説明

脂環式構造及びペルフルオロシクロブチルエーテル構造を有するポリマー

【課題】発熱を伴う部分、及び断続的又は連続的に応力負荷がかかる部分で、使用する場合に生じる種々の問題点を解消でき、特に紫外線領域の透明性及び耐熱性を向上させた透明材料を提供する。
【解決手段】脂環式構造及びペルフルオロシクロブチルエーテル構造を有する下記式(1)で表されるポリマー。


(式中、Rは、脂環式基が形成される2価の基。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂環式構造及びペルフルオロシクロブチルエーテル構造を有するポリマーに関する。さらに詳しくは透明性、成形性に優れたポリマー、及びそれからなる透明材料並びにその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明で機械的特性に優れているエンジニアリングプラスチックは、光学材料として広く用いられており、例えばポリメチルメタクリレートやポリカーボネート等はCD、DVD、レンズ等の光学材料として、また、自動車の透明部品等に使用されている。
しかし、ポリメチルメタクリレートは透明性に優れるが、吸湿性が高く、形態安定性が悪いという問題がある。また、ポリカーボネートは耐熱性が高く透明性に優れるが、流動性が悪く成型品の複屈折率が大きくなる等の問題があった。従って、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートのいずれも光学材料として十分に満足なものとはいえなかった。
【0003】
近年、光学材料は光学レンズ、光ファイバー、光導波路、フォトニック結晶等の種々の光情報処理装置や、フラットパネルディスプレー(FPD)等の表示装置等にも広く用いられている。用途の拡大に伴って、光学材料として最も基本的な透明性の向上、特に光情報処理装置としての情報処理速度の向上の要求から、紫外線領域の透明性のさらなる向上が求められている。また、光学材料は薄膜状、フィルム状、ファイバー状形態で、発熱を伴う部分や、断続的又は連続的に応力負荷がかかる部分に使用されることが多いため、透明性と同時に特に耐熱性、力学的強度が求められていた。
【0004】
非特許文献1には、優れた透明性、吸水性、強度及び耐熱性を有する芳香族構造及びペルフルオロシクロブチルエーテル構造を含有するポリマーが開示されている。しかし、薄膜状、フィルム状、ファイバー状形態として、発熱を伴う部分や、断続的、あるいは連続的に応力負荷がかかる部分にこのポリマーを使用する場合に、このポリマーからなる光学材料は、ポリマー中の芳香環構造の含有率が高いため紫外線領域の透明性が十分ではなく、耐熱性も十分とはいえなかった。
透明性に加えて、特に、連続的な高強度光の透過により発生する熱負荷に耐える高耐熱性及び高強度を具備する材料はなかった。
【非特許文献1】Macromolecules,37,5724(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、発熱を伴う部分、及び断続的又は連続的に応力負荷がかかる部分に、光学材料を薄膜状、フィルム状、ファイバー状形態で使用する場合に生じる種々の問題点を解消でき、さらに透明性、吸水性、強度、耐熱性等の特性のうち、特に紫外線領域の透明性及び耐熱性を向上させた透明材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下のポリマー等が提供される。
1.脂環式構造及びペルフルオロシクロブチルエーテル構造を有する下記式(1)で表されるポリマー。
【化4】

(式中、Rは、炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基、又は炭素数6〜10の2価の芳香族基、炭素数1〜20の置換又は非置換の2価の直鎖状脂肪族基、炭素数1〜20の置換又は非置換の2価の分岐状脂肪族基、炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基からなる群から選択される1以上の2価の基及び炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基が結合して形成される2価の基であり、
nは10以上10000以下の整数である。)
2.前記炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基が、アダマンタン構造、ビアダマンタン構造、ジアマンタン構造又はトリアマンタン構造を含む1に記載のポリマー。
3.前記式(1)で表されるポリマーが、下記式(2)又は(3)で表されるポリマーである1又は2に記載のポリマー。
【化5】

(式中、R’は上記アダマンタン部位構造又はアリーレン部位に置換している置換基であって、R’はハロゲン元素、炭素数6〜30の置換又は非置換の芳香族置換基、炭素数1〜20の置換又は非置換の直鎖状脂肪族置換基、炭素数1〜20の置換又は非置換の分岐状脂肪族置換基又は炭素数5〜50の置換又は非置換の脂環式置換基であり、
mは0以上14以下の整数であり、mが2以上の場合、複数のR’はそれぞれ同一でも異なってもよい)
4.下記式(4)で表されるモノマー。
【化6】

(式中、Rは式(1)のRと同様である。)
5.4に記載の一般式(4)で表されるモノマーを付加環化反応する1〜3のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
6.1〜3のいずれかに記載のポリマー、又は5に記載のポリマーの製造方法により得られるポリマーを含む透明材料。
7.1〜3のいずれかに記載のポリマー、又は5に記載のポリマーの製造方法により得られるポリマーを有機溶媒に溶解させた塗料。
8.7に記載の塗料を用いて形成される薄膜。
9.6に記載の透明材料からなる部材。
10.9に記載の部材を備える装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発熱を伴う部分、及び断続的又は連続的に応力負荷がかかる部分に、光学材料を薄膜状、フィルム状、ファイバー状形態で使用する場合に生じる種々の問題点を解消でき、さらに透明性、吸水性、強度、耐熱性等の特性のうち、特に紫外線領域の透明性及び耐熱性を向上させた透明材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のポリマーは、脂環式構造及びペルフルオロシクロブチルエーテル構造を有し、下記式(1)で表される。
【化7】

(式中、Rは、炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基、又は炭素数6〜10の2価の芳香族基、炭素数1〜20の置換又は非置換の2価の直鎖状脂肪族基、炭素数1〜20の置換又は非置換の2価の分岐状脂肪族基、炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基からなる群から選択される1以上の2価の基及び炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基が結合して形成される2価の基を表し、
Rには、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン元素、炭素数6〜30の置換又は非置換の芳香族置換基、炭素数1〜20の置換又は非置換の直鎖状脂肪族置換基、炭素数1〜20の置換又は非置換の分岐状脂肪族置換基、炭素数5〜50の置換又は非置換の脂環式置換基が置換していてもよく、
前記炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基は、その一部がエーテル結合、エステル結合、炭酸エステル結合、チオエーテル結合、チオエステル結合からなる群から選択される2価の基にさらにヘテロ原子が含まれる2価の基が存在していてもよい。
nは10以上10000以下の整数である。)
【0009】
式(1)において、Rは(i)又は(ii)の2価の基である。
(i)炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基
(ii)炭素数6〜10の2価の芳香族基、炭素数1〜20の置換又は非置換の2価の直鎖状脂肪族基、炭素数1〜20の置換又は非置換の2価の分岐状脂肪族基、炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基からなる群から選択される1以上の2価の基及び炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基が結合して形成される2価の基
【0010】
炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基としては、シクロブタン構造、シクロペンタン構造、シクロヘキサン構造、シクロヘプタン構造又はこれらシクロアルカン構造を構成する1つの炭素の代わりにヘテロ原子を有する環構造を含む炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基が挙げられ、好ましくはアダマンタン構造、ビアダマンタン構造、ジアマンタン構造又はトリアマンタン構造を含む炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基であり、より好ましくはアダマンタン構造、ビアダマンタン構造、ジアマンタン構造又はトリアマンタン構造のいずれかである。
【0011】
炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基は、その一部がエーテル結合、エステル結合、炭酸エステル結合、チオエーテル結合、チオエステル結合からなる群から選択される2価の基にさらにヘテロ原子が含まれる2価の基が存在していてもよい。
【0012】
炭素数6〜10の2価の芳香族基としては、フェニレン基及びナフチレン基が挙げられる。
【0013】
炭素数1〜20の置換又は非置換の2価の直鎖状脂肪族基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が挙げられる。
【0014】
炭素数1〜20の置換又は非置換の2価の分岐状脂肪族基としては、メチルメチレン基、トリフルオロメチルメチレン基、ジメチルメチレン基、ビス(トリフルオロメチル)メチレン基が挙げられる。
【0015】
炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基としては、アダマンタン構造、ビアダマンタン構造、ジアマンタン構造、トリアマンタン構造、シクロペンタン構造、シクロヘキサン構造、シクロヘプタン構造又はノルボルネン構造で構成される2価の脂環式基が挙げられ、好ましくはアダマンタン構造、ビアダマンタン構造、ジアマンタン構造又はトリアマンタン構造で構成される2価の脂環式基である。
【0016】
また、Rにはフッ素、塩素、臭素等のハロゲン元素、炭素数6〜30の置換又は非置換の芳香族置換基、炭素数1〜20の置換又は非置換の直鎖状脂肪族置換基、炭素数1〜20の置換又は非置換の分岐状脂肪族置換基、炭素数5〜50の置換又は非置換の脂環式置換基が置換していてもよい。
【0017】
炭素数6〜30の置換又は非置換の芳香族置換基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基、ターフェニル基が挙げられる。
【0018】
炭素数1〜20の置換又は非置換の直鎖状脂肪族置換基、炭素数1〜20の置換又は非置換の分岐状脂肪族置換基及び炭素数5〜50の置換又は非置換の脂環式置換基は、例えば、Rで説明したそれぞれの2価の基を1価にした置換基である。
【0019】
式(1)において、nは重合度を表し、nは10以上10000以下の整数である。nが10未満の場合、ポリマーとしての特性が得られないおそれがある。一方、nが10000超の場合、ポリマーの溶解度が低下し、重合反応時の重合度の上昇が抑制され、薄膜形成用のポリマー溶液が調製できないおそれがある。
【0020】
式(1)で表されるポリマーは、好ましくは下記式(2)又は(3)で表されるポリマーである。
【化8】

(式中、R’は上記アダマンタン部位構造又はアリーレン部位に置換している置換基であって、R’はハロゲン元素、炭素数6〜30の置換又は非置換の芳香族置換基、炭素数1〜20の置換又は非置換の直鎖状脂肪族置換基、炭素数1〜20の置換又は非置換の分岐状脂肪族置換基又は炭素数5〜50の置換又は非置換の脂環式置換基であり、
mは0以上14以下の整数である。)
【0021】
R’の特に好ましい具体例としては、フッ素、フェニル基、ナフチル基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロペンチル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、ノルボニル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基、ジメチルビアダマンチル基、ジブチルビアダマンチル基、ジアマンチル基、トリアマンチル基、及びこれら置換基のうち2以上を組み合わせてなる置換基が挙げられる。
R’が上述した置換基以外の場合、置換基自身の分子運動又は熱分解によって、ポリマーの耐熱性及び強度が低下するおそれがある。
【0022】
以下に本発明のポリマーの具体例を示す。
【化9】

【0023】
本発明の脂環式構造及びペルフルオロシクロブチルエーテル構造を有するポリマーは、例えば下記式(4)で表されるモノマーを熱、紫外線、電子線、プラズマ等を用いた付加環化反応をすることにより選択率及び収率よく製造することができる。また、複数の式(4)で表されるモノマーを混在させて共重合させることによっても製造することができる。
【化10】

(式中、Rは式(1)のRと同様である。)
【0024】
好ましい重合条件は、用いるモノマー及び得られるポリマーの所望する物性により異なるが、熱による付加環化反応の場合は、50℃〜300℃の範囲の温度で加熱することによりモノマーを付加環化反応させることができる。
【化11】

【0025】
式(4)で表されるモノマーは従来公知の方法により製造することができる(例えばMacromolecules,37,5724(2004))。
具体的な製造条件は、モノマーの所望の構造により異なるが、反応剤、触媒、原料の濃度や添加比率、溶媒の添加量、反応温度、反応時間、反応後処理方法等により制御することが可能である。
【0026】
尚、製造したモノマーは、好ましくは精製して用いる。精製したモノマーを用いることにより、本発明のポリマーの透明性、耐熱性及び強度に加えて安定性を向上させることができる。
モノマーの精製方法としては、イオン交換樹脂処理、再沈殿、再結晶、精密ろ過、乾燥等が挙げられ、これら精製方法によりモノマーに含まれるFe3+、Cl、Na、K、Ca2+等のイオン性不純物、反応溶媒、後処理溶媒、水分等を取り除くことができる。
【0027】
また、触媒又は反応剤を添加して本発明のポリマーを製造する場合、得られたポリマーを上述の精製方法を用いて精製することにより、本発明のポリマーの透明性、耐熱性及び強度に加えて安定性を向上させることができる。
【0028】
従来の芳香環構造及びペルフルオロシクロブチルエーテル構造を含有するポリマーは、芳香環構造の含有率が高く紫外線領域の透明性が十分ではないため、脂肪族構造に置換することにより向上させる。一方、本発明においては脂肪族構造を脂環式構造、特に、炭素からなる化合物のうち、地球上で最も高強度かつ高安定性であるダイヤモンドと共通のアダマンタン等の構造とすることにより、ポリマー中のエーテル結合の自由回転を拘束することが可能となり、ポリマーの耐熱性及び強度を飛躍的に向上できる。
【0029】
本発明の脂環式構造及びペルフルオロシクロブチルエーテル構造を有するポリマーを含む透明材料は、光学レンズ、光ファイバー、光導波路、フォトニック結晶等の種々の光情報処理装置や、フラットパネルディスプレー等の表示装置の性能及び耐久性を飛躍的に向上させることができる。また、本発明のポリマーを含む透明材料は、特に紫外線光領域の高透明性、低吸水性、高強度、高耐熱性等が向上した特性を有する。
尚、本発明の透明材料には、本発明のポリマーのほかに樹脂成形分野で使用される各種添加剤を含んでもよい。
【0030】
本発明の透明材料は公知の成形方法によって各種成形品(シリコンウェハ等の基板に形成した薄膜、フィルム、薄板、ファイバー等)を製造することができる。
成形方法としては、射出成型法、射出圧縮成型法、押出成型法、ブロー成型法、加圧成型法、トランスファー成型法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、キャスト法、CVD法等が挙げられ、これら成形方法を所望の製品の形態、性能に応じて適宜選択できる。
また、モノマー又は上述の方法で予備重合したnが2〜25の低分子量ポリマー(オリゴマー)を用いて成型し、得られた成形体を熱、紫外線、電子線、プラズマ等により硬化(環化付加反応)させてもよい。
【0031】
スピンコーティング法等により本発明の透明材料を薄膜状に成形する場合、本発明の透明材料を有機溶媒に溶解させた塗料を使用することができる。
有機溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、テトラクロロベンゼン、DMF、NMP、ジメチルアセトアミド、DMSO、アニソール、アセトフェノン、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、THF、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトン等が挙げられる。
【0032】
塗料中における本発明の透明材料の濃度は、塗料の粘度や成形方法等を考慮して適宜調製すればよい。
薄膜の厚さは特に限定されないが、一般に10nm〜10μm程度のものが好適に使用される。
【0033】
尚、本発明の透明材料からなるフィルムの厚さは1μm〜1mm程度であり、薄板の厚さは1mm〜1cm程度である。
【0034】
本発明の透明材料は、公知の透明材料が利用されている部材として使用することができる。具体的には、FPD保護膜等の透明フィルム、光拡散板、光反射板等の透明薄板、光ファイバー、光導波路等の線状透明部材、フォトニック結晶等の光情報処理用部材が挙げられる。上記部材は、装置の構成部材として用いることができ、例えば、光情報処理装置、FPD等の表示装置の構成部材として使用できる。
【0035】
本発明の透明材料は、特に紫外領域における透明性が高い。尚、透明性を有するとは、光の一部又は全部を吸収せずに透過することを意味する。
本発明の透明材料では、透明性の指標である最大非透過光波長(λcutoff)が150nm以上325nm以下の範囲であることが好ましい。最大非透過光波長が325nmを超えると黄色を帯びるおそれがある。
本発明の透明材料では、また透明性の指標である透過率80%の波長(λ80)が、380nm未満であることが好ましい。透過率80%波長が可視光領域になった場合には、着色が認められる可能性があるからである。好適には、360nm未満である。透明性の観点からは、透過率80%波長は短い程よい。最も短い波長としては、例えば、最大非透過光波長の下限値が挙げられる。
最大非透過光波長及び透過率80%波長は、例えば上記式(2)又は(3)の置換数mを調整することにより調整できる。
尚、最大非透過光波長及び透過率80%波長はフィルム状試料の透過スペクトルを紫外可視分光装置にて測定して決定できる。
【0036】
耐熱性の指標であるガラス転移温度(T)は150℃以上400℃以下の範囲であることが好ましい。また、10%重量減少温度(Td10)が400℃以上600℃以下の範囲であることが好ましい。
尚、ガラス転移温度は示差走査熱量計にて測定でき、10%重量減少温度は、窒素雰囲気下、示差熱熱重量同時測定装置にて測定できる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、以下の合成例及び実施例で用いている出発原料、試薬等は全て市販品又は公知の方法で調製した化合物である。
【0038】
実施例1
容量500ミリリットルのフラスコ中で、水素化ナトリウム(3.1g、127ミリモル)及びジメチルスルホキシド(200ミリリットル)の混合物に、窒素雰囲気下で1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン(20.4g、63.6ミリモル)のジメチルスルホキシド(200ミリリットル)溶液を滴下してから、80℃に加熱し12時間攪拌した。次いで、氷浴を用いて反応液を冷却し30℃以上にならないように、1,2−ジブロモテトラフルオロエタン(49.6g、191ミリモル)を滴下した後、室温で12時間、さらに50℃で12時間攪拌した。この反応液を冷却後、2リットルの蒸留水に投入し、しばらく撹拌した後、析出物をろ別回収した。得られた析出物を100℃で12時間減圧乾燥した後、ヘキサンを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、下記式(5)で表される合成中間体を白色結晶として得た(19.9g、収率46%)。式(5)で表される化合物の融点は107℃であった。
【化12】

【0039】
次いで、容量500ミリリットルのフラスコ中で、得られた式(5)で表される白色結晶(19.9g、29.4ミリモル)のアセトニトリル(100ミリリットル)溶液を調製した後、亜鉛粉末(3.9g、58.8ミリモル)を添加し、窒素雰囲気下で80℃に加熱して30時間攪拌した。その後、反応液を冷却後、アセトニトリルを減圧下に留去し、残った固体をヘキサンによるシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって分取した。得られた固体を減圧蒸留(180℃、0.02Torr)により精製し、下記式(6)で表されるモノマーを白色結晶として得た(12.3g、収率87%)。式(6)で表されるモノマーの融点は51℃であった。
【化13】

【0040】
合成した式(6)で表される化合物の構造は、IR測定、NMR測定及び元素分析で確認した。測定結果を以下に示す。
FT-IR(KBr,cm-1):2911(CH2),1833(CF=CF2),1507(CH=CH),1272(C-F),1135(C-F)
1H-NMR(400MHz,CDCl3,TMS):δ1.78(t,2H,adamantane),1.93(d,8H,adamantane),1.97(s,2H,adamantane),2.32(m,2H,adamantane),7.05(d,4H,o-Ar-H),7.37(d,4H,m-Ar-H)
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ29.4,35.6,37.0,42.3,49.2,115.6,126.4,147.2,153.1
19F-NMR(376MHz,CDCl3):δ-120.9(dd,1F),-127.8(dd,1F),-134.4(dd,1F)
元素分析:C26H22F6O2
理論値(%) C:65.00 H:4.61 N:0.00
実測値(%) C:64.64 H:4.58 N:0.00
【0041】
実施例2
実施例1において、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタンの代わりに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタンを用いた以外は実施例1と同様にして合成中間体として下記式(7)で表される白色結晶(15.7g、収率36%)を得た。次いで、式(5)で表される合成中間体の代わりに式(7)で表される合成中間体を用い、減圧蒸留を150℃、0.02Torrで行った以外は実施例1と同様にして、下記式(8)で表されるモノマーを白色結晶として得た(8.9g、収率80%)。式(8)で表されるモノマーの融点は128℃であった。
【化14】

【0042】
合成した式(8)で表される化合物の構造は、IR測定、NMR測定及び元素分析で確認した。測定結果を以下に示す。
FT-IR(KBr,cm-1):2909(CH2),1833(CF=CF2),1504(CH=CH),1272(C-F),1139(C-F)
1H-NMR(400MHz,CDCl3,TMS):δ1.71-1.73(4H,adamantane),1.76(2H,adamantane),1.82(2H,adamantane),1.97-2.00(4H,adamantane),3.19(2H,adamantane),6.96(d,4H,o-Ar-H),7.37(d,4H,m-Ar-H)
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ27.4,32.2,33.2,37.8,49.9,116.0,127.3,144.9,152.3
19F-NMR(376MHz,CDCl3):δ-120.9(dd,1F),-127.6(dd,1F),-134.3(dd,1F)
元素分析:C26H22F6O2
理論値(%) C:65.00 H:4.61 N:0.00
実測値(%) C:64.79 H:4.68 N:0.00
【0043】
実施例3
容量100ミリリットルのフラスコ中で、実施例1で合成したモノマー(6)(0.50g)を窒素雰囲気下180℃で9時間加熱した後、220℃で3時間さらに加熱し、固体状のポリマーを得た。得られたポリマーをテトラヒドロフランに溶解させ、メタノール中に再沈殿させて、下記式(9)の脂環式構造及びペルフルオロシクロブチルエーテル構造を含有するポリマーを白色固体として得た(0.46g、収率92%)。
【化15】

【0044】
得られた式(9)で表されるポリマーの対数粘度、IR及びNMRを測定した。測定結果を以下に示す。
対数粘度(ηinh):0.36dL/g(0.5g/デシリットル濃度のクロロホルム溶液、30℃で測定)
FT-IR(film,cm-1):2905(CH2),1509(CH=CH),1317(C-F),1204(C-F),963(C-F)
1H-NMR(400MHz,CDCl3,TMS):δ1.75(t,2H,adamantane),1.89(d,8H,adamantane),1.93(s,2H,adamantane),2.28(m,2H,adamantane),7.04(d,2H,o-Ar-H),7.11(d,2H,o-Ar-H),7.31(dd,4H,m-Ar-H)
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ29.4,35.6,36.9,42.2,49.1,117.8,126.1,147.3,150.4
19F-NMR(376MHz,CDCl3):δ-127.7,-128.8,-129.2,-129.4,-129.8,-130.6,-131.2,-131.8,-132.1,-132.6
【0045】
実施例4
容量100ミリリットルのフラスコ中で、実施例2で合成したモノマー(8)(0.5g)を窒素雰囲気下180℃で2時間加熱した後、220℃で3時間さらに加熱し、固体状のポリマーを得た。得られたポリマーをテトラヒドロフランに溶解させ、メタノール中に再沈殿させて、下記式(10)の脂環式構造及びペルフルオロシクロブチルエーテル構造を含有するポリマーを白色固体として得た(0.47g、収率94%)。
【化16】

【0046】
得られた式(10)で表されるポリマーの対数粘度、IR及びNMRを測定した。測定結果を以下に示す。
対数粘度(ηinh):0.20dL/g(0.5g/デシリットル濃度のクロロホルム溶液、30℃で測定)
FT-IR(film,cm-1):2917(CH2),1506(CH=CH),1319(C-F),1204(C-F),962(C-F)
1H-NMR(400MHz,CDCl3,TMS):δ1.69-1.71(6H,adamantane),1.78(2H,adamantane),1.94(4H,adamantane),3.13(2H,adamantane),6.78(d,2H,o-Ar-H),6.99(d,2H,o-Ar-H),7.27(dd,4H,m-Ar-H)
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ27.4,32.1,33.1,37.8,49.9,118.0,127.0,145.2,149.5
19F-NMR(376MHz,CDCl3):δ-127.7,-128.8,-129.1,-129.5,-130.0,-130.7,-131.2,-131.8,-132.7,-133.3
【0047】
合成例1
実施例1において、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタンの代わりにビスフェノールAを用い、シリカゲルクロマトグラフィーの代わりにジエチルエーテルで抽出した以外は実施例1と同様にして、合成中間体として下記式(11)で表される無色透明油状物(11.2g、収率30%)を得た。次いで、式(5)で表される合成中間体の代わりに式(11)で表される合成中間体を用い、減圧蒸留を150℃、0.02Torrで行った以外は実施例1と同様にして、下記式(12)で表されるモノマーを無色透明油状物(6.2g、収率84%)として得た。
【化17】

【0048】
合成した式(12)で表される化合物の構造は、IR測定及びNMR測定で確認した。測定結果を以下に示す。
FT-IR(KBr,cm-1):2974(CH3),1833(CF=CF2),1504(CH=CH),1277(C-F),1140(C-F)
1H-NMR(400MHz,CDCl3,TMS):δ1.65(s,6H,CH3),6.99(d,4H,o-Ar-H),7.20(d,4H,m-Ar-H)
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ30.9,42.3,115.5,128.3,147.0,153.1
19F-NMR(376MHz,CDCl3):δ-120.9(dd,1F),-127.7(dd,1F),-134.5(dd,1F)
【0049】
比較例1
容量100ミリリットルのフラスコ中で、合成例1で合成したモノマー(12)(0.50g)を窒素雰囲気下180℃で24時間加熱した後、240℃で8時間加熱し、固体状のポリマーを得た。得られたポリマーをクロロホルムに溶解させメタノール中に再沈殿させて、下記式(13)で表される脂環式構造を含有しないペルフルオロシクロブチルエーテル構造を含有するポリマーを白色固体として得た(0.45g、収率90%)。
【化18】

【0050】
得られた式(13)で表されるポリマーの対数粘度、IR及びNMRを測定した。測定結果を以下に示す。
対数粘度(ηinh):0.30dL/g(0.5g/デシリットル濃度のクロロホルム溶液、30℃で測定)
FT-IR(film,cm-1):2972(CH3),1507(CH=CH),1309(C-F),1204(C-F),963(C-F)
1H-NMR(400MHz,CDCl3,TMS):δ1.63(s,6H,CH3),6.98(d,2H,o-Ar-H),7.07(d,2H,o-Ar-H),7.24(m,4H,m-Ar-H)
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ30.7,42.2,117.6,128.0,147.1,150.5
19F-NMR(376MHz,CDCl3):δ-127.7,-128.7,-129.2,-129.3,-129.8,-130.6,-131.1,-131.7,-132.2,-132.9
【0051】
[ポリマーの評価]
実施例3及び4並びに比較例1で製造したポリマーについて、以下の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
(1)数平均分子量及び重量平均分子量
ポリマーを希薄なテトラヒドロフラン溶液とした後、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)にて数平均分子量及び重量平均分子量(ポリスチレン標準換算)を測定した。
(2)10%重量減少温度(Td10
窒素雰囲気下で示差熱熱重量同時測定装置により10%重量減少温度(Td10)を測定した。
(3)ガラス転移温度(T
示差走査熱量計によりガラス転移温度(T)を測定した。
(4)最大非透過光波長(λcutoff)及び透過率80%の波長(λ80
実施例3及び4並びに比較例1で製造したポリマーを用いて、10〜40μmの厚さのいずれも透明無色のフィルムを作製した。作製したフィルムの紫外可視吸収スペクトル(図1)を測定することにより透過しない光の波長の最大値(λcutoff)及び透過率80%の波長(λ80)を測定した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1の結果より、本発明の脂環式構造及びペルフルオロシクロブチルエーテル構造を含有するポリマーは、特に紫外光に対する透明性が高い上、高耐熱性を具備し、透明性材料として極めて有用であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のポリマーは、光ファイバー、光学レンズ等の光学デバイス、フラットパネルディスプレイ等の表示機器の透明材料として好適に使用できる。
本発明の透明材料は、光ファイバー、光導波路等の光情報伝達装置、CMOSイメージセンサ、CCDイメージセンサ、CD、DVD、ブルーレイディスク、光コンピューター等の光情報処理装置、又は液晶ディスプレー、液晶プロジェクター、プラズマディスプレー、ELディスプレー、LEDディスプレー等の表示装置の構成部材の材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例3及び4並びに比較例1で製造したポリマーからなるフィルムの紫外可視吸収スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式構造及びペルフルオロシクロブチルエーテル構造を有する下記式(1)で表されるポリマー。
【化1】

(式中、Rは、炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基、又は炭素数6〜10の2価の芳香族基、炭素数1〜20の置換又は非置換の2価の直鎖状脂肪族基、炭素数1〜20の置換又は非置換の2価の分岐状脂肪族基、炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基からなる群から選択される1以上の2価の基及び炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基が結合して形成される2価の基であり、
nは10以上10000以下の整数である。)
【請求項2】
前記炭素数5〜50の置換又は非置換の2価の脂環式基が、アダマンタン構造、ビアダマンタン構造、ジアマンタン構造又はトリアマンタン構造を含む請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
前記式(1)で表されるポリマーが、下記式(2)又は(3)で表されるポリマーである請求項1又は2に記載のポリマー。
【化2】

(式中、R’は上記アダマンタン部位構造又はアリーレン部位に置換している置換基であって、R’はハロゲン元素、炭素数6〜30の置換又は非置換の芳香族置換基、炭素数1〜20の置換又は非置換の直鎖状脂肪族置換基、炭素数1〜20の置換又は非置換の分岐状脂肪族置換基又は炭素数5〜50の置換又は非置換の脂環式置換基であり、
mは0以上14以下の整数であり、mが2以上の場合、複数のR’はそれぞれ同一でも異なってもよい)
【請求項4】
下記式(4)で表されるモノマー。
【化3】

(式中、Rは式(1)のRと同様である。)
【請求項5】
請求項4に記載の一般式(4)で表されるモノマーを付加環化反応する請求項1〜3のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリマー、又は請求項5に記載のポリマーの製造方法により得られるポリマーを含む透明材料。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリマー、又は請求項5に記載のポリマーの製造方法により得られるポリマーを有機溶媒に溶解させた塗料。
【請求項8】
請求項7に記載の塗料を用いて形成される薄膜。
【請求項9】
請求項6に記載の透明材料からなる部材。
【請求項10】
請求項9に記載の部材を備える装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−249487(P2009−249487A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98504(P2008−98504)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】