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耐食性試験方法および耐食鋼、耐食性タンク
説明

耐食性試験方法および耐食鋼、耐食性タンク

【課題】原油タンクに発生する局部腐食を良く再現できる実験室再現試験方法を提供する。
【解決手段】大気圧下でO2ガス分圧2〜10vol.%、H2Sガス分圧0.1〜20vol.%、残部N2ガスの割合の混合ガスを溶解させた海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液を、25〜60℃の温度に保持し、原油残渣を3〜10mg/cm2の量で表面に塗布した鋼材を前記海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液に浸漬することを特徴とする原油を輸送または貯蔵するタンクの底板に発生する局部腐食の実験室再現試験方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原油を輸送または貯蔵するタンクの底板に発生する局部腐食に係り、これを実験室的に再現する試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原油を輸送または貯蔵するタンク(以下、「原油タンク」という)においては、原油そのものに腐食抑制作用があるため、使用される鋼材に腐食は生じないと考えられていた。ところが、最近、原油タンク底板で鋼材に激しい局部腐食が生じることが明らかになった。この腐食はお椀型の局部腐食の形態であることが特徴である。
【0003】
かかる局部腐食の原因として、(1)過剰な洗浄による原油保護フィルム(原油によって形成される原油タンク内の腐食を抑制する保護的なフィルム)の離脱、(2)原油中の硫化水素および硫化物の高濃度化、(3)防爆用に封入されるイナートガス(O2約5vol%、CO2約13 vol.%、SO2約0.01 vol.%、残りN2ガスを代表組成とするエンジン排ガス)中のO2、CO2、SO2の高濃度化、(4)微生物の関与、などがあげられている。
【0004】
従来の研究では、上記要因を更に掘り下げ、(a)塩化第二鉄の生成による局部的な低pH化、(b)原油保護フィルムの部分的離脱部がアノード反応、原油保護フィルム上での固体Sの還元反応がカソード反応となったマクロ電池形成等が原因となっていることが明らかにされている。しかし、これらの要素を加味しての実際の原油タンクで発生する局部腐食の実験室再現試験方法の確立には至っていない。
【0005】
このような状況下において、原油タンク底板での局部腐食に対し抵抗性を有する鋼材の開発が盛んに行われており、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3において耐食鋼が提案されている。しかし、これらの鋼材の評価はいずれも、実際の原油タンクで発生する局部腐食を実験室で再現した評価によるものではなく、上記実際の原油タンク内での環境因子を組合せた水溶液中への浸漬による単なる腐食減量での評価であるか、実際の原油タンク内に数年間設置する、いわゆる暴露試験によるものであった。
【0006】
このように、実際の原油タンクで発生する局部腐食を実験室で再現する方法は見出されておらず、本発明は係る局部腐食を実験室的に簡便に再現する方法を提供することを目的とする。
【特許文献1】特開2000−17381号公報
【特許文献2】特開2001−214236号公報
【特許文献3】特開2002−173736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実際の原油タンクに発生する局部腐食の再現に寄らない実験室試験による鋼材の評価は、開発鋼材の優劣の誤認につながる可能性がある。また、実際の原油タンクにおける暴露試験は評価に数年を要し、試験も大掛かりになるため経済的負担が大きいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した課題を達成するため、まず、原油の輸送または貯蔵タンク底板の局部腐食に関与する因子の抽出を行い、それらの因子の関連について鋭意検討した。その結果、局部腐食はオイルコートと呼ばれる原油保護皮膜が低pH水の生成、塩素イオンの吸着によって局部的に破れ、破れた部分の地鉄が小面積アノード、周辺のオイルコート部が大面積カソードとなってマクロ電池を形成し、地鉄部が局部腐食を起こすことによって生じることを突きとめた。
【0009】
また、オイルコート上のカソード反応は原油中の硫化水素と酸素が反応して生成した固体Sが、S2-に還元される反応であることを突きとめた。すなわち、原油タンクで発生する孔食を実験室で再現するための環境要件は、塩水、酸素、硫化水素およびオイルコートであることが判明した。このうち塩水、酸素、硫化水素は薬品やガスを用いて実験室的な環境設定は容易である。しかし、オイルコートは保護性を持ちつつかつ局部的に破れる性質を持たせる必要があり、実験室的に環境設定することは困難を極めた。
【0010】
このため、本発明者らは、このオイルコートの本質について鋭意検討した。その結果、オイルコートの本質は原油の重質成分と原油残渣がフィルム状に鋼板表面に貼りついた状態(図2)であることを突きとめた。そこで、オイルコートの設定は実際の原油タンクで生成する残渣を、鋼材表面に塗布することで行った。また、実際の原油タンク底板で発生するお椀型の局部腐食の形状には、直径/深さ比(以下、アスペクト比とよぶ)が約4になるという特徴がある。
【0011】
このことから、塩水、酸素、硫化水素およびオイルコートの量的割合を変え、温度も変化させた種々の実験室水溶液環境で鋼材の腐食試験を鋭意行った。その結果、実際の原油タンク底板で生じるものと類似したアスペクト比が約4の局部腐食を安定的に再現できる条件を見出すことに成功した。
【0012】
(1)すなわち、第一の発明は、大気圧下でO2ガス分圧2〜10vol.%、H2Sガス分圧0.1〜20vol.%、残部N2ガスの割合の混合ガスを溶解させた海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液を、25〜60℃の温度に保持し、原油残渣を3〜10mg/cm2の量で表面に塗布した鋼材を前記海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液に浸漬することを特徴とする原油を輸送または貯蔵するタンクの底板に発生する局部腐食の実験室再現試験方法である。
【0013】
さらに、被試験面の一部に原油残渣が塗布されない部分を人為的に作ること、あるいは、固体Sを人為的に付着させることによって、少ない硫化水素濃度でも同様の局部腐食を再現できることを見出した。
【0014】
(2)すなわち、第二の発明は、大気圧下でO2ガス分圧2〜10vol.%、H2Sガス分圧0.01〜20vol.%、残部N2ガスの割合の混合ガスを溶解させた海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液を、25〜60℃の温度に保持し、原油残渣を3〜10mg/cm2の量で表面に塗布し、さらに表面の一部に前記原油残渣が塗布されない部分を人為的に作った鋼材を、前記海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液に浸漬することを特徴とする原油を輸送または貯蔵するタンクの底板に発生する局部腐食の実験室再現試験方法である。
【0015】
(3)および、第三の発明は、大気圧下でO2ガス分圧2〜10vol.%、H2Sガス分圧0.01〜20vol.%、残部N2ガスの割合の混合ガスを溶解させた海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液を、25〜60℃の温度に保持し、原油残渣を3〜10mg/cm2の量で表面に塗布し、さらに表面の一部に硫黄を5mass%以上混合した原油残渣を塗布した鋼材を前記海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液に浸漬することを特徴とする原油を輸送または貯蔵するタンクの底板に発生する局部腐食の実験室再現試験方法である。
【0016】
(4)また、N2ガスを置き換えた第四の発明は、第一から第三の何れか一つの発明に記載の局部腐食の実験室再現試験方法において、N2ガスに換えて、CO2ガス分圧0〜20vol.%、SO2ガス分圧0〜1vol.%の少なくとも1種のガスを含むことを特徴とする原油を輸送または貯蔵するタンクの底板に発生する局部腐食の実験室再現試験方法である。
【0017】
(5)さらには、第五、第六の発明は、第一から第四の何れか一つの発明の方法で選定された鋼材であり、該鋼材を用いた原油を輸送または貯蔵するタンクである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、原油の輸送または原油の貯蔵タンク底板で発生する局部腐食を実験室で簡便に再現でき、その結果鋼材の耐局部腐食性を簡便に評価でき、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
1.まず、本発明の試験方法に用いる試験条件の限定理由について説明する。
【0020】
(1)試験溶液:海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液
海水には、塩素イオンが吸着したり、塩化第二鉄を形成したりして、オイルコートを局部的に破る作用があり、本発明では所望の役目を果たすには、海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液であることを必要とする。なお、経済性の観点から塩化ナトリウム水溶液の濃度は好ましくは1〜10mass%の範囲、より好ましくは3〜8mass%である。
【0021】
尚、ここでいう海水は、ASTM D1141-98(2003)に規定される人工海水が代表的であるが、海水魚飼育用の人工海水など人為的に作製した海水あるいは、自然海水でもよい。
【0022】
(2)酸素分圧:2〜10vol.%
酸素は、硫化水素と反応して固体Sを生成させるために必要である。本発明では所望の役目を果たすには、酸化力の観点から、2vol.%以上必要とする。一方、10vol.%を超えると腐食形態が局部腐食から全面腐食形態に変化する。このため、酸素分圧は2〜10vol.%の範囲に限定した。なお、アスペクト比がより安定的に約4になるための好ましい酸素分圧は4〜6mass%である。
【0023】
(3)硫化水素分圧:0.1〜20vol.% (請求項1について)
硫化水素は酸素と反応して固体Sを生成させるために必要である。本発明において、試験期間中に十分な固体Sを生成させ、所望の役目を果たすには、0.1vol.%以上必要とする。一方、20vol.%を超えると局部腐食のアスペクト比が4より極端に大きくなる。このため、硫化水素分圧は5〜20vol.%の範囲に限定した。なお、アスペクト比がより安定的に約4になるための好ましい硫化水素分圧は1〜10vol.%である。
【0024】
(4)硫化水素分圧:0.01〜20vol.% (請求項2,3について)
硫化水素は酸素と反応して固体Sを生成させるために必要である。被試験面の一部に原油残渣が塗布されない部分を人為的に作った場合、硫化水素濃度が低くても局部腐食を生じさせることができる。さらに、被試験面の一部に硫黄を混合した原油残渣を塗布した場合、同様の効果を、より短期間に得ることができる。本発明では、所望の役目を果たすには、0.01vol.%以上必要とする。一方、20vol.%を超えると局部腐食のアスペクト比が4より極端に大きくなる。このため、硫化水素分圧は0.01〜20vol.%の範囲に限定した。なお、アスペクト比がより安定的に約4になるための好ましい硫化水素分圧は0.1〜10vol.%である。
【0025】
(5)原油残渣塗布量:3〜10mg/cm2
原油残渣の塗布は、大面積カソード反応の反応サイト形成のために必要である。本発明では所望の役目を果たすには、3mg/cm2以上の塗布を必要とする。3mg/cm2未満では、塗布量の不均一部分が大きくなり、安定した局部腐食が得られないためである。一方、塗布量が10mg/cm2を超えると保護皮膜としての作用が強くなり過ぎて、小面積アノード反応の反応サイトを生じなくなり、局部腐食が起こりにくい。このため、原油残渣塗布量は3〜10mg/cm2の範囲に限定した。なお、アスペクト比がより安定的に約4になるための好ましい原油残渣塗布量は5〜8mg/cm2である。
【0026】
ここで原油残渣とは、原油タンク内に付着あるいは堆積した、粘性の高い黒褐色〜黒色の物質であり、原油中の重質成分を主成分とし、前記重質成分に原油タンク中で生成する鉄さびや固体Sが混入したものである。
【0027】
(6)試験溶液の温度:25〜60℃
海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液の温度は、局部腐食の成長速度に大きな影響を及ぼす因子である。本発明で十分な局部腐食を進行させるためには、25℃以上にする必要がある。25℃未満では、十分な孔食成長速度が得られず、試験期間が非常に長期化する。一方、60℃を超えるとオイルコートの粘性が減少して保護皮膜の作用を弱め、腐食形態が全面腐食に移行する。このため、海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液の温度は25〜60℃の範囲に限定した。なお、アスペクト比がより安定的に約4になるための好ましい温度は40〜50℃である。
【0028】
(7)CO2ガス分圧0〜20vol.%、SO2ガス分圧0〜1vol.%
CO2ガスおよびSO2ガスは、実際の原油タンク空隙部に防爆のために導入されるイナートガスに含まれる成分であり、その存在は、本発明の結果に悪影響を及ぼさない。そのため、それぞれCO2ガス分圧0〜20vol.%、SO2ガス分圧0〜1vol.%の範囲で許容する。
【0029】
2.次に,本発明の試験方法に用いる試験片について説明する。
試験片は端面および裏面の影響を除去するため、特別の目的がない場合は、被試験面のみを残し、端面および裏面を防食性のある塗料やテープでマスキングすることが望ましい。なお、被試験面の大きさは、小さ過ぎると安定したマクロ電池が形成されず、局部腐食が成長しない。そこで、被試験面は、20x20mmを下限とし、50x50mmを標準とするが、鋼材の耐局部腐食性のみならず、局部腐食発生の分布の知見も得たい等の目的がある場合は、大きくすることも可能である。試験の安定性とスペース効率の観点から、被試験面は、20×20mm〜200×200mm程度とすることが望ましい。
【0030】
3.原油残渣の塗布されない部分について
さらに、目的に応じて、被試験面に原油残渣の保護作用の弱い部分を設け、局部腐食を限定した位置で発生させるようにしてもよい。方法の一例としては、マスキングテープを用いて、φ1〜10mm程度の原油残渣が塗布されない部分を1〜数10個作る方法、さらに、φ1〜10mm程度の硫黄を混合した原油残渣を塗布した部分を1〜数10個作る方法がある。もちろん、これらの領域は、必ずしも円形である必要はない。
【0031】
ただし、この原油残渣を塗布しない、あるいは硫黄を混合した原油残渣を塗布する部分の面積は、被試験面の全面積に対して小さい方が明確な局部腐食を形成できるため、好ましくは20%以下、より好ましくは5%以下が良い。
【0032】
また、原油残渣を塗布しない、あるいは硫黄を混合した原油残渣を塗布する部分は、局部腐食の成長速度を観察する場合は、試験片当たり1〜2個、局部腐食の成長する割合を観察する場合は、試験片当たり5個以上作ることが望ましい。原油残渣を塗布しない、あるいは硫黄を混合した原油残渣を塗布する部分の被試験面上の配置は、十分な広がりを持って、満遍なく配置することが望ましく、各点の間隔は、その直径の2倍以上あることが望ましい。
【0033】
被試験面の一部に硫黄を混合した原油残渣を塗布する場合、原油残渣に混合する硫黄の割合は、0〜100mass%まで変化させることができるが、局部腐食形成効果の観点からは、5mass%以上が望ましく、被試験面への密着性の観点からは、好ましくは70mass%以下、より好ましくは50mass%以下である。
【0034】
4.ガス流量について
試験ガスは、試験期間中、溶液中に十分に供給され、常に飽和している必要があり、ガス流量は、試験セルの大きさによって変化させるべきである。また、試験片を試験環境に設置する前に、試験ガスで溶液を飽和させておくことが望ましい。
【0035】
5.試験期間について
試験期間は、28日間を基準とするが、局部腐食の成長速度の知見も得たい等の場合、変化させることも可能である。試験環境の安定性および効率の観点からは、数日〜100日程度が望ましい。
【実施例】
【0036】
市販のYP36級鋼板から、試験片(15mm厚 x 50mm幅 x 50mm長さ)を切出し、図1に示す腐食試験装置で、腐食試験を行った。腐食試験装置は、腐食試験槽2、恒温槽3の二重型の装置を用いた。被試験面以外の端面、裏面をタールエポキシ樹脂にてマスキングし、被試験面に種々の量の原油残渣を塗布した試験片1を、試験液中(試験液6内)へ静置した。
【0037】
なお、図2(a)は本発明の実施例で使用した原油残渣の概要(タンカー原油タンク内の堆積状況)を示す外観写真であり、図2(b)は、原油残渣の堆積した位置を説明する図2(a)の模式図である。
【0038】
使用した試験液6は、人工海水(八洲薬品株式会社製「アクアマリン」)または塩化ナトリウム水溶液を試験母液とし、酸素と硫化水素を所定分圧に調整した混合ガスを、ガス導入口4から導入したものを使用した。混合ガスのバランス調整用の不活性ガスはN2ガスを用いた。なお、5は使用したガスの排出口である。試験液6の温度は、恒温槽3に入れた水7の温度を調整することにより、所定温度に保持した。試験期間は28日間とした。
【0039】
図3には、原油残渣を塗布しない部分を作った試験片1の一例を示す。図中の符号9は原油残渣を塗布した部分を、符号8は原油残渣を塗布しない部分(あるいは硫黄を混合した原油残渣を塗布した部分)を示す。図3(a)の場合は、原油残渣を塗布しない部分8(図中白丸表記部分)の直径はφ2mm、個数は32個で、被試験面に占める割合は、約0.6%である。図3(b)の場合は、原油残渣を塗布しない部分8の直径はφ5.5mm、個数は2個で、被試験面に占める割合は、約1.3%である。さらに、一部の試験片では、この原油残渣のない部分8に、硫黄を混合した原油残渣を乗せた。
【0040】
試験後、試験片表面に生成した腐食生成物を除去し、腐食形態で分類、評価した。全面腐食形態を示すもの、および、局部腐食の深さ0.2mm未満のものでは、アスペクト比の算出において十分な評価ができないため、「局部腐食発生なし」あるいは「腐食発生なし」と評価し、試験条件として不適切とした。
【0041】
局部腐食が発生したものについては、最も深く成長した局部腐食のアスペクト比を算出し、実際の環境で観察されるアスペクト比:4を中心に、それぞれ2倍および1/2倍を上下限としてアスペクト比:2〜8を適切な試験条件と判断した。それらの結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
試験No.1のシリーズは、酸素分圧の影響を示す。試験No.1-1は、酸素分圧が低過ぎるため、局部腐食の成長が見られなかった。また、試験No.1-9では、酸素分圧が高過ぎるため、全面腐食への移行が起こり、アスペクト比が16.4と非常に大きくなった。酸素分圧が本発明範囲内の試験No.1-2〜1-8では、アスペクト比4前後の局部腐食が生じ、実環境の再現ができている。
【0044】
試験No.2のシリーズは、硫化水素分圧の影響を示す。試験No.2-1およびNo.2-4は、硫化水素分圧が低過ぎるため、十分な局部腐食の成長が見られなかった。試験No.2-2およびNo.2-3では、硫化水素分圧が低いにもかかわらず、本発明である原油残渣塗布のない部分、あるいは硫黄を混合した原油残渣を付着させた部分を作ったため、局部腐食が発生した。また、試験No.2-8では、硫化水素分圧が高過ぎるため、全面腐食への移行が起こり、アスペクト比が18.6と非常に大きくなった。本発明範囲内の試験No.2-2、2-3および2-5〜2-7では局部腐食が生じ、実環境の再現ができている。
【0045】
試験No.3のシリーズは、試験溶液の温度の影響を示す。試験No.3-1は、温度が低過ぎるため、局部腐食の成長が見られなかった。また、試験No.3-5は、温度が70℃と高過ぎるため、塗布した原油残渣の剥離が起こり、アスペクト比が大きくなった。本発明範囲内の試験No.3-2〜3-4では局部腐食が生じ、実環境の再現ができている。
【0046】
試験No.4のシリーズは、原油残渣の塗布量の影響を示す。試験No.4-1は、塗布量が少な過ぎるため、アスペクト比が大きくなった。また、試験No.4-6は、塗布量が多過ぎるため、腐食が生じなかった。本発明範囲内の試験No.4-2〜4-5では局部腐食が生じ、実環境の再現ができている。
【0047】
試験No.5のシリーズは、塩化ナトリウム濃度の影響を示す。試験No.5-1は、塩化ナトリウム濃度が0.4mass%と小さいため、局部腐食が生じなかった。本発明範囲内の試験No.5-2〜5-9では局部腐食が生じ、実環境の再現ができている。
【0048】
実施例中の試験No.1-4、1-5、1-6、5-4、5-5および5-6では、試験ガスにCO2ガスおよびSO2ガスの少なくとも一つを混合したものであり、混合していないものと同様に、局部腐食が再現できた。
【0049】
以上のように、本発明範囲例では、局部腐食が発生するとともに、そのアスペクト比が4に近く、実際の環境で発生する局部腐食のアスペクト比と良い一致を示す。本発明範囲内の試験条件で生じた局部腐食の一例を図4に示す。
【0050】
一方、試験条件が本発明範囲例を外れる比較例では、局部腐食の発生が認められないものや全面腐食形態を示すものが多く、局部腐食が発生してもアスペクト比が4から大きく外れていた。本発明範囲外の試験条件で生じた全面腐食の一例を図5に示す。
【0051】
このように、本発明の試験方法は、原油タンク底板で発生する局部腐食を実験室で簡便かつ良い一致をもって再現できる優れた方法である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の局部腐食試験は実験室で簡便に再現できるので、鋼材のみならず各種部品の耐局部腐食性の評価に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】腐食試験装置の概要を示す模式図である。
【図2】原油残渣の概要を示す外観写真である
【図3】原油残渣を塗布しない部分を作った試験面の例である。
【図4】アスペクト比が4に近い局部腐食の一例を示す写真である(試験No.1-3)。
【図5】全面腐食の一例を示す写真である(試験No.2-1)。
【符号の説明】
【0054】
1 試験片
2 腐食試験槽
3 恒温槽
4 ガス導入口
5 ガス排出口
6 試験液
7 水
8 原油残渣を塗布しない部分(あるいは硫黄を混合した原油残渣を塗布した部分)
9 原油残渣を塗布した部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧下でO2ガス分圧2〜10vol.%、H2Sガス分圧0.1〜20vol.%、残部N2ガスの割合の混合ガスを溶解させた海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液を、25〜60℃の温度に保持し、原油残渣を3〜10mg/cm2の量で表面に塗布した鋼材を前記海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液に浸漬することを特徴とする原油を輸送または貯蔵するタンクの底板に発生する局部腐食の実験室再現試験方法。
【請求項2】
大気圧下でO2ガス分圧2〜10vol.%、H2Sガス分圧0.01〜20vol.%、残部N2ガスの割合の混合ガスを溶解させた海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液を、25〜60℃の温度に保持し、原油残渣を3〜10mg/cm2の量で表面に塗布し、さらに表面の一部に前記原油残渣が塗布されない部分を人為的に作った鋼材を、前記海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液に浸漬することを特徴とする原油を輸送または貯蔵するタンクの底板に発生する局部腐食の実験室再現試験方法。
【請求項3】
大気圧下でO2ガス分圧2〜10vol.%、H2Sガス分圧0.01〜20vol.%、残部N2ガスの割合の混合ガスを溶解させた海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液を、25〜60℃の温度に保持し、原油残渣を3〜10mg/cm2の量で表面に塗布し、さらに表面の一部に硫黄を5mass%以上混合した原油残渣を塗布した鋼材を前記海水または1mass%以上の塩化ナトリウム水溶液に浸漬することを特徴とする原油を輸送または貯蔵するタンクの底板に発生する局部腐食の実験室再現試験方法。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか1項に記載の局部腐食の実験室再現試験方法における、N2ガスの一部に換えて、CO2ガス分圧0〜20vol.%、SO2ガス分圧0〜1vol.%の少なくとも1種のガスを含むことを特徴とする原油を輸送または貯蔵するタンクの底板に発生する局部腐食の実験室再現試験方法。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか1項に記載の局部腐食の実験室再現試験方法によって選定された鋼材。
【請求項6】
請求項1ないし4の何れか1項に記載の局部腐食の実験室再現試験方法によって選定された鋼材を用いた原油を輸送または貯蔵するタンク。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−82963(P2008−82963A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265526(P2006−265526)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(591006298)JFEテクノリサーチ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】