説明

耐酸性が増大した乳酸菌の方法及び使用

本発明は、より良好な耐酸性の能力を有するように改変された乳酸菌の特定のプラスミドキュアリング菌株、かかる菌株の改変法、及びかかる菌株を含有する製品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
1908年、ロシアの生物学者Eli Metchnikoffは、特定のブルガリア及びロシア国民の長寿を、大量の発酵乳製品の消費に原因があると考えた。これらの食品中の鍵となる生物は、後に、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)という乳酸産生菌であると確認された。乳酸産生菌は、その乳酸を産生する能力に対してそのように名付けられている。しかし、乳酸産生は、この細菌群から得られる多くの利点の1つにすぎない。
【0002】
Metchnikoffらの研究に基づいて、科学者は、動物の健康と性能の向上のために生きた乳酸産生菌及び酵母を動物に直接与えるプロバイオティック微生物の構想を生み出した。観察される利点は、1)消化管中での付着部位についての競合、2)必須栄養素についての競合、3)抗菌物質の産生、4)有益な細菌の増殖の増大、及び、5)免疫系の刺激から生じ得る。
【0003】
一部の病原菌は、小腸の内膜を破壊することによって動物の栄養吸収能を低下させる。乳酸産生菌は、小腸に付着し、病原菌の腸壁への結合を防止する物質を産生する、と複数の研究が指摘している。さらに、有益な細菌の付着は、小腸の吸収表面積を拡大し、動物による栄養吸収増加のために酵素活性を増強することができる。
【0004】
細菌は、健康を増進するものも、疾患を引き起こすものも、増殖に特定の栄養素を必要とする。乳酸産生菌は、ビタミン、アミノ酸、又は、他で有害菌の増殖を支持する可能性のある他の栄養素を活用することができる。
【0005】
多数の研究が、直接摂食される微生物培養物の、疾患を引き起こす生物を抑制する能力に焦点を当てている。乳酸及びギ酸は、腸内pHを低下させ、有害な生物に適さない環境を創り出す。乳酸産生菌は、過酸化水素も分泌し、酸素を要求する微生物に好ましくない条件を生じる。
【0006】
2種類の抗菌物質群が同定されている。即ち、低分子量抗菌物質、例えばラクトバチルス・ロイテリ(L.reuteri)によって産生されるロイテリン、及びバクテリオシンである。バクテリオシンは、しばしば遺伝的に関連のある細菌の増殖を抑制する細菌産生物質である。バクテリオシンは、ポリペプチドで、その抑制作用は、プロテアーゼによって破壊されるが、一方広範囲抗菌物質であるロイテリンは、ポリペプチドではなく、その抗菌活性は、プロテアーゼの影響を受けない。
【0007】
ラクトバチルス・ロイテリを含めた様々なラクトバチルス種の菌株が、プロバイオティック製剤に使用されている。ラクトバチルス・ロイテリは、動物の消化管の天然の常在菌の1種で、通例、ヒトを含めた健康な動物の腸内に認められる。当該細菌は、抗菌活性を有することが既知である。例えば、米国特許第5,439,678号、第5,458,875号、第5,534,253号、第5,837,238号及び第5,849,289号を参照されたい。ラクトバチルス・ロイテリ細胞がグリセロール存在、嫌気条件下で増殖する場合、当該細胞は、β−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド(3−HPA)として既知の抗菌物質を産生する。
【0008】
乳酸産生菌の、大腸菌(E.Coli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)及びウェルチ菌(Clostridium perfringens)を抑制する能力が、研究によって実証されている。下痢を引き起こす生物の減少は、新生及び幼若動物において特に重要である。
【0009】
ラクトバチルス菌株への遺伝子改変は通常、一般的食物病原菌に拮抗する化合物の産生、コレステロール代謝能又は酸若しくは胆汁認容能、及び、免疫応答増強能など、特定の菌株の特性の改善又は増強を標的とする(Kullen,M.JとT.R.Klaenhammer,1999,腸内ラクトバチルス及びビフィドバクテリアの遺伝子改変(Genetic modification of intestinal lactobacilli and bifidobacteria),p.65〜83,In G.Tannock(編),Probiotics:A Critical Review,Horizon Scientific Press,Wymondham,U.K.)。これらの改変菌株は、理想的条件下で、宿主に有利であると思われる。しかし、自然条件下では、改変ラクトバチルス菌株の性能は、特に、操作にプラスミドが介在する場合、固有プラスミドに影響されることが多い。固有プラスミドと導入プラスミドの間の不適合性は、宿主内部のプラスミド不安定性に寄与する主たる要因の1つである(Posno,M.,R.J.Leer,N.van Luijk,M.J.f.van Giezen,P.T.H.M.B.C.LokmanとP.H.Pouwels.1991,ラクトバチルスベクターの、小型潜在ラクトバチルスプラスミド由来レプリコンとの不適合性及び導入ベクターの分離不安定性(Incompatibility of Lactobacillus vectors with replicons derived from small cryptic Lactobacillus plasmids and segregational instability of the introduced vectors).Appl.Environ.Microbiol.57,1822〜1828)。
【0010】
大半のラクトバチルス菌株は、その入手源(植物、肉、貯蔵牧草、サワードー又は消化管)にかかわらず、少なくとも1つの、しばしばそれ以上の固有プラスミドを保有する(Pouwels,P.H.とR.J.Leer,1993,ラクトバチルスの遺伝学:プラスミドと遺伝子発現(Genetics of lactobacilli:Plasmid,and gene expression).Antonie van Leeuwenhoek 64,85〜107)。これらのプラスミドは、組換えプラスミドの安定性を妨げるだけでなく、望ましくない形質、例えば抗生物質耐性も保有する可能性があり(Posnoら,1991)、当該抗生物質耐性は、いずれかのかかる固有プラスミドを除去することが有利になり、或いは必要にさえなる場合がある。
【0011】
多くの抗生物質及び抗菌物質は、本来、数百万年もの間自然界に存在し、ヒトは、抗生物質や抗菌物質を使って、細菌又は他の微生物の増殖を抑制し、ヒト、他の動物、及び、組織培養で細菌又は微生物感染症を治療してきた。しかし、抗生物質又は抗菌剤の使用は、投与若しくは適用されるこれらの抗生物質又は抗菌剤に耐性を示す細菌又は他の微生物に対して選択上の望ましくない影響を有する。結果として、治療法は、有害な影響を受け、又はある場合には無効になる可能性がある。
【0012】
ラクトバチルス・ロイテリATCC55730は、最近、リンコマイシンに耐性があり、また、耐性遺伝子lnuAも含有することが報告された(Kastner,S.,Perreten,V.,Bleuler,H.,Hugenschmidt,G.,Lacroix,C.& Meile,L.2006.食品に使用される開始培養物とプロバイオティック細菌の抗生物質感受性パターン及び耐性遺伝子(Antibiotic susceptibility patterns and resistance genes of starter cultures and probiotic bacteria used in food),Syst Appl Microbiol.29(2):145−155)。この遺伝子について当該菌株のゲノムが探索され、プラスミドpLR585上のオープンリーディングフレームIr2105として同定された。当該プラスミドは、多剤耐性タンパク質(Ir2089)及びポリケチド抗生物質エクスポーター(Ir2096及びIr2097)をコードする遺伝子も保有する。当該プラスミドの遺伝子はいずれも、当該菌株の既知のプロバイオティック特性又は耐酸性について明白な関係も有さず、重要な関連性も有さない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特にプロバイオティック産業では、酸に耐性を示すラクトバチルスを使用し、それによって、各種調合のかかる培養物が胃の酸環境を通過し、十分な数を保って残りの腸管に到達するだけでなく、胃で増殖し、コロニー形成し、消化管全体でそのプロバイオティック作用を発揮することもできることが求められている。耐酸性が低い菌株が使用される場合、さらに多くの細菌数を摂取することが必要であり、これは、コスト増加を招く。さらに、各種手段によって、酸pHからの培養物の保護に多大の努力が向けられており、これもコストを増加させる。そのため、酸に十分な耐性を示す菌株を有すること、その結果、既存菌株の耐酸性を改善する方法に、産業界で関心が持たれている。乳酸菌の耐酸性を改善する方法の一例は、米国特許出願第20050158,423 A1に示されており、この場合、小型熱ショックタンパク質をコードするプラスミドを保持する菌株が使用され、かかるプラスミドを乳酸菌中に移す方法も示されている。しかし、これは、プラスミドを除去して菌株の耐酸性を増大させる本発明とは対照的である。
【0014】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の開示内容及び添付の特許請求の範囲からより詳細に明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
2種類のプラスミドpLR581及びpLR585をキュアリングすることによってラクトバチルス・ロイテリATCC55730から誘導された菌株が得られている。この菌株は、親株よりもテトラサイクリン及びリンコマイシンに対する感受性がはるかに高い。当該二重キュアリング菌株は、DSMZに寄託され、ラクトバチルス・ロイテリDSM17938と指定された。ラクトバチルス・ロイテリDSM17938は、ラクトバチルス・ロイテリATCC55730と同一のrep−PCR(反復PCR)プロファイル、発酵パターン、ロイテリン産生、形態、増殖速度、粘液付着及び胆汁耐性を有する。しかし、当該キュアリング菌株は、より高密度に増殖し、酸性条件でさらに良好に生存する。当該菌株を共培養すると、DSM17938は、一層競合的にもなる。
【0016】
よって、本明細書の発明は、新規菌株の特徴を使用し、より良好な耐酸性を示すように改変された乳酸菌の特定のプラスミドキュアリング菌株、かかる菌株の改変法、及びかかる菌株を含有する製品を提供する。本発明の他の目的及び特徴は、以下の開示内容及び添付の特許請求の範囲からより詳細に明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ラクトバチルス・ロイテリDSM17938株(ブダペスト条約に従って、2006年2月6日にDSMZ−ドイツ微生物系統保存施設(Deutschesammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)(Mascheroder Weg 1b,D−38124 Braunschweig)に寄託)は、2種類のプラスミドpLR581及びpLR585をキュアリングすることによってラクトバチルス・ロイテリATCC55730から誘導される。当該菌株は、ATCC55730と同一のrep−PCRプロファイル、発酵パターン、ロイテリン産生、形態、増殖速度、粘液付着及び胆汁耐性を有するが、テトラサイクリン及びリンコマイシンへの感受性が親株よりもはるかに高い。驚くべきことに、L.ロイテリ DSM17938及びDSM17686は、キュアリングによるプラスミド除去によって耐酸性の増加を引き起こすことが認められている。共培養実験では、さらに競合的で、酸性pHでの生存率の改善によって説明できる。
【0018】
本発明の一目的は、乳酸菌からプラスミドを除去し、耐酸性をさらに増大させ、それによって、腸管での生存率をさらに増大させ、その結果、ヒトの健康にさらに有益にすることである。これは、L.ロイテリDSM17686株と新規L.ロイテリDSM17938株において立証されている。これは、耐酸性に関連するものをコードしない除去プラスミドから、酸により安定な新規菌株が得られるという、ラクトバチルスにおいて一般的な、これまで知られていなかった現象であると思われる。本明細書の発明では、この作用を使用し、ラクトバチルスの耐酸性を増大させている。
【0019】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の開示内容及び添付の特許請求の範囲からより詳細に明らかになる。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
DSM17686からのpLR585のキュアリング
プロトプラスト形成及び再生によるプラスミドキュアリングは、基本的に、Vescovoらの記述のとおりに実施した(Vescovo,M.,Morelli,L.,Cocconcelli,P.S.とBottazzi,V.1984.ラクトバチルス・ロイテリにおけるプロトプラスト形成、再生及びプラスミドキュアリング(Protoplast formation,regeneration and plasmid curing in Lactobacillus reuteri).FEMS Microbiol Lett 23:333〜334)。ラクトバチルス・ロイテリDSM17686の一昼夜培養物を、10mL MRS培養液(Oxoid,Lenexa,KS,USA)でOD600=0.1まで希釈し、OD600=0.7〜0.8になるまで37°Cで増殖させた。3000xg、10分間の遠心分離によって細胞を収集し、10mlのNanopure水で洗浄した。細胞は、遠心分離によって再度収集し、2mlのプロトプラスト緩衝液(0.2M リン酸緩衝液、0.5M スクロース、20mM MgCl;pH7.0)に再浮遊させた。当該細胞は、プロトプラスト緩衝液中、等量の10mg/mlリゾチームと混合し、37°Cで1時間インキュベートした。プロトプラストを3000xg、15分間の遠心分離によって採取し、20mlのプロトプラスト緩衝液で洗浄した。プロトプラストは、遠心分離によって再度採取し、1mlのプロトプラスト緩衝液に再浮遊させ、その後、顕微鏡観察を実施した。
【0021】
プロトプラスト緩衝液希釈物を、再生のため、0.5Mスクロース入りMRS寒天培地上に播いた。Nanopure水希釈物は、MRS寒天培地上に播き、残りの全細胞数を評価した。37°C下一昼夜の嫌気的インキュベーション後、及び、再度、次の一昼夜のインキュベーションの後に、cfu数を決定した。再生コロニーを取って、8μg/mlリンコマイシン含有及び非含有MRS寒天培地に播いた。リンコマイシンMRSプレート上での非増殖によってプラスミドキュアリング候補を同定した。
【0022】
結果
pLR585のキュアリングの確認
DSM17938のプラスミドを、PCRで分析した(図1)。pLR585、pLR581は、ともに存在しなかったが、その他の2種類のプラスミドは、依然として認められた。よって、DSM17938は、tetW−プラスミドpLR581及びlnuA−プラスミドpLR585の両方からキュアリングされる。DSM17938中lnuAの不存在も、PCRによって検出された(図2)。
【0023】
(実施例2)
リンコマイシンの最小阻止濃度の決定
前記細菌を、MRSブイヨン培地中、37°Cで16時間増殖させた。10cfu/mlまで希釈した後、1μLの各菌株を、リンコマイシン又はクリンダマイシン(濃度0、0.125、0.25、0.5,1,2,4,8及び16μg/ml)含有MRSプレート上にスポットした。当該液滴の吸着後、当該プレートは、嫌気的雰囲気中、37°Cで24時間インキュベートした。前記MICは、細菌増殖が視覚的に認められない最低抗生物質濃度として定義した。製造会社の説明書に従って、MRS寒天(Oxoid)プレート上で増殖する細菌について、Etest(AB Biodisk)でテトラサイクリンに対するMICを検討した。
【0024】
結果
pLR585のキュアリングは、リンコマイシン>16μg/mLから0.25μg/mlへのMIC減少を生じ、これは、陰性対照DSM20016のレベルに近いものであった。すでに非常に低いクリンダマイシンのMIC値は、変化しなかった。テトラサイクリンに対するMICも、E−testで検討し、DSM17938及びDSM17686が12〜16μg/ml、ATCC55730が>256μg/mlであると判明した。
表1
【表1】

【0025】
(実施例3)
発酵パターン及びロイテリン産生
製造会社の説明書に従って、api50 CHL(bio−Merieux)を使って発酵パターンを決定した。ロイテリン産生を検出するために、最初にMRSプレート上で前記細菌を48時間増殖させた(画線接種)。次いで、当該プレートに500mMグリセロール寒天(1%寒天)を重層し、37°Cで30分間インキュベートした。5mLの2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(2M HCl中0.1%)を添加してロイテリンを検出した。3分間のインキュベーション後、当該溶液を注ぎ、5mLの5M KOHを添加した。コロニー周囲の赤色ゾーンは、ロイテリンが産生されたことを示す。
【0026】
結果
DSM17938の発酵パターンを、API50 CHLを使ってDSM17686及びATCC55730と比較し、差を検出できなかった。全菌株が、L−アラビノース、リボース、ガラクトース、グルコース、マルトース、ラクトース、メリビオース、サッカロース、ラフィノース及びグルコネートを発酵させ、残りの試験では陰性であった。ロイテリンの産生も、3菌株は同一の規模であった。
【0027】
(実施例4)
増殖及び共培養
増殖は、37°Cに前加温した試験管中MRSブイヨンにOD0.1になるまで一昼夜培養物をインキュベートすることによって検出した。当該試験管は、37°Cでインキュベートし、OD600nm測定用試料を8時間の間に入手した。各細菌を3回繰返しで分析した。当該細菌の共培養は、前加温MRSブイヨン試験管中でATCC5730、DSM17686及びDSM17938の等量の一昼夜培養物を混合することによって実施した。当該混合物は、37°Cで一昼夜インキュベートし、次いで、新規のMRS試験管に再接種した。この手順を3回繰り返した。開始時と各培養後に、培養物の各種希釈物をMRSプレート上に播き、次いで、コロニーを取って、1枚が抗生物質なし、1枚が8μg/mlのリンコマイシン含有、1枚が64μg/mlのテトラサイクリン含有の3枚のMRSプレートにコロニーに播くことによって、試料を分析した。MRSのみで増殖したコロニーはDSM17938と考えられ、リンコマイシン含有MRSで増殖したコロニーはDSM17686と考えられ、3枚のプレート全部で増殖したコロニーはATCC55730と考えられた。
【0028】
結果
DSM17938株とDSM17686株の増殖をATCC55730と比較した。世代時間の差は検出できなかったが、両キュアリング菌株は、ATCC55730よりも有意に高い密度まで増殖した。最終ODは、ATCC55730が4.78±0.13;DSM17686が5.89±0.28;DSM17938が6.00±0.26であった。当該3菌株は、約30世代にわたってMRSブイヨン中で共培養も行った(3回の再接種)。結果は、in vitro増殖の場合、キュアリング菌株が有利であることを明らかに示している。等量の菌株を合わせて接種したが、実験終了時には、当該混合物は、56%のDSM17938、38%のDSM17686及びわずか6%のATCC55730から成った。この理由は、キュアリングされた菌株がより高いODまで増殖する、或いは、おそらく、定常期での生存がさらに良好になるということであろう。2種類のプラスミドの喪失から、負荷量の減少(複製DNAの減少)とそれによる競合能の増加も生じる可能性がある。
【0029】
(実施例5)
粘液への結合
ブタの小腸粘液を使用した。粘液材料及びBSAは、PBSで溶解、希釈し、低速回転下、室温で3時間100μlの溶液をインキュベートすることによって、マイクロタイターウェル(Greiner)中に固定した。最終濃度は、粘液材料がOD280で0.1、BSAが100μg/mlであった。前記ウェルを、0.2mLの1%Tween20添加PBSで1時間ブロックした後、0.05%Tween20添加PBS(PBST)で洗浄した。細菌は、MRSブイヨン中37°Cで16時間増殖させ、PBSTで1回洗浄し、同一緩衝液でDO600 0.5まで希釈した。その後、前記ウェルをPBSTで洗浄し、倒立顕微鏡で結合度を検討した。全細菌を3回繰返しで分析した。
【0030】
結果
DSM17938株及びDSM17686株の粘液結合能をATCC55730と比較した。結合の差は検出できなかった。
【0031】
(実施例6)
耐酸性
低pHでの生存率を検討するため、L.ロイテリATCC55730株、DSM17686株及びDSM17938株を、MRS中37°Cで一昼夜増殖させた。当該細菌5μlを前加温MRS 10mLに添加し、OD600 1.0が達成されるまで、37°Cでインキュベートした。OD 1.0の培養物800μlを人工胃液8ml(8.3g/lプロテオース ペプトン(Oxoid)、3.5g/l グルコース、2.05g/l NaCl、0.6g/l KHPO、0.11g/l CaCl、0.37g/l KCl、HClでpH2.0に調整)に添加した後、酵素を欠くCotterらの変法(Cotter,P.D.,Gahan,C.G.,& Hill,C.2001.胃液中でグルタメートデカルボキシラーゼシステムはリステリア菌(Listeria monocytogenes)を保護する(A glutamate decarboxylase system protects Listeria monocytogenes in gastric fluid).Mol Microbiol 40:465〜475)。試験管を37°Cでインキュベートし、1、20、50及び90分後に試料を取り出した。当該試料は、PBSで希釈し、MRSプレート上に広げ、これを嫌気的に37°Cで24時間インキュベートした。本実験は2回繰り返し、各時点で2回繰り返し試料を分析した。前記菌株間の差を、Studentのt−検定で統計的に試験した。
【0032】
結果
OD600 1.0まで増殖した(指数増殖中期〜後期)当該3種の菌株を、その後、酸性pHに曝露した。pH2.0での50分間のインキュベーション後、DSM17938及びDSM17686は、ともに、ATCC55730よりも良好に生存し、生存率は、それぞれ、41、28及び20%であった(図3)。差は、p−値0.0006(DSM17938対ATCC55730)、及び0.04(DSM17686対ATCC55730)で有意であった。これに対する理由は、不明である。酸性pHでの生存率の改善が、共培養実験においてキュアリングされた菌株が、なぜより競合的であったのかの説明になると思われる。
【0033】
(実施例7)
胆汁耐性
当該細菌を、MRSブイヨン中37°Cで16時間増殖させた。当該細菌浮遊液をPBSで、約103〜106cfu/mlまで希釈した。各希釈物10μLを、各種濃度のウシ胆汁(0、0.5、1、2、4及び6%;Sigma B3883)を含むMRSプレート上に滴下した。各細菌を2回繰り返し分析した。前記プレートは、嫌気的雰囲気中、37°Cで72時間インキュベートした。コロニーをカウントし、胆汁耐性を、胆汁プレートのコロニー数を胆汁無添加MRSプレートと比較して推定した。指数増殖期の細菌(OD 0.5)も、同じ方法で検討した。
【0034】
結果
キュアリングされたDSM17938株及びDSM17686株のウシ胆汁に対する耐性をATCC55730と比較した。細菌は、定常期及び指数増殖期(OD600 0.5)の両方において検討した。細菌は、定常期にあるときには胆汁に十分な耐性を示したが、指数期では生存及び増殖が、はるかに低かった。しかし、菌株間に耐性の差は検出できなかった。
【0035】
本発明を、具体的な実施形態を参照して説明したが、多数の変形、変更及び実施形態が可能であり、従って、かかる変形、変更及び実施形態は、すべて、本発明の趣旨及び範囲に入ると見なすことができると理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】PCRによるプラスミドの検出を示す図である。数字は、1、L.reuteri DSM17938;2、L.reuteri DSM17686;3、L.reuteri ATCC55730;及び4、L.reuteri DSM 20016(陰性対照)を表す。分析対象プラスミドは、a、pLR580;b、pLR581;c、pLR584;及びd、pLR585である。
【図2】耐性遺伝子lnuAの検出を示す図である。1、DSM17938;2、DSM17686;3、ATCC55730;4、DSM 20016
【図3】棒グラフによるATCC55730(左)、DSM17686(中央)及びDSM17938(右)の耐酸性を示す図である。カラムは、生菌の割合を示す(4回繰返しの平均値)。誤差バーは標準偏差、*はp−値<0.05、***はp<0.001を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ロイテリDSM17938の生物学的に純粋な培養物。
【請求項2】
ラクトバチルス・ロイテリDSM17938の生物学的に純粋な培養物を含む組成物。
【請求項3】
ラクトバチルス菌株からプラスミドを除去するステップを含む、ラクトバチルス菌株の耐酸性を増大させる方法。
【請求項4】
ラクトバチルス菌株がラクトバチルス・ロイテリの菌株である、請求項3に記載のラクトバチルス菌株の耐酸性を増大させる方法。
【請求項5】
ラクトバチルス菌株からプラスミドを除去するステップを含む、ヒトの胃でより良好にコロニー形成することができるラクトバチルス菌株を提供する方法。
【請求項6】
ラクトバチルス菌株がラクトバチルス・ロイテリの菌株である、請求項5に記載のラクトバチルス菌株の耐酸性を増大させる方法。
【請求項7】
プラスミドが除去されているラクトバチルス菌株を含むプロバイオティック製品。
【請求項8】
全プラスミドが除去されている、請求項7に記載のプロバイオティック製品。
【請求項9】
菌株がラクトバチルス・ロイテリの菌株である、請求項7に記載のプロバイオティック製品。
【請求項10】
菌株がラクトバチルス・ロイテリDSM17938である、請求項9に記載のプロバイオティック製品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−539372(P2009−539372A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514240(P2009−514240)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【国際出願番号】PCT/SE2007/050382
【国際公開番号】WO2007/142597
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(507340120)バイオガイヤ エービー (5)
【Fターム(参考)】