説明

脂質キャリアおよびその製造方法

【課題】高血清耐性、高被覆効率および高トランフェクション効率を有する脂質キャリアおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】該脂質キャリアは、カチオン性脂質、コレステロール、中性リン脂質、および中性脂質からなる脂質ベース粒子を有する脂質ベース粒子を含み、このうち、前記カチオン性脂質が100重量部、前記コレステロールが25〜100重量部、前記中性リン脂質が25〜100重量部、前記中性脂質が25〜150重量部含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質キャリア(lipid carrier)に関し、より詳細にはpH感受性および血清耐性(serum-resistant)を備える脂質キャリアおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療は注目の高まっている治療法であり、遺伝性または後天性疾患、例えば原発性免疫不全や癌治療においてとりわけ重要視されている。過去15年のあいだに遺伝子治療は体外実験(in vitro)から、生体内実験(in vivo)を経て人体での臨床実験へと突入した。遺伝子治療の臨床実験は現段階でフェーズ1または2にとどまってはいるものの、期待できる治療法であることは明らかである。遺伝子薬を運ぶキャリアは、一般にウィルス性キャリアと非ウィルス性キャリアの2種に分けられており、現在、遺伝子治療臨床実験の85%がウィルス性キャリアを用いて行われている。
【0003】
ところが、1999年9月ペンシルバニア医薬センターで、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症(OTC)の十代の少年が遺伝子治療を受けている期間中に死亡するという事件が起こり、翌年の2月、食品医薬品局(FDA)は、米国での一切の遺伝子治療臨床実験を停止した。また、2002年9月、フランスでは、X連鎖重症複合型免疫不全症(X−SCID)患児への遺伝子治療施行後に白血病が発症した例が出た。そして不幸にも、2003年に同様の臨床試験によって第2の白血病発症例が発生している。これら有害事象は、遺伝子治療の発展に大きな打撃を与えたが、その原因を突き止めたところ、使用したウィルス性キャリアによる免疫原性および毒性がその主な毒性因子であることがわかった。よって、非ウィルス性の遺伝子トランスフェクションシステム開発が遺伝子治療の成否を握る鍵となったのである。目下のところ、非ウィルス性キャリアには、脂質ベースのキャリアとポリマーベースのキャリアがあるが、本明細書では主に脂質キャリアについて述べる。
【0004】
カチオン性脂質キャリアは最も一般的に使用されているキャリアであり、非ウィルス性キャリアの中で最高のトランスフェクション効率を示す。現在、数種の入手可能なin vitro試薬があり、例えばライフテクノロジーズ社(Life Technologies)製のリポフェクチン(Lipofectin(登録商標))およびリポフェクタミン(Lipofectamine、登録商標)などは、主に遺伝子および蛋白質の研究に利用されている。カチオン性脂質キャリアは、トランスフェクション効率が高いことに加え、エンドソーム破壊(Endosomolysis)効果を有し、かつ生体親和性に優れるといった長所を備えている。しかし、通常、カチオン性脂質とDNAの複合体は直径500nmを上回り、かつ血清中にて不安定である。このため、かかる複合体は主に生体外研究または局注にのみ使用されている。
【0005】
臨床実験まで進んだ最初の脂質キャリアは、リーフ ホアン(Leaf Huang)博士により開発されたDC−リポソームであり、これは局注による乳癌治療に用いられるものである。現在、このDC−リポソームの臨床試験はフェーズ2の段階にある。
【0006】
カチオン性脂質キャリアとDNAの複合体の過大な粒径を縮小するため、リーフ・ホアン博士は、例えばプロタミンまたはポリリシンであるカチオン性ペプチドを加えることで粒径を小さくすると共にトランスフェクション効率を高めることのできるLPDと呼ばれる新規の遺伝子トランスフェクションシステムを開発したが、このLPD複合体は、キャリア表面が正に帯電するため、血清中でなおも不安定であった。
【0007】
カチオン性のキャリアに起因して血清中で不安定となりかつ毒性が生じるという問題を回避すべく、ティー エム アレン(T.M. Allen)とS.C.センプル(S.C. Semple)らは、電気的に中性なリポソームでDNAを封じ込めることによりキャリアと蛋白質の非特異的な作用を低減させ、血清耐性を強化することに成功した。さらに彼らは、中性のリポソームが、DNAの半減期を約8〜24時間延長させ(DNA自身の半減期は30分にも満たない)、かつ、DNAを腫瘍部位に運搬できることも発見した。しかし、このキャリアは、カチオン性キャリアと細胞間におけるような相互作用に欠けるため、細胞へ進入し難く、トランスフェクション効率が低いものであった。この問題への解決策として、標的リガンド(target ligand)を利用し、これを細胞の表面における特定のレセプターに結合させることによりエンドサイトーシスを促して、DNAのトランスフェクション効率を高めるといった手法がとられている。
【0008】
脂質キャリアを用いた臨床実験は、ほとんどが現時点で依然フェーズ2に止まっており、上述したような例えばキャリアの血清における不安定性や毒性の問題がその更なる進展を阻んでいる。したがって、高血清耐性、高被覆効率および高トランフェクション効率を有する脂質ベースキャリアが求められる。
【0009】
【特許文献1】国際公開第99/25385号パンフレット
【特許文献2】米国特許第6743779号明細書
【特許文献3】米国特許第6630351号明細書
【特許文献4】米国特許第5965434号明細書
【特許文献5】米国特許第5837533号明細書
【特許文献6】米国特許第5786214号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述に鑑みて、本発明の目的は、高血清耐性、高被覆効率および高トランフェクション効率を有する脂質キャリアおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、カチオン性脂質、コレステロール、中性リン脂質、および中性脂質を有する脂質ベース粒子を含み、このうち、前記カチオン性脂質が約100重量部、前記コレステロールが約25〜100重量部、前記中性リン脂質が約25〜100重量部、前記中性脂質が約25〜150重量部含まれる脂質キャリアに関する。
【0012】
前記カチオン性脂質が、1,2−ジオレオイルオキシ−3−(トリメチルアミノ)プロパン(1,2-dioleoyloxy-3-(trimethylamino)propane= DOTAP)、N−[1−(2,3−ジテトラデシルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(N-[1-(2,3-ditetradecyloxy)propyl]-N,N-dimethyl-N-hydroxyethylammonium bromide = DMRIE)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(N-[1-(2,3-dioleyloxy)propyl]-N,N- dimethyl-N- hydroxyethylammonium bromide = DORIE)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(N-[1-(2,3-dioleyloxy)propyl]- N,N,N-trimethylammonium chloride = DOTMA)、3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバミル]コレステロール(3β−[N−(N',N'-dimethylaminoethane)carbamyl] cholesterol = DC-Chol)、またはジメチルジオクタデシルアンモニウム(dimethyldioctadecylammonium = DDAB)を含むことが好ましい。
【0013】
前記中性リン脂質が、ホスファチジルコリン(phosphatidyl choline = PC)またはホスファチジルエタノールアミン(phosphatidyl ethanolamine = PE)を含むことが好ましい。
【0014】
前記ホスファチジルコリンが、水素化大豆ホスファチジルコリン(hydrogenated soy phosphatidyl choline = HSPC)を含むことが好ましい。
【0015】
前記中性脂質が、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−ポリエチレングリコール(distearoylphosphatidylethanolamine-polyethyleneglycol = DSPE−PEG)を含むことが好ましい。
【0016】
前記カチオン性脂質が約100重量部、前記コレステロールが約50重量部、前記中性リン脂質が約50重量部、前記中性脂質が約65重量部であることが好ましい。
【0017】
前記脂質ベース粒子に被覆される薬物をさらに含むことが好ましい。
【0018】
前記薬物には、核酸医薬、蛋白薬、ペプチド薬または合成薬が含まれることが好ましい。
【0019】
前記核酸医薬には、プラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはRNAiが含まれることが好ましい。
【0020】
前記薬物と前記カチオン性脂質との重量比が約1:4〜1:12であることが好ましい。
【0021】
前記薬物と前記カチオン性脂質との重量比が約1:6であることが好ましい。
【0022】
前記脂質ベース粒子の直径が約35〜95nmであることが好ましい。
【0023】
前記脂質ベース粒子のゼータ電位が約−10〜10mVであることが好ましい。
【0024】
前記脂質ベース粒子の被覆効率が約85〜100%であることが好ましい。
【0025】
pH4〜5における前記脂質キャリアの薬物放出率が約60〜70%であることが好ましい。
【0026】
血清中の前記脂質キャリアの活性が約60〜100%であることが好ましい。
【0027】
前記脂質ベース粒子の表面にグラフトされたリガンドをさらに含むことが好ましい。
【0028】
前記リガンドは対象の標的細胞を認識することが好ましい。
【0029】
前記リガンドを持つ前記脂質キャリアのトランスフェクション効率が、リガンドを持たない脂質キャリアの10倍を超えることが好ましい。
【0030】
また、本発明は、カチオン性脂質、コレステロール、中性リン脂質、中性脂質、エタノール、および水を、前記カチオン性脂質を約100重量部、前記コレステロールを約25〜100重量部、前記中性リン脂質を約25〜100重量部、前記中性脂質を約25〜150重量部として混合して脂質溶液を作る工程と、前記脂質溶液に薬物含有溶液を加えて、前記薬物を被覆した複数の脂質ベース粒子を含む溶液を作る工程と、前記溶液を加熱して脂質キャリアを作る工程とを含む脂質キャリアの製造方法に関する。
【0031】
前記カチオン性脂質が、1,2−ジオレオイルオキシ−3−(トリメチルアミノ)プロパン(1,2-dioleoyloxy-3-(trimethylamino)propane = DOTAP)、N−[1−(2,3−ジテトラデシルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(N-[1-(2,3-ditetradecyloxy)propyl]-N,N-dimethyl-N-hydroxyethylammonium bromide = DMRIE)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(N-[1-(2,3-dioleyloxy)propyl]-N,N- dimethyl-N- hydroxyethylammonium bromide = DORIE)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(N-[1-(2,3-dioleyloxy)propyl]- N,N,N-trimethylammonium chloride = DOTMA)、3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバミル]コレステロール(3β-[N-(N',N'-dimethylaminoethane)carbamyl] cholesterol = DC−Chol)、またはジメチルジオクタデシルアンモニウム(dimethyldioctadecylammonium = DDAB)を含むことが好ましい。
【0032】
前記中性リン脂質が、ホスファチジルコリン(phosphatidyl choline = PC)またはホスファチジルエタノールアミン(phosphatidyl ethanolamine = PE)を含むことが好ましい。
【0033】
前記ホスファチジルコリンが、水素化大豆ホスファチジルコリン(hydrogenated soy phosphatidyl choline = HSPC)を含むことが好ましい。
【0034】
前記中性脂質が、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−ポリエチレングリコール(distearoylphosphatidylethanolamine-polyethyleneglycol = DSPE−PEG)を含むことが好ましい。
【0035】
前記カチオン性脂質を約100重量部、前記コレステロールを約50重量部、前記中性リン脂質を約50重量部、前記中性脂質を約65重量部とすることが好ましい。
【0036】
前記エタノールと前記水との体積比が約3:7〜5:5であることが好ましい。
【0037】
前記エタノールと前記水との体積比が約4:6であることが好ましい。
【0038】
前記薬物には、核酸医薬、蛋白薬、ペプチド薬または合成薬が含まれることが好ましい。
【0039】
前記核酸医薬には、プラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはRNAiが含まれることが好ましい。
【0040】
前記薬物と前記カチオン性脂質との重量比が約1:4〜1:12であることが好ましい。
【0041】
前記薬物と前記カチオン性脂質との重量比が約1:6であることが好ましい。
【0042】
前記溶液を約50〜70℃に加熱することが好ましい。
【0043】
前記溶液を約65℃に加熱することが好ましい。
【0044】
前記脂質ベース粒子の直径が約35〜95nmであることが好ましい。
【0045】
前記脂質ベース粒子のゼータ電位が約−10〜10mVであることが好ましい。
【0046】
前記脂質ベース粒子の被覆効率が約85〜100%であることが好ましい。
【0047】
pH4〜5における前記脂質キャリアの薬物放出率が約60〜70%であることが好ましい。
【0048】
血清中における前記脂質キャリアの活性が約60〜100%であることが好ましい。
【0049】
前記脂質ベース粒子の表面にグラフトされたリガンドをさらに含むことが好ましい。
【0050】
前記リガンドは対象の標的細胞を認識することが好ましい。
【0051】
前記リガンドを持つ前記脂質キャリアのトランスフェクション効率が、リガンドを持たない脂質キャリアの10倍を超えることが好ましい。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、特定のキャリア組成の割合、エタノール/水の割合、薬物/カチオン性脂質の割合、および加熱条件により均一な粒径、高被覆効率、および高血清耐性を持った脂質ベース粒子を得ることができる。さらに、かかる脂質ベース粒子を含む本発明の脂質キャリアは、そのpH感受性のために、pH4〜5下で薬物を放出し得るため、遺伝子のトランスフェクション効率の飛躍的な向上も図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
本発明の提供する脂質キャリアは、カチオン性脂質、コレステロール、中性リン脂質、および中性脂質を有する脂質ベース粒子を含み、このうち、カチオン性脂質が約100重量部、コレステロールが約25〜100重量部、中性リン脂質が約25〜100重量部、中性脂質が約25〜150重量部含まれる。
【0054】
また、本発明の提供する脂質キャリアの製造方法は次の工程を含む。先ず、カチオン性脂質、コレステロール、中性リン脂質、中性脂質、エタノールおよび水を混合して脂質溶液を作る。この際、カチオン性脂質を約100重量部、コレステロールを約25〜100重量部、中性リン脂質を約25〜100重量部、中性脂質を約25〜150重量部とする。次に、薬物を含有した溶液をその脂質溶液中に加えて、該薬物を被覆した複数の脂質粒子を含む懸濁液を作る。最後に、その懸濁液を加熱して、脂質ベースキャリアを作る。
【0055】
以下に、添付の図面と対応させながら、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
【0056】
本発明は、カチオン性脂質、コレステロール、中性リン脂質、および中性脂質を有する脂質ベース粒子を含む脂質キャリアを提供するものである。このうち、カチオン性脂質は約100重量部、コレステロールは約25〜100重量部、中性リン脂質は約25〜100重量部、中性脂質は約25〜150重量部含まれる。
【0057】
カチオン性脂質としては、1,2−ジオレオイルオキシ−3−(トリメチルアミノ)プロパン(1,2-dioleoyloxy-3-(trimethylamino)propane = DOTAP)、N−[1−(2,3−ジテトラデシルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(N-[1-(2,3-ditetradecyloxy)propyl]-N,N-dimethyl-N-hydroxyethylammonium bromide = DMRIE)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(N-[1-(2,3-dioleyloxy)propyl]-N,N- dimethyl-N- hydroxyethylammonium bromide = DORIE)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(N-[1-(2,3-dioleyloxy)propyl]-N,N,N-trimethylammonium chloride = DOTMA)、3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバミル]コレステロール(3β-[N-(N',N'-dimethylaminoethane)carbamyl] cholesterol = DC−Chol)、またはジメチルジオクタデシルアンモニウム(dimethyldioctadecylammonium = DDAB)を挙げることができ、このうちでもDOTAPが好ましい。
【0058】
中性リン脂質としては、ホスファチジルコリン(phosphatidyl choline = PC)またはホスファチジルエタノールアミン(phosphatidyl ethanolamine = PE)を挙げることができる。ホスファチジルコリンは、水素化大豆ホスファチジルコリン(hydrogenated soy phosphatidyl choline =HSPC)であり得る。中性脂質としては、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−ポリエチレングリコール(distearoylphosphatidylethanolamine-polyethyleneglycol = DSPE−PEG)を挙げることができる。
【0059】
脂質ベース粒子は、カチオン性脂質約100重量部、コレステロール約50重量部、中性リン脂質約50重量部、中性脂質約65重量部からなる組成とするのが好ましい。
【0060】
脂質ベース粒子は、薬物をその中に包み込んで運搬するトランスフェクションキャリアとなり得る。この薬物には、核酸医薬、蛋白薬、ペプチド薬、または合成薬が含まれる。さらに、核酸医薬には、プラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、およびRNAiが含まれる。キャリアの組成中、薬物とカチオン性脂質の重量比は約1:4〜1:12とし、好ましくは1:6とする。
【0061】
脂質ベース粒子は、粒径が約35〜95nm、ゼータ電位が約−10〜10mV、被覆効率が約85〜100%、pH4〜5における薬物放出率が約60〜70%であり、血清中で約60〜100%の活性を保つ。
【0062】
さらに、脂質ベース粒子の表面にリガンドを結合させて、標的細胞のレセプターを認識できるようにしてもよい。リガンドを持つ脂質キャリアのトランスフェクション効率は、リガンドを持たない脂質キャリアの10倍を超える。
【0063】
また、本発明は、脂質キャリアの製造方法も提供する。当該製造方法では、先ず、カチオン性脂質、コレステロール、中性リン脂質、中性脂質、エタノールおよび水を混合して脂質溶液を作る。この際、カチオン性脂質を約100重量部、コレステロールを約25〜100重量部、中性リン脂質を約25〜100重量部、中性脂質を約25〜150重量部とする。次に、その脂質溶液に薬物含有溶液を加えて、該薬物を被覆した複数の脂質ベース粒子を含む懸濁液を作る。最後に、その懸濁液を加熱して脂質キャリアを形成する。
【0064】
前記溶液は、約50〜70℃、好ましくは65℃に加熱する。エタノールおよび水の体積比は約3:7〜5:5とし、好ましくは4:6とする。
【0065】
本発明は、特定のキャリア組成の割合、エタノール/水の割合、薬物/カチオン性脂質の割合、および加熱条件を採用することによって、均一な粒径、高被覆効率、および高血清耐性が備わった脂質ベース粒子を提供する。かかる脂質ベース粒子が細胞に入ると、キャリアは、そのpH感受性のために、リソソームの酵素によって解体されることなく、pH4〜5の弱酸性のリソソーム内で薬物を放出することとなる。よって、遺伝子のトランスフェクション効率が飛躍的に高まる。
【実施例】
【0066】
(脂質キャリアの製造)
先ず、エタノール0.05mLを1.5mL遠心分離管中に入れてから、カチオン性DOTAP0.1mg、コレステロール0.05mg、HSPC0.05mg、およびDSPE−PEG0.065mgを65℃の水浴にてエタノール中に溶解した。続いて、その溶液中に脱イオン水を添加して体積を0.095mLとし、完全に混合させて脂質溶液を得た。
【0067】
次に、オリゴヌクレオチド含有溶液0.005mL(10mg/mL) を脂質溶液中に加えて、オリゴヌクレオチドを被覆した複数の脂質ベース粒子を含む混合物を作った。最後に、遠心分離管にPBS溶液0.1mL(pH7.4)を加え、65℃の水浴で10分間加熱して脂質キャリアを得た。
【0068】
(脂質ベース粒子のサイズおよびゼータ電位の測定)
脂質ベース粒子のサイズをサブミクロン粒子測定器(フロリダ州マイアミ、コールター社製N4 PLUS)で測定し、ゼータ電位をゼータ電位アナライザー(ニューヨーク州ホルツビル、ブルックヘブンインストルメンツ社製 ZetaPlus)で測定した。測定の結果、粒径は72.0±22.5nm、ゼータ電位は−0.302mVであった。
【0069】
(被覆効率の測定)
被覆されたオリゴヌクレオチドとフリーオリゴヌクレオチドをクロマトグラフィーカラム(アマシャムバイオサイエンス社製)で分離し、被覆効率を求めた。被覆効率の計算式は次のとおりである。

被覆効率(%)=(オリゴヌクレオチド総量−フリーオリゴヌクレオチドの量/
オリゴヌクレオチド総量)×100%

算出の結果、キャリアの被覆効率は95±5%であった。
【0070】
(薬物放出率の測定)
キャリア溶液0.2mLを、pH6.8、pH6、pH5.5、pH5、pH4.5、pH4の各緩衝液100mMにそれぞれ混合し、37℃の水浴に5分間入れた。その脂質溶液をセファロース(Sepharose)CL 4Bクロマトグラフィーカラム(アマシャムバイオサイエンス社製)で分離したのち、オリゴヌクレオチドの放出率を測定した。結果、図1に示されるように、pH4〜5におけるキャリアの薬物放出率は約60〜70%であった。

薬物放出率(%)=フリーオリゴヌクレオチドの量/オリゴヌクレオチド総量×100%
【0071】
(血清耐性の測定)
PC14PE6細胞(国立成立大学(National Cheng Kung University)より入手)を1cm2のスライドガラス上で培養した。培養後のスライドにおける細胞数は2×104であった。血清耐性試験は次の工程により行った。先ず、細胞およびオリゴヌクレオチドを被覆したキャリアを、血清を10%含有した培地と血清を含まない培地の2つの培地中で、37℃の温度下それぞれ4時間培養した。そして、細胞をPBS溶液で3回洗浄してから、1%Triton X−100(メルク社製)を含んだまた別のPBS溶液と1時間混ぜ合わせることによって溶解させた。最後に、蛍光アナライザー(JASCO社製FP−1520)(Ex:494nm、Em:519nm)で、細胞溶出物を分析した。分析結果より、血清中においてキャリアは、60〜100%の活性を維持していることがわかった。

血清耐性(%)=血清を10%含有した群のオリゴヌクレオチド−FITC蛍光強度/血清を含まない群のヌクレオチド−FITC蛍光強度×100%
【0072】
(リガンドを持つキャリアのトランスフェクション効率測定)
PC14PE6細胞を24ウェルプレートで一晩培養した。培養後の各ウェルにおける細胞数は5×104であった。トランスフェクション効率試験は次のとおりに行った。細胞およびリガンドであるタモキシフェンを持つキャリアと、細胞およびリガンドであるタモキシフェンを持たないキャリアとを、血清を10%含有した培地と血清を含まない培地の2つの培地中で、37℃の温度下それぞれ4時間培養した。そして、細胞をPBS溶液で洗浄してから、1%Triton X−100を含むまた別のPBS溶液と1時間混ぜ合わせることによって溶解させた。最後に、蛍光アナライザー(Ex:494nm、Em:519nm)で、細胞溶出物を分析した。
【0073】
図2を見るとわかるように、リガンドを持つキャリアのトランスフェクション効率は、リガンドを持たないキャリアの10倍を超えている。さらに、血清の存在の有無にかかわらず結果は同様だったということも、本発明が提供する脂質キャリアの血清耐性を証明している。
【0074】
本発明を好ましい実施例によって以上のように開示したが、これは本発明を限定しようとするものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲を逸脱しない限りにおいて変更および修飾を施すことができる。よって、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲で定義されたものが基準とされる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明による脂質キャリアの各種pH環境における薬物放出率を示す図である。
【図2】本発明による脂質キャリアの血清が存在する場合としない場合におけるトランスフェクション効率を比較する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性脂質、コレステロール、中性リン脂質、および中性脂質を有する脂質ベース粒子を含み、該脂質ベース粒子が、前記カチオン性脂質を100重量部、前記コレステロールを25〜100重量部、前記中性リン脂質を25〜100重量部、前記中性脂質を25〜150重量部含む脂質キャリア。
【請求項2】
前記カチオン性脂質が、1,2−ジオレオイルオキシ−3−(トリメチルアミノ)プロパン、N−[1−(2,3−ジテトラデシルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド、3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバミル]コレステロール、またはジメチルジオクタデシルアンモニウムを含む請求項1記載の脂質キャリア。
【請求項3】
前記中性リン脂質が、ホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミンを含む請求項1記載の脂質キャリア。
【請求項4】
前記ホスファチジルコリンが、水素化大豆ホスファチジルコリンを含む請求項3記載の脂質キャリア。
【請求項5】
前記中性脂質が、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−ポリエチレングリコールを含む請求項1記載の脂質キャリア。
【請求項6】
前記カチオン性脂質が100重量部、前記コレステロールが50重量部、前記中性リン脂質が50重量部、前記中性脂質が65重量部である請求項1記載の脂質キャリア。
【請求項7】
前記脂質ベース粒子に被覆される薬物をさらに含む請求項1記載の脂質キャリア。
【請求項8】
前記薬物には、核酸医薬、蛋白薬、ペプチド薬または合成薬が含まれる請求項7記載の脂質キャリア。
【請求項9】
前記核酸医薬には、プラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはRNAiが含まれる請求項8記載の脂質キャリア。
【請求項10】
前記薬物と前記カチオン性脂質との重量比が1:4〜1:12である請求項7記載の脂質キャリア。
【請求項11】
前記薬物と前記カチオン性脂質との重量比が1:6である請求項7記載の脂質キャリア。
【請求項12】
前記脂質ベース粒子の直径が35〜95nmである請求項1記載の脂質キャリア。
【請求項13】
前記脂質ベース粒子のゼータ電位が−10〜10mVである請求項1記載の脂質キャリア。
【請求項14】
前記脂質ベース粒子の被覆効率が85〜100%である請求項1記載の脂質キャリア。
【請求項15】
pH4〜5における薬物放出率が60〜70%である請求項7記載の脂質キャリア。
【請求項16】
血清中の活性が60〜100%である請求項1記載の脂質キャリア。
【請求項17】
前記脂質ベース粒子の表面にグラフトされたリガンドをさらに含む請求項1記載の脂質キャリア。
【請求項18】
前記リガンドは対象の標的細胞を認識する請求項17記載の脂質キャリア。
【請求項19】
前記リガンドを持つ前記脂質キャリアのトランスフェクション効率が、リガンドを持たない脂質キャリアの10倍を超える請求項17記載の脂質キャリア。
【請求項20】
カチオン性脂質、コレステロール、中性リン脂質、中性脂質、エタノール、および水を、前記カチオン性脂質を100重量部、前記コレステロールを25〜100重量部、前記中性リン脂質を25〜100重量部、前記中性脂質を25〜150重量部として混合して脂質溶液を作る工程と、
前記脂質溶液に薬物含有溶液を加えて、前記薬物を被覆した複数の脂質ベース粒子を含む溶液を作る工程と、
前記溶液を加熱して脂質キャリアを作る工程と
を含む脂質キャリアの製造方法。
【請求項21】
前記カチオン性脂質が、1,2−ジオレオイルオキシ−3−(トリメチルアミノ)プロパン(、N−[1−(2,3−ジテトラデシルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド、3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバミル]コレステロール、またはジメチルジオクタデシルアンモニウムを含む請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記中性リン脂質が、ホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミンを含む請求項20記載の方法。
【請求項23】
前記ホスファチジルコリンが、水素化大豆ホスファチジルコリンを含む請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記中性脂質が、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−ポリエチレングリコールを含む請求項20記載の方法。
【請求項25】
前記カチオン性脂質を100重量部、前記コレステロールを50重量部、前記中性リン脂質を50重量部、前記中性脂質を65重量部とする請求項20記載の方法。
【請求項26】
前記エタノールと前記水との体積比が3:7〜5:5である請求項20記載の方法。
【請求項27】
前記エタノールと前記水との体積比が4:6である請求項20記載の方法。
【請求項28】
前記薬物には、核酸医薬、蛋白薬、ペプチド薬または合成薬が含まれる請求項20記載の方法。
【請求項29】
前記核酸医薬には、プラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはRNAiが含まれる請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記薬物と前記カチオン性脂質との重量比が1:4〜1:12である請求項20記載の方法。
【請求項31】
前記薬物と前記カチオン性脂質との重量比が1:6である請求項20記載の方法。
【請求項32】
前記溶液を50〜70℃に加熱する請求項20記載の方法。
【請求項33】
前記溶液を65℃に加熱する請求項20記載の方法。
【請求項34】
前記脂質ベース粒子の直径が35〜95nmである請求項20記載の方法。
【請求項35】
前記脂質ベース粒子のゼータ電位が−10〜10mVである請求項20記載の方法。
【請求項36】
前記脂質ベース粒子の被覆効率が85〜100%である請求項20記載の方法。
【請求項37】
pH4〜5における前記脂質キャリアの薬物放出率が60〜70%である請求項20記載の方法。
【請求項38】
血清中における前記脂質キャリアの活性が60〜100%である請求項20記載の方法。
【請求項39】
前記脂質ベース粒子の表面にグラフトされたリガンドをさらに含む請求項20記載の方法。
【請求項40】
前記リガンドは対象の標的細胞を認識する請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記リガンドを持つ前記脂質キャリアのトランスフェクション効率が、リガンドを持たない脂質キャリアの10倍を超える請求項39記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−106740(P2007−106740A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370379(P2005−370379)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】