説明

耐食性に優れたパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材及びその製造方法

【課題】 パラジウムめっき用Fe系リードフレーム材の耐食性を改善するために下地めっきとしてCu及びNiの1種又は2種をめっきしているものの耐食性を更に改善したパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 Fe系リードフレーム材の表面にCu及びNiの1種又は2種の4μm以上のめっき層が設けられており、このめっき層が加工率10%以上の冷間圧延されたものであることを特徴とする耐食性に優れたパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐食性に優れたパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材及びその製造方法、詳細には、パラジウムめっきの下地めっきとしてCu及びNiの1種又は2種をめっきした耐食性に優れたパラジウムメッキ用Fe系リードフレーム材及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ICパッケージに使用した場合のリードフレームのアウターリード部の表面にPbはんだをめっきしているが、最近環境上の問題からPbをなくすことが要求されてきた。そこでPbはんだに代わるものとしてPd(パラジウム)が提案され、Cu系、Ni系のリードフレーム材においてはPdめっきしたものに移行しつつある。しかし、Fe系、すなわちFeーNi系、FeーCr系などのリードフレーム材にPdをめっきすると、リードフレーム材のFeーNi合金、FeーCr合金などとPdめっき層とは自然電位の差が大きいために局部電池が形成され、耐食性が劣化するという問題が発生した。そこで、自然電位の電位差を下げるという観点から、FeーNi系のリードフレーム材にNiをめっきした後Pdをめっきし、その後拡散加熱処理を行ってPdとNiを相互拡散させた傾斜材料層を設けたものが本発明者らによって開発され、特願平8─195197号として特許出願されている。しかし、FeーNi系合金とPd−Ni合金との電位差はFeーNi系合金とPdとの電位差より小さいので、耐食性はある程度改善されるもののまだ十分ではなかった。
【0003】また、Cu系、Ni系のリードフレーム材にPdをめっきしたものは耐食性が問題になっていないことから、FeーNi系、FeーCr系のリードフレーム材にPdをめっきする前に下地めっきとしてCuをめっきすることが提案されているが、このCuを下地めっきしたものは、Cuをめっきしていないものより耐食性が改善されているもののまだ十分ではなかった。そこで、Cuを下地めっきしたものが耐食性が十分でない原因について調べたところ、Pdめっき層及び下地めっきのCuめっき層は、ポーラスであるためにPdとFeーNi系合金、FeーCr系合金などとの間で局部電池が形成され、耐食性が劣化することが原因であることが判明した。この対策としてPdを厚くめっきをして孔を低減することも考えられたが、Pdめっきは非常に高価であるために実施することが困難である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、下地めっきとしてCu及びNiの1種又は2種(以下、「Cu及び/又はNi」という。)をめっきしたものにおいても耐食性が優れ、あるいは耐食性が優れているとともにめっき後に打ち抜きによるタイバーカットを行ってもリードフレーム材自体が露出することがないせん断面を得ることができるリードフレーム材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明の耐食性に優れたパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材においては、FeーNi系合金などのFe系リードフレーム材の表面にCu及び/又はNiの4μm以上のめっき層が設けられており、このめっき層が加工率10%以上の冷間圧延あるいは冷間圧延後に400℃以上の温度で焼鈍されたものとしたことである。また、上記目的を達成するため、本発明の耐食性に優れたパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材の製造方法においては、FeーNi系合金などのFe系リードフレーム材の表面にCu及び/又はNiを4.5μm以上めっきした後、加工率10%以上の冷間圧延あるいは冷間圧延後に400℃以上の温度で焼鈍をする製造方法としたことである。
【0006】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態を説明する。先ず、本発明の耐食性に優れたパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材について説明すると、本発明のFe系リードフレーム材は、Niを30〜55%含有しているFeーNi系合金、このFeーNi系合金にNbを2〜7%及びCoを1〜5%含有しているFeーNi─Nb─Co系合金、Crを5〜13%含有しているFeーCr系合金などである。また、本発明のパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材は、表面にCu及び/又はNiを4μm以上設けているが、表面にCu及び/又はNiをめっきするのは、Cu及びNiがFeーNi系合金及びFeーCr系合金に付着し易く、またこれらの合金及びPdと自然電位が近くて局部電池が形成され難いからである。またFe系リードフレーム材はめっき層を4μm以上にしているが、4μmより薄いと耐食性が十分改善されないからである。このめっき層の厚さは好ましくは7.5μm以上であり、上限はコストの点を考慮すると冷間圧延後の厚さが12μm以下が好ましい。
【0007】本発明のパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材は、めっき層が加工率10%以上の冷間圧延をしたものであるが、冷間圧延しているのはCu及びNiめっき層に発生した孔を封孔して局部電池を形成するのを防止するためであり、加工率を10%以上にするのは、10%より少ないと封孔が十分行われないために局部電池の形成を防止することができないからである。上限は、特に限定されないが加工率を高くするとCu及びNiめっき層を厚くめっきする必要があるので、50%以下が好ましい。また、本発明の別の実施の形態のパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材は、めっき層が400℃以上の温度で焼鈍したものであるが、焼鈍しているのは下地めっき層のCu及び/又はNiの歪みを取って伸びを回復させるためであり、その結果として打ち抜き加工によってタイバーカットした場合に生じるせん断面に下地めっき層のCu及び/又はNiを被覆させて耐食性を改善するためである。この焼鈍を400℃以上で行うのは、400℃以下の温度では下地めっき層の歪みを十分取ることができないからである。上限は、コストの点を考慮すると800℃以下が好ましい。
【0008】
【作用】本発明の耐食性に優れたパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材は、加工率10%以上の冷間圧延をしたCu及び/又はNiの4μm以上のめっき層を設けているので、めっき層の孔が封孔されているためにFeーNi系合金、FeーCr系合金などとPdとが局部電池を形成してリードフレーム材を腐食することがない。またその後400℃以上の温度で焼鈍しているものにおいては、下地めっき層のCu及び/又はNiの伸びが回復しているので、タイバーカットのための打ち抜き加工後に生じたせん断面に下地めっき層のCu及び/又はNiを被覆し、耐食性を改善することができる。
【0009】次に、本発明の耐食性に優れたパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材の製造方法について説明すると、Fe系リードフレーム材、Cu及び/又はNiのめっきをすること、加工率10%以上の冷間圧延すること及び400℃以上の温度で焼鈍することについては上記耐食性に優れたパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材のところで述べたとおりである。本発明の耐食性に優れたパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材の製造方法は、表面にCu及び/又はNiを4.5μm以上めっきしているが、4.5μm以上めっきしてすれば加工率10%の冷間圧延によっても耐食性を改善するのに必要な厚さ、すなわち4μm以上のめっき層が得られるからである。ただ、冷間圧延の加工率を10%より高くする場合には、加工率に従ってめっき層も厚くする必要がある。このめっき層の厚さは、好ましくは7.5μm以上であり、上限はコストの点を考慮すると冷間圧延後の厚さが12μm以下が好ましい。
【0010】
【作用】本発明のFe系リードフレーム材の製造方法は、Cu及び/又はNiを4.5μm以上めっきした後、加工率10%以上の冷間圧延をしているので、Cu及びNiめっき層に発生した孔を封孔することができる。その結果としてFeーNi系合金及びFeーCr系合金とPdとが局部電池を形成することによる腐食を防止することができる。また400℃以上の温度で焼鈍するものにおいては、焼鈍することによって下地めっき層の歪みが除去されて伸びが回復される。その結果としてタイバーカットのための打ち抜き加工後をすると、せん断面に下地めっき層のCu及び/又はNiが被覆されてせん断面の耐食性も改善することができる。
【0011】
【実施例】次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。
実施例1下記表1に示した成分組成の材料を溶解後鋳造して鋼塊にし、この鋼塊を1100℃にて熱間鍛造して厚さ20mm、幅50mmの板にした。この板の表面をグラインダーにより脱スケールした後、熱間圧延により厚さ3mmの板にし、その後この板を再度グラインダーにより脱スケールし、冷間圧延により厚さ1mmの板にした。この板を1000℃にて5分間の真空焼鈍と冷間圧延とを繰り返して0.2mmの板とし、同様に真空焼鈍した。
【0012】
【表1】


【0013】この板を切断して30mm×50mmのそれぞれの供試材について6枚ずつ計18枚の試験片を作成し、下記めっき浴を用いてCu、NiあるいはCu及びNiを下記表2に記載したような3種類の厚さにめっきするとともに、4種類の冷間加工率を加えた試料を作成した。この試料をJIS Z 2371に準じた24時間の塩水噴霧試験を行い、その錆の発生率を画像処理法で求め、下記表2に示した結果を得た。なお、CuとNiの両方をめっきしたものは、Cuをめっきした後Niをめっきした。
Niめっき浴及びめっき条件 硫酸ニッケル 240g/l 塩化ニッケル 45g/l ホウ酸 30g/l pH 5.0 温度 50℃ 陽極 銅板 電流密度 5A/dm2 陽極 ニッケル板 Cuめっき浴及びめっき条件 硫酸銅(CuSO4 ・5H2O) 220g/l 硫酸 50g/l 温度 35℃ 電流密度 5A/dm2 陽極 銅板
【0014】
【表2】


【0015】これらの結果より、いずれのめっきをしたものにおいても冷間加工前のめっき厚さが4.5μm以上になると、錆発生量が大幅に低下し、10%以上の冷間圧延をしたものは、錆の発生率が極端に低下していることが分かる。
【0016】実施例2上記実施例1と同じ方法で製造し、切断した試験片に上記めっき浴を用いてめっき時間を変えながらCu、NiあるいはCu及びNiを表3に示したような厚さにめっきし、20%の冷間加工した後600℃で5分間真空焼鈍してリードフレーム材の試料を得た。これらの試料を図1に示したような形状の穴を打ち抜いて試料にした。この試料にJIS Z 2371に準じた24時間の塩水噴霧試験を行い、打ち抜いた穴の部分の錆の発生率を画像処理法で求め、下記表3に示した結果を得た。
【0017】これらの結果より、冷間加工前のめっき厚さが4.5μm以上になると、錆発生量が大幅に低下し、7.5μm以上になると、錆発生量が極端に低下することが分かる。
【0018】
【表3】


【0019】実施例3上記実施例1と同じ方法で製造し、切断した試験片に上記めっき浴を用いて表4に記載したような厚さのCu、NiあるいはCu及びNiをめっきし、表4に記載したような加工率の冷間加工をし、その後600℃で5分間真空焼鈍または焼鈍をせず下記に記載しためっき浴を用いてPdを0.5μmめっきした試料を作成した。この試料を実施例1と同じ塩水噴霧試験を行い、表面の錆の発生率を求めた。その結果を下記表4に示した。
Pdめっきパラジウム(Pd(NH3)2(NO2)2として) 13g/lスルファミン酸アンモニウム 100g/lpH(アンモンニア水で) 8.0温度 27℃電流密度 0.6A/dm2陽極 白金被覆陽極
【0020】
【表4】


【0021】これらの結果より、Pdをめっきしても冷間加工の加工率が5%のものは耐食性が十分でないことが分かった。また焼鈍をしてないものと焼鈍をしているものとは耐食性に殆ど違いがないことが分かった。
【0022】
【発明の効果】本発明は、上記構成にしたことにより、下地めっきとしてCu及び/又はNiをめっきした後加工率10%以上の冷間加工をしたものにおいては耐食性が十分優れており、また冷間加工後に焼鈍をしたものは打ち抜き加工をしてもせん断面に下地めっき層のCu及び/又はNiを被覆させることができるので、せん断面も耐食性を改善することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】せん断面の耐食性を調査するために打ち抜き加工した穴の形状及び大きさを説明するための平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 Fe系リードフレーム材の表面にCu及びNiの1種又は2種の4μm以上のめっき層が設けられており、このめっき層が加工率10%以上の冷間圧延されたものであることを特徴とする耐食性に優れたパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材。
【請求項2】 Fe系リードフレーム材の表面にCu及びNiの1種又は2種の4μm以上のめっき層が設けられており、このめっき層が加工率10%以上の冷間圧延された後、400℃以上の温度で焼鈍されたものであることを特徴とする耐食性に優れたパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材。
【請求項3】 Fe系リードフレーム材の表面にCu及びNiの1種又は2種を4.5μm以上めっきした後、加工率10%以上の冷間圧延をすることを特徴とする耐食性に優れたパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材の製造方法。
【請求項4】 Fe系リードフレーム材の表面にCu及びNiの1種又は2種を4.5μm以上めっきした後、加工率10%以上の冷間圧延をし、その後400℃以上の温度で焼鈍をしたことを特徴とする耐食性に優れたパラジウムめっき用Fe系リードフレーム材の製造方法。

【図1】
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