを高温下で縦横二方向へ延ばして作った二軸延伸フィルムである。このため、縦方向及び横方向に強度が強く、耐移行性通信ケーブル1が屈曲等して配索されたとしても、フィルム層50が破け難くなり、配索環境によっては減衰量の低下効果を得られなくなってしまう事態を防止することができる。
【0022】
さらに、図1に示すように、フィルム層50は、シース40とシールド層30との間に介在されていることが好ましい。シールド層30と絶縁体20との間にフィルム層50が介在してしまうと、静電容量・特性インピーダンスに多少の影響を与えることとなり、誘電率が変化して減衰量も変化してしまうためである。また、フィルム層50は、少なくとも4μm以上の厚さを有していることが望ましい。この厚さ未満であるとフィルム層50にピンホール欠損が生じて耐移行性を維持できなくなるためである。
【0023】
次に、本実施形態に係る耐移行性通信ケーブル1の実施例及び比較例を説明する。図2は、本実施形態に係る耐移行性通信ケーブル1の実施例及び比較例を説明するグラフである。
【0024】
まず、実施例の耐移行性通信ケーブル1として、導体10に7/0.18本/mm、外径0.54mmの錫メッキ軟銅撚り線を用いた。また、絶縁体20には、厚さ0.53mm、外径1.6mmの架橋PEを用いた。シールド層30には、0.10/5/16持/打/mm、外径約2.2mmの錫メッキ軟銅線編組を用いた。シース40には、厚さ約0.45mm、外径3.1±0.1mmの耐熱性PVC(polyvinyl chloride)を用いた。さらに、フィルム層50にはPETフィルムを用い、シールド層30と絶縁体20との間に介在させた。
【0025】
一方、比較例の電線には実施例と同じ導体と絶縁体を用い、シールド層には、0.10/5/16持/打/mm、外径約2.1mmの錫メッキ軟銅線編組を用いた。シース40には、厚さ約0.5mm、外径3.1±0.2mmの耐熱性PVCを用いた。
【0026】
そして、双方の電線について、105℃雰囲気下で168時間曝す前と曝した後とで減衰量を比較した。図2に示すように、実施例に係る耐移行性通信ケーブル1では、105℃雰囲気下で168時間曝す前の減衰量が900Hzで0.86dB/mであり、1500Hzで1.15dB/mであり、1600Hzで1.21dB/mであった。また、1900Hzでは1.34dB/mであり、2000Hzでは1.39dB/mであり、2500Hzでは1.60dB/mであった。さらに、2600Hzでは1.64dB/mであり、3000Hzでは1.78dB/mであった。
【0027】
これに対して、105℃雰囲気下で168時間曝した後の減衰量は、900Hzで0.84dB/mであり、1500Hzで1.14dB/mであり、1600Hzで1.19dB/mであった。また、1900Hzでは1.33dB/mであり、2000Hzでは1.37dB/mであり、2500Hzでは1.60dB/mであった。さらに、2600Hzでは1.63dB/mであり、3000Hzでは1.79dB/mであった。
【0028】
このように、実施例に係る耐移行性通信ケーブル1では、高温環境下に長時間曝されても減衰量の変化が殆どなかった。
【0029】
また、比較例に係る電線では、105℃雰囲気下で168時間曝す前の減衰量が900Hzで0.92dB/mであり、1500Hzで1.23dB/mであり、1600Hzで1.29dB/mであった。また、1900Hzでは1.43dB/mであり、2000Hzでは1.48dB/mであり、2500Hzでは1.71dB/mであった。さらに、2600Hzでは1.75dB/mであり、3000Hzでは1.90dB/mであった。
【0030】
これに対して、105℃雰囲気下で168時間曝した後の減衰量は、900Hzで1.24dB/mであり、1500Hzで1.70dB/mであり、1600Hzで1.78dB/mであった。また、1900Hzでは2.00dB/mであり、2000Hzでは2.06dB/mであり、2500Hzでは2.41dB/mであった。さらに、2600Hzでは2.46dB/mであり、3000Hzでは2.69dB/mであった。
【0031】
このように、比較例に係る電線では、高温環境下に長時間曝されると減衰量が大きく低下することがわかった。
【0032】
以上により、実施例に係る耐移行性通信ケーブル1では、フィルム層50により可塑剤の移行が防がれていることがわかった。
【0033】
このようにして、本実施形態に係る耐移行性通信ケーブル1によれば、絶縁体20とシース40との間に設けられ、絶縁体20の外周を覆う二軸延伸されたフィルム層50を備えているため、高温環境下に曝されてシース40の可塑剤が揮発したとしても、可塑剤はフィルム層50により遮られることとなり絶縁体20に移行し難くなる。この結果、絶縁体20の誘電率を高め難くなり、シールド性能の低下を抑制することができる。また、シース40からの可塑剤に限らず、耐移行性通信ケーブル1の使用時において周辺に存在する部材等からの可塑剤についても同様に絶縁体20への移行を遮断することができ、シールド性能の低下を抑制することができる。さらに、フィルム層50は二軸延伸されているため、縦方向及び横方向に強度が強く、耐移行性通信ケーブル1が屈曲等して配索されたとしても、フィルム層50が破け難くなり、配索環境によっては減衰量の低下効果を得られなくなってしまう事態を防止することができる。
【0034】
また、フィルム層50はシース40とシールド層30との間に設けられている。ここで、シールド層30と絶縁体20との間にフィルム層50が介在すると、導体10とシールド層30との静電容量・特性インピーダンスに多少の影響を与えることとなるが、シース40とシールド層30との間にフィルム層50を設けることで、このような事態を防止でき、一層減衰量の低下を抑制することができる。
【0035】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
【0036】
例えば、本実施形態に係る耐移行性通信ケーブル1は、導体10が1本により構成されているが、これに限らず、図3に示すようになっていてもよい。図3は、本実施形態に係る耐移行性通信ケーブル1の変形例を示す断面図である。
【0037】
図3に示すように、耐移行性通信ケーブル1は、2本の導体10と、2本の導体10のそれぞれを被覆する絶縁体20とを備え、それらが一括してシールド層30により覆われていてもよい。また、図3に示す例に限らず、導体10は3本以上であってもよい。また、導体10は撚り線により構成されていてもよい。
【0038】
さらに、図1に係る耐移行性通信ケーブル1は、フィルム層50がシールド層30とシース40との間に設けられているが、これに限らず、絶縁体20とシールド層30との間に設けられていてもよい。これによっても、一定の効果が得られるからである。
【符号の説明】
【0039】
1…耐移行性通信ケーブル
10…導体
20…絶縁体
30…シールド層
40…シース
50…フィルム層
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐移行性通信ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シールド線や同軸ケーブルが提案されている。これらの電線は、導体上に設けられた絶縁層と、絶縁層上に形成されたシールド層とを備え、これらがシースにより被覆されて構成されている。このような構成であるため、電線の外部からノイズが照射された場合、ノイズはシールド層により遮断されることとなり、導体を伝送されるデータにノイズが重畳し難いようになっている(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−186722号公報
【特許文献2】特開2009−146704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の電線はシースに可塑剤が用いられていることが多く、高温環境下においては可塑剤が揮発してシールド層内側の絶縁体に移行してしまうことがある。可塑剤が絶縁体に移行すると、絶縁体の誘電率が高くなってしまい、シールド性能を低下させてしまう。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、シールド性能の低下を抑制することが可能な耐移行性通信ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の耐移行性通信ケーブルは、1本又は複数本の導体と、導体上に被覆された絶縁体と、絶縁体の外周に形成されたシールド層と、シールド層を被覆する絶縁性のシースと、絶縁体とシースとの間に設けられ、絶縁体の外周を覆う二軸延伸されたフィルム層と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の耐移行性通信ケーブルによれば、絶縁体とシースとの間に設けられ、絶縁体の外周を覆う二軸延伸されたフィルム層を備えているため、高温環境下に曝されてシースの可塑剤が揮発したとしても、可塑剤はフィルム層により遮られることとなり絶縁体に移行し難くなる。この結果、絶縁体の誘電率を高め難くなり、シールド性能の低下を抑制することができる。さらに、フィルム層は二軸延伸されているため、縦方向及び横方向に強度が強く、耐移行性通信ケーブルが屈曲等して配索されたとしても、フィルム層が破け難くなり、配索環境によっては減衰量の低下効果を得られなくなってしまう事態を防止することができる。
【0008】
また、本発明の耐移行性通信ケーブルにおいて、フィルム層は、シースとシールド層との間に設けられていることが好ましい。
【0009】
この耐移行性通信ケーブルによれば、フィルム層はシースとシールド層との間に設けられている。ここで、シールド層と絶縁体との間にフィルム層が介在すると、導体とシールド層との静電容量・特性インピーダンスに多少の影響を与えることとなるが、シースとシールド層との間にフィルム層を設けることで、このような事態を防止でき、一層減衰量の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シールド性能の低下を抑制することが可能な耐移行性通信ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る耐移行性通信ケーブルを示す構成図であって、(a)は断面図であり、(b)は側面図である。
【図2】本実施形態に係る耐移行性通信ケーブルの実施例及び比較例を説明するグラフである。
【図3】本実施形態に係る耐移行性通信ケーブルの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る耐移行性通信ケーブルを示す構成図であって、(a)は断面図であり、(b)は側面図である。図1(a)及び図1(b)に示すように、耐移行性通信ケーブル1は、1本の導体10と、導体10上に被覆された絶縁体20と、絶縁体20の外周に設けられたシールド層30とを備えている。
【0013】
導体10は、例えば軟銅線、銀メッキ軟銅線、錫メッキ軟銅線、及び錫メッキ銅合金線などが用いられる。なお、本実施形態において導体10は1本であるが、2本以上であってもよい。
【0014】
絶縁体20は、導体10上に被覆される部材であって、例えばPE(polyethylene)やPP(polypropylene)などが用いられている。この絶縁体20は、誘電率が3.0以下となっている。
【0015】
シールド層30は、銅線等の導体線が複数本の束にされ、この束が編み込まれることによって形成されるものである。シース40は、シールド層30の外周を被覆する絶縁体である。
【0016】
このような、電線では、電線の外部からノイズが照射された場合、ノイズはシールド層30により遮断されることとなり、導体10を伝送するデータ等にノイズが重畳し難いようになっている。
【0017】
しかし、このような電線(特に自動車用のケーブル)は高温環境下に曝され易く、シース40には可塑剤が添加されており、高温環境下では可塑剤が揮発してシールド層30の内側の絶縁体20に移行することがある。可塑剤が絶縁体20に移行すると、絶縁体20の誘電率を高めることとなり、ノイズの減衰量の低下を招き、シールド性能の低下を招いてしまう。
【0018】
より具体的には、絶縁体20に可塑剤が移行してくることにより絶縁体20の誘電率及び誘電正接が増大する。その移行の度合いは絶縁体20の場所によって異なるため、その結果、インピーダンスが大きく乱れ、減衰量が大きく低下する。又、減衰量の低下度合いは周波数が高い程大きくなる。
【0019】
そこで、本実施形態に係る耐移行性通信ケーブル1は、フィルム層50を備えている。フィルム層50は、シース40と絶縁体20との間に介在されるシート状の部材である。具体的にフィルム層50は、PET(polyethylene terephthalate)により構成されており、可塑剤が侵入しないように充分な目の細かさを有している。なお、フィルム層50は、フッ素樹脂により構成されていてもよい。
【0020】
このように構成されることにより、シース40に添加された可塑剤が高温環境下において揮発したとしても、フィルム層50によって遮られて絶縁体20に到達し難くなり減衰量の低下を抑制することとなる。
【0021】
なお、本実施形態においてフィルム層50は、熱可塑性フィルムを高温下で縦横二方向へ延ばして作った二軸延伸フィルムである。このため、縦方向及び横方向に強度が強く、耐移行性通信ケーブル1が屈曲等して配索されたとしても、フィルム層50が破け難くなり、配索環境によっては減衰量の低下効果を得られなくなってしまう事態を防止することができる。
【0022】
さらに、図1に示すように、フィルム層50は、シース40とシールド層30との間に介在されていることが好ましい。シールド層30と絶縁体20との間にフィルム層50が介在してしまうと、静電容量・特性インピーダンスに多少の影響を与えることとなり、誘電率が変化して減衰量も変化してしまうためである。また、フィルム層50は、少なくとも4μm以上の厚さを有していることが望ましい。この厚さ未満であるとフィルム層50にピンホール欠損が生じて耐移行性を維持できなくなるためである。
【0023】
次に、本実施形態に係る耐移行性通信ケーブル1の実施例及び比較例を説明する。図2は、本実施形態に係る耐移行性通信ケーブル1の実施例及び比較例を説明するグラフである。
【0024】
まず、実施例の耐移行性通信ケーブル1として、導体10に7/0.18本/mm、外径0.54mmの錫メッキ軟銅撚り線を用いた。また、絶縁体20には、厚さ0.53mm、外径1.6mmの架橋PEを用いた。シールド層30には、0.10/5/16持/打/mm、外径約2.2mmの錫メッキ軟銅線編組を用いた。シース40には、厚さ約0.45mm、外径3.1±0.1mmの耐熱性PVC(polyvinyl chloride)を用いた。さらに、フィルム層50にはPETフィルムを用い、シールド層30と絶縁体20との間に介在させた。
【0025】
一方、比較例の電線には実施例と同じ導体と絶縁体を用い、シールド層には、0.10/5/16持/打/mm、外径約2.1mmの錫メッキ軟銅線編組を用いた。シース40には、厚さ約0.5mm、外径3.1±0.2mmの耐熱性PVCを用いた。
【0026】
そして、双方の電線について、105℃雰囲気下で168時間曝す前と曝した後とで減衰量を比較した。図2に示すように、実施例に係る耐移行性通信ケーブル1では、105℃雰囲気下で168時間曝す前の減衰量が900Hzで0.86dB/mであり、1500Hzで1.15dB/mであり、1600Hzで1.21dB/mであった。また、1900Hzでは1.34dB/mであり、2000Hzでは1.39dB/mであり、2500Hzでは1.60dB/mであった。さらに、2600Hzでは1.64dB/mであり、3000Hzでは1.78dB/mであった。
【0027】
これに対して、105℃雰囲気下で168時間曝した後の減衰量は、900Hzで0.84dB/mであり、1500Hzで1.14dB/mであり、1600Hzで1.19dB/mであった。また、1900Hzでは1.33dB/mであり、2000Hzでは1.37dB/mであり、2500Hzでは1.60dB/mであった。さらに、2600Hzでは1.63dB/mであり、3000Hzでは1.79dB/mであった。
【0028】
このように、実施例に係る耐移行性通信ケーブル1では、高温環境下に長時間曝されても減衰量の変化が殆どなかった。
【0029】
また、比較例に係る電線では、105℃雰囲気下で168時間曝す前の減衰量が900Hzで0.92dB/mであり、1500Hzで1.23dB/mであり、1600Hzで1.29dB/mであった。また、1900Hzでは1.43dB/mであり、2000Hzでは1.48dB/mであり、2500Hzでは1.71dB/mであった。さらに、2600Hzでは1.75dB/mであり、3000Hzでは1.90dB/mであった。
【0030】
これに対して、105℃雰囲気下で168時間曝した後の減衰量は、900Hzで1.24dB/mであり、1500Hzで1.70dB/mであり、1600Hzで1.78dB/mであった。また、1900Hzでは2.00dB/mであり、2000Hzでは2.06dB/mであり、2500Hzでは2.41dB/mであった。さらに、2600Hzでは2.46dB/mであり、3000Hzでは2.69dB/mであった。
【0031】
このように、比較例に係る電線では、高温環境下に長時間曝されると減衰量が大きく低下することがわかった。
【0032】
以上により、実施例に係る耐移行性通信ケーブル1では、フィルム層50により可塑剤の移行が防がれていることがわかった。
【0033】
このようにして、本実施形態に係る耐移行性通信ケーブル1によれば、絶縁体20とシース40との間に設けられ、絶縁体20の外周を覆う二軸延伸されたフィルム層50を備えているため、高温環境下に曝されてシース40の可塑剤が揮発したとしても、可塑剤はフィルム層50により遮られることとなり絶縁体20に移行し難くなる。この結果、絶縁体20の誘電率を高め難くなり、シールド性能の低下を抑制することができる。また、シース40からの可塑剤に限らず、耐移行性通信ケーブル1の使用時において周辺に存在する部材等からの可塑剤についても同様に絶縁体20への移行を遮断することができ、シールド性能の低下を抑制することができる。さらに、フィルム層50は二軸延伸されているため、縦方向及び横方向に強度が強く、耐移行性通信ケーブル1が屈曲等して配索されたとしても、フィルム層50が破け難くなり、配索環境によっては減衰量の低下効果を得られなくなってしまう事態を防止することができる。
【0034】
また、フィルム層50はシース40とシールド層30との間に設けられている。ここで、シールド層30と絶縁体20との間にフィルム層50が介在すると、導体10とシールド層30との静電容量・特性インピーダンスに多少の影響を与えることとなるが、シース40とシールド層30との間にフィルム層50を設けることで、このような事態を防止でき、一層減衰量の低下を抑制することができる。
【0035】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
【0036】
例えば、本実施形態に係る耐移行性通信ケーブル1は、導体10が1本により構成されているが、これに限らず、図3に示すようになっていてもよい。図3は、本実施形態に係る耐移行性通信ケーブル1の変形例を示す断面図である。
【0037】
図3に示すように、耐移行性通信ケーブル1は、2本の導体10と、2本の導体10のそれぞれを被覆する絶縁体20とを備え、それらが一括してシールド層30により覆われていてもよい。また、図3に示す例に限らず、導体10は3本以上であってもよい。また、導体10は撚り線により構成されていてもよい。
【0038】
さらに、図1に係る耐移行性通信ケーブル1は、フィルム層50がシールド層30とシース40との間に設けられているが、これに限らず、絶縁体20とシールド層30との間に設けられていてもよい。これによっても、一定の効果が得られるからである。
【符号の説明】
【0039】
1…耐移行性通信ケーブル
10…導体
20…絶縁体
30…シールド層
40…シース
50…フィルム層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本又は複数本の導体と、
前記導体上に被覆された絶縁体と、
前記絶縁体の外周に形成されたシールド層と、
前記シールド層を被覆する絶縁性のシースと、
前記絶縁体と前記シースとの間に設けられ、前記絶縁体の外周を覆う二軸延伸されたフィルム層と、
を備えることを特徴とする耐移行性通信ケーブル。
【請求項2】
前記フィルム層は、前記シースと前記シールド層との間に設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の耐移行性通信ケーブル。
【請求項1】
1本又は複数本の導体と、
前記導体上に被覆された絶縁体と、
前記絶縁体の外周に形成されたシールド層と、
前記シールド層を被覆する絶縁性のシースと、
前記絶縁体と前記シースとの間に設けられ、前記絶縁体の外周を覆う二軸延伸されたフィルム層と、
を備えることを特徴とする耐移行性通信ケーブル。
【請求項2】
前記フィルム層は、前記シースと前記シールド層との間に設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の耐移行性通信ケーブル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2012−221628(P2012−221628A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83926(P2011−83926)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
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