説明

脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法

【課題】エステル交換反応装置でのリン酸塩の付着を低減できる脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】粗パーム油からガム質を除去する脱ガム工程(A)と、前記脱ガム工程(A)で得た脱ガム物中の脂肪酸を、カチオン交換樹脂を使用して、低級アルキルアルコールでエステル化し、エステル混合油を含む反応混合物を得るエステル化工程(B)と、前記エステル混合油中の油脂を、アルカリ触媒を使用し、低級アルキルアルコールでエステル交換するエステル交換工程(C)と、前記エステル交換工程(C)で得た油相の減圧蒸留を行う蒸留工程(D)とを含む脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法であって、前記脱ガム工程(A)にて、前記粗パーム油と、リン酸と、前記粗パーム油に対して0.15〜0.3質量%の水と、ろ過助剤とを混合し、得られた混合物をろ過することで前記ガム質を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸低級アルキルエステルは、スルホ脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアマイド、脂肪酸ニトリル化合物等の製品の中間原料として用いられている。また、それ自体でも各種の用途に使用されており、かかる用途としては、たとえば、軽油代替燃料として近年注目されている、動植物に由来する有機物をエネルギー源としたバイオマス燃料がある。
脂肪酸低級アルキルエステルは、一般的に、低級アルコールで油脂のエステル交換を行うことにより脂肪酸低級アルキルエステルを含む油相を得て、該油相から脂肪酸低級アルキルエステルを蒸留により留出させることにより製造されている。
脂肪酸低級アルキルエステルの原料の油脂としては、従来、精製された菜種油や大豆油が一般的であったが、それらは高価であるため、近年では、安価な粗パーム油等の未精製油脂が原料として使用されるようになっている。
脂肪酸低級アルキルエステルの原料として未精製油脂を用いる場合、未精製油脂はリン脂質を主成分とするガム質や、コロイド状不純物などの不溶物を含んでいるため、エステル化を行う前にこれらの不溶物を除去する脱ガム工程が行われている。
脱ガム工程を行う方法としては、たとえば温水およびろ過助剤を未精製油脂に混合し、得られた混合物をろ過して不溶物を除去する方法、未精製油脂にリン酸およびろ過助剤を添加してろ過する方法等がある(たとえば特許文献1〜2参照。)。これらのうち、リン酸を使用する方法は、脱ガム率が高いという利点を有する。
【特許文献1】特許第3046999号公報
【特許文献2】特開2007−176973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、リン酸を使用する方法で脱ガム工程を行う場合、リン酸が脱ガム後も油脂中に残り、以降のプロセス、特にエステル交換工程で問題を引き起こすことがある。
たとえば、原料中のリン酸が、エステル交換の際に用いられるアルカリ触媒(たとえば水酸化ナトリウム)と反応してリン酸塩が形成される。該リン酸塩はエステル化反応装置の構造によっては該装置内に付着、堆積してしまう。エステル交換反応装置が攪拌機を備えた塔型反応槽の場合、該リン酸塩が、該撹拌機に付着、堆積すると、撹拌機に負荷がかかって損傷したり停止することがある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、エステル交換反応装置でのリン酸塩の付着を低減できる脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、未精製油脂が粗パーム油である場合、脱ガム工程において、粗パーム油に対して特定量の水をリン酸とともに添加することにより、得られる脱ガム物中のリン酸分を低減できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
上記課題を解決する本発明の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法は、粗パーム油からガム質を除去する脱ガム工程(A)と、
前記脱ガム工程(A)で得た脱ガム物中の脂肪酸を、カチオン交換樹脂を使用して、低級アルキルアルコールでエステル化し、エステル混合油を含む反応混合物を得るエステル化工程(B)と、
前記エステル混合油中の油脂を、アルカリ触媒を使用し、低級アルキルアルコールでエステル交換するエステル交換工程(C)と、
前記エステル交換工程(C)で得た油相の減圧蒸留を行う蒸留工程(D)とを含む脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法であって、
前記脱ガム工程(A)にて、前記粗パーム油と、リン酸と、前記粗パーム油に対して0.15〜0.3質量%の水と、ろ過助剤とを混合し、得られた混合物をろ過することで前記ガム質を除去することを特徴とする。
前記脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法は、さらに、前記エステル交換工程(C)で副生するセッケンを酸で分解し、生成した脂肪酸を、前記エステル化工程(B)または該エステル化工程(B)よりも前段側の工程に返送するリサイクル工程(R)を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法によれば、脂肪酸低級アルキルエステル製造時のエステル交換反応装置でのリン酸塩の付着を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明をより詳細に説明する。
図1は、本発明の製造方法の一例を示す概略工程図である。
本例では、まず、粗パーム油について脱ガム工程(A)を行った後、得られる脱ガム物についてエステル化工程(B)を行い、その後、エステル交換工程(C)および蒸留工程(D)を実施する。
また、本例では、エステル交換工程(C)で副生するセッケンを酸で分解し、生成した脂肪酸を、前記エステル化工程(B)または該エステル化工程(B)よりも前段側の工程に返送するリサイクル工程(R)を行ってもよい。
以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0007】
[脱ガム工程(A)]
脱ガム工程(A)は、粗パーム油からガム質を除去する工程である。
本発明においては、脱ガム工程(A)にて、粗パーム油と、リン酸と、前記粗パーム油に対して0.15〜0.3質量%の水と、ろ過助剤とを混合し、得られた混合物をろ過することで粗パーム油中のガム質を除去する。
これにより、ろ液として得られる脱ガム物中に残存するリン酸の量(以下、リン酸分ということがある。)を低減できる。たとえばろ過後の脱ガム物中のリン酸分を、50ppm以下とすることができる。
脱ガム物中のリン酸分は、S.H.Goh,S.L.Tong and P.T.Gee,J.Am.Oil Chem.Soc.,61,1601(1984)記載の方法を用いて脱ガム物中の無機リン分を測定した後、その値をリン酸分に換算することにより求められる。
上述のようにリン酸分が低減されるのは、特定量の水を添加することにより、ろ過助剤へのリン酸の吸着効果が増大し、油脂中のリン酸がろ過時に除去されやすくなるためではないかと推測される。
また、脱ガム物のリン酸分が低減されることにより、エステル交換工程(C)でのリン酸塩の生成量も低減する。そのため、エステル交換反応装置の攪拌機へのリン酸塩の付着、堆積と、それに伴う攪拌機の損傷を防止できる。
【0008】
本発明の製造方法で原料として使用される粗パーム油は、アブラヤシの果肉を圧搾して得られ、炭素数16〜18の脂肪酸の油脂(脂肪酸トリグリセライド)を主成分とする未精製の混合物である。なお、以下、主成分とは、少なくとも50質量%を占める成分のことを指す。
粗パーム油には、通常、炭素数16〜18の脂肪酸の油脂の他に、リン脂質を主成分とするガム質、カロチン、リン脂質、タンパク質、樹脂状物質、遊離している脂肪酸(以下、遊離脂肪酸という場合もある。)、炭素数20の脂肪酸の油脂などが含まれる。
粗パーム油としては、市販のものを使用できる。
粗パーム油の組成(各成分の割合、油脂における脂肪酸組成)は、「基準油脂分析試験法2.4.2.1−1996 脂肪酸組成」等の従来公知の方法により確認できる。
本発明においては、粗パーム油として、遊離脂肪酸の含有量が5質量%以下であり、過酸化物価が5ミリ当量(m equivalent)/kg以下のものを用いることが好ましい。
粗パーム油の遊離脂肪酸の含有量および過酸化物価はそれぞれ、「基準油脂分析試験法2.3.1−1996 酸価」および「基準油脂分析試験法2.5.2.1−1996 過酸化物価(酢酸−イソオクタン法)」等の従来公知の方法により確認できる。
【0009】
本発明においては、脱ガム工程(A)に使用する粗パーム油に、脂肪酸(例えば後述するリサイクル工程(R)で回収された脂肪酸や、他の物質などの製造過程で回収された脂肪酸)を添加し、得られる混合物を脱ガムしてもよい。
この場合、混合物中の脂肪酸が多すぎると各工程に悪影響が及ぶ場合があるため、脂肪酸の添加量は、粗パーム油100質量部に対して5質量部以下が好ましい。
【0010】
リン酸としては、市販のものを利用できる。
リン酸の添加量は、粗パーム油に対して、0.01〜0.1質量%が好ましく、0.04〜0.1質量%がより好ましい。0.01質量%以上であると、脱ガムが効果的に進行し、一方、0.1質量%以下であると、脱ガムに寄与しないリン酸が少なく、脱ガム物中のリン酸分がより低減され、本発明の効果がさらに向上する。
リン酸の添加量は、粗パーム油中のガム質含有量に応じて、適宜調整できる。ガム質含有量は、A.O.C.S試験法Ca 9f−57により測定できる。
【0011】
水としては、一般的に工業的に用いられている水であれば特に限定されず、たとえば蒸留水、イオン交換水、工業用水等が挙げられる。
水の添加量は、粗パーム油に対して0.15〜0.3質量%が好ましい。0.15質量%以上であると、脱ガム物のリン酸分の低減効果が高い。一方、0.3質量%以下であると、混合物のろ過性が良好である。また、水が脱ガム工程(A)よりも後段の工程に悪影響を与えるおそれも少ない。
【0012】
リン酸および水は、それぞれ別個に添加してもよいが、リン酸水溶液として添加することが好ましい。
この場合、リン酸水溶液は、リン酸濃度が10〜40質量%であることが好ましい。リン酸濃度が上記範囲内であると、当該リン酸水溶液により、リン酸および水をバランス良く添加することができる。
【0013】
ろ過助剤としては、一般に用いられているものが利用でき、たとえばパーライト、ケイソウ土、活性白土などが挙げられる。これらの中でも、ケイソウ土、パーライトが好ましく、より高い吸着能を有していることからパーライトがより好ましい。
ここで、パーライトとは、黒曜石を高温で熱処理してできる発泡体である。また、ケイソウ土は、単細胞ソウ類であるケイソウの遺骸からなるケイ質の堆積物である。
ろ過助剤としては、市販のものを利用できる。
ろ過助剤の添加量は、粗パーム油100質量部に対して、0.03〜0.15質量部が好ましく、0.03〜0.1質量部がより好ましく、0.03〜0.05質量部がさらに好ましい。0.03質量部以上であると、脱ガムが効果的に進行し、一方、0.15質量部以下であると、粗パーム油のロスが抑えられるとともに、廃棄されるろ過助剤量も少なくできる。
【0014】
脱ガム工程(A)は、より具体的には、以下のようにして実施できる。
まず、粗パーム油を加熱し、これにリン酸および水(好ましくはリン酸水溶液)、ならびにろ過助剤を添加し、好ましくは1〜60分間、より好ましくは10〜40分間混合撹拌する。混合撹拌の後、この混合物を、布フィルターなどのフィルターを備えたろ過器でろ過する。これにより、混合物中の不溶物が除去され、脱ガム物がろ液として得られる。
粗パーム油の加熱温度は、好ましくは50〜70℃、より好ましくは60〜70℃である。該温度が50〜70℃であると、粗パーム油中の有用な成分を変質させたり、劣化させたりすることがないとともに、効果的に脱ガムできる。
【0015】
脱ガム工程(A)では、脱ガムを行う前に予め、ろ過助剤を多めに配合した粗パーム油をろ過器のフィルターに循環供給しておくことが好ましい。これにより、フィルターの表面にプレコート相が形成され、ろ過をより円滑に行うことができる。
その際のろ過助剤の添加量は、粗パーム油100質量部に対して、好ましくは0.2〜1.0質量部、より好ましくは0.2〜0.7質量部、さらに好ましくは0.2〜0.4質量部である。ろ過助剤の添加量がこのような範囲であると、粗パーム油のロスを抑え、廃棄されるろ過助剤量を少なくしつつ、効果的に脱ガムすることができる。
【0016】
脱ガム工程(A)の前または後、または脱ガム工程(A)中において、必要に応じて、粗パーム油またはその脱ガム物から夾雑物を除去してもよい。
夾雑物は、前記ガム質の除去と同じ方法、同じ装置により除去してもよいし、脱ガム工程(A)に供する原料(粗パーム油)を貯蔵する原料貯蔵タンクでの静置分離や、ろ過装置、遠心分離等の方法で除去することができる。
夾雑物としては、土、砂利、ゴミがあり、場合によっては金属分等が含まれることもある。
【0017】
脱ガム工程(A)により得られる脱ガム物は、エステル化工程(B)に供給される。
本発明においては、エステル化工程(B)に供給する脱ガム物に、脂肪酸(例えば後述するリサイクル工程(R)で回収された脂肪酸や、他の物質などの製造過程で回収された脂肪酸)を添加し、得られる混合物をエステル化工程(B)に使用してもよい。
該混合物を使用する場合、脂肪酸が多すぎると各工程に悪影響が及ぶ場合があるため、脂肪酸の添加量は、脱ガム物100質量部に対して5質量部以下が好ましい。
【0018】
エステル化工程(B)に供される脱ガム物は、水分含有量が0.2質量%以下であることが、エステル交換工程(C)におけるエステル交換反応率の点から好ましい。
上記ろ過後の脱ガム物の水分含有量が0.2質量%以下である場合は、そのままエステル化工程(B)に供給すればよい。
ろ過後の脱ガム物の水分含有量が0.2質量%を超える場合は、エステル化工程(B)の前に、該脱ガム物の水分を除去し、水分含有量を0.2質量%以下とすることが好ましい。
脱ガム物の水分含有量は、従来公知の方法により低減でき、たとえば、より水分含有量の少ない他の精製油脂を混合する方法、減圧下で加熱を行い除去する方法等が挙げられる。
なお、本発明における水分含有量は、カールフィッシャー法により測定される値である。
【0019】
[エステル化工程(B)]
次に、前記脱ガム工程(A)で得た脱ガム物中の脂肪酸を、カチオン交換樹脂を使用して、低級アルキルアルコールでエステル化し、エステル混合油を含む反応混合物を得るエステル化工程(B)を行う。
ここで、「反応混合物」は、エステル化工程(B)で得られる未処理の混合物のことであって、エステル化工程(B)で生成する脂肪酸低級アルキルエステルと、原料の主成分である油脂と、原料に元々含まれる他の成分とからなるエステル混合油に加えて、未反応の低級アルキルアルコールや、副生する水分を含んだものを指す。
つまり、「エステル混合油」とは、エステル化工程(B)で得られる未処理の混合物である反応混合物から低級アルキルアルコールと水分とを除いたものである。
反応混合物中に含まれるエステル混合油の割合(質量%)は、例えば、反応混合物を減圧下で加熱し、低級アルキルアルコールや水分を除去することで確認できる。
【0020】
「脱ガム物中の脂肪酸」、つまりエステル化の対象となる脂肪酸には、少なくとも、原料(粗パーム油)に元々含まれる遊離脂肪酸が含まれる。また、リサイクル工程(R)を行い、回収された脂肪酸(回収脂肪酸)を返送し、再利用する場合には、該返送された回収脂肪酸も、脱ガム物中の脂肪酸に含まれる。
エステル化工程(B)では、脂肪酸の低級アルキルエステルとともに水が生成するため、脱ガム物中に大量の脂肪酸が含まれると、エステル化で生成する水の量もそれにともなって多くなる。多量の水の存在は、ついで実施されるエステル交換工程(C)でのエステル交換反応率に悪影響を与えるおそれがある。
そのため、エステル化工程(B)で処理される脱ガム物中の脂肪酸の量は、酸価として15以下であることが好ましく、12以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。脱ガム物の酸価が15以下であると、エステル化工程(B)においてエステル化にともなって生成する水の量が過剰にならず、反応混合物中の水分含有量が0.5質量%以下に抑えられる傾向にある。このような水分含有量であれば、反応混合物から水分を分離せずに、これをエステル交換工程(C)に供しても、水分がエステル交換反応率に大きな影響を与えることはない。
反応混合物中の水分含有量が0.5質量%を超える場合は、エステル交換工程(C)の前に、該反応混合物の水分を除去し、水分含有量を0.5質量%以下とすることが好ましい。反応混合物中の水分含有量は、前記脱ガム物の場合と同様の方法により低減できる。
なお、ここで言う脱ガム物の酸価とは、原料(粗パーム油)中の遊離脂肪酸に由来する酸価だけでなく、上述した回収脂肪酸に由来する酸価も含まれる。
【0021】
エステル化工程(B)では、カチオン交換樹脂を使用することにより、脱ガム物をカチオン交換樹脂に接触させる簡単な方法で、連続的にエステル化を進行させることができる。また、固体触媒を使用する方法や、硫酸などの酸を加える方法などの他のエステル化方法に比べて、高いエステル化反応率が達成できる。また、酸を加える方法では、原料である動植物油脂の品質劣化や、装置の腐食などの問題もあるが、カチオン交換樹脂を使用した方法では、このような問題も生じない。
【0022】
カチオン交換樹脂としては、酸型固形カチオン交換樹脂、酸性ゲル型カチオン交換樹脂等の酸性カチオン交換樹脂を用いることが好ましい。
「酸性カチオン交換樹脂」とは、ナトリウムイオンやカルシウムイオンのような陽イオンを交換する樹脂で、架橋した三次元の高分子基体にスルホン酸基やカルボン酸基のような酸性を示す官能基を導入した化学構造を持つ合成樹脂を意味する。
カチオン交換樹脂としては、特に、酸性ゲル型カチオン交換樹脂を使用することが、エステル化反応率がより高まるため好ましい。その理由については明らかではないが次のように推察できる。すなわち、酸型固形カチオン交換樹脂は、エステル化反応で生成した水が付着または吸着することにより触媒能が低下するが、酸性ゲル型カチオン交換樹脂では、水を水和水として取り込むことができるため、水による触媒能の低下が生じないことに起因すると考えられる。
酸性ゲル型カチオン交換樹脂としては、架橋度が3〜10%の範囲内のものが好ましい。3%以上であれば、樹脂強度の点で好ましく、10%以下であれば、脂肪酸の除去効率の点から好ましい。架橋度は、さらに好ましくは4〜8%である。なかでも、脂肪酸のエステル化反応率、樹脂の機械的強度がともに優れることなどから、架橋度4%のものが特に好ましい。
好適に使用できる酸性ゲル型カチオン交換樹脂としては、例えば、スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーのスルホン化物などが挙げられ、具体的には、例えば、三菱化学社製のダイヤイオンSK104(商品名、架橋度4%)、同SK106(商品名、架橋度6%)、同SK 1B(商品名、架橋度6%)および同SK110(商品名、架橋度10%)や、ダウケミカル社製ダウエックス(商品名、架橋度4%)、ローム・アンド・ハース社製のアンバーライト(商品名、架橋度4%)などが市販されている。
【0023】
エステル化に用いる低級アルキルアルコールは、炭素数1〜4のアルキルアルコールである。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられる。これらはいずれか1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
低級アルキルアルコールとしては、メタノールが好ましい。
また、低級アルキルアルコールは、水分量が0.15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.10質量%以下、さらに好ましくは0.06質量%以下である。
エステル化工程(B)における低級アルキルアルコールの使用量は、脱ガム物中の脂肪酸分布に応じて適宜決定されるが、脱ガム物100質量部に対して、好ましくは5〜50質量部であり、より好ましくは10〜30質量部、さらに好ましくは15〜25質量部である。このような範囲内であると、充分なエステル化反応率が得られるとともに、低級アルキルアルコールの回収コストや設備容量の過度の増大を抑制できる。
【0024】
エステル化工程(B)の具体的な実施方法としては、カチオン交換樹脂が充填された塔またはカラムに、低級アルキルアルコールと脱ガム物との混合物を供給し、通過させる方法が挙げられる。
反応温度(たとえば塔またはカラムを通過させる際の温度)は、好ましくは40〜70℃、より好ましくは50〜65℃、さらに好ましくは60〜65℃である。
反応時間(たとえば塔またはカラム内での滞留時間)は、好ましくは60〜480分間、より好ましくは90〜360分間、さらに好ましくは90〜240分間である。
上記のような反応温度および反応時間であると、混合物の流動性が良好で、反応速度も充分であるとともに、塔またはカラムを過度に大型化したり、耐圧化したりする必要もなく、効率的である。
【0025】
低級アルキルアルコールと原料との混合物を塔またはカラムに供給する前には、前処理として、カチオン交換樹脂をアルコールで洗浄しておくことが好ましい。
洗浄のためのアルコールとしては、エステル化反応に使用するものと同じ低級アルキルアルコールを使用することが好ましい。また、このような洗浄は、塔またはカラムに通す前後のアルコール中の水分が変化しなくなるまで行うことが好ましい。このように洗浄することにより、カチオン交換樹脂中の水分がアルコールで置換され、脂肪酸のエステル化効率をより高めることができる。具体的には、カチオン交換樹脂の2〜5倍容量のアルコールで洗浄することが好ましい。
【0026】
エステル化工程(B)において、エステル化は、エステル混合油の酸価が2以下となるように行うことが好ましい。該酸価は、1以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましい。
酸価とは、試料1gあたり、中和に要した水酸化カリウムの質量(mg)で表される酸性物質の濃度であって、油脂(ここではエステル混合油)の場合、脂肪酸の濃度を意味する。酸価=1とは、脂肪酸濃度0.46質量%(パルミチン酸換算)に相当する。酸価はAVと呼ばれる場合もある。
エステル化工程(B)で到達させるエステル混合油の酸価は低いほど好ましいが、現実的な下限は0.1程度である。
エステル混合油の酸価は、使用するカチオン交換樹脂の種類、反応温度、反応時間、低級アルキルアルコールの使用量などの条件を調整し、エステル化の程度を調整することにより調節できる。
酸価の測定方法としては、従来公知の方法が利用できる。具体的には、反応混合物をエバポレータで吸引して未反応の低級アルキルアルコールや水分を除去してエステル混合油を得て、これをさらに無水硫酸ナトリウムを含ませたろ紙に通して前処理した後、中和滴定する方法が好ましい。
【0027】
エステル混合油の酸価を2以下とすることは、最終的に得られる脂肪酸低級アルキルエステルを軽油代替燃料として使用する場合において非常に重要である。
すなわち、エステル混合油に、その酸価が2を超えるほどの脂肪酸が含まれると、次のエステル交換工程(C)で使用するアルカリ触媒がこの脂肪酸に消費されてしまい、目的とするエステル交換が進行しないばかりでなく、大量のセッケンが副生することになる。それでも尚、エステル交換を進行させようとすれば、アルカリ触媒が大量に必要になり、油脂のケン化が進行し、セッケンの生成量がますます増大する。セッケンなどの副生物は、当該脂肪酸低級アルキルエステルを軽油代替燃料として使用した際に燃料供給ラインや燃料噴射ノズルの目詰まりを引き起こす原因になると考えられる。また、副生するセッケンが大量であれば、脂肪酸低級アルキルエステル製造において、その分離作業や製造歩留まりに悪影響を及ぼすとともに、リサイクル工程(R)の負荷も大きくなり好ましくない。
つまり、エステル化工程(B)において、酸価が2以下となるように脂肪酸をあらかじめエステル化しておくことにより、軽油代替燃料として使用した際の目詰まりが抑制された高純度な脂肪酸低級アルキルエステルを、高収率で円滑に得ることができる。
【0028】
上記のようなエステル化工程(B)は、脂肪酸を系外へ除去するのではなく、脂肪酸低級アルキルエステルに変換するものである。かかるエステル化工程(B)を行うことにより、原料ベースの製造歩留まりを高く維持することができる。系外に除去した脂肪酸を別のラインでエステル化した後、これを最終的に得られる脂肪酸低級アルキルエステルに混合することで製造歩留まりを維持する方法なども考えられるが、そのような方法は効率的ではない。
また、エステル化工程(B)は、脱ガム工程(A)とエステル交換工程(C)との間で連続的に行うことができるため、非常に効率的である。
【0029】
[エステル交換工程(C)]
上記のようなエステル化工程(B)の後、得られたエステル混合油中の油脂を、アルカリ触媒を使用し、低級アルキルアルコールでエステル交換するエステル交換工程(C)を行う。
本工程でエステル交換の対象となる「エステル混合油中の油脂」は、原料(粗パーム油)に由来する油脂である。
エステル交換により、脂肪酸低級アルキルエステルが生成するともに、アルコール、グリセリン、セッケン等が副生する。
【0030】
エステル交換工程(C)では、アルカリ触媒を用いることにより、品質の良い脂肪酸低級アルキルエステルが低温で得られやすい。
エステル交換工程(C)で使用するアルカリ触媒として、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラートなどが挙げられる。これらはいずれか1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。アルカリ触媒としては、コストの点から水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、さらに操作性の点から、水酸化ナトリウムが最も好ましい。
エステル交換工程(C)で使用する低級アルキルアルコールとしては、前述のエステル化工程(B)で例示したものを同様のものが挙げられ、メタノールが特に好ましい。
【0031】
エステル交換工程(C)では、少なくとも1段のエステル交換反応を実施する。
1段目のエステル交換反応は、エステル化工程(B)で得られたエステル混合油の酸価に応じてアルカリ触媒の量を制御しながら実施することが好ましい。
すなわち、アルカリ触媒量が多いと、エステル交換反応の反応性は高まるが、アルカリ触媒と脂肪酸や油脂とが反応して副生するセッケンの量も多くなり、セッケンの分離作業、製造歩留まり、得られる脂肪酸低級アルキルエステルの純度などに悪影響を及ぼしたり、後述するリサイクル工程(R)の負荷が大きくなったりする。よって、副生するセッケンの量を抑制しつつ、効率的にエステル交換反応を進行させることが重要であり、そのためには、エステル混合油の酸価に着目し、それに応じてアルカリ触媒量を調節しながら、エステル交換反応を実施することが好適である。つまり、酸価が大きい場合にはアルカリ触媒量も多くし、酸価が小さい場合にはアルカリ触媒量も少なくすることが好ましい。
上記アルカリ触媒量の調節は、エステル混合油100質量部に対して、アルカリ触媒量0.1〜1.0質量部の範囲内、より好ましくは0.2〜0.6質量部の範囲内で行うことが好ましい。
【0032】
特に、アルカリ触媒として水酸化ナトリウムを単独で使用する場合は、その際のエステル混合油100質量部に対するアルカリ触媒量CNaOH[質量部]を、エステル混合油の酸価をパラメータとした下記式(1)により決定することが好ましい。
また、アルカリ触媒として水酸化カリウムを単独で使用する場合には、その際のエステル混合油100質量部に対するアルカリ触媒量CKOH[質量部]を、エステル混合油の酸価をパラメータとした下記式(2)により決定することが好ましい。
下記式(1)、(2)はそれぞれ実験により求めたものであり、AVはエステル混合油の酸価を示す。AVは2以下であることが好ましい。
NaOH=0.2+0.07×AV ・・・(1)
KOH=0.37+0.1×AV ・・・(2)
【0033】
1段目のエステル交換反応の実施方法として、具体的には、エステル化工程(B)で得られた反応混合物に、低級アルキルアルコールとアルカリ触媒とを添加し、後述の条件で反応を進行させる方法が挙げられる。
1段目のエステル交換反応における低級アルキルアルコールの添加量は、反応系中の低級アルキルアルコールの量が、エステル混合油100質量部に対し、好ましくは10〜50質量部、より好ましくは20〜40質量部、さらに好ましくは30〜40質量部となる量であることが好ましい。このような範囲であると、使用する装置を大型化する必要がなく、低級アルキルアルコールの回収、精製も低コストで行えるとともに、充分なエステル交換反応率が得られる。
ここで、「反応系中の低級アルキルアルコールの量」とは、エステル交換反応に供される低級アルキルアルコールの量であり、反応混合物に含まれる低級アルキルアルコールの量と、本工程で添加する低級アルキルアルコールの量との合計量である。
つまり、反応混合物中には、前記エステル化工程で使用した低級アルキルアルコールが存在していることがあり、この低級アルキルアルコールもエステル交換反応に利用できるため、反応混合物に含まれる低級アルキルアルコールの量を考慮して級アルキルアルコールの添加量を決定することが好ましい。
なお、反応混合物には、上述したように、水分も含まれるが、ここでその水分含有量が0.5質量%以下であると、特に上述のアルカリ触媒量とすることが有効である。
【0034】
1段目のエステル交換反応の反応温度は、好ましくは40〜120℃であり、より好ましくは50〜100℃、さらに好ましくは60〜80℃である。このような範囲であると、エステル交換反応の速度が十分であるとともに、使用する装置の耐圧性を高めたりする必要がなく、効率的である。
また、処理時間は、好ましくは15〜120分間であり、より好ましくは30〜70分間、さらに好ましくは40〜60分間である。このような範囲であると、使用する装置を大型化することなく、高いエステル交換反応率を達成することができる。
【0035】
このような1段目のエステル交換反応により、脂肪酸低級アルキルエステルを主成分とする油相と、グリセリンを主成分とする相(以下、グリセリン相という。)との混合物が得られる。
油相とグリセリン相とは分離して次の工程に用いる。
油相は、そのまま蒸留工程(D)に供してもよいが、該油相についてさらに1段以上のエステル交換反応を行ってから、蒸留工程(D)を実施することが好ましい。
つまり、エステル交換工程(C)において、エステル交換反応は、1段で行ってもよいが、2段以上で行うことが好ましい。エステル交換反応は可逆反応であることから、エステル交換反応を2段以上とすることにより、脂肪酸低級アルキルエステルのエステル交換反応率を高めることができ、より高い収率で脂肪酸低級アルキルエステルが得られる。
図1に示すように、2段のエステル交換反応を行う場合は、1段目で95〜96%程度の反応率まで進行させ、2段目で99%程度の反応率まで進行させることが好ましい。
エステル交換反応の反応率は、例えば以下のように求めることができる。すなわち、エステル交換反応で得られる油相に水を添加、攪拌した後、静置分離を行い、水相を分離することで触媒や副生物を除去する。次いで、油相に無水硫酸ナトリウムを添加することで脱水を行う。こうして得られた油相についてガスクロマトグラフを用いて脂肪酸トリグリセライド(未反応の油脂)および脂肪酸メチルエステルの量を測定することで反応率を求めることができる。
一方、グリセリン相はリサイクル工程(R)へと送って再利用することができる。
【0036】
油相とグリセリン相との分離は、静置分離、遠心分離等で行えばよく、静置分離の場合には、温度は好ましくは30〜70℃、より好ましくは30〜50℃で、静置時間は好ましくは30〜90分間、より好ましくは30〜60分間とすればよい。このような条件とすると、油相の流動性が良好であるとともに、低級アルキルアルコールの蒸気圧も抑制できるため使用する分離装置の耐圧性を高める必要もなく、効率的に分離が行える。
また、油相とグリセリン相とを分離する前には、アルカリ触媒を水洗するための水を添加することが好ましい。
【0037】
1段目の後に2段目のエステル交換反応を行う場合は、上記のようにして分離した油相とグリセリン相のうち、油相のみを2段目に供給する。
2段目では、1段目でのエステル交換反応率に応じて、2段目の低級アルキルアルコール添加量、処理温度や処理時間、触媒添加量などの条件を1段目よりも緩やかに設定すればよい。
好適には、2段目に供給された油相100質量部に対して、低級アルキルアルコール添加量を好ましくは1〜20質量部、より好ましくは5〜10質量部とする。このような範囲であると、低級アルキルアルコールの回収、精製も低コストで行えるとともに、十分なエステル交換反応率が得られる。
また、アルカリ触媒の量は、油相100質量部に対して好ましくは0.01〜0.2質量部、より好ましくは0.05〜0.2質量部、さらに好ましくは0.05〜0.1質量部であり、このような範囲であれば、セッケンの副生を少なく抑えつつ、効率的にエステル交換反応を行える。
また、2段目の処理温度は好ましくは40〜70℃であり、より好ましくは50〜60℃である。このような範囲であると、エステル交換反応の速度が十分であるとともに、使用する装置の耐圧性を高めたりする必要がなく、効率的である。
また、2段目の処理時間は、好ましくは1〜15分間であり、より好ましくは3〜10分間である。このような範囲であると、過度に時間を要することなく、十分なエステル交換反応率を達成することができる。
【0038】
上記のような2段目のエステル交換反応により、1段目と同様、脂肪酸低級アルキルエステルを主成分とする油相と、グリセリン相とが生成する。
これらは上記と同様に分離され、油相は蒸留工程(D)へと送られる。また、グリセリン相は、1段目と同様、リサイクル工程(R)へと送って再利用することができる。
ここでの油相とグリセリン相との分離は、1段目と2段目との間に実施される分離と同様に静置分離、遠心分離等で行うことができる。2段目では、分離性が良好となり、分離装置の耐圧性を高める必要がない点から、温度は好ましくは30〜70℃、より好ましくは40〜70℃で、静置時間は好ましくは30〜90分間、より好ましくは30〜60分間とすればよい。
また、油相とグリセリン相とを分離する際には、グリセリンや低級アルキルアルコールなどを水洗するための水を添加することが好ましく、その場合、水の添加量は、エステル交換工程(C)で得られた混合物100質量部に対して10〜30質量部が好ましく、10〜20質量部がより好ましい。このような範囲であると、乳化を起こすことなく、効果的な水洗が行える。
【0039】
[蒸留工程(D)]
蒸留工程(D)は、前記エステル交換工程(C)で得た油相の減圧蒸留を行う工程である。
油相の減圧蒸留を行うことにより、油相に含まれる不純物を残留物として塔底に残し、かつ、目的物である脂肪酸低級アルキルエステルを留出液として高純度で得ることができる。
残留物に含まれる不純物には、原料に使用した動植物油脂の種類によって異なるが、例えばモノグリセライド、ジグリセライド、トリグリセライドなどの未反応のグリセライド、炭素数20、22の脂肪酸の低級アルキルエステル、アルカリセッケンなどのアルカリ金属に由来した成分、カロチンの分解物などがある。
残留物に含まれる各成分は、得られる脂肪酸低級アルキルエステルを軽油代替燃料としてとして用いる場合に、燃料供給ラインや燃料噴射ノズルの目詰まりを起こす原因になると考えられる。そのため、このような蒸留工程(D)を行うことにより、目詰まりの可能性が低く抑えられ、軽油代替燃料に好適で、軽油代替燃料のEU規格をクリアするような高純度の脂肪酸低級アルキルエステルが得られる。
さらに、このような蒸留工程(D)によれば、原料として用いた粗パーム油に元々含まれるカロチンなどの着色物を分解し、分解物として塔底の残留物に残すことができるため、着色物を除去する工程を別途行わなくても、これらに由来する茶褐色の着色もない脂肪酸低級アルキルエステルを得ることができる。
【0040】
蒸留工程(D)では、減圧蒸留は、1段で行ってもよいが、留出させる脂肪酸低級アルキルエステルの炭素数が異なる2段以上の減圧蒸留を行うことが好ましい。
また、減圧蒸留と、常圧蒸留とを組み合わせて実施してもよい。
具体的には、まず、常圧のフラッシュ蒸留工程(通常120〜170℃)を行って、低級アルキルアルコール(図示例ではメタノール)と水とを留出液として除去する。ついで、その残留物に対して、2段以上の減圧蒸留工程を実施する。
2段以上の減圧蒸留工程については、留出させる脂肪酸アルキルエステルの炭素数が各減圧蒸留工程で異なるように、各減圧蒸留工程の蒸留条件を設定することが好ましく、通常、前段側から後段側になるにしたがって、より炭素数の大きな脂肪酸低級アルキルエステルが留出するように条件設定する。なお、各減圧蒸留工程では、異なる炭素数の脂肪酸低級アルキルエステルが複数混合して留出することもあるが、その際には、炭素数の平均値が、前段側から後段側になるにしたがって、より大きくなるようになっていればよい。
【0041】
このように減圧蒸留工程を2段以上で行うことによって、より高純度の脂肪酸低級アルキルエステルを得ることができる。すなわち、油相には、炭素数が異なる脂肪酸低級アルキルエステルが複数存在し、これらは一般的に沸点も異なる。よって、例えば、減圧蒸留工程を1段で実施し、その際、油相の主成分である高炭素数側の脂肪酸低級アルキルエステルの蒸留に好適な蒸留条件を設定したとすると、蒸留中に、マイナー成分である低炭素数側の脂肪酸低級アルキルエステルが突沸し、その結果、蒸留塔の塔底に残留するモノグリセライドが留出液に同伴されやすくなり、得られる高炭素数側の脂肪酸低級アルキルエステルの純度や性状が低下してしまう。その点、減圧蒸留工程を2段以上で行うと、炭素数に応じた最適な蒸留条件を各工程で設定できるため、得られる脂肪酸低級アルキルエステルは高純度なものとなる。各減圧蒸留工程で得られた脂肪酸低級アルキルエステルは、最終的には混合され、軽油代替燃料として使用することができる。
【0042】
例えば、原料が炭素数16、18の脂肪酸に由来する油脂を主成分とするパーム油の場合には、まず、第1の減圧蒸留工程で、図1のように、この主成分よりも低炭素数側の脂肪酸低級アルキルエステル(炭素数12、14の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステル)を含む留出液を得て、ついで第2の減圧蒸留工程で、炭素数16、18の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルを含む留出液を得る方法(方法(1))が好ましい。
または、第1の減圧蒸留工程で、炭素数12、14の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルとともに、炭素数16の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルの一部も含む留出液を得て、ついで第2の減圧蒸留工程で、残りの炭素数16の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステル脂肪酸と、炭素数18の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルを含む留出液を得る方法(方法(2))や、第1の減圧蒸留工程で、炭素数12、14、16の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルを含む留出液を得て、ついで第2の減圧蒸留工程で、炭素数18の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルを含む留出液を得る方法(方法(3))が好ましい。
【0043】
この場合、第1の減圧蒸留工程は、上記方法(1)の場合には、蒸留塔のトップ圧力を1〜3kPa、トップ温度を178〜190℃とし、還流比を10〜15とすることが好ましく、上記方法(2)または(3)の場合には、蒸留塔のトップ圧力を0.6〜2.5kPa、トップ温度を183〜206℃とし、還流比を0〜2とすることが好ましい。
また、最後段の減圧蒸留工程である第2の減圧蒸留工程の条件は、上記方法(1)〜(3)のいずれの場合でも適宜設定できるが、(i)蒸留塔のトップ圧力を0.1〜1kPa、好ましくは0.2〜0.5kPa、ボトム圧力を2〜5kPa、好ましくは3〜4kPaとし、(ii)蒸留塔のトップ温度を150〜200℃、好ましくは160〜180℃、ボトム温度を190〜220℃、好ましくは 200〜210℃とし、(iii)還流比を0〜1、好ましくは0〜0.5とし、蒸発率を95〜99%、好ましくは95〜98%とすることにより、留出液中のグリセライドの含有量を0.1質量%以下に制御することも可能となり、より高純度の脂肪酸低級アルキルエステルを得ることができる。
ここで還流比とは、還流量の留出量に対する比であって、蒸発率とは仕込み(供給)液量に対する留出量の比率を(%)で示したものである。
また、トップ温度およびトップ圧力、ボトム温度およびボトム圧力とは、蒸留塔のトップ、ボトムでそれぞれ測定された温度と圧力のことであり、トップは留出液が出る塔頂部分、ボトムは残留物が溜まる塔底部分である。
【0044】
また、上記方法(2)および(3)では、炭素数16の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルの少なくとも一部を第1の減圧蒸留工程で留出させている。これは、炭素数16の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルは融点が高く、低温で結晶化しやすいものであるため、これが多く存在する液はその流動性が低下する傾向があるためである。あらかじめ、このように第1の減圧蒸留工程でその少なくとも一部を留出させることによって、第2の減圧蒸留工程での液の流動性が改善され、蒸留を円滑に行うことができるとともに、第2の減圧蒸留工程で得られる留出液の取扱性も優れる。第1の減圧蒸留工程では、炭素数16の脂肪酸に由来する脂肪酸低級アルキルエステルのうち、50〜100質量%を留出させることが好ましい。
【0045】
[リサイクル工程(R)]
リサイクル工程(R)は、エステル交換工程(C)で副生したグリセリン相中のセッケンを酸で分解して脂肪酸とし、この脂肪酸をエステル化工程(B)または該エステル化工程(B)よりも前段側の工程に返送する工程である。
エステル交換工程(C)で副生したセッケンは、品質が悪いため、そのままセッケンとして使用することは困難であるが、このようなリサイクル工程(R)により脂肪酸とし、原料として再利用することで、製造歩留まりを高めることができる。
なお、上記グリセリン相中には、グリセリン、セッケンの他、通常、アルコール(図示例ではメタノール)、アルカリ触媒、水などが存在している。
【0046】
リサイクル工程(R)を行う具体的方法としては、グリセリン相から低級アルキルアルコールを分離除去せずに酸を添加する方法が好ましい。
具体的には、まず、エステル交換工程(C)で生成したグリセリン相から低級アルキルアルコールを分離除去せずに、そのままのグリセリン相に酸を添加し、好ましくはpH2〜5、より好ましくはpH3〜4とする。そして、好ましくは10〜70℃、より好ましくは40〜60℃の温度条件下、好ましくは30〜360分間、より好ましくは60〜120分間、これを撹拌混合し、脂肪酸を含む混合物を生成させる。
このとき、pHが2未満であると装置が腐食する可能性があり、5を超えると分解が困難となる傾向にある。温度が10〜70℃であると、装置の耐圧性を高くする必要もなく、充分な速度で分解が進行する。撹拌混合時間が30〜360分間であると、装置を大型化することなく、充分な分解率を達成することができる。
このようにグリセリン相から低級アルキルアルコールを分離除去せずに酸を添加する方法によれば、低温かつ短時間で酸分解を実施できる。
【0047】
セッケンの分解に用いる酸としては、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸などが使用でき、特に、セッケンの分解により得られる脂肪酸と副生物との分離性に優れることから、硫酸が好ましい。
すなわち、脂肪酸は再利用されるものであるため、できるだけ不純物を含有していないことが求められる。
酸として硫酸を使用し、かつ、上述のエステル交換工程(C)でアルカリ触媒として水酸化ナトリウムを使用した場合には、脂肪酸とともに、硫酸ナトリウムが副生するが、こうして副生した硫酸ナトリウムは、分離性に優れるため、脂肪酸への混入が少ない。
一方、例えば酸として塩酸を使用し、かつ、上述のエステル交換工程(C)でアルカリ触媒として水酸化ナトリウムを使用した場合には、脂肪酸とともに、塩化ナトリウムが副生するが、塩化ナトリウムは、分離性が悪いために脂肪酸へ混入しやすい。
よって、酸として硫酸を使用することが好ましい。
【0048】
セッケンを酸で分解して得られる分解物中には、脂肪酸のほか、硫酸ナトリウム等の副生物や、グリセリン相中に含まれていたアルコール、グリセリン、水等が含まれている。そのため、該分解物について、まず、硫酸ナトリウム等の副生物を遠心分離などで除去し、ついで、一部のアルコールやグリセリン、水を除去する。そして、これらが除去された混合物に水を添加して、脂肪酸を主成分とする相と、水、アルコール、グリセリンを含む相とに分離する。そして、脂肪酸を主成分とする相を回収する。
上述のようにして回収された脂肪酸は、エステル化工程(B)または該エステル化工程(B)よりも前段側の工程に返送する。エステル化工程(B)よりも前段側の工程に返送する場合、その返送位置として具体的には、脱ガム工程(A)や、脱ガム工程(A)に供給する原料(粗パーム油)が貯蔵された原料貯蔵タンクが例示できる。
一方、水、低級アルキルアルコール、グリセリンを含む相については、通常、120〜200℃でのフラッシュ蒸留により水、低級アルキルアルコールを留除し、粗グリセリンを残留物として得る。また、フラッシュ蒸留で留出した水、低級アルキルアルコールは、ついで、低級アルキルアルコール精留塔に導入し、60〜120℃で操作し、低級アルキルアルコールを留出液として回収するとともに、廃水を残留物として除去する。
なお、エステル交換工程(C)を2段以上で行った場合、各段の終了ごとにグリセリン相を分離回収して、これらを全てこのリサイクル工程(R)に供することが好ましい。
【0049】
以上説明したような製造方法によれば、脱ガム工程(A)後の脱ガム物中のリン酸分が低減されるため、エステル交換工程(C)でのリン酸塩の形成が抑制され、エステル交換反応装置でのリン酸塩の付着を防止できる。そのため、エステル交換反応装置の攪拌機の損傷や停止を防止できる。
したがって、本発明の製造方法によれば、脂肪酸低級アルキルエステルの製造を工業的に安定に実施できる。また、得られる脂肪酸低級アルキルエステルの収率、品質等も向上する。
【0050】
上述のようにして得られた脂肪酸低級アルキルエステルは、例えば、自動車、船舶、農業機械、建設機械、発電、暖房などのあらゆる用途の軽油代替燃料として好適に使用できる。また、必要に応じて、他の脂肪酸アルキルエステルや軽油などと混合して使用してもよい。
また、洗浄剤組成物等に用いられるスルホ脂肪酸エステルや、脂肪酸アルキロールアマイド、脂肪酸ニトリル化合物等の製品の中間原料として用いることもできる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
下記の各例において、特に断りの限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
また、各例中、水分含有量の測定はカールフィッシャー法に準拠して行った。
【0052】
<実施例1>
以下の工程により、原料としてマレーシア産の粗パーム油を用い、これから脂肪酸メチルエステルを製造した。
この粗パーム油は、油脂として、炭素数12の成分を0.3%、炭素数14の成分を1.0%、炭素数16の成分を44.0%、炭素数18の成分を53.8質量%、炭素数20の成分を0.9質量%含有し、さらに、遊離脂肪酸を3.74%、ガム質を0.5%含有していた。また、水分含有量は0.05%、酸価は8.2、過酸化物価は2m equivalent/kgであった。
【0053】
(1)脱ガム工程(A)
マレーシア産粗パーム油100部を60℃に加熱し、27%リン酸水溶液0.207質量部とパーライト(トプコパーライト#38、東興パーライト工業株式会社、平均粒子径36μm)0.4部とを添加して20分間混合した。これをフィルター式濾過機(濾過面積25m、温度60℃)に移送しプレコート相を形成した。
新たに粗パーム油100部を60℃に加熱して27%リン酸0.207部とパーライトを0.05部とを添加して10分間混合した。これを、プレコート相を形成したフィルター式濾過機でろ過し、脱ガム物を得た。脱ガム物の水分は0.13%であった。
【0054】
(2)エステル化工程(B)
続いて、脱ガム物100部にメタノール20部を添加した混合物を、強酸性陽イオン交換樹脂(SK104H、三菱化学株式会社製、架橋度4%)が充填された塔に、65℃、滞留時間120分で通液して反応混合物を得た。
反応混合物中、エステル混合油(油脂と脂肪酸メチルエステルとの混合油)の割合は84%であった。また、エステル混合油の酸価は0.56であった。
【0055】
(3)エステル交換工程(C)
(a)1段目
エステル化工程(B)で得られた反応混合物100部に対してメタノール15部、水酸化ナトリウム0.24部を添加し、撹拌機付き多段連続式反応装置(段数10段、温度70℃、滞留時間60分)を用いて油脂のエステル交換反応を行った。これにより、脂肪酸メチルエステルを主成分とする油相と、グリセリン相とを生成させ、40℃で60分間静置した後、油相とグリセリン相に分離した。油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は96.3%であった。
(b)2段目
次いで、得られた油相100部に対してメタノール5部、水酸化ナトリウム0.1部を添加し、60℃で5分間エステル交換反応を行った。得られた混合物100部に対して水14質量部を添加し、5分間攪拌を行った後、40℃で60分間静置した。その後、これを油相と水相に分離した。油相中の脂肪酸メチルエステル濃度は99.1%であった。
【0056】
(4)蒸留工程
エステル交換工程(C)で得られた油相に対して150℃の常圧でフラッシュ蒸留を行い、メタノールと水とを留出液として除去した。次いで、フラッシュ蒸留の残留物に対して第1の減圧蒸留(蒸留塔のトップ温度190℃、トップ圧力2.0kPa)を行い、炭素数12、14の脂肪酸に由来する脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出液を得た。次いで、第1の減圧蒸留の残留物に対して第2の減圧蒸留(蒸留塔のトップ圧力0.5kPa、ボトム圧力3.0kPa、トップ温度170℃、ボトム温度210℃、還流比0.5)を行って、炭素数16、18の脂肪酸に由来する脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出液を得た。
【0057】
<実施例2>
(1)脱ガム工程(A)
粗パーム油100部に対し16%リン酸水溶液を0.356部添加した以外は実施例1(1)と同様にして脱ガム物(水分0.18%)を得た。
(2)エステル化工程(B)
実施例1(2)と同様にしてエステル混合油(酸価0.71)を含む反応混合物を得た。
(3)エステル交換工程(C)
エステル混合油85%を含有する反応混合物に対してメタノールと水酸化ナトリウムを添加した。メタノールの添加量は反応混合物100部に対して15部であり、水酸化ナトリウムの添加量はエステル混合油100部に対し0.25部とした。これを実施例1(3)と同様に1段目のエステル交換反応を行い、96.1%の脂肪酸メチルエステルを含む油相を得た。次いで、実施例1(3)と同様に2段目のエステル交換反応を行い、99.2%の脂肪酸メチルエステルを含む油相を得た。
(4)蒸留工程(D)
上記(3)で得られた油相に対して実施例1(4)と同様にして蒸留を行い、脂肪酸メチルエステルを得た。
【0058】
<実施例3>
(1)脱ガム工程(A)
粗パーム油100部に対し17%リン酸水溶液を0.240部添加した以外は実施例1(1)と同様にして脱ガム物(水分0.15%)を得た。
(2)エステル化工程(B)
実施例1(2)と同様にしてエステル混合油(酸価0.60)を含む反応混合物を得た。
(3)エステル交換工程(C)
エステル混合油85%を含有する反応混合物に対してメタノールと水酸化ナトリウムを添加した。メタノールの添加量は反応混合物100部に対して15部であり、水酸化ナトリウムの添加量はエステル混合油100部に対し0.24部とした。これを実施例1(3)と同様に1段目のエステル交換反応を行い、95.5%の脂肪酸メチルエステルを含む油相を得た。次いで、実施例1(3)と同様に2段目のエステル交換反応を行い、99.1%の脂肪酸メチルエステルを含む油相を得た。
(4)蒸留工程(D)
上記(3)で得られた油相に対して実施例1(4)と同様にして蒸留を行い、脂肪酸メチルエステルを得た。
【0059】
<実施例4>
(1)リサイクル工程(R)
実施例3のエステル交換工程(C)の1段目のエステル交換反応で得られたグリセリン相と2段目のエステル交換反応で得られた水相とを混合し、この混合液に対して90%硫酸を添加してpH3とし、60℃で60分間攪拌混合した。ついで、この混合物から生成した硫酸ナトリウムを遠心分離機で除去した後、脂肪酸相と水、メタノール、グリセリンを含む水相とに分離した。
こうして得られた脂肪酸相を粗パーム油100部に対し5部返送、混合した。
(2)脱ガム工程(A)
上記(1)リサイクル工程(R)で得られた脂肪酸相と粗パーム油との混合物(酸価11.6、水分0.09%)100部に対し17%リン酸水溶液を0.240部添加した以外は実施例3(1)と同様にして脱ガム物(水分0.18%)を得た。
(3)エステル化工程(B)
実施例1(2)と同様にしてエステル混合油(酸価0.65)を含む反応混合物を得た。
(4)エステル交換工程(C)
エステル混合油85%を含有する反応混合物に対してメタノールと水酸化ナトリウムを添加した。メタノールの添加量は反応混合物100部に対して15部であり、水酸化ナトリウムの添加量はエステル混合油100部に対し0.25部とした。これを実施例1(3)と同様に1段目のエステル交換反応を行い、95.2%の脂肪酸メチルエステルを含む油相を得た。次いで、実施例1(3)と同様に2段目のエステル交換反応を行い、99.1%の脂肪酸メチルエステルを含む油相を得た。
(5)蒸留工程(D)
上記(4)で得られた油相に対して実施例1(4)と同様にして蒸留を行い、脂肪酸メチルエステルを得た。
【0060】
<実施例5>
(1)脱ガム工程(A)
パーライトの代わりにケイソウ土(ラヂオライト#500、昭和化学工業株式会社、平均粒径34.8μm)を用いた以外は実施例1(1)と同様にして脱ガム物(水分0.16%)を得た。
(2)エステル化工程(B)
実施例1(2)と同様にしてエステル混合油(酸価0.55)を含む反応混合物を得た。
(3)エステル交換工程(C)
エステル混合油85%を含有する反応混合物に対してメタノールと水酸化ナトリウムを添加した。メタノールの添加量は反応混合物100部に対して15部であり、水酸化ナトリウムの添加量はエステル混合油100部に対し0.24部とした。これを実施例1(3)と同様に1段目のエステル交換反応を行い、95.1%の脂肪酸メチルエステルを含む油相を得た。次いで、実施例1(3)と同様に2段目のエステル交換反応を行い、99.0%の脂肪酸メチルエステルを含む油相を得た。
(4)蒸留工程(D)
上記(3)で得られた油相に対して実施例1(4)と同様にして蒸留を行い、脂肪酸メチルエステルを得た。
【0061】
<比較例1>
(1)脱ガム工程(A)
粗パーム油100部に対し75%リン酸水溶液を0.075部添加した以外は実施例1(1)と同様にして脱ガム油(水分0.06%)を得た。
(2)エステル化工程(B)
実施例1(2)と同様にしてエステル混合油(酸価0.50)を含む反応混合物を得た。
(3)エステル交換工程(C)
エステル混合油85%を含有する反応混合物に対してメタノールと水酸化ナトリウムを添加した。メタノールの添加量は反応混合物100部に対して15部であり、水酸化ナトリウムの添加量はエステル混合油100部に対し0.24部とした。これを実施例1(3)と同様に1段目のエステル交換反応を行い、95.3%の脂肪酸メチルエステルを含む油相を得た。次いで、実施例1(3)と同様に2段目のエステル交換反応を行い、99.3%の脂肪酸メチルエステルを含む油相を得た。
(4)蒸留工程(D)
上記(3)で得られた油相に対して実施例1(4)と同様にして蒸留を行い、脂肪酸メチルエステルを得た。
【0062】
<比較例2>
脱ガム工程において、粗パーム油100部に対し12%リン酸水溶液を0.456部添加した以外は実施例1と同様にして脱ガム工程を行った。
しかし、ろ過圧力が高くなりすぎたため、以降の工程を行うことができなかった。
【0063】
上記各実施例1〜5および比較例1〜2における脱ガム工程の実施条件のうち、原油(粗パーム油)が元々含んでいた水分量(原油の水分含有量)、原油に添加したリン酸水溶液の濃度、添加したリン酸の量(対原油。以下、添加リン酸量という。)、および添加した水の量(対原油。以下、添加水分量という。)を表1に示す。
また、上記各実施例1〜5および比較例1〜2において、以下の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0064】
[ろ過性]
脱ガム工程において、ろ過時の圧力を圧力計で測定し、下記判定基準で評価した。
(判定基準)
○:0.25(MPa)未満。
×:0.25(MPa)以上。
【0065】
[脱ガム物中のリン酸分]
脱ガム工程で得られた脱ガム物中の無機リンの量を、S.H.Goh,S.L.Tong and P.T.Gee,J.Am.Oil Chem.Soc.,61,1601(1984)記載の方法を用いて測定し、その値をリン酸分に換算した。
【0066】
[エステル交換反応槽でのリン酸ナトリウム付着]
脂肪酸メチルエステルの製造を連続的に実施し、開始から1週間後および1ヶ月後に、油脂エステル交換工程で使用した撹拌機付き多段連続式反応装置の最下段の攪拌機について、当該攪拌機に対する負荷電流値を測定し、その測定値から、下記の判定基準でリン酸ナトリウムの付着度合いを評価した。
(判定基準)
○:8(A)未満。
×:8(A)以上。
【0067】
【表1】

【0068】
上記結果に示すとおり、脱ガム工程で水を0.15〜0.3質量%添加した実施例1〜5は、脱ガム物中のリン酸分が33ppm以下に低減されており、攪拌機へのリン酸ナトリウムの付着も少なかった。また、ろ過性も良好であった。
一方、添加水分量が0.019質量%の比較例1は、添加リン酸量が実施例1〜2、5と同じであるにもかかわらず、脱ガム物中のリン酸分が多かった。また、1ヶ月運転後の攪拌機へのリン酸ナトリウムの付着も顕著であった。
また、添加水分量が0.40質量%の比較例2は、上述したように、ろ過圧力が高すぎるため、以降の工程を行うことができなかった。
【0069】
上記結果から、脱ガム工程において、原油に対して水を0.15〜0.3質量%添加することにより、良好なろ過性を維持しつつ、脱ガム物中のリン酸分を大幅に低減できることが確認された。また、これにより、エステル交換反応装置の攪拌機への負荷を低減できることが確認された。
したがって、本発明によれば、長期運転における攪拌機損傷の防止およびメンテナンス頻度の低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の製造方法の一例を示す概略工程図である。
【図2】リサイクル工程(R)の一例を示す概略工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗パーム油からガム質を除去する脱ガム工程(A)と、
前記脱ガム工程(A)で得た脱ガム物中の脂肪酸を、カチオン交換樹脂を使用して、低級アルキルアルコールでエステル化し、エステル混合油を含む反応混合物を得るエステル化工程(B)と、
前記エステル混合油中の油脂を、アルカリ触媒を使用し、低級アルキルアルコールでエステル交換するエステル交換工程(C)と、
前記エステル交換工程(C)で得た油相の減圧蒸留を行う蒸留工程(D)とを含む脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法であって、
前記脱ガム工程(A)にて、前記粗パーム油と、リン酸と、前記粗パーム油に対して0.15〜0.3質量%の水と、ろ過助剤とを混合し、得られた混合物をろ過することで前記ガム質を除去することを特徴とする脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法。
【請求項2】
さらに、前記エステル交換工程(C)で副生するセッケンを酸で分解し、生成した脂肪酸を、前記エステル化工程(B)または該エステル化工程(B)よりも前段側の工程に返送するリサイクル工程(R)を含む請求項1に記載の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−114305(P2009−114305A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288319(P2007−288319)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】