説明

脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法

【課題】製造直後の着色が少なく、かつ高温で長期間保管した後も着色が少ない脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素数1〜24の脂肪族第1級アミン1モルに、触媒の非存在下エチレンオキサイドを平均付加モル数1.5〜2.0モル反応(第1段反応)させて得られた脂肪族アミンエチレンオキサイド付加物(A)に、(A)の重量に基づき0.01〜3重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの存在下、更に炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを平均付加モル数3〜100モル反応(第2段反応)させた後、硫酸ヒドロキシルアミンを添加し、110〜170℃で前記テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを加熱分解し、加熱分解物を減圧除去することを特徴とする脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物(B)の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物、特にエチレンオキサイド付加物は、界面活性剤及びその原料として用いられ、食器用洗浄剤、繊維の染色助剤、繊維柔軟仕上げ剤、殺菌剤、農薬展着剤、帯電防止剤及び塗膜表面改質剤といった多岐にわたる用途で使用されている。
前記脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物は、一般的には無触媒又はアルカリ金属及びアルカリ土類金属等のアルカリ触媒の存在下、脂肪族アミンにアルキレンオキサイドを付加して製造されているが、触媒の存在下にアルキレンオキサイドを付加すると脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物が着色し、特にエチレンオキサイドの付加モル数が多くなるにつれて、着色が顕著になるという問題がある。また、反応直後に着色を防止できたとしても、酸素にさらされる条件下で長期間保管していると着色してしまうため、使用できる用途が限定されるという課題があった。
【0003】
本発明者らは、前記の着色を防止する方法として、脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物の製造時に、水素化ホウ素ナトリウムや水素化アルミニウムリチウム等の還元剤を添加する方法(特許文献1)を提案した。
しかしながら、特許文献1の方法では着色低減効果が認められるが、前記還元剤はすべて水と激しく反応し、場合によっては水素を発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−13465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、製造直後の着色が少なく、かつ高温で長期間保管した後も着色が少ない脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、炭素数1〜24の脂肪族第1級アミン1モルに、触媒の非存在下エチレンオキサイドを平均付加モル数1.5〜2.0モル反応(第1段反応)させて得られた脂肪族アミンエチレンオキサイド付加物(A)に、(A)の重量に基づき0.01〜3重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの存在下、更に炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを平均付加モル数3〜100モル反応(第2段反応)させた後、硫酸ヒドロキシルアミンを添加し、110〜170℃で前記テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを加熱分解し、加熱分解物を減圧除去することを特徴とする脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物(B)の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法で得られた脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物は、製造直後の着色が少なく、かつ高温で長期間保管した後も着色が少ない、という効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における炭素数が1〜24の脂肪族第1級アミンとしては、炭素数が1〜24の脂肪族炭化水素基を有する第1級アミンが挙げられ、前記脂肪族炭化水素基は直鎖状でも分岐状でも環状でもよく、飽和でも不飽和でもよい。
脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、t−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、n−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、n−デシルアミン、イソデシルアミン、n−ウンデシルアミン、n−ドデシルアミン、n−トリデシルアミン、n−テトラデシルアミン、2−メチル−n−トリデシルアミン、n−ペンタデシルアミン、n−ヘキサデシルアミン、n−ヘプタデシルアミン、n−オクタデシルアミン、イソオクタデシルアミン、n−ノナデシルアミン、n−イコシルアミン、n−ヘンイコシルアミン、n−ドコシルアミン、n−トリコシルアミン、n−テトラコシルアミン、プロペニルアミン、5−メチル−5−ヘキセニルアミン、3−メチル−2−デセニルアミン、n−オクタデセニルアミン及びオレイルアミン等が挙げられる。脂肪族第1級アミンは、1種又は2種以上の混合物を用いてもよく、2種以上の混合物としては、牛脂アミン、硬化牛脂アミン、ヤシ油アミン、パーム油アミン及び大豆油アミン等の動植物油由来の脂肪族第1級アミンが挙げられる。これらの脂肪族第1アミンは蒸留精製してあることが望ましい。
【0009】
本発明における第1段反応は、炭素数が1〜24の脂肪族第1級アミンに触媒の非存在下エチレンオキサイドを付加させ、脂肪族アミンエチレンオキサイド付加物(A)を得る反応である。エチレンオキサイドの平均付加モル数は、炭素数が1〜24の脂肪族第1級アミン1モルに対して1.5〜2.0モルであり、好ましくは1.7〜2.0モルである。
第1段反応の反応温度は、好ましくは80〜120℃であり、更に好ましくは95〜115℃である。反応温度が80℃以上であれば付加反応の誘導期間が短くなるため生産性が向上し、120℃以下であれば、第2段反応の際に脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物(B)が着色しにくい。
【0010】
本発明における第2段反応には、触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを使用する。テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの添加量は、脂肪族第1級アミンエチレンオキサイド付加物(A)の重量に基づき0.01〜3重量%であり、好ましくは0.02〜1重量%であり、更に好ましくは0.05〜0.5重量%である。
【0011】
第2段反応における炭素数2〜4のアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドが挙げられ、1種又は2種以上を混合して使用することができる。これらのうち好ましいのは、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドである。2種以上のアルキレンオキサイドを使用する場合、ブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。アルキレンオキサイドの平均付加モル数は3〜100モルであり、好ましくは3〜40モルである。
【0012】
第2段反応の反応温度は、好ましくは50〜105℃であり、更に好ましくは70〜95℃である。反応温度が50℃以上であれば反応が早くなるため生産性が向上し、105℃以下であれば脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物(B)が着色しにくくなる。
【0013】
前記第1段反応及び第2段反応におけるアルキレンオキサイドの付加反応では、反応圧力は特に限定されず、通常のアルキレンオキサイド付加反応の条件で行うことができるが、温度コントロールの観点から、好ましくは−0.1〜0.3MPaである。
【0014】
本発明における第2段反応では、アルキレンオキサイドの付加反応の後に、触媒分解時の着色を防止するため、硫酸ヒドロキシルアミン[(NH2OH)2・H2SO4]を還元剤として添加する。
硫酸ヒドロキシルアミンは、水と反応することなく安定な水溶液が得られ、また水溶液として用いた場合でも着色低減効果に優れる。
【0015】
硫酸ヒドロキシルアミンを添加する際の温度は、脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物(B)の着色防止の観点から70℃以下であることが好ましく、更に好ましくは40℃以下である。また、着色防止の観点から、できる限り空気(酸素)が混入しない条件下で、添加することが好ましい。
硫酸ヒドロキシルアミンの添加量は、脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物(B)の重量に基づき、好ましくは10〜100ppmであり、更に好ましくは20〜50ppmである。
硫酸ヒドロキシルアミンを添加した後、前記テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを加熱分解する際の温度は110〜170℃であり、分解し易さの観点から好ましくは130〜170℃である。加熱分解時間は通常1〜5時間であり、好ましくは1〜3時間である。
加熱分解物の減圧除去は、110〜170℃で、−0.1〜−0.01MPaの減圧下で行うのが好ましい。減圧除去時間は通常1〜5時間であり、好ましくは1〜3時間である。また減圧除去は、前記加熱分解を−0.1〜−0.01MPaの減圧下で行うことで加熱分解と同時に行うこともでき、加熱分解の後行うこともできる。
【0016】
本発明の製造方法で得られた脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物(B)は、製造条件等の最適化により、製造直後のハーゼン単位色数が200以下であり、かつ、50℃で90日間保管した後のハーゼン単位色数が200以下となる。
【0017】
本発明の脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物(B)のハーゼン単位色数は、JIS K0071−1:1998の方法で測定することができる。なお、ハーゼン単位色数は、数値が小さいほど着色が少ないことを表す。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0019】
<実施例1>
温度計、加熱冷却装置、撹拌機、滴下ボンベ及びストリッピング装置を備えたガラス製耐圧反応容器に、ステアリルアミン「ファーミン86T」[花王(株)製]259部(1.0モル部)を投入し、アルゴンガスで置換後、減圧下(−0.097MPa)、95℃に昇温した。次いでエチレンオキサイド83.6部(1.9モル部)を圧力が0.3MPaを超えないように調整しながら、90〜110℃の範囲で3時間かけて滴下した。滴下終了後、90〜110℃の範囲で2時間熟成し、更に95℃で30分間熟成し室温まで冷却した。得られたステアリルアミンエチレンオキサイド1.9モル付加物(A−1)に、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド25%水溶液4.2部を空気が混入しないように添加し、95℃に昇温後、減圧下(−0.097MPa)同温で1時間脱水した。70℃に冷却後、エチレンオキサイド356.4部(8.1モル部)を圧力が0.2MPaを超えないように調整しながら、70〜90℃の範囲で3時間かけて滴下し、滴下終了後、70℃で30分間熟成した。更に40℃以下に冷却後、硫酸ヒドロキシルアミン0.035部(50ppm)を加え、窒素置換した後、減圧下(−0.097MPa)130〜170℃で1時間テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの分解、除去処理を行ない、ステアリルアミンエチレンオキサイド10モル付加物(B−1)を得た。
【0020】
<実施例2>
硫酸ヒドロキシルアミン0.035部(50ppm)を5%硫酸ヒドロキシルアミン水溶液0.7部(50ppm)に変更した以外は実施例1と同様にして、ステアリルアミンエチレンオキサイド10モル付加物(B−2)を得た。
【0021】
<実施例3>
ステアリルアミン259部(1.0モル部)をラウリルアミン「ファーミン20D」[花王(株)製]185部(1.0モル部)に、エチレンオキサイドの部数83.6部(1.9モル部)を88部(2.0モル部)に、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド25%水溶液の部数4.2部を2.0部に、エチレンオキサイドの部数356.4部(8.1モル部)を176部(4.0モル部)に変更した以外は実施例1と同様にして、ラウリルアミンエチレンオキサイド6.0モル付加物(B−3)を得た。
【0022】
<実施例4>
ステアリルアミン「ファーミン86T」[花王(株)製]259部(1.0モル部)をn−ヘキシルアミン[東京化成工業(株)製]99部(1.0モル部)に変更した以外は実施例1と同様にして、n−ヘキシルアミンエチレンオキサイド10モル付加物(B−4)を得た。
【0023】
<実施例5>
ステアリルアミン「ファーミン86T」[花王(株)製]259部(1.0モル部)をオレイルアミン「ファーミンO」[花王(株)製]257部(1.0モル部)に変更した以外は実施例1と同様にして、オレイルアミンエチレンオキサイド10モル付加物(B−5)を得た。
【0024】
<実施例6>
エチレンオキサイドの部数356.4部(8.1モル部)を1760部(40モル部)に変更した以外は実施例1と同様にして、ステアリルアミンエチレンオキサイド41.9モル付加物(B−6)を得た。
【0025】
<実施例7>
エチレンオキサイドの部数356.4部(8.1モル部)を4400部(100モル部)に変更した以外は実施例1と同様にして、ステアリルアミンエチレンオキサイド101.9モル付加物(B−7)を得た。
【0026】
<実施例8>
エチレンオキサイド356.4部(8.1モル部)をプロピレンオキサイド469.8部(8.1モル部)に変更した以外は実施例1と同様にして、ステアリルアミンエチレンオキサイド1.9モル−プロピレンオキサイド8.9モル付加物(B−8)を得た。
【0027】
<比較例1>
硫酸ヒドロキシルアミン0.035部(50ppm)を、12%水素化ホウ素ナトリウム−40%水酸化ナトリウム水溶液「SWS」(ローム・アンド・ハース社製)0.29部(水素化ホウ素ナトリウム:50ppm)に変更した以外は実施例1と同様にして、ステアリルアミンエチレンオキサイド10モル付加物(B’−1)を得た。
【0028】
<比較例2>
硫酸ヒドロキシルアミン0.035部(50ppm)を加えなかったこと以外は実施例1と同様にして、ステアリルアミンエチレンオキサイド10モル付加物(B’−2)を得た。
【0029】
実施例1〜8、比較例1、2で得られた脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物(B−1)〜(B−8)、(B’−1)、(B’−2)の製造直後及び50℃で90日間保管後のハーゼン単位色数を、JIS K0071−1:1998の方法で測定した。結果を表1に示す。なお、50℃で90日間保管するときの保管条件は、以下の通りである。
【0030】
<(B)を50℃で90日間保管するときの保管条件>
220mlのガラス製容器に脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物(B)200mlを入れ、ガラス製容器内の空間部分を窒素置換後密栓し、50℃の恒温器内で90日間保管する。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果から明らかなように、硫酸ヒドロキシルアミンを還元剤として使用した場合(実施例1〜8)には、脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物(B)の着色が少なく、かつ50℃で90日間保管した後の着色が少ない。一方、比較例の結果から、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを使用した場合(比較例1)及び全く還元剤を使用しない(比較例2)場合には、脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物(B)の着色が多い。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物の製造方法で得られた脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物は、製造直後の着色が少なく、かつ高温で長期間保管した後も着色が少ないため、洗浄剤、繊維の染色助剤、繊維柔軟仕上げ剤、殺菌剤、農薬展着剤、帯電防止剤及び塗膜表面改質剤といった多岐にわたる用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1〜24の脂肪族第1級アミン1モルに、触媒の非存在下エチレンオキサイドを平均付加モル数1.5〜2.0モル反応(第1段反応)させて得られた脂肪族アミンエチレンオキサイド付加物(A)に、(A)の重量に基づき0.01〜3重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの存在下、更に炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを平均付加モル数3〜100モル反応(第2段反応)させた後、硫酸ヒドロキシルアミンを添加し、110〜170℃で前記テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを加熱分解し、加熱分解物を減圧除去することを特徴とする脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物(B)の製造方法。
【請求項2】
前記第1段反応の反応温度が80〜120℃である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記第2段反応の反応温度が50〜105℃である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の製造方法で得られる脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物(B)。
【請求項5】
製造直後のハーゼン単位色数が200以下であり、かつ窒素置換した密閉容器内で50℃で90日間保管した後のハーゼン単位色数が200以下である請求項4記載の脂肪族アミンアルキレンオキサイド付加物(B)。

【公開番号】特開2010−168348(P2010−168348A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256797(P2009−256797)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】