説明

耐酸化性親水化ポリスルホン系中空糸膜、及びその製造方法

【課題】強酸化剤による殺菌処理を施した後も、親水性が失われることなくタンパク質の吸着抑制能力を十分に保持し、且つ機械的強度にも優れたポリスルホン系ポリマー中空糸膜を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリスルホン系ポリマー及び親水性ポリマーを主成分とする中空糸膜であって、強酸化剤により酸化処理を行った後の親水性ポリマーの残存量が、ポリマー全量の0.8〜9.8重量%であることを特徴とする、耐酸化性親水化ポリスルホン系中空糸膜を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強酸化剤による殺菌処理が必要な抗体・酵素などの各種医薬品の分離・精製用分離膜として優れたポリスルホン系中空糸膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリスルホン系ポリマーからなる分離膜は、その耐熱性、耐薬品性及び耐γ線性などの点より、滅菌操作が必要となる各種医薬品の精製工程などに用いられてきた。ところが、ポリスルホン系ポリマーは疎水性である為に疎水性物質による汚染が起きやすく、各種医薬品の精製工程において有用物質の回収率の低下を引き起こすことがあった。
【0003】
有用物質がタンパク質の場合には、一般的に分子量が大きいほど、その疎水性が強くなるため、例えば分子量が約16万である抗体などは特に膜へ吸着しやすい。その為、抗体に代表されるようなタンパク質のポリスルホン系膜への吸着を抑制する手段として、ポリスルホン系ポリマー膜に親水性を付与する、いわゆる親水化技術に関して様々な方法がこれまで提案されてきた。例えば、親水性ポリマーであるポリビニルピロリドンを適正量含有させることにより、ポリスルホン系膜へ親水性を与え、それにより膜の汚れを抑制する方法が特公平2−18695号公報(特許文献1)、特開昭61−238834号公報(特許文献2)、特開昭63−99325号公報(特許文献3)、特開平6−296686号公報に(特許文献4)等に開示されている。また、親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントからなるグラフトまたはブロックコポリマーをブレンドすることによりポリスルホン系膜の汚れを抑制する方法が特開昭62−201603号公報(特許文献5)、特開昭63−77941号公報(特許文献6)、特開昭63−258603号公報(特許文献7)、特開平2−2862号公報(特許文献8)、及び特開平2−160026号公報に(特許文献9)が開示されている。さらに、特許文献9には、ポリスルホンにスルホン化ポリスルホンをブレンドすることによりポリスルホン系膜の汚れを抑制する方法についても記載されている。
【0004】
しかし、従来の親水化技術では、酸化剤などによる薬品洗浄を施すことによって親水性ポリマーが分解されやすいという問題があった。例えば、一般に抗体や酵素等の医薬品の分離膜による精製工程では、雑菌の繁殖を防ぐために、分離膜の殺菌処理が必須となる。殺菌処理には通常、膜面付着物の分解・洗浄効果の高い次亜塩素酸ソーダ、塩素、過酸化水素等の酸化性殺菌剤が用いられる。そのため、従来の親水化技術を用いて製造されたポリスルホン系中空糸膜では、殺菌処理によって親水性ポリマーが分解され、タンパク質の吸着抑制能力が失われることがあった。
【0005】
一方、分離膜として用いられる中空糸膜には適度な機械的強度が必要とされるところ、親水性ポリマーの量が多いと、機械的強度が低下する傾向がある。
【特許文献1】特公平2−18695号公報
【特許文献2】特開昭61−238834号公報
【特許文献3】特開昭63−99325号公報
【特許文献4】特開平6−296686号公報
【特許文献5】特開昭62−201603号公報
【特許文献6】特開昭63−77941号公報
【特許文献7】特開昭63−258603号公報
【特許文献8】特開平2−2862号公報
【特許文献9】特開平2−160026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑みて、強酸化剤で酸化処理等を行った後も、タンパク質の吸着を抑制できる十分な親水性を保持し、且つ機械的強度にも優れたポリスルホン系中空糸膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、強酸化剤による酸化処理を行った後の親水性ポリマーの残存量を所定の範囲とすれば、親水性が十分に保持され、且つ機械的強度にも優れたポリスルホン系中空糸膜が得られること、また、かかるポリスルホン系中空糸膜は、材料となるポリスルホン系ポリマーと親水性ポリマーの重量平均分子量の比、及び製膜溶液中における重量の比を所定の範囲とし、製膜溶液を吐出するノズル直下の空走部分の中心温度を製膜溶液の凝固点に対して所定の範囲内とすることによって得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明に係る耐酸化性親水化ポリスルホン系中空糸膜は、ポリスルホン系ポリマー及び親水性ポリマーを主成分とし、強酸化剤により酸化処理を行った後の親水性ポリマーの残存量が、ポリマー全量の0.8〜9.8重量%であることを特徴とする。ここで、ポリマー全量とは、ポリスルホン系ポリマーと親水性ポリマーの合計の量を意味する。
【0009】
強酸化剤による酸化処理の後の親水性ポリマーの残存量が0.8〜9.8重量%の範囲であれば、十分なタンパク質吸着抑制効果を得られるとともに、機械的強度にも優れた耐酸化性親水化ポリスルホン系中空糸膜となる。
【0010】
このような耐酸化性親水化ポリスルホン系中空糸膜は、ポリスルホン系ポリマー及び親水性ポリマーを含む製膜原液をチューブインオリフィス型ノズルより内部凝固液とともに空走部分に吐出した後、凝固液中に導いて中空糸状の分離膜を形成する乾湿式法による製膜工程を含み、前記ポリスルホン系ポリマー及び親水性ポリマーの重量平均分子量をそれぞれMw1、Mw2としたとき、Mw1/Mw2の値が0.6〜6.0の範囲にあり、前記製膜溶液が、前記ポリスルホン系ポリマー、前記親水性ポリマー、及び共通溶媒からなり、該ポリスルホン系ポリマー及び該親水性ポリマーの重量をそれぞれW1、W2としたとき、W2/W1の値が、1.2〜2.2の範囲であり、前記製膜溶液の凝固点をTc、前記ノズル直下の空走部分の中心温度をTagとしたとき、+50℃>Tag−Tc>−20℃の範囲にあることを特徴とする、製造方法によって製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、強酸化剤による処理を行っても十分な親水性を保持し、タンパク質等の疎水性物質に対する吸着抑制効果も維持される耐酸化性親水化ポリスルホン系中空糸膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】空走部分の中心温度の測定位置を説明する説明図である。
【図2】チューブインオリフィス型ノズルの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明で云うポリスルホン系ポリマーとは、スルホン結合を有する高分子化合物の総称であり特に制限されるものではないが、例えば、下記式(1)〜式(5)のいずれかで示されるポリスルホン系ポリマーが広く市販されており、これらを本発明に用いることができる。特に、式(1)で示す化学構造を持つポリスルホン系ポリマーは、例えばSolvay Advanced Polymers社より「UDEL」の商品名で市販されており、重合度等によって幾つかの種類が存在するが、いずれを用いることもできる。
【0015】
【化1】

本発明で云う親水性高分子とは、親水性基を持つ高分子化合物の総称であり、例えばポリビニルピロリドン、ポリアルキレンオキシド類(例えばポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド等)、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリスチレンスルホン酸等を挙げることができるが、これらの親水性高分子には、各種の分子量を持つものや置換基を導入したもの等も同様に用いることができる。中でも両性物質であるタンパク質の吸着抑制の点から、中性親水基である水酸基を持つポリアルキレンオキシド類(例えばポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド等)、ポリビニルアルコールが好ましく、更にはポリスルホンポリマーとの相溶性に優れるポリアルキレンオキシド類が特に好ましい。
【0016】
本発明に係る耐酸化性親水化ポリスルホン系中空糸膜は、強酸化剤により酸化処理を行った後も、親水性ポリマーが、ポリマー全量に対して、0.8〜9.8重量%残存する。ここで、強酸化剤による酸化処理としては、例えば、殺菌を目的とした酸化処理が挙げられ、強酸化剤としては、次亜塩素酸ソーダ、塩素、過酸化水素、オゾン等の殺菌剤が一般的であり特に限定されない。尚、殺菌を目的とした酸化処理においては、安全性の高い過酸化水素が好ましい。過酸化水素は強い酸化力がある上、カタラーゼや二酸化マンガンなどの触媒により容易に水と酸素というヒトには全く無害な物質に分解される。
【0017】
強酸化剤による処理時間の条件は強酸が0.01%〜1.00%の範囲では20℃〜30℃で6時間〜12時間である。酸化処理後の親水性ポリマーの残存量が多いほどタンパク吸着抑制効果が高くなるが、その反面中空糸膜の機械的強度が低下してしまう。逆に、0.8%未満になると十分なタンパク質吸着抑制が発揮できない。
【0018】
その為、酸化処理後の親水性ポリマーの残存量は強酸化剤による酸化処理後の中空糸膜のポリマー全量(ポリスルホン系ポリマー+親水性ポリマー)の0.8重量%〜9.8重量%の範囲である必要があり、好ましくは1.2重量%〜8.8重量%、更に好ましくは1.5重量%〜6.8重量%の範囲である。
【0019】
次に、本発明の耐酸化性親水化ポリスルホン系中空糸膜の製造方法について説明する。
【0020】
本発明に係る対酸化性親水化ポリスルホン系中空糸膜の製造方法は、ポリスルホン系ポリマー及び親水性ポリマーを含む製膜溶液をチューブインオリフィス型ノズルより内部凝固液とともに空走部分に吐出した後、凝固液中に導いて中空糸膜を形成する乾湿式法による製膜工程を含む。
【0021】
本発明で用いられる製膜溶液の溶媒は、ポリスルホン系ポリマー及び親水性ポリマーを溶解するものであり、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジオキサン等の多種の溶媒、あるいは上記2種類以上の混合液からなる溶媒が用いられるが、特にジメチルアセトアミドあるいはN−メチル−2−ピロリドンが好ましく用いられる。更に、該溶媒に無機塩、例えば塩化リチウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、塩化亜鉛等の無機酸の塩;酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム等の有機酸の塩を1〜8重量%程度の少量を添加しても良い。
【0022】
本発明に係る製造方法では、乾湿式法による製膜工程の後、洗浄する工程を行ってもよい。ここでいう洗浄工程とは、該乾湿式法による製膜工程によって得られた中空糸膜を洗浄する洗浄工程であって、乾湿式法による製膜工程と連続して、あるいは一旦中空糸膜を巻き取った後、行われる。洗浄工程では、例えば、膜中に残存する共通溶媒及び過剰の親水性高分子が、水洗または40〜90℃の温水洗によって抽出除去される。また、過剰な親水性高分子を短時間でより効率よく除去するために、アルコール水溶液や、酸性過マンガン酸カリウム水溶液、過酸化水素水、次亜塩素酸ナトリウム溶液等の酸化剤又は加水分解剤を用いて洗浄してもよい。
【0023】
本発明において、製膜溶液中に含まれるポリスルホン系ポリマーの濃度は、目的用途に適合した特性を有する中空繊維膜の製造を可能とする濃度範囲であればよく、通常10〜25重量%、好ましくは15〜20重量%である。10重量%未満では中空糸膜としての十分な強度を得ることができず、また実用的な中空糸膜が形成できなくなる。また25重量%を越えると貫通孔が減少し膜の透過性能や透析性能の低下を引き起こすため実用的でない。
【0024】
本発明の耐酸化性親水化ポリスルホン系中空糸膜を得るには、ポリスルホン系ポリマーと親水性ポリマーの重量平均分子量の比、及び製膜溶液における重量比、また内部凝固液に添加するグリコール類の分子量及び添加量、更に空走部分の中心温度が極めて重要となる。
【0025】
まず第一にポリスルホン系ポリマーの重量平均分子量をMw1、親水性ポリマーの重量平均分子量をMw2とした時の、Mw1/Mw2の値は0.60〜6.00の範囲とし、好ましくは1.20〜4.80、更に好ましくは1.60〜3.80とする。Mw1/Mw2の値が0.60を下回ると、製膜後膜の内外表面に親水性ポリマーによる散漫層が形成され、ゲル膨潤により濾過量及び分離性能が低下する傾向にある。また、強酸化処理を施した後の親水性ポリマーの残存量が9.8を上回ってしまい、中空糸膜の機械的強度が低下する。また、Mw1/Mw2の値が6.0を上回ると、強酸化剤処理を施した後の親水性ポリマーの残存量がポリマー全量の0.8未満となり、タンパク質吸着を抑制するために必要な親水性の効果が得られない。
【0026】
第二に、製膜溶液中でのポリスルホン系ポリマーの重量をW1とし、親水性ポリマーの重量をW2とした時の、W2/W1の値は1.2〜2.2とし、好ましくは1.8〜2.2とする。W2/W1が1.2を下回ると、強酸化剤処理を行った後の親水性ポリマー残量が0.8重量%を下回る傾向にあり、十分な親水性が得られない。また、W2/W1が2.2を上回ると、製膜溶液の溶液粘度が上昇し製膜が困難になるだけでなく、得られた中空糸膜の強酸化剤処理を施した後の親水性ポリマーの残存量がポリマー全量の9.8重量%を上回る傾向にあり、結果として中空糸膜の機械的強度が低下する。
【0027】
次に、内部凝固液に添加するグリコール類の重量平均分子量は6,000以下である必要があり、より好ましくは1,000以下、より好ましくは600以下である。内部凝固液に添加するグリコール類の重量平均分子量が6,000を上回ると製膜後の特に中空糸膜の内表面に親水性ポリマーによる散漫層が形成され、ゲル膨潤により濾過量及び分離性能が低下する傾向がある。内部凝固液に添加するグリコール類の添加濃度は特に限定されず、孔径や分画分子量に応じて適宜変更可能である。
【0028】
最後に、空走部分の中心温度をTag、製膜溶液の凝固点をTcとしたとき、+50℃>Tag−Tc>−20℃の範囲とし、好ましくは、+30℃>Tag−Tc>−20℃、更に好ましくは+20℃>Tag−Tc>−20℃とする。本発明において空走部分の中心温度とは、図1に示したようにノズル先端から凝固液水面までの距離をLとした時にノズルからの距離が0.5Lの平面内にあり、且つ、ノズル中心から凝固液水面に向けて鉛直に下ろした直線から半径約2cm以内の雰囲気温度をいう。(Tag−Tc)が+50℃を上回ると、親水性ポリマーの残存量が低下する。反対に、(Tag−Tc)が−20℃を下回ると、ノズルより製膜溶液が吐出された後、空走部で製膜溶液の凝固点以下に過冷却された状態となり、親水性高分子の残存量が必要以上に高くなるため、透水性能が大幅に低下し、機械的強度が低下する傾向がある。
【0029】
本発明に係る耐酸化性親水化ポリスルホン系中空糸膜のその他の製造工程は、従来公知の乾湿式法による製膜工程と洗浄工程を用いることが出来る。例えば、ポリスルホン系ポリマー及び親水性ポリマーを極性溶剤に溶解して製膜溶液を製造し、これを中空糸状の成形ノズルを経て常法に従って紡糸し、得られた糸を凝固液中に浸漬して中空糸膜を製造すれば良い。また、凝固液としては、ポリスルホン系樹脂の非溶剤を用いることができ、極性溶剤と混じり易い液体、例えば水、食塩水、界面活性剤水溶液等を挙げることができるが、水の使用が一般的である。また、凝固液の温度は、目的とする孔径によって、随時設定可能であるが、例えば水を使用した場合は5〜95℃であり、好ましくは30〜70℃である。
【0030】
例えば、γグロブリンを内圧ろ過で濃縮することを目的とし場合、中空糸膜の外表面に平均孔径0.1μm以上の孔を有し、かつ内表面に0.01μm以下の平均孔径をもった限外ろ過膜が好ましく、その場合は内部凝固液に添加するグリコール類の添加濃度を80%未満にし、かつ凝固浴の温度を80℃以上にすればよい。また、内圧ろ過でγグロブリンを90%以上透過させることを目的とした場合は、中空糸膜の外表面に平均孔径0.1μm以上の孔を有し、かつ内表面に平均孔径0.01μm以上の孔を有する精密ろ過膜が好ましく、その場合は、内部凝固液に添加するグリコール類の添加濃度を80%以上にし、かつ凝固浴の温度を80℃以上にすればよい。
【0031】
更に、γグロブリンを外圧ろ過で濃縮することを目的とし場合、中空糸膜の外表面に平均孔径0.01μm以下の孔を有し、かつ内表面に0.01μm以上の平均孔径をもった限外ろ過膜が好ましく、その場合は内部凝固液に添加するグリコール類の添加濃度を80%以上にし、かつ凝固浴の温度を80℃以下にすればよい。また、外圧ろ過でγグロブリンを90%以上透過させることを目的とした場合は、中空糸膜の外表面に平均孔径0.01〜80.0μmの孔を有し、かつ内表面に平均孔径0.1以上の孔を有する精密ろ過膜が好ましく、その場合は、内部凝固液に添加するグリコール類の添加濃度を80%以上にし、かつ凝固浴の温度を80℃以上にすればよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び参考例を用いて本発明を詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を制限するものでない。
【0033】
初めに本実施例で用いられる評価法について記載する。
(1)ポリスルホン系ポリマーの重量平均分子量測定
SEC (Size Exclusion Chromatography)法により測定した。約0.06gのポリマーを10mlの塩化メチレンに溶解し試料とした。移動相に塩化メチレンを持ちて、SEC分析を行い、ポリスチレンを標準物質としたポリスチレン換算重量平均分子量を算出した。
(2)親水性ポリマーの重量平均分子量測定
SEC (Size Exclusion Chromatography)法により測定した。約0.01gのポリマーを100mlのKH2PO4(0.02mM)+Na2HPO4(0.02ml)pH6.9 の溶液に溶解し試料とした。移動相にKH2PO4(0.02mM)+Na2HPO4(0.02ml)pH6.9溶液を持ちて、SEC分析を行い、ポリエチレングリコールを標準物質としたポリエチレングリコール換算重量平均分子量を算出した。
(3)ポリマー溶液のTc測定
200mlの気密性のある蓋付きサンプル瓶にサンプルした製膜溶液150mlを50℃の恒温水槽中で1℃/時間の速度で温度を下げて行き凝固点を確認する。
(4)チューブインオリフィス型ノズル
チューブインオリフィス型ノズルは、例えば図2に示す構造を持つノズルである。図2(B)は、図2(A)のIIB-IIB線に沿った断面図である。図示されるように、中央に内部凝固液流路11が形成され、それを囲むように同心円状の製膜溶液流路12が形成されている。
(5)強酸化剤による酸化処理
0.1重量%の過酸化水素水に25℃で12時間、浸漬した後、流水中で24時間洗浄する。なお、過酸化水素水の量は中空糸膜5重量%に対し、95重量%になるように調整した。
(6)親水性ポリマー残存量測定
d-DMFを溶媒として用い40℃の加温状態で1H−NMR測定(日本電子社製Lamba400)を行い、親水性ポリマーのモノマーユニットのモル比を測定し、全ポリマー重量に対する親水性ポリマーの重量比を算出する。
(7)破断強度測定
破断強度測定は、株式会社島津製作所製のオートグラフAGS-5Dを使用し、試験長50mmの膜について、温度25℃、引張速度50mm/分の条件で引張試験を行い、膜が破断した時の強度を6回測定し、その平均値を破断強度とした。
【0034】
本実施例では、破断強度が3MPa以上であれば機械的強度は十分であると考え、合格とした。
(8)タンパク質溶液の透水保持率の測定
リン酸緩衝液(pH7.0)をもちいて250mg/1000mlのBSA(bovine serum albumin)溶液を作成した。有効長20cmの中空糸膜モジュールを作成し平均操作圧力50kPa、線速度1m/sec、溶液温度25℃でクロスフローろ過を行う。なお、クロスフローろ過において平均操作圧力とは、モジュールの入口側(供給液)圧力と出口側(濃縮液)圧力の和の1/2の圧力である。また線速度とは、供給液流量を処理装置の有効断面積で割ったものを一般に線速度と呼ぶが、中空糸膜を内圧濾過法で用いる場合は、供給液の平均流量を中空糸膜の内径から計算される円の面積で割った値となる。ろ過開始直後の透過量をF0(g/min)、90分後の透過量をF(g/min)とし、以下の式から透水保持率を算出する。
【0035】
透水保持率(%)=(F/F0)×100
本実施例では、透水保持率が55%以上であればタンパク質吸着抑制能は十分であると考え、合格とした。
【0036】
〔実施例1〕
重量平均分子量75,000のポリスルホン(Solvay Advanced Polymers社製、ユーデルポリサルホンP-3500)18重量部及び親水化ポリマーとして重量平均分子量35,000のポリエチレングリコール(Clariant社 PEG35,000)36重量部を、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン46重量部に70℃で溶解し製膜溶液を得た。なお本溶液は37.5℃で凝固した。本溶液をチューブインオリフィス型ノズルを用いて、内部凝固液として60%ポリエチレングリコール(和光純薬PEG600、重量平均分子量600)水溶液を用い、空中走行距離40cm、凝固液は40℃の温水を用いて紡糸速度10m/minで乾湿式法より紡糸した。なお、凝固液の液面から20cmの高さの温度が65℃になるように空走部分の空気温度を制御した。得られた中空糸を脱溶剤及び熱収縮させる目的で80℃の温水で約4時間洗浄した後、121℃のオートクレーブ滅菌処理(高圧蒸気滅菌処理)を1時間行った。得られた膜の諸物性を表1に示す。
表1に示されるように、酸化処理後のポリエチレングリコール(PEG)残存量は4.7重量%となり、BSA透水保持率は62%であり、酸化処理後も、タンパク質吸着抑制能が十分に保持されることが確認された。また、破断強度も3.25MPaと高く、十分な機械的強度が得られることも確認された。
【0037】
〔実施例2〕
重量平均分子量75,000のポリスルホン(Solvay Advanced Polymers社製、ユーデルポリサルホンP-3500)18重量部及び親水化剤として重量平均分子量20,000のポリエチレングリコール(Merck社 PEG20,000)21重量部を、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン61重量部に70℃で溶解し製膜溶液を得た。なお本溶液は36.5℃で凝固した。本溶液をチューブインオリフィス型ノズルを用いて、内部凝固液として60%ポリエチレングリコール(和光純薬PEG600、重量平均分子量600)水溶液を用い、空中走行距離40cm、凝固液は40℃の温水を用いて10m/minで乾湿式法より紡糸した。なお、凝固液の液面から20cmの高さの温度が85℃になるように空走部分の空気温度を制御した。なお、それ以外の条件は実施例1と同様に行った。得られた膜の諸物性を表1に示す。
表1に示されるように、酸化処理後のPEG残存量は0.8%重量となり、BSA透水保持率は58%であり、酸化処理後も、タンパク質吸着抑制能が十分に保持されることが確認された。また、破断強度も3.67MPaと高く、十分な機械的強度が得られることも確認された。
【0038】
〔実施例3〕
重量平均分子量66,000のポリスルホン(Solvay Advanced Polymers社製、ユーデルポリサルホンP-1700)18重量部及び親水化剤として重量平均分子量35,000のポリエチレングリコール(Clariant社 PEG35,000)39重量部を、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン43重量部に70℃で溶解し製膜溶液を得た。なお本溶液は40.5℃で凝固した。本溶液をチューブインオリフィス型ノズルを用いて、内部凝固液として60%ポリエチレングリコール(和光純薬PEG600、重量平均分子量600)水溶液を用い、空中走行距離40cm、凝固液は40℃の温水を用いて10m/minで乾湿式法より紡糸した。なお、凝固液の液面から20cmの高さの温度が22℃になるように空走部分の空気温度を制御した。なお、それ以外の条件は実施例1と同様に行った。得られた膜の諸物性を表1に示す。
表1に示されるように、酸化処理後のPEG残存量は9.8重量%となり、BSA透水保持率は85%であり、酸化処理後も、タンパク質吸着抑制能が十分に保持されることが確認された。また、破断強度も3.02MPaと高く、十分な機械的強度が得られることも確認された。
【0039】
〔実施例4〕
重量平均分子量75,000のポリスルホン(Solvay Advanced Polymers社製、ユーデルポリサルホンP-3500)18重量部及び親水化剤として重量平均分子量35,000のポリエチレングリコール(Clariant社 PEG35,000)22重量部を、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン60重量部に70℃で溶解し製膜溶液を得た。なお本溶液は37.5℃で凝固した。なお、それ以外の条件は実施例1と同様に行った。得られた膜の諸物性を表1に示す。
表1に示されるように、酸化処理後のPEG残存量は4.2重量%となり、BSA透水保持率は60%であり、酸化処理後も、タンパク質吸着抑制能が十分に保持されることが確認された。また、破断強度も3.45MPaと高く、十分な機械的強度が得られることも確認された。
【0040】
〔実施例5〕
重量平均分子量75,000のポリスルホン(Solvay Advanced Polymers社製、ユーデルポリサルホンP-3500)18重量部及び親水化剤として重量平均分子量35,000のポリエチレングリコール(Clariant社 PEG35,000)40重量部を、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン60重量部に70℃で溶解し製膜溶液を得た。なお本溶液は43.0℃で凝固した。なお、それ以外の条件は実施例1と同様に行った。得られた膜の諸物性を表1に示す。
表1に示されるように、酸化処理後のPEG残存量は6.9重量%となり、BSA透水保持率は68%であり、酸化処理後も、タンパク質吸着抑制能が十分に保持されることが確認された。また、破断強度も3.27MPaと高く、十分な機械的強度が得られることも確認された。
【0041】
〔実施例6〕
重量平均分子量75,000のポリスルホン(Solvay Advanced Polymers社製、ユーデルポリサルホンP-3500)18重量部及び親水化剤として重量平均分子量35,000のポリエチレングリコール(Clariant社 PEG35,000)36重量部を、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン46重量部に70℃で溶解し製膜溶液を得た。なお本溶液は37.5℃で凝固した。なお、凝固液の液面から20cmの高さの温度が85.5℃になるように空走部分の空気温度を制御した以外の条件は実施例1と同様に行った。得られた膜の諸物性を表1に示す。
表1に示されるように、酸化処理後のPEG残存量は2.6重量%となり、BSA透水保持率は60%であり、酸化処理後も、タンパク質吸着抑制能が十分に保持されることが確認された。また、破断強度も3.45MPaと高く、十分な機械的強度が得られることも確認された。
【0042】
〔実施例7〕
重量平均分子量75,000のポリスルホン(Solvay Advanced Polymers社製、ユーデルポリサルホンP-3500)18重量部及び親水化剤として重量平均分子量35,000のポリエチレングリコール(Clariant社 PEG35,000)36重量部を、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン46重量部に70℃で溶解し製膜溶液を得た。なお本溶液は37.5℃で凝固した。なお、凝固液の液面から20cmの高さの温度が20℃になるように空走部分の空気温度を制御した以外の条件は実施例1と同様に行った。得られた膜の諸物性を表1に示す。
表1に示されるように、酸化処理後のPEG残存量は7.2重量%となり、BSA透水保持率は68%であり、酸化処理後も、タンパク質吸着抑制能が十分に保持されることが確認された。また、破断強度も3.27MPaと高く、十分な機械的強度が得られることも確認された。
【0043】
【表1】

【0044】
〔比較例1〕
重量平均分子量66,000のポリスルホン(Solvay Advanced Polymers社製、ユーデルポリサルホンP-1700)18重量部及び親水化剤として重量平均分子量10,000のポリエチレングリコール(Merck社 PEG10,000)40重量部を、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン42重量部に70℃で溶解し製膜溶液を得た。なお本溶液は34.5℃で凝固した。なお、それ以外の条件は実施例1と同様に行った。得られた膜の諸物性を表2に示す。
本例では、Mw1/Mw2が0.6〜6.0の範囲になく、その結果、PEG残存量は0.6重量%しかなかった。BSA溶液透水保持率も38%と低く、酸化処理によって、タンパク質吸着抑制能が低下したことが確認された。
【0045】
〔比較例2〕
重量平均分子量75,000のポリスルホン(Solvay Advanced Polymers社製、ユーデルポリサルホンP-3500)18重量部及び親水化剤として重量平均分子量150,000のポリエチレングリコール(住友精化社 PEG150,000)20重量部を、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン62重量部に70℃で溶解し製膜溶液を得た。なお本溶液は41.5℃で凝固した。なお、それ以外の条件は実施例1と同様に行った。得られた膜の諸物性を表2に示す。
本例では、Mw1/Mw2が0.6〜6.0の範囲になく、PEG残存量は10.2重量%に達した。その結果、破断強度が2.72MPaと低くなり、十分な機械的強度を得られなかった。
【0046】
〔比較例3〕
重量平均分子量75,000のポリスルホン(Solvay Advanced Polymers社製、ユーデルポリサルホンP-3500)18重量部及び親水化剤として重量平均分子量35,000のポリエチレングリコール(Clariant社 PEG35,000)16重量部を、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン66重量部に70℃で溶解し製膜溶液を得た。なお本溶液は34.5℃で凝固した。なお、それ以外の条件は実施例1と同様に行った。得られた膜の諸物性を表2に示す。
本例では、W2/W1が1.2〜2.2の範囲になく、その結果、PEG残存量は0.7重量%しかなかった。BSA溶液透水保持率も38%と低く、酸化処理によって、タンパク質吸着抑制能が低下したことが確認された。
【0047】
〔比較例4〕
重量平均分子量75,000のポリスルホン(Solvay Advanced Polymers社製、ユーデルポリサルホンP-3500)18重量部及び親水化剤として重量平均分子量35,000のポリエチレングリコール(Clariant社 PEG35,000)43重量部を、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン61重量部に70℃で溶解し製膜溶液を得た。なお本溶液は43.0℃で凝固した。なお、それ以外の条件は実施例1と同様に行った。得られた膜の諸物性を表2に示す。
本例では、W2/W1が1.2〜2.2の範囲になく、PEG残存量は10.0重量%に達した。その結果、破断強度が2.88MPaと低くなり、十分な機械的強度を保持していないことが示された。
【0048】
〔比較例5〕
重量平均分子量75,000のポリスルホン(Solvay Advanced Polymers社製、ユーデルポリサルホンP-3500)18重量部及び親水化剤として重量平均分子量35,000のポリエチレングリコール(Clariant社 PEG35,000)36重量部を、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン46重量部に70℃で溶解し製膜溶液を得た。なお本溶液は37.5℃で凝固した。なお、凝固液の液面から20cmの高さの温度が89.5℃になるように空走部分の空気温度を制御した以外の条件は実施例1と同様に行った。得られた膜の諸物性を表2に示す。
本例では、Tag及びTcが、+50℃>Tag-Tc>-20℃を満たさず、その結果、PEG残存量は0.7重量%しかなかった。BSA溶液透水保持率も39%と低く、酸化処理によって、タンパク質吸着抑制能が低下したことが確認された。
【0049】
〔比較例6〕
重量平均分子量75,000のポリスルホン(Solvay Advanced Polymers社製、ユーデルポリサルホンP-3500)18重量部及び親水化剤として重量平均分子量35,000のポリエチレングリコール(Clariant社 PEG35,000)36重量部を、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン46重量部に70℃で溶解し製膜溶液を得た。なお本溶液は37.5℃で凝固した。なお、凝固液の液面から20cmの高さの温度が15℃になるように空走部分の空気温度を制御した以外の条件は実施例1と同様に行った。得られた膜の諸物性を表2に示す。
本例では、Tag及びTcが、+50℃>Tag-Tc>-20℃を満たさず、PEG残存量は11.0重量%に達した。その結果、破断強度が2.68MPaと低くなり、十分な機械的強度を得られなかった。
【0050】
【表2】

【符号の説明】
【0051】
10…チューブインオリフィス型ノズル、11…内部凝固液流路、12…製膜溶液流路、20…空走部分の中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスルホン系ポリマー及びポリエチレングリコールを主成分とする中空糸膜であって、強酸化剤により酸化処理を行った後のポリエチレングリコールの残存量が、ポリマー全量の0.8〜9.8重量%であることを特徴とする、親水化ポリスルホン系中空糸膜。
【請求項2】
破断強度が3MPa以上であって、250mg/1000mlのBSA溶液を平均ろ過圧50kPa、線速度1m/secで内圧クロスフローろ過した時、90分ろ過後の透水保持率が55%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の親水化ポリスルホン系中空糸膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−156533(P2011−156533A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56223(P2011−56223)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【分割の表示】特願2006−137876(P2006−137876)の分割
【原出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】