説明

耐震装置

【課題】常時は固定されているが日常生活の中で必要に応じて例えば引き戸のように工事を行うことも特殊な工具を使用することもなく居住者が手動で容易に移動させて別の位置に再固定することが出来るパネル型をした耐震装置を提供する。
【解決手段】柱とはりその他の横架材からなる軸組において下部横架材上に設けた敷居に対して脱着可能に配置される下部緊結部と、上部横架材下に配置される鴨居に対して脱着可能に配置される上部緊結部とを備えるパネル体とからなり、地震の振動に対しては耐震機能を有するとともに平時は前記パネル体を移動可能に構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等の軽微な建物における各種開口部にその機能を損なうことなく必要量の耐震装置を設置し易くしようとする耐震装置に関し、住宅等の新築および既存住宅等の耐震補強を行なうことのできる耐震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の住宅においては南面にガラス窓やガラス戸等の大きな開口部を設ける場合が多く、そのために南側の耐震装置の量が不足したり配置が北側に片寄ったりして釣り合いを欠き建物全体としての耐震力不足をきたしているケースがしばしば見られる。
【0003】
建築基準法施行令第45条3項では「筋かいは、その端部を、柱とはりその他の横架材との仕口に接近して、ボルト、かすがい、くぎその他の金物で緊結しなければならない」と規定され、また同第47条1項では「構造耐力上主要な部分である継ぎ手又は仕口は、ボルト締、かすがい打、込み栓打その他の建築大臣が定める構造方法によりその部分の存在応力を伝えるように緊結しなければならない」と規定されている。これらの規定の結果「筋かい、耐震壁等の耐震装置は軸組に緊結されていて移動させることはできない」という固定観念が広く世間に定着している。
【0004】
住宅の耐震補強工法に関しては既に多くの工法が開発されているが、いずれも「耐震装置は移動させることができない」という呪縛から解放されていないと見受けられる。
【0005】
一方、最近の新築住宅では外部開口部の両側が耐震壁で固められているのが一般的パターンとなっている。これらの建築物は耐震力は十分確保されているが、この耐震壁に拘束されて間取りに弾力性がなく、外部開口部の位置と大きさが限定されて眺望、通風が制約されている。
【0006】
空調機が普及している現在では、窓を閉め切って外部の熱気を遮断して冷房を効かすというのが消夏の常識となっているようであるが、これが世界規模で省エネが求められている時流に反し、健康上も芳しくない。かつてのわが国の伝統的方法であった開放的で風通しの良い家作りを今一度見直すべきであろう。
【0007】
これまでに、耐震壁の撤去を容易に行なえると共に、耐震壁を撤去した後に建物を支障なく使用し続けることが可能な耐震構造について特許文献1で提案されている。
【0008】
また、既設の木造構造物に対して耐震補強を行なうに際して、十分な壁倍率を確保しつつ、対象の構造枠内に窓を設置できるようにする耐震補強構造が特許文献2に提案されている。
【0009】
【特許文献1】特開2005−76261号公報
【特許文献2】特開2003−232133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
「開放性と耐震性」この一見相矛盾するように見える命題を解決するために本発明は耐震装置を壁から切り離し引き戸の様に移動可能とすることを追及した。
【0011】
建築基準法の規定を注意深く検討すると「耐震装置に応力が存在するのは地震力が作用した時だけであって平常時は伝達すべき応力がないのであるから緊結を解除しても差し支えない」と解釈できる。これが本発明発想の原点でありそれを具体化するのが課題である。
【0012】
なお、前記特許文献1では、耐震壁構造を取り外しと取り付けが構造物建築後に可能であるものの、実際は、躯体を露出させて重機を使用しなければ取り外しと取り付けは不可能であり、容易には開放性が得られるものではない。
【0013】
同様に特許文献2についても、既設の木造物に耐震補強ができ、窓部材の取り付けで開放性が確保されるものの住居者が住んでいる状態で容易に窓と横架材の交換はできないものである。
【0014】
そこで上記の課題を解決するために、本発明の目的は、常時は固定されているのが日常生活の中で必要に応じて例えば引き戸のように工事を行うことも特殊な工具を使用することもなく居住者が手動で容易に移動させて別の位置に再固定することができるパネル型をした耐震装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
地震時には軸組に緊結されている耐震装置を平時には緊結を解除して移動させ別の位置で再び緊結することが容易かつ確実にできる緊結装置を開発することが本耐震装置発明の要である。
【0016】
緊結装置はパネル内に収められた本体と、鴨居および敷居に収められた受け金物からなる。
【0017】
本体は上下の2本に分かれた円形パイプとパネルの中央部で上下のパイプを接続するボルトとからなる。上下の円形パイプの上下端部には雄ネジが切ってある。
【0018】
受け金物は本体の円形パイプの雄ネジに螺合する雌ネジを内面に切った底板付円筒とこれに結合された角パイプからなり角パイプは鴨居および敷居を貫通して直近上下の横架材に緊結される。
【0019】
本体の上下円形パイプをそれぞれ別に回転させることにより上部円形パイプは上方に、下部円形パイプは下方に移動して先端の雄ネジ部が受け金物の雌ネジに挿入されて固定される。
【0020】
最後に中央部のボルトのナットをバネ座金と共に締め付けることにより上下円形パイプを受け金物により強く圧着させると共に弛緩を防止する。
【0021】
緊結装置の本体と受け金物とにそれぞれセンサを設け、いずれかのセンサが緊結部の開放を検知した場合は音源と光源の少なくとも一つを駆動させてもよい。
【0022】
建築物において耐震装置を移動中に発生する地震に対しては、移動しようとする耐震装置と同じ軸組面内に予備の耐震装置を1枚増設しておき、予備の装置を予め緊結してから他の装置を漸次スライドさせることによりリスクを回避できる。
【0023】
従って、本発明に係る耐震装置は、柱とはりその他の横架材からなる軸組面内において、前記軸組に固定されているが必要に応じて固定を解除して手動でスライドさせ同じ軸組面内の他の位置で固定することができる緊結装置、を有する。
【0024】
また、緊結装置はパネル内に収められた円形パイプを主体とする本体と、鴨居と敷居にそれぞれ収められた円筒型受け金物とからなり、パネルから上下に押し出される本体円形パイプの端部が受け金物内に挿入されてネジで螺合されることにより鴨居と敷居を介してパネルと直近上下の横架材とを一体的に緊結し、また容易に緊結を解除することができる。
【0025】
さらに、耐震装置は耐震性能を有するパネルで構成され、緊結装置によりパネル上縁は鴨居を介して直近上部の横架材に、下縁は敷居を介して直近下部の横架材に結合される(耐震引き戸)。また、制震性能を有するパネルで構成されてもよく(制震引き戸)、パネルは、框と格子とから構成されてもよい(耐震格子戸)。また、パネルの素材は金属又は木材であってもよく、格子の上に障子状中子を設けてもよい(耐震障子)。
【0026】
あるいは、緊結装置において本体のパイプの先端と受け金物の底板の接点とにそれぞれセンサを設け、いずれかのセンサが緊結部の開放を検知した場合は音源と光源の少なくとも一つを駆動させてもよい。
【0027】
一方、緊結装置は、鴨居に対して脱着可能に配置される上部緊結部と敷居に対して脱着可能に配置される下部緊結部とから構成されてもよい。
【0028】
下部緊結部は、直近下部横架材と連結されて上端に開口部を有する下部緊結装置下部と、先端が前記開口部にねじ止め固定可能に構成される内筒部と、内筒部の外周に設けられパネルと連結する外周部と、内筒部と外周部を緊結させるボルト部とからなる下部緊結装置上部で構成される。
【0029】
加えて、緊結装置はパネル内に納められた円形パイプを主体とする本体と、鴨居と敷居にそれぞれ収められた円筒型受け金物とからなり、パネルから上下に押し出される本体円形パイプの端部が受け金物内に挿入されてネジで螺合されることにより鴨居と敷居を介してパネルと直近上下の横架材とを一体的に緊結し、また容易に緊結を解除する。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る耐震装置により、耐震引き戸を活用すれば大開口部に耐震装置を設置することに抵抗感が少なくなり既存建築の耐震補強の配置も容易になる。また、風通しを良くすることができて、省エネ面、健康面でも効果が大きい。
【0031】
従来、筋違い、耐震壁、耐震パネルなど壁面による耐震補強は不向きとされていた数寄屋建築、神社、仏閣等の耐震補強が可能となる。
【0032】
また耐震引き戸、耐震格子戸、耐震障子等は耐震性を持たない普通の引き戸とセットにして、開閉頻度の高い引き戸は普通の引き戸とし、開閉頻度の少ない引き戸を耐震引き戸とすれば南面全面にガラス戸をはめ込む場合や、間仕切り、押入の引き戸、引き違い戸の玄関に耐震装置を設置したり等、今まで考えられなかった位置に耐震装置が設置できることにより平面計画上の自由度が大幅に増加するなど画期的なメリットが多い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0034】
図1は、一般的引き戸に緊結装置6等を取り付ける位置を示す構成図であり、詳細には図1(a)が引き戸2の正面図、図1(b)は図1(a)のAA縦断面図であり、図1(c)は図1(a)のBB縦断面図である。図1(a)に示すように引き戸2の上縁3を鴨居8下端の中央に刻設される溝部5に嵌め込まれ、引き戸2の下縁9には戸車12が回転自在に軸部11で固定され、この戸車12が敷居10のレール13上に摺動可能に搭載される。この引き戸2の素材は、アルミニウム、スチール又は木材が望ましい。
【0035】
引き戸2の両側には緊結装置6の本体を取り付ける。本体は上部の円形パイプ14、下部の円形パイプ4および中間部のボルト16から構成される。上下の円形パイプ14、4は鴨居8および敷居10に収められた受け金物24に接続されてさらに受け金物に結合された角パイプ18で直近の横架材15、17に緊結される。引き戸の高さの中央付近で緊結装置6の操作が行えるように引き戸表面の中央でボルト16に対応する位置に小窓20が設けられる。引き戸2上端中央には警報装置(ブサー21とランプ22)が取り付けられる。
【0036】
緊結装置6の構成について図2を用いて説明する。図2(a)は緊結装置開放時の縦断面図を示し、図2(b)は緊結時の縦断面図を示し、図2(c)は緊結装置の詳細を上半部で示す。図2(d)は図2(c)のAA線、BB線、CC線、DD線、EE線の各横断図面、図2(e)は上下受け金物の蓋37を示す。
【0037】
緊結装置6はパネル内に納められた本体と、鴨居および敷居に収められた受け金物からなる。
【0038】
受け金物は鴨居および敷居内に収められた底板付雌ネジ円筒24とこれに結合された角パイプ18から構成される。
【0039】
本体は先端部に雄ネジが切ってある上下2本の円形パイプ14、4と、前記上部円形パイプ14の下端に結合され下部円形パイプ4の上端に開けられた円孔を通して下方に吊りさげられたボルト16と、小窓20と、パネルの上下端に位置して円形パイプに外接する貫通雌ネジ円筒26と、円形パイプの挫屈防止円筒30と、小窓の上下端にあるパイプの位置固定円筒31と、ボルトの中間部にあるナット38およびバネ座金39で構成される。
【0040】
鴨居8および敷居10の底板付雌ネジ円筒24の底板25と円形パイプ14、4の先端には警報装置用のセンサ(34、36)が取り付けられる。
【0041】
なお、円形パイプ14、4はパネルと鴨居及び敷居の円筒24、26の芯の位置合わせを容易にするためにその先端がテーパ状に形成される。
【0042】
鴨居および敷居側の円筒24はあらかじめ引き戸の設置が予想されるすべての位置に取り付けておく。緊結装置6は、鋼製が望ましい。
【0043】
ここで、緊結装置の作用について、図2(a)、(b)を用いて説明する。
【0044】
図2(a)は、鴨居8および敷居10と引き戸2が開放状態であり、雄ネジ円形パイプ14、4が底板付雌ネジ円筒24に挿入されていない状態である。この場合、引き戸2を移動することが可能である。円筒24には蓋37が取り付けてある。
【0045】
続いて、図2(b)に示すように円形パイプ14、4をそれぞれ別に回転させながら鉛直上向き(4は下向き)に移動することで、円形パイプの雄ネジ部が底板付雌ネジ円筒24に螺合して、円形パイプ14、4の雄ネジ部の先端が底板25に接触する点まで上昇(4は下降)して固定される。ここで円形パイプ14、4の先端が雌ネジ円筒24の底板25に接触することによって、警報装置(ブザー21とランプ22)がその動作を停止する。
【0046】
さらに、上下の円形パイプ14、4を繋ぐボルト16のナット38およびバネ座金39を諦め付けることにより円形パイプ14、4を一体化し、底板付雌ネジ円筒24により強く圧着し、弛緩を防止する。
【0047】
以上の緊結装置の操作はすべでパネルの表面に設けた小窓20を開けて操作する。
【0048】
続いて、センサ回路について図3を参照して示す。パネルをスライドさせた時の緊結作業の操作漏れや何らかの事情で装置が弛緩して耐震性能が落ちた状態になることを防ぐために引き戸2の四隅の各装置に取り付けたセンサ34、36を結んで電気回路が構成される。すなわち、センサ34、36からの入力を2NAND回路73に入力し、2NAND回路73の出力を駆動部75と接続し、駆動部75からブザー21とLED22に接続する。このように接続することで、異常が発生して何処かの端子が遮断された時には警告ブザーをならし警告灯を点灯させる。
【0049】
引き戸を4周の框と格子から構成すれば採光性や通風性のよい引き戸となる。図4は耐震格子戸に於ける格子の組み方の例である。また、耐震引き戸を障子風に構成すると日本風住宅に適用しやすくなる。図5は格子型形状において(a)障子の中子部、(b)はこの中子を図4の格子の上に取り付けることで耐震障子とした全体構成図、(c)は耐震障子の断面図を示す。
【0050】
図6は耐震引き戸40により開口部を耐震補強した建築構造物の平面図である。耐震引き戸をスライドさせることにより様々な開口を設けることができる。41は耐震引き戸の移動範囲を示す。
【0051】
図7も耐震引き戸により開口部を耐震補強した建築構造物の平面図であり、南面から南東にかけて大きなガラス面を設けておいて、そこに普通の障子43と耐震障子42の組み合わせを設置して十分な耐震力を付与している。さらに間仕切り、押入の戸にも耐震引き戸44を普通の引き戸45と併用し、玄関の引き違い戸にも耐震格子戸46と普通の格子戸47が使用できる例を示した。
【実施例2】
【0052】
図8は、一般的引き戸に緊結装置等を取り付ける位置を示す構成図であり、詳細には図8(a)が引き戸2の正面図、図8(b)は図8(a)のAA縦断面図であり、図8(c)は図8(a)のBB縦断面図である。図8(a)に示すように引き戸82の上縁84を鴨居86下端の中央に刻設される溝部88に嵌め込まれ、引き戸82の下縁90には戸車92が回転自在に軸部93で固定され、この戸車92が敷居94のレール96上に摺動可能に搭載される。この引き戸82の素材は、アルミニウム、スチール又は木材が望ましい。
【0053】
引き戸82の上縁84の両側には上部緊結装置98が、下縁90両側には下部緊結装置100を取り付ける。上下緊結装置は連結角パイプ102によって鴨居86及び敷居94を貫通して直近上部横架材104もしくは直近下部横架材106に結合する。緊結装置98、100の操作が行なえるように引き戸82表面に小窓108、110が設けられる。上側の上部小窓108は手のとどくよう上縁84よりも数十センチメートル下部の位置に設ける。引き戸82上端中央には警報装置(ブザー112とランプ114)が取り付けられる。
【0054】
次に上部緊結装置98の構成について、詳細について図9、10を用いて説明する。図9は本発明に係る上部緊結装置98の縦断面図を示す。図9(a)は、上部緊結装置98の開放時の縦断面図を示し、図9(b)は上部緊結装置98の締結開始時の縦断面図を示し、図9(c)は部緊結装置98の締結時の縦断面図を示す。また、図10には、図9(a)の各横断面図を示し、図10(a)にはAA線横断面図、図10(b)にはBB線横断面図、図10(c)にはCC線横断面図、図10(d)にはDD線横断面図、図10(e)にはEE線横断面図を示す。
【0055】
引き戸82の端部と鴨居86の引き戸82の端部に対応する位置に上底付雌ネジ円筒120と、貫通雌ネジ円筒122がそれぞれ取り付けられる。
【0056】
一方、別途引き戸82に内蔵されている雄ネジ円形パイプ124を回転させて円筒122の中を通過させて円筒120に挿入するよう構成される。円形パイプ124はその下端が下部小窓110の位置より下方となる長さに設定されている。円形パイプ124は引き戸82に取り付けられている振れ止めパイプ126の内部を貫通するように配置される。円筒120に挿入した円形パイプ124が地震によって脱落するのを防ぐために脱落防止装置128として内側に雌ネジを切ったパイプを円形パイプ124の外側に取り付け、円形パイプ124を円筒120に挿入後脱落防止装置128を逆回転させて下降させて振れ止めパイプ126に接着させることで脱落を防止する。
【0057】
鴨居86の上底付雌ネジ円筒120の仕切板130と円形パイプ124の先端には警報装置用のセンサ(132、134)を取り付ける。
【0058】
なお、円形パイプ124はパネルと鴨居の円筒120、122の芯の位置合わせを容易にするためにその先端がテーパ状に形成される。
【0059】
鴨居側の円筒120はあらかじめ引き戸の設置が予想されるすべての位置に取り付けておく。上部緊結装置98は、鋼製が望ましい。
【0060】
ここで、上部緊結装置98の作用について、図9(a)、(b)、(c)を用いて説明する。
【0061】
図9(a)は、上部緊結装置98において、鴨居86と引き戸82が開放状態であり、雄ネジ円形パイプ124が上底付雌ネジ円筒120に挿入されていない状態である。この場合、引き戸82を移動することが可能である。ここで、雄ネジ円形パイプ124が、落下しないように雄ネジ円形パイプ124に脱落防止装置128がねじ止め固定されている。一方、雄ネジ円形パイプ124が貫通している振れ止めパイプ126に対して脱落防止装置128が係止することで雄ネジ円形パイプ124の脱落を防いでいる。
【0062】
続いて、図9(b)に示すように雄ネジ円形パイプ124を回転させながら鉛直上向きに移動することで、雄ネジ円形パイプ124が上底付雌ネジ円筒120に螺合して、雄ネジ円形パイプ124の先端が仕切板130に接触する点まで上昇して固定される。ここで、雄ネジ円形パイプ124の先端が仕切板130に接触することによって、警報装置(ブザー112とランプ114)がその動作を停止する。
【0063】
さらに、図9(c)では、脱落防止装置128を回転させて下向きに移動させて振れ止めパイプ126と隣接するように螺設させることで雄ネジ円形パイプ124が貫通雌ネジ円筒122と振れ止めパイプ126との2点で固定される。
【0064】
今度は、下部緊結装置100の詳細について図11乃至13を用いて説明する。図11は下部緊結装置100の縦断面図を示す。図12には、図11の各横断面図を示し、図12(a)にはAA線横断面図、図12(b)にはBB線横断面図、図12(c)にはCC線横断面図、図12(d)にはDD線横断面図、図12(e)にはEE線横断面図、図12(f)にはFF線横断面図、図12(g)にはGG線横断面図、図12(h)にはHH線横断面図、図12(i)にはII線横断面図、図12(j)にはJJ線横断面図、図12(k)にはKK線横断面図、図12(l)にはLL線横断面図を示す。下部緊結装置100は、引き戸82の下端の両側部に設けられる内側に円形の雌ネジをもつ角型のベース140と、敷居94の対応位置に設けられる定着部142の両者の位置が一致するよう配置される。
【0065】
下部緊結装置100は、全体として4つの部分から構成され、図11に示すように戸車用の隙間A1を挟んで、隙間A1より鉛直上部に位置する下部緊結装置上部A2と、敷居94を含み戸車用の隙間A1より下部に位置する下部緊結装置下部A3と、図13に示すようにこれら下部緊結装置上部A2と下部緊結装置下部A3との中心を貫通するボルト部A4とから構成される。
【0066】
下部緊結装置上部A2は、トッププレート144と、吊棚部146と、内筒部156と、ベース140と、ベースプレート150及び縦プレート152とから構成される。その素材は、鋼製が望ましい。
【0067】
下部緊結装置上部A2は、両側を平板からなる縦プレート152と2枚の縦プレート152の間に回動自在に配置される内筒部156から構成され、縦プレート152を介して外周部154に固定される。
【0068】
従プレート152の、鉛直方向最上部に開口部158を備えるトッププレート144が配置され、トッププレート144の下に吊板160で吊られる吊棚部146が配置される。吊棚部146には、その中央に横長開口部162が開口する。一方、縦プレート152の鉛直方向最下部にベースプレート150が底面に設けられ、縦プレート152の内側にベースプレート150と垂直に連結してベース140が縦プレート152と平行して円筒状に設けられる。ベース140の内側には雌ねじが螺刻される。
【0069】
回転筒上段部164は、周の小さな内筒部156と回転筒上段部164の下部に連結される回転筒下段部166とから構成される。内筒部156は、いずれもボルト部A3が貫通できるよう開口されている。回転筒下段部166は、底部が逆テーパに加工され外周に雄ねじが螺刻されてベース140と螺合する。
【0070】
次に下部緊結装置下部A3は、定着部142と、アンカー受168と、連結角パイプ102と、仕切り板130とから構成されて敷居94及び直近下部横架材106に固定される。
【0071】
定着部142は、ベースプレート150とほぼ同口径の開口部を有し、ベースプレート150に対応する鍔部170と、鍔部170の開口部172から鉛直下向き配置する側壁部174と、側壁部174の内側下部に形成されるテーパ部176とを有する。定着部142の下側には定着部142より横幅の短い連結角パイプ102が連結される。定着部142の下段にアンカー受168が配置され、その内部に長穴開口部が設けられる。その下段に仕切り板130が連結角パイプ102内に配設される。連結角パイプ102は、その先が敷居94、直近下部横架材106に連結される。アンカー受168の裏面には警報装置用センサ178が設けられる。
【0072】
ボルト部A4は、図13にその側面図が示される。ボルト部A4には、上端部にプレート状のハンドル180と、ハンドル180より下部に上部ナット182とばね座金184が螺合し、さらにばね座金184より下方に十字型フック186がボルト軸188に固着され、更にその下段に中間部ナット190と中間部座金192が螺合し、最下端にT型アンカー194が固着される。T型アンカー194の上面には警報装置用センサ179が設けられる。
【0073】
続いて、図14〜図18を用いて本発明に係る下部緊結装置100の作用について説明する。図14はボルト188が完全に開放されている本発明に係る引き戸82の開放工程の構成図であり、図15は緊結を開始する緊結第1工程における構成図を示し、図16はボルトを回転させる緊結第2工程の構成図を示し、図17はナットを締付ける緊結第3工程の構成図を示し、図18は、本発明に係るボルトが完全に締結された状態の縦断面図である。
【0074】
まず、開放工程について図14を参照して説明する。開放工程ではボルト部A4ではその最下端であるT型アンカー194の底部が下部緊結装置上部A2の底部であるベースプレート150と同じ位置まで上昇する。ここでは、内筒部156も又その底部であるテーパがベースプレート150と同じ位置まで上昇する。このために、戸車用の隙間A1で下部緊結装置上部A2と下部緊結装置下部A3が分断されるため引き戸2はスライド可能となる。
【0075】
さらに、ボルト部A4の中央に位置する中間部ナット190は、吊棚部146下端まで上昇する。中間部ナット190より上部となる十字型フック186は、吊棚部146上に載ってボルトを吊り下げて保持する。ここで、上部ナット182はハンドル180の下部に位置する。ここで、ハンドル180と十字型フック186とT型アンカー194はいずれも長辺方向が図14の紙面に対して垂直となるように位置づけられる。また、この時点では定着部142は使用されないため、蓋部196によって被覆される。
【0076】
次に緊結第1工程について図15を用いて説明する。まず、定着部142から蓋部196は撤去される。内筒部156が回転して鉛直下側へ移動し、回転筒下段部166の下端が定着部142のテーパ部176と接合するまで回転により下降させて圧着させる。
【0077】
続いてボルト188をハンドル180によりボルト188軸を中心として90°回転させる。この結果、吊棚部146の横長開口部162と十字型フック186の方向が一致する。また、アンカー受168の設けられる横長開口部198の開口方向が一致することなる。従って、ボルト188の鉛直方向の上下移動が可能となる。この状態でボルト188が鉛直下向きに下降する。この結果T型アンカー194は、定着部142より鉛直下部に位置する仕切板130に接する。
【0078】
緊結第2工程の構成図である図16について検討する。ボルト188をハンドル180によりボルト188軸を中心として緊結開始工程より逆に90°回転させる。この場合、吊棚部146の横長開口部162と十字型フック186の開口方向が不一致となる。また、アンカー受168の設けられる横長開口部198の開口方向も不一致となる。
【0079】
続いて緊結第3工程の構成図である図17について検討する。図17に示した状態で上部ナット182を締め付け方向へ回転させる。アンカー受168の下部には切り込み部200が突設されている。そして、この切り込み部の間にT型アンカー194が挟まれて固定される。上部ナット182はトッププレート144に締め付け固定される。この締め付け固定によりトッププレート144とアンカー受168は一体となって緊結され、敷居94内の定着部142を介して敷居94を貫通している連結角パイプ102により、直近下部横架材106に連結される。このため、回転筒下段部166はベース140と定着部142との間に位置するので引き戸82は固定される。
【0080】
同様に中間部ナット190は、内筒部156に締付け固定されることで、定着部142へより強く圧着させることとなり、併せて内筒部156の逆回転が防止できる。
【0081】
敷居内の定着部142を建築物に設ける場合は、建築物の引き戸の設置が予想されるあらゆる位置に取り付けておく。使用しない場合は、定着部142の円形孔には戸車用のレール溝が刻設された蓋196を嵌めておく。
【0082】
以上の緊結装置はすべてパネルの表面に設けた小窓を開けて操作する。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係わる耐震装置は木造住宅の筋違いの考え方に基づいているので規準化しておけば設計に当たって耐震装置の構造計算を必要とせず建築基準法に基づいてその必要量とバランスの良い配置さえ考えれば良いので誰でも簡単に耐震設計を行うことが可能である。
【0084】
既存住宅の耐震補強の普及を困難にしている大きな要因として価格の問題があるが、ここに提案している耐震装置は既存住毛の耐震補強よりもむしろ新築住宅をターゲットにしているので量産効果により低価格化が期待でき既存住宅耐震補強の促進が期待できる。
【0085】
耐震装置を壁から切り離すことにより耐震力を確保した上で省エネ面でも健康面でも望ましい開放的で弾力的な平面構成が可能となる。これは今後の住宅の平面計画ひいては立面計画の上で新しい展開が開ける可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第一の実施例に係る引き戸に緊結装置等を取り付ける位置を示す構成図であり、(a)が引き戸2の正面図、(b)は(a)のAA縦断面図であり、(c)は(a)のBB縦断面図である。
【図2】本発明の第一の実施例に係る緊結装置の縦断面図であり、(a)は、緊結装置の開放時の縦断面図であり、(b)は緊結装置の締結時の縦断面図であり、(c)は緊結装置の締結時の縦断面詳細図であり、(d)は(c)の各横断面図であり、(e)は蓋37の平面図である。
【図3】本発明の第一の実施例に係る警報装置のブロック図である。
【図4】本発明の第一の実施例に係る耐震引き戸の菱形形状引き戸の正面図である。
【図5】本発明の第一の実施例に係る耐震引き戸の障子型形状引き戸の(a)中子部、(b)正面図、(c)断面図である。
【図6】本発明の第一の実施例に係る耐震引き戸により開口部を耐震補強した建築構造物の平面図である。
【図7】本発明の第一の実施例に係る耐震引き戸により開口部を耐震補強した建築構造物の平面図である。
【図8】本発明の第二の実施例に係る引き戸に緊結装置等を取り付ける位置を示す構成図であり、(a)が引き戸82の正面図、(b)は(a)のAA縦断面図であり、(c)は(a)のBB縦断面図である。
【図9】本発明の第二の実施例に係る上部緊結装置の縦断面図であり、(a)は、上部緊結装置98の開放時の縦断面図であり、(b)は上部緊結装置98の締結開始時の縦断面図であり、(c)は上部緊結装置98の締結時の縦断面図である。
【図10】本発明の第二の実施例に係る図9の各横断面図であり、(a)はAA線横断面図、(b)はBB線横断面図、(c)はCC線横断面図、(d)はDD線横断面図、(e)はEE線横断面図である。
【図11】本発明の第二の実施例に係る下部緊結装置100の縦断面図である。
【図12】本発明の第二の実施例に係る図11の各横断面図であり、(a)はAA線横断面図、(b)はBB線横断面図、(c)はCC線横断面図、(d)はDD線横断面図、(e)はEE線横断面図、(f)はFF線横断面図、(g)はGG線横断面図、(h)はHH線横断面図、(i)はII線横断面図、(j)はJJ線横断面図、(k)はKK線横断面図、(l)はLL線横断面図である。
【図13】本発明の第二の実施例に係るボルトの構成図であり、上面図と、裏面図である。
【図14】本発明の第二の実施例に係るボルトが完全に開放されている本発明に係る引き戸82の開放工程の構成図である。
【図15】本発明の第二の実施例に係る緊結を開始する緊結第1工程における構成図である。
【図16】本発明の第二の実施例に係る緊結を開始する緊結第1工程における構成図である。
【図17】本発明の第二の実施例に係るナットを締付ける緊結第3工程の構成図である。
【図18】本発明の第二の実施例に係る本発明に係るボルトが完全に締結された状態の縦断面図である。
【符号の説明】
【0087】
2 引き戸
3 上縁
6 緊結装置
8 鴨居
5 溝部
9 下縁
12 戸車
11 軸部
10 敷居
13 レール
14 上部円形パイプ
4 下部円形パイプ
18 連結角パイプ
15 直近上部横架材
16 ボルト
17 直近下部横架材
20 小窓
21,22 警報装置
24 雌ネジ円筒型受け金物
25 底板
26 貫通雌ネジ円筒
30 挫屈防止円筒
31 位置固定円筒
34、36 センサ
37 蓋部
38 ナット
39 バネ座金
82 引き戸
84 上縁
86 鴨居
88 溝部
90 下縁
92 戸車
94 敷居
96 レール
98 上部緊結装置
100 下部緊結装置
102 連結角パイプ
104 上部横架材
106 下部横架材
108 上部小窓
110 下部小窓
112 ブザー
114 ランプ
120 上底付雌ネジ円筒
122 貫通雌ネジ円筒
124 雄ネジ円形パイプ
126 振れ止めパイプ
128 脱落防止装置
130 仕切板
132 センサ
134 センサ
140 ベース
142 定着部
144 トッププレート
146 吊棚部
148 回転筒
150 ベースプレート
152 縦プレート
154 外周部
156 内筒部
158 開口部
160 吊板
162 横長開口部
164 回転筒上段部
166 回転筒下段部
168 アンカー受
170 鍔部
172 開口部
174 側壁部
176 テーパ部
178、179 警報装置用センサ
180 ハンドル
182 上部ナット
184 ばね座金
186 十字型フック
188 ボルト軸
190 中間部ナット
192 中間部座金
194 T型アンカー
196 蓋部
200 切り込み部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱とはりその他の横架材からなる軸組面内において、
前記軸組に固定されているが必要に応じて固定を解除して手動でスライドさせ同じ軸組面内の他の位置で固定することができる緊結装置、
を有する耐震装置。
【請求項2】
緊結装置はパネル内に収められた円形パイプを主体とする本体と、鴨居と敷居にそれぞれ収められた円筒型受け金物とからなり、パネルから上下に押し出される本体円形パイプの端部が受け金物内に挿入されてネジで螺合されることにより鴨居と敷居を介してパネルと直近上下の横架材とを一体的に緊結し、また容易に緊結を解除することができることを特徴とする請求項1記載の耐震装置。
【請求項3】
緊結装置は、鋼製であることを特徴とする請求項2記載の耐震装置。
【請求項4】
耐震性能を有するパネルで構成され、緊結装置によりパネル上縁は鴨居を介して直近上部の横架材に、下縁は敷居を介して直近下部の横架材に結合されることを特徴とする請求項1記載の耐震装置。
【請求項5】
パネルの素材が金属又は木材であることを特徴とする請求項4に記載の耐震装置。
【請求項6】
制震性能を有するパネルで構成される請求項4に記載の耐震装置。
【請求項7】
パネルは、框と格子とから構成されることを特徴とする請求項4記載の耐震装置。
【請求項8】
パネルは、格子の上に障子状中子を設けることを特徴とする請求項6記載の耐震装置。
【請求項9】
緊結装置において本体のパイプの先端と受け金物の底板の接点とにそれぞれセンサを設け、いずれかのセンサが緊結部の開放を検知した場合は音源と光源の少なくとも一つを駆動させることを特徴とする請求項4記載の耐震装置。
【請求項10】
緊結装置は、柱とはり等の上部横架材及び下部横架材からなる軸組面内において、前記下部横架上に鉛直に立設した複数の柱において各柱上端に柱と柱を結んで固定した桁とで形成されて前記土台上に設けた敷居に対して脱着可能に配置される下部緊結部と、前記上部横架材下に配置される鴨居に対して脱着可能に配置される上部緊結部とを備える壁体とからなり、地震の振動に対しては耐震機能を有するとともに平時は前記壁体を移動可能に構成される請求項1記載の耐震装置。
【請求項11】
下部緊結部は、下部横架材と連結されて上端に開口部を有する下部緊結装置下部と、先端が前記開口部にねじ止め固定可能に構成される内筒部と、内筒部の外周に設けられパネルと連結する外周部と、内筒部と外周部を緊結させるボルト部とから構成されることを特徴とする請求項10に記載の耐震装置。
【請求項12】
パネル内に収められていて、鴨居に対して脱着可能に配置される上部緊結装置と敷居に対して脱着可能に配置される下部緊結装置とからなり、上部緊結装置は鴨居に収められた円筒型受け金物とパネルから上部に押し出される本体円形パイプの端部が前記受け金物とからなり、下部緊結装置は直近下部横架材と連結されて上端に開口部を有する下部緊結装置下部と、先端が前記開口部にねじ止め固定可能に構成される内筒部と、内筒部の外周に設けられパネルと連結する外周部と、内筒部と外周部を緊結させるボルト部とからなる下部緊結装置上部で構成されることを特徴とする緊結装置。
【請求項13】
パネル内に納められた円形パイプを主体とする本体と、鴨居と敷居にそれぞれ収められた円筒型受け金物とからなり、パネルから上下に押し出される本体円形パイプの端部が受け金物内に挿入されてネジで螺合されることにより鴨居と敷居を介してパネルと直近上下の横架材とを一体的に緊結し、また容易に緊結を解除することができることを特徴とする緊結装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−95316(P2008−95316A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275855(P2006−275855)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(501372363)
【Fターム(参考)】