説明

脆化測定装置及び脆化測定方法

【課題】測定対象物の測定箇所の温度を一定に保つことにより、精度が高く、信頼性の高い検査データが得られるようにする。
【解決手段】測定対象物25の測定箇所26に腐食薬品7を作用させて、測定箇所26の腐食の度合いを検査することにより、測定対象物25の脆化を測定する脆化測定装置1であって、測定対象物25に取り付けられるとともに、内部に測定箇所26に作用させる腐食薬品7が充填される腐食槽2と、測定対象物25に腐食槽2を囲んだ状態で取り付けられるとともに、内部に冷媒15が充填される冷媒槽19と、冷媒槽10内の冷媒15の温度を制御する温度制御手段16とを備える。冷媒15と測定対象物25及び腐食薬品7との間で熱交換することにより、測定対象物25及び腐食薬品7の温度を所定の温度に保つことができるので、所定の一定温度条件下での検査データが得られ、精度が高く、信頼性の高い検査データが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆化測定装置及び脆化測定方法に関し、特に、測定対象物を移動させることなく、現場において測定対象物の測定箇所の脆化を測定するのに有効な脆化測定装置及び脆化測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンを構成する部品の一つに鋼製の車室があり、蒸気タービンを長期に亘って継続使用することにより次第に強度が低下する問題があるため、定期的に点検、検査を行い、強度が低下している部分の修理等のメンテナンスが必要になる。
【0003】
蒸気タービンの車室の点検、検査を行う場合、車室は、重量が数トン〜数十トン、大きさが5m四方もある大型の部品であるため、検査室や製造メーカ等に運んで点検、検査、修理等を行うことは容易ではなく、このため、通常は現場において点検、検査、修理等を行っている。
【0004】
例えば、現場において、車室の測定箇所に脆化測定装置を取り付け、脆化測定装置の腐食槽内の腐食薬品を測定箇所に接触させ、測定箇所の腐食の度合いを検査することにより測定箇所の脆化を測定し、予め取得しておいた判定用のデータと測定データとを比較し、必要に応じて修理等のメンテナンスを行っている。すなわち、脆化しているもの程、腐食の溝が深くなることを利用し、脆化の測定を行っている。
【0005】
ところで、蒸気タービンが設置されている現場の温度は、季節によって異なるとともに、周りに設置されている各種の機関の運転状況等によっても異なるため、点検、検査を行う時期等によって測定箇所の温度が変化してしまい、一定の温度条件下での検査データが得られない。
【0006】
つまり、脆化の測定は、ピクリン酸等の腐食薬品を測定箇所に接触させて腐食させ、腐食の度合い(腐食の溝の深さ)を検査することにより行われている。一定の腐食条件下では、脆化が進行していない蒸気タービン材料の腐食溝は浅く、脆化が進行し劣化した材料で腐食溝は深くなる。しかし、腐食溝の深さは腐食液や蒸気タービン本体の温度による影響を大きく受けてしまう。つまり温度が高い時には腐食溝が深くなり温度が低い時には腐食溝が浅くなるため、季節の温度変化や隣接して設置される各種の機関等の運転状況に影響されて検査機器周囲環境の温度が変化し、得られる測定結果である腐食溝深さにばらつきが生じてしまう。このため、予め各温度における判定用の測定データを取得しておき、その判定用の取得データと実際に検査して取得したデータとを比較し、脆化の判定を行わなければならず、たくさんの余分なデータを用意する必要があるため大変費用がかかる。
【0007】
一方、特許文献1には、粒界エッチング装置に関する発明が開示されている。この粒界エッチング装置は、エッチングヘッドに押付機構と液噴出機構とエアー乾燥ノズルを設け、液循環ユニットと制御ユニットとの組合せによって、タービンロータ中心孔内面のエッチング、洗浄、エアー乾燥の一連動作を、遠隔操作で迅速に連続運転できるように構成したものである。
【0008】
この場合、液循環ユニットによって最適温度に設定したエッチング液をエッチング液タンクと検出面との間で循環させ、一定時間循環させた後にエッチング液タンクに回収し、その後に検出面の洗浄を行い、エアー乾燥を行っている。
【0009】
しかし、このような構成の粒界エッチング装置にあっては、エッチング液をエッチング液タンクと検出面との間で循環させているため、エッチング液の流れの状態変化によって検出面の腐食溝の深さが変動する懸念がある。すなわちエッチング液の流動により、粒界のみならず粒内表面の不動態被膜も早期に破壊され腐食される懸念がある。これにより、粒界部の腐食溝は粒内の腐食によって消されてしまい、脆化の判定が困難になる。脆化の検査では、粒界部の腐食の溝が深くなることを利用して脆化の測定を行うため、安定して同じ腐食条件を確保し、かつ、粒界部を選択的に腐食することが必要である。
また、特許文献1の方法では「検査対象面のみの狭い範囲しか冷却・加温していない」為、検査対象面を所定の温度に保つことが難しい。つまり検査対象は大型部品であり、それが持つ熱量は大きく、測定面のみを腐食液で冷やしても、部品が持つ熱が測定面に伝わり、温度を上昇させる。測定対象部品温度が高い場合、検査対象面を所定の検査温度に保つためには、腐食液の温度を検査温度よりも数℃以上低くする必要があるが、腐食液の温度が低ければ腐食速度が低下すると考えられるので、判定用の測定データと全く同じ腐食条件とは言えない。
このため、測定面の温度を測定作業中安定して一定に保つには、測定面を含む広い範囲を、腐食液とは別の冷却媒体を用いて冷却・加温することが望ましい。
【0010】
このことは、特許文献2に開示されている低合金鋼の劣化判定法に関する技術内容からも容易に予測できる。
すなわち、特許文献2に記載されている低合金鋼の劣化判定法は、分子内に水酸基若しくはカルボキシル基の少なくとも一方とニトロ基とを有する芳香族化合物の溶液を、被測定物である低合金鋼に接触させながら流動させ、次いで、この流動を停止する過程において検出される低合金鋼の自然電位の変化温度より、劣化を判定するように構成したものである。
【0011】
すなわち、流動する溶液に接触する被測定物の表面では、反応物質の供給が充分に行われ、ほぼ一定の自然電位が検出される。そして、この溶液の流動を停止すると、溶液に接する被測定物の表面に拡散層が形成される。この溶液の流動停止の過程で検出される自然電位の変化速度が被測定物の劣化度合に対応する。従って、被測定物の自然電位の変化速度の値を、基準となる低合金鋼を同一条件で測定して得られた値と比較することにより、被測定物の劣化の程度を判定できるというものである。
「流動する溶液中における自然電位」(グラフ左側)は、「溶液停止後一定時間を置いて安定した後の自然電位」(グラフ右側)に比べて高いため、攪拌中は表面の腐食が急速に進行しやすいと考えられる。
特許文献2の第2図のグラフによると、攪拌中と攪拌停止後のグラフの線を比較すると、攪拌中はある電位を中心に電位が細かく2〜3mV程度変動し安定していない。この事から、腐食液流動中は表面の腐食速度が変動すると考えられる。
この現象は、腐食液の流動により表面各部に接触している溶液中の溶存酸素量や溶存酸素の拡散速度が変動し、表面各部の不動態被膜の形成と破壊のバランスが変動する為と考えられる。あるいは、液体の流動により表面の腐食生成物の滞留と除去のバランスが変動する為と考えられる。
つまり、腐食液を流動させながら腐食条件が変動しており、そのため静置した場合と比べ流動中は電位が変動していると考えられる。
また、腐食液流動時は液の流速の違いが腐食速度に影響を与える。「金属の腐食損傷と防食技術」小若正倫著(アグネ社)1983年出版」P78図3.29によると、3%NaCl溶液中における軟鋼の腐食では、NaCl溶液の流速が上昇すると腐食速度も上昇している。またP77図3.28によると、水道水中における軟鋼の腐食では、水道水の流速が変化すると腐食速度も変化している。しかし、水道水流速が上昇しても腐食速度が低下する場合もあり、その変化は一定していない。つまり、腐食液静置時と比較すると流速という変動要因が加わるため、腐食状態の再現がより困難になる。
特許文献1の方法において、ポッド内部は流路が制限されていないため、検査対象表面における腐食液の流速、流れ方向ともに制御できない。腐食液の循環量を一定に調整しても、腐食が起きる検査対象表面における腐食液の流動速度を、再現することも、検査中一定に保つことも困難である。このため、検査対象表面の腐食速度は検査毎に、また、同一検査中に変動すると考えられるため、また検査表面の各部の腐食速度も場所毎に違うと考えられるため、検査毎の再現性は低く、同一な材料においても腐食溝深さが異なると考えられる。
静置であれば、検査中通して、検査対象表面上のどの部分も腐食液の流速を0として一定に保てるので、検査面内を一定腐食条件とできる。このため検査面内の腐食溝深さは、脆化度以外は同等な腐食条件の結果と見なせる。また、検査の再現性も高いと考えられる。つまり、いつも検査を一定の腐食条件で行うことができる上、ある一回の検査においても経時的な変動無く一定の腐食条件を安定して保つことができる。
【特許文献1】特開平4−276088号公報
【特許文献2】特開昭62−222155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本願発明者らは、上記のような特許文献1、特許文献2に開示されている記載内容を基にして、溶液(腐食薬品)の循環が被測定物の腐食状態に影響を与えるか否かについて、分極法によって往復分極曲線の測定及び粒界溝の測定を行うことにより、検討した。
【0013】
ここで、往復分極曲線の測定及び粒界溝の測定は、蒸気タービンのバルブに使用される機器部材(CrMo鋳鋼、CrMoV鋳鋼等)の廃材を試験片として、粒界腐食条件の異なる2つの試験片(No.1、No.2)を用い、以下の条件により各測定を行った。
(1)往復分極曲線の測定
1)溶液;飽和ピクリン酸水溶液+界面活性剤(25℃)
2)分極条件;(表1のNo.1、No.2の条件)
3)計測データ;再不動態化最小電流密度(Ir)
(2)粒界溝の測定
1)粒界溝の測定は、スンプ法によってスンプに転写した後に、レーザ顕微鏡により観察することにより行った。
2)レーザ顕微鏡
1)形式;1LM21(レーザーテック(株))
2)測定項目及び視野数
・レーザ顕微鏡による表面粗さ測定(7サンプル×各10視野)
Ra(算術平均粗さ)、Rz(十点平均粗さ)、Ry(最大高さ)
・粒界溝体積測定(9サンプル×各3視野)
(3)測定結果
試験片(No.1、No.2)の往復分極によるIr、レーザ顕微鏡による粒界溝の測定結果画像(FMS画像、3次元画像)、表面粗さ、体積測定結果を表1、表2、図4、及び図5に示す。
【0014】
この結果から、試験片No.1(溶液の循環なし)と試験片No.2(溶液の循環あり)とを比較すると、溶液の循環ありの試験片No.1の場合には、Irが大きくなっており、皮膜が破壊されやすいものと推定される。また、表面粗さ、3D画像、体積測定結果から、粒間の段差が非常に大きくなっている。それに対して、粒界溝腐食の程度は、逆に小さくなっている。循環することにより、不動態皮膜形成が弱くなって、粒界以外の部分も腐食されやすくなっていると考えられる。従って、脆化度を判定するために腐食を行う場合の分極法では、溶液を循環させない方が良いと判断される。
【0015】
【表1】

【表2】

【0016】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、季節の温度変化や隣接して設置される各種の機関等の運転状況に影響されることなく、常に一定の温度条件の下で脆化の測定をすることができるとともに、腐食薬品の循環(流れ)によって測定データが影響を受けるようなことがなく、精度の高く、信頼性の高い測定データが得られる脆化測定装置及び脆化測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。
すなわち、本発明による請求項1に係る発明は、測定対象物の測定箇所に腐食薬品を作用させて、該測定箇所の腐食の度合いを検査することにより、該測定対象物の脆化を測定する脆化測定装置であって、前記測定対象物に取り付けられるとともに、内部に前記測定箇所に作用させる腐食薬品が充填される腐食槽と、前記測定対象物に前記腐食槽を囲んだ状態で取り付けられるとともに、内部に冷媒が充填される冷媒槽と、前記測定箇所の温度を検知する温度センサと、該温度センサからの検知信号によって前記冷媒槽内の冷媒の温度を制御する温度制御手段とを備えてなることを特徴とする。
【0018】
本発明による脆化測定装置によれば、測定対象箇所の温度を温度センサによって検知し、この温度センサからの検知信号によって温度制御手段を介して冷媒槽の冷媒の温度が制御され、この制御された冷媒と測定対象物及び腐食薬品との間で熱交換が行われることにより、測定対象物及び腐食薬品が所定の温度に保たれることになる。従って、季節や周辺に設置される各種の機関の運転状況等に影響されることなく、一定の温度条件下での検査データが得られることになるので、精度が高く、信頼性の高い検査データが得られることになる。
【0019】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の脆化測定装置であって、前記腐食薬品は、前記腐食槽の密閉された空間内に充填され、該空間の一部を開放させる開口部を介して前記測定箇所に接触し、前記冷媒は、前記冷媒槽の密閉された空間内に充填され、該空間の一部を開放させる開口部を介して前記測定箇所の外側の前記測定対象物の部分に接触していることを特徴とする。
【0020】
本発明による脆化測定装置によれば、腐食槽及び冷媒槽から腐食薬品及び冷媒が流出するようなことはないので、測定対象物の測定箇所が天井部等であっても、精度が高く、信頼性の高い検査データが得られることになる。
【0021】
請求項3に係る発明は、測定対象物の測定箇所に腐食薬品を作用させて、該測定箇所の腐食の度合いを検査することにより、該測定対象物の脆化を測定する脆化測定方法であって、内部に腐食薬品が充填される腐食槽と、該腐食槽を囲んだ状態で設けられるとともに、内部に冷媒が充填される冷媒槽と、前記測定箇所の温度を検知する温度センサと、該温度センサからの検知信号によって前記冷媒槽内の冷媒の温度を制御する温度制御手段とを備え脆化測定装置を用い、前記腐食槽及び前記冷媒槽を前記測定対象物に取り付け、前記腐食槽の腐食薬品を前記測定箇所に接触させ、前記冷媒槽内の冷媒を前記測定対象箇所の外側の前記測定対象物の部分に接触させることを特徴とする。
【0022】
本発明による脆化測定方法によれば、脆化測定装置を測定対象物に取り付け、腐食槽内の腐食薬品を測定対象箇所に接触させ、冷媒槽内の冷媒を測定対象箇所の外側の測定対象物の部分に接触させることにより、測定箇所が腐食薬品に腐食されることになる。この場合、測定対象箇所の温度を温度センサによって検知し、この温度センサからの検知信号によって温度制御手段を介して冷媒槽の冷媒の温度が制御され、この制御された冷媒と測定対象物及び腐食薬品との間で熱交換が行われることにより、測定対象物及び腐食薬品が所定の温度に保たれることになる。従って、季節や周辺に設置される各種の機関の運転状況等に影響されることなく、一定の温度条件下での検査データが得られることになるので、精度が高く、信頼性の高い検査データが得られることになる。
【発明の効果】
【0023】
以上、説明したように、本発明の脆化測定装置及び脆化測定方法によれば、測定対象箇所の温度を温度センサによって検知し、この温度センサからの検知信号によって温度制御手段を介して冷媒槽の冷媒の温度が制御され、この制御された冷媒と測定対象物及び腐食薬品との間で熱交換が行われることにより、測定対象物及び腐食薬品が所定の温度に保たれることになる。
従って、季節や周辺に設置される各種の機関の運転状況等に影響されることなく、一定の温度条件下での検査データが得られることになるので、精度が高く、信頼性の高い検査データが得られることになる。
また、腐食槽及び冷媒槽の密閉された空間内に腐食薬品及び冷媒が充填されているので、測定対象物の測定箇所が天井部等であっても腐食薬品及び冷媒が流出するようなことはなく、そのような箇所であっても精度が高く、信頼性の高い検査データが得られることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に示す本発明の実施の形態について説明する。
図1及び図2には、本発明による脆化測定装置の一実施の形態が示されていて、図1は全体を示す概略図、図2は図1の温度制御手段の概略図である。
【0025】
すなわち、本実施の形態に示す脆化測定装置1は、図1に示すように、検査室等に運んで検査することが困難な測定対象物25、例えば蒸気タービンの部品の一つである鋼製の車室等を現場において検査するのに有効なものであって、内部に腐食薬品7が充填される腐食槽2と、腐食槽2の外側に腐食槽2を囲んだ状態に設けられるとともに、内部に冷媒14が充填される冷媒槽10と、冷媒槽10の冷媒14の温度を制御する温度制御手段17とを備えている。
【0026】
腐食槽2は、耐酸性を有する材料から形成されるものであって、円筒状の槽本体3と、槽本体3の一端部に一体に設けられる取付け部5とから構成され、槽本体3の内側の部分にピクリン酸等の腐食薬品7が所定量充填される。なお、腐食薬品7は、液体であってもよいし、固体又は粘性体であってもよい。
【0027】
取付け部5は、中心部に円形状の貫通孔6を有する四角形板状をなすものであって、貫通孔6内に円筒状の槽本体3の一端部を挿通させた状態で、槽本体3との間が接着剤等を介して一体に接合されている。取付け部5と槽本体3とは、一体に形成してもよい。
【0028】
腐食槽2は、取付け部5の裏面側を測定対象物25の測定箇所26の外側の部分に密着させ、この状態で取付け部5の裏面側を測定対象物25に接着剤等を介して一体に接合することにより、測定対象物25に取り付けられる。この場合、腐食槽2の取付け部5と測定対象物25との間に各種のシール材(図示せず)を介装させ、両者間のシール性を高めるように構成してもよい。
【0029】
腐食槽2を測定対象物25に取り付けることにより、測定対象物25の測定箇所26の表面が槽本体3の開口部4を介して腐食薬品7に接触し、これにより、測定対象物25の測定箇所26が腐食薬品7によって腐食される。測定対象物25の測定箇所26には温度センサ27が取り付けられ、この温度センサ27からの検知信号により、後述する温度制御手段17の駆動が制御される。
【0030】
冷媒槽10は、腐食槽2の槽本体3よりも大径かつ長さが長い円筒状の槽本体11と、槽本体11の一端部に一体に設けられる取付け部13とから構成され、腐食槽2の槽本体3の外側に槽本体3を囲むように取り付けられている。
【0031】
取付け部13は、中心部に円形状の貫通孔14を有する円板状をなすものであって、貫通孔14内に槽本体11の一端部を挿通させ、この状態で槽本体11との間が接着剤等を介して一体に接合されている。取付け部13と槽本体11とは、一体に形成してもよい。
【0032】
冷媒槽10は、腐食槽2の槽本体3の外側に同心円状をなすように槽本体11を位置し、取付け部13の裏面側を測定対象物25に密着させ、取付け部13の裏面側を測定対象物25に樹脂系の接着剤等を介して一体に接合することにより、測定対象物25に取り付けられる。これにより、腐食槽2の槽本体3と冷却槽10の槽本体11との間に筒状の空間が形成され、この空間内に水、油等からなる冷媒15が所定量充填される。冷媒15は、槽本体11の一端側の開口部12を介して測定対象物25の表面に接触している。
【0033】
温度制御手段16は、図2に示すように、冷媒15を貯留させる貯留槽17と、貯留槽17と冷媒槽10の槽本体11との間を接続する一対の冷媒配管18、18と、各冷媒配管18の途中にそれぞれ設けられるポンプ19と、貯留槽17内の冷媒15の温度を調整する調整手段20とを備えている。
【0034】
ポンプ19、19の駆動によって貯留槽17と冷媒槽10の槽本体11との間で冷媒配管18、18を介して冷媒15を循環させることにより、冷媒槽10の槽本体11の内側に所定の温度の冷媒15が供給され、冷媒15と測定対象物25との間で熱交換が行われるとともに、冷媒15と腐食薬品7との間でも熱交換が行われ、測定対象物25及び腐食薬品7が所定の温度に保たれる。
【0035】
調整手段20は、貯留槽17内の冷媒15の温度を所定の温度に制御するためのものであって、測定対象物25の測定箇所26に取り付けられている温度センサ27からの検知信号によってON−OFFが制御される。調整手段20を駆動させることにより、調整手段20と貯留槽17との間で冷媒15が循環され、冷媒15が調整手段20で加熱又は冷却されて所定の温度に保たれる。
【0036】
すなわち、夏季の高温時には、測定対象物25の測定箇所26の温度が高くなるので、調整手段20によって制御された低温の冷媒15を冷媒槽10の槽本体11に供給し、この低温の冷媒15と測定対象物25及び腐食薬品7との間で熱交換を行うことにより、測定対象物25の測定箇所26の温度を所定の温度に保つことができる。また、冬季の低温時には、測定対象物25の測定箇所26の温度が低くなるので、調整手段20によって制御された高温の冷媒15を冷媒槽10の槽本体11に供給し、この高温の冷媒15と測定対象物25及び腐食薬品7との間で熱交換を行うことにより、測定対象物25の測定箇所26の温度を所定の温度に保つことができる。
【0037】
上記のように構成した本実施の形態による脆化測定装置1にあっては、測定対象物25の測定箇所26に腐食薬品7を接触させる腐食槽2の外側に腐食槽2を囲むように冷媒槽10を設け、冷媒槽10の冷媒15と測定対象物25及び腐食薬品7との間で熱交換を行うことにより、測定対象物25の測定箇所26の温度を所定の温度に保つように構成したので、季節による温度の変化や隣接して設置される各種の機関の運転状況等に影響されることなく、測定対象物25の測定箇所26及び腐食薬品7の温度を常に所定の温度に保つことができる。また、腐食槽2内の腐食薬品7は、槽本体11内に貯留されているだけであって、流れが生じているわけではないので、腐食薬品7に接触する測定対象物25の測定箇所26の腐食の度合いが腐食薬品7の流れによる影響を受けるようなことはない。
【0038】
従って、所定の一定の温度条件下での検査データが得られることになるので、各温度に対応する検査データを予め用意しておく必要がなく、脆化の測定による手間を大幅に削減することができる。また、所定の温度条件下で検査を行うことができるので、精度が高く、信頼性の高い検査データが得られることになり、脆化の判定を高精度で行うことができる。
【0039】
なお、前記の説明においては、腐食槽2の槽本体3及び冷媒槽10の槽本体11に他端部が開口したものを使用したが、図3に示すように、他端部が閉塞されているものを両槽本体3、11に使用してもよい。その場合には、測定対象物25の測定箇所26が天井部等であっても腐食薬品7や冷媒15が槽本体3、11から流出するようなことなく、高精度で信頼性の高い検査データを得ることができる。
また、前記の説明において、腐食槽2の外側に冷媒槽10を設けたが、冷媒槽10の代わりにペルチェ素子、電熱ヒータ、赤外線ヒータ、スポットクーラ等を設けてもよい。
さらに、腐食槽2と冷媒槽10との間に断熱材を挿入し、腐食槽2内の腐食薬品7が冷媒槽10の冷媒の影響を受けにくくし、検査中の腐食薬品7の温度を一定に保つようにしてもよい。
また、腐食槽2の外側に同心円状の二つの冷媒槽を設けて、内側の冷媒槽の冷媒を腐食槽2の腐食薬品7の温度に調整し、外側の冷媒槽の冷媒を内側の冷媒槽の冷媒の温度よりも低く調整し、気温による腐食薬品7の温度上昇や冷媒による腐食薬品7の温度降下を防ぐようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明による脆化測定装置の一実施の形態の全体を示した概略図である。
【図2】図1の脆化測定装置の温度制御手段の概略図である。
【図3】槽本体の変形例を示した概略図である。
【図4】試料No.1のFSM画像及び3次元画像である。
【図5】試料No.2のFSM画像及び3次元画像である。
【符号の説明】
【0041】
1 脆化測定装置 2 腐食槽
3 槽本体 4 開口部
5 取付け部 6 貫通孔
7 腐食薬品 10 冷媒槽
11 槽本体 12 開口部
13 取付け部 14 貫通孔
15 冷媒 16 温度制御手段
17 貯留槽 18 冷媒配管
10 ポンプ 20 調整手段
25 測定対象物 26 測定箇所
27 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の測定箇所に腐食薬品を作用させて、該測定箇所の腐食の度合いを検査することにより、該測定対象物の脆化を測定する脆化測定装置であって、
前記測定対象物に取り付けられるとともに、内部に前記測定箇所に作用させる腐食薬品が充填される腐食槽と、前記測定対象物に前記腐食槽を囲んだ状態で取り付けられるとともに、内部に冷媒が充填される冷媒槽と、前記測定箇所の温度を検知する温度センサと、該温度センサからの検知信号によって前記冷媒槽内の冷媒の温度を制御する温度制御手段とを備えてなることを特徴とする脆化測定装置。
【請求項2】
前記腐食薬品は、前記腐食槽の密閉された空間内に充填され、該空間の一部を開放させる開口部を介して前記測定箇所に接触し、前記冷媒は、前記冷媒槽の密閉された空間内に充填され、該空間の一部を開放させる開口部を介して前記測定箇所の外側の前記測定対象物の部分に接触していることを特徴とする請求項1に記載の脆化測定装置。
【請求項3】
測定対象物の測定箇所に腐食薬品を作用させて、該測定箇所の腐食の度合いを検査することにより、該測定対象物の脆化を測定する脆化測定方法であって、
内部に腐食薬品が充填される腐食槽と、該腐食槽を囲んだ状態で設けられるとともに、内部に冷媒が充填される冷媒槽と、前記測定箇所の温度を検知する温度センサと、該温度センサからの検知信号によって前記冷媒槽内の冷媒の温度を制御する温度制御手段とを備え脆化測定装置を用い、前記腐食槽及び前記冷媒槽を前記測定対象物に取り付け、前記腐食槽の腐食薬品を前記測定箇所に接触させ、前記冷媒槽内の冷媒を前記測定対象箇所の外側の前記測定対象物の部分に接触させることを特徴とする脆化測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−64606(P2008−64606A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242876(P2006−242876)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】