説明

胚芽を原料に用いた醸造酒の製造方法

【課題】 米の胚芽を原料に用いた清酒等の醸造酒を製造する方法により、米に含まれるビタミンおよびミネラル等の栄養素を有効に製品中に回。収すること
【解決手段】 米を麹菌の作用で糖化し、更に酵母菌の作用でアルコール発酵させる工程を具備した醸造酒の製造方法において:玄米を精白して得た原料米を蒸して蒸米を得る工程と;得られた蒸米に、酒母、麹および水を加えて仕込む工程と;得られたし込み原料を発酵させてもろみを調製する工程と;前記玄米を精白する際に生じた胚芽を含む屑米を、前記もろみに添加して発酵を継続させる工程とを具備する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米の胚芽を原料に用いた清酒等の醸造酒を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
清酒は、米を醗酵させた「もろみ」を濾過することにより透明にした醸造酒で、その製造原理は次の通りである。
まず、米の主成分であるデンプンを「こうじ菌」の作用で糖化し、これを醗母菌でアルコール醗酵させる。この糖化−醗酵の工程は連続的かつ同時進行的に行なわれ、これによって清酒醗母は20%にも達する高濃度のアルコールを生成する。このような高濃度のアルコール醗酵は、世界の醸造酒の中でもあまり例をみない。より詳細に言えば、この糖化−発酵の工程は大略2段階で行われる。第一段階は、米、コウジ菌および酵母を用いて発酵させ、酒母と呼ばれる培養液を得る工程である。第二段階は、得られた酒母に米とコウジ菌とを添加し、発酵を継続させる工程である。このような糖化−醗酵により得られた「もろみ」を木綿の布袋に入れ、圧搾した後に濾過、精製したものが清酒である。近年では、酒造技術の研鑽が進み、吟醸酒のように芳醇な香りをもった清酒等、消費者の嗜好に合わせた種々の清酒が供給されている。
【0003】
従来の清酒の製造においては、次の理由から精白米が原料に用いられている。
米には主成分である澱粉の外にタンパク質や脂肪が含まれ、これらは糠や米の表層部に局在している。これらタンパク質や脂肪が発酵されると、フェーゼル油などのような異臭成分や各種の悪酔い成分を生成する。そこで、精白によりタンパク質および脂肪を除去し、得られた精白米を原料に用いるのである。
【0004】
しかし、米の栄養素のうち、ビタミンB1、ビタミンE、ミネラル等の大部分は胚芽に含まれており、該胚芽は精白によって除去されてしまう。その結果、精白米を原料とした従来の酒造法は、この貴重な栄養素を全く無駄にしていることになる。しかも、ビタミン類は悪酔いの防止にも効果的である。従って、これらを有効に利用できないことは、酒造技術における大きな欠点であると言える。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、異臭成分や各種の悪酔い成分の生成を極力抑制し、且つ米に含まれるビタミンおよびミネラル等の栄養素を有効に製品中に回収することが可能な、米を原料とする醸造酒の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、米を麹菌の作用で糖化し、更に酵母菌の作用でアルコール発酵させる工程を具備した醸造酒の製造方法において、
玄米を精白して得た原料米を蒸して蒸米を得る工程と、
得られた蒸米に、酒母、麹および水を加えて仕込む工程と、
得られたし込み原料を発酵させてもろみを調製する工程と、
前記玄米を精白する際に生じた胚芽を含む屑米を、前記もろみに添加して発酵を継続させる工程と
を具備することを特徴とするものである。
【0007】
本発明で用いる原料米とは、従来の酒造法において使用されているものと同じであり、玄米を精白して糊粉層(ぬか層)を除去した米をいう。その際には、ぬか層だけでなく、胚芽が除去され且つ米が研削されるので、ぬかおよび胚芽を含んだ屑米が副生する。胚芽にはビタミンB1、ビタミンE、ミネラル等が豊富に含まれているので、本発明ではこの屑米を有効利用することにより、米に含まれるビタミンおよびミネラル等の栄養素を有効に清酒製品中に回収すると共に、異臭成分や各種の悪酔い成分の生成を充分に抑制することに成功したものである。
なお、必要に応じ、上記のくず米は、蒸す前に適切に水洗を施し、混入されているぬかを除去して用いてもよい。しかし、ぬかを完全に除去することはできないので、例え水洗を施しても、最終的に得られる日本酒製品には、ぬかに特有の香りが多少なりとも残留し、これによって独特の味覚が生じる。
【0008】
本発明の特徴は、胚芽米をそのまま原料米として用いるのではなく、従来の製造方法と同様に、これを精白して得た原料米と、その際に副生した胚芽を含む屑米とを別々に用いることにある。即ち、得られた精白米は、従来と同様の方法で使用してもろみを製造する。一方、屑米は、最初から原料として使用するのではなく、上記で得られたもろみに添加して用い、更に発酵を継続させる。この屑米の使用量は、もろみ100重量部に対して30〜50重量部である。
上記の点を除き、洗米および発酵などの工程は従来の製造方法と同様に行う。
【作用】
【0009】
本発明においては、玄米を精白して得た通常の原料米に加えて、精白工程で副生したくず米を原料に用いるが、これにはビタミン類およびミネラルに富んだ胚芽が含まれている。従って、米が本来的に保有しているこれらの貴重な栄養素を無駄にすることなく、製品中に含ませることができる。また、清酒などの通常の製造法においては、発酵工程の終わりの方でアルコールを添加するから、ビタミンB1、Eなどの脂溶性ビタミン類についても、充分に醸造酒製品中に回収することができる。
その結果、本発明により製造された清酒などの醸造酒は、ビタミン類およびミネラル類が豊富に含まれるから、栄養学的に有意義であるのみならず、悪酔いなどの防止にも有効である。
一方、本発明においては、上記のくず米を予め水洗し、混入しているぬか層を除去して用いるようにすれば、原料としてもろみの中に導入されるタンパク質や脂肪の含有量は、玄米に比較して著しく少ない。従って、製品中に含まれるフェーゼル油等のような異臭成分や、各種の悪酔い成分の生成を可及的微量に抑制することができる。
【0010】
一方、本発明の最も大きな特徴である、胚芽を含んだくず米を蒸し、これをもろみに添加して発酵させることにより、胚芽米を原料米に用いた場合と比較して、次のような特有の効果を得ることができる。
第一に、精白した原料米のみから調製したもろみに対して別途くず米を加えるため、添加される胚芽の比率を任意に調節することができ、胚芽画分によって製品中に導入されるビタミンおよびミネラル類の量を調節することが可能である。
第二に、胚芽はくず米との混合物としてもろみに添加されるので、このくず米の追加発酵により生成するアミノ酸が製品に付加される。その結果、製品の旨みおよび甘みを増大させることができる。加えて、くず米に含まれるぬか層による特有の香りが加わること、更には組み合わされるもろみの種類(例えば、甘口酒用、辛口酒用、もしくは吟醸酒用のもろみ、または山廃仕込のもろみ等)を変える等により、新たな範疇の旨みや味覚をもった酒を創造のための手段が提供される。
【0011】
更に、くず米を廃棄することなく、これを有効に利用して酒を醸造できるので、コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上詳述したように、本発明によれば、精白工程で複製したくず米を有効利用しているため、製造コストを低減できることに加え、胚芽に含まれるビタミンおよびミネラル等の栄養素を有効に製品中に回収でき、しかも、くず米を使用しない従来の製造方法に比較して甘みおよび旨みを増大できるという効果を得ることができる。しかも、不可避的に加わる微量のぬか層による独特の香りや、くず米ともろみの種類の組合せにより、新たな味覚をもった日本酒を製造できる等、顕著な効果を得ることができる。
【実施例】
【0013】
以下、実施例に従って本発明を更に説明する。従来の一般的な日本酒の製造工程に従って、50%精白のコシヒカリを蒸して得た蒸米を、酒母、麹および仕込み水と合わせて仕込んだ。その際のし込み条件は下記の通りである。
蒸米 : 400g
麹米 : 100g
酒母(901号): 10mL
水 : 500mL
上記のし込み原料を16〜17℃で10日間熟成発酵させて、発酵生成物であるもろみを得た。
次いで、このもろみ100重量部に対して、玄米を精白する際に副生したくず米30重量部を蒸した後に添加し、上記と同じ温度で5日間、15〜16%のアルコール濃度が得られるまで発酵を継続させた。この発酵生成物を木綿の布袋に入れ、常法に従って圧搾、濾過、および精製を行うことにより、本発明の実施例清酒を得た。
他方、くず米の添加を省いた以外は上記と同様に行うことにより、従来の製造方法による比較例清酒を得た
【0014】
上記で得た実施例清酒および比較例清酒の両者を試飲し、比較したところ、実施例清酒は比較例清酒に比べて旨みおよび甘みが強く、且つくせのある独特の香りがあった。
更に、実施例清酒および比較例清酒の両方のサンプルを、胚芽に含まれる代表的なビタミンであるビタミンB1、および総アミノ酸の含量について、高速ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、下記に示す結果が得られた。なお、下記の数値は、清酒のアルコール度数当りの数値に換算したものである。

【0015】
上記の結果から明らかなように、本発明による実施例清酒は、ビタミンおよびアミノ酸の両方が比較例清酒によりも高率で含まれている。ビタミン量が高いのは、添加されたくず米に含まれる胚芽によるものであり、またアミノ酸の含量が高いのは、添加されたくず米の発酵分が寄与しているものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米を麹菌の作用で糖化し、更に酵母菌の作用でアルコール発酵させる工程を具備した醸造酒の製造方法において、
玄米を精白して得た原料米を蒸して蒸米を得る工程と、
得られた蒸米に、酒母、麹および水を加えて仕込む工程と、
得られたし込み原料を発酵させてもろみを調製する工程と;
前記玄米を精白する際に生じた胚芽を含む屑米を蒸した後に、前記もろみに添加して発酵を継続させる工程と
を具備することを特徴とする醸造酒の製造方法。
【請求項2】
前記くず米は、これを水で洗浄してぬか層を除去した後に使用する、請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2009−207469(P2009−207469A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84738(P2008−84738)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(591227860)朝日酒造株式会社 (1)
【Fターム(参考)】