説明

肝線維症の予防方法

【課題】 肝の硬度を指標に肝臓の線維化をモニタリングし、分岐鎖必須アミノ酸を投与すすることからなる肝線維症を予防、抑制または改善する方法の提供。
【解決手段】 ロイシン、イソロイシン、バリンから選択される分岐鎖必須アミノ酸の少なくとも1種を投与することを特徴とする、肝線維症を予防、抑制または改善する方法であり、具体的態様として、肝組織の硬度を指標に、ロイシン、イソロイシン、バリンから選択される分岐鎖必須アミノ酸の少なくとも1種を投与し、肝臓の線維化の進行を予防、抑制または改善する方法、そのなかでもロイシンおよびイソロイシンを投与することを特徴とする肝の線維化の進行を予防、抑制または改善する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐鎖必須アミノ酸を投与することからなる肝線維症を予防、抑制または改善する方法に係り、詳細には、肝臓の硬度をモニタリングしながら分岐鎖必須アミノ酸を投与することからなる、肝線維症を予防、抑制または改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中で約1億7,000万人の人がC型慢性肝炎ウイルス(HCV)に感染しており、感染率はほとんどの国において1〜5%に上ると報告されている。これらの患者の大半は慢性感染であり、慢性感染は、肝硬変、肝不全または肝細胞癌(HCC)を引き起こす可能性がある。
【0003】
HCV感染により、最終的には患者の20〜30%に肝硬変、1〜5%に肝細胞癌が引き起こされる。C型慢性肝炎では門脈域および肝実質に炎症性の細胞浸潤がみられ、通常は、巣状肝細胞壊死を伴うものである。肝炎の進行に伴うこの炎症および細胞壊死により、肝の線維化が起こる。慢性肝疾患が進行すると、肝の線維化が進行し、重度の線維化により肝硬変、すなわち肝細胞群を線維性隔壁が取囲んで結節を形成するびまん性線維化状態と定義される状態になる。したがって、C型慢性肝炎は、炎症性肝炎というよりむしろ進行性線維化疾患(肝線維症)と考えることができる。
【0004】
この肝臓の線維化評価のためにいくつかのスコアリング法が提案されており、そのなかでもMETAVIRステージ(非特許文献1)が一般的である。このステージ評価によれば、肝臓の線維化のステージは、隔壁のない線維化(F1)から肝硬変(F4)までの時間的経過に対してほぼ直線的であるとされている。なお、この線維化の評価は、肝組織の生体検査(biopsy)により行われている。
【非特許文献1】P. Bedossa, T. Poynard:Hepatolog, 1996: 24, 289-293
【0005】
しかしながら、biopsyによる肝組織の検査は、侵襲性であり、また検査後の外傷も残るものであり、患者にとって苦痛をともなうものである。したがって、biopsyによる肝臓の線維化評価に変わる簡便な方法として、肝臓の線維化を肝組織の硬度をモニタリングすることにより、肝線維症の進行度を確認する方法が提案されている。
【0006】
ところで、肝硬変用アミノ酸製剤として、ロイシン、イソロイシン、バリンからなる3種の分岐鎖必須アミノ酸を含有する製剤[例えば、リーバクト(登録商標)]が使用されている。この製剤の適用は、「食餌摂取量が十分にもかかわらず低アルブミン血症を呈する非代償性肝硬変患者の低アルブミン血症の改善」とされており、いわゆる肝硬変患者に対する治療薬である。
【0007】
この場合の肝硬変は、上記したMETAVIRステージ評価による肝臓の線維化のステージでは、F4の肝硬変のステージである。したがって、それ以前の初期のステージ(F0〜F3)における肝の線維化の進展を予防、抑制または改善することができれば、最終的な肝硬変あるいは肝細胞癌への移行を阻止し得るものであり、医療上極めて有効なものといえる。
【0008】
かかる考え方に立脚し、本発明者らは、肝組織の硬度を指標にして肝臓の線維化をモニタリングすることができる技術に着目した。すなわち、肝組織の硬度と肝の線維化との関係が極めて近似したものであることに着目し、肝組織の硬度を指標にして肝組織の線維化の進行度をモニタリングし、それに併せ分岐鎖必須アミノ酸を投与することで肝の線維化の進行を抑制し得ることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明は、肝臓の硬度をモニタリングしながら分岐鎖必須アミノ酸を投与することからなる、肝線維症の進展を予防、抑制または改善する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するための本発明は、その基本的態様として、
(1)ロイシン、イソロイシン、バリンから選択される分岐鎖必須アミノ酸の少なくとも1種を投与することを特徴とする、肝線維症を予防、抑制または改善する方法;
であり、なかでも好ましくは、
(2)ロイシンおよびイソロイシンを投与することを特徴とする上記(1)に記載の肝線維症を予防、抑制または改善する方法;
である。
【0011】
また本発明は、具体的態様として、
(3)肝組織の硬度を指標に、ロイシン、イソロイシン、バリンから選択される分岐鎖必須アミノ酸の少なくとも1種を投与し、肝臓の線維化の進行を予防、抑制または改善する方法;
であり、そのなかでも好ましくは、
(4)ロイシンおよびイソロイシンを投与することを特徴とする上記(3)に記載の肝線維化の進行を予防、抑制または改善する方法;
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により肝線維の進行程度を肝組織の硬度を測定することにより行い、それに基づいて分岐鎖必須アミノ酸である安全性の高いロイシン、イソロイシン、バリン、特にロイシンおよびイソロイシンを併用投与することにより、肝臓の線維化を予防、抑制または改善し得るものであり、C型慢性肝炎ウイルス(HCV)の感染者(キャリヤ)にとって、HCVによる肝硬変、肝不全または肝細胞癌(HCC)への進行を有効に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
上記したように、本発明は、肝組織の硬度を指標に肝臓の線維化をモニタリングすることにより、早期に分岐鎖必須アミノ酸である安全性の高いロイシン、イソロイシンおよびバリンを投与することにより、肝組織の線維化を抑制するものである。この場合の肝組織の硬度は、例えば、弾性のある振動波の肝臓伝達速度により評価することができる。
【0014】
具体的には、機械的に発生させた振動波を用いて測定することができる。すなわち、機械的に発生させた振動波は、弾性のある波動となって肝臓に伝達された場合、この波動の伝達速度が肝臓の硬さに比例する。したがって、かかる振動波の波動の伝達速度を、超音波トランス・デューサーを使って計測し、スコア化することでその評価を行い、肝組織の線維化の進行度を確認することが可能となる。
【0015】
例えば、慢性C型肝炎に罹患している患者を対象にしたスコアと、METAVIRステージとの関係を示せば、下記表1にまとめることができる
【0016】
【表1】

【0017】
上記表中の結果からも判明するように、肝組織の硬度と肝の線維化の段階におけるスコアリング法の一つであるMETAVIRステージの評価は、よく一致していることが理解される。
【0018】
本発明は、この肝組織の硬度を指標に、早期のステージ(METAVIRステージのF0〜F3)において分岐鎖必須アミノ酸を投与し、肝線維症の進行を予防、抑制または改善するものである。具体的にはロイシン、イソロイシン、バリンから選択される分岐鎖必須アミノ酸の少なくとも1種を投与することにより行われる。そのなかでも特に、ロイシンおよびイソロイシンを投与することにより行われる。したがって、その投与は、肝組織の硬度を指標にモニタリングされる肝臓の線維化の進行を確認しながら行われるものであり、より具体的には、肝組織の硬度を指標にしながらロイシンおよびイソロイシンの投与をコントロールするものとなる。
【0019】
ここで使用するロイシン、イソロイシンおよびバリンは、分岐鎖を有する必須アミノ酸であり、その安全性は確保されているものであり、したがってその投与についての問題点はない。投与は一般に経口的に行われ、その投与量は、成人でロイシン、イソロイシンおよびバリンをそれぞれ1〜6g/一日、好ましくは3〜5g/一日、連続的的に投与するのがよい。そのなかでも、ロイシンおよびイソロイシンの両者を併用し、個々4g/一日投与で好結果を与えた。
【0020】
ところで前記したとおり、ロイシン、イソロイシンおよびバリンの三者を併用する低アルブミン血症を呈する非代償性肝硬変患者の低アルブミン血症の改善への適用は知られているが、ロイシン、イソロイシンおよびバリン、特にそのなかでもロイシンとイソロイシンを併用し、C型肝炎等の肝線維症の進行を予防、抑制または改善することは知られていなかった。したがってその点で、本発明は極めて特異的なものであるといえる。
【0021】
またその投与は、肝の線維化が抑制され、例えば、肝組織の硬度を指標にモニタリングし肝臓の線維化が抑制・改善された段階で投与を中止すればよい。また、投与を継続し、肝硬変や肝細胞癌への進展を遅らせることができる。
【実施例1】
【0022】
以下に、本発明の実際を、C型肝炎患者を対象にした例を記載することにより、説明する。
【0023】
C型肝炎が進行し、肝癌となり、肝癌を切除した男性患者について、イソロイシン4gおよびロイシン4gを一日量として連続90日間投与した。
【0024】
投与前、投与後60日目および90日目の肝の硬度、ならびにGOT値を測定した。その結果をまとめて下記表2に示した。
【0025】
【表2】

【0026】
表中に示した結果からも、本発明による肝組織硬度の値の推移と、GOT値の推移がよく一致し、本発明により肝の線維化が改善されていることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明により肝線維化を、肝組織の硬度を測定することにより行い、それに併せ分岐鎖必須アミノ酸を投与することにより、肝線維症の進展を予防、抑制または改善するものであり、C型慢性肝炎ウイルス(HCV)の感染者(キャリヤ)にとって、HCVによる肝硬変、肝不全または肝細胞癌(HCC)への進行を有効に抑えることができる点で、医療上の価値は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイシン、イソロイシン、バリンから選択される分岐鎖必須アミノ酸の少なくとも1種を投与することを特徴とする、肝線維症を予防、抑制または改善する方法。
【請求項2】
ロイシンおよびイソロイシンを投与することを特徴とする、請求項1に記載の肝線維症を予防、抑制または改善する方法。
【請求項3】
ロイシン、イソロイシン、バリンから選択される分岐鎖必須アミノ酸の少なくとも1種を投与し、肝組織の硬度を指標に肝臓の線維化の進行を予防、抑制または改善する方法。
【請求項4】
ロイシンおよびイソロイシンを投与することを特徴とする、請求項3に記載の肝線維化の進行を予防、抑制または改善する方法。

【公開番号】特開2006−28039(P2006−28039A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205762(P2004−205762)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(501369617)
【Fターム(参考)】