説明

肺がん予後および薬物調製における2つのマイクロRNAsの使用

本発明は、肺がん予後の検出において、および医薬の調製においての2つのマイクロRNAsの使用に関する。本発明は特に、2つの小RNA分子のマイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pを含む組成物、肺がん予後の検出において、および哺乳類および人間の肺がん転移を抑制するための薬の調製において用いられる組成物を含むデバイスに関する。とりわけ、マイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pの発現レベルを肺がん予後の予知基準として用いることができ、そこでは、遺伝子の組み合わせの高い発現レベルは、有利な治療上の効果を示す。本発明はまた哺乳類および人間の肺がんにおけるマイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pの発現レベルを検出するデバイスおよび試料におけるマイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pの発現レベルを検出するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのマイクロRNA分子であるマイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pを含む組成物、肺がんの予後を検出するための組成物を含む装置、哺乳類および人間の肺がん形質転換を抑制するための薬の調製における組成物の使用に関する。具体的には、マイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pの発現レベルは、肺がんにおける予後のマーカーとして用いることができ、そこでは、試験試料における遺伝子の組合せの高発現は良好な治療上の効果を示す。本発明はまた、哺乳類および人間の肺がん受動体(患者)でのマイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pの発現レベルを検出するためのデバイス(装置)および試験される試料でのマイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pの発現レベルを検出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子生物学的技術は、悪性腫瘍を有する患者での予後を予測するために、およびその後に、これらの病気の適切な個々の処置用に、分子レベルでの効果的な検出のために採用することができる。肺がんは世界中で共通するがんであり、発生率は、男性(雄性)での18%、一方で女性(雌性)での21%である。2005年には、中国において、肺がんのおよそ500,000の新しい症例が発生した(男性について約330,000の症例および女性について170,000の症例)。肺がんの死亡率は高く、毎年肺がんからの患者の死は900,000を超える〔Parkin(パーキン)DM、1999年〕。その中で、肺がん症例の15-20%は、小細胞肺がんによる。非小細胞肺がんと比較して、小細胞肺がんは、ユニークな形態を有するもの(モルファ)であり、部分構造(サブストラクチャー)、免疫組織化学的な特色のものであり、そして神経内分泌腫瘍のようなものとして分類される〔Morita(モリタ)T、1990年〕。病気は急激に進み、一方それは、放射線療法および化学療法の最初の過程に感受性であり、そして奏効率(レスポンスレート)は60-80%であるが、しかしそれは処置のすぐ後に再発し、その後、放射線療法および化学療法に抵抗性になる。15-25%の限られたステージおよび5%未満の広範囲に及ぶステージで小細胞肺がんを有する患者だけが、処置を通して別の5年を生き残る〔Sandler(サンドラー)AB、2003年〕。そのうえ、小細胞肺がんを有する患者の25-40%は、診断時には70歳よりも年上である。患者は、合併症などのため、化学療法に耐性が乏しく、そして限られた処置手段のために悪い徴候を示し、それでその者らの生存期間中央値はわずか10ヵ月である〔Sekine(セキネ)I、2004年〕。したがって、小細胞肺がんの予後を改善することができる新しい処置戦略を開発する切迫した必要性がある。
【0003】
分子標的療法は近年熱い研究点であり、そして若干の悪性腫瘍の治療での進展をもたらした。たとえば、ゲフィチニブ(Gefinitib)(イレッサ)が非小細胞肺がん治療において使われ、そして特に女性で、煙草を吸わないで、腺がんを患うそれらの患者にとって、予後は良好であり;そして、イマチニブが消化管間質腫瘍の治療において用いられ;そしてより一層良好な治療上の効果が特にキットエクソン11変異を有するもので得られ〔Nilsson(ニルソン)B、2007年〕;そしてC225および放射線療法の組合せが局所的に進行した頭部および頸部がんの処置に採用され、そして生存率は放射線療法単独を用いることよりもほぼ1倍上昇した〔Bonner(ボナー)JA、2006年〕。したがって、さらに小細胞肺がんの分子機構を理解することは、患者の予後を改善するための大きな手助けになるであろう。Fischer(フィッシャー)ら(フィッシャーB、2007年)は、最近の20年における小細胞肺がんの分子機構研究をまとめ:小細胞肺がんに関与する分子経路が主に2つの経路、PI3K/Akt/mTORおよびRAS/MAPKからなり、そしてそれらは、細胞表面受容体チロシンキナーゼ(RTKs)およびそれらの対応する細胞外成長因子の結合を通して活性化し、そこでは、RTKsには、主にIGF-IR、EGFR、VEGFR、PDGFR、c-METが含まれる。このように、理論的には、小細胞肺がんの増殖の抑制は、その経路でのRTKsまたは鍵となる標的の抑制を通して達成することができる。しかし、望ましい臨床効果がまだ得られていないことは残念である。これからみれば、小細胞肺がんでの分子機構の他の局面を理解することは、処置のための躍進でありうる。
【0004】
小RNA分子(マイクロRNA)は大体18-25のヌクレオチドからなり、それは非コードRNA分子であり、またmRNA機能を抑制することができ、そして前記標的mRNAと結合することによって翻訳プロセスを調整することができる。2005年以降、マイクロRNAおよび予後の関係に関する少しの文献が刊行され、および慢性リンパ腫、急性脊髄性白血病、非小細胞肺がん、膵がんおよび神経芽細胞腫、大腸がんにおいて、その予後がマイクロRNAによって著しく影響されることが確認された。しかし、マイクロRNAの小細胞肺がんの予後上の効果についての研究は、いまだ報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Xiao(シャオ)Cら(2007年)、Cell(セル)131: 146-159
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロRNA-150(略してmiR-150)は、22のヌクレオチドを含み、19番染色体に位置し、そしてその配列は、配列番号1:5’-UCUCCCAACCCUUGUACCAGUG-3’で、GenBank(ジェンバンク)受入番号NT_011109.15(シーケンス22272232〜22272315)を有するものとして示され、それは成熟したリンパ球で普通に発現される。2007年にXiao(シャオ)Cによって報告されるように、マイクロRNA-150の主要な機能はc-Myb転写(制御)因子を調整することによってBリンパ球の増殖および分化を制御することである。マイクロRNA-886-3p(略してmiR-886-3p)は、21のヌクレオチドを含み、5番染色体に位置し、そしてその配列は配列番号2:5’-CGCGGGUGCUUACUGACCCUU-3’で、ジェンバンク受入番号NT_034772.5(シーケンス3783,1310〜3783,1190)を有するものとして示され、その機能は文献では報告されていなかった。
本発明の概略を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の第1の見地は、マイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pの2つのマイクロRNA分子の治療上有効な量を含む組成物に関し、そこではマイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3Pの配列はそれぞれ、配列番号1:5’-UCUCCCAACCCUUGUACCAGUG-3’および配列番号2:5’-CGCGGGUGCUUACUGACCCUU-3’として示される。より一層詳しくは、組成物はまた、マイクロRNA分子の劣化を防止するための保存剤および薬学的に許容可能な担体(キャリヤー)を含む。
【0008】
本発明の第2の見地は肺がんの予後(予知)の検出に用いる第1の見地で説明したような組成物を含有するデバイスに関する。具体的には、マイクロRNAs、マイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pの発現レベルは、肺がんの予後における判定基準として用いることができ、そこでは、2つのマイクロRNAsの高発現が受動体(患者)のための良好な予後を示す。より一層具体的には、前記肺がんは小細胞肺がんである。より一層具体的には、前記デバイスは遺伝子チップまたは試薬キットである。
【0009】
本発明の第3の見地は、第1の見地で説明したような組成物の、哺乳動物および人間(ヒト)の肺がんのトランスフォーメーション(形質転換)を抑制するための薬の調製における使用に関する。特に、前記肺がんは小細胞肺がんである。
【0010】
本発明の第4の見地は、哺乳動物および人間の肺がん受動体におけるマイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3PのマイクロRNAsの発現状態を検出するための試薬キットに関連し、以下の、
1)随意に、受動体からのマイクロRNAの抽出のために用いられる試薬、
2)マイクロRNAの逆転写プライマーとして用いられる配列番号3:
5’-GTGCAGGGTCCGAGGT-3’、
3)マイクロRNAのユニバーサル(普遍的)センスプライマー:
配列番号4:
5’-GTCGTATCCAGTGCAGGGTCCGAGGTATTCGCACTGGATACGACCACTGG-3’(マイクロRNA-150用)、
配列番号5:
5’-GTCGTATCCAGTGCAGGGTCCGAGGTATTCGCACTGGATACGACAAGGGT-3’(マイクロRNA-886-3p用)、
4)マイクロRNAの特定(特異的)アンチセンスプライマー
配列番号6:
5’-GTCTCCCAACCCTTGTACCA-3’(マイクロRNA-150用)、
配列番号7:
5’-CACGCGGGTGCTTACTGAC-3’(マイクロRNA-886-3p用)、
5)随意に、逆転写PCRまたはPCRのために用いられる他の必要な試薬、
6)随意に、前記マイクロRNA、逆転写PCR生成物またはPCR生成物の検出のために用いられる他の試薬
を含み、
ここで、マイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3Pの配列はそれぞれ、配列番号1および配列番号2として示される。特に、前記デバイスは遺伝子チップまたは試薬キットである。
【0011】
本発明の第5の見地は、試験する試料でのマイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pの発現状態を検出するための方法に関し、次の工程、
1)新しく分離した組織またはホルマリンパラフィン包埋組織からマイクロRNAを抽出すること、
2)遺伝子チップを用いて腫瘍組織標本を検出すること、および予後に関係する遺伝子:マイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pをスクリーニング(選別)すること
3)チップからのデータを処理することであり、次の
各マイクロRNA信号発現値および生存比率間の関係を、一変量コックス回帰モデルを用いて評価すること、
一変量コックス回帰分析から導き出される回帰係数を掛け合わせたマイクロRNAsの統計的に有意な信号値の一次結合を介して、各受動体に複合値(compound value)を割り当てること、
次の式、すなわち、
複合値=0.545×(マイクロRNA-150の発現値)+0.617×(マイクロRNA-886-3pの発現値)を有するカットオフ点としての中央複合値を使用し、予後を評価すること
を含むこと、
4)予後モデルを確認することであり、マイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3p遺伝子配列に従い設計されたプライマーと共にPCR増幅を実行し、および2〜4μlのPCR生成物を、1.5%の非変性アガロースゲル電気泳動(ホルムアルデヒドを伴わない)によって検出すること、
5)PCRデータを収集することおよび処理すること、すなわち、
内部標準としてU6RNAを使用してデータを標準化し、およびチップで作られたモデルにより予後を評価すること
を含む。
【0012】
言い換えると、本発明者は、肺がん、特に中国において小細胞肺がんを、マイクロRNA遺伝子チップおよびqRT-PCR技術を用いて研究する。意外にも(Unexpectly)、マイクロRNA-150およびマイクロRNA-883-3pの発現レベルは、異なる予後を有する患者からの組織サンプル(試料)において異なる。良好な予後を有する大部分の患者は、2つのマイクロRNAsの高発現を有する。2つのマイクロRNAsの信号値の一次結合の後、発現が予後とより一層密接に関連することは、特に重要である。検出は試料の別のセットにおいて行われ、そして類似した結果が得られた。したがって、遺伝子の組合せを、肺がんのために、特に小細胞肺がんのために、良好な予後のモデルとして用いることができる。このモデルにより、肺がんは2つのタイプ、無痛性および侵襲性に分類することができ、そして採用される異なる治療上のレジメン(規制)は異なるタイプに依存する。無痛性の病変は手術、放射線療法のような局所治療を使用することによって処置することができ、そして主に全体的な化学療法を通して、処置は浸潤性病変にとって比較的により一層攻撃的である。遺伝子の組合せを対応する遺伝子チップまたは試薬キットに適用することによって、予後は特に、人間を含む哺乳類において、肺がん、特に小細胞肺がんについて速く知ることができ、それは肺がん、特に小細胞肺がんの治療上のモードを変える際に画期的に重要なことである。
【0013】
本発明の1つの具体化において、肺がん細胞系の試験管内浸潤および付着能力に関するマイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pを含む組成物の効果を説明する。マイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pが細胞外基質に対する肺がん細胞の接着容量を減らすことができ、および肺がん細胞の浸潤性転移を抑制することができることを、それらの結果は示す。したがって、本発明で言及するようなマイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pのマイクロRNA分子は、肺がん、特に、小細胞肺がんの処置のための使用において潜在能力を有する。
【0014】
本発明の別の具体化では、本発明に従う検出方法を説明し、それは主にマイクロRNA抽出、遺伝子チップ調製、ハイブリダイゼーション、およびqRT-PCR確認などのステップを含む。遺伝子チップ検出は、主に予後と関係する遺伝子をスクリーニング(選別)するために用いられる。選別して除かれる遺伝子は、qRT-PCRによって確かめられる。本発明者が小細胞肺がんの予後と関係する遺伝子を見出したので、将来の臨床応用においてマイクロRNA抽出およびqRT-PCRだけを使うことは実行可能である。これらの2つの方法は、当業者のための慣習的な操作である。したがって、モデルを臨床的に実用化することは簡単である。
【0015】
本発明の別の具体化では、試験される試料においてマイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pの発現状態を検出するための方法も説明し、それは以下のステップ、すなわち、
1)マイクロRNAを新しく分離した組織またはホルマリンパラフィン包埋組織から抽出すること、
2)遺伝子チップを用いて腫瘍組織標本を検出すること、および予後に関係する遺伝子、すなわち、マイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pをスクリーニングすること
3)チップからのデータを処理することであり、次の、
各マイクロRNAの信号発現値および生存比率の間の関係を、一変量コックス回帰モデルを用いて評価すること、
一変量コックス回帰分析から導き出される回帰係数を掛け合わせたマイクロRNAsの統計的に有意な信号値の一次結合を介して、各受動体に複合値を割り当てること、
次の式、すなわち、
複合値=0.545×(マイクロRNA-150の発現値)+0.617×(マイクロRNA-886-3pの発現値)を有する、カットオフ点としての中央複合値を使用し、予後を評価すること、
4)予後モデルを確認することであり、マイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pの遺伝子配列に従い設計されたプライマーと共にPCR増幅を実行し、および2〜4μlのPCR生成物を、1.5%の非変性アガロースゲル電気泳動(ホルムアルデヒドを伴わない)によって検出すること、および
5)PCRデータを収集することおよび処理することであり、すなわち、
内部標準としてU6RNAを使用してデータを標準化し、およびチップで作られたモデルにより予後を評価すること
を含む。以下に、図面を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】小細胞肺がん組織からのマイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pの電気泳動結果を示し、そこでは、 1〜40はhsa-miR-let-7i遺伝子を、リアルタイムPCRによって、試料145、146、147、148、151、152、156、157、158、160、162、163、165、167、168、169、170、172、174、176、177、178、179、180、181、182、183、184、186、188、189、192、195、195、196、197、198、199、200および202の1st-cDNAをそれぞれ鋳型として使用して増幅させ; 41〜80はhsa-miR-150遺伝子を、リアルタイムPCRによって、試料145、146、147、148、151、152、156、157、158、160、162、163、165、167、168、169、170、172、174、176、177、178、179、180、181、182、183、184、186、188、189、192、195、195、196、197、198、199、200および202の1st-cDNAをそれぞれ鋳型として使用して増幅させ; 81〜120はhsa-miR-886-3p遺伝子を、リアルタイムPCRによって、試料145、146、147、148、151、152、156、157、158、160、162、163、165、167、168、169、170、172、174、176、177、178、179、180、181、182、183、184、186、188、189、192、195、195、196、197、198、199、200および202の1st-cDNAをそれぞれ鋳型として使用して増幅させる。 分子量マーカー:TaKaRa(タカラ)DL2000、マーカーDNAのサイズは100bp、250bp、500bp、750bp、1000bp、2000bpを含む(ボトムからトップまで)。 電気泳動の結果で示すように、マイクロRNAリアルタイムPCR反応において良好な特異性が存在する。
【図2】チップグループにおいて小細胞肺がんを有する患者の予後が、予後モデルの発現状態に従って分析されることを示す。
【図3】PCR確認グループにおいて小細胞肺がんを有する患者の予後が、予後モデルの発現状態に従って分析されることを示す。
【図4】表1におけるRNA抽出の確認を示す。
【図5】マイクロRNA-886-3pおよびマイクロRNA-150が細胞の試験管内浸潤能力を抑制することを示し、 A:細胞染色の概略図は、miRコントロール、miR-150、miR-886-3p、miR-150/miR-886-3pをそれぞれ細胞系に添加した後、H446細胞の試験管内浸潤能力の抑制を示し、 B:棒グラフ(ヒストグラム)は、miRコントロール、miR-150、miR-886-3p、miR-150/miR-886-3pを細胞系にそれぞれ添加した後、H446細胞の試験管内浸潤能力の抑制を示す。
【図6】マイクロRNA-886-3pおよびマイクロRNA-150が細胞の試験管内浸潤能力を抑制することを示し、 A:細胞染色の概略図は、miRコントロール、miR-150、miR-886-3p、miR-150/miR-886-3pをそれぞれ細胞系に添加した後、H1299細胞の試験管内浸潤能力の抑制を示し、 B:棒グラフは、miRコントロール、miR-150、miR-886-3p、miR-150/miR-886-3pを細胞系にそれぞれ添加した後、H1299細胞の試験管内浸潤能力の抑制を示す。
【図7】マイクロRNA-886-3pおよびマイクロRNA-150がマトリックスへの細胞付着を抑制することを示し、 A:棒グラフは、miR-NC(コントロール)、ポストmiR-886-3p、miR-150、miR-886-3p/miR-150のトランスフェクションの30、60、90分でのH446細胞の付着比率を示し、 B:棒グラフは、miR-NC(コントロール)、ポストmiR-886-3p、miR-150、miR-886-3p/miR-150のトランスフェクションの30、90分でのH1299細胞の付着比率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明を詳細に記載する。本発明を、さらに以下の例を使用することによって説明するが、これらのものに制限されるものではない。
【0018】
以下の例では、特に示さない限り、本出願で使用されるすべての試薬は分析的に純粋な、そして市販されているものである。他に定めない限り、本発明の例において述べるようなRT-PCR、PCRおよび他の操作は、「Molecular Cloning:a Laboratory Manual (The 3rd Edition)〔分子クローニング:ラボラトリー・マニュアル(第3版)〕」〔J. Sambrook(サムブルック)およびD. W. Russell(ラッセル)[米国]、Peitang Huang(ペイタン・ファン)らによる翻訳、Science Press(サイエンス・プレス社)、2002年〕および製造元の指示に従って実行され;細胞培養、細胞継代、細胞回復および凍結保存、細胞トランスフェクション、免疫蛍光アッセイおよび他の操作は、「Culture of Animal Cells: a Manual of Basic Technique (The 4th Edition)〔動物細胞の培養:基本的なテクニックのマニュアル(第4版)〕」〔R. Ian Freshney(イーアン・フレッシュニー)[英国]、Jingbo Zhang(ジンボ・チャン)らによる訳、サイエンス・プレス社)、2000年〕および製造元の指示に従って遂行される。
【実施例】
【0019】
例1:マイクロRNA-150およびマイクロRNA-886-3pの遺伝子発現状態を検出するための方法
1.試料の総RNAの抽出-トリゾール法での組織または細胞からの総RNA抽出
(1)サンプルソース
【0020】
サンプルは、がん研究所、病院、中国医療科学院および北京ユニオン医科大学から集めた。組み入れ基準は、次の、すなわち、齢≦75;KPSスコア≧80;限局期の小細胞肺がんを有する、手術±化学療法±放射線療法を受けた患者;十分なmiRNAを得るために足りるホルマリンパラフィン包埋組織;完全な文書での医療記録およびフォローアップ(追跡)記録を含む。組み入れ基準を満たした2002年および2005年の間のホルマリン固定およびパラフィン包埋された42の症例の肺の小細胞肺がん標本を、予後に関係するマイクロRNAsのマイクロチップの検出および選別のために選定した。2000年および2001年の間のホルマリン固定およびパラフィン包埋された40の症例の小細胞肺がん標本を、チップ結果の確認のために選定した。特定の症例の特徴を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
(2)サンプル処理(粉砕は細菌または細胞のために必要ではない)
およそ1cm2の面積を有する組織試料をアルミホイルにおいて壊し、次いで鋼製ビーズを含むエッペンドルフチューブに移し、そして粉砕ミルで粉砕し(30 1/s、8分)、
メモ:このステップは可能な限り低温液体窒素環境において操作されなければならず、そして粉砕は細菌または細胞のために必要ではない;
(3)1mlのトリゾールを粉砕ステップ後、エッペンドルフチューブに加え、そして振とうすることによって混合し;
(4)混合した溶液を新しいエッペンドルフチューブへ移し、そして200μlのクロロホルムを添加し、そして振とうすることによって混合し;
(5)溶液を、4℃にて15分間12000rpmで遠心分離し;
(6)得られた上清を、新しいエッペンドルフチューブへ移し、そして500のμlのイソプロパノールを添加し、それから穏やかに混合し、そして室温で15分間静置し;
(7)溶液を、4℃にて15分間12000rpmで遠心分離し;
(8)上清を取り除き、そして次いで1mlの75%エタノールを添加し、そして振とうすることによって混合し;
(9)溶液を、4℃にて5分間7500rpmで遠心分離し;
(10)上清を取り除き、そしてエタノールを層流キャビネットにおいてすっかり蒸発させ;
(11)40〜60μlのDEPC H2Oを添加し、そして混合物を5分間65℃で可溶化させ;
(12)得られた試料は低温保存のために-20℃で凍らせた。
【0023】
2.総RNAの品質評定
【0024】
(1)NanoDrop(ナノドロップ)(総RNAの2μlを負荷する)による総RNA濃度の決定、
(2)1.5%のホルムアルデヒド変性(denaturing)アガロースゲル電気泳動によるRNA品質の決定

合計容量はおよそ6〜8μlである。
【0025】
ホルムアルデヒド変性アガロースゲル:0.45gのアガロースを30mlの1×TBEバッファーに加え、混合物を電子レンジにおいて溶解するように加熱し、アガロースが完全に混ざる(懸濁顆粒が視覚的に観察されることができない)ように穏やかに振とうし、混合物がおよそ60℃に冷却されたとき、ホルムアルデヒドの600μlを添加し、混合し、そして次にRNAのために特別なゲルモジュールに注ぎ込んだ(7.5×5.5cm)。室温でおよそ30分間置いた後、アガロースゲルはすぐに使われる。
電気泳動を15〜20分間120〜130Vで実行した。
本発明において40の標本から抽出されたRNAsの量、分解(degradation)およびサイズを、表2および図4に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
3.マイクロRNAの逆転写:
【0028】

システムの合計容量は20μlであった。
(2)逆転写のプログラムは、次の、すなわち、16℃30分間、37℃30分間、70℃10分間、そして次に生成物を用いるために4℃に保った。
4.マイクロRNAのリアルタイムPCR反応
【0029】

ヌクレアーゼフリーH2Oを20μlに添加した。
【0030】

【0031】

合計容量はおよそ6〜8μlであった。
【0032】
非変性アガロースゲル:1.2gのアガロースを80mlの1×TBEバッファー中に加え、混合物を電子レンジにおいて溶解するように加熱し、アガロースが完全に混ざる(懸濁顆粒が視覚的に観察されることができない)ように穏やかに振とうし、混合物がおよそ60℃に冷却されたとき、EB(原液)の2μlを添加し、溶液を混合し、そして次いでゲルキャスティングモジュールに注ぎ込んだ(15×15cm)。室温でおよそ30分の間置いた後、アガロースゲルはすぐに使われる。
電気泳動を25〜30分間100Vで実行した。
電気泳動の結果は、マイクロRNAリアルタイムPCR反応において、図1に示すように、良好な特異性を示す。
【0033】
5.データ収集および処理
マイクロRNAsの発現値をコードに変換し、そこでそれらをその発現レベルに応じて3つの等しい部分に分けた。最初の3分の1は、合計発現の間での低い発現レベルに対応したコード「1」を与えられ、第2の3分の1は、中央の発現レベルに対応したコード「2」を与えられ、そして最後の3分の1は、高い発現レベルに対応したコード「3」を与えられた。次に、各マイクロRNAのコードを、予後に関係するマイクロRNAを見出すために一変量コックス(Cox)回帰モデルに導入した。予後のための保護的マイクロRNAsは、死亡についての危険率<1のものとして規定された。予後のための負に関連したマイクロRNAsは、死亡についての危険率>1を有するものとして規定された[18]。一変量コックス比例ハザード回帰分析を、マイクロRNAsを見出すために用いた後、各マイクロRNAの発現値は、各患者のための予後のリスクスコアであるように用いられる一次結合を形成するために、回帰係数(B値)を掛け合わされ、そこでB値は一変量コックス回帰分析によって与えられた。式は、次のように与えられ、すなわち、リスクスコア= B1g1+B2g2+B3g3+...+Bngn(B:回帰係数、g:miRNAの発現値、n:miRNAsの数)。より一層高いリスクスコアを有する患者ほど、低い生存転帰(survival outcomes)を有することが期待される。その後、トレーニンググループおよび試験グループを含む異なるグループでの患者を、カットオフ点として中央マイクロRNAのリスクスコアを用いて高リスクおよび低リスクのグループに分けた。
【0034】
Kaplan-Meier(カプラン・マイヤー)法を、全生存を推定するために用いた。高リスクおよび低リスクの患者の間での生存率の違いを分析した。データは内部標準としてU6 RNAを用いて正規化(標準化)した。一変量コックス回帰モデルは、各マイクロRNAの豊富な値および生存比率の間の関係を分析するために用いた。回帰係数を掛け合わせた一変量コックス回帰分析から導き出されたマイクロRNAの統計的に有意な信号値の一次結合に基づいて、複合値を各患者に割り当てた。複合値は、患者の予後を評価するために用いた。患者は、カットオフ点として中央マイクロRNAの複合値を使用して、2つのグループに分け、低リスク群は高リスク群に比べてより一層長い生存時間を有した(P=0.005、図2および図3を参照)。図2に示すように、トレーニンググループでは、高リスク群の3年および5年の生存比率は、それぞれ47.6%および28.6%であったが、一方で低リスク群の3年および5年の生存比率は76.2%であった。図3に示すように、試験グループでは、高リスク群の3年および5年の生存比率は、それぞれ40%、33.6%であったが、一方で低リスク群の3年および5年の生存比率は、74.1%および68.8%であった。
例2:肺がん細胞の浸潤および付着を抑制する上でのマイクロRNA-886-3pおよびマイクロRNA-150の生物学的効果に関する研究
【0035】
1.実験手順
【0036】
(1)細胞培養
ヒト小細胞肺がん細胞系NCI-H446を、Cell Center of Basic Medical Sciences(基礎医学の細胞センター)、 Chinese Academy of Medical Sciences(中国医療科学院)から購入し、5%CO2雰囲気中で37℃、10%ウシ胎仔血清を含む1640培地において培養した。
【0037】
ヒト非小細胞肺がん細胞系NCI-H1299を、教授Weiguo Zhu(ワイグオ・チュー)、バイオケミストリーおよびモレキュラーバイオロジー部門、北京大学ヘルスサイエンスセンターによって好意により提供され、そして5%CO2雰囲気での37℃、10%ウシ胎仔血清を含む1640培地において培養した。
【0038】
(2)miRNA一過性トランスフェクション
a.miRNA母液の調製:250μLの1×ユニバーサルバッファーを、20μモル/LのmiRNA母液を得るために、5ナノモルのmiRNAに加え、
b.良好に増殖した細胞を、トランスフェクションの前の日に6ウェルのプレート(抗生物質なし)においてインキュベートし、そして細胞密度がおよそ70%に達したとき、トランスフェクションを実行し、
c.以下の複合体の調製:溶液A:適切な濃度でのmiRNAを、250μLの無血清媒地中に希釈し、そして緩徐に混ぜた。溶液B:6μLのリポフェクタミン2000で、使用前に十分に混合したものを、無血清媒地の250μLにおいて希釈し、混合し、そして室温で5分間インキュベートし、
d.リポソーム(溶液B)の希釈物を、miRNAの希釈物(溶液A)を用いて緩徐に混合し、そして室温で20分間インキュベートし、
e.混合した複合体の500μLを6ウェルプレート中に加えた。2mLの無血清媒地を加え、そして次に緩徐に混合した。元の媒地を6時間後に除去し、そして10%の血清を含むRPMI1640の媒地と入れ替えた。
【0039】
(3)miRNAリアルタイムRT-PCR
【0040】
a.サンプルの全RNAの抽出-トリゾール法による細胞からの全RNAの抽出
(I)良好に増殖した細胞を採用した。細胞密度が80%-90%に達したとき、培地をボトルから注ぎ出し、そして細胞をPBSで2回洗浄し;
(II)1mlのトリゾールをボトル中に加え、緩徐に振とうし、そして15分間氷上に置く;
(III)DEPCで前処理したエッペンドルフチューブへ、混合した溶液を移し、そして200μlのクロロホルムを添加し、および振とうによって混合し;
(IV)溶液を、4℃にて15分間12000rpmで遠心分離し;
(V)得られた上清を新しいエッペンドルフチューブへ移し、500μlのイソプロパノールを添加し、緩徐に混合し、次いで室温にて15分間置き;
(VI)溶液を、4℃にて15分間12000rpmで遠心分離し;
(VII)上清を捨て、そして1mlの75%のエタノールを添加し、および振とうすることによって混ぜ;
(VIII)溶液を4℃にて5分間7500rpmで遠心分離し;
(IX)上清を捨て、そしてエタノールを層流キャビネットにおいてすべて蒸発させ;
(X)DEPC H2Oの40~60μlを添加し、そしてペレットを5分間65℃で可溶化させ;
(XI)得られたサンプルを低温保存のために-20℃で凍らせた。
【0041】
b.全RNAの品質評定
【0042】
(I)NanoDrop(ナノドロップ)(合計RNAの2μlの負荷)による総RNA濃度の決定
【0043】

【0044】
ホルムアルデヒド変性アガロースゲル:0.45gのアガロースを30mlの1×TBEバッファーに加え、電子レンジにおいて溶解するように加熱し、アガロースが完全に混ざる(懸濁顆粒が視覚的に観察されえない)ように穏やかに振とうし、次いでおよそ60℃に冷却されたとき、600ulのホルムアルデヒドを添加し、そして溶液を混合し、そしてその後RNAのために特別のゲルキャスティングモジュール中に注ぎ込んだ(7.5×5.5cm)。室温でおよそ30分の間置いた後、アガロースゲルはすぐに使われる。
電気泳動を15〜20分間120〜130Vで実行した。
【0045】
c.マイクロRNAの逆転写:
【0046】

【0047】
(II)逆転写のプログラムは、すなわち、16℃で30分間、37℃で30分間、70℃で10分間、次に4℃で保持した。
【0048】
d.マイクロRNAのリアルタイムPCR反応
【0049】

【0050】

【0051】

【0052】
非変性アガロースゲル:1.2gのアガロースを80mlの1×TBEバッファーに加え、混合物を電子レンジにおいて溶解するように加熱し、そしてアガロースを完全に混ぜる(懸濁顆粒が視覚的に観察されえない)ように緩徐に振とうし、混合物がおよそ60℃にまで冷却されたとき、EB(原液)の2μlを加え、溶液を混合し、そして次にゲルキャスティングモジュールに注ぎ込んだ(15×15cm)。室温でおよそ30分間置いた後、アガロースゲルはすぐに使われる。
電気泳動を25〜30分100Vで実行した。
【0053】
(4)細胞浸潤能力の分析
原理は運動性の特徴および腫瘍浸潤の指向性に基づく。基材の表面との接触後、腫瘍細胞は一連のメカニズムによって一定の方向に動くことができる。
a.H446およびH1299細胞のために、マトリゲルを500μg/mLおよび1mg/mLまでそれぞれ希釈した。100μlの希釈剤を、ポリカーボネート膜(8μm孔を有する)のトランスウェルの挿入物の上側チャンバー中に加え、および5%のCO2インキュベーターにおいて37℃で1時間インキュベートし、そして次に水性相を吸い出し、
b.良好に増殖した腫瘍細胞を消化し、48時間のポストトランスフェクション後に一定の密度で再懸濁し、
c.それぞれ、10×104 H446細胞または5×104H1299細胞を含む細胞懸濁液の200μlを、各トランスウェル挿入物の上側チャンバーに播種し、10%血清を含む800μl培養流体を底部チャンバー中に添加し、次に細胞を5%CO2インキュベーターにおいて37℃で12時間培養し、
d.チャンバーを取り出し、そして移動のない細胞の上層をこすり落とし、
e.膜上の細胞を、15分間70%のメタノールで固定し、
f.細胞を20分間5%のクリスタルバイオレット(メタノール中)で染色し、次いで蒸留水で洗浄し、
g.底部チャンバーの表面上の細胞を顕微鏡下に計数し、および統計学的に分析し、および同時に撮影した。
【0054】
(5)腫瘍細胞付着の分析
a.フィブロネクチンを、無菌操作の下で予冷チップを使用して吸引し、20μg/mLに希釈し、
b.50μLの希釈したフィブロネクチンを、96ウェルプレートの各ウェル中に添加し、
c.フィブロネクチンで被覆された96ウェルプレートを、滅菌作業台で乾燥させ、
d.細胞を消化し、遠心分離し、および48時間のポストmiRNAトランスフェクション時に10%血清を含む培養流体で再懸濁し、
e.5×104細胞を、フィブロネクチンで被覆した96ウェルプレートの各ウェルに播種し、5つの並列ウェルを設定し、
f.それぞれ30、60、90分または30、60分のインキュベーションの後、H446およびH1299細胞を、非接着細胞を除去するためにPBSで洗浄し、そして培地を3時間後に完全に接着性なグループで廃棄した。細胞を、10分間、70%メタノールで固定し、そして室温で乾燥し、次いで20分間、0.1%クリスタルバイオレットで染色した。OD570を10%SDSで脱色した後に決定し、それは異なる時点での付着細胞を表示した。完全に接着性なグループを、各実験群においてセットアップし、
g.付着比率は、残存細胞により算出し、および細胞付着比率=(実験群のOD値/完全に密着性な群のOD値)×100%であった。
【0055】
(6)統計解析
実験データは、両側性スチューデントt-検定で、P<0.05を有意差として、SPSS10.0ソフトウェアパッケージ(SPSS、シカゴ、IL)を使用して分析した。
2.結果
【0056】
(1)標的のmiRNAを過剰発現するように化学的合成成熟miRNAでの肺細胞系のトランスフェクション
トランスフェクションは、リポフェクタミン2000を使用して実行した。単一のトランスフェクションのために、miR-886-3p、miR-150またはmiR-AS-EGFPは、終濃度50nMにて、H446とH1299細胞を一過性にトランスフェクションするのに用い、その一方で、コトランスフェクションのために、miR-886-3pおよびmiR-150は、終濃度の37.5nMにて、またはmiR-AS-EGFPは、終濃度の75nMにて、コントロールとしてmiR-AS-EGFPでH446およびH1299細胞をトランスフェクションするのに用いた。48時間のポストトランスフェクションで、細胞を収集した。さらに、miR-886-3pおよびmiR-150の発現レベルをリアルタイムPCRにより測定した。H446細胞系内の単一のトランスフェクションでは、miR-886-3pおよびmiR-150の発現レベルは、それぞれ、コントロールと比べ2.5倍および2.9倍増加した。H446細胞系でのコトランスフェクションでは、miR-886-3pおよびmiR-150の発現レベルは、それぞれ、コントロールと比べ1820.6倍および101.5倍増加した。H1299細胞系における単一のトランスフェクションでは、miR-886-3pおよびmiR-150の発現レベルは、それぞれ、コントロールと比べ235.4倍および1723.3倍増加した。H1299細胞系におけるコトランスフェクションでは、miR-886-3pおよびmiR-150の発現レベルは、それぞれ、コントロールと比べ2736.3倍および2052.0倍増加した。結果は、H446およびH1299細胞系でのmiR-886-3pおよびmiR-150の発現レベルが、トランスフェクション後に有意に増加することを示し、トランスフェクション手順およびシステムがmiRNAの過剰発現の対応する研究に適していたことが示された。
【0057】
(2)細胞の試験管内浸潤能力でのmiR-886-3pおよびmiR-150の高発現の効果
腫瘍細胞の試験管内の浸潤能力を、Transwell(トランスウェル)浸潤アッセイを使用して研究した。H446細胞およびH1299細胞を、消化し、そして24時間のポストトランスフェクションにて無血清RPMI 1640により再懸濁して、それぞれ、トランスウェルの挿入物の上部チャンバーにおいて1×105細胞および5×104細胞の量で播種し、その一方で、底部チャンバーにおいて、10%血清を含む800μlのRPMI 1640を添加し、次いで細胞を、8μmの孔付きポリカーボネート膜の下層へのそれらの侵入が許容されるように、37℃で12時間培養した。0.5%のクリスタルバイオレットによる染色の後、紫色に染色された細胞を顕微鏡の下で可視化し(図5A、図6A)、そしてポリカーボネート膜の下側表面上の細胞を計数した。計算によって、膜を横切ったmiR-886-3p、miR-150およびmiR-886-3p/miR-150によってトランスフェクションされたH446細胞の数はそれぞれ、コントロールのそれの55.0%±8.5%、65.7%±8.5%、71.0%±8.5%であった。膜を横切ったmiR-886-3p、miR-150およびmiR-886-3p/miR-150によってトランスフェクションされたH1299細胞の数は、それぞれ、コントロールのそれの73.6%±3.5%、61.8%±11.1%、83.7%±8.3%であった。miR-886-3p、miR-150およびmiR-886-3p/miR-150の高発現を有するH446およびH1299細胞の試験管内浸潤能力がコントロール細胞と比較して明らかに弱められることを、それらの結果は示した(図5B、図6B)。そして、相違は統計分析において有意であった。
【0058】
(3)H446およびH1299細胞系の細胞外基質付着に及ぼすmiR-886-3pおよびmiR-150の高発現の効果
細胞付着能力は腫瘍細胞の転移での重要な役割を演じる。48時間のポストトランスフェクションにて、5×104のH446およびH1299の細胞を、フィブロネクチン(20μg/mL)細胞外基質で被覆した96ウェルプレート中に播種した。細胞を種々の時点で洗浄し、そしてその後残留する細胞は付着細胞であった。細胞を10分間70%のメタノールで固定し、20分間0.1%のクリスタルバイオレットで染色した。OD570値を10%のSDSでの脱色の後に定めた。付着比率を計算し、それは細胞外基質への付着能力を反映した。miR-NC、miR-886-3p、miR-150およびmiR-886-3p/miR-150によってトランスフェクションされたH446細胞の付着比率が、それぞれ、30分で、14.9%±0.9%、11.3%±0.3%、13.3%±0.1%、11.4%±0.3%であったこと;それぞれ、60分で、45.1%±1.9%、42.8%±2.2%、45.1%±1.8%、41.6%±1.1%であったこと;それぞれ、90分で、56.9%±1.0%、49.0%±2.0%、52.8%±0.5%、47.6%±0.5%であったことを、それらの結果は示した(図7A)。miR-NC、miR-886-3p、miR-150およびmiR-886-3p/miR-150でトランスフェクションされたH1299細胞について、付着比率は、それぞれ、30分で、37.6%±1.5%、34.7%±2.8%、24.6%±3.0%、23.4%±0.5%であり;それぞれ、90分で、47.1%±1.5%、40.0%±2.1%、36.6%±2.2%、29.9%±4.2%であった(図7B)。コントロール細胞と比較して、miR-886-3p、miR-150およびmiR-886-3p/miR-150でトランスフェクションされたH446およびH1299細胞の付着比率はすべて減らされ、そして相違は統計分析によって有意であった。miR-886-3p、miR-150およびmiR-886-3p/miR-150の高発現を有するH446およびH1299細胞の細胞外基質付着能力が明らかに減らされることを、これらの結果は示した。
【0059】
参考文献
(1)Fischer(フィッシャー)B、Marinov(マリノフ)M、Arcaro(アーキャロ)A(2007年)。“Targeting receptor tyrosine kinase signalling in small cell lung cancer (SCLC): What have we learned so far?〔小細胞肺がん(SCLC)での受容体チロシンキナーゼシグナル伝達のターゲティング:著者らはここまで何を学んだか?〕”。Cancer Treatment Reviews 33: 391- 406。
(2)Bonner(ボナー)JA、Harari(ハラーリ).PM、Giralt(ジラート)Jら(2006年)。“Radiotherapy plus cetuximab for squamous-cell carcinoma of the head and neck.(頭部および頚部の扁平上皮がんのための放射線療法プラスのセツキシマブ)”。N Engl J Med 354:567-578。
(3)Xiao(シャオ)C、Calado(カラド)DP.、Galler(ガレー)Gら(2007年)。“MiR-150 Controls B Cell Differentiation by Targeting the Transcription Factor c-Myb(MiR-150は、転写因子c-Mybを標的とすることによって、B細胞分化を制御する)”。Cell 131: 146-159。
(4)Sekine(セキネ)I、Yamamoto(ヤマモト)N、Kunitoh(クニトー)Hら(2004年)。“Treatment of small cell lung cancer in the elderly based on a critical literature review of clinical trials(臨床試験の批評的文献レビューに基づく年配者での小細胞肺がんの処置)”。Cancer Treatment Reviews 30: 359-368。
(5)Morita(モリタ)T、Sugano(スガノ)H.(1990年)。“A statistical analysis of lung cancer registered in the Annual of Pathological Autopsy Cases in Japan between 1958 and 1987, with special reference to the characteristics of lung cancer in Japan(日本での肺がんの特徴に特に関連する、1958および1987年の間の日本病理剖検年報で登録された肺がんの統計分析)”。Acta Pathol Jpn 40: 665-675。
(6)Nilsson(ニルソン)B、Sjolund(ソールン)K、Kindblom(カインブロム)LGら(2007年)。“Adjuvant imatinib treatment improves recurrence-free survival in patients with high-risk gastrointestinal stromal tumours (GIST)〔アジュバントイマチニブ治療は、ハイリスクの消化管間質腫瘍(GIST)を有する患者において、無再発生残を改善する〕”。Br J Cancer 96: 1656-1658。
(7)Parkin(パーキン)DM、Pisani(ピザーニ)P.、Ferlay(フェーレイ)J(1999年)。“Estimates of the worldwide incidence of 25 major cancers in 1990(1990年における25の主要ながんの世界的な発生率の推定)”。Int J Cancer 80: 827-841。
(8)Sandler(サンドラー)AB(2003年)。“Chemotherapy for small cell lung cancer(小細胞肺がんのための化学療法)”。Semin Oncol 30: 9-25。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1として示される配列を有するマイクロRNA−150のマイクロRNA分子および配列番号2として示される配列を有するマイクロRNA−886−3pのマイクロRNA分子の治療上有効な量を含むことを特徴とする、組成物。
【請求項2】
さらに薬学的に許容可能な担体を含むことを特徴とする、請求項1に請求する組成物。
【請求項3】
哺乳類および人間の肺がんの予後の検出のために用いられる請求項1に請求する組成物を含むデバイス。
【請求項4】
肺がんは小細胞肺がんであることを特徴とする、請求項3に請求するデバイス。
【請求項5】
デバイスは遺伝子チップまたは試薬キットであることを特徴とする、請求項3に請求するデバイス。
【請求項6】
哺乳類および人間の肺がん形質転換を抑制するための薬を調製することにおいての請求項1に請求する組成物の使用。
【請求項7】
肺がんは小細胞肺がんであることを特徴とする、請求項6に請求する使用。
【請求項8】
哺乳類および人間の肺がん受動体でのマイクロRNA−150およびマイクロRNA−886−3PのマイクロRNA分子の発現状態を検出するためのデバイスであって、以下の、
1)随意に、受動体からマイクロRNAを抽出するために用いられる試薬
2)マイクロRNAの逆転写プライマーとして用いられる、配列番号3
5’−GTGCAGGGTCCGAGGT−3’、
3)マイクロRNAのユニバーサルセンスプライマー
配列番号4:
5’−GTCGTATCCAGTGCAGGGTCCGAGGTATTCGCACTGGATACGACCACTGG−3’(マイクロRNA−150用)
配列番号5:
5’−GTCGTATCCAGTGCAGGGTCCGAGGTATTCGCACTGGATACGACAAGGGT−3’(マイクロRNA−886−3p用)、
4)マイクロRNAの特定アンチセンスプライマー
配列番号6:
5’−GTCTCCCAACCCTTGTACCA−3’(マイクロRNA−150用)
配列番号7:
5’−CACGCGGGTGCTTACTGAC−3’(マイクロRNA−886−3p用)、
5)随意に、逆転写PCRまたはPCRのために用いられる他の必要な試薬、および
6)随意に、マイクロRNA、逆転写PCR生成物またはPCR生成物の検出のために用いられる他の試薬
を含み、
マイクロRNA−150およびマイクロRNA−886−3Pの配列はそれぞれ、配列番号1:5’−UCUCCCAACCCUUGUACCAGUG−3’および配列番号2:5’−CGCGGGUGCUUACUGACCCUU−3’として示される、デバイス。
【請求項9】
デバイスは遺伝子チップまたは試薬キットであることを特徴とする、請求項8に請求するデバイス。
【請求項10】
試験される試料においてマイクロRNA−150およびマイクロRNA−886−3pの発現状態を検出する方法であって、次のステップ、
1)新鮮な分離した組織またはホルマリンパラフィン包埋組織からマイクロRNAを抽出すること、
2)遺伝子チップを用いて腫瘍組織標本を検出すること、および予後に関係する遺伝子:マイクロRNA−150およびマイクロRNA−886−3pをスクリーニングすること、
3)チップからのデータを処理することであり、次の、
各マイクロRNA信号発現値および生存比率間の関係を、一変量コックス回帰モデルを用いて評価すること、
一変量コックス回帰分析から導き出される回帰係数を掛け合わせたマイクロRNAsの統計的に有意な信号値の一次結合を介して、各受動体に複合値を割り当てること、
次の式、すなわち、
複合値=0.545×(マイクロRNA−150の発現値)+0.617×(マイクロRNA−886−3pの発現値)
を有する、カットオフ点としての中央マイクロRNA複合値を使用し、予後を評価すること
を含むこと、
4)予後モデルを確認することであり、マイクロRNA−150およびマイクロRNA−886−3p遺伝子配列に従い設計されたプライマーと共にPCR増幅を実行し、および2〜4μlのPCR生成物を、1.5%の非変性アガロースゲル電気泳動(ホルムアルデヒドを伴わない)によって検出すること、および
5)PCRデータを収集することおよび処理すること、すなわち、
内部標準としてU6RNAを使用してデータを正規化し、およびチップで作られたモデルと共に予後を評価すること
を含む、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

image rotate

【図3】
image rotate

image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2012−532149(P2012−532149A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518723(P2012−518723)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際出願番号】PCT/CN2009/072695
【国際公開番号】WO2011/003237
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(512004833)中国医学科学院▲腫▼瘤研究所 (1)
【氏名又は名称原語表記】CANCER INSTITUTE, CHINESE ACADEMY OF MEDICAL SCIENCES
【Fターム(参考)】