説明

胸部診断支援システム

【課題】胸部正面のみを撮影した動態画像に基づいて、横隔膜の下端部の動きを含めた換気機能の診断支援情報を提供できるようにする。
【解決手段】本発明に係る胸部診断支援システム100の診断用コンソール3によれば、制御部31は、撮影装置1により生成された胸部正面の動態を示す一連のフレーム画像において撮影順が隣接するフレーム画像間で信号値の差分値を算出し、算出した差分値に基づいて横隔膜の下端位置を算出する。また、一連のフレーム画像を解析して被写体の換気機能に係る特徴量を算出する。そして、一連の各フレーム画像に横隔膜下端位置を示す情報を重畳して順次切り替え表示するとともに、算出された換気機能を示す特徴量を表示部34の同一画面上に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胸部診断支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフィルム/スクリーンや輝尽性蛍光体プレートを用いた胸部の放射線による静止画撮影及び診断に対し、FPD(flat panel detector)等の半導体イメージセンサを利
用して胸部の動態画像を撮影し、診断に応用する試みがなされるようになってきている。具体的には、半導体イメージセンサの画像データの読取・消去の応答性の早さを利用し、半導体イメージセンサの読取・消去のタイミングと合わせて放射源からパルス状の放射線を連続照射し、1秒間に複数回の撮影を行って、胸部の動態を撮影する。撮影により取得された一連の複数枚の画像を順次表示することにより、医師は呼吸運動や心臓の拍動等に伴う胸部の一連の動きを観察することが可能となる。
【0003】
また、胸部の動態画像から呼吸による換気量等の診断に有用な特徴量情報を抽出する各種技術も提案されている。例えば、特許文献1には、胸部正面と胸部側面のそれぞれを動態撮影し、肺低位置と厚みの変化から肺の体積の変化を求め、これを換気量として取得する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−153678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、肺の疾患である慢性閉塞性肺疾患(COPD)による肺損傷は不可逆であり、肺実質が治癒することはなく、在宅酸素療法や呼吸器リハビリテーションによる呼吸筋運動のトレーニングにより日常生活の質の改善が行われている。そこで、呼吸筋運動のトレーニングにより呼吸機能の回復がみられているかを評価することが必要である。
【0006】
ここで、主な呼吸筋である横隔膜は、呼吸により上下するが、胸部正面を撮影した動態画像で容易に視認できるのは、横隔膜の上端部の形状だけある。
しかし、横隔膜は最大呼気時の形状のまま下腹部方向へ移動するのではなく、図4に示すように、横隔膜を構成するいくつかの筋肉の収縮により全体を変形させながら移動している。特に、横隔膜下端部が大きく変化することで、肺野の体積も変化している。よって、呼吸筋の動きを評価するには、横隔膜の上端のみでなく、下端部の動きを評価する必要がある。ところが、横隔膜の下端部の濃度は周囲との差が小さいため、視認することは困難である。
【0007】
そこで、特許文献1に記載のように、胸部正面と胸部側面の2方向から撮影することが考えられるが、患者の被曝量が増えるので好ましくない。また、胸部正面と胸部側面の2方向を同時に撮影することは難しく、別々に撮影した場合は呼吸位相のずれを調整する必要がある。
【0008】
本発明の課題は、胸部正面のみを撮影した動態画像に基づいて、横隔膜の下端部の動きを含めた換気機能の診断支援情報を提供できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の胸部診断支援システムは、
パルス照射可能な放射線源と、2次元状に配置された複数の検出素子により被写体を透過した放射線を検出して順次フレーム画像を生成する放射線検出器と、を有し、被写体の胸部正面の動態を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段により生成された一連のフレーム画像において、撮影順が隣接するフレーム画像間で信号値の差分値を算出し、算出した差分値に基づいて横隔膜の下端位置を算出する横隔膜位置算出手段と、
前記一連の各フレーム画像に前記横隔膜位置算出手段により算出された横隔膜下端位置を示す情報を重畳して前記一連のフレーム画像を順次切り替え表示する表示手段と、
を備える。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記撮影手段により生成された一連のフレーム画像を解析して前記被写体の換気機能に係る特徴量を算出する特徴量算出手段を有し、
前記表示手段は、前記算出された特徴量を前記一連のフレーム画像とともに表示する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、
前記特徴量算出手段は、前記撮影手段により生成された一連のフレーム画像を解析して換気量を示す特徴量、呼気時間及び吸気時間を示す特徴量、気流速度の指標となる特徴量のうち少なくとも一つを含む特徴量を算出する。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の発明において、
前記横隔膜位置算出手段は、前記放射線検出器における同一位置の検出素子の出力を示す画素を前記隣接するフレーム画像間で互いに対応付けて差分値を算出する。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の発明において、
前記横隔膜位置算出手段は、前記各フレーム画像を複数の画素ブロックに分割し、当該画素ブロック毎に画素信号値の代表値を算出して当該代表値に画素ブロック内の画素信号値を置き換え、前記放射線検出器における同一位置の検出素子の出力を示す画素ブロックを撮影順が隣接するフレーム画像間で互いに対応付けて差分値を算出する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、胸部正面のみを撮影した動態画像に基づいて、横隔膜の下端部の動きを含めた換気機能の診断支援情報を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態における胸部診断支援システムの全体構成を示す図である。
【図2】図1の撮影用コンソールの制御部により実行される撮影制御処理を示すフローチャートである。
【図3】図1の診断用コンソールの制御部により実行される画像解析処理を示すフローチャートである。
【図4】図4は、胸部正面のフレーム画像(胸部正面画像)と、胸部正面画像のA−A´で示す位置における側面の呼吸による変化を模式的に示す図である。
【図5】(a)は、図4に示す3つの胸部正面画像のA−A´で示す位置における出力信号値を模式的に示す図、(b)は、差分信号値を模式的に示す図である。
【図6】胸部側面の時間的な変化を示す図である。
【図7】胸部正面の時間的な変化を示す図である。
【図8】解析結果画面の一例を示す図である。
【図9】解析結果画面の他の表示態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0017】
〔胸部診断支援システム100の構成〕
まず、構成を説明する。
図1に、本実施の形態における胸部診断支援システム100の全体構成を示す。
図1に示すように、胸部診断支援システム100は、撮影装置1と、撮影用コンソール2とが通信ケーブル等により接続され、撮影用コンソール2と、診断用コンソール3とがLAN(Local Area Network)等の通信ネットワークNTを介して接続されて構成されている。胸部診断支援システム100を構成する各装置は、DICOM(Digital Image and Communications in Medicine)規格に準じており、各装置間の通信は、DICOMに則って行われる。
【0018】
〔撮影装置1の構成〕
撮影装置1は、例えば、呼吸運動に伴う肺の膨張及び収縮の形態変化、心臓の拍動等の、周期性(サイクル)を持つ胸部の動態を撮影する装置である。動態撮影は、人体の胸部に対し、X線等の放射線を連続照射して複数の画像を取得(即ち、連続撮影)することにより行う。この連続撮影により得られた一連の画像を動態画像と呼ぶ。また、動態画像を構成する複数の画像のそれぞれをフレーム画像と呼ぶ。
撮影装置1は、図1に示すように、放射線源11、放射線照射制御装置12、放射線検出部13、読取制御装置14等を備えて構成されている。
【0019】
放射線源11は、被写体Mを挟んで放射線検出部13と対向する位置に配置され、放射線照射制御装置12の制御に従って、被写体Mに対し放射線(X線)を照射する。
放射線照射制御装置12は、撮影用コンソール2に接続されており、撮影用コンソール2から入力された放射線照射条件に基づいて放射線源11を制御して放射線撮影を行う。撮影用コンソール2から入力される放射線照射条件は、例えば、連続照射時のパルスレート、パルス幅、パルス間隔、1撮影あたりの撮影フレーム数、X線管電流の値、X線管電圧の値、フィルタ種等である。パルスレートは、1秒あたりの放射線照射回数であり、後述するフレームレートと一致している。パルス幅は、放射線照射1回当たりの放射線照射時間である。パルス間隔は、連続撮影において、1回の放射線照射開始から次の放射線照射開始までの時間であり、後述するフレーム間隔と一致している。
【0020】
放射線検出部13は、FPD等の半導体イメージセンサにより構成される。FPDは、例えば、ガラス基板等を有しており、基板上の所定位置に、放射線源11から照射されて少なくとも被写体Mを透過した放射線をその強度に応じて検出し、検出した放射線を電気信号に変換して蓄積する複数の画素がマトリックス状に配列されている。各画素は、例えばTFT(Thin Film Transistor)等のスイッチング部により構成されている。
【0021】
読取制御装置14は、撮影用コンソール2に接続されている。読取制御装置14は、撮影用コンソール2から入力された画像読取条件に基づいて放射線検出部13の各画素のスイッチング部を制御して、当該各画素に蓄積された電気信号の読み取りをスイッチングしていき、放射線検出部13に蓄積された電気信号を読み取ることにより、画像データを取得する。この画像データがフレーム画像である。そして、読取制御装置14は、取得したフレーム画像を撮影用コンソール2に出力する。画像読取条件は、例えば、フレームレート、フレーム間隔、画素サイズ、画像サイズ(マトリックスサイズ)等である。フレームレートは、1秒あたりに取得するフレーム画像数であり、パルスレートと一致している。フレーム間隔は、連続撮影において、1回のフレーム画像の取得動作開始から次のフレーム画像の取得動作開始までの時間であり、パルス間隔と一致している。
【0022】
ここで、放射線照射制御装置12と読取制御装置14は互いに接続され、互いに同期信号をやりとりして放射線照射動作と画像の読み取りの動作を同調させるようになっている。この他、後述するオフセット補正に用いるオフセット補正係数を算出するための一又は複数の暗画像を取得するダーク読取時は、放射線照射動作と同期せず、放射線が照射されない状態で、リセット〜蓄積〜データ読取〜リセットの一連の画像の読み取り動作を行うが、一連の動態撮影前、一連の動態撮影後のいずれかのタイミングで行うようにしてもよい。
【0023】
〔撮影用コンソール2の構成〕
撮影用コンソール2は、放射線照射条件や画像読取条件を撮影装置1に出力して撮影装置1による放射線撮影及び放射線画像の読み取り動作を制御するとともに、撮影装置1により取得された動態画像を撮影技師によるポジショニングの確認や診断に適した画像であるか否かの確認用に表示する。
撮影用コンソール2は、図1に示すように、制御部21、記憶部22、操作部23、表示部24、通信部25を備えて構成され、各部はバス26により接続されている。
【0024】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory
)等により構成される。制御部21のCPUは、操作部23の操作に応じて、記憶部22に記憶されているシステムプログラムや各種処理プログラムを読み出してRAM内に展開し、展開されたプログラムに従って後述する撮影制御処理を始めとする各種処理を実行し、撮影用コンソール2各部の動作や、撮影装置1の放射線照射動作及び読み取り動作を集中制御する。
【0025】
記憶部22は、不揮発性の半導体メモリやハードディスク等により構成される。記憶部22は、制御部21で実行される各種プログラムやプログラムにより処理の実行に必要なパラメータ、或いは処理結果等のデータを記憶する。例えば、記憶部22は、図2に示す撮影制御処理を実行するための撮影制御処理プログラムを記憶している。また、記憶部22は、検査対象部位に対応付けて放射線照射条件及び画像読取条件を記憶している。各種プログラムは、読取可能なプログラムコードの形態で格納され、制御部21は、当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。
【0026】
操作部23は、カーソルキー、数字入力キー、及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、キーボードに対するキー操作やマウス操作により入力された指示信号を制御部21に出力する。また、操作部23は、表示部24の表示画面にタッチパネルを備えても良く、この場合、タッチパネルを介して入力された指示信号を制御部21に出力する。
【0027】
表示部24は、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)等のモニタにより構成され、制御部21から入力される表示信号の指示に従って、操作部23からの入力指示やデータ等を表示する。
【0028】
通信部25は、LANアダプタやモデムやTA(Terminal Adapter)等を備え、通信ネットワークNTに接続された各装置との間のデータ送受信を制御する。
【0029】
〔診断用コンソール3の構成〕
診断用コンソール3は、撮影用コンソール2から動態画像を取得し、取得した動態画像や後述するヒストグラム等の診断支援情報を表示して医師が読影診断するための動画像処理装置である。
診断用コンソール3は、図1に示すように、制御部31、記憶部32、操作部33、表示部34、通信部35を備えて構成され、各部はバス36により接続されている。
【0030】
制御部31は、CPU、RAM等により構成される。制御部31のCPUは、操作部33の操作に応じて、記憶部32に記憶されているシステムプログラムや、各種処理プログラムを読み出してRAM内に展開し、展開されたプログラムに従って、後述する画像解析処理を始めとする各種処理を実行し、診断用コンソール3各部の動作を集中制御する。
【0031】
記憶部32は、不揮発性の半導体メモリやハードディスク等により構成される。記憶部32は、制御部31で画像解析処理を実行するための画像解析処理プログラムを始めとする各種プログラムやプログラムにより処理の実行に必要なパラメータ、或いは処理結果等のデータを記憶する。これらの各種プログラムは、読取可能なプログラムコードの形態で格納され、制御部31は、当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。
【0032】
操作部33は、カーソルキー、数字入力キー、及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、キーボードに対するキー操作やマウス操作により入力された指示信号を制御部31に出力する。また、操作部33は、表示部34の表示画面にタッチパネルを備えても良く、この場合、タッチパネルを介して入力された指示信号を制御部31に出力する。
【0033】
表示部34は、LCDやCRT等のモニタにより構成され、制御部31から入力される表示信号の指示に従って、操作部33からの入力指示やデータ等を表示する。
【0034】
通信部35は、LANアダプタやモデムやTA等を備え、通信ネットワークNTに接続された各装置との間のデータ送受信を制御する。
【0035】
〔胸部診断支援システム100の動作〕
次に、上記胸部診断支援システム100における動作について説明する。
【0036】
(撮影装置1、撮影用コンソール2の動作)
まず、撮影装置1、撮影用コンソール2による撮影動作について説明する。
図2に、撮影用コンソール2の制御部21において実行される撮影制御処理を示す。撮影制御処理は、制御部21と記憶部22に記憶されている撮影制御処理プログラムとの協働により実行される。
【0037】
まず、撮影技師により撮影用コンソール2の操作部23が操作され、撮影対象(被写体M)の患者情報(患者の氏名、身長、体重、年齢、性別等)の入力が行われる(ステップS1)。
【0038】
次いで、放射線照射条件が記憶部22から読み出されて放射線照射制御装置12に設定されるとともに、画像読取条件が記憶部22から読み出されて読取制御装置14に設定される(ステップS2)。
【0039】
次いで、操作部23の操作による放射線照射の指示が待機される(ステップS3)。ここで、撮影実施者は、撮影装置1において被写体Mのポジショニング等の撮影準備を行うとともに、安静呼吸の動態を撮影するために被験者(被写体M)に楽にするように指示し、安静呼吸を促す。撮影準備が整った時点で、操作部23を操作して放射線照射指示を入力する。
【0040】
操作部23により放射線照射指示が入力されると(ステップS3;YES)、放射線照射制御装置12及び読取制御装置14に撮影開始指示が出力され、動態撮影が開始される(ステップS4)。即ち、放射線照射制御装置12に設定されたパルス間隔で放射線源11により放射線が照射され、放射線検出部13によりフレーム画像が取得される。予め定められたフレーム数の撮影が終了すると、制御部21により放射線照射制御装置12及び読取制御装置14に撮影終了の指示が出力され、撮影動作が停止される。撮影されるフレーム数は、少なくとも1呼吸サイクルが撮影できる枚数である。
【0041】
撮影により取得されたフレーム画像は順次撮影用コンソール2に入力され、各フレーム画像に対して補正処理が行われる(ステップS5)。ステップS5の補正処理においては、オフセット補正処理、ゲイン補正処理、欠陥画素補正処理、及びラグ(残像)補正の4つの補正処理が、必要に応じて行われる。
まず最初に、取得された各フレーム画像に対してオフセット補正処理が行われ、取得された各フレーム画像に重畳された暗電流に起因するオフセット値が除去される。オフセット補正処理では、例えば、取得した各フレーム画像の各画素値(濃度値。以下、信号値という)から、予め記憶されたオフセット補正係数を減算する処理が行われる。ここで、オフセット補正係数は、予め放射線非照射時に取得した複数の暗示画像(フレーム画像)を平均化した画像である。
次いで、ゲイン補正処理が行われ、各フレーム画像の各画素に対応する各検出素子の個体差や読み出しアンプのゲインムラによって生じる画素毎のばらつきが除去される。ゲイン補正処理では、例えば、オフセット補正後の各フレーム画像に、予め記憶されたゲイン補正係数を乗算する処理が行われる。ここで、ゲイン補正係数は、放射線検出部13に一様に放射線を照射した時に取得した複数のオフセット補正済みフレーム画像を平均化した画像と、このときの放射線照射条件で期待される出力信号値の関係から、補正後の各画素の信号値が一様となるように予め算出され、記憶された係数である。
次いで、欠陥画素補正処理が行われ、周囲の画素と比較して感度が非線形な画素や、感度がない欠落画素が除去される。欠陥画素補正処理では、例えば、予め記憶された欠陥画素位置情報マップに従って、欠陥画素位置情報マップに登録された各欠陥画素において、欠陥画素の信号値をその近傍の欠陥でない画素の信号値の平均値で置き換える処理が行われる。ここで、欠陥画素位置情報マップは、放射線検出部13に一様に放射線を照射した時に取得したオフセット補正、ゲイン補正済みのフレーム画像から、予め複数の欠陥画素が認識され、その欠陥画素の位置が登録されたマップである。上記オフセット補正係数及びゲイン補正係数、欠陥画素位置情報マップは、ビニングやダイナミックレンジ等の収集モードに応じて、予め、それぞれ最適な値が記憶されており、それぞれの収集モードにおいて対応する最適な値が読み出されるようになっている。
次いで、ラグ(残像)補正が行われる。ラグは、前回の放射線照射の影響が当回のフレーム画像中に表れる現象で、検出器の構成やフレームレート等に応じて、表れ方が異なることもあるので、撮影条件を考慮して補正処理が行われる。なお、各フレーム画像を用いてフレーム間差分処理を行う場合には、ラグ影響を無視しうることもあるので、必要に応じて補正処理が行われる。同様に、上述したオフセット補正処理、ゲイン補正処理、欠陥画素補正処理についても、解析結果の精度よりも解析処理速度を優先させる場合には、補正処理を割愛することとしても良い。
【0042】
次いで、補正処理後の各フレーム画像と、撮影順を示す番号と対応付けて記憶部22に記憶されるとともに(ステップS6)、表示部24に表示される(ステップS7)。ここで、各フレーム画像を記憶する直前に、各フレーム画像の各画素の信号値を真数から対数に変換する対数変換処理を行ってから記憶しても良い。撮影技師は、表示された動態画像によりポジショニング等を確認し、撮影により診断に適した画像が取得された(撮影OK)か、再撮影が必要(撮影NG)か、を判断する。そして、操作部23を操作して、判断結果を入力する。尚、撮影により取得された各フレーム画像は、全撮影の終了後に纏めて入力するようにしても良い。
【0043】
操作部23の所定の操作により撮影OKを示す判断結果が入力されると(ステップS8;YES)、動態撮影で取得された一連のフレーム画像のそれぞれに、動態画像を識別するための識別IDや、患者情報、検査対象部位、放射線照射条件、画像読取条件、撮影順を示す番号、撮影日時等の情報が付帯され(例えば、DICOM形式で画像データのヘッダ領域に書き込まれ)、通信部25を介して診断用コンソール3に送信される(ステップS9)。そして、本処理は終了する。一方、操作部23の所定の操作により撮影NGを示す判断結果が入力されると(ステップS8;NO)、記憶部22に記憶された一連のフレーム画像が削除され(ステップS10)、本処理は終了する。尚、このケースに於いては、再撮影が実行されることとなる。
【0044】
(診断用コンソール3の動作)
次に、診断用コンソール3における動作について説明する。
診断用コンソール3においては、通信部35を介して撮影用コンソール2から動態画像の一連のフレーム画像が受信されると、制御部31と記憶部32に記憶されている画像解析処理プログラムとの協働により図3に示す画像解析処理が実行される。
【0045】
以下、図3を参照して画像解析処理の流れについて説明する。
まず、各フレーム画像にビニング処理が施される(ステップS21)。ビニング処理は、各フレーム画像を所定サイズの画素ブロック単位、例えば、2mm×2mm角単位の小領域に分割し、各小領域内の画素の信号値の代表値(ここでは、平均信号値とする)を算出して小領域内の画素の信号値を算出された代表値に置き換える処理である。なお、代表値としては、平均値に限らず、中央値、平均値、最頻値としてもよい。
ビニング処理を施せば、後段の処理において各小領域単位を一つの画素とみなして取り扱うことで、処理対象の画素数を低減することができる。ビニング処理では、各フレーム画像間の対応する各小領域は検出素子の同じ位置の出力を示す画素群からなるように分割が行われる。例えば、フレーム画像上の同一画素位置(0、0)を基点として2mm×2mm角で分割が行われる。
なお、ビニング処理は、診断用コンソール3で行うことに限らず、撮影装置1で行うこととしてもよいし、撮影用コンソール2で行うこととしてもよい。これにより、撮影装置1及び撮影用コンソール2間での画像転送、撮影用コンソール2及び診断用コンソール3間での画像転送、撮影用コンソール2におけるポジショニング確認用の画像の表示処理時間等を短縮することができる。
【0046】
次いで、各フレーム画像に時間軸方向のローパスフィルタ処理が施される(ステップS22)。時間軸方向のローパスフィルタ処理は、換気による信号値の時間変化を抽出するための処理であり、例えば、カットオフ周波数0.5Hzでフィルタリングする。
【0047】
次いで、フレーム間差分処理が施される(ステップS23)。
フレーム間差分処理は、動態撮影により取得された一連のフレーム画像の同じ画素位置の小領域(FPDの同じ位置の検出素子から出力された領域)を互いに対応付け、各小領域毎に、隣接するフレーム画像間で信号値の差分値を算出し、フレーム間差分画像を作成する処理である。
【0048】
ここで、図4、図5を参照して横隔膜の動きと画像の信号値の関係について説明する。
図4は、胸部正面のフレーム画像(胸部正面画像)と、胸部正面画像のA−A´で示す位置における側面の呼吸による変化を模式的に示す図である。図5(a)は、図4に示す3つの胸部正面画像のA−A´で示す位置における出力信号値を模式的に示す図、図5(b)は、差分信号値を模式的に示す図である。なお、図5(a)、(b)において、破線で示す線は、図4の最大呼気位の出力信号値を示しており、一点鎖線で示す線は、図4の中間位相における出力信号値及び中間位相と最大呼気位とのフレーム間差分値を示しており、実線で示す線は、図4の最大吸気位における出力信号値及び最大吸気位と中間位相とのフレーム間差分値を示している。また、図5(a)において、GB間は最大呼気位、中間位相、最大吸気位の3つの線が略重なっている。なお、図4、図5においては深呼吸時を例として示しているが、安静呼吸時においても横隔膜の動きと画像の信号値との関係は同様である。
【0049】
呼吸サイクルは、呼気期と吸気期により構成される。呼気期は、横隔膜が上がることによって肺から空気が排出され、肺野の領域が小さくなる。最大呼気位では、横隔膜の位置が最も高い状態となる。吸気期は、横隔膜が下がることにより肺に空気が取り込まれ、胸郭中の肺野の領域が大きくなる。最大吸気位では、横隔膜の位置が最も下がった状態となる。
このように、肺野領域は、空気の出入りの行われる領域であるため、周囲の肺野外領域に比べて組織の密度が低く、放射線透過量が多い。そのため、X線撮影を行うと、肺野領域は肺野外領域に比べて信号値が大きくなる。
【0050】
図4の側面図においてBで示す位置は、最大呼気位における横隔膜の上端位置である。 図4の側面図においてCで示す位置は、中間位相における横隔膜の上端位置である。図4の側面図においてDで示す位置は、最大吸気位における横隔膜の上端位置である。これらの横隔膜の上端位置は、組織の密度の薄い肺野領域内の信号値から肺野外領域の信号値へと移行する境界であり、図4の胸部正面画像において肺底位置として目視により認識することができる。
一方、図4の側面図においてEで示す位置は、中間位相における横隔膜の下端位置である。図4の側面図においてFで示す位置は、最大吸気位における横隔膜の下端位置である。図4の側面図からわかるように、横隔膜は、実際には背面側に大きく動くものであり、横隔膜の動きを評価する際には、横隔膜背面部の下端位置の動きをとらえる必要がある。ところが、図5(a)に示すように、横隔膜背面部は周囲との信号値の差が小さいため、胸部正面画像から横隔膜の下端位置を目視で捉えることはできない。
【0051】
そこで、本願発明者は、鋭意検討し、隣接するフレーム画像間でフレーム間差分処理を行うことにより得られるX線の吸収率差を用いることにより、胸部正面画像から横隔膜の上端位置、及び背面部にある下端位置の動きを特定できることを見出した。
具体的には、図5(b)に示すように、隣接するフレーム画像間でフレーム間差分処理を行うと、横隔膜の上端位置は、フレーム間差分値が最大の位置となる。また、横隔膜の下端位置は、上端位置よりも下側であって、フレーム間差分値が略0と境界の位置となる。
【0052】
なお、フレーム画像間の差分値は、例えば、n枚目のフレーム画像の信号値からn−1枚目のフレーム画像の信号値を引くことにより算出する。1フレーム目の画像については1フレーム目の画像から最終のフレーム画像(例えば、9フレームあれば9フレーム目)を引いた差分値を算出する。
【0053】
ここで、従来、動態撮影で得られた一連のフレーム画像に基づき当該動態に関する特徴量を算出し、診断支援情報として提供するシステムにおいては、診断精度の向上のため、複数のフレーム画像において被写体の同一部分が描画された領域を互いに対応付ける、所謂ワーピング処理を行うことが必要であると考えられていた(例えば、特開2005−312775号公報、特開2004−312434号公報参照)。
【0054】
このワーピング処理を精密に行うには、一のフレーム画像内で所定サイズの画素ブロック単位からなる小領域を設定し、当該小領域に対応する領域(ここでは、同一の構造物が描画された領域)を各フレーム画像毎に抽出せねばならない。そして、この処理には、一般的には、被写体内構造物による空間的な濃度変化をもとに位置合わせを行うため、各画素のバラツキ特性は極力抑える必要がある。更に、高精度の位置合わせを行うには、分解能の細かい画像を必要とする。そのため、解析に必要なデータ量が多くなり、大容量メモリや高速処理CPU等のハードウエアが必要であり、かつ、処理時間も必要となっていた。
【0055】
しかし、本願発明者等が鋭意検討を行った結果、ワーピング処理を行わずとも、FPD個々の検出素子単位、又は複数画素をひとまとまりとした画素ブロック単位に動態撮影にかかる一連のフレーム画像間の差異を比較することで、同等の解析結果を得られることを見出した。
【0056】
以下、肺野を例にとり、ワーピング処理を行なわずとも同等の解析結果が得られる理由について説明する。
まず、体厚方向(z方向;側面)における信号値の変化ついて説明する。
図6は、安静呼気位である時刻T1における肺野の体厚方向(z方向)を模式的に示す図、時刻T1から吸気していくことにより安静吸気位となった時刻T2における肺野の体厚方向を模式的に示す図、及びFPDの検出素子位置(体軸方向(y方向))を模式的に示す図である。図6においては、吸気することにより肺胞a及び肺胞bのy方向の位置は下方へ移動し、時刻T1における肺胞bのy方向の位置と時刻T2における肺胞aのy方向の位置が一致した例を示している。
【0057】
吸気によって肺野内における肺胞の位置は移動する。そこで、フレーム画像間で同一の肺胞に対して位置合わせを行い、ワーピングしてから信号値の差分をとると、肺野外の部分でのz方向のX線減衰量は肺野のy方向の位置によって異なるため、肺胞の位置合わせを行うことにより、呼吸による肺胞の密度変化による信号増加分に対し、肺野外部分でのX線減衰量の差が加わってしまう。
【0058】
例えば、図6において、時刻T1におけるフレーム画像とT2におけるフレーム画像とで、肺胞bを位置合わせ及びワーピングをしてから信号値の差分をとると、この差分値の中には、時刻T1の実線の矢印で示す肺野外でのX線減衰量と、時刻T2の点線矢印で示す肺野外でのX線減衰量との差分も含んでいることとなり、この肺野外でのX線減衰量の差分が、同一肺胞間での呼吸による密度変化による信号値の変化に、誤差として加わることとなる。これにより、肺胞の密度変化による信号変化量の計算精度が下がる。
【0059】
ここで、肺胞の位置合わせ及びワーピングを行わず、時刻T1におけるフレーム画像の肺胞bと、時刻T2におけるフレーム画像の肺胞aを描画した画素(画素ブロック)、つまり、FPDの同一位置の検出素子(検出素子群)から出力された信号値の差分を計算することとする。このとき、この画素(画素ブロック)に描画されている肺胞は異なるが、肺野の同一のy方向位置に対して差分値を計算しているため、図6に示すように、肺野外におけるX線減衰量は変化しない。従って、異なる肺胞間で信号値の差分値を計算した場合、同一肺胞間での呼吸による密度変化の差による信号変化に対して、異なる肺胞間での密度の差による信号変化(図6の同一タイミングにおけるaとbの密度の差)が誤差として加わることとなる。
【0060】
「肺野内のy方向位置が異なる肺胞間での密度の違いによる信号変化」は「y方向位置が異なる肺野外におけるX線減衰量の違いによる信号変化」と同等又はそれ以下である。そのため、フレーム画像間での肺胞の位置合わせ及びワーピング処理は行わず、そのままFPDの画素単位で差分をとる方が、処理の手間が省け、同等レベルの誤差で肺胞の密度変化による信号変化量が算出できる。
【0061】
特に、個々の画素や小領域毎に内在する誤差成分は、肺野全体の換気量情報を算出する際に加算されて相殺されることになり、肺野全体の換気や血流に関する特徴量を算出する場合には、ワーピング処理による処理時間延長というマイナス効果しか得られないことになる。
【0062】
次に、x−y方向について検討する。図7に、肺野を正面(x−y方向)から見た図を示す。図7における実線は、図6における時刻T1のフレーム画像をx−y方向(正面)から見た図を示し、図7における点線は、図6における時刻T2のフレーム画像をx−y方向から見た図を示している。
図7に示すように、通常、呼気→吸気において、肺胞は左肺野の場合左下方向に、右肺野の場合右下方向に移動する。これを鉛直方向(y方向)への移動と水平方向(x方向)への移動に分解する。y方向への肺胞の移動に対するワーピング処理は前述のとおりである。以下に、安静換気時の、肺胞のx方向への移動について説明する。
【0063】
安静換気時の場合、胸郭の変化幅は最大でも10mm程度である。このとき、安静呼気位から安静吸気位に至る変化を考えた場合、x方向の移動量は、胸郭すぐ内側に位置する肺胞が最も大きく、5mm程度である。3.75枚/秒のフレームレートで動態画像を取得し、フレーム間差分値を算出する場合を考えると、隣接フレーム画像間での肺胞の移動量は更に小さくなり、無視しうる。安静換気時においてはx方向の移動量は小さく、ワーピング処理を施したときと施さないときの信号値の変化量は、ほぼ同等である。従って、x−Y方向においてもワーピング処理は不要である。
【0064】
以上の知見によれば、ワーピング処理を施さず、FPDの個々の検出素子の出力を示す画素単位、或いは小領域単位でフレーム間の差分値を算出すればよい。
【0065】
フレーム間差分処理が終了すると、各フレーム間差分画像において、フレーム間差分値の最大値付近が横隔膜の上端位置として算出され、算出された上端位置より下側であって、フレーム間差分値が略0となる境界の位置が横隔膜の下端位置として算出される(ステップS24)。
【0066】
次いで、各フレーム画像に、上記ステップS24で算出された上端位置と下端位置のそれぞれを示すラインL1、L2が重畳される(ステップS25)。例えば、nフレーム目のフレーム画像には、nフレーム目からn−1フレーム目を引いた差分信号値に基づいて算出された上端位置にラインL1が、下端位置にラインL2が重畳される。
【0067】
次いで、一連のフレーム画像における横隔膜の最下端位置が算出され、各フレーム画像の最下端位置にラインL3が重畳される(ステップS26)。
【0068】
次いで、換気に係る特徴量が算出される(ステップS27)。特徴量としては、例えば、以下の(1)〜(3)を算出することができる。
【0069】
(1)最大流速比のヒストグラム解析
肺野領域の各小領域毎に呼気期間と吸気期間のそれぞれの期間における気流速度の最大値を求め、その比(最大流速比)の分布を示すヒストグラムを作成して表示することで、閉塞性肺疾患(COPD)であるか否かの指標となる特徴量を医師に提供することが可能となる。
ここで、呼気期間は、呼吸1サイクル分(例えば、横隔膜が最も高い位置から次に最も高い位置にくるまで)のフレーム画像群において、上述の横隔膜が最も低い位置にあるフレーム画像の撮影タイミングから横隔膜が最も高い位置にあるフレーム画像の撮影タイミングまでの時間を算出することで求めることができる。吸気期間は、呼吸1サイクル分のフレーム画像群において、上述の横隔膜が最も高い位置にあるフレーム画像の撮影タイミングから横隔膜が最も低い位置にあるフレーム画像の撮影タイミングまでの時間を算出することで求めることができる。気流速度の最大値は、各小領域毎に、呼気期間、吸気期間における信号変化(フレーム間差分値)の最大値をそれぞれ算出することで求めることができる。
また、COPDであるか否かの指標となる、肺野全体での最大流速比の平均値や標準偏差を併せて算出するようにしてもよい。
【0070】
(2)吸気時間、呼気時間
吸気時間、呼気時間は、以下のようにして求めることができる。
時間軸方向のローパスフィルタ処理を施した各フレーム画像から肺野領域を抽出し、肺野領域内の信号値の平均値を求める→呼吸1サイクル中の平均信号値の最大信号値(極大値)、最小信号値(極小値)を算出する→最大信号値から最小信号値までの時間を呼気時間、最小信号値から最大信号値までの時間を呼気時間として算出する。
【0071】
(3)換気量(振幅)
換気量は、以下のようにして求めることができる。
時間軸方向のローパスフィルタ処理を施した各フレーム画像から肺野領域を抽出し、肺野領域内の信号値の平均値を求める→呼吸1サイクル中の平均信号値の最大信号値(極大値)、最小信号値(極小値)を算出する→最大信号値(極大値)−最小信号値(極小値)を算出する。
【0072】
特徴量の算出が終了すると、横隔膜の上端位置、下端位置、最下端位置を示すラインL1〜L3を重畳したフレーム画像を順次切り替え表示(動画表示)するとともに、算出された特徴量を表示する解析結果画面341が表示される(ステップS28)。
図8に、解析結果画面341の一例を示す。図8に示すように、解析結果画面341には、画像表示領域341aと、特徴量表示領域341bとが設けられている。画像表示領域341aには、図8に示すように、横隔膜の上端位置を示すラインL1、下端位置を示すラインL2、最下端位置を示すラインL3が表示された一連のフレーム画像が順次表示される(動画表示される)。特徴量表示領域341bには、上述のステップS27で算出された特徴量が表示される。最大流速比のヒストグラム解析のように、解析結果を示すヒストグラム等のグラフがある場合には、特徴量の数値とグラフが表示されるが、画面のサイズに応じて数値のみとしてもよい。
【0073】
解析結果画面341によれば、医師は、特徴量表示領域341bに表示された換気機能に係る特徴量を参照することで換気機能の全体の回復具合を確認しつつ、画像表示領域341bに表示された動態画像で横隔膜の上端位置及び下端位置の移動を確認することで、理想的な方向への回復が行われているか否かを判断することができる。
【0074】
なお、図9に示すように、横隔膜に基準点を設け、その基準点における上端位置を示すマークM1、下端位置を示すマークM2を表示することとしてもよい。基準点は、例えば、横隔膜の上下方向の平均位置等が考えられる。また、図9に示すように、その基準点における上端位置、下端位置の変化をグラフ表示してもよい。これらは、左右何れかの横隔膜について表示してもよいし、左右別々に表示してもよい。このようにすれば、医師は横隔膜の位置の変化をより明確に認識することができる。
【0075】
以上説明したように、胸部診断支援システム100によれば、診断用コンソール3の制御部31は、撮影装置1により生成された胸部正面の動態を示す一連のフレーム画像において撮影順が隣接するフレーム画像間で信号値の差分値を算出し、算出した差分値に基づいて横隔膜の下端位置を算出する。また、一連のフレーム画像を解析して被写体の換気機能に係る特徴量を算出する。そして、一連の各フレーム画像に横隔膜下端位置を示す情報を重畳して順次切り替え表示するとともに、算出された換気機能を示す特徴量を表示部34の同一画面上に表示する。
【0076】
従って、医師は、表示された換気機能に係る特徴量を参照することで換気機能の全体の回復具合を確認しつつ、表示された動態画像で横隔膜の下端位置の移動を確認することで、理想的な方向への回復が行われているか否かを判断することができる。このように、胸部診断支援システム100によれば、胸部正面のみを撮影した動態画像に基づいて、横隔膜の下端部の動きを含めた換気機能の診断支援情報を提供することが可能となる。
【0077】
また、一連のフレーム画像における横隔膜の最下端位置を算出し、一連の各フレーム画像に、更に横隔膜の最下端位置を示す情報を重畳して表示することで、医師が横隔膜の下端部の動きをより明確に把握することが可能となる。
【0078】
換気機能に係る特徴量としては、例えば、換気量を示す特徴量、呼気時間及び吸気時間を示す特徴量、気流速度の指標となる特徴量のうち少なくとも一つを含む特徴量が表示されるので、換気機能の全体の回復具合を医師が確認することが可能となる。
【0079】
フレーム間の差分値を算出する際には、放射線検出器における同一位置の検出素子の出力を示す画素を隣接するフレーム画像間で互いに対応付けて差分値を算出することで、ワーピング処理を施す場合に比べて短い処理時間でフレーム間の差分値の算出が可能となる。
【0080】
また、各フレーム画像を複数の画素ブロックに分割し、当該画素ブロック毎に画素信号値の代表値を算出して当該代表値に画素ブロック内の画素信号値を置き換え、放射線検出器における同一位置の検出素子の出力を示す画素ブロックを撮影順が隣接するフレーム画像間で互いに対応付けて差分値を算出することで、ワーピング処理を施してフレーム間差分処理を行う場合に比べてより一層短時間でのフレーム間の差分値の算出が可能となる。
【0081】
なお、上述した本実施の形態における記述は、本発明に係る好適な胸部診断支援システムの一例であり、これに限定されるものではない。
【0082】
例えば、上記実施の形態においては、横隔膜の上端位置と下端位置の双方を示す位置にラインを重畳して胸部正面の動態画像を表示することとしたが、上述のように、上端位置は視認可能であるので、下端位置のみを重畳表示することとしてもよい。
また、換気機能に関する特徴量は表示せず、横隔膜の位置情報のみを表示することとしても良い。
【0083】
また、上記実施の形態においては、ビニング処理を行って、対応する小領域単位でフレーム間差分値を算出する場合を例にとり説明したが、ビニング処理を行わず、同一の検出素子から出力された画素単位でフレーム間差分値を求めることとしてもよい。
【0084】
例えば、上記の説明では、本発明に係るプログラムのコンピュータ読み取り可能な媒体としてハードディスクや半導体の不揮発性メモリ等を使用した例を開示したが、この例に限定されない。その他のコンピュータ読み取り可能な媒体として、CD-ROM等の可搬型記録媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウエーブ(搬送波)も適用される。
【0085】
その他、胸部診断支援システム100を構成する各装置の細部構成及び細部動作に関しても、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0086】
100 胸部診断支援システム
1 撮影装置
11 放射線源
12 放射線照射制御装置
13 放射線検出部
14 読取制御装置
2 撮影用コンソール
21 制御部
22 記憶部
23 操作部
24 表示部
25 通信部
26 バス
3 診断用コンソール
31 制御部
32 記憶部
33 操作部
34 表示部
35 通信部
36 バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス照射可能な放射線源と、2次元状に配置された複数の検出素子により被写体を透過した放射線を検出して順次フレーム画像を生成する放射線検出器と、を有し、被写体の胸部正面の動態を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段により生成された一連のフレーム画像において、撮影順が隣接するフレーム画像間で信号値の差分値を算出し、算出した差分値に基づいて横隔膜の下端位置を算出する横隔膜位置算出手段と、
前記一連の各フレーム画像に前記横隔膜位置算出手段により算出された横隔膜下端位置を示す情報を重畳して前記一連のフレーム画像を順次切り替え表示する表示手段と、
を備える胸部診断支援システム。
【請求項2】
前記撮影手段により生成された一連のフレーム画像を解析して前記被写体の換気機能に係る特徴量を算出する特徴量算出手段を有し、
前記表示手段は、前記算出された特徴量を前記一連のフレーム画像とともに表示する請求項1に記載の胸部診断支援システム。
【請求項3】
前記特徴量算出手段は、前記撮影手段により生成された一連のフレーム画像を解析して換気量を示す特徴量、呼気時間及び吸気時間を示す特徴量、気流速度の指標となる特徴量のうち少なくとも一つを含む特徴量を算出する請求項2に記載の胸部診断支援システム。
【請求項4】
前記横隔膜位置算出手段は、前記放射線検出器における同一位置の検出素子の出力を示す画素を前記隣接するフレーム画像間で互いに対応付けて差分値を算出する請求項1〜3の何れか一項に記載の胸部診断支援システム。
【請求項5】
前記横隔膜位置算出手段は、前記各フレーム画像を複数の画素ブロックに分割し、当該画素ブロック毎に画素信号値の代表値を算出して当該代表値に画素ブロック内の画素信号値を置き換え、前記放射線検出器における同一位置の検出素子の出力を示す画素ブロックを撮影順が隣接するフレーム画像間で互いに対応付けて差分値を算出する請求項1〜3の何れか一項に記載の胸部診断支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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