説明

耐食性に優れるステンレス鋼材およびその製造方法

【課題】安価で、優れた耐食性を有するステンレス鋼材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.05%以下、Cr:12.0〜25.0%、Cu:0.5〜5.0%を含有する組成のステンレス鋼材を80〜280℃で炭酸ガス圧:0.5MPa以上の環境下に浸漬し、表層に防食機能を有する緻密な防食皮膜を形成する。これにより、CO、Clを含み250℃までの高温油井環境下でも耐食性が顕著に向上する。このような鋼材は、高温の厳しい腐食環境下で使用される油井用鋼材として有効である。防食皮膜を形成するステンレス鋼材には、さらにSi:1.0%以下、Mn:0.10〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Ni:0.1〜7.0%、Al:0.05%以下、N:0.08%以下を含有してもよい。また、さらにW、Mo、Nb、V、Ti、Caを含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原油あるいは天然ガスの油井、ガス井用として好適なステンレス鋼材に係り、特に炭酸ガス(CO)、塩素イオン(Cl)などを含む極めて厳しい腐食環境下の油井、ガス井で使用するに好適な、耐食性に優れる油井用ステンレス鋼管およびその製造方法に関する。
【従来の技術】
【0002】
近年に至り、原油価格の高騰や近い将来に予想される石油資源の枯渇化を目前にして、従来はかえりみられなかったような深層油田や、開発が一旦は放棄されていた腐食性の強いサワーガス田等に対する開発が、世界的規模で盛んになっている。このような油田、ガス田は一般に深度が極めて深く、またその雰囲気は高温でかつ、CO、Cl等を含む厳しい腐食環境となっている。したがってこのような油田、ガス田の採掘に使用される油井用鋼管としては高強度で、しかも耐食性を兼ね備えた材質が要求される。また、最近では、寒冷地における油田開発も活発になってきており、高強度に加えて低温靱性が要求されることも多い。
【0003】
従来から、CO2、Cl等を含む環境下の油田、ガス田では、油井用鋼管として、耐CO2腐食性に優れた13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼菅が使用されるのが一般的であった。
しかし、使用環境がさらに厳しくなると、13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼であっても充分な耐食性が得られず、使用に耐えなくなるという問題があった。このため、13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼管の更なる耐食性の向上が要望されていた。
【0004】
このような要望に対し、例えば特許文献1特開平8−120345号公報、特許文献2特開平9−268349号公報、特許文献3特開平10−1755号公報には、13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼の耐食性を改善した、改良型13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼(鋼管)が提案されている。
【特許文献1】特開平8−120345号公報
【特許文献2】特開平9−268349号公報
【特許文献3】特開平10−1755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜特許文献3に記載された改良型13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼管は、170℃を超える腐食環境下では充分な耐食性を有していないという問題があった。
本発明は、上記した従来技術の問題に鑑み、安価で、優れた耐食性、特に優れた耐炭酸ガス(耐CO)腐食性を有するステンレス鋼材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、CO、Cl等を含む170℃以上の過酷な腐食環境下におけるステンレス鋼材の耐食性に及ぼす各種要因について鋭意研究した。その結果、ステンレス鋼材の耐食性をさらに向上させるには、表面に、上記した腐食環境下においても防食機能を有する防食皮膜を被成させることがよいことに想到した。そして、本発明者らの更なる研究により、そのような防食皮膜は、鋼材を、従来より著しく低減したC含有量を有するCr含有鋼とし、さらに0.5〜5.0質量%のCuをCrとともに複合して含有する組成とし、該鋼材を温度:80℃以上で炭酸ガス圧:0.5MPa以上の環境下に浸漬することにより、容易にしかも安価に被成できることを新規に見出した。
【0007】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は、つぎのとおりである。
(1)表層に防食皮膜を有するステンレス鋼材であって、該ステンレス鋼材が、質量%で、C:0.05%以下、Cr:12.0〜25.0%、Cu:0.5〜5.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、前記防食皮膜が、前記ステンレス鋼材を80〜280℃で炭酸ガス圧:0.5MPa以上の環境下に浸漬することにより被成されてなる皮膜であることを特徴とする耐食性に優れるステンレス鋼材。
【0008】
(2)(1)において、前記防食皮膜が、質量%で、Crを20%以上含有するマグネタイトを主成分とする皮膜であることを特徴とするステンレス鋼材。
(3)(1)または(2)において、前記防食皮膜が、200μm以下の厚さを有することを特徴とするステンレス鋼材。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、 前記組成に加えてさらに、質量%で、Si:1.0%以下、Mn:0.10〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Ni:0.1〜7.0%、Al:0.05%以下、N:0.08%以下を含有する組成とすることを特徴とするステンレス鋼材。
【0009】
(5)(4)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、W:0.1〜4.0%、Mo:0.1〜4.0%のうちから選ばれた1種または2種、および/または、Nb:0.30%以下、V:0.30%以下、Ti:0.30%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.010%以下を含有する組成とすることを特徴とするステンレス鋼材。
(6)(1)ないし(5)のいずれかにおいて、前記ステンレス鋼材が、油井用ステンレス鋼管であるステンレス鋼材。
【0010】
(7)ステンレス鋼材に防食皮膜被成処理を施すステンレス鋼材の製造方法であって、前記ステンレス鋼材を、質量%で、C:0.05%以下、Cr:12.0〜25.0%、Cu:0.5〜5.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するステンレス鋼材とし、前記防食皮膜被成処理が、前記ステンレス鋼材を温度:80〜280℃で炭酸ガス圧:0.5MPa以上の環境下に浸漬して、該ステンレス鋼材の表層に防食皮膜を被成する処理であることを特徴とする耐食性に優れるステンレス鋼材の製造方法。
【0011】
(8)(7)において、前記防食皮膜の厚さを200μm以下とすることを特徴とするステンレス鋼材の製造方法。
(9)(7)または(8)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Si:1.0%以下、Mn:0.10〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Ni:0.1〜7.0%、Al:0.05%以下、N:0.08%以下を含有する組成とすることを特徴とするステンレス鋼材の製造方法。
【0012】
(10)(9)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、W:0.1〜4.0%、Mo:0.1〜4.0%のうちから選ばれた1種または2種、および/または、Nb:0.30%以下、V:0.30%以下、Ti:0.30%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.010%以下を含有する組成とすることを特徴とするステンレス鋼材の製造方法。
(11)(7)ないし(10)のいずれかにおいて、前記ステンレス鋼材が、油井用ステンレス鋼管であるステンレス鋼材の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温の厳しい腐食環境下において十分な耐食性を示すステンレス鋼材を、容易にしかも安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明における防食皮膜は、CO、Clを含み250℃までの高温油井環境下でも優れた耐食性、特に優れた耐CO2腐食性を示す皮膜であり、高温の厳しい腐食環境下で使用される油井用鋼管の防食皮膜として十分に適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のステンレス鋼材は、表層に防食皮膜を有する鋼材である。ここでいう「鋼材」には、鋼管、厚板、薄板を含むものとする。また、鋼管には、継目無鋼管、電縫鋼管、UOE鋼管等の溶接鋼管をも含むものとする。
まず、本発明において、防食皮膜を被成するステンレス鋼材の組成限定理由について説明する。以下、質量%は、単に%で記す。
【0015】
C:0.05%以下
Cは、マルテンサイト系ステンレス鋼の強度に関係する重要な元素であるが、Niを含有する場合に、焼戻し時に鋭敏化が起こりやすくする。Ni含有時の鋭敏化を生じさせないために、Cは0.05%以下に限定した。なお、耐食性の観点から、Cは可能なかぎり低減することが望ましいため、好ましくは0.005〜0.03%の範囲である。
【0016】
Cr:12.0〜25.0%
Crは、優れた耐食性、とくに優れた耐炭酸ガス腐食性(耐CO腐食性)、優れた耐CO応力腐食割れ性を保持するために重要な元素であり、また、防食機能を有する防食皮膜の安定な形成に不可欠な元素である。このような効果を得るためには、Crは12.0%以上の含有を必要とする。一方、25.0%を超えて含有しても、形成される防食皮膜の耐食性向上効果が飽和し、含有量に見合う効果を期待できなくなる。このため、Crは12.0〜25.0%に限定した。なお、好ましくは12.5〜18.0%である。
【0017】
Cu:0.5〜5.0%
Cuは、Crと複合して含有すると防食皮膜を強固にして、耐食性向上させる作用を有する元素である。このような効果は、0.5%以上の含有で顕著となる。一方、5.0%を超えて含有すると、CuSが高温で粒界に析出し、熱間加工性が低下する。このため、Cuは0.5〜5.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.0〜3.0%である。
【0018】
上記した成分が基本の成分であるが、基本組成に加えてさらに、Si:1.0%以下、Mn:0.10〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Ni:0.1〜7.0%、Al:0.05%以下、N:0.08%以下を含有する組成としてもよい。また、前記組成に加えてさらに、W:0.1〜4.0%、Mo:0.1〜4.0%のうちから選ばれた1種または2種、および/または、Nb:0.30%以下、V:0.30%以下、Ti:0.30%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.01%以下を含有する組成としてもよい。
【0019】
Si:1.0%以下
Siは、通常の製造過程において脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには、0.1%以上含有することが望ましいが、1.0%を超えて含有すると、耐CO腐食性が低下し、さらに熱間加工性も低下する。このため、Siは1.0%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.1〜0.5%である。
【0020】
Mn:0.10〜2.0%
Mnは、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、マルテンサイト系ステンレス鋼として所望の強度を確保するためには、0.10%以上の含有を必要とする。一方、2.0%を超える含有は、靱性に悪影響を及ぼす。このため、Mnは0.10〜2.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.20〜1.0%である。
【0021】
P:0.05%以下
Pは、熱間加工性を低下させるとともに、耐CO2腐食性、耐CO2応力腐食割れ性、耐孔食性および耐硫化物応力腐食割れ性をともに劣化させる元素であり、本発明ではその含有量は可及的に少ないことが望ましいが、極端な低減は製造コストの高騰を招く。そのため、本発明ではPは、工業的に比較的安価に実施可能でかつ、熱間加工性、耐CO2腐食性、耐CO2応力腐食割れ性、耐孔食性および耐硫化物応力腐食割れ性を低下させない範囲である0.05%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.03%以下である。
【0022】
S:0.005%以下
Sは、パイプ造管過程における熱間加工性を著しく劣化させる元素であり、本発明ではその含有量は可及的に少ないことが望ましいが、極端な低減は製造コストの高騰を招く。そのため、本発明ではSは、通常の工程でのパイプ製造が可能な範囲である0.005%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.003%以下である。
【0023】
Ni:0.1〜7.0%
Niは、保護皮膜を強固にして、耐CO腐食性、耐CO応力腐食割れ性、耐孔食性および耐硫化物応力腐食割れ性を向上させる作用を有する元素である。このような効果は0.1%以上の含有で顕著となる。一方、7.0%を超える含有は、マルテンサイト組織の安定性を低下させるため、強度が低下する。このため、Niは0.1〜7.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、好ましくは2.5〜6.5%である。
【0024】
Al:0.05%以下
Alは、強力な脱酸剤として作用するとともに、Nと結合し結晶粒を微細化する作用をも有する元素である。このような効果を安定して確保するために0.005%以上含有することが望ましいが、0.05%を超える含有は、靭性に悪影響を及ぼす。このため、Alは0.05%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.005〜0.03%である。
【0025】
N:0.08%以下
Nは、耐孔食性を向上させる作用を有する元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.08%を超えて含有すると、Cr窒化物等の種々の窒化物を多量に形成して靭性、耐食性を低下させる。このため、Nは0.08%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.01〜0.06%である。
【0026】
W:0.1〜4.0%、Mo:0.1〜4.0%のうちから選ばれた1種または2種
W、Moはいずれも、耐孔食性を改善する元素であり、必要に応じて選択して単独または複合して含有できる。
Wは、Clによる孔食に対して抵抗性を付与し、耐孔食性を向上させる元素である。このような効果を得るためには、0.1%以上含有することが好ましいが、4.0%を超えて含有しても、効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できなくなり経済的に不利となる。このため、Wは0.1〜4.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは1.0〜2.5%である。
【0027】
Moは、Crと同様に、Clによる孔食に対して抵抗性をを付与し、耐孔食性を向上させる元素である。このような効果を得るためには、0.1%以上含有することが好ましいが、4.0%を超えて含有しても、効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できなくなり経済的に不利となる。このため、Moは0.1〜4.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは1.0〜2.5%である。
【0028】
Nb:0.30%以下、V:0.30%以下、Ti:0.30%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Nb、V、Tiはいずれも、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上含有できる。
Nbは、鋼の強度を増加させるとともに、靱性を改善する作用も有する元素であり、このような効果を得るためには0.01%以上含有することが望ましいが、0.30%を超える含有は、逆に靱性を低下させる。このため、Nbは0.30%以下に限定することが好ましい。
【0029】
Vは、鋼の強度を増加させるとともに、耐応力腐食割れ性を改善する作用を有する元素である。このような効果を得るためには0.01%以上含有することが望ましいが、0.30%を超える含有は、靱性を低下させる。このため、Vは0.30%以下に限定することが好ましい。
Tiは、鋼の強度を増加させるとともに、耐応力腐食割れ性を改善する作用を有する元素である。このような効果を得るためには0.01%以上含有することが望ましいが、0.30%を超える含有は、靱性を低下させる。このため、Tiは0.30%以下に限定することが好ましい。
【0030】
Ca:0.010%以下
Caは、SをCaSとして固定しS系介在物を球状化する作用により、介在物の周囲のマトリックスの格子歪を小さくして、水素のトラップ能を下げる作用を有する元素である。このような効果を得るためには0.0005%以上含有することが望ましいが、0.010%を超える含有は、CaOの増加を招き、耐CO2腐食性、耐孔食性を低下させる。このため、Caは0.010%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.001〜0.005%である。
【0031】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
本発明ステンレス鋼材は、上記した組成を有し、表層に防食皮膜を有する。防食皮膜は、上記した組成を有する鋼材を、温度:80〜280℃で炭酸ガス圧:0.5MPa以上の環境下に浸漬する防食皮膜被成処理を施すことにより被成されてなる皮膜である。皮膜の形成には、鋼材を浸漬する環境の温度が重要である。鋼材を浸漬する環境の温度が80℃未満では、所望の膜厚を有し、所望の防食機能を有する皮膜を容易に形成することができない。一方、環境の温度が280℃を超えて高温となると、生成される腐食生成物の結晶化が促進されて防食機能が低下し、鋼材の耐食性が低下する。このため、鋼材を浸漬する環境の温度を80〜280℃に限定した。なお、好ましくは100℃〜250℃である。
【0032】
また、鋼材を浸漬する環境の炭酸ガス圧が、0.5MPa未満では、所望の防食機能を有する皮膜を安定して形成することができない。このため、本発明では、鋼材を浸漬する環境の炭酸ガス圧を0.5MPa以上に限定した。なお、好ましくは1.0〜50MPaである。
被成される防食皮膜の膜厚は、0.5μm以上とすることが好ましい。皮膜の膜厚が0.5μm未満では、所望の防食機能を発揮できない。一方、200μmを超えて厚くなると、皮膜の剥離性が増大する。このため、防食皮膜の膜厚は、0.5μm以上200μm以下とすることが好ましい。防食皮膜の膜厚の調整は、鋼材の浸漬時間、環境の温度、あるいは炭酸ガス分圧の制御によって可能となる。
【0033】
このようにして形成される防食皮膜は、現在までのところ、その生成機構、構成等の詳細については解明されていないが、比較的薄く緻密な膜であり、Feの一部をCrで置換した、皮膜全量に対する質量%で、Crを20%以上含有するマグネタイトを主成分とする皮膜である。鋼材を浸漬する環境の温度が低いほど、皮膜中で非晶質である比率が増加する。また、皮膜が非晶質となることにより、優れた防食機能を付与されることになる。
【0034】
つぎに、本発明のステンレス鋼材の製造方法について説明する。
表層に防食皮膜を被成するステンレス鋼材は、上記した組成を有すること以外は、その製造方法を含めて、とくに限定する必要はない。上記した組成を有する溶鋼を、常用の溶製法を利用して溶製し、常用の鋳造法、熱間加工法、等を利用し、鋼管(継目無鋼管、溶接鋼管)、鋼板(厚板、薄板)等とされたステンレス鋼材がいずれも利用可能である。
【0035】
本発明では、鋼材に、防食皮膜被成処理を施し、表層に防食皮膜を被成する。
本発明では、防食皮膜被成処理は、上記した組成を有する鋼材を、温度:80〜280℃で炭酸ガス圧:0.5MPa以上の環境下に浸漬する処理とする。これにより、所望の膜厚を有し、所望の防食機能を有する皮膜を比較的短時間で形成することができ、CO、Clを含み230℃までの高温油井環境のような、厳しい腐食環境下に晒された場合でも、鋼材の腐食速度を0.1mm/y以下に抑制し、耐食性、特に耐CO腐食性に優れた鋼材とすることができる。
【実施例】
【0036】
表1に示す組成を有するステンレス継目無鋼管を、出発素材とした。
これら出発素材を、表2に示す条件の環境に浸漬し、表層に皮膜を形成したステンレス継目無鋼管とした。
得られたステンレス継目無鋼管から、腐食試験片を採取し、腐食試験を実施し、耐食性を評価した。
【0037】
腐食試験は、オートクレーブ中に保持された試験液:5%NaCl水溶液(液温:230℃、30気圧のCO2ガス雰囲気)に腐食試験片を浸漬し、浸漬期間を2週間として実施した。腐食試験後の試験片重量を測定し、腐食試験による試験片の重量減を求め、腐食速度を算出した。また、腐食試験後の試験片表面について10倍のルーぺ観察を行い、孔食発生の有無を調査した。得られた腐食速度および孔食発生の有無で、耐食性(耐CO2腐食性)を評価した。
【0038】
得られた結果を表2に併記して示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
本発明例はいずれも、CO、Cl等を含む230℃以上の過酷な腐食環境においても、優れた耐食性を示した。また、本発明例では、このような防食機能を有する皮膜を比較的短時間で容易にしかも安価に形成できる。一方、本発明の範囲を外れる比較例では、耐食性が低下している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層に防食皮膜を有するステンレス鋼材であって、該ステンレス鋼材が、質量%で、
C:0.05%以下、 Cr:12.0〜25.0%、
Cu:0.5〜5.0%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、前記防食皮膜が、前記ステンレス鋼材を80〜280℃で炭酸ガス圧:0.5MPa以上の環境下に浸漬することにより被成されてなる皮膜であることを特徴とする耐食性に優れる油井用ステンレス鋼材。
【請求項2】
前記防食皮膜が、Crを20%以上含有するマグネタイトを主成分とする皮膜であることを特徴とする請求項1に記載の油井用ステンレス鋼材。
【請求項3】
前記防食皮膜が、200μm以下の厚さを有することを特徴とする請求項1または2に記載の油井用ステンレス鋼材。
【請求項4】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Si:1.0%以下、Mn:0.10〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Ni:0.1〜7.0%、Al:0.05%以下、N:0.08%以下を含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の油井用ステンレス鋼材。
【請求項5】
前記組成に加えてさらに、質量%で、W:0.1〜4.0%、Mo:0.1〜4.0%のうちから選ばれた1種または2種、および/または、Nb:0.30%以下、V:0.30%以下、Ti:0.30%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.010%以下を含有する組成とすることを特徴とする請求項4に記載の油井用ステンレス鋼材。
【請求項6】
ステンレス鋼材に防食皮膜被成処理を施す油井用ステンレス鋼材の製造方法であって、前記ステンレス鋼材を、
質量%で、
C:0.25%以下、 Cr:12.0〜25.0%、
Cu:0.5〜5.0%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するステンレス鋼材とし、前記防食皮膜被成処理が、前記ステンレス鋼材を温度:80〜280℃で炭酸ガス圧:0.5MPa以上の環境下に浸漬して、該ステンレス鋼材の表層に防食皮膜を被成する処理であることを特徴とする耐食性に優れる油井用ステンレス鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記防食皮膜の厚さを200μm以下とすることを特徴とする請求項6に記載の油井用ステンレス鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Si:1.0%以下、Mn:0.10〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Ni:0.1〜7.0%、Al:0.05%以下、N:0.08%以下、を含有する組成とすることを特徴とする請求項6または7に記載の油井用ステンレス鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記組成に加えてさらに、質量%で、W:0.1〜4.0%、Mo:0.1〜4.0%のうちから選ばれた1種または2種、および/または、Nb:0.30%以下、V:0.30%以下、Ti:0.30%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.010%以下を含有する組成とすることを特徴とする請求項8に記載の油井用ステンレス鋼材の製造方法。