説明

胎盤及び/または臍帯からの血液抽出装置

本発明は、重力の作用により落下する血液を採取する手段と、その血液の落下を容易にする吸引手段とを共に組み合わせたシステムにより、胎盤及び/または臍帯から血液を抽出して採取する装置に関する。従来の重力のみによる方法で得られるよりも多量の血液を抽出することが可能となり、母体の健康に危険を及ぼすことなく、吸引を制御して胎盤剥離等を防ぐことをも可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胎盤及び/または臍帯から血液を同時に抽出して採取するように設計された装置に関し、詳しくは、重力の作用により血液が落下する間に血液を採取することに基づく装置と、血液の抽出を容易にする吸入システムとを組み合わせた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、妊婦の臍帯及び胎盤に多量の幹細胞が存在することが発見されたことによって、これらの臓器に含まれる血液を抽出して採取するさまざまなシステムの開発が求められている。その後の利用、科学的目的での利用、あるいは必要な場合に応じて、免疫不全、癌性疾患、沈着に関連する代謝疾患などのさまざまな先天性疾患や後天性疾患の患者への移植に利用するために、その血液を保存することが望まれている。
【0003】
臍帯及び胎盤からの血液の移植を効果的にし、治療する症状が必要とする治療レベルに達するために、幹細胞をさらに多く含有する十分な量の血液を有することがきわめて重要であり、移植が成功するためには、患者の体重Kgあたり少なくとも約1.5×10の前駆細胞が必要となる。
【0004】
現在、臍帯及び胎盤から血液を抽出することを目的とするシステムの大部分は、分娩直後、胎盤娩出前の数分で臍帯を穿刺する手段に基づいている。これにより抽出した血液は、重力により血液採取袋に落下し、その袋は、分娩直後の母体より低い位置で保持され、血液の滴下を促進する。通常、この袋は、抗凝固剤を含み、採取処理時に最適な状態での血液の保存を促しながら、採取し続ける。
【0005】
上記の方法によって、分娩毎に採取される平均血液量は約90mlであると推測されている。多くの場合この量は予後の効果が得られると考えられる幹細胞含有量を得るために十分であるが、無視できない数の患者において、細胞充実性が不十分であるためにこの量では必要含有量の幹細胞を得ることができない。
【0006】
現在、抽出して採取した胎盤及び臍帯の血液量を増大するように設計されたさまざまなシステムが検討され、基本的には加圧システムを利用して血液を注出させることを可能にし、これにより、採取量を増大させ、抽出時間を減少させられる。この種類のシステムのいくつかの例は、特許文献1〜4に開示する装置である。
このような装置は、臍帯及び/または胎盤を穿刺する1つ以上の針と、貯蔵器、袋または真空容器などの血液採取手段と、真空ポンプ、蠕動ポンプまたはスポイトなどの吸引手段及び排出手段とを備える。前記特許文献の全てにおいて、血液採取量は、穿刺及びその後の重力落下に基づく通常の方法を、吸引手段及び排出手段によってもたらされる陰圧のみに基づく方法に置き換えることによって増大する。
【0007】
上記の装置は、設計目的を達成することができ、血液採取量を増大させるが、吸引方法に基づいた設計に関する共通の問題がある。
連続吸引を利用した結果、胎盤後血腫が突然発症するなど合併症が急に発症する可能性があり、その結果として、胎盤娩出に要する時間や、分娩後の母体の止血因子が出血を最小限にするために必要とされる時間が経過する前に胎盤剥離が起こる。この胎盤剥離は、制御なしに血液を吸引し続けることによって引き起こされる可能性があり、母体の健康にとって明らかに危険である。
【0008】
したがって、幹細胞抽出量が必要な治療目的を果たすのに十分であると同時に、分娩直後の段階で母体に安全であり、健康への危険を全くともなわずに胎盤娩出を保証するような方法で胎盤及び臍帯からの血液採取量を増大させることを可能にする装置を開発する必要がある。
【0009】
本発明は、重力により血液が落下する通常システムと、吸引システムによってもたらされる補助制御とを組み合わせた抽出装置によって、この必要性を満たすことを目的としている。
【0010】
本発明の別の利点は、重力抽出と吸引抽出とを組み合わせた設計により、臍帯のみを穿刺することによって、臍帯及び胎盤の両方に含まれる血液を抽出することが可能となる。胎盤を穿刺する必要がないことは特に適切であり、この穿刺は通常、細菌汚染の危険性を伴い、本願明細書に記載する装置によって回避することができる。さらに、臍帯を穿刺することによって胎盤から血液を抽出することが可能となれば、分娩直後から血液を抽出することが可能となり、通常分娩後5〜30分以内に発生する胎盤娩出を待つ必要はなく、手術室の稼動時間を最適化してコストを確実に節約することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2005/041772号
【特許文献2】米国特許第5097842号
【特許文献3】米国特許第5059168号
【特許文献4】米国特許第5575795号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの目的は、重力の作用により落下する血液を採取することと、この血液の落下を容易にする吸入システムとを同時に組み合わせた、胎盤及び臍帯から血液を抽出するための装置を提供することである。
【0013】
本発明の1つの目的は、胎盤及び臍帯から血液を抽出するための装置を提供することであり、この装置は、少なくとも1つの針(カテーテルなど)と、抽出した血液が循環する少なくとも1つのチューブ(経路など)とから成る少なくとも1つの血液抽出手段を含み、各チューブは、少なくとも1つの血液採取手段に接続され、血液は、重力の作用により採取手段に落下し、採取手段は、少なくとも1つの吸引手段に接続される。
【0014】
本発明の1つの目的は、胎盤及び臍帯から血液を抽出するための装置を提供することであり、この抽出は胎盤を穿孔することなく、臍帯を穿刺することによって実施することを可能にする装置である。
【0015】
本発明の好適な一実施形態では、血液抽出手段は、少なくとも1つの針(カテーテルなど)と、チューブ(経路など)とを予備として含む。このように、必要な場合に使用するために他の要素を取り替える必要はなく、抽出処理を遅らせたり複雑にしたりすることなく、抽出装置に直接取り付けた予備システムを有することが可能となる。
【0016】
本発明の好適な一実施形態では、少なくともチューブの1つは、好ましくは手動もしくは自動で作動するクランプ型グリップまたはバルブもしくはバイパスシステムである閉塞機構を有する。これにより、抽出した血液を制御して保持するための手段を備える。
【0017】
本発明の好適な一実施形態では、採取手段は抗凝固剤を含む。これは、抽出した血液が最適な状態で保存されることを可能にする。
【0018】
本発明の好適な一実施形態では、吸引手段は手動または自動で動作することができる。これにより、各抽出処理の要件に応じてさまざまな機能に適応可能な装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態の概略説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の記載及び添付図面の例示的実施形態で説明される。
【0021】
本発明の血液を抽出して採取するための装置は、図1に示す実施形態のように、少なくとも1つの血液抽出手段(1)から成り、この手段は、臍静脈及び/または胎盤の静脈系を穿刺するように設計された少なくとも1つの針、カテーテルなど(2)と、抽出した血液が循環する少なくとも1つのチューブ、経路など(3)とを含むのが好ましい。
本発明のさまざまな実施形態では、必要な場合に1つ以上のチューブ及び針を予備システムとして有することが可能である。別の好適な実施形態では、チューブ(3)は、好ましくはクランプ型グリップによる、閉塞機構を有する。各チューブ(3)は、少なくとも1つの血液採取手段(4)に接続され、この採取手段は、血液を保存するために抗凝固剤を組み入れた採取袋から成るのが好ましい。次に、各採取手段(4)は、少なくとも1つの吸引手段(5)に接続し、この吸引手段は、手動または自動で動作するプランジャーシステムから成るのが好ましい。
【0022】
本発明によって実施される血液を抽出する手順は、以下の段階を有する。
【0023】
a)針(2)で臍静脈及び/または胎盤の静脈系を穿刺する。任意に、胎盤を穿刺することなく、臍静脈を穿刺して胎盤に含まれる血液を抽出することができる。
【0024】
b)採取手段(4)を母体より低い高さで保持し、重力の作用により血液が落下することと、血液が最適な状態に保持することとをそれぞれ促しながら採取し続ける。
【0025】
c)吸引手段(5)を使用して、胎盤娩出を防ぐために十分緩やかに陰圧にするように制御した方法で、血液を抽出して重力により血液が採取手段(4)に落下することを容易にし、この陰圧は、各患者に固有の特徴及び分娩の状況に応じて医師が判断する。
【0026】
したがって、この処理によって、胎盤及び臍帯に存在し自由落下のみに基づく方法を使用しては接触することができない残留血を採取することが可能となる。これによって、血液採取量をかなり増大させることを可能にし、増大量は80〜100mlと推測され、重力落下に基づく通常の方法で採取される血液量に対して89〜111%増大することに相当する。
【0027】
さらに、吸引手段は、本発明の装置に存在し、緩やかに制御された手段で動作し、重力によって血液を抽出して採取する方法の補助として設計することができ、胎盤剥離が起きないことを保証することが可能であり、これにより、技術水準では存在する吸引抽出方法による母体の健康に対する危険性を取り除く。
【0028】
本発明に関して記載したすべての実施形態は、その設計の他の変形例やその製造に使用する材料の他の変形例が可能であり、このような変形は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で限定されない。
【符号の説明】
【0029】
1 血液抽出手段
2 針
3 チューブ
4 血液採取手段
5 吸引手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胎盤及び/または臍帯から血液を抽出するための装置であって、
少なくとも1つの針、カテーテル類(2)と、抽出した血液を循環させる少なくとも1つのチューブ、経路類(3)とから成る少なくとも1つの血液抽出手段(1)を備え、
各チューブ(3)が、少なくとも1つの血液採取手段(4)に接続され、抽出した血液を、重力の作用により血液採取手段(4)に落下させ、血液採取手段(4)には、少なくとも1つの吸引手段(5)が接続される
ことを特徴とする血液抽出装置。
【請求項2】
吸引手段(5)が、重力の作用のみによって採取される血液量を増大させるのに必要となる圧力以上、かつ、胎盤の剥離を引き起こしうる圧力未満の圧力を加えられる
請求項1に記載の血液抽出装置。
【請求項3】
血液抽出手段(1)が、少なくとも1つの予備の針(2)及びチューブ(3)を備える
請求項1または2に記載の血液抽出装置。
【請求項4】
少なくとも1つのチューブ(3)が、好ましくはクランプ型グリップを使用する少なくとも閉塞機構を備える
請求項1ないし3のいずれかに記載の血液抽出装置。
【請求項5】
採取手段(4)が、内部に抗凝固剤を備える
請求項1ないし4のいずれかに記載の血液抽出装置。
【請求項6】
吸引手段(5)が、手動または自動で動作可能である
請求項1ないし5のいずれかに記載の血液抽出装置。

【図1】
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【公表番号】特表2013−500098(P2013−500098A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522088(P2012−522088)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060131
【国際公開番号】WO2011/012449
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(512022860)
【氏名又は名称原語表記】ALVAREZ RAMOS,Angel Gabriel
【住所又は居所原語表記】C/Santa Candida 23 Bajo,E−33201 Gijon Spain
【Fターム(参考)】