能動的雑音低減システム
【課題】マイクロホンの機械的保護が確保された、使用者にとって心地の良いヘッドホンを有する改善された雑音低減システムを提供する。
【解決手段】能動的雑音低減システムは、イヤホンを備え、イヤホンは、開口部を有するカップ状の筐体と、電気信号を耳に放射されるべき音響信号へ変換する伝送変換器であって、カップ状の筐体の開口部に配置されてイヤホンの空洞を規定する伝送変換器と、音響信号を電気信号へ変換する受信変換器であって、イヤホンの空洞内に配置される受信変換器と、伝送変換器から耳まで延伸する第1の伝達特性を有する第1の音響経路と、伝送変換器から受信変換器まで延伸する第2の伝達特性を有する第2の音響経路と、受信変換器および伝送変換器に電気的に接続される制御ユニットであって、伝送変換器に供給される雑音低減電気信号を生成することによって周囲雑音に対する補償をする制御ユニットとを備える。
【解決手段】能動的雑音低減システムは、イヤホンを備え、イヤホンは、開口部を有するカップ状の筐体と、電気信号を耳に放射されるべき音響信号へ変換する伝送変換器であって、カップ状の筐体の開口部に配置されてイヤホンの空洞を規定する伝送変換器と、音響信号を電気信号へ変換する受信変換器であって、イヤホンの空洞内に配置される受信変換器と、伝送変換器から耳まで延伸する第1の伝達特性を有する第1の音響経路と、伝送変換器から受信変換器まで延伸する第2の伝達特性を有する第2の音響経路と、受信変換器および伝送変換器に電気的に接続される制御ユニットであって、伝送変換器に供給される雑音低減電気信号を生成することによって周囲雑音に対する補償をする制御ユニットとを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(1.分野)
雑音低減システムが本明細書において開示され、この雑音低減システムは、低減された周囲雑音で、例えば、再生された音楽などを使用者が楽しむことを可能にするヘッドホンを含む。
【背景技術】
【0002】
(2.関連技術)
ヘッドホンに組込まれる能動的雑音低減システム(能動的雑音キャンセリング(ANC)システムとしても公知)は、一般に利用可能である。現在、実際に使用されている雑音低減システムは、フィードバック型とフィードフォワード型とを含む2つの型に分類される。
【0003】
フィードバック型の雑音低減ヘッドホンにおいて、マイクロホンは、使用者の耳に装着される一種の音響管として提供される。音響管に進入する外部雑音は、マイクロホンによって収集され、位相が反転され、そして、マイクロホンと雑音源との間に配置されたスピーカから放出され、外部雑音を低減する。
【0004】
フィードフォワード型の雑音低減ヘッドホンにおいて、このヘッドホンが使用者の頭部に装着される場合、第1のマイクロホンがスピーカと耳道との間、つまり耳の近くに位置付けられる。第2のマイクロホンが雑音源とスピーカとの間に提供され、外部の音を収集するために使用される。第2のマイクロホンの出力は、第1のマイクロホンからスピーカまでの経路の伝送特性を、外部雑音が耳道に到達する際に沿う経路の伝送特性と同一にするために使用される。音響管に進入し、第1のマイクロホンによって収集される外部雑音は、その外部雑音を低減するために、位相が反転され、第1のマイクロホンと雑音源との間に配置されたスピーカから放出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
両方の型において、マイクロホンは、スピーカの前であって使用者の耳に近く配置されなければならず、このことは、一方で、使用者にとって心地が悪く、他方で、この位置におけるマイクロホンの機械的保護の低減に起因して、重大な損傷を導き得る。それゆえ、ヘッドホンを有する改善された雑音低減システムに対する一般的なニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書において記載される能動的雑音低減システムの一実施形態は、イヤホンを備え、このイヤホンは、それが周囲雑音に晒される場合、使用者の耳に音響的に結合されている。イヤホンは、開口部を有するカップ状の筐体と、電気信号を使用者の耳に放射される音響信号へ変換する伝送変換器であって、カップ状の筐体の開口部に配置され、それによってイヤホンの空洞を形成する、伝送変換器と、音響信号を電気信号へ変換する受信変換器であって、イヤホンの空洞内に配置される、受信変換器とを備える。このシステムは、伝送変換器から耳まで延伸する第1の音響経路であって、第1の伝達特性を有する、第1の音響経路と、伝送変換器から受信変換器まで延伸する第2の音響経路であって、第2の伝達特性を有する、第2の音響経路と、受信変換器および伝送変換器に電気的に接続されている制御ユニットであって、伝送変換器に供給される雑音低減電気信号を生成することによって周囲雑音を補償する、制御ユニットとをさらに備える。この雑音低減電気信号は、第3の伝達特性でフィルタ掛けされた受信変換器信号から導出され、この受信変換器信号において、第2および第3の伝達特性が共同で第1の伝達特性をモデル化する。
【0007】
以上により、本発明は、以下の手段を提供する。
【0008】
(項目1)
能動的雑音低減システムであって、
雑音に晒されている使用者の耳に音響的に結合されるイヤホンを備え、該イヤホンは、
開口部を有するカップ状の筐体と、
電気信号を、該使用者の耳に放射される音響信号へ変換する伝送変換器であって、該伝送変換器は、該カップ状の筐体の開口部に配置されることによってイヤホンの空洞を規定している、伝送変換器と、
音響信号を電気信号へ変換する受信変換器であって、該受信変換器は、該イヤホンの空洞内に配置されている、受信変換器と、
該伝送変換器から該耳まで延伸している第1の音響経路であって、第1の伝達特性を有する、第1の音響経路と、
該伝送変換器から該受信変換器まで延伸している第2の音響経路であって、第2の伝達特性を有する、第2の音響経路と、
該受信変換器および該伝送変換器に電気的に接続されている制御ユニットであって、該制御ユニットは、該伝送変換器に供給される雑音低減電気信号を生成することによって周囲雑音を補償する制御ユニットと
を備え、
該雑音低減電気信号は、第3の伝達特性でフィルタ掛けされた受信変換器信号から導出され、該第2の伝達特性および該第3の伝達特性は、共同で該第1の伝達特性をモデル化する、能動的雑音低減システム。
【0009】
(項目2)
上記雑音低減信号は、周囲雑音信号に比較して、時間に対する同一の振幅を有するが、逆の位相を有する、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0010】
(項目3)
上記伝送変換器によって放射される所望の信号を提供する信号源をさらに備えている、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0011】
(項目4)
上記制御ユニットは、第1のフィルタを備え、該第1のフィルタは、上記第1の伝達特性の逆数である第4の伝達特性を有し、第1のフィルタ掛けされた信号を提供する、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0012】
(項目5)
上記制御ユニットは、第2のフィルタをさらに備え、該第2のフィルタは、上記第2の伝達特性に等しい第5の伝達特性を有し、第2のフィルタ掛けされた信号を提供する、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0013】
(項目6)
上記制御ユニットは、
第1のフィルタと上記信号源とに接続されている減算ユニットであって、該減算ユニットは、出力信号を生成するために、上記所望の信号から第1のフィルタ掛けされた信号を減算し、該出力信号は、上記伝送変換器に供給され、反転された出力信号は、第2のフィルタに供給される、減算ユニットと、
該第2のフィルタと上記受信変換器とに接続されている加算ユニットであって、該加算ユニットは、電気雑音信号を生成するために、第2のフィルタ掛けされた信号を該受信変換器の信号出力に加算し、該電気雑音信号は、該第1のフィルタに供給される、加算ユニットと
を備えている、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0014】
(項目7)
上記第1のフィルタおよび上記第2のフィルタのうちの少なくとも一方は、適応フィルタである、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0015】
(項目8)
上記制御ユニットは、アナログ回路網またはデジタル回路網あるいは両方を備えている、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0016】
(項目9)
上記伝送変換器は、密閉封止された容積に搭載されている、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0017】
(項目10)
上記伝送変換器は、上記密閉封止された容積を形成するために、上記筐体に密閉して搭載されている、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0018】
(摘要)
能動的雑音低減システムが提示され、このシステムは、雑音に晒された使用者の耳に音響的に結合されるイヤホンを含む。イヤホンは、開口部を有するカップ状の筐体と、電気信号を、使用者の耳に放射される音響信号へ変換する伝送変換器であって、カップ状の筐体の開口部に配置され、それによってイヤホンの空洞を規定する、伝送変換器と、音響信号を電気信号へ変換する受信変換器であって、イヤホンの空洞内に配置される、受信変換器と、伝送変換器から耳まで延伸する第1の音響経路であって、第1の伝達特性を有する、第1の音響経路と、伝送変換器から受信変換器まで延伸する第2の音響経路であって、第2の伝達特性を有する、第2の音響経路と、受信変換器および伝送変換器に電気的に接続されている制御ユニットであって、伝送変換器に供給される雑音低減電気信号を生成することによって周囲雑音を補償する、制御ユニットとを有する。雑音低減電気信号は、第3の伝達特性でフィルタ掛けされた受信変換器信号から導出され、第2および第3の伝達特性は、共同で第1の伝達特性をモデル化する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図面の図解において示されている例示的な実施形態に基づいて、以下に様々な特定の実施形態がより詳細に記載される。別なふうに言及されない限り、同一の構成要素は、すべての図面において同一の参照番号で符号が付けられる。
【図1】図1は、公知のフィードバック能動的雑音低減システムの図示である。
【図2】図2は、公知のフィードフォワード雑音低減システムの図示である。
【図3】図3は、本明細書において開示されるフィードバック能動的雑音低減システムの実施形態の図示である。
【図4】図4は、本明細書において開示される能動的雑音低減システムの実施形態において利用されるイヤホンの図示である。
【図5】図5は、公知の能動的雑音低減システムにおける信号フローの図示である。
【図6】図6は、本明細書において開示される能動的雑音低減システムの実施形態における信号フローの図示であり、このシステムは閉ループ構造を有する。
【図7】図7は、本明細書において開示される能動的雑音低減システムの代替の実施形態における信号フローの図示であり、このシステムは閉ループ構造を有する。
【図8】図8は、図7に示されたシステムの根底にある基本原理の図示である。
【図9】図9は、本明細書において開示される能動的雑音低減システムの実施形態の図示であり、このシステムは、フィルタ付きx最小平均二乗(FxLMS)アルゴリズムを利用している。
【図10】図10は、本明細書において開示される能動的雑音低減システムの実施形態の図示であり、このシステムは、開ループ構造を有する。
【図11】図11は、拡散雑音場および2cmのマイクロホン距離におけるMSC関数を図示するダイヤグラムである。
【図12】図12は、拡散雑音場および2cmのマイクロホン距離における減衰関数を図示するダイヤグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、音響管1を有するフィードバック型の公知の能動的雑音低減システムの図示であり、この音響管1の中へ向かって、雑音(一次雑音2と称される)が第1の端において雑音源3から導入される。一次雑音2の音波は、管1を通して管1の第2の端まで進行し、この第2の端から、例えば、管が使用者の頭部に装着されている場合における使用者の耳の中へなど、音波が放射される。管の中の一次雑音2を低減またはキャンセルするために、例えば拡声器4などのスピーカがキャンセリング音5を管1の中へ導入する。キャンセリング音5は振幅を有し、この振幅は、外部雑音に少なくとも対応するが、好ましくは外部雑音と同一であり、逆の位相である。管1に進入する外部雑音2は、誤差マイクロホン6によって収集され、フィードバックANC処理ユニット7によって位相が反転された後、一次雑音2を低減するために拡声器4から放出される。誤差マイクロホン6は、拡声器4の下流に配置され、しかるに、拡声器4に対してよりも管1の第2の端により近く、つまり、上記の例において、誤差マイクロホン6は使用者の耳により近い。
【0021】
図2に示されているような公知のフィードフォワード型の能動的雑音低減システムを作製するために、図1に示されているようなシステムにおいて、雑音源3と拡声器4との間に追加的なリファレンスマイクロホン8が提供され、フィードバックANC処理ユニット7は、フィードフォワードANC処理ユニット9に置換えられる。リファレンスマイクロホン8は一次雑音2を収集し、その出力は、拡声器4から誤差マイクロホン6までの経路の伝送特性を適応するために使用され、これによって、拡声器4から誤差マイクロホン6までの経路の伝送特性は、一次雑音2が管1の第2の端(つまり、使用者の耳)に到達する際に沿う経路の伝送特性と合致する。誤差マイクロホン6によって収集された一次雑音2は、拡声器4から誤差マイクロホン6までの信号経路の適応された伝送特性を使用して位相が反転され、外部雑音を低減するために、2つのマイクロホン6、8の間に配置された拡声器4から放出される。伝送経路の適応化と同様に、信号の反転もフィードフォワードANC処理ユニット9によって実行される。
【0022】
本明細書において開示されるフィードバック能動的雑音低減システムの実施形態が図3に示されている。図3のシステムは、誤差マイクロホン6が、拡声器4と管1の第2の端との間に配置される代わりに、管1の第1の端と拡声器4との間に実際に配置されている点において、図1のシステムから異なる。さらには、フィルタ10が誤差マイクロホン6とフィードバックANC処理ユニット7との間に接続されている。フィルタ10は、マイクロホン6が拡声器4の下流に、つまり、拡声器4と管1の第2の端との間に仮想的に位置するように適応され、仮想的な誤差マイクロホン6’をモデル化する。
【0023】
図4は、本明細書において開示される能動的雑音低減システムの実施形態において利用されるイヤホン11の図示である。イヤホン11は、ヘッドホン(示されていない)の部分であり得、使用者13の耳12に音響的に結合され得る。本例において、耳12は、雑音源3から生じる一次雑音2を形成する周囲雑音に晒されている。イヤホン11は、開口部15を有するカップ状の筐体14を備える。開口部は、網、格子または任意の他の音透過性の構造または材料によって覆われる。
【0024】
耳12に放射されるように電気信号を音響信号に変換し、および、本例においてスピーカ16によって形成されている伝送変換器は、筐体14の開口部15に配置され、それによって、イヤホンの空洞17を形成する。スピーカ16は、筐体14に密閉して搭載され得、これにより、気密の空洞17を提供し、すなわち、密閉封止された容積を作製する。あるいは、空洞17は場合に応じて通気され得る。
【0025】
音響信号を電気信号に変換する受信変換器、例えば誤差マイクロホン18は、イヤホンの空洞17内に配置される。したがって、誤差マイクロホン18は、スピーカ16と雑音源2との間に配置される。音響経路19は、スピーカ16から耳12まで延伸し、HSE(z)の伝達特性を有する。音響経路20は、スピーカ16から誤差マイクロホン18まで延伸し、HSM(z)の伝達特性を有する。
【0026】
図5は、公知の能動的雑音低減システム(例えば図1のシステム)における信号フローの図示であり、このシステムは、スピーカ22によって音響的に放射されるように所望の信号x[n]を提供するための信号源21をさらに備える。スピーカはまた、例えば、図1のシステムにおける拡声器4など、キャンセリング拡声器としても作用する。スピーカ22によって放射される音は、伝達特性HSM(z)を有する(二次の)経路24を介して、誤差マイクロホン23(例えば、図1のマイクロホン6など)に伝達される。
【0027】
マイクロホン23は、雑音源(示されていない)からの雑音N[n]と共にスピーカ22から音を受信し、そこから電気信号e[n]を生成する。この信号e[n]は、信号e[n]からフィルタ26の出力信号を減算する減算器25に供給され、これにより、雑音N[n]の電気的表現である信号N*[n]を生成する。フィルタ26は、二次経路24の伝達特性HSM(z)の推定である伝達特性H*SM(z)を有する。信号N*[n]は、伝達特性H*SM(z)の逆数に等しい伝達特性を有するフィルタ27によってフィルタ掛けされた後、所望の信号x[n]からフィルタ27の出力信号を減算する減算器28に供給され、これにより、スピーカ22に供給されるべき信号を生成する。フィルタ26は、スピーカ22と同一の信号が供給される。図5を参照した上記のシステムにおいて、直ちに理解され得るように、いわゆる閉ループ構造が使用される。
【0028】
図6は、本明細書において開示される閉ループ能動的雑音低減システムの実施形態における信号フローを図示する。このシステムにおいて、伝達特性HSC(z)を有する追加的なフィルタ29が誤差マイクロホン23と減算器25との間に接続される。この伝達特性HSC(z)は、下記のように
HSC(z)=HSE(z)−HSM(z)
となる。
【0029】
したがって、実際の(物理的、現実的)二次経路24の伝達特性HSM(z)、HSC(z)およびフィルタ29は、共同で仮想的な(所望の)信号経路30の伝達特性HSE(z)をモデル化し、ここで、この信号経路30は、スピーカ22と、例えば使用者の耳12など所望の信号位置(以後「仮想マイクロホン」としても参照される)でのマイクロホンとの間の信号経路である。上記を、例えば図4のシステムに適用する場合、マイクロホン18は、雑音源3とスピーカ16との間のその現実の位置から、使用者の耳12における(所望の)位置(耳マイクロホン12として描写されている)まで仮想的に移動され得る。
【0030】
図3のシステムにおいて、所望の信号経路は、拡声器4から仮想マイクロホン6’まで延伸する。物理的(現実的)信号経路は、マイクロホン6から拡声器4まで延伸する。マイクロホン6の下流のフィルタ29によって、現実的マイクロホン6の位置は、マイクロホン6’の位置に仮想的に移動される。
【0031】
図7は、本明細書において開示される閉ループ能動的雑音低減システムの代替の実施形態における信号フローを図示する。ここにおいても、信号源21は、所望の信号x[n]をスピーカ22に供給し、スピーカ22は、信号x[n]を音響的に放射するためだけでなく、能動的に雑音を低減するために作用する。スピーカ22によって放射される音は、伝達特性HSM(z)を有する(二次の)経路24を介して、誤差マイクロホン23に伝搬する。
【0032】
マイクロホン23は、雑音N[n]と共にスピーカ22から音を受信し、そこから電気信号e[n]を生成する。信号e[n]は、フィルタ26の出力信号を信号e[n]に加算する加算器31に供給され、これにより、雑音N[n]の電気的表現である信号N*[n](本例においては推定)を生成する。フィルタ26は、二次経路24の伝達特性HSM(z)に対応する伝達特性H*SM(z)を有する。信号N*[n]は、伝達特性HSE(z)の逆数に等しい伝達特性を有するフィルタ32によってフィルタ掛けされた後、所望の信号x[n]からフィルタ32の出力信号を減算する減算器28に供給され、これにより、スピーカ22に供給されるべき信号を生成する。フィルタ26は、フィルタ32の出力信号から信号x[n]を減算する減算器33の出力信号が供給される。
【0033】
図8は、図7に示されたシステムの根底にある基本原理の図示であり、このシステムにおいて、雑音源34は、P(z)の伝達特性を有する一次(伝送)経路36を介して、雑音信号d[n]を誤差マイクロホン35に送り、誤差マイクロホン35の位置で雑音信号d’[n]を算出する。
【0034】
誤差信号e[n]は、信号e[n]からフィルタ41の出力信号を減算する加算器40に供給され、これにより、雑音信号d’[n]の推定された表現である信号d^[n]を生成する。フィルタ41は、二次経路39の伝達特性S(z)の推定である伝達特性S^(z)を有する。信号d^[n]は、W(z)の伝達特性を有するフィルタ42によってフィルタ掛けされた後、信号源37によって与えられる、例えば、音楽またはスピーチなどの所望の信号x[n]からフィルタ42の出力信号を減算する減算器43に供給され、S(z)の伝達特性を有する二次(伝送)経路39を介しての誤差マイクロホン35への伝送のために、スピーカ38に供給されるべき信号を生成する。フィルタ41は、所望の信号x[n]からフィルタ42の出力信号を減算する減算器43からの出力信号が供給される。
【0035】
図8のシステムは、図9を参照して後述されるように、適応アルゴリズムを使用して強化され得る。このシステムにおいて、フィルタ42は、適応制御ユニット44によって制御されている制御可能フィルタである。適応制御ユニット44は、減算器40からフィルタ45によってフィルタ掛けされた信号d^[n]を、および、誤差マイクロホン35から誤差信号e[n]を受信する。フィルタ45は、フィルタ41と同一の伝達特性、すなわちS^(z)を有する。制御可能フィルタ41および制御ユニット44は、共同で適応フィルタを形成し、この適応フィルタは、例えば、いわゆる最小平均二乗(LMS)アルゴリズム、または本例の場合におけるように、フィルタ付きx最小平均二乗(FxLMS)アルゴリズムなどの適応化のために使用し得る。しかしながら、フィルタ付きeLMSアルゴリズムまたは同様なものなど、他のアルゴリズムもまた適切であり得る。
【0036】
一般的に、図8および図9に示されるようなフィードバックANCシステムは、純粋な雑音信号d’[n]を推定し、この推定された雑音信号d^[n]をANCフィルタ(すなわち、本例におけるフィルタ42)へ入力する。純粋な雑音信号d’[n]を推定するために、スピーカ38から誤差マイクロホン35までの音響的な二次経路39の伝達特性S(z)が推定される。二次経路39の推定された伝達特性S^(z)は、スピーカ38に供給される信号を電気的にフィルタ掛けするために、フィルタ41において使用される。誤差信号e[n]からフィルタ41の信号出力を減算することによって、推定された雑音信号d^[n]が得られる。推定された二次経路S^(z)が実際の二次経路S(z)と全く同一である場合、推定された雑音信号d^[n]は、実際の純粋な雑音信号d’[n]と全く同一である。推定された雑音信号d^[n]は、伝達特性W(z)を有する(ANC)42においてフィルタ掛けされ、ここで、
W(z)=P(z)/S(z)
であり、その後、所望の信号x[n]から減算される。信号e[n]は下記の、
e[n]=d[n]・P(z)+x[n]・S(z)−d^[n]・(P(z)/S^(z))・S(z)=x[n]・S(z)
のようになり得、ただし、S^(z)=S(z)かつd^[n]=d’[n]であるような場合、および、そのような場合に限る。
【0037】
推定された雑音信号d^[n]は、下記の、
d^[n]=e[n]−(x[n]−d’[n]・(P(z)/S^(z))・S^(z))=d’[n]・P(z)=d[n]
のようになり、ただし、S^(z)=S(z)の場合、および、その場合に限る。
【0038】
したがって、推定された雑音信号d^[n]は、実際の雑音信号d[n]をモデル化する。
【0039】
上記のシステムなどの閉ループシステムは、信号がスピーカに供給される前に、推定された雑音信号を所望の信号から減算することによって、所望の信号の不必要な低減を減少することを目的とする。開ループシステムにおいて、誤差信号は、特別なフィルタを通して与えられ、この特別なフィルタにおいて、誤差信号は、安定性のための適度なループ利得を達成するために低域通過フィルタ(例えば1kHz未満)に掛けられて利得が制御され、および、雑音低減効果を達成するために位相適応(例えば反転)される。しかしながら、開ループシステムは、所望の信号が低減されることを生じ得ることが理解され得る。他方、開ループシステムは、閉ループシステムほど複雑ではない。
【0040】
本明細書において開示される型の開ループANCシステムが図10に示されている。信号源51は、音楽信号などの有用な信号を加算器46に提供し、加算器46の出力信号は、適切な信号処理回路網(示されていない)を介してスピーカ47に供給される。加算器46はまた、誤差信号を受信し、この誤差信号は、誤差マイクロホン48によって提供され、直列に接続されたフィルタ49およびフィルタ50によってフィルタ掛けされる。フィルタ50は、HOL(z)の伝達特性を有し、フィルタ49は、HSC(z)の伝達特性を有する。伝達特性HOL(z)は、一般的な開ループシステムの特性であり、伝達特性HSC(z)は、誤差マイクロホン48の仮想位置と実際の位置との間における差異に対する補償をするための特性である。
【0041】
一般的な閉ループANCシステムは、誤差マイクロホンが可能な限り耳に近く、すなわち耳の中に搭載された場合、その最高の性能を発揮する。しかしながら、誤差マイクロホンを耳の中に位置させることは、聴取者にとって著しく不便であり、聴取者によって知覚される音を劣化させる。誤差マイクロホンを耳の外側に位置させることは、ANCシステムの品質を悪化させる。このジレンマを解決するために、幾多のシステムが導入されてきたが、これらは主として機械的構造の改変に依拠しており、すなわち、スピーカと誤差マイクロホンとの間にコンパクトな容器を提供するように試みられており、このことは、例えば、人がヘッドホンを装着する方法によって、または異なる使用者によって、理想的には邪魔になり得ない。このような機械的改変が安定性の問題をある程度まで確かに解決できるということにもかかわらず、それらの改変は、それらがスピーカと聴取者の耳との間に位置するということに起因して、なおも音響的性能を歪曲する。
【0042】
上記で概説されたジレンマを克服するために、アナログ信号処理またはデジタル信号処理(あるいは両方)を利用するシステムが本明細書において提示され、これにより、一方において、誤差マイクロホンが耳から離れて位置すること、他方において、恒常的に安定した性能を保証することを可能にする。本明細書において開示されるシステムは、スピーカの背後に、つまり、耳カップとスピーカとの間に誤差マイクロホンを設置することによって、安定性の問題を解決する。このことは、いかなる場合においても音響的性能を歪曲しない確定した容器を提供する。このシステムにおいて、誤差マイクロホンは、聴取者の耳から僅かに遠方に離れて設置され、必然的に悪化したANC性能に至る。この問題は、使用者の耳の中に直に設置される「仮想マイクロホン」を利用することによって克服される。「仮想マイクロホン」は、マイクロホンが実際に一位置に配置されるが、適切な信号フィルタリングによって別の「仮想的」位置にあるように出現することを意味する。以下の例は、デジタル信号処理に基づいており、これによって、使用されるすべての信号および伝達特性は、離散時間およびスペクトル領域(n,z)内にある。アナログ処理に対しては、連続時間およびスペクトル領域(t,s)における信号および伝達特性が使用され、このことは、考察中の例において、nはtによって、およびzはsによって置換えられることのみが必要であることを意味する。
【0043】
再び図6を参照すると、「仮想的」誤差マイクロホンを作製するために、スピーカから耳までの信号経路(所望の二次経路)上の伝達特性である理想的な伝達特性HSE(z)が査定され、スピーカから誤差マイクロホンまでの信号経路(現実の二次経路)上の実際の伝達特性HSM(z)が決定される。仮想マイクロホン位置において理想的な音の受信と最適な雑音キャンセル作用とを提供するフィルタ特性W(z)を決定するために、フィルタ特性W(z)は、W(z)=1/HSE(z)に設定される。仮想的な誤差マイクロホンによって受信される総和の信号x[n]・HSE(z)は、
【0044】
【数1】
となり、ここで、ANCシステムの入力信号を形成する推定された雑音信号N[n]は、
【0045】
【数2】
となる。
【0046】
上記の方程式から、最適な雑音抑制は、仮想位置での推定された雑音信号N[n]が、その位置が聴取者の耳の中にあるときと同一である場合に達成されることが理解され得る。雑音抑制アルゴリズムの品質は、二次経路S(z)の伝達特性HSM(z)によって表わされる本例の場合において、主として二次経路S(z)の精度に依存する。二次経路が変化する場合、システムは、その新たな状況に適応せねばならず、このことは、時間を消費するコスト高の追加的な信号処理を必要とする。
【0047】
本明細書において開示されるシステムの主なアプローチは、追加的な信号処理の複雑度を低く維持するために、二次経路を本質的に安定に、つまり、その伝達特性HSM(z)を一定に維持することを含む。このために、誤差マイクロホンは、異なる動作のモードが二次経路の伝達特性HSM(z)の重大な変動を発生させないような位置に配置される。本明細書において開示されるシステムにおいて、誤差マイクロホンは、イヤホンの空洞内に配置され、このことは、変動に対して比較的鈍感であるが、比較的に耳から遠く離れ、これによって、ANCアルゴリズムの全体的性能が乏しくなる。しかしながら、非常に僅かな追加的信号処理のみを必要とする追加的な(全域通過)フィルタリングが提供され、これにより、耳までのより大きな距離の欠点に対する補償をする。伝達特性1/HSE(z)およびHSM(z)を実現するために必要とされる追加的な信号処理は、デジタル回路網によってのみでなく、演算増幅器を使用するプログラム可能なRCフィルタなどのアナログ回路網によっても同様に提供され得る。
【0048】
上記で指摘されたように、仮想マイクロホンを利用するANCシステムの性能は、実際の誤差マイクロホンの位置での雑音信号と、仮想マイクロホン(つまり、耳)の位置での雑音信号との間の差異に本質的に依存する。連続スペクトル領域におけるこのようなANCシステムの性能の推定のために、いわゆる最大二乗コヒーレンス(MSC)関数Cij(ω)が使用され、その定義は、下記の、
【0049】
【数3】
であり、ここで、PXiXi(ω)およびPXjXj(ω)は、信号Xiおよび信号Xjのオートパワー密度スペクトルであり、PXiXj(ω)は、信号Xiおよび信号Xjのクロスパワー密度スペクトルである。Cij(ω)は、2つのマイクロホンiおよびjの複素コヒーレンス関数である。複素コヒーレンス関数Cij(ω)は、基本的にローカルの雑音場に依存する。後述される最悪の場合の考察においては、拡散雑音場が仮定される。このような場は、
【0050】
【数4】
のように記述され得、ここで、fは周波数([Hz]にて)、dijはマイクロホンiとマイクロホンjとの間の距離([m]にて)、cは室温における空気中の音速(c=340[m/s])、およびMはマイクロホンの数(本例の場合においては2)であり、ここで、SI関数は、
【0051】
【数5】
であり、距離dijは、
【0052】
【数6】
である。
【0053】
MSC関数は、時間領域における相関係数のように、2つの処理の線形の相互依存性の度合である。信号xi(t)および信号xj(t)がそれぞれの周波数ωにおいて完全に相関している場合、MSC関数Cij(ω)はその最大値1になり、これらの信号が全く相関していない場合、MSC関数Cij(ω)はその最小値0になる。したがって、
1≧Cij(ω)≧0
である。
【0054】
MSC関数は、マイクロホンjからの信号がマイクロホンiからの信号に基づいて線形に推定されている場合に発生する誤差を記述する。拡散雑音場において、距離がd=2cmである場合、MSC関数は、図11に図示されたように振舞う。最大のANC減衰Dij(ω)は、MSC関数Cij(ω)から導出され、下記の、
Dij(ω)=20・log10(1−Cij(ω)) (単位[dB])
となる。
【0055】
図12は、2cmのマイクロホン距離を有する拡散雑音場において生じる減衰関数Dij(ω)(単位[dB])を示す。図12から理解されるように、理論上、2cmのマイクロホン距離を有する拡散雑音場において、1kHzの周波数で雑音抑制(減衰)Dij(ω)=27dBが達成され得、これは大いに十分である。
【符号の説明】
【0056】
1 音響管
2 一次雑音
3、34 雑音源
4 拡声器
5 キャンセリング音
6、18、23、35、48 誤差マイクロホン
6’ 仮想的な誤差マイクロホン
7 フィードバックANC処理ユニット
8 リファレンスマイクロホン
9 フィードフォワードANC処理ユニット
10、26、27、29、32、41、42、45、49、50 フィルタ
11 イヤホン
12 耳
13 使用者
14 カップ状の筐体
15 開口部
16、22、38、47 スピーカ
17 イヤホンの空洞
19、20 音響経路
【技術分野】
【0001】
(1.分野)
雑音低減システムが本明細書において開示され、この雑音低減システムは、低減された周囲雑音で、例えば、再生された音楽などを使用者が楽しむことを可能にするヘッドホンを含む。
【背景技術】
【0002】
(2.関連技術)
ヘッドホンに組込まれる能動的雑音低減システム(能動的雑音キャンセリング(ANC)システムとしても公知)は、一般に利用可能である。現在、実際に使用されている雑音低減システムは、フィードバック型とフィードフォワード型とを含む2つの型に分類される。
【0003】
フィードバック型の雑音低減ヘッドホンにおいて、マイクロホンは、使用者の耳に装着される一種の音響管として提供される。音響管に進入する外部雑音は、マイクロホンによって収集され、位相が反転され、そして、マイクロホンと雑音源との間に配置されたスピーカから放出され、外部雑音を低減する。
【0004】
フィードフォワード型の雑音低減ヘッドホンにおいて、このヘッドホンが使用者の頭部に装着される場合、第1のマイクロホンがスピーカと耳道との間、つまり耳の近くに位置付けられる。第2のマイクロホンが雑音源とスピーカとの間に提供され、外部の音を収集するために使用される。第2のマイクロホンの出力は、第1のマイクロホンからスピーカまでの経路の伝送特性を、外部雑音が耳道に到達する際に沿う経路の伝送特性と同一にするために使用される。音響管に進入し、第1のマイクロホンによって収集される外部雑音は、その外部雑音を低減するために、位相が反転され、第1のマイクロホンと雑音源との間に配置されたスピーカから放出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
両方の型において、マイクロホンは、スピーカの前であって使用者の耳に近く配置されなければならず、このことは、一方で、使用者にとって心地が悪く、他方で、この位置におけるマイクロホンの機械的保護の低減に起因して、重大な損傷を導き得る。それゆえ、ヘッドホンを有する改善された雑音低減システムに対する一般的なニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書において記載される能動的雑音低減システムの一実施形態は、イヤホンを備え、このイヤホンは、それが周囲雑音に晒される場合、使用者の耳に音響的に結合されている。イヤホンは、開口部を有するカップ状の筐体と、電気信号を使用者の耳に放射される音響信号へ変換する伝送変換器であって、カップ状の筐体の開口部に配置され、それによってイヤホンの空洞を形成する、伝送変換器と、音響信号を電気信号へ変換する受信変換器であって、イヤホンの空洞内に配置される、受信変換器とを備える。このシステムは、伝送変換器から耳まで延伸する第1の音響経路であって、第1の伝達特性を有する、第1の音響経路と、伝送変換器から受信変換器まで延伸する第2の音響経路であって、第2の伝達特性を有する、第2の音響経路と、受信変換器および伝送変換器に電気的に接続されている制御ユニットであって、伝送変換器に供給される雑音低減電気信号を生成することによって周囲雑音を補償する、制御ユニットとをさらに備える。この雑音低減電気信号は、第3の伝達特性でフィルタ掛けされた受信変換器信号から導出され、この受信変換器信号において、第2および第3の伝達特性が共同で第1の伝達特性をモデル化する。
【0007】
以上により、本発明は、以下の手段を提供する。
【0008】
(項目1)
能動的雑音低減システムであって、
雑音に晒されている使用者の耳に音響的に結合されるイヤホンを備え、該イヤホンは、
開口部を有するカップ状の筐体と、
電気信号を、該使用者の耳に放射される音響信号へ変換する伝送変換器であって、該伝送変換器は、該カップ状の筐体の開口部に配置されることによってイヤホンの空洞を規定している、伝送変換器と、
音響信号を電気信号へ変換する受信変換器であって、該受信変換器は、該イヤホンの空洞内に配置されている、受信変換器と、
該伝送変換器から該耳まで延伸している第1の音響経路であって、第1の伝達特性を有する、第1の音響経路と、
該伝送変換器から該受信変換器まで延伸している第2の音響経路であって、第2の伝達特性を有する、第2の音響経路と、
該受信変換器および該伝送変換器に電気的に接続されている制御ユニットであって、該制御ユニットは、該伝送変換器に供給される雑音低減電気信号を生成することによって周囲雑音を補償する制御ユニットと
を備え、
該雑音低減電気信号は、第3の伝達特性でフィルタ掛けされた受信変換器信号から導出され、該第2の伝達特性および該第3の伝達特性は、共同で該第1の伝達特性をモデル化する、能動的雑音低減システム。
【0009】
(項目2)
上記雑音低減信号は、周囲雑音信号に比較して、時間に対する同一の振幅を有するが、逆の位相を有する、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0010】
(項目3)
上記伝送変換器によって放射される所望の信号を提供する信号源をさらに備えている、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0011】
(項目4)
上記制御ユニットは、第1のフィルタを備え、該第1のフィルタは、上記第1の伝達特性の逆数である第4の伝達特性を有し、第1のフィルタ掛けされた信号を提供する、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0012】
(項目5)
上記制御ユニットは、第2のフィルタをさらに備え、該第2のフィルタは、上記第2の伝達特性に等しい第5の伝達特性を有し、第2のフィルタ掛けされた信号を提供する、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0013】
(項目6)
上記制御ユニットは、
第1のフィルタと上記信号源とに接続されている減算ユニットであって、該減算ユニットは、出力信号を生成するために、上記所望の信号から第1のフィルタ掛けされた信号を減算し、該出力信号は、上記伝送変換器に供給され、反転された出力信号は、第2のフィルタに供給される、減算ユニットと、
該第2のフィルタと上記受信変換器とに接続されている加算ユニットであって、該加算ユニットは、電気雑音信号を生成するために、第2のフィルタ掛けされた信号を該受信変換器の信号出力に加算し、該電気雑音信号は、該第1のフィルタに供給される、加算ユニットと
を備えている、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0014】
(項目7)
上記第1のフィルタおよび上記第2のフィルタのうちの少なくとも一方は、適応フィルタである、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0015】
(項目8)
上記制御ユニットは、アナログ回路網またはデジタル回路網あるいは両方を備えている、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0016】
(項目9)
上記伝送変換器は、密閉封止された容積に搭載されている、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0017】
(項目10)
上記伝送変換器は、上記密閉封止された容積を形成するために、上記筐体に密閉して搭載されている、上記項目のいずれかに記載のシステム。
【0018】
(摘要)
能動的雑音低減システムが提示され、このシステムは、雑音に晒された使用者の耳に音響的に結合されるイヤホンを含む。イヤホンは、開口部を有するカップ状の筐体と、電気信号を、使用者の耳に放射される音響信号へ変換する伝送変換器であって、カップ状の筐体の開口部に配置され、それによってイヤホンの空洞を規定する、伝送変換器と、音響信号を電気信号へ変換する受信変換器であって、イヤホンの空洞内に配置される、受信変換器と、伝送変換器から耳まで延伸する第1の音響経路であって、第1の伝達特性を有する、第1の音響経路と、伝送変換器から受信変換器まで延伸する第2の音響経路であって、第2の伝達特性を有する、第2の音響経路と、受信変換器および伝送変換器に電気的に接続されている制御ユニットであって、伝送変換器に供給される雑音低減電気信号を生成することによって周囲雑音を補償する、制御ユニットとを有する。雑音低減電気信号は、第3の伝達特性でフィルタ掛けされた受信変換器信号から導出され、第2および第3の伝達特性は、共同で第1の伝達特性をモデル化する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図面の図解において示されている例示的な実施形態に基づいて、以下に様々な特定の実施形態がより詳細に記載される。別なふうに言及されない限り、同一の構成要素は、すべての図面において同一の参照番号で符号が付けられる。
【図1】図1は、公知のフィードバック能動的雑音低減システムの図示である。
【図2】図2は、公知のフィードフォワード雑音低減システムの図示である。
【図3】図3は、本明細書において開示されるフィードバック能動的雑音低減システムの実施形態の図示である。
【図4】図4は、本明細書において開示される能動的雑音低減システムの実施形態において利用されるイヤホンの図示である。
【図5】図5は、公知の能動的雑音低減システムにおける信号フローの図示である。
【図6】図6は、本明細書において開示される能動的雑音低減システムの実施形態における信号フローの図示であり、このシステムは閉ループ構造を有する。
【図7】図7は、本明細書において開示される能動的雑音低減システムの代替の実施形態における信号フローの図示であり、このシステムは閉ループ構造を有する。
【図8】図8は、図7に示されたシステムの根底にある基本原理の図示である。
【図9】図9は、本明細書において開示される能動的雑音低減システムの実施形態の図示であり、このシステムは、フィルタ付きx最小平均二乗(FxLMS)アルゴリズムを利用している。
【図10】図10は、本明細書において開示される能動的雑音低減システムの実施形態の図示であり、このシステムは、開ループ構造を有する。
【図11】図11は、拡散雑音場および2cmのマイクロホン距離におけるMSC関数を図示するダイヤグラムである。
【図12】図12は、拡散雑音場および2cmのマイクロホン距離における減衰関数を図示するダイヤグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、音響管1を有するフィードバック型の公知の能動的雑音低減システムの図示であり、この音響管1の中へ向かって、雑音(一次雑音2と称される)が第1の端において雑音源3から導入される。一次雑音2の音波は、管1を通して管1の第2の端まで進行し、この第2の端から、例えば、管が使用者の頭部に装着されている場合における使用者の耳の中へなど、音波が放射される。管の中の一次雑音2を低減またはキャンセルするために、例えば拡声器4などのスピーカがキャンセリング音5を管1の中へ導入する。キャンセリング音5は振幅を有し、この振幅は、外部雑音に少なくとも対応するが、好ましくは外部雑音と同一であり、逆の位相である。管1に進入する外部雑音2は、誤差マイクロホン6によって収集され、フィードバックANC処理ユニット7によって位相が反転された後、一次雑音2を低減するために拡声器4から放出される。誤差マイクロホン6は、拡声器4の下流に配置され、しかるに、拡声器4に対してよりも管1の第2の端により近く、つまり、上記の例において、誤差マイクロホン6は使用者の耳により近い。
【0021】
図2に示されているような公知のフィードフォワード型の能動的雑音低減システムを作製するために、図1に示されているようなシステムにおいて、雑音源3と拡声器4との間に追加的なリファレンスマイクロホン8が提供され、フィードバックANC処理ユニット7は、フィードフォワードANC処理ユニット9に置換えられる。リファレンスマイクロホン8は一次雑音2を収集し、その出力は、拡声器4から誤差マイクロホン6までの経路の伝送特性を適応するために使用され、これによって、拡声器4から誤差マイクロホン6までの経路の伝送特性は、一次雑音2が管1の第2の端(つまり、使用者の耳)に到達する際に沿う経路の伝送特性と合致する。誤差マイクロホン6によって収集された一次雑音2は、拡声器4から誤差マイクロホン6までの信号経路の適応された伝送特性を使用して位相が反転され、外部雑音を低減するために、2つのマイクロホン6、8の間に配置された拡声器4から放出される。伝送経路の適応化と同様に、信号の反転もフィードフォワードANC処理ユニット9によって実行される。
【0022】
本明細書において開示されるフィードバック能動的雑音低減システムの実施形態が図3に示されている。図3のシステムは、誤差マイクロホン6が、拡声器4と管1の第2の端との間に配置される代わりに、管1の第1の端と拡声器4との間に実際に配置されている点において、図1のシステムから異なる。さらには、フィルタ10が誤差マイクロホン6とフィードバックANC処理ユニット7との間に接続されている。フィルタ10は、マイクロホン6が拡声器4の下流に、つまり、拡声器4と管1の第2の端との間に仮想的に位置するように適応され、仮想的な誤差マイクロホン6’をモデル化する。
【0023】
図4は、本明細書において開示される能動的雑音低減システムの実施形態において利用されるイヤホン11の図示である。イヤホン11は、ヘッドホン(示されていない)の部分であり得、使用者13の耳12に音響的に結合され得る。本例において、耳12は、雑音源3から生じる一次雑音2を形成する周囲雑音に晒されている。イヤホン11は、開口部15を有するカップ状の筐体14を備える。開口部は、網、格子または任意の他の音透過性の構造または材料によって覆われる。
【0024】
耳12に放射されるように電気信号を音響信号に変換し、および、本例においてスピーカ16によって形成されている伝送変換器は、筐体14の開口部15に配置され、それによって、イヤホンの空洞17を形成する。スピーカ16は、筐体14に密閉して搭載され得、これにより、気密の空洞17を提供し、すなわち、密閉封止された容積を作製する。あるいは、空洞17は場合に応じて通気され得る。
【0025】
音響信号を電気信号に変換する受信変換器、例えば誤差マイクロホン18は、イヤホンの空洞17内に配置される。したがって、誤差マイクロホン18は、スピーカ16と雑音源2との間に配置される。音響経路19は、スピーカ16から耳12まで延伸し、HSE(z)の伝達特性を有する。音響経路20は、スピーカ16から誤差マイクロホン18まで延伸し、HSM(z)の伝達特性を有する。
【0026】
図5は、公知の能動的雑音低減システム(例えば図1のシステム)における信号フローの図示であり、このシステムは、スピーカ22によって音響的に放射されるように所望の信号x[n]を提供するための信号源21をさらに備える。スピーカはまた、例えば、図1のシステムにおける拡声器4など、キャンセリング拡声器としても作用する。スピーカ22によって放射される音は、伝達特性HSM(z)を有する(二次の)経路24を介して、誤差マイクロホン23(例えば、図1のマイクロホン6など)に伝達される。
【0027】
マイクロホン23は、雑音源(示されていない)からの雑音N[n]と共にスピーカ22から音を受信し、そこから電気信号e[n]を生成する。この信号e[n]は、信号e[n]からフィルタ26の出力信号を減算する減算器25に供給され、これにより、雑音N[n]の電気的表現である信号N*[n]を生成する。フィルタ26は、二次経路24の伝達特性HSM(z)の推定である伝達特性H*SM(z)を有する。信号N*[n]は、伝達特性H*SM(z)の逆数に等しい伝達特性を有するフィルタ27によってフィルタ掛けされた後、所望の信号x[n]からフィルタ27の出力信号を減算する減算器28に供給され、これにより、スピーカ22に供給されるべき信号を生成する。フィルタ26は、スピーカ22と同一の信号が供給される。図5を参照した上記のシステムにおいて、直ちに理解され得るように、いわゆる閉ループ構造が使用される。
【0028】
図6は、本明細書において開示される閉ループ能動的雑音低減システムの実施形態における信号フローを図示する。このシステムにおいて、伝達特性HSC(z)を有する追加的なフィルタ29が誤差マイクロホン23と減算器25との間に接続される。この伝達特性HSC(z)は、下記のように
HSC(z)=HSE(z)−HSM(z)
となる。
【0029】
したがって、実際の(物理的、現実的)二次経路24の伝達特性HSM(z)、HSC(z)およびフィルタ29は、共同で仮想的な(所望の)信号経路30の伝達特性HSE(z)をモデル化し、ここで、この信号経路30は、スピーカ22と、例えば使用者の耳12など所望の信号位置(以後「仮想マイクロホン」としても参照される)でのマイクロホンとの間の信号経路である。上記を、例えば図4のシステムに適用する場合、マイクロホン18は、雑音源3とスピーカ16との間のその現実の位置から、使用者の耳12における(所望の)位置(耳マイクロホン12として描写されている)まで仮想的に移動され得る。
【0030】
図3のシステムにおいて、所望の信号経路は、拡声器4から仮想マイクロホン6’まで延伸する。物理的(現実的)信号経路は、マイクロホン6から拡声器4まで延伸する。マイクロホン6の下流のフィルタ29によって、現実的マイクロホン6の位置は、マイクロホン6’の位置に仮想的に移動される。
【0031】
図7は、本明細書において開示される閉ループ能動的雑音低減システムの代替の実施形態における信号フローを図示する。ここにおいても、信号源21は、所望の信号x[n]をスピーカ22に供給し、スピーカ22は、信号x[n]を音響的に放射するためだけでなく、能動的に雑音を低減するために作用する。スピーカ22によって放射される音は、伝達特性HSM(z)を有する(二次の)経路24を介して、誤差マイクロホン23に伝搬する。
【0032】
マイクロホン23は、雑音N[n]と共にスピーカ22から音を受信し、そこから電気信号e[n]を生成する。信号e[n]は、フィルタ26の出力信号を信号e[n]に加算する加算器31に供給され、これにより、雑音N[n]の電気的表現である信号N*[n](本例においては推定)を生成する。フィルタ26は、二次経路24の伝達特性HSM(z)に対応する伝達特性H*SM(z)を有する。信号N*[n]は、伝達特性HSE(z)の逆数に等しい伝達特性を有するフィルタ32によってフィルタ掛けされた後、所望の信号x[n]からフィルタ32の出力信号を減算する減算器28に供給され、これにより、スピーカ22に供給されるべき信号を生成する。フィルタ26は、フィルタ32の出力信号から信号x[n]を減算する減算器33の出力信号が供給される。
【0033】
図8は、図7に示されたシステムの根底にある基本原理の図示であり、このシステムにおいて、雑音源34は、P(z)の伝達特性を有する一次(伝送)経路36を介して、雑音信号d[n]を誤差マイクロホン35に送り、誤差マイクロホン35の位置で雑音信号d’[n]を算出する。
【0034】
誤差信号e[n]は、信号e[n]からフィルタ41の出力信号を減算する加算器40に供給され、これにより、雑音信号d’[n]の推定された表現である信号d^[n]を生成する。フィルタ41は、二次経路39の伝達特性S(z)の推定である伝達特性S^(z)を有する。信号d^[n]は、W(z)の伝達特性を有するフィルタ42によってフィルタ掛けされた後、信号源37によって与えられる、例えば、音楽またはスピーチなどの所望の信号x[n]からフィルタ42の出力信号を減算する減算器43に供給され、S(z)の伝達特性を有する二次(伝送)経路39を介しての誤差マイクロホン35への伝送のために、スピーカ38に供給されるべき信号を生成する。フィルタ41は、所望の信号x[n]からフィルタ42の出力信号を減算する減算器43からの出力信号が供給される。
【0035】
図8のシステムは、図9を参照して後述されるように、適応アルゴリズムを使用して強化され得る。このシステムにおいて、フィルタ42は、適応制御ユニット44によって制御されている制御可能フィルタである。適応制御ユニット44は、減算器40からフィルタ45によってフィルタ掛けされた信号d^[n]を、および、誤差マイクロホン35から誤差信号e[n]を受信する。フィルタ45は、フィルタ41と同一の伝達特性、すなわちS^(z)を有する。制御可能フィルタ41および制御ユニット44は、共同で適応フィルタを形成し、この適応フィルタは、例えば、いわゆる最小平均二乗(LMS)アルゴリズム、または本例の場合におけるように、フィルタ付きx最小平均二乗(FxLMS)アルゴリズムなどの適応化のために使用し得る。しかしながら、フィルタ付きeLMSアルゴリズムまたは同様なものなど、他のアルゴリズムもまた適切であり得る。
【0036】
一般的に、図8および図9に示されるようなフィードバックANCシステムは、純粋な雑音信号d’[n]を推定し、この推定された雑音信号d^[n]をANCフィルタ(すなわち、本例におけるフィルタ42)へ入力する。純粋な雑音信号d’[n]を推定するために、スピーカ38から誤差マイクロホン35までの音響的な二次経路39の伝達特性S(z)が推定される。二次経路39の推定された伝達特性S^(z)は、スピーカ38に供給される信号を電気的にフィルタ掛けするために、フィルタ41において使用される。誤差信号e[n]からフィルタ41の信号出力を減算することによって、推定された雑音信号d^[n]が得られる。推定された二次経路S^(z)が実際の二次経路S(z)と全く同一である場合、推定された雑音信号d^[n]は、実際の純粋な雑音信号d’[n]と全く同一である。推定された雑音信号d^[n]は、伝達特性W(z)を有する(ANC)42においてフィルタ掛けされ、ここで、
W(z)=P(z)/S(z)
であり、その後、所望の信号x[n]から減算される。信号e[n]は下記の、
e[n]=d[n]・P(z)+x[n]・S(z)−d^[n]・(P(z)/S^(z))・S(z)=x[n]・S(z)
のようになり得、ただし、S^(z)=S(z)かつd^[n]=d’[n]であるような場合、および、そのような場合に限る。
【0037】
推定された雑音信号d^[n]は、下記の、
d^[n]=e[n]−(x[n]−d’[n]・(P(z)/S^(z))・S^(z))=d’[n]・P(z)=d[n]
のようになり、ただし、S^(z)=S(z)の場合、および、その場合に限る。
【0038】
したがって、推定された雑音信号d^[n]は、実際の雑音信号d[n]をモデル化する。
【0039】
上記のシステムなどの閉ループシステムは、信号がスピーカに供給される前に、推定された雑音信号を所望の信号から減算することによって、所望の信号の不必要な低減を減少することを目的とする。開ループシステムにおいて、誤差信号は、特別なフィルタを通して与えられ、この特別なフィルタにおいて、誤差信号は、安定性のための適度なループ利得を達成するために低域通過フィルタ(例えば1kHz未満)に掛けられて利得が制御され、および、雑音低減効果を達成するために位相適応(例えば反転)される。しかしながら、開ループシステムは、所望の信号が低減されることを生じ得ることが理解され得る。他方、開ループシステムは、閉ループシステムほど複雑ではない。
【0040】
本明細書において開示される型の開ループANCシステムが図10に示されている。信号源51は、音楽信号などの有用な信号を加算器46に提供し、加算器46の出力信号は、適切な信号処理回路網(示されていない)を介してスピーカ47に供給される。加算器46はまた、誤差信号を受信し、この誤差信号は、誤差マイクロホン48によって提供され、直列に接続されたフィルタ49およびフィルタ50によってフィルタ掛けされる。フィルタ50は、HOL(z)の伝達特性を有し、フィルタ49は、HSC(z)の伝達特性を有する。伝達特性HOL(z)は、一般的な開ループシステムの特性であり、伝達特性HSC(z)は、誤差マイクロホン48の仮想位置と実際の位置との間における差異に対する補償をするための特性である。
【0041】
一般的な閉ループANCシステムは、誤差マイクロホンが可能な限り耳に近く、すなわち耳の中に搭載された場合、その最高の性能を発揮する。しかしながら、誤差マイクロホンを耳の中に位置させることは、聴取者にとって著しく不便であり、聴取者によって知覚される音を劣化させる。誤差マイクロホンを耳の外側に位置させることは、ANCシステムの品質を悪化させる。このジレンマを解決するために、幾多のシステムが導入されてきたが、これらは主として機械的構造の改変に依拠しており、すなわち、スピーカと誤差マイクロホンとの間にコンパクトな容器を提供するように試みられており、このことは、例えば、人がヘッドホンを装着する方法によって、または異なる使用者によって、理想的には邪魔になり得ない。このような機械的改変が安定性の問題をある程度まで確かに解決できるということにもかかわらず、それらの改変は、それらがスピーカと聴取者の耳との間に位置するということに起因して、なおも音響的性能を歪曲する。
【0042】
上記で概説されたジレンマを克服するために、アナログ信号処理またはデジタル信号処理(あるいは両方)を利用するシステムが本明細書において提示され、これにより、一方において、誤差マイクロホンが耳から離れて位置すること、他方において、恒常的に安定した性能を保証することを可能にする。本明細書において開示されるシステムは、スピーカの背後に、つまり、耳カップとスピーカとの間に誤差マイクロホンを設置することによって、安定性の問題を解決する。このことは、いかなる場合においても音響的性能を歪曲しない確定した容器を提供する。このシステムにおいて、誤差マイクロホンは、聴取者の耳から僅かに遠方に離れて設置され、必然的に悪化したANC性能に至る。この問題は、使用者の耳の中に直に設置される「仮想マイクロホン」を利用することによって克服される。「仮想マイクロホン」は、マイクロホンが実際に一位置に配置されるが、適切な信号フィルタリングによって別の「仮想的」位置にあるように出現することを意味する。以下の例は、デジタル信号処理に基づいており、これによって、使用されるすべての信号および伝達特性は、離散時間およびスペクトル領域(n,z)内にある。アナログ処理に対しては、連続時間およびスペクトル領域(t,s)における信号および伝達特性が使用され、このことは、考察中の例において、nはtによって、およびzはsによって置換えられることのみが必要であることを意味する。
【0043】
再び図6を参照すると、「仮想的」誤差マイクロホンを作製するために、スピーカから耳までの信号経路(所望の二次経路)上の伝達特性である理想的な伝達特性HSE(z)が査定され、スピーカから誤差マイクロホンまでの信号経路(現実の二次経路)上の実際の伝達特性HSM(z)が決定される。仮想マイクロホン位置において理想的な音の受信と最適な雑音キャンセル作用とを提供するフィルタ特性W(z)を決定するために、フィルタ特性W(z)は、W(z)=1/HSE(z)に設定される。仮想的な誤差マイクロホンによって受信される総和の信号x[n]・HSE(z)は、
【0044】
【数1】
となり、ここで、ANCシステムの入力信号を形成する推定された雑音信号N[n]は、
【0045】
【数2】
となる。
【0046】
上記の方程式から、最適な雑音抑制は、仮想位置での推定された雑音信号N[n]が、その位置が聴取者の耳の中にあるときと同一である場合に達成されることが理解され得る。雑音抑制アルゴリズムの品質は、二次経路S(z)の伝達特性HSM(z)によって表わされる本例の場合において、主として二次経路S(z)の精度に依存する。二次経路が変化する場合、システムは、その新たな状況に適応せねばならず、このことは、時間を消費するコスト高の追加的な信号処理を必要とする。
【0047】
本明細書において開示されるシステムの主なアプローチは、追加的な信号処理の複雑度を低く維持するために、二次経路を本質的に安定に、つまり、その伝達特性HSM(z)を一定に維持することを含む。このために、誤差マイクロホンは、異なる動作のモードが二次経路の伝達特性HSM(z)の重大な変動を発生させないような位置に配置される。本明細書において開示されるシステムにおいて、誤差マイクロホンは、イヤホンの空洞内に配置され、このことは、変動に対して比較的鈍感であるが、比較的に耳から遠く離れ、これによって、ANCアルゴリズムの全体的性能が乏しくなる。しかしながら、非常に僅かな追加的信号処理のみを必要とする追加的な(全域通過)フィルタリングが提供され、これにより、耳までのより大きな距離の欠点に対する補償をする。伝達特性1/HSE(z)およびHSM(z)を実現するために必要とされる追加的な信号処理は、デジタル回路網によってのみでなく、演算増幅器を使用するプログラム可能なRCフィルタなどのアナログ回路網によっても同様に提供され得る。
【0048】
上記で指摘されたように、仮想マイクロホンを利用するANCシステムの性能は、実際の誤差マイクロホンの位置での雑音信号と、仮想マイクロホン(つまり、耳)の位置での雑音信号との間の差異に本質的に依存する。連続スペクトル領域におけるこのようなANCシステムの性能の推定のために、いわゆる最大二乗コヒーレンス(MSC)関数Cij(ω)が使用され、その定義は、下記の、
【0049】
【数3】
であり、ここで、PXiXi(ω)およびPXjXj(ω)は、信号Xiおよび信号Xjのオートパワー密度スペクトルであり、PXiXj(ω)は、信号Xiおよび信号Xjのクロスパワー密度スペクトルである。Cij(ω)は、2つのマイクロホンiおよびjの複素コヒーレンス関数である。複素コヒーレンス関数Cij(ω)は、基本的にローカルの雑音場に依存する。後述される最悪の場合の考察においては、拡散雑音場が仮定される。このような場は、
【0050】
【数4】
のように記述され得、ここで、fは周波数([Hz]にて)、dijはマイクロホンiとマイクロホンjとの間の距離([m]にて)、cは室温における空気中の音速(c=340[m/s])、およびMはマイクロホンの数(本例の場合においては2)であり、ここで、SI関数は、
【0051】
【数5】
であり、距離dijは、
【0052】
【数6】
である。
【0053】
MSC関数は、時間領域における相関係数のように、2つの処理の線形の相互依存性の度合である。信号xi(t)および信号xj(t)がそれぞれの周波数ωにおいて完全に相関している場合、MSC関数Cij(ω)はその最大値1になり、これらの信号が全く相関していない場合、MSC関数Cij(ω)はその最小値0になる。したがって、
1≧Cij(ω)≧0
である。
【0054】
MSC関数は、マイクロホンjからの信号がマイクロホンiからの信号に基づいて線形に推定されている場合に発生する誤差を記述する。拡散雑音場において、距離がd=2cmである場合、MSC関数は、図11に図示されたように振舞う。最大のANC減衰Dij(ω)は、MSC関数Cij(ω)から導出され、下記の、
Dij(ω)=20・log10(1−Cij(ω)) (単位[dB])
となる。
【0055】
図12は、2cmのマイクロホン距離を有する拡散雑音場において生じる減衰関数Dij(ω)(単位[dB])を示す。図12から理解されるように、理論上、2cmのマイクロホン距離を有する拡散雑音場において、1kHzの周波数で雑音抑制(減衰)Dij(ω)=27dBが達成され得、これは大いに十分である。
【符号の説明】
【0056】
1 音響管
2 一次雑音
3、34 雑音源
4 拡声器
5 キャンセリング音
6、18、23、35、48 誤差マイクロホン
6’ 仮想的な誤差マイクロホン
7 フィードバックANC処理ユニット
8 リファレンスマイクロホン
9 フィードフォワードANC処理ユニット
10、26、27、29、32、41、42、45、49、50 フィルタ
11 イヤホン
12 耳
13 使用者
14 カップ状の筐体
15 開口部
16、22、38、47 スピーカ
17 イヤホンの空洞
19、20 音響経路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
能動的雑音低減システムであって、
雑音に晒されている使用者の耳に音響的に結合されるイヤホンを備え、該イヤホンは、
開口部を有するカップ状の筐体と、
電気信号を、該使用者の耳に放射される音響信号へ変換する伝送変換器であって、該伝送変換器は、該カップ状の筐体の開口部に配置されることによってイヤホンの空洞を規定している、伝送変換器と、
音響信号を電気信号へ変換する受信変換器であって、該受信変換器は、該イヤホンの空洞内に配置されている、受信変換器と、
該伝送変換器から該耳まで延伸している第1の音響経路であって、第1の伝達特性を有する、第1の音響経路と、
該伝送変換器から該受信変換器まで延伸している第2の音響経路であって、第2の伝達特性を有する、第2の音響経路と、
該受信変換器および該伝送変換器に電気的に接続されている制御ユニットであって、該制御ユニットは、該伝送変換器に供給される雑音低減電気信号を生成することによって周囲雑音を補償する制御ユニットと
を備え、
該雑音低減電気信号は、第3の伝達特性でフィルタ掛けされた受信変換器信号から導出され、該第2の伝達特性および該第3の伝達特性は、共同で該第1の伝達特性をモデル化する、能動的雑音低減システム。
【請求項2】
前記雑音低減信号は、周囲雑音信号に比較して、時間に対する同一の振幅を有するが、逆の位相を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記伝送変換器によって放射される所望の信号を提供する信号源をさらに備えている、請求項1または請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記制御ユニットは、第1のフィルタを備え、該第1のフィルタは、前記第1の伝達特性の逆数である第4の伝達特性を有し、第1のフィルタ掛けされた信号を提供する、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記制御ユニットは、第2のフィルタをさらに備え、該第2のフィルタは、前記第2の伝達特性に等しい第5の伝達特性を有し、第2のフィルタ掛けされた信号を提供する、請求項3または請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記制御ユニットは、
第1のフィルタと前記信号源とに接続されている減算ユニットであって、該減算ユニットは、出力信号を生成するために、前記所望の信号から第1のフィルタ掛けされた信号を減算し、該出力信号は、前記伝送変換器に供給され、反転された出力信号は、第2のフィルタに供給される、減算ユニットと、
該第2のフィルタと前記受信変換器とに接続されている加算ユニットであって、該加算ユニットは、電気雑音信号を生成するために、第2のフィルタ掛けされた信号を該受信変換器の信号出力に加算し、該電気雑音信号は、該第1のフィルタに供給される、加算ユニットと
を備えている、請求項3、請求項4、または請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1のフィルタおよび前記第2のフィルタのうちの少なくとも一方は、適応フィルタである、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記制御ユニットは、アナログ回路網またはデジタル回路網あるいは両方を備えている、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記伝送変換器は、密閉封止された容積に搭載されている、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記伝送変換器は、前記密閉封止された容積を形成するために、前記筐体に密閉して搭載されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項1】
能動的雑音低減システムであって、
雑音に晒されている使用者の耳に音響的に結合されるイヤホンを備え、該イヤホンは、
開口部を有するカップ状の筐体と、
電気信号を、該使用者の耳に放射される音響信号へ変換する伝送変換器であって、該伝送変換器は、該カップ状の筐体の開口部に配置されることによってイヤホンの空洞を規定している、伝送変換器と、
音響信号を電気信号へ変換する受信変換器であって、該受信変換器は、該イヤホンの空洞内に配置されている、受信変換器と、
該伝送変換器から該耳まで延伸している第1の音響経路であって、第1の伝達特性を有する、第1の音響経路と、
該伝送変換器から該受信変換器まで延伸している第2の音響経路であって、第2の伝達特性を有する、第2の音響経路と、
該受信変換器および該伝送変換器に電気的に接続されている制御ユニットであって、該制御ユニットは、該伝送変換器に供給される雑音低減電気信号を生成することによって周囲雑音を補償する制御ユニットと
を備え、
該雑音低減電気信号は、第3の伝達特性でフィルタ掛けされた受信変換器信号から導出され、該第2の伝達特性および該第3の伝達特性は、共同で該第1の伝達特性をモデル化する、能動的雑音低減システム。
【請求項2】
前記雑音低減信号は、周囲雑音信号に比較して、時間に対する同一の振幅を有するが、逆の位相を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記伝送変換器によって放射される所望の信号を提供する信号源をさらに備えている、請求項1または請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記制御ユニットは、第1のフィルタを備え、該第1のフィルタは、前記第1の伝達特性の逆数である第4の伝達特性を有し、第1のフィルタ掛けされた信号を提供する、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記制御ユニットは、第2のフィルタをさらに備え、該第2のフィルタは、前記第2の伝達特性に等しい第5の伝達特性を有し、第2のフィルタ掛けされた信号を提供する、請求項3または請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記制御ユニットは、
第1のフィルタと前記信号源とに接続されている減算ユニットであって、該減算ユニットは、出力信号を生成するために、前記所望の信号から第1のフィルタ掛けされた信号を減算し、該出力信号は、前記伝送変換器に供給され、反転された出力信号は、第2のフィルタに供給される、減算ユニットと、
該第2のフィルタと前記受信変換器とに接続されている加算ユニットであって、該加算ユニットは、電気雑音信号を生成するために、第2のフィルタ掛けされた信号を該受信変換器の信号出力に加算し、該電気雑音信号は、該第1のフィルタに供給される、加算ユニットと
を備えている、請求項3、請求項4、または請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1のフィルタおよび前記第2のフィルタのうちの少なくとも一方は、適応フィルタである、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記制御ユニットは、アナログ回路網またはデジタル回路網あるいは両方を備えている、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記伝送変換器は、密閉封止された容積に搭載されている、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記伝送変換器は、前記密閉封止された容積を形成するために、前記筐体に密閉して搭載されている、請求項9に記載のシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−175248(P2011−175248A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10308(P2011−10308)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(504147933)ハーマン ベッカー オートモーティブ システムズ ゲーエムベーハー (165)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(504147933)ハーマン ベッカー オートモーティブ システムズ ゲーエムベーハー (165)
【Fターム(参考)】
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