説明

耳内挿入型体温計

【課題】体温を正確に測定しうる耳内挿入型体温計を提供する。
【解決手段】外耳道内の異なる2点以上の位置における温度を、屈曲部34内に配置された第1測温部36及び第2測温部37により測定し、当該測定された温度を用いて外気温の影響を受けることがない鼓膜の温度を予測することができ、体温を正確に測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耳内挿入型体温計に関し、長時間連続して装用させる場合に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、体温を長時間連続して測定する体温計には、食道温、鼻腔温などを測定したり、鼓膜を接触式で測定するものなどがあり、これらの体温計では被検者への侵襲が大きい。
【0003】
また、体温を長時間連続して測定する体温計の中には、比較的侵襲の低い直腸温を測定するものもあるが、被検者に不快感を与えたり、衛生管理が煩雑である。従ってこのような体温計では、日常の生活を送る被検者の体温を測定するのには不向きであった。
【0004】
ところで鼓膜は、内頚動脈の温度を反映していることから、人の中核温を測定できる部位として注目されており、耳内の鼓膜温度を検出するための赤外線電子温度計の開発が進んでいる。
【0005】
赤外線電子温度計は、耳内の鼓膜やその周辺から放射される赤外線を赤外線センサにより測定するものであり、非接触により鼓膜の温度を測定することができる。
【0006】
しかしながら赤外線電子温度計は、鼓膜やその周辺から放射される赤外線を測定するため、鼓膜からだけの赤外線を測定することが難しく、温度精度を向上させることができない。また赤外線電子温度計は、長時間連続して測定する場合、常に同じ部位を測定することが難しく、そのため測定の度に異なる部位の温度を測定することになり、正確な概日リズムの測定が難しい。
【0007】
そこで耳内挿入型体温計のなかには、イヤホン型でなり、耳内にプローブを挿入させ、当該プローブの先端に設けられた例えばサーモパイル(熱電対)により耳内の温度を長時間測定するようになされたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
この体温計は、耳内に挿入されるプローブがS字形状に蛇行して伸び、その直径が外耳道の直径とほぼ等しく、当該プローブが外耳道と密着するようになされてものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−111363公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで人の外耳道では、その入口から鼓膜にかけて温度勾配を持っており、外気温が変化することにより、その温度勾配も変化する。
【0011】
しかしながら上述した耳内挿入型体温計は、プローブの先端に設けられたサーモパイルにより外耳道内の温度を測定しているため、外気温の変化に応じて測定される温度が変化してしまい、体温を正確に測定することができないという問題があった。
【0012】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、体温を正確に測定し得る耳内挿入型体温計を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するため本発明においては、外耳道内の異なる2点以上の位置における温度を測定する測温部と、測温部により測定された温度を用いて、鼓膜の温度を予測する鼓膜温度予測部とを設けるようにした。
【0014】
これにより、外耳道内の2点以上の位置における温度を測定し、当該温度を用いて外気温の影響を受けることがない鼓膜の温度を予測することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、外耳道内の2点以上の位置における温度を測定し、当該温度を用いて外気温の影響を受けることがない鼓膜の温度を予測することができ、かくして体温を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】耳の構造(1)を示す略線図である。
【図2】耳の構造(2)を示す略線図である。
【図3】耳内挿入型体温計の構成を示す略線図である。
【図4】検温本体部の構成(1)を示す略線図である。
【図5】検温本体部の構成(2)を示す略線図である。
【図6】土台部の構成を示す略線図である。
【図7】屈曲部の構成を示す略線図である。
【図8】検温本体部の装着時の様子(1)を示す略線図である。
【図9】検温本体部の装着時の様子(2)を示す略線図である。
【図10】耳内挿入型体温計の回路構成を示す略線図である。
【図11】耳内挿入型体温計による耳内温野測定結果を示す略線図である。
【図12】外気温と体温の関係を示す略線図である。
【図13】鼓膜温の予測に用いた耳内挿入型体温計の構成を示す略線図である。
【図14】異なる外気温での測定温度を示す略線図である。
【図15】片対数近似曲線のグラフを示す略線図である。
【図16】鼓膜温度予測処理手順の説明に供するフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面について、温度センサとしてサーミスタを用いた本発明の一実施の形態を詳述する。
【0018】
(1)耳の構造
図1に示すように、人間の耳1において耳介2は、弾性体でなる耳介軟骨3が支柱となって特有の凹凸を形づくり、いろいろな方向からの音波を反射して外耳道4に導く。外耳道4は、音波の通路であり、外耳道入口4Aから鼓膜5へかけて当該外耳道入口4A側の1/3が外耳道軟骨6に覆われており、残りの2/3が側頭骨7の内部にある。
【0019】
外耳道4を通って到達した音波が鼓膜5を振動し、当該振動がツチ骨8、キヌタ骨9及びアブミ骨10でなる耳小骨11を介して前庭12及び蝸牛13に伝達されることにより、蝸牛13から音情報を脳幹に伝達する。
【0020】
外耳道4は、水平断面図である図2に示すように、2つの屈曲部分を有する。ここで、この2つの屈曲部分を、外耳道入口4Aから鼓膜5へかけて順に第1カーブ15及び第2カーブ16と呼ぶ。
【0021】
次に外耳道4の形状及び大きさについて、その平均値を示しながら説明する。外耳道4は、外耳道入口4Aから第1カーブ15までが略円筒形状でなり、その長さが約5.5[mm]、その直径が約7[mm]である。また外耳道4は、第1カーブ15から第2カーブ16までが略円筒形状でなり、その長さが約6.5[mm]、その直径が約5[mm]である。
【0022】
そして外耳道4では、外耳道入口4Aから第1カーブ15にかけて左方向に対して若干前方向へ傾いている。また外耳道4では、第1カーブ15から第2カーブ16にかけて左後方向を向いており、第1カーブ15の屈曲した角度(以下、これを第1カーブ角度と呼ぶ)θ1が約135度である。
【0023】
さらに外耳道4では、第2カーブ16の屈曲した角度(以下、これを第2カーブ角度と呼ぶ)θ2が約130度である。
【0024】
ところで耳1では、心臓から脳へ血液を運ぶための内頚動脈14(図1)が鼓膜5の近傍を通っているため、鼓膜5が当該内頚動脈14の温度である中核温に保持される。
【0025】
一方、外耳道4では、心臓から顔面や頭皮等に血液を運ぶための外頚動脈(図示せず)が外耳道入口4Aから第1カーブ15までの周辺を通っているため、外頚動脈の影響を受けて中核温よりも温度が下がる。従って外耳道4では、外耳道入口4Aから鼓膜5にかけてその温度が高くなるような温度勾配が付く。
【0026】
(2)耳内挿入型体温計の構成
図3に示すように、耳内挿入型体温計20は、検温本体部21と、当該検温本体部21との間で伝送線22を介して検温情報をやり取りする検温情報処理部23とにより構成されている。
【0027】
検温本体部21は、図4及び図5に示すように、土台部31、保持部32、密閉部33、屈曲部34及び導管部35が設けられている。ここで保持部32の長手方向をX軸、当該保持部32の短手方向をY軸、及び当該保持部32の厚さ方向をZ軸と定義する。
【0028】
また図4は検温本体部21の斜視図を示し、図5(A)、図5(B)及び図5(C)はそれぞれ検温本体部21の上面図、正面図、及び屈曲部34の中心線を通る正面断面図を示す。
【0029】
土台部31は、先端が略半球形状をした略円柱形状でなり、その上方に保持部32が止着されている。また土台部31は、図6(A)及びA−A’断面である図6(B)に示すように、下方から所定の高さまで中央に孔部31AがZ軸に沿って設けられている。
【0030】
さらに土台部31は、孔部31Aの先端から、XZ平面に対してZ軸を基準として例えば34度に設定された回転角度θ11だけ回転してなる平面上でかつX軸負方向(又は、Y軸正方向)にZ軸に対して例えば20度に設定された傾斜角度θ12だけ傾けるようにして傾斜孔部31Bが設けられている。
【0031】
保持部32(図4及び図5)は、耳甲介腔部当接面32AにおけるX軸負方向側の所定位置で土台部31に止着されており、当該X軸負方向側がY軸負方向に膨らみ、またX軸正方向にかけて徐々に細くなるように形成されている。
【0032】
また保持部32は、X軸負方向側がZ軸方向に厚く、X軸正方向にかけて徐々に薄くなるように形成されている。
【0033】
この保持部32は、例えばプラスチック材でなり、その表面を例えばシリコンゴムのような樹脂材により覆われている。
【0034】
さらに保持部32は、土台部31の傾斜孔部31Bの延長線上に孔部が設けられており、屈曲部34及び当該屈曲部34の外周に設けられて密閉部33を保持する導管部35が挿通されている。
【0035】
屈曲部34は、図7に示すように、略L字型に形成された例えば直径3[mm]のステンレス管でなる。屈曲部34は、約12[mm]の長さでなる挿着部34Bと、約6[mm]の長さでなる延長部34Cとが屈曲点34Aで例えば105度に設定された屈曲角度θ13で屈曲されるように形成される。
【0036】
そして屈曲部34は、挿着部34Bにおける屈曲点34Aとは反対側の一端が約6[mm]分だけ土台部31の傾斜孔部31Bに導管部35を介して嵌着され、また延長部34CがX軸と平行になるよう土台部31に突設される。
【0037】
屈曲部34では、延長部34Cにおける屈曲点34Aとは反対側の先端が塞がれており、当該先端内部にサーミスタ等でなる第1測温部36が固定されて設けられており、また屈曲点34Aの内部にサーミスタ等でなる第2測温部37が固定されて設けられている。
【0038】
第1測温部36及び第2測温部37は、例えばサーミスタであった場合、温度変化に応じてその電気抵抗値が変化する性質を有しており、当該電気抵抗値に応じた温度信号S1及びS2(図10)を伝送線22を介して検温情報処理部23へ送出する。
【0039】
また屈曲部34の挿着部34Bには、シリコンゴムのような弾性材により円筒形状の取付部の一端に傘状の外耳道挿入部33Aが設けられて形成された密閉部33が導管部35を介して当該密閉部33の中心を貫く孔部により挿着されている。
【0040】
この検温本体部21は、図8及び図9に示すように、外耳道4に挿入される際、保持部32の耳甲介腔部当接面32Aが耳甲介腔部2Aに当接され、屈曲部34及び密閉部33が外耳道4に挿入される。
【0041】
このとき保持部32は、X軸負方向側がY軸負方向に膨らみ、またX軸正方向に向かって徐々に細くなるように形成されていることにより、耳甲介腔部2Aに嵌るようにして耳甲介腔部当接面32Aが耳甲介腔部2Aに当接される。
【0042】
これにより保持部32は、検温本体部21が耳1から動くことを防止し得ると共に、当該検温本体部21が耳1に対して回転することを防止し得るようになされている。
【0043】
このとき検温本体部21は、保持部32の長手方向(X軸方向)が耳1の前後方向とほぼ一致し、かつ当該保持部32の短手方向(Y軸方向)が当該耳1の上下方向とほぼ一致するようにして耳1に装着される。
【0044】
また密閉部33は、外耳道4の外耳道入口4Aと第1カーブ15との間に当接するように弾性変形することにより、外耳道入口4Aと第1カーブ15との間の内表面に隙間なく所定圧に当接された状態に維持される。これにより密閉部33は、外耳道4と外部との空気の出入りを遮断し、外部から外耳道4を密閉し得るようになされている。
【0045】
このとき密閉部33は、屈曲部34の挿着部34Bを介して傾斜角度θ12に傾けられることにより、左右方向に対して前方向へ傾くようにして外耳道4に保持される。
【0046】
また密閉部33は、当該密閉部33の厚さが外耳道入口4Aと第1カーブ15との間隔とほぼ等しい厚さ(約5.5[mm])であることにより、その先端が外耳道4の第1カーブ15に位置するようになされている。これにより屈曲部34は、屈曲点34Aが第1カーブ15に位置する。
【0047】
そして屈曲部34は、挿着部34Bと延長部34Cとが屈曲角度θ13で折り曲げられていることにより、その延長部34Cが第1カーブ15から第2カーブまでの間でなる略円筒状の中心軸に沿うように保持される。
【0048】
このとき屈曲部34は、延長部34Cの長さ(約6[mm])が第1カーブ15から第2カーブ16までの間隔とほぼ等しい長さであることにより、その先端が第2カーブ16に位置するようになされている。
【0049】
また屈曲部34は、その直径が例えば3[mm]と第1カーブ15から第2カーブ16までの間の略円筒形状の直径約5[mm]より十分に細いことにより、当該外耳道4の内表面と接触することなく、その空間上に保持される。
【0050】
従って検温本体部21では、外耳道4に挿入されたとき、延長部34Cの先端に固定された第1測温部36が第2カーブ16に位置されることにより、当該第1測温部36が第2カーブ16の温度を測定し得るようになされている。
【0051】
また検温本体部21では、屈曲点34Aに固定された第2測温部37が第1カーブ15に位置されることにより、当該第2測温部37が第1カーブ15の温度を測定し得るようになされている。
【0052】
このとき外耳道4では、密閉部33により外部との空気の出入りが遮断されていることにより、当該外耳道4の内部に密閉された空気は当該外耳道4の表面温度と同じ温度分布となる。
【0053】
従って検温本体部21は、第1測温部36により第2カーブ16の空気の温度を測定することにより、当該第2カーブ16の表面温度を測定していることになる。また検温本体部21は、第2測温部37により第1カーブ15の空気の温度を測定することにより、当該第1カーブ15の表面温度を測定していることになる。
【0054】
このようにして検温本体部21は、第1カーブ15及び第2カーブ16の温度を測定し得るようになされている。
【0055】
(3)耳内挿入型体温計の回路構成
検温情報処理部23は、図10に示すように、制御部51、表示部52、記憶部53、電力供給部54、インターフェース部55及び入力操作部56がバス57を介して接続されており、バッテリからなる電力供給部54から電源電力の供給を受けて動作するようになされている。
【0056】
この制御部51は、CPU(Central Processing Unit)、当該CPUのワークメモリとして機能するRAM(Random Access Memory)により構成されており、不揮発性メモリ等でなる記憶部53に格納された基本プログラムをRAMに展開して実行することにより、検温情報処理部23全体を統括制御するようになされている。
【0057】
また制御部51は、記憶部53に格納された各種アプリケーションプログラムをRAMに展開して実行することにより、各種機能を実現するようになされている。
【0058】
制御部51は、検温本体部21に設けられた第1測温部36及び第2測温部37から時間の経過に従って所定のタイミングで温度信号S1及びS2を伝送線22及びインターフェース部55を介して取得すると、当該温度信号S1及びS2に対して所定の信号処理をそれぞれ施すことにより温度データを得、当該温度データを記憶部53に蓄積する。
【0059】
また制御部51は、記憶部53に蓄積された温度データを入力操作部56からの操作入力に従って、当該温度データに基づく温度を必要に応じて表示部52に表示する。
【0060】
ここで、耳内挿入型体温計20により約20時間連続して測定された測定結果を図11に示す。図11では、耳内挿入型体温計20の第1測温部36により測定された温度を耳内温として破線で示し、当該耳内温と同時に測定された中核温に相当する直腸温を実線で示す。なお、この測定実験では、外気温が24[℃]、湿度が30[%]で一定に保たれた状態で測定された。
【0061】
図11からも明らかなように、耳内挿入型体温計20は、外気温が一定に保たれた場合、外耳道4(図2)の第2カーブ16の耳内温を第1測温部36で測定することにより、中核温よりは若干低い温度ではあるが、概日リズムが正確に反映された耳内温を測定し得ることがわかる。
【0062】
しかしながら、外気温が20[℃]及び35[℃]における体温分布を図12に示すように、人の体温分布は外気温によって変化する。特に表面付近では外気温の影響を受け、表面温度が外気温に近い温度となる。
【0063】
耳1(図1及び図2)においては、鼓膜5は外気温の変化の影響を受けることがなく中核温に保たれているのに対し、耳介2や外耳道4では、外気温の変化の影響を受けてその温度が変化する。特に耳介2や外耳道入口4A付近では、外気温の変化の影響を大きく受ける。
【0064】
従って外耳道4では、外気温が変化することにより、中核温に保たれている鼓膜5から外気温の変化の影響を大きく受ける外耳道入口4Aにかけてその温度勾配も変化する。
【0065】
そのため耳内挿入型体温計20では、外気温が変化する場合、第1測温部36及び第2測温部37により測定される第2カーブ16及び第1カーブ15の温度も外気温に応じて変化する。
【0066】
そこで制御部51は、第1測温部36及び第2測温部37により測定された温度を用いて、外気温の変化の影響を受けない鼓膜5の温度を予測する。
【0067】
(4)鼓膜温度予測処理
(4−1)鼓膜温度予測処理の一例
ここで、鼓膜5の温度予測の一例を示す。この場合、図13に示すように、耳内挿入型体温計20に代えて耳内挿入型体温計60により測定された測定結果を用いて鼓膜5の温度を予測する処理について説明する。
【0068】
検温計本体部61は、検温本体部21と同様の外観構成を有し、第1測温部36及び第2測温部37に加えて、土台部31の先端の温度を測定するための第3測温部62が屈曲部34の挿着部34Bの中央付近に固定するようにして設けられている。
【0069】
また耳内挿入型体温計60では、鼓膜5と同様に中核温に保たれている舌下温を図示しない舌下温測温部により測定することにより、鼓膜5の温度として用いるようにした。
【0070】
外気温が23[℃]、16[℃]及び9[℃]の場合における第1測温部36、第2測温部37、第3測温部62及び舌下温測温部により測定された第2カーブ16、第1カーブ15、土台部31先端及び鼓膜5の測定温度を図14に示す。
【0071】
ここで図14における疑似距離は、現実の物理的な距離とは異なり、外耳道入口4Aから鼓膜5にかけて血流が大きくなる等の温度変化要因を考慮した距離として算出される。
【0072】
実際上、耳内挿入型体温計60は、図15に示すように、図14に示された測定温度を用い、第1測温部36、第2測温部37、第3測温部62及び鼓膜5の互いに隣接する測定点間の距離を変更することにより、当該測定温度と最も相関が大きくなるような片対数近似曲線を算出する。
【0073】
そして耳内挿入型体温計60は、片対数近似曲線を算出する際に変更した測定点間の距離を基に、外耳道入口4から第1測温部36、第2測温部37、第3測温部62及び鼓膜5までの距離を疑似距離として算出する。
【0074】
具体的には、耳内挿入型体温計60では、外耳道入口4Aから鼓膜5までの疑似距離が例えば「100」として設定されており、図14の第1測温部36、第2測温部37、第3測温部62及び鼓膜5の測定温度と最も相関が大きくなるような片対数近似曲線が得られるように、外耳道入口4Aから第1測温部36、第2測温部37及び第3測温部62までの疑似距離「7」、「6」及び「3」を算出する。
【0075】
因みに、外気温が23[℃]、16[℃]及び9[℃]の場合で、外耳道4内の温度がそれぞれ次式
【0076】
Y=0.3844Ln(X)+35.01 (R=0.9972) ……(1)
【0077】
Y=0.7253Ln(X)+33.398 (R=1) ……(2)
【0078】
Y=1.288Ln(X)+30.69 (R=1) ……(3)
【0079】
によって表される。ここで、Xは疑似距離を表し、Yは温度を表し、Rは相関係数の2乗に等しい決定係数を表す。
【0080】
そして耳内挿入型体温計60では、第1測温部36、第2測温部37及び第3測温部62により第2カーブ16、第1カーブ15及び土台部31の先端の温度が測定される度に、疑似距離である「7」、「6」及び「3」を用いて、測定された温度と最も相関が大きくなるような片対数近似曲線を算出し、当該算出した片対数近似曲線を用いて疑似距離が「100」である位置での温度を鼓膜5の予測温度として算出する。
【0081】
(4−2)鼓膜温度予測処理手順
一方、耳内挿入型体温計20は、耳内挿入型体温計60と同様にして鼓膜5の温度を予測する。ここで耳内挿入型体温計20は、耳内挿入型体温計60と同様に、第1測温部36及び第2測温部37の疑似距離を算出する際、図示しない舌下温測温部により測定された舌下温を例えばインターフェース部55を介して取得することにより鼓膜5の温度として用いる。
【0082】
このとき制御部51は、図16に示すフローチャートに従って鼓膜温度予測処理を実行する。実際上、制御部51は、ルーチンRT1の開始ステップから入ってステップSP1へ移り、第1測温部36、第2測温部37及び舌下温測温部により測定された第2カーブ16、第1カーブ15及び鼓膜5の測定温度を用い、第1測温部36、第2測温部37及び鼓膜5の互いに隣接する測定点間の距離を変更することにより、当該測定温度と最も相関が大きくなるような片対数近似曲線を算出し、次のステップSP2へ移る。
【0083】
ステップSP2において制御部51は、片対数近似曲線を算出する際に変更した測定点間の距離を基に、外耳道入口4Aから第1測温部36、第2測温部37及び鼓膜5までの疑似距離を算出し、次のステップSP3へ移る。
【0084】
因みに耳内挿入型体温計20では、制御部51により疑似距離が算出されると、当該疑似距離と、第1測温部36及び第2測温部37により測定される温度とを用いて鼓膜5の温度を予測できるので、例えば表示部52によってユーザに舌下温測温部による舌下温の測定を終了させるよう通知し、舌下温の測定を終了する。
【0085】
ステップSP3において制御部51は、第1測温部36及び第2測温部37により温度が測定される度に、算出した外耳道入口4Aから第1測温部36、第2測温部37及び鼓膜5までの疑似距離と、第1測温部36及び第2測温部37により測定された測定温度とを用いて、当該測定温度と最も相関が大きい片対数近似曲線を算出し、次のステップSP4へ移る。
【0086】
ステップSP4において制御部51は、ステップSP3で算出した片対数近似曲線における鼓膜5の疑似距離に対応する温度を鼓膜5の温度として算出し、次のステップへ移って処理を終了する。
【0087】
(5)動作及び効果
以上の構成において、耳内挿入型体温計20では、密閉部33が外耳道4の外耳道入口4Aと第1カーブ15との間で外耳道挿入部33Aが弾性変形して当該外耳道4の内表面に所定圧で当接されることにより、外耳道4を密閉することができると共に、検温本体部21が耳1に装着された状態を保持することができる。
【0088】
また耳内挿入型体温計20では、屈曲部34が、導管部35を介して密閉部33に挿着される挿着部34Bと、屈曲点34Aから第2カーブ16までの長さ程度でかつ外耳道4の内表面に接触されない太さ程度に形成された延長部34Cとからなり、挿着部34Bと延長部34Cとは屈曲点34Aで屈曲角度θ13に屈曲されるように形成される。また延長部34Cの先端には、第2カーブ16の温度を測定する第1測温部36が設けられるようにした。
【0089】
これにより耳内挿入型体温計20は、検温本体部21が外耳道4に装着された際、屈曲部34が外耳道4の内表面に接触しないで、第1測温部36により第2カーブ16の温度を測定することができる。
【0090】
また耳内挿入型体温計20では、保持部32が耳甲介腔部2Aに嵌るように形成されていることにより、検温本体部21が外耳道4に装着された状態を保持し得ると共に、当該検温本体部21の回転変化及び位置変化を防止することができる。
【0091】
従って検温本体部21は、保持部32及び密閉部33により2重で耳1に装着された状態を保持することにより、耳1に長時間装着されている場合でも、耳1から外れることなく体温を長時間連続して測定することができる。
【0092】
また検温本体部21は、保持部32によって回転変化及び位置変化を防止することができるので、屈曲部34の位置がずれることがなく、当該屈曲部34が外耳道4の内表面に接触することによる違和感や不快感を装着者に与えることなく体温を測定することができる。
【0093】
また耳内挿入型体温計20では、屈曲部34における延長部34Cの先端に固定された第1測温部36と、屈曲部34の屈曲点34Aに固定された第2測温部37とにより測定された温度を用いて、外気温の影響を受けることがない鼓膜5の温度を予測することにより、体温を正確に測定することができる。
【0094】
このとき耳内挿入型体温計20は、外耳道入口4Aから第1測温部36、第2測温部37及び鼓膜5までの温度変化要因を考慮した疑似距離を算出する。そして耳内挿入型体温計20は、疑似距離と、第1測温部36及び第2測温部37により測定された温度とを用いて、疑似距離を対数とした片対数近似曲線を算出して、当該片対数近似曲線により鼓膜5の温度を予測するので、個人差や外気温の変化等を考慮してより正確に鼓膜5の温度を予測することができる。
【0095】
以上の構成によれば、密閉部33が外耳道4の内表面に所定圧で当接され、挿着部34Bと延長部34Cとが屈曲点34Aで屈曲角度θ13に屈曲された屈曲部34における延長部34Cの先端に固定された第1測温部36によって第2カーブ16の温度を測定することにより、長時間連続して体温を測定することができる。
【0096】
また、外耳道4内の温度を第1測温部36及び第2測温部37により測定し、当該測定された温度を用いて外気温の影響を受けることがない鼓膜5の温度を予測することができ、かくして体温を正確に測定することができる。
【0097】
(6)他の実施の形態
なお上述した実施の形態においては、屈曲角度θ13が105度に設定されているようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、延長部34Cが外耳道4Aの内表面に接触しないのであれば、屈曲角度θ13が85度から125度の間に設定されていても良い。
【0098】
また上述した実施の形態においては、傾斜角度θ12が20度に設定されているようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、屈曲部34の屈曲点34Aが第1カーブ15に位置するのであれば、傾斜角度θ12が0度から40度の間に設定されていても良い。
【0099】
さらに上述した実施の形態においては、回転角度θ11が34度に設定されているようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、延長部34Cが外耳道4Aの内表面に接触しないのであれば、回転角度θ11が14度から54度の間に設定されていても良い。
【0100】
さらに上述した実施の形態においては、屈曲部34の直径が3[mm]に設定されているようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、延長部34Cが外耳道4Aの内表面に接触しないのであれば、屈曲部34の直径が例えば2[mm]や4[mm]等に設定されていても良い。
【0101】
さらに上述した実施の形態においては、延長部34Cの長さが約6[mm]、挿着部34Bの長さが約11[mm]に設定されているようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、屈曲部34の屈曲点34Aが第1カーブ15に位置し、かつ屈曲部34の延長部34Cの先端が第2カーブ16に位置するような長さに設定されていても良い。
【0102】
さらに上述した実施の形態においては、第1測温部36及び第2測温部37により外耳道4内の温度を測定するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、第1測温部36及び第2測温部37に加えて、さらに外耳道4内の温度を測定する測温部を1つ以上設けるようにしても良い。
【0103】
この場合、耳内挿入型体温計20は、第1測温部36、第2測温部37及び追加された測温部により測定された温度を用いて鼓膜5の温度を予測するので、より精度よく鼓膜5の温度を予測することができる。
【0104】
さらに上述した実施の形態においては、第1測温部36及び第2測温部37にサーミスタを用いるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えばサーモパイル(熱電対)や半導体センサ等の電子センサ温度計を用いるようにしても良い。
【0105】
さらに上述した実施の形態においては、土台部31と保持部32とが別々に形成されている場合について述べたが、本発明はこれに限らず、土台部31と保持部32とが一体形成されるようにしても良い。
【0106】
さらに上述した実施の形態においては、屈曲部34がステンレスであった場合について述べたが、本発明はこれに限らず、熱伝導性の良い金属材であればよい。さらに温度センサと一体化した樹脂材であっても構わない。
【0107】
さらに上述した実施の形態においては、屈曲部34が屈曲点34Aで予め屈曲角度θ13に屈曲されているようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、検温本体部21が外耳道4に装着された際、挿着部34Bと延長部34Cとが屈曲角度θ13に屈曲されていればよく、例えば挿着部34Bと延長部34Cとの角度を屈曲点43Bで可変できるようにしても良い。
【0108】
さらに上述した実施の形態においては、鼓膜温度予測処理においてステップSP1及びSP2で疑似距離を算出するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば平均的な疑似距離を予め記憶部53に記憶しておき、当該記憶された疑似距離と第1測温部36及び第2測温部37により測定された温度とを用いて鼓膜5の温度を予測するようにしても良い。この場合、舌下温測温部により舌下温を測定させずに済み、より使い勝手を向上することができる。
【0109】
さらに上述した実施の形態においては、測温部として第1測温部36及び第2測温部37、鼓膜温度予測部として制御部51によって本発明の耳内挿入型体温計としての耳内挿入型体温計20を構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、この他種々の構成でなる測温部、鼓膜温度予測部によって本発明の耳内挿入型体温計を構成するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の耳内挿入型体温計20は、例えば医療分野に適用することができる。
【符号の説明】
【0111】
1……耳、2……耳介、3……耳介軟骨、4……外耳道、4A……外耳道入口、5……鼓膜、6……外耳道軟骨、7……側頭骨、8……ツチ骨、9……キヌタ骨、10……アブミ骨、11……耳小骨、12……前庭、13……蝸牛、14……内頚動脈、15……第1カーブ、16……第2カーブ、20、60……耳内挿入型体温計、21……検温本体部、22……伝送線、23……検温情報処理部、31……土台部、32……保持部、33……密閉部、34……屈曲部、34A……屈曲点、34B……挿着部、34C……延長部、35……導管部、51……制御部、52……表示部、53……記憶部、54……電力供給部、55……インターフェース部、56……入力操作部、θ1……第1カーブ角、θ2……第2カーブ角、θ11……回転角度、θ12……傾斜角度、θ13……屈曲角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外耳道内の異なる2点以上の位置における温度を測定する測温部と、
上記測温部により測定された上記温度を用いて、鼓膜の温度を予測する鼓膜温度予測部と
を具える耳内挿入型体温計。
【請求項2】
上記鼓膜温度予想部は、
外耳道入口からの対数でなる距離に応じた温度が片対数で近似された関数を算出し、当該関数を用いて上記鼓膜の位置に対応する温度を鼓膜の温度として算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の耳内挿入型体温計。
【請求項3】
上記鼓膜温度予想部は、
外耳道入口からの距離に、外耳道内の温度変化要因を考慮した疑似距離を用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の耳内挿入型体温計。
【請求項4】
外耳道の入口付近の内表面に所定圧で当接され、当該外耳道を密閉する密閉部と、
上記密閉部に挿着され、外耳道における入口から1番目の屈曲部分である第1カーブに先端である屈曲点が位置する長さ程度に形成された挿着部と、上記屈曲点から外耳道における入口から2番目の屈曲部分である第2カーブまでの長さ程度でかつ外耳道の内表面に接触されない太さ程度に形成された延長部とからなり、上記挿着部と上記延長部とは上記屈曲点で所定の屈曲角度に屈曲された屈曲部と、
をさらに具え、
上記測温部は、
上記延長部における上記第2カーブ側の先端に設けられ、上記第2カーブの温度を測定する第1測温部と、
上記屈曲点に設けられ、上記第1カーブの温度を測定する第2測定部とからなる
ことを特徴とする請求項3に記載の耳内挿入型体温計。
【請求項5】
耳介甲腔部に嵌るように形成され、上記耳内挿入型体温計を外耳道に保持させる保持部をさらに具え、
上記屈曲部は、上記耳内挿入型体温計を外耳道に保持された際、上記挿着部の末端が外耳道の左右方向に対して所定の傾斜角度となるように上記保持部に突設される
をさらに具える請求項4に記載の耳内挿入型体温計。
【請求項6】
上記延長部は、上記傾斜角度が存在する平面に対して所定の回転角度に回転された方向を向く
ことを特徴とする請求項5に記載の耳内挿入型体温計。
【請求項7】
上記延長部は、金属材または樹脂材でなることを特徴とした請求項6に記載の耳内挿入型体温計。
【請求項8】
上記密閉部は、弾性材でなることを特徴とした請求項6に記載の耳内挿入型体温計。
【請求項9】
上記屈曲角度は、85度から125度であることを特徴とした請求項6に記載の耳内挿入型体温計。
【請求項10】
上記傾斜角度は、上記挿着部の上記密閉部に対する挿着方向に対して0度から40度であることを特徴とした請求項6に記載の耳内挿入型体温計。
【請求項11】
上記回転角度は、上記傾斜角度が存在する平面に対して14度から54度であることを特徴とした請求項6に記載の耳内挿入型体温計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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