説明

胚性幹細胞分化を調整する方法

胚の2細胞期および胚性幹細胞に特異的な発現を示す遺伝子Zscan4を、本明細書に記載する。Zscan4と共発現される9種の遺伝子の同定も記載する。Zscan4発現の阻害は、2細胞胚から4細胞胚への移行を阻害し、胚盤胞の着床、拡大、およびアウトグロースを防止する。幹細胞の分化を阻害する方法、胚性幹細胞の胚盤胞アウトグロースを促進する方法、およびZscan4を発現する幹細胞の亜集団を同定する方法を、本明細書に提供する。さらに、桑実胚特異的な発現を示す遺伝子としてのTrim43の同定を記載する。また、異種ポリペプチドに機能的に連結されたZscan4プロモーターまたはTrim43プロモーターを含む、単離された発現ベクター、およびその使用も提供する。さらに、Zscan4プロモーターおよびTrim43プロモーターに機能的に連結されたマーカータンパク質をコードするトランスジーンを含むトランスジェニック動物も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、参照により完全に本明細書に組み入れられる2007年3月26日出願の米国仮出願第60/920,215号に基づく優先権の恩典を主張する。
【0002】
分野
本願は、細胞分化の分野に関し、特に、本明細書に記載されるZscan4または一つもしくは複数のZscan4共発現遺伝子の発現により同定され得る幹細胞の亜集団を同定し、使用する方法、およびZscan4を改変することにより分化を阻害し、生存能を延長する方法に関する。本願は、桑実胚期に高発現される遺伝子としてのTrim43の同定にも関する。
【背景技術】
【0003】
背景
幹細胞は、神経系、骨髄、表皮、骨格筋、および肝臓を含むいくつかの体細胞組織において同定されている。この「保留された」細胞集団は、成体動物における個々の組織内のホメオスタシスの維持を担っていると考えられている。幹細胞の数およびそれらの分化決定は、早期老化または腫瘍形成を回避するために、胚発生の間、そして成体動物において厳密に制御されていなければならない。異なる体性幹細胞が、自己再生および多発達(multi-developmental)潜在能力の特性を共有しており、このことから、共通の細胞機構の存在が示唆される。
【0004】
胚性幹(ES)細胞は、未分化状態で無限に増殖することができる。さらに、ES細胞は多能性細胞であり、即ち、それらは体内に存在するあらゆる細胞(骨細胞、筋細胞、および脳細胞等)を生成することができる。ES細胞は、発生中のマウス胚盤胞の内部細胞塊から単離されている(Evans et al., Nature 292:154-156, 1981(非特許文献1);Martin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78:7634-7636, 1981(非特許文献2);Robertson et al., Nature 323:445-448, 1986(非特許文献3);Doetschman et al., Nature 330:576-578, 1987(非特許文献4);およびThomas et al., Cell 51 :503-512, 1987(非特許文献5);米国特許第5,670,372号(特許文献1))。さらに、ES細胞特性を有するヒト細胞が、内部胚盤胞細胞塊(Thomson et al., Science 282:1145-1147, 1998(非特許文献6))および発生中の生殖細胞(Shamblott et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95:13726-13731, 1998(非特許文献7))から最近単離された(米国特許第6,090,622号(特許文献2)、PCT公開第WO00/70021号(特許文献3)および第WO00/27995号(特許文献4)も参照のこと)。
【0005】
幹細胞のような細胞における遺伝子発現のパターンの分析への関心は高まっている。しかしながら、発生中の組織における複雑なシグナルのネットワークの中で、分化を阻害し、増殖を増加させるよう機能する個々の遺伝子産物を同定した研究は、ほとんど存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,670,372号
【特許文献2】米国特許第6,090,622号
【特許文献3】WO00/70021号
【特許文献4】WO00/27995号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Evans et al., Nature 292:154-156, 1981
【非特許文献2】Martin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78:7634-7636, 1981
【非特許文献3】Robertson et al., Nature 323:445-448, 1986
【非特許文献4】Doetschman et al., Nature 330:576-578, 1987
【非特許文献5】Thomas et al., Cell 51 :503-512, 1987
【非特許文献6】Thomson et al., Science 282:1145-1147, 1998
【非特許文献7】Shamblott et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95:13726-13731, 1998
【発明の概要】
【0008】
概要
胚の2細胞期の間に、かつ胚性幹細胞において特異的に発現される遺伝子としてのZscan4の同定が、本明細書に記載される。さらに、発生中の胚においてZscan4と類似の発現パターンを示すZscan4共発現遺伝子の同定が、本明細書に記載される。また、胚発生の桑実胚期において豊富に発現される遺伝子としてのTrim43の同定も、本明細書に記載される。
【0009】
幹細胞におけるZscan4の発現を増加させることを含む、幹細胞の分化を阻害する方法が、本明細書に提供される。一つの態様において、幹細胞の分化の阻害は、幹細胞の生存能を増加させる。もう一つの態様において、幹細胞の分化の阻害は、幹細胞の老化を防止する。本明細書に記載されるように、幹細胞は、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、生殖系列幹細胞、または多分化能性成体前駆細胞を含むが、これらに限定はされない、任意の型の幹細胞であり得る。
【0010】
また、胚性幹細胞におけるZscan4の発現を増加させ、それにより胚性幹細胞の胚盤胞アウトグロース(outgrowth)を促進することを含む、胚性幹細胞の胚盤胞アウトグロースを促進する方法も、本明細書に提供される。
【0011】
さらに、Zscan4プロモーターおよびレポーター遺伝子を含む発現ベクターにより幹細胞をトランスフェクトすることを含む、Zscan4を発現する幹細胞の未分化亜集団を同定する方法が、提供される。ここで、レポーター遺伝子の発現は、Zscan4が幹細胞の亜集団において発現されていることを示す。一つの態様において、プロモーターはZscan4cプロモーターである。
【0012】
異種ポリペプチドに機能的に連結されたZscan4プロモーターを含む単離された発現ベクターも、提供される。一つの態様において、Zscan4プロモーターはZscan4cプロモーターである。もう一つの態様において、異種ポリペプチドは、マーカー、酵素、または蛍光性タンパク質である。また、異種ポリペプチドに機能的に連結されたTrim43プロモーターを含む発現ベクターも提供される。いくつかの態様において、Trim43プロモーターは、SEQ ID NO:31として示される核酸配列の少なくとも一部を含む。本明細書に記載された発現ベクターを含む単離された胚性幹細胞も、提供される。
【0013】
AF067063、Tcstv1/Tcstv3、Tho4、アルギナーゼII、BC061212およびGm428、Eif1a、EG668777およびPif1のうちの一つまたは複数の発現を検出することを含む、Zscan4を発現する幹細胞の未分化亜集団を同定する方法も、提供される。この方法に従って同定された単離された幹細胞も提供される。
【0014】
上記およびその他の特色および利点は、添付の図面を参照しながら進行する、以下のいくつかの態様の詳細な説明から、より明白になるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1Aは、ホールマウントインサイチューハイブリダイゼーションによる着床前発生の間のZscan4の発現プロファイルを示す一連のデジタル画像である。ハイブリダイゼーションは、全ての着床前発生期について同一の実験条件の下で同時に実施された。画像は、位相差を使用して、200倍の拡大率で撮られた。Zscan4は、後期2細胞胚における一過性の高度の発現を示す。そのような高い発現レベルは、3細胞胚(赤い矢印により示された二つの例)および4細胞胚においては観察されなかった。図1Bは、qRT-PCR分析により定量された着床前発生の間のZscan4の発現レベルのグラフを示す。3セットの10個のプールされた胚が、各期(O、卵母細胞;1、1細胞胚;E2、初期2細胞胚;L2、後期2細胞胚;4、4細胞胚;8、8細胞胚;M、桑実胚;およびB、胚盤胞)から収集され、qRT-PCR分析のために使用された。Zscan4の発現レベルは、Chuk対照に対して規準化された。各期の平均発現レベルが、卵母細胞における発現レベルと比較された変化倍率として表される。
【図2】図2Aは、9種のZscan4パラログのエキソン-イントロン構造の模式図を示す。新たに提唱された遺伝子記号が、現在の遺伝子記号と共に太字イタリック体で示される。図2Bは、Zscan4パラログの推定タンパク質構造を例示し、予測ドメインを示す。
【図3】図3Aは、(第7染色体上の850kbを包含している)Zscan4遺伝子座のゲノム構造を例示する模式図である。上パネルは、Zscan4遺伝子座の近くの遺伝子を示す。下パネルは、9種のZscan4のパラロガス遺伝子およびそれらの特徴的な特色を示す。その他の6種の遺伝子(LOC)が、この領域において予測されるが、Zscan4とは無関係である。図3Bは、個々のBAC配列から組み立てられた遺伝子配列から予測された、TaqI、MspI、またはTaqI/MspIで消化されたDNA断片のサイズを示す模式図である。図3Cは、TaqI、MspI、またはTaqI/MspI制限酵素で消化されたC57BL/6JゲノムDNAのサザンブロット分析を示すデジタル画像である。(cDNAクローンC0348C03由来のエキソン3のみを含有している)Zscan4プローブがハイブリダイズした全てのDNA断片のサイズが、図3Bで予測されたものと一致し、このことから、手動で組み立てられた配列がバリデートされた。
【図4】図4Aは、着床前胚におけるZscan4の分析のために使用された三つの型のsiRNA技術、およびそれらの標的配列(SEQ ID NO:54〜59)を示す表である。図4Bは、Zscan4 cDNAの中のsiRNA標的配列の位置を例示する模式図である。図4Cは、shZscan4を注入された胚の発生を示す一連のデジタル画像である。代表的な胚の形態が示される。shZscan4を注入された胚およびshControlを注入された胚の期が、hCG注入の61時間後、80時間後、98時間後、および108時間後に査定された。図4Dは、各発生期にあるshZscan4を注入された胚およびshControlを注入された胚の割合を示す一連のグラフである。hCG注入の61時間後、80時間後、98時間後、および108時間後に、shZscan4を注入されたもの(灰色バー)およびshControlを注入されたもの(白色バー)の期が決定され、計数された(M=桑実胚;B=胚盤胞)。図4Eは、qRT-PCR分析による、shControlを注入された2細胞胚およびshZscan4を注入された2細胞胚におけるZscan4の転写物レベルを示すグラフである。発現レベルはEef1a1により規準化された。
【図5】図5A〜5Cは、shZscan4の注入後の各発生期にある胚の数を示す一連のグラフである。胚は、初期2細胞胚の1個の割球の核の中にshZscan4注入を受容した。hCG注入の52時間後、74時間後、および96時間後に、shZscan4を微量注入された胚(灰色)およびshControlを微量注入された胚(白色)の期が査定された。図5D〜5Fは、3細胞胚(D)、不均一に卵割した胚(E)、および胚様の混合された桑実胚および胚盤胞(F)の写真を示す。3細胞胚は、2細胞期割球のサイズのままである割球1個および4細胞期割球のサイズを有するより小さな割球2個を有する。5細胞胚は、遅延した割球1個および8細胞割球のサイズを有するより小さな割球4個を有する。これらの胚は、最終的には、胚盤胞様の構造を形成したが、胚盤胞様の細胞塊および桑実胚様の細胞塊の混合物であるようであった。shZscan4プラスミドの中に保持されているGFPの存在により示されるように、桑実胚様の細胞塊はshZscan4注入を受容した1個の割球から発生していた(図5G)。拡大率は200倍である。
【図6】図6Aは、ホールマウントインサイチューハイブリダイゼーションによる、胚盤胞、胚盤胞アウトグロース、およびES細胞におけるZscan4およびPou5f1の発現を例示する画像である。図6BはZscan4発現パターンの模式的な例示である。
【図7】図7A〜7Eは、ヒトZSCAN4遺伝子、マウスZscan4c遺伝子、マウスZscan4d遺伝子、およびマウスZscan4f遺伝子の間のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の類似性(同一率)を比較した一連の表である。
【図8】図8は、マウスゲノムおよびヒトゲノムのZscan4シンテニー領域を示す例示である。
【図9】図9A〜9Bは、細胞質の中にsiZscan4注入を受容した胚の発生を示す一連のグラフおよび写真である。図9Aは、2.0d.p.c、3.5d.p.c、および4.0d.p.cにおけるsiControlを注入された胚(白色バー)およびsiZscan4を注入された胚(灰色バー)についての各発生期にある胚の割合を示す。図9Bは、siControlを注入された胚(灰色バー;写真(a))およびsiZscan4を注入された胚(黒色バー;写真(b))における、4.5d.p.cにおける拡大し孵化した胚盤胞の割合を示す。
【図10】図10A〜10Dは、細胞質の中にplus-siZscan4注入を受容した胚の発生を示す一連のグラフおよび表である。図10Aは、交尾後2.0日目、2.2日目、3.0日目、および4.0日目における、siControlを注入された胚(白色バー)およびplus-siZscan4を注入された胚(灰色バー)についての各発生期にある胚の割合を示す。図10Bおよび10Cは、qRT-PCR分析により測定され、Chuk(図10B)およびH2afz(図10C)により規準化された、siControlを注入された胚およびplus-siZscan4を注入された胚におけるZscan4の転写物レベルを示す。図10Dは、qRT-PCR分析の三つの生物学的複写物の生データを提供する。†、各生物学的複写物の閾値サイクル数の平均値;‡、標準偏差。
【図11】図11は、Zscan4cプロモーター配列およびレポーター遺伝子Emeraldを含む発現ベクターを示す例示である。発現ベクターの配列はSEQ ID NO:28として示される。
【図12】図12Aは、Zscan4を発現するマウスESの亜集団を示す蛍光標示式細胞分取(FACS)グラフである。マウスES細胞が、Zscan4cプロモーターおよび蛍光性レポーター遺伝子(Emerald)を含む発現ベクターによりトランスフェクトされた。細胞におけるレポーター遺伝子の発現(Emerald陽性細胞)は、細胞がZscan4を発現することを示す。図12Bは、Emerald陽性として同定されたES細胞の亜集団におけるZscan4cおよびPou5f1の発現レベルを示すグラフである。Y軸は、Emerald陽性細胞とEmerald陰性細胞との間の遺伝子発現の差の倍率を表す。
【図13】図13A〜Gは、ES細胞の亜集団におけるZscan4およびZscan4と共発現される6種の遺伝子の発現プロファイルを示すグラフである。第二中期卵母細胞(MII)、1細胞胚、初期2細胞(e2細胞)胚、後期2細胞(12細胞)胚、4細胞胚、8細胞胚、桑実胚(mo)、および胚盤胞(bl)における、Zscan4(A)、AF067063(B)、Tcstv3(C)、Tho4(D)、アルギナーゼII(E)、BC061212(F)、およびGm428(G)の発現プロファイルが示される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
I. 略語
CDS コーディング配列
CMV サイトメガロウイルス
DNA デオキシリボ核酸
d.p.c. 交尾後日数
EC 胚性癌腫
EG 胚性生殖
ES 胚性幹
GS 生殖系列幹
GFP 緑色蛍光タンパク質
hCG ヒト絨毛性ゴナドトロピン
ICM 内部細胞塊
IVF 体外受精
LIF 白血病抑制因子
maGSC 多分化能性成体生殖系列幹細胞
MAPC 多分化能性成体前駆細胞
PCR ポリメラーゼ連鎖反応
qRT-PCR 定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応
RNA リボ核酸
siRNA 低分子干渉RNA
TS 栄養膜幹
USSC 非拘束体性幹細胞
ZGA 接合子ゲノム活性化
【0017】
II. 用語
特記しない限り、技術用語は、慣例的用法に従って使用される。分子生物学における一般的な用語の定義は、Oxford University Press出版のBenjamin Lewin, Genes V(1994)(ISBN 0-19-854287-9);Blackwell Science Ltd.出版のKendrew et al. (eds.), The Encyclopedia of Molecular Biology(1994)(ISBN 0-632-02182-9);およびVCH Publishers, Inc.出版のRobert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology:a Comprehensive Desk Reference(1995)(ISBN 1-56081-569-8)に見出され得る。
【0018】
本発明の様々な態様の概説を容易にするため、特定の用語の以下の説明を提供する。
【0019】
改変する:ポリヌクレオチドまたはポリペプチドのような関心対象の物質の有効量の変化。物質の量は、産生される物質の量の差違により、所望の機能を有する物質の量の差違により、または物質の活性化の差違により、変化し得る。変化は増加または減少であり得る。改変は、インビボまたはインビトロであり得る。いくつかの態様において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの有効量の改変は、物質の有効量(レベル)の少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の増加または減少である。ポリペプチドまたはポリペプチドの有効量の改変には、細胞におけるZscan4の発現の増加が含まれる。もう一つの態様において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの改変は、細胞の分化、増殖、または生存能のような細胞の生理学的特性に影響を与える。例えば、幹細胞におけるZscan4の発現の増加は、分化を阻害し、幹細胞の生存能を促進する。
【0020】
胚盤胞:胞胚腔の形成後、着床前に、初期哺乳動物胚形成において形成される構造。それは、内部細胞塊または胚結節および外部細胞塊または栄養膜を保有している。ヒト胚盤胞は、70〜100個の細胞を含む。本明細書において使用されるように、胚盤胞アウトグロースとは、胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚性幹細胞を培養する過程をさす。胚盤胞アウトグロースの促進とは、胚盤胞に由来する胚性幹細胞の生存能および増殖の増強をさす。
【0021】
cDNA(相補DNA):内部非コーディングセグメント(イントロン)および転写を決定する調節配列を欠くDNA片。cDNAは、細胞から抽出されたメッセンジャーRNAからの逆転写により実験室において合成される。
【0022】
共発現される:本開示の情況において、Zscan4と「共発現される」遺伝子(「Zscan4共発現遺伝子」とも呼ばれる)は、胚発生の間に、ES細胞においてZscan4と類似の発現パターンを示す遺伝子である。特に、共発現遺伝子は、Zscan4と同一のES細胞の未分化亜集団において発現され、胚発生の間、これらの遺伝子は、2細胞期において最も豊富に発現される。AF067063、Tcstv1/Tcstv3、Tho4、アルギナーゼII、BC061212およびGm428、Eif1a、EG668777およびPif1を含む、9種の共発現遺伝子が、本明細書に記載される。しかしながら、共発現遺伝子には、本明細書に開示されたものに限定されず、Zscan4と類似の発現パターンを示す任意の遺伝子が含まれる。
【0023】
AF067063は仮説タンパク質LOC380878をコードする。AF067063の全長cDNA配列(SEQ ID NO:34)は、886塩基対長であり、マウス特異的であると考えられるいくつかの仮説タンパク質(例えば、SEQ ID NO:35)をコードする3個のエキソンへと組織化されている。
【0024】
BC061212は、PRAME(黒色腫優先発現抗原)ファミリーに属するタンパク質をコードする。BC061212の全長cDNA配列(SEQ ID NO:36)は、1625塩基対長であり、481残基長のタンパク質(SEQ ID NO:37)をコードする4個のエキソンへと組織化されている。
【0025】
Gm428(遺伝子モデル428)は仮説タンパク質をコードする。Gm428の全長cDNA配列(SEQ ID NO:38)は、1325塩基対長であり、360残基長のタンパク質(SEQ ID NO:39)をコードする5個のエキソンへと組織化されている。
【0026】
アルギナーゼIIはアルギナーゼファミリーに属し、尿素回路外アルギニン代謝の調節において、そして一酸化窒素合成のダウンレギュレーションにおいて役割を果たし得る。アルギナーゼIIの全長cDNA配列(SEQ ID NO:40)は、1415塩基対長であり、354残基長のタンパク質(SEQ ID NO:41)をコードする8個のエキソンへと組織化されている。
【0027】
Tsctv1およびTsctv3はスプライスバリアントである。Tsctv1の全長cDNA(SEQ ID NO:42)は858塩基対長であり、171残基のタンパク質(SEQ ID NO:43)をコードする2個のエキソンを含有している。Tsctv3の全長cDNA配列(SEQ ID NO:44)は、876塩基対長であり、169残基のタンパク質(SEQ ID NO:45)をコードする1個のエキソンを含有している。このタンパク質のファミリーは、およそ170残基長のいくつかの仮説タンパク質からなり、マウスに特異的であると考えられる。
【0028】
Tho4(EG627488とも呼ばれる)は、オルタナティブスプライシングの調節に関与しているRNA認識モチーフ(RRM)および核小体低分子リボ核タンパク質(snRNP)のタンパク質成分を有するタンパク質をコードする。Tho4の全長cDNA配列(SEQ ID NO:46)は、811塩基対長であり、163残基長のタンパク質(SEQ ID NO:47)をコードする3個のエキソンへと組織化されている。
【0029】
Eif1aは真核生物翻訳開始因子ファミリーに属する。Eif1aの全長cDNA配列(SEQ ID NO:48)は、2881塩基対長であり、144アミノ酸のタンパク質(SEQ ID NO:49)をコードする。
【0030】
EG668777は、網膜芽細胞腫結合タンパク質6、アイソフォーム2との類似性を有する予測遺伝子である。EG668777の全長cDNA配列(SEQ ID NO:50)は1918塩基対長であり、547残基のタンパク質(SEQ ID NO:51)をコードする1個のエキソンを含有している。
【0031】
Pif1はATP依存性DNAヘリカーゼである。Pif1の全長cDNA配列(SEQ ID NO:52)は、3680塩基対長であり、650アミノ酸のタンパク質(SEQ ID NO:53)をコードする12個のエキソンを含有している。
【0032】
縮重バリアント:遺伝暗号の結果として縮重している配列を含む、Zscan4ポリペプチドのようなポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。20種の天然アミノ酸が存在し、その大部分が複数のコドンにより特定される。従って、ヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列が不変である限り、全ての縮重ヌクレオチド配列が含まれる。
【0033】
分化:細胞が特定の型の細胞(例えば、筋細胞、皮膚細胞等)へと発達する過程をさす。本開示の情況において、胚性幹細胞の分化とは、特定の細胞系統に向けた細胞の発達をさす。細胞は、より分化するにつれて、分化能、または複数の異なる細胞型になる能力を失う。本明細書において使用されるように、分化の阻害とは、特定の系統への細胞の発達の防止または遅延を意味する。
【0034】
胚性幹(ES)細胞:発生中の胚盤胞の内部細胞塊から単離された多能性細胞。「ES細胞」は任意の生物に由来し得る。ES細胞は哺乳動物に由来し得る。一つの態様において、ES細胞は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヤギ、ブタ、ウシ、サル、およびヒトから作製される。ヒトおよびマウスに由来するES細胞が好ましい。ES細胞は、多能性細胞である、即ち、体内に存在するあらゆる細胞(骨細胞、筋細胞、および脳細胞等)を発生させることができる。マウスES細胞を作製する方法は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,670,372号に見出され得る。ヒトES細胞を作製する方法は、参照により本明細書において組み入れられる米国特許第6,090,622号、PCT公開第WO00/70021号、およびPCT公開第WO00/27995号に見出され得る。
【0035】
増大する:細胞培養物中の細胞の数または量が細胞分裂により増加する過程。同様に、「増大」または「増大した」という用語は、この過程をさす。「増殖する」、「増殖」、または「増殖した」という用語は、「増大する」、「増大」、または「増大した」という単語と交換可能に使用され得る。典型的には、増大の間、細胞は成熟細胞を形成するよう分化しない。
【0036】
発現ベクター:ベクターとは、宿主細胞において複製し、かつ/または組み込まれるベクターの能力を破壊することなく、外来核酸の挿入を可能にする核酸分子である。ベクターは、複製起点のような宿主細胞における複製を許容する核酸配列を含むことができる。ベクターは、一つまたは複数の選択可能マーカー遺伝子およびその他の遺伝要素も含むことができる。発現ベクターとは、挿入された遺伝子の転写および翻訳を可能にするために必要な調節配列を含有しているベクターである。
【0037】
異種の:異種のポリペプチドまたはポリヌクレオチドとは、異なる起源または種に由来するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをさす。
【0038】
宿主細胞:ベクターが繁殖することができ、そのDNAが発現され得る細胞。細胞は原核生物または真核生物であり得る。この用語は、本宿主細胞の子孫も含む。複製の間に起こる変異が存在するかもしれないため、全ての子孫が親細胞と同一ではないかもしれないことが理解される。しかしながら、そのような子孫も、「宿主細胞」という用語が使用される場合、含まれる。
【0039】
単離された:単離された核酸は、他の核酸配列、およびその核酸が天然に存在している生物の細胞、即ち、他の染色体および染色体外のDNAおよびRNAから実質的に分離または精製されている。従って、「単離された」という用語には、標準的な核酸精製法により精製された核酸が包含される。その用語には、宿主細胞における組み換え発現により調製された核酸も、化学的に合成された核酸も包含される。同様に、「単離された」タンパク質は、そのタンパク質が天然に存在している生物の細胞の他のタンパク質から実質的に分離または精製されており、宿主細胞における組み換え発現により調製されたタンパク質も、化学的に合成されたタンパク質も包含する。
【0040】
多分化能性細胞:複数の細胞系統を形成することができるが、全ての細胞系統を形成することはできない細胞をさす。
【0041】
非ヒト動物:ヒト以外の全ての動物を含む。非ヒト動物には、非ヒト霊長類、ブタ、ウシ、および家禽のような家畜、イヌ、ネコ、ウマ、ハムスターのような競技動物もしくはペット、マウスのようなげっ歯動物、またはライオン、トラ、もしくはクマのような動物園動物が含まれるが、これらに限定はされない。一例において、非ヒト動物は、トランスジェニックのマウス、ウシ、ヒツジ、またはヤギのようなトランスジェニック動物である。非限定的な一つの具体例において、トランスジェニック非ヒト動物はマウスである。
【0042】
機能的に連結された:第一の核酸配列が第二の核酸配列と機能的関係に置かれている場合、その第一の核酸配列はその第二の核酸配列と機能的に連結されている。例えば、プロモーターがコーディング配列の転写または発現に影響を与える場合、そのプロモーターはそのコーディング配列と機能的に連結されている。一般に、機能的に連結された核酸配列は、連続しており、二つのタンパク質コーディング領域を接合する必要がある場合には、同一のリーディングフレーム内にある。
【0043】
薬学的に許容される担体:有用な薬学的に許容される担体は従来のものである。Remington's Pharmaceutical Sciences, by E. W. Martin, Mack Publishing Co., Easton, PA, 15th Edition (1975)は、本明細書に開示された融合タンパク質の薬学的送達のために適している組成物および製剤を記載している。
【0044】
一般に、担体の性質は、利用される特定の投与モードに依るであろう。例えば、非経口製剤は、通常、水、生理食塩水、平衡塩溶液、水性デキストロース、グリセロール等のような薬学的かつ生理学的に許容される液体を媒体として含んでいる注入可能な液体を含む。固形組成物(例えば、散剤、丸剤、錠剤、またはカプセル剤)の場合、従来の非毒性の固形担体には、例えば、薬学的等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムが含まれ得る。生物学的に中性の担体に加えて、投与される薬学的組成物は、湿潤剤または乳化剤、保存剤、およびpH緩衝剤等、例えば、酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレートのような微量の非毒性の補助物質を含有することができる。
【0045】
薬学的薬剤:対象または細胞に適切に投与された場合に、所望の治療的または予防的な効果を誘導することができる化学的化合物、低分子、またはその他の組成物。「インキュベートすること」は、薬物が細胞と相互作用するために十分な量の時間を含む。「接触させること」は、固形または液状の薬物を細胞と共にインキュベートすることを含む。
【0046】
多能性細胞:生殖細胞を含む、生物の細胞系統(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)の全てを形成することができるが、完全な生物を自律的に形成することはできない細胞をさす。
【0047】
ポリヌクレオチド:任意の長さの(直鎖配列のような)核酸配列。従って、ポリヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドが含まれ、染色体に見出される遺伝子配列も含まれる。「オリゴヌクレオチド」とは、ネイティブのリン酸ジエステル結合により接合された複数の接合されたヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドは6〜300ヌクレオチド長のポリヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドアナログとは、オリゴヌクレオチドと同様に機能するが、天然には存在しない部分を有するモエティをさす。例えば、オリゴヌクレオチドアナログは、ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドのような改変された糖モエティまたは糖間結合のような天然には存在しない部分を含有していてもよい。天然に存在するポリヌクレオチドの機能的アナログは、RNAまたはDNAに結合することができ、ペプチド核酸(PNA)分子を含む。
【0048】
ポリペプチド:単量体がアミド結合を通して接合されているアミノ酸残基である重合体。アミノ酸がアルファ-アミノ酸である場合、L-光学異性体またはD-光学異性体のいずれかが使用され得るが、L-異性体が好ましい。本明細書において使用されるような「ポリペプチド」または「タンパク質」という用語は、任意のアミノ酸配列を包含し、糖タンパク質のような修飾された配列を含むものとする。「ポリペプチド」という用語には、特に、天然に存在するタンパク質も、組み換えまたは合成により作製されたものも内含されるものとする。
【0049】
「ポリペプチド断片」という用語は、少なくとも一つの有用なエピトープを示すポリペプチドの部分をさす。「ポリペプチドの機能的断片」という用語は、Zscan4のようなポリペプチドの活性を保持しているポリペプチドの断片全てをさす。生物学的に機能的な断片は、例えば、抗体分子に結合することができるエピトープのような小さいポリペプチド断片から、細胞内の表現型変化の特徴的な誘導またはプログラミングに関与することができる、例えば、細胞の増殖または分化に影響することができる大きなポリペプチドまで、様々なサイズであり得る。「エピトープ」とは、抗原との接触に応答して生成した免疫グロブリンに結合することができるポリペプチドの領域である。従って、Zscan4またはZscan4の保存的バリアントの生物学的活性を含有している、より小さいペプチドは、有用なものとして含まれる。
【0050】
「可溶性の」という用語は、細胞膜に挿入されていないポリペプチドの型をさす。
【0051】
本明細書において使用されるような「実質的に精製されたポリペプチド」という用語は、それが天然に関連している他のタンパク質、脂質、炭水化物、またはその他の材料が実質的に除去されているポリペプチドをさす。一つの態様において、ポリペプチドは、それが天然に関連している他のタンパク質、脂質、炭水化物、またはその他の材料が少なくとも50%、例えば、少なくとも80%除去されている。もう一つの態様において、ポリペプチドは、それが天然に関連している他のタンパク質、脂質、炭水化物、またはその他の材料が少なくとも90%除去されている。さらにもう一つの態様において、ポリペプチドは、それが天然に関連している他のタンパク質、脂質、炭水化物、またはその他の材料が少なくとも95%除去されている。
【0052】
保存的置換は、あるアミノ酸を、サイズ、疎水性等が類似しているもう一つのアミノ酸に交換する。保存的置換の例は、以下に示される:

【0053】
保存的であっても保存的でなくても、アミノ酸変化をもたらすcDNA配列の変動は、コードされたタンパク質の機能的および免疫学的な同一性を保存するために、最小限に抑えられるべきである。従って、いくつかの非限定的な例において、Zscan4ポリペプチドまたは本明細書に開示されたその他のポリペプチドは、高々2個、高々5個、高々10個、高々20個、または高々50個の保存的置換を含む。タンパク質の免疫学的同一性は、それが抗体により認識されるか否かを決定することにより査定され得;そのような抗体により認識されるバリアントは、免疫学的に保存されている。cDNA配列バリアントは、好ましくは、20個以下、好ましくは10個以下のアミノ酸置換をコードされたポリペプチドへ導入するであろう。バリアントのアミノ酸配列は、ネイティブアミノ酸配列と、例えば、少なくとも80%、90%、またはさらには95%もしくは98%同一であり得る。
【0054】
プライマー:プライマーと標的DNA鎖とのハイブリッドを形成するために、核酸ハイブリダイゼーションにより相補的な標的DNA鎖とアニールし、次いで、DNAポリメラーゼ酵素により標的DNA鎖に沿って伸長される短い核酸、例えば、10ヌクレオチド以上の長さのDNAオリゴヌクレオチド。プライマー対は、例えば、当技術分野において公知のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはその他の核酸増幅法により、核酸配列の増幅のために使用され得る。
【0055】
本明細書において使用されるようなプローブおよびプライマーは、例えば、特定のタンパク質をコードすることが示されている核酸配列の少なくとも10ヌクレオチドを含み得る。特異性を増強するため、開示された核酸配列の15、20、30、40、50、60、70、80、90、または100個の連続ヌクレオチドを含むプローブおよびプライマーのような、より長いプローブおよびプライマーも利用され得る。プローブおよびプライマーを調製し使用する方法は、参照、例えば、Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York;Ausubel et al. (1987) Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publ. Assoc. & Wiley-Intersciences;Innis et al. (1990) PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications, Innis et al. (Eds.), Academic Press, San Diego, CAに記載されている。PCRプライマー対は、例えば、Primer(バージョン0.5, 1991, Whitehead Institute for Biomedical Research, Cambridge, MA)のようなその目的のためのコンピュータプログラムを使用することにより、公知の配列から導出され得る。
【0056】
プローブまたはプライマーをさす場合、「(標的配列)に特異的な」という用語は、プローブまたはプライマーが、ストリンジェントな条件の下で、実質的に、標的配列を含む所定の試料の中の標的配列にのみハイブリダイズすることを示す。
【0057】
生存能の延長:本明細書において使用されるように、幹細胞の「生存能の延長」とは、幹細胞の正常な成長および/または生存が可能である持続時間の拡張をさす。
【0058】
プロモーター:プロモーターとは、核酸の転写を指図する核酸制御配列のアレイである。プロモーターは、転写開始部位の近くの必要な核酸配列を含む。プロモーターは、任意で、遠位のエンハンサー要素またはリプレッサー要素も含む。「構成性プロモーター」とは、絶えず活性であり、外部のシグナルまたは分子による調節を受けないプロモーターである。対照的に、「誘導性プロモーター」の活性は、外部のシグナルまたは分子(例えば、転写因子)により調節される。
【0059】
レポーター遺伝子:レポーター遺伝子とは、(プロモーター配列のような)もう一つの関心対象の遺伝子または核酸配列に機能的に連結された遺伝子である。レポーター遺伝子は、関心対象の遺伝子もしくは核酸が、細胞において発現されているか否か、または細胞において活性化されているか否かを決定するために使用される。レポーター遺伝子は、典型的には、蛍光のような容易に同定可能な特徴、または酵素のような容易にアッセイされる産物を有する。レポーター遺伝子は、宿主細胞に抗生物質耐性を付与することもできる。一つの態様において、レポーター遺伝子は蛍光性タンパク質Emeraldをコードする。もう一つの態様において、レポーター遺伝子は蛍光性タンパク質Strawberryをコードする。
【0060】
老化:細胞がもはや分裂し得ないこと。老化細胞は、未だ生存可能であるが、分裂はしない。
【0061】
幹細胞:未改変の娘細胞を産生し(自己再生;細胞分裂は親細胞と同一の少なくとも1個の娘細胞を産生する)、かつ特殊な細胞型を与える(分化能)特有の能力を有する細胞。幹細胞には、ES細胞、EG細胞、GS細胞、MAPC、maGSC、およびUSSCが含まれるが、これらに限定はされない。一つの態様において、幹細胞は、複数の所定の細胞型の完全に分化した機能細胞を生成させることができる。インビボの幹細胞の役割は、動物の正常な生活の間に破壊される細胞を交換することである。一般に、幹細胞は無限に分裂することができる。分裂の後、幹細胞は、幹細胞として残存するか、前駆細胞になるか、または最終分化に進むことができる。前駆細胞とは、少なくとも一つの所定の細胞型の完全に分化した機能細胞を生成させることができる細胞である。一般に、前駆細胞は分裂することができる。分裂の後、前駆細胞は、前駆細胞として残存するか、または最終分化に進むことができる。
【0062】
亜集団:集団の同定可能な一部分。本明細書において使用されるように、Zscan4を発現する幹細胞の「亜集団」とは、Zscan4を発現していることが同定された所定の集団の中の幹細胞の一部分である。一つの態様において、亜集団は、Zscan4プロモーターおよびレポーター遺伝子を含む発現ベクターを使用して同定される。ここで、細胞におけるレポーター遺伝子の発現の検出が、細胞がZscan4を発現しており、亜集団の一部であることを示す。本明細書に記載されるように、Zscan4を発現するES細胞の亜集団は、さらに、AF067063、Tcstv1/Tcstv3、Tho4、アルギナーゼII、BC061212およびGm428、Eif1a、EG668777およびPif1を含む、本明細書に開示された一つまたは複数の遺伝子の共発現により同定され得る。
【0063】
全能性細胞:完全な生物を自律的に形成することができる細胞をさす。受精卵(卵母細胞)のみがこの能力を保有する(幹細胞は保有しない)
【0064】
トランスジェニック動物:その細胞の一部に染色体外要素として存在するか、または生殖系列DNAに(即ち、その細胞の大部分もしくは全部のゲノム配列に)安定的に組み込まれた非内因性(異種)核酸配列を有する非ヒト動物、通常、哺乳動物。異種核酸は、例えば、当技術分野において周知の方法により、宿主動物の胚または胚性幹細胞の遺伝子操作により、そのようなトランスジェニック動物の生殖系列へ導入される。「トランスジーン」とは、(例えば「ノックイン」トランスジェニック動物の作製のための)発現構築物の形態の異種核酸、または(例えば「ノックアウト」トランスジェニック動物の作製のための)標的遺伝子の内部もしく隣接部への挿入により標的遺伝子発現の減少をもたらす異種核酸のような、そのような異種核酸をさすものである。
【0065】
トランスフェクトすることまたはトランスフェクション:細胞または組織へ核酸を導入する過程をさす。トランスフェクションは、以下に限定はされないが、リポソーム媒介トランスフェクション、電気穿孔、および注入のような、多数の方法のうちのいずれかにより達成され得る。
【0066】
Trim43(三要素モチーフ含有タンパク質43):胚発生の間に桑実胚特異的な発現を示すことが本明細書において同定された遺伝子。Trim43のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:32およびSEQ ID NO:33として本明細書に提供される。
【0067】
Zscan4:胚の2細胞期およびES細胞に特異的な発現を示すことが本明細書において同定された遺伝子の群。マウスにおいて、「Zscan4」という用語は、3種の偽遺伝子(Zscan1-ps1、Zscan4-ps2、およびZscan4-ps3)、ならびに6種の発現遺伝子(Zscan4a、Zscan4b、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4e、およびZscan4f)を含む遺伝子の集合をさす。本明細書において使用されるように、Zscan4は、ヒトZSCAN4も含む。Zscan4は、Zscan4ポリペプチドおよびZscan4ポリペプチドをコードするZscan4ポリヌクレオチドをさす。
【0068】
他に説明されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語が、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるのと同一の意味を有する。単数形「一つの(a)」、「一つの(an)」、および「その(the)」は、文脈がそうでないことを明白に示さない限り、複数の対象を含む。同様に、「または」という単語は、文脈がそうでないことを明白に示さない限り、「および」を含むものとする。従って、「AまたはBを含む」とは、A、またはB、またはAおよびBを含むことを意味する。核酸またはポリペプチドについて与えられた全ての塩基サイズまたはアミノ酸サイズおよび全ての分子量または分子量値が、近似であり、説明のために提供されていることが、さらに理解されるべきである。本明細書に記載されたものと類似しているかまたは等価である方法および材料が、本発明の実施または試行において使用され得るが、好適な方法および材料が以下に記載される。本明細書中に言及された全ての刊行物、特許出願、特許、およびその他の参照が、参照により完全に組み入れられる。矛盾する場合には、用語の説明を含む本明細書が適用されるであろう。さらに、材料、方法、および例は、例示的なものであり、限定するためのものではない。
【0069】
III. いくつかの態様の概要
胚性幹細胞を含む幹細胞のような細胞の分化の阻害および増殖の増加において有用なZscan4ポリペプチドおよびこれらのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、本明細書に開示される。未分化状態の幹細胞、特に、ES細胞は、以前には比較的均質の細胞集団であると考えられていた。しかしながら、未分化ES細胞の中の独特の細胞集団の存在を確立し、これらの細胞を同定し単離する手段を提供する、幹細胞の亜集団におけるZscan4の独特の発現が、本明細書に記載される。また、未分化ES細胞亜集団においてZscan4と共発現される9種の遺伝子の同定も、本明細書に記載される。これらの遺伝子には、AF067063、Tcstv1/Tcstv3、Tho4、アルギナーゼII、BC061212およびGm428、Eif1a、EG668777およびPif1が含まれる。さらに、桑実胚特異的な遺伝子発現を示す遺伝子としてのTrim43の同定が、本明細書に記載される。
【0070】
Zscan4が、胚の2細胞期の間に、かつ胚性幹細胞の亜集団において特異的に発現されることが、本明細書に開示される。3種の偽遺伝子(Zscan4-ps1、Zscan4-ps2、およびZscan4-ps3)ならびに6種の発現遺伝子(Zscan4a、Zscan4b、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4e、およびZscan4f)を含む、Zscan4関連遺伝子の属が存在する。Zscan4属は、ヒトZSCAN4も含む。さらに、AF067063、Tcstv1/Tcstv3、Tho4、アルギナーゼII、BC061212およびGm428、Eif1a、EG668777およびPif1が、胚発生の間にZscan4と共発現されることが、本明細書に開示される。これらの遺伝子は、Zscan4と同様に、胚発生の間に、2細胞期において最も豊富に発現される。
【0071】
幹細胞におけるZscan4の発現を増加させることを含む、幹細胞の分化を阻害するための方法が、本明細書に提供される。本明細書に記載されるように、Zscan4の使用は、Zscan4a、Zscan4b、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4e、Zscan4f、およびヒトZSCAN4を含む任意のZscan4遺伝子の使用を含む。いくつかの態様において、Zscan4遺伝子は、Zscan4c(SEQ ID NO:19)、Zscan4d(SEQ ID NO:21)、またはZscan4f(SEQ ID NO:25)と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である。もう一つの態様において、Zscan4遺伝子はSEQ ID NO:60を含む。
【0072】
幹細胞のような細胞におけるZscan4の発現の増加は、当技術分野において周知の多数の方法に従って達成され得る。一つの態様において、幹細胞におけるZscan4の発現の増加は、プロモーターに機能的に連結されたZscan4をコードするヌクレオチドにより幹細胞をトランスフェクトすることを含む。プロモーターは、構成性プロモーターまたは誘導性プロモーターを含む任意の型のプロモーターであり得る。一つの態様において、幹細胞は、プロモーターに機能的に連結されたZscan4をコードするヌクレオチド配列を含むベクターによりトランスフェクトされる。ベクターは、ウイルスベクターまたはプラスミドベクターのような任意の型のベクターであり得る。一つの態様において、Zscan4ヌクレオチド配列は、Zscan4c(SEQ ID NO:19)、Zscan4d(SEQ ID NO:21)、またはZscan4f(SEQ ID NO:25)と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である。もう一つの態様において、Zscan4ヌクレオチド配列はSEQ ID NO:60を含む。
【0073】
本明細書に記載された方法の一つの態様において、幹細胞の分化の阻害は、幹細胞の生存能を増加させる。もう一つの態様において、幹細胞の分化の阻害は、幹細胞の老化を防止する。本明細書に記載されるように、幹細胞は、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、生殖系列幹細胞、または多分化能性成体前駆細胞を含むが、これらに限定はされない、任意の型の幹細胞であり得る。
【0074】
胚性幹細胞におけるZscan4の発現を増加させ、それにより胚性幹細胞の胚盤胞アウトグロースを促進することを含む、胚性幹細胞の胚盤胞アウトグロースを促進する方法も、本明細書に提供される。胚盤胞アウトグロースの促進は、アウトグロースの効率の増加、または胚盤胞アウトグロースに起因する胚性幹細胞の数の増加を含み得る。一つの態様において、方法は、胚盤胞アウトグロースの初期の間に、例えば、幹細胞の増殖前に、細胞におけるZscan4の発現を増加させることを含む。本明細書に記載されるように、Zscan4には、Zscan4a、Zscan4b、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4e、Zscan4f、およびヒトZSCAN4を含む任意のZscan4遺伝子が含まれる。一つの態様において、Zscan4遺伝子は、Zscan4c(SEQ ID NO:19)、Zscan4d(SEQ ID NO:21)、またはZscan4f(SEQ ID NO:25)と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である。もう一つの態様において、Zscan4遺伝子はSEQ ID NO:60を含む。
【0075】
一つの態様において、幹細胞におけるZscan4の発現の増加は、プロモーターに機能的に連結されたZscan4をコードするヌクレオチド配列により幹細胞をトランスフェクトすることを含む。プロモーターは、誘導性プロモーターまたは構成性プロモーターを含む任意の型のプロモーターであり得る。一つの態様において、細胞は、プロモーターに機能的に連結されたZscan4をコードするヌクレオチドを含むベクターによりトランスフェクトされる。ベクターは、ウイルスベクターまたはプラスミドベクターを含む任意の型のベクターであり得る。
【0076】
Zscan4プロモーターおよびレポーター遺伝子を含む発現ベクターにより細胞をトランスフェクトすることを含む、Zscan4を発現する幹細胞の亜集団を同定する方法も提供される。ここで、レポーター遺伝子の発現は、Zscan4が幹細胞の亜集団において発現されていることを示す。一つの態様において、プロモーターはZscan4cプロモーターである。もう一つの態様において、Zscan4cプロモーターは、SEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2643、1〜3250、または1〜3347のような、SEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2540として示された核酸配列を含む。もう一つの態様において、発現ベクターは、SEQ ID NO:28として示された核酸配列を含む。本明細書に記載されるように、Zscan4を発現するES細胞の亜集団は、未分化状態にある。さらに、AF067063、Tcstv1/Tcstv3、Tho4、アルギナーゼII、BC061212およびGm428、Eif1a、EG668777およびPif1のような一つまたは複数のZscan4共発現遺伝子の発現を検出することにより、ES細胞の未分化亜集団を同定する方法が提供される。これらの遺伝子の発現の検出は、例えば、RT-PCR、ノーザンブロット、またはインサイチューハイブリダイゼーションのような、当技術分野において周知の任意の手段を使用して達成され得る。さらに、この方法に従って同定された、単離された幹細胞が提供される。
【0077】
異種ポリペプチドをコードする核酸配列に機能的に連結されたZscan4プロモーターを含む単離された発現ベクターも、提供される。一つの態様において、Zscan4プロモーターはZscan4cプロモーターである。もう一つの態様において、Zscan4cプロモーターは、SEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2643、1〜3250、または1〜3347のようなSEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2540として示された核酸配列を含む。もう一つの態様において、異種ポリペプチドは、マーカー、酵素、または蛍光性タンパク質である。発現ベクターは、ウイルスベクターまたはプラスミドベクターを含むが、これらに限定はされない、任意の型のベクターであり得る。
【0078】
異種ポリペプチドに機能的に連結されたZscan4プロモーターを含む発現ベクターを含むES細胞が、さらに提供される。一つの態様において、Zscan4プロモーターはZscan4cプロモーターである。もう一つの態様において、Zscan4cプロモーターは、SEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2643、1〜3250、または1〜3347のようなSEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2540として示された核酸配列を含む。もう一つの態様において、異種ポリペプチドは、マーカー、酵素、または蛍光性タンパク質である。一つの態様において、蛍光性タンパク質はEmeraldである。
【0079】
異種ポリペプチドをコードする核酸配列に機能的に連結されたTrim43プロモーターを含む単離された発現ベクターも、提供される。一つの態様において、Trim43プロモーターは、SEQ ID NO:31として示された核酸配列の少なくとも一部を含む。発現ベクターに含まれるSEQ ID NO:31の一部は、Trim43が発現される細胞における異種ポリペプチドの転写を促進することができるSEQ ID NO:31の少なくとも一部である。いくつかの態様において、Trim43プロモーター配列は、SEQ ID NO:31と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%同一である。もう一つの態様において、Trim43プロモーターはSEQ ID NO:31を含む。もう一つの態様において、Trim43プロモーターはSEQ ID NO:31からなる。いくつかの態様において、異種ポリペプチドは、マーカー、酵素、または蛍光性タンパク質である。一例において、蛍光性タンパク質はStrawberryである。発現ベクターは、ウイルスベクターまたはプラスミドベクターを含むが、これらに限定はされない、任意の型のベクターであり得る。
【0080】
異種ポリペプチドに機能的に連結されたTrim43プロモーターを含む単離された発現ベクターを含有しているES細胞も、提供される。一つの態様において、Trim43プロモーターは、SEQ ID NO:31として示された核酸配列の少なくとも一部を含む。いくつかの態様において、Trim43プロモーター配列は、SEQ ID NO:31と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%同一である。もう一つの態様において、Trim43プロモーターはSEQ ID NO:31を含む。もう一つの態様において、Trim43プロモーターはSEQ ID NO:31からなる。もう一つの態様において、異種ポリペプチドは、マーカー、酵素、または蛍光性タンパク質である。一例において、蛍光性タンパク質はStrawberryである。
【0081】
Zscan4に特異的な抗体が本明細書に提供される。一つの態様において、Zscan4抗体は、Zscan4a、Zscan4b、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4e、Zscan4f、またはヒトZSCAN4を特異的に認識する。AF067063、Tcstv1/Tcstv3、Tho4、アルギナーゼII、BC061212およびGm428、Eif1a、EG668777、またはPif1によりコードされたポリペプチドの少なくとも一部に対して産生された抗体を含む、各Zscan4共発現遺伝子に特異的な抗体も、提供される。
【0082】
本明細書に開示されたZscan4ポリヌクレオチド配列を含むトランスジーンを保持しているトランスジェニック動物も、本明細書に記載される。一つまたは複数のZscan4共発現遺伝子のポリヌクレオチド配列を含むトランスジーンを保持しているトランスジェニック動物も、提供される。そのようなトランスジェニック動物には、トランスジェニックマウスが含まれるが、これに限定はされない。
【0083】
Zscan4プロモーターに機能的に連結された異種ポリペプチドをコードする核酸配列(トランスジーン)を含むトランスジェニック非ヒト動物が、さらに提供される。いくつかの態様において、異種ポリペプチドは、マーカー、酵素、または蛍光性タンパク質である。一例において、異種ポリペプチドは、蛍光性タンパク質である。一例において、蛍光性タンパク質はEmeraldである。一つの態様において、Zscan4プロモーターはZscan4cプロモーターである。もう一つの態様において、Zscan4cプロモーターは、SEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2643、1〜3250、または1〜3347のようなSEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2540として示された核酸配列を含む。
【0084】
もう一つの態様において、トランスジェニック非ヒト動物は、Trim43プロモーターに機能的に連結された異種ポリペプチドをコードする核酸配列をさらに含む。一つの態様において、Trim43プロモーターは、SEQ ID NO:31として示される核酸配列を含む。異種ポリペプチドは、例えば、マーカー、酵素、または蛍光性タンパク質であり得る。一つの態様において、異種ポリペプチドは、蛍光性タンパク質である。一例において、蛍光性タンパク質はStrawberryである。いくつかの態様において、トランスジェニック非ヒト動物はトランスジェニックマウスである。
【0085】
トランスジェニック非ヒト動物の胚から入手された単離された胚性幹細胞も、本明細書に提供される。一つの態様において、トランスジェニック非ヒト動物はトランスジェニックマウスである。
【0086】
IV. 幹細胞の分化を誘導し、かつ/または増殖を阻害する方法
幹細胞の分化を阻害する方法が、本明細書に開示される。幹細胞の生存能を増加させ、かつ/または増殖を誘導する方法も、本明細書に開示される。幹細胞の老化を阻害する方法も、本明細書に提供される。方法は、細胞におけるZscan4ポリペプチドのレベルを改変し、それにより、細胞の分化を阻害し、かつ/または増殖を誘導し、かつ/または細胞の老化を阻害することを含む。細胞はインビボまたはインビトロであり得る。
【0087】
胚におけるZscan4の阻害は、2細胞期から4細胞期への胚の移行を阻止することが、本明細書において示される。Zscan4発現の阻害は、また、胚盤胞の拡大および着床を防止し、胚盤胞からの胚性幹細胞のアウトグロースを防止する。さらに、胚性幹細胞において、Zscan4発現は、未分化幹細胞の亜集団にのみ検出される。従って、Zscan4の発現は、ES細胞の生存能および増殖にとって必要な、未分化状態でのES細胞の維持において重要な役割を果たしている。Zscan4は、胚盤胞からのES細胞のアウトグロースを可能にするためにも重要である。従って、分化を阻害し、生存能を増加させ、幹細胞の老化を防止するために、幹細胞におけるZscan4の発現を増加させる方法が、本明細書に提供される。本明細書に提供される方法は、ES細胞の胚盤胞アウトグロースを促進するためにZscan4の発現を増加させることも含む。
【0088】
Zscan4の発現は、分化を阻害し、かつ/または増殖を誘導するために増加させられ得る。一例において、Zscan4の発現は、対照と比較して増加させられる。増加した発現には、Zscan4 mRNAまたはポリペプチドの少なくとも約30%、50%、75%、100%、または200%の増加のような(これらに限定はされない)、対照と比較した細胞中のZscan4 mRNAまたはポリペプチドの量の少なくとも20%の増加が含まれるが、これに限定はされない。好適な対照には、野生型幹細胞のような、Zscan4発現を改変する薬剤と接触させられていないか、またはZscan4をコードするベクターによりトランスフェクトされていない細胞が含まれる。好適な対照には、標準値も含まれる。例示的なZscan4アミノ酸配列は、SEQ ID NO:16(Zscan4a)、SEQ ID NO:18(Zscan4b)、SEQ ID NO:20(Zscan4c)、SEQ ID NO:22(Zscan4d)、SEQ ID NO:24(Zscan4e)、SEQ ID NO:26(Zscan4f)、およびSEQ ID NO:30(ヒトZSCAN4)として配列表に示される。
【0089】
Zscan4ポリペプチドの非限定的な具体例には、SEQ ID NO:16、18、20、22、24、26、または30に示されたアミノ酸配列に少なくとも約80%、85%、90%、95%、または99%相同なアミノ酸配列を含むポリペプチドが含まれる。さらなる態様において、Zscan4ポリペプチドは、SEQ ID NO:16、18、20、22、24、26、または30の中に2個以下、5個以下、10個以下、20個以下、または50個以下の保存的アミノ酸置換のような、50個以下の保存的アミノ酸置換を含んでいるような、SEQ ID NO:16、18、20、22、24、26、または30の保存的バリアントである。もう一つの態様において、Zscan4ポリペプチドは、SEQ ID NO:16、18、20、22、24、26、または30に示されるようなアミノ酸配列を有する。
【0090】
Zscan4ポリペプチドの断片およびバリアントは、分子技術を使用して当業者によって容易に調製され得る。一つの態様において、Zscan4ポリペプチドの断片は、Zscan4ポリペプチドの少なくとも8個、10個、15個、または20個の連続アミノ酸を含む。もう一つの態様において、Zscan4ポリペプチドの断片は、全長Zscan4上に見出される特定の抗原性エピトープを含む。さらなる態様において、Zscan4の断片は、関心対象の細胞へ移入された場合に、以下に限定はされないが、細胞の分化の阻害または増殖の増加のようなZscan4の機能を付与する断片である。
【0091】
本明細書の開示により、当業者は、タンパク質精製のための標準的な技術を使用して、Zscan4ポリペプチドを精製することができる。実質的に純粋なポリペプチドは、非還元ポリアクリルアミドゲル上で単一の主要なバンドを与えるであろう。Zscan4ポリペプチドの純度は、アミノ末端アミノ酸配列分析によっても決定され得る。
【0092】
Zscan4ポリペプチド一次アミノ酸配列の軽微な修飾は、本明細書に記載された未修飾のカウンターパートポリペプチドと比較して実質的に等価な活性を有するペプチドをもたらし得る。そのような修飾は、部位特異的変異誘発によるもののような計画的なものであるかもしれないし、または自発的なものであるかもしれない。これらの修飾により作製されたポリペプチドは、全て、本明細書に含まれる。
【0093】
当業者は、Zscan4ポリペプチドおよび第二の関心対象のポリペプチドを含む融合タンパク質を容易に作製することができる。任意で、リンカーが、Zscan4ポリペプチドと第二の関心対象のポリペプチドとの間に含まれていてもよい。融合タンパク質には、Zscan4ポリペプチドおよびマーカータンパク質を含むポリペプチドが含まれるが、これに限定はされない。一つの態様において、マーカータンパク質は、Zscan4ポリペプチドを同定または精製するために使用され得る。例示的な融合タンパク質は、緑色蛍光タンパク質、6ヒスチジン残基、またはmycと、Zscan4ポリペプチドとを含むが、これらに限定はされない。
【0094】
Zscan4ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも提供され、それらはZscan4ポリヌクレオチドと呼ばれる。これらのポリヌクレオチドには、Zscan4をコードするDNA配列、cDNA配列、およびRNA配列が含まれる。Zscan4ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、全て、Zscan4ポリペプチドを認識する抗体との結合、または細胞の分化もしくは増殖の調整のような認識された活性を有するポリペプチドをコードする限り、本明細書に含まれることが理解される。ポリヌクレオチドには、遺伝暗号の結果として縮重している配列が含まれる。20種の天然アミノ酸が存在するが、その大部分は複数のコドンにより特定される。従って、ヌクレオチド配列によりコードされたZscan4ポリペプチドのアミノ酸配列が、機能的に不変である限り、全ての縮重ヌクレオチド配列が含まれる。Zscan4ポリヌクレオチドは、本明細書に開示されるようなZscan4ポリペプチドをコードする。Zscan4をコードする例示的なポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:12(Zscan4-ps1)、SEQ ID NO:13(Zscan4-ps2)、SEQ ID NO:14(Zscan4-ps3)、SEQ ID NO:15(Zscan4a)、SEQ ID NO:17(Zscan4b)、SEQ ID NO:19(Zscan4c)、SEQ ID NO:21(Zscan4d)、SEQ ID NO:23(Zscan4e)、SEQ ID NO:25(Zscan4f)、およびSEQ ID NO:29(ヒトZSCAN4)として配列表に示される。
【0095】
いくつかの態様において、Zscan4ポリヌクレオチド配列は、Zscan4c(SEQ ID NO:19)、Zscan4d(SEQ ID NO:21)、またはZscan4f(SEQ ID NO:25)と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である。もう一つの態様において、Zscan4遺伝子はSEQ ID NO:60を含む。
【0096】
Zscan4ポリヌクレオチドには、ベクター;自律複製するプラスミドもしくはウイルス;または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み入れられているか、または他の配列から独立して別の分子(例えば、cDNA)として存在している組換えDNAが含まれる。ヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、またはいずれかのヌクレオチドの修飾型であり得る。その用語には、一本鎖型および二本鎖型のDNAが含まれる。また、生理学的条件下で、開示されたZscan4ポリペプチド(例えば、SEQ ID NO:16、18、20、22、24、26、または30をコードするポリヌクレオチド)をコードするDNAに、断片が選択的にハイブリダイズすることを許容するのに十分な、少なくとも15塩基長の上記核酸配列の断片が、この開示に含まれる。「選択的にハイブリダイズする」という用語は、無関係のヌクレオチド配列を排除する中程度または高度にストリンジェントな条件の下でのハイブリダイゼーションをさす。
【0097】
また、RNA干渉のためのZscan4ポリヌクレオチドまたはZscan4ポリヌクレオチドの相補鎖の使用が、本明細書において企図される。Zscan4ポリヌクレオチドまたはそれらの相補鎖の断片は、一つまたは複数のZscan4タンパク質の発現を阻害するためのsiRNA分子として設計され得る。一つの態様において、siRNA化合物はZscan4偽遺伝子の断片である。siRNAを調製し使用する方法は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,506,559号に一般に開示されている(参照により本明細書に組み入れられるMilhavet et al., Pharmacological Reviews 55:629-648, 2003;およびGitlin et al., J. Virol. 77:7159-7165, 2003による概説も参照のこと)。siRNAの二本鎖構造は、単一の自己相補的なRNA鎖または二つの相補的なRNA鎖により形成され得る。
【0098】
siRNAは、一つまたは複数の重合リボヌクレオチド鎖を含むことができ、リン酸-糖骨格またはヌクレオシドのいずれかに修飾を含んでいてもよい。例えば、天然RNAのホスホジエステル結合は、ヘテロ原子である窒素または硫黄のうちの少なくとも一つを含むよう修飾され得る。RNA構造の修飾は、dsRNAにより発生するいくつかの生物における全身パニック応答を回避しつつ、特異的な遺伝子阻害を可能にするために調整され得る。同様に、塩基は、アデノシンデアミナーゼの活性を阻止するために修飾され得る。
【0099】
RNAの二重鎖領域に対応するヌクレオチド配列が、遺伝子阻害のための標的とされるという点で、阻害は配列特異的である。標的配列の一部と同一のヌクレオチド配列を含有している核酸が、阻害に使用され得る。標的配列と比べて挿入、欠失、および単一点変異を有するRNA配列も、阻害のために有効であることが見出されている。配列同一性は、当技術分野において公知のアラインメントアルゴリズム、およびヌクレオチド配列間の差違率の計算により最適化され得る。または、RNAの二重鎖領域は、標的遺伝子転写物の一部とハイブリダイズすることができるヌクレオチド配列として機能的に定義され得る。
【0100】
配列同一性は、当技術分野において公知の配列比較およびアラインメントアルゴリズム(Gribskov and Devereux, Sequence Analysis Primer, Stockton Press, 1991、およびその中に引用された参照を参照のこと)、ならびに、例えば、デフォルトパラメーターを使用してBESTFITソフトウェアプログラムにおいて実行されるようなSmith-Watermanアルゴリズム(例えば、University of Wisconsin Genetic Computing Group)によるヌクレオチド配列間の差違率の計算によって最適化され得る。阻害RNAと特定の標的遺伝子配列の一部との間の90%を越える配列同一性、またはさらには100%の配列同一性が、好ましい。または、RNAの二重鎖領域は、特定の標的遺伝子の一部とハイブリダイズすることができるヌクレオチド配列として機能的に定義され得る(例えば、400mM NaCl、40mM PIPES pH6.4、1mM EDTA、50℃または70℃での12〜16時間のハイブリダイゼーション;それに続く洗浄)。同一のヌクレオチド配列の長さは、少なくとも20、25、50、100、200、300、または400塩基であり得る。RNAとZscan4との間の100%の配列同一性は、本発明の方法を実施するために必要とはされない。
【0101】
siRNA(RNAi)について、RNAは、細胞に(例えば、細胞内に)直接導入されてもよいし;または、細胞外に、空洞、間質空間、生物の循環系へ導入されてもよいし、経口導入されてもよいし、またはRNAを含有している溶液に生物を浸すことにより導入されてもよい。核酸を導入する物理的方法には、RNAを含有している溶液の注入、RNAにより覆われた粒子の照射、RNAの溶液への細胞もしくは生物の浸漬、またはRNAの存在下での細胞膜の電気穿孔が含まれる。ウイルス粒子へパッケージングされたウイルス構築物は、発現構築物を細胞へ効率的に導入することができ、発現構築物によりコードされたRNAの転写を提供することができる。脂質媒介担体輸送、リン酸カルシウムのような化学物質媒介輸送等のような、細胞に核酸を導入するための当技術分野において公知のその他の方法も、使用され得る。従って、RNAは、以下の活性のうちの一つまたは複数を実施する成分と共に導入され得る:細胞によるRNA取り込みを増強する、二重鎖のアニーリングを促進する、アニールされた鎖を安定化する、または標的遺伝子の阻害を増加させる。
【0102】
RNAは、インビボまたはインビトロで合成され得る。細胞の内因性RNAポリメラーゼがインビボで転写を媒介することができ、またはクローニングされたRNAポリメラーゼが、インビボもしくはインビトロで、転写のために使用され得る。インビボのトランスジーンまたは発現構築物からの転写のためには、調節領域が、(1つまたは複数の)RNA鎖を転写するために使用され得る。RNAは、手動の反応または自動化された反応により化学的にまたは酵素的に合成され得る。RNAは、細胞RNAポリメラーゼまたはバクテリオファージRNAポリメラーゼ(例えば、T3、T7、SP6)により合成され得る。発現構築物の使用および作製は、当技術分野において公知である(例えば、PCT公開WO97/32016;米国特許第5,593,874号、第5,698,425号、第5,712,135号、第5,789,214号、および第5,804,693号;ならびにその中に引用された参照)。化学的にまたはインビトロ酵素的合成により合成された場合、RNAは、細胞への導入の前に精製され得る。例えば、RNAは、溶媒もしくは樹脂を用いた抽出、沈殿、電気泳動、クロマトグラフィ、またはそれらの組み合わせにより混合物から精製され得る。または、RNAは、試料加工による損失を回避するため、精製することなく、または最小限の精製により使用され得る。RNAは、保管のために乾燥させられるか、または水性溶液に溶解させられ得る。溶液は、二重鎖のアニーリングおよび/または安定化を促進するため緩衝剤または塩を含有していてもよい。
【0103】
Zscan4をコードするポリヌクレオチドは、Zscan4核酸配列の発現を指図する発現ベクターに含まれ得る。従って、適当なプロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質をコードする遺伝子の前の開始コドン(即ち、ATG)、イントロンのためのスプライシングシグナル、mRNAの適切な翻訳を許容するためのその遺伝子の正確なリーディングフレームの維持、および終止コドンを含むその他の発現制御配列が、発現ベクターに含まれ得る。一般に、発現制御配列には、転写を指図するのに十分な最小の配列、プロモーターが含まれる。
【0104】
発現ベクターは、典型的には、複製起点、プロモーター、さらに形質転換細胞の表現型選択を可能にする特別な遺伝子(例えば、抗生物質耐性カセット)を含有している。使用に適しているベクターには、哺乳動物細胞における発現のためのpMSXND発現ベクター(Lee and Nathans, J. Biol. Chem. 263:3521, 1988)が含まれるが、これに限定はされない。一般に、発現ベクターはプロモーターを含むであろう。プロモーターは誘導性または構成性であり得る。プロモーターは組織特異的であり得る。好適なプロモーターには、チミジンキナーゼプロモーター(TK)、メタロチオネインI、多面体、ニューロン特異的エノラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、ベータ-アクチン、またはその他のプロモーターが含まれる。一つの態様において、プロモーターは異種プロモーターである。
【0105】
一例において、Zscan4をコードするポリヌクレオチドは、所望のプロモーターの下流に位置する。任意で、エンハンサー要素も含まれており、一般に、ベクター上のいかなる場所に位置付けられても、増強効果を有することができる。しかしながら、増加した活性の量は、一般に、距離と共に縮小するであろう。
【0106】
Zscan4をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、宿主細胞を形質転換するために使用され得る。宿主には、単離された微生物、酵母、昆虫、および哺乳動物の細胞のみならず、生物内に位置する細胞も含まれる。宿主における発現および複製が可能な生物学的に機能的なウイルスベクターおよびプラスミドDNAベクターは、当技術分野において公知であり、任意の関心対象の細胞をトランスフェクトするために使用され得る。細胞が哺乳動物細胞である場合、遺伝子変化は、一般に、細胞ゲノムへのDNAの導入(即ち、安定的)、またはエピソームとしてのDNAの導入により達成される。従って、宿主細胞は、Zscan4ポリペプチドを作製するために使用され得る。または、発現ベクターは、幹細胞のような関心対象の宿主細胞を形質転換するために使用され得る。
【0107】
「トランスフェクトされた細胞」とは、Zscan4をコードするDNA分子が、組み換えDNA技術によって導入されている細胞(またはその子孫細胞)である。組換えDNAによる宿主細胞のトランスフェクションは、当技術分野において周知であるような従来の技術により実施され得る。宿主が大腸菌のような原核生物である場合には、DNA取り込みの可能なコンピテント細菌が、指数増殖期の後に採集された細胞から調製され、続いて当技術分野において周知の手法を使用したCaCl2法により処理され得る。または、MgCl2またはRbClが使用されてもよい。所望により、宿主細胞のプロトプラストを形成した後、または電気穿孔によって、形質転換が実施されてもよい。
【0108】
宿主が幹細胞のような真核生物である場合、リン酸カルシウム共沈殿、微量注入のような従来の機械的手法、電気穿孔、リポソームに包まれたプラスミドの挿入、またはウイルスベクターのようなDNAのトランスフェクションの方法が使用され得る。真核細胞は、Zscan4をコードするDNA配列と、ネオマイシン耐性のような選択可能な表現型をコードする第二の外来DNA分子とで共形質転換されてもよい。もう一つの方法は、真核細胞を一過性に感染または形質転換し、タンパク質を発現させるために、シミアンウイルス40(SV40)またはウシパピローマウイルスのような真核生物ウイルスベクターを使用することである(例えば、Eukaryotic Viral Vectors, Cold Spring Harbor Laboratory, Gluzman ed., 1982を参照のこと)。ウイルスベクターのその他の非限定的な具体例には、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、および仮性狂犬病ベクターが含まれる。
【0109】
本明細書に開示された方法を使用して、インビボまたはインビトロのいずれかで、細胞の分化を誘導し、または増殖を減少させることが可能である。一つの態様において、細胞は、以下に限定はされないが、胚性幹細胞、生殖系列幹細胞、または多分化能性成体前駆細胞のような幹細胞である。いくつかの例において、Zscan4ポリペプチド、またはZscan4ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、分化を減少させ、かつ/または増殖を増加させるために幹細胞へ導入される。
【0110】
一例において、細胞は胚性幹細胞のような幹細胞である。例えば、マウス、霊長類、またはヒトの細胞が利用され得る。ES細胞は、未分化状態で無限に増殖することができる。さらに、ES細胞は全能性細胞である。即ち、それらは、体内に存在するあらゆる細胞(骨細胞、筋細胞、脳細胞等)を発生させることができる。ES細胞は、発生中のマウス胚盤胞の内部細胞塊(ICM)から単離されている(Evans et al., Nature 292:154-156, 1981;Martin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 78:7634-7636, 1981;Robertson et al, Nature 323:445-448, 1986)。さらに、ES特性を有するヒト細胞が、内部胚盤胞細胞塊(Thomson et al., Science 282:1145-1147, 1998)および発生中の生殖細胞(Shamblott et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726-13731, 1998)から単離され、ヒトおよび非ヒト霊長類の胚性幹細胞が作製されている(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,200,806号を参照のこと)。
【0111】
米国特許第6,200,806号に開示されるように、ES細胞は、ヒトおよび非ヒト霊長類から作製され得る。一つの態様において、霊長類ES細胞はSSEA-3;SSEA-4、TRA-1-60、およびTRA-1-81を発現する単離された「ES培地」である(米国特許第6,200,806号を参照のこと)。ES培地は、20%ウシ胎仔血清(FBS;Hyclone)、0.1mM β-メルカプトエタノール(Sigma)、1%非必須アミノ酸ストック(Gibco BRL)を含む、80%ダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM;ピルビン酸不含高グルコース製剤、Gibco BRL)からなる。一般に、霊長類ES細胞は、ES細胞培地の存在下でマウス胚性繊維芽細胞のコンフルエントな層の上に単離される。一例において、胚性繊維芽細胞は、(SASCOより入手可能なCF1のような)非近交系マウスに由来する12日齢胎仔から入手されるが、その他の株が代用されてもよい。0.1%ゼラチン(I型;Sigma)により処理された組織培養ディッシュが利用され得る。成体に存在するコミットされた「多分化能性」幹細胞と比較して、ES細胞を区別する特色には、培養物中で未分化状態を無限に維持するES細胞の能力、およびES細胞が有する全ての異なる細胞型へと発達する潜在能力が含まれる。マウスES細胞とは異なり、ヒトES(hES)細胞は、期特異的な胚性抗原SSEA-1を発現せず、特異的なモノクローナル抗体により認識されるもう一つの糖脂質細胞表面抗原であるSSEA-4を発現する(例えば、Amit et al., Devel. Biol. 227:271-278, 2000を参照のこと)。
【0112】
アカゲザル胚の場合、正常な卵巣周期を示す成体雌アカゲザル(4歳超)を、月経出血の証拠について毎日観察する(周期1日目=月経開始日)。月経周期8日目から開始する卵胞期の間、毎日、血液試料を採取し、黄体形成ホルモンの血清濃度をラジオイムノアッセイにより決定する。月経周期9日目から黄体形成ホルモンサージの48時間後まで、雌を、立証された繁殖能を有する雄アカゲザルと対にし;黄体形成ホルモンサージの翌日に排卵を採取する。排卵後6日目、拡大した胚盤胞を、非外科的子宮フラッシングにより収集する。この手法は、一般に、1ヶ月にアカゲザル1匹につき平均0.4〜0.6個の生存可能な胚の回収をもたらす(Seshagiri et al., Am J Primatol 29:81-91, 1993)。
【0113】
マーモセット胚の場合、規則的な卵巣周期を示す成体雌マーモセット(2歳超)を、繁殖性の雄および最大5匹の子孫を含む家族内で維持する。黄体期の中期から後期の間、0.75gのプロスタグランジンPGF2aアナログクロプロステノール(Estrumate, Mobay Corp, Shawnee, KS)を筋肉注入することにより、卵巣周期を制御する。0日目(クロプロステノール注入直前)、3日目、7日目、9日目、11日目、および13日目に血液試料を採取する。血漿プロゲステロン濃度をELISAにより決定する。血漿プロゲステロン濃度が10ng/ml以上になる前日を排卵日とする。排卵後8日目、拡大した胚盤胞を、非外科的子宮フラッシュ法(Thomson et al., J Med Primatol. 23:333-336, 1994)により回収する。この手法は、1ヶ月にマーモセット1匹につき平均1.0個の生存可能な胚の作製をもたらす。
【0114】
プロナーゼ(Sigma)への短時間の曝露等により、透明帯を胚盤胞から除去する。免疫手術(immunosurgery)のため、胚盤胞を、30分間、DMEM中の50倍希釈のウサギ抗マーモセット脾臓細胞抗血清(マーモセット胚盤胞のため)または50倍希釈のウサギ抗アカゲザル(アカゲザル胚盤胞のため)に曝し、次いで、DMEMで5分間3回洗浄し、次いで5倍希釈のモルモット補体(Gibco)に3分間曝す。DMEMでさらに2回洗浄した後、穏和なピペッティングにより、完全な内部細胞塊(ICM)から、溶解した栄養外胚葉細胞を除去し、ICMをマウス不活性化(3000ラドのガンマ照射)胚性繊維芽細胞に播種する。
【0115】
7〜21日後、立体顕微鏡下で直接観察しながら、マイクロピペットにより、ICMに由来する塊を内胚葉アウトグロースから除去し、3〜5分間、1%ニワトリ血清が補足された0.05%トリプシン-EDTA(Gibco)に曝し、火炎研磨されたマイクロピペットによる穏和なピペッティングにより穏和に分離させる。
【0116】
分離した細胞を、新鮮なES培地中の胚フィーダー層上に再び播き、コロニー形成について観察する。ES様の形態を示すコロニーを個別に選択し、上記のようにして再分割する。ES様の形態とは、高い核・細胞質比および大きな核小体を有する緻密なコロニーと定義される。次いで、得られたES細胞を、その培養物が密になる1〜2週毎に短時間のトリプシン処理またはダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(カルシウムまたはマグネシウム不含および2mM EDTA含有のPBS)への曝露により定期的に分割する。初期継代細胞も凍結し液体窒素中に保管する。
【0117】
細胞系は、(ルーチンの核型分析サービスを提供するCytogenetics Laboratory of the University of Wisconsin State Hygiene Laboratoryによるもののような)標準的なGバンディング(G-banding)技術により核型分析され、霊長類種の公開された核型と比較され得る。
【0118】
その他の霊長類種からのES細胞系の単離は、類似の手法に従うであろう。ただし、胚盤胞への発達の速度は、種間で数日変動する場合があり、培養ICMの発達の速度が種間で変動するであろう。例えば、排卵の6日後、アカゲザル胚は拡大胚盤胞期にあるが、マーモセット胚は排卵の7〜8日後まで同期に達しない。アカゲザルES細胞系は、免疫手術の7〜16日後に初めてICM由来細胞を分割することにより入手され得るが;マーモセットES細胞は免疫手術の7〜10日後の初回分割により導出された。その他の霊長類も発達速度が異なっているため、胚収集のタイミングおよび初回ICM分割のタイミングは、霊長類種間で変動するが、同一の技術および培養条件が、ES細胞単離を可能にするであろう(霊長類ES細胞についての完全な考察およびそれらの作製については、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,200,806号を参照のこと)。
【0119】
ヒトES細胞系は存在しており、本明細書に開示された方法において使用され得る。ヒトES細胞も、体外受精(IVF)胚に由来する着床前胚から導出され得る。未使用のヒトIVFにより作製された胚に対する実験は、胚が14日齢未満であれば、シンガポールおよび英国のような多くの国々で許可されている。高品質の胚のみがES単離に適している。1細胞ヒト胚を拡大胚盤胞へと培養するための現在の規定培養条件は、記載されている(Bongso et al., Hum Reprod. 4:706-713, 1989を参照のこと)。ヒト胚をヒト卵管細胞と共培養することは、高い胚盤胞品質の作製をもたらす。細胞共培養物または改良された規定培地において成長したIVF由来拡大ヒト胚盤胞は、非ヒト霊長類に関して上に記載された同一の手法によりヒトES細胞の単離を可能にする(米国特許第6,200,806号を参照のこと)。
【0120】
前駆細胞も、本明細書に開示された方法により利用され得る。前駆細胞は、当業者に公知の方法を使用して、多様な起源から単離され得る。前駆細胞は、外胚葉、中胚葉、または内胚葉の起源であり得る。インビトロで入手され維持され得る任意の前駆細胞が、本発明の方法に従って使用される可能性を有する。そのような細胞には、皮膚および消化管の裏打ちのような上皮組織の細胞、胚性心筋細胞、ならびに神経前駆細胞が含まれる(Stemple and Anderson, 1992, Cell 71 :973-985)。
【0121】
一例において、細胞は間葉系前駆細胞である。間葉系前駆細胞は、極めて多数の別個の組織を生じる(Caplan, J. Orth. Res 641-650, 1991)。骨および軟骨に分化することができる間葉細胞も、骨髄から単離されている(Caplan, J. Orth. Res. 641-650, 1991)。米国特許第5,226,914号は、骨髄から間葉系幹細胞を単離するための例示的な方法を記載している。
【0122】
その他の例において、細胞は上皮前駆細胞であるか、または公知の手法(Rheinwald, Meth. Cell Bio. 21A:229, 1980)により、ケラチノサイトが、皮膚および消化管の裏打ちのような組織から入手されてもよい。皮膚のような重層上皮組織においては、基底板に最も近い層、胚層内の前駆細胞の有糸分裂により再生が起こる。消化管の裏打ち内の前駆細胞は、この組織の迅速な再生速度を提供する。細胞は、肝臓幹細胞(PCT公開WO94/08598を参照のこと)または腎臓幹細胞(Karp et al., Dev. Biol. 91:5286-5290, 1994を参照のこと)であってもよい。
【0123】
一つの非限定的な例において、ニューロン前駆細胞が利用される。未分化神経幹細胞は、ニューロンおよび膠細胞を生じる神経芽細胞およびグリオブラスト(glioblasts)に分化する。発達の間に、神経管に由来する細胞は、CNSのニューロンおよび神経膠を生じる。神経増殖因子(NGF)のような発達の間に存在するある種の因子は、神経細胞の成長を促進する。神経幹細胞および前駆細胞を単離し培養する方法は、当業者に周知である(Hazel and Muller, 1997;米国特許第5,750,376号)。ニューロン前駆細胞を単離し培養する方法は、例えば、米国特許第6,610,540号に開示されている。
【0124】
V. Zscan4プロモーターおよびTrim43プロモーターの配列
Zscan4プロモーターまたはTrim43プロモーターは、異種核酸配列の発現を指図するために発現ベクターに含まれ得る。適当なエンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質をコードする遺伝子の前の開始コドン(即ち、ATG)、イントロンのためのスプライシングシグナル、mRNAの適切な翻訳を許容するその遺伝子の正確なリーディングフレームの維持、および終止コドンを含むその他の発現制御配列が、Zscan4プロモーターまたはTrim43プロモーターと共に、発現ベクターに含まれ得る。一般に、プロモーターは、異種核酸配列の転写を指図するのに十分な最小配列を少なくとも含む。いくつかの例において、異種核酸配列はポリペプチドをコードする。しかしながら、異種核酸は、阻害性RNAのような任意の関心対象のRNA配列であり得る。
【0125】
発現ベクターは、典型的には、複製起点を含有し、形質転換細胞の表現型選択を可能にする特別の遺伝子も含有している。使用に適しているベクターには、哺乳動物細胞における発現のためのpMSXND発現ベクター(Lee and Nathans, J. Biol. Chem. 263:3521, 1988)が含まれるが、これに限定はされない。一例において、エンハンサーは、Zscan4プロモーターまたはTrim43プロモーターの上流に位置するが、エンハンサー要素は、一般に、ベクター上のいかなる場所に位置付けられても増強効果を有することができる。しかしながら、増加した活性の量は、一般に、距離と共に縮小するであろう。さらに、プロモーター活性のさらに大きな増加を生じるため、2コピー以上のエンハンサー配列を順に機能的に連結することが可能である。
【0126】
一般に、発現ベクターは、関心対象のポリペプチドをコードする核酸配列を含む。関心対象のポリペプチドは、トランスフェクトされた細胞の機能に影響を与えるポリペプチドのような異種ポリペプチドであり得る。関心対象のポリペプチドには、抗生物質耐性を付与するポリペプチド、受容体、癌遺伝子、および神経伝達物質が含まれるが、これらに限定はされない。関心対象のポリペプチドは、関心対象の細胞を同定するために使用されるマーカーポリペプチドであってもよい。マーカーポリペプチドには、従来の分子生物学手法を使用して同定され得る、蛍光性ポリペプチド、酵素、または抗原が含まれる。例えば、ポリペプチドは、(緑色蛍光タンパク質、Emerald(Invitrogen, Carlsbad, CA)、Strawberry(Clontech, Mountain View, CA)、オワンクラゲ(Aequoria victoria)、もしくはディスコソマ(Discosoma)DSRedのような)蛍光性マーカー;(ヒト成長ホルモン、ヒトインスリン、ヒトHLA抗原のような)抗原性マーカー;(CD4もしくは任意の細胞表面受容体のような)細胞表面マーカー;または(lacZ、アルカリホスファターゼのような)酵素マーカーであり得る。宿主細胞におけるこれらのマーカーを同定するための技術は、免疫組織化学および蛍光顕微鏡検を含み、当技術分野において周知である。
【0127】
発現ベクターから転写されたRNA分子は、必ずしも、機能的活性を発現するためにポリペプチドに翻訳される必要はない。その他の関心対象の分子の非限定的な具体例には、関心対照のRNAに相補的なアンチセンスRNA分子、リボザイム、低分子阻害性RNA、および天然に存在するtRNAまたは修飾されたtRNAが含まれる。
【0128】
Zscan4プロモーターまたはTrim43プロモーターを含む発現ベクターは、宿主細胞を形質転換するために使用され得る。宿主には、単離された微生物、酵母、昆虫、および哺乳動物の細胞が含まれ、生物体内に位置している細胞も含まれる。宿主における発現および複製が可能な生物学的に機能的なウイルスベクターおよびプラスミドDNAベクターは、当技術分野において公知であり、任意の関心対象の細胞をトランスフェクトするために使用され得る。細胞が哺乳動物細胞である場合、遺伝子変化は、一般に、細胞ゲノムへのDNAの導入(安定的組み込み)により達成される。しかしながら、ベクターは、エピソームとして維持されてもよい。
【0129】
「トランスフェクトされた細胞」とは、Zscan4プロモーター要素を含むDNA分子が、組み換えDNA技術によって導入されている細胞(またはその子孫細胞)である。組換えDNAによる宿主細胞のトランスフェクションは、当技術分野において周知であるような従来の技術により実施され得る。宿主が大腸菌のような原核生物である場合には、DNA取り込みの可能なコンピテント細菌が、指数増殖期の後に採集された細胞から調製され、続いて当技術分野において周知の手法を使用してCaCl2法により処理され得る。または、MgCl2またはRbClが使用されてもよい。所望により、宿主細胞のプロトプラストを形成した後、または電気穿孔によって、形質転換が実施されてもよい。
【0130】
宿主が真核生物である場合、リン酸カルシウム共沈殿、微量注入のような従来の機械的手法、電気穿孔、リポソームに包まれたプラスミドの挿入、またはウイルスベクターのような、DNAのトランスフェクションの方法が使用され得る。真核細胞は、Zscan4プロモーターを含むDNA配列と、ネオマイシン耐性のような選択可能な表現型をコードする第二の外来DNA分子とで共形質転換されてもよい。もう一つの方法は、真核細胞を一過性に感染または形質転換し、タンパク質を発現させるために、シミアンウイルス40(SV40)またはウシパピローマウイルスのような真核生物ウイルスベクターを使用することである(例えば、Eukaryotic Viral Vectors, Cold Spring Harbor Laboratory, Gluzman ed., 1982を参照のこと)。ウイルスベクターのその他の非限定的な具体例には、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、および仮性狂犬病ベクターが含まれる。
【0131】
下記実施例に記載された一つの態様において、異種ポリペプチドに機能的に連結されたZsan4プロモーター配列を含む発現ベクターは、Zscan4を発現する細胞を同定するために使用される。一つの態様において、Zscan4プロモーターはZscan4cプロモーターである。いくつかの態様において、Zscan4cプロモーターは、Zsan4cのエキソンおよび/またはイントロン配列を含む。異種タンパク質は、典型的には、マーカー、酵素、または蛍光性タンパク質である。一つの態様において、異種タンパク質は、緑色蛍光タンパク質(GFP)、またはEmeraldのようなGFPのバリアントである。
【0132】
Zscan4を発現する幹細胞の亜集団を同定する方法が本明細書に提供される。一つの態様において、亜集団は、Zscan4プロモーター配列およびレポーター遺伝子を含む発現ベクターにより幹細胞をトランスフェクトすることにより同定される。一つの態様において、Zscan4プロモーターはZscan4cプロモーターである。もう一つの態様において、Zscan4cプロモーターは、SEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2643、1〜3250、または1〜3347のようなSEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2540として示された核酸配列を含む。
【0133】
レポーター遺伝子は、酵素または蛍光性タンパク質のような任意の型の同定可能マーカーであり得る。一つの態様において、レポーター遺伝子は、GFP、またはEmeraldのようなGFPのバリアントである。レポーター遺伝子の発現は、細胞がZscan4を発現することを示す。レポーター遺伝子の発現を検出する方法は、レポーター遺伝子の型に依って変動し、当技術分野において周知である。例えば、蛍光性レポーターが使用される場合、発現の検出は、蛍光標示式細胞分取または蛍光顕微鏡検により達成され得る。Zscan4を発現する幹細胞の亜集団の同定は、Zscan4に対して特異的な抗体の使用またはインサイチューハイブリダイゼーションを含むが、これらに限定はされない、別の方法によっても達成され得る。一つの態様において、Zscan4を発現するES細胞の亜集団は、AF067063、Tcstv1/Tcstv3、Tho4、アルギナーゼII、BC061212およびGm428、Eif1a、EG668777およびPif1を含む一つまたは複数のZscan4共発現遺伝子の発現を検出することにより同定される。
【0134】
また、異種ポリペプチドに機能的に連結されたTrim43プロモーター配列を含む発現ベクターも、本明細書に記載される。異種タンパク質は、典型的には、マーカー、酵素、または蛍光性タンパク質である。一つの態様において、異種タンパク質は蛍光性タンパク質Strawberryである。いくつかの態様において、Trim43プロモーター配列は、SEQ ID NO:31と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%同一である。もう一つの態様において、Trim43プロモーターはSEQ ID NO:31を含む。もう一つの態様において、Trim43プロモーターはSEQ ID NO:31からなる。
【0135】
また、本明細書に記載されたZscan4発現ベクターまたはTrim43発現ベクターを含む単離されたES細胞が、本明細書に提供される。一つの態様において、ES細胞は安定的な細胞系である。
【0136】
VI. トランスジェニック動物
本明細書に開示されたZscan4ポリヌクレオチド配列は、下記のように、トランスジェニックマウスのようなトランスジェニック動物の作製においても使用され得る。AF067063、Tcstv1/Tcstv3、Tho4、アルギナーゼII、BC061212およびGm428、Eif1a、EG668777およびPif1を含む、一つまたは複数のZscan4共発現遺伝子のポリヌクレオチド配列を含有しているトランスジェニック動物も作製され得る。
【0137】
一つの態様において、プロモーターに機能的に連結されたZscan4をコードする核酸を含むトランスジーンを保持している非ヒト動物が作成される。有用な特定のプロモーターには、免疫グロブリンプロモーター、ニューロン特異的プロモーター、またはインスリンプロモーターのような組織特異的プロモーターが含まれるが、これらに限定はされない。有用な特定のプロモーターには、以下に限定はされないが、とりわけ、チミジンキナーゼプロモーターまたはヒトβ-グロビンミニマルまたはアクチンプロモーターのような構成性プロモーターが含まれる。Zscan4プロモーターも使用され得る。
【0138】
もう一つの態様において、トランスジェニック非ヒト動物は、Zscan4プロモーターに機能的に連結された、マーカー、酵素、または蛍光性タンパク質のような異種ペプチドをコードする核酸を含むトランスジーンを保持している。一例において、Zscan4プロモーターはZscan4cプロモーターまたはその一部である。もう一つの態様において、Zscan4cプロモーターは、SEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2643、1〜3250、または1〜3347のようなSEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2540として示された核酸配列を含む。一例において、異種ペプチドは蛍光性タンパク質Emeraldである。
【0139】
もう一つの態様において、トランスジェニック非ヒト動物は、Trim43プロモーターに機能的に連結された、マーカー、酵素、または蛍光性タンパク質のような異種ペプチドをコードする核酸を含むトランスジーンを保持している。一例において、Trim43プロモーターは、SEQ ID NO:31のヌクレオチド配列またはその一部を含む。発現ベクターに含まれるSEQ ID NO :31の一部は、Trim43が発現される細胞における異種ポリペプチドの転写を促進することができるSEQ ID NO:31の少なくとも一部である。いくつかの態様において、Trim43プロモーター配列は、SEQ ID NO:31と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%同一である。もう一つの態様において、Trim43プロモーターはSEQ ID NO:31を含む。もう一つの態様において、Trim43プロモーターはSEQ ID NO:31からなる。一例において、異種ペプチドは蛍光性タンパク質Strawberryである。
【0140】
もう一つの態様において、トランスジェニック非ヒト動物は、上記のような二つのトランスジーン、異種ペプチドをコードする核酸配列に連結されたZscan4プロモーターを含むトランスジーンと、異種ペプチドをコードする核酸配列に連結されたTrim43プロモーターを含むトランスジーンとを保持している。いくつかの場合において、トランスジェニック非ヒト動物は、Zscan4プロモータートランスジーンおよびTrim43プロモータートランスジーンを含むマウスである。一つの具体例において、Zscan4プロモーター配列に機能的に連結された異種ポリペプチドは蛍光性タンパク質Emeraldであり、Trim43プロモーター配列に機能的に連結された異種ポリペプチドは蛍光性タンパク質Strawberryである。このマウスは「レインボー」マウスと呼ばれる(下記実施例10を参照のこと)。
【0141】
トランスジェニック「レインボー」動物から入手された胚は、後期2細胞期に緑色を示し、4細胞期から桑実胚期には赤色を示す(発現は桑実胚期に最も強くなる)。適切なタイミングおよび強度でのこれらの色の発現は、正確な遺伝子プログラムの進行を示し、従って、着床前胚の適切な発達の指標として使用され得る。これらの胚は、体外受精(IVF)のためのヒト胚の最適化された培養培地の開発;IVFの臨床施設および研究施設における技術者および医師のトレーニング;化合物および薬物の胚毒性についての試験;ならびに核移植/クローニング手法の成功した核再プログラム化の指標としての用途を含むが、これらに限定はされない、多様な用途を有する。
【0142】
次いで、本明細書に記載された核酸配列は、従来の方法により、例えば、細菌ベクターでの調製により、産物を作製するためにベクターへ導入され得、次いで、それが増幅される(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning:a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, 1989を参照のこと)。その後、増幅された構築物は、ベクターから切除され、トランスジェニック動物の作製において使用するために精製される。
【0143】
非ヒト動物である限り、任意のトランスジェニック動物が、本明細書に開示された方法において有用である。「非ヒト動物」には、非ヒト霊長類、ブタ、ウシ、および家禽のような家畜、イヌ、ネコ、ウマ、ハムスター、げっ歯動物のような競技動物もしくはペット、またはライオン、トラ、もしくはクマのような動物園動物が含まれるが、これらに限定はされない。一つの非限定的な具体例において、非ヒト動物は、以下に限定はされないが、トランスジェニックのマウス、ウシ、ヒツジ、またはヤギのようなトランスジェニック動物である。一つの非限定的な具体例において、トランスジェニック動物はマウスである。特定の例において、トランスジェニック動物は、同一種の非トランスジェニック対照(野生型)動物と比較して、ある細胞型の改変された増殖および/または分化を有する。
【0144】
トランスジェニック動物は、組換えDNAが動物の細胞に含まれるよう、組換えウイルスの微量注入または感染等による細胞内レベルでの計画的な遺伝子操作により、直接または間接的に受容された遺伝子情報を保持している細胞を含有している。この分子は、動物の染色体の内部に組み込まれていてもよいし、または染色体外で複製するDNA配列として含まれていてもよく、例えば、酵母人工染色体へと工作され得る。トランスジェニック動物は、遺伝子情報が取り上げられ、生殖系列細胞に組み入れられており、従って、子孫へ情報を伝達する能力を付与するような「生殖細胞系」トランスジェニック動物であり得る。そのような子孫が、実際に、その情報の一部または全部を保有しているのであれば、それらもトランスジェニック動物である。
【0145】
トランスジェニック動物は、当業者によって容易に作製され得る。例えば、トランスジェニック動物は、ポリヌクレオチドが、成熟動物の生殖系列細胞のDNAへ安定的に組み込まれ、正常なメンデルの方式に従い遺伝されるような様式で、マーカーをコードするDNAを単細胞胚へ導入することにより作製され得る。胚顕微操作の技術の進歩は、哺乳動物受精卵への異種DNAの導入を許容する。例えば、全能性または多能性の幹細胞が、微量注入、リン酸カルシウム媒介沈殿、リポソーム融合、レトロウイルス感染、またはその他の手段により形質転換され得る。次いで、形質転換細胞が胚へ導入され、次いで、胚がトランスジェニック動物へと発達する。一つの非限定的な方法において、発達中の胚が、所望のDNAを含有しているレトロウイルスにより感染され、感染胚からトランスジェニック動物が作製される。
【0146】
もう一つの非限定的な具体例において、適当なDNAが、好ましくは単細胞期に、胚の精核または細胞質に注入され、その胚が成熟トランスジェニック動物へと発達させられる。これらの技術は周知である。例えば、哺乳動物(マウス、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ウシ)受精卵への異種DNAの微量注入の標準的な実験法の概説には、以下のものが含まれる:Hogan et al., Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Press, 1986;Krimpenfort et al., Bio/Technology 9:86, 1991;Palmiter et al., Cell 41 :343, 1985;Kraemer et al., Genetic Manipulation of the Early Mammalian Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1985;Hammer et al., Nature 315:680, 1985;Purcel et al., Science 244:1281, 1986;米国特許第5,175,385号;米国特許第5,175,384号。
【0147】
VII. 抗体
Zscan4ポリペプチドまたはその断片もしくは保存的バリアントは、Zscan4のエピトープと免疫反応性であるか、またはZscan4のエピトープに特異的に結合する抗体を作製するために使用され得る。ポリクローナル抗体、異なるエピトープ特異性を有するプールされたモノクローナル抗体から本質的になる抗体、別個のモノクローナル抗体調製物が含まれる。一つの態様において、Zscan4抗体は、Zscan4a、Zscan4b、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4e、Zscan4f、およびヒトZSCAN4を含む、全てのZscan4タンパク質を認識する。もう一つの態様において、抗体はただ一つのZscan4タンパク質を特異的に認識する。本明細書において使用されるように、特異的に特定のZscan4タンパク質に対する抗体の能力とは、抗体が、あるZscan4タンパク質の発現を検出し、その他のZscan4タンパク質は検出しないことを意味する。別の態様において、抗体は、二つ以上の異なるZscan4タンパク質を認識する。例えば、Zscan4抗体は、SCANドメインを含むZscan4タンパク質(例えば、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4f)のみを認識するかもしれない。または、Zscan4抗体は、ジンクフィンガードメインを含むが、SCANドメインを欠くZscan4タンパク質(例えば、Zscan4a、Zscan4b、Zscan4e)のみを認識するかもしれない。
【0148】
Zscan4共発現遺伝子として本明細書において同定された遺伝子によりコードされた一つまたは複数のタンパク質に対する抗体も、産生され得る。従って、いくつかの態様において、AF067063、Tcstv1/Tcstv3、Tho4、アルギナーゼII、BC061212およびGm428、Eif1a、EG668777もしくはPif1によりコードされたポリペプチド、またはそれらの断片もしくは保存的バリアントが、ポリペプチドのエピトープと免疫反応性であるか、またはポリペプチドのエピトープに特異的に結合する抗体を作製するために使用され得る。
【0149】
さらに、Trim43に特異的に結合する抗体が作成され得る。一つの態様において、Trim43ポリペプチドまたはその断片もしくは保存的バリアントが、Trim43のエピトープと免疫反応性であるか、またはTrim43のエピトープに特異的に結合する抗体を作製するために使用され得る。
【0150】
ポリクローナル抗体の調製は当業者に周知である。例えば、Green et al., 「Production of Polyclonal Antisera,」 in:Immunochemical Protocols, pages 1-5, Manson, ed., Humana Press, 1992;Coligan et al., 「Production of Polyclonal Antisera in Rabbits, Rats, Mice and Hamsters,」 in:Current Protocols in Immunology, section 2.4.1, 1992を参照のこと。
【0151】
モノクローナル抗体の調製も同様に慣例的である。例えば、Kohler & Milstein, Nature 256:495, 1975;Coligan et al., sections 2.5.1-2.6.7;およびHarlow et al. in:Antibodies:a Laboratory Manual, page 726, Cold Spring Harbor Pub., 1988を参照のこと。簡単に説明すると、モノクローナル抗体は、抗原を含む組成物をマウスに注入し、血清試料を取り出すことにより抗体産生の存在を確証し、Bリンパ球を入手するため脾臓を取り出し、ハイブリドーマを作製するためBリンパ球を骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマをクローニングし、抗原に対する抗体を産生する陽性クローンを選択し、そしてハイブリドーマ培養物から抗体を単離することにより入手され得る。モノクローナル抗体は、多様なよく確立されている技術によりハイブリドーマ培養物から単離され精製され得る。そのような単離技術には、プロテインAセファロースを用いたアフィニティクロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、およびイオン交換クロマトグラフィが含まれる。例えば、Coligan et al., sections 2.7.1-2.7.12 and sections 2.9.1-2.9.3;Barnes et al., Purification of Immunoglobulin G (IgG), in:Methods in Molecular Biology, Vol. 10, pages 79-104, Humana Press, 1992を参照のこと。
【0152】
モノクローナル抗体のインビトロおよびインビボの増幅の方法は、当業者に周知である。インビトロ増幅は、ウシ胎仔血清のような哺乳動物血清、または微量元素、および正常マウス腹膜滲出細胞、脾細胞、胸腺細胞、もしくは骨髄マクロファージのような成長を支持する補助因子が任意で補足された、ダルベッコ修飾イーグル培地またはRPMI1640培地のような好適な培養培地において実施され得る。インビトロ作製は、比較的純粋な抗体調製物を提供し、所望の抗体を大量に得るための規模拡大を可能にする。大規模なハイブリドーマ培養は、エアリフトリアクター、連続撹拌リアクター、または固定化もしくは捕捉された細胞培養物における均質懸濁培養により実施され得る。インビボ増幅は、抗体産生腫瘍の成長を引き起こすために、同一遺伝子マウスのような親細胞と組織適合性の哺乳動物に細胞クローンを注入することにより実施され得る。任意で、動物は、炭化水素、特に、プリスタン(テトラメチルペンタデカン)のような油により注入前に初回刺激される。1〜3週間後に、所望のモノクローナル抗体が、動物の体液から回収される。
【0153】
抗体は、類人猿抗体に由来してもよい。ヒヒにおいて治療的に有用な抗体を産生させるための一般的な技術は、例えば、PCT公開WO91/11465(1991年);およびLosman et al., Int. J. Cancer 46:310, 1990に見出され得る。
【0154】
または、Zscan4ポリペプチドに特異的に結合する抗体は、ヒト化モノクローナル抗体に由来してもよい。ヒト化モノクローナル抗体は、マウス免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変部に由来するマウス相補性決定領域をヒト可変ドメインに移し、次いで、マウスカウンターパートのフレームワーク領域内にヒト残基を置換することにより作製される。ヒト化モノクローナル抗体に由来する抗体成分の使用は、マウス定常領域の免疫原性に関連した可能性のある問題を除去する。マウス免疫グロブリン可変ドメインをクローニングするための一般的な技術は、例えば、Orlandi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:3833, 1989により記載されている。ヒト化モノクローナル抗体を作製するための技術は、例えば、Jones et al., Nature 321 :522, 1986;Riechmann et al., Nature 332:323, 1988;Verhoeyen et al., Science 239:1534, 1988;Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89:4285, 1992;Sandhu, Crit. Rev. Biotech. 12:437, 1992;およびSinger et al, J. Immunol. 150:2844, 1993により記載されている。
【0155】
抗体は、コンビナトリアル免疫グロブリンライブラリーから単離されたヒト抗体断片に由来してもよい。例えば、Barbas et al., in:Methods:a Companion to Methods in Enzymology, Vol. 2, page 119, 1991;Winter et al., Ann. Rev. Immunol. 12:433, 1994を参照のこと。ヒト免疫グロブリンファージライブラリーを作製するために有用なクローニングベクターおよび発現ベクターは、例えば、STRATAGENE Cloning Systems(La Jolla, CA)より入手され得る。
【0156】
さらに、抗体は、ヒトモノクローナル抗体に由来してもよい。そのような抗体は、抗原チャレンジに応答して特異的なヒト抗体を産生するよう「工作された」トランスジェニックマウスから入手される。この技術においては、内因性の重鎖および軽鎖の遺伝子座のターゲティングされた破壊を含有している胚性幹細胞系に由来するマウスの系統に、ヒトの重鎖および軽鎖の遺伝子座の要素が導入される。トランスジェニックマウスは、ヒト抗原に特異的なヒト抗体を合成することができ、それらマウスはヒト抗体分泌ハイブリドーマを作製するために使用され得る。トランスジェニックマウスからヒト抗体を入手する方法は、Green et al., Nature Genet. 7:13, 1994;Lonberg et al., Nature 368:856, 1994;およびTaylor et al., Int. Immunol. 6:579, 1994により記載されている。
【0157】
抗体には、完全な分子のみならず、エピトープ決定基に結合することができるFab、F(ab')2、およびFvのようなそれらの断片も含まれる。これらの抗体断片は、それらの抗原または受容体に選択的に結合する能力をある程度保持しており、以下のように定義される:
(1)抗体分子の一価抗原結合断片を含有している断片Fabは、酵素パパインにより完全な抗体を消化して、完全な軽鎖および一つの重鎖の一部を得ることにより作製され得る;
(2)抗体分子の断片Fab'は、ペプシンにより完全な抗体を処理した後、還元して、完全な軽鎖および重鎖の一部を得ることにより入手され得る;抗体1分子当たり2個のFab'断片が入手される;
(3)完全な抗体を酵素ペプシンにより処理し、その後還元せずに入手され得る抗体の断片(Fab')2;F(ab')2は、2個のジスルフィド結合によりつながれた2個のFab'断片からなる二量体である;
(4)二つの鎖として発現された軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含有している遺伝学的に工作された断片として定義されるFv;ならびに
(5)遺伝学的に融合された単鎖分子として、好適なポリペプチドリンカーにより連結された、重鎖の可変領域、軽鎖の可変領域を含有している遺伝学的に工作された分子として定義される単鎖抗体(SCA)。
【0158】
これらの断片を作成する方法は、当技術分野において公知である(例えば、Harlow and Lane, Antibodies:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1988を参照のこと)。エピトープは、抗体のパラトープが結合する抗原上の任意の抗原決定基である。エピトープ決定基は、通常、アミノ酸または糖側鎖のような分子の化学的に活性な表面の基からなり、通常、特別な電荷特徴と共に特別な三次元構造特徴を有する。
【0159】
抗体断片は、抗体のタンパク質加水分解により、または断片をコードするDNAの大腸菌における発現により調製され得る。抗体断片は、従来の方法により、完全な抗体のペプシン消化またはパパイン消化により入手され得る。例えば、抗体断片は、F(ab')2と呼ばれる5S断片を提供するためにペプシンによる抗体の酵素的切断により作製され得る。この断片は、3.5S Fab'一価断片を作製するため、チオール還元剤を使用し、そして任意で、ジスルフィド結合の切断に起因するスルフヒドリル基のための保護基を使用してさらに切断され得る。または、ペプシンを使用した酵素的切断は、2個の一価Fab'断片および1個のFc断片を直接作製する(米国特許第4,036,945号および米国特許第4,331,647号、ならびにそれらの中に含有されている参照;Nisonhoff et al., Arch. Biochem. Biophys. 89:230, 1960;Porter, Biochem. J. 73:119, 1959;Edelman et al., Methods in Enzymology, Vol. 1, page 422, Academic Press, 1967;およびColigan et al. at sections 2.8.1-2.8.10 and 2.10.1-2.10.4を参照のこと)。
【0160】
断片が完全な抗体により認識される抗原に結合する限り、一価の軽-重鎖断片を形成させるための重鎖の分離、断片のさらなる切断、またはその他の酵素的、化学的、もしくは遺伝学的な技術のような、その他の抗体切断法が使用されてもよい。
【0161】
例えば、Fv断片は、VH鎖およびVL鎖の会合を含む。この会合は非共有結合性であり得る(Inbar et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 69:2659, 1972)。または、可変鎖が、分子間ジスルフィド結合によって連結されていてもよいし、またはグルタルアルデヒドのような化学物質により架橋されていてもよい。例えば、Sandhu(前記)を参照のこと。好ましくは、Fv断片は、ペプチドリンカーにより接続されたVH鎖およびVL鎖を含む。これらの単鎖抗原結合タンパク質(sFv)は、オリゴヌクレオチドにより接続されたVHドメインおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することにより調製される。構造遺伝子は発現ベクターに挿入され、続いてそれが、大腸菌のような宿主細胞に導入される。組換え宿主細胞は、リンカーペプチドが2個のVドメインを橋渡している単一のポリペプチド鎖を合成する。sFvを作製する方法は、当技術分野において公知である(Whitlow et al., Methods:a Companion to Methods in Enzymology, Vol. 2, page 97, 1991;Bird et al., Science 242:423, 1988;米国特許第4,946,778号;Pack et al., Bio/Technology 11 :1271, 1993;およびSandhu(前記)を参照のこと)。
【0162】
抗体断片のもう一つの形態は、単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最小認識単位」)は、関心対象の抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することにより入手され得る。そのような遺伝子は、例えば、抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成するためにポリメラーゼ連鎖反応を使用することにより調製される(Larrick et al., Methods:a Companion to Methods in Enzymology, Vol. 2, page 106, 1991)。
【0163】
抗体は、関心対象の完全なポリペプチドまたは小さいペプチドを含有している断片を免疫感作抗原として使用して調製され得る。動物を免疫感作するために使用されるポリペプチドまたはペプチドは、宿主細胞において作製された実質的に精製されたポリペプチド、インビトロで翻訳されたcDNA、または化学合成に由来し得、所望により、担体タンパク質にコンジュゲートされていてもよい。ペプチドに化学的にカップリングされるそのような一般的に使用される担体には、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、チログロブリン、ウシ血清アルブミン(BSA)、および破傷風トキソイドが含まれる。次いで、カップリングされたペプチドが、動物(例えば、マウス、ラット、またはウサギ)を免疫感作するために使用される。
【0164】
ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、例えば、抗体が産生されたポリペプチドまたはペプチドが結合しているマトリックスへの結合、およびそこからの溶出により、さらに精製され得る。当業者は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の精製および/または濃縮のための免疫学分野において一般的な様々な技術を承知しているであろう(例えば、Coligan et al., Unit 9, Current Protocols in Immunology, Wiley Interscience, 1991を参照のこと)。
【0165】
エピトープを模倣するモノクローナル抗体を作製するため抗イディオタイプ技術を使用することも可能である。例えば、第一のモノクローナル抗体に対して作成された抗イディオタイプモノクローナル抗体は、第一のモノクローナル抗体が結合するエピトープの「像」である超可変領域内の結合ドメインを有するであろう。
【0166】
標的抗原に対する結合親和性は、典型的には、競合アッセイ、飽和アッセイ、またはELISAもしくはRIAのようなイムノアッセイのような標準的な抗体抗原アッセイにより、測定または決定される。そのようなアッセイは、抗体の解離定数を決定するために使用され得る。「解離定数」という語句は、抗原に対する抗体の親和性をさす。抗体の解離定数(KD=1/K、ここでKは親和性定数である)が、例えば、<1μM、<100nM、または<0.1nMである場合、抗体と抗原との間には結合の特異性が存在する。抗体分子は、典型的には、より低い範囲のKDを有するであろう。KD=[Ab-Ag]/[Ab][Ag]。ここで、[Ab]は抗体の平衡時濃度であり、[Ag]は抗原の平衡時濃度であり、かつ[Ab-Ag]は抗体抗原複合体の平衡時濃度である。典型的には、抗原と抗体との間の結合相互作用には、静電引力、ファンデルワールス力、および水素結合のような可逆性の非共有結合性の会合が含まれる。
【0167】
エフェクター分子、例えば、治療用、診断用、または検出用のモエティが、当業者に公知の多数の手段を使用して、Zscan4に特異的に結合する抗体に連結され得る。例示的なエフェクター分子には、放射標識、蛍光性マーカー、または毒素(例えば、シュードモナス外毒素(PE)、毒素および接合の考察については、「Monoclonal Antibody-Toxin Conjugates:Aiming the Magic Bullet,」 Thorpe et al., 「Monoclonal Antibodies in Clinical Medicine,」 Academic Press, pp. 168-190, 1982;Waldmann, Science, 252:1657, 1991;米国特許第4,545,985号および米国特許第4,894,443号を参照のこと)が含まれるが、これらに限定はされない。共有結合性および非共有結合性の両方の付着手段が使用され得る。抗体にエフェクター分子を付着させるための手法は、エフェクターの化学構造によって変動する。ポリペプチドは、典型的には、エフェクター分子の結合をもたらす抗体上の好適な官能基との反応のために利用可能である多様な官能基;例えば、カルボン酸(COOH)、遊離アミン(-NH2)、またはスルフヒドリル(-SH)基を含有している。または、抗体は付加的な反応性官能基を露出させるかまたは付着させるために誘導体化される。誘導体化は、Pierce Chemical Company(Rockford, IL)から入手可能なもののような多数のリンカー分子の付着を含み得る。リンカーは、エフェクター分子に抗体を接合するために使用される任意の分子であり得る。リンカーは、抗体およびエフェクター分子の両方と共有結合を形成することができる。好適なリンカーは、当業者に周知であり、直鎖型もしくは分岐型の炭素リンカー、複素環式炭素リンカー、またはペプチドリンカーを含むが、これらに限定はされない。抗体およびエフェクター分子がポリペプチドである場合、リンカーは、それらの側鎖を通して(例えば、システインへのジスルフィド結合を通して)構成アミノ酸に接合されてもよいし、または末端アミノ酸のアルファ炭素のアミノ基およびカルボキシル基に接合されてもよい。
【0168】
いくつかの状況において、イムノコンジュゲートがその標的部位に達した時に、抗体からエフェクター分子を遊離させることが望ましい。従って、これらの状況において、イムノコンジュゲートは、標的部位の近傍で切断可能な結合を含むであろう。抗体からエフェクター分子を放出するリンカーの切断は、標的細胞の内部または標的部位の近傍でイムノコンジュゲートが受ける酵素活性または条件により促され得る。
【0169】
多様な放射診断用化合物、放射治療用化合物、標識(例えば、酵素または蛍光性分子)薬物、毒素、およびその他の薬剤を抗体に付着させるための報告されている多数の方法を考慮すれば、当業者は、抗体またはその他のポリペプチドに所定の薬剤を付着させるための好適な方法を決定することができるであろう。
【0170】
以下の実施例は、ある種の特定の特色および/または態様を例示するために提供される。これらの実施例は、記載された特定の特色または態様に本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
【0171】
実施例
Zscan4の特徴決定が本明細書に開示される。Zscan4は、胚の後期2細胞期に、かつ胚性幹細胞において、一過性および特異的な発現を示すことが本明細書において示される。理論によって拘束はされないが、Zscan4は、デノボ(de novo)転写、接合子ゲノム活性化の第一波の間に排他的に発現される唯一の遺伝子である。
【0172】
Zscan4は、ES細胞由来のcDNAクローン(クローン番号C0348C03)から同定され、続いて、哺乳動物遺伝子収集プロジェクトにより配列決定された(Gerhard et al Genom Res. 14:2121-2127, 2004)。Genbankアクセッション番号BC050218(SEQ ID NO:11)の下で寄託されたcDNA配列は、506アミノ酸のタンパク質をコードする4個のエキソンに組織化された2292bpを含んでいた。下記実施例に記載されるように、このcDNAクローンをプローブとして使用して、高レベルのZscan4転写物が後期2細胞期胚に検出された。最初のcDNAがES細胞から単離されたため、下記実施例に記載されるように、後期2細胞期胚に由来するRNAに対してRT-PCRを実施し、増幅産物を配列決定した。増幅された配列は、2268bp長であり、ES細胞から単離されたcDNAと同様に、506アミノ酸のタンパク質をコードした。ES細胞および後期2細胞胚から単離されたcDNAクローンのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の分析は、それらが二つの異なる類似遺伝子であることを示した。
【0173】
下記実施例に記載されるように、9種のZscan4遺伝子コピーがマウスゲノムにおいて同定された。3種のコピーは、偽遺伝子であり、マウス遺伝子命名法の慣習によりZscan4-ps1(SEQ ID NO:12)、Zscan4-ps2(SEQ ID NO:13)、およびZscan4-ps3(SEQ ID NO:14)と命名された。残りの6種の遺伝子コピーは転写され、ORFをコードし、従って、それらは、Zscan4a(SEQ ID NO:15および16)、Zscan4b(SEQ ID NO:17および18)、Zscan4c(SEQ ID NO:19および20)、Zscan4d(SEQ ID NO:21および22)、Zscan4e(SEQ ID NO:23および24)、ならびにZscan4f(SEQ ID NO:25および26)と命名された。Zscan4c、Zscan4d、およびZscan4fは、506アミノ酸のタンパク質をコードし、Zscan4a、Zscan4b、およびZscan4eは、それぞれ360アミノ酸、195アミノ酸、および195アミノ酸のより短いタンパク質をコードする。SEQ ID NO:16、18、20、22、24、26、または30として示されたアミノ酸配列のいずれかを含むポリペプチド、またはこれらポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、本明細書に開示された方法において有用である。SEQ ID NO:12、13、または14として示されたZscan4偽遺伝子をコードするポリヌクレオチドも、本明細書に開示された方法において有用である。
【0174】
Zscan4の発現レベルの分析は、6種のZscan4遺伝子の各々の発現がES細胞において検出され得、Zscan4cが主要な転写物であることを証明した。Zscan4dは2細胞期胚における主要な転写物であった;しかしながら、低レベルのZscan4a、Zscan4e、およびZscan4fも検出され得た。Zscan4cはES細胞cDNAライブラリーに由来し、Zscan4dは2細胞胚cDNAライブラリーに由来したため、これらの所見は各cDNAクローンの起源と一致している。さらに、Zscan4の発現は、(内部細胞塊を含む)胚盤胞または初期胚盤胞アウトグロースにおいては検出されなかった。およそ6日間のアウトグロースの後、Zscan4発現は未分化ES細胞の亜集団において検出された。
【0175】
Zscan4の発現が時間的に調節されており、異なる胚期における発現または発現の欠如が、適切な発達にとって重大であることが、本明細書において示される。下記実施例に記載されるように、胚におけるZscan4発現の阻害は、2細胞胚から4細胞胚への移行を阻止し、胚盤胞の拡大を防止し、胚盤胞の着床を防止し、胚盤胞アウトグロースからのES細胞の増殖を防止した。
【0176】
Zscan4プロモーターの制御下で異種タンパク質Emeraldを発現するマウスES細胞系の開発も、本明細書に記載される。さらに、2細胞期特異的な発現を示す9種のZscan4共発現遺伝子の同定も記載される。
【0177】
胚の4細胞期から桑実胚期の間に発現を示す(最高発現レベルは桑実胚期に観察される)遺伝子としてのTrim43の同定も、本明細書に示される。二つのトランスジーン(第一のトランスジーンは、Zscan4cプロモーターに機能的に連結されたEmeraldを含み、第二のトランスジーンは、Trim43プロモーターに機能的に連結されたStrawberryを含む)を含むトランスジェニックマウスの開発も、本明細書に記載される。
【0178】
実施例1:材料および方法
マウスZscan4d遺伝子の同定およびクローニング
マウス着床前胚のDNAマイクロアレイデータ(Hamatani et al., Dev. Cell 6:117-131, 2004)を使用して、2細胞胚における特異的な発現についてZscan4d遺伝子を同定した。対応するcDNAクローン(no.C0348C03;R1 ES細胞、129株;Genbankアクセッション番号BC050218、SEQ ID NO:11)が、以前に記載されたマウスcDNAコレクションにおいて同定された(Sharov et al., PLoS Bio. 1:E74, 2003)。この全長cDNA配列に基づき、プライマー対

を設計し、2細胞胚(B6D2F1マウス)からこの遺伝子の全長cDNA配列をPCR増幅するために使用した。簡単に説明すると、mRNAを2細胞胚から抽出し、DNAase(DNA不含、Ambion)により処理した。mRNAをオリゴ-dTプライマーとアニールさせ、ThermoScript Reverse Transcriptase(Invitrogen)を用いてcDNAへと逆転写した。全長cDNAクローンを、Ex Taq Polymerase(Takara Mirus Bio, Madison, WI)を用いてPCR増幅し、Wizard SV GelおよびPCR Clean-Up System(Promega Biosciences, San Luis Obispo, CA)を用いて精製し、Directional TOPO Cloning Kit (Invitrogen)を用いてpENTRプラスミドベクターにクローニングし、ABI 3100 Genetic Analyzer(PE Applied Biosystems)上で、BigDye Terminatorキット(PE Applied Biosystems, Foster City, CA)およびDyeEX 96 Kit(Qiagen Valencia, CA)を使用して完全に配列決定した。配列は、SEQ ID NO:21として本明細書に示される。
【0179】
WU-BLAST(オンラインで利用可能)およびUCSCゲノムブラウザを、ヒトゲノム配列中のZscan4オルソログを入手するために使用した。オープンリーディングフレーム(ORF)を、ORFファインダー(National Center for Biotechnology Informationよりオンラインで利用可能)によって推定し、タンパク質ドメインをPfam HMMデータベース(オンラインで利用可能)によって同定した。配列距離法およびVector NTIソフトウェア(Invitrogen, Carlsbad, CA)を使用したNeighbor Joining(NJ)アルゴリズム(Saitou and Nei, 1987)によって決定されたアミノ酸配列の系統樹を用いて、オルソロガスな関係を査定した。
【0180】
全ての遺伝子名および遺伝子記号が、マウス遺伝子命名法委員会で協議され、承認された。
【0181】
サザンブロット分析
公共データベースからダウンロードされた個々のBACクローン配列(RPCI-23およびRPCI-24 BACライブラリー:C57BL/6J株)を使用して組み立てられたZscan4遺伝子座のゲノム配列をバリデートするため、サザンブロット分析を実施した。エキソン3を含有しているプローブを設計し、プライマー対

を使用して、ES細胞(C57BL/6)から抽出されたマウスDNAから増幅した。GFX PCR DNAおよびゲルバンド精製キット(GE Healthcare)を使用してPCR産物を精製した。ES細胞(C57BL/6株由来のBL6.9系)から抽出された15μgのマウスゲノムDNAを、制限酵素(MspI、TaqI、およびMspI/TaqI、図3Bを参照のこと)により一夜消化し、1%(w/v)アガロースゲル上で分画し、ニトロセルロース膜上に移し、固定化した。ブロットに、標準的な条件の下で、ランダムプライミングされた32P標識DNAプローブをハイブリダイズさせた。膜を、各30分の3回の洗浄(室温にて2×SSC/0.1%(w/v)SDS、42℃にて0.5×SSC/0.1%(w/v)SDS、および室温にて0.1×SSC/0.1%(w/v)SDS)に供し、-80℃で48時間オートラジオグラフィに供した。
【0182】
遺伝子発現レベルの測定
ES細胞(Transgenic Core Laboratory of the Johns Hopkins University School of Medicine(Baltimore, MD)から購入された129.3ES細胞)および2細胞胚(B6D2F1マウス)からcDNAを合成した。Zscan4 cDNA断片を、全てのZscan4パラログと100%マッチするZscan4特異的なプライマー対

を使用して増幅した。これらのcDNA断片を、以下のプライマーを使用して配列決定した:

これらの配列の電気泳動図を、以下のようにして、Zscan4の9種のパラロガスコピーの相対発現レベルを計算するために使用した。(ゲノム配列から予測されたか、またはcDNAクローンを配列決定することにより決定された)転写物の配列情報に基づき、一つまたは少数のパラロガスコピーがヌクレオチドミスマッチに基づき区別され得るヌクレオチド位置を同定した。phredベースコーリングプログラム(バージョン0.020425.c(Ewing et al., Genome Res. 8:175-185, 1998))を使用して、これらのヌクレオチド部位について、電気泳動図中の4個の塩基全ての振幅を入手した。ノイズレベル(即ち、9種のパラロガスコピーのいずれにも存在しない塩基の振幅の平均)を差し引いた後、各塩基(A、T、G、C)の振幅を入手した。全てのミスマッチヌクレオチド位置と最も一致している発現レベルを見出す最小二乗フィッティングによって、パラロガスコピーの各々の発現レベルを計算した。
【0183】
胚の収集および操作
5IU妊娠雌馬血清ゴナドトロピン(PMS;Sigma, St Louis, MO, USA)を注入し、46〜47h後に5IUヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG;Sigma)を注入することにより、4〜6週齢B6D2F1マウスを過排卵させた(National Institute on Aging Animal Care and Use Committeeにより承認されたプロトコル#220MSK-Mi)。未受精卵を、標準的な方法(Nagy et al., 2003, 「Manipulation of the Mouse Embryo, A Laboratory Manual,」 Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)により、HCGの21h後に採集した。ウシ精巣ヒアルロニダーゼ(HY、0.1%(w/v)、300Umg-1)が補足されたM2培地(MR-015-D)におけるインキュベーションによって卵丘細胞を除去した後、未受精卵を充分に洗浄し、良好な形態について選択し、収集した。受精卵(1細胞胚)も、未受精卵と同一の方式で、交尾させた過排卵マウスから採集した。受精卵(1細胞胚)を、5%CO2の雰囲気で、37℃で、カリウム濃縮合成卵管培地(KSOMaa MR-121-D)において培養した。胚移植手法のため、3.5d.p.c.胚盤胞を、2.5d.p.c.偽妊娠ICR雌マウスの子宮に移した。
【0184】
インビトロ胚発生を同期化するため、2個の精核(PN)を有する胚を選択した。これらの1細胞期胚のうちのいくつかが卵割を開始した時、初期2細胞期胚を選択し、もう一つの微小滴培養物へと移した。それらのうちのいくつかが第二卵割を開始するまで、初期2細胞期胚を培養し、未だ2細胞期にある胚を収集した。これらの胚は、後期2細胞期に同期化されていた。
【0185】
以下の手法に従い、DNAを胚に微量注入した。
【0186】
(1)前核注入:pRNAT-U6.1/Neoベクター(GenScript Corp., Scotch Plains, NJ, USA)に、以下の標的配列、shZscan4(gagtgaattgctttgtgtc、SEQ ID NO:9)およびsiControl(ランダム化21量体、agagacatagaatcgcacgca、SEQ ID NO:10)を挿入することにより、マウスZscan4に対するsiRNAを構成性発現するプラスミドベクターを構築した。このベクターは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの下で緑色蛍光タンパク質(GFP)マーカーを含有している。RNA干渉実験のため、1〜2pl(2〜3ng/μl)の直鎖化ベクターDNA(shZscan4またはshControl)を接合子の雄精核に微量注入した。プラスミドpPyCAGIP(Chambers et al., Cell 113:643-655, 2003)にZscan4dのCDSをクローニングすることにより、Zscan4d遺伝子を構成性発現するプラスミドベクターを構築した。過剰発現実験のため、ScaIによって直鎖化された1〜2pl(2〜3ng/l)のプラスミドDNA(Zscan4dが挿入されたpPyCAGIPベクターまたはインサートなしのpPyCAGIPベクター)を接合子の雄精核に微量注入した。
【0187】
(2)細胞質注入:およそ10pl(5ng/μl)のオリゴヌクレオチド(siZscan4、plus-siZscan4、およびsiControl)を接合子の細胞質に微量注入することにより、一過性RNA干渉実験を実施した。siRNAの最適量は、siRNAの異なる濃度(4、20、および100ng/μl)を試験することにより決定された。
【0188】
全てのsiRNAを微量注入緩衝液(Specialty Media)に再懸濁させ希釈した。偽妊娠レシピエントへの培養胚盤胞の移植は、標準的なプロトコル(Nagy et al., 2003, 「Manipulation of the Mouse Embryo, A Laboratory Manual,」 Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)に従って行われた。全ての培地が、Specialty Media(Phillipsburg, NJ)から購入された。
【0189】
ES細胞および胚盤胞アウトグロースの培養
まず、マウスES細胞系(129株に由来し、The Transgenic Core Laboratory of the Johns Hopkins University School of Medicine(Baltimore, MD, USA)から購入された129.3系)を、夾雑フィーダー細胞を除去するために、白血病抑制因子(LIF)の存在下で、ゼラチンコーティングされたペトリ皿で2代にわたり培養した。次いで、細胞を、1〜2×105/ウェル(1〜2×104/cm2)の密度でゼラチンコーティングされた6穴プレートに播種し、完全ES培地(DMEM、15%FBS;1000U/ml ESGRO(mLIF;Chemicon, Temecula, CA);1mMピルビン酸ナトリウム;0.1mM NEAA;2mMグルタミン酸;0.1mMベータメルカプトエタノール、および1ml当たり50U/50μgのペニシリン/ストレプトマイシン)で3日間培養した。
【0190】
アウトグロース実験のため、交尾後3.5日(3.5d.p.c.)の胚盤胞を、5%CO2中で、37℃で、ゼラチン化チャンバースライド上で、15%ウシ胎仔血清、15mM HEPES緩衝液、100単位/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、100μM非必須アミノ酸、4.5mM L-グルタミン、および100μM β-メルカプトエタノールが補足されたDMEM(Gibcoカタログ番号10313-021)中で個々に培養した。
【0191】
ホールマウントインサイチューハイブリダイゼーション(WISH)
プラスミドDNA(クローンC0348C03)をSalI/NotIにより消化し、対照としてジゴキシゲニン標識されたアンチセンスプローブおよびセンスプローブへとインビトロで転写した。若齢(7週齢)B6D2F1/Jマウスから入手された胚を、4%パラホルムアルデヒドで固定し、以前に記載されたプロトコルに従い、ホールマウントインサイチューハイブリダイゼーション(WISH)を実施するために使用した。同プロトコルに従い、培養ES細胞に対してもWISHを実施した(Yoshikawa et al., Gene Expr. Patterns 6:213-224, 2006)。
【0192】
定量的逆転写酵素PCR
定量的逆転写酵素(qRT)-PCR実験のための胚は、前記のようにして収集され、1細胞、初期2細胞胚、後期2細胞胚、4細胞胚、8細胞胚、桑実胚、および胚盤胞胚のため、それぞれhCG後23時間目、43時間目、55時間目、66時間目、80時間目、および102時間目に採集された。10個の同期化された完全な胚の三つのサブセットを、PBT 1×(0.1%トゥイーンX20が補足されたPBS)に移し、液体窒素で保管した。これらの胚のプールを、凍結/解凍によって機械的に破砕し、cDNA調製のためのテンプレートとして直接使用した。各プールからcDNAを合成するため、Ovation系(NuGen technologies, San Carlos, CA, USA)を使用した。次いで、cDNAを、全部で1000μlに25倍希釈し、2μlをqPCRのためのテンプレートとして使用した。qPCRは、以前に記載されたようにして(Falco et al., Reprod. Biomed. Online 13:394-403, 2006)、ABI7900HT Sequence Detection System(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)上で実施され、データは、ΔΔCt方法(Falco et al., Reprod. Biomed. Online 13:394-403, 2006;Livak and Schmittgen, Methods 25:402-408, 2001)により、ChukおよびH2afzによって規準化された。RNA干渉実験に供された胚は、上記のような正常着床前胚と同一の方式で分析された。
【0193】
実施例2:着床前発生中の2細胞特異的遺伝子の同定
受精後、母方に保存されたRNAおよびタンパク質によって支配される母性遺伝子プログラムが、新たに形成された接合子ゲノムからの接合子ゲノム活性化(ZGA)と呼ばれるデノボ転写により支配される胚性遺伝子プログラムに切り替わらなくてはならない(DePamphilis et al., 「Activation of Zygotic Gene Expression」 In Advances in Developmental Biology and Biochemistry, Vol. 12, pp. 56-84, Elsevier Science B.V., 2002;Latham and Schultz, Front Biosci. 6:D748-759, 2001)。ZGAは、動物発生における最初の、かつ最も重大な事象の一つである。初期の報告は、ZGAが1細胞期の間に開始することを確立した(Aoki et al., Dev. Biol. 181:296-307, 1997)(Nothias et al., J. Biol. Chem. 270:22077-22080, 1995;Ram and Schultz, Dev. Biol. 156:552-556, 1993)。しかしながら、DNAマイクロアレイ分析による網羅的な遺伝子発現プロファイリングによって、1細胞期に発現が増加することが同定されたほぼ全ての遺伝子が、RNAポリメラーゼIIを阻止するアルファ-アマニチン処理に対して非感受性であることが最近明らかになった(Hamatani et al, Dev. Cell 6:117-131, 2004;Zeng and Schultz, Dev. Biol. 283:40-57, 2005)。従って、これらの研究は、多くのZGA遺伝子を同定しただけでなく、接合子ゲノムのデノボ転写が、マウス着床前発生の2細胞期の間に開始することも明らかにした(Hamatani et al., Dev. Cell 6:117-131, 2004;Zeng and Schultz, Dev. Biol. 283:40-57, 2005)。さらに、ZGAの主要なバーストが、初期2細胞期ではなく後期2細胞期の間に起こることが示された(Hamatani et al., Dev. Cell 6:117-131, 2004)。
【0194】
2細胞期における発生の抑止が、Mater/Nalp5(Tong et al., Nat. Genet. 26:267-268, 2000)、Mhr6a/Ube2a(Roest et al., Mol. Cell Biol. 24:5485-5495, 2004)、およびBrgl/Smarca4(Bultman et al., Genes Dev. 20:1744-1754, 2006)の機能喪失変異体について報告されている。発生抑止のタイミングは、ZGAのものと一致するが、これらの遺伝子は、卵形成の間に発現され、卵母細胞に保存されるのであって、2細胞期に転写されるのではない。従って、これらの母性効果遺伝子はZGAの研究には適していない。従来、ZGAは、外因性プラスミド由来のレポーター遺伝子(Nothias et al., J. Biol. Chem. 270:22077-22080)、またはHsp70.1(Christians et al., 1995)、eIF-4C(Davis et al., Dev. Biol. 174:190-201, 1996)、Xist(Zuccotti et al., Mol Reprod. Dev. 61 :14-20, 2002)、およびその他の遺伝子(DePamphilis et al., 「Activation of Zygotic Gene Expression」 In Advances in Developmental Biology and Biochemistry, Vol. 12, pp. 56-84, Elsevier Science B. V., 2002)のような、内因性であるが、ある程度遍在性に発現される遺伝子を使用して、研究されてきた。TEAD-2/TEF-4(Kaneko et al., Development 124:1963-1973, 1997)およびPou5f1/Oct4(Palmieri et al., Dev. Biol. 166:259-267, 1994)は、ZGAで選択的に発現される転写因子と見なされているが(DePamphilis et al., 「Activation of Zygotic Gene Expression」 In Advances in Developmental Biology and Biochemistry, Vol. 12, pp. 56-84, Elsevier Science B.V., 2002)、これらの遺伝子は、2細胞胚以外の細胞で発現されることが公知である。従って、個々のZGA遺伝子、特に、2細胞期に排他的に発現される遺伝子を同定し、研究することが、重要である。
【0195】
着床前胚の網羅的遺伝子発現プロファイリングが以前に実施され、2細胞胚における一過性のスパイク様発現を示す遺伝子の群が同定された(Hamatani et al., Dev. Cell 6:117-131, 2004)。公共の発現配列タグ(EST)データベース(NCBI/NIH)でこれらの遺伝子の発現を調査することによって、470万個のマウスESTのうちの29個のcDNAクローンによってのみ表される新規の遺伝子が同定された。これらのcDNAクローンは、ES細胞および着床前胚に由来するcDNAライブラリーから単離された。さらに、以前のDNAマイクロアレイデータは、この遺伝子の発現が、ES細胞には検出されるが、胚性癌腫(EC)細胞(F9およびP19)、栄養膜幹(TS)細胞、または神経幹/前駆(NS)細胞には検出されないことを示した(Aiba et al, Stem Cells 24:889-895, 2006)。
【0196】
ES細胞に由来するcDNAクローンのうちの一つ(クローン番号C0348C03;(Sharov et al., PLoS Biol. 1:E74, 2003))が、Mammalian Gene Collection(MGC)プロジェクトによって完全に配列決定された(Genbankアクセッション番号BC050218;SEQ ID NO:11(Gerhard et al., Genome Res. 14:2121-2127, 2004))。このcDNAクローンをプローブとして使用したホールマウントインサイチューハイブリダイゼーション(WISH)によって、後期2細胞胚において高レベルの転写物が検出された(図1A)。転写物は、未受精卵および3細胞胚を含む他の着床前期の胚には検出されず、このことから、後期2細胞期における遺伝子発現の高い特異性および転写物の比較的短い半減期が示唆された。定量的逆転写酵素PCR(qRT-PCR)分析により、WISH結果が確認された(図1B)。以前のマイクロアレイ分析は、後期2細胞期におけるこの遺伝子の発現が、α-アマニチン(RNA pol IIに基づく転写のブロッカー)で処理された胚で抑制されたことを示し(Hamatani et al., Dev. Cell 6:117-131, 2004)、このことから、この遺伝子がZGAの主要なバーストの間にデノボ転写されることが確認された。一過性の発現パターンは、インビトロ培養胚および新鮮に単離されたインビボ胚の両方で観察された(Hamatani et al., Dev. Cell 6:117-131, 2004)。
【0197】
実施例3:Zscan4パラロガス遺伝子の構造および発現
2292bpの全長cDNA配列(BC050218;SEQ ID NO:11)は、4個のエキソンに組織化され、506アミノ酸のタンパク質をコードしていた(図2A)。このcDNAクローンは、ES細胞から作成されたcDNAライブラリーから単離されたため(Sharov et al., PLoS Biol. 1 :E74, 2003)、後期2細胞期胚から単離されたRNA上でRT-PCRを実施することにより、もう一つのcDNAクローンを単離し、完全に配列決定した(SEQ ID NO:21)。この2268bp cDNAクローンは、506アミノ酸のタンパク質をコードした。DNA配列およびタンパク質配列は、これらの二つのcDNA(SEQ ID NO:11および21)が密接な類似性を有する二つの異なる遺伝子であることを明白に示した。ドメイン予測分析は、それぞれN末端およびC末端にあるSCAN(ロイシンリッチ要素)ドメインおよび4ジンクフィンガードメインを明らかにした(図2B)。SCANドメイン(50%)およびジンクフィンガードメイン(59%)における高度の保存を有する45%のアミノ酸配列類似性を共有している仮説ヒトオルソログ-ジンクフィンガー・SCANドメイン含有4(ZSCAN4)も同定された(図7)。
【0198】
全長cDNA配列(SEQ ID NO:11および21)のマウスゲノム配列(mm7)とのアラインメントは、ヒトZSCAN4のシンテニー領域である第7染色体の近位領域において複数のヒットを明らかにした(図8)。このゲノム領域の一つの注目すべき特色は、極めて類似した配列セグメントの反復であった。Zscan4の各コピーおよび周辺領域の配列は相互に極めて類似しており、そのため、この領域の組み立てられたゲノム配列は、他の領域のものより不正確であった。この領域のゲノム構造をよりよく理解するため、個々のBACクローン配列を、この領域から、およそ850kbのゲノム配列コンティグへと手動で再組立てした(図3A)。各コピーを区別するハイブリダイゼーションプローブまたはオリゴヌクレオチドを見出すのが困難であったため、遺伝子コピー間の小さな配列差違を区別することができる制限酵素を使用した。C57BL/6JマウスゲノムDNAを、TaqI単独、MspI単独、またはTaqI/MspIで消化することにより、サザンブロット分析を実施した(図3BおよびC)。検出されたDNA断片は、全て、組み立てられたゲノム配列で予測された9種のパラロガスZscan4遺伝子を確認した。
【0199】
次いで、全長cDNA配列(BC050218;SEQ ID NO:11)を、組み立てられたゲノム配列と整列化したところ、9種の遺伝子コピーが見出され、それらは全て、マルチエキソン遺伝子組織を有していた(図2、3A)。3種の遺伝子コピーは、利用可能なEST情報およびRT-PCR産物の配列決定分析に基づき、転写される証拠が見出されなかったため、明らかに偽遺伝子であった。従って、それら遺伝子を、マウス遺伝子命名法の慣習により、Zscan4-ps1(SEQ ID NO:12)、Zscan4-ps2(SEQ ID NO:13)、およびZscan4-ps3(SEQ ID NO:14)と命名した。残りの6種の遺伝子コピーは、転写され、ORFをコードしたため、Zscan4a(SEQ ID NO:15)、Zscan4b(SEQ ID NO:17)、Zscan4c(SEQ ID NO:19)、Zscan4d(SEQ ID NO:21)、Zscan4e(SEQ ID NO:23)、およびZscan4f(SEQ ID NO:25)と命名された。これらの遺伝子のうち3種、Zscan4a、Zscan4b、およびZscan4eは、SCANドメインを含んでいるが、4ジンクフィンガードメインは含んでいない、それぞれ、360、195、および195アミノ酸のORFをコードした(図2B)。
【0200】
残りの3種の遺伝子、Zscan4c、Zscan4d、およびZscan4fは、全長ORF(506アミノ酸)をコードした。これらの遺伝子の主な特色は、図3Aに要約される。Zscan4cは、ES細胞から単離されたcDNAクローン(C0348C03;Genbankアクセッション番号BC050218;Gm397;SEQ ID NO:11)に相当する。Zscan4dは、2細胞胚から単離されたcDNAクローン(SEQ ID NO:21)に相当する。Zscan4fは、ゲノム配列から予測された遺伝子(Genbankアクセッション番号XM_145358;SEQ ID NO:27)に相当する。これらの3種の遺伝子間の類似性は、ORFについてもmRNAについても極めて高かった(図7)。従って、これらの3種の遺伝子は同一の機能を有する可能性が最も高い。各パラログの発現レベルを測定するために、9種のZscan4パラログのDNA配列を、Clustal X多重配列アラインメントプログラムによって分析したところ、各パラログに特異的な配列差違の存在が示された。2細胞胚およびES細胞における各遺伝子の発現レベルを調査するため、2細胞胚およびES細胞からRT-PCRによって増幅されたcDNA断片を配列決定した。各パラログの発現レベルは、多形部位における各ヌクレオチドの振幅に基づいて推定された。結果は図3Aに要約される。2細胞胚においては、Zscan4dが主要な転写物であった(90%)。対照的に、ES細胞においては、Zscan4cが主要な転写物であり(40%)、Zscan4fもそれよりは少なかったが有意な転写物であった(24%)。これらの結果は各cDNAクローンの起源と一致していた;Zscan4cはES細胞cDNAライブラリー由来であり、Zscan4dは2細胞胚ライブラリー由来であった。
【0201】
実施例4:着床前発生におけるZscan4の機能
Zscan4遺伝子の機能を特徴決定するための第一工程として、着床前発生に研究の焦点を当てた。最初に、標準的な遺伝子ターゲティング戦略を実施する可能性を探究したが、それは以下の三つの理由により困難であった。第一に、Zscan4パラログおよび周辺ゲノム領域の配列はあまりにも類似しているため、特定の遺伝子のためのターゲティング構築物を設計することができない。第二に、主要に発現されたZscan4dに加えて、少なくとも3種の他の類似のコピー(Zscan4a、Zscan4e、およびZscan4f)が、2細胞胚において転写されるため、Zscan4d-/-表現型は、他のZscan4パラログによって機能的に補償される可能性が極めて高い。第三に、およそ850kbのZscan4遺伝子座内に、まだ遺伝子としてはアノテートされていないが、予測されている他の遺伝子が存在するため、Zscan4遺伝子座全体を欠失させる戦略は魅力的でない。従って、siRNA技術を使用した。RNAiおよびsiRNA技術は、着床前胚において特定の遺伝子の発現を阻止するために成功裡に使用されているが(Kim et al., Biochem. Biopys. Res. Commun. 296:1372-1377, 2002;Stein et al., Dev. Biol. 286:464-471, 2005)、広範に認識されているオフターゲット効果が、一般に、大きな問題である(Jackson et al., Rna 12:1179-1187, 2006;Scacheri et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 101:1892-1897, 2004;Semizarov et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 100:6347-6352, 2003)。Zscan4に対するsiRNAの効果の信頼性を高めるために、3種の独立したsiRNA技術、オリゴヌクレオチドに基づくsiRNA(ここで、siZscan4と呼ばれる、Invitrogenから入手);ベクターに基づくshRNA(ここで、shZscan4と呼ばれる、Genscriptから入手);およびオリゴヌクレオチドsiRNAの混合物(ここで、plus-siZscan4と呼ばれる、Dharmaconから入手)によって、siRNA実験を実施した(図4A、B)。siZscan4、shZscan4、plus-siZscan4のために使用されたオリゴヌクレオチド配列は、Zscan4bおよびZscan4eと2bpのミスマッチを有していたshZscan4を除いて、Zscan4a、Zscan4b、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4e、およびZscan4fのcDNA配列と100%マッチした(図4A、B)。
【0202】
hCG注入の21〜23時間後に、接合子の雄精核にshZscan4ベクターを微量注入し、着床前発生の間、胚を観察した(図4CおよびD)。shControlを注入された胚の過半数(58.8%)が、既に4細胞期に達していたhCGの61時間後、shZscan4を注入された胚の過半数(78.8%)が、2細胞期のままであった。shControlを注入された胚の過半数(70.0%)が胚盤胞期に達したhCGの98時間後までに、shZscan4を注入された胚の過半数(52.5%)が桑実胚期にしか達していなかった。Zscan4 RNAレベルの有意な低下(およそ95%)が、qRT-PCR分析によって確認された(図4E)。総合すると、これらの結果は、shZscan4を注入された胚の発生が2細胞期と4細胞期との間で約24時間遅延し、続いて、shControlを注入された胚のものと比較可能なスピードでその後の期への進行が起こることを示す。本質的に同一の結果が、二つの異なるsiRNA技術:siZscan4(図9)およびplus-siZscan4(図10)を使用して入手された。
【0203】
siZscan4を注入された胚は、正常に見える初期胚盤胞(3.5d.p.c)を形成したが、しばしば、拡大胚盤胞の形成に失敗した(4.5d.p.c;siControlを注入された胚の6%に対してsiZscan4を注入された胚の45%;図9B)。これらの胚盤胞が3.5d.p.cですら、何らかの欠陥を有しているか否かを試験するために、shZscan4を注入された胚盤胞を、偽妊娠マウスの子宮に移植した。shZscan4を注入された胚盤胞はいずれも着床しなかったが、shControlを注入された胚は大部分が着床した(表1)。インビトロ胚盤胞アウトグロース実験は、shZscan4を注入された胚盤胞の細胞が培養物中で増殖し得ないことを決定した(表1)。これらの結果から、後期2細胞期におけるZscan4の一過性の発現が、適切な胚盤胞の発達のために必要とされることが明白に証明された。
【0204】
(表1)shZscan4またはshControlの前核注入を受容した胚の胚盤胞アウトグロース(A)および着床後発達(B)

hCG注入の21〜23時間後に、接合子の雄精核に、shZscan4ベクターまたはshControlベクターが微量注入された。これらの胚から形成された初期胚盤胞(3.5d.p.c.)が、胚盤胞アウトグロース(A)および胚移植(B)の試験に供された。アウトグロースアッセイにおいては、6日間の培養後の増殖中細胞の存在が、成功したアウトグロースと見なされた。
【0205】
Zscan4発現レベルの低下が、2細胞期における着床前胚の発達を遅延させるという概念は、shZscan4が初期2細胞期胚の1個の割球に注入された場合、胚のおよそ28%が3細胞胚になったという実際により、さらに支持された(図5A)。shZscan4注入を受容した1個の割球は2細胞割球として残存し、他方の割球は、4細胞割球のサイズを有する2個のより小さい割球へと卵割した(図5D)。続いて、これらの胚(24%)は、不均一に卵割した胚、典型的には、2細胞サイズの割球1個および8細胞サイズの割球4個を含む5細胞胚になった(図5B、E)。これらの胚は、最終的には、胚盤胞様の構造を形成したが、それらは、胚盤胞様の細胞塊と、しばしばGFP陽性(shRNAを注入された割球のマーカー)であった桑実胚様の細胞塊の混合物であるようであった(図5C、F、G)。対照的に、shControlが初期2細胞期に1個の割球に注入された場合には、ほぼ全ての胚が正常に卵割した(図5A、B、C)。
【0206】
着床前発生に対するZscan4d発現の延長の効果を調査するために、Zscan4dを発現するプラスミドを接合子の雄精核に微量注入することにより、Zscan4dを過剰発現させた。Zscan4dプラスミドを注入された胚は、対照プラスミドを注入された胚に類似した発達の速度を示したが、前者胚盤胞はアウトグロース生成に失敗し(表2A)、着床に失敗した(表2B)。これらの結果は、Zscan4dの適時のダウンレギュレーションも、胚盤胞の適切な発達にとって重要であることを示唆している。
【0207】
(表2)Zscan4d発現プラスミドまたは対照プラスミドの前核注入を受容した胚の胚盤胞アウトグロース(A)および着床後発達(B)

Zscan4d遺伝子を構成性発現するプラスミドベクターまたは対照空ベクターが、hCG注入の21〜23時間後に、接合子の雄精核に微量注入された。これらの胚から形成された初期胚盤胞(3.5d.p.c.)が、表1に記載されたのと同一の試験に供された。
【0208】
実施例5:ホールマウントインサイチューハイブリダイゼーション(WISH)を使用したZscan4発現の分析
Zscan4の発現パターンの一つの興味深い局面は、後期2細胞胚およびES細胞における排他的な発現である。ES細胞はICMに由来し、ES細胞において発現される多くの遺伝子が、ICMにおいても発現されるため(例えば、Yoshikawa et al., Gene Expr. Patterns 6:213-224, 2006)、これは反直観的であるように見える。従って、胚盤胞、胚盤胞アウトグロース、およびES細胞におけるZscan4の発現を、WISHを使用して調査した。結果は、ICMおよび初期胚盤胞アウトグロースを含む胚盤胞におけるいかなる場所にも、Zscan4の発現が検出されないことを証明した(図6A)。しかしながら、Zscan4の発現は、アウトグロースの6日目までに細胞の極一部に検出され始めた。驚くべきことに、Zscan4の強い発現は、未分化コロニーの中のES細胞の極一部にのみ検出された。対照的に、多能性の周知のマーカーであるPou5f1(Oct3/4)の発現は、胚盤胞のICM、胚盤胞アウトグロースの中の細胞の大部分、および未分化コロニーの中のES細胞の過半数に検出された(図6A)。cDNA配列の密接な類似性のため、各Zscan4パラログはWISHによって区別され得なかったが、前述のRT-PCR産物の配列決定による発現分析は、Zscan4cおよびZscan4fが、胚盤胞アウトグロースの中の細胞およびES細胞の亜集団にWISHによって検出された遺伝子であったことを示している。
【0209】
実施例6:Zscan4プロモーター発現ベクター
本明細書中の先の実施例に記載されたように、Zscan4発現は未分化ES細胞の亜集団にのみ検出される。このES細胞の亜集団を同定し、Zscan4を発現するその他の細胞を同定するため、Zscan4cプロモーター配列およびEmeraldレポーター遺伝子(緑色蛍光タンパク質のバリアント)を含む発現プラスミドを開発した。発現ベクターの成分および方向は図11に例示される。Zscan4cプロモーター-Emerald発現ベクターの配列はSEQ ID NO:28として示される。発現ベクターの成分のSEQ ID NO:28のヌクレオチド範囲は、表3に提供される。
【0210】
(表3)Zscan4cプロモーター-Emerald発現ベクター

【0211】
マウスES細胞をZscan4cプロモーター発現ベクターでトランスフェクトし、Emerald陽性細胞およびEmerald陰性細胞を同定するために蛍光標示式細胞分取によって分析した。Zscan4が細胞に発現される場合、それはEmerald陽性である。結果は、マウスES細胞のおよそ3〜5%がZscan4を発現することを示す(図12)。
【0212】
分取された細胞を収集し、Zscan4cおよび多能性の周知のマーカーであるPou5f1(Oct3、Oct4、Oct3/4としても公知)の発現について定量的リアルタイムPCR(qPCR)によって分析した。図12に示されるように、Pou5f1は、Emerald陽性細胞およびEmerald陰性細胞の両方に同レベルで発現されるが、Zscan4cは、Emerald陽性細胞においてEmerald陰性細胞より高度に発現される。データは、このベクターにおいて使用されたZscan4cプロモーター配列が、内因性Zscan4c遺伝子の発現を再現し得ることを示しており、従って、Zscan4cプロモーター-Emerald発現ベクターは、Zscan4発現細胞を精製するために使用され得る。データは、Zscan4発現細胞および非発現細胞の両方が、多能性マーカーPou5f1発現を保持していることを示しており、従って、このES細胞の亜集団は、標準的な多能性マーカーによっては同定され得ない。
【0213】
実施例7:Zscan4プロモーターの制御下でEmeraldを発現するマウスES細胞系
実施例6に記載されたZscan4cプロモーター発現ベクターが細胞に安定的に取り込まれたマウスES細胞系を確立した。ES細胞系は、Zscan4cプロモーターの制御下でEmeraldを発現する。マウスES細胞に直鎖化プラスミドDNAをトランスフェクトした後、細胞を選択可能マーカー(ブラストサイジン)の存在下で培養した。ブラストサイジン耐性ES細胞クローンを単離し、さらなる分析のために使用した。
【0214】
本明細書に記載されるように、Zscan4は未分化ES細胞の亜集団(ES細胞のおよそ3〜5%)にのみ発現される。従って、Zscan4プロモーター発現ベクターが取り込まれたES細胞系は、細胞の小さな割合、およそ3パーセントにおいてのみ発現を示す。
【0215】
実施例8:ES細胞の亜集団においてZscan4と共発現される9種の遺伝子の同定
(実施例7に記載されたような)Zscan4cプロモーターで安定的にトランスフェクトされたマウスES細胞系を使用して、Emerald(+)細胞およびEmerald(-)細胞の遺伝子発現パターンを比較するために、DNAマイクロアレイ分析を実施した。Emerald(+)細胞およびEmerald(-)細胞をFACSによって分取し、全RNAを各細胞集団から単離した。これらのRNAを標識し、NIA-Agilent 44K DNAマイクロアレイ(Agilent Technologies)にハイブリダイズさせた。
【0216】
9種の遺伝子がZscan4と共発現されることが同定された:AF067063、Tcstv1/Tcstv3、Tho4、アルギナーゼII、BC061212およびGm428、Eif1a、EG668777およびPif1。マウスES細胞におけるこれらの遺伝子の発現を確認するため、インサイチューハイブリダイゼーションを実施した。これらの遺伝子のうち6種(AF067063、Tcstv3、Tho4、アルギナーゼII、BC061212、Gm428)の2細胞胚特異的な発現プロファイルは、図13A〜Gに示される。
【0217】
実施例9:Trim43は4細胞期から桑実胚期の胚において特異的に発現される
8細胞期および桑実胚期に特異的に発現される遺伝子を同定するため、公共に利用可能なEST頻度データ(TIGR Mouse Gene Index;MGI Library Expression Search;NIA Mouse Gene Index(Sharov et al., PLoS Bio. 1:E74, 2003))およびマウス着床前胚からのマイクロアレイデータ(Hamatani et al., Dev. Cell 6(1):117-31, 2004)を使用した。候補遺伝子を選択した後、Trim43(三要素モチーフ含有タンパク質43)の特異的な発現パターンを確認するために、定量的RT-PCR分析を実施した。
【0218】
Trim43発現は、胚の4細胞期に検出され始め、桑実胚期にピークとなった。胚盤胞においては低レベルのTrim43発現が検出された。Trim43タンパク質の機能は未知である。Trim43のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:32およびSEQ ID NO:33として本明細書に提供される。Trim43プロモーターの核酸配列は、SEQ ID NO:31として本明細書に提供される。
【0219】
実施例10:トランスジェニック「レインボー」マウス
本明細書に記載されるように、第一の異種ポリペプチド(Emerald)に機能的に連結されたZscan4cプロモーターを含む発現ベクター、および第二の異種ポリペプチド(Strawberry)に機能的に連結されたTrim43プロモーターを含む発現ベクターが作成された。これらの発現構築物の両方が組み込まれたトランスジェニックマウス(「レインボー」マウス)を作成することができる。
【0220】
インスレーター-Zscan4プロモーター-EmeraldおよびTKポリAを含有している7155塩基対のDNA断片、およびインスレーター-Trim43プロモーター-Strawberryを含有している8672塩基対のDNA断片が、マウス受精卵(B6C3×B6)の精核を共注入する。
【0221】
レインボーマウスから入手される胚は、後期2細胞期に(Emeraldの発現の結果として)緑色を示し、4細胞期から桑実胚期に(Strawberryの発現により)赤色を示すであろう(ピーク発現は桑実胚期に起こる)。胚発生の適当な期におけるEmeraldおよびStrawberryの発現は、胚の適切な発達を示す。従って、これらの胚は、多数の研究的および臨床的な目的のために有用であろう。例えば、レインボーマウスから入手される胚は、IVF診療所において使用されるヒト胚に適用され得る、胚の最適化された培養条件を開発するために使用され得る。さらに、これらの胚は、胚に対する毒性について化合物または薬物を試験するために使用され得る。胚は、核移植手法のための成功した核再プログラム化の指標としても使用され得る。
【0222】
この開示は、幹細胞の分化を阻害し、ES細胞の胚盤胞アウトグロースを促進する方法を提供する。本開示は、さらに、Zscan4プロモーター配列、およびZscan4を発現する幹細胞の亜集団の同定を含む、その使用法を提供する。記載された方法の正確な詳細が、記載された発明の本旨を逸脱することなく、変動し得る、または修飾され得ることは明白であろう。本発明者らは、特許請求の範囲の範囲および本旨に含まれるそのような修飾および変動を全て主張する。
【配列表フリーテキスト】
【0223】
配列表
添付の配列表に収載された核酸配列およびアミノ酸配列は、37C.F.R.1.822において定義されるようなヌクレオチド塩基のための標準的な略号およびアミノ酸のための3文字記号を使用して示される。各核酸配列の一方の鎖のみが示されるが、表示された鎖の参照により相補鎖も含まれるものと理解される。添付の配列表において:
SEQ ID NO:1および2は、2細胞胚からのZscan4dの増幅のための順方向および逆方向のPCRプライマーのヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:3および4は、Zscan4のエキソン3を含有するよう設計されたプローブを増幅するためのPCRプライマーのヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:5は、Zscan4 PCR配列決定プライマーZscan4_Forのヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:6は、Zscan4 PCR配列決定プライマーZscan4_Revのヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:7は、Zscan4配列決定プライマーZscan4_400Revのヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:8は、Zscan4配列決定プライマーZscan4_300Revのヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:9は、shZscan4 siRNAのヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:10は、siControl siRNAのヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:11は、ES細胞由来のcDNAクローン(クローン番号C0348C03)Genbankアクセッション番号BC050218(2003年4月3日受託)のヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:12は、Zscan4-ps1のヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:13は、Zscan4-ps2のヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:14は、Zscan4-ps3のヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:15および16は、Zscan4aのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:17および18は、Zscan4bのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:19および20は、Zscan4cのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:21および22は、Zscan4dのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:23および24は、Zscan4eのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:25および26は、Zscan4fのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:27は、参照により本明細書に組み入れられる2006年1月10日受託のGenbankアクセッション番号XM_145358のヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:28は、Zscan4-Emerald発現ベクターのヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:29および30は、ヒトZSCAN4(参照により本明細書に組み入れられる2002年9月6日受託のGenbankアクセッション番号NM_152677)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:31は、Trim43プロモーターのヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:32および33は、Trim43のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:34および35は、AF067063(参照により本明細書に組み入れられる2004年5月29日受託のGenbankアクセッション番号NM_001001449)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:36および37は、BC061212(参照により本明細書に組み入れられる2003年11月15日受託のGenbankアクセッション番号NM_198667.1)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:38および39は、Gm428(参照により本明細書に組み入れられる2007年2月22日受託のGenbankアクセッション番号NM_001081644)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:40および41は、アルギナーゼII(参照により本明細書に組み入れられる2000年1月26日受託のGenbankアクセッション番号NM_009705)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:42および43は、Tcstv1(参照により本明細書に組み入れられる2007年7月12日受託のGenbankアクセッション番号NM_018756)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:44および45は、Tcstv3(参照により本明細書に組み入れられる2002年10月13日受託のGenbankアクセッション番号NM_153523)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:46および47は、Tho4(参照により本明細書に組み入れられる2005年12月2日受託のGenbankアクセッション番号XM_902103)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:48および49は、Eif1a(参照により本明細書に組み入れられる2002年8月3日受託のGenbankアクセッション番号NM_010120)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:50および51は、EG668777(参照により本明細書に組み入れられる2006年4月27日受託のGenbankアクセッション番号XM_001003556)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:52および53は、Pif1(参照により本明細書に組み入れられる2002年12月24日受託のGenbankアクセッション番号NM_172453)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:54は、Plus-siZscan4(J-064700-05)標的配列のヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:55は、Plus-siZscan4(J-064700-06)標的配列のヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:56は、Plus-siZscan4(J-064700-07)標的配列のヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:57は、Plus-siZscan4(J-064700-08)標的配列のヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:58は、siZscan4標的配列のヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:59は、shZscan4標的配列のヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:60は、Zscan4c、Zscan4d、およびZscan4fのヌクレオチド1〜1848のヌクレオチドコンセンサス配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞におけるZscan4の発現を増加させ、それにより幹細胞の分化を阻害する工程を含む、幹細胞の分化を阻害する方法。
【請求項2】
Zscan4の発現の増加が、Zscan4a、Zscan4b、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4e、Zscan4f、ヒトZSCAN4、またはそれらの組み合わせの発現の増加を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞におけるZscan4の発現の増加が、プロモーターに機能的に連結されたZscan4をコードする核酸により幹細胞をトランスフェクトすることを含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
Zscan4をコードする核酸がSEQ ID NO:61を含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
Zscan4をコードする核酸が、Zscan4c(SEQ ID NO:19)、Zscn4d(SEQ ID NO:21)、またはZscan4f(SEQ ID NO:25)と少なくとも95%同一である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
プロモーターが構成性プロモーターである、請求項3〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
プロモーターが誘導性プロモーターである、請求項3〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
Zscan4をコードする核酸を含むベクターにより細胞をトランスフェクトする工程を含む、請求項3〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
ベクターがウイルスベクターである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
幹細胞の分化の阻害が、幹細胞の生存能を増加させる、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
幹細胞の分化の阻害が、幹細胞の老化を防止する、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
幹細胞が、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、生殖系列幹細胞、または多分化能性成体前駆細胞である、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
胚性幹細胞におけるZscan4の発現を増加させ、それにより胚性幹細胞の胚盤胞アウトグロース(outgrowth)を促進する工程を含む、胚性幹細胞の胚盤胞アウトグロースを促進する方法。
【請求項14】
Zscan4の発現の増加が、Zscan4a、Zscan4b、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4e、Zscan4f、ヒトZSCAN4、またはそれらの組み合わせの発現の増加を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
細胞におけるZscan4の発現の増加が、プロモーターに機能的に連結されたZscan4をコードする核酸により幹細胞をトランスフェクトすることを含む、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
Zscan4をコードする核酸がSEQ ID NO:61を含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
Zscan4をコードする核酸が、Zscan4c(SEQ ID NO:19)、Zscn4d(SEQ ID NO:21)、またはZscan4f(SEQ ID NO:25)と少なくとも95%同一である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
プロモーターが構成性プロモーターである、請求項15〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
プロモーターが誘導性プロモーターである、請求項15〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
Zscan4をコードする核酸を含むベクターにより細胞をトランスフェクトする工程を含む、請求項15〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
ベクターがウイルスベクターである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
Zscan4プロモーターとレポーター遺伝子とを含む発現ベクターにより細胞をトランスフェクトする工程を含む、Zscan4を発現する幹細胞の亜集団を同定する方法であって、レポーター遺伝子の発現により、Zscan4が幹細胞の亜集団において発現していることが示される、方法。
【請求項23】
Zscan4プロモーターがZscan4cプロモーターである、請求項22記載の方法。
【請求項24】
Zscan4cプロモーターが、SEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2540として示される核酸配列を含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
Zscan4cプロモーターが、SEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2643として示される核酸配列を含む、請求項23記載の方法。
【請求項26】
Zscan4cプロモーターが、SEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜3250として示される核酸配列を含む、請求項23記載の方法。
【請求項27】
Zscan4cプロモーターが、SEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜3347として示される核酸配列を含む、請求項23記載の方法。
【請求項28】
発現ベクターが、SEQ ID NO:28として示される核酸配列を含む、請求項22記載の方法。
【請求項29】
異種ポリペプチドをコードする核酸に機能的に連結されたZscan4cプロモーターを含む、単離された発現ベクター。
【請求項30】
Zscan4cプロモーターが、SEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2540として示される核酸配列を含む、請求項29記載の単離された発現ベクター。
【請求項31】
Zscan4cプロモーターが、SEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜2643として示される核酸配列を含む、請求項29記載の単離された発現ベクター。
【請求項32】
Zscan4cプロモーターが、SEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜3250として示される核酸配列を含む、請求項29記載の単離された発現ベクター。
【請求項33】
Zscan4cプロモーターが、SEQ ID NO:28のヌクレオチド1〜3347として示される核酸配列を含む、請求項29記載の単離された発現ベクター。
【請求項34】
ポリペプチドが、マーカー、酵素、または蛍光性タンパク質である、請求項29〜33のいずれか一項記載の単離された発現ベクター。
【請求項35】
ベクターがウイルスベクターである、請求項29〜34のいずれか一項記載の単離された発現ベクター。
【請求項36】
ベクターがプラスミドベクターである、請求項29〜34のいずれか一項記載の単離された発現ベクター。
【請求項37】
請求項29〜36のいずれか一項記載の発現ベクターを含む、単離された胚性幹細胞。
【請求項38】
異種ポリペプチドをコードする核酸に機能的に連結されたTrim43プロモーターを含む、単離された発現ベクター。
【請求項39】
Trim43プロモーターがSEQ ID NO:31として示される核酸配列を含む、請求項38記載の単離された発現ベクター。
【請求項40】
ポリペプチドが、マーカー、酵素、または蛍光性タンパク質である、請求項38または39記載の単離された発現ベクター。
【請求項41】
ベクターがウイルスベクターである、請求項38〜40のいずれか一項記載の単離された発現ベクター。
【請求項42】
ベクターがプラスミドベクターである、請求項38〜40のいずれか一項記載の単離された発現ベクター。
【請求項43】
請求項38〜42のいずれか一項記載の発現ベクターを含む単離された胚性幹細胞。
【請求項44】
AF067063、Tcstv1/Tcstv3、Tho4、アルギナーゼII、BC061212およびGm428、Eif1a、EG668777およびPif1のうちの一つまたは複数の発現を検出する工程を含む、Zscan4を発現する幹細胞の亜集団を同定する方法。
【請求項45】
請求項40記載の方法に従い同定された、単離された幹細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図13F】
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【図13G】
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【公表番号】特表2010−522565(P2010−522565A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501189(P2010−501189)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【国際出願番号】PCT/US2008/058261
【国際公開番号】WO2008/118957
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(506161522)アメリカ合衆国 (4)
【Fターム(参考)】