説明

耐震アンカー装置

【課題】内部コンクリートの割裂防止性に優れた耐震アンカー装置を提供すること。
【解決手段】建造物1の基礎部2の下面から地中へ延びるアンカー鋼管6と、前記アンカー鋼管6の内部と前記アンカー鋼管6の下端から広がる拡径部8とを一体化した形状を有するコンクリート体7と、前記建造物1の基礎部2と前記アンカー鋼管6の上端部との間に接合され、力の伝達をする上部伝達ユニット9と、前記アンカー鋼管6の下端部と前記コンクリート体7の拡径部8との間に接合され、力の伝達をする下部伝達ユニット14とを備えて建造物1の基礎部2の下面へ取り付ける耐震アンカー装置5を構成し、前記建造物1の基礎部2と前記建造物1の基礎部2の下面へ取り付ける耐震アンカー装置5との接合は前記上部伝達ユニット9のみであり、かつ前記アンカー鋼管6と前記コンクリート体7との接合は前記下部伝達ユニット14のみである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の基礎部に設けられる耐震アンカー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、耐震アンカー装置は、地震が発生した場合に地面に対する建造物の水平方向の滑動や、上方への浮上りの対応策として用いられている。耐震アンカー装置は、たとえば、図6に示すように、まず、基礎21を貫通して地中へ延びる管材24に芯材25を貫通させる。次に、管材24と芯材25との隙間からグラウトを注入して固化させる。これにより、管材24の下端部周辺の地中へ拡径形状を成すアンカー部26を形成するものである。そして、この状態で芯材25を基礎21に係止手段27で係止する。この耐震アンカー装置23では、地震の発生により建造物に上方向の力が作用した場合、この力が基礎21から管材24及び芯材25を通じてアンカー部26へと伝達される。そのため、アンカー部26の拡径形状は地中との抵抗を生じることになり、建造物の地面に対する上方向の移動を防止することが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−328816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の耐震アンカー装置では、建造物へ上方向の力が作用した場合、基礎21が上方向に移動しようとするのに対してアンカー部26が地中に留まろうとする。したがって、基礎21とアンカー部26との間に介在する部分には、上述した力が引張力として作用することになり、管材24内部のグラウトに割裂を招来する恐れがある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、地震に伴い建造物へ鉛直方向の力が入力した場合に、基礎部と耐震アンカー装置におけるコンクリート体の拡径部との間に介在するコンクリート体が割裂することなく、建造物における鉛直方向の動きを防止することができる耐震アンカー装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1にかかる耐震アンカー装置は、建造物の基礎部へ取り付ける耐震アンカー装置において、前記建造物における基礎部の下面から地中へ延び、下端部に拡径部を有したコンクリート体と、前記コンクリート体の外周を囲繞する態様で配置したアンカー鋼管と、前記建造物に上方向の力が加わった場合にこれを前記アンカー鋼管に伝達をする上部伝達ユニットと、前記アンカー鋼管に上方向の力が加わった場合にこれを前記コンクリート体の拡径部に伝達をする下部伝達ユニットとを備え、さらに、前記基礎部の下面と前記コンクリート体の上面との間をアンボンド処理すると共に、前記アンカー鋼管の内周面と前記コンクリート体の外周面との間をアンボンド処理したことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2にかかる耐震アンカー装置は、前述した請求項1において、前記上部伝達ユニットは、前記アンカー鋼管の上端部から上方に向けて延在し、上端部が前記建造物の基礎部に埋設される上部アンカー鋼棒を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項3にかかる耐震アンカー装置は、前述した請求項1において、前記上部伝達ユニットは、前記アンカー鋼管の上端に接合し、中心部に挿通孔を有したキャップ鋼板と、下端部が前記キャップ鋼板の挿通孔よりも太径に構成した引掛部を介して前記コンクリート体の上面に当接し、かつ上端部が前記挿通孔を挿通した後に前記建造物の基礎部に埋設された上部アンカー鋼棒と、前記キャップ鋼板の上面と前記建造物における基礎部の下面との間に介在するゴム支承部材とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項4にかかる耐震アンカー装置は、前述した請求項1において、前記下部伝達ユニットは、前記アンカー鋼管の下端部から下方に向けて延在し、下端部が前記コンクリート体の拡径部に埋設される下部アンカー鋼棒と、前記下部アンカー鋼棒の外径よりも大きな外径を有し、該下部アンカー鋼棒の下端部において前記コンクリート体の拡径部に埋設されるアンカープレートとを備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項5にかかる耐震アンカー装置は、前述した請求項4において、前記下部アンカー鋼棒は、前記アンカープレートよりも上方に位置する部位を前記アンカー鋼管の軸心に向けて屈曲したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項6にかかる耐震アンカー装置は、前述した請求項4において、前記下部アンカー鋼棒は、前記コンクリート体の拡径部に対してアンボンド処理を施したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、地震の発生に伴って建造物を上方向へ移動させようとする力が加わった場合、上部伝達ユニット、アンカー鋼管、下部伝達ユニットを通じてコンクリート体の拡径部へと伝達され、拡径部と地中との抵抗によって建造物の上方への移動が阻止される。一方、建造物を下方へ移動させようとする力が加わった場合には、建造物の基礎部およびコンクリート体を介して地中へ伝達され、建造物の下方への移動が阻止される。従って、建造物へ鉛直方向の力が作用した場合に、いずれにおいても耐震アンカー装置を構成するコンクリート体に引張力が作用することはなく、割裂等の問題を招来する恐れがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明にかかる耐震アンカー装置における実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1である耐震アンカー装置を示す断面図であり、図2は、建造物と耐震アンカー装置の関係を示す断面図である。図1に示す耐震アンカー装置5は、建造物1の基礎部2の下面へ取り付けられており、アンカー鋼管6、コンクリート体7、複数の上部アンカー鋼棒10(上部伝達ユニット)、下部伝達ユニット14を備えて構成してある。
【0015】
建造物1は、コンクリートを打設することによって構築した基礎部2を有する原子炉である。この建造物1は、地山3と岩盤4との境界である岩盤レベルに基礎部2を当接させた状態で建造してある。
【0016】
アンカー鋼管6は、円筒形状を有する鋼管材である。このアンカー鋼管6は、建造物1の基礎部2の下面から鉛直下方へ延びるよう配設してある。本実施の形態1では、建造物1の基礎部2とアンカー鋼管6との間に、適宜アンボンド処理を施すことにより、コンクリートによる付着定着がないように構成してある。
【0017】
コンクリート体7は、アンカー鋼管6の内部に配設した基部7aと、この基部7aにおいてアンカー鋼管6の下端から突出する態様で設けた拡径部8とを一体化した形状を有するもので、コンクリートを打設することによって構成してある。コンクリート体7の拡径部8は、下方に向けて漸次拡径する斜面部8aと、斜面部8aから鉛直下方へ延びる周面8bと、最下端面8cとを有している。本実施の形態1では、建造物1の基礎部2及びアンカー鋼管6とコンクリート体7との間に、適宜アンボンド処理を施すことにより、コンクリートによる付着定着がないように構成してある。
【0018】
上部アンカー鋼棒10は、それぞれ直線形状の鋼棒材であり、それぞれ一方の端部に突起部10aを有している。上部アンカー鋼棒10は、突起部10a側が建築物1の基礎部2へコンクリートを介して付着定着する一方、他方側がアンカー鋼管6の内部上端へ溶接接合してある。つまり、建造物1の基礎部2とアンカー鋼管6とは、複数の上部アンカー鋼棒10を介して互いに接続されることになる。なお、図には明示していないが、複数の上部アンカー鋼棒10は、アンカー鋼管6の円周面へ等間隔に配設してある。
【0019】
下部伝達ユニット14は、複数の下部アンカー鋼棒15と複数のアンカープレート16とアンボンド処理管材17とを備えて構成してある。下部アンカー鋼棒15は、それぞれの上端部がアンカー鋼管6の下端部内周面に溶接接合してある一方、それぞれの下端部が鉛直下方へ延在した後、コンクリート体7の拡径部8においてアンカー鋼管6の軸心に向けて屈曲している。なお、図には明示していないが、下部アンカー鋼棒15は、アンカー鋼管6の円周面へ等間隔に配設してある。
【0020】
アンカープレート16は、中心部に孔(図示せず)を有した円板状を成す平板部材であり、下部アンカー鋼棒15の下端部に固定してある。このアンカープレート16は、下部アンカー鋼棒15とコンクリート体7の拡径部8との定着体の役目を有したものであり、下部アンカー鋼棒15の外形に対して十分に大きさな外径を有するように構成してある。但し、アンカープレート16の外径は、最も外側に位置する部分がアンカー鋼管6の外周面よりも中心側となるように設定することが好ましい。また、アンカープレート16は、下記アンカー鋼棒15に固定された状態で、その上面とコンクリート体7の拡径部8の斜面8aとが平行になるように配設してある。
【0021】
アンボンド処理管材17は、シース管材であり、下部アンカー鋼棒15のアンカー鋼管6から突出している外周部に配設してある。図には明示していないが、アンボンド処理管材17の内部には、アンボンド処理体としてグリースが充填してある。
【0022】
上記のような構成を有する下部伝達ユニット14は、下部アンカー鋼棒15およびアンカープレート16を介してアンカー鋼管6とコンクリート体7の拡径部8とを互いに接続する機能を呈することになる。また、下部アンカー鋼棒15とコンクリート体7の拡径部8とは、アンボンド処理管材17により、付着定着することがない。
【0023】
図3は、図1に示した耐震アンカー装置の施工工程を示す断面図である。上述した耐震アンカー装置を構築する場合には、まず、あらかじめアンカー鋼管6に上部アンカー鋼棒10と下部伝達ユニット14とを接合して一体化したものを作成する。アンカー鋼管6に上部アンカー鋼棒10や下部伝達ユニット14を接合する作業は、必ずしも現場で行う必要はなく、工場などの別の場所で製作しても構わない。
【0024】
次に、岩盤4を掘削して、耐震アンカー装置5を配設する位置にそれぞれ掘削孔20を形成する。掘削孔20の下端部には、拡径部8を作成するための拡径部20aを形成する。次に、それぞれの掘削孔20に下部伝達ユニット14を下方に向けた状態でアンカー鋼管6を挿入し、内周面にアンボンド処理を施した状態でアンカー鋼管6の内部にコンクリートを打設固化させれば、下端部に拡径部8を有したコンクリート体7を得ることができる。最後に、上部アンカー鋼棒10が内部に埋設されるように基礎部2を構築することにより、耐震アンカー装置5を備えた建造物1が建造される。基礎部2を構築する場合には、あらかじめアンカー鋼管6の上面およびコンクリート体7の上面にアンボンド処理を施しておく。
【0025】
ここで、本実施の形態1の耐震アンカー装置5では、下部アンカー鋼棒15の下端部をアンカー鋼管6の軸心に向けて内方に屈曲されており、アンカープレート16の最も外側に位置する部分がアンカー鋼管6の外周面よりも中心側となるようにしている。従って、上述した施工行程においては、アンカー鋼管6の外径に相当する内径を有した掘削孔20を設ければ、下部伝達ユニット14を接合したアンカー鋼管6を容易に挿入することが可能である。
【0026】
しかも、本実施の形態1の耐震アンカー装置5では、上端部に傾斜面8aを有した拡径部8を適用しているため、掘削孔20の下端部においてオーガ等の掘削冶具を下方に移動させながら漸次外径を大きくすることで拡径部8を形成するための拡径部20aを得ることができ、掘削作業の容易化を図ることができる。
【0027】
次に、上述した耐震アンカー装置の作用について説明する。図4は、図1に示した耐震アンカー装置において地震の発生により建造物1に上方向の力が作用した場合の概念図である。地震の発生に伴って建造物1に上方向の力が加えられると、その力が建造物1の基礎部2から上部アンカー鋼棒10、アンカー鋼管6、下部アンカー鋼棒15を通じてアンカープレート16へと伝達される。この時、建造物1の基礎部2とアンカー鋼管6との間、建造物1の基礎部2及びアンカー鋼管6とコンクリート体7との間、さらにはアンボンド処理管材17の内部に配設された下部アンカー鋼棒15とコンクリート体7の拡径部8との間においては、いずれもアンボンド処理されているため、建造物1に加えられた上方向への力がコンクリート体7に伝達されることがない。
【0028】
アンカープレート16へ伝達された力は、コンクリート体7の拡径部8に伝達され、該拡径部8を上方へ移動させるように作用する。しかしながら、拡径部8の上方への移動は、斜面8aが岩盤4に押圧されることによって阻止されることになり、その結果、建造物1が岩盤4に対して上方へ移動する事態が阻止されることになる。
【0029】
一方、建造物1の鉛直下方の力が作用した場合には、建造物1の基礎部2から直接岩盤4に伝達されると共に、基礎部2からコンクリート体7へと伝達され、拡径部8の下面が岩盤4を押圧することになり、この結果、建造物1が岩盤4に対して下方へ移動する事態が阻止される。このとき、コンクリート体7には、圧縮力が作用することになる。しかしながら、建造物1に働く力のほとんどを基礎部2によって受けることができ、かつコンクリート体7の周囲がアンカー鋼管6によって囲繞されているため、当該コンクリート体7に座屈等の問題が招来される恐れはない。
【0030】
上記のように構成した耐震アンカー装置によれば、建築物1に作用した上方向の力は、耐震アンカー装置5のコンクリート体7を介さずに岩盤4へ伝達されるとともに、その反力を受け、建造物1の浮上りに対して抵抗することが可能となる。その一方、建造物1に作用した下方向の力は、基礎部2およびコンクリート体7を介して岩盤4へ伝達することが可能となる。以上から、建造物1へ鉛直方向の力が作用した場合に、コンクリート体7に引張力が作用することがなくなり、割裂等の問題が発生する事態を防止することが可能となる。
【0031】
なお、上述した実施の形態1では、耐震アンカー装置5の取り付け位置が建造物1の基礎部2の下面であるため、建造物1の周辺に影響を与えることがない。しかしながら、本発明では、必ずしも基礎部2の下面に設ける必要はない。例えば、基礎部2の周囲に突出部を構成し、この突出部の下面に耐震アンカー装置5を配設しても同様の作用効果を奏することが可能である。
【0032】
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2である耐震アンカー装置を示す断面図である。この実施の形態2の耐震アンカー装置は、上述した実施の形態1に対して上部伝達ユニットの構成のみが異なるもので、他の構成は実施の形態1と同様である。以下、この上部伝達ユニットの詳細構成について説明する。なお、実施の形態2において実施の形態1と同様の構成に関しては、同一の符号を付してそれぞれの説明を省略する。
【0033】
上部伝達ユニット9は、キャップ鋼板13と上部アンカー鋼棒10とゴム支承部材12とを備えて構成してある。キャップ鋼板13は、中心部に挿通孔13aを有した円板形状の鋼板であり、上部アンカー鋼棒10の上端開口を閉塞する態様でアンカー鋼管10に溶接接合してある。キャップ鋼板13の上面と基礎部2との間には、適宜アンボンド処理が施してあり、コンクリートによる付着定着がない。上部アンカー鋼棒10は、直線形状の鋼棒であり、一方の端部に突起部10aを有しており、他方の端部に引掛部10bを有している。上部アンカー鋼棒10の引掛部10bは、キャップ鋼板13の挿通孔13aよりも大きな外径に構成したものである。この上部アンカー鋼棒10は、引掛部10bの下面をコンクリート体7の上面に当接させる一方、その上端部をキャップ鋼板13の挿通孔13aに挿通させた後、基礎部2の内部に埋設してある。ゴム支承部材12は、ゴム等の弾性体によって成形したもので、円板部12aと軸受部12bとを備えて構成してある。円板部12aは、上部アンカー鋼棒10が貫通可能な孔を有した円板形状部分であり、上面が基礎部2の下面に当接する一方、下面がキャップ鋼板13の上面に当接している。軸受部12bは、上部アンカー鋼棒10の外周面と、キャップ鋼板13における挿通孔13aの内周面との間に介在する部分である。なお、図には明示していないが、上部アンカー鋼棒10は、アンカー鋼管6の内周面に等間隔に配設してある。
【0034】
次に、上述した耐震アンカー装置の作用について説明する。地震の発生に伴って建造物1に上方向の力が加えられると、その力が建造物1の基礎部2から上部アンカー鋼棒10、キャップ鋼板13、アンカー鋼管6、下部アンカー鋼棒15を通じてアンカープレート16へと伝達される。この時、建造物1の基礎部2とアンカー鋼管6およびキャップ鋼板13との間、建造物1の基礎部2及びアンカー鋼管6とコンクリート体7との間、さらにはアンボンド処理管材17の内部に配設された下部アンカー鋼棒15とコンクリート体7の拡径部8との間においては、いずれもアンボンド処理されているため、建造物1に加えられた上方向への力がコンクリート体7に伝達されることがない。
【0035】
アンカープレート16へ伝達された力は、コンクリート体7の拡径部8に伝達され、該拡径部8を上方へ移動させるように作用する。しかしながら、拡径部8の上方への移動は、斜面8aが岩盤4に押圧されることによって阻止されることになり、その結果、建造物1が岩盤4に対して上方へ移動する事態が阻止されることになる。
【0036】
一方、建造物1の鉛直下方の力が作用した場合には、建造物1の基礎部2から直接岩盤4に伝達されると共に、基礎部2から上部アンカー鋼棒10を介してコンクリート体7へと伝達され、拡径部8の下面が岩盤4を押圧することになり、この結果、建造物1が岩盤4に対して下方へ移動する事態が阻止される。このとき、コンクリート体7には、圧縮力が作用することになる。しかしながら、建造物1に働く力のほとんどを基礎部2によって受けることができ、かつコンクリート体7の周囲がアンカー鋼管6によって囲繞されているため、当該コンクリート体7に座屈等の問題が招来される恐れはない。
【0037】
上記のように構成した耐震アンカー装置によれば、建築物1に作用した上方向の力は、耐震アンカー装置5のコンクリート体7を介さずに岩盤4へ伝達されるとともに、その反力を受け、建造物1の浮上りに対して抵抗することが可能となる。その一方、建造物1に作用した下方向の力は、基礎部2およびコンクリート体7を介して岩盤4へ伝達することが可能となる。以上から、建造物1へ鉛直方向の力が作用した場合に、コンクリート体7に引張力が作用することがなくなり、割裂等の問題が発生する事態を防止することが可能となる。
【0038】
しかも、上記耐震アンカー装置によれば、基礎部2とキャップ鋼板13との間、および上部アンカー鋼棒10とキャップ鋼板13との間にそれぞれ弾性体から成るゴム支承部材12を介在させている。従って、地震の発生に伴って建造物1の基礎部2と耐震アンカー装置の上端部との間に曲げせん断力が作用した場合にも、ゴム支承部材12が適宜変形することによってこれを吸収することが可能となり、例えば上部アンカー鋼棒10がせん断破壊する事態を招来する恐れがない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
耐震アンカー装置に有用であり、特に内部コンクリート体の割裂防止性に配慮した耐震アンカー装置に適している。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態1である耐震アンカー装置を示す断面図である。
【図2】図1に示した耐震アンカー装置と建造物との関係を示す断面図である。
【図3】図1に示した耐震アンカー装置の施工過程を示す断面図である。
【図4】図1に示した耐震アンカー装置において建造物に上方向へ力が加えられた場合の状態を示す概念図である。
【図5】本発明の実施の形態2である耐震アンカー装置を示す断面図である。
【図6】従来の耐震アンカー装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 建造物
5 耐震アンカー装置
6 アンカー鋼管
7 コンクリート体
9 上部伝達ユニット
10 上部アンカー鋼棒
12 ゴム支承部材
13 キャップ鋼板
14 下部伝達ユニット
15 下部アンカー鋼棒
16 アンカープレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の基礎部へ取り付ける耐震アンカー装置において、
前記建造物における基礎部の下面から地中へ延び、下端部に拡径部を有したコンクリート体と、
前記コンクリート体の外周を囲繞する態様で配置したアンカー鋼管と、
前記建造物に上方向の力が加わった場合にこれを前記アンカー鋼管に伝達をする上部伝達ユニットと、
前記アンカー鋼管に上方向の力が加わった場合にこれを前記コンクリート体の拡径部に伝達をする下部伝達ユニットとを備え、
さらに、前記基礎部の下面と前記コンクリート体の上面との間をアンボンド処理すると共に、前記アンカー鋼管の内周面と前記コンクリート体の外周面との間をアンボンド処理したことを特徴とする耐震アンカー装置。
【請求項2】
前記上部伝達ユニットは、前記アンカー鋼管の上端部から上方に向けて延在し、上端部が前記建造物の基礎部に埋設される上部アンカー鋼棒を備えたことを特徴とする請求項1に記載の耐震アンカー装置。
【請求項3】
前記上部伝達ユニットは、
前記アンカー鋼管の上端に接合し、中心部に挿通孔を有したキャップ鋼板と、
下端部が前記キャップ鋼板の挿通孔よりも太径に構成した引掛部を介して前記コンクリート体の上面に当接し、かつ上端部が前記挿通孔を挿通した後に前記建造物の基礎部に埋設された上部アンカー鋼棒と、
前記キャップ鋼板の上面と前記建造物における基礎部の下面との間に介在するゴム支承部材と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の耐震アンカー装置。
【請求項4】
前記下部伝達ユニットは、
前記アンカー鋼管の下端部から下方に向けて延在し、下端部が前記コンクリート体の拡径部に埋設される下部アンカー鋼棒と、
前記下部アンカー鋼棒の外径よりも大きな外径を有し、該下部アンカー鋼棒の下端部において前記コンクリート体の拡径部に埋設されるアンカープレートと
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の耐震アンカー装置。
【請求項5】
前記下部アンカー鋼棒は、前記アンカープレートよりも上方に位置する部位を前記アンカー鋼管の軸心に向けて屈曲したことを特徴とする請求項4に記載の耐震アンカー装置。
【請求項6】
前記下部アンカー鋼棒は、前記コンクリート体の拡径部に対してアンボンド処理を施したことを特徴とする請求項4に記載の耐震アンカー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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