説明

脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びそれを成形してなる成形体

【課題】良好な成形性や機械強度を有し、脂肪族ポリエステル樹脂に由来するオリゴマーの表面への析出が抑制された脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその成形体を提供すること。
【解決手段】脂肪族ポリエステル樹脂、澱粉及び水酸基を含有する有機化合物を少なくとも含有する樹脂組成物であって、該水酸基を含有する有機化合物の配合量が、該脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、3質量部以上40質量部以下であり、該脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる環状2量体の含量が1000〜10000ppmの範囲であることを特徴とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物、及びそれを成形してなる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な成形性、機械強度等を有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物に関するものであり、更には、脂肪族ポリエステル樹脂に由来するオリゴマーの表面への析出が抑制された脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種食品、薬品、雑貨用等の液状物や粉粒物、固形物の包装用資材、農業用資材、建築資材等幅広い用途において、紙、プラスチックフィルム、アルミ箔等が用いられている。特にプラスチックフィルムは強度、耐水性、成形性、透明性、コスト等において優れており、袋や容器として、多くの用途で使用されている。
【0003】
例えば、脂肪族ポリエステル樹脂は、フィルム等の各種成形品に適用されているが、脂肪族ポリエステル樹脂を用いた成形品をしばし放置すると、表面にオリゴマー、とりわけ環状2量体が析出し、表面が白化するという問題があった。脂肪族ポリエステル樹脂に含まれるオリゴマー、とりわけ環状2量体を低減する技術として、脂肪族ポリエステルを、脂肪族ケトン、環状脂肪族エーテル、脂肪族モノエステルから選ばれる1種類以上の溶剤で、脂肪族ポリエステルの融点よりも低く、溶剤の沸点よりも低い温度にて洗浄する技術が開示されている(特許文献1)。しかし、この方法では、製造工程のプロセスが煩雑になり、また使用した有機溶媒が樹脂中に残留するという問題があった。
【0004】
また、脂肪族ポリエステル樹脂は、成形性は良好であるが、例えばフィルムの引き裂き強度や引っ張り破断伸び等の機械的性質が不十分であった(特許文献2)。脂肪族ポリエステル樹脂の機械的性質を改善する試みとして、澱粉と脂肪族ポリエステルの組成物を調製することも行われているが、上記の脂肪族ポリエステル樹脂に由来するオリゴマーによる成形体の白化という問題は、依然解決されていなかった。
【0005】
また、熱可塑性樹脂と、主にアミロペクチン物質からなる澱粉性材料物質とからなる樹脂組成物が開示されているが(特許文献3)、その機械的性質の改善に関しては不十分であった。
【特許文献1】特開2002−003606号公報
【特許文献2】特開平8−239461号公報
【特許文献3】特開平6−041351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、良好な成形性や機械強度を有し、脂肪族ポリエステル樹脂に由来するオリゴマーの表面への析出が抑制された脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、脂肪族ポリエステル樹脂、澱粉及び水酸基を含有する有機化合物を溶融混練することにより、澱粉が水酸基を含有する有機化合物によって可塑化されるために、得られる脂肪族ポリエステル樹脂組成物が、良好な成形性や機械強度を有するようになり、また、脂肪族ポリエステル樹脂に由来するオリゴマーが水酸基を含有する有機化合物に溶解するために、成形体表面へのオリゴマーの析出を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、脂肪族ポリエステル樹脂、澱粉及び水酸基を含有する有機化合物を少なくとも含有する樹脂組成物であって、該水酸基を含有する有機化合物の配合量が、該脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、3質量部以上40質量部以下であり、該脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる環状2量体の含量が1000〜10000ppmの範囲であることを特徴とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物を提供するものである。
【0009】
また本発明は、上記脂肪族ポリエステル樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好な成形性や機械強度を有し、脂肪族ポリエステル樹脂に由来するオリゴマーの表面への析出が抑制された脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の具体的形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲内で任意に変形したものも含まれる。
【0012】
<脂肪族ポリエステル樹脂>
本発明において、脂肪族ポリエステル樹脂とは、分子中に芳香族環を実質的に有さないポリエステル樹脂をいう。本発明における脂肪族ポリエステル樹脂は、ジオール単位及びジカルボン酸単位を含むものが好ましく、更に好ましくは、例えば、下記式(1)で表される鎖状脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位、並びに、下記式(2)で表される鎖状脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位からなるものである。
−O−R−O− (1)
[式(1)中、Rは2価の鎖状脂肪族炭化水素基及び/又は2価の脂環式炭化水素基を示す。共重合されている場合には、樹脂中に2種以上のRが含まれていてもよい。]
−OC−R−CO− (2)
[式(2)中、Rは2価の鎖状脂肪族炭化水素基及び/又は2価の脂環式炭化水素基を示す。共重合されている場合には、樹脂中に2種以上のRが含まれていてもよい。]
【0013】
なお、式(1)、式(2)において、「2価の鎖状脂肪族炭化水素基及び/又は2価の脂環式炭化水素基」の「及び」とは、構成成分の1分子中に2価の鎖状脂肪族炭化水素基と2価の脂環式炭化水素基の両方を含んでいてもよいという意味である。また、以下、「鎖状脂肪族及び/又は脂環式」を、単に「脂肪族」と略記する場合がある。
【0014】
式(1)のジオール単位を与える脂肪族ジオール成分は特に限定はないが、炭素数2〜10個の脂肪族ジオール成分が好ましく、炭素数4〜6個の脂肪族ジオール成分が特に好ましい。具体的には、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、中でも1,4−ブタンジオールが特に好ましい。脂肪族ジオール成分は2種類以上を用いることもできる。
【0015】
式(2)のジカルボン酸単位を与える脂肪族ジカルボン酸成分は特に限定はないが、炭素数2〜10個の脂肪族ジカルボン酸成分が好ましく、炭素数4〜8個の脂肪族ジカルボン酸成分が特に好ましい。脂肪族ジカルボン酸成分の具体例としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられ、中でもコハク酸又はアジピン酸が特に好ましい。脂肪族ジカルボン酸成分は2種類以上を用いることもできる。
【0016】
更に、本発明における脂肪族ポリエステル樹脂には、脂肪族オキシカルボン酸単位が含有されていてもよい。脂肪族オキシカルボン酸単位を与える脂肪族オキシカルボン酸の具体例としては、例えば、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸等、又はこれらの低級アルキルエステル若しくは分子内エステルが挙げられる。これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体又はラセミ体の何れでもよく、形態としては固体、液体又は水溶液であってもよい。これらの中で特に好ましいものは、乳酸又はグリコール酸である。これら脂肪族オキシカルボン酸は単独でも、2種以上の混合物としても使用することもできる。
【0017】
上記脂肪族オキシカルボン酸の量は、脂肪族ポリエステル樹脂を構成する全構成成分中、下限が通常0モル%以上、好ましくは、0.01モル%以上であり、上限が通常30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。
【0018】
また、本発明における脂肪族ポリエステル樹脂は、「3官能以上の脂肪族多価アルコール」、「3官能以上の脂肪族多価カルボン酸又はその酸無水物」又は「3官能以上の脂肪族多価オキシカルボン酸」を共重合すると、得られる脂肪族ポリエステル樹脂の溶融粘度を高めることができるため好ましい。
【0019】
3官能の脂肪族多価アルコールの具体例としては、トリメチロールプロパン、グリセリン等が挙げられ、4官能の脂肪族多価アルコールの具体例としては、ペンタエリスリトール等が挙げられる。これらは単独でも2種以上混合して使用することもできる。
【0020】
3官能の脂肪族多価カルボン酸又はその酸無水物の具体例としては、プロパントリカルボン酸又はその酸無水物が挙げられ、4官能の多価カルボン酸又はその酸無水物の具体例としては、シクロペンタンテトラカルボン酸又はその酸無水物等が挙げられる。これらは単独でも2種以上混合して使用することもできる。
【0021】
また、3官能の脂肪族オキシカルボン酸成分は、(i)カルボキシル基が2個とヒドロキシル基が1個を同一分子中に有するタイプと、(ii)カルボキシル基が1個とヒドロキシル基が2個のタイプとに分かれ、何れのタイプも使用可能である。具体的には、リンゴ酸等が好ましく用いられる。また、4官能の脂肪族オキシカルボン酸成分は、(i)3個のカルボキシル基と1個のヒドロキシル基とを同一分子中に共有するタイプ、(ii)2個のカルボキシル基と2個のヒドロキシル基とを同一分子中に共有するタイプ、(iii)3個のヒドロキシル基と1個のカルボキシル基とを同一分子中に共有するタイプとに分かれ、何れのタイプも使用可能である。具体的には、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。これらは単独でも2種以上混合して使用することもできる。
【0022】
このような3官能以上の化合物の量は、脂肪族ポリエステル樹脂を構成する全構成成分中、下限は、通常0モル%以上、好ましくは0.01モル%以上であり、上限は、通常5モル%以下、好ましくは2.5モル%以下である。
【0023】
本発明における好ましい脂肪族ポリエステル樹脂としては、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリブチレンサクシネートアジペート系樹脂、又はそれらの混合物である。「系樹脂」の意味は、その他の構成成分を、約40モル%以下程度は含んでいてもよいという意味である。脂肪族ポリエステル樹脂として、特に好ましくは、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、又はそれらの混合物である。
【0024】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物に含有される脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる環状2量体の含量は、脂肪族ポリエステル樹脂全体に対して、質量で1000ppm〜10000ppmが必須であるが、好ましくは1500ppm〜9000ppmであり、特に好ましくは2000ppm〜8000ppmであり、更に好ましくは2500ppm〜7500ppmである。環状2量体の含量が多過ぎる場合は、環状2量体の析出を抑制するために必要な水酸基を含有する有機化合物の添加量が多くなり過ぎるため、該水酸基を含有する有機化合物が成形体表面に偏析する、樹脂の流動性が高くなり過ぎるために成形時にトラブルが生ずる等の場合がある。一方、環状2量体の含量を必要以上に少なくしようとすると、後述するように、適切な溶媒を使用して樹脂を洗浄する必要があり、確かに成形体表面への環状2量体の偏析は抑制されるが、溶媒による洗浄のプロセスが煩雑である、洗浄に使用した溶媒が樹脂ペレットに残留する等の場合がある。本発明における環状2量体の含量は、実施例に記載の方法で定量した値である。
【0025】
環状2量体の含量を、脂肪族ポリエステル樹脂全体に対して、質量で1000ppm〜10000ppmにする方法は特に限定はないが、後述する脂肪族ポリエステル樹脂の製造工程において、得られた樹脂を押出機にて溶融させて押し出しながら脱揮する方法、脂肪族ポリエステル樹脂を製造後に有機溶剤で洗浄する方法等がある。しかしながら、脂肪族ポリエステル樹脂を製造後に有機溶剤で洗浄する方法は、製造プロセスが煩雑になり、また使用した有機溶媒が樹脂中に残留するという問題がある。
【0026】
本発明で使用する脂肪族ポリエステル樹脂は、公知の方法で製造することができる。例えば、上記の脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行った後、減圧下での重縮合反応を行うといった溶融重合の一般的な方法や、有機溶媒を用いた公知の溶液加熱脱水縮合方法によっても製造することができるが、経済性や製造工程の簡略性の観点から、無溶媒下で行う溶融重合で製造する方法が好ましい。
【0027】
また、重縮合反応は、重合触媒の存在下に行うことが好ましい。重合触媒の添加時期は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよく、減圧開始時に添加してもよい。重合触媒としては、一般には、周期表で、水素、炭素を除く1族〜14族金属元素を含む化合物である。具体的には、チタン、ジルコニウム、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれた、少なくとも1種以上の金属を含むカルボン酸塩、アルコキシ塩、有機スルホン酸塩又はβ−ジケトナート錯体等の有機基を含む化合物、更には前記した金属の酸化物、ハロゲン化物等の無機化合物、又はそれらの混合物が挙げられる。
【0028】
これらの中では、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム又はカルシウムを含む金属化合物、並びにそれらの混合物が好ましく、その中でも、特に、チタン化合物又はゲルマニウム化合物が好ましい。また、触媒は、重合時に溶融又は溶解した状態であると重合速度が高くなる理由から、重合時に液状であるか、エステル低重合体やポリエステルに溶解する化合物が好ましい。
【0029】
これらの重合触媒として金属化合物を用いる場合の触媒添加量は、生成するポリエステルに対する金属量として、下限値が通常、5ppm以上、好ましくは10ppm以上であり、上限値が通常、30000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは250ppm以下、特に好ましくは130ppm以下である。使用する触媒量が多すぎると、経済的に不利であるばかりでなくポリマーの熱安定性が低くなるのに対し、逆に少なすぎると重合活性が低くなり、それに伴いポリマー製造中にポリマーの分解が誘発されやすくなる。
【0030】
ジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応の反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上、上限が通常260℃以下、好ましくは250℃以下である。反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。反応圧力は、通常、常圧〜10kPaであるが、常圧が好ましい。反応時間は、通常1時間以上であり、上限は通常10時間以下、好ましくは、4時間以下である。
【0031】
その後の重縮合反応は、圧力を、下限が通常0.001×10Pa以上、好ましくは0.01×10Pa以上であり、上限が通常1.4×10Pa以下、好ましくは0.4×10Pa以下の真空度として行う。この時の反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上であり、上限が通常260℃以下、好ましくは250℃以下の範囲である。反応時間は、下限が通常2時間以上であり、上限が通常15時間以下、好ましくは10時間以下である。
【0032】
本発明において脂肪族ポリエステル樹脂を製造する反応装置としては、公知の縦型あるいは横型撹拌槽型反応器を用いることができる。例えば、溶融重合を同一又は異なる反応装置を用いて、エステル化及び/又はエステル交換の工程と減圧重縮合の工程の2段階で行い、減圧重縮合の反応器としては、真空ポンプと反応器を結ぶ減圧用排気管を具備した攪拌槽型反応器を使用する方法が挙げられる。また、真空ポンプと反応器とを結ぶ減圧用排気管の間には、凝縮器が結合されており、該凝縮器にて縮重合反応中に生成する揮発成分や未反応モノマーが回収される方法が好んで用いられる。
【0033】
本発明において、目的とする重合度のポリエステルを得るためのジオール成分とジカルボン酸成分とのモル比は、その目的や原料の種類により好ましい範囲は異なるが、酸成分1モルに対するジオール成分の量が、下限が通常0.8モル以上、好ましくは、0.9モル以上であり、上限が通常1.5モル以下、好ましくは1.3モル以下、特に好ましくは1.2モル以下である。また、生分解性に影響を与えない範囲で、ウレタン結合、アミド結合、カーボネート結合、エーテル結合等を導入することができる。
【0034】
本発明に用いられる脂肪族ポリエステル樹脂は十分に結晶化速度が高いものであり、示差走査熱量計測定において10℃/分で冷却した際の結晶化に基づく発熱ピークの半値幅が、通常、15℃以下、好ましくは10℃以下、特に好ましくは8℃以下である。示差走査熱量計測定は、例えばパーキンエルマー社製DSC7を用い、10mgのサンプルを、流量50mL/分の窒素気流下で加熱溶融させた後、10℃/分の速度で冷却し、結晶化に伴う発熱ピークを記録することにより実施される。
【0035】
本発明に用いられる脂肪族ポリエステル樹脂のメルトフローレート(MFR)は、190℃、2.16kgで測定した場合、下限が通常0.1g/10分以上であり、上限が、通常100g/10分以下、好ましくは50g/10分以下、特に好ましくは30g/10分以下である。
【0036】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物には、芳香族脂肪族ポリエステル樹脂を含有させることもできる。「芳香族脂肪族ポリエステル樹脂」とは、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸、並びに、脂肪族ジオールを主成分とするものである。この場合の芳香族ジカルボン酸単位の含量は、脂肪族ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位の全量を基準(100モル%)として、5モル%以上60モル%以下であることが好ましい。具体的には、例えば、下記式(3)で表される脂肪族ジオ−ル単位、下記式(4)で表される脂肪族ジカルボン酸単位、及び、下記式(5)で表される芳香族ジカルボン酸単位を必須成分とするものである。ただし、オキシカルボン酸単位を有していてもよい。
【0037】
−O−R−O− (3)
[式(3)中、Rは2価の鎖状脂肪族炭化水素基及び/又は2価の脂環式炭化水素基を示し、共重合されている場合には1種に限定されない。]
−OC−R−CO− (4)
[式(4)中、Rは直接結合を示すか、2価の鎖状脂肪族炭化水素基及び/又は2価の脂環式炭化水素基を示し、共重合されている場合には1種に限定されない。]
−OC−R−CO− (5)
[式(5)中、Rは2価の芳香族炭化水素基を示し、共重合されている場合には1種に限定されない。]
【0038】
式(3)のジオール単位を与えるジオール成分は、炭素数が通常2以上10以下のものであり、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。中でも、炭素数2以上4以下のジオールが好ましく、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールがより好ましく、1,4−ブタンジオールが特に好ましい。
【0039】
式(4)のジカルボン酸単位を与えるジカルボン酸成分は、炭素数が通常2以上10以下のものであり、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。中でも、コハク酸又はアジピン酸が好ましい。
【0040】
式(5)の芳香族ジカルボン酸単位を与える芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられ、中でも、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、テレフタル酸が特に好ましい。また、芳香環の一部がスルホン酸塩で置換されている芳香族ジカルボン酸が挙げられる。なお、脂肪族ジカルボン酸成分、脂肪族ジオール成分及び芳香族ジカルボン酸成分は、それぞれ2種類以上を用いることもできる。
【0041】
本発明における芳香族脂肪族ポリエステル樹脂には、脂肪族オキシカルボン酸単位が含有されていてもよい。脂肪族オキシカルボン酸単位を与える脂肪族オキシカルボン酸の具体例としては、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、又はこれらの混合物等が挙げられる。更に、これらの低級アルキルエステル又は分子内エステルであってもよい。これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体又はラセミ体の何れでもよく、形態としては固体、液体又は水溶液の何れであってもよい。これらの中で好ましいものは、乳酸又はグリコール酸である。これら脂肪族オキシカルボン酸は単独でも、2種以上の混合物としても使用することもできる。
【0042】
この脂肪族オキシカルボン酸の量は、芳香族脂肪族ポリエステル樹脂を構成する全構成成分中、下限が通常0モル%以上、好ましくは0.01モル%以上であり、上限が通常30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。
【0043】
芳香族脂肪族ポリエステル樹脂は、前記脂肪族ポリエステル樹脂と同様の製法により製造することができる。
【0044】
本発明に用いられる芳香族脂肪族ポリエステル樹脂のメルトフローレート(MFR)は、190℃、2.16kgで測定した場合、下限が通常0.1g/10分以上であり、上限が通常100g/10分以下、好ましくは50g/10分以下、特に好ましくは30g/10分以下である。
【0045】
上記した芳香族脂肪族ポリエステル樹脂の含有量は、脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上100質量部以下である。含有量の下限は、より好ましくは5質量部以上、特に好ましくは10質量部以上、最も好ましくは20質量部以上である。含有量の上限は、より好ましくは70質量部以下、特に好ましくは60質量部以下である。芳香族脂肪族ポリエステル樹脂の含有量が多すぎると、フィルムのコシが不足し、各種包装材料として使用するためにはフィルムの厚さを厚くする必要がある場合がある。一方、芳香族脂肪族ポリエステル樹脂の含有量が少なすぎると、引張り伸び率、引裂き強度等が不足する場合がある。
【0046】
<澱粉>
本発明における澱粉とは、分子式(C10の炭水化物(多糖類)で、多数のα−グルコース分子がグリコシド結合によって重合した天然高分子やその変性物である。ここで「変性」は、化学的、物理的、生物学的等のあらゆる変性を含むものである。化学的変性としては、澱粉の構成単位の一部又は全部をエステル化、エーテル化、酸化、還元、カップリング、脱水、加水分解、脱水素、ハロゲン化等の化学反応により変性することを示し、特には、水酸基をエーテル化又はエステル化することを示す。また物理変性は、結晶化度を変化させること等、物理的性質を変化させることを示す。また生物学的変性は、生物を用いて化学構造等を変化させることを示す。
【0047】
本発明における澱粉は、具体的には、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、エンドウ澱粉、α澱粉等が挙げられ、コーンスターチ又は馬鈴薯澱粉が好ましく、特に好ましくはコーンスターチである。
【0048】
澱粉の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、脂肪族ポリエステル樹脂組成物全体を基準(100質量%)として、好ましくは1質量%以上60質量%以下である。澱粉の含有量の下限は、より好ましくは5質量%、更に好ましくは10質量%、最も好ましくは15質量%である。澱粉の含有量の上限は、より好ましくは50質量%、更に好ましくは45質量%、最も好ましくは40質量%である。澱粉含有量が1質量%未満では、澱粉による物性改良効果が十分に発現しない場合があり、澱粉含有量が60質量%を越えると、耐水性、耐加水分解性、柔軟性等が損なわれる場合がある。
【0049】
澱粉は、後述する水酸基を含有する有機化合物と混合し、場合によって熱を加えることによって可塑化される。「可塑化」とは、澱粉に含まれる結晶構造が破壊されることによって、通常の熱可塑性高分子と同様に、熱をかけた場合には溶融し、流動させることができ、かつ冷却した場合には固化する性質をあらわす。澱粉が可塑化していない場合、脂肪族ポリエステル樹脂と溶融混練等の方法により混ぜ合わせても、澱粉は通常の有機・無機充填物と同様に振舞うため、脂肪族ポリエステル樹脂に対して微細に分散せず、得られた脂肪族ポリエステル樹脂組成物から作られる成形体の機械物性等も劣ったものとなる。つまり、澱粉を含む組成物から良好な物性を示す成形体を得るためには、脂肪族ポリエステル樹脂組成物を得る段階において澱粉を可塑化することが必要である。
【0050】
<水酸基を含有する有機化合物>
本発明における水酸基を含有する有機化合物は、水酸基を有していれば特に限定はないが、具体的には、例えば、1価アルコール、多価アルコール、多価アルコールの部分エステル若しくは部分エーテル等が挙げられる。これらの中で好ましくは、ソルビトール、ペンタエリストール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−へキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ナノンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、グリセリンモノアルキルエステル、グリセリンジアルキルエステル、グリセリンモノアルキルエーテル、グリセリンジアルキルエーテル、ジグリセリン、ジグリセリンアルキルエステル等であり、より好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、グリセリンモノエステル、ソルビトール又はペンタエリスリトールであり、特に好ましくはグリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトール、プロピレングリコール又はエチレングリコールである。水酸基を含有する有機化合物は、1種又は2種類以上が用いられる。
【0051】
水酸基を含有する有機化合物の分子量は、好ましくは3000以下、より好ましくは2500以下、特に好ましくは2000以下であることが望ましい。
【0052】
水酸基を含有する有機化合物の含有量は、脂肪族ポリエステル樹脂全体を基準(100質量%)として、3質量%〜40質量%が必須である。水酸基を含有する有機化合物の含有量の好ましい上限は35質量%であり、特に好ましくは30質量%である。一方、含有量の好ましい下限は5質量%、より好ましくは7質量%、特に好ましくは10質量%である。水酸基を含有する有機化合物の含有量が少なすぎると、脂肪族ポリエステル樹脂に由来するオリゴマーが表面へ析出したり、添加した澱粉の可塑化が十分に進行せずに澱粉の脂肪族ポリエステルへの分散が良好でなくなるために機械物性が低下したりする場合がある。一方、水酸基を含有する有機化合物の含有量が多すぎる場合は、成形体表面に水酸基を含有する有機化合物が偏析し、表面外観等の性状を損なう場合がある。
【0053】
また、脂肪族ポリエステル樹脂に対して、澱粉及び水酸基を含有する有機化合物を含有し、かつ、水酸基を含有する有機化合物の含有量を、脂肪族ポリエステル樹脂全体を基準として、上記範囲にすることによって、脂肪族ポリエステル樹脂中の環状2量体の含量が1000ppm以上であっても、環状2量体の表面への析出を抑制できる。
【0054】
<その他の成分>
本発明においては、相溶化剤、無機充填剤、有機充填剤、結晶核剤、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、耐光剤、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、離型剤、帯電防止剤、防曇剤、表面ぬれ改善剤、焼却補助剤、顔料、滑剤、分散助剤、界面活性剤、スリップ剤、加水分解防止剤、末端封止剤等の「その他の成分」を使用してもよい。これらは、本発明の前記効果を損なわない範囲で任意に使用できる。
【0055】
<相溶化剤>
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物には、相溶化剤を含有していてもよい。相溶化剤とは、非相溶性の異種樹脂、或いは澱粉と樹脂を混合する際に、相溶性を改良する添加剤である。溶化剤を添加することにより、相溶性を向上させることができる。
【0056】
相溶化剤は、脂肪族ポリエステル樹脂組成物全体を基準(100質量%)として、0.01質量%以上10質量%以下添加するのが好ましい。添加量の下限は、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1質量%以上である。添加量の上限は、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0057】
相溶化剤の例としては、高分子型相溶化剤、低分子の有機化合物、無機化合物、有機無機複合体等が挙げられるが、高分子型相溶化剤、低分子の有機化合物が成形品の物性の点で好ましく、成形プロセスの観点から、高分子型相溶化剤がより好ましい。また、相溶化剤としては、酸無水物基、グリシジル基、エーテル基のいずれかの構造を有するものであることが好ましく、これらいずれかの構造を有する高分子型相溶化剤がより好ましい。これらの構造を有する相溶化剤を用いることにより、上記相溶性を向上させる効果が大きくなる。
【0058】
高分子型相溶化剤としては、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系、アクリル系、スチレン系、ウレタン系、ポリアセタール系、オレフィン系エラストマー、不飽和脂肪族系エラストマー、水添不飽和脂肪族系エラストマー等の樹脂及びこれらの2種類以上のブロック、グラフト又は、ランダム共重合体が挙げられる。これらの共重合体に更に不飽和脂肪酸無水物を付加させる等して極性基を分子中に導入してもよい。付加させる不飽和脂肪酸無水物として無水マレイン酸が好ましく用いられる。
【0059】
この中でも、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリエーテル系、アクリル系、スチレン系、オレフィン系エラストマー、不飽和脂肪族系エラストマー、水添不飽和脂肪族系エラストマー及びこれらの2種以上の共重合体等がより好ましく、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリエーテル系、アクリル系、スチレン系、水添不飽和脂肪族系エラストマー及びこれらの2種以上の共重合体が更に好ましい。
【0060】
ポリエステル系の相溶化剤としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリ−3−ヒドロキシブチレート等構造を分子構造の一部に含むポリエステルブロック又はランダム又はグラフト共重合体が挙げられる
【0061】
ポリアミド系の相溶化剤としては、6ナイロン、6,6ナイロン、12ナイロン等が挙げられる。ポリエーテル系の相溶化剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0062】
スチレン系としては、ポリスチレン、ポリp−メチルスチレン、ポリα−メチルスチレン等が挙げられる。オレフィン系エラストマーとしては、エチレンプロピレンランダム共重合体、ポリ1−ブテン等が挙げられる。不飽和脂肪族系エラストマーとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、SBS、SIS等が挙げられる。水添不飽和脂肪族系エラストマーとしては、SEBS、SEPS等が挙げられる。ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリエーテル系、アクリル系、スチレン系、水添不飽和脂肪族系エラストマー及びこれらの2種以上の共重合体の中でも特に好ましい例としては、ポリオレフィン/グリシジルアクリレート共重合体、ポリオレフィン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体、ポリエーテルエステルアミド、SEBS、無水マレイン酸変性SEBS等が挙げられる。
【0063】
<無機充填剤>
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物には、無機充填剤を配合させても良い。かかる無機充填剤としては、シリカ、雲母、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ藻土、アロフェン、ベントナイト、チタン酸カリウム、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、カオリン、カオリナイト、ガラス、石灰石、カーボン、ワラステナイト、焼成パーライト、「珪酸カルシウム、珪酸ナトリウム等の珪酸塩」、酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸第二鉄、酸化亜鉛、酸化鉄、リン酸アルミニウム、硫酸バリウム等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0064】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物に含有される無機充填剤の量は特に限定はないが、脂肪族ポリエステル樹脂組成物100質量部に対して、無機充填剤が、1質量部以上30質量部以下が好ましく、3質量部以上20質量部以下がより好ましく、5質量部以上15質量部以下が特に好ましい。無機充填剤が少なすぎる場合は、機械物性改良効果が少なくなる場合があり、一方、多すぎる場合は、成形性及び耐衝撃性が悪化する場合がある。
【0065】
<有機充填剤>
有機充填剤としては、パルプ、キチン・キトサン質、椰子殻粉末、竹粉末、樹皮粉末、ケナフや藁等の粉末等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。脂肪族ポリエステル樹脂組成物中の有機充填剤の含有量は、脂肪族ポリエステル樹脂組成物100質量部に対して、60質量部以下が好ましい。
【0066】
<各種添加剤>
本発明における脂肪族ポリエステル樹脂組成物には、更に、従来公知の各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、結晶核剤、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、耐光剤、可塑剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、離型剤、帯電防止剤、防曇剤、表面ぬれ改善剤、焼却補助剤、顔料、滑剤、分散助剤や各種界面活性剤、スリップ剤、加水分解防止剤等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。これらの中で特にスリップ剤、アンチブロッキング剤は配合した方が好ましい。
【0067】
防曇剤はあらかじめ樹脂に防曇剤を練りこんでもよいし、成形後、成形品表面に塗布してもよい。使用する防曇剤は具体的には、炭素数4以上20以下の飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸と多価アルコールのエステル系界面活性剤が好ましく用いられる。スリップ剤としては、炭素数6〜30の不飽和脂肪酸からなる不飽和脂肪酸アマイド、不飽和脂肪酸ビスアマイドが挙げられるが、最も好ましくはエルカ酸アマイドが挙げられる。
【0068】
アンチブロッキング剤としては、炭素数6〜30の飽和脂肪酸アマイド、飽和脂肪酸ビスアマイド、メチロールアマイド、エタノールアマイド、天然シリカ、合成シリカ、合成ゼライト、タルク等が挙げられる。
【0069】
耐光剤としては具体的には、例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−オクチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−n−ブチル−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)マロネート、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−n−ブチル−ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)マロネート、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチル−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)マロネート、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチル−ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)マロネート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ミックスド(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル/トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ミックスド(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ミックスド{2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル/β,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−〔2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン〕ジエチル}−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ミックスド{1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/β,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−〔2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン〕ジエチル}−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、1,2−ビス(3−オキソ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)エタン、1−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−1,1−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシカルボニル)ペンタン、ポリ〔1−オキシエチレン(2,2,6,6−テトラメチル−1,4−ピペリジル)オキシスクシニル〕、ポリ〔2−(1,1,4−トリメチルブチルイミノ)−4,6−トリアジンジイル−(2,2,6,6−テトラ及び−4−ピペリジル)イミノヘキサメチレン−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス〔N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ〕−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物及びそのN−メチル化合物、コハク酸と1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとの重縮合物等が挙げられる。
【0070】
これらの中で、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチル−ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)マロネートが特に好ましい。
【0071】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物に添加してもよい紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤の中で、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましく、具体的には、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α、α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシ−フェノールが挙げられる。
【0072】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物に添加してもよい酸化防止剤としては、BHT、2,2’−メチレンビス(4-メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサtert−ブチル−α,α’,α”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H,5H)−トリオン、カルシウムジエチルビス[{3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル}メチル]ホスホネート、ビス(2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジ−tert−ブチル−5,5’−ジメチルフェニル)エタン、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオンアミド等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、トリデシルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’―ジイルビスホスフォナイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等のリン系酸化防止剤、3−ヒドロキシ−5,7−ジ−tert−ブチル−フラン−2−オンとキシレンの反応性生物等のラクトン系酸化防止剤、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等の硫黄系酸化防止剤及びこれらの2種以上の混合物等が例示できる。この中でもヒンダードフェノール系酸化防止剤が好適に用いられる。
【0073】
好ましいヒンダードフェノール系酸化防止剤としてはイルガノックス3790、イルガノックス1330、イルガノックス1010、イルガノックス1076、イルガノックス3114、イルガノックス1425WL、イルガノックス1098、イルガノックスHP2225FL、イルガノックスHP2341、イルガフォスXP−30(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、スミライザーBBM−S(住友化学社製)が用いられる。最も好ましい酸化防止剤はイルガノックス3790(1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H,5H)−トリオン)、イルガノックス1330(3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−α,α’,α”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール)が用いられる。
【0074】
これらの添加剤の添加量は、脂肪族ポリエステル樹脂組成物全体を基準(100質量%)として、通常0.001質量%以上10質量%以下である。添加量の下限は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。添加量の上限は好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物には、機能性添加剤として、鮮度保持剤、抗菌剤等を配合することもできる。
【0075】
末端封止剤として、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物等が挙げられるが、その中でもカルボジイミド化合物が好適に用いられる。
【0076】
<カルボジイミド化合物>
本発明において、主に大気中の水分等による加水分解を抑制する目的で、カルボジイミド化合物を好適に用いることができる。用いられるカルボジイミド化合物は、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物(ポリカルボジイミド化合物を含む)であり、このようなカルボジイミド化合物は、例えば触媒として有機リン系化合物又は有機金属化合物を用いて、イソシアネート化合物を70℃以上の温度で、無溶媒又は不活性溶媒中で脱炭酸縮合反応させることにより合成することができる。
【0077】
上記のカルボジイミド化合物の内、モノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド等を例示することができる。これらの中では、工業的に入手が容易であるので、ジシクロヘキシルカルボジイミドやジイソプロピルカルボジイミドが好ましい。またポリカルボジイミド化合物としては、例えば米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.Org.Chem.28巻、p2069−2075(1963)、及びChemical Review 1981、81巻、第4号、p.619〜p.621等に記載された方法により製造したものを用いることができる。
【0078】
本発明においては、ポリカルボジイミド化合物を用いても良い。その重合度は、下限が2以上、好ましくは4以上であり、上限が通常40以下、好ましくは、20以下である。この重合度が大きすぎると、組成物中における分散性が不十分となり、例えばインフレーションフィルムにおいて外観不良の原因になる場合がある。
【0079】
カルボジイミド化合物は、後述する脂肪族ポリエステル樹脂組成物の調製時に添加してもよいし、脂肪族ポリエステル系樹脂、芳香族脂肪族ポリエステル系樹脂のうちの1種類又は2種類のポリエステルに練り混み、成形時に他の成分とドライブレンドすることによって脂肪族ポリエステル樹脂組成物の全成分と混合して成形してもよい。あるいは、脂肪族ポリエステル系樹脂及び/又は芳香族脂肪族ポリエステル系樹脂で高濃度のカルボジイミド化合物のマスターバッチを調製し、成形時にカルボジイミド化合物が所定濃度となるように、脂肪族ポリエステル系樹脂及び/又は芳香族脂肪族ポリエステル系樹脂、デンプンをドライブレンドして希釈してもよい。
【0080】
<その他の成分>
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で生分解性樹脂及び天然物、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロースエステル等やセルロース、紙、木粉、キチン・キトサン質、椰子殻粉末、クルミ殻粉末等の動物/植物物質微粉末又はこれらの混合物を配合することができる。
【0081】
<混練・成形方法>
[混練方法]
本発明において、従来公知の混合/混練技術は全て適用できる。混合機としては、水平円筒型、V字型、二重円錐型混合機やリボンブレンダー、スーパーミキサーのようなブレンダー、また各種連続式混合機等を使用できる。また、混練機としては、ロールやインターナルミキサーのようなバッチ式混練機、一段型、二段型連続式混練機、二軸スクリュー押し出し機、単軸スクリュー押し出し機等を使用できる。
【0082】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の調製方法は、特に限定されないが、ブレンドした原料を同一の押出機で溶融混合する方法、各々別々の押出機で溶融させた後に混合する方法等が挙げられる。また、各々の原料を直接成形機に供給して脂肪族ポリエステル樹脂組成物を調製すると同時に、その成形体を得ることも可能である。各成分を混合して加熱溶融させたところに、各種添加剤、無機充填剤、有機充填剤、上記「その他の成分」、他のポリエステル等を添加して配合する方法等が挙げられる。また、この際、前記の各種添加剤を均一に分散させる目的で、ブレンド用オイル等を使用することもできる。
【0083】
押出機で溶融混合する場合、用いる脂肪族ポリエステル樹脂及び澱粉の種類にもよるが、押出機内部での脂肪族ポリエステル樹脂組成物の温度は50℃以上150℃以下が好ましい。より好ましくは70℃以上140℃以下である。脂肪族ポリエステル樹脂組成物の温度が150℃よりも高くなると、該組成物中の澱粉の劣化が起こる可能性があり、該組成物が着色する、押出機の負荷が増大する、押出機内部で該組成物が閉塞する、等といったトラブルが生じる場合がある。また、脂肪族ポリエステル樹脂組成物の温度が50℃よりも低いと、「水酸基を含有する有機化合物」による澱粉の可塑化が十分に進行しない場合があるため、脂肪族ポリエステル樹脂への澱粉の分散が不十分となり、得られた脂肪族ポリエステル樹脂組成物から製造された成形体の外観等が悪くなる場合がある。
【0084】
本発明において、脂肪族ポリエステル樹脂組成物を分析して得られた実際に脂肪族ポリエステル樹脂組成物全体中に存在する環状2量体の含量から、各々の原料の配合質量比を勘案して、環状2量体がすべて脂肪族ポリエステル樹脂に含まれるとして換算した、「脂肪族ポリエステル樹脂あたりに含まれる環状2量体の含量」は、原料である脂肪族ポリエステル樹脂自体を分析して得られた「脂肪族ポリエステル樹脂中に含まれる環状2量体の含量」とほとんど同じである。言い換えれば、脂肪族ポリエステル樹脂組成物中に存在する環状2量体の含量は、原料である脂肪族ポリエステル樹脂中に含まれる環状2量体の含量から、各々の原料の配合質量比を勘案して計算した場合の環状2量体の含量とほとんど同じである。つまり、後述するような脂肪族ポリエステル樹脂、澱粉及び水酸基を含有する有機化合物からなる脂肪族ポリエステル樹脂組成物の調製において、脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる環状2量体は揮発等することなく、得られた脂肪族ポリエステル樹脂組成物中にそのまま含まれている。本発明において、脂肪族ポリエステル樹脂中の環状2量体の含量及び脂肪族ポリエステル樹脂組成物中の環状2量体の含量は、実施例に記載の方法で定量した値である。
【0085】
[成形方法]
本発明における脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、汎用プラスチックに適用される各種成形法により成形に供することができる。その成形法としては例えば、圧縮成形(圧縮成形、積層成形、スタンパブル成形)、射出成形、押し出し成形や共押し出し成形(インフレーション法やTダイ法によるフィルム成形、ラミネート成形、パイプ成形、電線/ケーブル成形、異形材の成形)、中空成形(各種ブロー成形)、カレンダー成形、発泡成形(溶融発泡成形、固相発泡成形)、固体成形(一軸延伸成形、二軸延伸成形、ロール圧延成形、延伸配向不織布成形、熱成形(真空成形、圧空成形)、塑性加工)、粉末成形(回転成形)、各種不織布成形(乾式法、接着法、絡合法、スパンボンド法等)等が挙げられる。中でも、押し出し成形、射出成形、発泡成形、中空成形が好適に適用される。具体的な形状としては、フィルム、容器及び繊維への適用が好ましい。本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、良好な溶融特性及び機械物性を有しているため、インフレーション成形してなるフィルム、更にはインフレーション成形してなるフィルムから製造される製品に好ましく用いられる。
【0086】
本発明において、成形体中に存在する環状2量体の含量は、成形前の脂肪族ポリエステル樹脂組成物中に含まれる環状2量体の含量とほとんど同じである。すなわち、成形時において、脂肪族ポリエステル樹脂組成物中に含まれる環状2量体は揮発等することなく、得られた成形体に含まれている。ただし、成形体の表面に析出していた場合は、析出している環状2量体の質量も上記比較に加えるものとする。本発明において、成形体中の環状2量体の含量は、実施例に記載の方法で定量した値である。
【0087】
<成形体の物性>
成形体は、30μmの厚さのフィルムにした場合の、樹脂の流れに平行方向の引張り弾性率は、特にこれに限定されるわけではないが、10〜700MPaが好ましく、30〜600MPaがより好ましく、50〜500MPaが特に好ましく、80〜400MPaが更に好ましい。引張り弾性率が低過ぎると、ゴミ袋、レジ袋、買い物袋、コンポスト袋等の包装材料として使用した際に、フィルムの厚みによっては内容物の重量に耐えられない場合がある。また、大きすぎると、フィルムの柔軟性が損なわれ使い勝手が悪くなる場合がある。
【0088】
30μmの厚さのフィルムに成形した場合の、樹脂の流れ平行方向のエルメンドルフ引裂き強度は特にこれに限定されるわけではないが、1N/mm以上であることが好ましく、より好ましくは2N/mm以上であり、特に好ましくは3N/mm以上、最も好ましくは5N/mmである。エルメンドルフ引裂き強度が1N/mm未満では、ゴミ袋、レジ袋、買い物袋、コンポスト袋等の包装材料として実用上問題がある場合がある。
【0089】
本発明の製造方法によって製造された澱粉含有組成物からなるフィルムは、50℃の環境下で園芸用土壌中の重量減少が8日間で5%以上であることが好ましい。より好ましい重量減少率は8%以上、最も好ましくは10%以上である。重量減少率が8日間で5%未満であると、廃棄した場合に長期間土中にフィルムが残存する場合があり、一方、初期の重量減少率が低いフィルムは完全に生分解しない場合がある。
【0090】
また、これらの成形品には、化学的機能、電気的機能、磁気的機能、力学的機能、摩擦/磨耗/潤滑機能、光学的機能、熱的機能、生体適合性等の表面機能等の付与を目的として、各種合目的的二次加工を施すことも可能である。二次加工の例としては、エンボス加工、塗装、接着、印刷、メタライジング(めっき等)、機械加工、表面処理(帯電防止処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、フォトクロミズム処理、物理蒸着、化学蒸着、コーティング等)等が挙げられる。
【0091】
<用途>
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、良好な成形性や機械強度を有し、脂肪族ポリエステル樹脂に由来するオリゴマーの表面への析出が抑制されているため、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を成形してなる成形体は、各種食品、薬品、雑貨用等の液状物や粉粒物、固形物の包装用資材、農業用資材、建築資材等幅広い用途において好適に用いられる。その具体的用途としては、射出成形品(例えば、生鮮食品のトレーやファーストフードの容器、野外レジャー製品等)、押出成形品(フィルム、例えば釣り糸、漁網、植生ネット、保水シート等)、中空成形品(ボトル等)等が挙げられ、更にその他農業用のフィルム、コーティング資材、肥料用コーティング材、ラミネートフィルム、板、延伸シート、モノフィラメント、不織布、フラットヤーン、ステープル、捲縮繊維、筋付きテープ、スプリットヤーン、複合繊維、ブローボトル、発泡体、ショッピングバッグ、ゴミ袋、コンポスト袋、化粧品容器、洗剤容器、漂白剤容器、ロープ、結束材、衛生用カバーストック材、保冷箱、クッション材フィルム、マルチフィラメント、合成紙、医療用として手術糸、縫合糸、人工骨、人工皮膚、マイクロカプセル等のDDS、創傷被覆材等が挙げられる。
【0092】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、良好な成形性や機械強度を有し、脂肪族ポリエステル樹脂に由来するオリゴマーの表面への析出が抑制されているため、インフレーション成形してなるフィルムから製造されるショッピングバッグ又はゴミ袋に適用されることが好ましい。
【0093】
更に、トナーバインダー、熱転写用インキバインダー等の情報電子材料、電気製品筐体、インパネ、シート、ピラー等の自動車内装部品、バンパー、フロントグリル、ホイールカバー等の自動車外装構造材料等の自動車部品等に使用できる。より好ましくは包装用資材、例えば、包装用フィルム、袋、トレー、ボトル、緩衝用発泡体、魚箱等、及び、農業用資材、例えば、マルチングフィルム、トンネルフィルム、ハウスフィルム、日覆い、防草シート、畦シート、発芽シート、植生マット、育苗床、植木鉢等が挙げられる。
【実施例】
【0094】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例により限定されるものではない。
【0095】
<1.物性評価>
[1.1.環状2量体の含有量の評価]
島津製作所製液体クロマトグラフィー「LC−10A」を用い、移動相をアセトニトリル/水(容量比4/6)とし、カラムは資生堂社製「SHISEIDOCAPCELL PAK C−18 TYPE MG」を用いて、脂肪族ポリエステル樹脂及び脂肪族ポリエステル樹脂組成物に含有される環状2量体の含有量(質量でのppm)を定量した。
【0096】
[1.2.オリゴマー析出の評価]
得られた脂肪族ポリエステル樹脂組成物からなるフィルムを、23℃、50%RHの条件にて1ヶ月保管し、その後のフィルム外観を目視で観察し、以下の判断基準に従って評価した。
良好(○):フィルムの表面に環状2量体に起因する白色の析出物が目視で確認されない。
不良(×):フィルムの表面に環状2量体に起因する白色の析出物を目視で確認できる。
【0097】
[1.3.表面特性の評価]
得られた脂肪族ポリエステル樹脂組成物からなるフィルムを目視及び手触りで評価し、以下の判断基準に従って評価した。
良好(○):澱粉の凝集物や水酸基を含有する有機化合物の表面へのブリードアウトがない。
不良(×):澱粉の凝集物や水酸基を含有する有機化合物の表面へのブリードアウトが認められる。
【0098】
[1.4.フィルム成形性の評価]
インフレーション成形を実施した際の成形のしやすさを、以下の判断基準に従って評価した。
良好(○):所定温度(160℃)において、所定厚み(30μm)に成形することが可能である。
不良(×):所定温度(160℃)において、所定厚み(30μm)に成形することが不可能である。
【0099】
<2.樹脂組成物の製造>
[2.1.脂肪族ポリエステル樹脂]
脂肪族ポリエステル樹脂は、以下に記載する脂肪族ポリエステル樹脂(A−1)、(A−2)及び(A−3)を使用した。
【0100】
[脂肪族ポリエステル樹脂(A−1)]
脂肪族ポリエステル樹脂(A−1)として、三菱化学(株)社製ポリブチレンサクシネート系樹脂GS Pla(グレード名;AZ91TN)を使用した。樹脂中に含まれる環状2量体の含有量は、7900ppmであった。
【0101】
[製造例1(脂肪族ポリエステル樹脂(A−2)の製造方法)]
脂肪族ポリエステル(A−1)100質量部に対して、アセトン200質量部を反応容器中に仕込み、温度を50℃まで昇温して、5時間放置した。洗浄終了後、大気下で洗浄液を濾過して、湿ペレットと洗浄濾液とを分離回収した。湿ペレットについては、80℃にて15時間真空乾燥させて、脂肪族ポリエステル樹脂(A−2)を得た。前記した方法で測定した環状2量体の含有量は4500ppmであった。
【0102】
[製造例2(脂肪族ポリエステル樹脂(A−3)の製造方法)]
製造例1において、アセトン洗浄時の放置時間を12時間にした以外は、製造例2と同様にして、脂肪族ポリエステル樹脂(A−3)を得た。測定した環状2量体の含有量は580ppmであった。
【0103】
[2−2.澱粉]
澱粉として、コーンスターチ(日本コーンスターチ社製;Y−3P)を使用した。
【0104】
[2−3.水酸基を含有する有機化合物]
水酸基を含有する有機化合物として、グリセリンを使用した。
【0105】
[2−4.その他]
その他の樹脂として、芳香族脂肪族ポリエステル樹脂(BASF社製 Ecoflex:ポリブチレンテレフタレートアジペート)を使用した。
【0106】
実施例1
コーンスターチ(日本コーンスターチ社製 Y−3P;含水率12%)100質量部、グリセリン50質量部を、スクリュー式2軸押出機(日本製鋼所社製TEX30;22シリンダー、L/D=77)に供給して最高温度が150℃以下になるように混合する工程を経た後、それに引き続き、脂肪族ポリエステル樹脂(A−1)225質量部を供給して、コーンスターチ、グリセリン及び樹脂を混合する工程を同一押出機内にて逐次的に行うことで、白色の樹脂組成物を得た。その後、樹脂組成物のペレットを、70℃、窒素雰囲気下で8時間乾燥を行なった。前記した方法で測定した環状2量体の含量は、樹脂組成物全体に対して4520ppmであった。樹脂組成物中の脂肪族ポリエステル樹脂(A−1)あたりに換算すると7540ppmであり、押出工程において環状2量体の量が大きく変わることはなかった。
【0107】
得られた脂肪族ポリエステル樹脂組成物を、インフレーション成形機を用いて、成形温度160℃でインフレーション成形して、厚み30μmのフィルムを成形した。得られたフィルムは凝集物等の異物等も無く半透明の白色であり、23℃・50%RH条件下に1ヶ月おいてもオリゴマーの析出は見られなかった。結果を表1に示す。
【0108】
実施例2
実施例1において、脂肪族ポリエステル樹脂(A−1)169質量部、芳香族脂肪族ポリエステル樹脂(BASF社製;Ecoflex)56質量部とした以外は、実施例1と同様の方法で溶融混練して樹脂組成物を得た。前記した方法で測定した環状2量体の含量は、樹脂組成物全体に対して3480ppmであった。樹脂組成物中の脂肪族ポリエステル樹脂(A−1)あたりに換算すると7740ppmであり、押出工程において環状2量体の量が大きく変わることはなかった。
【0109】
実施例1と同様の方法でフィルム成形を実施した。得られたフィルムは凝集物等の異物等も無く半透明の白色であり、23℃・50%RH条件下に1ヶ月おいてもオリゴマーの析出は見られなかった。結果を表1に示す。
【0110】
実施例3
実施例1において、脂肪族ポリエステル樹脂を製造例1で得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A−2)225質量部、とした以外は、実施例1と同様の方法で溶融混練して樹脂組成物を得た。前記した方法で測定した環状2量体の含量は、樹脂組成物全体に対して2630ppmであった。樹脂組成物中の脂肪族ポリエステル樹脂(A−2)あたりに換算すると4390ppmであり、押出工程において環状2量体の量が大きく変わることはなかった。
【0111】
実施例1と同様の方法でフィルム成形を実施した。得られたフィルムは凝集物等の異物等も無く半透明の白色であり、23℃・50%RH条件下に1ヶ月おいてもオリゴマーの析出は見られなかった。結果を表1に示す。
【0112】
実施例4
実施例1において、コーンスターチを100質量部、グリセリンを30質量部、脂肪族ポリエステル樹脂(A−2)195質量部とした以外は、実施例1と同様の方法で溶融混練して樹脂組成物を得た。前記した方法で測定した環状2量体の含有量は、樹脂組成物全体に対して2650ppmであった。樹脂組成物中の脂肪族ポリエステル樹脂(A−2)あたりに換算すると4420ppmであり、押出工程において環状2量体の量が大きく変わることはなかった。
【0113】
実施例1と同様の方法でフィルム成形を実施した。得られたフィルムは凝集物等の異物等も無く半透明の白色であり、23℃・50%RH条件下に1ヶ月おいてもオリゴマーの析出は見られなかった。結果を表1に示す。
【0114】
実施例5
実施例1において、コーンスターチを100質量部、グリセリンを33質量部、脂肪族ポリエステル樹脂(A−2)533質量部とした以外は、実施例1と同様の方法で溶融混練して樹脂組成物を得た。前記した方法で測定した環状2量体の含有量は、樹脂組成物全体に対して3310ppmであった。樹脂組成物中の脂肪族ポリエステル樹脂(A−2)あたりに換算すると4140ppmであり、押出工程において環状2量体の量がおおきく変わることはなかった。
【0115】
実施例1と同様の方法でフィルム成形を実施した。得られたフィルムは凝集物等の異物等も無く半透明の白色であり、23℃・50%RH条件下に1ヶ月おいてもオリゴマーの析出は見られなかった。結果を表1に示す。
【0116】
比較例1
脂肪族ポリエステル樹脂(A−1)100質量部を、実施例1と同じ条件でインフレーション成形を実施し、厚み30μmのフィルムを得た。得られたフィルムは凝集物等の異物等も無く半透明であったが、23℃・50%RH条件下に1ヶ月置いたところ、多量のオリゴマーの析出が見られた。結果を表1に示す。
【0117】
比較例2
製造例1で得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A−2)100質量部を、実施例1と同じ条件でインフレーション成形を実施し、厚み30μmのフィルムを得た。得られたフィルムは凝集物等の異物等も無く半透明であったが、23℃・50%RH条件下に1ヶ月置いたところ、多量のオリゴマーの析出が見られた。結果を表1に示す。
【0118】
比較例3
製造例2で得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A−3)100質量部を、実施例1と同じ成形条件でインフレーション成形を実施し、厚み30μmのフィルムを得た。得られたフィルムは凝集物等の異物等も無く半透明であった。23℃・50%RH条件下に1ヶ月置いたところ、オリゴマーの析出もなく表面状態は良好であった。しかし、脂肪族ポリエステル樹脂(A−3)の製造工程で12時間のアセトン洗浄を実施したため、樹脂組成物の生産性が低下し、また洗浄のコストが高くなり、また、アセトン臭があるという障害があった。結果を表1に示す。
【0119】
比較例4
実施例1で、脂肪族ポリエステル樹脂(A−1)1125質量部とコーンスターチ100質量部、グリセリン25質量部とした以外は、実施例1と同様にして、溶融混練して樹脂組成物を得た。前記した方法で測定した環状2量体の含量は、樹脂組成物全体に対して6840ppmであった。樹脂組成物中の脂肪族ポリエステル樹脂(A−1)あたりに換算すると7600ppmであり、押出工程において環状2量体の量が大きく変わることはなかった。
【0120】
実施例1と同様の方法でフィルム成形を実施した。得られたフィルムは、澱粉に由来する凝集物が多く、厚み30μmではインフレーション成形することが不可能な外観不良のサンプルであった(厚み60μmにてサンプリング)。23℃・50%RH条件下に1ヶ月置いたところ、多量のオリゴマーの析出が見られた。結果を表1に示す。
【0121】
比較例5
比較例4で、脂肪族ポリエステル樹脂(A−1)100質量部とコーンスターチ100質量部、グリセリン50質量部とした以外は、比較例4と同様にして、溶融混練して樹脂組成物を得た。前記した方法で測定した環状2量体の含量は、樹脂組成物全体に対して3100ppmであった。樹脂組成物中の脂肪族ポリエステル樹脂(A−1)あたりに換算すると7750ppmであり、押出工程において環状2量体の量が大きく変わることはなかった。
【0122】
グリセリンを多く添加したことにより、樹脂組成物の流動性が増したため、厚み30μmではインフレーション成形することが不可能であった(厚み60μmでサンプリング)。またフィルム表面は、グリセリンのブリードアウトによる表面べたつきが起きた。23℃・50%RH条件下に1ヶ月置いたところ、オリゴマーの析出は見られなかった。結果を表1に示す。
【0123】
比較例6
実施例1において、脂肪族ポリエステル樹脂(A−1)225質量部を使用する代わりに、製造例2で得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A−3)225質量部を使用した以外は実施例1と同じ条件で溶融混練して樹脂組成物を得た。前記した方法で測定した環状2量体の含有量は、樹脂組成物全体に対して310ppmであった。樹脂組成物中の脂肪族ポリエステル樹脂(A−3)あたりに換算すると520ppmであり、押出工程において環状2量体の量が大きく変わることはなかった。
【0124】
実施例1と同様の方法でインフレーション成形を実施し、厚み30μmのフィルムを得た。得られたフィルムは凝集物等の異物等も無く半透明であった。23℃・50%RH条件下に1ヶ月置いたところ、オリゴマーの析出もなく表面状態は良好であった。しかし、脂肪族ポリエステル樹脂(A−3)の製造工程で、12時間のアセトン洗浄を実施したため、アセトン臭があるという障害があった。また、樹脂組成物の生産性が低下し、また洗浄のコストが高くなるという障害もあった。結果を表1に示す。
【0125】
【表1】

表1中、脂肪族ポリエステル樹脂の下の括弧内の数字は、脂肪族ポリエステル樹脂を分析した際の脂肪族ポリエステル樹脂全体に対する環状2量体の含量(質量ppm)を示す。また、表1中の数字は質量部を示す。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその成形体は、力学特性、成形性、機械強度に優れているため、各種食品、薬品、雑貨用等の液状物や粉粒物、固形物の包装用資材、農業用資材、建築資材等に広く利用されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル樹脂、澱粉及び水酸基を含有する有機化合物を少なくとも含有する樹脂組成物であって、該水酸基を含有する有機化合物の配合量が、該脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、3質量部以上40質量部以下であり、該脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる環状2量体の含量が1000〜10000ppmの範囲であることを特徴とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
該水酸基を含有する有機化合物の分子量が3000以下である請求項1に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
該脂肪族ポリエステル樹脂が、ジオール単位及びジカルボン酸単位を含むものである請求項1又は請求項2に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
該脂肪族ポリエステル樹脂が、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリブチレンサクシネートアジペート系樹脂、又はそれらの混合物である請求項1乃至請求項3の何れかの請求項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
該水酸基を含有する有機化合物が、グリセリン、ソルビトール、ペンタエリストール、プロピレングリコール及びエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種類である請求項1乃至請求項4の何れかの請求項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかの請求項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。
【請求項7】
該成形体が、該脂肪族ポリエステル樹脂組成物をインフレーション成形してなるフィルム又は該フィルムから製造されるゴミ袋若しくはショッピングバッグである請求項6に記載の成形体。

【公開番号】特開2009−173911(P2009−173911A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329944(P2008−329944)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】