説明

耐食性評価方法および耐食性評価装置

【課題】
金属素材表面に設けられた被膜の耐食性を簡易かつ迅速に評価する方法を提供する。
【解決手段】
金属素材表面に設けられた被膜の耐食性を評価する方法であって、被膜部と、地金が露出する露出部とにより表面が構成されてなる金属素材評価物を、酸素含有雰囲気下、前記被膜部および露出部のそれぞれ一部のみが浸漬するように耐食性評価液中に保持し、前記耐食性評価液に浸漬した被膜部と露出部とを有する面を耐食性評価部として観察することを特徴とする金属素材表面に設けられた被膜の耐食性評価方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性評価方法および耐食性評価装置に関し、さらに詳しくは、めっき被膜や塗膜等の金属素材表面に設けられた表面被膜の耐食性を評価する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のディスクブレーキ装置としては、いわゆる、フローティング・キャリパ式のディスクブレーキ装置が知られている。このタイプのブレーキ装置は、通常、構成部材として、車輪と一体回転する円盤状のロータと、このロータを挟んで対向配置される一対の摩擦パッドと、該摩擦パッドをロータに押し付けるためのピストンを内蔵するキャリパボディと、車体側に取り付けられると共にキャリパボディをロータの軸方向に摺動可能に支持するサポートとを有している。
【0003】
そして、上記キャリパボディは、上記ロータの上を跨ぐブリッジ部と、該ブリッジ部の一端側に装備されて上記ピストンを進退可能に収容したシリンダ部と、上記ブリッジ部の他端側に装備されて他方の摩擦パッドの背面を押えるキャリパ爪とを有している。
【0004】
上記ディスクブレーキ装置を構成するキャリパボディやサポートは、通常球状黒鉛鋳鉄(FCD450相当材)からなり、その表面には亜鉛めっきおよび三価クロムによるクロメート処理が施され耐食性が確保されている。
【0005】
表面にめっき膜や塗膜といった鉄系素材表面に設けられる被膜の耐食性を評価する方法としては、非特許文献1に記載された方法が知られている。
【0006】
非特許文献1に記載された方法は、試験片表面の被膜に、所定形状の引っかききずを形成し、所定濃度の塩水を所定時間噴霧した後に耐食性を評価するものであり、引っかききずの形状としては、例えば、直線状の引っかききずを交差させたもの(クロスカット)等が知られている。
【0007】
非特許文献1に記載の方法は、上記クロスカット等の引っかききずを表面に形成することにより、素地金属の腐食を促進させるものであるが、測定時間が例えば240時間と長時間に及ぶものであるため、簡便、迅速な評価方法として適当でないという課題を有していた。
【非特許文献1】JISハンドブック2000年版、鉄鋼I、238頁〜244頁、「塩水噴霧試験方法 Z 2371」、財団法人日本規格協会編
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情のもとで、金属素材表面に設けられた被膜の耐食性を簡易かつ迅速に評価する方法を提供することを第1の目的とするものであり、上記方法を実施し得る耐食性評価装置を提供することを第2の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、被膜部と、地金が露出する露出部とにより表面が構成されてなる金属素材評価物を、酸素含有雰囲気下、被膜部および露出部のそれぞれ一部のみが浸漬するように耐食性評価液中に保持し、耐食性評価液に浸漬した被膜部と露出部とを有する面を耐食性評価部として観察する方法により上記第1の目的を達成し得ることを見出した。また、被膜部と、地金が露出する露出部とにより表面が構成されてなる金属素材評価物および耐食性評価液とを収容し得る容器と、金属素材評価物の被膜部と露出部のそれぞれ一部のみが耐食性評価液に浸漬し得るように金属素材評価物の位置および角度を調整し得る保持具と、上記浸漬した部分を耐食性評価部として観察する観察手段と、該観察手段と電気的に接続する計測手段とを含む装置により上記第2の目的を達成し得ること見出した。本発明は、これらの知見に基いて完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)金属素材表面に設けられた被膜の耐食性を評価する方法であって、
被膜部と、地金が露出する露出部とにより表面が構成されてなる金属素材評価物を、
酸素含有雰囲気下、前記被膜部および露出部のそれぞれ一部のみが浸漬するように耐食性評価液中に保持し、
前記耐食性評価液に浸漬した被膜部と露出部とを有する面を耐食性評価部として観察する
ことを特徴とする耐食性評価方法。
(2)前記被膜部が、めっきまたは塗装により被膜を形成してなるものである上記(1)に記載の耐食性評価方法、
(3)前記酸素含有雰囲気が、大気雰囲気である上記(1)または(2)に記載の耐食性評価方法、
(4)前記耐食性評価液が、塩化ナトリウム含有水溶液である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の耐食性評価方法、
(5)前記耐食性評価部が、平面状で、表面研磨されたものである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の耐食性評価方法、
(6)前記金属素材評価物を、被膜部および露出部を有する面が表側になるように樹脂中に埋め込んだ状態で耐食性評価液に浸漬し、保持する上記(1)〜(5)のいずれかに記載の耐食性評価方法、
(7) 前記耐食性評価部の面積に対する、赤錆が発生している部分の面積または赤錆が発生していない部分の面積の割合に基づいて耐食性を評価する上記(1)〜(6)のいずれかに記載の耐食性評価方法、および
(8)金属素材表面に設けられた被膜の耐食性を評価する装置であって、
被膜部と、地金が露出する露出部とにより表面が構成されてなる金属素材評価物および耐食性評価液を収容し得る容器と、
前記金属素材評価物の被膜部と露出部のそれぞれ一部のみが前記耐食性評価液に浸漬し得るように金属素材評価物の位置および角度を調整し得る保持具と、
前記浸漬した部分を耐食性評価部として観察する観察手段と、
前記観察手段と電気的に接続する計測手段とを
含むことを特徴とする耐食性評価装置、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被膜部と、地金が露出する露出部により表面が構成されてなる金属素材評価物を、酸素含有雰囲気下、被膜部および露出部のそれぞれ一部のみが浸漬するように耐食性評価液中に保持し、雰囲気酸素との接触性を確保しつつ耐食性評価液との接触性を向上させることにより、評価液に浸漬する部分(耐食性評価部)の腐食を促進して、金属素材表面に設けられた被膜の耐食性を簡易かつ迅速に評価する方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記方法を実施し得る耐食性評価装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
先ず、本発明の金属素材表面に設けられた被膜の耐食性評価方法について説明する。
本発明の方法は、被膜部と、地金が露出する露出部により表面が構成されてなる金属素材評価物を、酸素含有雰囲気下、被膜部および露出部のそれぞれ一部のみが浸漬するように耐食性評価液中に保持し、前記耐食性評価液に浸漬した被膜部と露出部とを有する面を耐食性評価部として観察することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の方法において、金属素材評価物の表面は、被膜部と、地金が露出する露出部とにより構成されている。
【0014】
金属素材評価物の露出部を構成する地金は、対応する金属素材の地金と同種のものであり、鉄系材料からなるものが好ましい。ここで鉄系材料とは、鉄そのものまたは鉄を主成分とする鉄合金を意味し、鉄合金としては、鉄とともに、炭素、ケイ素、マグネシウム、セリウム、ニッケル、クロム、モリブデン、銅等を含有するものを挙げることができる。上記鉄合金として、具体的には、鋼や鋳鉄等を挙げることができ、鋼としては、冷間圧延鋼、ステンレス鋼等を挙げることができ、鋳鉄としては、ねずみ鋳鉄、白鋳鉄、まだら鋳鉄、ダグタイル鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、可鍛鋳鉄、合金鋳鉄等を挙げることができる。
【0015】
金属素材評価物表面において、被膜部を構成する被膜は、対応する金属素材の表面被膜と同種のものであり、防食性を考慮して、亜鉛、亜鉛合金、クロム系顔料、モリブデン系顔料や、各種有機系塗料により形成してなるものが好ましく、上記亜鉛合金としては、亜鉛−アルミニウム合金、亜鉛−マグネシウム合金、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金を挙げることができる。
【0016】
上記被膜部は、めっきまたは塗装により被膜を形成してなるものが好ましく、塗装方法としては、スプレー法の他、静電塗装法や流動浸漬法といった粉体塗装法を挙げることができる。
【0017】
被膜の膜厚は、1〜200μmであることが好ましく、5〜100μmであることがより好ましく、10〜50μmであることがさらに好ましい。
【0018】
本発明の方法において、被膜部と露出部の両者により表面が構成されてなる金属素材評価物を得る方法としては、予め所定サイズに切り出した金属片において地金表面の一部にのみ上述する方法により被膜部を形成し、残余の部分を露出部とすることにより金属素材評価物を得る方法や、金属素材表面全体に上述する方法により被膜を形成したのち、これに切断、割断等の処理を施して所定サイズの金属片を切り出し、その後、上記金属片の切断(割断)面に研削、研磨等の処理を施すことにより、被膜部と露出部により表面が構成されてなる金属素材評価物を得る方法を挙げることができる。例えば、図1(a)に示すように、α面およびβ面を含む表面全体に所望の方法により被膜を形成した金属素材を、適当な部位で切断して金属片を切り出し、この金属片の切断面に研磨処理を施すことにより、図1(b)に示すように、α面およびβ面等の被膜面と、中央部全体に地金が露出する切断・研磨面2とを有する金属素材評価物1を得ることができる。
【0019】
金属素材評価物は、通常、耐食性評価を容易にするために、耐食性を評価する面が平面状であるものが好ましく、観察および測定時における取り扱い性を考慮すると平板状であるものがより好ましい。金属素材評価物が平板状である場合、縦5〜10mm、横10〜30mm、厚さ2〜5mm程度の大きさであることが好ましい。
【0020】
本発明の方法においては、上記被膜部と露出部により表面が構成されてなる金属素材評価物を、酸素含有雰囲気下、被膜部および露出部のそれぞれ一部のみが浸漬するように耐食性評価液中に保持する。
酸素含有雰囲気下としては、大気雰囲気が好ましい。
【0021】
耐食性評価液としては、塩化ナトリウム含有水溶液が好ましく、塩化ナトリウム含有水溶液としては、塩化ナトリウムのみ、または塩化ナトリウムおよび酢酸を含む水溶液を挙げることができる。
【0022】
塩化ナトリウム含有水溶液における塩化ナトリウムの濃度は、1.0〜10質量%が好ましく、3.0〜6.0質量%がより好ましく、4.5〜5.5質量%がさらに好ましい。
【0023】
本発明の方法においては、耐食性評価液に浸漬した被膜部と露出部とを有する面を耐食性評価部とする。
【0024】
耐食性評価部は、観察、測定を行いやすいように平面状であることが好ましく、また、測定試料間における表面状態を均一にするために、表面研磨されたものであることが好ましい。また、耐食性評価部は、中央に露出部、外縁に被膜部を有するものが好ましい。このような耐食性評価部としては、例えば、図1(b)に模式的に示すような、中央部全体に露出部、外縁に被膜部を形成した平面状の切断・研磨面2を耐食性評価液に浸漬したときの、その浸漬部分を挙げることができる。
【0025】
耐食性評価部の面積は、10〜200mmであることが好ましく、10〜100mmであることがより好ましく、25〜50mmであることがさらに好ましい。
【0026】
耐食性評価部における被膜部と露出部の面積比は、被膜部の面積/露出部の面積が、1/10000〜1/25であることが好ましく、1/10000〜1/500であることがより好ましく、1/5000〜1/1000であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明の方法においては、上記金属素材評価物を、被膜部および露出部を有する面が表側になるように樹脂中に埋め込んだ状態で耐食性評価液に浸漬し、保持することが好ましい。
【0028】
本態様の好ましい例について、図面を用いて説明する。
【0029】
図2は、図1に模式的に示す、中央に露出部、外縁に被膜部が形成されてなる平面状の切断・研磨面2を有する金属素材評価物1を、面2が表側になるように樹脂3中に埋め込んだ評価用試験片4を示すものであり、図2(a)は評価用試験片4の斜視図、図2(b)は評価用試験片4の断面図を示している。
【0030】
図2において、評価用試験片4は円柱形状を有しているが、四角柱状等の他形状であってもよい。
【0031】
図2に示すように、上記面2が露出する評価用試験片4の主表面は、評価用試験片4が円柱形状を有する場合、直径50mm以下の円形状であることが好ましく、また、評価用試験片4が四角柱状である場合、縦横ともに50mm以下の四角形状であることが好ましい。また、評価用試験片4の高さ(厚み)は、10〜40mmであることが好ましい。
【0032】
樹脂3としては、例えば、組織検査用埋込樹脂として用いられる、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができる。
【0033】
評価用試験片4を作製する方法としては、例えば、溶融状態にある樹脂3に対して、所望のサイズに切り出した金属素材評価物1を、面2が表側になるように埋め込んだ後、型内で冷却、固化して所定の形状に成形し、次いで、上記面2を含む主表面を研磨処理する方法を挙げることができる。
【0034】
上記評価用試験片4の作製時において、金属素材評価物1の被膜が研磨処理によってダレないように、図2(a)に示すように、縁ダレ防止部5を、金属素材評価物1に近接して設けることが好ましい。
【0035】
縁ダレ防止部5としては、例えば、地金と同等の組成からなる薄板もしくは線状金属片等からなるものを挙げることができる。
【0036】
次いで、評価用試験片4を、適当な容器内で耐食性評価液に浸漬する。
【0037】
評価用試験片4が図2に示すように円柱状である場合、この評価用試験片4を収容する容器としては、図3に示すように、評価用試験片4の主表面直径と同じ長さの内径を有する円筒形状容器7や、縦および横の長さが評価用試験片4の主表面直径と同じ長さである角柱状の容器を挙げることができ、このような容器を用いることにより、評価用試験片4を容器内に固定して、その移動を防止することが可能になる。
【0038】
また、容器の高さを評価用試験片4の高さ(厚み)よりも十分に高いものとすることにより、金属素材評価物1の切断・研磨面2を評価液に浸漬することが可能になる。
【0039】
さらに、図2(a)に示す評価用試験片4のように、複数の金属素材評価物を樹脂中に埋め込んで耐食性評価液に浸漬することにより、より多くのサンプルの耐食性を同時に測定することが可能となるため、測定時間をより短縮化できるばかりか、測定時におけるサンプルの取り扱いが容易になり、各サンプル間における測定誤差を低減することも可能になる。
【0040】
また、金属素材評価物1において面2の一部のみを耐食性評価液に浸漬するためには、図3に示すように、角度調整治具8を用いることが好ましい。図3に示すように、容器7の底面が水平面と一定の角度を形成するように容器7の下部に角度調整治具8を据えることにより、容器7内に収容された金属素材評価物1において面2の一部のみを耐食性評価液6に浸漬することが可能になる。金属素材評価物1は、露出面である面2と評価液の液面が5°〜45°の角度を形成するように浸漬することが好ましく、5°〜30°の角度を形成するように浸漬することがより好ましく、10°〜20°の角度を形成するように浸漬することがさらに好ましい。このように、評価用試験片4において、露出部および被膜部を有する面2が表側になるように金属素材評価物1を埋め込み、上記面2と評価液とが所定の角度を形成するように位置固定することにより、後述するように、耐食性評価部を容易に観察することが可能になる。上記角度は、角度調整治具の厚みを変更することにより、任意に変更することができる。
【0041】
図3に示す態様においては、樹脂3を用いた評価用試験片4、評価用試験片4が内部で移動しないように固定し得る容器7および角度調整治具8により、露出部および被膜部を有する面2の一部のみが耐食性評価液6に浸漬し得るようにその位置および角度を調整して、これを保持しているが、例えば、先端部の位置および角度を任意に調整し得るアームの先端にクリップを取り付けた保持具により金属素材評価物1を把持し、上記先端部の位置及び角度を調整することにより、被膜部および露出部を有する面の一部のみを耐食性評価液に浸漬することもできる。
浸漬時間は、3〜4時間であることが好適である。
【0042】
本発明の方法においては、金属素材評価物を、その被膜部と露出部の一部のみが浸漬するように耐食性評価液中に保持することにより、耐食性評価液に浸漬する部分(耐食性評価部)と該耐食性評価部が酸素雰囲気に晒される部分(ドライ部分)とを形成し、ドライ部分近傍から耐食性評価部の腐食を促進している。すなわち、本発明の方法においては、ドライ部分により雰囲気酸素との接触性を確保し、金属素材評価物を評価液中に完全に浸漬する場合よりも酸素との接触量を増加させることにより、耐食性評価部における腐食の促進を可能ならしめている。また、耐食性評価部を耐食性評価液に浸漬することにより、噴霧等する場合よりも評価液との接触密度を増加させ、腐食の促進を可能ならしめている。
【0043】
本発明の方法においては、耐食性評価部の面積に対する、赤錆が発生している部分の面積または赤錆が発生していない部分の面積の割合に基づいて、耐食性を評価することが好ましい。
【0044】
上記耐食性評価部の面積に対する、赤錆が発生している部分の面積または赤錆が発生していない部分の面積の割合は、例えば、観察手段および計測手段等を有する耐食性評価装置により求めることができる。
【0045】
例えば、図3に示すように、耐食性評価装置として、上記被膜部および露出部を有する金属素材評価物1と耐食性評価液6とを収容する容器7、金属素材評価物1の露出部および被膜部のそれぞれ一部のみが耐食性評価液6に浸漬し得るように金属素材評価物1の位置および角度を調整し得る角度調整治具8等の保持具とともに、さらに、金属素材評価物1の耐食性評価部を観察する手段である顕微鏡9およびモニター11と、モニター11と電気的に接続し、モニター11の画像データに基づき面積値を算出する計測手段12とを有するものを用いることができ、上記装置において、顕微鏡9は、角度調整機能付スタンド13により位置固定されていることが好ましい。
【0046】
上記耐食性評価装置において、モニター11に表示された耐食性評価部の画像データに基づいて、計測手段12により、耐食性評価部の面積、赤錆が発生している部分の面積、赤錆が発生していない部分の面積といった各面積値を算出した上で、得られた各面積値から、耐食性評価部の面積に対する、赤錆が発生している部分の面積割合または赤錆が発生していない部分の面積割合を求めることができる。
【0047】
次に、本発明の耐食性評価装置について説明する。
本発明の耐食性評価装置は、金属素材表面に設けられた被膜の耐食性を評価する装置であって、
被膜部と、地金が露出する露出部とにより表面が構成されてなる金属素材評価物および耐食性評価液を収容し得る容器と、
前記金属素材評価物の被膜部と露出部のそれぞれ一部のみが前記耐食性評価液に浸漬し得るように金属素材評価物の位置および角度を調整し得る保持具と、
前記浸漬した部分を耐食性評価部として観察する観察手段と、
前記観察手段と電気的に接続する計測手段とを
含むことを特徴とするものである。
【0048】
本発明の耐食性評価装置は、本発明の方法を好適に実施し得るものであり、金属素材評価物、耐食性評価液等を収容し得る容器、金属素材評価物の位置および角度を調整し得る保持具、耐食性評価液に浸漬した部分を耐食性評価部として観察する手段および計測手段の好ましい態様およびその使用方法は、上述した説明と同様である。
【実施例】
【0049】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0050】
実施例1
図1(a)に示すように、縦5mm、横20mm、厚さ3mmの鋼板の全面にZn系金属フィラーを含有する犠牲防食塗料により膜厚50μmの被膜を形成した後、図1(b)に示すように、縦5mm、横20mmの切断面2を有する平板状鋼板を5枚切り出して、これを金属素材評価物1とした。
【0051】
図2に示すように、上記5枚の平板状鋼板を、切断面2が表側になるように溶融状態のエポキシ樹脂に並列に埋め込んだ後、型内で冷却、固化し、次いで、一般的な表面研磨法(面出し工程→精研磨工程→琢磨工程→パフ仕上げ工程)により主表面を研磨することにより、主表面の直径が40mm、厚さが30mmの円柱状評価用試験片4を得た。図2に示すように、上記表面研磨時に金属素材評価物1の被膜がダレないよう、評価用試験片4には、各金属素材評価物1に隣接して、鋼材薄片を埋め込んで、縁ダレ防止部5を形成した。
【0052】
図3に示すように、上記評価用試験片4を、上記切断、研磨面2を有する面が上向きになるように内径40mm、高さ50mmの円柱状の容器7に入れ、この容器7の下部に角柱状の角度調整治具8を据えた後、耐食性評価液として5質量%の塩化ナトリウム水溶液を容器中に注入することにより、図4に示すように、面2における露出部および被膜部の一部のみが評価液中に浸漬するように調整した。本実施例においては、金属素材評価物の面2と評価液の液面が15°の角度を形成するように、図3に示すように、容器7の下部に角度調製治具8を据えた。
【0053】
一方、容器7内で移動しないように固定された金属素材評価物1の評価液浸漬部分(耐食性評価部)を観察し得るように、図3に示すように、角度調整機能付スタンド13により顕微鏡9を位置固定し、該顕微鏡9をケーブル10を介してモニター11と電気的に接続した。
【0054】
上記状態で、金属素材評価物1を耐食性評価液6中に保持したところ、図4、図5に示すように、耐食性評価液の液面6a近傍(酸素雰囲気に晒される部分近傍)において、先ず、耐食性評価部14の外縁に形成されたZn被膜部に赤錆が発生し、Zn被膜部全域に赤錆が広がった(図4)後、露出部2の浸漬部分中心に向かって赤錆15が拡大していった(図5)。
【0055】
金属素材評価物1を耐食性評価液6中に3時間保持した後、モニター11に表示された耐食性評価部14の画像データから、モニター11に電気的に接続された計測部12により、耐食性評価部14の面積と、浸漬してから3時間経過後の赤錆13が発生していない部分の面積とを算出し、耐食性評価部の面積に対する赤錆が発生していない部分の面積割合を求めた。結果を表1に示す。
【0056】
比較例1
評価用試験片4を耐食性評価液6中に完全に浸漬した以外は、実施例1と同様にして耐食性を評価したところ、金属素材評価物1の耐食性評価部に錆は発生しなかった。
【0057】
比較例2
縦5mm、横20mm、厚さ3mmの平板状鋼板に、実施例1の表面被膜の形成に用いた犠牲防食塗料を50μmの膜厚になるように塗布し、全表面に表面被膜を形成した。
図6に示すように、上記表面被膜を有する鋼板16上に、長さ50mmの直線状の引っかききずが2本交差するように、全長100mmのクロスカット17を形成した。
次いで、JIS Z 2371に記載の方法に従い、上記表面被膜を有する鋼板16に5質量%の塩化ナトリウム水溶液を240時間連続して噴霧した。
顕微鏡観察により、クロスカット部全長のうち赤錆が発生していない部分の長さを求め、クロスカット部全長に対する赤錆が発生していない部分の長さの割合を求めた。結果を表1に示す。
【0058】
実施例2
表面被膜として、リン酸塩による化成処理を施した厚さ10μmの下地層上に、有機系塗料を厚さが40μmになるように塗布したものを設けた以外は、実施例1と同様にして、耐食性を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
比較例3
評価用試験片4を耐食性評価液6中に完全に浸漬した以外は、実施例2と同様にして耐食性を評価したところ、金属素材評価物1の耐食性評価部に錆は発生しなかった。
【0060】
比較例4
表面被膜として、リン酸塩による化成処理を施した厚さ10μmの下地層上に、有機系塗料を厚さが40μmになるようにスプレー塗布したものを設けた以外は、比較例2と同様にして、耐食性を評価した。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例1および実施例2の結果と比較例1および比較例3の結果とをそれぞれ対比することにより、金属素材評価物を用い、その表面被膜の一部のみを耐食性評価液に浸漬することにより、迅速な評価が可能であることが分かる。
【0063】
また、表1より、実施例1および実施例2の結果と比較例2および比較例4の結果とをそれぞれ対比することにより、本発明の耐食性評価方法による耐食性評価は、従来の塩水噴霧試験方法による耐食性評価結果とよく相関することが分かる。また、比較例2および比較例4においては、測定時間が240時間であるのに対して、実施例1および実施例2においては、3時間で測定が終了することから、本発明の方法が簡便かつ迅速に耐食性を評価し得るものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、金属素材表面に設けられた被膜の耐食性を簡易かつ迅速に評価する方法を提供することができ、また、上記方法を実施し得る耐食性評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明で用いる金属素材評価物の製造例を示す図である。
【図2】本発明で用いる評価用試験片の一例を示す図である。
【図3】本発明の耐食性評価装置の一例を示す図である。
【図4】評価用試験片における、赤錆の発生方向を説明する図である。
【図5】評価用試験片における、赤錆の発生例を説明する図である。
【図6】従来法による評価用試験片を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1 金属素材評価物
2 切断面
3 樹脂
4 評価用試験片
5 縁ダレ防止部
6 耐食性評価液
7 容器
8 角度調製治具
9 顕微鏡
10 ケーブル
11 モニター
12 計測手段
13 角度調整機能付スタンド
14 耐食性評価部
15 赤錆
16 表面被膜を有する鋼板
17 クロスカット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属素材表面に設けられた被膜の耐食性を評価する方法であって、
被膜部と、地金が露出する露出部とにより表面が構成されてなる金属素材評価物を、
酸素含有雰囲気下、前記被膜部および露出部のそれぞれ一部のみが浸漬するように耐食性評価液中に保持し、
前記耐食性評価液に浸漬した被膜部と露出部とを有する面を耐食性評価部として観察する
ことを特徴とする耐食性評価方法。
【請求項2】
前記被膜部が、めっきまたは塗装により被膜を形成してなるものである請求項1に記載の耐食性評価方法。
【請求項3】
前記酸素含有雰囲気が、大気雰囲気である請求項1または請求項2に記載の耐食性評価方法。
【請求項4】
前記耐食性評価液が、塩化ナトリウム含有水溶液である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の耐食性評価方法。
【請求項5】
前記耐食性評価部が、平面状で、表面研磨されたものである請求項1〜請求項4のいずれかに記載の耐食性評価方法。
【請求項6】
前記金属素材評価物を、被膜部および露出部を有する面が表側になるように樹脂中に埋め込んだ状態で耐食性評価液に浸漬し、保持する請求項1〜請求項5のいずれかに記載の耐食性評価方法。
【請求項7】
前記耐食性評価部の面積に対する、赤錆が発生している部分の面積または赤錆が発生していない部分の面積の割合に基づいて耐食性を評価する請求項1〜請求項6のいずれかに記載の耐食性評価方法。
【請求項8】
金属素材表面に設けられた被膜の耐食性を評価する装置であって、
被膜部と、地金が露出する露出部とにより表面が構成されてなる金属素材評価物および耐食性評価液を収容し得る容器と、
前記金属素材評価物の被膜部と露出部のそれぞれ一部のみが前記耐食性評価液に浸漬し得るように金属素材評価物の位置および角度を調整し得る保持具と、
前記浸漬した部分を耐食性評価部として観察する観察手段と、
前記観察手段と電気的に接続する計測手段とを
含むことを特徴とする耐食性評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−14470(P2009−14470A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175842(P2007−175842)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】