説明

胚芽粉末、胚芽粉末の製造方法、タンパクの分解方法

【課題】 給水することで酵素反応制御物質を生成する胚芽粉末を提供する。
【解決手段】 表皮が割れ表皮内側の細胞が破壊されずに一部が露出した状態の胚芽粉末に水を加えると、給水第2期で分解酵素や分解酵素抑制物質などの酵素反応制御物質を胚芽粉末が生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素反応制御物質を生成する胚芽粉末、その製造方法および製造された胚芽粉末を用いたタンパクの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆を加工する商品は近年その価値が様々な分野で認められ、食品分野においても飲料の他、菓子、プレミックス粉など幅広い分野で商品化されている。これらはいずれも大豆の胚乳部分をそのまま加工して得られたものを利用しており機能性を有し、栄養価に富んだものとなっている。
【0003】
一方大豆の胚芽は、イソフラボン・サポニンなどの有効成分を高濃度に含有しており近年その生理活性機能が着目されている。
例えば、特許文献1には豆類の胚芽に麹菌を接種して生成物を加水分解してイソフラボンアグリコンを含有させる内容が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、胚芽由来のイソフラボン、サポニン、ペプチドの成分の性質を変化させてイソフラボンのアグリコンを得る技術について開示されている。
【0005】
また特許文献3には、大豆胚芽を原料として麹菌を用いてイソフラボンのアグリコンを生成させる技術について開示されている。
【0006】
更に特許文献4には、大豆胚芽を原料とし、タンパク質を酵素により加水分解し、ポリペプチドとサポニンを同時に得ることが提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−330707号公報
【特許文献2】特開2005−176610号公報
【特許文献3】WO2003/077904
【特許文献4】特開2007−44009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記した特許文献1〜4はいずれも醗酵処理であり、胚芽の有効成分を第三者である有用微生物により変換させるもので、胚芽そのものに酵素反応制御物質を産出させるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討の結果、胚芽をイソフラボンやサポニンの原料としてではなく、成長促進因子の他に、タンパク、デンプン及び脂肪を分解する酵素(プロテアーゼやリパーゼなど)や、分解酵素による分解速度を程よく制御する酵素阻害剤(インヒビター)などを放出する機能部分であるとの知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0010】
即ち、本発明に係る胚芽粉末は、大豆などの胚芽の表皮内側の細胞が破壊されずに表皮のみが破壊され、酵素反応制御物質を生成することが可能となっている。ここで、酵素反応制御物質とは分解酵素のみでなく酵素阻害剤(インヒビター)も含まれる。
また胚芽の表皮とは、従来言われている子葉を包んでいる薄皮ではなく、胚芽の最外郭の細胞層のことである。
【0011】
上記の状態の胚芽粉末を製造するには、通常の選別工程、脱皮工程及び精選工程を経た後に、胚芽を粉砕するが、このときの粉砕の程度を胚芽の表皮が割れ且つ表皮内側の細胞が破壊されずに一部が露出する程度とする。
【0012】
表皮が残っていると、後に胚芽粉末に給水しても、給水に遅れが生じ酵素反応制御物質の生成が起こりにくく、また酵素反応制御物質が生成されても外部に放出されにくい。また細胞が破壊されるまで粉砕してしまうと、給水しても酵素反応制御物質は生成されない。また、細胞壁が損傷しているか否かは、電子顕微鏡による観察で用判別できる。尚、従来は胚芽の細胞壁が破壊されるまで粉砕していた。
【0013】
また、細胞は機械的な因子のみでなく、温度によっても死んでしまうため、粉砕工程を含め、全ての工程において、50℃を超えないようにすることが好ましい。ただし、50℃を超えても短時間であれば問題はない。
【0014】
また、本発明に係る胚芽粉末を用いて、タンパクを分解するには、胚芽粉末に
給水し、給水第2期で胚芽粉末が生成する酵素反応制御物質を用いてタンパクを分解する。
【0015】
ここで、通常種子の給水に関しては、第1期〜第3期の3段階がある。給水第1期は普通に起こる給水で物理的給水を指し、死んだ種子でも起こる現象である。この給水第1期では、細胞がその種子貯蔵物質を分解してエネルギーを得る準備はできていない。
【0016】
給水第2期は給水停止期であり、この時期に胚芽内の様々な酵素や細胞内小器官の活性化が起こる。この時期に植物ホルモンが分泌されて各種の生化学反応の引金をひく。また糖類やタンパクが分解されて低分子化する。
【0017】
給水第3期は、胚芽の幼根の浸透ポテンシャルの低下により組織内水分が増加し、幼根組織が肥大化する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る胚芽粉末は胚芽細胞が破壊されていないため、給水することによって分解酵素や分解酵素抑制物質などの酵素反応制御物質を生成する。したがって、本発明に係る胚芽粉末を胚乳などに添加することで、その分量を調整することで飛躍的に分解反応速度を速めたり、特定の物質の生成量を高めるなどが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳しく説明する。
(実施例1)
選別された食用大豆を用い、原田産業製の脱皮機を用い、外皮と胚芽と胚乳に分離した。これらを風選により胚芽を精選した。選別された大豆胚芽10kgを原田産業社製の粉砕機を用い粒子径0.1mm〜10μmになるように粉砕を35℃で30分行い大豆胚芽粉末を得た。
【0020】
この大豆胚芽粉末を電子顕微鏡で観察したところ、図1の顕微鏡写真(200倍)に示すように、胚芽の表皮に割れが認められ、表皮内側の細胞が露出していることが確認された。この写真において、内部が黒く写っている細胞は生きており、写真からは殆んどの細胞が生きていることがわかる。
【0021】
(実施例2)
実施例1により得られた大豆胚芽粉末1部に対して、水10部を加え吸水を行った。給水が終了した段階(吸水第2期)で豆乳100部に対し添加し、1時間攪拌させた。しかる後、140℃で10秒加熱して豆乳飲料を得た。
【0022】
この豆乳飲料を原料の豆乳と比較した風味評価を行った。
20人のパネラーが5点評価で採点した。結果を表−1に示した。
このことから、豆乳の風味が向上していると言える。
【0023】
表−1

【0024】
(比較例)
原田産業社製の粉砕機を用い、粉砕条件を60℃、120分とした以外は実施例1と同一の条件で、大豆胚芽10kgを粒子径0.1mm〜10μmになるように粉砕した。
【0025】
この大豆胚芽粉末を電子顕微鏡で観察したところ、図2の顕微鏡写真(400倍)に示すように、一部に生きている細胞(内部が黒く写っている細胞)が存在するが、殆んどが自己融解している細胞(内部が白くなっているか斑になっている細胞)であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る胚芽粉末の電子顕微鏡写真(200倍)
【図2】細胞が破壊された胚芽粉末の電子顕微鏡写真(400倍)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種子の胚芽を粉砕して得られる粉体であって、この粉体は胚芽の表皮内側の細胞が破壊されずに表皮のみが破壊され、酵素反応制御物質を生成することを特徴とする胚芽粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の胚芽粉末において、前記種子は大豆であることを特徴とする胚芽粉末。
【請求項3】
種子と夾雑物との混合物から種子のみを選別する選別工程と、選別した種子を胚芽と皮と子葉に分ける脱皮工程、脱皮後の胚芽と皮と子葉から胚芽のみを取り出す精選工程と、精選された胚芽を表皮が割れ表皮内側の細胞が破壊されずに一部が露出するまで粉砕する粉砕工程とからなることを特徴とする胚芽粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の胚芽粉末の製造方法において、前記全ての工程における温度が50℃を超えないようにすることを特徴とする胚芽粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載された胚芽粉末に水を添加し、給水第2期で胚芽粉末が生成する酵素反応制御物質を用いてタンパクを分解することを特徴とするタンパクの分解方法。

【図1】
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【図2】
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