説明

肺マラリアワクチン

抗原(例えば、マラリア抗原(好ましくは、DNA抗原および/またはペプチド抗原および/またはタンパク質抗原))の徐放を提供する送達(好ましくは、肺送達)のための粒子状組成物が、開発された。好ましい実施形態において、凝集物ナノ粒子が、直径1ミクロン〜5ミクロンの空気力学的範囲内にあり、肺中へ深く飛行する。この凝集物粒子は身体中で分解するので、MSP−1タンパク質およびAMA−1タンパク質が血液中へと放出されて、体液性免疫応答を刺激する。0.1ミクロンの範囲内にある個々の粒子は、AMA−1およびMSP−1プラスミドDNAによってコードされるタンパク質を発現するAPCによって優先的に貪食され、それによって、完全な免疫のために必要な細胞性免疫応答を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の援用)
本願は、2004年5月7日に出願された米国仮特許出願第60/569,211号に対して優先権を主張する。
【0002】
本発明は、概して、現在までワクチン接種ストラテジーが成功しておらず、かつワクチンを投与するのが安価かつ容易である必要性が存在する疾患(例えば、マラリア)に対して、ワクチン接種するための方法および組成物の分野にある。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
マラリアおよび結核などの疾患は、主に、第三世界の国々の疾患である。例えば、マラリアは、南アメリカ、アフリカ、およびほとんどのアジア南方において、主要な健康上の問題である。毎年、24億人の人々が危険にさらされており、300万例〜500万例の新たな症例が存在し、毎年110万人が死亡し、そのほとんどが小児である。クロロキンおよびマラロンなどの薬物は、高価すぎ、患者のコンプライアンスを達成するのが困難であり、多くの株が、これらの薬物に対する薬物耐性を発達させている。
【0004】
1960年代および1970年代の間に、初期臨床研究によって、弱体化したマラリア寄生生物による実験的ワクチン接種は、その後のマラリア感染に対して患者を有効に免疫し得たことが、示された。生きているマラリア寄生生物に基づくワクチン、不活性化マラリア寄生生物に基づくワクチン、または死滅マラリア寄生生物に基づくワクチンは、現在は経済的にも技術的に実現不能であり、ワクチンに関する研究の多くは、防御免疫応答を開始し得るマラリア寄生生物の特定成分または抗原を同定することに焦点を合わせている。科学者らは、マラリアワクチンを開発する試みにおいて、寄生生物の生物学、ヒト免疫応答、および臨床前評価および臨床評価の両方に関して、困難な障害に遭遇する。4つの異なる種の原生動物寄生生物が、ヒトマラリアを引き起こすが、ほとんどのワクチンは、その重症度が原因で、Falciparum malariaに対するものである。
【0005】
同じ種ではあるが異なる地理的位置から単離された寄生生物は、遺伝的および免疫的に別個であり得、従って、ある地理的単離株に対して防御するワクチンは、別の地理的単離株に対しては防御しないかもしれない。さらに、マラリア寄生生物は、複数の別個の発生段階を有する複雑な生活環を有し、免疫応答の標的として作用し得る潜在的には数千種の異なる抗原を生成する。最後に、防御には抗体媒介性免疫応答および細胞媒介性免疫応答の両方が必要であるようであるので、免疫反応性のすべての局面を刺激する送達系および処方物を同定することは、多大な技術的難問を示す。
【0006】
スポロゾイトワクチンは、蚊によってヒトに注入される感染形態に対して防御する。しかし、単一のスポロゾイトでも身体の免疫防御から逃れた場合には、そのスポロゾイトは、最終的には完全な疾患をもたらし得る。メロゾイト(血液段階)ワクチンは、その可能性を防ぐことに加えて、既に感染したヒトにおける症状を予防または低減し得る。生殖母体(生殖段階)ワクチンは、ワクチン接種されるヒトを防御しないが、代わりに、その生殖母体ワクチンがこのワクチンに応答して生成される抗体とともに蚊によって摂取された後に、その生殖母体のさらなる発達を阻害することによって伝染サイクルを阻害する。スポロゾイトワクチンは、旅行者またはほんの短期間暴露される他のヒトを保護するために有用であり得るが、世界のマラリア地帯に最も適しているワクチンは、数種の寄生生物形態に由来し、おそらくは2種以上の種にも由来する抗原を組み合わせる「カクテル」であり得る。
【0007】
多数の候補ワクチン抗原が、寄生生物の種々の発生段階から同定されている(図1を参照のこと)。いくつかは、予備的臨床評価の地点まで進んでいる。研究者らは、この寄生生物表面に発現されかつ/または寄生生物の発生もしくは疾患のいくつかの臨床局面に関与する、候補ワクチン抗原に対して主に焦点を合わせている。例えば、スポロゾイト周囲(CS)タンパク質は、スポロゾイト段階の主要な表面抗原である。このスポロゾイト周囲(CS)タンパク質は、初期感染の間に肝細胞(ヒト肝臓細胞)上のレセプターと相互作用すると考えられている。
【0008】
ヒトの赤血球に対するメロゾイトの結合または細胞浸潤プロセスに関与する、いくつかの抗原が、同定されている。1つは、メロゾイト表面タンパク質(MSP−1)であり、これは、齧歯類マラリアモデルおよびサルマラリアモデルにおいて防御免疫を惹起することが繰り返して見出されている。寄生生物増殖におけるそのような重要な段階の阻害は、ワクチンの良好なストラテジーを形成する。他の研究によって、感染した赤血球表面上にある寄生生物由来分子(PfEMP1)が同定された。この分子は、内皮細胞および他の赤血球に対する感染赤血球の結合を媒介する。しかし、上記の寄生生物は、このような表面タンパク質の構造を規則的に変化させること(抗原変異として公知である)によって、感染赤血球を免疫系が攻撃することを防ぐための方法を発達させている。P.falciparumゲノムについての最近の研究によって、感染経過の間の別個の時期に発現されるP.falciparum中の2つの主要な改変体遺伝子ファミリー(「var」(PfEMP1を含む)および「rif」として公知である)が明らかになった。抗原変異をより良く理解することは、寄生生物の発生を妨害するための新たなストラテジーを科学者らが同定する助けとなり得る。
【0009】
研究者らはまた、重篤なマラリア疾患に関与する免疫機構を調査している。例えば、最近の研究は、胎盤中の細胞の表面上において見出される分子へのアラリア原虫感染赤血球の結合は、女性の最初の妊娠の間のマラリアに関連する有害な結果に寄与し、この局面の病理を防ぐためのワクチンを開発するための基礎を提供し得る。スポロゾイト抗原に主に基づく少数のワクチン候補は、臨床試験中である。CS抗原とB型肝炎表面抗原との組み合わせから構成されるワクチンは、小規模臨床試験において、風土病領域におけるさらなる試験を証明するために十分な防御効力を示した。メロゾイト段階およびスポロゾイト段階の両方に由来する抗原に基づくただ1つの候補ワクチンSpf66が、大規模な野外試験中である。このワクチンは、南アメリカにおける初期臨床試験において効力を示したが、その後のアフリカおよび東南アジアにおける試験からの結果は、有望なものではなかった。
【0010】
1997年に、NIAID、世界保健機構、ならびに世界中の他の機構および個人が、Multilateral Initiative on Malaria(MIM)を発足した。NIH Fogarty International Centerが、現在、このプログラムをコーディネートしている。提携および連携を通して、このイニシアティブの参加者は、アフリカにおけるマラリアに関する研究を改良して拡張することを望んでいる。現在臨床試験中であるマラリアワクチンは唯1つしか存在せず、これは、Glaxo Smith Klineによって世界保健機構およびアメリカ国立衛生研究所と共同して開発されたアジュバントを使用する。これは、FMP−1と呼ばれるタンパク質抗原と、私有アジュバントとを組み合わせるワクチンである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、マラリアなどの疾患のための代替的ワクチンを提供することが、本発明の目的である。
【0012】
複数回投与を必要とせず、維持された免疫を提供し、かつより完全な(体液性および細胞性)免疫を誘導する、ワクチンを提供することが本発明のさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
抗原(例えば、マラリア抗原(好ましくは、DNA抗原および/またはペプチド抗原および/またはタンパク質抗原))の徐放を提供する送達(好ましくは、肺送達)のための粒子状組成物が、開発された。好ましい実施形態において、凝集物ナノ粒子が、直径1ミクロン〜5ミクロンの空気力学的範囲内にあり、肺中へ深く飛行する。この凝集物粒子は身体中で分解するので、MSP−1タンパク質およびAMA−1タンパク質が血液中へと放出されて、体液性免疫応答を刺激する。0.1ミクロンの範囲内にある個々の粒子は、AMA−1およびMSP−1プラスミドDNAによってコードされるタンパク質を発現するAPCによって優先的に貪食され、それによって、完全な免疫のために必要な細胞性免疫応答を開始する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(1.送達処方物)
(粒子)
抗原(例えば、マラリア抗原)の送達のための粒子状処方物が、開発されている。1997年にGenentechによりPISCRBMにおいて公開されたように、粒子送達は、防御を実質的にブーストする。粒子の大きさおよび電荷の両方が、免疫原性に影響を与える。例えば、マイクロ粒子(microparticle)は、免疫応答を惹起し、取り扱いが容易であることが、公知である。ナノ粒子は、改善された細胞傷害性Tリンパ球(「CTL」)応答を誘導する。
【0015】
最大の応答は、上記抗原が上記粒子の表面に結合することによって得られる。粒子はまた、抗原性物質からほぼ構成され得るか、または抗原性物質がまた、上記粒子内に封入され得る。ナノ粒子が好ましく、構造化された凝集物を形成するナノ粒子が、特に好ましい。抗原(例えば、ペプチド、タンパク質、核酸、低分子)単独、抗原+アジュバント、または抗原+「脂質、タンパク質、アミノ酸、糖、もしくはポリマー」のいずれかのマイクロ粒子(microparticle)およびナノ粒子を生成するための多数の方法が、利用可能である。好ましい実施形態において、抗原性物質(タンパク質、核酸、および/または低分子)のナノ粒子が、ポリマー、脂質、糖、アミノ酸を含む物質から構成される殻(shell)もしくはマトリックスを用いて凝集物へと処方され、このナノ粒子はまた、抗原性物質を含み得る。抗原性物質の組み合わせはまた、上記ナノ粒子またはマイクロ粒子(microparticle)内で使用され得る。
【0016】
マイクロ粒子(microparticle)およびナノ粒子は、種々のポリマー(タンパク質、多糖、ならびに生分解性ポリマー(例えば、ポリヒドロキシ酸(ポリ(ラクチド−co−グリコリド)など)、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリオルトエステル、およびポリ無水物が挙げられる)、非生分解性物質(例えば、シリカおよびポリスチレン)、脂質、および/または送達されるべき抗原から、種々の方法を使用して製造され得る。
【0017】
(a.溶媒蒸発)
この方法において、上記ポリマーは、揮発性有機溶媒(例えば、塩化メチレン)中に溶解される。上記抗原性因子(可溶性であるか、または微細粒子として分散されるかのいずれかである)が、この溶液に添加される。この混合物は、界面活性剤(例えば、ポリ(ビニルアルコール))を含む水溶液中で懸濁される。得られるエマルジョンは、上記有機溶媒のほとんどが蒸発するまで攪拌され、固体ミクロスフェアが残る。攪拌の後、上記有機溶媒は、上記ポリマーから蒸発し、生じるミクロスフェアは、水で洗浄され、凍結乾燥機中で一晩乾燥される。種々のサイズ(1ミクロン〜1000ミクロン)および形態を有するミクロスフェアが、この方法によって取得され得る。この方法は、ポリエステルおよびポリスチレンなどの、比較的安定なポリマーのために有用である。
【0018】
(b.熱融解微小封入(microencapsulation))
この方法において、上記ポリマーは、まず融解され、その後、50ミクロン未満まで篩分けされた薬物固体粒子と混合される。この混合物は、非混和性溶媒(シリコン油など)中に懸濁され、連続攪拌しながらそのポリマーの融点よりも5℃高くなるまで加熱される。一旦そのエマルジョンが安定化されると、そのエマルジョンは、上記ポリマー粒子が固体化するまで冷却される。生じるミクロスフェアは、石油エーテルを用いてデカンテーションによって洗浄されて、自由浮遊粉末を生じる。1ミクロン〜1000ミクロンのサイズを有するミクロスフェアが、この方法を用いて得られる。この技術を用いて調製されるスフェアの外部表面は、通常は、滑らかでありかつ密である。この手順は、ポリエステルおよびポリ無水物から構成されるミクロスフェアを調製するために使用される。しかし、この方法は、分子量が1,000〜50,000であるポリマーに限定される。
【0019】
(c.溶媒除去)
この技術は、主に、ポリ無水物のために設計される。この方法において、薬物が、揮発性有機溶媒(例えば、塩化メチレン)中の選択されたポリマーの溶液中に、分散または溶解される。この混合物は、有機油(例えば、シリコン油)中に攪拌することによって懸濁されて、エマルジョンを形成する。溶媒蒸発とは異なり、この方法は、高い融点と種々の分子量とを有するポリマーから、ミクロスフェアを生成するために使用され得る。1ミクロン〜300ミクロンの範囲のミクロスフェアが、この手順によって取得され得る。この手順を用いて生成されるスフェアの外部形態は、使用されるポリマーの型に高度に依存する。
【0020】
(d.脂質粒子)
この粒子は、治療因子、予防因子、または診断因子(例えば、抗原)(この因子の電荷と反対の電荷を有する荷電脂質と会合している)と結合する。これらの電荷は、投与する前に会合した際に対抗する。好ましい実施形態において、この因子の電荷と脂質の電荷とは、投与前に会合した際に、この因子および脂質が肺のpHにおいて保有する電荷である。この粒子は、この脂質と会合する前にこの因子の溶液のpHを調節することによって改変され得る、全体的正味電荷を有し得る。例えば、pH約7.4において、インスリンは、負の全体的正味電荷を有する。従って、インスリンおよび正に荷電した脂質は、投与前にこのpHにおいて会合され得て、荷電した脂質と会合した因子を有する粒子が調製され得る。この荷電した脂質は、この因子の電荷と反対の電荷を有する。しかし、インスリンの電荷もまた、改変され得、溶液中の場合、その溶液のpHをインスリンのpI(pI=5.5)よりも小さくなるように改変することによって正の全体的正味電荷を有するようにされ得る。このように、例えば、インスリンがpH約4の溶液中にある場合、このインスリンは、正の全体的正味電荷を有する。この正に荷電したインスリンは、負に荷電した脂質(例えば、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)](DSPG))と会合され得る。この荷電した脂質との会合前にこの因子の電荷を改変することは、多くの因子(特に、タンパク質)を用いて達成され得る。例えば、タンパク質の電荷は、そのタンパク質の等電点(pI)よりも低いかまたは高い供給溶液を噴霧乾燥することによって、調節され得る。電荷調節はまた、その分子のpKaよりも低いかまたは高い供給溶液を噴霧乾燥することによって、低分子について達成され得る。
【0021】
上記粒子は、上記因子および脂質とは異なるカルボン酸またはカルボン酸基をさらに含み得る。カルボン酸とは、その塩、ならびに2種以上のカルボン酸および/またはその塩の組み合わせを包含する。好ましい実施形態において、上記カルボン酸は、親水性カルボン酸またはその塩である。クエン酸およびクエン酸塩(例えば、クエン酸ナトリウム)が、好ましい。カルボン酸および/またはその塩の組み合わせもしくは混合物もまた、使用され得る。多価塩またはそのイオン成分(例えば、二価塩)が、使用され得る。例としては、アルカリ土類金属の塩(例えば、塩化カルシウム)が挙げられる。本発明の粒子はまた、塩および/またはそのイオン成分の混合物を含み得る。この粒子は、アミノ酸をさらに含み得る。好ましい実施形態において、上記アミノ酸は、疎水性である。
【0022】
上記粒子は、吸入のために適切な乾燥粉末の形態であり得る。この粒子は、約0.4g/cm未満、好ましくは約0.1g/cmのタップ密度を有し得る。さらに、上記粒子は、約5μm〜約30μmの中央幾何学径(median geometric diameter)を有し得る。なお別の実施形態において、この粒子は、約1μm〜約5μmの空気力学的直径を有する。
【0023】
上記粒子は、徐放プロフィールを有するように設計され得る。この徐放プロフィールは、肺における投与された生理活性因子の長期滞留を提供し、治療レベルのその因子が局所環境もしくは全身循環中に存在する時間を増加させる。「徐放」とは、この用語が本明細書中で使用される場合には、有効レベルの因子の放出期間が、投与前の反対に荷電した脂質と会合していない同じ生理活性因子で観察される放出期間よりも長い活性因子の放出を指す。さらに、徐放とはまた、投与後の最初の2時間(より好ましくは最初の4時間)に代表的には観察される因子のバースト(初期バーストと呼ばれる)の低減を指す。好ましい実施形態において、この徐放は、より長い放出期間と、低減したバーストとの両方によって特徴付けられる。例えば、インスリンの徐放は、投与後少なくとも4時間(例えば、約6時間以上)までレベル上昇を示す放出であり得る。
【0024】
全体的正味負電荷を保有する因子は、全体的正味正電荷を保有する脂質と会合され得る。好ましくは肺pH範囲において、全体的正味負電荷を保有する脂質と会合している全体的正味正電荷を有する因子は、全体的に正味負電荷を保有する1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)](DPPG)などの脂質に結合され得る。「肺pH範囲」とは、この用語が本明細書中で使用される場合には、患者の肺において遭遇され得るpH範囲を指す。代表的には、ヒトにおいて、このpH範囲は、約6.4〜約7.0であり、例えば、6.4〜6.7である。気道内部液(airway lining fluid)(ALF)のpH値は、「Comparative Biology of the Normal Lung」CRC Press(1991),R.A.Parentにおいて報告されており、6.44〜6.74の範囲である。
【0025】
「荷電脂質」とは、この用語が本明細書において使用される場合には、全体的正味電荷を保有可能な脂質を指す。その脂質の電荷は、負であっても、正であってもよい。その脂質は、その脂質と活性因子とが会合した場合に、その活性因子の電荷とは反対の電荷を有するように選択され得る。好ましい実施形態において、この荷電脂質は、荷電リン脂質である。好ましくは、このリン脂質は、肺に対して内因性であるか、または投与された場合に肺内因性リン脂質へと代謝され得る。荷電脂質の組み合わせが、使用され得る。荷電脂質の組み合わせはまた、会合した際に生理活性因子の全体的正味電荷とは反対の全体的正味電荷を有する。
【0026】
その荷電リン脂質は、負に荷電した脂質(例えば、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)]および1,2−ジアシル−sn−グリセロール−3−ホスフェート)であり得る。負に荷電したリン脂質の具体的例としては、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)](DSPG)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)](DMPG)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−rac−(1−グリセロール)](DPPG)、1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)](DLPG)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)](DOPG)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスフェート(DMPA)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスフェート(DPPA)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスフェート(DOPA)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスフェート(DSPA)、および1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスフェート(DLPA)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
荷電脂質は、正に荷電した脂質(例えば、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−アルキルホスホコリンおよび1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−アルキルホスホアルカノールアミン)であり得る。この型の正に荷電した脂質の具体例としては、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DPePC)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DMePC)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DSePC)、1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DLePC)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DOePC)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−エチルエタノールアミン(DPePE)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホエタノールアミン(DMePE)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホエタノールアミン(DSePE)、1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホエタノールアミン(DLePE)、および1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホエタノールアミン(DOePE)が挙げられるが、これらに限定されない。適切な他の荷電脂質としては、1995年11月14日に発行されたHorrobinらに対する米国特許第5,466,841号に記載される荷電脂質、1997年12月16日に発行されたHeathに対する米国特許第5,698,721号に記載される荷電脂質、1999年5月11日に発行されたHeathに対する米国特許第5,902,802号に記載される荷電脂質、1984年10月30日に発行されたMylesらに対する米国特許第4,480,041号に記載される荷電脂質が挙げられる。これらの米国特許すべての内容全体が、本明細書において参考として援用される。
【0028】
上記粒子は、噴霧乾燥によって調製され得る。例えば、噴霧乾燥混合物(本明細書においては、「供給溶液(feed solution)」または「供給混合物(feed mixture)」と呼ばれる)(生理活性因子と、会合した際にその活性因子の電荷とは反対の電荷を有する1つ以上の荷電脂質とを含む)が、噴霧乾燥器に供給される。例えば、タンパク質活性因子を使用する場合、その因子は、その因子のpIよりも高いかまたは低い緩衝系において溶解され得る。具体的には、例えば、インスリンは、水性緩衝系(例えば、クエン酸塩、リン酸塩、酢酸塩など)中または0.01N HCl中に溶解され得る。その後、生じる溶液のpHは、適切な塩基溶液(例えば、1N NaOH)を使用して望ましい値に調節され得る。好ましい一実施形態において、そのpHは、pH約7.4に調節され得る。このpHにおいて、インスリン分子は、正味負荷電を有する(pI=5.5)。別の実施形態において、そのpHは、pH約4.0に調節され得る。このpHにおいて、インスリン分子は、正味正荷電を有する(pI=5.5)。代表的には、カチオン性リン脂質は、有機溶媒中または溶媒の組み合わせ中に、溶解される。その後、その2つの溶液は一緒に混合されて、生じた混合物が噴霧乾燥される。
【0029】
低分子活性因子について、その因子は、イオン化可能基のpKaよりも高いかまたは低い緩衝系において溶解され得る。例えば、アルブテロール硫酸またはエストロン硫酸は、例えば、水性緩衝系(例えば、クエン酸塩、リン酸塩、酢酸塩など)中または滅菌洗浄水中に溶解され得る。その後、生じる溶液のpHは、適切な酸溶液もしくは塩基溶液を使用して、望ましい値に調節され得る。そのpHがpH約3〜pH約8の範囲に調節される場合、エストロン硫酸は、1分子当たり1つの負荷電を有し、アルブテロール硫酸は、1分子当たり1つの正荷電を有する。従って、電荷相互作用は、適切なリン脂質の選択によって操作され得る。代表的には、負に荷電したリン脂質または正に荷電したリン脂質は、有機溶媒または溶媒の組み合わせ中に溶解され、その後、その2つの溶液が一緒に混合され、生じた混合物が噴霧乾燥される。
【0030】
噴霧乾燥される混合物中に存在し得る適切な有機溶媒としては、アルコール(例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなど)が挙げられるが、これらに限定されない。他の有機溶媒としては、ペルフルオロカーボン、ジクロロメタン、クロロホルム、エーテル、酢酸エチル、メチルtert−ブチルエーテルなどが挙げられるが、これらに限定されない。供給混合物中に存在し得る水性溶媒としては、水および緩衝化溶液が挙げられる。有機溶媒および水性溶媒の両方が、噴霧乾燥器に供給される噴霧乾燥混合物中に存在し得る。一実施形態において、エタノール水溶媒が好ましく、エタノール:水比は、約50:50〜約90:10の範囲である。その混合物は、酸性pHまたはアルカリ性pHを有し得る。必要に応じて、pH緩衝液が、含まれ得る。好ましくは、そのpHは、約3〜約10の範囲であり得る。
【0031】
噴霧乾燥される混合物中で使用される溶媒の総量は、一般的には、99重量%よりも多い。噴霧乾燥される混合物中に存在する固体(薬物、荷電脂質、および他の成分)の量は、一般的には、約1.0重量%未満である。好ましくは、噴霧乾燥される混合物中の固体量は、約0.05重量%〜約0.5重量%の範囲である。噴霧乾燥プロセスにおいて有機溶媒および水性溶媒を含む混合物を使用すると、親水性成分と疎水性成分との組み合わせを可能にし、一方で、その粒子中でのそのような成分の組み合わせの可能かを促進するために、リポソーム形成も他の構造もしくは複合体の形成も必要としない。
【0032】
適切な噴霧乾燥技術は、例えば、K.Masters「Spray Drying Handbook」John Wiley & Sons,New York,1984によって記載される。一般的に、噴霧乾燥の間に、熱気体(例えば、加熱空気または加熱窒素)からの熱が、連続的液体供給を噴霧化することによって形成された液滴から溶媒を蒸発させるために使用される。他の噴霧乾燥技術は、当業者にとって周知である。好ましい実施形態において、二液体噴霧技術が、使用される。別の実施形態において、回転噴霧が、使用される。回転噴霧を使用する適切な噴霧乾燥器の例としては、Niro(Denmark)によって製造されるMobile Minor噴霧乾燥器が挙げられる。その熱気体は、例えば、空気、窒素、またはアルゴンであり得る。二液体噴霧を使用する適切な噴霧乾燥器の別の例としては、LabPlant(UK)によって製造されるSD−06噴霧乾燥器が挙げられる。
【0033】
好ましくは、上記粒子は、約90℃〜約400℃の入口温度と、約40℃〜約130℃の出口温度とを使用する噴霧乾燥によって、取得される。この噴霧乾燥された粒子は、粗い表面構成(texture)にて製造され、粒子凝集を低減して粉末の流動性を改善するために、得る。この噴霧乾燥粒子は、乾燥粉末吸入器デバイスを介してエアロゾル化を増強し、かつ口、喉、および吸入器デバイス中での堆積が少ない特徴を備えて、製造され得る。
【0034】
(e.ヒドロゲルミクロスフェア)
ゲル型ポリマー(例えば、アルギン酸)から構成されたミクロスフェアは、従来のイオン性ゲル化技術を介して製造される。そのポリマーは、まず水溶液中に溶解され、硫酸バリウムまたはある種の生理活性因子と混合され、その後、微小液滴形成デバイス(これは、ある場合には、液滴を切る(break off)するために窒素ガス流を使用する)により押出し成形される。ゆっくり攪拌(約100RMP〜約170RPM)されたイオン性硬化浴が、押出し成形デバイスの下に配置されて、形成した微小液滴を捕捉する。そのミクロスフェアは、ゲル化が生じるのに十分な時間、その浴中で20分間〜30分間インキュベートされる。ミクロスフェア粒子のサイズは、種々のサイズの押出し機を使用すること、または窒素ガスもしくはポリマー溶液のいずれかの流速を変化させることによって、制御される。キトサンミクロスフェアは、酸性溶液中にポリマーを溶解すること、そのポリマーをトリポリホスフェートで架橋することによって、調製され得る。カルボキシメチルセルロール(CMC)ミクロスフェアは、そのポリマーを酸性溶液中に溶解すること、そしてそのミクロスフェアを鉛イオンで沈殿させることによって、調製され得る。負荷電ポリマー(例えば、アルギン酸、CMC)の場合、種々の分子量の正荷電リガンド(例えば、ポリリジン、ポリエチレンイミン)が、イオン結合され得る。
【0035】
上記ナノ粒子は、(組成物の乾燥重量で)0.01%(w/w)〜約100%(w/w)の抗原性物質を含み得る。使用されるタンパク質、ペプチド、核酸または低分子物質の量は、所望される効果および放出レベルに依存して変動する。抗原性物質の組み合わせが、使用され得る。
【0036】
粒子(好ましくは、ナノ粒子)は、親油性分子および/または親水性分子(通常は、薬学的「賦形剤」)の混合物からなる殻またはマトリックスを用いて、ミクロンサイズのスケールで構造化された凝集物へとアセンブルされ得る。このナノ粒子は、上述の方法において形成され得る。そしてこのナノ粒子は、その粒子の本体として核酸抗原および/またはペプチド抗原および/またはタンパク質抗原および/または低分子抗原を、その粒子の表面上にかまたはその粒子内に封入して、組み込み得る。上記凝集物粒子の殻またはマトリックスとしては、脂質、アミノ酸、糖、ポリマーのような薬学的賦形剤を挙げることができ、この殻またはマトリックスはまた、核酸抗原および/またはペプチド抗原および/またはタンパク質抗原および/または低分子抗原を組み込み得る。抗原性物質の組み合わせもまた、使用され得る。これらの凝集物粒子は、以下の方法において形成され得る。
【0037】
(a.多孔性ナノ粒子凝集物粒子)
米国特許出願第20040062718号は、ワクチンとしての用途のための多孔性ナノ粒子凝集物粒子を作製する好ましい方法を記載している。抗原は、ナノ粒子の表面に結合するかまたはそのナノ粒子内に封入して、そのナノ粒子を作製することによって、そのナノ粒子に会合され得る。または抗原は、図2に示されるように、マイクロ粒子の殻に組み込まれ得、これが次いで体液性免疫および細胞性免疫を惹起する。
【0038】
Edwardsら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 19,12001−12005(2002)に記載されるように、これらの粒子は凝集し、より小さなサブユニット粒子からなるより大きな粒子(これは、そのより小さなサブユニットの独特の特性を維持し、一方でより大きな粒子の重要な特徴もまた維持しするので、トロイの粒子(Trojan particle)と呼ばれる)を作製する。上記因子は、そのサブユニット粒子内、またはこのより小さな粒子凝集物から作製されたそのより大きな粒子内に封入され得る。
【0039】
上記粒子(本明細書中ではまた粉末ともいわれる)は、吸入に適した乾燥粉末の形態であり得る。特定の実施形態において、この粒子は、約0.4g/cm未満のタップ密度を有し得る。約0.4g/cm未満のタップ密度を有する粒子は、本明細書中で「空気力学的に(aerodynamically)軽量の粒子」といわれる。約0.1g/cm未満のタップ密度を有する粒子がより好ましい。空気力学的に軽量の粒子は、好ましいサイズ(例えば少なくとも約5ミクロンの容量中央幾何学径(volume median geometric diameter)(VMGD))を有する。1つの実施形態において、このVMGDは、約5ミクロン〜約30ミクロンである。別の実施形態において、この粒子は、約9ミクロン〜約30ミクロンの範囲のVMGDを有する。他の実施形態において、この粒子は、少なくとも約5ミクロン(例えば、約5ミクロン〜約30ミクロン)の中央径、質量中央径(MMD)、質量中央エンベロープ径(mass median envelope diameter)(MMED)または質量中央幾何学径(mass median geometric diameter)(MMGD)を有する。空気力学的に軽量の粒子は、好ましくは、約1ミクロンと約5ミクロンとの間の「質量中央空気力学的直径(mass median aerodynamic diameter)」(MMAD)(本明細書中ではまた、「空気力学的直径」ともいわれる)を有する。1つの実施形態において、このMMADは、約1ミクロンと約3ミクロンとの間である。別の実施形態において、このMMADは、約3ミクロンと約5ミクロンとの間である。
【0040】
別の実施形態において、上記粒子は、約0.4g/cm未満のエンベロープ密度(本明細書中ではまた、「密度」ともいわれる)を有する。等方性粒子のエンベロープ密度は、その粒子を取り囲み得る最小限の球状エンベロープ体積によって除算された粒子の質量と定義される。
【0041】
タップ密度は、Dual Platform Microprocessor Controlled Tap Density Tester(Vankel,N.C.)またはGeopyc.TM.instrument(Micrometrics Instrument Corp.,Norcross,Ga.30093)のような、当業者に公知の機器を使用することによって測定され得る。タップ密度は、上記エンベロープ密度の標準的な指標である。タップ密度は、USP Bulk Density and Taped Density,United States Pharmacopia convention,Rockville,Md.10th Supplement,4950−4951,1999の方法を使用して決定され得る。低タップ密度に寄与し得る特徴としては、不規則な表面構成(texture)および多孔性構造が挙げられる。
【0042】
上記粒子の直径(例えば、その粒子のVMGD)は、電場検出機器(electrical zone sensing instrument)(例えば、Multisizer IIe,(Coulter Electronic,Luton,Beds,England))またはレーザー回折機器(例えば、Sympatec,Princeton,N.J.によって製造されたHelos)を使用して測定され得る。この粒子の直径を測定するための他の機器は、当該分野において周知である。サンプルにおける粒子の直径は、粒子の組成および合成方法のような要因に依存して変動する。サンプルにおける粒子のサイズの分布は、気道の標的部位内への最適な堆積を可能にするように選択され得る。
【0043】
上記粒子は、気道の選択された領域(例えば、肺深部、または上気道もしくは中気道(central airway))への局所的送達のための、適切な材料、表面粗度、直径およびタップ密度で加工され得る。例えば、より高い密度またはより大きな粒子が、上気道送達のために使用され得る。または同じ治療剤もしくは異なる治療剤と一緒に提供されるサンプルにおける種々のサイズの粒子の混合物が投与され得、1回の投与において肺の異なる領域を標的とし得る。約3ミクロン〜約5ミクロンの範囲にある空気力学的直径を有する粒子が、中気道または上気道への送達のために好ましい。約1ミクロン〜約3ミクロンの範囲にある空気力学的直径を有する粒子が、肺深部への送達のために好ましい。
【0044】
エアロゾルの慣性衝突および重力沈降が、通常の呼吸条件の間の、気道および肺細葉における主な堆積機構である。Edwards,D.A.,J.Aerosol Sci.,26:293−317(1995)。両方の堆積機構の重要性は、粒子(またはエンベロープ)の容量にではなく、エアロゾルの質量に比例して増加する。肺におけるエアロゾル堆積の部位は、(少なくとも、約1ミクロンより大きい平均空気力学的直径の粒子については)そのエアロゾルの質量によって決定されるので、粒子表面の不規則性および粒子空隙率の増加によるタップ密度の減少により、より大きな粒子エンベロープ容量の肺への送達が可能になる(全ての他の物理的パラメーターは同等である)。
【0045】
上記空気力学的直径は、肺内での最大の堆積を提供するように算出され得る。この堆積は、以前は直径約5ミクロン未満(好ましくは、約1ミクロン〜約3ミクロン)の非常に小さい粒子の使用により達成された。次いでこの粒子は、貪食作用に供される。より大きい直径を有するが十分に軽量な(それゆえ、「空気力学的に軽量」という特徴である)粒子の選択は、肺への同等の送達をもたらすが、そのより大きなサイズの粒子は貪食されない。滑らかな表面を有する粒子と比べて、粗いかまたは一様でない表面を有する粒子を使用することによって、改善された送達を得ることができる。
【0046】
適した粒子は、例えば濾過または遠心分離により加工または分離され得、予め選択されたサイズ分布を有する粒子サンプルを提供し得る。例えば、そのサンプル中の粒子のうちの約30%、約50%、約70%または約80%より多くが、少なくとも約5ミクロンの選択された範囲内の直径を有し得る。選択された範囲(この中に、上記粒子のうちの特定のパーセンテージが入らなければならない)は、例えば、約5ミクロンと約30ミクロンとの間であってもよいし、または必要に応じて約5ミクロンと約15ミクロンとの間であってもよい。1つの好ましい実施形態において、その粒子の少なくとも一部は、約9ミクロンと約11ミクロンとの間の直径を有し得る。必要に応じて、この粒子サンプルはまた、少なくとも約90%(必要に応じて、約95%または約99%)が上記選択された範囲内の直径を有するように加工され得る。この粒子サンプルにおいて空気力学的に軽量の、より大きな直径の粒子がより高い割合で存在することにより、その粒子に組み込まれた治療剤または診断剤の肺深部への送達が強化される。大きな直径の粒子とは、一般的に、少なくとも約5ミクロンの中央幾何学径を有する粒子を意味する。
【0047】
抗原提示細胞(「APC」)を標的化するのに好ましい粒子は、APCによる貪食作用についての限界である400nmの最小の直径を有する。取り込みのために組織および標的細胞を通過するのに好ましい粒子は、10nmの最小直径を有する。最終的な処方物は、肺送達に適しかつ室温で安定な、乾燥粉末を形成し得る。
【0048】
(抗原性因子)
抗原性因子は、宿主生物において免疫応答を惹起、促進、抑制、またはそうでなければ刺激する、化合物、天然ポリマー、合成ポリマー、または生体分子である。ワクチンのために好ましい抗原性因子は、脂質、糖脂質、多糖類、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、サイトカイン、および/または核酸である。核酸抗原性因子は、他のタンパク質抗原、細胞代謝に影響する酵素、細胞情報伝達に影響するペプチドをコードし得る。これらは、細胞機構を促進するかもしくは細胞機構に干渉するか、または宿主の免疫系を直接的に刺激し得る。
【0049】
好ましいマラリアのタンパク質抗原性因子は、組み換えタンパク質であるCSP、AMA−1、MSP−1、およびFALVAC−1である。これらの組み換えタンパク質は、マラリアワクチンにおける使用のために広範囲に研究されており、ヒトにおける免疫応答を惹起することが知られている。
【0050】
マラリアに対するペプチドベースのワクチンの開発における主要な困難は、表面抗原の寄生生物による提示に固有の多型性である。個々の寄生生物は、宿主の免疫応答を避ける機構として、同時にかまたは連続的に波状の血液段階感染において、同じ表面タンパク質の多くの種々のバージョンを発現し得る。従って、生活環の種々の段階由来の多数の抗原から構成されるワクチンは、単一段階のワクチンよりも大きな期待を有すると考えられ、本発明の根底にある基本的論拠を提供する。あるいは、免疫系の多数のブランチが刺激を必要とすると考えられる。
【0051】
生きたベクターに由来するワクチン、不活性化生物に由来するワクチン、または組み換えタンパク質に由来するワクチンに対する代理のものは、核酸ベースのワクチンである。これらの「遺伝子ワクチン」は、抗原をコードするDNAまたはRNAの細胞への送達を包含し、その産物をMHCクラスI免疫応答に利用可能にさせる。核酸ワクチンは、選択された様式で、T細胞応答を特異的に刺激する可能性を上昇させる。インフルエンザ抗原をコードする裸のDNAプラスミドの筋肉内注射は、インフルエンザからの感染に対して防御し、そして細胞内免疫応答を特異的に誘導することが示されている(JJ Donnelly,JB Ulmer,MA Liu.Ann N Y Acad Sci.1995)。このことは再度、本発明の背後にある基本的論拠を提供する。
【0052】
(処方物)
好ましい実施形態において、粒子状マラリアワクチン処方物は、ペプチド、タンパク質、低分子、および核酸抗原性因子の混合物を含む。特定の実施形態としては、MSP−1単独の凝集物ナノ粒子処方物、AMA−1単独の凝集物ナノ粒子処方物、MSP−1プラスミドDNAと一緒に処方されたMSP−1の凝集物ナノ粒子処方物、およびAMA−1プラスミドDNAと一緒に処方されたAMA−1の凝集物ナノ粒子処方物が挙げられる。これらは、別個にか、組み合わせてか、または連続的に、投与され得る。この処方物には、粒子の重量の5%〜50%の抗原が充填されており、共処方物においては同じ割合のタンパク質およびDNAが充填されている。これは、免疫を惹起するのに必要とされる用量の推定値に基づく。この処方された粒子は、10nmを超える直径および50μm未満の凝集物直径を有する。
【0053】
好ましい実施形態において、凝集物ナノ粒子は、直径1ミクロン〜5ミクロンの空気力学的範囲にあり、肺中深くに飛行する。この凝集物粒子は体内で分解するので、MSP−1タンパク質およびAMA−1タンパク質は血中に放出され、体液性免疫応答を刺激する。0.1ミクロンの範囲内にある個々の粒子は、AMA−1プラスミドDNAによってコードされるタンパク質およびMSP−1プラスミドDNAによってコードされるタンパク質を発現するAPCによって優先的に貪食され、それによって完全な免疫に必須な細胞性免疫応答を開始させる。
【0054】
(III.投与方法)
上記粒子は、いくつかの経路のうちのいずれかにより投与される。この経路としては、注射、経口経路、粘膜表面への局所的経路などが挙げられるが、肺送達が好ましい。肺投与は、代表的に、医療的介入を必要とすることなく完了され得(自己投与)、注射治療にしばしば関連する疼痛が回避され、経口治療では頻繁に直面する生理活性因子の酵素媒介性分解およびpH媒介性分解の量が顕著に低減され得る。加えて、肺は、薬物吸収のための大きな粘膜表面を提供し、吸収された薬物の肝臓の初回通過効果が存在しない。さらに、多くの分子(例えば、タンパク質および多糖類高分子)の高いバイオアベイラビリティーが、肺送達または吸入を介して達成され得ることが示されている。代表的に、肺深部、または肺胞は、吸入された生理活性因子の(特に全身送達を必要とする因子のための)第一の標的である。肺はまた、免疫系の貪食細胞で内部を覆われており、投与直後に多数の免疫細胞に抗原を導入するための手段を提供する。
【0055】
「肺送達」とは、この用語を本明細書中で使用する場合、気道への送達をいう。本明細書中で規定される「気道」は、上気道(口腔咽頭および咽頭を含む)、それに続く下気道(その後気管支と細気管支(例えば、終末細気管支および呼吸細気管支)とに二分岐する気管を含む)を包含する。この上気道および下気道は、誘導気道と呼ばれる。この終末細気管支は次いで、呼吸細気管支に分かれる。この呼吸細気管支は次いで、最終的な呼吸器ゾーン(すなわち、肺胞または肺深部)につながる。この肺深部(または肺胞)は、代表的には、全身性薬物送達のための吸入された治療用処方物の望ましい標的である。
【0056】
好ましい実施形態において、粒子は、乾燥粉末吸入器(DPI)によって投与される。定量噴霧式吸入器(MDI)、噴霧器または点滴技術もまた、使用され得る。患者の気道へ粒子を投与するのに使用され得る種々の適した吸入デバイスおよび吸入方法は、当該分野において公知である。例えば、適した吸入器は、1976年8月5日にValentiniらに対して発行された米国特許第4,069,819号、1991年2月26日にValentiniらに対して発行された米国特許第4,995,385号、および1999年12月7日にPattonらに対して発行された米国特許第5,997,848号に記載されている。患者の気道へ粒子を投与するのに使用され得る種々の適した吸入デバイスおよび吸入方法が、当該分野において公知である。例えば、適した吸入器は、Valentiniらに対して発行された米国特許第4,995,385号および同第4,069,819号、Pattonらに対して発行された米国特許第5,997,848号に記載されている。他の例としては、Spinhaler.RTM.(Fisons,Loughborough,U.K.)、Rotahaler.RTM.(Glaxo−Wellcome,Research Triangle Technology Park,North Carolina)、FlowCaps.RTM.(Hovione,Loures,Portugal)、Inhalator.RTM.(Boehringer−Ingelheim,Germany)、およびAerolizer.RTM.(Novartis,Switzerland)、ディスク吸入器(diskhaler)(Glaxo−Wellcome,RTP,NC)および当業者に公知な他のものが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、上記粒子は、乾燥粉末吸入器により、乾燥粉末として投与される。
【0057】
容器が、粒子および/またはその粒子を含む呼吸用薬学的組成物を封入または貯蔵する。1つの実施形態において、この粒子は、少なくとも5ミリグラムの質量を有する。別の実施形態において、貯蔵または封入されるその粒子の質量は、少なくとも約1mg〜少なくとも約100mgである。この粒子は、1%〜100%の抗原性物質から構成され得る。好ましい実施形態において、この粒子は、5重量%〜10重量%の抗原性物質を含む。
【0058】
好ましくは、気道に投与される粒子は、上気道(口腔咽頭および咽頭)、下気道(その後気管支と細気管支とに二分岐する気管を含む)を通り、そして終末細気管支(これは次いで呼吸細気管支に分かれ、次いで最終的な呼吸器ゾーン(肺胞または肺深部)に到る)を通って進む。本発明の好ましい実施形態において、粒子の塊のほとんどは肺深部に堆積する。本発明の別の実施形態において、送達は、主に中気道へである。上気道への送達もまた、得ることができる。
【0059】
本明細書中で使用される場合、用語「有効量」とは、望ましい治療的または診断的な効果または効力を達成するのに必要とされる量を意味する。薬物の実際の有効量は、用いられる具体的な薬物またはその組み合わせ、処方された特定の組成、投与の様式、および患者の年齢、体重、状態、および処置される症状または状態の重篤度に従って、変動し得る。特定の患者に対する用量は、従来の考慮事項を使用して(例えば、適切な慣習的な薬学的プロトコルを用いて)、当業者によって決定され得る。
【0060】
エアロゾル用量、処方物および送達系はまた、例えばGonda,I.「Aerosols for delivery of therapeutic and diagnostic agents to the respiratory tract」、Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 6:273−313,1990;およびMoren,「Aerosol dosage forms and formulations」、Aerosols in Medicine.Principles,Diagnosis and Therapy,Morenら編、Esevier,Amsterdam,1985において記載されたように、特定の治療用途のために選択され得る。
【0061】
注射による送達のためには、上記粒子は最初に適切な送達液体中に懸濁され、そして狭小なゲージ針を通して皮下または筋肉内に送達され、インビボでレザバ(reservoir)を形成する。
【0062】
タンパク質およびDNAを放出する粒子の投与は、DNA/タンパク質のプライム免疫/ブースト免疫によって惹起される免疫応答を複製する。DNA含有粒子が最初のプライムを構成し、そしてそのタンパク質の徐放がブーストルーチンと同じ様式で免疫系を刺激する。この技術の利点は、単回のワクチン接種がマラリアまたは他の寄生生物に対する長く続く免疫を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、マラリアの多段階生活環における種々の標的の模式図である。
【図2】図2は、ナノ粒子表面からの抗原の徐放が体液性免疫および細胞性免疫を惹起する方法に関するプロセスの模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチド、および/または低分子アジュバント、および/またはタンパク質、および/または核酸抗原性因子の、混合物
を含む、粒子状ワクチン処方物。
【請求項2】
請求項1に記載の処方物であって、ナノ粒子を含む、処方物。
【請求項3】
請求項2に記載の処方物であって、前記ナノ粒子の凝集物を含む、処方物。
【請求項4】
請求項1に記載の処方物であって、前記タンパク質および核酸抗原性因子は、該処方物から別々の時間に放出される、処方物。
【請求項5】
請求項1に記載の処方物であって、該処方物は、抗原性因子の徐放を提供する、処方物。
【請求項6】
請求項1に記載の処方物であって、前記抗原性因子は、マラリア抗原性因子であるかまたはマラリア抗原性因子をコードする、処方物。
【請求項7】
粒子状ワクチン処方物を生成するための方法であって、該方法は、
タンパク質抗原および核酸抗原を含む、ナノ粒子またはマイクロ粒子を生成する工程;
を包含する、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記粒子は、噴霧乾燥によって生成される、方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法であって、前記粒子は、脂質および抗原を含む、方法。
【請求項10】
ワクチン接種するための方法であって、該方法は、
有効量の請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載の処方物を投与する工程;
を包含する、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、前記処方物は、肺経路によって投与される、方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法であって、前記処方物は、注射によって投与される、方法。
【請求項13】
請求項10に記載の方法であって、前記処方物は、経口投与される、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2007−536273(P2007−536273A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511681(P2007−511681)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/016082
【国際公開番号】WO2005/110379
【国際公開日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(592257310)プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ (31)
【Fターム(参考)】