説明

肥料組成物

【課題】作物が必要とする肥料成分を、温度較差の存在する栽培環境であっても、適時・適量供給できる肥料組成物及び栽培方法を提供する。
【解決手段】第1肥料群と第2肥料群とを含有する肥料組成物であって、第1肥料群は、下記式(1)から算出される温度依存指数Kが1.0〜2.0(ただし、2.0は含まない)の範囲で窒素成分を含む少なくとも1種類の被覆粒状肥料からなり、第2肥料群は、温度依存指数Kが2.0〜3.0の範囲で窒素成分を含む少なくとも1種類の被覆粒状肥料からなる。そして、第1肥料群に属する被覆粒状肥料における最大の温度依存指数と、第2肥料群に属する被覆粒状肥料における最小の温度依存指数との差が絶対値で0.3以上となるようにする。
K=D25/D35 ・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は肥料組成物に関し、より詳細には、少なくとも2種類の、窒素成分を含む被覆粒状肥料を有する肥料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、農業就労人口の減少と高齢化、大規模化が進む状況の中、肥料の利用効率を高めて、追肥作業の省力化を図ることを目的として、粒状肥料を樹脂等で被覆して肥料成分の溶出を制御した被覆粒状肥料が開発されている。これら被覆粒状肥料には種々の肥料成分、肥効持続期間、溶出パターンを有するものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、作物に対して生育に必要な養分を必要な時期に供給できるよう、複数種類の肥料を配合する技術が提案されている。また、特許文献2では、時限溶出型被覆肥料の溶出開始後の溶出速度を調整可能とし、さらにこの溶出の温度依存性を付与する技術が提案され、特許文献3では、栽培環境における温度変化の影響軽減のため溶出の温度依存性を小さくする技術が提案されている。
【特許文献1】特開平6−263577号公報
【特許文献2】特開平9−241090号公報
【特許文献3】特開2003−089605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、温度較差の存在する栽培環境中において、作物の生育過程で必要とされる養分と、被覆粒状肥料からの肥料成分の供給とを十分に合致させることは未だできていない。
【0005】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、作物が必要とする肥料成分を、温度較差の存在する栽培環境であっても、適時・適量供給することが可能な肥料組成物及び栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、下記式(1)から算出される温度依存指数Kが1.0〜2.0(ただし、2.0は含まない)の範囲で窒素成分を含む少なくとも1種類の被覆粒状肥料からなる第1肥料群と、温度依存指数Kが2.0〜3.0の範囲で窒素成分を含む少なくとも1種類の被覆粒状肥料からなる第2肥料群とを有し、第1肥料群に属する被覆粒状肥料における最大の温度依存指数と、第2肥料群に属する被覆粒状肥料における最小の温度依存指数との差が絶対値で0.3以上であることを特徴とする肥料組成物が提供される。
K=D25/D35 ・・・(1)
(式中、D25:温度25℃の水中において、窒素成分の80%が溶出するのに要する日数,D35:温度35℃の水中において、窒素成分の80%が溶出するのに要する日数)
【0007】
ここで、前記被覆粒状肥料の少なくとも1つが、窒素成分として尿素を有するものであるのが好ましい。
【0008】
第1肥料群及び第2肥料群の、肥料組成物に占める割合はそれぞれ10〜90重量%の範囲であってもよい。また、第1肥料群と第2肥料群との存在割合は、重量比で1:10〜10:1の範囲が好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、前記式(1)から算出される温度依存指数Kが1.0〜2.0(ただし、2.0は含まない)の範囲で窒素成分を含む第1の被覆粒状肥料と、前記温度依存係数Kが2.0〜3.0の範囲で且つ第1の被覆粒状肥料のそれよりも0.3以上大きく、窒素成分を含む第2の被覆粒状肥料とを、作物に施用することを特徴とする作物の栽培方法が提供される。
【0010】
ここで、第1の被覆粒状肥料及び第2の被覆粒状肥料の少なくとも一方が、窒素成分として尿素を有するものであるのが好ましい。
【0011】
第1の被覆粒状肥料と第2の被覆粒状肥料との施用割合としては、重量比で1:10〜10:1の範囲が好ましい。
【0012】
また、第1の被覆粒状肥料と第2の被覆粒状肥料とを、窒素成分量が0.05〜200kg/10aの範囲となるように施用するのが好ましい。
【0013】
なお、被覆粒状肥料の温度依存指数Kを算出するためのD25(温度25℃水中の80%溶出日数)とD35(温度35℃水中の80%溶出日数)は以下の方法で求める。肥料7.5gと蒸留水100mlとを直径40mmで110ml容のガラスのスクリュー管(株式会社マルエム)に入れ、内容物の温度が25℃になるよう温度制御しつつ静置する。採水前に倒立攪拌を行い、経時的に採水し、水に溶出した窒素肥料成分を定量分析する。窒素肥料成分の定量は、被覆粒状肥料が含有する窒素成分の形態により分析方法を選択する。尿素の量はジメチルアミノベンズアルデヒド法(「詳解肥料分析法 第二改訂版」養賢堂)により求め、アンモニア態窒素の量はインドフェノール法により求め、硝酸態窒素の量は砂状亜鉛−アルカリ還元法により還元してアゾ色素法により求め、被覆粒状肥料が含有する窒素成分について水に溶出した量の合計値を得る。この他の形態の水溶性窒素成分については硫酸−過酸化水素分解法によりアンモニア態窒素とした後にインドフェノール法で求める。溶出率は被覆粒状肥料が含有する窒素成分量を初期値として、水に溶出している定量分析によって求めた窒素成分量を初期値で除して、初期値に対して占める比率から計算して求める。窒素成分量の初期値は、被覆粒状肥料2.5gを乳鉢で磨り潰し、内容物を水に溶解して50mlとして窒素成分の形態により上記と同様の方法で測定して求める。溶出率が80%を超えるまで測定を継続し、経過日数と溶出率の関係をグラフ化して溶出速度曲線を作成し、溶出率80%に至る日数を求める。また、温度制御を35℃とした以外は前述の操作に準じて窒素溶出量の測定を行い、溶出率80%に至る日数を求める。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る肥料組成物は、温度依存指数の範囲が異なる第1肥料群と第2肥料群とを有し、第1肥料群に属する被覆粒状肥料における最大の温度依存指数と、第2肥料群に属する被覆粒状肥料における最小の温度依存指数との差を絶対値で0.3以上としたので、どのような環境温度に対しても肥料成分の供給ができ、温度較差の存在する栽培環境中や栽培途中に夏期や冬期を越す作型においても、環境温度による、作物の養分吸収等の生体反応速度変化に合わせて、肥料成分を適時・適量供給することができるようになる。
【0015】
また、本発明に係る栽培方法では、特定の温度依存指数を有し且つ温度依存指数の差が0.3以上である第1の被覆粒状肥料と第2の被覆粒状肥料とを施用するので、作物の養分吸収等の生体反応速度が変化しても、これに合わせて、肥料成分を適時・適量供給でき、溶出する肥料成分の利用効率を高め、環境中への流亡を抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を更に詳細に説明する。まず、本発明に係る肥料組成物の大きな特徴は、温度依存係数の異なる、被覆粒状肥料の属する第1肥料群と第2肥料群とを有すること、そして第1肥料群と第2肥料群にそれぞれ属する被覆粒状肥料の温度依存係数の差が絶対値で0.3以上であることにある。温度依存係数Kは、その値が大きいほど、被覆粒状肥料からの窒素成分の溶出が、環境温度に強く依存することを示すものである。本発明の肥料組成物では、窒素成分溶出の温度依存性の小さい被覆粒状肥料と、温度依存性の大きい被覆粒状肥料とを含有させることによって、どのような環境温度に対しても、作物が必要とする窒素成分を溶出できるようにした。
【0017】
本発明で使用する被覆粒状肥料としては、所定範囲の温度依存係数Kを有し、窒素成分を含むものであれば限定はなく従来公知のものが使用できる。なお、温度依存性の制御は後述するように、被覆樹脂の種類や被覆構造等によって制御する。窒素成分としては、例えば、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸苦土アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸ソーダ、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、石灰窒素、ホルムアルデヒド加工尿素肥料(UF)、アセトアルデヒド加工尿素肥料(CDU)、イソブチルアルデヒド加工尿素肥料(IBDU)、グアニール尿素(GU)が挙げられる。また、被覆粒状肥料は、その他の肥料成分として、リン酸、カリウム、珪酸、マグネシウム、カルシウム、マンガン、ホウ素、鉄等を含有してもよい。その他の成分の原料としては過リン酸石灰、重過リン酸石灰、苦土過リン酸、苦土リン酸、硫リン安、リン硝安カリウム、塩リン安等のリン酸質肥料、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸カリソーダ、硫酸カリ苦土、重炭酸カリウム、リン酸カリウム等のカリウム質肥料、珪酸カルシウム等の珪酸質肥料、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等のマグネシウム質肥料、生石灰、消石灰、炭酸カルシウム等のカルシウム質肥料、硫酸マンガン、硫酸苦土マンガン、鉱さいマンガン等のマンガン質肥料、ホウ酸、ホウ酸塩等のホウ素質肥料、鉄鋼スラグ等の含鉄肥料等の肥料取締法に定められる普通肥料(複合肥料を含む)が挙げられる。
【0018】
被覆粒状肥料は、通常、前記の窒素成分を含む肥料を混合・造粒して粒状肥料とし、この粒状肥料を中心の母核として被覆用樹脂等にて被覆することにより製造される。肥料の造粒方法としては従来公知の方法を用いることができる。例えば、肥料と造粒助剤、結合材、水等とを混合装置で混合した後、転動造粒法、圧縮造粒法、撹拌造粒法、押出造粒法、破砕型造粒法、流動層式造粒法等従来公知の造粒方法を用いて造粒する。ここで使用する造粒助剤としては、例えば、ベントナイトやクレイ、カオリン、セリサイト、タルク、酸性白土軽石、珪砂、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト等の鉱物質;籾殻、おがくず、木質粉、パルプフロック、大豆粉などの植物質等が挙げられる。また結合材としては、例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、グリセリン、ゼラチン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。使用する造粒助剤及び結合材は、造粒する肥料の種類や造粒強度等から適宜選択・決定すればよい。造粒された粒状肥料の粒径は、平均粒径で数mm程度であるのがよい。好適には例えば、0.5〜10mm、より好適には例えば、1〜5mmである。これらは篩いを用いることにより、前記範囲内で任意の粒径を選択することができる。また粒状肥料の形状は球状、角状、円柱状いずれでもかまわないが、球状に近いものが好ましい。
【0019】
そして、造粒した粒状肥料の表面を、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、パラフィン類、油脂類、硫黄等で被覆又はカプセル化して、窒素成分の溶出温度依存性を調整する。被覆方法としては格別の限定はなく、例えば特開平9−208355号に開示されているように、一定の粒径の粒状肥料を撹拌装置自身の回転により転動させながら、未硬化の熱硬化性樹脂を添加し、粒状肥料の表面上にて樹脂を硬化させて被膜を形成する方法、あるいは、特開平10−158084号に開示されているように、一定粒径の粒状肥料を噴流状態とし、熱可塑性樹脂の溶液を噴霧すると同時に、熱風にて乾燥する方法等が挙げられる。
【0020】
被覆用樹脂として使用できる熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレンなどのポリオレフィン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステルなどのビニル重合物、ブタジエン重合物、イソプレン重合物、クロロプレン重合物、ブタジエン−スチレン共重合物、エチレン−プロピレン−ジエン共重合物、スチレン−イソプレン共重合物などのジエン系重合物、エチレン−プロピレン共重合物、ブテン−エチレン共重合物、ブテン−プロピレン共重合物、エチレン−酢酸ビニル共重合物、エチレン−アクリル酸共重合物、エチレン−メタアクリル酸共重合物、エチレン−メタアクリル酸エステル共重合物、エチレン−一酸化炭素共重合物、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合物などのポリオレフィン共重合物、塩化ビニル−ビニルアセテート共重合物、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合物などの塩化ビニル共重合物等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレア・メラミン樹脂、尿素樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。粒状肥料を上記被覆用の樹脂で被覆する際には、必要に応じてタルク、炭酸カルシウム、金属酸化物等の無機質粉末、耐候性改良剤、着色剤、結合剤、界面活性剤等を加えることもできる。樹脂以外の被覆材としては硫黄、ワックス、水溶性高分子、熔リンとリン酸液などが挙げられる。
【0021】
粒状肥料の被覆に用いる樹脂等の量は、粒状肥料に対して2〜20重量%、好ましくは5〜16重量%の範囲である。被覆用樹脂等の量が少ないと、均一な被膜の形成が困難となり被覆欠陥を生じる懸念が増大する。一方、被膜用樹脂等の量が多いと、溶出肥料成分が少なくなり、施肥量が増して有益ではない。
【0022】
以上のようにして作製した被覆粒状肥料の窒素成分の溶出温度依存性制御は、例えば、被膜用樹脂の種類、分子量、混合比率、架橋密度、化学構造により制御できる。また、被膜の形成方法や膜厚等によっても制御できる。さらには、被膜中に分散含有させる粉粒体の粒径や量等を調整することによって制御できる。
【0023】
植物の肥料吸収速度は、温度が10℃上がると2倍速くなると言われており、被覆粒状肥料の溶出速度の温度依存性もその付近に調整するのが理想とされる。本発明の肥料組成物では、温度依存指数Kが1.0〜2.0(ただし、2.0は含まない)の範囲の被覆粒状肥料からなる第1肥料群と、温度依存指数Kが2.0〜3.0の範囲の被覆粒状肥料からなる第2肥料群とを備え、第1肥料群に属する被覆粒状肥料における最大の温度依存指数と、第2肥料群に属する被覆粒状肥料における最小の温度依存指数との差が絶対値で0.3以上となるようにして、いかなる環境温度においても窒素成分を溶出するようにした。
【0024】
第1肥料群の、肥料組成物に占める割合としては、10〜90重量%の範囲が好ましい。また第2肥料群の、肥料組成物に占める割合も10〜90重量%の範囲が好ましい。第1肥料群と第2肥料群との存在割合は重量比で1:10〜10:1の範囲が好ましい。第1肥料群と第2肥料群との存在比率がこの範囲にないと、溶出する肥料成分の利用効率が低く、本発明の効果が十分には奏されないおそれがある。
【0025】
また、第1肥料群に属する被覆粒状肥料における最大の温度依存指数と、第2肥料群に属する被覆粒状肥料における最小の温度依存指数との差が、絶対値で0.3以上であることも本発明において重要である。前記温度依存指数の差が0.3未満では、第1肥料群又は第2肥料群の一方のみを含有する肥料組成物を用いた場合に対して効果の違いが判然としない。
【0026】
本発明の肥料組成物には、第1肥料群及び第2肥料群以外に、速効性肥料や緩効性肥料など従来公知の肥料を、作物による肥料成分の吸収に合わせて、さらに含有させても構わない。さらに含有させる肥料は、被覆されていても被覆されていなくてもよい。また、本発明の肥料組成物には肥料成分のほかに、殺虫剤や除草剤、殺菌剤、植物生長調整剤等の生理活性物質を含有させてもよい。
【0027】
本発明の肥料組成物は、第1肥料群及び第2肥料群、さらに必要により他の肥料や生理活性物質等を従来公知の方法及び装置で撹拌混合して得ることができる。
【0028】
次に、本発明に係る作物の栽培方法について説明する。本発明の栽培方法は、温度依存指数Kが1.0〜2.0(ただし、2.0は含まない)の範囲で窒素成分を含む第1の被覆粒状肥料と、前記温度依存係数Kが2.0〜3.0の範囲で且つ第1の被覆粒状肥料のそれよりも0.3以上大きく、窒素成分を含む第2の被覆粒状肥料とを、作物に施用することを特徴とする。
【0029】
第1の被覆粒状肥料としては、前述の第1肥料群に属するものがここでも使用できる。第2の被覆粒状肥料としては、前述の第2肥料群に属するものであって、温度依存指数Kが第1の被覆粒状肥料のそれよりも0.3以上大きいものが使用できる。
【0030】
第1の被覆粒状肥料と第2の被覆粒状肥料との施用割合は、作物の種類等から適宜決定すればよいが、通常は、重量比で1:10〜10:1の範囲が好ましい。
【0031】
また、第1の被覆粒状肥料と第2の被覆粒状肥料とを施用する量や時期、位置は、従来の栽培方法における施肥技術に従えばよい。施用量としては、第1の被覆粒状肥料と第2の被覆粒状肥料とを合わせた窒素成分量として、通常0.05〜200kg/10aの範囲が好ましく、より好ましくは2〜120kg/10aの範囲、さらに好ましくは2〜80kg/10aの範囲である。また、施用時期としては、元肥時期または追肥時期が挙げられる。施用位置としては、例えば表面施肥、全層施肥、深層施肥、作条施肥、側条施肥、条間施肥または肌肥等が挙げられる。これらの施用時期及び施用位置は、植物の栄養特性、労働効率、環境条件に応じて適宜選択すればよいが、肥料成分の利用効率や追肥作業省力化の点からは、栽培期間中に施用する全量もしくは大部分を元肥として育苗開始時、本圃への播種時、または本圃への苗の移植時に育苗容器または本圃へ施用する方法が好ましい。
【0032】
本発明の栽培方法では、第1の被覆粒状肥料と第2の被覆粒状肥料以外に、速効性肥料や緩効性肥料など従来公知の肥料を、前記の被覆粒状肥料の施用と同時期に又は異なる時期に施用してももちろん構わない。このような肥料は、被覆されていても被覆されていなくてもよい。また、本発明の栽培方法では、殺虫剤や除草剤、殺菌剤、植物生長調整剤等の生理活性物質を必要により適宜施用しても構わない。
【0033】
本発明の栽培方法は、季節較差や日較差および温度管理により適度に温度変化が生じる栽培環境に適しており、特に夏期や冬期を跨いで栽培期間中に温度の上昇と下降(または下降と上昇)が生じる作型において好ましく適用できる。
【0034】
本発明の肥料組成物及び栽培方法が好適に適用できる作物としては、特に限定されるものではないが、食用作物、飼料作物、工芸作物、園芸作物(果樹、蔬菜、花卉等)等が挙げられる。食用作物としては、例えば、イネ、ムギ類、トウモロコシ、イモ類、マメ類等が挙げられ、蔬菜としては、例えば、葉菜類、果菜類、根菜類が挙げられ、花卉としては、例えば、1年草、2年草、宿根草が挙げられる。これらの中でも、生育速度が早く温度条件への生育反応が鋭敏である作物の栽培に好適に用いられる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0036】
(被覆粒状肥料Aの作製)
粒状尿素(粒径2.0〜4.0mm)を、熱風発生機を付設した温度制御可能な転動型攪拌装置に仕込み、転動させながら、約70℃に加熱した。次いで、ポリメリックMDI[住化バイエルウレタン(株)製、商品名:スミジュ−ル44V10]、ポリエ−テル型ポリオ−ル[住化バイエルウレタン(株)製、商品名:スミフェンTM]及び2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノ−ル(重量比47:52:1)の混合物を、転動状態にある上記粒状肥料に分割して添加し、粒状尿素の重量に対して6重量%相当のポリウレタン樹脂被膜を該粒状肥料の表面に形成し、ここに粒状尿素の重量に対して0.02%相当の界面活性剤[花王株式会社製、商品名:エマール10パウダー]と粒状尿素の重量に対して0.08%相当のクレイ[昭和鉱業株式会社製、商品名:特雪カットクレー]を添加し、被覆粒状肥料Aを作製した。被覆粒状肥料Aは25℃水中で肥料成分が80%溶出するまでに72日、35℃水中で肥料成分が80%溶出するまでに48日を要した。被覆粒状肥料Aの温度依存指数Kは1.5だった。
【0037】
(被覆粒状肥料Bの作製)
粒状尿素(粒径2.0〜4.0mm)を、熱風発生機を付設した温度制御可能な転動型攪拌装置に仕込み、転動させながら、約70℃に加熱した。次いで、ポリメリックMDI[住化バイエルウレタン(株)製、商品名:スミジュ−ル44V10]、ポリエ−テル型ポリオ−ル[住化バイエルウレタン(株)製、商品名:スミフェンTM]、ヒマシ油[豊国製油株式会社製、商品名:工業用1号ひまし油]及び2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノ−ル(重量比38.62:29.83:29.83:1.72)の混合物を、転動状態にある上記粒状肥料に分割して添加し、粒状尿素の重量に対して7重量%相当のポリウレタン樹脂被膜を該粒状肥料の表面に形成させた。上記混合物の分割添加の最後3回には同時に粒状尿素の重量に対して0.15%相当の酸化第二鉄[戸田工業株式会社製、商品名:120ED]を添加した。更に粒状尿素の重量に対して0.02%相当の界面活性剤[花王株式会社製、商品名:エマール10パウダー]と粒状尿素の重量に対して0.08%相当のクレイ[昭和鉱業株式会社製、商品名:特雪カットクレー]を添加し、被覆粒状肥料Bを作製した。被覆粒状肥料Bは25℃水中で肥料成分が80%溶出するまでに66日、35℃水中で肥料成分が80%溶出するまでに33日を要した。被覆粒状肥料Bの温度依存指数Kは2.0だった。
【0038】
(栽培試験例1)
スミヒレン化成666号(窒素−リン酸−加里 16−16−16;住友化学社製)、粒状硫酸加里(0−0−45)、被覆粒状肥料A(43−0−0)、被覆粒状肥料B(42−0−0)を、重量比64:3:26:7の割合で混合して肥料組成物を作製した。実施例区1として、兵庫県加西市の畑圃場において、2006年12月7日に、窒素成分量として10アールあたり30kgとなるように、この肥料組成物を全量元肥施用し、全層混和して畝立てを行いキャベツを栽培した。試験は1肥料につき畝幅1.4m×長さ5mの2条植え区画で行った。キャベツ(品種:YR天空)種子を10月20日に100ml容ポリカップに播種し、網室で育苗した後、苗を12月11日に株間30cmで移植した。2007年6月14日に実施例区内から10株ずつ結球を収穫した。最大最小の2株を除き、8株の平均球重を求めた。結果を表1に示す。
【0039】
比較例区1として、スミヒレン化成666号、粒状硫酸加里、被覆粒状肥料Bを、重量比64:3:33の割合で混合した肥料組成物を用いて発明品と同様にしてキャベツを栽培した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から明らかなように、実施例区1と比較例区1とは施肥窒素量は同量であるが、実施例区1では肥効がキャベツの生育に適合し、収量が増加した。
【0042】
栽培試験例2
すずらん特号(窒素−リン酸−加里 6−20−20;住友化学社製)、粒状リン酸2アンモニウム(17.5−45.5−0)、被覆粒状肥料A(43−0−0)、被覆粒状肥料B(42−0−0)を、重量比65:10:20:5の割合で混合し、本発明に係る肥料組成物を作製した。実施例区2として、兵庫県加西市の畑圃場において、2006年11月15日に、窒素成分量として10アールあたり25kgとなるように、この肥料組成物を全量元肥施用し、全層混和して畝立てを行い、タマネギを栽培した。試験は1肥料につき畝幅1.4m×長さ3.8mの4条植え区画で行った。タマネギ(品種:ターボ)苗を11月16日に株間10cmで移植した。2007年6月8日に試験区の中央付近から1m分収穫した。葉を切除した球を網袋に入れ、倉庫内の床に並べて貯蔵した。8月23日に貯蔵中の腐敗球を除いた残りについて平均球重を求めた。結果を表2に示す。
【0043】
比較例区2として、すずらん特号、粒状リン酸2アンモニウム、被覆粒状肥料Aを、重量比65:10:25の割合で混合した肥料組成物を用いて、実施例区2と同様にして、タマネギを栽培した。また、比較例区3として、すずらん特号、粒状リン酸2アンモニウム、被覆粒状肥料Bを、重量比65:10:25の割合で混合した肥料組成物を用いて、実施例区2と同様にして、タマネギを栽培した。結果を表2に合わせて示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2から明らかなように、実施例区2と比較例区2,3とは施肥窒素量は同量であるが、実施例区2では肥効がタマネギの生育に適合し収量が増加した。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る肥料組成物は、温度較差の存在する栽培環境であっても、作物に対して好適な肥料成分を供給し、生育と収量の向上をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式から算出される温度依存指数Kが1.0〜2.0(ただし、2.0は含まない)の範囲で窒素成分を含む少なくとも1種類の被覆粒状肥料からなる第1肥料群と、温度依存指数Kが2.0〜3.0の範囲で窒素成分を含む少なくとも1種類の被覆粒状肥料からなる第2肥料群とを有し、
第1肥料群に属する被覆粒状肥料における最大の温度依存指数と、第2肥料群に属する被覆粒状肥料における最小の温度依存指数との差が絶対値で0.3以上であることを特徴とする肥料組成物。
K=D25/D35
(式中、D25:温度25℃の水中において、窒素成分の80%が溶出するのに要する日数,D35:温度35℃の水中において、窒素成分の80%が溶出するのに要する日数)
【請求項2】
前記被覆粒状肥料の少なくとも1つが、窒素成分として尿素を有するものである請求項1記載の肥料組成物。
【請求項3】
第1肥料群の、肥料組成物に占める割合が10〜90重量%の範囲である請求項1又は2記載の肥料組成物。
【請求項4】
第2肥料群の、肥料組成物に占める割合が10〜90重量%の範囲である請求項1〜3のいずれかに記載の肥料組成物。
【請求項5】
第1肥料群と第2肥料群との存在割合が重量比で1:10〜10:1の範囲である請求項1〜4のいずれかに記載の肥料組成物。
【請求項6】
下記式から算出される温度依存指数Kが1.0〜2.0(ただし、2.0は含まない)の範囲で窒素成分を含む第1の被覆粒状肥料と、前記温度依存係数Kが2.0〜3.0の範囲で且つ第1の被覆粒状肥料のそれよりも0.3以上大きく、窒素成分を含む第2の被覆粒状肥料とを、作物に施用することを特徴とする作物の栽培方法。
K=D25/D35
(式中、D25:温度25℃の水中において、窒素成分の80%が溶出するのに要する日数,D35:温度35℃の水中において、窒素成分の80%が溶出するのに要する日数)
【請求項7】
第1の被覆粒状肥料及び第2の被覆粒状肥料の少なくとも一方が、窒素成分として尿素を有するものである請求項6記載の栽培方法。
【請求項8】
第1の被覆粒状肥料と第2の被覆粒状肥料との施用割合が重量比で1:10〜10:1の範囲である請求項6又は7記載の栽培方法。
【請求項9】
第1の被覆粒状肥料と第2の被覆粒状肥料とを、窒素成分量が0.05〜200kg/10aの範囲となるように施用する請求項6〜8のいずれかに記載の栽培方法。