説明

肩関節の回旋角度測定方法及び回旋角度測定器

【課題】 内・外旋ともに正確に測定することができる肩関節の回旋角度測定方法と回旋角度測定器を提供する。
【解決手段】 測定方法は、被測定者aの体幹側部に沿って肘bを伸展させた状態で内・外旋の角度を測定する。測定器は、内旋測定時に被測定者aの体幹側部に沿って伸展した肘bの前部とほぼ直交状態で使用され、内旋測定時に被測定者aの体幹と干渉しない平面形状を有する目盛表示部10と、測定時に被測定者aの肘b前部のほぼ中央を先端部に接触させる中心指示片11とを有する測定板1を備え、測定板1には中心指示片11の側部へ内旋測定時に被測定者aの肘bの一部が案内される切欠状案内部12を有し、目盛表示部10には前記中心指示片11の先端部の基点11aを中心とする角度目盛10aが表示したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肩関節の内旋・外旋の角度を測定するための回旋角度測定方法及びその測定器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肩関節の内旋・外旋角度の測定は、肩関節に関するの疾患又は傷害の程度やそれらの回復状態を確かめるために必要とされる。
従来肩関節の回旋角度測定器ないし測定方法によれば、肘(関節)が前方へ直角に曲がった状態で腕を維持し、この状態で前腕が体幹側に回旋するように上腕を捻り(内旋)、また前腕が体幹から遠ざかるように上腕を捻り(外旋)、そのときの回旋角度をスケール部で測るように構成されている(後記特許文献1参照)。
【0003】
発明者らの知見によれば、内旋・外旋の角度測定時には、肘を体幹の側部に沿って伸展させた状態で腕を前述のように捻り、その回旋角度を測定することが正確な測定のために必要である。なぜなら、肘を屈曲させた状態では、肩関節を内旋しても前腕が体幹に当たって最後まで内旋運動を行うことができず、したがって、肩関節の内旋可能域を正確に評価することができないからである。
すなわち、前記従来の測定器ないし測定方法では、測定時に肘を直角に曲げるので、内旋測定時に前腕が体幹に当たるのを避けるために肘を体幹側部よりも前方に位置させた状態にする必要があり、上腕が体幹に対して傾斜した状態になり(又は、上腕に対して体幹が傾斜した状態になり)、そのため内旋角度を正確に測定することができなかった。
【特許文献1】特表平9−501575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、内・外旋とも正確に測定をすることができる肩関節の回旋角度測定方法と、当該測定方法を円滑かつ確実に実施することができ、構造及び操作がより簡単な肩関節の回旋角度測定器を提供することである。
【0005】
本発明に係る肩関節の回旋角度測定方法及び回旋角度測定器は、前述の課題を解決するためそれぞれ以下のように構成している。
すなわち、本発明に係る回旋角度測定方法は、被測定者aの体幹側部に沿って肘bを伸展させた状態で内・外旋の角度を測定することを特徴としている。
【0006】
本発明に係る回旋角度測定器は、内旋測定時に被測定者aの体幹側部に沿って伸展した肘bの前部とほぼ直交状態に位置させて使用され、内旋測定時に被測定者aの体幹と干渉しない平面形状を有する目盛表示部10と、測定時に被測定者aの前記肘b前部のほぼ中央を先端部に接触させる中心指示片11とを有する測定板1を備え、当該測定板1には前記中心指示片11の側部へ少なくとも内旋測定時に被測定者aの肘bの一部が案内される切欠状案内部12を有し、目盛表示部10には前記中心指示片11の先端部の基点11aを中心とする角度目盛10aが表示されていることを最も主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る肩関節の回旋角度測定方法によれば、被測定者aの体幹側部に沿って肘bを伸展させた状態で回旋角度を測定するので、より正確に内旋測定を行うことができる。
また、外旋についても同様に肘伸展位で測定できる。
【0008】
本発明に係る肩関節の回旋角度測定器によれば、肘伸展位で、輪ゴムなどを用いて肘bの前部へ直交するように適当な角度指示バー(鉛筆やシャープペンシルのような棒状のもの)を取り付けた後、被測定者aの肘bを伸展位から一度直角に曲げ(このとき、肘bに対する角度指示バーの安定性を保つため、他動的に曲げるのが好ましい。)、前腕が体幹と直角になるよう前方へ位置させて肩関節を内外旋中間位(内外旋0°)とする。この状態から肘bを伸展し、当該肘bの前部と直交するように測定板1を配置するとともに、前記肘bの前部中央に中心指示片11の先端を接触させ、この状態で上腕を体幹の方向に限界まで内旋させ、角度指示バーによって指示された目盛表示部の目盛を読み取ることにより、前腕を体幹と干渉させることなく前記測定方法を円滑に実施することができ、内旋角度も正確に測定をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
第1実施形態
図1は本発明に係る回旋角度測定器の第1実施形態(右肩関節用)を示し、当該測定器による内旋測定の要領を説明するための平面図、図2は第1実施形態の回旋角度測定器により外旋測定の要領を説明するための平面図である。
測定板1は、厚紙,プラスチック,金属,木材の板その他のある程度以上硬い材質の板により一体に形成された目盛表示部10と中心指示片11とからなり、内旋測定時には被測定者aの体幹の側部に沿って伸展させた肘bの前部とほぼ直交する状態に保って使用される。
この実施形態では、図示しない測定者が手に持って測定板1を前記の状態に保つようにしているが、測定板1は図示しない安定した支柱に対し水平かつ取り外しできるように取り付けて前記状態に保つことができる。この場合には、支柱は大径のパイプと当該パイプに一部が挿入されてスライドする小径のパイプとで構成し、小径のパイプをスライドさせてねじ等で大径のパイプに固定することにより、支柱の長さ(高さ)を適宜調節できるように構成するのが好ましい。
【0010】
目盛表示部10は、前記状態の内旋測定時に被測定者aの体幹と干渉しない平面形状に形成されており、中心指示片11は、測定時にその先端部が被測定者aの伸展状の肘bの方向へ伸びるように突出している。この実施形態では、内旋測定時に被測定者aの体幹の
前方に臨む部分が当該体幹に当たらないように、目盛表示部10の当該部分を切り欠いて傾斜する切欠状部13を形成している。
測定板1には、中心指示片11の側部へ内旋測定時に被測定者aの伸展した肘bの一部が案内されるように切欠状案内部12が形成されている。
この実施形態において、測定板1はその平面形状が全体としてほぼ方形であり、適当な寸法の方形の板を準備し、プレス等により内旋測定時にの体幹前方に臨む角の部分を切り欠いて切欠状部13を形成すると同時に、中心指示片11の部分を残してその側部に切欠状案内部12を形成している。
図示の内旋測定時(基準時)の状態において、被測定者aの側から見て目盛表示部10の右側手前の端部10bは中心指示片11の先端部の右側真横に位置するように構成されている。
【0011】
目盛表示部10には、中心指示片11の先端部の基点11aを中心とする角度目盛10aが表示されており、中心指示片11の基点11aの右側に位置する端部10bを内旋測定時の基準である0度として、所定の角度目盛毎に左回旋方向へそれぞれ内旋測定時用の目盛数字10cが表示されている。
内旋測定時用の目盛数字10cよりも前記基点11a寄り位置には、適当な角度目盛の位置(この実施形態では、内旋測定用の角度目盛の100度の位置)を外旋測定時の基準である0度として、所定の角度目盛毎に右回旋方向へそれぞれ外旋測定時用の目盛数字10dが表示されている。
【0012】
中心指示片11の先端部には、測定時に被測定者の前記肘b前部へ直交状に接触させ得る状態に、前記基点11aを中心として水平方向へ回動する角度指示バー2が取り付けられている。この角度指示バー2は、ある程度制動されていて自由に回動しない状態に取り付けるのが好ましい。
【0013】
以下、第1実施形態の回旋角度測定器による右肩関節の回旋角度測定要領を、回旋角度測定方法の実施形態とともに説明する。
先ず内旋測定の要領を説明する。
測定者が、例えば起立しないし椅子にかけた被測定者aの肘bを伸展位から直角に曲げてその前腕を前方へ水平に位置させ(この動作は、肘bの前部を正確に前方に向かせるため好ましくは他動的に行う)た後腕を下垂させ、図示のように肘bを体幹の側部に沿わせた状態で伸展させる。このとき、肘bはその前部が真ん前を向くように位置させる。
次いで、測定者が測定板1の目盛表示部10を手に持ち、角度指示バー2の先端を内旋測定時用の目盛数字10cの「0」に合わせ、中心指示片11の先端が被測定者aの肘bの前部中央に接触し、かつ中心指示片11が肘bの前部へ直交する状態に測定板1をセットする。この状態で、被測定者aに肘bを内側(体幹方向)に限界まで捻らせ(例えば二点鎖線の位置)て角度指示バー2の先端が指示する角度目盛を読み取る。
【0014】
次に外旋測定の要領を説明する。
測定者が内旋測定の場合と同様に被測定者aの準備姿勢を整えた後、測定板1を手に持ち、図2で示すように、角度指示バー2をその先端が外旋測定時用の目盛数字10dの基準である「0」に合わせ、角度指示バー2が被測定者aの肘bの前部と直交しかつ中心指示片11の先端が肘bの前部中央へ接触する状態に測定板1をセットする。この状態で、被測定者aに肘bを外側に限界まで捻らせて角度指示バー2の先端が指示する角度目盛を読み取る。
【0015】
前記実施形態の回旋角度測定方法及び回旋角度測定器によれば、被測定者aの肘bをその体幹側部に沿って伸展させた状態で内旋測定することができるので、内・外旋角度を正確に測定することができる。
また、測定器は構成が簡単でより低コストで製造することができるほか、操作も簡単である。
【0016】
第2実施形態
図3は、本発明に係る回旋角度測定器の第2実施形態(左肩関節用)を示し、当該測定器により内旋測定の要領を説明するための平面図である。
この実施形態の回旋角度測定器は、その測定板1が、第1実施形態の回旋角度測定器の測定板1の裏面に角度目盛10a及び各目盛数字10c,10dを表示したものである(第1実施形態の測定器の測定板1に対して左右が対称形になっているのみである)ので、測定板1については各部に第1実施形態の測定板1と同じ符号を付してその説明を省略し、異なる点のみを説明する。
この実施形態では、測定時に被測定者aの肘bの前部へ直行するように取り付けられる角度指示バー2を備えている。角度指示バー2は、例えば輪ゴム、ゴムバンドやゴム紐その他の紐20により肘bの前部へ取り付けるのが好ましい。
この実施形態において、それを用いた内旋測定及び外旋測定の要領ないし測定方法や、それらの作用効果は第1実施形態の場合と同様であるのでそれらの説明は省略する。
【0017】
その他の実施形態
例えば図1の測定板1の端部10bへ二点鎖線で示すように、肘bの側方に伸びた目盛表示部10の端部10bを体幹の側方を経て後方へさらに伸び出すように構成し、この伸び出した部分に角度目盛10aを表示することができる。
測定板1の目盛表示部10をこのように構成した場合には、目盛表示部10の寸法はその分だけ大きくなるが、被測定者aと測定板1との測定準備状態を、内・外旋測定ともに同じ姿勢にすることができる。
【0018】
各図で示す角度指示バー2は、当該測定器専用に加工したものであるが、図3の角度指示バーは例えば鉛筆,シャープペンシルその他日常の生活空間に存在する棒状のもので代用できるから、角度指示バー2は本発明の係る回旋角度測定器において必須の構成部分ではない。
測定板1は前述のように平面形状が全体として方形のものを使用するのが好ましいが、そのような形状でなくても実施することができる。また、測定時に測定板1の目盛表示部10と被測定者aの体幹との干渉を避けるための切欠状部13は、前述のように傾斜状(三角形状)でなく、体幹との干渉を避けることができるのであれば他の平面形状であっても差し支えない。
【0019】
前記実施形態では、左肩関節用の回旋角度測定器の測定板1は、右肩関節用の回旋角度測定器の測定板1の裏面を使用したものであるが、左右の肩関節用の回旋角度測定器の測定板1は別に加工したものを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る第1実施形態の回旋角度測定器(右肩関節用)を使用した内旋測定時の基準状態を示す平面図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態の回旋角度測定器(右肩関節用)を使用した外旋測定時の基準状態を示す平面図である。
【図3】本発明に係る第2実施形態の回旋角度測定器(左肩関節用)を使用した内旋測定時の基準状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 測定板
10 目盛表示部
10a 角度目盛
10b 端部
10c,10d 目盛数字
11 中心指示片
11a 基点
12 切欠状案内部
13 切欠状部
2 角度指示バー
a 被測定者
b 肘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定者(a)の体幹側部に沿って肘(b)を伸展させた状態で内・外旋の角度を測定することを特徴とする、肩関節の回旋角度測定方法。
【請求項2】
内旋測定時に被測定者(a)の体幹側部に沿って伸展した肘(b)の前部とほぼ直交状態に位置させて使用され、内旋測定時に被測定者(a)の体幹と干渉しない平面形状を有する目盛表示部(10)と、測定時に被測定者(a)の前記肘(b)前部のほぼ中央を先端部に接触させる中心指示片(11)とを有する測定板(1)を備え、当該測定板(1)には前記中心指示片(11)の側部へ少なくとも内旋測定時に被測定者(a)の肘(b)の一部が案内される切欠状案内部(12)を有し、目盛表示部(10)には前記中心指示片(11)の先端部の基点(11a)を中心とする角度目盛(10a)が表示されていることを特徴とする、肩関節の回旋角度測定器。
【請求項3】
測定時に被測定者(a)の前記肘(b)前部へ直交するように取り付けられる角度指示バー(2)を備えている、請求項2に記載の回旋角度測定器。
【請求項4】
前記中心指示片(11)には、測定時に被測定者(a)の前記肘(b)前部と直交しかつ前記基点(11a)を中心として水平方向へ回動する状態に角度指示バー(2)が取り付けられている、請求項2に記載の肩関節の回旋角度測定器。
【請求項5】
前記測定板(1)の平面形状は全体として方形であり、内旋測定時に被測定者(a)の体幹前方に位置する部分が前記中心指示片(11)の先端部から傾斜部を形成する状態の切欠状部(13)が形成されている、請求項2〜4のいずれかに記載の肩関節の回旋角度測定器。
【請求項6】
前記角度目盛(10a)は前記目盛表示部(10)の両面に表示されている、請求項2〜5のいずれかに記載の肩関節の回旋角度測定器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−61503(P2006−61503A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249053(P2004−249053)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【復代理人】
【識別番号】100074284
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 茂夫
【Fターム(参考)】