説明

肛門又は陰部周辺清浄用シート

【課題】排泄物の拭き取り性に優れ、且つ尿臭を発生させにくい肛門又は陰部周辺清浄用シートを提供すること。
【解決手段】本発明の肛門又は陰部周辺清浄用シート1Aは、不織布(繊維シート)で構成され、不織布全体に凸部2および凹部3が形成されている。前記不織布には、水系洗浄剤が、繊維シート1重量部に対し1〜10重量部含浸されている。前記水系洗浄剤は、β−グルクロニダーゼ阻害剤0.001〜0.1重量%及び水80〜99.9重量%を含有している。前記水系洗浄剤は、さらに非イオン性界面活性剤0.1〜1重量%を含有し、該非イオン性界面活性剤が、ポリアルキレンオキサイド骨格を主鎖に有する非イオン性界面活性剤を全非イオン性界面活性剤中に90重量%以上含んでいることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維シートに水系洗浄剤が含浸された肛門又は陰部周辺清浄用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
赤ちゃんや被介護者の使い捨ておむつ等の交換時に、おしりや排泄部に付いた便や尿等の汚れを拭き取るため、ウェットタイプの使い捨てのシートである所謂おしり拭き用シートが汎用されている。また、生理用ナプキン交換時に排泄部の清浄用として、ウェットタイプの使い捨てのシートも知られている。
【0003】
特許文献1には、便等の拭き取り性向上のために、レーヨン繊維と親水化ポリエチレンテレフタレート繊維及び熱溶融性樹脂からなる繊維ウェブとが三次元的に交絡された不織布に、水中油分散型エマルジョンを含浸させたウェットティッシュが開示されている。
【0004】
しかしながら、引用文献1のウェットティッシュを、例えば、使い捨ておむつの交換時に使用した場合、ベタベタの軟便や水様便、下痢便では便の色が肌につき、何回拭いても色が取りきれず、便の拭き取り性ついて改善の余地があった。
【0005】
引用文献2には、水流交絡の不織布に、水系洗浄剤組成物を含浸させてなる皮膚洗浄用シートであって、該水系洗浄剤組成物は、非イオン性界面活性剤及び油分を含有したメイクアップや皮脂汚れを除去する、特に顔洗浄用の皮膚洗浄用シートが開示されている。引用文献2で洗浄性能の優れたシート材として具体的に開示された実施例では、シートとしてはメイクアップ汚れへの高い洗浄力を得るために、繊度が非常に細い0.5d以下の合成繊維が用いられ、また、シートに浸透される水系洗浄剤成分中の非イオン性界面活性剤量は多く配合されている。
【0006】
しかしながら、引用文献2のシートを肛門又は陰部周辺の便の拭き取りに使用した場合、繊度が細い合成繊維でシートが構成されているため、ウェット時の繊維間空隙が小さく、便の様な多量の排泄物がシート内に取り込まれにくく、容易に拭き取ることができない。
【0007】
また、各種消臭用途に使用可能な消臭剤含有シートとして、活性炭や抗菌剤等をパルプ繊維等からなる繊維シートに担持させたものが知られている。また、使い捨ておむつ等の吸収性物品においては、活性炭等の消臭剤を用いて、排泄物の臭いをおむつの外に出さないようにした消臭効果を有するものが提案されている。
【0008】
例えば特許文献3には、活性炭微粒子、繊維状ポリビニルアルコール系バインダー及びパルプ繊維を含有する活性炭微粒子含有シートが記載されている。また特許文献4には、抗菌性を有する金属を含むカンクリナイト様鉱物、粘土鉱物及びクラフトパルプを含む消臭抗菌繊維製品が記載されている。また特許文献5には、架橋性ビニルモノマー及びヘテロ芳香環を有するビニルモノマーを含むモノマー成分を共重合して得られる消臭粒子を備えた消臭繊維製品が記載されている。
【0009】
また特許文献6には、裏面シート外側表面上に香料ゾーンを介して裏打ち部材が付着した使い捨ておむつが記載されている。前記香料ゾーンは、臭気のマスキング又は吸収のためのマイクロカプセルを有するバインダーを含んでおり、使用時に前記裏打ち部材を剥離することで、該マイクロカプセルが破裂して消臭効果が奏される。
【0010】
特許文献3〜6に記載の技術によれば、相当の消臭効果が奏されるが、肛門又は陰部周辺の便の拭き取りや経血清浄等に使用されるシートにおいては、消臭効果の一層の向上が望まれている。
【0011】
一方でまた、おむつ使用時に着用者の身体に付着した少量の尿が長時間のうちに変性し、これにより尿臭が発生する場合がある。これは特に、介護施設や病院などにおいて、被介護者の体調やその他の要因で、おむつ着用者の入浴の機会が少ない場合や陰部の清拭が十分になされない場合に多い。また、使用後におむつをゴミ箱に廃棄した後、該おむつに付着していた尿がゴミ箱の中で腐敗し、これにより尿臭が発生する場合がある。これらの不快な尿臭を効果的に抑制する技術は未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−345997号公報
【特許文献2】特開2001−314342号公報
【特許文献3】特開平9−173429号公報
【特許文献4】特開2006−307404号公報
【特許文献5】特開2008−63711号公報
【特許文献6】特表2000−506426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の課題は、排泄物の拭き取り性に優れ、且つ尿臭を発生させにくい肛門又は陰部周辺清浄用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、尿より発生するフェノール系化合物及びインドール類が、尿臭への寄与の高い成分であること、及びこれらの成分は、菌体由来のβ−グルクロニダーゼが尿に作用することによって顕著に増加することを知見した。
【0015】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、水系洗浄剤が、繊維シート1重量部に対し1〜10重量部含浸された肛門又は陰部周辺清浄用シートであって、前記水系洗浄剤は、β−グルクロニダーゼ阻害剤0.001〜0.1重量%及び水80〜99.9重量%を含有することを特徴とする肛門又は陰部周辺清浄用シートを提供することにより前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の肛門又は陰部周辺清浄用シートは、排泄物の拭き取り性に優れていると共に、尿臭の原因物質の発生・増加を抑制するβ−グルクロニダーゼ阻害剤を含んでいるため、尿等の排泄物に対して優れた消臭効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の肛門又は陰部周辺清浄用シートの第1実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2は、図1におけるII−II線断面の一部拡大図である。
【図3】図3は、本発明の肛門又は陰部周辺清浄用シートの第2実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図4】図4は、図3におけるIV−IV線断面の一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の肛門又は陰部周辺清浄用シート(以下、清浄用シートともいう)をその好ましい実施形態に基づいて説明する。図1及び図2には、本発明の清浄用シートの第1実施形態が示されている。
【0019】
第1実施形態の清浄用シート1Aは、水系洗浄剤が繊維シートに所定量含浸されてなるもので、該繊維シートとして不織布(スパンレース不織布)を用いたものである。清浄用シート1A(不織布)には、図1及び図2に示すように、その全体に凸部2及び凹部3が形成されている。前記水系洗浄剤は、β−グルクロニダーゼ阻害剤0.001〜0.1重量%及び水80〜99.9重量%を必須成分として含有している。以下、この水系洗浄剤について説明する。
【0020】
本発明において用いられる水系洗浄剤は、β−グルクロニダーゼ阻害剤を含んでいる。β−グルクロニダーゼ阻害剤を肛門又は陰部周辺清浄用シートに含ませることによって、身体に付着した排泄物を該清浄用シートでふき取った際に、あるいは、予め該清浄用シートで身体の清拭を行っておくことにより、着用者の身体上にβ−グルクロニダーゼ阻害剤を存在させることができる。β−グルクロニダーゼ阻害剤は尿臭の原因物質であるフェノール系化合物及びインドール類の増加を抑制し、不快な尿臭の発生を持続的に抑制することができる。また例えば、使用済みの前記清浄用シートを使用済みのおむつと一緒に丸めて廃棄した場合には、β−グルクロニダーゼ阻害剤の作用により、廃棄後のおむつ内で不快な尿臭が発生することを抑制することが可能になる。
【0021】
β−グルクロニダーゼは、各種のアルコール類、フェノール類、アミン類等がグルクロン酸抱合された化合物(グルクロニド)を加水分解する酵素をいい、細菌、真菌、植物、動物など多くの生物に存在する。体外に排出された尿の分解には微生物の関与が大きいため、本発明においては、細菌及び真菌由来のβ−グルクロニダーゼが重要である。具体的には、Escherichia coli、Lactobacillus brevis、Propionibacterium acnes、Clostridium perfringens、Staphylococcus haemolyticus、Streptococcus agalactiae、Streptococcus pyogenes、Haemophilus somunus、Shigela sonnei、Aspergillus niger等由来のβ−グルクロニダーゼが挙げられる。これらの微生物由来のβ−グルクロニダーゼは共通のドメインを有する酵素群に分類される。更にはヒト血漿由来のβ−グルクロニダーゼも同様のタンパク質群に分類される。
【0022】
本発明において用いられるβ−グルクロニダーゼ阻害剤は、下記のβ-グルクロニダーゼ活性阻害率の測定方法において、反応液中0.1重量%添加することによって、活性が60%以上抑制されるβ−グルクロニダーゼ阻害活性を示すものをいう。更に、前記反応液中0.01重量%添加することによって、前記活性を80%以上抑制するものであることが好ましい。
【0023】
<β-グルクロニダーゼ活性阻害率の測定方法>
γ線滅菌済み容器中にて2mM・p−ニトロフェニル−β−D−グルクロニド(PNPG)水溶液100μL、0.5Mリン酸バッファー(pH6.8)40μL、イオン交換水38μL、各種化合物又は植物抽出物の10又は1重量%DPG(ジプロピレングリコール)溶液2μLを混合し、続いて16units/mLに調整したβ-グルクロニダーゼ水溶液20μLを加えて37℃恒温槽中で2時間酵素反応を行った。また一部の化合物については、さらに0.1重量%DPG溶液についても同様の実験を行った(供した化合物及び植物抽出物の反応液中での濃度はそれぞれ、0.1重量%、0.01重量%、0.001重量%となる)。また、前記化合物及び植物抽出物の代わりにDPGを加えたものをコントロールとし、各サンプル及びコントロールごとに酵素液の代わりにイオン交換水を加えたものをブランクとして、それぞれ同様に2時間反応を行った。前記反応液を0.2Mグリシンバッファー(pH10.4)を用いて希釈し、波長400nmにおける吸光度を測定した。得られた測定値より、次式に従ってβ-グルクロニダーゼ活性阻害率を求める。次式中、コントロール吸光度変化=(コントロールの吸光度−コントロールごとのブランクの吸光度)であり、サンプル吸光度変化=(サンプルの吸光度−サンプルごとのブランクの吸光度)である。 β-グルクロニダーゼ活性阻害率(%)=[(コントロール吸光度変化−サンプル吸光度変化)/(コントロール吸光度変化]×100
【0024】
本発明におけるβ−グルクロニダーゼ阻害剤としては、前述したβ−グルクロニダーゼ阻害活性を有するものを用いることができる。具体的には、例えばゴバイシタンニン、テンダイウヤク、アケビ等の植物抽出物;グルカロラクトン、グロバノン、ムスセノネデルタ、アンブレトライド、シベトーン、オキサライド、メチルオクチンカルボネート、エストラゴール、ムスクTM−II、ムスクZ−4、2−フェニルシクロペンテンオン、ベチベロール、メチルイオネン−G、シクラメナルデヒド、ヌーカトン、D−グルカロ−1,4−ラクトン、シス−ジャスモン、ターピニルアセテート、オルビトーン、リナリルアセテート、フェニルエチルイソアミルエーテル、メチルイオネン−A、ムスコン等の香料;カチオン性界面活性剤等を用いることができる。該カチオン性界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば花王製のサニゾール、コータミン(何れも商品名)が挙げられる。サニゾールには、サニゾールB−50(アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド)、サニゾールC(アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド)、サニゾールP(セチルリン酸化ベンザルコニウム)等がある。また、コータミンには、コータミン24P(ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド)、コータミン60W(セチルトリメチルアンモニウムクロライド)、コータミン86P(コンク ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド)、コータミン86W(ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド)、コータミンD2345P(ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド)、コータミンD86P(ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド)、コータミンE−80K(オクタデシロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)等がある。
【0025】
本発明においては、β−グルクロニダーゼ阻害剤として、動植物から単離したものを用いても良く、化学的に合成したものを用いても良い。また、これらの化合物を含有する精油などの植物抽出物、例えば、ベチバー油、バジル油、クローブ油、シナモン油、グレープフルーツ油等をそのままβ−グルクロニダーゼ阻害剤として用いても良い。これらの化合物又は植物抽出物は2種類以上組み合わせて用いても良い。
【0026】
本発明においては、β−グルクロニダーゼ阻害剤として、前述した植物抽出物、香料及びカチオン性界面活性剤からなる群から選択される1種以上が好ましく、特に、植物抽出物及びカチオン性界面活性剤からなる群から選択される1種以上が好ましい。とりわけ、酵素阻害効果や水系洗浄剤の分散安定性の観点から、植物抽出物としてはゴバイシタンニンが好ましく、香料としてはグルカロラクトン及びグロバノンが好ましく、カチオン性界面活性剤としてはサニゾールを用いることが好ましい。
【0027】
本発明に用いられる水系洗浄剤におけるβ−グルクロニダーゼ阻害剤の濃度は、0.01〜2.0重量%であり、特に0.05〜1.0重量%、とりわけ0.1〜0.5重量%であることが、消臭効果、薬液の保存安定性、拭き取り性、皮膚刺激性、他商品へのにおい移り性が少ない点で好ましい。
【0028】
また、本発明において用いられる水系洗浄剤における水の濃度は、80〜99.9重量%であり、特に85〜99.7重量%、とりわけ90〜99.5重量%であることが、べたつき、 ヌメリ等の感等の使用感触の点で好ましい。
【0029】
本発明において用いられる水系洗浄剤には、前述したβ−グルクロニダーゼ阻害剤及び水に加えて更に、非イオン性界面活性剤を含有させることが好ましい。水系洗浄剤に非イオン性界面活性剤を含有させることにより、便の色の拭き取り性がより一層向上する。便の色の主原因は、ヘモグロビン代謝物であるピリルビンであり、非イオン性界面活性剤は、このピリルビンに効果的に作用する。
【0030】
水系洗浄剤に含有させる非イオン性界面活性剤としては、水系での使用であること及び肌に付いた便の色の拭き取り性を考慮すると、HLB8〜16のものが好ましくさらに好ましくは13〜14である。また、非イオン性界面活性剤の分子量は、好ましくは300〜1000、更に好ましくは550〜750である。水系洗浄剤に含有させる非イオン性界面活性剤のHLB及び分子量がそれぞれ前記範囲にあると、該水系洗浄剤が良好な洗浄性能と安定性を両立し易くなるのでより好ましい。尚、本明細書において、分子量は、特に断らない限り、化学式に基づいて原子量と原子数との積の総和によって求められるものを意味する。
【0031】
尚、HLBとは、親水性−親油性のバランス(Hydrophile−Lypophile Balance)を示す指標であり、本発明においては小田・寺村らによる次式を用いて算出した値を用いている。HLB=(Σ無機性値/Σ有機性値)×10
【0032】
また、HLB及び分子量がそれぞれ前記範囲にある非イオン性界面活性剤を用いることによる他の効果として、繊維シートに含浸された水系洗浄剤が肌へ放出されやすくなる、即ち、肌に移行せずに繊維シートに保持されたままの水系洗浄剤の量が低減することが挙げられる。前記非イオン性界面活性剤を含有する本発明の清浄用シートにおいては、斯かるシート保持量の低減効果により、繊維シートへの水系洗浄剤の含浸量をある程度減らすことが可能であり、前記含浸量を減らしても、水系洗浄剤の放出性に優れるため、肌に移行する水系洗浄剤の量は、前記含浸量を減らす前と実質的に変わらない。また、本発明に係る繊維シートとして後述する水解性シート(第3実施形態)を用いた場合には、繊維シートが水解性(大量の水中に投入すると速やかに繊維レベルでばらばらに崩壊する性質)を有しているので、水系洗浄剤の含浸量が多くなると、繊維シートの湿潤強度が低下し、便の拭き取り作業中に繊維シートが破れるなど、操作性が低下するおそれがあるところ、前記非イオン性界面活性剤の使用によって前記含浸量の低減が可能になることで、水解性に起因するこのような不都合を回避することができる。また、水系洗浄剤の含浸量の低減は、製造コストの点でも有利である。
【0033】
前記非イオン性界面活性剤としては、ポリアルキレンオキサイド骨格を主鎖に有する非イオン性界面活性剤を全非イオン性界面活性剤中に90重量%以上、特に95重量%以上、とりわけ100重量%含むものが好ましい。
【0034】
前記ポリアルキレンオキサイド骨格を主鎖に有する非イオン性界面活性剤としては、下記一般式(1)で表される化合物(ポリエチレングリコール高級脂肪酸エステル)、下記一般式(2)で表される化合物(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)、及び下記一般式(3)で表される化合物(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)からなる群から選択される1種以上を用いることが、皮膚に対する刺激がより低く、肌に付いた便の色の拭き取り性が高いため、好ましい。
【0035】
1COO−(CH2CH2O)n−H (1)
〔前記式(1)中、R1COは炭素数4〜30の飽和又は不飽和のアシル基を示し、nは重量平均で1〜50の数を示す。〕
【0036】
前記式(1)中、R1COは炭素数4〜30の飽和又は不飽和のアシル基を示し、特に炭素数10〜22のもの、例えばカプリノイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル 基、ステアロイル基が好ましい。また、nは重量平均で1〜50の数を示し、特に10〜30が、肌に付いた便の色の拭き取り性がより高くなるので好ましい。前記一般式(1)で表されるポリエチレングリコール高級脂肪酸エステルの例としては、ポリオキシエチレン(n=12)モノラウレート等が挙げられる。
【0037】
2O−(CH2CH2O)n−H (2)
〔前記式(2)中、R2は炭素数4〜30の直鎖又は分岐鎖で且つ飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、nは重量平均で1〜50の数を示す。〕
【0038】
前記式(2)中、R2は炭素数4〜30の直鎖又は分岐鎖で且つ飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、特に炭素数4〜30の飽和又は不飽和のアルキル基、とりわけ炭素数12〜18のもの、例えばラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基が好ましい。また、nは重量平均で1〜50の数を示し、特に4〜10が、肌に付いた便の色の拭き取り性がより高くなるので好ましい。前記一般式(2)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルの例としては、ポリオキシエチレン(n=9)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(n=5)ラウリルエーテル等が挙げられる。
【0039】
3O−(CH2CH2O)n−(CH2CH(CH3)O)m−H (3)
〔前記式(3)中、R3は炭素数4〜30の直鎖又は分岐鎖で且つ飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、nは重量平均で0〜50の数、mは重量平均で1〜50の数を示す。〕
【0040】
前記式(3)中、R3は炭素数4〜30の直鎖又は分岐鎖で且つ飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、特に炭素数4〜30の飽和又は不飽和のアルキル基を示し、とりわけ炭素数12〜22のもの、例えばラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基が好ましい。また、nは重量平均で0〜50の数を示し、特に4〜12が、肌に付いた便の色の拭き取り性がより高くなるので好ましい。また、mは重量平均で1〜50の数を示し、特に1〜10が、肌に付いた便の色の拭き取り性がより高くなるので好ましい。前記一般式(3)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの例としては、ポリオキシエチレン(n=7)ポリオキシプロピレン(n=2.5)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(n=7)ポリオキシプロピレン(n=4.5)ラウリルエーテル等が挙げられる。
【0041】
本発明において、非イオン性界面活性剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができ、2種以上の非イオン性界面活性剤を組み合わせる場合には、特に前記式(1)〜(3)で示された構造のもののみで組合せることが好ましい。
【0042】
本発明において用いられる水系洗浄剤における非イオン性界面活性剤の濃度は、0.1〜1重量%であり、特に0.2〜1重量%、とりわけ0.3〜1重量%であることが、肌に付いた便の色の拭き取り性や、べたつき、ヌメリ感等の使用感触の点で好ましい。
【0043】
本発明において用いられる水系洗浄剤には、シリコーンオイルを含有させることができる。シリコーンオイルは、消泡効果を付与するためのものであり、シリコーンオイルとしては、オイル型、オイルコンパウンド型、溶液型、粉末型、固形型、エマルジョン型及び自己乳化型等が挙げられ、特に、安全性の点から、食品添加物としても利用可能なエマルジョン型のシリコーンオイルが好ましい。また、上記シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル及びメチルハイドロジェンシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイル並びに反応性シリコーンオイル及び非反応性シリコーンオイル等の変形シリコーンオイル等が挙げられ、安全性の点から、ノニオン系活性剤(例えば、ソルビタン脂肪酸エステル)で乳化したシリコーンオイルが好ましい。シリコーンオイルは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
本発明において用いられる水系洗浄剤におけるシリコーンオイルの濃度は、0.001〜0.1重量%であり、特に0.002〜0.1重量%、とりわけ0.03〜0.08重量%であることが、消泡性、使用感触及び系の安定性の点で好ましい。
【0045】
前述したように水系洗浄剤にシリコーンオイルを含有させる場合には、更にシリカを含有させることが好ましい。シリカは、シリコーンオイルの消泡効果を安定させるためのものであり、シリカとしては、99%以上が二酸化珪素からなり、緻密な構造のA型シリカと、緩やかな構造のB型シリカが挙げられる。
【0046】
本発明において用いられる水系洗浄剤におけるシリカの濃度は、0.0001〜0.01重量%であり、特に0.0002〜0.01重量%、とりわけ0.003〜0.008重量%であることが、消泡性の向上の点で好ましい。
【0047】
本発明において用いられる水系洗浄剤には、使用感触と肌に付いた便の色の拭き取り性を向上させる目的で多価アルコール又はグリコールエーテルを配合することができる。多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、イソプレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられ;グリコールエーテルとしては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコー ルモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられる。これらの多価アルコール及びグリコールエーテルは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
これらのうち、特にエチレングリコール、プロピレングリコール、イソプレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール、ジエチレングリコールモノエチルエーテルが、使用感触の点から好ましく、更にプロピレングリコール、ジプロピレングリコールが、洗浄力(肌に付いた便の色の拭き取り性)及び低刺激性の点から好ましい。
【0049】
本発明において用いられる水系洗浄剤における多価アルコール又はグリコールエーテルの濃度は、1〜30重量%であり、特に2〜20重量%、とりわけ5〜15重量%であることが、洗浄力(肌に付いた便の色の拭き取り性)、使用感触及び系の安定性の点で好ましい。
【0050】
本発明において用いられる水系洗浄剤には、前述した各成分以外に必要に応じ、通常の洗浄剤組成物に用いられる成分、例えば保湿剤、殺菌剤、防腐剤、キレート剤、電解質物質、薬効剤、色素、香料、酸化防止剤、pH調整剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有させることができる。
【0051】
また、本発明において用いられる水系洗浄剤には、スキンケア剤として、ショウキョウエキス、ユーカリエキス、チューベロースエキス、チョウジエキス、ユズエキス、メマツヨイグサエキス、サクラエキス、オクラエキス、ハマメリスエキス、アロエエキス、ヨーグルトエキス、ダイズエキス、シャクヤクエキス、カミツレエキス、クロレラエキス、キイチゴエキス、グレープフルーツエキス、アボガドエキス、ビルベリー葉エキス、オドギリソウエキス、ももの葉エキス、トレハロース、タンニン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリグルタミン酸、合成セラミド等を含有させることができる。
【0052】
第1実施形態の清浄用シート1Aは、前述の如き組成の水系洗浄剤が、繊維シートとしての不織布に所定量含浸されてなるものである。以下、この繊維シートを構成する不織布について説明する。
【0053】
前記不織布(繊維シート)は、該不織布を構成する繊維として1)セルロース系繊維、2)ポリエステル系繊維又はポリアセタール繊維、及び3)熱融着性繊維を含んでいることが好ましい。前記不織布には、親水性や不織布強度、風合い等を考慮として、その他の繊維を含ませても良い。また、前記不織布としては、スパンレース不織布が好適に使用できる。スパンレース不織布は、例えば前記1)〜3)の繊維を混合してウェブを形成し、このウェブに水流交絡法により繊維同士の交絡をさせて得られる。
【0054】
前記不織布(繊維シート)は、水系洗浄剤を良好に保持できる観点から、不織布を構成する繊維としてセルロース系繊維を、不織布の全重量に対して20〜70重量%、特に30〜60重量%含んでいることが好ましい。
【0055】
前記セルロース系繊維としては、例えば、コットン、パルプ、麻等の天然セルロース系繊維;レーヨン、リヨセル、テンセル、キュプラ等の再生セルロース系繊維等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。前記不織布としてスパンレース不織布を用いる場合において、スパンレース法での水流交絡による凹凸の形成性やシートの嵩高性を付与する点から、セルロース系繊維としてはリヨセル繊維又はテンセル繊維を用いることが好ましい。
【0056】
前記不織布(繊維シート)は、該不織布に実用上十分な強度を付与する観点から、不織布を構成する繊維としてポリエステル系繊維又はポリアセタール繊維を、不織布の全重量に対して15〜60重量%、特に20〜50重量%含んでいることが好ましい。
【0057】
前記ポリエステル系繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維等が挙げられる。ポリエステル系繊維及びポリアセタール繊維は、弾性や回復(復元)性があるため、前記不織布としてスパンレース不織布を用いる場合において、水流により繊維を曲げて交絡させる過程で水流による曲げに対し戻ろうとする力が強く働き、結果として嵩高で空隙の大きな構造を作ることができる。ポリエステル系繊維又はポリアセタール繊維は、スパンレース法での水流交絡による凹凸の形成性及び水系洗浄剤の保持の点から、親水性であることが好ましい。繊維に親水性を付与する方法として、親水性の油剤をスプレーや浸漬法、ロールコート法により繊維表面に付着させることや、繊維の紡糸前の樹脂に親水性の成分を添加して練り込み、紡糸することで付与できる。親水油剤としては、アニオン系、カチオン系、両性系、ノニオン系の界面活性剤の様々な分子量のものを単独又は組み合わせて用いることができるが、特にスパンレース法により不織布を形成する場合は通常の親水化油剤は流れ落ちてしまうので、ウェットシートに用いる場合に含浸液の保持性や分散性が低下する。親水化の好ましい技術の例としては特開2007−31906号公報や特開2005−344260公報、特開2005−154975公報、特開2001−303450公報等、水溶液に対して耐久性が付与した方法が挙げられる。
【0058】
前記不織布(繊維シート)は、特に水系洗浄剤を良好に保持できる点から、セルロース系繊維の含有量の方が、ポリエステル系繊維又はポリアセタール繊維の含有量に比べて、多いことが好ましい。
【0059】
前記不織布(繊維シート)は、該不織布としてスパンレース不織布を用いる場合においてスパンレース法での水流交絡による凹凸形成性と水系洗浄剤の分散性の観点から、不織布を構成する繊維として熱融着性繊維を、不織布の全重量に対して10〜30重量%、特に5〜20重量%含んでいることが好ましい。
【0060】
前記熱融着性繊維としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル等の単一繊維やそれらの複合繊維、アクリル、ナイロン、ビニロン等が挙げられ、半合成繊維としてはアセテートとタンパク繊維等が挙げられる。洗浄剤含浸時の空隙の維持、厚みの維持の点ではポリプロピレン・ポリエチレン芯鞘型複合繊維が好ましい。
【0061】
前記不織布(繊維シート)の坪量は、20〜100g/m2、特に20〜80g/m2、更には30〜60g/m2の範囲にあることが、拭き取り性や肌触りが良好である点、またコストの点から好ましい。不織布の坪量は、常法により一定面積(1m2)あたりの重量を測定することにより、求めることができる。
【0062】
前記不織布のウエット時の厚みは、0.45〜1.0mm、特に0.5〜1.0mm、更には0.55〜1.0mmの範囲にあることが、拭き取り性や肌触りが良好である点から好ましい。このウエット時の厚みは、乾燥状態の繊維シート1重量部に対し水を2重量部含浸させて湿潤状態とし、36Paの圧力下で、ダイヤルゲージ式又はレーザー式変位計により測定される。
【0063】
前記不織布のウエット時の空隙率は、0.02〜0.2g/cm3、特に0.02〜0.15g/cm3、更には0.02〜0.1g/cm3の範囲にあることが、便の拭き取り性、肌触りが良好である点から好ましい。このウエット時の空隙率(密度)は、前記不織布の坪量とウェット時の厚み測定より、次式によって計算される。
【0064】
【数1】

【0065】
前記不織布の構成繊維の繊度は、肌触りや軟便の拭き取り性、拭き取った便の保持性の点から4dtex以下であり、特に2.5dtex〜0.7dtexが好ましい。繊度の測定は、不織布の構成繊維をボーケンステイン試薬により染色識別し、構成繊維の種類を確認した後、実体顕微鏡又は電子顕微鏡にて150倍〜500倍に拡大して繊維の断面形状を観察することにより行う。断面が概略円形であれば、繊維の幅を数箇所実測する。各繊維種ごとに密度と繊維の断面積から繊度を計算し、平均繊度を求める。また、異型断面繊維の場合は、前述同様断面形状を幾何学形状に近似し、断面積を求め、平均繊度を計算する。
【0066】
前記不織布の構成繊維の平均繊維長は、凹凸の形成性及び肌触り等の点から、20〜80mmが好ましく、30〜70mmがより好ましい。この平均繊維長は、実体顕微鏡又は電子顕微鏡で20倍〜50倍に拡大して観察し、繊維1本の長さを測定する。2本以上の繊維について斯かる方法により長さを測定してそれらの平均を求める。
【0067】
第1実施形態の清浄用シート1Aにおける前記不織布(繊維シート)は、図1及び図2に示すように、その表面に無数個の凸部2及び無数個の凹部3からなる凹凸を有しており、便の拭き取り性および保持性に優れている。 凸部の高さh(図2参照)は、0.1〜1.2mmであることが好ましく、0.2〜0.8mmであることがより好ましい。1つの凸部2の平面視の面積は、0.1〜10mm2であることが好ましく、0.3〜5mm2であることがより好ましい。凸部2とそれに隣り合う凸部2の間隔p(図2参照)は、1〜10mmであることが好ましく、凹部3と凹部3の間隔も同様である。凸部は平面視で円形であり、千鳥状に配置されている。なお、凸部2の形状や配置はこれに制限されず、 四角形や三角形や花形でも良く、筋状に配置されていても良い。凸部の高さや凸部の平面視の面積は実体顕微鏡で拡大して10個測定し、その平均より求める。
【0068】
前記不織布(繊維シート)の凹凸の形成方法は、特に制限がなく、不織布製造の後工程で凹凸を有するロールで挟圧することにより形成することができる。特にウエット時の空隙率を維持し、汚れの取り込み及び保持性を良好にする点並びに肌触りの点から、スパンレース法の水流交絡工程において形成することが好ましい。スパンレース法の水流交絡工程において凹凸を形成することは、例えば、ネットのメッシュサイズやパターンを変更することでなされる。
【0069】
前記不織布の凸部での繊維空隙(平均繊維距離)は、便の拭き取り及び保持性を良好にする観点から、5〜80μmが好ましく、特に25〜70μmが好ましい。この平均繊維距離は、特開2006−045096号公報に記載の方法により求められる。
【0070】
第1実施形態の清浄用シート1Aは、前記水系洗浄剤が前記不織布(繊維シート)1重量部に対し、1〜10重量部、好ましくは1.5〜5重量部含浸されてなるものである。前記不織布に前記水系洗浄剤を含浸させる方法は特に制限されず、例えば、グラビアコーターやダイコーターを用いた塗布、ノズルからの塗出塗布、スプレー塗布等を用いることができる。
【0071】
第1実施形態の清浄用シート1Aは、赤ちゃんや被介護者のおしりや排泄部に付いた便や尿等の汚れを拭き取る目的の他、例えば、生理用ナプキン交換時に排泄部の経血を清浄する目的等にも好適に用いることができる。そして、第1実施形態の清浄用シート1Aは、主としてβ−グルクロニダーゼ阻害剤を含んでいることにより、肛門や陰部周辺の汚れを拭き取ったときにその拭き取り部分にβ−グルクロニダーゼ阻害剤を存在させることができ、これにより、尿臭の原因物質であるフェノール系化合物及びインドール類の増加が抑制され、不快な尿臭の発生が持続的に抑制される。また例えば、使用済みの清浄用シート1Aを使用済みのおむつと一緒に丸めて廃棄した場合には、β−グルクロニダーゼ阻害剤の作用により、廃棄後のおむつ内で不快な尿臭が発生することが抑制される。
【0072】
また、前述したように水系洗浄剤に非イオン性界面活性剤を含有させた場合、特に、ポリアルキレンオキサイド骨格を主鎖に有する非イオン性界面活性剤を含有させた場合には、便の色、即ちビリルビンに作用して便を拭き取ることがより一層容易になる。そのため、軟便等による肌に付いた便の色の拭き取り性が良好となる。従って、肛門や陰部周辺等を清浄用シート1Aで何度もこすらずに清浄を終了することが可能となり、肌へのダメージが生じ難くなる。尚、便の色(ピリルビン)の拭き取り性は、主に肌に付いた便の色又は清浄用シートに付いた便の色を目安とすることができ、例えば次のようにして評価することができる。
【0073】
<便の色(ビリルビン)の拭き取り性の評価方法>
便の色(ビリルビン)の拭き取り性評価は、成人の前腕部内側にビリルビンを付着させて行う。先ず、前腕部内側の測定部位の色差を測定する。その時のb*をbb*とする。色差は日本電色工業製のハンディ型簡易分光色差計NF333を用いて測定する。次に、測定部位(成人の前腕部内側)に耳掻き状の匙を用いてビリルビンを約2mgを直径20mm程度の範囲で擦り付けて付着させる。ビリルビンは和光純薬工業から試薬として入手したものを用いる。ビリルビンの付着量は、付着後の色差測定値b0*、Δb0=b0*−bb*とした時、Δb0が、15〜20となるように調整する。次に評価する清浄用シートを準備し、そのカット長を200mm×150mmとし、これを8つ折り(50mm× 75mm)に折り畳む。次いで、前腕部のビリルビン付着部位の脇に8つ折りのシートを置き、その上に30mm×60mmの錘を載せる。錘はシートに対する荷重が0.5kPaとなるようにする。そして、錘を載せたシートを手で前腕部に対し水平方向に引っ張り、ビリルビン付着部位の拭き取りを行う。引張は長手方向(サンプル 75mm長さの方向)に行う。拭き取り後に色差計を用い、ビリルビン付着部位の色差を測定してその時の値をb1*とする。Δb1=b1*−bb*とし、このΔb1が5以下になれば、拭き取り性が良好なものと判断される。
【0074】
また、第1実施形態の清浄用シート1Aは、その表面に凹凸が形成されており、便の拭き取り性や保持性が良好であり、肌触りも良好である。特に、凸部2は繊維空隙が大きく嵩高に形成されている点から、軟便の保持性が良好である。便の拭き取り性が良好であることから、何度もおしりを擦る必要がなく、肌にもやさしい。
【0075】
また、前述したように水系洗浄剤にシリコーンオイルを含有させた場合、更にはシリカを含有させた場合には、表面に凹凸を有する不織布に泡を発生させにくく、赤ちゃんのデリケートな肌を洗剤で洗い落とすようなイメージを、母親に抱かせてしまうおそれがない。
【0076】
以下、本発明の肛門又は陰部周辺清浄用シートの他の実施形態について説明する。後述する他の実施形態については、上述した第1実施形態の清浄用シートと異なる構成部分を主として説明し、同様の構成部分は同一の符号を付して説明を省略する。特に説明しない構成部分は、第1実施形態の清浄用シートについての説明が適宜適用される。
【0077】
図3及び図4には、本発明の清浄用シートの第2実施形態が示されている。第2実施形態の肛門又は陰部周辺清浄用シート1Bを構成する不織布(繊維シート)は、図3及び図4に示すように、無数個の開孔部4を有し、これにより便の拭き取り性及び保持性に優れる。各開孔部4は、不織布の縦方向又は横方向に同じ形状で形成されている。第2実施形態の清浄用シート1Bを構成する不織布の坪量、ウエット時の厚み、ウエット時の空隙率は、それぞれ第1実施形態と同様にすることができる。
【0078】
開孔部4の平均開孔面積(平面視の面積)は、0.1〜10mm2であることが好ましく、0.3〜5mm2であることがより好ましい。開孔部4の平均開孔面積は、実体顕微鏡で拡大して10個測定し、その平均より求める。また、開孔部4とそれに隣り合う開孔部4との間隔p(図4参照)は、1.5〜3mmであることが好ましい。開孔部4は平面視で円形又は楕円形であり、千鳥状に配置されている。なお、無数個の開孔部4の形状や配置はこれに制限されず、四角形や三角形や花形でもよい。また、無数個の開孔部4は前記範囲において幾つか異なる開孔径や形状が組み合わされていても良い。
【0079】
第2実施形態の清浄用シート1Bの無数個の開孔部4の形成方法には、特に制限がなく、不織布製造の後工程で凹凸を有するロールで挟圧/開孔することにより形成することができる。開孔部の明瞭性や形状保持性の点及び肌触りの点で、スパンレース法の水流交絡工程において形成することが好ましい。これにより、汚れの取り込み及び保持性を良好にすることができる。スパンレース法の水流交絡工程において形成するには、ネットのメッシュサイズやパターンを変更することにより開孔部を調整することができる。
【0080】
第2実施形態の清浄用シート1Bによっても、第1実施形態の清浄用シート1Aと同様の効果が得られる。特に、第2実施形態の清浄用シート1Bは、開孔部4を有しているため、便の拭き取り性や保持性が良好であり、肌触りも良好である。
【0081】
次に、本発明の肛門又は陰部周辺清浄用シートの第3実施形態について説明する。第3実施形態の清浄用シートは、その繊維シートが、セルロース系繊維を主体とする水解性シートであり、該水解性シートは水溶性バインダーを含んでいる。第3実施形態の清浄用シートにおける水系洗浄剤としては、前述したものと同様のものを用いることができる。以下、第3実施形態の清浄用シートを構成する水解性シートについて説明する。
【0082】
前記水解性シート(繊維シート)は、セルロース系繊維を主体とする。水解性シートにおけるセルロース系繊維の含有量は、該水解性シートの全重量に対して、好ましくは80〜100重量%、更に好ましくは90〜100重量%である。
【0083】
前記セルロース系繊維としては、例えば、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、針葉樹晒しサルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)等の漂白された木材パルプ、コットン、麻等の天然セルロース系繊維;レーヨン、リヨセル、キュプラ等の再生セルロース系繊維等が挙げられる。これらのセルロース系繊維の中でも、特にNBKPやNBSPが柔軟性や強度の点で好ましい。
【0084】
前記水解性シートの構成繊維としては、前記セルロース系繊維以外の他の繊維、例えば、ポリビニルアルコール繊維や他のポリオレフイン系繊維、ポリエステル系繊維、生分解性を有するポリ乳酸を用いた繊維等を用いても良い。これら他の繊維の含有量は、水解性シートの全重量に対して、好ましくは0〜20重量%、更に好ましくは0〜10重量%である。
【0085】
前記水解性シートは水解性を有しており、例えば水洗トイレに流すなど、大量の水中に廃棄すると速やかに繊維レベルでばらばらに崩壊し、水洗トイレを詰まらせることなく流すことができる。しかし、便等を拭き取るときには、水系洗浄剤が含浸された状態でその作業に耐え得る十分な湿潤強度が必要である。斯かる観点から、水解性シートは、セルロース系繊維に加えて、水溶性バインダーを含んでいる。水溶性バインダーを用いることで、水解性のコントロールが容易になり、少量の水では崩壊しないが、大量の水中に廃棄すると速やかに繊維レベルで崩壊する水解性シートが得られる。
【0086】
前記水溶性バインダーとしては、例えばカルボキシル基を有する水溶性バインダーのようなアニオン性バインダー、ポリビニルアルコール、デンプン又はその誘導体、アルギン酸ナトリウム、トラントガム、グアーガム、キサンタンガム、アラビアゴム、カラギーナン、ガラクトマンナン、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、プルプラン、ポリエチレンオキシド、ビスコース、ポリビニルエチルエーテル、ポリアクリル酸ソーダ、ポリメタアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸のヒドロキシル化誘導体、ポリビニルピロリドン/ビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。これらのバインダーのうち、水解性が良好である点や後述する架橋剤との親和性の点からカルボキシル基を有する水溶性バインダーのようなアニオン性バインダーや、ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
【0087】
前記カルボキシル基を有する水溶性バインダー(アニオン性バインダー)は、水中で容易にカルボキシラートを生成するアニオン性の水溶性バインダーである。その例としては多糖誘導体、合成高分子、天然物が挙げられる。多糖誘導体としてはカルボキシメチルセルロース又はその塩、カルボキシエチルセルロース又はその塩、カルボキシメチル化デンプン又はその塩などが挙げられ、特にカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩が好ましい。合成高分子としては、不飽和カルボン酸の重合体又は共重合体の塩、不飽和カルボン酸と該不飽和カルボン酸と共重合可能な単量体との共重合体の塩などが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸などが挙げられる。これらと共重合可能な単量体としては、これら不飽和カルボン酸のエステル、酢酸ビニル、エチレン、アクリルアミド、ビニルエーテルなどが挙げられる。特に好ましい合成高分子は、不飽和カルボン酸としてアクリル酸やメタクリル酸を用いたものであり、具体的にはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸メタクリル酸共重合体の塩、アクリル酸又はメタクリル酸とアクリル酸アルキル又はメタクリル酸アルキルとの共重合体の塩が挙げられる。天然物としては、アルギン酸ナトリウム、ザンサンガム、ジェランガム、タラガントガム、ペクチンなどが挙げられる。
【0088】
前記カルボキシル基を有する水溶性バインダーのうち特に好ましいものはカルボキシメチルセルロース(CMC)のアルカリ金属塩である。CMCはそのエーテル化度が0.8〜1.2、特に0.85〜1.1であることがバインダーとしての性能が良好となる点、及び後述する架橋剤との親和性が良好である点から好ましい。同様の理由により、CMCは25℃における1重量%水溶液の粘度が10〜40mPa・s、特に15〜35mPa・sであり、同温度における5重量%水溶液の粘度が2500〜4000mPa・s、特に2700〜3800mPa・sであり、更に60℃における5重量%水溶液の粘度が1200mPa・s以下であることが好ましい。
【0089】
前記水溶性バインダーの含有量は、前記水解性シート(繊維シート)の構成繊維の全重量に対して、好ましくは1〜20重量%、更に好ましくは5〜10重量%である。
【0090】
前記水溶性バインダーを前記水解性シートに含ませる方法に特に制限はなく、内添法でも良く、外添法でも良い。内添法としては、例えば、水解性シートを湿式抄紙法で製造する場合において、その紙料(繊維分散液)中に水溶性バインダーを予め添加しておく方法が挙げられる。外添法としては、例えば、セルロース系繊維を含むウェブ(紙)を形成した後に、該ウェブに所定の添加手段によって水溶性バインダーを添加する方法が挙げられる。この外添法においては、水溶性バインダーがウェブに点状に付着するように該バインダーを添加することが、水解性の向上の点から好ましい。水溶性バインダーを点状に付着させるには、例えばスプレー塗工を用いることができる。
【0091】
本発明において、繊維シートとして前記水溶性バインダーを含有する水解性シートを用いる場合、該水解性シートに含浸させる水系洗浄剤に架橋剤を含有させると、水解性シートの湿潤強度の向上に効果がある。
【0092】
前記架橋剤は、水溶性バインダーの種類に応じて適切なものが用いられる。例えば、水溶性バインダーとしてアニオン性バインダー、特にCMCなどのカルボキシル基を有する水溶性バインダーを用いる場合、架橋剤としては多価金属イオンを用いることが好ましい。特にアルカリ土類金属、マンガン、亜鉛、コバルト及びニッケルからなる群から選択される1種又は2種以上の金属イオンを用いることが、繊維間が十分に結合されて清拭作業に耐え得る強度が発現する点、及び水解性が十分になる点から好ましい。これらの金属イオンのうち、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、コバルト、ニッケルのイオンを用いることが、一層高い湿潤強度が得られ、清拭操作を首尾良く行い得る点から特に好ましい。
【0093】
前記金属イオンは、水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ギ酸塩、酢酸塩などの水溶性金属塩の形で水系洗浄剤に添加して使用することができる。金属イオンは、本発明の清浄用シート中に存する水溶性バインダーにおけるカルボキシル基1モルに対して1/4モル以上、特に1/2モル以上の量となるように添加されることが、十分な架橋反応を起こさせる点から好ましい。
【0094】
また、水溶性バインダーとしてポリビニルアルコールを用いる場合、架橋剤としてはホウ酸を用いることが好ましい。これによってポリビニルアルコールとホウ酸との間に架橋反応が生じ、ポリビニルアルコールが不溶化する。ホウ酸は、水系洗浄剤中に1〜5重量%の濃度で配合されていることが好ましい。特に高重合度のポリビニルアルコールを用いる場合には1〜3重量%、中重合度ないし低重合度のポリビニルアルコールを用いる場合には3〜5重量%の濃度で配合されることが好ましい。
【0095】
前記水解性シート(繊維シート)の坪量は、20〜100g/m2、特に30〜80g/m2であることが、拭き取り性や肌触りが良好である点、またコストの点から好ましい。また、同様の観点から、前記水解性シートのウエット時の厚みは、好ましくは0.1〜1.0mm、更に好ましくは0.2〜0.8mmである。ここで、ウエット時の繊維シートの厚みは、乾燥状態の繊維シート1重量部に対し水を2重量部含浸させて湿潤状態とし、この湿潤状態の繊維シートの36Paの圧力下での厚みを、ダイヤルゲージ式又はレーザー式変位計により測定したものである。
【0096】
前記水解性シート(繊維シート)は、湿式抄紙法によって製造することができる。湿式抄紙法で用いる湿式抄紙機としては、例えば、短網抄紙機、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、オントップ抄紙機、ハイブリッド抄紙機、丸網抄紙機等が挙げられる。
【0097】
前記水解性シートは、単層構造(即ち1枚のシート)であっても良く、2層以上の紙層が積層された多層構造であっても良い。また例えば第1実施形態の不織布(繊維シート)の如く、前記水解性シートの一面又は両面に凹凸が形成されていても良く、また例えば第2実施形態の不織布(繊維シート)の如く、水解性シートに該水解性シートを厚み方向に貫通する開孔部が多数形成されていても良い。
【0098】
第3実施形態の清浄用シートによっても、第1実施形態の清浄用シート1Aと同様の効果が得られる。特に、第3実施形態の清浄用シートは、その繊維シートが水解性を有しているため、肛門又は陰部周辺を擦って汚れを拭き取った後に水洗トイレにそのまま流すことができ、廃棄性、取り扱い性に優れる。
【0099】
本発明の肛門又は陰部周辺清浄用シートは、前記実施形態に何ら制限されるものではなく、適宜変更可能である。例えば、前記第1及び第2実施形態の清浄用シート1A,1Bにおいては、繊維シートとしてのスパンレース不織布を形成する際に、セルロース系繊維、ポリエステル系繊維又はポリアセタール繊維、及び熱融着性繊維を混合したが、それぞれの繊維からなるウェブを形成し、それらを積層して3層のウェブを形成した後に、水流交絡法によりウェブの繊維同士及び層間の繊維同士を交絡させて不織布化しても良い。また、2種類の繊維を混合したウェブを形成し、もう1種類の繊維のウェブに積層して、水流交絡法により不織布化しても良い。例えば、セルロース系繊維を中央の層とし、ポリエステル系繊維又はポリアセタール繊維、及び熱融着性繊維を混合して形成したウェブを上下層として積層し、水流交絡法により不織布化した場合、不織布の表面のウエット感が少なく、加圧によって含浸液が不織布中からにじみ出てくるという構造のシートを得ることができる。
【0100】
また、前記第1及び第2実施形態の清浄用シート1A,1Bにおける繊維シートは、単層スパンレース不織布であったが、既に形成された他の不織布上に、セルロース系繊維と、ポリエステル系繊維又はポリアセタール繊維と、熱融着性繊維とを含むウェブを積層し、水流交絡法により不織布とウェブとを一体化し、スパンレース不織布を得てもよい。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の例中、特に断らない限り「%」は、「重量%」を意味する。
【0102】
〔実施例1〕
リヨセル繊維(繊度1.7dt、繊維長38mm)、親水化PET繊維(繊度1.6dt、繊維長51mm)及びポリプロピレン・ポリエチレン芯鞘型複合繊維(繊度1.7dt、繊維長51mm)を、60%、30%、10%の重量割合で混合し、カードウェブを作製した。次に水流交絡法によりウェブの繊維同士を交絡させ、不織布化し、その後凹凸エンボス加工処理を行い凹凸形状を付与し、坪量50g/m2の凹凸のあるスパンレース不織布を得た。凸部の平面視の形状は円状で、その大きさは直径2.5mm、凸部の高さhは0.6mm、凸部の間隔pは、MD方向が9mm、CD方向が7mmで千鳥状に配列されている(パターン1)。
【0103】
次に、表1に示すように、β−グルクロニダーゼ阻害剤としてゴバイシタンニンを0.1%、ポリアルキレンオキサイド骨格を主鎖に有する非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン(n=9)ラウリルエーテル(HLB=14)を0.5%、及びシリコーンオイルとしてシリコーン系消泡剤(商品名「KM−72」、信越化学製、シリコーン30%、シリカ3%)を0.02%含有する水系洗浄剤を調製し、前記スパンレース不織布1重量部に対し、該水系洗浄剤を2.2重量部の割合でスプレー塗布して肛門又は陰部周辺清浄用シートを得、これを実施例1のサンプルとした。
【0104】
〔実施例2〜4〕
実施例1においてゴバイシタンニンの代わりにグルカロラクトン(実施例2)、グロバノン(実施例3)、サニゾールC(実施例4)を用いた以外は実施例1と同様にして肛門又は陰部周辺清浄用シートを得、それぞれ実施例2〜4のサンプルとした。
【0105】
〔実施例5〕
テンセル繊維(繊度1.7dt、繊維長38mm)、PET繊維(繊度1.6dt、繊維長51mm)及びポリプロピレン・ポリエチレン芯鞘型複合繊維(繊度1.7dt、繊維長51mm)を、60%、30%、10%の重量割合で混合し、カードウェブを作製した。それ以外は、実施例1と同様にして、スパンレース不織布を得て、表1に記載した水系洗浄剤を塗布し、肛門又は陰部周辺清浄用シートを得、これを実施例5のサンプルとした。
【0106】
〔実施例6〕
次の手順で水解性の繊維シートを製造した。NBSP及びNBKPを配合割合(NBSP/NBKP)80/20%の比率で水に分散させて、濃度2%のスラリーを得た。このスラリーを原料として短網抄紙機によって湿式抄紙し、得られた紙の片面にスプレーによって5%のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(日本製紙のサンローズ)の水溶液を噴霧塗布した後、ドライヤーで乾燥し、単層紙を得た。得られた単層紙の坪量は30g/m2、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の外添量はパルプの合計量に対して7%であった。得られた2枚の単層紙を、それらのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の水溶液の塗布面同士が対向するように重ね合わせ、その状態で室温でエンボス加工を施し、坪量60g/m2の水解性の繊維シート(水解性シート)を得た。エンボスパターンは直径1mmのドットで縦ピッチ3mm、横ピッチ1mmで3列千鳥状に配置されたパターンを、横方向に50mm間隔で配置したものである。
【0107】
次に、表1に示すように、β−グルクロニダーゼ阻害剤としてゴバイシタンニンを0.1%、ポリアルキレンオキサイド骨格を主鎖に有する非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン(n=9)ラウリルエーテル(HLB=14、分子量582)を0.5%、ジプロピレングリコールを18%、塩化カルシウムを3%、及び水を78.4%含有する水系洗浄剤を調製し、前記水解性シート1重量部に対し、該水系洗浄剤を2重量部の割合でスプレー塗布して肛門又は陰部周辺清浄用シートを得、これを実施例6のサンプルとした。
【0108】
〔実施例7〜9〕
水系洗浄剤の組成を変更した以外は実施例6と同様にして肛門又は陰部周辺清浄用シートを得、それぞれ実施例7〜9のサンプルとした。
【0109】
〔比較例1及び2〕
水系洗浄剤の組成を変更した以外は実施例1と同様にして肛門又は陰部周辺清浄用シートを得、それぞれ比較例1及び2のサンプルとした。
【0110】
〔比較例3及び4〕
水系洗浄剤の組成を変更した以外は実施例6と同様にして肛門又は陰部周辺清浄用シートを得、それぞれ比較例3及び4のサンプルとした。
【0111】
尚、下記表1及び2には記載していないが、実施例及び比較例で用いた前記水系洗浄剤は、パラベン(防腐剤)を含んでいる。即ち、実施例1〜5並びに比較例1及び2(繊維シートが不織布の例)に係る水系洗浄剤は、それぞれ、メチルパラベン0.2重量%、エチルパラベン0.07重量%、プロピルパラベン0.02重量%及び安息香酸ナトリウム0.2重量%を含んでいる。また、実施例6〜9並びに比較例3及び4(繊維シートが水解性シートの例)に係る水系洗浄剤は、それぞれ、メチルパラベン0.2重量%及び安息香酸ナトリウム0.2重量%を含んでいる。
【0112】
〔評価〕
作製した肛門又は陰部周辺清浄用シートについて、以下の方法により、(1)消臭性、(2)便色(ビリルビン)の拭き取り性、(3)便の拭き取り性、(4)泡立ち性、(5)使用感触及び(6)水解性をそれぞれ評価した。また、清浄用シートで用いた水系洗浄剤について、(7)泡立ち性及び(8)安定性をそれぞれ評価した。これらの結果を下記表1及び表2に示す。なお、これらの評価は、23±2℃、相対湿度50±10%の環境で行った。
【0113】
(1)消臭性の評価
成人男性5名の尿を各100ml混合した人尿500mlを調製する。アクリル板上に人尿1.0gを滴下し、滴下した人尿を覆うように清浄用シートを重ね、容積1.2リットルの密閉容器(商品名「タイトボックスNo.3」、蝶プラ工業株式会社製)中にアクリル板ごと素早く入れて気密状態にして、室温30℃で、1時間後、24時間後に該容器の蓋を開け、容器中の臭いを官能評価した。その評価基準は以下の通りである。即ち、臭いの強度を0〜5の評価スコアによる6段階臭気強度表示法に基づいて行った。評価スコアは、「0」無臭、「1」やっと感知できる臭い(検知閾値)、「2」尿臭であることわかるが弱い臭い(認知閾値)、「3」楽に尿臭であると感じられる臭い、「4」強い尿臭、「5」強烈な尿臭を示す。臭いの強度の判定は0.5刻みで行い、5人の評価の平均値を表1に示した。この平均値が小さいほど、消臭性に関して高評価となる。
【0114】
(2)便色(ビリルビン)の拭き取り性の評価
評価方法は前述した方法によって行い、1回拭き取り後のΔb1を算出し、以下の基準に従って評価した。
◎:3.5未満
○:3.5以上5未満
△:5以上7未満
×:7以上
【0115】
(3)便の拭き取り性の評価
便の拭き取り性は、水性絵の具を便の代用として評価した。アクリル板(7cm×10cm)上の長手方向の上端部より20mmの位置を中心にした直径25mmの円状に、水性絵の具(ギターペイント製、粘度4Pa・s、青色)0.5gを均一に塗る。1分放置後、その上に二つ折りした清浄用シートをその一端をアクリル板の長手方向上端部に合わせて置き、その絵の具を塗った位置に直径25mmの錘を載せる。錘はシートに対する荷重が1.8kPaとなるようにする。清浄用シートは絵の具を塗った面積より充分に大きいものであれば良い。そして、錘を載せたシートを長手方向(上端部から下端部に向けて)に一定速度で6cm引っ張る。そのとき、シートに付着した絵の具量を測定し、以下の基準に従って評価した。
◎:0.30g以上
○:0.26g以上0.30g未満
△:0.23g以上0.26g未満
×:0.23g未満
【0116】
(4)清浄用シートの泡立ち性の評価
清浄用シートをテルモシリンジ(20ml、横口)に折り畳んで詰め込み、該シートに含浸されている液(水系洗浄剤)およそ1gをシャーレーに絞り出す。こうして絞り出された液の状態を目視で観察し、下記基準に従って評価した。
◎:泡が立たない。
○:泡がわずかに立つが、すぐに消える。
△:泡立ちし、しばらくすると泡が消える。
×:泡立ちし、泡がすぐに消えない。
【0117】
(5)使用感触の評価
育児経験のある母親などの専門パネラーの前腕部内側を清浄用シートで拭き、30秒放置後の肌のぬるつき感、さっぱり感などの使用感触を、以下の基準に従って官能評価した。
◎:非常によい(好き)。
○:よい(好き)。
△:ふつう。
×:悪い(きらい)。
【0118】
(6)水解性の評価
水解性の評価は、JIS P 4501に規定のほぐれやすさの試験方法で行う。水300ml(水温20±5℃)を入れた300mlのビーカーをマグネチックスターラーに載せ、回転子(直径35mm、厚さ12mmの円盤状)の回転数を600±10回転/分になるように調整する。その中に60mm(MD)×60mm(CD)の試験片(清浄用シート)を投入し、ストップウォッチを押す。回転子の回転数は試験片の抵抗によって、いったん約500回転に下降し、試験片がほぐれるに従い回転数は上昇し、540回転までに回復した時点でストップウォッチを止め、その時間を1秒単位で測定する。以上の測定を3回行い、平均の値を水解性の値とする。この値が60秒以下であれば水解性シートとして実用上問題ないレベルである。
【0119】
(7)水系洗浄剤の泡立ち性の評価
水系洗浄剤10mlを、容積30mlの試験管に入れ、試験管の口を塞ぎ、試験管内の水系洗浄剤10mlの高さh1を読み取り、その後、試験管を上下に30回(10秒間)振る。30回振った後の試験管内の水系洗浄剤の高さh2を読み取り、高さh2からh1を差し引き、その差を泡の高さとする。泡の高さが低いほど、水系洗浄剤の泡立ち性に関して高評価となると判断し、以下の基準に従って評価した。尚、既に水系洗浄剤が繊維シートに含浸されている場合には、その繊維シートから水系洗浄剤を絞り出すことにより、水系洗浄剤10mlを抽出する。
◎:15mm未満
○:15mm以上30mm未満
△:30mm以上50mm未満
×:50mm以上
【0120】
(8)水系洗浄剤の安定性の評価
水系洗浄剤を以下の3条件(A)〜(C)にてそれぞれ1ヶ月保存後の液の状態を各条件ごとに目視で観察し、以下の基準に従って評価した。(A)50℃湿度成り行きの電気乾燥機内、(B)23℃65%RHの恒温室内、(C)−5℃湿度成り行きの恒温室内。
○:前記3条件全てにおいて水系洗浄剤が透明である。
×:前記3条件のうちの1つ以上の条件において水系洗浄剤が白濁、分離する。
【0121】
【表1】

【0122】
【表2】

【0123】
表1及び表2に示す結果から明らかなように、実施例の清浄用シートは、β−グルクロニダーゼ阻害剤を含有していない比較例の清浄用シートと比較して、消臭性に優れている。
また、比較例1と比較例2との比較、あるいは比較例3と比較例4との比較により、非イオン性界面活性剤の使用が、便の色(ビリルビン)及び便の拭き取り性の向上に有効であることがわかる。また、比較例1と比較例2との比較により、シリコーンオイル及びシリカの使用が、泡立ち性の高評価獲得に有効であることがわかる。
【符号の説明】
【0124】
1A,1B 肛門又は陰部周辺清浄用シート
2 凸部
3 凹部
4 開孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系洗浄剤が、繊維シート1重量部に対し1〜10重量部含浸された肛門又は陰部周辺清浄用シートであって、
前記水系洗浄剤は、β−グルクロニダーゼ阻害剤0.01〜2.0重量%及び水80〜99.9重量%を含有する肛門又は陰部周辺清浄用シート。
【請求項2】
前記β−グルクロニダーゼ阻害剤が、植物抽出物、香料及びカチオン性界面活性剤からなる群から選択される1種以上である請求項1記載の肛門又は陰部周辺清浄用シート。
【請求項3】
前記β−グルクロニダーゼ阻害剤が、植物抽出物及びカチオン性界面活性剤からなる群から選択される1種以上である請求項1記載の肛門又は陰部周辺清浄用シート。
【請求項4】
前記水系洗浄剤が、さらに非イオン性界面活性剤0.1〜1重量%を含有し、該非イオン性界面活性剤が、ポリアルキレンオキサイド骨格を主鎖に有する非イオン性界面活性剤を全非イオン性界面活性剤中に90重量%以上含むことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の肛門又は陰部周辺清浄用シート。
【請求項5】
前記ポリアルキレンオキサイド骨格を主鎖に有する非イオン性界面活性剤が、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物からなる群から選択される1種以上である請求項4記載の肛門又は陰部周辺清浄用シート。
1COO−(CH2CH2O)n−H (1)
〔前記式(1)中、R1COは炭素数4〜30の飽和又は不飽和のアシル基を示し、nは重量平均で1〜50の数を示す。〕
2O−(CH2CH2O)n−H (2)
〔前記式(2)中、R2は炭素数4〜30の直鎖又は分岐鎖で且つ飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、nは重量平均で1〜50の数を示す。〕
3O−(CH2CH2O)n−(CH2CH(CH3)O)m−H (3)
〔前記式(3)中、R3は炭素数4〜30の直鎖又は分岐鎖で且つ飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、nは重量平均で0〜50の数、mは質量平均で1〜50の数を示す。〕
【請求項6】
前記繊維シートは、セルロース系繊維20〜70重量%を含む不織布であり、該不織布の坪量が20〜100g/m2、ウエット時の厚みが0.45〜1.0mm、ウエット時の空隙率が0.02〜0.2g/cm3であり、該不織布は凹凸又は開孔部を有する請求項1〜5の何れかに記載の肛門又は陰部周辺清浄用シート。
【請求項7】
前記繊維シートが、セルロース系繊維を主体とする水解性シートであり、該水解性シートは水溶性バインダーを含んでいる請求項1〜5の何れかに記載の肛門又は陰部周辺清浄用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−194255(P2010−194255A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45921(P2009−45921)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】