説明

肝臓胆管のNMRコントラスト剤

【課題】生物学的組織と接触している水プロトンのNMR緩和時間を短縮させること。
【解決手段】1つ以上のアリール環を含有する単一の多座有機キレート化配位子で錯化された常磁性金属イオンを含むNMRコントラスト剤を含有する、生物学的組織成分に対する該NMRコントラスト剤の特異的親和性に基づく該生物学的組織のNMR造影のための組成物。1:1の錯体で多座有機キレート化配位子で錯化された常磁性金属イオンを含有する肝臓胆管NMRコントラスト剤であって、(1)少なくとも1010M-1の生成定数;および(3)少なくとも1個の非複素環式アリール環により特徴づけられる、NMRコントラスト剤も提供される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は診断用のNMRイメージングに関する。
【0002】
【従来の技術】NMRイメージングは多年にわたって医療診断に使用されてきている。コントラスト剤(contrast agent)はその診断有用性を高めるためについ最近使用されるようになった。例えば、グリース(Gries)らの独国特許DE第3129906号明細書はキレート化剤および塩基又は酸で錯化された常磁性イオン(例えばEDTAでキレート化されたマンガンのジ-N-メチルグルコサミン塩)から成るNMRコントラスト剤を開示している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は生物学的組織と接触している水プロトンのNMR緩和時間を短縮させるin vivo方法を提供する。本発明方法はキレート化物質で錯化された常磁性金属イオンを含むNMRコントラスト剤をヒト患者に投与し、その患者をNMRイメージングにかけることを包含し、上記コントラスト剤は組織の成分と非免疫学的に非共有結合で結合しうる点に特徴があり、このような結合の結果として溶液中に遊離状態で存在する常磁性物質のみによって誘起される水プロトンの緩和力(relaxivity)と比較したときに水プロトンの緩和力を少なくとも2倍に高める(すなわち、NMR緩和時間T1またはT2を短縮させる)ことができる。
【0004】好ましくは、コントラスト剤は結合が起こる生物学的組織に対して特異的な親和性を有する。(本明細書において使用する "特異的親和性" とは、他の組織や組織成分よりも特定の組織や組織成分によって実質的に高度に取込まれ、保持され、または結合され得ることを意味し、この性質をもつ薬剤は "標的" 組織や成分に "働きかける" と言われている。)
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明のコントラスト剤が結合する成分は一般に特定の化学物質種(例えばタンパク質、脂質または多糖類)である。これらの成分に本コントラスト剤が強く結合すると、金属錯体による水プロトンの縦緩和力(longitudinal relaxivity;1/T1)および横緩和力(transverse relaxivity;1/T2)が(少なくとも2倍に)増加することが判明した。緩和力の増加はラウファー(Lauffer)らのマグヌ・レス・イメージング(Magn. Res. Imaging)3, 11(1985)に記載されるように、明らかに電子−原子核相互作用の有効相関時間の変化が大いに原因している。
【0006】本発明は、以下を提供する。
【0007】1.1つ以上のアリール環を含有する単一の多座有機キレート化配位子で錯化された常磁性金属イオンを含むNMRコントラスト剤を含有する、生物学的組織成分に対する該NMRコントラスト剤の特異的親和性に基づく該生物学的組織のNMR造影のための組成物であって、該キレート化配位子は、キレート化のために少なくとも2個のアミン窒素原子および/または少なくとも2個の酸素原子を含有し、該錯化常磁性金属イオンは、該特異的親和性により該キレート化配位子を介して該組織の成分に非共有結合的および非免疫学的に結合し得、少なくとも1010-1の生成定数を有し、生理食塩水中で少なくとも1mMの溶解度を有し、4以下の絶対値の電荷を有し、等量のオクタノールおよびトリス緩衝液(50mM、pH7.4)の条件下で少なくとも0.005のオクタノール:水分配係数を有し、そして0.2mMの該コントラスト剤の濃度で4.5%ヒト血清アルブミンに少なくとも15%の該コントラスト剤が結合する結合能を有することにより特徴付けられる、組成物:ただし、該キレート化配位子は、ポルフィリンまたはエチレンビス(2-ヒドロキシフェニルグリシン)を含まない。
【0008】2.上記NMRコントラスト剤は、生理食塩水単独の水プロトンの緩和時間と比較して、その生理食塩水溶液中での水プロトンのインビトロ緩和率を、20MHzで少なくとも0.5s-1mM-1増強し得る、項目1に記載の組成物。
【0009】3.上記NMRコントラスト剤は、生理食塩水単独の水プロトンの緩和時間と比較して、その生理食塩水溶液中での水プロトンのインビトロ緩和率を、20MHzで少なくとも1.0s-1mM-1増強し得る、項目1に記載の組成物。
【0010】4.上記生物学的組織がタンパク質であり、そして上記コントラスト剤およびタンパク質は、それぞれ、1つ以上の疎水性ドメインを有し、その結果、該コントラスト剤は、該疎水性ドメイン間でファンデルワールス結合相互作用により該タンパク質に非共有的に結合する、項目1に記載の組成物。
【0011】5.上記生物学的組織が肝臓胆管組織である、項目1に記載の組成物。
【0012】6.上記生物学的組織が血管内組織である、項目1に記載の組成物。
【0013】7.上記生物学的組織が血管内−肝臓胆管組織である、項目1に記載の組成物。
【0014】8.上記キレート化配位子が、ハロゲンおよび/またはC1−C10アルキル基で置換された少なくとも1つのアリール環を有する、項目1に記載の組成物。
【0015】9.上記錯体が、少なくとも1015-1の生成定数により特徴付けられる、項目1に記載の組成物。
【0016】10.上記錯体が、少なくとも1020-1の生成定数により特徴付けられる、項目9に記載の組成物。
【0017】11.上記常磁性金属イオンが、ガドリニウム(III)、鉄(III)、マンガン(III)、マンガン(II)、クロム(III)、銅(II)、ジスプロシウム(III)、テルビウム(III)、ホルミウム(III)、エルビウム(III)、およびユーロピウム(III)からなる群から選択される、項目1から10のいずれかに記載の組成物。
【0018】12.上記常磁性金属イオンが、ガドリニウム(III)、鉄(III)、またはマンガン(II)である、項目11に記載の組成物。
【0019】13.上記キレート化配位子が、配位していないスルホン酸基または配位していないカルボキシル基を含有する、項目1から10のいずれかに記載の組成物。
【0020】14.上記キレート化配位子が、アミノカルボキシレート誘導体を含む、項目13に記載の組成物。
【0021】15.上記キレート化配位子が、クリプテート化合物、またはビス-、トリス-もしくはテトラカテコール化合物を含む、項目1から10のいずれかに記載の組成物。
【0022】16.上記錯体が、少なくとも250の分子量を有することにより特徴付けられる、項目1から10のいずれかに記載の組成物。
【0023】17.上記キレート化配位子が、以下の式:
【0024】
【化2】


【0025】で示される、項目1から8のいずれかに記載の組成物:ここで、Aは、
【0026】
【化3】


【0027】であり;R5、R6、R7およびR8は、独立して、水素原子またはメチル基であり;Xは0また1であり;そしてR1、R2、R3およびR4は、独立して、(CH2)2、(CH2)3、(CH2)4、(CH2)5、または
【0028】
【化4】


【0029】から選択され、ただし、Aが、
【0030】
【化5】


【0031】の場合、R1〜R4の少なくとも1つは、
【0032】
【化6】


【0033】でなければならない。
【0034】18.上記キレート化配位子が、ビス-(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミンジ酢酸(HBED)およびその誘導体からなる群から選択される、項目1から10のいずれかに記載の組成物。
【0035】19.上記キレート化配位子がビス-(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミンジ酢酸(HBED)である、項目18に記載の組成物。
【0036】20.上記キレート化配位子が疎水性置換基を含有するDTPA誘導体を包含する、項目1から10のいずれかに記載の組成物。
【0037】21.上記キレート化配位子が、ベンゾジエチレントリアミンペンタ酢酸(ベンゾ−DTPA)、ジベンゾ−DTPA、フェニル−DTPA、ジフェニル−DTPA、ベンジル−DTPA、またはジベンジル−DTPAである、項目20に記載の組成物。
【0038】22.上記キレート化配位子が、以下の(I)から(IV)のいずれかである、項目1から10のいずれかに記載の組成物:
【0039】
【化7】


【0040】ここで、R13〜R14はC6-10アリール基であり、そしてR9〜R12およびR15〜R20は、独立して、C6-10アリール基、あるいはC1-5のアルキル、アルケニル、またはアルキニルからなる群から選択され、ただし、R9〜R12の少なくとも1つおよびR15〜R20の少なくとも1つは、C6-10アリール基である。
【0041】23.上記キレート化配位子が、以下の(V)または(VI)である、項目1から8のいずれかに記載の組成物:
【0042】
【化8】


【0043】ここで、R21-26は、独立して、水素、ハロゲン、COOH、SO3H、またはC1〜C5アルキルから選択される。
【0044】24.少なくとも1つのアリール環を含有する多座有機キレート化配位子で錯化された常磁性金属イオンを含有するNMRコントラスト剤であって、該金属イオンが、ガドリニウム(III)、鉄(III)、およびマンガン(II)からなる群から選択され、そして該キレート化配位子が、ベンゾ-およびジベンゾ-1,4,7,10-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸、ベンゾ-およびジベンゾ-1,4,7-トリアザシクロノナン-N,N',N''-トリ酢酸、ベンゾ-およびジベンゾ-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-テトラ酢酸、ベンゾ-およびジベンゾ-1,4,7,10-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,7,10-テトラ(メチルテトラ酢酸)、ベンゾ-およびジベンゾ-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-テトラ(メチルテトラ酢酸)、エチレンビス-(2-ヒドロキシフェニルグリシン)(EHPG)およびその誘導体、ビス-(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミンジ酢酸(BHED)、ベンゾジエチレントリアミンペンタ酢酸(ベンゾ−DTPA)、ジベンゾ−DTPA、フェニル−DTPA、ジフェニル−DTPA、ベンジル−DTPA、ジベンジル−DTPA、および以下の(I)から(VI):
【0045】
【化9】


【0046】
【化10】


【0047】からなる群から選択される、NMRコントラスト剤:ここで、R13〜R14はC6-10アリール基であり、R9〜R12およびR15〜R20は、独立して、C6-10アリール基、あるいはC1-5のアルキル、アルケニル、またはアルキニルからなる群から選択され、ここで、R9〜R12の少なくとも1つおよびR15〜R20の少なくとも1つはC6-10アリール基であり;そして、R21-26は、独立して、ハロゲン、水素、COOH、SO3H、またはC1〜C5アルキルから選択され、ただし、該金属イオンが鉄(III)である場合、EHPGおよびHBEDを除く。
【0048】本発明は以下も提供する。
(1)生物学的組織と接触している水プロトンのNMR緩和時間(T1またはT2)を短縮させる方法であつて、キレート化物質により錯化された常磁性イオンから成るNMRコントラスト剤をヒト患者に投与し、該患者をNMRイメージングにかけることから成り、その際上記コントラスト剤は組織の成分と非共有結合で非免疫学的に結合でき、このような結合の結果として溶液中に遊離状態で存在する常磁性物質のみによつて誘起される水プロトンの緩和力と比較して、該緩和力を少なくとも2倍に増強し得る点に特徴がある上記方法。
(2)NMRコントラスト剤は生物学的組織に対して特異的親和性を有する、項目1記載の方法。
(3)上記成分はタンパク質であり、コントラスト剤と該タンパク質はそれぞれ1つまたはそれ以上の疎水領域を含み、それによりコントラスト剤が疎水領域間のフアンデルワールス結合相互作用により該タンパク質と非共有結合で結合する、項目1記載の方法。
(4)上記成分の領域およびコントラスト剤は相反する電荷をもち、その結果結合が静電気的相互作用により促進される、項目1記載の方法。
(5)コントラスト剤は多数の水素結合の相互作用により上記成分と結合する、項目1記載の方法。
(6)コントラスト剤は項目3〜5項に記載の機構の2つ以上によつて上記成分と結合する、項目1記載25の方法。
(7)生物学的組織は血液であり、タンパク質はヒト血清アルブミンである、項目3記載の方法。
(8)生物学的組織はヒト肝細胞であり、タンパク質は細胞内タンパク質のリガンジンまたはプロテインAである、項目3記載の方法。
(9)コントラスト剤はリガンジン、プロテインAおよびHSAと結合し、それ故に血管内/肝臓胆管の両方のNMRコントラスト剤である、項目3記載の方法。
(10)タンパク質は腫瘍組織に含まれる未成熟な、弱く架橋されたコラーゲンである、項目3記載の方法。
(11)常磁性イオンは少なくとも2個の不対電子をもつ、項目1記載の方法。
(12)キレート化物質は少なくとも1つのアリール基、脂肪族基、非配位性スルホネート基または非配位性カルボキシレート基を含む項目1記載の方法。
(13)キレート化物質はアミノカルボキシレート誘導体である、項目1記載の方法。
(14)キレート化物質はポルフイリンである、項目1記載の方法。
(15)キレート化物質はクリプテート化合物である、項目1記載の方法。
(16)キレート化物質はビス−、トリス−またはテトラ−カテコール化合物である、項目1記載の方法。
(17)上記組織の成分は患者の肝臓または胆管のタンパク質であり、上記コントラスト剤はヒト細網内皮細胞と比較してヒト肝細胞によって優先的に取込まれる点でさらに特徴づけられる、項目1記載の方法。
(18)上記コントラスト剤は常磁性物質と有機キレート化配位子との錯体であり、該錯体は生理食塩水中に少なくとも1.0mMの濃度で溶解し、分子量が250以上であり、そして2またはそれ以下の絶対値の電荷をもつ、という特徴を有する、項目1記載の方法。
(19)上記コントラスト剤は少なくとも1つのアリール環を有するという点でさらに特徴づけられる、項目1記載の方法。
(20)上記錯体は悪性肝癌細胞よりも正常に機能するヒト肝細胞がその錯体をより多量に取込むのに十分な高い親油性を有するという点でさらに特徴づけられる、項目17記載の方法。
(21)上記錯体の生成定数は少なくとも1015-1である、項目1記載の方法。
(22)上記コントラスト剤は少なくとも0.005のオクタノール:水分配係数を示す点でさらに特徴づけられる、項目17記載の方法。
(23)上記コントラスト剤は少なくとも0.0lのオクタノール:水分配係数を示す点でさらに特徴づけられる、項目17記載の方法。
(24)上記コントラスト剤は0.2mMの:コントラスト剤濃度にかいて該コントラスト剤の少なくとも15%が4.5%ヒト血清アルブミンと結合するという点でさらに特徴づけられる、項目1記載の方法。
(25)上記コントラスト剤の少なくとも50%が0.2mMのコントラスト剤濃度において4.5%ヒト血清アルブミンと結合する、項目24記載の方法。
(26)上記の大環式化合物は次式:
【0049】
【化11】


【0050】で示される、請求項1から8のいずれかに記載の組成物:ここで、Aは、
【0051】
【化12】


【0052】であり;R5、R6、R7およびR8は、独立して、水素原子またはメチル基であり;Xは0また1であり;そしてR1、R2、R3およびR4は、独立して、(CH2)2、(CH2)3、(CH2)4、(CH2)5、または
【0053】
【化13】


【0054】から選択され、ただし、Aが、
【0055】
【化14】


【0056】の場合、R1〜R4の少なくとも1つは、
【0057】
【化15】


【0058】でなければならない。)で表わされる項目1または17記載の方法。
【0059】本発明コントラスト剤において、毒性の常磁性イオン(例えばガドリニウム)はキレート化剤により強く錯化されてその毒性を滅じ、またこの種のコントラスト剤は周囲の水プロトンヘの常磁性イオンの比較的低い接近性にもかかわらず、T1およびT2(以下で論ずる)を短縮するのに有効であることが見い出された。
【0060】本発明のキレート化物質の例にはポルフィリン類、クリプテート化合物およびビス-、トリス-またはテトラ-カテコール化合物がある。
【0061】タンパク質と強く結合する本発明のコントラスト剤はまたヒト細網内皮細胞と比較してヒト肝細胞によって特異的に取込まれ、そして肝細胞は肝臓の大部分を構成するので本コントラスト剤は肝臓の優れたNMRイメージングを与える。こうして本コントラスト剤は悪性肝癌または肝臓転移癌(これらの癌細胞は正常に機能する肝細胞と異なる割合で本薬剤を取込み、または異なる時間にわたって本薬剤を保持する)の画像化を可能にする。本発明はさらにコントラスト剤の取込みまたは保持率によって証明されるように、肝機能を監視するためのNMRイメージングの使用を可能にする。
【0062】本発明の他の特徴および利点は、次の好適な実施態様の説明および請求の範囲から明らかになるであろう。
【0063】
【発明の実施の形態】本発明の好適な実施態様について以下に述べる。
【0064】コントラスト剤の性質本発明の多くのコントラスト剤は、多くの成分に強く結合するための化学的必要条件が同じであるので、またいくつかの場合には強固な結合を誘起するその同じ性質が組織特異性に影響を与えるので、広範囲の用途において有用であるだろう。例えば、細網内皮細胞と比較して肝細胞による選択的取込みを起こさせるコントラスト剤の性質は、その薬剤とタンパク質(例えば肝細胞の細胞内タンパク質)とを強く結合させる。
【0065】本発明の好適なNMRコントラスト剤は診断用途におけるそれらの有用性に関して、以下で論ずるような多くの物理的/化学的性質を保有する。
【0066】標的成分に働きかけるコントラスト剤がイメージング(画像形成)に必要とされるNMRコントラストを与えるために、それらは標的成分におけるプロトンのNMR緩和時間を変更しなければならない。従って、コントラスト剤はそれらを標的に選択的に取込ませるか、あるいは標的に選択的に結合させる性質をもたねばならない。このことはコントラスト剤の標的による比較的高い取込み率、あるいは標的と非標的組織との異なる保持時間により達成される。NMRコントラストは標的中の水プロトンのT1(縦緩和時間)またはT2(横緩和時間)を、コントラスト剤の常磁性部分によって変えることにより達成される。
【0067】先に述べたように、本発明コントラスト剤が結合し得る1つの組織成分はタンパク質である。これらは細胞内タンパク質であり得、例えば肝細胞内のリガンジン(Yプロテインまたはグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(EC 2.5.1.18)として知られている)およびプロテインA(Zプロテインまたは脂肪酸結合タンパク質として知られている)のようなタンパク質である〔ジェー・クリニ・インベスト(J. Clin. Invest.)48, 2156-2167(1969)を参照〕。コントラスト剤が肝細胞のような特定の細胞を標的とする場合、それは一般に細胞であって、細胞内タンパク質それ自体を標的とするのではない。本コントラスト剤はその性質の結果として細胞に働きかけ、その後その性質がこれらの細胞の細胞内タンパク質へ強く結合させる。
【0068】タンパク質と結合する性質を有するコントラスト剤は、細胞内タンパク質ばかりでなく、ヒト血清アルブミン(HSA)のような血清タンパク質にも結合することができる。この結合は血管内の構造やパターンのNMR画像を選択的に増強し、例えば発作や脳腫瘍によって起こる血液/脳関門の破裂の診断を可能にし、また血液の流れのイメージングを可能にする。例えば、若干のコントラスト剤はin vivoにおいてHSAとリガンジンの両方に結合することができ、それ故に血管内および肝臓胆管の両方のコントラスト剤である。
【0069】タンパク質結合性コントラスト剤が強く結合するもう1つの重要なタンパク質は、腫瘍中に存在する未成熟な、弱く架橋したコラーゲンである。このコラーゲンはポルフィリンにより錯化された常磁性金属イオンから成るNMRコントラスト剤と強固に結合することができる。これらのタンパク質と結合するとき、コントラスト剤は腫瘍への働きかけと緩和力を高めることの両方の役割を果たしている。
【0070】タンパク質への結合はコントラスト剤に疎水性基を組み入れ、且つそのコントラスト剤に適当な正味電荷を付与することによりもたらされる。
【0071】疎水結合結合はコントラスト剤とタンパク質の両方が1つまたはそれ以上の疎水領域を含む場合に促進され、コントラスト剤は疎水領域間のフアンデルワールス相互作用によってタンパク質と非共有結合で結合し、それにより結合が増強される。
【0072】標的がタンパク質である場合、親油性はコントラスト剤のタンパク質への結合を高める。親油性は無極性構造、すなわち少なくとも1つのアリール基(例えば置換されていてもよいフェニル環)、少なくとも1つのハロゲン原子、および/または疎水性アルキル基の存在によってもたらされる。親油性のためには、コントラスト剤または生理学的pHにおいて過剰の電荷(すなわち4より大きい絶対値の電荷)を保有しないことが望ましい。
【0073】親油性は少量(0.1mM)の放射性標識コントラスト剤を等容量のオクタノールとトリス緩衝液(50mM、pH7.4)の中に加えることにより測定されたオクタノール:水の分配係数によって表わされる。本発明コントラスト剤の上記係数は好ましくは少なくとも0.005であり、より好ましくは少なくとも0.01である。
【0074】親油性に関係する他の指数はタンパク質結合のそれである。タンパク質結合能は、平衡透析によって測定して、0.2mMのコントラスト剤濃度で4.5%ヒト血清アルブミン(HSA)に結合したコントラスト剤の百分率として表わすことができる。タンパク質を標的とするコントラスト剤の場合には、その薬剤の好ましくは少なくとも15%、より好ましくは少なくとも50%がHSAと結合する。
【0075】静電気的相互作用コントラスト剤とタンパク質との間に静電気的相互作用が起こりうる場合に、結合はさらに増強される。こうして、タンパク質が正に荷電した結合部位をもつ(例えばヒト血清アルブミン)か、あるいは陰イオン配位子に対して最高の親和性を示す(例えばアルブミン、リガンジンまたはプロテインA)ことが知られている場合、コントラスト剤の正味電荷は負であるべきであり、好ましくは−1ないし−4である。また、正に荷電した残基との直接の静電気的相互作用は、そのコントラスト剤が溶液中で金属イオンに配位結合しない追加の負に荷電した基(例えばスルホネート基やカルボキシレート基)を有する場合に促進される。
【0076】これとは別に、結合部位が陰イオン性をもつことが知られている場合、コントラスト剤は全体的に陽電荷をもつべきである。
【0077】分子量本発明コントラスト剤はその分子量が好ましくは少なくとも250であり、より好ましくは300以上である。
【0078】溶解性投与および取込みを促進するために、コントラスト剤は良好な水溶性を示すべきであり、好ましくは20℃の生理食塩水中に少なくとも1.0mMの濃度で溶解されるべきである。
【0079】緩和力本発明のコントラスト剤は先に述べたようにT1またはT2もしくはこれらの両方を短縮しなければならない。これを達成するための能力を”緩和力”と呼ぶ。
【0080】緩和力は常磁性イオンが、キレート化配位子と結合したときに、水交換のための1つまたはそれ以上の開かれた配位部位(open coordination site)をまだ有する場合に最適となる。一般に、2つより多い開かれた部位の存在は金属イオンの放出による毒性をin vivoで許容できない程度に増すので、1つまたは2つのこのような部位の存在が好適である。しかしながら、ゼロの開かれた配位部位も、第2配位圏の水分子がさらに緩和され且つ結合増強がさらに起こりうるので、好適でないにしても満足のゆくものであるかも知れない。
【0081】in vitroの緩和力はs-1mM-1の単位、すなわち20MHzにおいて食塩水中で測定したときのコントラスト剤1mM当たりの1/T1または1/T2の変化で表わされる。好ましくは本発明コントラスト剤は少なくとも0.5s-1mM-1より好ましくは少なくとも1.0s-1mM-1のin vitro緩和力を有する。
【0082】また、緩和力は対象とする組織成分についてin vivoで測定することができる。in vivo緩和力はs-1(mmol/g組織)-1の単位で表わされ、これはコントラスト剤の濃度(組織1グラム当たりのミリモル数)で割ったコントラスト剤によって生じた1/T1または1/T2(食塩水を注射した対照のそれより多い)の変化を表わす。組織の濃度は放射性標識化された常磁性イオンから作られたコントラスト剤を使用して測定される。好ましくは、肝臓組織での本薬剤のin vivo緩和力は少なくとも1.0s-1(mmol/g)-1である。コントラスト剤は緩和力を少なくとも2倍に高めるのに十分なほど強固に結合すべきである。この高められた緩和力はコントラスト剤の用量を低下させ、それ故にそれらを使用する際に安全域を大きくするであろう。
【0083】緩和力の増加を最大とするために、結合相互作用の強固性を最大限に強化することが望ましい。好適には、これは生物学的結合部位と多重に接触する少なくとも1つのアリール基または脂肪族基をコントラスト剤に与えて、自由回転を抑えることにより達成される。さらに、正に荷電したアミノ酸残基との静電気的相互作用を促進するために、遊離(非配位性)の荷電基(例えばスルホネート基やカルボキシレート基)をコントラスト剤に導入することができ、これは結合親和性と強固性をともに増強するであろう。
【0084】金属錯体の緩和力を高める別の方法は、金属イオンのまわりのドナー原子の立体配置を変えて最も対称的な向きを達成することである。配位子の場(field)のこの対称はより長い電子スピン緩和時間、およびより高い緩和力ヘと導くことができる。Gd+3のためのDOTA配位子(以下で述べる)は、金属イオンを異方性の形で包囲する例えばDTPA-誘導配位子(以下で述べる)と比較して、非常に高い対称性(ほとんど立方体)をもつ例である。DOTAのような対称に拘束された大環式配位子の別の利点はそれらの高い動的安定性である(以下参照)。
【0085】毒性コントラスト剤はコントラスト増強のために必要とされる投与量で許容し得る程に低い毒性レベルをもたねばならず、好ましくは少なくとも0.05mmol/KgのLD50を有する。コントラスト剤の毒性は完全な錯体固有の毒性、並びに金属イオンのキレート化剤からの解離度の両方の関数であり、毒性は一般に解離度と共に増大する。動的安定性が低い錯体の場合には、解離とその付随する毒性とを最小限に抑えるために高い熱力学的安定性(少なくとも1015M-1、より好ましくは少なくとも1020M-1の生成定数)が望まれる。動的安定性が比較的高い錯体の場合には、より低い生成定数(すなわち1010M-1またはそれ以上)でも解離を最小限に抑えることができる。動的に安定な錯体は一般に高度に緊縮的なキレート化剤〔例えばジベンゾ-1,4,7,10-テトラアザシクロテトラデセン-1,4,7,10-テトラ酢酸(ジベンゾ-DOTA)〕により錯化された常磁性金属イオン〔例えばガドリニウム(III)〕を含む。
【0086】毒性はまた錯体中の開かれた配位部位の数の関数であり、開かれた配位部位が少なければ、一般にキレート化剤が細胞毒の常磁性イオンを放出する傾向はそれだけ少なくなる。従って、好ましくは錯体は2つ、1つまたはゼロの開かれた配位部位を含む。常磁性物質が高い磁気モーメントを有し(すなわち高度に常磁性であり)それ故に低用量でT1またはT2に影響を及ぼすことができるコントラスト剤においては、開かれた配位部位が1つまたは2つでさえも存在し得る。1つの例はガドリニウムであり、これは電子対を形成していない7個の電子のために高度に常磁性である。
【0087】本発明コントラスト剤の常磁性部分は、少なくとも1個より好ましくは5個またはそれ以上の不対電子をもち且つ少なくとも1.7ボーア磁子の磁気モーメントを有する遷移金属またはランタン系列のいずれの常磁性イオンであってもよい。適当なイオンにはガドリニウム(III)、鉄(III)、マンガン(IIおよびIII)、クロム(III)、銅(II)、ジスプロシウム(III)、テルビウム(III)、ホルミウム(III)、エルビウム(III)およびユウロピウム(III)が含まれ、最も好ましいものはガドリニウム(III)、鉄(III)およびマンガン(II)である。
【0088】キレート化配位子次の記載は本発明コントラスト剤をタンパク質に強く結合させ且つ機能的肝細胞によって選択的に取込ませるキレート化配位子に関する。
【0089】有機キレート化配位子は生理学的に適合性であるべきであり、好ましくはハロゲン原子および/またはC1−C10アルキル基で置換されていてもよいアリール環を少なくとも1つ含有する。キレート化配位子の分子の大きさは常磁性物質の大きさと適合すべきである。従って、結晶イオン半径が0.938Åのガドリニウム(III)は結晶イオン半径が0.64Åの鉄(III)よりも大きいキレート化配位子を必要とする。好ましくは、キレート化配位子は単一の多座配位子である。この種の配位子は加水分解に対してコントラスト剤の安定性を最大限に高め、且つコントラスト剤から標的成分の結合部位への金属イオンの移動を最小限に抑える。
【0090】キレート化配位子の1つの適当な種類はエチレンビス-(2-ヒドロキシフェニルグリシン)("EHPG")およびその誘導体(5-Cl-EHPG、5-Br-EHPG、5-Me-EHPG、5-t-Bu-EHPGおよび5-sec-Bu-EHPGを含む)である。EHPGおよびその誘導体は次の構造式を有する。
【0091】
【化16】


【0092】EHPGの5位に存在する置換が親油性を増すのに最も効果的であるが、置換は2つのフェニル環のどの位置にあってもよい。
【0093】キレート化配位子の他の適当な種類はベンゾジエチレントリアミン-ペンタ酢酸(ベンゾ-DTPA)およびその誘導体(ジベンゾ-DTPA、フェニル-DTPA、ジフェニル-DTPA、ベンジル-DTPAおよびジベンジル-DTPAを含む)である。これらの化合物のうち2つは以下に示す構造式を有する。
【0094】
【化17】


【0095】適当なキレート化配位子の他の種類はビス-(2-ヒドロキシベンジル)-エチレン-ジアミンジ酢酸(HBED)およびその誘導体である。HBEDの構造は次の通りである。
【0096】
【化18】


【0097】HBEDは都合のいいことに鉄に対して1040という非常に高い生成定数をもっている。この配位子はストレム・ケミカル・カンパニー(Strem Chemical Company)から入手しうる。
【0098】キレート化配位子のその他の適当な種類は少なくとも3個の、より好ましくは少なくとも6個の炭素原子と、少なくとも2個の異種(Oおよび/またはN)原子を含む大環式化合物の種類である。大環式化合物は異種環原子が一緒に結合した1つの環、または2つもしくは3つの環から成る。モノ大環式キレート化配位子の1つの適当な種類は次の一般式で表わされる。
【0099】
【化19】


【0100】上記式中、Aは
【0101】
【化20】


【0102】であり;Xは0または1であり;R5,R6,R7およびR8は各々独立してHまたはメチルであり;そしてR1,R2,R3およびR4は各々独立してエチル、プロピル、ブチル、ペンチルまたは
【0103】
【化21】


【0104】である;但しAが
【0105】
【化22】


【0106】であるとき、少なくとも1つのR基は
【0107】
【化23】


【0108】でなければならない。上記アリール基はハロゲン原子またはC1−C4アルキル基で置換されていてもよい。適当な大環式配位子の例にはベンゾ-DOTA(ここでDOTAは1,4,7,10-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸である)、ジベンゾ-DOTA、ベンゾ-NOTA(ここでNOTAは1,4,7-トリアザシクロノナン-N,N',N"-トリ酢酸である)、ベンゾ-TETA(ここでTETAは1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-テトラ酢酸である)、ベンゾ-DOTMA(ここでDOTMAは1,4,7,10-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,7,10-テトラ(メチルテトラ酢酸)である)、およびベンゾ-TETMA(ここでTETMAは1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-(メチルテトラ酢酸)である)が含まれる。
【0109】疎水性すなわち親油性は、エチレンジアミン部分を含む配位子(例えばDOTA誘導体)の場合、エチレン炭素原子に上記の疎水置換基を直接結合させることにより得られる。例えばDOTAは次の構造式を有する。
【0110】
【化24】


【0111】疎水置換基(例えば融合フェニル環またはC1-5アルキル基)はDOTAの炭素原子1−8の1つまたはそれ以上に結合される。
【0112】キレート化配位子の別の適当な種類は疎水置換基を含むDTPA誘導体である。この種の適当な誘導体の構造は次の通りである。下記式中R1,R2,R3,R4およびR5は各々独立してC6-10アリール基(例えばフェニル基やベンジル基)またはC1-5脂肪族基(例えばメチル基やエチル基)であり得る。
【0113】
【化25】


【0114】キレート化配位子の他の適当な種類は以下に示す1,3-プロピレンジアミンテトラ酢酸(PDTA)およびトリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)の誘導体である。下記式中R1,R2,R3,R4,R5,R6およびR7基は各々独立してC6-10アリール基(例えばフェニル基やベンジル基)またはC1-5脂肪族基(例えばメチル基やエチル基)であり得る。
【0115】
【化26】


【0116】キレート化配位子の他の適当な種類は以下に示す構造式を有する1,5,10-N,N',N"-トリス(2,3-ジヒドロキシベンゾイル)-トリカテコレート(LICAM)および1,3,5-N,N',N"-トリス(2,3-ジヒドロキシベンゾイル)アミノメチルベンゼン(MECAM)の誘導体である。R1,R2,R3,R4,R5およびR6は各々独立してCO2H、SO3H、H、ハロゲン原子(例えばCl)またはC1-5アルキル基(例えばメチル基やエチル基)であり得る。
【0117】
【化27】


【0118】
【化28】


【0119】合成本発明のコントラスト剤は慣用合成方法を使って市販の試薬類または簡単に合成された試薬類から合成することができる。一般には、常磁性イオンの塩をキレート化配位子の弱アルカリ性(pH7.4〜9)水溶液に加え、得られた混合物を室温で3〜24時間撹拌する。その後生成したコントラスト剤はすぐに使用するか、あるいは使用するまで凍結乾燥した形で又は生理学的緩衝液中に保存する。
【0120】鉄(III)-(EHPG)-の合成は次のように行われる。1M NaOHの添加によりpH8〜9に維持した蒸留脱イオン水の中にEHPG(シグマ社製)を室温で加えて溶解するこの溶液に固体FeCl3・6H2Oを加え、1M NaOHでpHを7.4に調整する。その後得られた暗赤色溶液を室温で30分撹拌し、次に0.2mmミクロポアフィルター(ゲルマン社製)を用いて濾過する。鉄(III)-(EHPG)-の濃度はベックマン分光光度計および480nmでの吸光係数4300CM-1M-1を用いて希釈アリコートの可視吸光により測定する。
【0121】EHPG誘導体の鉄キレートを作るために、第1工程はテオドラキス(Theodorakis)らのジェー・ファーム・サイ(J. Pharm. Sci.)69, 581(1980)に記載されるマンニッヒ反応に従って適当なEHPG誘導体を製造することである。この反応はエチレンジアミン、ジクロル酢酸および適当なパラ置換フェノールを使用する。5-Br-EHPGの反応式は次の通りである。
【0122】
【化29】


【0123】鉄(III)-(5-Cl-EHPG)-、鉄(III)-(5-Bu-EHPG)-、鉄(III)-(5-Me-EHPG)-および鉄(III)-HBEDは鉄-EHPGと類似の方法で製造される。
【0124】鉄-EHPGの構造は次の通りである。
【0125】
【化30】


【0126】鉄-EHPG、鉄-(5-Br-EHPG)および鉄-HBEDのオクタノール/水の分配係数およびHSA結合百分率を以下に示す。
【0127】
【表1】


【0128】大環式DOTAキレート化配位子はデスリュー(Desreux)らのイノーグ・ケム(Inorg. Chem.)19, 1319(1984)に記載されるように、一般には次の反応式に従って合成される。
【0129】
【化31】


【0130】DOTAそれ自体は肝細胞取込みのための十分な親油基をもっていない。必要な親油性(融合フェニル環によって付与される)を備えた2種類の誘導体、すなわちベンゾ-DOTAおよびジベンゾ-DOTAが次の一般反応式に従って合成される。(別法として、例えばメアレス(Meares)らのアナル・バイオケム(Anal. Biochem.)100, 152-159(1979)に従って製造した置換エチレンジアミンを用いることにより、DOTAに疎水置換基を導入することができる。) DTPA誘導体(例えばベンゾ-DTPAおよびジベンゾ-DTPA)はベンゾ-EDTAの製造方法と類似した方法によって製造される〔マッカンドリッシュ(McCandllish)らのイノーグ・ケム(Inorg.Chem.)17, 1383(1978)を参照)。
【0131】DOTA誘導体を用いて製造される常磁性イオンキレート化配位子錯体は一般に初めに述べたようにして合成されるが、金属イオン/大環式配位子錯体の生成のために比較的長い時間(24時間)と比較的高い温度が必要である。反応式を以下に示す。
【0132】
【化32】


【0133】用途本発明コントラスト剤は生理学的緩衝液中で経口的にまたは静脈内に投与される。投与量はコントラスト剤の組成ばかりでなくNMRイメージング装置の感度にも依存する。例えば、高度に常磁性の物質(例えばガドリニウム(III))を含むコントラスト剤は、比較的低い磁気モーメントをもつ常磁性物質(例えば鉄(III))を含むコントラスト剤よりも一般に低い投与量を必要とする。一般に、投与量は約0.001〜1mmol/Kg、より好ましくは約0.005〜0.05mmol/Kgの範囲であるだろう。
【0134】コントラスト剤の投与後、通常のNMRイメージングを行う。パルス系列(インバーション回復、IR;スピンエコー、SE)の選択およびイメージングパラメーター(エコー時間、TE;インバーション時間、TI;反復時間、TR)の値は検索される診断情報により支配されるであろう。一般に、T1を測定したい場合にはTEを30ミリ秒以下(または最小値)にしてT1-荷重を最大にすべきである。反対に、T2を測定したい場合にはTEを30ミリ秒以上にして競合するT1効果を最小限に抑えるべきである。TIおよびTRはT1-およびT2-荷重画像に対して大体同じでよく、TIおよびTRはそれぞれ一般に約200〜600ミリ秒および100〜1000ミリ秒の範囲であるだろう。
【0135】鉄(III)-(EHPG)-を使用するNMRイメージング 鉄(III)-(EHPG)-は上記のようにして製造し、ラット肝臓のin vivoイメージングのために次のように使用した。
【0136】絶食させたSprague-Dawley系の雄ラット(平均体重約400g)を腹腔内ペントバルビタール(50mg/Kg)で麻酔し、較正したキャリアー上にのせ、そして常磁性物質をドープした水または既知T1およびT2の寒天ゲルを含む較正管(calibration tube)といっしょにNMRイメージングにかけて初期べースライン画像を作成した。NMRイメージングは水平孔(8cm)超電導マグネットシステム(テクニケア・コーポレーション)を用いて1.4テスラ(1Hの共鳴周波数61.4MHz)の磁場強度で実施した。画像は選択照射によって決められる切断選択部を用いる二次元フーリエ変換法によって得られた。全ての画像は128相をコード化した勾配段階を用いて得られた。T1コントラストを最大とするために、IRパルス系列を使用した(TE 15msec、TI 400msec、TR 1000msec)。
【0137】ベースライン画像が得られた後、ラットをマグネットから取り出し、尾の静脈に鉄(III)-(EHPG)-を0.2mmol/Kg注射した。比較のために、数匹のラットは代わりに鉄(III)-(DTPA)-2を0.2mmol/Kg注射した。その後ラットは初期べースラインイメージングのときと同じ場所に、較正管と共に再度マグネットの中に入れた。イメージングをすぐに始め、1.5〜3時間続けた。バックグラウンドを除いた肝臓および筋肉の対象領域のシグナル強度の値がそれぞれの画像に対して得られ、その後これらの値を較正管のシグナル強度のあらゆる変化に対して正規化した。
【0138】鉄(III)-(EHPG)-を受け取ったラットのIR1000/400/15画像は、短いT1と一致して肝臓のシグナル強度の著しい増加と持続化とを示した。対照的に、鉄(III)-(DTPA)-2を受け取ったラットの画像は、肝臓のシグナル強度のほんのわずかな一時的な増加を示したにすぎなかった、このことは恐らく鉄(III)-(DTPA)-2が、鉄(III)-(EHPG)-と違って、機能的な肝細胞内ではなく細胞外の肝臓空間全体に分布して、速やかに尿中に排泄されるためであろう。
【0139】注射後のいろいろな時期に摘出したラットの肝臓、血液、脾臓および大腿筋のT1およびT2値を測定するex vivo生体分布試験もまた、鉄(III)-(EHPG)-が主として機能的な肝細胞によって取り込まれ、その結果これらの細胞における水プロトンの緩和時間を短縮するということを示した。
【0140】鉄-EHPG 2.0mmol/Kgの静脈内用量を与えられたラットは、2週間の観察期間中明らかな副作用を全く受けなかった。
【0141】鉄-EHPGの作用機構は次の通りであると考えられる。緩和時間の増強は通常、常磁性物質の対を形成していない電子がその常磁性物質に直接結合した水分子と相互作用するときに起こり、増強の程度は常磁性中心から水分子までの距離と逆の関係にある。しかしながら、鉄(III)-(EHPG)-では直接結合された水分子が存在しない。それ故に、緩和時間の増強は恐らく常磁性物質と間接的に結合された第2配位圏の水分子との相互作用の結果として生ずるのであろう。これらの外部圏の水分子は十分多量に存在するので、水分子と常磁性物質の間の距離が大きいにもかかわらず、かなりの緩和時間の増強が起こると考えられる。
【0142】その他の実施態様は添付の請求の範囲に包含される。
【0143】
【発明の効果】タンパク質と強く結合する本発明のコントラスト剤はまたヒト細網内皮細胞と比較してヒト肝細胞によって特異的に取込まれ、そして肝細胞は肝臓の大部分を構成するので本コントラスト剤は肝臓の優れたNMRイメージングを与える。こうして本コントラスト剤は悪性肝癌または肝臓転移癌(これらの癌細胞は正常に機能する肝細胞と異なる割合で本薬剤を取込み、または異なる時間にわたって本薬剤を保持する)の画像化を可能にする。本発明はさらにコントラスト剤の取込みまたは保持率によって証明されるように、肝機能を監視するためのNMRイメージングの使用を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】1:1の錯体で多座有機キレート化配位子で錯化された常磁性金属イオンを含有する肝臓胆管NMRコントラスト剤であって、(1)少なくとも1010M-1の生成定数;および(3)少なくとも1個の非複素環式アリール環により特徴づけられる、NMRコントラスト剤。
【請求項2】前記キレート化配位子が、少なくとも2個のアミン窒素原子および少なくとも2個の酸素原子により特徴付けられる、請求項1に記載のコントラスト剤。
【請求項3】前記錯体が、置換されていないか、あるいはハロゲンおよび/またはC1〜C10アルキル基で置換された、少なくとも1個の非複素環式アリール環により特徴付けられる、請求項1または2に記載のコントラスト剤。
【請求項4】前記錯体が、少なくとも1020-1の生成定数により特徴付けられる、請求項1から3のいずれかに記載のコントラスト剤。
【請求項5】前記錯体が、少なくとも1025-1の生成定数により特徴付けられる、請求項1から4のいずれかに記載のコントラスト剤。
【請求項6】前記常磁性イオンが、ガドリニウム(III)、鉄(III)、マンガン(III)、マンガン(II)、クロム(III)、銅(II)、ジスプロシウム(III)、テルビウム(III)、ホルミウム(III)、エルビウム(III)、またはユーロピウム(III)から選択されることにより特徴づけられる、請求項1から5のいずれかに記載のコントラスト剤。
【請求項7】前記常磁性イオンが、ガドリニウム(III)、鉄(III)またはマンガン(II)であることによりさらに特徴付けられる、請求項6に記載のコントラスト剤。
【請求項8】前記配位子が、以下の構造I〜IV:
【化1】


のいずれかを有し、ここで、R13〜R14は、C6-10非複素環式アリール基であり、ならびにR9〜R12およびR15〜R20は、独立して、C6-10非複素環式アリール基であり得るか、またはC1-5脂肪族基であり得、ここで、R9〜R12少なくとも1つおよびR15〜R20の少なくとも1つは、C610非複素環式アリール基であることにより特徴づけられる、請求項1から7のいずれかに記載のコントラスト剤。

【公開番号】特開2002−220348(P2002−220348A)
【公開日】平成14年8月9日(2002.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−365307(P2001−365307)
【分割の表示】特願昭61−503050の分割
【出願日】昭和61年5月8日(1986.5.8)
【出願人】(500117314)ザ ゼネラル ホスピタル コーポレーション (2)
【氏名又は名称原語表記】MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL
【Fターム(参考)】