説明

肥満予防又は改善剤

【課題】優れた脂質蓄積抑制作用を有し且つ安全性に優れ、体脂肪蓄積、肥満、脂肪肝、及びこれらに起因又は関連して発症する種々の疾患の予防又は改善に有効な医薬品又は食品等の提供。
【解決手段】リゾリン脂質を有効成分とする肥満予防又は改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満や脂肪肝の予防又は改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の変化や運動不足により、肥満が社会的な問題となっている。肥満は、高血圧、高脂血症、糖尿病と共に死の四重奏と呼ばれる生活習慣病の一種であり、動脈硬化等更なる病気のリスクファクターとなることが知られている。また、肝臓に脂肪が蓄積する症状は脂肪肝と呼ばれているが、その患者数は増加の一途を辿っており、現在、日本人の約20%が脂肪肝であると推測されている(東海大学医学部付属伊勢原病院検診センター調査報告)。脂肪肝は、生活習慣病の発症、悪化に関与するだけでなく、肝炎、肝硬変等の肝障害の原因となることが知られている(非特許文献1)。このように生活習慣病及び肝障害の予防には肥満や脂肪肝を予防することが重要となる。
【0003】
一般に、肥満は、消費エネルギーに比較して摂取エネルギーが過剰な状態が持続することにより、中性脂肪が蓄積し、その結果として体重が著しく増加した状態である。そのため、摂取エネルギーを低下させることにより肥満の予防あるいは治療をすることが有効な手段となる。摂取エネルギーを低下させる薬剤として、マジンドール(非特許文献2)、シブトラミン(非特許文献3)等の中枢性食欲抑制剤、オルリスタット(非特許文献4)等の膵リパーゼ阻害剤が知られている。しかしながら、中枢性食欲抑制剤では、口渇、便秘、胃不快感等の副作用が、オルリスタットでは、下痢、脂肪便等の消化管における副作用が現れることがあり、副作用のより少ない有効な素材の開発が望まれている。
【0004】
また、脂肪肝は、肝臓に過剰な中性脂肪が蓄積した状態であり、そのため、肝臓における中性脂肪の合成を抑制することにより脂肪肝の予防あるいは治療をすることが有効な手段となる。肝臓中性脂肪合成を抑制する薬剤としてニコチン酸製剤があるが、副作用に肝機能障害を持ち、脂肪肝の治療には適していない。また、食品成分では大豆たんぱく質をはじめとする植物性タンパク質や魚油中に多く含まれるドコサヘキサエン酸等に肝臓中性脂肪合成抑制作用が報告されているが(非特許文献5,非特許文献6)、これら食品素材は、その有効性において十分満足のいくものではない。従って、有効性に優れ、且つ食経験が豊富で安全性の高い食品素材が必要とされる。
【0005】
一方、リゾリン脂質は、親水性が高い安定な乳化剤として広く利用されており、それ自身もコリンの供給による疲労減少作用があること(特許文献1)、糖アルコールと共に使用した場合に肌荒れ防止作用を発揮すること(特許文献2)等が報告されている。
しかしながら、リゾリン脂質と肥満や脂肪肝との関係については全く知られてはいない。
【特許文献1】特開昭62−111920号公報
【特許文献2】特開2001−31551号公報
【非特許文献1】Ludwig, J.,Mayo Clin Proc. 55, 434-438(1980)
【非特許文献2】Engsrom,R.G., Arch.Intern.Pharmacodyn. 214,308-321(1975)
【非特許文献3】Bray,G.A., Obes.Res. 4, 263-270(1996)
【非特許文献4】Davidson,M.H., J.Ame.Med.Asso. 281,235-242(1999)
【非特許文献5】Ascencio,C., J.Nutr., 134, 522-529(2004)
【非特許文献6】Kim,H.J. J.Biol.Chem. 274, 25892-25898(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安全性に優れ、肥満、脂肪肝、及びこれらに起因又は関連して発症する種々の疾患の予防又は改善に有効な医薬品又は食品等を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々の天然成分を探索した結果、リゾリン脂質が、肝臓脂質の蓄積を抑制し脂肪肝抑制効果を発揮すること、及び内臓脂肪を減少させ抗肥満効果を発揮することを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明に係るものである。
1)リゾリン脂質を有効成分とする肥満予防又は改善剤。
2)リゾリン脂質を有効性分とする脂肪肝予防又は改善剤。
3)肥満予防又は改善剤の製造のためのリゾリン脂質の使用。
4)脂肪肝予防又は改善剤の製造のためのリゾリン脂質の使用。
5)リゾリン脂質を有効成分として含有し、肥満又は脂肪肝の予防又は改善作用を有することを特徴とし、その旨の表示を付した食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の肥満予防又は改善剤、及び脂肪肝予防又は改善剤は、優れた抗肥満効果、肝臓脂質蓄積抑制効果を発揮し、且つ安全性が高いことから、肥満、脂肪肝、及びこれらに起因又は関連して発症する種々の疾患、例えば、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化症の予防又は改善のための医薬品、又は食品として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
リゾリン脂質は、グリセロリン脂質のα位又はβ位の脂肪酸残基のいずれか一方が加水分解により外れたリゾ体であり、具体的には、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジン酸等が挙げられる。
リゾリン脂質は、リン脂質をホスホリパーゼA2等の酵素により処理することにより得られるが、本発明において、リゾリン脂質を得るためのリン脂質としては、動植物、例えば、大豆、米、とうもろこし、菜種、綿実、小麦、落花生、ひまし、ヒマワリ、大麦、エンバク、紅花、ゴマ等の植物、卵黄、乳、魚介類等の動物の組織から抽出される抽出レシチン、好適には、大豆油を製造する工程で発生する粗レシチンを、アセトン、エタノール等で処理した不溶画分を用いるのがよい。また、粗レシチンを精製した精製レシチンを用いてもよい。また、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸等のリン脂質の単体を酵素処理することでもよく、この場合は、当該リゾリン脂質を単独又は2種以上混合すること、或いはリゾ体とリン脂質を混合して使用することができる。また、SLP−ホワイトリゾ(辻製油)等の市販品を用いてもよい。
【0011】
後記実施例に示すように、リゾリン脂質は、肝臓脂質の蓄積抑制作用、抗肥満作用を有する。従って、リゾリン脂質は、脂肪肝や肥満の予防又は改善剤として使用することができ、また、脂肪肝や肥満の予防又は改善剤を製造するために使用することができる。
斯かる脂肪肝予防又は改善剤、肥満予防又は改善剤は、肥満、脂肪肝、及びこれらに起因又は関連して発症する種々の疾患、例えば、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化症の予防又は改善のための、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品又は食品として使用可能である。
また、脂肪肝予防又は改善剤、肥満予防又は改善剤は、脂肪肝や肥満の予防又は改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した美容食品、病者用食品若しくは特定保健用食品等の機能性食品として使用することができる。
【0012】
本発明の脂肪肝予防又は改善剤、肥満予防又は改善剤を医薬品として用いる場合の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、腸溶剤、トローチ剤、ドリンク剤等による経口投与又は注射剤、坐剤、経皮吸収剤、外用剤等による非経口投与が挙げられる。また、このような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、本発明のリゾリン脂質を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤(ソルビトール、グルコース、乳糖、デキストリン、澱粉等の糖類、炭酸カルシウム等の無機物、結晶セルロール、蒸留水、ゴマ油、とうもろこし油、オリーブ油、菜種油等)、結合剤、滑沢剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等を適宜組み合わせて用いることができる。これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与であり、経口投与用製剤として用いる場合の該製剤中の本発明のリゾリン脂質の含有量は、一般的に0.01〜95質量%とするのが好ましく、10〜80質量%とするのがより好ましい。
【0013】
本発明の脂肪肝予防又は改善剤、肥満予防又は改善剤を食品として用いる場合の形態としては、例えば、パン、麺類等に代表される小麦粉加工食品、お粥、炊き込みご飯等の米加工食品、ビスケット、ケーキ、ゼリー、チョコレート、せんべい、アイスクリーム等の菓子類、豆腐、その加工食品等の大豆加工食品、清涼飲料、果汁飲料、乳飲料、炭酸飲料等の飲料類、ヨーグルト、チーズ、バター、牛乳等の乳製品、醤油、ソース、味噌、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、ハム、ベーコン、ソーセージ等の蓄肉、蓄肉加工食品、はんぺん、ちくわ、魚の缶詰等の水産加工食品、調理油ならびにフライ用油等が挙げられる。また、この他、カプセル等の錠剤食、濃厚流動食、自然流動食、半消化態栄養食、成分栄養食、ドリンク栄養食等の経口経腸栄養食品、機能性食品等の形態とすることもできる。
種々の形態の食品を調製するには、本発明のリゾリン脂質を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。当該食品中の本発明のリゾリン脂質の含有量は、一般的に0.01〜20質量%とするのが好ましく、0.1〜10質量%とするのがより好ましい。
【0014】
本発明の脂肪肝予防又は改善剤、肥満予防又は改善剤を医薬品又は食品として使用する場合、成人1人当たりの1日の投与又は摂取量は、本発明のリゾリン脂質として、例えば50〜10000mgとするのが好ましく、更に100〜6000mg、特に500〜3000mgとするのが好ましい。また、当該製剤は、1日1回〜数回に分けて投与することが好ましい。
【実施例】
【0015】
実施例1 リゾリン脂質の肝臓脂質の蓄積抑制作用
実験動物は、オリエンタル酵母より購入した雄性BKS.Cg−+Leprdb/+Leprdb/Jclマウス(db/db、6週齢)を市販固形飼料で1週間予備飼育した後、平均体重が等しくなるように、2群(1群当り6匹)に分け実験に用いた。
試験に用いたトリアシルグリセロール油は、菜種油と紅花油と精製エゴマ油の混合油を使用した。その脂肪酸組成としてC16:0 5.6%、C18:0 2.1%、C18:1 36.7%、C18:2 46.9%、C18:3 6.8%を含有していた。リゾリン脂質は、辻製油より購入したリゾリン脂質(SLP−ホワイトリゾ)を使用した。試験に用いたSLP−ホワイトリゾは、リン脂質組成として、リゾリン脂質を18%〜30%含有している。
対照群には、100gあたり、10gトリアシルグリセロール油、13gスクロース、20gカゼイン、4gセルロールパウダー、3.5gミネラル混合、1gビタミン混合、48.5gポテトスターチを含有する餌を与えて飼育した。試験群には、上記の餌から、3gのトリアシルグリセロール油をリゾリン脂質に置き換えた餌を与え、1ヶ月間飼育した。試験期間中の試験食及び水は自由摂取させた。試験期間中の試験食、水の摂取量に群間差は認められなかった。
【0016】
1ヶ月の飼育後、マウスをエーテル麻酔下で開腹し、腹部大静脈から採血した後、肝臓を摘出した。摘出した肝臓の一部よりFolchらの方法に従い肝臓脂質を抽出した(Folch, J., J.Bio.Chem., 23, 497-509 (1957))。抽出した肝臓脂質はトリグリセライド E−テストワコー(GPO・HDAOS法、グリセリン消去法)を用いて肝臓トリアシルグリセロール蓄積量を、総コレステロールE-テストワコー(GPO・DAOS法)を用いて測定した。
【0017】
図1に示すように、リゾリン脂質の摂取により肝臓トリアシルグリセロール蓄積量が有意に減少した。トリアシルグリセロールと同様に、リゾリン脂質の摂取により肝臓総コレステロール蓄積量も有意に減少した(図2)。このことから、リゾリン脂質は肝臓の脂質の蓄積を抑制し、脂肪肝の抑制に有効であることが分る。
【0018】
実施例2 リゾリン脂質の抗肥満作用
実験動物は、オリエンタル酵母より購入した雄性BKS.Cg−+Leprdb/+Leprdb/Jclマウス(db/db、6週齢)を市販固形飼料で1週間予備飼育した後、平均体重が等しくなるように、2群(1群当り6匹)に分け実験に用いた。
実施例1と同様に対照群、試験食群を設け、1ヶ月間飼育した。試験期間中の試験食及び水は自由摂取させた。試験期間中の試験食、水の摂取量に群間差は認められなかった。1ヶ月の飼育後、体重を測定した。
【0019】
表1に示すように、試験期間後の体重がリゾリン脂質の摂取により有意に低下した。このことから、リゾリン脂質は抗肥満作用を有することが分る。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例3
SLP−ホワイトリゾ(辻製油)をゼラチンカプセルに充填し、1錠300mgの軟カプセル剤を得た。
【0022】
実施例4
下記成分を用い、定法に従って1錠300mgの錠剤を製造した。
組成(mg); SLP−ホワイトリゾ(辻製油) 100、ヒドロキシプロピルセルロース 60、軽質無水ケイ酸 10、乳糖 35、結晶セルロース 35、タルク 30、ジアシルグリセロール 30
【0023】
実施例5
下記成分を用い、定法に従って1錠300mgの錠剤を製造した。
組成(mg); SLP−ホワイトリゾ(辻製油) 100、デンプン 150、ステアリン酸マグネシウム 10、乳糖 40
【0024】
実施例6 脂肪肝抑制/肥満抑制用チョコレート
市販の100gのブラックチョコレートを60℃で1時間保持して溶解した。これに、SLP−ホワイトリゾ(辻製油)を2重量%添加してテンパリングすることによりリゾリン脂質配合チョコレートを得た。
【0025】
実施例7 脂肪肝抑制/肥満抑制用パン
下記成分を混捏した後、原料を発酵後、ねかし、整形、焙炉の工程を経てリン脂質配合パンを得た。
組成(g); SLP−ホワイトリゾ 1.0、強力粉 100、イースト 2、食塩 2、砂糖 3、ショートニング 3、イーストフード 0.15、水 60
【0026】
実施例8 脂肪肝抑制/肥満抑制用クリーム
下記成分を混合した原料を80℃に加熱し、均質機を用いて60kg/cm2 で均質し、5℃の冷蔵庫で12時間保持した。5℃で12時間保持した後、ホイップ用攪拌機を用いて400rpmで4分間ホイップし、リン脂質含有ホイップクリームを得た。
組成(g);SLP−ホワイトリゾ 0.5、水 43.35、融点30℃の植物油脂 30、脱脂乳 25、ショ糖脂肪酸エステル 0.4、モノグリセライド 0.1、リン酸三カリウム 0.15
【0027】
実施例9 脂肪肝抑制/肥満抑制用コーヒー
下記成分を混合した原料を80℃に加温し、均質機を用いて150kg/cm2 で均質し、250ml容のステンレス製缶に250ml充填した後、巻き締め機で蓋をした。これをレトルト釜で120℃、10分間の殺菌を行い、その後10℃に冷却し、リン脂質含有コーヒーを得た。
組成(g); SLP−ホワイトリゾ 0.2、水 40、牛乳 8、砂糖 10、インスタントコーヒー粉末 2、モノグリセライド 0.1
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】リゾリン脂質摂取による肝臓トリアシルグリセロール蓄積量の変化を示すグラフ。
【図2】リゾリン脂質摂取による肝臓総コレステロール蓄積量の変化を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾリン脂質を有効成分とする肥満予防又は改善剤。
【請求項2】
リゾリン脂質を有効性分とする脂肪肝予防又は改善剤。
【請求項3】
肥満予防又は改善剤の製造のためのリゾリン脂質の使用。
【請求項4】
脂肪肝予防又は改善剤の製造のためのリゾリン脂質の使用。
【請求項5】
リゾリン脂質を有効成分として含有し、肥満又は脂肪肝の予防又は改善作用を有することを特徴とし、その旨の表示を付した食品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−74794(P2008−74794A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257968(P2006−257968)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】