説明

脂肪酸低級アルキルエステル、グリセリン及びステリルグルコシドの製造法

【課題】油脂中の有用な生理活性物質であるステリルグルコシドを安定かつ簡便に分離・製造でき、かつ併せて脂肪酸低級アルキルエステル及びグリセリンも製造できる方法を提供する。
【解決手段】ステリルグルコシドを溶解した状態で含有する油脂と低級アルコールとをエステル交換反応させてステリルグルコシドが析出した反応混合物を得た後、該反応混合物からステリルグルコシドを分離して、脂肪酸低級アルキルエステル、グリセリン及びステリルグルコシドを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂からの脂肪酸低級アルキルエステル、グリセリン及びステリルグルコシドの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステリルグルコシド及びアシルステリルグルコシド等のステロール配糖体及びステロール配糖体エステルは天然油脂成分として油脂中に含有されており、その生理活性に関する有用性が指摘されている。例えば、発毛・育毛(特許文献1)、血中脂質の低下(特許文献2)、肥満予防(特許文献3)などの種々の用途が開示されている。
【0003】
天然物からのステリルグルコシドの取得技術として、油さいからの有機溶媒抽出(特許文献4)、大豆油、ゴマ油等の食用油脂の精製工程で発生する副産物を原料としたステリルグルコシドの製造方法(特許文献5、6)が開示されている。また、特定の酵母にステリルグルコシドを蓄積させて、ステリルグルコシドを分離、精製する方法も知られている(特許文献7)。
【0004】
特許文献8では、油脂とアルコールを反応させてアルキルエステルとグリセリンを得る工程において、反応物からアルコールを除去し、ろ過機に通して固体のステロール類を分離する工程が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−101835
【特許文献2】特開平7−118159
【特許文献3】特開平7−107939
【特許文献4】特開昭62−238299
【特許文献5】特開2001−199992号公報
【特許文献6】特開平7−062384号公報
【特許文献7】特開2007−295848号公報
【特許文献8】特開2009−155476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
油脂中のステリルグルコシドの存在量は極めて微量であり、特許文献4〜6のような溶媒を用いた抽出方法は、大量のステリルグルコシドを安定供給する方法としては適していない。また、ステリルグルコシドを分離するために煩雑な工程が必要となる。一方、特許文献7は、限定された酵母しか使用できず、また、酵母菌体からのステリルグルコシドを分離するステップとして、例えば、有機溶媒による抽出を行う必要がある。また、特許文献8には、ステリルグルコシドを含む反応生成物を得ることや、ステリルグルコシドを脂肪酸低級アルキルエステルやグリセリンと共に製造することは記載されていない。
【0007】
本発明の課題は、油脂中の有用な生理活性物質であるステリルグルコシドを、簡便かつ安定に分離でき、更に脂肪酸低級アルキルエステルとグリセリンも同時に製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ステリルグルコシドを溶解した状態で含有する油脂と低級アルコールとをエステル交換反応させてステリルグルコシドが析出した反応混合物を得る工程(以下、工程1という)と、該反応混合物からステリルグルコシドを分離する工程(以下、工程2という)とを有する、ステリルグルコシド、脂肪酸低級アルキルエステル及びグリセリンの製造法に関する。
【0009】
なお、本発明で、ステリルグルコシドという場合、ステリルグルコシド及びアシルステリルグルコシドを指す場合もある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、油脂中に含有される微量のステリルグルコシドを、簡便かつ安定に分離・製造できる方法が提供され、同時に脂肪酸低級アルキルエステル及びグリセリンを製造する方法が提供される。本発明では、アルコール除去の後、ステリルグルコシドを固液分離によって回収できる。エステル交換の反応率、未反応アルコールの残存濃度、分離温度の好ましい条件により、より効率よくステリルグルコシドを回収できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、油脂からのステリルグルコシド及びアシルステリルグルコシドの製造法、もしくは、油脂からのステリルグルコシド及びアシルステリルグルコシド、脂肪酸低級アルキルエステル並びにグリセリンの製造法であり、(I)ステリルグルコシドを溶解した状態で含有する油脂と低級アルコールとをエステル交換反応させて低級アルコールに対応する脂肪酸低級アルキルエステルとグリセリンとを含む反応混合物を得ること、(II)該反応混合物中にステリルグルコシドを析出させること、(III)ステリルグルコシドが析出した反応混合物からステリルグルコシドを分離すること、を行うものである。工程1では、この(I)と(II)が行われる。
【0012】
本発明の工程1で使用される油脂は、ステリルグルコシドを溶解した状態で含有するものであればその種類に限定されるものではないが、ステリルグルコシド及びアシルステリルグルコシドを多く含む植物油脂の使用が好ましい。より具体的には、椰子油、パーム油、パーム核油等を使用する事が好ましい。一般に、油脂には、常温(25〜40℃)でステリルグルコシドが溶解した状態で存在する。
【0013】
本発明の工程1で使用される低級アルコールとしては、炭素数1〜5の低級アルコールであり、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール等が使用できる。特に除去が容易で分離エネルギーの使用量が少ないメタノールが好ましい。
【0014】
工程1のエステル交換反応は、触媒の存在下に行われる。触媒としては、エステル交換反応及びエステル化反応に供せられる触媒であれば良く、均一系触媒、不均一系触媒(例えば、粉末触媒あるいはその成型体、またはイオン交換樹脂)を用いることができるが、高い反応温度でも使用できる粉末触媒、あるいはその成型体を使用する方が石鹸副生の無い点から好ましい。不均一系触媒としては、固体酸触媒が好ましく、下記で定義される強酸点を0.2mmol/g−cat以下、かつ下記で定義される弱酸点を0.3mmol/g−cat以上有する弱酸性固体酸触媒がより好ましい。
弱酸点:TPD(Temperature Programmed Desorption:アンモニア吸着脱離法)において、100〜250℃の範囲でNH3の脱離を起こす点
強酸点:TPDにおいて、250℃より高い温度でNH3の脱離を起こす点
【0015】
これらの弱酸性固体酸触媒の中で好ましい一群として、下記構造(A)、構造(B)及び金属原子(C)を有する固体触媒の成形体が挙げられる。
構造(A):無機リン酸が有するOH基の少なくとも一つから水素原子が除かれた構造
構造(B):一般式(1)又は(2)で表される有機リン酸が有するOH基の少なくとも一つから水素原子が除かれた構造
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、−R1及び−R2は、それぞれ−R、−OR、−OH、−Hから選ばれる基を示し、−R1及び−R2の少なくとも一方は、−R又は−ORである。但し、Rは炭素数1〜22の有機基である。)
金属原子(C):アルミニウム、ガリウム、鉄から選ばれる一種以上の金属原子
【0018】
上記構造(A)において、無機リン酸として、オルトリン酸、メタリン酸やピロリン酸等の縮合リン酸等が挙げられ、性能の点から、オルトリン酸が好ましい。また構造(B)において、一般式(1)又は(2)で表される有機リン酸として、ホスホン酸、ホスホン酸モノエステル、ホスフィン酸、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、亜リン酸モノエステル、亜リン酸ジエステルなどが挙げられ、これらの混合物でもよく、好ましくはホスホン酸である。
【0019】
有機リン酸中の有機基Rとしては、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、tert−ブチル、n−ヘキシル、2−エチルヘキシル、オクチル、ドデシル、オクタデシル等のアルキル基、フェニル、3−メチルフェニル等のアリール基が好ましく、またそれらの基に、アミノ基、アルコキシ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルボン酸基、クロロ基等のハロゲン基、ホスホン酸基、スルホン酸基等が結合した基も用いられる。
【0020】
金属原子(C)としては、性能及び/又はコストの点から、アルミニウムが好ましい。尚、選択性その他性能を改良する目的で、アルミニウム、ガリウム、鉄以外の金属原子を少量有してもよい。また触媒中に含まれる金属原子(C)の全てが、必ずしも、構造(A)或いは構造(B)と結合している必要はなく、金属原子(C)の一部分が金属酸化物或いは金属水酸化物等の形で存在しても構わない。
【0021】
本発明で用いる弱酸性固体酸触媒の好ましい他の一群として、オルトリン酸アルミニウムを含有する不均一系触媒の成形体が挙げられ、特に細孔直径が6〜100nmである細孔容量が0.46ml/g以上であって、かつ0.40mmol/g以上の酸量を有するものが好ましい。
【0022】
本発明で用いる弱酸性固体酸触媒の調製法として、沈殿法や金属酸化物或いは水酸化物へ無機リン酸及び有機リン酸を含浸する方法、無機リン酸アルミニウムゲル中の無機リン酸基を有機リン酸基へ置換する方法等が用いられ、沈殿法が好ましい。
【0023】
また、本発明で用いる弱酸性固体酸触媒を調製する際に、高表面積の担体を共存させ、担持触媒を得る事も可能である。担体として、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、ジルコニア、ケイソウ土、活性炭等を用いる事ができる。担体を過剰に用いると、活性成分の含有量が低下し、活性を低下させるため、触媒中の担体の占める割合は、90質量%以下が好ましい。
【0024】
上記弱酸性固体酸触媒以外の触媒として、周知の均一系又は不均一系の触媒を用いることができる。均一系の触媒としてはNaOH等のアルカリ触媒を用いることができる。また、不均一系の触媒としてはアルコーリシス反応活性を有する触媒であれば特に限定されないが、例えば、特開昭61−254255号公報に記載されているような炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムや、欧州特許第0623581号明細書に記載されているような結晶性チタンシリケート、結晶性チタンアルミニウムシリケート、アモルファスチタンシリケート、及び対応するジルコニウム化合物等が挙げられる。
【0025】
工程1の反応形式は、攪拌機を有する槽型反応器及び触媒を充填した固定床反応器のいずれでも良いが、触媒分離を必要としない点から固定床反応器が好ましい。
【0026】
工程1のエステル交換反応では、油脂由来の脂肪酸と低級アルコールとのエステル及びグリセリンが生成する。工程1における好ましい反応方式は液状油脂と低級アルコールとの固体触媒反応であるが、使用する触媒の活性に応じた反応圧力と反応温度に応じてガス状で供給してもよく、液状で供給しても良い。また、反応を複数の段階で行ってもよい。例えば、固定床反応器を使用する場合には、第一段目の反応を行った後に低級アルコールを除去し、脂肪酸低級アルキルエステルを含む油相とグリセリン相を含む混合物を既知の方法で油水分離(油相とグリセリン相の分離を以下油水分離と称する)せしめ、分離した油相を再度第二段目の反応に供することによって脂肪酸低級アルキルエステルの濃度を所定値まで進行させる方法が効果的である。第一段目の反応のみでステリルグルコシドを回収する場合には、脂肪酸低級アルキルエステルの濃度がステリルグルコシドの析出する濃度になるまで反応を進行させる必要がある。反応の進行は使用する触媒の活性に依存する。触媒活性が高い場合には一段の反応でステリルグルコシドの析出が可能であるが、比較的活性の低い既存の触媒を使用する場合、経済性を考慮して多段反応とする方法が効果的である。
【0027】
本発明では、工程1で得られる反応混合物の油相中における脂肪酸低級アルキルエステルの濃度が88質量%以上であることが好ましい。この濃度は、ガスクロマトグラフ等の分析手法によって測定される。ここで油相とはエステル交換後の反応混合物にイオン交換水あるいはイオン交換水の温水を添加し、反応混合物中のグリセリン及び低級アルコールを除去した後に残存する水分を除去した油脂及び脂肪酸低級アルキルエステルを含む混合物である。反応混合物が、88質量%以上の濃度の脂肪酸低級アルキルエステルを含む油相及びグリセリンの混合物であれば、ステリルグルコシドの析出が容易となり、分離、濃縮も容易となるため好ましい。
【0028】
また、工程1では、エステル交換反応を、油脂由来の脂肪酸の脂肪酸低級アルキルエステルへの変換率が88%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは92%以上、特に好ましくは95%以上となるまで行うことが好ましい。ここで、変換率とは、油相のメチルエステル濃度から算出される鹸化価/原料油脂の鹸化価×100で定義されるものである。この変換率が88%以上であれば、上記のような、油相中における脂肪酸低級アルキルエステルの濃度が88質量%以上の反応混合物を容易に得ることができる。油相の肪酸低級アルキルエステル、例えばメチルエステル濃度の測定は既知の方法で行うことができる。例えばガスクロマトグラフィーを用いた方法により測定することができる。また、原料油脂の鹸化価の測定も既知の方法で行うことができる。例えばJIS K0070のような方法で測定することができる。
【0029】
工程1において、油脂に対する低級アルコールのモル比(油脂を全てトリグリセリド換算)は触媒活性にも依るが、良好な反応速度を得る観点から5以上が好ましく、8以上がより好ましい。また低級アルコールの回収量を抑えて経済的に反応を行う観点から50以下が好ましく、40以下がより好ましく、30以下が更に好ましい。
【0030】
反応温度は触媒活性にも依るが、100℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましく、150℃以上が更に好ましく、160℃以上が特に好ましい。また、副生成物であるメトキシプロパンジオール等のグリセリンと低級アルコールとのエーテル体の生成を抑制するために、250℃以下が好ましく、220℃以下がより好ましい。
【0031】
反応圧力は反応形式、使用触媒の種類と温度にも依るが、0.1〜10MPa−G(ここでGはゲージ圧力を意味する)がより好ましく、0.5〜8MPa−Gが更に好ましく、1.5〜8MPa−Gが特に好ましい。
【0032】
工程1での反応時間は、反応条件(反応形式、触媒量、温度など)によって異なるが、槽型反応器を用いた反応では、通常2〜10時間で良い。また、固定床反応器を用いた連続反応では、油脂基準の液空間速度(LHSV)は、反応器の単位体積あたりの生産性を高め、経済的に反応を行う観点から、0.02/hr以上が好ましく、0.1/hr以上がより好ましい。また、十分な反応率を得る観点から、2.0/hr以下が好ましく、1.0/hr以下がより好ましい。
【0033】
工程1で得られた反応混合物は、脂肪酸低級アルキルエステル、未反応油脂、グリセリン、低級アルコール、及びステリルグルコシドを含む混合物であり、反応モル比にも依るが均一の液相あるいは2相の状態を形成する。エステル交換反応前の油脂と低級アルコールの混合物と、エステル交換反応後の反応混合物との組成が変動することから、ステリルグルコシドが析出ないし析出しやすい状態となるものと考えられる。エステル交換反応が十分に進行する等により、得られた反応混合物中にステリルグルコシドが析出していればそのまま工程2に供することもできる。本発明では、反応生成物にステリルグルコシドを析出させる操作を施すことが好ましく、反応混合物中の低級アルコール(未反応低級アルコール)を除去してステリルグルコシドを析出させることが好ましい。
【0034】
低級アルコールの除去方法は特に限定されるものではなく、通常用いられるフラッシュ蒸留、あるいは精留操作で行うことができる。反応混合物中の低級アルコール含有量が8質量%以下、好ましくは6質量%以下、更に好ましくは4質量%以下となるまで低級アルコールを除去することが好ましい。
【0035】
低級アルコールを除去する方法としては特に限定されず、既知の方法を用いることができる。例えば、反応混合物を蒸発器に通すことで、存在する低級アルコールを8質量%以下となるまで分離することができる。ここで蒸発条件としては反応混合物の液体反応物中の低級アルコール含有量が8質量%以下、好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下となるような圧力、温度で行う。具体的には、常圧下にフラッシュさせる場合には、場合により反応混合物を予め加熱した後にフラッシュさせても良い。また、蒸発場を減圧条件とするなど、適宜調整が可能である。好ましくは圧力−0.993MPa−Gから0.2MPa−G、分離温度60℃から160℃の範囲で行うことができる。
【0036】
また、反応混合物の温度を低下させることでステリルグルコシドが析出した反応混合物を得ることもできる。冷却温度としてはステリルグルコシド及びアシルステリルグルコシドが析出する温度であり、工程2の分離で用いる装置の耐熱性に問題がなければ特に限定はされないが、好ましくは55℃以下、より好ましくは53℃以下、更に好ましくは50℃以下とするのがよい。また30℃以上、好ましくは35℃以上であることが、反応混合物の粘度の上昇を抑え、ろ過に要する時間を適正にできることから好ましい。よって、反応混合物の温度を30〜55℃に調整することにより、ステリルグルコシドが析出した反応混合物を得ることが好ましい。更に、上記のように、低級アルコール濃度を低減した反応混合物を前記温度範囲に冷却してステリルグルコシドが析出した反応混合物を得ることが好ましい。
【0037】
工程2は、工程1で得られた、ステリルグルコシドが析出した反応混合物からステリルグルコシドを分離する工程である。更には、工程1で得られた、ステリルグルコシドが析出した反応混合物から、脂肪酸低級アルキルエステル、グリセリン、ステリルグルコシドを、それぞれ分離する工程である。上記の通り、工程1の反応混合物は、油相とグリセリン相とを含む混合物であるが、ステリルグルコシドは、通常、ステリルグルコシドとアシルステリルグルコシド等を含む白色析出物として析出する。本発明では、このようなステリルグルコシドが析出した反応混合物を、油相、水相と共にそのまま分離操作に供するため、極めて効率がよい。本発明では、ステリルグルコシドが析出した温度が30〜55℃の反応混合物からステリルグルコシドを分離することが好ましい。
【0038】
反応混合物からのステリルグルコシドの分離は、ろ過により行うことが好ましい。ろ過は、ろ過装置を用いた既知の方法により行うことができる。ろ過装置は特に限定はされないが、連続的に処理する場合には、例えばカートリッジフィルターによるろ過方法が採用できる。ろ過に供するろ材材質としては反応混合物が脂肪酸低級アルキルエステル、油脂、グリセリンを含む混合物であることから、これらが通過できるものであればよく、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどが好適に使用できる。またろ材の目の粗さに関しては析出したステリルグルコシドが通過しない程度のものでよく、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下のものが使用できる。カートリッジフィルターでは例えば、チッソフィルター(株)製のCP−01、CPH−01などが好適に使用できる。また、あまりに目の粗さが細かいものを使用した場合には、ろ過面積当たりの処理量が減少し効率的ではなくなることから、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上のものが好適に使用できる。
【0039】
ろ過後は、必要に応じてろ過残渣からステリルグルコシドを精製、単離すればよい。また、ろ液を油水分離することで、脂肪酸低級アルキルエステルとグリセリンとを分離することができる。
【0040】
本発明の分離法は、油脂と低級アルコールとから脂肪酸低級アルキルエステルを製造する工程に取り込むことができ、しかも、ステリルグルコシドを析出させるために煩雑な操作や装置を必要としないため、工業的に極めて有用である。本発明の分離法は、油脂から脂肪酸低級アルキルエステルとステリルグルコシドの両方、更には油脂から脂肪酸低級アルキルエステルとグリセリンとステリルグルコシドの3成分を製造する方法として実施できる。その具体例としては、次の工程(a)〜(g)を含む、脂肪酸低級アルキルエステルとグリセリンとステリルグルコシドの製造法が挙げられる。
工程(a):油脂と低級アルコールとをエステル交換反応させる工程
工程(b):工程(a)より得られた反応混合物を油水分離する工程(低級アルコール除去工程を含んでもよい)
工程(c):工程(b)で得られた油相と低級アルコールとをエステル交換反応させる工程
工程(d):工程(c)より得られた反応混合物中にステリルグルコシドを析出させる工程(低級アルコール除去工程を含んでもよい)
工程(e):工程(d)より得られた反応混合物からステリルグルコシドを分離する工程
工程(f):工程(e)により分離された反応混合物を油水分離し、脂肪酸アルキルエステル及びグリセリンを得る工程
【0041】
上記製造法において、各工程での反応物品や操作は前述の好ましい態様及び公知の方法に従って行うことができる。なお、上記製造法では、工程(b)においてグリセリンを併せて回収することができる。
【0042】
本発明は、ステリルグルコシドを溶解した状態で含有する油脂と低級アルコールとをエステル交換反応させて、脂肪酸低級アルキルエステル、グリセリン及びステリルグルコシドを含有する反応混合物を得る工程と、該反応混合物から、脂肪酸低級アルキルエステル、グリセリン及びステリルグルコシドをそれぞれ分離する工程とを有する、脂肪酸低級アルキルエステル、グリセリン及びステリルグルコシドの製造法であり、前記反応混合物は、脂肪酸低級アルキルエステルを含む油相、グリセリンを含む水相、ステリルグルコシドを含む固相とに分離した状態で得られる。
【0043】
また、本発明は、ステリルグルコシドを溶解した状態で含有する油脂と低級アルコールとをエステル交換反応させてステリルグルコシドが析出した反応混合物を得る工程と、該反応混合物からステリルグルコシドを分離する工程とを有する、ステリルグルコシドの製造法もまた提供する。この製造法の好ましい態様も前記のものを参照できる。
【実施例】
【0044】
触媒製造例1
エチルホスホン酸9.9gと、85%オルトリン酸27.7g、硝酸アルミニウム(9水和物)112.5gを水1000gに溶解させた。室温にて、この混合溶液にアンモニア水溶液を滴下し、pHを5まで上昇させた。途中、ゲル状の白色沈殿が生成した。沈殿をろ過し、水洗後、110℃で15時間乾燥し、60メッシュ以下に粉砕した。粉砕した触媒に対して、アルミナゾルを10%添加し、2.5mmφの押出成形を行った。これを250℃で3時間焼成して、固体酸触媒の成形触媒(以下、触媒1という)を得た。得られた触媒の弱酸点は1mmol/g−cat、強酸点は検出限界以下であった。
【0045】
比較例1
温度測定用に内径6mmの管を軸方向に有する、内径35.5mmφ、長さ800mmの反応管を2本直列につなぎ、触媒1をそれぞれ500ccずつ充填した。油脂としてはステリルグルコシドを45mg/kgの濃度で含む酸価8.5の精製椰子油を用い、これと液状メタノールを反応器上部より供給し、反応温度170℃、LHSV0.4、反応圧力3.0MPa−Gで反応を行った。メタノールは油脂に対し10モル倍(油脂を全てトリグリセリド換算)でフィードした。油脂の通液量は触媒1の体積に対して112倍を通液した。反終液はエバポレータを使用して、圧力−0.9867MPa−G(100mmHg)、100℃でメタノールを蒸発させた。油相中のメタノール含有量は1.0質量%
以下であった。その後、反終液を50℃に冷却静置させ、メチルエステル相とグリセリン相に分離した。この反応混合物にはステリルグルコシドが析出していなかった。得られたメチルエステル相のメチルエステル濃度をガスクロマトグラフィーで測定したところ、85.3%であった。また得られたグリセリンは理論生成量に対して76%であった。なお、グリセリンの理論生成量は、原料ヤシ油通液量[g]/654[g/mol−ヤシ油]×92.04[g/mol−グリセリン]により求められ、理論生成量に対するグリセリン生成比率は、グリセリン生成量[g]/理論生成量[g]×100により求められる。
【0046】
実施例1
比較例1で得られたメチルエステル相を、比較例1と同じ反応管を用いて再度メタノールと反応させた。反応温度170℃、LHSV0.8、反応圧力3.0MPa−Gで反応を行った。メタノールは油脂に対し10モル倍(油脂を全てトリグリセリド換算)でフィードした。メチルエステル相の通液量は触媒1の体積に対して102倍を通液した。得られた反終液はエバポレータを使用して、圧力−0.9867MPa−G(100mmHg)、100℃でメタノールを蒸発させた。油相中のメタノール含有量は1.0質量%以下であった。その後、反終液を50℃に冷却させた。この際、メチルエステル相とグリセリン相の中間にステリルグルコシドの白色析出物が浮遊している状態であった。この混合物の全量をろ紙(ADVANTECH社製No2ろ紙)を使用して減圧ろ過したところ、ろ紙上に残渣としてステリルグルコシドの濃縮物が得られた。ステリルグルコシドとして78質量%の濃縮組成物を得た。またこの際のメチルエステル濃度は98.0%であり、得られたグリセリンは理論生成量に対して90.7%であった。
【0047】
比較例2
実施例1と同様の操作で反応を行い、2回目の反応後にメタノールの除去を行わない以外はすべて同様の操作を行った。ろ過前の反応混合物中のメタノール濃度は31.5%であった。50℃で静置分離させたが、ステリルグルコシドは析出せず、ろ過後のろ紙上にも残渣は得られなかった。
【0048】
比較例3
触媒1を充填した管型反応器に、ステリルグルコシドを45mg/kgの濃度で含む酸価8.5の精製椰子油をLHSV0.5、反応温度175℃、反応圧力4.0MPa−G、液状メタノールのモル比10モル倍を供給して反応を行わせた。この際の触媒体積に対する通液倍数は738倍であった。反応後の反応混合物はフラッシュ蒸留缶を使用し圧力0MPa−G、130℃で連続的にメタノール除去を行った。メタノール除去後の反応混合物中のメタノール濃度は1.8質量%であった。メタノール除去後の反応混合物を連続的に60℃に冷却後、カートリッジフィルター(チッソフィルター社製CP−01)に通してろ過を行ったが、析出物は得られなかった。
【0049】
実施例2
比較例3で得られたろ過後の反応混合物からメチルエステル相を分離した後、再度LHSV1.1、反応温度173℃、反応圧力4.0MPa−G、メタノールのモル比10モルの条件で管型反応器を用いて反応を行い、メチルエステル相のメチルエステル濃度が98.1%であり、グリセリン生成量が理論生成量に対し90.7%となる反応混合物を得た。触媒体積に対する通液倍数は1616倍であった。この混合物を連続的にフラッシュ蒸留缶に導入し、120℃,0MPa−Gでフラッシュ分離を行い、メタノール濃度2.1%の反応混合物を得た。更に連続的に45℃まで冷却後に、カートリッジフィルター(チッソフィルター社製CP−01)に通液させたところ、ステリルグルコシド82質量%を含む白色の濃縮組成物を得た。
【0050】
比較例4
触媒1を充填した管型反応器に、ステリルグルコシドを45mg/kgの濃度で含む酸価8.5の精製椰子油をLHSV0.4、反応温度166℃、反応圧力4.0MPa−G、液状メタノールのモル比10モル倍を供給して反応を行わせた。この際の触媒体積に対する通液倍数は38倍であった。反応後の反応混合物はフラッシュ蒸留缶を使用し圧力0MPa−G、130℃で連続的にメタノール除去を行った。メタノール除去後の反応混合物中のメタノール濃度は1.8質量%であった。メタノール除去後の反応混合物を連続的に40℃に冷却後、カートリッジフィルター(チッソフィルター社製CP−01)に通してろ過を行ったが、析出物は得られなかった。
【0051】
比較例5
比較例4で得られたろ過後の反応混合物からメチルエステル相を分離した後、再度LHSV1.5、反応温度182℃、反応圧力4.0MPa−G、メタノールのモル比10モルの条件で管型反応器を用いて反応を行い、メチルエステル相のメチルエステル濃度が97.9%となる反応混合物を得た。触媒体積に対する通液倍数は392倍であった。この混合物を連続的にフラッシュ蒸留缶に導入し、120℃,0MPa−Gでフラッシュ分離を行い、メタノール濃度2.2%の反応混合物を得た。更に連続的に60℃まで冷却後に、カートリッジフィルター(チッソフィルター社製CP−01)に通してろ過を行ったが、析出物は得られなかった。
【0052】
上記実施例及び比較例の反応条件、ステリルグルコシドの分離結果等を表1に示す。
【0053】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステリルグルコシドを溶解した状態で含有する油脂と低級アルコールとをエステル交換反応させてステリルグルコシドが析出した反応混合物を得る工程と、該反応混合物からステリルグルコシドを分離する工程とを有する、脂肪酸低級アルキルエステル、グリセリン及びステリルグルコシドの製造法。
【請求項2】
ステリルグルコシドの分離を反応混合物のろ過により行う、請求項1記載の脂肪酸低級アルキルエステル、グリセリン及びステリルグルコシドの製造法。
【請求項3】
エステル交換反応を、油脂由来の脂肪酸の脂肪酸低級アルキルエステルへの変換率が88%以上となるまで行う、請求項1又は2記載の脂肪酸低級アルキルエステル、グリセリン及びステリルグルコシドの製造法。
【請求項4】
反応混合物の温度を30〜55℃に調整することにより、ステリルグルコシドが析出した反応混合物を得る、請求項1〜3の何れか1項記載の脂肪酸低級アルキルエステル、グリセリン及びステリルグルコシドの製造法。
【請求項5】
反応混合物中の低級アルコール濃度を8質量%以下に調整することにより、ステリルグルコシドが析出した反応混合物を得る、請求項1〜4の何れか1項記載の脂肪酸低級アルキルエステル、グリセリン及びステリルグルコシドの製造法。
【請求項6】
エステル交換反応を、固体酸触媒を用いて行う、請求項1〜5の何れか1項記載の脂肪酸低級アルキルエステル、グリセリン及びステリルグルコシドの製造法。

【公開番号】特開2011−26567(P2011−26567A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142474(P2010−142474)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】