説明

肉盛方法及び肉盛装置

【課題】複雑な設備や方法を採用することなく、肉盛工程の前処理において、ワークの内部に毛細管現象で奥深くまで浸入した油分や水分等の液体を除去し、肉盛層中へのガス欠陥やワレ等の欠陥を防ぐ肉盛方法及び肉盛装置を提供する。
【解決手段】シリンダヘッドの各バルブシート部をレーザビームの照射によって肉盛りする肉盛工程40の前に、シリンダヘッドを、その内部に浸入した液体を蒸発させるために必要な時間(15分以上)空気中に放置して、その内部を乾燥させる乾燥工程30を備えたので、シリンダヘッドの内部に毛細管現象で奥深くまで浸入した液体を除去することができ、肉盛層へのガス欠陥やワレ等の欠陥を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク、例えば、シリンダヘッドの各バルブシート部に肉盛りする肉盛方法及び肉盛装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳鉄或いはアルミ粗材へレーザ等の高密度熱源により肉盛りを行う際には、鋳鉄粗材中に存在する黒鉛及びアルミ粗材中の酸化物・ガス欠陥等が起因となり、肉盛り層中に多数のガス欠陥やワレが発生する。
このように、一般的には、鋳鉄粗材中の黒鉛や、アルミ粗材中のガス欠陥(引け巣、水素ガス)や酸化物が直接肉盛りに影響を与え、ガス欠陥やワレ等の欠陥を誘発する原因とされている。
【0003】
しかしながら、上述した原因とは別に黒鉛や酸化物を含む鋳造粗材であるがゆえに別の原因も大きく影響している。
それは、例えば、鋳鉄粗材及びアルミ粗材ともに肉盛工程の前処理における洗浄後の乾燥不足により残留水分が気化し、肉盛層中にガス欠陥が発生する場合がある。これは、鋳造素材の黒鉛や酸化物は非常に緻密な組織形態をしているために、この黒鉛や酸化物に浸入した水分は毛細管現象によって粗材内部の奥深くまで浸入し、通常の乾燥方法では乾燥しきれないためである。
つまり、従来の乾燥方法では、ワークを洗浄工程から肉盛工程に移動させる間の短時間(1分以内)空気中に放置されるだけであるために、毛細管現象によって粗材内部の奥深くまで浸入した水分や油分等の液体を除去させるのは当然不可能であった。
また、鋳鉄の場合は、肉盛り工程の前工程で行われる切削工程中における油分が黒鉛中に浸入し、その後の洗浄工程における洗浄ではその油分を完全に洗い流すことができず、レーザ等の高密度熱源をワークの所定部位に付与すると、残留油分が気化し、肉盛層中にガス欠陥が発生してしまう。同様に、アルミ粗材では、引け巣や酸化物等の隙間に浸入した残留油分が肉盛時に揮発し、肉盛層中にガス欠陥が発生してしまう。
【0004】
そのため、ワークの肉盛層中へのガス欠陥やワレ等の欠陥を除去する対策として、従来から肉盛工程の前工程である洗浄工程、乾燥工程において様々な対策が適用されてきた。
例えば、特許文献1に開示された肉盛方法では、鋳造材からなる金属母材の所定部位に肉盛層を形成する前工程として、肉盛層を形成する所定部位を密閉空間に露出させ、この密閉空間に対し空気の吸引を行って、密閉空間に露出している金属母材の所定部位表面上の空孔内に入り込んでいる切削油剤や洗浄剤などの残留物を吸引して除去するようにしている。
【0005】
また、特許文献2に開示された肉盛方法では、ワークの肉盛予定部に存在している異物部を、高密度エネルギビームの照射によって除去した後に、その肉盛予定部に肉盛層を被覆して、肉盛予定部における異物を除去または減少させようとしている。
【特許文献1】特開平11−291072号公報
【特許文献2】特開平11−333574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1の肉盛方法では、粗材の内部に毛細管現象で奥深くまで浸入した油分や水分を短時間で粗材表面上まで吸引して抽出するのは極めて難しく、しかも、その設備が相当複雑であり、複雑な設備に見合う大きな効果を得ることができず現実的な方法ではない。
一方、特許文献2の肉盛方法では、粗材表面の油分や水分は蒸発させることができるものの、粗材の内部に毛細管現象で奥深くまで浸入した油分や水分を完全に蒸発させることができない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、複雑な設備や方法を採用することなく、肉盛工程の前処理において、ワークの内部に毛細管現象で奥深くまで浸入した油分や水分等の液体を除去し、肉盛層中へのガス欠陥やワレ等の欠陥を防ぐ肉盛方法及び肉盛装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の肉盛方法では、肉盛工程の前に、ワークを、該ワークの種類に対応させて、予め設定された、内部に浸入した液体を蒸発させるために必要な時間以上空気中に放置して、その内部を乾燥させる乾燥工程を備えたことを特徴としている。
また、本発明の肉盛装置は、複数のワークを収容可能であり、各ワークを順次受け入れ、受け入れた時点から一定時間経過した後に、各ワークを順次高密度エネルギビーム照射装置に搬出するコンベヤを備えていることを特徴としている。
これにより、ワークの内部に毛細管現象で奥深くまで浸入した液体を除去することができ、肉盛層中へのガス欠陥やワレ等の欠陥を防ぐことができる。
なお、本発明の肉盛方法の各種態様およびそれらの作用については、以下の(発明の態様)の項において詳しく説明する。
【0009】
(発明の態様)
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。なお、各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付して、必要に応じて他の項を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載、実施の形態等に参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要件を付加した態様も、また、各項の態様から構成要件を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)項乃至(4)項の各々が、請求項1乃至4の各々に相当する。
【0010】
(1)ワークの所定部位に高密度エネルギビームを照射して肉盛りする肉盛工程を備えた肉盛方法であって、前記肉盛工程の前に、前記ワークを、該ワークの種類に対応させて、予め設定された、内部に浸入した液体を蒸発させるために必要な時間以上空気中に放置して、その内部を乾燥させる乾燥工程を備えたことを特徴とする肉盛方法。
従って、(1)項の肉盛方法では、乾燥工程において、ワークを、予め設定された、内部に浸入した液体を蒸発させるに必要な時間以上空気中に放置して、その内部を乾燥させることにより、ワークの内部に毛細管現象で奥深くまで浸入した油分や水分等の液体を除去することができるので、肉盛層中へのガス欠陥やワレ等の欠陥を防ぐことができる。
この乾燥工程では、ワークを空気中に放置させるだけで、複雑な設備や方法を採用しないので、製造原価を高くすることなく大きな効果を得ることができる。
なお、ワークを空気中に放置する時間は、ワークの種類(大きさ)及び切削工程や洗浄工程の内容等に依存するために、これら条件を加味した上で、予め検証されて設定される。
【0011】
(2)前記乾燥工程の前に、冷却媒体に油分を含まない液体を使用して前記ワークを切削加工する切削工程を備えたことことを特徴とする(1)項に記載の肉盛方法。
従って、(2)項の肉盛方法では、切削加工後、油分の除去洗浄を入念に行う必要がないので、洗浄工程が簡素化される。しかも、切削加工において油分を使用しないので、ワーク内に浸入した残留油分が肉盛加工の際に高温下に晒され揮発することで、肉盛層中へガス欠陥が発生することはない。
【0012】
(3)前記ワークの肉盛部位は、シリンダヘッドの各バルブシート部であり、前記乾燥工程において、空気中に放置される時間は15分以上に設定されることを特徴とする(1)項または(2)項に記載の肉盛方法。
従って、(3)項の肉盛方法では、ワークが、4気筒のシリンダヘッド程度の大きさであれば、肉盛工程の前に少なくとも15分間空気中に放置していれば、ワークの内部まで浸入した液体を乾燥させることができる。
【0013】
(4)ワークの所定部位に高密度エネルギビームを照射して肉盛りする高密度エネルギビーム照射装置を備えた肉盛装置であって、該肉盛装置は、複数のワークを収容可能であり、各ワークを順次受け入れ、受け入れた時点から一定時間経過した後に、各ワークを順次前記高密度エネルギビーム照射装置に搬出するコンベヤを備えていることを特徴とする肉盛装置。
従って、(4)項の肉盛装置では、複数のワークを収容し、各ワークを受け入れ、一定時間経過した後に高密度エネルギビーム照射装置に搬出させるコンベヤを備えているので、予め設定したワークの放置時間を、コンベヤの移動速度等により簡単に設定でき、放置時間の管理が非常に簡易である。
【0014】
(5)前記コンベヤは、各ワークが載置されるパレットが縦及び横方向に複数配置され、各パレットが縦及び横方向に順次移動する構成であることを特徴とする(4)項に記載の肉盛装置。
従って、(5)項の肉盛装置では、コンベアには、各パレットが縦及び横方向に複数配置されて構成されているので、各ワークを乾燥させる際に大きいスペースを確保する必要がない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複雑な設備や方法を採用することなく、肉盛工程の前処理において、ワークの内部に毛細管現象で奥深くまで浸入した油分や水分等の液体を除去し、肉盛層中へのガス欠陥やワレ等の欠陥を防ぐ肉盛方法及び肉盛装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1〜図6に基いて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係る肉盛装置は、図2及び図3に示すように、高密度エネルギビームとして代表的なレーザビームをワーク、例えば、4気筒のシリンダヘッド3(図3では1気筒分だけが図示されている)の各バルブシート部3aに照射して肉盛りするレーザビーム照射装置(高密度エネルギビーム照射装置)2と、複数のシリンダヘッド3を収容可能であり、各シリンダヘッド3を順次受け入れ、受け入れた時点から一定時間経過した後に、各シリンダヘッド3を順次レーザビーム照射装置2に搬出するコンベヤ1とを備えている。
なお、このコンベア1は、シリンダヘッド3を、レーザビーム照射装置2に搬送する機能を果すことが主目的ではなく、レーザビーム照射装置2による各バルブシート部3aの肉盛工程の前処理として、シリンダヘッド3を、予め設定された、内部に浸入した水分や油分等の液体を蒸発させるために必要な時間以上空気中に放置して、内部を十分に乾燥させることを主目的として備えられたものである。
【0017】
レーザビーム照射装置2は、図3に示すように、肉盛粉末をバルブシート部3aに供給する粉末供給ノズル5と、シールドガス(窒素ガス)をバルブシート部3aに供給するシールドガス供給ノズル6と、レーザビームをバルブシート部3aに照射するレーザビーム発振機7とから構成されている。
そして、粉末供給ノズル5から肉盛粉末を、且つシールドガス供給ノズル6からシールドガスをバルブシート部3aにそれぞれ供給しつつ、レーザビーム発振機7からレーザビームをバルブシート部3aに照射することにより、バルブシート部3aに肉盛層が形成される。
なお、レーザの条件は、レーザの種類:CO2レーザ,レーザ出力:4.3kw,レーザビームのオシレート幅:5.5mm,肉盛粉末:銅系合金,肉盛粉末の供給量:1.1g/s,シールドガスの流量:30リットル/minである。
【0018】
コンベヤ1は、図2に示すように、図3に示すレーザビーム照射装置2の上流側に配置され、上述したように、各シリンダヘッド3をレーザビーム照射装置2に搬入する前に一定時間空気中に放置するために備えられたものである。
コンベア1は、シリンダヘッド3が載置されるパレット(図示略)が縦方向に5台、横方向に4台の全20台配置され、シリンダヘッド3を全20台収容可能であり、各パレットが順次矢印(実線)の方向に移動可能な構成になっている。
また、本実施の形態では、コンベア1の各パレットの移動速度は、各シリンダヘッド3を受け入れ、レーザビーム照射装置2に搬出するまでの時間が15分になるように設定されている。
【0019】
なお、ワークを肉盛工程前に空気中に放置する時間は、予め、ワークの種類(大きさ)及び切削工程や洗浄工程の内容を加味した上で検証されて設定されるものである。本実施の形態では、図4に示すように、乾燥時間(放置時間)と肉盛不良率(%)との関係を、後述する「切削工程10+洗浄工程20」及び「切削工程10a+洗浄工程20a」のそれぞれの内容において予め検証した結果を得ており、この結果の通り、ワークが4気筒のシリンダヘッド3でその大きさが概略350mm(長さ)×150mm(幅)×100mm(厚さ)であり、「切削工程10+洗浄工程20」または「切削工程10a+洗浄工程20a」を採用し、肉盛工程前の乾燥時間を15分以上に設定すれば、肉盛不良率を0%に近い値まで低下させることができることが確認できた。
【0020】
次に、本発明の実施の形態に係る肉盛装置を使用した第1の実施の形態に係る肉盛方法を図1に基いて説明する。
なお、第1の実施の形態に係る肉盛方法は、図1に示す工程において、実線の矢印で進む工程である。
まず、切削工程10において、図示しない切削加工設備でシリンダヘッド3の必要な部位が切削加工されて、次の洗浄工程20へ搬出される。なお、この切削加工設備では、切削加工時の冷却媒体に油分を含まない液体、例えば水が使用されてシリンダヘッド3が切削加工される。
続いて、洗浄工程20においては、シリンダヘッド3から切削くず等を落すためにディッピングまたはシャワーにより水洗浄が行われ、次の乾燥工程30に搬出される。
続いて、乾燥工程30においては、洗浄工程20から搬出された各シリンダヘッド3は、順次図2に示すコンベヤ1の各パレットに搬入されて、各パレットが矢印方向(図2参照)に移動し、受け入れてから15分経過した後、各シリンダヘッド3は順次各パレットから肉盛工程40で使用される図3に示すレーザビーム照射装置2に搬出される。
そして最後に、肉盛工程40においては、図3に示すレーザビーム照射装置2にてシリンダヘッド3の各バルブシート部3aが、上述したレーザ条件にてそれぞれ肉盛される。
【0021】
以上説明した第1の実施の形態に係る肉盛方法では、まず、切削工程10で、冷却媒体に油分を含まない液体として水を使用して切削加工することにより、油分を使用して切削加工していた従来に比べて洗浄工程20の内容を大幅に簡略化でき、しかも、肉盛工程40の際、残留油分が原因で、肉盛層中にガス欠陥やワレ等の欠陥が発生することはない。
また、第1の実施の形態に係る肉盛方法では、シリンダヘッド3は、洗浄工程20から搬出された後、レーザビーム照射装置2に搬入される前にコンベヤ1のパレットに搬入され、パレットを15分間移動させることにより、シリンダヘッド3を15分間空気中に放置し、シリンダヘッド3の内部に浸入していた水分を蒸発させているので、肉盛工程40の際、シリンダヘッド3の各バルブシート部3aの肉盛層中にガス欠陥やワレ等の欠陥が発生することはない。
【0022】
なお、図5は、シリンダヘッド3を切削工程10において冷却媒体に水を使用して切削加工した後、肉盛工程40の前処理の相違による肉盛不良率(%)を評価した結果を示すものである。
図5から解るように、「無洗浄」の場合には、肉盛不良率が80%で最も高い値を示し、「洗浄工程20+1分以内の乾燥」の場合には、肉盛不良率が0.5%で、本実施形態である「洗浄工程20+乾燥工程30」の場合には、肉盛不良率が0.01%で最も低い値を示しており、この結果からも、当然ながら、第1の実施の形態に係る肉盛方法を採用すれば、肉盛不良率が大幅に低減されることが解る。
【0023】
次に、本発明の実施の形態に係る肉盛装置を使用した第2の実施の形態に係る肉盛方法を図1に基いて説明する。
なお、第2の実施の形態に係る肉盛方法は、図1に示す工程において、点線の矢印で進む工程である。
まず、切削工程10aにおいては、図示しない切削加工設備でシリンダヘッド3の必要な部位が切削加工され、次の洗浄工程20aに搬出される。なお、この切削加工設備では、切削加工時の冷却媒体に油分が使用されてシリンダヘッド3が切削加工される。
続いて、洗浄工程20aにおいては、シリンダヘッド3から切削くず等を落すためにディッピングまたはシャワーによる水洗浄が行われ、その後、シリンダヘッド3に付着した油分を洗い流すために中性洗剤液等による洗浄が行われ、その後、シリンダヘッド3を回転させて脱水し、さらに局部加熱による乾燥が行われ、次の乾燥工程30に搬出される。
続いて、乾燥工程30においては、第1の実施の形態に係る肉盛方法と同様に、洗浄工程20aから搬出された各シリンダヘッド3は、順次図2に示すコンベヤ1の各パレットに搬入されて、各パレットが矢印方向(図2参照)に移動し、受け入れから15分経過した後、各シリンダヘッド3は順次各パレットから肉盛工程40で使用される図3に示すレーザビーム照射装置2に搬出される。
そして最後に、肉盛工程40においては、第1の実施の形態に係る肉盛方法と同様に、図3に示すレーザビーム照射装置2にてシリンダヘッド3の各バルブシート部3aが、上述したレーザ条件にてそれぞれ肉盛される。
【0024】
以上説明した第2の実施の形態に係る肉盛方法では、第1の実施の形態に係る肉盛方法と同様に、シリンダヘッド3は、洗浄工程20aから搬出された後、レーザビーム照射装置2に搬入される前にコンベヤ1のパレットに搬入され、パレットを15分間移動させることにより、シリンダヘッド3を15分間空気中に放置し、シリンダヘッド3の内部に浸入していた水分及び油分等の液体を蒸発させているので、肉盛工程40の際、シリンダヘッド3の各バルブシート部3aの肉盛層中にガス欠陥やワレ等の欠陥が発生することはない。
なお、図6は、シリンダヘッド3を切削工程10aにおいて冷却媒体に油分を使用して切削加工した後、肉盛工程40の前処理の相違による肉盛不良率(%)を評価した結果を示すものである。
図6から解るように、「無洗浄」の場合には、肉盛不良率が100%で最も高い値を示し、「洗浄工程20a+1分以内の乾燥」の場合には、肉盛不良率が4%で、「洗浄工程20a+1分以内の乾燥+レーザ予備照射(特許文献2相当)」の場合には、肉盛不良率が0.5%で、本実施形態である「洗浄工程20a+乾燥工程30」の場合には、肉盛不良率が0.1%で最も低い値を示しており、この結果からも、当然ながら、第2の実施の形態に係る肉盛方法を採用すれば、肉盛不良率が大幅に低減されることが解る。
【0025】
また、本発明の実施の形態に係る肉盛装置は、既存のレーザビーム照射装置2にコンベア1を備えるだけの構成であるので、その構成がシンプルであり設備費が高くなることはない。しかも、コンベア1は、縦及び横方向に複数配置される各パレットを移動させて構成しているので、シリンダヘッド3を空気中に放置するための大きなスペースを確保する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る肉盛方法を示す工程図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る肉盛装置に採用されるコンベアの模式図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態に係る肉盛装置に採用されるレーザビーム照射装置の模式図である。
【図4】図4は、肉盛工程の前工程の内容においてシリンダヘッドを空気中に放置する時間を検証した結果を示す図である。
【図5】図5は、シリンダヘッドを冷却媒体に水を使用して切削加工した後、肉盛工程の前処理の相違による肉盛不良率を評価した結果を示す図である。
【図6】図6は、シリンダヘッドを冷却媒体に油分を使用して切削加工した後、肉盛工程の前処理の相違による肉盛不良率を評価した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 コンベヤ,2 レーザビーム照射装置(高密度エネルギビーム照射装置),3 シリンダヘッド(ワーク),3a バルブシート部,10、10a 切削工程,20、20a 洗浄工程,30 乾燥工程,40 肉盛工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの所定部位に高密度エネルギビームを照射して肉盛りする肉盛工程を備えた肉盛方法であって、
前記肉盛工程の前に、
前記ワークを、該ワークの種類に対応させて、予め設定された、内部に浸入した液体を蒸発させるために必要な時間以上空気中に放置して、その内部を乾燥させる乾燥工程を備えたことを特徴とする肉盛方法。
【請求項2】
前記乾燥工程の前に、
冷却媒体に油分を含まない液体を使用して前記ワークを切削加工する切削工程を備えたことを特徴とする請求項1に記載の肉盛方法。
【請求項3】
前記ワークの肉盛部位は、シリンダヘッドの各バルブシート部であり、前記乾燥工程において、空気中に放置される時間は15分以上に設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の肉盛方法。
【請求項4】
ワークの所定部位に高密度エネルギビームを照射して肉盛りする高密度エネルギビーム照射装置を備えた肉盛装置であって、
該肉盛装置は、複数のワークを収容可能であり、各ワークを順次受け入れ、受け入れた時点から一定時間経過した後に、各ワークを順次前記高密度エネルギビーム照射装置に搬出するコンベヤを備えていることを特徴とする肉盛装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−6335(P2009−6335A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167704(P2007−167704)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】