説明

胚性幹細胞用フィーダー細胞作成培地およびフィーダー細胞

ヒト胚性幹細胞を含めた胚性幹細胞の培養に用いられるフィーダー細胞を、限られたドナー由来の材料から効率的に樹立し、感染のおそれの少ない状態で培養しうる胚性幹細胞用フィーダー細胞作成培地を提供することである。さらに、ヒト胚性幹細胞を含めた胚性幹細胞と共培養しても比較的安全なフィーダー細胞の製造方法、および、それによって得られるフィーダー細胞を提供することである。基本培地に少なくとも血清アルブミンおよびインスリンを含む胚性幹細胞用フィーダー細胞作成培地により、胚性幹細胞のフィーダー細胞と成り得る胎児表皮線維芽細胞、胎児筋線維芽細胞、胎児肺線維芽細胞、胎児上皮細胞、胎児内皮細胞、成体表皮線維芽細胞、成体肺線維芽細胞、成体上皮細胞、成体内皮細胞から選択される少なくとも1種の細胞種を含む細胞集団を安定に増殖できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト胚性幹細胞を含めた胚性幹細胞の培養に利用されるフィーダー細胞を作成するための培地、その培地を利用したフィーダー細胞の製造方法、および、それによって得られる胚性幹細胞用フィーダー細胞に関するものである。
本出願は、参照によりここに援用されるところの、日本特許出願特願2004−36845号からの優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞は、胚盤胞の内部細胞塊に由来する未分化細胞であり、全組織への分化が可能な多様性を有しており、細胞培養、組織移植、創薬研究、および遺伝子治療の分野での応用を期待されている。さらに、成体の体細胞核を移植して得られるクローン胚から胚性幹細胞が誘導されることも知られている。近年、胚性幹細胞を神経組織をはじめとする様々な組織へ誘導する技術が報告されており、胚性幹細胞から誘導される組織は免疫排除がない遺伝的に同等な組織であることより、移植医療や遺伝子治療への利用が期待されるようになった。また、胚性幹細胞の作成の対象は実験小動物からヒトを含めた霊長類に拡げられており、アカゲザル胚性幹細胞の単離、ヒト体外受精卵からの胚性幹細胞の分離などが報告されている。
【0003】
また、末盛らは、前臨床試験に有用な、医学研究に広く用いられているカニクイザルの顕微受精卵から、新たに胚性幹細胞を作成することに成功し、その多能性が長期にわたって維持されることを証明し、さらに、このカニクイザル胚性幹細胞からはドーパミン神経が誘導可能であることも証明した。
【0004】
上記のようなヒト胚性幹細胞を含む胚性幹細胞は、その成長を促進するため、従来フィーダー細胞と共培養されていた。特にヒトを含む霊長類の胚性幹細胞は血清を使用して培養すると未分化状態を維持できないことより、無血清培地による培養が検討されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかし、無血清培地による培養だけでは胚性幹細胞を維持できず、血清の効果の一部を代替するために、フィーダー細胞との共培養が必須となっていた。このフィーダー細胞としては、たとえば、マウスの胎児より調製された線維芽細胞をマイトマイシンCや放射線照射によって増殖停止させた細胞が使用されていたため、ヒト胚性幹細胞とマウス由来のフィーダー細胞との共培養は人獣共通感染症等のおそれがあった。このヒト胚性幹細胞から誘導される組織は移植医療や遺伝子治療の材料として期待されるため、人獣共通感染症等のおそれは可能な限り排除するのが望ましい。
【0006】
そこで、マウスの胎児の代わりにヒト胎児の線維芽細胞、成人輸卵管上皮細胞(非特許文献1)や、ヒト新生児の包皮由来線維芽細胞(非特許文献2、3)、成人表皮線維芽細胞(非特許文献4)、ヒト骨髄細胞(非特許文献5)をフィーダー細胞として利用する方法が報告されている。
【0007】
しかし、これらのほとんどは初代細胞を利用するものであり、ヒト胚性幹細胞を大量に得るためには複数のドナー由来の材料が必要となるため、ドナー毎に感染源のチェックが必要となり手間がかかる。また、これらのヒト由来のフィーダー細胞を作成するための培地はウシ胎児血清(FBS)等の血清が使用されており、この血清からも未知の感染症やプリオン等による未知の病原体が伝播される危険性がある。
【特許文献1】国際公開第98/30679号パンフレット
【非特許文献1】Nat.Biotechnol. 20:933-936(2002)
【非特許文献2】Biol.Reprod. 68:2150-2156(2003)
【非特許文献3】Hum.Reprod. 18:1404-1409(2003)
【非特許文献4】Stem Cells. 21:546-556(2003)
【非特許文献5】Stem Cells. 21:131-142(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ヒト胚性幹細胞を含めた胚性幹細胞の培養に用いられるフィーダー細胞を、限られたドナー由来の材料から効率的に樹立し、感染のおそれの少ない状態で培養しうる、胚性幹細胞用フィーダー細胞作成培地(以下、「フィーダー細胞作成培地」という)を提供することである。さらに、胚性幹細胞と共培養しても比較的安全なフィーダー細胞の製造方法、および、それによって得られるフィーダー細胞を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく研究を進めた結果、基本培地に少なくとも血清アルブミンおよびインスリンを含むフィーダー細胞作成培地により、胚性幹細胞のフィーダー細胞と成り得る胎児表皮線維芽細胞、胎児筋線維芽細胞、胎児肺線維芽細胞、胎児上皮細胞、胎児内皮細胞、成体表皮線維芽細胞、成体肺線維芽細胞、成体上皮細胞、成体内皮細胞から選択される少なくとも1種の細胞種を含む細胞集団を安定に増殖できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.血清アルブミン、インスリンおよび基本培地を含み、当該血清アルブミンの量が2g/L〜50g/L、当該インスリンの量が1mg/L〜100mg/Lであり、当該基本培地がMEM、α-MEM、DMEM、IMDM、Ham F10、Ham F12、Medium199、RPMI1640、RITC 80-7、MCDB104、MCDB105、MCDB153、MCDB201およびMCDB202から選択される少なくとも1種からなる、胚性幹細胞用フィーダー細胞作成培地。
2.さらに細胞接着因子が含有されている、前項1に記載の培地。
3.細胞接着因子が、コラーゲン、ゼラチン、ファイブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ポリリジン、ポリオルニチンおよびポリエチレンイミンから選択される少なくとも1種類である、前項2に記載の培地。
4.さらに細胞増殖因子が含有されている、前項1、2または3に記載の培地。
5.細胞増殖因子が、線維芽細胞増殖因子および上皮細胞増殖因子から選択される少なくとも1種類である、前項4に記載の培地。
6.胎児表皮線維芽細胞、胎児筋線維芽細胞、胎児肺線維芽細胞、胎児上皮細胞、胎児内皮細胞、成体表皮線維芽細胞、成体肺線維芽細胞、成体上皮細胞および成体内皮細胞から選択される少なくとも1種の細胞種を含む細胞集団を前項1〜5のいずれか一項に記載の胚性幹細胞用フィーダー細胞作成培地中で培養増殖させる工程と、当該培養増殖された細胞集団をマイトマイシンCまたは放射線照射により増殖停止させる工程とを含む、胚性幹細胞用フィーダー細胞の製造方法。
7.前記培養増殖工程を細胞接着因子をコートした培養容器中で行う、前項6に記載の製造方法。
8.細胞接着因子が、コラーゲン、ゼラチン、ファイブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ポリリジン、ポリオルニチンおよびポリエチレンイミンから選択される少なくとも1種類である、前項7に記載の製造方法。
9.前記培養増殖工程において培養細胞を平均して20回以上細胞分裂させる、前項6、7または8に記載の製造方法。
10.前項6〜9のいずれか一項に記載の製造方法で得られた胚性幹細胞用フィーダー細胞。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフィーダー細胞作成培地により、ヒト胚性幹細胞を含めた胚性幹細胞と共培養しても比較的安全なフィーダー細胞を樹立することができ、長期の培養が可能となる。フィーダー細胞の材料は、例えば胎児表皮線維芽細胞、胎児筋線維芽細胞、胎児肺線維芽細胞、胎児上皮細胞、胎児内皮細胞、成体表皮線維芽細胞、成体肺線維芽細胞、成体上皮細胞、成体内皮細胞等の限られたドナー由来であるため、長期の培養が可能となることは有用である。これにより、ヒト胚性幹細胞を含めた胚性幹細胞と胚性幹細胞用フィーダー細胞を共培養することができ、移植や遺伝子治療等の材料として胚性幹細胞を使用する際に、人畜共通感染症等のおそれが少ない胚性幹細胞を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例2で作成されたフィーダー細胞によって培養されたカニクイザル胚性幹細胞の10日目のコロニー(40倍)を示す図である。
【図2】実施例2で作成されたフィーダー細胞によって培養されたカニクイザル胚性幹細胞の継代後4日目のコロニー(100倍)を示す図である。
【図3】実施例2で作成されたフィーダー細胞によって培養されたカニクイザル胚性幹細胞の増殖を示す図である。
【図4】実施例2で作成されたフィーダー細胞によって培養されたカニクイザル胚性幹細胞の継代後4日目のコロニーのSSEA-4による免疫染色像(100倍)を示す図である。
【図5】実施例3で作成されたフィーダー細胞によって培養されたカニクイザル胚性幹細胞の10日目のコロニー(40倍)を示す図である。
【図6】実施例3で作成されたフィーダー細胞によって培養されたカニクイザル胚性幹細胞の継代後4日目のコロニー(100倍)を示す図である。
【図7】実施例3で作成されたフィーダー細胞によって培養されたカニクイザル胚性幹細胞の増殖を示す図である。
【図8】実施例4においてゼラチンコートとフィーダー細胞作成培地(B)を組み合わせて培養したときのMRC−5の増殖を示す図である。培養開始時のPDLとその後の継代培養時の細胞数測定から算定された培養終了時のPDLを記載した。
【図9】実施例5においてコラーゲンコートとフィーダー細胞作成培地(B)を組み合わせて培養したときのMRC−5の増殖を示す図である。培養開始時のPDLとその後の継代培養時の細胞数測定から算定された培養終了時のPDLを記載した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で用いられる基本培地としてはMEM、α-MEM、DMEM、IMDM、Ham F10、Ham F12、Medium199、RPMI1640、RITC 80-7、MCDB104、MCDB105、MCDB153、MCDB201、MCDB202の何れか単独および/または、複数の組み合わせが可能であるが、線維芽細胞の無血清培地に利用されうるDMEM、IMDM、Ham F10、Ham F12、RITC 80-7、MCDB104、MCDB105、MCDB201、MCDB202が好ましく、霊長類胚性幹細胞の無血清培養にも利用され得るDMEMとHam F12の1:1の混合培地が培地の栄養価や、フィーダー細胞作成後の胚性幹細胞との共培養での生存率の面からより好適である。
なお、本発明に利用される基本培地の詳細な組成は、表1に記載された出典に基づく。
【表1】

【0014】
本発明で用いられるフィーダー細胞作成培地は、血清アルブミンおよびインスリンを必須成分として含有する。この培地にはさらに他の成分を含んでいてもよい。ただし、他の成分としてウシ胎児血清(FBS)などの未知の成分や夾雑物を含み、感染症等のおそれが高いものは不適当である。
【0015】
他の成分としては、前記基本培地に含まれていないものまたは前記基本培地には含まれているがその量が十分でない成分などがある。具体的には、例えば、細胞接着因子、細胞増殖因子、トランスフェリンなどの金属含有タンパク質、その他のポリペプチドやタンパク質、アミノ酸類、ビタミン類などがある。これら成分を基本培地に配合してフィーダー細胞作成培地が製造される。また、市販されている血清代替物と称されているものなどを前記基本培地に配合して、フィーダー細胞作成培地を製造することもできる。この血清代替物は、通常血清アルブミンやインスリンを含有し、さらに上記のような他の成分を含有する。したがって、基本培地に血清代替物を血清アルブミンおよびインスリンが目的の量となる量を配合して使用することができる。血清代替物としては、例えば、前記特許文献1に記載の血清代替物がある。
【0016】
本発明におけるフィーダー細胞作成培地には、上記その他の成分として細胞接着因子が含有されていることが好ましい。また、細胞増殖因子が含有されていることが好ましい。さらに、トランスフェリンなどの金属含有タンパク質が含有されていることが好ましい。
細胞接着因子としては、コラーゲン、ゼラチン、ファイブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ポリリジン、ポリオルニチンおよびポリエチレンイミンから選択される少なくとも1種類であることが好ましく、特に、コラーゲン、ゼラチン、ファイブロネクチン、ビトロネクチンなどが好ましい。細胞増殖因子としては、線維芽細胞増殖因子(FGF)および上皮細胞増殖因子(EGF)から選択される少なくとも1種類であることが好ましい。
【0017】
本発明におけるフィーダー細胞作成培地は、血清アルブミンを2g/L〜50g/Lおよびインスリンを1mg/L〜100mg/Lの割合で含有することを必須とする。より好ましい血清アルブミンの量は4g/L〜25g/Lであり、インスリンの量は5mg/L〜30mg/Lである。
【0018】
さらに、細胞接着因子は0.3mg/L〜50mg/L程度含有されていることが好ましい。ただし後述のように細胞接着因子を培養容器内面にコートして使用する場合は、フィーダー細胞作成培地中には細胞接着因子を配合する必要はない。細胞増殖因子はフィーダー細胞作成培地中に0.01μg/L〜100μg/Lの割合で含有されていることが好ましく、特に線維芽細胞増殖因子は0.1μg/L〜10μg/L含有されていることが好ましく、上皮細胞増殖因子は0.5μg/L〜50μg/L含有されていることが好ましい。トランスフェリンなどの金属含有タンパク質は1mg/L〜50mg/Lの割合で含有されていることが好ましい。
【0019】
本発明の胚性幹細胞用フィーダー細胞樹立のために使用可能な細胞として、例えば胎児表皮線維芽細胞、胎児筋線維芽細胞、胎児肺線維芽細胞、胎児上皮細胞、胎児内皮細胞、成体表皮線維芽細胞、成体肺線維芽細胞、成体上皮細胞、成体内皮細胞から少なくとも1種の細胞種を選択することができる。選択された細胞種を含む細胞集団を、本発明のフィーダー細胞作成培地を含む培養容器内において、3%〜10%のCO、温度35℃〜40℃の条件下で1日〜30日培養し、増殖させることができる。上記細胞集団を増殖させた後、細胞の増殖をマイトマイシンCまたは放射線照射により停止させることで、フィーダー細胞を大量に得ることができる。
【0020】
以上のように、細胞増殖させる工程と、増殖停止させる工程を含む製造方法により、無血清培養下で育成され、動物由来感染が殆どない安全な胚性幹細胞用フィーダー細胞を製造することができる。前記細胞増殖工程では、細胞の培養容器に、予め細胞接着因子をコートしておくことができる。当該細胞増殖工程において、培養細胞を平均して20回以上細胞分裂させることで、フィーダー細胞を大量に製造することができる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明の実施例と比較例について説明するが、本実施例は本発明の再現を補助する目的でその一実施態様を示すものであって、本実施例から本発明の限界や制限事項は示唆されない。なお、以下の実施例等においては、フィーダー細胞として、ウシ胎児血清(FBS)を含む培地で増殖された株化ヒト細胞を使用した。これは、人体から直接得たヒト細胞は実験材料としての入手が困難であることより、既に研究用に提供されている株化ヒト細胞を入手して実験に使用せざるを得ない状況にあることによる。
【0022】
(実施例1)
FBSを10v/v%添加したMEM培地で、41.77PDL(population doubling Level:通算細胞集団倍加値(日本組織培養学会編「組織培養の技術第三版(基礎編)1996年 p42))まで培養した、細胞バンクより分譲されたヒト正常2倍体肺線維芽細胞株(MRC−5)を、以下のフィーダー細胞作成培地(A)を用いて細胞数が2.4×106cellsとなるように懸濁し、ゼラチンコートしたシャーレ上で1回の継代培養を挟んで42.99PDLまで培養した。
【0023】
フィーダー細胞作成培地(A)組成:
ウシ血清アルブミン(BSA) 5g/L, EGF 10μg/L, インスリン 1mg/L, ハイドロコルチゾン 1mg/Lが添加されたRITC80-7培地
【0024】
ついで、前記培養した該MRC−5を、最終濃度10μg/mlのマイトマイシンC(MMC)を含むフィーダー細胞作成培地(A)を用いて2〜3時間培養し、細胞分裂を不活性化させた。その後、MMCを含むフィーダー細胞作成培地(A)を除き、細胞をリン酸緩衝溶液(PBS)で3回洗浄した。洗浄後の細胞を、トリプシン処理(0.25w/v%トリプシン、1 mM EDTA)により培養シャーレから剥がし、細胞数をカウントした。その結果、約5.5×106cellsのフィーダー細胞を得ることができた。
【0025】
(実施例2)
実施例1と同様の細胞バンクより分譲されたMRC−5を、以下のフィーダー細胞作成培地(B)を用いて細胞数が2.1×105cellsとなるように懸濁し、ゼラチンコートした培養シャーレ上で、4回の継代培養を行い53.47PDLまで培養した。
ついで、前記培養したMRC−5を最終濃度10μg/mlのMMCを含むフィーダー細胞作成培地(B)を用いて2〜3時間培養し、細胞分裂を不活性化させた。その後、MMCを含むフィーダー細胞作成培地(B)を除き、PBSで細胞を3回洗浄しフィーダー細胞を作成した。このフィーダー細胞を、ゼラチンコートした直径60mmのシャーレに1枚あたりに生細胞数として約4×105個播き静着させた。
【0026】
フィーダー細胞作成培地(B)組成:
アルブミン83g/Lおよびインスリン100mg/Lを含む血清代替物(Knock out Serum Replacement:インビトロジェン社(特許文献1))20v/v%, MEM非必須アミノ酸溶液(インビトロジェン社)1v/v%、ピルビン酸Na 1mmol/L、L-グルタミン 2mmol/L、2-メルカプトエタノール 0.1 mmol/L、EGF 10μg/L、FGF 1μg/Lが添加されたDMEM:Ham F=1:1の混合培地
【0027】
凍結保存したカニクイザル胚性幹細胞を解凍後、以下のカニクイザル胚性幹細胞用培地(A)に生細胞数として約2×105cells/mlの濃度となるように懸濁したものを、前記フィーダー細胞が静着したシャーレに播き込んだ。5%CO、37℃のインキュベーター内で、カニクイザル胚性幹細胞のコロニーが成長し継代培養が可能となるまで(10日間)、毎日カニクイザル胚性幹細胞用培地(A)の交換を行いながら培養した。
【0028】
カニクイザル胚性幹細胞用培地(A)組成:
アルブミン83g/Lおよびインスリン100mg/Lを含む血清代替物(特許文献1)20v/v%, MEM非必須アミノ酸溶液(インビトロジェン社)1v/v%、ピルビン酸Na 1mmol/L、L-グルタミン 2mmol/L、2-メルカプトエタノール 0.1 mmol/Lが添加されたDMEM:Ham F=1:1の混合培地
【0029】
前記培養されたカニクイザル胚性幹細胞コロニーを、トリプシン処理(0.25w/v%トリプシン)によりシャーレから解離させた。一部のシャーレ中の細胞は新しいフィーダー細胞を含むシャーレに再び播き込こまれ、その後同条件で4日間培養を続け、残りのシャーレ中の細胞をシャーレから剥がし、細胞数をカウントした。
【0030】
継代した胚性幹細胞コロニーを培養終了後、一部のシャーレ中の細胞を上記と同様にシャーレから剥がし、細胞数をカウントした。残りのシャーレ中の細胞は、4 w/v%パラホルムアルデヒドで固定した後、FITCラベルしたSSEA−4抗体(サンタクルズ社)で免疫染色し、蛍光顕微鏡でBP460-490nm、BA515nmにより観察した。
【0031】
その結果カニクイザル胚性幹細胞コロニーの形態は、継代時および培養終了時のいずれにおいてもマウス胎児線維芽細胞由来のフィーダー細胞で培養されたものと同等であり(図1、図2)、カニクイザル胚性幹細胞は増殖していた(図3)。また、培養終了時の免疫染色において、霊長類胚性幹細胞のマーカーの一つであるSSEA−4による蛍光が観察されることから(図4)、霊長類胚性幹細胞のコロニーであることが証明された。
このことから、本発明による方法で作成されたMRC−5からのフィーダー細胞により、胚性幹細胞の培養が可能であることが示唆された。
【0032】
(実施例3)
実施例1と同様の細胞バンクより分譲されたMRC−5を、フィーダー細胞作成培地(B)を用いて細胞数が2.4×106cellsとなるように懸濁し、コラーゲンコートした培養シャーレ上で4回の継代培養を行い53.68PDLまで培養した。ついで、前記培養したMRC−5を、最終濃度10μg/mlのMMCを含むフィーダー細胞作成培地(B)で2〜3時間培養し、細胞分裂を不活性化した。その後、MMCを含むフィーダー細胞作成培地(B)を除き、PBSで細胞を3回洗浄し、フィーダー細胞を作成した。
【0033】
このフィーダー細胞を、ゼラチンコートした直径60mmシャーレ1枚あたりに生細胞数として約4×105個播き静着させた。このフィーダー細胞が静着したシャーレに、凍結保存したカニクイザル胚性幹細胞を解凍後、カニクイザル胚性幹細胞用培地(A)に生細胞数として約2×105cells/mlの濃度で懸濁し播き込んだ。5%CO、37℃のインキュベーター内で、胚性幹細胞のコロニーが成長し継代培養が可能となるまで(10日間)、毎日培地交換を行いながら培養した。トリプシン処理(0.25w/v%トリプシン)により、胚性幹細胞コロニーを解離し、一部のシャーレ中の細胞は新しいフィーダー細胞を含むシャーレに再び播き込み、その後同条件で4日間培養を続け、残りのシャーレ中の細胞をシャーレから剥がし、細胞数をカウントした。
【0034】
継代した胚性幹細胞コロニーの培養終了後、細胞をシャーレから剥がし、細胞数をカウントした。その結果カニクイザル胚性幹細胞コロニーの形体は継代時および培養終了時のいずれにおいてもマウスフィーダー細胞で培養されたものと同等であり(図5、図6)、細胞は増殖していた(図7)。
このことから実施例2と同様、コラーゲンコートしたシャーレを用いると、MRC−5から作成されたフィーダー細胞により、胚性幹細胞の培養が可能であることが示唆された。
【0035】
(実施例4)
実施例1と同様の細胞バンクより分譲されたMRC−5を、フィーダー細胞作成培地(B)を用いて2.1×105cellsとなるように懸濁し、ゼラチンコートした培養シャーレ上で増殖が悪くなるまで継代培養を繰り返し、無血清培養による増殖限界を調べた。その結果、本発明の培地によりフィーダー細胞となりうる線維芽細胞は41.77PDLからでも4回の継代まで増殖が可能であり、約53PDLまで分裂できることが確認された(図8)。
このことから、1種の細胞株から相当量のフィーダー細胞を作成することが可能あることが示唆された。
【0036】
(実施例5)
実施例1と同様の細胞バンクより分譲されたMRC−5を、フィーダー細胞作成培地(B)を用いて2.1×105cellsとなるように懸濁し、コラーゲンコートした培養シャーレ上で増殖が悪くなるまで継代培養を繰り返し、無血清培養による増殖限界を調べた。
その結果、本発明の培地によりフィーダー細胞と成り得る線維芽細胞は41.77PDLからでも7回の継代まで増殖が可能であり、線維芽細胞を有限分裂細胞の限界に近い約60PDLまで分裂できることが確認された(図9)。
このことから、本発明の培地はコラーゲンコートと組み合わせることにより、より多くのフィーダー細胞を作成することが可能であることが示唆された。
【0037】
(実施例6)
FBSを10v/v%添加したMEM培地で28.76PDLまで培養した細胞バンクより分譲されたヒト正常2倍体肺線維芽細胞株(TIG−3)を、フィーダー細胞作成培地(B)を用いて1.8×105cellsとなるように懸濁し、コラーゲンコートした培養シャーレ上で2回の継代培養を挟んで35.51PDLまで培養した。
ついで、最終濃度10μg/mlのMMCを含むフィーダー細胞作成培地(B)でTIG−3を2〜3時間培養し、細胞分裂を不活性化した。その後、MMCを含む培地を除き、細胞をPBSで3回洗浄した。トリプシン処理(0.25w/v%トリプシン、1 mM EDTA)により、洗浄後の細胞を培養シャーレから剥がし、細胞数をカウントした。その結果約2.1×107cellsのフィーダー細胞を得ることができた。
このことから、MRC−5以外の線維芽細胞株でも本発明の培地により大量のフィーダー細胞の作成が可能であることが示唆された。
【0038】
(比較例1)
実施例1と同様の細胞バンクより分譲されたMRC−5を、FGF1μg/L、インスリン5mg/Lが添加され、血清アルブミンを含まないMCDB202を改変したヒト初代線維芽細胞用培地(以下「FGM」という:Cambrex社)を用いて2.2×105cellsとなるように懸濁し、ゼラチンコートした培養シャーレ上で1回の継代培養を挟んで培養した。しかし継代後に細胞の増殖は停止し、MMC処理することはできず、フィーダー細胞の作成は困難であった。
【0039】
(比較例2)
実施例1と同様の細胞バンクより分譲されたMRC−5を、FGMを用いて2.2×105cellsとなるように懸濁し、コラーゲンコートした培養シャーレ上で1回の継代培養を挟んで培養した。しかし比較例1と同様、継代後細胞の増殖は停止し、MMC処理することはできずフィーダー細胞の作成は困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、ヒト胚性幹細胞を含めた胚性幹細胞の培養に用いられるフィーダー細胞を動物由来の感染のおそれが少ない無血清培地で生産することができる。また、ゼラチンやコラーゲン等の細胞接着因子と組み合わせることにより、長時間の培養が可能となるため、限られたドナー由来の材料を極限まで利用することが可能となり、フィーダー細胞のドナー変更による感染源混入の危険も非常に低くなる。また、実施例によって本発明は複数の株細胞で利用可能であることが確認されたことから、多種類の動物由来の胚性幹細胞に適したそれぞれのフィーダー細胞の作成にも利用されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血清アルブミン、インスリンおよび基本培地を含み、当該血清アルブミンの量が2g/L〜50g/L、当該インスリンの量が1mg/L〜100mg/Lであり、当該基本培地がMEM、α-MEM、DMEM、IMDM、Ham F10、Ham F12、Medium199、RPMI1640、RITC 80-7、MCDB104、MCDB105、MCDB153、MCDB201およびMCDB202から選択される少なくとも1種からなる、胚性幹細胞用フィーダー細胞作成培地。
【請求項2】
さらに細胞接着因子が含有されている、請求の範囲第1項に記載の培地。
【請求項3】
細胞接着因子が、コラーゲン、ゼラチン、ファイブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ポリリジン、ポリオルニチンおよびポリエチレンイミンから選択される少なくとも1種類である、請求の範囲第2項に記載の培地。
【請求項4】
さらに細胞増殖因子が含有されている、請求の範囲第1、2または3項に記載の培地。
【請求項5】
細胞増殖因子が、線維芽細胞増殖因子および上皮細胞増殖因子から選択される少なくとも1種類である、請求の範囲第4項に記載の培地。
【請求項6】
胎児表皮線維芽細胞、胎児筋線維芽細胞、胎児肺線維芽細胞、胎児上皮細胞、胎児内皮細胞、成体表皮線維芽細胞、成体肺線維芽細胞、成体上皮細胞および成体内皮細胞から選択される少なくとも1種の細胞種を含む細胞集団を請求の範囲第1〜5項のいずれか一項に記載の胚性幹細胞用フィーダー細胞作成培地中で培養増殖させる工程と、当該培養増殖された細胞集団をマイトマイシンCまたは放射線照射により増殖停止させる工程とを含む、胚性幹細胞用フィーダー細胞の製造方法。
【請求項7】
前記培養増殖工程を細胞接着因子をコートした培養容器中で行う、請求の範囲第6項に記載の製造方法。
【請求項8】
細胞接着因子が、コラーゲン、ゼラチン、ファイブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ポリリジン、ポリオルニチンおよびポリエチレンイミンから選択される少なくとも1種類である、請求の範囲第7項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記培養増殖工程において培養細胞を平均して20回以上細胞分裂させる、請求の範囲第6、7または8項に記載の製造方法。
【請求項10】
請求の範囲第6〜9項のいずれか一項に記載の製造方法で得られた胚性幹細胞用フィーダー細胞。

【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【国際公開番号】WO2005/078070
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【発行日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517970(P2005−517970)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002027
【国際出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(503341675)株式会社リプロセル (13)
【出願人】(000158208)旭テクノグラス株式会社 (81)
【出願人】(000002956)田辺製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】