脈管形成因子の用量および心筋血流を改善するための投与方法
【課題】ヒト心臓において新脈管形成を誘導する一方で、身体の他の部位における新脈管形成の危険性を最小化する、投与のための薬学的組成物および方法を提供すること。
【解決手段】本発明は複数の局面を有する。1つの局面において本発明は、約5ng/用量〜135,000ng未満、代表的には5ng〜67,500ngの脈管形成因子を含む、単位用量の薬学的組成物に関する。好ましくはこの脈管形成因子はFGFであり、より好ましくは塩基性FGF(FGF−2)である。本発明は、第2の局面において、患者の心臓において新脈管形成を誘発するか、あるいは、心筋の灌流または血管密度を増加するための方法に関し、脈管形成因子の単位用量を一回の注射または一連の注射として必要な領域の心筋に直接投与することを包含する。新脈管形成が必要な複数の場所で複数の単位用量の組成物が心筋層に直接投与されることもまた本発明の請求の範囲内である。
【解決手段】本発明は複数の局面を有する。1つの局面において本発明は、約5ng/用量〜135,000ng未満、代表的には5ng〜67,500ngの脈管形成因子を含む、単位用量の薬学的組成物に関する。好ましくはこの脈管形成因子はFGFであり、より好ましくは塩基性FGF(FGF−2)である。本発明は、第2の局面において、患者の心臓において新脈管形成を誘発するか、あるいは、心筋の灌流または血管密度を増加するための方法に関し、脈管形成因子の単位用量を一回の注射または一連の注射として必要な領域の心筋に直接投与することを包含する。新脈管形成が必要な複数の場所で複数の単位用量の組成物が心筋層に直接投与されることもまた本発明の請求の範囲内である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(A.発明の分野)
本発明は、脈管形成因子(例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子もしくは血管内皮増殖因子)、または脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインの用量(超低用量を含む)に関し、ならびに改善された心筋血流を得るための用量の投与形態に関する。本発明はまた、脈管形成因子の用量を含む薬学的組成物、ならびに心筋機能、血流、灌流および/または脈管密度を改善するための、心臓、好ましくはヒト心臓への、その薬学的組成物の投与方法に関する。本発明は有用である。なぜなら、開示された用量、その投与のための薬学的組成物および方法は、冠状動脈疾患(CAD)処置のための、外科的処置に対する代替物または補助剤を提供し、そして/または、さらにヒトにおける心筋梗塞(MI)後の損傷を減少する方法を提供するからである。最後に、本発明は、投与された脈管形成因子が、標的組織に対する治療効果を有するか否かを、代わりのマーカーについてアッセイすることによって決定するための方法を含む。
【背景技術】
【0002】
(B.発明の背景)
冠状動脈疾患(アテローム性動脈硬化症)は、ヒトにおける進行性の疾患であり、1以上の冠状動脈は、プラークの蓄積を通じて次第に閉鎖する。この疾患を有する患者の冠状動脈は、しばしば、バルーン脈管形成術またはステントの挿入によって処置され、部分的に閉鎖した動脈を開ける。最後には、これらの患者は、非常に高額で危険な冠状動脈バイパス手術を受けることを必要とされる。このような患者に、冠状血流を高める処置を提供し、バイパス手術または脈管形成術を受ける必要生を無くすることは望ましい。
【0003】
ヒトにおいて、さらにより重大な状況が起こるのは、患者が心筋梗塞に罹患する場合である。ここで1以上の冠状動脈または小動脈は、凝塊などによって、完全に閉じる。閉じた動脈または小動脈によってなされる心筋層の部分への循環を回復するための即時の必要性が存在する。失われた冠状の循環が梗塞形成の数時間内に回復される場合、閉塞から生じる心筋層への損傷のほとんどは、予防され得る。凝塊溶解剤(例えば、組織プラスミノゲン活性化剤(tPA)、ストレプトキナーゼ、およびウロキナーゼ)は、この状況に有用であることが証明されている。しかし、凝塊溶解剤に対する補助剤として、それはまた、損傷したかまたは閉塞した心筋層に、新脈管形成によって、副行循環を得るために望ましい。
【0004】
従って、本発明の目的は、ヒト心臓に、心新脈管形成を提供するが、体内の他の箇所(特に、検出されない腫瘍)での新脈管形成を誘導する危険性を最小化する、新脈管形成を必要とするヒト心臓への、脈管形成因子の用量およびその投与形態を、提供することである。より具体的には、本発明のさらなる目的は、心新脈管形成の所望の特性(例えば、冠状動脈疾患および/または急性心筋梗塞の処置の間)を提供するが、体内の他の箇所で生じる有害な脈管形成効果の可能性を最小化する、ヒト患者への脈管形成因子の治療用量およびその投与形態を提供することである。
【0005】
脈管形成因子としては、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮増殖因子−A(VEGF−A)、トランスホーミング増殖因子β1(TGF−β1)および線維芽細胞増殖因子が挙げられる。線維芽細胞増殖因子(FGF)は、少なくとも18の構造学的に関連したポリペプチドのファミリー(FGF−1〜FGF−18と呼ばれる)であり、プロテオグリカン(例えば、ヘパリン)に対しての高程度の親和性によって特徴付けられる。種々のFGF分子は、15〜23kDのサイズに及び、そして以下を含む正常および悪性条件における広範囲の生物学的活性を示す:神経細胞接着および分化[Schubertら、J.Cell Biol.104:635−643(1987)];創傷治癒[米国特許第5,439,818号(Fiddes)];多くの中胚葉細胞型および外胚葉細胞型に関するマイトジェンとして、栄養因子として、分化誘導因子または分化阻害因子のとして[Clementsら、Oncogene 8:1311−1316(1993)];ならびに、脈管形成因子として[Harada,J.Clin.Invest.,94:623−630(1994)]。従って、FGFファミリーは、多能性増殖因子のファミリーであり、異なる範囲の線維芽細胞、平滑筋細胞、内皮細胞および神経細胞を刺激する。
【0006】
任意の脈管形成因子(または因子)が、正常組織(例えば、胎児発生時または創傷治癒字)によって放出される場合、時間的かつ空間的な制御が問題である。しかし、多くの脈管形成因子はまた、発癌遺伝子である。従って、時間的かつ空間的制御の非存在下で、それらは、新脈管形成を提供することによって腫瘍増殖を刺激する潜在能力を有する。従って、任意の脈管形成因子が、ヒト被験体において医薬として使用される前、検出されない腫瘍に対する、その脈管形成効果を最小にすることが考慮されなくてはならない。結果として、本発明の目的は、標的組織において局在化された新脈管形成を提供するが、体内の他の箇所での検出されない腫瘍における新脈管形成の増加する危険性を最小化する、脈管形成因子の用量およびその投与形態を提供することである。
【0007】
多くの脈管形成因子(例えば、PDGF、VEGF−AまたはFGF)は、単離され、そして心筋虚血の種々の動物モデルに投与され、異なる結果およびしばしば反対の結果を有している。Battlerらに従って、「心筋虚血のイヌモデルは、その関連する少数の天然の副行循環およびヒト冠動脈循環に対する類似において「勝る」ブタモデルに対するように、天然に存在する副行循環のために非難される」。Battlerら、「Intracoronary Injection of Basic Fibroblast Growth Factor Enhances Angiogenesis in Infarcted Swine Myocardium」JACC,22(7):2001−6(1993年12月)第2002ページ、第1欄。従って、当業者は、ブタ心臓がヒト心臓に類似する点で最も勝るモデルであることを認識した。さらに、Battlerは、「bFGF(すなわちブタFGF−2)の投与の用量および形態は、達成された生物学的効果に対して意味深い関係であり得る」ことを指摘する。Battlerら、第2005頁、第1欄。従って、ヒト患者におけるCADおよび/またはMI後の傷害の処置の完全性および効果を提供する、脈管形成因子の用量および投与形態を提供することが、本発明のさらなる目的である。さらに一般には、ヒト心臓において新脈管形成を誘導する一方で、身体の他の部位における新脈管形成の危険性を最小化する、投与のための薬学的組成物および方法を提供することが、本発明の目的である。
【0008】
最近までの脈管形成因子に対する種々の研究は、10μg〜1500μgの範囲の脈管形成因子の投与される用量を有する。例えば、Yanagisawa−Miwaら、「Salvage of Infarcted Myocardium by Angiogenesic Action of Basic Fibroblast Growth Factor」,Science,257:1401−1403(1992)は、10mlの生理食塩水中の10μg用量のヒト組換え塩基性FGF(hr−FGF−2)を、隣接する左上行冠状動脈(LAD)内に血栓を挿入することにより心筋梗塞を誘導した後のイヌの左回旋冠状動脈(LCX)に、1分間にわたって2度注入する工程を開示する。Yanagisawa−Miwaは、さらに、このイヌモデルにおける総量20μgのhr−FGF−2冠状内投与の結果として、「脈管形成がbFGFの投与1週間後以内に生じた」ことを開示する。Yanagisawa−Miwa、1403頁。Banaiら、「Angiogenic−Induced Enhancement of Collateral Blood Flow to Ischemic Myocardium by Vascular Endothelial Growth Factor in Dogs」,Circulation、89(5):2183−2189(1994年5月)は、イヌの遠位左回旋動脈(LCx)に1日あたり45μgのヒト組換えVEGFを1週間あたり5日間、4週間にわたって、投与することによって、冠状新脈管形成を首尾よく誘導する工程(すなわち、副行血流における40%増加および心筋内に分布する脈管の実数的密度における89%増加)を開示する。このイヌの近位LCxは、アメネロイド(ameroid)圧縮器(constrictor)を有する第一の開放枝の前に圧縮され、ここで、取り巻くアネロイドの遠位に水圧バルーン閉塞器(occluder)を直ちに設置した。同様の研究において、Ungerら、「Basic fibroblast growth factor enhances myocardial collateral flow in a canine model」、Am.J.Physiol.266(Heart Circ.Physiol.35):H1588−H1595(1994)は、イヌの遠位左回旋動脈(LCx)に110μgのヒト組換え塩基性FGF(155残基形態)の毎日のポーラスを9日間にわたって、投与することによって、副行血流を増加する工程(すなわち、処置群および未処置群におけるそれぞれ0.49および0.35の、最終の副行ゾーン対正常ゾーン(CZ/NZ)の血流比)を開示する。このイヌの近位LCxは、アネロイド圧縮器を有する第一の開放枝の前に圧縮され、ここで、取り巻くアネロイドの遠位に水圧バルーン閉塞器を直ちに設置した。しかし、上記の研究において、Ungerは、新脈管形成を誘導した方法または用量を示し得なかった。副行血流に基づく任意の評価がより困難であること示すために、Ungerはまた、塩基性FGFの投与が急性の血管拡張性効果、血圧の減少、および副行血流の増加を生じることを開示する。Unger(1994)H1590頁、第2欄およびH1592頁、第2欄。
【0009】
初期の研究,Ungerら「A model to assess interventions to improve collateral blood flow:continuous administration of agents into the left coronary artery in dogs」Cardiovascular Res.27:785−791(1993)において、Ungerは、アネロイド圧縮器での4週間にわたる動脈の圧縮後の動脈の二重連結および連結したLCxの近位株(stub)内へのFGF−1の注入のためのカテーテルの挿入の後に、イヌの左回旋動脈(LCx)の近位端への、30 IU/hrのヘパリンの存在下での30μg/hrの組換え酸性FGF(すなわち、FGF−1)の4週間にわたる連続注入を開示する。Unger(1993)第785頁。にもかかわらず、総蓄積量10mgの酸性FGFを、それぞれのイヌの冠状動脈内に注入した。Ungerは、「酸性FGFは...副行血流に例示的な効果を有さなかった」、Unger(1993)第785頁(要約)、および第790頁に、このモデルを報告した。
【0010】
Haradaら「Basic Fibroblast Growth Factor Improves Myocardial Function in Chronically Ischemic Porcine Hearts」、J.Clin.Invest.94:623−630(1994年8月)は、1カプセル当たり1μgの塩基性FGFを有する4〜5カプセルの形態での8μgの塩基性FGFの膣外(膣外周囲)投与による、ヨークシャーブタにおける緩やかな冠状閉塞モデルでの冠状血流の増加および梗塞サイズの減少を開示する。これは、近位左前室間動脈(LAD)ならびに第1の開放枝(first takeoff branch)の前で左回旋動脈(LCx)の近位端に設置されたアネロイド圧縮器の近位および遠位の両方に位置する。Haradaの実験が表す目的が「新脈管形成を刺激することによって慢性心筋梗塞を緩和すること」(Harada、第628頁)であるにもかかわらず、Haradaは、新脈管形成を示し得なかった。さらに、Haradaは、「bFGFの最適用量および投与経路の長さ」は明白ではないと結論付けた。Harada、第629頁。これとは別に、Landauら「Interpericardial basic fibroblast growth factor induces myocardial angiogenesis in a rabbit model of chronic ischemia」、Am.Heart Journal、129:924−931(1995)は、1日当たり180ngのヒト組換え塩基性FGF(154残基)を2.0〜4.3kgのウサギの心嚢周囲空間に7〜28日間にわたって投与することが、新たな心外膜の小脈管増殖を増加すること、ならびに、この効果は左心室肥大によって増加されることを開示する。Landauにおいて使用される塩基性FGFの用量は、サイズが70kgの男性の場合、1日当たり2.9μgで7〜28日間、または総用量の塩基性FGFが20.3μg〜81.2μgに対応する。Lopezら「Angiogenic potential of perivascularly delivered aFGF in a porcine model of chronic myocardial ischemia」、Am.J.Physiol.274(Heart Circ.Physiol.43):H930−H936(1998)は、ヨークシャーブタにおける、14μgの組換えヒトaFGFムテイン(すなわち、aFGFのSer−117がSerからCysに置換される)の脈管周囲送達による、心筋血流および完全な左心室機能の改善を開示する。このムテインは、近位左回旋動脈にわたる縫合で確保される酢酸エチレンビニル(EVA)ポリマーのポーラスにおいて広く分布される。Lopezは、脈管周囲に送達されたaFGFが、動物での心臓の妥協(compromised)領域における「休止期」および「迅速な調子の間」の両方での血流を改善したことを報告する。Lopez、H934頁、第2欄。しかし、Lopezは、例えば、「血管拡張」または「脈管循環における改善」といった他の可能な原因(source)を列挙して、増加した血流を新脈管形成に直接帰し得なかった。
【0011】
最終的には、米国特許第4,296,100号(1981年10月20日にFrancoにより出願)は、梗塞形成の直後の1回の処置として、100gの心臓組織当たり10mg〜1gの純度90%のウシFGF(下垂体抽出物)を投与することによる、患者における心筋梗塞の処置の方法を開示する。Francoに従って、「100グラムの心臓当たり少なくとも10μgを使用して所望の効果を達成する」。Franco、第1欄、62〜64行目。Francoは、FGFが種々の形態(心臓への直接投与、静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射および経口摂取を含む)によって心臓に投与されることを開示する。Franco、第2欄、63〜69行目。Francoはまた、その方法が梗塞のサイズ(創傷領域または永続的損傷の領域)を標準におけるサイズの4分の1へ減少し得ることを開示する。Franco、表III。Francoに従って、FGFの機能は、「心筋梗塞の後の持続的期間にわたって血流を増加する」ことである。Franco、第1欄、42〜43行目。しかし、任意のFGF投与の急性の効果は、冠状血流を本質的に増加する血管拡張である。Francoは、100gの心臓当たり10μg〜1gのFGFでの処置のような結果として、組織学的研究は「心臓における毛管領域での顕著な増加を何ら示さない」ことを明確に開示する。Franco、第4欄13〜17行目。さらに、Francoは、このような大用量のFGFの投与が身体での任意の未発見の腫瘍における新脈管形成効果を有するか否かの論点を示さなかった。
【0012】
従って、新脈管形成を必要とする心臓の領域に新脈管形成を誘導するに効果的な量で、患者に対して新脈管形成因子の用量、および新脈管形成因子の1以上の用量を投与する方法を提供することが、本発明の目的である。標的部位での新脈管形成を誘導する一方、身体での他の所望されない部位で新脈管形成を誘導する危険性を減少する治療効果を提供する脈管形成因子を送達する用量および方法を提供することが、本願のさらなる目的である。
【0013】
上記の参考文献および本明細書中に列挙される他の全ての参考文献は、明らかにその全体が本明細書中に援用される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1) 薬学的に受容可能なキャリア中に有効量の脈管形成因子を含む薬学的組成物であって、該有効量の脈管形成因子が、約5ng〜約135,000ng未満の範囲の該脈管形成因子である、薬学的組成物。
(項目2) 凍結乾燥された形態である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目3) 前記脈管形成因子が、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮増殖因子−A(VEGF−A)、VEGF−D、線維芽細胞増殖因子(FGF)、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目1または2に記載の薬学的組成物。
(項目4) 前記脈管形成因子が、VEGF−A、VEGF−D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目3に記載の薬学的組成物。
(項目5) 前記VEGF−Aが、ヒトのVEGF−A121、VEGF−A165、VEGF−A189、またはVEGF−A206である、項目4に記載の薬学的組成物。
(項目6) 前記脈管形成因子が、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである、項目4に記載の薬学的組成物。
(項目7) 前記FGFが、FGF−2、あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである、項目6に記載の薬学的組成物。
(項目8) 前記FGFが、配列番号2、5または6のFGF−2である、項目7に記載の薬学的組成物。
(項目9) 前記脈管形成因子の酸化を阻止するために有効な量のキレート剤をさらに含む、項目2に記載の薬学的組成物。
(項目10) 前記FGF−2、あるいは前記脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインの酸化を阻止するために有効な量のキレート剤をさらに含む、項目9に記載の薬学的組成物。
(項目11) 前記有効量のFGF−2が、5ng〜67,500ngの範囲の前記脈管形成因子である、項目8に記載の薬学的組成物。
(項目12) 心筋層において血管灌流を増加するための方法であって、該方法は、有効量の脈管形成因子を、灌流における増加が必要な該心筋層の領域に注射する工程を包含し、該有効量が、脈管形成因子の約5ng〜135,000ng未満の範囲内である、方法。
(項目13) 前記有効量の脈管形成因子が、5ng〜67,500ngのPDGF、VEGF−A、VEGF−D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目12に記載の方法。
(項目14) 前記脈管形成因子が、VEGF−A、VEGF−D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目13に記載の方法。
(項目15) 前記VEGF−Aが、ヒトのVEGF−A121、VEGF−A165、VEGF−A189、またはVEGF−A206である、項目14に記載の方法。
(項目16) 前記脈管形成因子が、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである、項目14に記載の方法。
(項目17) 前記FGFが、FGF−2、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目16に記載の方法。
(項目18) 前記FGF−2が、配列番号2、5または6のアミノ酸配列を有する、項目17に記載の方法。
(項目19) 心筋層において血管密度を増加するための方法であって、該方法は、有効量の脈管形成因子を、灌流における増加が必要な該心筋層の領域に注射する工程を包含し、該有効量が、脈管形成因子の約5ng〜135,000ng未満の範囲内である、方法。
(項目20) 前記有効量の脈管形成因子が、5ng〜67,500ngのPDGF、VEGF−A、VEGF−D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目19に記載の方法。
(項目21) 患者の心臓において新脈管形成を誘導するための方法であって、該方法は、新脈管形成が必要な1以上の領域での該患者の心筋層に、有効量の脈管形成因子を直接注射する工程を包含し、該有効量の脈管形成因子が、約5ng〜135,000ng未満の該脈管形成因子である、方法。
(項目22) 前記有効量の脈管形成因子が、前記脈管形成因子の5ng〜67,500ngである、項目21に記載の方法。
(項目23) 前記患者がヒト患者である、項目22に記載の方法。
(項目24) 前記ヒト患者が冠状動脈障害(CAD)または心筋梗塞(MI)の徴候を有する、項目22に記載の方法。
(項目25) 前記脈管形成因子が、PDFG、VEGF−A、VEGF−D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目23に記載の方法。
(項目26) 前記脈管形成因子が、VEGF−A、VEGF−D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目25に記載の方法。
(項目27) 前記VEGF−Aが、ヒトのVEGF−A121、VEGF−A165、VEGF−A189、またはVEGF−A206である、項目26に記載の方法。
(項目28) 前記脈管形成因子が、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである、項目26に記載の方法。
(項目29) 前記FGFが、FGF−2、あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである、項目28に記載の方法。
(項目30) 前記FGF−2が、配列番号2、5または6のアミノ酸配列を有する、項目29に記載の方法。
(項目31) 3ヶ月までの間、ヒト心筋細胞においてFGF−2およびVEGFの産生を刺激するための方法であって、該方法は、新脈管形成が必要な1以上の領域での患者の心筋層に、有効量の脈管形成因子を直接注射する工程を包含し、該有効量の脈管形成因子は、約5ng〜135,000ng未満の該脈管形成因子である、方法。
(項目32) 該有効量の脈管形成因子が6.75μg〜67.5μgの該脈管形成因子である、項目31に記載の方法。
(項目33) 冠状動脈疾患についてヒト患者を処置するための方法であって、該方法は、該疾患について処置が必要な1以上の領域での心筋層に、有効量の脈管形成因子を直接注射する工程を包含し、該有効量の脈管形成因子が、約5ng〜135,000ng未満の該脈管形成因子である、方法。
(項目34) 前記有効量の脈管形成因子が、5ng〜67,500ngの該脈管形成因子である、項目33に記載の方法。
(項目35) 前記脈管形成因子が、PDFG、VEGF−A、VEGF−D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目34に記載の方法。
(項目36) 前記脈管形成因子が、VEGF‐A、VEGF‐D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目35に記載の方法。
(項目37) 前記VEGF−Aが、ヒトのVEGF−A121、VEGF−A165、VEGF−A189、またはVEGF−A206である、項目36に記載の方法。
(項目38) 前記脈管形成因子が、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである、項目37に記載の方法。
(項目39) 前記FGFが、FGF−2、あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである、項目38に記載の方法。
(項目40) 前記FGFがFGF−2である、項目39に記載の方法。
(項目41) 前記FGF−2が、配列番号2、5または6のアミノ酸配列を有する、項目40に記載の方法。
(発明の要旨)
出願人は、冠状閉塞の下流の心筋層に注射される場合、特定の用量の脈管形成因子が、休止する局所での灌流の増加、局所心機能における改善、および増加した血管分布によって反映されるような治療的応答を有する心筋層の部分を提供したことを予期せず見出した。特に、出願人は、単一の注射としてかまたは必要な領域における一連の注射として心筋層に直接投与された場合、単位用量(すなわち、約5ng/用量〜135,000ng未満/用量)の脈管形成因子が、投与の領域における心筋層での冠状新脈管形成を誘導するが、身体でのほかの領域において十分に希釈して新脈管形成誘導の任意の危険性を最小化することを見出した。本発明の脈管形成因子の単位用量が一連の注射として投与される場合、この一連の注射は、同一日での単一の手順としてかまたは必要とされる連続する日数もしくは交互の日数での一連の注射として投与される。しかし、投与される脈管形成因子の累積の用量は、代表的には、約5ng〜135,000ng(135μg)未満、より代表的には5ng〜67,500ng(67.5μg)である。従って、1つの局面において、本発明は、薬学的に受容可能なキャリア中に約5ng〜135,000ng未満(好ましくは、5ng〜67,500ng)の脈管形成因子を含む、単位用量の薬学的組成物(「薬学的組成物」)に関する。別の局面において、本発明は、薬学的に受容可能なキャリア中に約5ng〜135,000ng未満(好ましくは、5ng〜67,500ng)の脈管形成因子を含む、単位用量の薬学的組成物(「単位用量の組成物」)に関する。
【0015】
なお別の局面では、本発明は、新脈管形成を誘導するか、または局所的灌流を増大させるか、または心臓機能を高めるか、または血管密度を増大させるような処置の必要がある患者の、新脈管形成を誘導するための方法、または局所的灌流を増大させるための方法、または心臓機能を高めるための方法、または血管密度を増大させるための方法に関し、この方法は、それぞれ、このような新脈管形成、または局所的灌流の増大、または心臓機能の高まり、または血管密度の増大の必要がある心筋層の領域に単位投薬量の脈管形成因子を、単一の注射としてまたは一連の注射として直接注射する工程を包含する。単位投薬量を注射する工程が、単一の注射として、または好ましくは、同じ日に一連の注射として行われることもまた上記の方法の範囲内である。上記の方法を単一の注射または一連の注射を用いて行うか否かによらず、1以上の注射の間に新脈管形成が必要な心筋層の領域へと注射される累積量の脈管形成因子は、約5ng〜135,000ng(135μg)未満である。
【0016】
本発明の単位用量を患者の体重1キログラム(kg)あたりのμgの脈管形成因子として表現することもまた適切である。このように表現する場合、本発明による心筋内(IMc)注射のための脈管形成因子の用量は、患者の体重1kgあたり(本明細書中以下、「μg/kg」)約0.06μg脈管形成因子〜約10.0μg脈管形成因子の範囲にわたる。より代表的には、脈管形成因子の用量は、0.06μg/kg〜6.0μg/kgの範囲にわたる。しかし、脈管形成因子は、本発明の方法において患者の心筋層に直接注射されるので、患者の体重に関連した投薬量における代表的な希釈効果は最少であり、同じ量の脈管形成因子の全身投与または冠状動脈内(intracoronory)投与と比較した場合に特に最少である。
【0017】
新脈管形成が局所的灌流を増大させ、そして冠動脈の血管分布(coronary vascularity)を増加させることが所望される2つの疾患は、冠動脈疾患(CAD)および心筋梗塞(MI)である。従って、別の局面では、本発明はまた、冠動脈疾患(CAD)についての患者を処置するための方法に関し、この方法は、単位投薬量の脈管形成因子を、CADの症状を発現する心筋層の部分に単一の注射としてまたは一連の注射として直接注射する工程を包含し、単位投薬量は、新脈管形成を誘導するため、または局所的灌流を増大させるため、またはピーク負荷でのDSEによる心筋機能を高めるため、または上記症状を発現する心筋層の領域における血管分布を増大させるために有効である量の脈管形成因子(約5ng〜135,000ng未満)を含む。別の局面では、本発明は、心筋梗塞(MI)についての患者を処置するための方法に関し、この方法は、単位投薬量の脈管形成因子を、上記MIの結果として冠状動脈不全の症状を発現する心筋層の領域に単一の注射としてまたは一連の注射として直接注射する工程を包含する。上記の方法では、上記心筋梗塞を処置する際に有効である単位用量の脈管形成因子は、約5ng〜135,000ng未満の脈管形成因子/単位用量であり、より代表的には5ng〜67,500ngの脈管形成因子/単位用量である。
【0018】
単位用量は代表的に、1日に心筋層内に注射されるが、単位用量の脈管形成因子を注射する工程が、必要に応じて、連続した日に、または1日おきに、または毎週、または毎月、行われるかまたは反復されることは本発明の範囲内である。上記の方法が反復されるか否かにかかわらず、任意の単一の介入の間に新脈管形成の必要な心筋層の領域に注射される累積量の脈管形成因子は、約5ng〜135,000ng未満の上記脈管形成因子である。
【0019】
本発明の単位用量または薬学的組成物において使用するために適切な脈管形成因子は、以下からなる群より選択される:血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮増殖因子(VEGF−A)、VEGF−B、VEGF−D、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β1)、線維芽細胞増殖因子(FGF)またはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテイン。好ましくは、脈管形成因子は、VEGF−A、VEGF−D、FGFまたはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。より好ましくは、脈管形成因子は、FGF(例えば、FGF−1、FGF−2またはFGF−5)またはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。最も好ましくは、脈管形成因子は、FGF−2、またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。
【0020】
本発明の方法によって提供される治療効果の持続時間は、全く意外である。特に、0.06μg/kg(1,350ngの総用量)の組換えウシFGF−2(配列番号2)という単一単位用量が注射によって、左回旋冠動脈の90%閉塞を有する(すなわち、冬眠心筋のモデルを提供する)ミニブタ(miniswine)の心筋層に直接投与された場合、冬眠心筋組織における安静時平均血流(MBF)、壁運動スコア指数(WMSI)、血管灌流、心筋機能および血管密度の改善が見られ、この改善は、6ヶ月間という長期の測定期間の間、継続した。例として、安静時MBFは、64±0.04%の非虚血性中隔流(septal flow)というベースラインから、処置後1ヵ月に71±0.05%(ベースラインに対してp<0.05)へと増大し、そして処置後3ヵ月に76±0.06(ベースラインに対してp<0.05)へと増大した。処置後6ヵ月に、安静時MBFは、ベースラインでの非虚血性中隔流の61.3±4.4%から、82.8±3.1%へと増大した。収縮性予備力の尺度として受け入れられている別の試験では、(LCxの90%狭窄後)LCx領域について安静時に測定された壁の運動スコア指数(WMSI)は、2.4±0.2から処置後6ヶ月に2.2±0.2(ベースラインに対してp=0.08)へと改善された。同様に、LCx領域(LCxの90%狭窄後)についてのピーク負荷で測定された壁運動スコア指数(WMSI)は有意に改善され、処置後6ヵ月で2.2±0.4から1.8±0.3へと減少した(ベースラインに対してp=0.05)。壁運動スコア指数におけるこれらの減少は、虚血における減少と一致する。対照的に、脈管形成因子についてのビヒクルで処置された患者(ミニブタ)は、処置後6ヶ月の期間の間のどの時点でも、安静時MBFにおいて有意な変化を示さず、そしてそれらの安静時WMSIにおいても負荷WMSIにおいても有意な変化を示さなかった。
【0021】
さらに、冬眠心筋の上記のブタモデルにおける単一単位用量のFGF−2(0.06μg/kg、すなわち、1.35μg)の心筋内(IMc)注射後、正規化された灌流(これは、灌流における変化の%として報告される)は、生理食塩水についてのそれぞれ、3ヶ月および6ヶ月での6%および13%の増加と比較して、それぞれ、3ヶ月および6ヶ月で、18%から38%へと測定期間を通して増加し続けた。図4を参照のこと。本発明の単位用量の3つの異なる実施形態(すなわち、0.06μg/kg(1.35μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「低」用量);0.6μg/kg(13.5μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「中」用量);6.0μg/kg(135μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「高」用量))を、冬眠心筋(LCxの90%閉塞)のブタモデルにIMc注射し、そしてアメロイド(ameroid)モデル(LCxの100%閉塞)における「中」用量の冠状動脈内(intracoronary)(IC)注射に対して比較した場合、全てのIMc注射は、3ヶ月で、IC注射によって生成された灌流よりも優れた、正規化された灌流を生じた。図7および図8。驚くべきことに、中用量は、投与後3ヶ月で、低用量または高用量のいずれによって生成される灌流よりも10%大きな正規化された灌流を生じた。図7。
【0022】
ドブタミン(dolbutamine)負荷心エコー図(DSE)によって測定した場合、心筋機能は、本発明の3つの異なる単位用量(低い、中程度および高い)の各々の、冬眠心筋のブタモデルへの注射後3ヶ月および6ヶ月で、アメロイドブタモデルにおけるプラシーボの注射および「中」用量のIC注射と比較して、心筋機能(より少ない数)において統計的に有意な増加を示した。図5および図11を参照のこと。冬眠心筋のブタモデルへの単一単位用量のFGF−2(1.35μg)のIMc注射は、生理学的食塩水で処置した心筋層の同じ一定の容量における毛細血管の数(17,000)に対する、FGF−2処置した虚血性心筋層の一定の容量における毛細血管の数(44,000)によって測定した場合、投与後6ヵ月に処置した冬眠心筋の血管分布における統計的に有意な(p<0.05)増加を生じた。図6を参照のこと。
【0023】
最終的に、FGF−2でICまたはIMcで処置した心筋層の虚血性領域由来の心筋組織のウェスタンブロット分析は、VEGF(VEGF165として測定される)およびFGF−2の有意なアップレギュレーションが存在することを示し、これは、ビヒクル単独で処置した領域に対して、観察期間の最後(すなわち、注射後3ヶ月)でさえも検出可能であった。図10を参照のこと。驚くべきことに、FGF−2で処置した虚血性細胞は、統計的に有意な量のVEGFおよびFGF−2の両方を処置後3ヶ月で産生した。より驚くべきことに、最大濃度(290pg/mlよりも高い)の細胞内FGF−2が、「中」用量(0.6μg/kg、すなわち、13.5μg)の配列番号2のFGF−2のIMcで3ヶ月前に処置された虚血性心筋組織において観察された。図10を参照のこと。対照的に、「高」用量(6.0μg/kg、すなわち、135μg)のFGF−2は、匹敵する細胞内濃度のVEGF(約100pg/ml)を提供するとはいえ、約165pg/mlである濃度の細胞内FGF−2しか提供しなかった。図10を参照のこと。従って、「中」用量のFGF−2は、IMc投与された場合に、処置された虚血性心筋細胞が内因性VEGFおよび内因性FGF−2を産生することを処置後3ヶ月にわたって刺激するだけでなく、これらの細胞が、「高」用量で処置された細胞によって産生される濃度のほぼ2倍の濃度のFGF−2を産生することをも刺激する。本明細書中に提供されるこのデータおよび他のデータを考慮して、本発明者らは、予想外に優れた量の細胞内FGF−2の産生が、約0.3μg/kg(または6.75μg)〜約3.0μg/kg(または67.5μg)の範囲にわたる用量のFGF−2のIMc注射によって刺激されると予測する。(6ヶ月でのデータは、まだ利用可能でない。)VEGFおよびFGF−2の両方の存在は、灌流、心筋機能および血管透過性において増大を引き起こす機構を示唆する。従って、別の局面では、本発明は、虚血性心筋組織におけるVEGFおよびFGF−2の細胞内濃度を増大させるための方法に関し、この方法は、虚血性心筋組織に、単位用量の脈管形成因子を注射する工程を包含する。好ましくは、脈管形成因子はFGFであり;より好ましくは、FGF−2である。
【0024】
本発明の方法は、処置後6ヶ月までにわたって、種々のコントロール群と比較した場合、心臓機能を改善することが見出された。特に、ピーク負荷正規化局所機能スコアにおける変化の%は、IMc投与された群について処置後3ヶ月および6ヵ月後に減少する(このことは、改善された心臓機能を示す)ことが見出され、そしてIC群およびプラシーボ群について増大する(このことは、機能の減少を示す)ことが見出された。図11。さらに、正規化された機能スコアにおける最大の減少は驚くべきことに、「低」用量群で生じ、そしてさらにより驚くべきことに、減少しつづける機能スコアによって、局所的心筋機能は、低用量での処置後6ヶ月まで改善され続けることが示された。図11。
多くの脈管形成因子(例えば、酸性FGF(aFGFまたはFGF−1)、塩基性FGF(bFGFまたはFGF−2)、およびVEGF)は、グリコサミノグリカン(glycosoaminoglycan)結合タンパク質である。グリコサミノグリカン(「プロテオグリカン」または「ムコ多糖」としても公知)の存在は、脈管形成活性およびこれらの脈管形成因子のAUCを最適化する。結果として、単位投薬量のFGF−1、FGF−2、VEGF−A、VEGF−B、VEGF−Dまたはそれらの脈管形成フラグメントおよびムテインは、必要に応じて、グリコサミノグリカン(例えば、ヘパリン)のIV投与の20分間以内に投与される。しかし、本発明者らの経験では、アミノグリカンの存在は、単位用量の脈管形成因子(例えば、FGF−2)が本発明の方法に従ってIMc投与された場合、効力のためには必要ではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、ヒトにおいて20分間の期間にわたるIC注入によって投与された6つの異なる用量のrFGF−2についての、時間(時間)に対する平均組換えウシFGF−2血漿濃度のプロットである。図1におけるrFGF−2の6つの用量は、0.33μg/kg、0.65μg/kg、2μg/kg、6μg/kg、12μg/kgおよび24μg/kgの除脂肪体重(LBM)である。
【図2】図2は、6つの用量のrFGF−2についての図1についてのpg・hr/mlの各個々の患者のrFGF−2曲線下面積(AUC)のプロットであり、そしてIC注入後の全身rFGF−2曝露の用量線形性を示す。
【図3】図3は、「rFGF−2注入前の分」においてヘパリン投与の時間の関数として個々のヒト患者のrFGF−2用量で正規化したAUCのプロットであり、そしてrFGF−2 AUCに対するヘパリン投与のタイミングの影響を示す。rFGF−2は、組換えウシFGF−2であった。
【図4】図4は、以下の3ヵ月後および6ヶ月後に陽子射出断層撮影法(PET)によって測定した場合の、冬眠心筋のブタモデルにおける正規化された心筋灌流(ベースラインからの変化の%として報告される)を比較する棒グラフである:偽投与;生理食塩水;および1.35μgのrFGF−2(配列番号2)を含む単位用量。
【図5】図5は、以下の3ヵ月後および6ヶ月後にベースラインでの、冬眠心筋のブタモデルにおけるドルブタミンドブタミン負荷心エコー図によって心筋機能を比較する棒グラフである:偽投与;生理食塩水;および1.35μgのrFGF−2(配列番号2)を含む単位用量。
【図6】図6は、以下の6ヵ月後での、冬眠心筋のブタモデルにおける(LCxにおける90%閉塞から下流の)虚血性心筋組織における毛細血管密度(血管数)を比較する棒グラフである:偽投与;生理食塩水;および1.35μgのrFGF−2(配列番号2)を含む単位用量。
【図7】図7は、以下を投与した3ヵ月後に陽子射出断層撮影法(PET)によって測定された場合の、冬眠心筋のブタモデルにおいて正規化された心筋灌流(ベースラインからの変化の%として報告される)を比較する、棒グラフである:生理食塩水(プラシーボ);0.06μg/kg(1.35μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「低」);0.6μg/kg(13.5μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「中」);6.0μg/kg(135μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「高」)。棒グラフは、正規化された灌流における最大の変化の%(すなわち、27.5%の増加)が、「中」用量について生じ、「低」用量および「高」用量は、それぞれ、17.5%および17%という匹敵する変化を示すことを示す。図7におけるデータは、2つの別の実験(明るい棒および暗い棒)の結果であり、「uld」(超低用量)と称されるプラシーボは、「低」用量についてのプラシーボであり、明るく着色した棒として示す。
【図8】図8は、0.6μg/kg rFGF−2の冠状動脈内(IC)注入後1ヶ月および3ヶ月でのアメロイド(LCxの100%閉塞)心筋層のブタモデルにおける正規化された心筋灌流(PETによって測定された場合)における変化の%を、以下の心筋内(IMc)注射後1ヶ月および3ヶ月での冬眠心筋(LCxの90%閉塞)のブタモデルにおける正規化された心筋灌流における変化%に対して比較する棒グラフである:生理食塩水(プラシーボ);0.6μg/kg(13.5μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「中」);6.0μg/kg(135μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「高」)。この棒グラフは、正規化された灌流における最大の増加%が、処置後3ヶ月で「中」用量のrFGF−2 IMcについて生じたことを示す。「高」用量は、予想外に、「中」用量について達成されたよりもより低い増大を正規化された灌流において示した。
【図9】図9は、0.6μg/kg(「中」用量)または6.0μg/kg(「高」用量)のrFGF−2(配列番号2)IMcで処置した、冬眠心筋のブタモデルについての血管密度(処置された心筋層の指定された容量における平均血管数)を、6.0μg/kgのrFGF−2(配列番号2)ICで処置したアメロイドブタモデル(LCxの100%閉塞)に対して、生理食塩水IMc(プラシーボ)での処置に対して、比較する棒グラフである。この結果は、血管密度における最大の増大が、IMc投与された「中」用量(0.6μg/kgまたは13.5μgのrFGF−2)によって生じたことを示す。
【図10】図10は、アメロイドブタモデル(LCxの100%閉塞)における0.6μg/kg(13.5μg)の配列番号2のFGF−2でのIC、または冬眠心筋(LCxの90%閉塞)のブタモデルのビヒクルもしくは0.6μg/kg(13.5μg)の配列番号2のFGF−2(「中」用量)もしくは6.0μg/kg(135μg)の配列番号2のFGF−2(「高」用量)での処置後3ヶ月における虚血性心筋細胞におけるVEGF(VEGF165として測定)およびFGF−2の細胞内濃度(pg/ml)を比較する、棒グラフである。驚くべきことに、FGF−2で処置した虚血性細胞は、統計的に有意な量のVEGFおよびFGF−2の両方を処置後3ヶ月まで産生した。より驚くべきことに、最大濃度の細胞内FGF−2は、「中」用量のIMcで処置された細胞によって誘導された。
【図11】図11は、アメロイドブタモデルにおけるプラシーボもしくは「中」用量(0.6μg/kg(13.5μg))のFGF−2(配列番号2)ICでの、または冬眠心筋のブタモデルにおける「低」用量(0.06μg/kg(1.35μg))のFGF−2(配列番号2)IMc、もしくは「中」用量(0.6μg/kg(13.5μg))のFGF−2(配列番号2)IMc、もしくは「高」用量(6.0μg/kg(135μg))のFGF−2(配列番号2)IMcでの、処置後3ヶ月および6ヶ月でのDSEによるピーク負荷正規化局所機能スコアにおける変化の%を比較する、棒グラフである。図11は、ピーク負荷正規化局所機能スコアにおける変化の%が、IMc投与群について処置後3ヵ月および6ヶ月で減少した(これは、より良好な機能を示す)ことを示し、そしてピーク負荷正規化局所機能スコアにおける変化の%は、IC群およびプラシーボ群について増大した(これは、減少している機能を示す)。さらに、正規化された機能スコアにおける最大の減少は、「低」用量群について生じ、そして驚くべきことに、減少している機能スコアによって、処置後6ヶ月まで機能が改善され続けていることを示した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(発明の詳細な説明)
本発明は、冠状動脈疾患(CAD)の症状を示す患者のヒト臨床試験および2つの冠状不全のブタモデルにおいて種々の型で組換え脈管形成因子を投与することによって生成される効果の比較試験に基づく。ブタの心臓は、ヒトの心臓と特に関連した型であると考えられている。なぜなら、ヒト冠状循環およびその天然の側副循環が少ないことが似ているからである。Battlerら「Intracoronary Injection of Basic Fibroblast Growth Factor Enhances Angiogenesis in Infarcted Swine Myocardium」JACC、22(7):2001−6(1993年12月)2002頁、col.1を参照のこと(「心筋虚血のイヌモデルは、ブタモデルとは対立して天然に存在する側副循環の豊富さに起因して批判され、このブタモデルは、その相対的に少ない天然の冠状循環およびヒト冠状循環に対するその類似さにおいて「優れて」いる。」)。使用される1つの動物モデルは、冬眠心筋のブタモデルであった。このモデルは、左の回旋状冠状動脈(LCx)の近位末端上に水圧閉塞器(occluder)を外科的に配置することによって作製された。閉塞部に対して遠位に、90%で閉塞を維持するために閉塞を連続的にモニターする包埋された流量プローブが配置された。冬眠心臓モデルは、冠状動脈疾患に特に関連したモデルである。心筋は、健康、冬眠または死として分類することができた。死組織は、死んでいないが損傷しており、収縮せず、そしてたとえ適切に血を供給されてももはや収縮し得ない組織である。冬眠組織は、収縮していない筋組織であるが、血を適切に再供給されると収縮可能である組織である。健康な心臓組織は、強い排出と共同する強い電気的シグナルによって同定される。「死んだ心臓組織または疾患の心臓組織は、機能不全の排出(すなわち、健康な組織のものと反対の方向の排出)と共同する弱い電気的シグナルによって同定される。虚血心臓組織、または冬眠もしくは気絶の心臓組織は、欠陥した排出と共同する強い電気シグナルによって同定される」。米国特許第5,897,529号(Ponzi)(これは、1999年4月27日発行)を参照のこと。冬眠組織の診断は、重要である。なぜなら、一旦閉塞が取り除かれると、正常な機能の迅速な回復が存在すると広く考えられているからである。米国特許第5,743,266(Levene)(1998年4月28日発行)を参照のこと。従って、心筋の冬眠モデルは、冠状動脈疾患(CAD)および/または慢性狭心症(ここで、1つ以上の冠状血管は、部分的に閉塞されている)を有するヒト患者に起こることに類似している。
ブタアメロイド(ameroid)モデルにおいて、アメロイド圧迫器(これは、その内部表面に吸湿性物質を有するドーナツ様のバンドまたはリングである)が、ブタのLCxの近位末端の周辺に配置される。この吸湿性物質は、徐々に膨張し、そして10日間〜3週間に動脈の100%の閉塞をもたらす。冬眠モデル(ここで、閉塞の割合は、水圧的に制御可能であり、一貫しそして確実性である)とは異なり、アメロイドモデルは、一貫した制御を欠く。同様に、アメロイドモデルにおける完全な閉塞は、梗塞および広範で自発的な側副形成を導き、これは、休止状態において正常に戻る厄介な(mean)血流を引き起こし、特定の量の側副形成が外因性に投与される脈管形成因子に帰すことをより困難にする。従って、アメロイドモデルは、冬眠心筋モデルのようなストリンジェントなモデルではない。さらに、アメロイドモデルによって提供される100%の閉塞は、このアメロイドモデルを心筋梗塞により類似させ、ここで、1つ以上の冠状動脈の100%閉塞が存在する。
上記のモデルを用いて、出願人は、脈管形成因子の用量(すなわち、約5ng/用量から135,000ng/用量未満)(すなわち、単位用量)は、単一注射としてかまたは連続注射として心筋の虚血領域に直接投与される場合、投与領域の心筋において冠状新脈管形成を誘導するが体内のいずれかで十分に希釈されて新脈管形成を誘導することのいずれの危険性も最小化するようになるということを発見した。より代表的には、患者の心筋に投与される累積的な脈管形成因子の量は、5ng〜67,500ngの脈管形成因子である。従って、1つの局面において、本発明は、薬学的に受容可能なキャリア中に約5ngから135,000ng未満(好ましくは、5ng〜67,500ng)の脈管形成因子を含む単位用量の薬学的組成物(「単位用量」)に関する。
【0027】
本明細書中に使用される場合、用語「新脈管形成」または「冠状新脈管形成」は、冠状循環において側副として作用する毛細血管から細動脈の範囲のサイズである新規血管の形成を意味する。本発明において、新脈管形成は、心筋灌流における変化を評価する当該分野で受け入れられている1つ以上の指標、ドブタミン(dolbutamine)負荷超音波心臓検査図によって測定される機能、および毛細血管密度を用いて測定された。
本明細書中に使用される場合、用語「脈管形成因子」は、以下:PDGF、VEGF−A、VEGF−B、VEGF−D、TGF−β1、FGFからなる群から選択されるメンバー、またはこれらの脈管形成的に活性なムテインもしくはフラグメントを意味する。好ましくは、脈管形成因子は、VEGF−A、VEGF−DもしくはFGFまたはこれらの脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。より好ましくは、脈管形成因子はFGFである。最も好ましくは、脈管形成因子はFGF−2またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。
句「脈管形成的に活性なフラグメント」は、それが由来する親分子の脈管形成活性の少なくとも80%を示す、タンパク質またはポリペプチドのフラグメントの脈管形成因子を意味する。
句「脈管形成的に活性なムテイン」は、本明細書中に使用される場合、以下:12のgapオープンペナルティ、および1のgap伸長ペナルティ、の検索パラメーターを用いるアフィンgap検索を使用するMSPRCHプログラム(Oxford Molecular)で実行されるように、Smith−Watermanホモロジー検索アルゴリズム(Meth.Mol.Biol.70:173−187(1997))によって決定される場合に、以下:PDGF、VEGF−A、VEGF−B、VEGF−D、TGF−β1、およびFGFからなる群から選択される任意の天然に存在する脈管形成因子に対して65%の配列同一性(ホモロジー)を有し、そして少なくとも65%の配列同一性を有する天然に存在する脈管形成因子の脈管形成活性の少なくとも80%を保持する、単離および精製された、組換えタンパク質または組換えポリペプチドを意味する。好ましくは、脈管形成的に活性なムテインは、天然に存在する脈管形成因子に対して、少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、そして最も好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する。周知でありホモロジー/同一性スキャンのアルゴリズムプログラムを慣用的に使用される他のものとしては、PearsonおよびLipman、PNAS USA、85:2444−2448(1988);LipmanおよびPearson、Science、222:1435(1985);Devereauxら、Nuc.Acids Res.、12:387−395(1984);またはAltschulら、Mol.Biol.、215:403−410(1990)のBLASTP、BLASTNもしくはBLASTXアルゴリズムが挙げられる。これらのアルゴリズムを用いるコンピューター化されたプログラムがまた利用可能であり、そして以下が挙げられるがこれらに限定されない:GAP、BESTFIT、BLAST、FASTAおよびTFASTA(これらは、Genetics Computing Group(GCG)パッケージ、第8版、Madison WI,USAから市販される);およびIntellegenetics,Mountain View CAによるPC/Geneプログラム中のCLUSTAL。好ましくは、配列同一性の割合は、プログラムによって決定されるデフォルトパラメーターを用いることによって決定される。
句「配列同一性」は、本明細書中に使用される場合、特定化されたムテインのアミノ酸配列の連続セグメントが天然に存在する脈管形成因子のアミノ酸配列と整列されて比較される際に、そのムテイン配列内で同様に配置されたことが見出される同じアミノ酸の割合をいうことが意図される。
ムテイン中のアミノ酸配列同一性の割合を考慮する場合、同じアミノ酸残基の位置は、保存的アミノ酸置換(これは、タンパク質またはタンパク質機能の特性に影響を与えない)の結果として参照タンパク質とは異なり得る。これらの場合、配列同一性の割合は、保存的置換されたアミノ酸において類似性を取るために上へ調節され得る。このような調節は、当該分野で周知である。例えば、MeyersおよびMiller「Computer Applic.Bio.Sci.、4:11−17(1988)を参照のこと。
【0028】
本発明の「脈管形成的に活性なムテイン」の脈管形成因子を調製するために、当該分野で公知であり、そして/またはGilmanら、Gene、8:81(1979)もしくはRobertsら、Nature、328:731(1987)に教示されるような、部位指向型変異誘発に関する標準的な技術を使用する。1つの部位指向型変異誘発技術を用いて、1つ以上の点変異が、1つ以上の保存的アミノ酸置換または内部欠失を導入する。保存的アミノ酸置換は、通常の電荷、疎水性/親水性、および/または置換されるアミノ酸の立体的容積を保存する置換である。例として、以下の群の間の置換は保存的である:Gly/Ala、Val/Ile/Leu、Lys/Arg、Asn/Gln、Glu/Asp、Ser/Cys/Thr、およびPhe/Trp/Tyr。天然に存在する脈管形成因子の配列由来のかなりの(35%まで)バリエーションは生じるタンパク質またはポリペプチドが上記に特定される制限内の脈管形成活性を保持する限り、許容される。
システイン枯渇ムテインは、本発明の範囲内のムテインである。これらのムテインは、上記のような部位指向型変異誘発を用いてか、または米国特許第4,959,314号(「’314特許」)、題名「Cysteine−Depleted Muteins of Biologically Active Proteins」に記載される方法に従って、構築される。この‘314特許は、生物学的活性および置換の効果を決定する方法を開示する。システイン枯渇は、ジスルフィド形成に関与しない2つ以上のシステインを有するタンパク質において有用である。
本発明の薬学的組成物および単位用量中の脈管形成因子のうちの1つは、PDGFである。PDGFは、3つの二量体で脈管形成的に活性なタンパク(PDGF−AA、PGDF−ABおよびPGDF−BB)のファミリーであり、ここで、別々の遺伝子は、それぞれ、A鎖およびB鎖をコードする。PDGFレセプターα型(PDGFR−α)は、PDF二量体のA鎖またはB鎖の両方を高い親和性で結合し、一方、PDGFレセプターβ型(PDGF−β)は、B鎖のみを結合する。全てのPDGFは、インビボにおいて脈管形成的に活性である。Carmelietら、「Vascular development and disorders:Molecular analysis and pathogenic insights」Kidney Internatl.、53:1519−1549(1998);Risauら「Platelet−derived growth factor is angiogenic in vivo」Growth Factors、7:261−266(1992);Martinsら「The role of PDGF−BB on the development of the collateral circulation after acute arterial occlusion」10:299−306(1994);ならびにBrownら「Platelet−derived growth factor BB induces functional vascular anastomoses in vivo」PNAS USA、92:5920−5924(1995)(これらは、本明細書中にその全体が参考として本明細書によって援用される)を参照のこと。前または後のいずれかに本明細書中に引用される全ての他の参考文献は、その全体が本明細書中に参考として明確に援用される。211アミノ酸残基のヒトPDGF A鎖前駆体のDNA配列およびアミノ酸配列は、当該分野で公知である。Hedlinらに対する米国特許第5,219,759号、題名「Recombinant DNA Encoding PDGF A−chain Polypeptide and Expression Vectors」(これは、1993年6月15日発行)(「’759特許」)の図1を参照のこと。125残基の成熟PDGF A鎖のアミノ酸配列は、’759特許の図1の残基87−211に対応する。’759特許の図2は、196アミノ酸残基のみを有する改変体PDGF A鎖前駆体タンパク質のcDNA配列および推定アミノ酸配列をまた開示し、ここで、110残基の成熟PDGF A鎖は、この推定配列の残基87〜196に対応する。成熟PDGF A鎖の最初の107残基(すなわち、残基87〜193)は、同一である。’759特許の図1および2を参照のこと。従って、残りの残基(すなわち、成熟PDGF A鎖の残基108〜125)は、活性に関して重要ではなく、そして有害な効果を伴わずに保存的置換され得る。さらに、’759特許の図2の110残基の改変体PDGF A鎖が示すように、125残基成熟PDGFの残基110を超える残基は、活性に関して重要ではなく、そして欠失されて、本発明においてなお機能的であると予測される一連の欠失ムテインを提供し得る。別の参考文献は、成熟A鎖が104アミノ酸を有することを開示する。米国特許第5,512,545号、題名「PDGF−B Analogues」(これは、Brownらの名前で1996年4月30日に発行された)(「’545特許」)のcol.2、行40〜44を参照のこと。従って、この’545特許は、成熟PDGF−Aの最初の104を超えるいずれの残基も、PDGF−A活性に重要ではないことを示唆する。
同様に、ヒトPDGF B鎖からのDNA配列および推定アミノ酸配列は、当該分野で公知であり、それぞれ、’545特許の図2および図3に開示される。成熟PDGF−A鎖およびPDGF−B鎖は、60%の相同性を示し、そして8個のシステイン残基各鎖においてが保存されている。PDGF B鎖は′545特許の図2および配列番号1に示される160アミノ酸の完全相補鎖を有し得るが、少なくとも51残基は、活性を損失することなく取り除かれ得る。生じるカルボキシ短縮PDGF B鎖は、109残基(すなわち、’545特許の配列番号1および図3の残基1〜109)を有し、そして残基25(Ile)と残基37(Phe)との間に生じる結合領域を含む。PDGF B鎖が酵母中で発現される場合、残基28位もしくは32位またはこれらの両方のArgを、塩基性でない中性の残基に置換して、酵母細胞による切断を回避することが望ましい。PDGF A鎖およびB鎖を発現するための方法、ベクター、および細胞、ならびにPDGFの3つのアイソフォームを作製するためにこれらのA鎖およびB鎖を合わせるための、方法、ベクターおよび細胞は、当該分野で周知である。上記に引用されるような米国特許第5,605,816号および同第5,512,545号を参照のこと。
本発明の薬学的組成物および単位用量において活性な薬剤である別の脈管形成因子は、VEGFである。VEGFは、塩基性であり、約45,000ダルトン(45kD)の分子量を有するホモ二量体タンパク質であり、VEGF(またはVEGF−A)、VEGF−B、VEGF−CおよびVEGF−Dと示される4つのホモログを有する。本明細書中ににおける明確化のために、このファミリーの最初のメンバーであるVEGFは、本明細書中にVEGF−Aといわれる。VEGFファミリーのタンパク質は、高度に保存された中央領域を有することによって特徴付けられ、相同な位置の15個のシステイン残基(このうちの8個は分子内ジスルフィド結合および分子間ジスルフィド結合に関与する)の不変な存在によって特徴付けられる。Ferraraら「The Biology of Vascular Endothelial Growth Factor」Endocrine Reviews、18(1):4−25 (1997)の図4を参照のこと。結果として、4個のVEGFホモログは、類似した形状(三次構造)を有し、そして同時発現された場合は自発的にヘテロ二量体を形成し得る。従って、分子内システインを保持するVEGFのN末端およびC末端での欠失ムテインは、発現されて、その形状を保持し、二量体を形成し、そして生物学的に活性であることが予想される。VEGFの15個の保存システイン残基のうちの8個の相同性配置は、例えば、WO98/02543の図3;およびKeckら「Vascular Permeability Factor,an Endothelial Cell Mitogen Related to PDGF」Science 246:1309−1312(1989)の1311ページ、col.2および図4に比較して示されるように、PDGFファミリーの8個の保存システイン残基に対応する。
【0029】
ヒトVEGF−Aは、4つのアイソフォームで存在し、それぞれ、121、165、189および206アミノ酸を有する。これらの4つのアイソフォームは、それぞれ、VEGF−A121、VEGF−A165、VEGF−A189およびVEGF−A206として示される。Ferraraら「The Biology of Vascular Endothelial Growth Factor」Endocrine Reviews、18(1):4−25(1997)の5頁を参照のこと。このヒトVEGF−A遺伝子は、7個(7)のイントロンによって分けられた8個(8)のエキソンに組織され、そしてコード領域は、14kbに及ぶ。同上。単一VEGF−A遺伝子の選択的エキソンスプライシングは、全ての異質性の原因である。VEGF−A165は、エキソン6によってコードされる残基を欠き、一方VEGF−A121は、エキソン6および7によってコードされる残基を欠く。同上。VEGF−Aの3つの短いアイソフォームは、VEGF−A206に基づき、そしてこの分子のカルボキシ半分に生じるスプライス改変体を反映する。しかし、カルボキシ末端の最後の6アミノ酸(エキソン8)は、4つ全てのスプライス改変体で保存されている。
ヒトVEGF−A121をコードするcDNA配列および対応するアミノ酸配列は、当該分野で周知である。Leungら「Vascular endothelial growth factor is a secreted angiogenic mitogen」Science 246:1306−1309(1989)の1307頁、col.3において記載されるように図2Bを参照のこと。ヒトVEGF−A165に関するcDNA配列および推定アミノ酸配列はまた、当該分野で周知である。Leungら「Vascular endothelial growth factor is a secreted angiogenic mitogen」Science 246:1306−1309(1989)の1307頁および図2Bを参照のこと。同様に、ヒトVEGF−A189からのcDNA配列および推定アミノ酸配列は、1991年から当該分野で周知である。Keckら「Vascular Permeability Factor,an Endothelial Cell Mitigen Related to PDGF」Science、246:1309−1312(1989)を参照のこと;Tischerら「The human gene for vascular endothelial growth factor」J.Biol.Sci.、266:11947−11954(1991)もまた参照のこと。最後に、ヒトVEGF−A206のcDNA配列および推定アミノ酸配列もまた、当該分野で周知である。Houckら「The vascular endothelial growth factor family:identification of a fourth molecular species and characterization of alternative splicing of RNA」Mol.Endocrinol.5:1806−1814(1991)の図2Aを参照のこと。
VEGF−Aの4つのスプライス改変体(アイソフォーム)のアミノ酸配列の重複比較は、Ferraraら「Molecular and Biological Properties of the Vascular Endothelial Growth Factor Family of Proteins」Endocrine Reviews 13(1):18−32(1992)の21頁、図1に示される。細胞外環境において大量に可溶性である最も短いアイソフォームのVEGF−A121は、塩基性アミノ酸残基に富む大部分のカルボキシ末端(すなわち、エキソン6および7)が存在しないことに起因してわずかに酸性である。より長いアイソフォームであるVEGF−A165、VEGF−A189およびVEGF−A206は、VEGF−A121よりもあまり可溶性ではなく、従って、あまり拡散性ではないが、カルボキシ末端の漸増する長さと共に増加する有糸分裂促進活性およびヘパリンリッチマトリックスに対する結合親和性の両方を示す。例として、VEGF−A165は、VEGF−A121よりも100倍より大きくより有糸分裂促進性である。Carmelietら「Vascular development and disorders:Molecular analysis and pathogenic insights」Kidney International、53:1519−1549(1998)の1521−1522頁を参照のこと。従って、全てのVEGF−Aアイソフォームが活性であり、そして本発明の脈管形成因子の範囲内であるが、VEGF−Aのより高く塩基性でありかつヘパリン結合のカルボキシ末端が活性の最大化に重要である。VEGF−Aが新脈管形成を刺激する機構は知られていないが、Banaiは、VEGF−Aが新脈管形成をある部分、PDGFの内皮放出の刺激を介して促進することを示唆している。Banaiら「Angiogenic−Induced Enhancement of Collateral Blood Flow to Ischemic Myocardium by Vascular Endothelial Growth Factor in Dogs」Circulation、89(5):2183−2189(1994年5月)。VEGF−Aは、VEGFレセプター−1(VEGFR−1またはFLT1)およびVEGFレセプター−2(VEGFR−2またはFLK1)へ結合する。
ヒトVEGF−Bは、心臓および骨格筋に豊富に見出されるが、公知の高度に塩基性の非グリコシル化ヘパリン結合タンパク質であり、これは、Olofssonら「Vascular endothelial growth factor B,a novel growth factor for endothelial cells」PNAS USA 93:2576−2581(1996)の図1に示されるアミノ酸配列を有する。VEGF−Aのように、VEGF−Bは、プロホルモンとして発現され、そして188個のアミノ酸残基を有し、そのうちの残基1〜21は、推定リーダー配列であり、したがって、脈管形成活性に必要ではない。同上。したがって、成熟ヒトVEGF−Bは、推定リーダー配列に続く167残基を含む。Olofssonの図1.ヒトプロホルモンVEGF−Bはまた、マウスプロホルモンVEGF−Bに対して88%の配列同一性を有し、保存された様式で、残基位置12、19、20、26、28、30,33、37、43、57、58、63、65、105、130、140、144、148、149、165、168、186、および188で異なる。Olofssonの2577頁、第2欄およびその中の図1および2。成熟ヒトVEGF−Bから成熟ネズミVEGF−Bへの残基の差異は、以下のとおりである:5Pro→Phe、7Ala→Gly、9Gly→Ser、12Arg→Lys、16Ser→Pro、22Thr→Ala、36Thr→Ser、37Val→Met、42Thr→Asn、44Ala→Val、86Arg→Gln、119Asp→Glu、129Pro→Ile、133Arg→Pro、137His→Arg、138His→Arg、165Ser→Arg、168Arg→His、165Leu→Pro、および167Arg→Lys。したがって、本発明の脈管形成因子は、1つ以上の上記参照残基位置で保存的置換を有するヒトVEGF−Bムテインを含む。好ましくは、その保存的置換は、二段落前に記載した1つ以上の上記参照された差異である。
【0030】
VEGF−Cは、大部分は主に、心臓、リンパ節、胎盤、卵巣、小腸、および甲状腺において発現されるが、種々の成長因子、炎症性サイトカイン、および低酸素によって誘導される。VEGF−Cは、Joukovらに開示されるように組換え発現され、そしてその中の291頁および図3に開示されるアミノ酸配列を有する。Joukovら、「A novel vascular endothelial growth factor,VEGF−C,is a ligand for the Flt4(VEGFR−3) and KDR(VEGFR−2)receptor tyrosine kinase」The EMBO Journal, 15(2):290−298(1996);また、Ferraraら「The Biology of Vascular Endothelial Growth Factor」,Endocrine Reviews,18(1):4−25(1997)の図3を参照のこと。VEGF−Cは、VEGFファミリーの最も大きなメンバーであり、399個のアミノ酸残基およびVEGF−Aに対して32%の相同性を有する。Ferrara(1997)の11頁、第1欄を参照のこと。VEGF−Cのカルボキシル末端は、他のVEGFには見出されないインサートの180残基(残基213〜295位)を含有する。Joukovら(1996)の図3;またはFerraraら、「The Biology of Vascular Endothelial Growth Factor」,Endocrine Reviews,18(1):4−25(1997)の図4を参照のこと。その大きなサイズのため、VEGF−Cは、VEGFファミリーの最も所望でないメンバーである。しかし、213〜295残基を欠失するVEGF−Cの欠失変異体またはそのフラグメントは、N末端で1つ以上の残基(最大で1から28残基まで)を欠失しており、これもまた、本発明において使用される脈管形成因子の用語の範囲内にある。VEGF−Cは、VEGFR−2(以前にflt−1およびKDR/Flk−1として知られる)、およびVEGFR−3(Flt4としても知られる)に結合する。Joukovら(1996)を参照のこと。
【0031】
VEGF−Dは、発見されるべきVEGFファミリーの最近のメンバーであるが、cDNAによってコードされ、そして共願に係るUSSN09/043,476(03/18/98に出願された);および対応するWO97/12972(1997年4月10日に公開された)の図2に示されるアミノ酸配列を有する。VEGF−Dは、304アミノ酸残基を有する二量体化タンパク質である。VEGF−Dのコアは、他のVEGFタンパク質に対して高度に保存されている。より重要なことに、それは、VEGFとPDGFを通して高度に保存された残基位置111、136、142、145、146、153、189、191、258、269、271、273、300、312、および314に15個のシステインを含有する。VEGFのアミノ酸配列とPDFのいくつかとの重複比較は、保存された領域を示しているが、Ferraraら「The Biology of Vascular Endothelial Growth Factor」、Endocrine Reviews,18(1):4−25(1997)の図4;WO97/12972およびその対応米国特許出願USSN09/043,476の図3;およびWO98/02543の図3に見出される。VEGF−Dの生物学的に活性な対立遺伝子およびフラグメントは、当該分野で公知である。1つの実施例において、WO98/07832は、WO97/12972のVEGF−Dとは以下の変異を指定された残基位置に有することにより異なる、肺から単離された生物学的に活性なヒトVEGF−Dを開示する:56Thr→Ile、151Phe→Leu、152Met→Ile、261Asp→His、264Glue→Phe、および297Glu→Leu。したがって、脈管形成因子は、1つ以上の上記の参照残基位置で1つ以上の上記の参照アミノ酸置換または保存された置換を含むVEGF−Dのムテインを含むことは、本発明の範囲内である。このようなムテインは、当該分野で標準的な技術である部位特異的変異誘発によって作製される。さらに、ヒト胸組織から単離された生物学的に活性なVEGF−Dは、最初の30アミノ酸を欠いていた。WO98/24811を参照のこと。したがって、脈管形成因子が成熟VEGF−Dのアミノ酸残基1〜30を欠くVEGF−Dのフラグメントを含むことは、本発明の範囲内である。さらに、成熟VEGF−Dの残基109〜315が、二量体化およびレセプターへの結合を担う高度に保存された領域を含有する範囲内で、血管形成剤脈管形成因子が、WO97/12972または対応USSN09/043,476の図2の成熟ホルモンの残基109〜315を含むN短縮化および/またはC短縮化VEGF−Dを含むことも、本発明の範囲内である。
【0032】
TGF−β1は、2ダースのメンバーを有するTGF−βスーパーファミリーのメンバーである。TGF−βスーパーファミリーの種々のメンバーは、110〜140アミノ酸残基および少なくとも7個のシステインを有する成熟タンパク質のホモまたはヘテロダイマーである。6個のシステインは内部ジスルフィドを形成し、そして7個目のシステインは、2つのモノマーを一緒に連結するジスルフィド結合を形成する。Kingsley,D.M.,「The TGF−β superfamily:new members,new receptors,and new genetic tests of function in different organisms」Genes and Develop.,8:133−146(1994)を参照のこと。TGF−β1モノマーは、TGF−βスーパーファミリーの他のモノマーと同様に、10%未満ではあるが、PDGFと構造的類似性を有する。ヒトTGF−β1のモノマーは、公知の112残基のタンパク質であり、cDNAによってコードされ、そして米国特許第4,886,747号(「Nucleic Acid Encoding TGF−β and its Uses」と題される(Derynckらに対して12/12/89に発行され、組換えTGF−β1を発現する方法を開示する))の図1B(III)に示される推定アミノ酸配列を有する。TGF−β1は、112個のアミノ酸残基を有するが、成熟TGF−β1の残基位置16〜31(すなわち、CVRQLYIDFRKDLGWK)に対応する残基の配列のみ(例えば、’747特許の図1B(III)を参照のこと)が活性のために必要である。米国特許第5,658,883号(「Biologically Active TGF−β1 Peptides」と題され、08/17/97にOgawaらに対して発行された)を参照のこと。成熟ヒトTGF−β1のより大きな二量体化フラグメントは、残基16〜47(すなわち、CVRQLYIDFRKDLGWKWIHEPKGYHANFCLGP)に対応するが、16〜31フラグメントのダイマーおよび成熟TGF−β1のダイマーに類似の活性を示した。16〜31残基のフラグメントは、2つのモノマーサブユニットのアミノ末端システイン間にジスルフィド結合を形成することによって二量体化される。16〜47残基のフラグメントは、アミノ末端システイン、カルボキシ末端システイン、または2つのモノマーサブユニットの両方の間にジスルフィド結合を形成することによって二量体化される。したがって、TGF−β1のフラグメントは、活性フラグメントであるためには、成熟ヒトTGF−β1の残基16〜31を含むことが必要であるのみであることは本発明の範囲内である。直接に新脈管形成を誘導することに加えて、TGF−β1は、炎症細胞または結合組織細胞に影響を及ぼすことによって、インビボで間接的に新脈管形成を誘導し得、これは次いで、例えば、VEGF−A、PDGF、FGF2などのような脈管形成分子を産生し得ることが予想される。Carmeliet(1998)を参照のこと。
【0033】
本発明の組成物および方法において使用されるために適した別の脈管形成因子は、FGFである。本明細書で使用される場合、用語「FGF」により、線維芽細胞成長因子タンパク質(これもまた脈管形成活性を有する)(例えば、FGF−1、FGF−2、FGF−4、FGF−6、FGF−8、FGF−9またはFGF−98)または脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインを意味する。代表的には、FGFは、ヒト(h)FGF−1、ウシ(b)FGF−1、hFGF−2、bFGF−2、hFGF−4、またはhFGF−5である。代替の実施形態において、単位用量における活性な薬剤は、hFGF−6、mFGF−8、hFGF−9またはhFGF−98である。
【0034】
本発明の単位用量、薬学的組成物、および方法で利用されるFGFの多くを作製するためのアミノ酸配列および方法は、当該分野で周知である。特に、FGF1〜9およびFGF−98のアミノ酸配列および組換え発現を開示する参考文献は、引き続いて以下に議論される。
【0035】
(FGF−1):hFGF−1のアミノ酸配列およびその組換え発現の方法は、米国特許第5,604,293号(Fiddes)(「Recombinant Human Basic Fibloblast Growth Factor」と題され、1997年2月18日に発行された)に開示される。’293特許の図2dを参照のこと。この参考文献および本明細書中のその他のすべての参考文献は、この文の前または後に引用されていても、明白にその全体が参考として本明細書中に引用される。bFGF−1のアミノ酸配列、ならびにその発現方法は、米国特許第5,604,293号(Fiddes)の図1bに開示される。hFGF−1およびbFGF−1の両方の成熟形態は、140個のアミノ酸残基を有する。bFGF−1は、以下の19残基位置で、hFGF−1とは異なる:5Pro→Leu、21His→Tyr、31Tyr→Val、35Arg→Lys、40Gln→Gly、45Gln→Phe、47Ser→Cys、51Tyr→Ile、54Tyr→Val、64Tyr→Phe、80Asn→Asp、106Asn→His、109Tyr→Val、116Ser→Arg、117Cys→Ser、119Arg→Leu、120Gly→Glu、125Tyr→Pheおよび137Tyr→Val。ほとんどの場合、その差異は、保存されている。さらに、残基位置116および119での差異は、単に、Argの位置の交換である。
【0036】
(FGF−2):全長155残基のヒトFGF−2(配列番号5)をコードするcDNA配列(配列番号4)およびヒトFGF−2(hFGF−2)の組換え発現の方法は、米国特許第5,439,818号(Fiddes)(表題「DNA Encoding Human Recombinant Basic Fibroblast Growth Factor」(1995年8月8日に発行された(その中の図4を参照のこと))および米国特許第5,514,566号(Fiddes)、表題「Methods of Producing Recombinant Fibroblast Growth Factors」(1996年5月7日に発行された)(この中の図4を参照のこと)に開示される。ヒトFGF−2はまた、配列番号5のN末端から最初の9個の残基を欠く配列番号6の活性なN短縮146残基形態を有する。この短縮型は、当該分野で公知の技術を使用して、配列番号4のcDNAの5’末端に適切な欠失を作製することによって容易に産生される。ウシFGF−2(配列番号2)をコードするcDNA配列(配列番号1)およびこの組換え発現のための種々の方法は、米国特許第5,155,214号(表題「Basic Fibroblast Growth Factor」(1992年10月13日に発行された))に開示される。hFGF−2およびbFGF−2の146残基形態が比較される場合、それらのアミノ酸配列は、わずか2つの残基の違いを有して、ほとんど同一である。特に、hFGF−2からbFGF−2に向かって、唯一の差異は、残基位置112(Thr→Ser)および128(Ser→Pro)において生じる。
【0037】
(FGF−3):FGF−3は、マウスint−2哺乳動物腫瘍の発現産物として最初に同定され、そのアミノ酸配列は、Dicksonら「Potential Oncogene Product Related to Growth Factors」Nature 326:833(1987年4月30日)に開示される。FGF−3は、N末端Metが排除される場合243残基を有し、FGF−1(ヒトおよびウシ)およびFGF−2(ヒトおよびウシ)の両方よりも実質的に長い。bFGF−1およびbFGF−2に対してのmFGF−3についてのアミノ酸残基の比較は、Dicksonら(1987)に重複した形式で表されている。 mFGF−3のアミノ酸配列がbFGF−1およびbFGF−2と比較される場合、FGF−3は、FGF−1およびFGF−2の両方に対して残基インサートを含有する5つの位置を有する。これらのインサートの最も重要なものは、それぞれ、FGF−2およびFGF−1に対する12および14残基インサートであり、FGF−3の残基位置135で始まる。そのインサートを許容することにより、Dicksonらは、mFGF−3が、FGF−1に対して53残基の同一性を有し、そしてFGF−2に対して69残基の同一性を有することを開示する。さらに、FGF−3は、FGF−1およびFGF−2の両方においてシグナル配列のN末端に対して10残基の疎水性N末端伸長を含有する。bFGF−1およびbFGF−2のC末端に対して、mFGF−3は、およそ60残基の伸長を含有する。mFGF−3のC末端伸長が活性に必要であることはありそうでない。より可能性のあることとしては、それは、FGFに対してレセプター特異性を付与することによる活性の調整剤である。
【0038】
(FGF−4):hstタンパク質についてのアミノ酸配列は、現在、hFGF−4として知られるが、Yoshidaら、「Genomic Sequence of hst, a Transforming Gene Encoding a Protein Homologous to Fibroblast Growth Factors and the int−2−Encoded Protein」PNAS USA,84:7305−7309(1987年10月)の図3に初めて開示された。このリーダー配列を含み、hFGF−4は、206アミノ酸残基を有する。hFGF−4、hFGF−1、hFGF−2およびmFGF−3のアミノ酸配列を比較した場合、hFGF−4の残基72〜204は、hFGF−2に対して43%の相同性を有する;残基79〜204は、hFGF−1に対して38%の相同性を有する;そして残基72−174はmFGF−3に対して40%の相同性を有する。重複様式でこれらの4つの配列を比較したものがYoshida(1987)の図3に示される。さらに、hFGF−4の88位および155位の残基にあるCysは、hFGF−1、hFGF−2、mFGF−3、およびhFGF−4に高度に保存され、そして相同領域において見出される。
【0039】
hFGF−2の2つの推定細胞結合部位は、その36〜39および77〜81の残基位置に生じる。Yoshida(1987)の図3を参照のこと。hFGF−2の2つの推定ヘパリン結合部位は、その18〜32および107〜111の残基位置に生じる。Yoshida(1987)の図3を参照のこと。ヒトおよびウシFGF−2についてのアミノ酸配列間の実質的類似性を考慮すれば、本発明者らは、bFGF−2についての細胞結合部位を、また、その残基位置36〜39および77〜81に予想し、そしてそのヘパリン結合部位を、その残基位置18〜22および107〜111に予想する。hFGF−1に関連して、推定細胞結合部位は、残基27〜30および69〜72に生じ、そして推定ヘパリン結合部位は、残基9〜13および98〜102に生じる。成熟bFGF−1が、残基位置9〜13、27〜30、69〜72および98〜102で、hFGF−2と同一なアミノ酸を有する範囲では、bFGF−1は、hFGF−1と同じ細胞結合部位およびヘパリン結合部位を有することが予想される。
【0040】
(FGF−5):hFGF−5についてのcDNAおよび推定アミノ酸配列は、Zhanら「The Human FGF−5 Oncogene Encodes a Novel Protein Related to Fibroblast Growth Factors」Molec.and Cell.Biol.,8(8):3487−3495(1988年8月)の図1に開示される。Zhanはまた、hFGF−5をクローニングする方法を開示する。本出願人はまた、hFGF−5を配列決定し、そしてZhanの配列とは残基位置236(ZhanのAsnの代わりにLysを有する)および残基位置243(ZhanのSerの代わりにProを有する)で異なるアミノ酸配列を得た。hFGF−5のアミノ酸配列はいずれも、67残基のリーダー配列を成熟FGF−2の第1の残基の上流に、およびhFGF−2のC末端を超えて約47残基伸長するテール配列を含む266アミノ酸残基を有する。hFGF−1、hFGF−2、mFGF−3、hFGF−4、およびFGF−5のアミノ酸配列間の比較は、Zhan(1988)の図2に表される。Zhanの図2において、hFGF−1、hFGF−2、mFGF−3およびhFGF−4は、aFGF(すなわち、酸性FGF)、bFGF(すなわち、塩基性FGF)、int−2、およびhstKS3とそれぞれ同一(すなわち、それらの元々の名称)である。上記に参照した比較において、FGF−5アミノ酸残基の2つのブロック(90〜180および187〜207)は、FGF1〜4に実質的な相同性(すなわち、FGF−4と50.4%、FGF−3と47.5%、FGF−2と43.4%、およびhFGF−1と40.2%)を示した。Zhan(1988)の図2を参照のこと。米国特許第5,155,217号(Goldfarb)および同第5,238,916号(Goldfarb)は、Zhanの公報に対応するが、ZhanのFGF−5をFGF−3として言及する。しかし、当該分野(以下のCoulierにより証明されるように)は、ZhanのhFGF(およびGoldfarb特許の)は、FGF−5であって、FGF−3ではないと認識するに至っている。2つのGoldfarb特許は、Zhanによって上記に報告されたhFGF−5と同じアミノ酸配列を含んでいる。
【0041】
(FGF−6):hFGF−6についてのcDNAおよび推定アミノ酸配列がColierら「Putative Structure of the FGF−6 Gene Product and Role of the Signal Peptide」、Oncogene 6:1437−1444(1991)の図2に開示される。Coulierはまた、FGF−6をクローニングする方法を開示する。hFGF−6は、208アミノ酸残基を有するFGFの最大のものの1つである。ヒトFGF−1、FGF−2、FGF−3、FGF−4、FGF−5、FGF−6、およびFGF−7のアミノ酸配列を比較すると、分子のC末端の3分の2(hFGF−6の残基78〜208に対応する)において強力な類似性が存在する。特に、FGF−6の23残基(hFGF−6の残基位置90〜157の2つのシステインを含む)は、ファミリーの7つのメンバー間で同一である。この数は、保存されたアミノ酸残基を考慮すると33残基に増大する。これらの7つのヒトFGF間の全体的な類似性は、その分子のC末端の3分の2について、32%〜70%の同一な残基、および48%〜79%の保存された残基にわたっていた。hFGF−1〜hFGF−5およびhFGF−7の、hFGF−6に対するその配列の比較は、本明細書の表1に示される。
【0042】
【表1】
表1を参照して、FGF−6は、FGF−4と最も高い対応を有する(91の同一な残基/103の保存された残基)。これは、70%の同一残基および79%の保存された残基にのぼる。hFGF−6は、hFGF−3、hFGF−2、hFGF−7、およびhFGF−1とは大部分異なり、それぞれ、42、42、36、および32の同一な残基であった。
FGF1〜7のアミノ酸配列の重累比較は、引用したCouier(1991)の図3に示される。Coulierの図3は、FGF分子のC末端の3分の2がアラインメントされた場合、7つ全てのFGFメンバーからの残基が同一である23残基位置が存在する。7つ全てのFGFメンバーからの残基が保存されている10残基位置もまた存在する。Coulier(1991)の図3.比較において、これらの同一および保存された残基は、FGF1〜7の各々の末端3分の2において3〜5残基の約6位置を形成し、ここで、3〜5残基は、ヒトFGFの7つ全ての種において一緒にグループ分類されている(すなわち、hFGF1〜7)。
(FGF−7) hFGF−7のアミノ酸配列は、当該分野で周知であり、そしてMiyamotoら「Molecular Cloning of A Novel Cytokine cDNA Encoding the Ninth Member of the Fibroblast Growth Factor Family,Which Has a Unique Secretion Property」、Mol.and Cell.Biol.13(7):4251〜4259(1993)図2に開示される。Miyamotoにおいて、hFGF−7は、その旧名「KGF」により言及された。FGF−7は、191アミノ酸残基を有する。hFGF1〜6およびhFGF−9のアミノ酸配列に対するhFGF−7のアミノ酸配列の比較は、FGF−7のカルボキシ末端側2/3が、そのグループの他のメンバーの遠位の2/3と匹敵する相同性を有することを示す。Miyamoto(1993)、4254頁(図2)を参照のこと。
【0043】
(FGF−8) mFGF−8のcDNAおよび推定アミノ酸配列は、当該分野で周知であり、そしてTanakaら「Cloning and Characterization of an Androgen−induced Growth Factor Essential for the Growth of Mouse Mammary Carcinoma Cells」PNAS USA、89:8928〜8932(1992)図2に開示される。Tanakaはまた、組換えFGF−8を作製するための方法を開示する。TanakaのmFGF−8は、215アミノ酸残基を有する。MacArthurら「FGF−8 isoforms active receptor splice forms that are expressed in mesenchymal regions of mouse development」Development、121:3603〜3613(1995)は、FGF−8が、成熟N末端で異なるがC末端領域にわたって同一である、8つの異なるアイソフォームを有することを開示する。この8つのアイソフォームは、FGF−8が、6つのエキソンを有し、その最初の4つ(他のほとんどのFGF遺伝子の第1のエキソンに対応する)が選択的スプライシングを生じるので、生じる。
【0044】
(FGF−9) ヒトおよびマウスのFGF−9のcDNAおよび推定アミノ酸配列は、当該分野で公知であり、そしてその組換え発現のための方法が、Santos−Ocampoら「Expression and Biological Activity of Mouse Fibroblast Growth Factor」J.Biol.Chem.271(3):1726〜1731(1996)に開示される。ヒトおよびマウスの両方のFGF−9分子は、208アミノ酸残基を有し、2残基だけ異なる配列を有する。詳細には、hFGF−9は、残基9および34にそれぞれAsnおよびSerを有するが、mFGF−9は、それぞれSerおよびAsnを有する。FGF−9は、FGFファミリーを規定する保存アミノ酸の完全保存を有する。Santos−Ocampo(1996)1726頁。FGF−9の最大半減活性化(half−Maximal activation)は、185ng/mlヘパリンで観察されるが、FGF−1の最大半減活性化は、670ng/mlヘパリンで観察される。Santos−Ocampo(1996)1730頁。FGF−1と比較した場合、FGF−2およびFGF−9は両方とも、最適活性のためにより低いヘパリン濃度を必要とする。
【0045】
(FGF−98) hFGF−98のcDNAおよびアミノ酸配列、ならびにその組換え発現のための方法は、仮特許出願第60/083,553号に開示され、この仮出願は、本明細書中にその全体が参考として援用される。hFGF−98は、hFGF−18としても公知であり、207アミノ酸残基を有する。従って、hFGF−6(207残基)、hFGF−9(208残基)およびhFGF−98(207残基)は、サイズが類似する。
【0046】
FGFは、4つの関連する膜貫通レセプターのうちの1つ以上に示差的に結合しそしてそれを活性し、次いでそのレセプターは、生物学的応答を媒介する。このFGFレセプター(「FGFR」)は、チロシンキナーゼレセプタースーパーファミリーのメンバーである。FGFRの細胞外ドメインは、選択的スプライシングの結果として示差的に発現される、2〜3個のの免疫グロブリン様(「Ig様」)ドメインを含む。別の選択的スプライシング事象はまた、読取り枠を変えることなく、Ig様ドメインIIIのカルボキシル末端側半分の配列を変え得る。Santos−Ocampo(1996)。この2つのスプライス形態(「b」および「c」と呼ばれる)は、FGFR1、2、3について生じるが、FGFR4については生じない。FGFRのより詳細な説明は、Mathieuら「Receptor Binding and Mitogenic Properties of Mouse Fibroblast Growth Factor 3」J.Biol.Chem.270(41):24197〜24203(1995)に見出される。FGF1〜9がFGFRを示差的に刺激する能力は、Ornitzら、J.Biol.Chem.271(25):15292〜15297(1996)により報告されたように、レセプター依存性であった。Ornitzにおいて、細胞株BaF3が画分に分割され、そして各画分が、以下のFGFレセプターのうちの1つを発現するようにトランスフェクトされた:FGFR1b、FGFR1c、FGFR2b、FGFR2c、FGFR3b、FGFR3cおよびFGFR4(−1つのIg様ドメイン)。その後、形質転換細胞株が、FGF1〜9のうちの1つ(5nM)および補因子としてのヘパリン(2μg/ml)に曝露された。次いで、マイトジェン応答が、[3H]チミジンの取り込みにより測定された。その結果(cpm)は以下の通りである:
1.FGFR1b:同様のマイトジェン応答が、hFGF−1(32,000cpm)およびhFGF−2(28,000cpm)により生成され、その次に高い応答がmFGF−3(約16,000cpm)およびhFGF−4(15,000rpm)により生成された;
2.FGFR1c:同様のマイトジェン応答が、hFGF−1、hFGF−2、hFGF−4、hFGF−5、およびhFGF−6(約36,000cpm)により生成され、mFGF−9が、唯一他の有意な応答を生成した(約19,000cpm);
3.FGFR2b:最高のマイトジェン応答は、hFGF−7(14,000cpm)、hFGF−1(12,500cpm)、およびmFGF−3(9,500cpm)によった;
4.FGFR2c:最高のマイトジェン応答は、hFGF−4(21,000cpm)、mFGF−9(20,000cpm)、hFGF−6(16,500cpm)、hFGF−1(16,000cpm)、hFGF−2(14,500cpm)、hFGF−5(9,500cpm)およびmFGF−8(9,000cpm)によった;
5.FGFR3b:マイトジェン応答は、hFGF−1(37,000cpm)およびmFGF−9(26,000cpm)のみによった;
6.FGFR3c:最高のマイトジェン応答は、hFGF−1(39,000cpm)、hFGF−2(34,000cpm)、hFGF−4(33,000cpm)、mFGF−8(32,500cpm)、mFGF−9(31,000cpm)、hFGF−5(16,000cpm)、およびhFGF−6(13,000cpm)によった;
7.FGFR4Δ:最高のマイトジェン応答は、hFGF−2(29,000cpm)、hFGF−4およびhFGF−6(27,000cpm)、mFGF−8(25,000cpm)、mFGF−1(24,000cpm)、およびhFGF−9(20,000cpm)により、他は全て、6,000cpm以下であった。
【0047】
上記に反映されるように、FGF−1のみが、試験したレセプターすべてにおいて有意なマイトジェン応答を誘導する。従って、FGF−1は、他のFGFと結合するレセプターの特異性を生じる分子へのN末端およびC末端が付加したユニバーサルリガンドとして考えられ得る。全身投与されたFGFによるインビボでの多様な応答についての能力を考慮すると、本発明は、局所投与により、そしてその局所投与について適切な投与量を発見することにより(すなわち、CADについての処置の必要がある患者の少なくとも1つの冠状動脈へFGFの治療的に有効な量を投与することにより)、全身応答についての能力を最小にする。
【0048】
以下の実施例において、bFGF−2が、ラット、ブタおよびヒトにインビボ投与され、そして脈管形成活性について試験された。この実施例のbFGF−2は、米国特許第5,155,214号(「`214特許」)に記載されるように作製された。この`214特許の方法において、bFGF(本明細書中で以後「FGF−2」)をコードするcDNAが、クローニングベクター(例えば、pBR322、pMB9、ColE1、pCRI、RP4またはλファージ)に挿入され、そしてそのクローニングベクターが、真核生物細胞または原核生物細胞のいずれかを形質転換するために使用され、その形質転換細胞はFGF−2を発現する。1つの実施形態において、その宿主細胞は酵母細胞(例えば、Saccharomyces cerevisiae)である。発現される生じる全長FGF−2は、`214特許のカラム6に示される配列に従う146アミノ酸を有する。生じるFGF−2は4つのシステイン(すなわち、残基位置25、69、87および92)を有するが、内部ジスルフィド結合は存在しない。[`214特許カラム6、59〜61行目]。しかし、酸化的条件下で架橋が生じた場合においては、それぞれ25位および69位にある2つのCys残基間に多分その架橋が生じる。
【0049】
ウシFGF−2(bFGF−2)は、対応するヒトFGF−2(hFGF−2)と同様に、155アミノ酸残基を有するポリペプチドとしてインビボで最初に合成される。Abrahamら「Human Basic Fibroblast Growth Factor:Nucleotide Sequence and Genomic Organization」EMBO J.5(10):2523〜2528(1986)。この例の146残基bFGF−2(配列番号2)がAbrahamの全長155残基のbFGF−2と比較される場合、本出願人のbFGF−2(配列番号2)は、Abrahamの全長分子のN末端に見出される最初の9アミノ酸残基(すなわち、Met−Ala−Ala−Gly−Ser−Ile−Thr−Thr−Leu(配列番号3))を欠く。上記のように、成熟bFGF−2は、成熟hFGF−2と2残基位置のみで異なる。詳細には、成熟bFGF−2(配列番号2)の残基位置112および128のアミノ酸は、それぞれSerおよびProであるが、対応する成熟hFGF−2(配列番号6)において、それらはそれぞれThrおよびSerである。bFGF−2とhFGF−2との間のこの実質的な構造的同一性(すなわち、97%を超える同一性)、実施例に提供されそして本明細書中の他の場所に記載される脈管形成活性に対するインビボでの臨床結果を考慮して、組換えbFGF−2を投与する投薬量および様式は、組換えhFGF−2(まとめて「FGF−2」)に直接適用可能であるはずである。
【0050】
実施例の組換えbFGF−2(配列番号2)は、米国特許第4,956,455(’455特許)、名称「Bovine Fibroblast Growth Factor」(09/11/90に発行され、本明細書中に参考として全体が援用される)に詳細に記載される技術を使用して、製剤品質(98%以上の純度)まで精製された。詳細には、本出願人の単位用量の組換えbFGF−2の精製に使用される最初の2工程は、「以前に記載される通りの従来のイオン交換精製工程および逆相HPLC精製工程」である。['455特許(Bolenら、PNAS USA 81:5364〜5368(1984)を引用)]。第3の工程('455特許は「キー(key)精製工程」と呼ぶ['455特許、カラム7、5〜6行を参照のこと])は、ヘパリンSEPHAROSE(登録商標)アフィニティクロマトグラフィーであり、FGF−2の強力なヘパリン結合アフィニティーが利用され、約1.4Mおよび1.95M NaClで溶出する場合、7,000倍精製が達成される['455特許、カラム9、20〜25行]。ポリペプチドの均一性が、逆相高圧液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)により確認された。緩衝液交換が、SEPHADEX(登録商標)G−25(M)ゲル濾過クロマトグラフィーにより達成された。
【0051】
上記のFGFに加えて、本発明の組成物および方法の脈管形成因子はまた、上記のFGFのうちのいずれか1つの「脈管形成的に活性なフラグメント」を含む。その最も単純な形態において、その脈管形成フラグメントは、N末端Met除去のための周知の技術(例えば、メチオニンアミノペプチダーゼでの処理)を使用する、N末端メチオニンの除去により作製される。第2の望ましい短縮型は、そのリーダー配列を含まないFGFを含む。当業者は、リーダー配列を、細胞膜を通過するのを容易にするが活性には必要でなく、成熟タンパク質上には見出されない、タンパク質のN末端の疎水性残基の並びであると認識する。
【0052】
FGFに対する好ましい短縮は、146残基を有する成熟hFGF−2(配列番号6)または類似のbFGF−2(配列番号2)に対して決定される。一般的規則として、FGFのアミノ酸配列が、最大のホモロジーを得るようにFGF−2と整列される。整列されたFGF−2の対応するN末端を超えて伸長するFGF部分が、一般的に、有害な効果を伴わない欠失に適切である。同様に、整列されたFGF−2のC末端を超えて伸長するFGF部分もまた、有害な効果を伴わずに欠失され得る。
【0053】
上記のものより小さいFGFのフラグメントもまた、それがFGFの細胞結合部分および少なくとも1つのヘパリン結合セグメントを保持する限り、本発明の範囲内にある。残基1〜146を有する成熟FGF−2の場合、その2つの推定細胞結合部位が、その残基位置36〜39および77〜81にある。Yoshidaら「Genomic Sequence of hst,a Transforming Gene Encoding a Protein Homologous to Fibroblast Growth Factors and the int−2−Encoded Protein」PNAS USA 84:7305〜7309(1987年10月)図3を参照のこと。hFGF−2の2つの推定ヘパリン結合部位は、その残基位置18〜22および107〜111にある。Yoshida(1987)図3を参照のこと。hFGF−2アミノ酸配列とbFGF−2アミノ酸配列との間の実質的配列同一性を考慮して、本発明者らは、bFGF−2の細胞結合部位もまた、その残基位置36〜39および77〜81にあり、そしてヘパリン結合部位がその残基位置18〜22および107〜111にあると予測する。上記と一致して、bFGF−2のN末端短縮物は、ウシにおいてその脈管形成活性を排除しないことが、当該分野で周知である。詳細には、当該分野は、146残基成熟FGF−2と比較してN末端短縮を有するbFGF−2の天然に存在しそして生物学的に活性な数個のフラグメントを開示する。成熟FGF−2の残基12〜146を有する活性でありかつN短縮型のFGF−2フラグメントが、ウシ肝臓にて見出され、そして成熟FGF−2の残基16〜146を有する別の活性でありかつN短縮型のFGF−2フラグメントが、ウシ腎臓、副腎および精巣にて見出された。[米国特許第5,155,214号、カラム6、41〜46行(Uenoら、Biochem and Biophys Res.Comm.138:580〜588(1986)を引用)を参照のこと]。同様に、FGF活性を有することが知られるFGF−2の他のフラグメントは、FGF−2(24〜120)−OHおよびFGF−2(30〜110)−NH2である。[米国特許第5,155,214号、カラム6、48〜52行]。これら後者のフラグメントは、FGF−2の細胞結合部分の両方(残基36〜39および77〜81)およびヘパリン結合セグメントの1つ(残基107〜111)を保持する。従って、FGFの脈管形成的に活性なフラグメントは、代表的には、ホモロジーを最大にするように成熟FGF−2(残基1〜146を有する)と整列された場合に、少なくともFGF−2の残基位置30〜110に対応する残基を有し、より代表的には、少なくともFGF−2の残基18〜146に対応する残基を有する、FGFの末端短縮型フラグメントを含む。
【0054】
上記のFGFに加えて、本発明の単位用量、組成物および方法の脈管形成因子はまた、その「脈管形成的に活性な...ムテイン」を包含する。用語「脈管形成的に活性な...ムテイン」により、FGFととも使用される場合に、各FGFの少なくとも65%配列同一性(好ましくは75%、より好ましくは85%、最も好ましくは90%の配列同一性)および脈管形成活性の少なくとも80%を保持する、天然に存在するFGFの変異形態が意味され、ここで、配列同一性は、以下の検索パラメーターを用いるアフィンギャップ検索を使用してMSPRCHプログラム(Oxford Molecular)にて実行されるようなSmith−Watermanホモロジー検索アルゴリズム(Meth.Mol.Biol.70:173〜187(1997))によって決定される:gap open penalty=12、およびgap extension penalty=1。好ましくは、変異は、L−アミノ酸を使用する「保存的アミノ酸置換」であり、1つのアミノ酸が、別の生物学的に類似のアミノ酸により置換される。上記のように、保存的アミノ酸置換は、置換されるアミノ酸の全体的電荷、疎水性/親水性、および/または立体的かさを保存する置換である。
【0055】
保存的置換の例は、以下のグループ間の置換である:Gly/Ala、Val/Ile/Leu、Lys/Arg、Asn/Gln、Glu/Asp、Ser/Cys/Thr、およびPhe/Trp/Tyr。FGF−2の場合、このような保存的アミノ酸置換の例は、ジスルフィド形成に関与しない残基位置のシステイン(例えば、成熟FGF−2(残基1〜146を有する)の残基87および92)のうちの1つまたは両方に代わるセリンの置換を含む。好ましくは、置換は、脈管形成活性に関係しない、N末端に導入される。しかし、上記のように、保存的置換は、その分子全体にわたる導入に適切である。;
当業者は、公知の技術を使用し、本発明の単位用量、組成物および方法における使用のための脈管形成活性を有するFGFポリペプチドムテイン(またはフラグメントムテイン)の発現を得るように、FGFのうちのいずれかをコードするDNA中に1つ以上の点変異を作製し得る。FGFの脈管形成的に活性なムテインを調製するために、当該分野で公知であり、そして/またはGilmanら、Gene 8:81(1979)もしくはRobertsら、Nature 328:731(1987)に教示されるように、FGFをコードするcDNAに1つ以上の点変異を導入するために、部位特異的変異誘発についての標準的技術を使用する。
【0056】
従って、本発明の薬学的組成物は、脈管形成因子の脈管形成的に有効な量を、薬学的に受容可能なキャリア中に含み、この脈管形成的に有効な量は、約5ng〜約135,000ng未満の範囲であり、この脈管形成因子は、血小板由来増殖因子(PDGF),血管内皮増殖因子A(VEGF−A)、VEGF−D、線維芽細胞増殖因子(FGF)、またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。好ましい実施形態において、薬学的組成物の脈管形成因子は、ヒトVEGF−A、ヒトVEGF−D、FGFまたはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。より好ましくは、薬学的組成物の脈管形成因子は、FGF(例えば、FGF−1、FGF−2もしくはFGF−5)またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。最も好ましくは、薬学的組成物の脈管形成因子は、FGF−2またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。
【0057】
本発明の単位用量薬学的組成物は、その第2の記載される成分として、「薬学的に受容可能なキャリア」を含む。用語「薬学的に受容可能なキャリア」により、本明細書中で使用される場合、組成物を受ける患者に有害な抗体の生成をそれ自体は誘導せずかつ過度の毒性を伴わずに投与され得る、タンパク様医薬の安定化および/または投与のために当該分野で周知の任意のキャリアもしくは希釈剤が意味される。薬学的に受容可能なキャリアおよびその後の処理の選択は、液体形態または固体形態のいずれかで、処置する医師に本発明の単位用量組成物を提供するのを可能にする。しかし、本発明の単位用量組成物は、患者に心筋層への注射により投与される前に、液体形態に変換される。
【0058】
この単位用量薬学的組成物が液体形態である場合、その薬学的に受容可能なキャリアは、静脈内(「IV」)または冠内(「IC」)の注射もしくは注入に適切な、安定なキャリアまたは希釈剤を含む。注射可能な溶液または注入可能な溶液に適切なキャリアもしくは希釈剤は、ヒトレシピエントに対して、使用される投薬量および濃度で非毒性であり、そしてこれらとしては、滅菌水、糖溶液、生理食塩水溶液、タンパク質溶液またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0059】
代表的に、薬学的に受容可能なキャリアは、緩衝液および1以上の安定剤、還元剤、酸化防止剤および/または酸化防止キレート剤を含む。タンパク質ベースの組成物(特に、薬学的組成物)の調製における緩衝液、安定剤、還元剤、酸化防止剤およびキレート剤の使用は、当該分野で周知である。例えば、Wangら、「Review of Excipients and pHs for Parenteral Products Used in the United States」、J.Parent.Drug Assn.,34(6):452−462(1980);Wangら、「Parenteral Formulations of Proteins and Peptides:Stability and Stabilizers」、J.Parent Sci.and Tech.,42:S4−S26(補遺1988);Lachmanら、「Antioxidants and Chelating Agents as Stabilizers in Liquid Dosage Forms−Part 1」、Drug and Cosmetic Industry、102(1):36−38、40および146−148(1968);Akers,M.J.,「Antioxidants in Pharmaceutical Products」、J.Parent Sci.and Tech.,36(5):222−228(1988);およびMethods in Enzymology、第25巻、ColowickおよびKaplan編、Konigsbergによる「Reduction of Disulfide Bonds in Proteins with Dithiothreitol」、185−188頁。適切な緩衝液としては、アセテート、アジパート、ベンゾエート、シトレート、ラクテート、マレアート、ホスフェート、タータレートおよび種々のアミノ酸の塩が挙げられる。Wang(1980)455頁を参照のこと。適切な安定剤としては、トレオース(threlose)またはグリセロールのような炭水化物が挙げられる。適切な還元剤(還元型システインの還元状態を維持する)としては、ジチオトレイトール(DTT(クリランド試薬としても公知))またはジチオエリトリトール(0.01%〜0.1%重量/重量);アセチルシステインまたはシステイン(0.1%〜0.5%(pH2〜3));およびチオグリセロール(0.1%〜0.5%(pH3.5〜7.0))およびグルタチオンが挙げられる。Akers(1988)、225〜226頁を参照のこと。適切な酸化防止剤としては、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、およびアスコルビン酸が挙げられる。Akers(1988)、225頁を参照のこと。適切なキレート剤(微量金属をキレート化して、還元型システインの微量金属触媒酸化を防止する)としては、シトレート、タータレート、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の二ナトリウム塩、四ナトリウム塩およびカルシウム二ナトリウム塩、およびジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が挙げられる。例えば、Wang(1980)、457〜458頁および460〜461頁、ならびにAkers(1988)、224〜227頁を参照のこと。適切な糖としては、グリセロール、トレオース、グルコース、ガラクトースおよびマンニトール、ソルビトールが挙げられる。適切なタンパク質は、ヒト血清アルブミンである。
【0060】
液体形態において、本発明の代表的な単位用量の薬学的組成物は、0.1ml〜10mlの薬学的に受容可能なキャリア中に溶解された、約5ng〜135,000ng未満の脈管形成因子を含む。本発明の薬学的組成物は、心臓カテーテルまたは他の注射デバイス(これらは、デッドスペースを有する)を介して投与されるので、その薬学的組成物を含むバイアルが、患者に投与されるべきよりもより多くの薬学的組成物を含むように、そのバイアルを処方することが簡便である。例えば、投与される脈管形成因子の用量が、45ngである場合、バイアルは、その送達装置内のデッドスペースを充填するために適切な過剰の溶液と共に、60〜75ngの脈管形成因子を含むよう処方される。デッドスペースを見込まない代替的実施形態において、薬学的組成物は、薬学的受容可能な緩衝液、希釈剤またはキャリアの前で、心臓カテーテルに装填され、次いで、新脈管形成を必要とする心筋層の1以上の部位に対して、1回以上の適切な投薬量を送達するために使用される。上記で議論したように、上記の薬学的組成物のための薬学的に受容可能なキャリアは、緩衝液および1以上の安定剤、還元剤、酸化防止剤および/または酸化防止キレート剤を含む。
【0061】
脈管形成因子が、FGFであり、そして薬学的に受容可能なキャリアが、液体キャリアである場合、代表的な薬学的組成物は、約5ng/ml〜135,000ng/ml、より代表的には、約5ng/ml〜67,500ng/mlのFGFあるいはその脈管形成性のフラグメントまたはムテイン、10mM チオグリセロール、135mM NaCl、10mM クエン酸ナトリウム、および1mM EDTA、pH 5を含む。上記組成物についての適切な希釈剤または洗浄剤(flushing agent)としては、任意の上記のキャリアである。代表的に、希釈剤は、キャリア溶液自体であり、この例においては、このキャリア溶液は、10mM チオグリセロール、135mM NaCl、10mM クエン酸ナトリウム、および1mM EDTA、pH 5を含む。
【0062】
液体形態で提供される場合、本発明の単位用量の薬学的組成物は、長期間保存する場合に不安定になる。安定性および貯蔵寿命を最大化するために、本発明の単位用量の薬学的組成物は、−60℃で凍結保存するべきである。解凍したときに、この溶液は、冷凍した状態で6ヶ月間安定である。本発明の単位用量の薬学的組成物の代表的なバイアルは、約5ng〜135,000ng未満の脈管形成因子あるいはその脈管形成性のフラグメントまたはムテインを含有する、約1.0〜100ml(より代表的には、約1.0〜25ml、最も代表的には、約1.0〜10ml)の上記の薬学的に受容可能なキャリアを含む。
【0063】
別の実施形態において、本発明の単位用量の薬学的組成物は、凍結乾燥(フリーズドライ)形態で提供される。凍結乾燥形態において、単位用量の薬学的組成物は、治療的有効性を損なうことなく、実質的に6ヶ月よりも長い間、冷凍温度で保存され得る。凍結乾燥は、薬学的に受容可能なキャリア中に溶解した有効量の脈管形成因子を含む溶液の、減圧下での迅速なフリーズドライによって達成される。上記の凍結乾燥を行う、凍結乾燥機は、市販されており当業者によって容易に操作され得る。代表的に、複数のバイアル(各々、その中に、本発明の薬学的組成物(1以上の用量を含む)または単位用量組成物を含む)を、凍結乾燥機中にバッチで配置し、そして全ての液体キャリアが除去されるまで、冷却および減圧に供する。患者への投与の前に、この凍結乾燥生成物は、好ましくは、そのバイアル中で、適切な滅菌水性希釈剤(代表的には、0.9%(または、それ未満)の滅菌生理食塩水溶液)またはいくらかの他の薬学的に受容可能なキャリアで、既知の濃度に再構成される。主治医によって評価された新脈管形成の必要性に依存して、5ng〜135,000ng未満、代表的には、約5ng〜約67,500ngの脈管形成因子を含む単位用量が、単回注射または連続注射(代表的には、2〜40回の注射)として、新脈管形成が必要な虚血心筋層に投与される。
【0064】
第3の局面において、本発明は、患者の心臓において新脈管形成を誘導するため(または血管灌流を増加するため、あるいはDSEによって測定されるような血管密度または局所的心筋機能を増加するため)の方法に関する。この方法は、有効量の脈管形成因子を、この患者の心筋層に、新脈管形成が必要な1以上の領域に直接投与する工程を包含し、有効量の脈管形成因子は、約5ng〜135,000ng未満の脈管形成因子である。代表的には、この有効量の脈管形成因子は、5ng〜67,000ngの脈管形成因子である。好ましくは、患者は、ヒト患者である。より好ましくは、このヒト患者は、冠状動脈疾患(CAD)または心筋梗塞(MI)の症状を有する。上記で言及した、用語「血管灌流」および「血管密度」とは、新脈管形成の客観的尺度である。本発明の方法に従う脈管形成因子の投与に応答する、「血管灌流」および「血管密度」の増加は、本明細書中の図4および6〜8に示される。本発明の方法に従って単位用量の脈管形成因子を投与することによって生じる、局所的な心機能の増加を、図5および11に示す。
【0065】
上記の方法において、脈管形成因子は、PDGF、VEGF−A、VEGF−D、TGF−β1、FGF、あるいはそれらの脈管形成的に活性なムテインまたはフラグメントの群から選択されるメンバーである。好ましくは、脈管形成因子は、VEGF−A、VEGF−DまたはFGF、あるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインである。より好ましくは、脈管形成因子は、FGF(例えば、FGF−1、FGF−2またはFGF−5)、あるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインである。最も好ましくは、脈管形成因子は、FGF−2、あるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインである。
【0066】
上記の方法において、脈管形成因子は、心筋層薬物送達について当該分野で公知の技術のうちの任意の1つを使用して、新脈管形成を必要する患者の心筋層へ送達される。患者の新脈管形成についての必要性は、冠動脈造影、MRIなどのような従来の評価技術を使用して、主治医によって評価される。最も単純な実施形態において、薬物送達デバイス(例えば、注射器)に装着された針は、新脈管形成を必要とする心筋層の領域への有効量の脈管形成因子の送達のために、身体の外側から胸腔(chest cavity)および心膜を通ってその心筋層の領域に定位的に指向される。一旦投薬量が心筋層に送達されると、ニードルを抜くかまたは脈管形成因子の送達のためにその心筋層の1以上の部位に再位置付けされる。心筋層の注射部位の数(代表的には、2〜40)に関わらず、送達される脈管形成因子の全量は、約5ng〜135,000ng未満、より代表的には、5ng〜67,000ngである。心筋層は、脈管形成因子の送達後に収縮するので、いくらかの少量の用量の脈管形成因子は、心筋層から、針穴を介してそして心膜空間内に押し戻され、ここで一時的に、必要なその領域での局所的濃度を生じ、引き続いて、その心膜液に混合されて、長期間の間、心筋層を脈管形成因子中に浴し続けるということが考えられる。これらの効果は、本発明の脈管形成因子のIMc用量の効果を増強するよう作用するだけである。従って、別の局面において、本発明は、患者の心臓において新脈管形成を誘導するための方法に関し、単位用量の脈管形成因子を新脈管形成の必要な患者の心筋層内へ直接投与する工程、およびその残余量の脈管形成因子を、この心筋層周辺の心膜空間に侵入させる工程を包含する。
【0067】
新脈管形成を誘導するため(または血管灌流を増加するため、あるいはDSEによって測定されるような血管密度または局所的心筋機能を増加するため)の方法の別の実施形態において、単位用量の脈管形成因子は、デバイスから心筋層に直接送達され、このデバイスは、その身体の外側に近位端を、そして冠状静脈、冠状動脈または心臓チャンバ内に位置付けられた遠位端を有する。冠状静脈、冠状動脈または心臓チャンバから心筋層への、注射による薬物送達のための多くのデバイスが、当該分野で周知である。このようなデバイスの例としては、心臓カテーテルが挙げられ、これは、遠位端に伸縮自在な針を有し、新脈管形成を必要とする心筋層の領域に隣接して位置付けられる際に、所定量の薬物の送達のために、その心筋層内へ針を伸ばすことが可能である。現在の方法において、このようなデバイスは、本発明の超低用量の脈管形成因子を、新脈管形成を必要とする心筋層の領域へ送達する。脈管形成因子の送達後、針は、遠位端内に引き戻され、そしてデバイスの遠位端は、新脈管形成を必要とする心筋層の第2の領域に隣接して再位置付けされ、ここで、針が、心筋層内に再度伸ばされて、超低用量の脈管形成因子が送達される。次いで、この手順は、必要とされるだけ繰り返される。上記の実施形態の針はまた、レーザー(レーザー脈管形成術において使用されるような)に置換可能であり、ここで、このレーザーは、新脈管形成を必要とする心筋層の領域内へチャネルを開けるために使用され、そしてレーザーに隣接する開口部が、超低用量の脈管形成因子を、そのチャネル内に直接送達する。この後者のデバイスは、「Transmural Drug Delivery Method and Appratus」との表題の、WO 98/05307および対応USSN08/906,991(1997年8月6日に出願され、LocalMed,Palp Alto CAに譲渡された)に記載される。薬物送達に適切な類似の心臓カテーテルは、ACS、Guidant、AngionおよびLocalMedのような製造者から市販されている。
【0068】
心筋層への薬物の送達に適切な他のデバイスとしては、一連の薬物送達細孔が、従来のバルーン心臓カテーテルのバルーン部分の外面上に配置されている送達デバイスが挙げられ、これは、バルーンの膨張時に、その薬物送達細孔を血管上皮と直接接触させる。次いで、薬物は、この薬物が上皮を通って下層の心筋層内へ通過させる圧力下で、その薬物送達細孔を通して送達される。このタイプのデバイスは、「Method and Apparatus for Pressurized Intraluminal Drug Delivery」という表題の米国特許第5,810,767号(1998年9月22日公布);および「Intravascular Catheter with Infusion Array」という表題の米国特許第5,713,860号(1998年2月3日公布);ならびに「Localized Intravascular Delivery of Growth Factors for Promotion of Angiogenesis」という表題の係属中の出願WO97/23256および対応USSN08/753,224(現在係属中)に開示される。
【0069】
上記の心臓カテーテルは、心臓カテーテル使用のための標準的な技術を使用して利用される。代表的に、主治医は、カテーテルの遠位端を、冠状新脈管形成を必要とする患者の大腿動脈または鎖骨下動脈に挿入し、そしてカテーテルを可視化しながら、その遠位端を、新脈管形成を必要とする心臓の領域に近位する、冠状動脈、静脈または心臓チャンバにガイドする。カテーテルの遠位端は、新脈管形成を必要とする心筋層の領域に隣接して配置され、そして上記のように使用して超低用量(すなわち、脈管形成に効果的な量)の脈管形成因子を送達する。本発明に従って、脈管形成に有効な量の脈管形成因子は、約5ng〜135,000ng未満、代表的には、5ng〜67,500ngの脈管形成因子を含む。脈管形成に有効な量の脈管形成因子は、送達デバイスの各々の再位置付けによって心筋層に注射されるが、注射される脈管形成因子の全量は、135,000ng未満(すなわち、135μg未満)である。
【0070】
上記の方法の他の実施形態において、1以上の用量の脈管形成因子は、数日間の間か、2日に1回で継続的にか、数週間の間か、または2週間に1回で継続的にかで、心筋層の適切な領域に投与される。しかし、1回の処置レジメンで注射される脈管形成因子の全量は、135,000ng未満(すなわち、135μg未満)である。
【0071】
冠状新脈管形成の必要性に最もよく関連する疾患としては、冠状動脈疾患(CAD)(すなわち、患者の1以上の冠状動脈が、部分的に閉塞される)および心筋梗塞(MI)(すなわち、冠状動脈が、十分に閉塞されて、酸素付加された血液のための動脈に依存する下流の心筋組織の壊死を引き起こす)である。従って、別の局面において、本発明はまた、CADまたはMIの患者を処置するための方法に関し、この方法は、有効量の脈管形成因子を、患者の心筋層に、新脈管形成を必要とする1以上の領域に、直接投与する工程を包含し、有効量の脈管形成因子は、約5ng〜135,000ng未満の脈管形成因子である。代表的に、有効量の脈管形成因子は、約5ng〜約67,500ngの脈管形成因子である。好ましくは、患者は、ヒト患者である。
【0072】
本出願人の上記の薬学的組成物、単位用量または方法における活性薬剤は、好ましくは、組換えFGFあるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインである。より好ましくは、脈管形成因子は、FGF−2あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである。
【0073】
本発明の脈管形成因子の超低投与量の臨床的効力は、脈管形成因子が、減少するより少ない量で動物およびヒトに投与された一連の工程で確立された。これらの臨床研究の脈管形成因子は、米国特許第4,956,455号(Baird)に開示されるような146残基を有する組換え成熟bFGF−2であり、そして以後本明細書ではrbFGF−2と呼ばれる。本明細書で用いられる超低投与量の脈管形成因子の臨床的効力の予備的証拠として、最適の医療管理にもかかわらず、症候性のままである重篤なCADの症状を示すヒト患者に、心臓カテーテルを経由する冠内注入により減少する投与量のrbFGF−2を投与した。(実施例3を参照のこと。)投与されたFGF−2の投与量(および患者の数)は、0.33μg/kg(n=4)、0.65μg/kg(n=4)、2.0μg/kg(n=8)、6.0μg/kg(n=4)、12.0μg/kg(n=4)、24μg/kg(n=8)、36μg/kg(n=10)および48μg/kg(n=10)であった。アンギナ頻度および生活の質は、ベースライン(FGF−2投与前)およびFGF−2投与後約60日におけるシアトルアンギナ質問表(Seattle Angina Questionnaire)(SAQ)により評価した。運動耐性時間(ETT)は、トレッドミル試験により評価した。休息/運動核灌流およびゲート化セスタミビ決定静止駆出率(gated sestamibi−determined rest ejection fraction)(EF)、および磁気共鳴画像化法(MRI)を、ベースライン、ならびにFGF−2投与後30日および60日で評価した。評価されたその他の終点は、(客観的に駆出率(EF)、正常の壁厚(NWM)、標的の壁厚(TWN)、虚血領域ゾーンおよび側副の程度を測定するための)MRIを含んだ。それぞれ表2〜4を参照のこと。
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
患者は、IC投与されたFGF−2のすべての投与量に対して有意な臨床的改善を示した。特に、表3は、最低投与量のFGF−2(2μg/kgより少ない)を受けた患者が、評価された5つの規準のうち4つで、より高い投与量のFGF−2(2μg/kgより多い)を受けた患者が示したより良好な結果を示したことを記載する。CADを処置するための上記に記載された方法は、当該分野で採用された標準的客観的判定基準(すなわちETT)により評価されたとき、処置された患者のETTにおいて1分半〜2分の予期せぬ優れた増加を提供した。これは、現在の処置の様式、すなわち脈管形成術について臨床的に有意であるとみなされる30秒の増加と比較したとき、非常に良好であると比較される。
【0077】
本発明の脈管形成術試薬について当該分野で報告された主要な副作用は、急性低血圧症である。これは、多くの脈管形成因子の血管拡張薬としての既知の効果に起因する。しかし、本発明の範囲内の任意の超低投与量の脈管形成因子の単独または一連の投与の後、如何なる有害な低血圧作用は観察されなかった。
【0078】
インビボで脈管形成活性について脈管形成因子を試験することにおいて、本明細書で実施例2の規準を満足する、CADをもつと診断された52人のヒト患者に、約20分間に亘り冠内(IC)注入により0.33μg/kg〜48μg/kgのFGF−2の単位投与量を投与した。特に、52人の患者では、冠状動脈(心臓)カテーテルを処置の必要な患者の動脈中(例えば、大腿または鎖骨下)中に挿入し、そしてこのカテーテルを、これが処置される患者の適切な冠状動脈中に位置するまで可視化して前方に押した。明りょうなラインを維持するための標準的な注意を用い、脈管形成因子を、10〜30分の時間に亘り実質的に連続的に、単位投与量を注入することにより投与した。次いで、52人の処置患者をシアトルアンギナ質問表により評価した。これは、客観的および主観的規準の混合された組み合わせに基づく評価を提供する。表2を参照のこと。このシアトルアンギナ質問表は、処置前および処置後の両方で評価される以下の5つのサブスケールを備えた、確証された疾患特異的証書である:1)「労作性能力」=肉体的活性の制限;2)「疾患認知」=MIを気にする;3)「処置満足度」;4)「アンギナ頻度」=発症および舌下ニトログリセリン使用の数;および5)「アンギナ安定性」=最も激しい肉体的活性をともなう発症の数。この5つのサブスケールの各々に対する可能な範囲は0〜100であり、より高いスコアはより良好な生活の質を示す。さらに、平均ベースラインスコア(処置前)と処置後スコアとの間の8点以上の平均値の変化は、「臨床的に有意」であるとして認識される。表2は、予備試験され、次いでIC注入により0.33μg/kg〜24μg/kgのrbFGF−2の単一単位投与量を投与された28人の患者が、「シアトルアンギナ質問表」により評価された5つの「生活の質」について13〜36点の平均のスコアの増加を示したことを報告する。本明細書にある表2を参照のこと。これらの13〜36点の増加は、処置の代替の様式中で「臨床的に有意」であるとして当該分野で認識されている8点の変化より約1.6〜4.5倍大きかった。本明細書中の表2を参照のこと。さらに、表2の最初の15人の患者についての合わせた結果を、低投与量(2μg/kgより小さいかまたはそれに等しい)および高(2μg/kgより多い)投与量のrbFGF−2の間で分類し、そして「シアトルアンギナ質問表」により評価したとき、両方の投与量がそれぞれ約12.3〜58.1および約10.9〜32.1の範囲の増加したスコアを提供することが見出された。本明細書中の表3を参照のこと。この増加したスコアは、処置の代替様式における「臨床的に有意」であると考えられている8点の変化より約1.4〜7.2倍大きかった。
【0079】
同じフェーズI治験において、CADをもつと診断され、かつ本明細書の実施例2の規準を満足する52人のヒト患者に、0.33μg/kg〜48μg/kgのrbFGF−2の単一単位投与量をIC投与した。最大許容投与量は、重篤であるが一過性の低血圧症により36μg/kgと規定され、低血圧症は、次のより高い投与量48μg/kgで10人の患者のうち2人で観察された。部位の1つで、23人の患者の心臓は、処置前(「ベースライン」)、および処置後30および60日の両方で、磁気共鳴画像化法(MRI)により、改善された冠状充足性の客観的徴候に対して評価された。MRIにより評価された客観的規準は以下である:1)左心室(LV)駆出率(EF);2)正常の壁厚(NWT);3)正常の壁運動(NWM);4)側副の程度;5)虚血領域ゾーン;6)標的の壁厚(TWT);7)標的の壁運動(TWM);および8)灌流または遅延到達ゾーン(%LV)。患者はまた、アンギナ、トレッドミル運動持続時間、休息/運動核灌流についても評価された。結果を表4に要約する。表4は、ベースラインアンギナクラスが、IC FGF−2後30および60日で、2.6〜1.4および1.2までそれぞれ低下したことを反映する。平均のトレッドミル運動時間は、8.5分のベースラインから、処置後30および60日で9.4および10.0分まで増加した。左心室駆出率(LV EF)においては有意な差は観察されなかった。しかし、標的の壁運動は、有意に増加し、15.4%のベースラインから、FGF−2処置後23.5%(30日)および24.1%(60日)まで動いた。同様に、標的の壁厚は、28.7%のベースラインから、FGF−2処置後、34.7%(30日)および45.9%(60日)まで有意に増加した。灌流においてもまた有意な増加があり、遅延到達ゾーン(%LV)における減少によって測定され、この遅延到達ゾーンは18.9%のベースラインから、FGF−2処置後7.1%(30日)および1.82%(60日)まで減少した。したがって、CAD患者に、FGF−2のような脈管形成因子の単一IC注入を提供することは、患者に、MRIおよびその他の従来の規準により客観的に測定されるような有意な肉体的改善を提供した。
【0080】
(薬物動態学および代謝)
腎臓および肝臓は、脈管形成因子の除去のための主要な器官である。特に、腎臓は、約60kDのタンパク質カットオフを有し、そしてそれ故、血清アルブミンを保持する(MW60kD)。しかし、本発明のすべての脈管形成因子は、40kDより小さい分子量を有する。本明細書の実施例の脈管形成因子であるFGF−2は、約16kDの分子量を有する。従って、腎臓排泄が期待される。市販のbFGF−2の放射標識生体分配研究では、肝臓および腎臓の両方が、IVまたはIC注射後1時間で高カウントの放射標識bFGF−2を含むことが示された。bFGF−2の別の組換えヨウ素化形態がラットに与えられた公開された研究では、肝臓が除去の主要器官として同定された。Whalenら、「The Fate of Intravenously Administered bFGF and the Effect of Heparin」Growth Factors、1:157−164(1989)。より詳細には、FGF−2は、通常循環においてα2−マクログロブリンに結合し、しかもこの複合体はKupffer細胞上のレセプターによりインターナライズされることが知られている。Whalenら(1989)およびLaMarreら「Cytokine Binding and Clearance Properties of Proteinase−Activated Alpha−2−Macroglobulins」Lab.Invest.、65:3−14(1991)。標識されたFGF−2フラグメントは、血漿中には見出されなかったが、それらは、尿中に見出され、そしてサイズにおいて細胞内分解産物に対応した。FGF−2がヘパリンと組み合わせて投与されたとき、FGF−2の腎臓排出が増加した。Whalenら(1989)。このFGF−2分子は、ヘパリンと複合体化しないときカチオン性であって、糸球体基底膜のカチオン性硫酸ヘパリンによりはじかれるようである。このFGF−2/ヘパリン複合体は、より中性に荷電し、そしてそれ故、より容易に濾過され、そして腎臓により排泄される。
【0081】
FGF−2の薬物動態学は、家畜ヨークシャーブタにおける静脈内(IV)および冠内(IC)投与後、Sprague Dawley(「SD」)ラットにおけるIV投薬後、およびCADヒト患者におけるIC投与後に測定された。すべての種において、IVおよび/またはIC注射後のrFGF−2血漿濃度は、最初の時間の間のいくつかの対数スケール(分配フェーズ)に亘る初期の急峻な傾きおよびかなりの減少をともなう二指数関数的曲線に従い、より緩和された減退(排除フェーズ)が続く。図1は、時間に対する血漿濃度曲線を提供し、これは、次の投与量:0.33μg/kg,0.65μg/kg、2μg/kg、6μg/kg、12μg/kgおよび24μg/kg除脂肪体重(LBM)の関数として、組換え成熟bFGF−2(146残基)のIC投与後のヒトにおけるこれらのフェーズを示す。bFGF−2の血漿濃度は、ヒトFGF−2の分析のために上市された市販のELISA(R&D Systems、Minneapolis MN)により測定した。hFGF−2のELISAアッセイは、組換え成熟bFGF−2と100%交差反応性を示した。FGFファミリーのその他のメンバー、および多くのその他のサイトカインは、このアッセイにより検出されなかった。また、ヘパリンはこのアッセイを妨害しない。
【0082】
これらの薬物動態学研究のデザイン、薬物動態学パラメータおよび結論を、ブタおよびラットにおける研究についてそれぞれ表5および表6に列挙する。読者は、特定の詳細についてこれらの表に言及される。しかし、これらの点の中で、注目されるべきは、半減期(T1/2)が、702±311〜609±350ml/時間/kgのクリアランス(CL)を有する動物について単一成分モデルのための単回IC注入の後2.8±0.8〜3.5時間であったことである。この研究の結果は、rFGF−2の薬物動態学が、動物がICまたはIV経路を経由して投薬された否かにかかわらず実質的に同一であったことを示す。表5を参照のこと。
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
これらの研究の表5および6から読み取られるべきその他の薬物動態学結果は、より温和な排除フェーズが続く迅速な分配フェーズ、およびヒトについて図1で報告されるような投与量直線性があることである。また、性別による差はなかった。さらに、3区画モデルを、5−10分IC注入により0.65〜6.5μg/kgを受ける前、約(「〜」)15分に70U/kgのヘパリンを受けたブタについて分析した。この3区画モデルについて半減期(T1/2α、T1/2βおよびT1/2γ)は、それぞれ1.5分、17分、および6.6時間であった。これらの動物では、初期容量(「V1」)は、ほぼ血漿容量であり、そして定常状態容量(「Vss」)は、血漿容量の約10倍であった。表5を参照のこと。ブタでは、循環性ヘパリンに対するrFGF−2の結合は、生体分配および排除を低減するようである。同様に、ラットにおいて、rFGF−2の分配の容積およびクリアランスの両方がヘパリンを投与したときより小さかった。表6を参照のこと。さらに、FGF−2のクリアランスに対する最大かつ最も好適な変化は、ヘパリンが±15分以内、好ましくはrFGF−2のIC注入の直前に投与されたときに見出された。表6を参照のこと。
【0085】
FGF−2の薬物動態学は、最適の医療管理にもかかわらず、CADをもつと診断されたヒトで、本出願を支持するフェーズI研究において、研究された。そのフェーズI研究で採用されたrbFGF−2の投与量は、0.33μg/kg,0.65μg/kg、2μg/kg、6μg/kg、12μg/kgおよび24μg/kg除脂肪体重(LBM)であり、そしてすべての投与量は、rbFGF−2注入前1−95分のIVまたはIC投与された40U/kgヘパリンを用いた患者の前処置後、20分のIC注入(2つの開存冠血管の各々中に10分)で投与された。本明細書の図1−3は、これらの結果の基礎になるデータを要約する。特に、図1は、20分間の時間に亘り上記に記載のようなIC注入により投与されたrbFGF−2の6つの異なる投与量について、時間(時間)に対する平均FGF−2血漿濃度のプロットである。図1は、投与量直線性および二相性血漿レベルの減少(すなわち、最初の時間の間の迅速分配フェーズ、それに続く1.9±2.2時間のT1/2の除去フェーズ)を示す。投与量直線性は、投与されたrbFGF−2の6つの投与量の各々に対する図1についてpg・時間/mlで示す個々の患者のFGF−2の曲線下面積(AUC)のプロットである図2でより容易に観察される。図3は、「rFGF−2注入前の分」で表したヘパリン投与量の時間に対する個々のヒト患者のFGF−2投与量正規化AUCのプロットであり、そしてFGF−2 AUCに対するヘパリン投与のタイミングの影響を示す。図3は、最大のAUC/投与量が、ヘパリンのようなグリコサミノグリカンの有効量がrFGF−2のIC注入の30分またはそれより短い内、より好ましくはrFGF−2のIC注入の20分またはそれより短い内に前投与されたとき達成されたことを示す。
【0086】
【表7】
代表的には、グリコサミノグリカン(glycosoaminoglycan)の有効量は、40〜70U/kgヘパリンである。これらの薬物動態学の結果が、本明細書中の表7にまとめられる。
【0087】
rFGF−2の分布期は、ヘパリンを伴う場合には、ヘパリンを伴わないrFGF−2と比較して、あまり急激ではなく、分布の容量がより少なく、そしてクリアランスはよりゆっくりである。循環しているヘパリンとのrFGF−2の複合体はrFGF−2の生体内分布および除去を減少させるようである。ヘパリン様構造に対するFGF−2の結合は強力(解離定数 約2×10-9M)であるが、FGF−2レセプターに対するFGF−2の結合は、およそ二桁大きい(解離定数 約2×10-11M)。Moscatelliら(1991)。さらに、グリコサミノグリカン(例えば、ヘパリン)とのrFGF−2の複合体形成は、シグナル伝達および有糸分裂誘発を増大させ得、そして/または酵素による分解からrFGF−2を保護し得る。
【0088】
有効と認められそして当該分野で受け容れられた冬眠心筋(hibernating mycardium)のモデルを使用して、10匹のミニブタに、90%の左の回旋状の(LCx)冠状動脈狭窄を受けさせた。確認については、例えば、Yanagisawa−Miwaら、「Salvage of Infarcted Myocardium by Antgiogenesic Action of Basic Fibroblast Growth Factor」、Science,257:1401−1403(1992);Banaiら、「Angiogenic−Induced Enhancement of Collateral Blood Flow to Ischemic Myocardium by Vascular Endothelial Growth Factor in Dogs」、Circulation,89(5):2183−2189(1994年5月);およびUngerら、「Basic Fibroblast growth factor enhances myocardial collateral flow in a canine model」、Am.J.Physiol.,266(Heart Circ.Physiol.35):H1588−H1595(1994)を参照のこと。1ヶ月後、ベースラインの陽電子射出断層撮影(PET)およびドブタミン負荷心エコー検査を、これらの動物に対して行った。次いで動物を無作為化し、そして100μlのキャリア(n=5)またはキャリア中のrbFGF−2(45ng/注射;全用量1,350ng)(n=5)のいずれかの、LCx領域中での30回の注射を用いて処置した。上記の注射においては、キャリアは、10mMのチオグリセロール、135mMのNaCl、10mMのクエン酸ナトリウムおよび1mMのEDTA(pH5)を含有している滅菌水溶液であった。
【0089】
それらの心筋層中にFGF−2の注射を受けさせた5匹の動物においては、安静時のLCx領域の心筋の血流(MBF)は、PETによって測定した場合には、ベースライン(0日)の非虚血性中隔値の61.3±4.4%から、手術の6ヶ月後には82.8±3.1%に増大した(p<0.001)。LCx領域についての安静時の壁の運動スコア指数(WMSI)は、ベースラインでは2.4±0.2であり、そして6ヶ月で2.2±0.2に改善された(ベースラインに対してp=0.08)。同様に、ピーク負荷時のLCx領域についてのWMSIは、ベースラインでは2.2±0.4(0日目)であり、そして6ヶ月で1.8±0.3にまで減少した(p=0.05)。ビヒクルで処置した動物においては、あらゆる時点で、MBFにおいても、安静時WMSIでも負荷WMSIでも有意な変化は存在しなかった。処置した慢性的な虚血の領域から採取した組織サンプルのウェスタンブロット分析は、ビヒクルで処置した慢性的な虚血の領域中で観察されたVEGFに対して、rFGF−2で処置した慢性的な虚血の領域におけるVEGFの有意に大きいアップレギュレーションを明らかにした(p<0.05)。
【0090】
従って、新脈管形成を必要としている患者のこの有効と認められたモデルにおいては、超低用量の脈管形成因子(例えば、FGF−2)の心筋内への直接注射が、心筋層の処置された領域におけるMBFおよび収縮予備力を改善した。従って、超低用量の脈管形成因子が、新脈管形成を誘導するための実行可能な方法、ならびにCADおよび/またはMIの処置のための実行可能な代替治療を示す。
【0091】
以下の実施例1〜6は、上記で議論されている予備データを生じたIC FGF−2についての選択の基準および第I相の臨床試験についてのさらなる詳細を提供する。実施例7は、超低用量の薬学的組成物についてのデータ、ならびに冠状動脈の疾患および心筋梗塞についてのモデル系において患者(ミニブタ)の冠状動脈の新脈管形成を誘導するための本発明の方法およびその使用を開示する。
【実施例】
【0092】
(実施例1:第I相の臨床試験において使用した中程度の濃度の単位用量のrFGF−2)
米国特許第5,155,214号(Baird)の組換えの成熟FGF−2を、中程度の濃度(0.2μg/kgから約36μg/kg)の単位用量および薬学的組成物として処方し、そしてラット、ブタ、および最終的にはヒトに、本明細書中で言及される第I相の臨床試験において投与した。種々の処方物を以下に記載する。
【0093】
中程度の濃度のrFGF−2単位用量を、積層した灰色のブチルラバーストッパーおよび赤色のフリップオフオーバーシールを備えた3ccのI型のガラスバイアル中の液体として、提供した。rFGF−2単位用量は、0.3mg/mlのrFGF−2を、10mMのクエン酸ナトリウム、10mMのモノチオグリセロール、1mMのEDTA二ナトリウム二水和物(分子量372.2)、135mMの塩化ナトリウム(pH 5.0)中に含む1.2mlを含んだ。このように、絶対的な用語で、それぞれのバイアル(および単位用量)は、0.36mgのrFGF−2を含んだ。液体の形態で単位用量を含有しているバイアルを、2℃から8℃で保存した。
【0094】
rFGF希釈液を、積層した灰色のブチルラバーストッパーおよび赤色のフリップオフオーバーシールを備えた5ccのI型のガラスバイアル中に供給した。rFGF−2希釈液は、10mMのクエン酸ナトリウム、10mMのモノチオグリセロール、135mMの塩化ナトリウムを含む(pH5.0)。それぞれのバイアルは、5.2mlのrFGF−2の希釈溶液を含んだ。そしてこれを、2℃から8℃で保存した。
【0095】
中程度の濃度のrFGF−2の薬学的組成物(注入した)を、rFGF希釈液でrFGF−2の単位用量を注入容量が10mlであるように希釈することによって調製した。EDTAの濃度を100μg/mlの限界未満に維持するために、比例的に大きい絶対量のFGF−2をより重い体重を有している患者に対して投与する場合には、全注入容量を20mlにまで増大させた。
【0096】
(実施例2:rFGF−2での処置についての冠状動脈疾患を有している患者についての選択基準)
以下の選択基準を、最適な医療管理にもかかわらずその活動が冠状動脈の虚血によって制限され、そして承認された再脈管形成治療についての候補ではない、冠状動脈疾患を有している第I相の患者に対して適用した。
【0097】
包括基準:被験体は、以下である場合に適格である:
・18歳以上の男性または女性
・冠状動脈疾患(CAD)の診断
・承認された再脈管形成手順(例えば、脈管形成術、ステント、冠状動脈のバイパス移植(CABG))(またはそのような介入を拒絶する)についての最適には及ばない候補である
・改変されたBruceプロトコールを使用して少なくとも3分間の運動を行うことが可能であり、そして冠状動脈の虚血によって制限される
・薬理学的な負荷を受けたタリウムセスタミビ(sestamibi)スキャンにおける少なくとも20%の心筋層の誘導性でありそして可逆的な欠損
・必要とされる心臓のカテーテル法のための臨床的に受容可能な範囲の、CBC、血小板、血清の化学
・正常なINR、またはクマジン(Coumadin)を用いて血液凝固を阻止された場合には、INR<2.0
・この試験(全ての必要な試験手順およびフォローアップの通院を含む)への参加についての書面でのインフォームドコンセントを得る意思がありそしてそれを得ること
排除の基準:被験体は、以下である場合には適格ではない:
・悪性疾患:治療的に処置された基底細胞癌を除いて、過去10年以内の悪性疾患の任意の病歴
・眼の状態:増殖性の網膜症、重篤な非増殖性の網膜症、網膜の静脈の閉塞、イールズ病、または黄斑の浮腫もしくは眼科医による眼底検査:6ヶ月以内の眼内の外科手術歴
・腎機能:年齢について調整された正常な範囲未満のクレアチニンのクリアランス;24時間の尿あたりで、タンパク質>250mgまたはミクロアルブミン>30mg
・クラスIVの心不全(New York Heart Association)
・心エコー図、タリウムスキャン、MRI、またはゲートで制御されるプールされた血液のスキャン(MUGA)による、<20%の駆出率
・血液動力学的に関連する不整脈(例えば、心室細動、持続性心室頻拍)
・重篤な弁の狭窄(大動脈の面積<1.0cm2、僧帽弁の面積<1.2cm2)、または重篤な弁の不全
・3週間以内のアンギナまたは不安定狭心症の顕著な増大
・3ヶ月以内の心筋梗塞(MI)歴
・6ヶ月以内の一過性脳虚血発作(TIA)または卒中歴
・6ヶ月以内のCABG、脈管形成術、またはステント歴
・6ヶ月以内の、経心筋層レーザー再脈管形成術、rFGF−2、または血管内皮増殖因子(VEGF)での処置歴
・妊娠の可能性のある女性または授乳中の母親
・任意の病理学的な線維症(例えば、肺線維症、強皮症)
・既知の血管の奇形(例えば、AV奇形、血管腫)
・CADの症状の評価を妨害し得る任意の疾患(例えば、心外膜炎、肋軟骨炎、食道炎、全身性の血管炎、鎌状赤血球症)の共存
・改変されたBruceプロトコールの運動負荷試験の能力を制限する任意の疾患(例えば、下肢の麻痺または切断、重篤な関節炎または下肢、重篤な慢性閉塞性肺疾患(COPD))の共存
・30日以内の研究薬剤、デバイス、または手順の臨床試験への参加(または60日以内に研究薬物が予定されている)
・rFGF−2または関連する化合物に対する既知の過敏症
・調査者の意見において被験体のこの研究への参加を不適切とさせる任意の状態(例えば、精神病、重篤な精神遅滞、研究職員とコミュニケーションをとることができないこと、薬物またはアルコールの濫用)
(実施例3:ヒトに対してICで投与された組換えFGF−2についての第I相の臨床試験)
米国特許第5,155,214号の組換えFGF−2を、最適な医療管理を受けたにもかかわらず徴候を残しており、そして外科手術によるかもしくは経皮的な再脈管形成を拒否したかまたはこれらの最適状態には及ばない候補である、重篤なCADを有している52人のヒトの患者に対して、第I相の非盲検、単回の投与で、用量を段階的に増大させながら、2つの部位試験において、投与した。薬物を、2つの主要な冠状動脈血供給源(IC)の間で分かれる、患者の冠状動脈中にカテーテルを配置するための標準的な技術(脈管形成術においてすでに使用されているような)を使用して、単回の20分間の注入として投与した。投与したrFGF−2の用量(μg/kg)は、0.33(n=4)、0.65(n=4)、2.0(n=8)、6.0(n=4)、12.0(n=4)、24(n=8)、36(n=10)、および48(n=10)であった。アンギナの頻度および生活の質を、Seattle Angina Questionnaire(SAQ)によって、ベースライン(rFGF−2の投与の前)およびrFGF−2の投与の約60日後に評価した。運動耐性時間(ETT)を、スレッドミル(threadmill)試験によって評価した。安静時/運動の核灌流(rest/exercise nuclear perfusion)、およびゲートで制御されるセスタミビ(sestamibi)で決定された安静時駆出率(EF)、および核磁気共鳴画像化法(MRI)を、ベースライン、ならびにFGF−2投与の30日後および60日後に評価した。評価した他の終点には、MRI(駆出率(EF)、正常な壁の運動(NWM)、標的化した壁の運動(TWM)、正常な壁の厚み(NWT)、標的化した壁の厚み(TWT)、虚血領域帯および側副の程度を客観的に測定するため)を含んだ。表2〜4をそれぞれ参照のこと。
【0098】
予備的な安全性の結果は、深刻な事象は用量に関係していないことを示す。今までに、8つの投与量のグループのうち、最も低い投与量のグループ(すなわち、0.65μg/kg(23日目)、2.0μg/kg(57日目)、および6.0μg/kg(63日目))で、3人が死亡した。3人の患者(すなわち、グループ1(0.33μg/kg)、グループ3(2.0μg/kg)およびグループ4(6.0μg/kg)からそれぞれ1人の患者)においては急性心筋梗塞(MI)についての6回の入院があった。3人の患者のうちの1人は、急性MIについての6回の入院のうちの4回を数えた。また、グループ4の1人の患者への投与の3週間後に診断された1つの大B細胞リンパ腫も存在した。この患者は、投与後2ヶ月で死亡した。急性の低血圧(注入の間または注入の直後により高い用量で見られる)は、昇圧剤を必要とすることなく液体の投与によって管理した。ヒトにおける最大寛容用量(MTD)を、36μg/kgと定義した。(対照的に、ブタにおいては、MTDは、6.5μg/mlであった)。48μg/kgまでのICのrFGF−2の用量で、積極的な液体での管理を用いて患者を管理したが、10人の患者のうちの2人においては、急性でありそして/または起立性の低血圧に起因して寛容ではなかった。ICによって注入したrFGF−2の半減期は約1時間であった。
【0099】
rFGF−2の単回のICの注入で処置したこの研究のヒトの患者は、1.5から2分のETTにおける平均の増大を示した。これは、特に重要である。なぜなら、>30秒のETTにおける増大が重要であると考えられ、そして代替治療(例えば、脈管形成術)を評価するための基準であるからである。アンギナの頻度および生活の質は、SAQによって測定した場合には、試験した28人の患者(n=28)について、全ての5つのサブスケールにおいて、57日で有意な改善を示した。表2および3を参照のこと。詳細には、SAQによって評価された5つの基準についてのスコアにおける平均の変化は、13から36の範囲であり、8以上の平均の変化は「臨床的に有意である」と考えられる。表2を参照のこと。
【0100】
核磁気共鳴画像化法(MRI)は、FGF−2の単回の単位用量の投与後の客観的な改善を示した。これは、30日目および60日目での増大した標的化された壁の運動(p<0.05)、および60日目での増大した標的化された壁の厚み(p<0.01)を含む。MRIはさらに、11人の患者の試験グループ(n=11)において、より少ない用量(0.33μg/kgおよび0.65μg/kg)およびより多い用量(2.0μg/kgおよび12.0μg/kg)のグループの両方について、改善された局所的な壁の運動、ならびに、標的化された領域での増大した心筋の灌流量および側副の発達を示した。
【0101】
異常な血流の領域(これは、28人の患者について1つの部位で評価した)は、30日目および60日目で有意に減少した(p<0.001)。
【0102】
上記の基準(すなわち、ETT、SAQ、MRI)に加えて、処置は、少なくとも6ヶ月間続く脈管形成をもたらす場合には、非常に良好であると考えられる。この第I相の研究においては、予想以上の優れた脈管形成効果が、全ての投薬量のグループにおいて最後の57〜60日間続くことが観察された。(表2〜4を参照のこと)。すでに得られている結果に基づくと、脈管形成の影響が、12ヶ月以上であるが少なくとも6ヶ月続き、その時間に、必要とされる場合にはこの手順が繰り返され得ることが、予想される。
【0103】
(実施例4)
「冠状動脈の疾患を処置するためにヒトに対して投与された組換えのFGF−2についての提案された第II相の臨床試験」
冠状動脈の疾患についてヒトの患者を処置するための米国特許第5,155,214号のrFGF−2の第II相の臨床試験を、4つのアーム:偽薬、0.3μg/kg、3μg/kg/kg3μg/kg、および30μg/kgの冠状動脈内投与を用いる二重盲検/プラセボコントロール試験として実施した。
【0104】
(実施例5)
「第II相のヒトでの臨床試験のためのrFGF−2の単位用量および薬学的組成物」
米国特許第5,155,214号のrFGF−2を、本明細書中に参照する第II相の臨床試験におけるヒトへの投与のための薬学的組成物のストックとして処方した。種々の処方物を以下に記載する。
実施例2〜4の中程度の濃度のrFGF−2ストック薬学的組成物を、積層した灰色のブチルラバーストッパーおよび赤色のフリップオフオーバーシールを備えた5ccのI型のガラスバイアル中の液体として、調製した。rFGF−2組成物は、10mMのクエン酸ナトリウム、10mMのモノチオグリセロール、0.3mMのEDTA二ナトリウム二水和物(分子量372.2)、135mMの塩化ナトリウム(pH 5.0)中に、米国特許第5,155,214号の0.3mg/mlのrFGF−2を含んだ。それぞれのバイアルは、3.7mlのrFGF−2の薬物生成物の溶液(1つのバイアルあたり1.11mgのrFGF−2)を含んだ。液体の形態の得られたFGF−2ストック薬学的組成物を、2℃〜8℃で保存した。使用の前に、上記のFGF−2組成物を、「rFGF−2偽薬」で稀釈した。
【0105】
rFGF偽薬を、積層した灰色のブチルラバーストッパーおよび赤色のフリップオフオーバーシールを備えた5ccのI型のガラスバイアル中に透明な無色の液体として供給する。rFGF−2偽薬は、薬物生成物からの外観においては識別が不可能であり、そして以下の処方を有する:10mMのクエン酸ナトリウム、10mMのモノチオグリセロール、0.3mMのEDTA二ナトリウム二水和物(分子量372.2)、135mMの塩化ナトリウム(pH 5.0)。それぞれのバイアルは、5.2mlのrFGF−2の偽薬の溶液を含む。単位用量と同様に、rFGF−2偽薬を、2℃から8℃で保存した。
【0106】
中程度の濃度のrFGF−2の薬学的組成物(最終的に冠状動脈内で注入される)を、本明細書中の実施例2〜4に記載するように、rFGF稀釈液でrFGF−2の単位用量を注入容量が10mlであるように希釈することによって調製した。EDTAの濃度を100μg/mlの限界未満に維持するために、全注入容量を、比例的に大きい絶対的な量のFGF−2がより大きな体重を有している患者に対して投与される場合には、40mlにまで増大させた。
(実施例6)
「冠状動脈内rFGF−2の第II相のヒト臨床試験のためのCAD患者の選択の基準」
従って、本発明に従うrFGF−2の単回の単位投与量を投与したヒトにおける、生活の質および増大させられた脈管形成の効率における予想以上の優れた改善の上記の証拠は、出願人らの単位用量の薬学的組成物およびその使用方法の特許性を支持する。
【0107】
(実施例7)
「ミニブタの心筋への超低容量のrFGF−2の投与によるインビボでの新脈管形成の誘導」
有効と認められた冬眠心筋モデルを使用して、ミニブタに90%の左回旋状(LCx)冠状動脈の狭窄を受けさせた。簡潔には、水圧で制御される閉塞器を、ミニブタのLCxの近位末端周辺に配置した。フロープローブを、水圧の閉塞器に対して遠位のLCx中に挿入し、そして閉塞器を一貫して90%の閉塞を提供するように膨張させた。動物を6つのグループで試験した。1ヶ月後、ベースラインの陽子射出断像撮影(PET)およびドブタミン負荷の心エコー検査(DSE)を行い、そして動物を、100μlのキャリア(n=5)またはキャリア中のrFGF−2(45ng/注射;全用量1.35μg)(n=5)のいずれかの、LCx領域中での30回の注射に対して無作為化した。上記の注射においては、FGF−2は、米国特許第5,155,214号の組換えの成熟のFGF−2(配列番号2)であった。キャリアは、10mMのチオグリセロール、135mMのNaCl、10mMのクエン酸ナトリウム、および1mMのEDTAを含有している滅菌の水溶液(pH5)であった。この実施例で提供した全用量(1.35μg)のFGF−2は、アメロイド(ameroid)ブタモデルにおいて有効であることが見出されている、冠状動脈内(IC)で送達される用量(135μg)の1/100であった。アメロイドブタモデルでは、LCxは100%を閉塞した。
【0108】
それらの心筋中にrFGF−2の注射を受けさせた動物においては、休止期のLCx領域の心筋の血流(MBF)は、PETによって測定した場合には、ベースライン(0日目)での非虚血性の中隔の値の61.3±4.4%から、手術の6ヶ月後には82.8±3.1%に増大した(p<0.001)。LCx領域についての休止期の壁の運動スコア指数(WMSI)は、ベースラインでは2.4±0.2であり、そして6ヶ月で2.2±0.2に改善された(ベースラインに対してp=0.08)。同様に、ピーク負荷期のLCx領域についてのWMSIは、ベースラインでは2.2±0.4(0日目)であり、そして6ヶ月で1.8±0.3にまで改善された(p=0.05)(図5)。ビヒクルで処置した動物においては、あらゆる時点で、MBFにおいてまたは休止期もしくはストレス期のWMSIにおいても有意な変化は存在しなかった。処置の6ヶ月後、ミニブタを屠殺し、そして処置した虚血性の心筋の毛細血管の密度を決定した。FGF−2処置したミニブタは、生理食塩水で処置したグループについての約1700に対して、約4400/単位容量の毛細血管の密度を示した(図6)。ウェスタンブロット分析は、ビヒクルを用いて観察したものに対して、慢性的な虚血のFGF−2で処置した領域においてVEGF(VEGF165として測定した)およびFGF−2の有意に大きいアップレギュレーションを明らかにした(p<0.05)。図10。驚くべきことに、VEGFおよびFGF−2のアップレギュレーションは、処置後少なくとも3ヶ月間持続した(図10)。
【0109】
従って、超低用量の脈管形成因子(例えば、rFGF−2)の直接の心筋内注射は、MBF、収縮性の保存、灌流(図4)、DSEによって測定されるような心筋の機(図5)能、および心筋の処置領域の毛細血管密度(図6)を改善する。従って、超低用量の脈管形成因子IMcの注射が、院新脈管形成を誘導するための実行可能な方法、およびCADおよび/またはMIの処置のための実行可能な別の治療を示す。
(実施例8)
「ミニブタの心筋への種々の用量のrFGF−2の投与による、インビボでの新脈管形成の誘導」
実施例7に記載した確認された冬眠心筋のモデルと同じモデルを使用して、ミニブタに、90%の左回旋状(LCx)冠状に狭窄を受けさせた。簡潔には、水圧で制御される閉塞器を、ミニブタのLCxの近位の末端の周辺に配置した。フロープローブを、水圧の閉塞器に対して遠位のLCx中に挿入し、そして閉塞器を一貫して90%の閉塞を提供するように膨張させた。4群の動物を6匹の群で試験した。群は以下の通りであった:
・IMcの中程度の用量:6匹の動物、@0.6μg/kg 全用量IMc
・LCx領域中に30回の注射、ヘパリンのIMcはなし
・IMcの高用量:6匹の動物、@6.0μg/kg 全用量IMc
・LCx領域中に30回の注射、ヘパリンのIMcはなし
・ポジティブコントロール:6匹の動物、アメロイドモデル(LCxの100%の閉塞)において@6.0μg/kgのI.C.、送達される全用量135μg
・注入の開始の5分前に70U/kgのヘパリン
・可能である場合には、1/2用量のRCA、1/2用量のLCxまたはLAD(3μg/kg/動脈)、動脈あたり10分間にわたる注入によってそれぞれ送達される(20分の全注入時間)
・ネガティブコントロール:6匹の動物−ビヒクル/生理食塩水×30回の注射 IMc。
【0110】
ミニブタを、外科手術の時点で処置グループにランダムに割り当てた。
【0111】
(第1相)
(ベースラインの確立および処置の開始)
・上記に記載するように、PETによって決定した灌流、およびDSEによる心臓の機能を用いて、すぐに冬眠心筋についてのベースラインを確立した。
【0112】
・予備処置(麻酔下):
・ベースラインの心臓の速度(HR)/血圧(BP)を記録した
・以下のために血液を回収した:
・血清の化学、CBC、心臓の酵素(例えば、損傷した心臓の筋細胞に関連する、CPK、MB、心臓のトロポニンI(「TNI」)、または心臓のトロポニンT(「TNT」))
・rFGF−2アッセイの予備処置のための遠心分離した血漿(−70℃で凍結)
・EKG(3つのリード、周期的な静脈抜去術を伴う)
・処置の間:
・HRおよびBPデータを記録した:液体を用いて低血圧を処置する
・モニターによってリズムの変化を記録した
・上記に記載した、FGF−2(中程度の用量および高用量)、ネガティブコントロール、およびポジティブコントロールを用いて、4つのグループを処置した
・処置後:
・HR/BPをベースラインに戻るまで記録した
・血清の化学、CBC、心臓の酵素、およびrFGF−2アッセイのための遠心分離した血漿の第2のセットを、処置後の可能な最新の時点(最低2時間)で回収した。血液の回収にはすべての動物について処置後の同じ時間を使用する。取り扱いについての上記を参照のこと
・EKG(3つのリード、周期的な静脈抜去術を伴う)
(第2相)
(フォローアップ@処置後3ヶ月)
・麻酔下
・HRおよびBPを記録した
・血清の化学、CBC、心臓の酵素、およびrFGF−2アッセイのための遠心分離した血漿のために血液を回収した。取り扱いについての上記を参照のこと。
【0113】
・EKGを行った(3つのリード、周期的な静脈抜去術を伴う)
・PETによって灌流、そしてDSEによる負荷での心筋の機能を決定した。2人のリーダーに対してブラインドにした処置群。
【0114】
(第3相)
(組織学および最終的な報告)
・屠殺後:ミニブタを、FGF−2またはコントロールでの処置の3ヶ月後に屠殺した。
【0115】
・心臓の全体的な病理学:注射部位または他の心臓の病理学の証拠(梗塞、傷跡、注射部位の変化、心臓周辺の変化)を記録した
・組織:隔壁、動脈壁、LCx領域
・構造についてヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した
・線維症についてトリクロムで染色した
・内皮組織を同定するためにアルカリホスファターゼについて染色した
・中央の心筋の横断面の血管全体の密度のブラインド評価を行った
・注射部位での局所的な病理学(線維症、血管の分布状態、筋細胞の欠失、梗塞など)を検索した。
【0116】
処置した虚血性の心筋の正規化された灌流の比を、ポジティブおよびネガティブコントロール(上記)を用いた処置の3ヶ月後、および「中程度」(0.6μg/kg(13.5μg))または「高」6.0μg/kg(135μg))の用量のrFGF−2(配列番号2)でのIMc処置の3ヶ月後に、PETによって決定した。このデータを、図7に棒グラフで示す。これはまた、実施例7において決定するように、「低」(0.06μg/kg(1.35μg))用量のFGF−2による正規化された灌流のデータと組合せる。図7は、正規化された灌流における最大の%変化(すなわち、27.5%の増大)が、驚くべきことに、「中程度」の用量について生じ、そして「低」および「高」用量はそれぞれ17.5%および17%のより低い変化を示すことを示す。図7のデータは、2つの別々の実験の結果(明るい棒および暗い棒)であり、「低」用量についての偽薬である「uld」(超低用量)として示される明るい色をつけた偽薬もまた、明るい色をつけた棒として示す。
【0117】
処置の1ヶ月および3ヶ月後の中程度の用量群および高い用量群で処置した虚血性の心筋についての正規化された灌流における%変化を、図8の棒グラフ中のポジティブ(IC)およびネガティブ(偽薬)コントロールと比較する。「高」用量は、処置後1ヶ月で、「中程度」の用量について達成された正規化された灌流においてより多い増大を示した。しかし、正規化された灌流における%増大は、処置後3ヶ月で、「中程度」の用量のrFGF−2のIMcについて予想以上に生じた。この予想以上の優れた結果は、「高」用量で処置したグループについてのものよりも、「中程度」の用量で処置したグループについて観察された、予想以上により大きな血管の密度によって確証づけらる。(図9)。さらに、中程度の用量で処置した群について予想以上の優れた結果の両方を示したことは、「高」用量の群(約170pg/ml)で、またはポジティブなICコントロール(約175pg/ml)で観察されたものと比較して、「中程度」の用量(約290pg/ml)での処置の3ヶ月後に観察された処置された虚血性の心筋における細胞内FGF−2の、予想以上に優れたアップレギュレーションと一致する。
従って、本発明の方法に従ってIMcで投与されるFGF−2の全ての投薬量が、灌流および心臓の機能を増大させるが、(中程度)の用量のFGF−2が予想以上に優れているようであり、これは、約0.3μg/kg(または6.75μgまたは6,750ng)から約3.0μg/kg(または67.5μgまたは67,500ng)までで生じる。
[配列表]
【表8】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(A.発明の分野)
本発明は、脈管形成因子(例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子もしくは血管内皮増殖因子)、または脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインの用量(超低用量を含む)に関し、ならびに改善された心筋血流を得るための用量の投与形態に関する。本発明はまた、脈管形成因子の用量を含む薬学的組成物、ならびに心筋機能、血流、灌流および/または脈管密度を改善するための、心臓、好ましくはヒト心臓への、その薬学的組成物の投与方法に関する。本発明は有用である。なぜなら、開示された用量、その投与のための薬学的組成物および方法は、冠状動脈疾患(CAD)処置のための、外科的処置に対する代替物または補助剤を提供し、そして/または、さらにヒトにおける心筋梗塞(MI)後の損傷を減少する方法を提供するからである。最後に、本発明は、投与された脈管形成因子が、標的組織に対する治療効果を有するか否かを、代わりのマーカーについてアッセイすることによって決定するための方法を含む。
【背景技術】
【0002】
(B.発明の背景)
冠状動脈疾患(アテローム性動脈硬化症)は、ヒトにおける進行性の疾患であり、1以上の冠状動脈は、プラークの蓄積を通じて次第に閉鎖する。この疾患を有する患者の冠状動脈は、しばしば、バルーン脈管形成術またはステントの挿入によって処置され、部分的に閉鎖した動脈を開ける。最後には、これらの患者は、非常に高額で危険な冠状動脈バイパス手術を受けることを必要とされる。このような患者に、冠状血流を高める処置を提供し、バイパス手術または脈管形成術を受ける必要生を無くすることは望ましい。
【0003】
ヒトにおいて、さらにより重大な状況が起こるのは、患者が心筋梗塞に罹患する場合である。ここで1以上の冠状動脈または小動脈は、凝塊などによって、完全に閉じる。閉じた動脈または小動脈によってなされる心筋層の部分への循環を回復するための即時の必要性が存在する。失われた冠状の循環が梗塞形成の数時間内に回復される場合、閉塞から生じる心筋層への損傷のほとんどは、予防され得る。凝塊溶解剤(例えば、組織プラスミノゲン活性化剤(tPA)、ストレプトキナーゼ、およびウロキナーゼ)は、この状況に有用であることが証明されている。しかし、凝塊溶解剤に対する補助剤として、それはまた、損傷したかまたは閉塞した心筋層に、新脈管形成によって、副行循環を得るために望ましい。
【0004】
従って、本発明の目的は、ヒト心臓に、心新脈管形成を提供するが、体内の他の箇所(特に、検出されない腫瘍)での新脈管形成を誘導する危険性を最小化する、新脈管形成を必要とするヒト心臓への、脈管形成因子の用量およびその投与形態を、提供することである。より具体的には、本発明のさらなる目的は、心新脈管形成の所望の特性(例えば、冠状動脈疾患および/または急性心筋梗塞の処置の間)を提供するが、体内の他の箇所で生じる有害な脈管形成効果の可能性を最小化する、ヒト患者への脈管形成因子の治療用量およびその投与形態を提供することである。
【0005】
脈管形成因子としては、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮増殖因子−A(VEGF−A)、トランスホーミング増殖因子β1(TGF−β1)および線維芽細胞増殖因子が挙げられる。線維芽細胞増殖因子(FGF)は、少なくとも18の構造学的に関連したポリペプチドのファミリー(FGF−1〜FGF−18と呼ばれる)であり、プロテオグリカン(例えば、ヘパリン)に対しての高程度の親和性によって特徴付けられる。種々のFGF分子は、15〜23kDのサイズに及び、そして以下を含む正常および悪性条件における広範囲の生物学的活性を示す:神経細胞接着および分化[Schubertら、J.Cell Biol.104:635−643(1987)];創傷治癒[米国特許第5,439,818号(Fiddes)];多くの中胚葉細胞型および外胚葉細胞型に関するマイトジェンとして、栄養因子として、分化誘導因子または分化阻害因子のとして[Clementsら、Oncogene 8:1311−1316(1993)];ならびに、脈管形成因子として[Harada,J.Clin.Invest.,94:623−630(1994)]。従って、FGFファミリーは、多能性増殖因子のファミリーであり、異なる範囲の線維芽細胞、平滑筋細胞、内皮細胞および神経細胞を刺激する。
【0006】
任意の脈管形成因子(または因子)が、正常組織(例えば、胎児発生時または創傷治癒字)によって放出される場合、時間的かつ空間的な制御が問題である。しかし、多くの脈管形成因子はまた、発癌遺伝子である。従って、時間的かつ空間的制御の非存在下で、それらは、新脈管形成を提供することによって腫瘍増殖を刺激する潜在能力を有する。従って、任意の脈管形成因子が、ヒト被験体において医薬として使用される前、検出されない腫瘍に対する、その脈管形成効果を最小にすることが考慮されなくてはならない。結果として、本発明の目的は、標的組織において局在化された新脈管形成を提供するが、体内の他の箇所での検出されない腫瘍における新脈管形成の増加する危険性を最小化する、脈管形成因子の用量およびその投与形態を提供することである。
【0007】
多くの脈管形成因子(例えば、PDGF、VEGF−AまたはFGF)は、単離され、そして心筋虚血の種々の動物モデルに投与され、異なる結果およびしばしば反対の結果を有している。Battlerらに従って、「心筋虚血のイヌモデルは、その関連する少数の天然の副行循環およびヒト冠動脈循環に対する類似において「勝る」ブタモデルに対するように、天然に存在する副行循環のために非難される」。Battlerら、「Intracoronary Injection of Basic Fibroblast Growth Factor Enhances Angiogenesis in Infarcted Swine Myocardium」JACC,22(7):2001−6(1993年12月)第2002ページ、第1欄。従って、当業者は、ブタ心臓がヒト心臓に類似する点で最も勝るモデルであることを認識した。さらに、Battlerは、「bFGF(すなわちブタFGF−2)の投与の用量および形態は、達成された生物学的効果に対して意味深い関係であり得る」ことを指摘する。Battlerら、第2005頁、第1欄。従って、ヒト患者におけるCADおよび/またはMI後の傷害の処置の完全性および効果を提供する、脈管形成因子の用量および投与形態を提供することが、本発明のさらなる目的である。さらに一般には、ヒト心臓において新脈管形成を誘導する一方で、身体の他の部位における新脈管形成の危険性を最小化する、投与のための薬学的組成物および方法を提供することが、本発明の目的である。
【0008】
最近までの脈管形成因子に対する種々の研究は、10μg〜1500μgの範囲の脈管形成因子の投与される用量を有する。例えば、Yanagisawa−Miwaら、「Salvage of Infarcted Myocardium by Angiogenesic Action of Basic Fibroblast Growth Factor」,Science,257:1401−1403(1992)は、10mlの生理食塩水中の10μg用量のヒト組換え塩基性FGF(hr−FGF−2)を、隣接する左上行冠状動脈(LAD)内に血栓を挿入することにより心筋梗塞を誘導した後のイヌの左回旋冠状動脈(LCX)に、1分間にわたって2度注入する工程を開示する。Yanagisawa−Miwaは、さらに、このイヌモデルにおける総量20μgのhr−FGF−2冠状内投与の結果として、「脈管形成がbFGFの投与1週間後以内に生じた」ことを開示する。Yanagisawa−Miwa、1403頁。Banaiら、「Angiogenic−Induced Enhancement of Collateral Blood Flow to Ischemic Myocardium by Vascular Endothelial Growth Factor in Dogs」,Circulation、89(5):2183−2189(1994年5月)は、イヌの遠位左回旋動脈(LCx)に1日あたり45μgのヒト組換えVEGFを1週間あたり5日間、4週間にわたって、投与することによって、冠状新脈管形成を首尾よく誘導する工程(すなわち、副行血流における40%増加および心筋内に分布する脈管の実数的密度における89%増加)を開示する。このイヌの近位LCxは、アメネロイド(ameroid)圧縮器(constrictor)を有する第一の開放枝の前に圧縮され、ここで、取り巻くアネロイドの遠位に水圧バルーン閉塞器(occluder)を直ちに設置した。同様の研究において、Ungerら、「Basic fibroblast growth factor enhances myocardial collateral flow in a canine model」、Am.J.Physiol.266(Heart Circ.Physiol.35):H1588−H1595(1994)は、イヌの遠位左回旋動脈(LCx)に110μgのヒト組換え塩基性FGF(155残基形態)の毎日のポーラスを9日間にわたって、投与することによって、副行血流を増加する工程(すなわち、処置群および未処置群におけるそれぞれ0.49および0.35の、最終の副行ゾーン対正常ゾーン(CZ/NZ)の血流比)を開示する。このイヌの近位LCxは、アネロイド圧縮器を有する第一の開放枝の前に圧縮され、ここで、取り巻くアネロイドの遠位に水圧バルーン閉塞器を直ちに設置した。しかし、上記の研究において、Ungerは、新脈管形成を誘導した方法または用量を示し得なかった。副行血流に基づく任意の評価がより困難であること示すために、Ungerはまた、塩基性FGFの投与が急性の血管拡張性効果、血圧の減少、および副行血流の増加を生じることを開示する。Unger(1994)H1590頁、第2欄およびH1592頁、第2欄。
【0009】
初期の研究,Ungerら「A model to assess interventions to improve collateral blood flow:continuous administration of agents into the left coronary artery in dogs」Cardiovascular Res.27:785−791(1993)において、Ungerは、アネロイド圧縮器での4週間にわたる動脈の圧縮後の動脈の二重連結および連結したLCxの近位株(stub)内へのFGF−1の注入のためのカテーテルの挿入の後に、イヌの左回旋動脈(LCx)の近位端への、30 IU/hrのヘパリンの存在下での30μg/hrの組換え酸性FGF(すなわち、FGF−1)の4週間にわたる連続注入を開示する。Unger(1993)第785頁。にもかかわらず、総蓄積量10mgの酸性FGFを、それぞれのイヌの冠状動脈内に注入した。Ungerは、「酸性FGFは...副行血流に例示的な効果を有さなかった」、Unger(1993)第785頁(要約)、および第790頁に、このモデルを報告した。
【0010】
Haradaら「Basic Fibroblast Growth Factor Improves Myocardial Function in Chronically Ischemic Porcine Hearts」、J.Clin.Invest.94:623−630(1994年8月)は、1カプセル当たり1μgの塩基性FGFを有する4〜5カプセルの形態での8μgの塩基性FGFの膣外(膣外周囲)投与による、ヨークシャーブタにおける緩やかな冠状閉塞モデルでの冠状血流の増加および梗塞サイズの減少を開示する。これは、近位左前室間動脈(LAD)ならびに第1の開放枝(first takeoff branch)の前で左回旋動脈(LCx)の近位端に設置されたアネロイド圧縮器の近位および遠位の両方に位置する。Haradaの実験が表す目的が「新脈管形成を刺激することによって慢性心筋梗塞を緩和すること」(Harada、第628頁)であるにもかかわらず、Haradaは、新脈管形成を示し得なかった。さらに、Haradaは、「bFGFの最適用量および投与経路の長さ」は明白ではないと結論付けた。Harada、第629頁。これとは別に、Landauら「Interpericardial basic fibroblast growth factor induces myocardial angiogenesis in a rabbit model of chronic ischemia」、Am.Heart Journal、129:924−931(1995)は、1日当たり180ngのヒト組換え塩基性FGF(154残基)を2.0〜4.3kgのウサギの心嚢周囲空間に7〜28日間にわたって投与することが、新たな心外膜の小脈管増殖を増加すること、ならびに、この効果は左心室肥大によって増加されることを開示する。Landauにおいて使用される塩基性FGFの用量は、サイズが70kgの男性の場合、1日当たり2.9μgで7〜28日間、または総用量の塩基性FGFが20.3μg〜81.2μgに対応する。Lopezら「Angiogenic potential of perivascularly delivered aFGF in a porcine model of chronic myocardial ischemia」、Am.J.Physiol.274(Heart Circ.Physiol.43):H930−H936(1998)は、ヨークシャーブタにおける、14μgの組換えヒトaFGFムテイン(すなわち、aFGFのSer−117がSerからCysに置換される)の脈管周囲送達による、心筋血流および完全な左心室機能の改善を開示する。このムテインは、近位左回旋動脈にわたる縫合で確保される酢酸エチレンビニル(EVA)ポリマーのポーラスにおいて広く分布される。Lopezは、脈管周囲に送達されたaFGFが、動物での心臓の妥協(compromised)領域における「休止期」および「迅速な調子の間」の両方での血流を改善したことを報告する。Lopez、H934頁、第2欄。しかし、Lopezは、例えば、「血管拡張」または「脈管循環における改善」といった他の可能な原因(source)を列挙して、増加した血流を新脈管形成に直接帰し得なかった。
【0011】
最終的には、米国特許第4,296,100号(1981年10月20日にFrancoにより出願)は、梗塞形成の直後の1回の処置として、100gの心臓組織当たり10mg〜1gの純度90%のウシFGF(下垂体抽出物)を投与することによる、患者における心筋梗塞の処置の方法を開示する。Francoに従って、「100グラムの心臓当たり少なくとも10μgを使用して所望の効果を達成する」。Franco、第1欄、62〜64行目。Francoは、FGFが種々の形態(心臓への直接投与、静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射および経口摂取を含む)によって心臓に投与されることを開示する。Franco、第2欄、63〜69行目。Francoはまた、その方法が梗塞のサイズ(創傷領域または永続的損傷の領域)を標準におけるサイズの4分の1へ減少し得ることを開示する。Franco、表III。Francoに従って、FGFの機能は、「心筋梗塞の後の持続的期間にわたって血流を増加する」ことである。Franco、第1欄、42〜43行目。しかし、任意のFGF投与の急性の効果は、冠状血流を本質的に増加する血管拡張である。Francoは、100gの心臓当たり10μg〜1gのFGFでの処置のような結果として、組織学的研究は「心臓における毛管領域での顕著な増加を何ら示さない」ことを明確に開示する。Franco、第4欄13〜17行目。さらに、Francoは、このような大用量のFGFの投与が身体での任意の未発見の腫瘍における新脈管形成効果を有するか否かの論点を示さなかった。
【0012】
従って、新脈管形成を必要とする心臓の領域に新脈管形成を誘導するに効果的な量で、患者に対して新脈管形成因子の用量、および新脈管形成因子の1以上の用量を投与する方法を提供することが、本発明の目的である。標的部位での新脈管形成を誘導する一方、身体での他の所望されない部位で新脈管形成を誘導する危険性を減少する治療効果を提供する脈管形成因子を送達する用量および方法を提供することが、本願のさらなる目的である。
【0013】
上記の参考文献および本明細書中に列挙される他の全ての参考文献は、明らかにその全体が本明細書中に援用される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1) 薬学的に受容可能なキャリア中に有効量の脈管形成因子を含む薬学的組成物であって、該有効量の脈管形成因子が、約5ng〜約135,000ng未満の範囲の該脈管形成因子である、薬学的組成物。
(項目2) 凍結乾燥された形態である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目3) 前記脈管形成因子が、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮増殖因子−A(VEGF−A)、VEGF−D、線維芽細胞増殖因子(FGF)、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目1または2に記載の薬学的組成物。
(項目4) 前記脈管形成因子が、VEGF−A、VEGF−D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目3に記載の薬学的組成物。
(項目5) 前記VEGF−Aが、ヒトのVEGF−A121、VEGF−A165、VEGF−A189、またはVEGF−A206である、項目4に記載の薬学的組成物。
(項目6) 前記脈管形成因子が、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである、項目4に記載の薬学的組成物。
(項目7) 前記FGFが、FGF−2、あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである、項目6に記載の薬学的組成物。
(項目8) 前記FGFが、配列番号2、5または6のFGF−2である、項目7に記載の薬学的組成物。
(項目9) 前記脈管形成因子の酸化を阻止するために有効な量のキレート剤をさらに含む、項目2に記載の薬学的組成物。
(項目10) 前記FGF−2、あるいは前記脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインの酸化を阻止するために有効な量のキレート剤をさらに含む、項目9に記載の薬学的組成物。
(項目11) 前記有効量のFGF−2が、5ng〜67,500ngの範囲の前記脈管形成因子である、項目8に記載の薬学的組成物。
(項目12) 心筋層において血管灌流を増加するための方法であって、該方法は、有効量の脈管形成因子を、灌流における増加が必要な該心筋層の領域に注射する工程を包含し、該有効量が、脈管形成因子の約5ng〜135,000ng未満の範囲内である、方法。
(項目13) 前記有効量の脈管形成因子が、5ng〜67,500ngのPDGF、VEGF−A、VEGF−D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目12に記載の方法。
(項目14) 前記脈管形成因子が、VEGF−A、VEGF−D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目13に記載の方法。
(項目15) 前記VEGF−Aが、ヒトのVEGF−A121、VEGF−A165、VEGF−A189、またはVEGF−A206である、項目14に記載の方法。
(項目16) 前記脈管形成因子が、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである、項目14に記載の方法。
(項目17) 前記FGFが、FGF−2、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目16に記載の方法。
(項目18) 前記FGF−2が、配列番号2、5または6のアミノ酸配列を有する、項目17に記載の方法。
(項目19) 心筋層において血管密度を増加するための方法であって、該方法は、有効量の脈管形成因子を、灌流における増加が必要な該心筋層の領域に注射する工程を包含し、該有効量が、脈管形成因子の約5ng〜135,000ng未満の範囲内である、方法。
(項目20) 前記有効量の脈管形成因子が、5ng〜67,500ngのPDGF、VEGF−A、VEGF−D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目19に記載の方法。
(項目21) 患者の心臓において新脈管形成を誘導するための方法であって、該方法は、新脈管形成が必要な1以上の領域での該患者の心筋層に、有効量の脈管形成因子を直接注射する工程を包含し、該有効量の脈管形成因子が、約5ng〜135,000ng未満の該脈管形成因子である、方法。
(項目22) 前記有効量の脈管形成因子が、前記脈管形成因子の5ng〜67,500ngである、項目21に記載の方法。
(項目23) 前記患者がヒト患者である、項目22に記載の方法。
(項目24) 前記ヒト患者が冠状動脈障害(CAD)または心筋梗塞(MI)の徴候を有する、項目22に記載の方法。
(項目25) 前記脈管形成因子が、PDFG、VEGF−A、VEGF−D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目23に記載の方法。
(項目26) 前記脈管形成因子が、VEGF−A、VEGF−D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目25に記載の方法。
(項目27) 前記VEGF−Aが、ヒトのVEGF−A121、VEGF−A165、VEGF−A189、またはVEGF−A206である、項目26に記載の方法。
(項目28) 前記脈管形成因子が、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである、項目26に記載の方法。
(項目29) 前記FGFが、FGF−2、あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである、項目28に記載の方法。
(項目30) 前記FGF−2が、配列番号2、5または6のアミノ酸配列を有する、項目29に記載の方法。
(項目31) 3ヶ月までの間、ヒト心筋細胞においてFGF−2およびVEGFの産生を刺激するための方法であって、該方法は、新脈管形成が必要な1以上の領域での患者の心筋層に、有効量の脈管形成因子を直接注射する工程を包含し、該有効量の脈管形成因子は、約5ng〜135,000ng未満の該脈管形成因子である、方法。
(項目32) 該有効量の脈管形成因子が6.75μg〜67.5μgの該脈管形成因子である、項目31に記載の方法。
(項目33) 冠状動脈疾患についてヒト患者を処置するための方法であって、該方法は、該疾患について処置が必要な1以上の領域での心筋層に、有効量の脈管形成因子を直接注射する工程を包含し、該有効量の脈管形成因子が、約5ng〜135,000ng未満の該脈管形成因子である、方法。
(項目34) 前記有効量の脈管形成因子が、5ng〜67,500ngの該脈管形成因子である、項目33に記載の方法。
(項目35) 前記脈管形成因子が、PDFG、VEGF−A、VEGF−D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目34に記載の方法。
(項目36) 前記脈管形成因子が、VEGF‐A、VEGF‐D、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそれらのフラグメントまたはムテインである、項目35に記載の方法。
(項目37) 前記VEGF−Aが、ヒトのVEGF−A121、VEGF−A165、VEGF−A189、またはVEGF−A206である、項目36に記載の方法。
(項目38) 前記脈管形成因子が、FGF、あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである、項目37に記載の方法。
(項目39) 前記FGFが、FGF−2、あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである、項目38に記載の方法。
(項目40) 前記FGFがFGF−2である、項目39に記載の方法。
(項目41) 前記FGF−2が、配列番号2、5または6のアミノ酸配列を有する、項目40に記載の方法。
(発明の要旨)
出願人は、冠状閉塞の下流の心筋層に注射される場合、特定の用量の脈管形成因子が、休止する局所での灌流の増加、局所心機能における改善、および増加した血管分布によって反映されるような治療的応答を有する心筋層の部分を提供したことを予期せず見出した。特に、出願人は、単一の注射としてかまたは必要な領域における一連の注射として心筋層に直接投与された場合、単位用量(すなわち、約5ng/用量〜135,000ng未満/用量)の脈管形成因子が、投与の領域における心筋層での冠状新脈管形成を誘導するが、身体でのほかの領域において十分に希釈して新脈管形成誘導の任意の危険性を最小化することを見出した。本発明の脈管形成因子の単位用量が一連の注射として投与される場合、この一連の注射は、同一日での単一の手順としてかまたは必要とされる連続する日数もしくは交互の日数での一連の注射として投与される。しかし、投与される脈管形成因子の累積の用量は、代表的には、約5ng〜135,000ng(135μg)未満、より代表的には5ng〜67,500ng(67.5μg)である。従って、1つの局面において、本発明は、薬学的に受容可能なキャリア中に約5ng〜135,000ng未満(好ましくは、5ng〜67,500ng)の脈管形成因子を含む、単位用量の薬学的組成物(「薬学的組成物」)に関する。別の局面において、本発明は、薬学的に受容可能なキャリア中に約5ng〜135,000ng未満(好ましくは、5ng〜67,500ng)の脈管形成因子を含む、単位用量の薬学的組成物(「単位用量の組成物」)に関する。
【0015】
なお別の局面では、本発明は、新脈管形成を誘導するか、または局所的灌流を増大させるか、または心臓機能を高めるか、または血管密度を増大させるような処置の必要がある患者の、新脈管形成を誘導するための方法、または局所的灌流を増大させるための方法、または心臓機能を高めるための方法、または血管密度を増大させるための方法に関し、この方法は、それぞれ、このような新脈管形成、または局所的灌流の増大、または心臓機能の高まり、または血管密度の増大の必要がある心筋層の領域に単位投薬量の脈管形成因子を、単一の注射としてまたは一連の注射として直接注射する工程を包含する。単位投薬量を注射する工程が、単一の注射として、または好ましくは、同じ日に一連の注射として行われることもまた上記の方法の範囲内である。上記の方法を単一の注射または一連の注射を用いて行うか否かによらず、1以上の注射の間に新脈管形成が必要な心筋層の領域へと注射される累積量の脈管形成因子は、約5ng〜135,000ng(135μg)未満である。
【0016】
本発明の単位用量を患者の体重1キログラム(kg)あたりのμgの脈管形成因子として表現することもまた適切である。このように表現する場合、本発明による心筋内(IMc)注射のための脈管形成因子の用量は、患者の体重1kgあたり(本明細書中以下、「μg/kg」)約0.06μg脈管形成因子〜約10.0μg脈管形成因子の範囲にわたる。より代表的には、脈管形成因子の用量は、0.06μg/kg〜6.0μg/kgの範囲にわたる。しかし、脈管形成因子は、本発明の方法において患者の心筋層に直接注射されるので、患者の体重に関連した投薬量における代表的な希釈効果は最少であり、同じ量の脈管形成因子の全身投与または冠状動脈内(intracoronory)投与と比較した場合に特に最少である。
【0017】
新脈管形成が局所的灌流を増大させ、そして冠動脈の血管分布(coronary vascularity)を増加させることが所望される2つの疾患は、冠動脈疾患(CAD)および心筋梗塞(MI)である。従って、別の局面では、本発明はまた、冠動脈疾患(CAD)についての患者を処置するための方法に関し、この方法は、単位投薬量の脈管形成因子を、CADの症状を発現する心筋層の部分に単一の注射としてまたは一連の注射として直接注射する工程を包含し、単位投薬量は、新脈管形成を誘導するため、または局所的灌流を増大させるため、またはピーク負荷でのDSEによる心筋機能を高めるため、または上記症状を発現する心筋層の領域における血管分布を増大させるために有効である量の脈管形成因子(約5ng〜135,000ng未満)を含む。別の局面では、本発明は、心筋梗塞(MI)についての患者を処置するための方法に関し、この方法は、単位投薬量の脈管形成因子を、上記MIの結果として冠状動脈不全の症状を発現する心筋層の領域に単一の注射としてまたは一連の注射として直接注射する工程を包含する。上記の方法では、上記心筋梗塞を処置する際に有効である単位用量の脈管形成因子は、約5ng〜135,000ng未満の脈管形成因子/単位用量であり、より代表的には5ng〜67,500ngの脈管形成因子/単位用量である。
【0018】
単位用量は代表的に、1日に心筋層内に注射されるが、単位用量の脈管形成因子を注射する工程が、必要に応じて、連続した日に、または1日おきに、または毎週、または毎月、行われるかまたは反復されることは本発明の範囲内である。上記の方法が反復されるか否かにかかわらず、任意の単一の介入の間に新脈管形成の必要な心筋層の領域に注射される累積量の脈管形成因子は、約5ng〜135,000ng未満の上記脈管形成因子である。
【0019】
本発明の単位用量または薬学的組成物において使用するために適切な脈管形成因子は、以下からなる群より選択される:血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮増殖因子(VEGF−A)、VEGF−B、VEGF−D、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β1)、線維芽細胞増殖因子(FGF)またはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテイン。好ましくは、脈管形成因子は、VEGF−A、VEGF−D、FGFまたはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。より好ましくは、脈管形成因子は、FGF(例えば、FGF−1、FGF−2またはFGF−5)またはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。最も好ましくは、脈管形成因子は、FGF−2、またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。
【0020】
本発明の方法によって提供される治療効果の持続時間は、全く意外である。特に、0.06μg/kg(1,350ngの総用量)の組換えウシFGF−2(配列番号2)という単一単位用量が注射によって、左回旋冠動脈の90%閉塞を有する(すなわち、冬眠心筋のモデルを提供する)ミニブタ(miniswine)の心筋層に直接投与された場合、冬眠心筋組織における安静時平均血流(MBF)、壁運動スコア指数(WMSI)、血管灌流、心筋機能および血管密度の改善が見られ、この改善は、6ヶ月間という長期の測定期間の間、継続した。例として、安静時MBFは、64±0.04%の非虚血性中隔流(septal flow)というベースラインから、処置後1ヵ月に71±0.05%(ベースラインに対してp<0.05)へと増大し、そして処置後3ヵ月に76±0.06(ベースラインに対してp<0.05)へと増大した。処置後6ヵ月に、安静時MBFは、ベースラインでの非虚血性中隔流の61.3±4.4%から、82.8±3.1%へと増大した。収縮性予備力の尺度として受け入れられている別の試験では、(LCxの90%狭窄後)LCx領域について安静時に測定された壁の運動スコア指数(WMSI)は、2.4±0.2から処置後6ヶ月に2.2±0.2(ベースラインに対してp=0.08)へと改善された。同様に、LCx領域(LCxの90%狭窄後)についてのピーク負荷で測定された壁運動スコア指数(WMSI)は有意に改善され、処置後6ヵ月で2.2±0.4から1.8±0.3へと減少した(ベースラインに対してp=0.05)。壁運動スコア指数におけるこれらの減少は、虚血における減少と一致する。対照的に、脈管形成因子についてのビヒクルで処置された患者(ミニブタ)は、処置後6ヶ月の期間の間のどの時点でも、安静時MBFにおいて有意な変化を示さず、そしてそれらの安静時WMSIにおいても負荷WMSIにおいても有意な変化を示さなかった。
【0021】
さらに、冬眠心筋の上記のブタモデルにおける単一単位用量のFGF−2(0.06μg/kg、すなわち、1.35μg)の心筋内(IMc)注射後、正規化された灌流(これは、灌流における変化の%として報告される)は、生理食塩水についてのそれぞれ、3ヶ月および6ヶ月での6%および13%の増加と比較して、それぞれ、3ヶ月および6ヶ月で、18%から38%へと測定期間を通して増加し続けた。図4を参照のこと。本発明の単位用量の3つの異なる実施形態(すなわち、0.06μg/kg(1.35μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「低」用量);0.6μg/kg(13.5μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「中」用量);6.0μg/kg(135μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「高」用量))を、冬眠心筋(LCxの90%閉塞)のブタモデルにIMc注射し、そしてアメロイド(ameroid)モデル(LCxの100%閉塞)における「中」用量の冠状動脈内(intracoronary)(IC)注射に対して比較した場合、全てのIMc注射は、3ヶ月で、IC注射によって生成された灌流よりも優れた、正規化された灌流を生じた。図7および図8。驚くべきことに、中用量は、投与後3ヶ月で、低用量または高用量のいずれによって生成される灌流よりも10%大きな正規化された灌流を生じた。図7。
【0022】
ドブタミン(dolbutamine)負荷心エコー図(DSE)によって測定した場合、心筋機能は、本発明の3つの異なる単位用量(低い、中程度および高い)の各々の、冬眠心筋のブタモデルへの注射後3ヶ月および6ヶ月で、アメロイドブタモデルにおけるプラシーボの注射および「中」用量のIC注射と比較して、心筋機能(より少ない数)において統計的に有意な増加を示した。図5および図11を参照のこと。冬眠心筋のブタモデルへの単一単位用量のFGF−2(1.35μg)のIMc注射は、生理学的食塩水で処置した心筋層の同じ一定の容量における毛細血管の数(17,000)に対する、FGF−2処置した虚血性心筋層の一定の容量における毛細血管の数(44,000)によって測定した場合、投与後6ヵ月に処置した冬眠心筋の血管分布における統計的に有意な(p<0.05)増加を生じた。図6を参照のこと。
【0023】
最終的に、FGF−2でICまたはIMcで処置した心筋層の虚血性領域由来の心筋組織のウェスタンブロット分析は、VEGF(VEGF165として測定される)およびFGF−2の有意なアップレギュレーションが存在することを示し、これは、ビヒクル単独で処置した領域に対して、観察期間の最後(すなわち、注射後3ヶ月)でさえも検出可能であった。図10を参照のこと。驚くべきことに、FGF−2で処置した虚血性細胞は、統計的に有意な量のVEGFおよびFGF−2の両方を処置後3ヶ月で産生した。より驚くべきことに、最大濃度(290pg/mlよりも高い)の細胞内FGF−2が、「中」用量(0.6μg/kg、すなわち、13.5μg)の配列番号2のFGF−2のIMcで3ヶ月前に処置された虚血性心筋組織において観察された。図10を参照のこと。対照的に、「高」用量(6.0μg/kg、すなわち、135μg)のFGF−2は、匹敵する細胞内濃度のVEGF(約100pg/ml)を提供するとはいえ、約165pg/mlである濃度の細胞内FGF−2しか提供しなかった。図10を参照のこと。従って、「中」用量のFGF−2は、IMc投与された場合に、処置された虚血性心筋細胞が内因性VEGFおよび内因性FGF−2を産生することを処置後3ヶ月にわたって刺激するだけでなく、これらの細胞が、「高」用量で処置された細胞によって産生される濃度のほぼ2倍の濃度のFGF−2を産生することをも刺激する。本明細書中に提供されるこのデータおよび他のデータを考慮して、本発明者らは、予想外に優れた量の細胞内FGF−2の産生が、約0.3μg/kg(または6.75μg)〜約3.0μg/kg(または67.5μg)の範囲にわたる用量のFGF−2のIMc注射によって刺激されると予測する。(6ヶ月でのデータは、まだ利用可能でない。)VEGFおよびFGF−2の両方の存在は、灌流、心筋機能および血管透過性において増大を引き起こす機構を示唆する。従って、別の局面では、本発明は、虚血性心筋組織におけるVEGFおよびFGF−2の細胞内濃度を増大させるための方法に関し、この方法は、虚血性心筋組織に、単位用量の脈管形成因子を注射する工程を包含する。好ましくは、脈管形成因子はFGFであり;より好ましくは、FGF−2である。
【0024】
本発明の方法は、処置後6ヶ月までにわたって、種々のコントロール群と比較した場合、心臓機能を改善することが見出された。特に、ピーク負荷正規化局所機能スコアにおける変化の%は、IMc投与された群について処置後3ヶ月および6ヵ月後に減少する(このことは、改善された心臓機能を示す)ことが見出され、そしてIC群およびプラシーボ群について増大する(このことは、機能の減少を示す)ことが見出された。図11。さらに、正規化された機能スコアにおける最大の減少は驚くべきことに、「低」用量群で生じ、そしてさらにより驚くべきことに、減少しつづける機能スコアによって、局所的心筋機能は、低用量での処置後6ヶ月まで改善され続けることが示された。図11。
多くの脈管形成因子(例えば、酸性FGF(aFGFまたはFGF−1)、塩基性FGF(bFGFまたはFGF−2)、およびVEGF)は、グリコサミノグリカン(glycosoaminoglycan)結合タンパク質である。グリコサミノグリカン(「プロテオグリカン」または「ムコ多糖」としても公知)の存在は、脈管形成活性およびこれらの脈管形成因子のAUCを最適化する。結果として、単位投薬量のFGF−1、FGF−2、VEGF−A、VEGF−B、VEGF−Dまたはそれらの脈管形成フラグメントおよびムテインは、必要に応じて、グリコサミノグリカン(例えば、ヘパリン)のIV投与の20分間以内に投与される。しかし、本発明者らの経験では、アミノグリカンの存在は、単位用量の脈管形成因子(例えば、FGF−2)が本発明の方法に従ってIMc投与された場合、効力のためには必要ではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、ヒトにおいて20分間の期間にわたるIC注入によって投与された6つの異なる用量のrFGF−2についての、時間(時間)に対する平均組換えウシFGF−2血漿濃度のプロットである。図1におけるrFGF−2の6つの用量は、0.33μg/kg、0.65μg/kg、2μg/kg、6μg/kg、12μg/kgおよび24μg/kgの除脂肪体重(LBM)である。
【図2】図2は、6つの用量のrFGF−2についての図1についてのpg・hr/mlの各個々の患者のrFGF−2曲線下面積(AUC)のプロットであり、そしてIC注入後の全身rFGF−2曝露の用量線形性を示す。
【図3】図3は、「rFGF−2注入前の分」においてヘパリン投与の時間の関数として個々のヒト患者のrFGF−2用量で正規化したAUCのプロットであり、そしてrFGF−2 AUCに対するヘパリン投与のタイミングの影響を示す。rFGF−2は、組換えウシFGF−2であった。
【図4】図4は、以下の3ヵ月後および6ヶ月後に陽子射出断層撮影法(PET)によって測定した場合の、冬眠心筋のブタモデルにおける正規化された心筋灌流(ベースラインからの変化の%として報告される)を比較する棒グラフである:偽投与;生理食塩水;および1.35μgのrFGF−2(配列番号2)を含む単位用量。
【図5】図5は、以下の3ヵ月後および6ヶ月後にベースラインでの、冬眠心筋のブタモデルにおけるドルブタミンドブタミン負荷心エコー図によって心筋機能を比較する棒グラフである:偽投与;生理食塩水;および1.35μgのrFGF−2(配列番号2)を含む単位用量。
【図6】図6は、以下の6ヵ月後での、冬眠心筋のブタモデルにおける(LCxにおける90%閉塞から下流の)虚血性心筋組織における毛細血管密度(血管数)を比較する棒グラフである:偽投与;生理食塩水;および1.35μgのrFGF−2(配列番号2)を含む単位用量。
【図7】図7は、以下を投与した3ヵ月後に陽子射出断層撮影法(PET)によって測定された場合の、冬眠心筋のブタモデルにおいて正規化された心筋灌流(ベースラインからの変化の%として報告される)を比較する、棒グラフである:生理食塩水(プラシーボ);0.06μg/kg(1.35μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「低」);0.6μg/kg(13.5μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「中」);6.0μg/kg(135μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「高」)。棒グラフは、正規化された灌流における最大の変化の%(すなわち、27.5%の増加)が、「中」用量について生じ、「低」用量および「高」用量は、それぞれ、17.5%および17%という匹敵する変化を示すことを示す。図7におけるデータは、2つの別の実験(明るい棒および暗い棒)の結果であり、「uld」(超低用量)と称されるプラシーボは、「低」用量についてのプラシーボであり、明るく着色した棒として示す。
【図8】図8は、0.6μg/kg rFGF−2の冠状動脈内(IC)注入後1ヶ月および3ヶ月でのアメロイド(LCxの100%閉塞)心筋層のブタモデルにおける正規化された心筋灌流(PETによって測定された場合)における変化の%を、以下の心筋内(IMc)注射後1ヶ月および3ヶ月での冬眠心筋(LCxの90%閉塞)のブタモデルにおける正規化された心筋灌流における変化%に対して比較する棒グラフである:生理食塩水(プラシーボ);0.6μg/kg(13.5μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「中」);6.0μg/kg(135μg)のrFGF−2(配列番号2)を含有する単位用量(「高」)。この棒グラフは、正規化された灌流における最大の増加%が、処置後3ヶ月で「中」用量のrFGF−2 IMcについて生じたことを示す。「高」用量は、予想外に、「中」用量について達成されたよりもより低い増大を正規化された灌流において示した。
【図9】図9は、0.6μg/kg(「中」用量)または6.0μg/kg(「高」用量)のrFGF−2(配列番号2)IMcで処置した、冬眠心筋のブタモデルについての血管密度(処置された心筋層の指定された容量における平均血管数)を、6.0μg/kgのrFGF−2(配列番号2)ICで処置したアメロイドブタモデル(LCxの100%閉塞)に対して、生理食塩水IMc(プラシーボ)での処置に対して、比較する棒グラフである。この結果は、血管密度における最大の増大が、IMc投与された「中」用量(0.6μg/kgまたは13.5μgのrFGF−2)によって生じたことを示す。
【図10】図10は、アメロイドブタモデル(LCxの100%閉塞)における0.6μg/kg(13.5μg)の配列番号2のFGF−2でのIC、または冬眠心筋(LCxの90%閉塞)のブタモデルのビヒクルもしくは0.6μg/kg(13.5μg)の配列番号2のFGF−2(「中」用量)もしくは6.0μg/kg(135μg)の配列番号2のFGF−2(「高」用量)での処置後3ヶ月における虚血性心筋細胞におけるVEGF(VEGF165として測定)およびFGF−2の細胞内濃度(pg/ml)を比較する、棒グラフである。驚くべきことに、FGF−2で処置した虚血性細胞は、統計的に有意な量のVEGFおよびFGF−2の両方を処置後3ヶ月まで産生した。より驚くべきことに、最大濃度の細胞内FGF−2は、「中」用量のIMcで処置された細胞によって誘導された。
【図11】図11は、アメロイドブタモデルにおけるプラシーボもしくは「中」用量(0.6μg/kg(13.5μg))のFGF−2(配列番号2)ICでの、または冬眠心筋のブタモデルにおける「低」用量(0.06μg/kg(1.35μg))のFGF−2(配列番号2)IMc、もしくは「中」用量(0.6μg/kg(13.5μg))のFGF−2(配列番号2)IMc、もしくは「高」用量(6.0μg/kg(135μg))のFGF−2(配列番号2)IMcでの、処置後3ヶ月および6ヶ月でのDSEによるピーク負荷正規化局所機能スコアにおける変化の%を比較する、棒グラフである。図11は、ピーク負荷正規化局所機能スコアにおける変化の%が、IMc投与群について処置後3ヵ月および6ヶ月で減少した(これは、より良好な機能を示す)ことを示し、そしてピーク負荷正規化局所機能スコアにおける変化の%は、IC群およびプラシーボ群について増大した(これは、減少している機能を示す)。さらに、正規化された機能スコアにおける最大の減少は、「低」用量群について生じ、そして驚くべきことに、減少している機能スコアによって、処置後6ヶ月まで機能が改善され続けていることを示した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(発明の詳細な説明)
本発明は、冠状動脈疾患(CAD)の症状を示す患者のヒト臨床試験および2つの冠状不全のブタモデルにおいて種々の型で組換え脈管形成因子を投与することによって生成される効果の比較試験に基づく。ブタの心臓は、ヒトの心臓と特に関連した型であると考えられている。なぜなら、ヒト冠状循環およびその天然の側副循環が少ないことが似ているからである。Battlerら「Intracoronary Injection of Basic Fibroblast Growth Factor Enhances Angiogenesis in Infarcted Swine Myocardium」JACC、22(7):2001−6(1993年12月)2002頁、col.1を参照のこと(「心筋虚血のイヌモデルは、ブタモデルとは対立して天然に存在する側副循環の豊富さに起因して批判され、このブタモデルは、その相対的に少ない天然の冠状循環およびヒト冠状循環に対するその類似さにおいて「優れて」いる。」)。使用される1つの動物モデルは、冬眠心筋のブタモデルであった。このモデルは、左の回旋状冠状動脈(LCx)の近位末端上に水圧閉塞器(occluder)を外科的に配置することによって作製された。閉塞部に対して遠位に、90%で閉塞を維持するために閉塞を連続的にモニターする包埋された流量プローブが配置された。冬眠心臓モデルは、冠状動脈疾患に特に関連したモデルである。心筋は、健康、冬眠または死として分類することができた。死組織は、死んでいないが損傷しており、収縮せず、そしてたとえ適切に血を供給されてももはや収縮し得ない組織である。冬眠組織は、収縮していない筋組織であるが、血を適切に再供給されると収縮可能である組織である。健康な心臓組織は、強い排出と共同する強い電気的シグナルによって同定される。「死んだ心臓組織または疾患の心臓組織は、機能不全の排出(すなわち、健康な組織のものと反対の方向の排出)と共同する弱い電気的シグナルによって同定される。虚血心臓組織、または冬眠もしくは気絶の心臓組織は、欠陥した排出と共同する強い電気シグナルによって同定される」。米国特許第5,897,529号(Ponzi)(これは、1999年4月27日発行)を参照のこと。冬眠組織の診断は、重要である。なぜなら、一旦閉塞が取り除かれると、正常な機能の迅速な回復が存在すると広く考えられているからである。米国特許第5,743,266(Levene)(1998年4月28日発行)を参照のこと。従って、心筋の冬眠モデルは、冠状動脈疾患(CAD)および/または慢性狭心症(ここで、1つ以上の冠状血管は、部分的に閉塞されている)を有するヒト患者に起こることに類似している。
ブタアメロイド(ameroid)モデルにおいて、アメロイド圧迫器(これは、その内部表面に吸湿性物質を有するドーナツ様のバンドまたはリングである)が、ブタのLCxの近位末端の周辺に配置される。この吸湿性物質は、徐々に膨張し、そして10日間〜3週間に動脈の100%の閉塞をもたらす。冬眠モデル(ここで、閉塞の割合は、水圧的に制御可能であり、一貫しそして確実性である)とは異なり、アメロイドモデルは、一貫した制御を欠く。同様に、アメロイドモデルにおける完全な閉塞は、梗塞および広範で自発的な側副形成を導き、これは、休止状態において正常に戻る厄介な(mean)血流を引き起こし、特定の量の側副形成が外因性に投与される脈管形成因子に帰すことをより困難にする。従って、アメロイドモデルは、冬眠心筋モデルのようなストリンジェントなモデルではない。さらに、アメロイドモデルによって提供される100%の閉塞は、このアメロイドモデルを心筋梗塞により類似させ、ここで、1つ以上の冠状動脈の100%閉塞が存在する。
上記のモデルを用いて、出願人は、脈管形成因子の用量(すなわち、約5ng/用量から135,000ng/用量未満)(すなわち、単位用量)は、単一注射としてかまたは連続注射として心筋の虚血領域に直接投与される場合、投与領域の心筋において冠状新脈管形成を誘導するが体内のいずれかで十分に希釈されて新脈管形成を誘導することのいずれの危険性も最小化するようになるということを発見した。より代表的には、患者の心筋に投与される累積的な脈管形成因子の量は、5ng〜67,500ngの脈管形成因子である。従って、1つの局面において、本発明は、薬学的に受容可能なキャリア中に約5ngから135,000ng未満(好ましくは、5ng〜67,500ng)の脈管形成因子を含む単位用量の薬学的組成物(「単位用量」)に関する。
【0027】
本明細書中に使用される場合、用語「新脈管形成」または「冠状新脈管形成」は、冠状循環において側副として作用する毛細血管から細動脈の範囲のサイズである新規血管の形成を意味する。本発明において、新脈管形成は、心筋灌流における変化を評価する当該分野で受け入れられている1つ以上の指標、ドブタミン(dolbutamine)負荷超音波心臓検査図によって測定される機能、および毛細血管密度を用いて測定された。
本明細書中に使用される場合、用語「脈管形成因子」は、以下:PDGF、VEGF−A、VEGF−B、VEGF−D、TGF−β1、FGFからなる群から選択されるメンバー、またはこれらの脈管形成的に活性なムテインもしくはフラグメントを意味する。好ましくは、脈管形成因子は、VEGF−A、VEGF−DもしくはFGFまたはこれらの脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。より好ましくは、脈管形成因子はFGFである。最も好ましくは、脈管形成因子はFGF−2またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。
句「脈管形成的に活性なフラグメント」は、それが由来する親分子の脈管形成活性の少なくとも80%を示す、タンパク質またはポリペプチドのフラグメントの脈管形成因子を意味する。
句「脈管形成的に活性なムテイン」は、本明細書中に使用される場合、以下:12のgapオープンペナルティ、および1のgap伸長ペナルティ、の検索パラメーターを用いるアフィンgap検索を使用するMSPRCHプログラム(Oxford Molecular)で実行されるように、Smith−Watermanホモロジー検索アルゴリズム(Meth.Mol.Biol.70:173−187(1997))によって決定される場合に、以下:PDGF、VEGF−A、VEGF−B、VEGF−D、TGF−β1、およびFGFからなる群から選択される任意の天然に存在する脈管形成因子に対して65%の配列同一性(ホモロジー)を有し、そして少なくとも65%の配列同一性を有する天然に存在する脈管形成因子の脈管形成活性の少なくとも80%を保持する、単離および精製された、組換えタンパク質または組換えポリペプチドを意味する。好ましくは、脈管形成的に活性なムテインは、天然に存在する脈管形成因子に対して、少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、そして最も好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する。周知でありホモロジー/同一性スキャンのアルゴリズムプログラムを慣用的に使用される他のものとしては、PearsonおよびLipman、PNAS USA、85:2444−2448(1988);LipmanおよびPearson、Science、222:1435(1985);Devereauxら、Nuc.Acids Res.、12:387−395(1984);またはAltschulら、Mol.Biol.、215:403−410(1990)のBLASTP、BLASTNもしくはBLASTXアルゴリズムが挙げられる。これらのアルゴリズムを用いるコンピューター化されたプログラムがまた利用可能であり、そして以下が挙げられるがこれらに限定されない:GAP、BESTFIT、BLAST、FASTAおよびTFASTA(これらは、Genetics Computing Group(GCG)パッケージ、第8版、Madison WI,USAから市販される);およびIntellegenetics,Mountain View CAによるPC/Geneプログラム中のCLUSTAL。好ましくは、配列同一性の割合は、プログラムによって決定されるデフォルトパラメーターを用いることによって決定される。
句「配列同一性」は、本明細書中に使用される場合、特定化されたムテインのアミノ酸配列の連続セグメントが天然に存在する脈管形成因子のアミノ酸配列と整列されて比較される際に、そのムテイン配列内で同様に配置されたことが見出される同じアミノ酸の割合をいうことが意図される。
ムテイン中のアミノ酸配列同一性の割合を考慮する場合、同じアミノ酸残基の位置は、保存的アミノ酸置換(これは、タンパク質またはタンパク質機能の特性に影響を与えない)の結果として参照タンパク質とは異なり得る。これらの場合、配列同一性の割合は、保存的置換されたアミノ酸において類似性を取るために上へ調節され得る。このような調節は、当該分野で周知である。例えば、MeyersおよびMiller「Computer Applic.Bio.Sci.、4:11−17(1988)を参照のこと。
【0028】
本発明の「脈管形成的に活性なムテイン」の脈管形成因子を調製するために、当該分野で公知であり、そして/またはGilmanら、Gene、8:81(1979)もしくはRobertsら、Nature、328:731(1987)に教示されるような、部位指向型変異誘発に関する標準的な技術を使用する。1つの部位指向型変異誘発技術を用いて、1つ以上の点変異が、1つ以上の保存的アミノ酸置換または内部欠失を導入する。保存的アミノ酸置換は、通常の電荷、疎水性/親水性、および/または置換されるアミノ酸の立体的容積を保存する置換である。例として、以下の群の間の置換は保存的である:Gly/Ala、Val/Ile/Leu、Lys/Arg、Asn/Gln、Glu/Asp、Ser/Cys/Thr、およびPhe/Trp/Tyr。天然に存在する脈管形成因子の配列由来のかなりの(35%まで)バリエーションは生じるタンパク質またはポリペプチドが上記に特定される制限内の脈管形成活性を保持する限り、許容される。
システイン枯渇ムテインは、本発明の範囲内のムテインである。これらのムテインは、上記のような部位指向型変異誘発を用いてか、または米国特許第4,959,314号(「’314特許」)、題名「Cysteine−Depleted Muteins of Biologically Active Proteins」に記載される方法に従って、構築される。この‘314特許は、生物学的活性および置換の効果を決定する方法を開示する。システイン枯渇は、ジスルフィド形成に関与しない2つ以上のシステインを有するタンパク質において有用である。
本発明の薬学的組成物および単位用量中の脈管形成因子のうちの1つは、PDGFである。PDGFは、3つの二量体で脈管形成的に活性なタンパク(PDGF−AA、PGDF−ABおよびPGDF−BB)のファミリーであり、ここで、別々の遺伝子は、それぞれ、A鎖およびB鎖をコードする。PDGFレセプターα型(PDGFR−α)は、PDF二量体のA鎖またはB鎖の両方を高い親和性で結合し、一方、PDGFレセプターβ型(PDGF−β)は、B鎖のみを結合する。全てのPDGFは、インビボにおいて脈管形成的に活性である。Carmelietら、「Vascular development and disorders:Molecular analysis and pathogenic insights」Kidney Internatl.、53:1519−1549(1998);Risauら「Platelet−derived growth factor is angiogenic in vivo」Growth Factors、7:261−266(1992);Martinsら「The role of PDGF−BB on the development of the collateral circulation after acute arterial occlusion」10:299−306(1994);ならびにBrownら「Platelet−derived growth factor BB induces functional vascular anastomoses in vivo」PNAS USA、92:5920−5924(1995)(これらは、本明細書中にその全体が参考として本明細書によって援用される)を参照のこと。前または後のいずれかに本明細書中に引用される全ての他の参考文献は、その全体が本明細書中に参考として明確に援用される。211アミノ酸残基のヒトPDGF A鎖前駆体のDNA配列およびアミノ酸配列は、当該分野で公知である。Hedlinらに対する米国特許第5,219,759号、題名「Recombinant DNA Encoding PDGF A−chain Polypeptide and Expression Vectors」(これは、1993年6月15日発行)(「’759特許」)の図1を参照のこと。125残基の成熟PDGF A鎖のアミノ酸配列は、’759特許の図1の残基87−211に対応する。’759特許の図2は、196アミノ酸残基のみを有する改変体PDGF A鎖前駆体タンパク質のcDNA配列および推定アミノ酸配列をまた開示し、ここで、110残基の成熟PDGF A鎖は、この推定配列の残基87〜196に対応する。成熟PDGF A鎖の最初の107残基(すなわち、残基87〜193)は、同一である。’759特許の図1および2を参照のこと。従って、残りの残基(すなわち、成熟PDGF A鎖の残基108〜125)は、活性に関して重要ではなく、そして有害な効果を伴わずに保存的置換され得る。さらに、’759特許の図2の110残基の改変体PDGF A鎖が示すように、125残基成熟PDGFの残基110を超える残基は、活性に関して重要ではなく、そして欠失されて、本発明においてなお機能的であると予測される一連の欠失ムテインを提供し得る。別の参考文献は、成熟A鎖が104アミノ酸を有することを開示する。米国特許第5,512,545号、題名「PDGF−B Analogues」(これは、Brownらの名前で1996年4月30日に発行された)(「’545特許」)のcol.2、行40〜44を参照のこと。従って、この’545特許は、成熟PDGF−Aの最初の104を超えるいずれの残基も、PDGF−A活性に重要ではないことを示唆する。
同様に、ヒトPDGF B鎖からのDNA配列および推定アミノ酸配列は、当該分野で公知であり、それぞれ、’545特許の図2および図3に開示される。成熟PDGF−A鎖およびPDGF−B鎖は、60%の相同性を示し、そして8個のシステイン残基各鎖においてが保存されている。PDGF B鎖は′545特許の図2および配列番号1に示される160アミノ酸の完全相補鎖を有し得るが、少なくとも51残基は、活性を損失することなく取り除かれ得る。生じるカルボキシ短縮PDGF B鎖は、109残基(すなわち、’545特許の配列番号1および図3の残基1〜109)を有し、そして残基25(Ile)と残基37(Phe)との間に生じる結合領域を含む。PDGF B鎖が酵母中で発現される場合、残基28位もしくは32位またはこれらの両方のArgを、塩基性でない中性の残基に置換して、酵母細胞による切断を回避することが望ましい。PDGF A鎖およびB鎖を発現するための方法、ベクター、および細胞、ならびにPDGFの3つのアイソフォームを作製するためにこれらのA鎖およびB鎖を合わせるための、方法、ベクターおよび細胞は、当該分野で周知である。上記に引用されるような米国特許第5,605,816号および同第5,512,545号を参照のこと。
本発明の薬学的組成物および単位用量において活性な薬剤である別の脈管形成因子は、VEGFである。VEGFは、塩基性であり、約45,000ダルトン(45kD)の分子量を有するホモ二量体タンパク質であり、VEGF(またはVEGF−A)、VEGF−B、VEGF−CおよびVEGF−Dと示される4つのホモログを有する。本明細書中ににおける明確化のために、このファミリーの最初のメンバーであるVEGFは、本明細書中にVEGF−Aといわれる。VEGFファミリーのタンパク質は、高度に保存された中央領域を有することによって特徴付けられ、相同な位置の15個のシステイン残基(このうちの8個は分子内ジスルフィド結合および分子間ジスルフィド結合に関与する)の不変な存在によって特徴付けられる。Ferraraら「The Biology of Vascular Endothelial Growth Factor」Endocrine Reviews、18(1):4−25 (1997)の図4を参照のこと。結果として、4個のVEGFホモログは、類似した形状(三次構造)を有し、そして同時発現された場合は自発的にヘテロ二量体を形成し得る。従って、分子内システインを保持するVEGFのN末端およびC末端での欠失ムテインは、発現されて、その形状を保持し、二量体を形成し、そして生物学的に活性であることが予想される。VEGFの15個の保存システイン残基のうちの8個の相同性配置は、例えば、WO98/02543の図3;およびKeckら「Vascular Permeability Factor,an Endothelial Cell Mitogen Related to PDGF」Science 246:1309−1312(1989)の1311ページ、col.2および図4に比較して示されるように、PDGFファミリーの8個の保存システイン残基に対応する。
【0029】
ヒトVEGF−Aは、4つのアイソフォームで存在し、それぞれ、121、165、189および206アミノ酸を有する。これらの4つのアイソフォームは、それぞれ、VEGF−A121、VEGF−A165、VEGF−A189およびVEGF−A206として示される。Ferraraら「The Biology of Vascular Endothelial Growth Factor」Endocrine Reviews、18(1):4−25(1997)の5頁を参照のこと。このヒトVEGF−A遺伝子は、7個(7)のイントロンによって分けられた8個(8)のエキソンに組織され、そしてコード領域は、14kbに及ぶ。同上。単一VEGF−A遺伝子の選択的エキソンスプライシングは、全ての異質性の原因である。VEGF−A165は、エキソン6によってコードされる残基を欠き、一方VEGF−A121は、エキソン6および7によってコードされる残基を欠く。同上。VEGF−Aの3つの短いアイソフォームは、VEGF−A206に基づき、そしてこの分子のカルボキシ半分に生じるスプライス改変体を反映する。しかし、カルボキシ末端の最後の6アミノ酸(エキソン8)は、4つ全てのスプライス改変体で保存されている。
ヒトVEGF−A121をコードするcDNA配列および対応するアミノ酸配列は、当該分野で周知である。Leungら「Vascular endothelial growth factor is a secreted angiogenic mitogen」Science 246:1306−1309(1989)の1307頁、col.3において記載されるように図2Bを参照のこと。ヒトVEGF−A165に関するcDNA配列および推定アミノ酸配列はまた、当該分野で周知である。Leungら「Vascular endothelial growth factor is a secreted angiogenic mitogen」Science 246:1306−1309(1989)の1307頁および図2Bを参照のこと。同様に、ヒトVEGF−A189からのcDNA配列および推定アミノ酸配列は、1991年から当該分野で周知である。Keckら「Vascular Permeability Factor,an Endothelial Cell Mitigen Related to PDGF」Science、246:1309−1312(1989)を参照のこと;Tischerら「The human gene for vascular endothelial growth factor」J.Biol.Sci.、266:11947−11954(1991)もまた参照のこと。最後に、ヒトVEGF−A206のcDNA配列および推定アミノ酸配列もまた、当該分野で周知である。Houckら「The vascular endothelial growth factor family:identification of a fourth molecular species and characterization of alternative splicing of RNA」Mol.Endocrinol.5:1806−1814(1991)の図2Aを参照のこと。
VEGF−Aの4つのスプライス改変体(アイソフォーム)のアミノ酸配列の重複比較は、Ferraraら「Molecular and Biological Properties of the Vascular Endothelial Growth Factor Family of Proteins」Endocrine Reviews 13(1):18−32(1992)の21頁、図1に示される。細胞外環境において大量に可溶性である最も短いアイソフォームのVEGF−A121は、塩基性アミノ酸残基に富む大部分のカルボキシ末端(すなわち、エキソン6および7)が存在しないことに起因してわずかに酸性である。より長いアイソフォームであるVEGF−A165、VEGF−A189およびVEGF−A206は、VEGF−A121よりもあまり可溶性ではなく、従って、あまり拡散性ではないが、カルボキシ末端の漸増する長さと共に増加する有糸分裂促進活性およびヘパリンリッチマトリックスに対する結合親和性の両方を示す。例として、VEGF−A165は、VEGF−A121よりも100倍より大きくより有糸分裂促進性である。Carmelietら「Vascular development and disorders:Molecular analysis and pathogenic insights」Kidney International、53:1519−1549(1998)の1521−1522頁を参照のこと。従って、全てのVEGF−Aアイソフォームが活性であり、そして本発明の脈管形成因子の範囲内であるが、VEGF−Aのより高く塩基性でありかつヘパリン結合のカルボキシ末端が活性の最大化に重要である。VEGF−Aが新脈管形成を刺激する機構は知られていないが、Banaiは、VEGF−Aが新脈管形成をある部分、PDGFの内皮放出の刺激を介して促進することを示唆している。Banaiら「Angiogenic−Induced Enhancement of Collateral Blood Flow to Ischemic Myocardium by Vascular Endothelial Growth Factor in Dogs」Circulation、89(5):2183−2189(1994年5月)。VEGF−Aは、VEGFレセプター−1(VEGFR−1またはFLT1)およびVEGFレセプター−2(VEGFR−2またはFLK1)へ結合する。
ヒトVEGF−Bは、心臓および骨格筋に豊富に見出されるが、公知の高度に塩基性の非グリコシル化ヘパリン結合タンパク質であり、これは、Olofssonら「Vascular endothelial growth factor B,a novel growth factor for endothelial cells」PNAS USA 93:2576−2581(1996)の図1に示されるアミノ酸配列を有する。VEGF−Aのように、VEGF−Bは、プロホルモンとして発現され、そして188個のアミノ酸残基を有し、そのうちの残基1〜21は、推定リーダー配列であり、したがって、脈管形成活性に必要ではない。同上。したがって、成熟ヒトVEGF−Bは、推定リーダー配列に続く167残基を含む。Olofssonの図1.ヒトプロホルモンVEGF−Bはまた、マウスプロホルモンVEGF−Bに対して88%の配列同一性を有し、保存された様式で、残基位置12、19、20、26、28、30,33、37、43、57、58、63、65、105、130、140、144、148、149、165、168、186、および188で異なる。Olofssonの2577頁、第2欄およびその中の図1および2。成熟ヒトVEGF−Bから成熟ネズミVEGF−Bへの残基の差異は、以下のとおりである:5Pro→Phe、7Ala→Gly、9Gly→Ser、12Arg→Lys、16Ser→Pro、22Thr→Ala、36Thr→Ser、37Val→Met、42Thr→Asn、44Ala→Val、86Arg→Gln、119Asp→Glu、129Pro→Ile、133Arg→Pro、137His→Arg、138His→Arg、165Ser→Arg、168Arg→His、165Leu→Pro、および167Arg→Lys。したがって、本発明の脈管形成因子は、1つ以上の上記参照残基位置で保存的置換を有するヒトVEGF−Bムテインを含む。好ましくは、その保存的置換は、二段落前に記載した1つ以上の上記参照された差異である。
【0030】
VEGF−Cは、大部分は主に、心臓、リンパ節、胎盤、卵巣、小腸、および甲状腺において発現されるが、種々の成長因子、炎症性サイトカイン、および低酸素によって誘導される。VEGF−Cは、Joukovらに開示されるように組換え発現され、そしてその中の291頁および図3に開示されるアミノ酸配列を有する。Joukovら、「A novel vascular endothelial growth factor,VEGF−C,is a ligand for the Flt4(VEGFR−3) and KDR(VEGFR−2)receptor tyrosine kinase」The EMBO Journal, 15(2):290−298(1996);また、Ferraraら「The Biology of Vascular Endothelial Growth Factor」,Endocrine Reviews,18(1):4−25(1997)の図3を参照のこと。VEGF−Cは、VEGFファミリーの最も大きなメンバーであり、399個のアミノ酸残基およびVEGF−Aに対して32%の相同性を有する。Ferrara(1997)の11頁、第1欄を参照のこと。VEGF−Cのカルボキシル末端は、他のVEGFには見出されないインサートの180残基(残基213〜295位)を含有する。Joukovら(1996)の図3;またはFerraraら、「The Biology of Vascular Endothelial Growth Factor」,Endocrine Reviews,18(1):4−25(1997)の図4を参照のこと。その大きなサイズのため、VEGF−Cは、VEGFファミリーの最も所望でないメンバーである。しかし、213〜295残基を欠失するVEGF−Cの欠失変異体またはそのフラグメントは、N末端で1つ以上の残基(最大で1から28残基まで)を欠失しており、これもまた、本発明において使用される脈管形成因子の用語の範囲内にある。VEGF−Cは、VEGFR−2(以前にflt−1およびKDR/Flk−1として知られる)、およびVEGFR−3(Flt4としても知られる)に結合する。Joukovら(1996)を参照のこと。
【0031】
VEGF−Dは、発見されるべきVEGFファミリーの最近のメンバーであるが、cDNAによってコードされ、そして共願に係るUSSN09/043,476(03/18/98に出願された);および対応するWO97/12972(1997年4月10日に公開された)の図2に示されるアミノ酸配列を有する。VEGF−Dは、304アミノ酸残基を有する二量体化タンパク質である。VEGF−Dのコアは、他のVEGFタンパク質に対して高度に保存されている。より重要なことに、それは、VEGFとPDGFを通して高度に保存された残基位置111、136、142、145、146、153、189、191、258、269、271、273、300、312、および314に15個のシステインを含有する。VEGFのアミノ酸配列とPDFのいくつかとの重複比較は、保存された領域を示しているが、Ferraraら「The Biology of Vascular Endothelial Growth Factor」、Endocrine Reviews,18(1):4−25(1997)の図4;WO97/12972およびその対応米国特許出願USSN09/043,476の図3;およびWO98/02543の図3に見出される。VEGF−Dの生物学的に活性な対立遺伝子およびフラグメントは、当該分野で公知である。1つの実施例において、WO98/07832は、WO97/12972のVEGF−Dとは以下の変異を指定された残基位置に有することにより異なる、肺から単離された生物学的に活性なヒトVEGF−Dを開示する:56Thr→Ile、151Phe→Leu、152Met→Ile、261Asp→His、264Glue→Phe、および297Glu→Leu。したがって、脈管形成因子は、1つ以上の上記の参照残基位置で1つ以上の上記の参照アミノ酸置換または保存された置換を含むVEGF−Dのムテインを含むことは、本発明の範囲内である。このようなムテインは、当該分野で標準的な技術である部位特異的変異誘発によって作製される。さらに、ヒト胸組織から単離された生物学的に活性なVEGF−Dは、最初の30アミノ酸を欠いていた。WO98/24811を参照のこと。したがって、脈管形成因子が成熟VEGF−Dのアミノ酸残基1〜30を欠くVEGF−Dのフラグメントを含むことは、本発明の範囲内である。さらに、成熟VEGF−Dの残基109〜315が、二量体化およびレセプターへの結合を担う高度に保存された領域を含有する範囲内で、血管形成剤脈管形成因子が、WO97/12972または対応USSN09/043,476の図2の成熟ホルモンの残基109〜315を含むN短縮化および/またはC短縮化VEGF−Dを含むことも、本発明の範囲内である。
【0032】
TGF−β1は、2ダースのメンバーを有するTGF−βスーパーファミリーのメンバーである。TGF−βスーパーファミリーの種々のメンバーは、110〜140アミノ酸残基および少なくとも7個のシステインを有する成熟タンパク質のホモまたはヘテロダイマーである。6個のシステインは内部ジスルフィドを形成し、そして7個目のシステインは、2つのモノマーを一緒に連結するジスルフィド結合を形成する。Kingsley,D.M.,「The TGF−β superfamily:new members,new receptors,and new genetic tests of function in different organisms」Genes and Develop.,8:133−146(1994)を参照のこと。TGF−β1モノマーは、TGF−βスーパーファミリーの他のモノマーと同様に、10%未満ではあるが、PDGFと構造的類似性を有する。ヒトTGF−β1のモノマーは、公知の112残基のタンパク質であり、cDNAによってコードされ、そして米国特許第4,886,747号(「Nucleic Acid Encoding TGF−β and its Uses」と題される(Derynckらに対して12/12/89に発行され、組換えTGF−β1を発現する方法を開示する))の図1B(III)に示される推定アミノ酸配列を有する。TGF−β1は、112個のアミノ酸残基を有するが、成熟TGF−β1の残基位置16〜31(すなわち、CVRQLYIDFRKDLGWK)に対応する残基の配列のみ(例えば、’747特許の図1B(III)を参照のこと)が活性のために必要である。米国特許第5,658,883号(「Biologically Active TGF−β1 Peptides」と題され、08/17/97にOgawaらに対して発行された)を参照のこと。成熟ヒトTGF−β1のより大きな二量体化フラグメントは、残基16〜47(すなわち、CVRQLYIDFRKDLGWKWIHEPKGYHANFCLGP)に対応するが、16〜31フラグメントのダイマーおよび成熟TGF−β1のダイマーに類似の活性を示した。16〜31残基のフラグメントは、2つのモノマーサブユニットのアミノ末端システイン間にジスルフィド結合を形成することによって二量体化される。16〜47残基のフラグメントは、アミノ末端システイン、カルボキシ末端システイン、または2つのモノマーサブユニットの両方の間にジスルフィド結合を形成することによって二量体化される。したがって、TGF−β1のフラグメントは、活性フラグメントであるためには、成熟ヒトTGF−β1の残基16〜31を含むことが必要であるのみであることは本発明の範囲内である。直接に新脈管形成を誘導することに加えて、TGF−β1は、炎症細胞または結合組織細胞に影響を及ぼすことによって、インビボで間接的に新脈管形成を誘導し得、これは次いで、例えば、VEGF−A、PDGF、FGF2などのような脈管形成分子を産生し得ることが予想される。Carmeliet(1998)を参照のこと。
【0033】
本発明の組成物および方法において使用されるために適した別の脈管形成因子は、FGFである。本明細書で使用される場合、用語「FGF」により、線維芽細胞成長因子タンパク質(これもまた脈管形成活性を有する)(例えば、FGF−1、FGF−2、FGF−4、FGF−6、FGF−8、FGF−9またはFGF−98)または脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインを意味する。代表的には、FGFは、ヒト(h)FGF−1、ウシ(b)FGF−1、hFGF−2、bFGF−2、hFGF−4、またはhFGF−5である。代替の実施形態において、単位用量における活性な薬剤は、hFGF−6、mFGF−8、hFGF−9またはhFGF−98である。
【0034】
本発明の単位用量、薬学的組成物、および方法で利用されるFGFの多くを作製するためのアミノ酸配列および方法は、当該分野で周知である。特に、FGF1〜9およびFGF−98のアミノ酸配列および組換え発現を開示する参考文献は、引き続いて以下に議論される。
【0035】
(FGF−1):hFGF−1のアミノ酸配列およびその組換え発現の方法は、米国特許第5,604,293号(Fiddes)(「Recombinant Human Basic Fibloblast Growth Factor」と題され、1997年2月18日に発行された)に開示される。’293特許の図2dを参照のこと。この参考文献および本明細書中のその他のすべての参考文献は、この文の前または後に引用されていても、明白にその全体が参考として本明細書中に引用される。bFGF−1のアミノ酸配列、ならびにその発現方法は、米国特許第5,604,293号(Fiddes)の図1bに開示される。hFGF−1およびbFGF−1の両方の成熟形態は、140個のアミノ酸残基を有する。bFGF−1は、以下の19残基位置で、hFGF−1とは異なる:5Pro→Leu、21His→Tyr、31Tyr→Val、35Arg→Lys、40Gln→Gly、45Gln→Phe、47Ser→Cys、51Tyr→Ile、54Tyr→Val、64Tyr→Phe、80Asn→Asp、106Asn→His、109Tyr→Val、116Ser→Arg、117Cys→Ser、119Arg→Leu、120Gly→Glu、125Tyr→Pheおよび137Tyr→Val。ほとんどの場合、その差異は、保存されている。さらに、残基位置116および119での差異は、単に、Argの位置の交換である。
【0036】
(FGF−2):全長155残基のヒトFGF−2(配列番号5)をコードするcDNA配列(配列番号4)およびヒトFGF−2(hFGF−2)の組換え発現の方法は、米国特許第5,439,818号(Fiddes)(表題「DNA Encoding Human Recombinant Basic Fibroblast Growth Factor」(1995年8月8日に発行された(その中の図4を参照のこと))および米国特許第5,514,566号(Fiddes)、表題「Methods of Producing Recombinant Fibroblast Growth Factors」(1996年5月7日に発行された)(この中の図4を参照のこと)に開示される。ヒトFGF−2はまた、配列番号5のN末端から最初の9個の残基を欠く配列番号6の活性なN短縮146残基形態を有する。この短縮型は、当該分野で公知の技術を使用して、配列番号4のcDNAの5’末端に適切な欠失を作製することによって容易に産生される。ウシFGF−2(配列番号2)をコードするcDNA配列(配列番号1)およびこの組換え発現のための種々の方法は、米国特許第5,155,214号(表題「Basic Fibroblast Growth Factor」(1992年10月13日に発行された))に開示される。hFGF−2およびbFGF−2の146残基形態が比較される場合、それらのアミノ酸配列は、わずか2つの残基の違いを有して、ほとんど同一である。特に、hFGF−2からbFGF−2に向かって、唯一の差異は、残基位置112(Thr→Ser)および128(Ser→Pro)において生じる。
【0037】
(FGF−3):FGF−3は、マウスint−2哺乳動物腫瘍の発現産物として最初に同定され、そのアミノ酸配列は、Dicksonら「Potential Oncogene Product Related to Growth Factors」Nature 326:833(1987年4月30日)に開示される。FGF−3は、N末端Metが排除される場合243残基を有し、FGF−1(ヒトおよびウシ)およびFGF−2(ヒトおよびウシ)の両方よりも実質的に長い。bFGF−1およびbFGF−2に対してのmFGF−3についてのアミノ酸残基の比較は、Dicksonら(1987)に重複した形式で表されている。 mFGF−3のアミノ酸配列がbFGF−1およびbFGF−2と比較される場合、FGF−3は、FGF−1およびFGF−2の両方に対して残基インサートを含有する5つの位置を有する。これらのインサートの最も重要なものは、それぞれ、FGF−2およびFGF−1に対する12および14残基インサートであり、FGF−3の残基位置135で始まる。そのインサートを許容することにより、Dicksonらは、mFGF−3が、FGF−1に対して53残基の同一性を有し、そしてFGF−2に対して69残基の同一性を有することを開示する。さらに、FGF−3は、FGF−1およびFGF−2の両方においてシグナル配列のN末端に対して10残基の疎水性N末端伸長を含有する。bFGF−1およびbFGF−2のC末端に対して、mFGF−3は、およそ60残基の伸長を含有する。mFGF−3のC末端伸長が活性に必要であることはありそうでない。より可能性のあることとしては、それは、FGFに対してレセプター特異性を付与することによる活性の調整剤である。
【0038】
(FGF−4):hstタンパク質についてのアミノ酸配列は、現在、hFGF−4として知られるが、Yoshidaら、「Genomic Sequence of hst, a Transforming Gene Encoding a Protein Homologous to Fibroblast Growth Factors and the int−2−Encoded Protein」PNAS USA,84:7305−7309(1987年10月)の図3に初めて開示された。このリーダー配列を含み、hFGF−4は、206アミノ酸残基を有する。hFGF−4、hFGF−1、hFGF−2およびmFGF−3のアミノ酸配列を比較した場合、hFGF−4の残基72〜204は、hFGF−2に対して43%の相同性を有する;残基79〜204は、hFGF−1に対して38%の相同性を有する;そして残基72−174はmFGF−3に対して40%の相同性を有する。重複様式でこれらの4つの配列を比較したものがYoshida(1987)の図3に示される。さらに、hFGF−4の88位および155位の残基にあるCysは、hFGF−1、hFGF−2、mFGF−3、およびhFGF−4に高度に保存され、そして相同領域において見出される。
【0039】
hFGF−2の2つの推定細胞結合部位は、その36〜39および77〜81の残基位置に生じる。Yoshida(1987)の図3を参照のこと。hFGF−2の2つの推定ヘパリン結合部位は、その18〜32および107〜111の残基位置に生じる。Yoshida(1987)の図3を参照のこと。ヒトおよびウシFGF−2についてのアミノ酸配列間の実質的類似性を考慮すれば、本発明者らは、bFGF−2についての細胞結合部位を、また、その残基位置36〜39および77〜81に予想し、そしてそのヘパリン結合部位を、その残基位置18〜22および107〜111に予想する。hFGF−1に関連して、推定細胞結合部位は、残基27〜30および69〜72に生じ、そして推定ヘパリン結合部位は、残基9〜13および98〜102に生じる。成熟bFGF−1が、残基位置9〜13、27〜30、69〜72および98〜102で、hFGF−2と同一なアミノ酸を有する範囲では、bFGF−1は、hFGF−1と同じ細胞結合部位およびヘパリン結合部位を有することが予想される。
【0040】
(FGF−5):hFGF−5についてのcDNAおよび推定アミノ酸配列は、Zhanら「The Human FGF−5 Oncogene Encodes a Novel Protein Related to Fibroblast Growth Factors」Molec.and Cell.Biol.,8(8):3487−3495(1988年8月)の図1に開示される。Zhanはまた、hFGF−5をクローニングする方法を開示する。本出願人はまた、hFGF−5を配列決定し、そしてZhanの配列とは残基位置236(ZhanのAsnの代わりにLysを有する)および残基位置243(ZhanのSerの代わりにProを有する)で異なるアミノ酸配列を得た。hFGF−5のアミノ酸配列はいずれも、67残基のリーダー配列を成熟FGF−2の第1の残基の上流に、およびhFGF−2のC末端を超えて約47残基伸長するテール配列を含む266アミノ酸残基を有する。hFGF−1、hFGF−2、mFGF−3、hFGF−4、およびFGF−5のアミノ酸配列間の比較は、Zhan(1988)の図2に表される。Zhanの図2において、hFGF−1、hFGF−2、mFGF−3およびhFGF−4は、aFGF(すなわち、酸性FGF)、bFGF(すなわち、塩基性FGF)、int−2、およびhstKS3とそれぞれ同一(すなわち、それらの元々の名称)である。上記に参照した比較において、FGF−5アミノ酸残基の2つのブロック(90〜180および187〜207)は、FGF1〜4に実質的な相同性(すなわち、FGF−4と50.4%、FGF−3と47.5%、FGF−2と43.4%、およびhFGF−1と40.2%)を示した。Zhan(1988)の図2を参照のこと。米国特許第5,155,217号(Goldfarb)および同第5,238,916号(Goldfarb)は、Zhanの公報に対応するが、ZhanのFGF−5をFGF−3として言及する。しかし、当該分野(以下のCoulierにより証明されるように)は、ZhanのhFGF(およびGoldfarb特許の)は、FGF−5であって、FGF−3ではないと認識するに至っている。2つのGoldfarb特許は、Zhanによって上記に報告されたhFGF−5と同じアミノ酸配列を含んでいる。
【0041】
(FGF−6):hFGF−6についてのcDNAおよび推定アミノ酸配列がColierら「Putative Structure of the FGF−6 Gene Product and Role of the Signal Peptide」、Oncogene 6:1437−1444(1991)の図2に開示される。Coulierはまた、FGF−6をクローニングする方法を開示する。hFGF−6は、208アミノ酸残基を有するFGFの最大のものの1つである。ヒトFGF−1、FGF−2、FGF−3、FGF−4、FGF−5、FGF−6、およびFGF−7のアミノ酸配列を比較すると、分子のC末端の3分の2(hFGF−6の残基78〜208に対応する)において強力な類似性が存在する。特に、FGF−6の23残基(hFGF−6の残基位置90〜157の2つのシステインを含む)は、ファミリーの7つのメンバー間で同一である。この数は、保存されたアミノ酸残基を考慮すると33残基に増大する。これらの7つのヒトFGF間の全体的な類似性は、その分子のC末端の3分の2について、32%〜70%の同一な残基、および48%〜79%の保存された残基にわたっていた。hFGF−1〜hFGF−5およびhFGF−7の、hFGF−6に対するその配列の比較は、本明細書の表1に示される。
【0042】
【表1】
表1を参照して、FGF−6は、FGF−4と最も高い対応を有する(91の同一な残基/103の保存された残基)。これは、70%の同一残基および79%の保存された残基にのぼる。hFGF−6は、hFGF−3、hFGF−2、hFGF−7、およびhFGF−1とは大部分異なり、それぞれ、42、42、36、および32の同一な残基であった。
FGF1〜7のアミノ酸配列の重累比較は、引用したCouier(1991)の図3に示される。Coulierの図3は、FGF分子のC末端の3分の2がアラインメントされた場合、7つ全てのFGFメンバーからの残基が同一である23残基位置が存在する。7つ全てのFGFメンバーからの残基が保存されている10残基位置もまた存在する。Coulier(1991)の図3.比較において、これらの同一および保存された残基は、FGF1〜7の各々の末端3分の2において3〜5残基の約6位置を形成し、ここで、3〜5残基は、ヒトFGFの7つ全ての種において一緒にグループ分類されている(すなわち、hFGF1〜7)。
(FGF−7) hFGF−7のアミノ酸配列は、当該分野で周知であり、そしてMiyamotoら「Molecular Cloning of A Novel Cytokine cDNA Encoding the Ninth Member of the Fibroblast Growth Factor Family,Which Has a Unique Secretion Property」、Mol.and Cell.Biol.13(7):4251〜4259(1993)図2に開示される。Miyamotoにおいて、hFGF−7は、その旧名「KGF」により言及された。FGF−7は、191アミノ酸残基を有する。hFGF1〜6およびhFGF−9のアミノ酸配列に対するhFGF−7のアミノ酸配列の比較は、FGF−7のカルボキシ末端側2/3が、そのグループの他のメンバーの遠位の2/3と匹敵する相同性を有することを示す。Miyamoto(1993)、4254頁(図2)を参照のこと。
【0043】
(FGF−8) mFGF−8のcDNAおよび推定アミノ酸配列は、当該分野で周知であり、そしてTanakaら「Cloning and Characterization of an Androgen−induced Growth Factor Essential for the Growth of Mouse Mammary Carcinoma Cells」PNAS USA、89:8928〜8932(1992)図2に開示される。Tanakaはまた、組換えFGF−8を作製するための方法を開示する。TanakaのmFGF−8は、215アミノ酸残基を有する。MacArthurら「FGF−8 isoforms active receptor splice forms that are expressed in mesenchymal regions of mouse development」Development、121:3603〜3613(1995)は、FGF−8が、成熟N末端で異なるがC末端領域にわたって同一である、8つの異なるアイソフォームを有することを開示する。この8つのアイソフォームは、FGF−8が、6つのエキソンを有し、その最初の4つ(他のほとんどのFGF遺伝子の第1のエキソンに対応する)が選択的スプライシングを生じるので、生じる。
【0044】
(FGF−9) ヒトおよびマウスのFGF−9のcDNAおよび推定アミノ酸配列は、当該分野で公知であり、そしてその組換え発現のための方法が、Santos−Ocampoら「Expression and Biological Activity of Mouse Fibroblast Growth Factor」J.Biol.Chem.271(3):1726〜1731(1996)に開示される。ヒトおよびマウスの両方のFGF−9分子は、208アミノ酸残基を有し、2残基だけ異なる配列を有する。詳細には、hFGF−9は、残基9および34にそれぞれAsnおよびSerを有するが、mFGF−9は、それぞれSerおよびAsnを有する。FGF−9は、FGFファミリーを規定する保存アミノ酸の完全保存を有する。Santos−Ocampo(1996)1726頁。FGF−9の最大半減活性化(half−Maximal activation)は、185ng/mlヘパリンで観察されるが、FGF−1の最大半減活性化は、670ng/mlヘパリンで観察される。Santos−Ocampo(1996)1730頁。FGF−1と比較した場合、FGF−2およびFGF−9は両方とも、最適活性のためにより低いヘパリン濃度を必要とする。
【0045】
(FGF−98) hFGF−98のcDNAおよびアミノ酸配列、ならびにその組換え発現のための方法は、仮特許出願第60/083,553号に開示され、この仮出願は、本明細書中にその全体が参考として援用される。hFGF−98は、hFGF−18としても公知であり、207アミノ酸残基を有する。従って、hFGF−6(207残基)、hFGF−9(208残基)およびhFGF−98(207残基)は、サイズが類似する。
【0046】
FGFは、4つの関連する膜貫通レセプターのうちの1つ以上に示差的に結合しそしてそれを活性し、次いでそのレセプターは、生物学的応答を媒介する。このFGFレセプター(「FGFR」)は、チロシンキナーゼレセプタースーパーファミリーのメンバーである。FGFRの細胞外ドメインは、選択的スプライシングの結果として示差的に発現される、2〜3個のの免疫グロブリン様(「Ig様」)ドメインを含む。別の選択的スプライシング事象はまた、読取り枠を変えることなく、Ig様ドメインIIIのカルボキシル末端側半分の配列を変え得る。Santos−Ocampo(1996)。この2つのスプライス形態(「b」および「c」と呼ばれる)は、FGFR1、2、3について生じるが、FGFR4については生じない。FGFRのより詳細な説明は、Mathieuら「Receptor Binding and Mitogenic Properties of Mouse Fibroblast Growth Factor 3」J.Biol.Chem.270(41):24197〜24203(1995)に見出される。FGF1〜9がFGFRを示差的に刺激する能力は、Ornitzら、J.Biol.Chem.271(25):15292〜15297(1996)により報告されたように、レセプター依存性であった。Ornitzにおいて、細胞株BaF3が画分に分割され、そして各画分が、以下のFGFレセプターのうちの1つを発現するようにトランスフェクトされた:FGFR1b、FGFR1c、FGFR2b、FGFR2c、FGFR3b、FGFR3cおよびFGFR4(−1つのIg様ドメイン)。その後、形質転換細胞株が、FGF1〜9のうちの1つ(5nM)および補因子としてのヘパリン(2μg/ml)に曝露された。次いで、マイトジェン応答が、[3H]チミジンの取り込みにより測定された。その結果(cpm)は以下の通りである:
1.FGFR1b:同様のマイトジェン応答が、hFGF−1(32,000cpm)およびhFGF−2(28,000cpm)により生成され、その次に高い応答がmFGF−3(約16,000cpm)およびhFGF−4(15,000rpm)により生成された;
2.FGFR1c:同様のマイトジェン応答が、hFGF−1、hFGF−2、hFGF−4、hFGF−5、およびhFGF−6(約36,000cpm)により生成され、mFGF−9が、唯一他の有意な応答を生成した(約19,000cpm);
3.FGFR2b:最高のマイトジェン応答は、hFGF−7(14,000cpm)、hFGF−1(12,500cpm)、およびmFGF−3(9,500cpm)によった;
4.FGFR2c:最高のマイトジェン応答は、hFGF−4(21,000cpm)、mFGF−9(20,000cpm)、hFGF−6(16,500cpm)、hFGF−1(16,000cpm)、hFGF−2(14,500cpm)、hFGF−5(9,500cpm)およびmFGF−8(9,000cpm)によった;
5.FGFR3b:マイトジェン応答は、hFGF−1(37,000cpm)およびmFGF−9(26,000cpm)のみによった;
6.FGFR3c:最高のマイトジェン応答は、hFGF−1(39,000cpm)、hFGF−2(34,000cpm)、hFGF−4(33,000cpm)、mFGF−8(32,500cpm)、mFGF−9(31,000cpm)、hFGF−5(16,000cpm)、およびhFGF−6(13,000cpm)によった;
7.FGFR4Δ:最高のマイトジェン応答は、hFGF−2(29,000cpm)、hFGF−4およびhFGF−6(27,000cpm)、mFGF−8(25,000cpm)、mFGF−1(24,000cpm)、およびhFGF−9(20,000cpm)により、他は全て、6,000cpm以下であった。
【0047】
上記に反映されるように、FGF−1のみが、試験したレセプターすべてにおいて有意なマイトジェン応答を誘導する。従って、FGF−1は、他のFGFと結合するレセプターの特異性を生じる分子へのN末端およびC末端が付加したユニバーサルリガンドとして考えられ得る。全身投与されたFGFによるインビボでの多様な応答についての能力を考慮すると、本発明は、局所投与により、そしてその局所投与について適切な投与量を発見することにより(すなわち、CADについての処置の必要がある患者の少なくとも1つの冠状動脈へFGFの治療的に有効な量を投与することにより)、全身応答についての能力を最小にする。
【0048】
以下の実施例において、bFGF−2が、ラット、ブタおよびヒトにインビボ投与され、そして脈管形成活性について試験された。この実施例のbFGF−2は、米国特許第5,155,214号(「`214特許」)に記載されるように作製された。この`214特許の方法において、bFGF(本明細書中で以後「FGF−2」)をコードするcDNAが、クローニングベクター(例えば、pBR322、pMB9、ColE1、pCRI、RP4またはλファージ)に挿入され、そしてそのクローニングベクターが、真核生物細胞または原核生物細胞のいずれかを形質転換するために使用され、その形質転換細胞はFGF−2を発現する。1つの実施形態において、その宿主細胞は酵母細胞(例えば、Saccharomyces cerevisiae)である。発現される生じる全長FGF−2は、`214特許のカラム6に示される配列に従う146アミノ酸を有する。生じるFGF−2は4つのシステイン(すなわち、残基位置25、69、87および92)を有するが、内部ジスルフィド結合は存在しない。[`214特許カラム6、59〜61行目]。しかし、酸化的条件下で架橋が生じた場合においては、それぞれ25位および69位にある2つのCys残基間に多分その架橋が生じる。
【0049】
ウシFGF−2(bFGF−2)は、対応するヒトFGF−2(hFGF−2)と同様に、155アミノ酸残基を有するポリペプチドとしてインビボで最初に合成される。Abrahamら「Human Basic Fibroblast Growth Factor:Nucleotide Sequence and Genomic Organization」EMBO J.5(10):2523〜2528(1986)。この例の146残基bFGF−2(配列番号2)がAbrahamの全長155残基のbFGF−2と比較される場合、本出願人のbFGF−2(配列番号2)は、Abrahamの全長分子のN末端に見出される最初の9アミノ酸残基(すなわち、Met−Ala−Ala−Gly−Ser−Ile−Thr−Thr−Leu(配列番号3))を欠く。上記のように、成熟bFGF−2は、成熟hFGF−2と2残基位置のみで異なる。詳細には、成熟bFGF−2(配列番号2)の残基位置112および128のアミノ酸は、それぞれSerおよびProであるが、対応する成熟hFGF−2(配列番号6)において、それらはそれぞれThrおよびSerである。bFGF−2とhFGF−2との間のこの実質的な構造的同一性(すなわち、97%を超える同一性)、実施例に提供されそして本明細書中の他の場所に記載される脈管形成活性に対するインビボでの臨床結果を考慮して、組換えbFGF−2を投与する投薬量および様式は、組換えhFGF−2(まとめて「FGF−2」)に直接適用可能であるはずである。
【0050】
実施例の組換えbFGF−2(配列番号2)は、米国特許第4,956,455(’455特許)、名称「Bovine Fibroblast Growth Factor」(09/11/90に発行され、本明細書中に参考として全体が援用される)に詳細に記載される技術を使用して、製剤品質(98%以上の純度)まで精製された。詳細には、本出願人の単位用量の組換えbFGF−2の精製に使用される最初の2工程は、「以前に記載される通りの従来のイオン交換精製工程および逆相HPLC精製工程」である。['455特許(Bolenら、PNAS USA 81:5364〜5368(1984)を引用)]。第3の工程('455特許は「キー(key)精製工程」と呼ぶ['455特許、カラム7、5〜6行を参照のこと])は、ヘパリンSEPHAROSE(登録商標)アフィニティクロマトグラフィーであり、FGF−2の強力なヘパリン結合アフィニティーが利用され、約1.4Mおよび1.95M NaClで溶出する場合、7,000倍精製が達成される['455特許、カラム9、20〜25行]。ポリペプチドの均一性が、逆相高圧液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)により確認された。緩衝液交換が、SEPHADEX(登録商標)G−25(M)ゲル濾過クロマトグラフィーにより達成された。
【0051】
上記のFGFに加えて、本発明の組成物および方法の脈管形成因子はまた、上記のFGFのうちのいずれか1つの「脈管形成的に活性なフラグメント」を含む。その最も単純な形態において、その脈管形成フラグメントは、N末端Met除去のための周知の技術(例えば、メチオニンアミノペプチダーゼでの処理)を使用する、N末端メチオニンの除去により作製される。第2の望ましい短縮型は、そのリーダー配列を含まないFGFを含む。当業者は、リーダー配列を、細胞膜を通過するのを容易にするが活性には必要でなく、成熟タンパク質上には見出されない、タンパク質のN末端の疎水性残基の並びであると認識する。
【0052】
FGFに対する好ましい短縮は、146残基を有する成熟hFGF−2(配列番号6)または類似のbFGF−2(配列番号2)に対して決定される。一般的規則として、FGFのアミノ酸配列が、最大のホモロジーを得るようにFGF−2と整列される。整列されたFGF−2の対応するN末端を超えて伸長するFGF部分が、一般的に、有害な効果を伴わない欠失に適切である。同様に、整列されたFGF−2のC末端を超えて伸長するFGF部分もまた、有害な効果を伴わずに欠失され得る。
【0053】
上記のものより小さいFGFのフラグメントもまた、それがFGFの細胞結合部分および少なくとも1つのヘパリン結合セグメントを保持する限り、本発明の範囲内にある。残基1〜146を有する成熟FGF−2の場合、その2つの推定細胞結合部位が、その残基位置36〜39および77〜81にある。Yoshidaら「Genomic Sequence of hst,a Transforming Gene Encoding a Protein Homologous to Fibroblast Growth Factors and the int−2−Encoded Protein」PNAS USA 84:7305〜7309(1987年10月)図3を参照のこと。hFGF−2の2つの推定ヘパリン結合部位は、その残基位置18〜22および107〜111にある。Yoshida(1987)図3を参照のこと。hFGF−2アミノ酸配列とbFGF−2アミノ酸配列との間の実質的配列同一性を考慮して、本発明者らは、bFGF−2の細胞結合部位もまた、その残基位置36〜39および77〜81にあり、そしてヘパリン結合部位がその残基位置18〜22および107〜111にあると予測する。上記と一致して、bFGF−2のN末端短縮物は、ウシにおいてその脈管形成活性を排除しないことが、当該分野で周知である。詳細には、当該分野は、146残基成熟FGF−2と比較してN末端短縮を有するbFGF−2の天然に存在しそして生物学的に活性な数個のフラグメントを開示する。成熟FGF−2の残基12〜146を有する活性でありかつN短縮型のFGF−2フラグメントが、ウシ肝臓にて見出され、そして成熟FGF−2の残基16〜146を有する別の活性でありかつN短縮型のFGF−2フラグメントが、ウシ腎臓、副腎および精巣にて見出された。[米国特許第5,155,214号、カラム6、41〜46行(Uenoら、Biochem and Biophys Res.Comm.138:580〜588(1986)を引用)を参照のこと]。同様に、FGF活性を有することが知られるFGF−2の他のフラグメントは、FGF−2(24〜120)−OHおよびFGF−2(30〜110)−NH2である。[米国特許第5,155,214号、カラム6、48〜52行]。これら後者のフラグメントは、FGF−2の細胞結合部分の両方(残基36〜39および77〜81)およびヘパリン結合セグメントの1つ(残基107〜111)を保持する。従って、FGFの脈管形成的に活性なフラグメントは、代表的には、ホモロジーを最大にするように成熟FGF−2(残基1〜146を有する)と整列された場合に、少なくともFGF−2の残基位置30〜110に対応する残基を有し、より代表的には、少なくともFGF−2の残基18〜146に対応する残基を有する、FGFの末端短縮型フラグメントを含む。
【0054】
上記のFGFに加えて、本発明の単位用量、組成物および方法の脈管形成因子はまた、その「脈管形成的に活性な...ムテイン」を包含する。用語「脈管形成的に活性な...ムテイン」により、FGFととも使用される場合に、各FGFの少なくとも65%配列同一性(好ましくは75%、より好ましくは85%、最も好ましくは90%の配列同一性)および脈管形成活性の少なくとも80%を保持する、天然に存在するFGFの変異形態が意味され、ここで、配列同一性は、以下の検索パラメーターを用いるアフィンギャップ検索を使用してMSPRCHプログラム(Oxford Molecular)にて実行されるようなSmith−Watermanホモロジー検索アルゴリズム(Meth.Mol.Biol.70:173〜187(1997))によって決定される:gap open penalty=12、およびgap extension penalty=1。好ましくは、変異は、L−アミノ酸を使用する「保存的アミノ酸置換」であり、1つのアミノ酸が、別の生物学的に類似のアミノ酸により置換される。上記のように、保存的アミノ酸置換は、置換されるアミノ酸の全体的電荷、疎水性/親水性、および/または立体的かさを保存する置換である。
【0055】
保存的置換の例は、以下のグループ間の置換である:Gly/Ala、Val/Ile/Leu、Lys/Arg、Asn/Gln、Glu/Asp、Ser/Cys/Thr、およびPhe/Trp/Tyr。FGF−2の場合、このような保存的アミノ酸置換の例は、ジスルフィド形成に関与しない残基位置のシステイン(例えば、成熟FGF−2(残基1〜146を有する)の残基87および92)のうちの1つまたは両方に代わるセリンの置換を含む。好ましくは、置換は、脈管形成活性に関係しない、N末端に導入される。しかし、上記のように、保存的置換は、その分子全体にわたる導入に適切である。;
当業者は、公知の技術を使用し、本発明の単位用量、組成物および方法における使用のための脈管形成活性を有するFGFポリペプチドムテイン(またはフラグメントムテイン)の発現を得るように、FGFのうちのいずれかをコードするDNA中に1つ以上の点変異を作製し得る。FGFの脈管形成的に活性なムテインを調製するために、当該分野で公知であり、そして/またはGilmanら、Gene 8:81(1979)もしくはRobertsら、Nature 328:731(1987)に教示されるように、FGFをコードするcDNAに1つ以上の点変異を導入するために、部位特異的変異誘発についての標準的技術を使用する。
【0056】
従って、本発明の薬学的組成物は、脈管形成因子の脈管形成的に有効な量を、薬学的に受容可能なキャリア中に含み、この脈管形成的に有効な量は、約5ng〜約135,000ng未満の範囲であり、この脈管形成因子は、血小板由来増殖因子(PDGF),血管内皮増殖因子A(VEGF−A)、VEGF−D、線維芽細胞増殖因子(FGF)、またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。好ましい実施形態において、薬学的組成物の脈管形成因子は、ヒトVEGF−A、ヒトVEGF−D、FGFまたはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。より好ましくは、薬学的組成物の脈管形成因子は、FGF(例えば、FGF−1、FGF−2もしくはFGF−5)またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。最も好ましくは、薬学的組成物の脈管形成因子は、FGF−2またはその脈管形成的に活性なフラグメントもしくはムテインである。
【0057】
本発明の単位用量薬学的組成物は、その第2の記載される成分として、「薬学的に受容可能なキャリア」を含む。用語「薬学的に受容可能なキャリア」により、本明細書中で使用される場合、組成物を受ける患者に有害な抗体の生成をそれ自体は誘導せずかつ過度の毒性を伴わずに投与され得る、タンパク様医薬の安定化および/または投与のために当該分野で周知の任意のキャリアもしくは希釈剤が意味される。薬学的に受容可能なキャリアおよびその後の処理の選択は、液体形態または固体形態のいずれかで、処置する医師に本発明の単位用量組成物を提供するのを可能にする。しかし、本発明の単位用量組成物は、患者に心筋層への注射により投与される前に、液体形態に変換される。
【0058】
この単位用量薬学的組成物が液体形態である場合、その薬学的に受容可能なキャリアは、静脈内(「IV」)または冠内(「IC」)の注射もしくは注入に適切な、安定なキャリアまたは希釈剤を含む。注射可能な溶液または注入可能な溶液に適切なキャリアもしくは希釈剤は、ヒトレシピエントに対して、使用される投薬量および濃度で非毒性であり、そしてこれらとしては、滅菌水、糖溶液、生理食塩水溶液、タンパク質溶液またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0059】
代表的に、薬学的に受容可能なキャリアは、緩衝液および1以上の安定剤、還元剤、酸化防止剤および/または酸化防止キレート剤を含む。タンパク質ベースの組成物(特に、薬学的組成物)の調製における緩衝液、安定剤、還元剤、酸化防止剤およびキレート剤の使用は、当該分野で周知である。例えば、Wangら、「Review of Excipients and pHs for Parenteral Products Used in the United States」、J.Parent.Drug Assn.,34(6):452−462(1980);Wangら、「Parenteral Formulations of Proteins and Peptides:Stability and Stabilizers」、J.Parent Sci.and Tech.,42:S4−S26(補遺1988);Lachmanら、「Antioxidants and Chelating Agents as Stabilizers in Liquid Dosage Forms−Part 1」、Drug and Cosmetic Industry、102(1):36−38、40および146−148(1968);Akers,M.J.,「Antioxidants in Pharmaceutical Products」、J.Parent Sci.and Tech.,36(5):222−228(1988);およびMethods in Enzymology、第25巻、ColowickおよびKaplan編、Konigsbergによる「Reduction of Disulfide Bonds in Proteins with Dithiothreitol」、185−188頁。適切な緩衝液としては、アセテート、アジパート、ベンゾエート、シトレート、ラクテート、マレアート、ホスフェート、タータレートおよび種々のアミノ酸の塩が挙げられる。Wang(1980)455頁を参照のこと。適切な安定剤としては、トレオース(threlose)またはグリセロールのような炭水化物が挙げられる。適切な還元剤(還元型システインの還元状態を維持する)としては、ジチオトレイトール(DTT(クリランド試薬としても公知))またはジチオエリトリトール(0.01%〜0.1%重量/重量);アセチルシステインまたはシステイン(0.1%〜0.5%(pH2〜3));およびチオグリセロール(0.1%〜0.5%(pH3.5〜7.0))およびグルタチオンが挙げられる。Akers(1988)、225〜226頁を参照のこと。適切な酸化防止剤としては、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、およびアスコルビン酸が挙げられる。Akers(1988)、225頁を参照のこと。適切なキレート剤(微量金属をキレート化して、還元型システインの微量金属触媒酸化を防止する)としては、シトレート、タータレート、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の二ナトリウム塩、四ナトリウム塩およびカルシウム二ナトリウム塩、およびジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が挙げられる。例えば、Wang(1980)、457〜458頁および460〜461頁、ならびにAkers(1988)、224〜227頁を参照のこと。適切な糖としては、グリセロール、トレオース、グルコース、ガラクトースおよびマンニトール、ソルビトールが挙げられる。適切なタンパク質は、ヒト血清アルブミンである。
【0060】
液体形態において、本発明の代表的な単位用量の薬学的組成物は、0.1ml〜10mlの薬学的に受容可能なキャリア中に溶解された、約5ng〜135,000ng未満の脈管形成因子を含む。本発明の薬学的組成物は、心臓カテーテルまたは他の注射デバイス(これらは、デッドスペースを有する)を介して投与されるので、その薬学的組成物を含むバイアルが、患者に投与されるべきよりもより多くの薬学的組成物を含むように、そのバイアルを処方することが簡便である。例えば、投与される脈管形成因子の用量が、45ngである場合、バイアルは、その送達装置内のデッドスペースを充填するために適切な過剰の溶液と共に、60〜75ngの脈管形成因子を含むよう処方される。デッドスペースを見込まない代替的実施形態において、薬学的組成物は、薬学的受容可能な緩衝液、希釈剤またはキャリアの前で、心臓カテーテルに装填され、次いで、新脈管形成を必要とする心筋層の1以上の部位に対して、1回以上の適切な投薬量を送達するために使用される。上記で議論したように、上記の薬学的組成物のための薬学的に受容可能なキャリアは、緩衝液および1以上の安定剤、還元剤、酸化防止剤および/または酸化防止キレート剤を含む。
【0061】
脈管形成因子が、FGFであり、そして薬学的に受容可能なキャリアが、液体キャリアである場合、代表的な薬学的組成物は、約5ng/ml〜135,000ng/ml、より代表的には、約5ng/ml〜67,500ng/mlのFGFあるいはその脈管形成性のフラグメントまたはムテイン、10mM チオグリセロール、135mM NaCl、10mM クエン酸ナトリウム、および1mM EDTA、pH 5を含む。上記組成物についての適切な希釈剤または洗浄剤(flushing agent)としては、任意の上記のキャリアである。代表的に、希釈剤は、キャリア溶液自体であり、この例においては、このキャリア溶液は、10mM チオグリセロール、135mM NaCl、10mM クエン酸ナトリウム、および1mM EDTA、pH 5を含む。
【0062】
液体形態で提供される場合、本発明の単位用量の薬学的組成物は、長期間保存する場合に不安定になる。安定性および貯蔵寿命を最大化するために、本発明の単位用量の薬学的組成物は、−60℃で凍結保存するべきである。解凍したときに、この溶液は、冷凍した状態で6ヶ月間安定である。本発明の単位用量の薬学的組成物の代表的なバイアルは、約5ng〜135,000ng未満の脈管形成因子あるいはその脈管形成性のフラグメントまたはムテインを含有する、約1.0〜100ml(より代表的には、約1.0〜25ml、最も代表的には、約1.0〜10ml)の上記の薬学的に受容可能なキャリアを含む。
【0063】
別の実施形態において、本発明の単位用量の薬学的組成物は、凍結乾燥(フリーズドライ)形態で提供される。凍結乾燥形態において、単位用量の薬学的組成物は、治療的有効性を損なうことなく、実質的に6ヶ月よりも長い間、冷凍温度で保存され得る。凍結乾燥は、薬学的に受容可能なキャリア中に溶解した有効量の脈管形成因子を含む溶液の、減圧下での迅速なフリーズドライによって達成される。上記の凍結乾燥を行う、凍結乾燥機は、市販されており当業者によって容易に操作され得る。代表的に、複数のバイアル(各々、その中に、本発明の薬学的組成物(1以上の用量を含む)または単位用量組成物を含む)を、凍結乾燥機中にバッチで配置し、そして全ての液体キャリアが除去されるまで、冷却および減圧に供する。患者への投与の前に、この凍結乾燥生成物は、好ましくは、そのバイアル中で、適切な滅菌水性希釈剤(代表的には、0.9%(または、それ未満)の滅菌生理食塩水溶液)またはいくらかの他の薬学的に受容可能なキャリアで、既知の濃度に再構成される。主治医によって評価された新脈管形成の必要性に依存して、5ng〜135,000ng未満、代表的には、約5ng〜約67,500ngの脈管形成因子を含む単位用量が、単回注射または連続注射(代表的には、2〜40回の注射)として、新脈管形成が必要な虚血心筋層に投与される。
【0064】
第3の局面において、本発明は、患者の心臓において新脈管形成を誘導するため(または血管灌流を増加するため、あるいはDSEによって測定されるような血管密度または局所的心筋機能を増加するため)の方法に関する。この方法は、有効量の脈管形成因子を、この患者の心筋層に、新脈管形成が必要な1以上の領域に直接投与する工程を包含し、有効量の脈管形成因子は、約5ng〜135,000ng未満の脈管形成因子である。代表的には、この有効量の脈管形成因子は、5ng〜67,000ngの脈管形成因子である。好ましくは、患者は、ヒト患者である。より好ましくは、このヒト患者は、冠状動脈疾患(CAD)または心筋梗塞(MI)の症状を有する。上記で言及した、用語「血管灌流」および「血管密度」とは、新脈管形成の客観的尺度である。本発明の方法に従う脈管形成因子の投与に応答する、「血管灌流」および「血管密度」の増加は、本明細書中の図4および6〜8に示される。本発明の方法に従って単位用量の脈管形成因子を投与することによって生じる、局所的な心機能の増加を、図5および11に示す。
【0065】
上記の方法において、脈管形成因子は、PDGF、VEGF−A、VEGF−D、TGF−β1、FGF、あるいはそれらの脈管形成的に活性なムテインまたはフラグメントの群から選択されるメンバーである。好ましくは、脈管形成因子は、VEGF−A、VEGF−DまたはFGF、あるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインである。より好ましくは、脈管形成因子は、FGF(例えば、FGF−1、FGF−2またはFGF−5)、あるいはそれらの脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインである。最も好ましくは、脈管形成因子は、FGF−2、あるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインである。
【0066】
上記の方法において、脈管形成因子は、心筋層薬物送達について当該分野で公知の技術のうちの任意の1つを使用して、新脈管形成を必要する患者の心筋層へ送達される。患者の新脈管形成についての必要性は、冠動脈造影、MRIなどのような従来の評価技術を使用して、主治医によって評価される。最も単純な実施形態において、薬物送達デバイス(例えば、注射器)に装着された針は、新脈管形成を必要とする心筋層の領域への有効量の脈管形成因子の送達のために、身体の外側から胸腔(chest cavity)および心膜を通ってその心筋層の領域に定位的に指向される。一旦投薬量が心筋層に送達されると、ニードルを抜くかまたは脈管形成因子の送達のためにその心筋層の1以上の部位に再位置付けされる。心筋層の注射部位の数(代表的には、2〜40)に関わらず、送達される脈管形成因子の全量は、約5ng〜135,000ng未満、より代表的には、5ng〜67,000ngである。心筋層は、脈管形成因子の送達後に収縮するので、いくらかの少量の用量の脈管形成因子は、心筋層から、針穴を介してそして心膜空間内に押し戻され、ここで一時的に、必要なその領域での局所的濃度を生じ、引き続いて、その心膜液に混合されて、長期間の間、心筋層を脈管形成因子中に浴し続けるということが考えられる。これらの効果は、本発明の脈管形成因子のIMc用量の効果を増強するよう作用するだけである。従って、別の局面において、本発明は、患者の心臓において新脈管形成を誘導するための方法に関し、単位用量の脈管形成因子を新脈管形成の必要な患者の心筋層内へ直接投与する工程、およびその残余量の脈管形成因子を、この心筋層周辺の心膜空間に侵入させる工程を包含する。
【0067】
新脈管形成を誘導するため(または血管灌流を増加するため、あるいはDSEによって測定されるような血管密度または局所的心筋機能を増加するため)の方法の別の実施形態において、単位用量の脈管形成因子は、デバイスから心筋層に直接送達され、このデバイスは、その身体の外側に近位端を、そして冠状静脈、冠状動脈または心臓チャンバ内に位置付けられた遠位端を有する。冠状静脈、冠状動脈または心臓チャンバから心筋層への、注射による薬物送達のための多くのデバイスが、当該分野で周知である。このようなデバイスの例としては、心臓カテーテルが挙げられ、これは、遠位端に伸縮自在な針を有し、新脈管形成を必要とする心筋層の領域に隣接して位置付けられる際に、所定量の薬物の送達のために、その心筋層内へ針を伸ばすことが可能である。現在の方法において、このようなデバイスは、本発明の超低用量の脈管形成因子を、新脈管形成を必要とする心筋層の領域へ送達する。脈管形成因子の送達後、針は、遠位端内に引き戻され、そしてデバイスの遠位端は、新脈管形成を必要とする心筋層の第2の領域に隣接して再位置付けされ、ここで、針が、心筋層内に再度伸ばされて、超低用量の脈管形成因子が送達される。次いで、この手順は、必要とされるだけ繰り返される。上記の実施形態の針はまた、レーザー(レーザー脈管形成術において使用されるような)に置換可能であり、ここで、このレーザーは、新脈管形成を必要とする心筋層の領域内へチャネルを開けるために使用され、そしてレーザーに隣接する開口部が、超低用量の脈管形成因子を、そのチャネル内に直接送達する。この後者のデバイスは、「Transmural Drug Delivery Method and Appratus」との表題の、WO 98/05307および対応USSN08/906,991(1997年8月6日に出願され、LocalMed,Palp Alto CAに譲渡された)に記載される。薬物送達に適切な類似の心臓カテーテルは、ACS、Guidant、AngionおよびLocalMedのような製造者から市販されている。
【0068】
心筋層への薬物の送達に適切な他のデバイスとしては、一連の薬物送達細孔が、従来のバルーン心臓カテーテルのバルーン部分の外面上に配置されている送達デバイスが挙げられ、これは、バルーンの膨張時に、その薬物送達細孔を血管上皮と直接接触させる。次いで、薬物は、この薬物が上皮を通って下層の心筋層内へ通過させる圧力下で、その薬物送達細孔を通して送達される。このタイプのデバイスは、「Method and Apparatus for Pressurized Intraluminal Drug Delivery」という表題の米国特許第5,810,767号(1998年9月22日公布);および「Intravascular Catheter with Infusion Array」という表題の米国特許第5,713,860号(1998年2月3日公布);ならびに「Localized Intravascular Delivery of Growth Factors for Promotion of Angiogenesis」という表題の係属中の出願WO97/23256および対応USSN08/753,224(現在係属中)に開示される。
【0069】
上記の心臓カテーテルは、心臓カテーテル使用のための標準的な技術を使用して利用される。代表的に、主治医は、カテーテルの遠位端を、冠状新脈管形成を必要とする患者の大腿動脈または鎖骨下動脈に挿入し、そしてカテーテルを可視化しながら、その遠位端を、新脈管形成を必要とする心臓の領域に近位する、冠状動脈、静脈または心臓チャンバにガイドする。カテーテルの遠位端は、新脈管形成を必要とする心筋層の領域に隣接して配置され、そして上記のように使用して超低用量(すなわち、脈管形成に効果的な量)の脈管形成因子を送達する。本発明に従って、脈管形成に有効な量の脈管形成因子は、約5ng〜135,000ng未満、代表的には、5ng〜67,500ngの脈管形成因子を含む。脈管形成に有効な量の脈管形成因子は、送達デバイスの各々の再位置付けによって心筋層に注射されるが、注射される脈管形成因子の全量は、135,000ng未満(すなわち、135μg未満)である。
【0070】
上記の方法の他の実施形態において、1以上の用量の脈管形成因子は、数日間の間か、2日に1回で継続的にか、数週間の間か、または2週間に1回で継続的にかで、心筋層の適切な領域に投与される。しかし、1回の処置レジメンで注射される脈管形成因子の全量は、135,000ng未満(すなわち、135μg未満)である。
【0071】
冠状新脈管形成の必要性に最もよく関連する疾患としては、冠状動脈疾患(CAD)(すなわち、患者の1以上の冠状動脈が、部分的に閉塞される)および心筋梗塞(MI)(すなわち、冠状動脈が、十分に閉塞されて、酸素付加された血液のための動脈に依存する下流の心筋組織の壊死を引き起こす)である。従って、別の局面において、本発明はまた、CADまたはMIの患者を処置するための方法に関し、この方法は、有効量の脈管形成因子を、患者の心筋層に、新脈管形成を必要とする1以上の領域に、直接投与する工程を包含し、有効量の脈管形成因子は、約5ng〜135,000ng未満の脈管形成因子である。代表的に、有効量の脈管形成因子は、約5ng〜約67,500ngの脈管形成因子である。好ましくは、患者は、ヒト患者である。
【0072】
本出願人の上記の薬学的組成物、単位用量または方法における活性薬剤は、好ましくは、組換えFGFあるいはその脈管形成的に活性なフラグメントまたはムテインである。より好ましくは、脈管形成因子は、FGF−2あるいは脈管形成的に活性なそのフラグメントまたはムテインである。
【0073】
本発明の脈管形成因子の超低投与量の臨床的効力は、脈管形成因子が、減少するより少ない量で動物およびヒトに投与された一連の工程で確立された。これらの臨床研究の脈管形成因子は、米国特許第4,956,455号(Baird)に開示されるような146残基を有する組換え成熟bFGF−2であり、そして以後本明細書ではrbFGF−2と呼ばれる。本明細書で用いられる超低投与量の脈管形成因子の臨床的効力の予備的証拠として、最適の医療管理にもかかわらず、症候性のままである重篤なCADの症状を示すヒト患者に、心臓カテーテルを経由する冠内注入により減少する投与量のrbFGF−2を投与した。(実施例3を参照のこと。)投与されたFGF−2の投与量(および患者の数)は、0.33μg/kg(n=4)、0.65μg/kg(n=4)、2.0μg/kg(n=8)、6.0μg/kg(n=4)、12.0μg/kg(n=4)、24μg/kg(n=8)、36μg/kg(n=10)および48μg/kg(n=10)であった。アンギナ頻度および生活の質は、ベースライン(FGF−2投与前)およびFGF−2投与後約60日におけるシアトルアンギナ質問表(Seattle Angina Questionnaire)(SAQ)により評価した。運動耐性時間(ETT)は、トレッドミル試験により評価した。休息/運動核灌流およびゲート化セスタミビ決定静止駆出率(gated sestamibi−determined rest ejection fraction)(EF)、および磁気共鳴画像化法(MRI)を、ベースライン、ならびにFGF−2投与後30日および60日で評価した。評価されたその他の終点は、(客観的に駆出率(EF)、正常の壁厚(NWM)、標的の壁厚(TWN)、虚血領域ゾーンおよび側副の程度を測定するための)MRIを含んだ。それぞれ表2〜4を参照のこと。
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
患者は、IC投与されたFGF−2のすべての投与量に対して有意な臨床的改善を示した。特に、表3は、最低投与量のFGF−2(2μg/kgより少ない)を受けた患者が、評価された5つの規準のうち4つで、より高い投与量のFGF−2(2μg/kgより多い)を受けた患者が示したより良好な結果を示したことを記載する。CADを処置するための上記に記載された方法は、当該分野で採用された標準的客観的判定基準(すなわちETT)により評価されたとき、処置された患者のETTにおいて1分半〜2分の予期せぬ優れた増加を提供した。これは、現在の処置の様式、すなわち脈管形成術について臨床的に有意であるとみなされる30秒の増加と比較したとき、非常に良好であると比較される。
【0077】
本発明の脈管形成術試薬について当該分野で報告された主要な副作用は、急性低血圧症である。これは、多くの脈管形成因子の血管拡張薬としての既知の効果に起因する。しかし、本発明の範囲内の任意の超低投与量の脈管形成因子の単独または一連の投与の後、如何なる有害な低血圧作用は観察されなかった。
【0078】
インビボで脈管形成活性について脈管形成因子を試験することにおいて、本明細書で実施例2の規準を満足する、CADをもつと診断された52人のヒト患者に、約20分間に亘り冠内(IC)注入により0.33μg/kg〜48μg/kgのFGF−2の単位投与量を投与した。特に、52人の患者では、冠状動脈(心臓)カテーテルを処置の必要な患者の動脈中(例えば、大腿または鎖骨下)中に挿入し、そしてこのカテーテルを、これが処置される患者の適切な冠状動脈中に位置するまで可視化して前方に押した。明りょうなラインを維持するための標準的な注意を用い、脈管形成因子を、10〜30分の時間に亘り実質的に連続的に、単位投与量を注入することにより投与した。次いで、52人の処置患者をシアトルアンギナ質問表により評価した。これは、客観的および主観的規準の混合された組み合わせに基づく評価を提供する。表2を参照のこと。このシアトルアンギナ質問表は、処置前および処置後の両方で評価される以下の5つのサブスケールを備えた、確証された疾患特異的証書である:1)「労作性能力」=肉体的活性の制限;2)「疾患認知」=MIを気にする;3)「処置満足度」;4)「アンギナ頻度」=発症および舌下ニトログリセリン使用の数;および5)「アンギナ安定性」=最も激しい肉体的活性をともなう発症の数。この5つのサブスケールの各々に対する可能な範囲は0〜100であり、より高いスコアはより良好な生活の質を示す。さらに、平均ベースラインスコア(処置前)と処置後スコアとの間の8点以上の平均値の変化は、「臨床的に有意」であるとして認識される。表2は、予備試験され、次いでIC注入により0.33μg/kg〜24μg/kgのrbFGF−2の単一単位投与量を投与された28人の患者が、「シアトルアンギナ質問表」により評価された5つの「生活の質」について13〜36点の平均のスコアの増加を示したことを報告する。本明細書にある表2を参照のこと。これらの13〜36点の増加は、処置の代替の様式中で「臨床的に有意」であるとして当該分野で認識されている8点の変化より約1.6〜4.5倍大きかった。本明細書中の表2を参照のこと。さらに、表2の最初の15人の患者についての合わせた結果を、低投与量(2μg/kgより小さいかまたはそれに等しい)および高(2μg/kgより多い)投与量のrbFGF−2の間で分類し、そして「シアトルアンギナ質問表」により評価したとき、両方の投与量がそれぞれ約12.3〜58.1および約10.9〜32.1の範囲の増加したスコアを提供することが見出された。本明細書中の表3を参照のこと。この増加したスコアは、処置の代替様式における「臨床的に有意」であると考えられている8点の変化より約1.4〜7.2倍大きかった。
【0079】
同じフェーズI治験において、CADをもつと診断され、かつ本明細書の実施例2の規準を満足する52人のヒト患者に、0.33μg/kg〜48μg/kgのrbFGF−2の単一単位投与量をIC投与した。最大許容投与量は、重篤であるが一過性の低血圧症により36μg/kgと規定され、低血圧症は、次のより高い投与量48μg/kgで10人の患者のうち2人で観察された。部位の1つで、23人の患者の心臓は、処置前(「ベースライン」)、および処置後30および60日の両方で、磁気共鳴画像化法(MRI)により、改善された冠状充足性の客観的徴候に対して評価された。MRIにより評価された客観的規準は以下である:1)左心室(LV)駆出率(EF);2)正常の壁厚(NWT);3)正常の壁運動(NWM);4)側副の程度;5)虚血領域ゾーン;6)標的の壁厚(TWT);7)標的の壁運動(TWM);および8)灌流または遅延到達ゾーン(%LV)。患者はまた、アンギナ、トレッドミル運動持続時間、休息/運動核灌流についても評価された。結果を表4に要約する。表4は、ベースラインアンギナクラスが、IC FGF−2後30および60日で、2.6〜1.4および1.2までそれぞれ低下したことを反映する。平均のトレッドミル運動時間は、8.5分のベースラインから、処置後30および60日で9.4および10.0分まで増加した。左心室駆出率(LV EF)においては有意な差は観察されなかった。しかし、標的の壁運動は、有意に増加し、15.4%のベースラインから、FGF−2処置後23.5%(30日)および24.1%(60日)まで動いた。同様に、標的の壁厚は、28.7%のベースラインから、FGF−2処置後、34.7%(30日)および45.9%(60日)まで有意に増加した。灌流においてもまた有意な増加があり、遅延到達ゾーン(%LV)における減少によって測定され、この遅延到達ゾーンは18.9%のベースラインから、FGF−2処置後7.1%(30日)および1.82%(60日)まで減少した。したがって、CAD患者に、FGF−2のような脈管形成因子の単一IC注入を提供することは、患者に、MRIおよびその他の従来の規準により客観的に測定されるような有意な肉体的改善を提供した。
【0080】
(薬物動態学および代謝)
腎臓および肝臓は、脈管形成因子の除去のための主要な器官である。特に、腎臓は、約60kDのタンパク質カットオフを有し、そしてそれ故、血清アルブミンを保持する(MW60kD)。しかし、本発明のすべての脈管形成因子は、40kDより小さい分子量を有する。本明細書の実施例の脈管形成因子であるFGF−2は、約16kDの分子量を有する。従って、腎臓排泄が期待される。市販のbFGF−2の放射標識生体分配研究では、肝臓および腎臓の両方が、IVまたはIC注射後1時間で高カウントの放射標識bFGF−2を含むことが示された。bFGF−2の別の組換えヨウ素化形態がラットに与えられた公開された研究では、肝臓が除去の主要器官として同定された。Whalenら、「The Fate of Intravenously Administered bFGF and the Effect of Heparin」Growth Factors、1:157−164(1989)。より詳細には、FGF−2は、通常循環においてα2−マクログロブリンに結合し、しかもこの複合体はKupffer細胞上のレセプターによりインターナライズされることが知られている。Whalenら(1989)およびLaMarreら「Cytokine Binding and Clearance Properties of Proteinase−Activated Alpha−2−Macroglobulins」Lab.Invest.、65:3−14(1991)。標識されたFGF−2フラグメントは、血漿中には見出されなかったが、それらは、尿中に見出され、そしてサイズにおいて細胞内分解産物に対応した。FGF−2がヘパリンと組み合わせて投与されたとき、FGF−2の腎臓排出が増加した。Whalenら(1989)。このFGF−2分子は、ヘパリンと複合体化しないときカチオン性であって、糸球体基底膜のカチオン性硫酸ヘパリンによりはじかれるようである。このFGF−2/ヘパリン複合体は、より中性に荷電し、そしてそれ故、より容易に濾過され、そして腎臓により排泄される。
【0081】
FGF−2の薬物動態学は、家畜ヨークシャーブタにおける静脈内(IV)および冠内(IC)投与後、Sprague Dawley(「SD」)ラットにおけるIV投薬後、およびCADヒト患者におけるIC投与後に測定された。すべての種において、IVおよび/またはIC注射後のrFGF−2血漿濃度は、最初の時間の間のいくつかの対数スケール(分配フェーズ)に亘る初期の急峻な傾きおよびかなりの減少をともなう二指数関数的曲線に従い、より緩和された減退(排除フェーズ)が続く。図1は、時間に対する血漿濃度曲線を提供し、これは、次の投与量:0.33μg/kg,0.65μg/kg、2μg/kg、6μg/kg、12μg/kgおよび24μg/kg除脂肪体重(LBM)の関数として、組換え成熟bFGF−2(146残基)のIC投与後のヒトにおけるこれらのフェーズを示す。bFGF−2の血漿濃度は、ヒトFGF−2の分析のために上市された市販のELISA(R&D Systems、Minneapolis MN)により測定した。hFGF−2のELISAアッセイは、組換え成熟bFGF−2と100%交差反応性を示した。FGFファミリーのその他のメンバー、および多くのその他のサイトカインは、このアッセイにより検出されなかった。また、ヘパリンはこのアッセイを妨害しない。
【0082】
これらの薬物動態学研究のデザイン、薬物動態学パラメータおよび結論を、ブタおよびラットにおける研究についてそれぞれ表5および表6に列挙する。読者は、特定の詳細についてこれらの表に言及される。しかし、これらの点の中で、注目されるべきは、半減期(T1/2)が、702±311〜609±350ml/時間/kgのクリアランス(CL)を有する動物について単一成分モデルのための単回IC注入の後2.8±0.8〜3.5時間であったことである。この研究の結果は、rFGF−2の薬物動態学が、動物がICまたはIV経路を経由して投薬された否かにかかわらず実質的に同一であったことを示す。表5を参照のこと。
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
これらの研究の表5および6から読み取られるべきその他の薬物動態学結果は、より温和な排除フェーズが続く迅速な分配フェーズ、およびヒトについて図1で報告されるような投与量直線性があることである。また、性別による差はなかった。さらに、3区画モデルを、5−10分IC注入により0.65〜6.5μg/kgを受ける前、約(「〜」)15分に70U/kgのヘパリンを受けたブタについて分析した。この3区画モデルについて半減期(T1/2α、T1/2βおよびT1/2γ)は、それぞれ1.5分、17分、および6.6時間であった。これらの動物では、初期容量(「V1」)は、ほぼ血漿容量であり、そして定常状態容量(「Vss」)は、血漿容量の約10倍であった。表5を参照のこと。ブタでは、循環性ヘパリンに対するrFGF−2の結合は、生体分配および排除を低減するようである。同様に、ラットにおいて、rFGF−2の分配の容積およびクリアランスの両方がヘパリンを投与したときより小さかった。表6を参照のこと。さらに、FGF−2のクリアランスに対する最大かつ最も好適な変化は、ヘパリンが±15分以内、好ましくはrFGF−2のIC注入の直前に投与されたときに見出された。表6を参照のこと。
【0085】
FGF−2の薬物動態学は、最適の医療管理にもかかわらず、CADをもつと診断されたヒトで、本出願を支持するフェーズI研究において、研究された。そのフェーズI研究で採用されたrbFGF−2の投与量は、0.33μg/kg,0.65μg/kg、2μg/kg、6μg/kg、12μg/kgおよび24μg/kg除脂肪体重(LBM)であり、そしてすべての投与量は、rbFGF−2注入前1−95分のIVまたはIC投与された40U/kgヘパリンを用いた患者の前処置後、20分のIC注入(2つの開存冠血管の各々中に10分)で投与された。本明細書の図1−3は、これらの結果の基礎になるデータを要約する。特に、図1は、20分間の時間に亘り上記に記載のようなIC注入により投与されたrbFGF−2の6つの異なる投与量について、時間(時間)に対する平均FGF−2血漿濃度のプロットである。図1は、投与量直線性および二相性血漿レベルの減少(すなわち、最初の時間の間の迅速分配フェーズ、それに続く1.9±2.2時間のT1/2の除去フェーズ)を示す。投与量直線性は、投与されたrbFGF−2の6つの投与量の各々に対する図1についてpg・時間/mlで示す個々の患者のFGF−2の曲線下面積(AUC)のプロットである図2でより容易に観察される。図3は、「rFGF−2注入前の分」で表したヘパリン投与量の時間に対する個々のヒト患者のFGF−2投与量正規化AUCのプロットであり、そしてFGF−2 AUCに対するヘパリン投与のタイミングの影響を示す。図3は、最大のAUC/投与量が、ヘパリンのようなグリコサミノグリカンの有効量がrFGF−2のIC注入の30分またはそれより短い内、より好ましくはrFGF−2のIC注入の20分またはそれより短い内に前投与されたとき達成されたことを示す。
【0086】
【表7】
代表的には、グリコサミノグリカン(glycosoaminoglycan)の有効量は、40〜70U/kgヘパリンである。これらの薬物動態学の結果が、本明細書中の表7にまとめられる。
【0087】
rFGF−2の分布期は、ヘパリンを伴う場合には、ヘパリンを伴わないrFGF−2と比較して、あまり急激ではなく、分布の容量がより少なく、そしてクリアランスはよりゆっくりである。循環しているヘパリンとのrFGF−2の複合体はrFGF−2の生体内分布および除去を減少させるようである。ヘパリン様構造に対するFGF−2の結合は強力(解離定数 約2×10-9M)であるが、FGF−2レセプターに対するFGF−2の結合は、およそ二桁大きい(解離定数 約2×10-11M)。Moscatelliら(1991)。さらに、グリコサミノグリカン(例えば、ヘパリン)とのrFGF−2の複合体形成は、シグナル伝達および有糸分裂誘発を増大させ得、そして/または酵素による分解からrFGF−2を保護し得る。
【0088】
有効と認められそして当該分野で受け容れられた冬眠心筋(hibernating mycardium)のモデルを使用して、10匹のミニブタに、90%の左の回旋状の(LCx)冠状動脈狭窄を受けさせた。確認については、例えば、Yanagisawa−Miwaら、「Salvage of Infarcted Myocardium by Antgiogenesic Action of Basic Fibroblast Growth Factor」、Science,257:1401−1403(1992);Banaiら、「Angiogenic−Induced Enhancement of Collateral Blood Flow to Ischemic Myocardium by Vascular Endothelial Growth Factor in Dogs」、Circulation,89(5):2183−2189(1994年5月);およびUngerら、「Basic Fibroblast growth factor enhances myocardial collateral flow in a canine model」、Am.J.Physiol.,266(Heart Circ.Physiol.35):H1588−H1595(1994)を参照のこと。1ヶ月後、ベースラインの陽電子射出断層撮影(PET)およびドブタミン負荷心エコー検査を、これらの動物に対して行った。次いで動物を無作為化し、そして100μlのキャリア(n=5)またはキャリア中のrbFGF−2(45ng/注射;全用量1,350ng)(n=5)のいずれかの、LCx領域中での30回の注射を用いて処置した。上記の注射においては、キャリアは、10mMのチオグリセロール、135mMのNaCl、10mMのクエン酸ナトリウムおよび1mMのEDTA(pH5)を含有している滅菌水溶液であった。
【0089】
それらの心筋層中にFGF−2の注射を受けさせた5匹の動物においては、安静時のLCx領域の心筋の血流(MBF)は、PETによって測定した場合には、ベースライン(0日)の非虚血性中隔値の61.3±4.4%から、手術の6ヶ月後には82.8±3.1%に増大した(p<0.001)。LCx領域についての安静時の壁の運動スコア指数(WMSI)は、ベースラインでは2.4±0.2であり、そして6ヶ月で2.2±0.2に改善された(ベースラインに対してp=0.08)。同様に、ピーク負荷時のLCx領域についてのWMSIは、ベースラインでは2.2±0.4(0日目)であり、そして6ヶ月で1.8±0.3にまで減少した(p=0.05)。ビヒクルで処置した動物においては、あらゆる時点で、MBFにおいても、安静時WMSIでも負荷WMSIでも有意な変化は存在しなかった。処置した慢性的な虚血の領域から採取した組織サンプルのウェスタンブロット分析は、ビヒクルで処置した慢性的な虚血の領域中で観察されたVEGFに対して、rFGF−2で処置した慢性的な虚血の領域におけるVEGFの有意に大きいアップレギュレーションを明らかにした(p<0.05)。
【0090】
従って、新脈管形成を必要としている患者のこの有効と認められたモデルにおいては、超低用量の脈管形成因子(例えば、FGF−2)の心筋内への直接注射が、心筋層の処置された領域におけるMBFおよび収縮予備力を改善した。従って、超低用量の脈管形成因子が、新脈管形成を誘導するための実行可能な方法、ならびにCADおよび/またはMIの処置のための実行可能な代替治療を示す。
【0091】
以下の実施例1〜6は、上記で議論されている予備データを生じたIC FGF−2についての選択の基準および第I相の臨床試験についてのさらなる詳細を提供する。実施例7は、超低用量の薬学的組成物についてのデータ、ならびに冠状動脈の疾患および心筋梗塞についてのモデル系において患者(ミニブタ)の冠状動脈の新脈管形成を誘導するための本発明の方法およびその使用を開示する。
【実施例】
【0092】
(実施例1:第I相の臨床試験において使用した中程度の濃度の単位用量のrFGF−2)
米国特許第5,155,214号(Baird)の組換えの成熟FGF−2を、中程度の濃度(0.2μg/kgから約36μg/kg)の単位用量および薬学的組成物として処方し、そしてラット、ブタ、および最終的にはヒトに、本明細書中で言及される第I相の臨床試験において投与した。種々の処方物を以下に記載する。
【0093】
中程度の濃度のrFGF−2単位用量を、積層した灰色のブチルラバーストッパーおよび赤色のフリップオフオーバーシールを備えた3ccのI型のガラスバイアル中の液体として、提供した。rFGF−2単位用量は、0.3mg/mlのrFGF−2を、10mMのクエン酸ナトリウム、10mMのモノチオグリセロール、1mMのEDTA二ナトリウム二水和物(分子量372.2)、135mMの塩化ナトリウム(pH 5.0)中に含む1.2mlを含んだ。このように、絶対的な用語で、それぞれのバイアル(および単位用量)は、0.36mgのrFGF−2を含んだ。液体の形態で単位用量を含有しているバイアルを、2℃から8℃で保存した。
【0094】
rFGF希釈液を、積層した灰色のブチルラバーストッパーおよび赤色のフリップオフオーバーシールを備えた5ccのI型のガラスバイアル中に供給した。rFGF−2希釈液は、10mMのクエン酸ナトリウム、10mMのモノチオグリセロール、135mMの塩化ナトリウムを含む(pH5.0)。それぞれのバイアルは、5.2mlのrFGF−2の希釈溶液を含んだ。そしてこれを、2℃から8℃で保存した。
【0095】
中程度の濃度のrFGF−2の薬学的組成物(注入した)を、rFGF希釈液でrFGF−2の単位用量を注入容量が10mlであるように希釈することによって調製した。EDTAの濃度を100μg/mlの限界未満に維持するために、比例的に大きい絶対量のFGF−2をより重い体重を有している患者に対して投与する場合には、全注入容量を20mlにまで増大させた。
【0096】
(実施例2:rFGF−2での処置についての冠状動脈疾患を有している患者についての選択基準)
以下の選択基準を、最適な医療管理にもかかわらずその活動が冠状動脈の虚血によって制限され、そして承認された再脈管形成治療についての候補ではない、冠状動脈疾患を有している第I相の患者に対して適用した。
【0097】
包括基準:被験体は、以下である場合に適格である:
・18歳以上の男性または女性
・冠状動脈疾患(CAD)の診断
・承認された再脈管形成手順(例えば、脈管形成術、ステント、冠状動脈のバイパス移植(CABG))(またはそのような介入を拒絶する)についての最適には及ばない候補である
・改変されたBruceプロトコールを使用して少なくとも3分間の運動を行うことが可能であり、そして冠状動脈の虚血によって制限される
・薬理学的な負荷を受けたタリウムセスタミビ(sestamibi)スキャンにおける少なくとも20%の心筋層の誘導性でありそして可逆的な欠損
・必要とされる心臓のカテーテル法のための臨床的に受容可能な範囲の、CBC、血小板、血清の化学
・正常なINR、またはクマジン(Coumadin)を用いて血液凝固を阻止された場合には、INR<2.0
・この試験(全ての必要な試験手順およびフォローアップの通院を含む)への参加についての書面でのインフォームドコンセントを得る意思がありそしてそれを得ること
排除の基準:被験体は、以下である場合には適格ではない:
・悪性疾患:治療的に処置された基底細胞癌を除いて、過去10年以内の悪性疾患の任意の病歴
・眼の状態:増殖性の網膜症、重篤な非増殖性の網膜症、網膜の静脈の閉塞、イールズ病、または黄斑の浮腫もしくは眼科医による眼底検査:6ヶ月以内の眼内の外科手術歴
・腎機能:年齢について調整された正常な範囲未満のクレアチニンのクリアランス;24時間の尿あたりで、タンパク質>250mgまたはミクロアルブミン>30mg
・クラスIVの心不全(New York Heart Association)
・心エコー図、タリウムスキャン、MRI、またはゲートで制御されるプールされた血液のスキャン(MUGA)による、<20%の駆出率
・血液動力学的に関連する不整脈(例えば、心室細動、持続性心室頻拍)
・重篤な弁の狭窄(大動脈の面積<1.0cm2、僧帽弁の面積<1.2cm2)、または重篤な弁の不全
・3週間以内のアンギナまたは不安定狭心症の顕著な増大
・3ヶ月以内の心筋梗塞(MI)歴
・6ヶ月以内の一過性脳虚血発作(TIA)または卒中歴
・6ヶ月以内のCABG、脈管形成術、またはステント歴
・6ヶ月以内の、経心筋層レーザー再脈管形成術、rFGF−2、または血管内皮増殖因子(VEGF)での処置歴
・妊娠の可能性のある女性または授乳中の母親
・任意の病理学的な線維症(例えば、肺線維症、強皮症)
・既知の血管の奇形(例えば、AV奇形、血管腫)
・CADの症状の評価を妨害し得る任意の疾患(例えば、心外膜炎、肋軟骨炎、食道炎、全身性の血管炎、鎌状赤血球症)の共存
・改変されたBruceプロトコールの運動負荷試験の能力を制限する任意の疾患(例えば、下肢の麻痺または切断、重篤な関節炎または下肢、重篤な慢性閉塞性肺疾患(COPD))の共存
・30日以内の研究薬剤、デバイス、または手順の臨床試験への参加(または60日以内に研究薬物が予定されている)
・rFGF−2または関連する化合物に対する既知の過敏症
・調査者の意見において被験体のこの研究への参加を不適切とさせる任意の状態(例えば、精神病、重篤な精神遅滞、研究職員とコミュニケーションをとることができないこと、薬物またはアルコールの濫用)
(実施例3:ヒトに対してICで投与された組換えFGF−2についての第I相の臨床試験)
米国特許第5,155,214号の組換えFGF−2を、最適な医療管理を受けたにもかかわらず徴候を残しており、そして外科手術によるかもしくは経皮的な再脈管形成を拒否したかまたはこれらの最適状態には及ばない候補である、重篤なCADを有している52人のヒトの患者に対して、第I相の非盲検、単回の投与で、用量を段階的に増大させながら、2つの部位試験において、投与した。薬物を、2つの主要な冠状動脈血供給源(IC)の間で分かれる、患者の冠状動脈中にカテーテルを配置するための標準的な技術(脈管形成術においてすでに使用されているような)を使用して、単回の20分間の注入として投与した。投与したrFGF−2の用量(μg/kg)は、0.33(n=4)、0.65(n=4)、2.0(n=8)、6.0(n=4)、12.0(n=4)、24(n=8)、36(n=10)、および48(n=10)であった。アンギナの頻度および生活の質を、Seattle Angina Questionnaire(SAQ)によって、ベースライン(rFGF−2の投与の前)およびrFGF−2の投与の約60日後に評価した。運動耐性時間(ETT)を、スレッドミル(threadmill)試験によって評価した。安静時/運動の核灌流(rest/exercise nuclear perfusion)、およびゲートで制御されるセスタミビ(sestamibi)で決定された安静時駆出率(EF)、および核磁気共鳴画像化法(MRI)を、ベースライン、ならびにFGF−2投与の30日後および60日後に評価した。評価した他の終点には、MRI(駆出率(EF)、正常な壁の運動(NWM)、標的化した壁の運動(TWM)、正常な壁の厚み(NWT)、標的化した壁の厚み(TWT)、虚血領域帯および側副の程度を客観的に測定するため)を含んだ。表2〜4をそれぞれ参照のこと。
【0098】
予備的な安全性の結果は、深刻な事象は用量に関係していないことを示す。今までに、8つの投与量のグループのうち、最も低い投与量のグループ(すなわち、0.65μg/kg(23日目)、2.0μg/kg(57日目)、および6.0μg/kg(63日目))で、3人が死亡した。3人の患者(すなわち、グループ1(0.33μg/kg)、グループ3(2.0μg/kg)およびグループ4(6.0μg/kg)からそれぞれ1人の患者)においては急性心筋梗塞(MI)についての6回の入院があった。3人の患者のうちの1人は、急性MIについての6回の入院のうちの4回を数えた。また、グループ4の1人の患者への投与の3週間後に診断された1つの大B細胞リンパ腫も存在した。この患者は、投与後2ヶ月で死亡した。急性の低血圧(注入の間または注入の直後により高い用量で見られる)は、昇圧剤を必要とすることなく液体の投与によって管理した。ヒトにおける最大寛容用量(MTD)を、36μg/kgと定義した。(対照的に、ブタにおいては、MTDは、6.5μg/mlであった)。48μg/kgまでのICのrFGF−2の用量で、積極的な液体での管理を用いて患者を管理したが、10人の患者のうちの2人においては、急性でありそして/または起立性の低血圧に起因して寛容ではなかった。ICによって注入したrFGF−2の半減期は約1時間であった。
【0099】
rFGF−2の単回のICの注入で処置したこの研究のヒトの患者は、1.5から2分のETTにおける平均の増大を示した。これは、特に重要である。なぜなら、>30秒のETTにおける増大が重要であると考えられ、そして代替治療(例えば、脈管形成術)を評価するための基準であるからである。アンギナの頻度および生活の質は、SAQによって測定した場合には、試験した28人の患者(n=28)について、全ての5つのサブスケールにおいて、57日で有意な改善を示した。表2および3を参照のこと。詳細には、SAQによって評価された5つの基準についてのスコアにおける平均の変化は、13から36の範囲であり、8以上の平均の変化は「臨床的に有意である」と考えられる。表2を参照のこと。
【0100】
核磁気共鳴画像化法(MRI)は、FGF−2の単回の単位用量の投与後の客観的な改善を示した。これは、30日目および60日目での増大した標的化された壁の運動(p<0.05)、および60日目での増大した標的化された壁の厚み(p<0.01)を含む。MRIはさらに、11人の患者の試験グループ(n=11)において、より少ない用量(0.33μg/kgおよび0.65μg/kg)およびより多い用量(2.0μg/kgおよび12.0μg/kg)のグループの両方について、改善された局所的な壁の運動、ならびに、標的化された領域での増大した心筋の灌流量および側副の発達を示した。
【0101】
異常な血流の領域(これは、28人の患者について1つの部位で評価した)は、30日目および60日目で有意に減少した(p<0.001)。
【0102】
上記の基準(すなわち、ETT、SAQ、MRI)に加えて、処置は、少なくとも6ヶ月間続く脈管形成をもたらす場合には、非常に良好であると考えられる。この第I相の研究においては、予想以上の優れた脈管形成効果が、全ての投薬量のグループにおいて最後の57〜60日間続くことが観察された。(表2〜4を参照のこと)。すでに得られている結果に基づくと、脈管形成の影響が、12ヶ月以上であるが少なくとも6ヶ月続き、その時間に、必要とされる場合にはこの手順が繰り返され得ることが、予想される。
【0103】
(実施例4)
「冠状動脈の疾患を処置するためにヒトに対して投与された組換えのFGF−2についての提案された第II相の臨床試験」
冠状動脈の疾患についてヒトの患者を処置するための米国特許第5,155,214号のrFGF−2の第II相の臨床試験を、4つのアーム:偽薬、0.3μg/kg、3μg/kg/kg3μg/kg、および30μg/kgの冠状動脈内投与を用いる二重盲検/プラセボコントロール試験として実施した。
【0104】
(実施例5)
「第II相のヒトでの臨床試験のためのrFGF−2の単位用量および薬学的組成物」
米国特許第5,155,214号のrFGF−2を、本明細書中に参照する第II相の臨床試験におけるヒトへの投与のための薬学的組成物のストックとして処方した。種々の処方物を以下に記載する。
実施例2〜4の中程度の濃度のrFGF−2ストック薬学的組成物を、積層した灰色のブチルラバーストッパーおよび赤色のフリップオフオーバーシールを備えた5ccのI型のガラスバイアル中の液体として、調製した。rFGF−2組成物は、10mMのクエン酸ナトリウム、10mMのモノチオグリセロール、0.3mMのEDTA二ナトリウム二水和物(分子量372.2)、135mMの塩化ナトリウム(pH 5.0)中に、米国特許第5,155,214号の0.3mg/mlのrFGF−2を含んだ。それぞれのバイアルは、3.7mlのrFGF−2の薬物生成物の溶液(1つのバイアルあたり1.11mgのrFGF−2)を含んだ。液体の形態の得られたFGF−2ストック薬学的組成物を、2℃〜8℃で保存した。使用の前に、上記のFGF−2組成物を、「rFGF−2偽薬」で稀釈した。
【0105】
rFGF偽薬を、積層した灰色のブチルラバーストッパーおよび赤色のフリップオフオーバーシールを備えた5ccのI型のガラスバイアル中に透明な無色の液体として供給する。rFGF−2偽薬は、薬物生成物からの外観においては識別が不可能であり、そして以下の処方を有する:10mMのクエン酸ナトリウム、10mMのモノチオグリセロール、0.3mMのEDTA二ナトリウム二水和物(分子量372.2)、135mMの塩化ナトリウム(pH 5.0)。それぞれのバイアルは、5.2mlのrFGF−2の偽薬の溶液を含む。単位用量と同様に、rFGF−2偽薬を、2℃から8℃で保存した。
【0106】
中程度の濃度のrFGF−2の薬学的組成物(最終的に冠状動脈内で注入される)を、本明細書中の実施例2〜4に記載するように、rFGF稀釈液でrFGF−2の単位用量を注入容量が10mlであるように希釈することによって調製した。EDTAの濃度を100μg/mlの限界未満に維持するために、全注入容量を、比例的に大きい絶対的な量のFGF−2がより大きな体重を有している患者に対して投与される場合には、40mlにまで増大させた。
(実施例6)
「冠状動脈内rFGF−2の第II相のヒト臨床試験のためのCAD患者の選択の基準」
従って、本発明に従うrFGF−2の単回の単位投与量を投与したヒトにおける、生活の質および増大させられた脈管形成の効率における予想以上の優れた改善の上記の証拠は、出願人らの単位用量の薬学的組成物およびその使用方法の特許性を支持する。
【0107】
(実施例7)
「ミニブタの心筋への超低容量のrFGF−2の投与によるインビボでの新脈管形成の誘導」
有効と認められた冬眠心筋モデルを使用して、ミニブタに90%の左回旋状(LCx)冠状動脈の狭窄を受けさせた。簡潔には、水圧で制御される閉塞器を、ミニブタのLCxの近位末端周辺に配置した。フロープローブを、水圧の閉塞器に対して遠位のLCx中に挿入し、そして閉塞器を一貫して90%の閉塞を提供するように膨張させた。動物を6つのグループで試験した。1ヶ月後、ベースラインの陽子射出断像撮影(PET)およびドブタミン負荷の心エコー検査(DSE)を行い、そして動物を、100μlのキャリア(n=5)またはキャリア中のrFGF−2(45ng/注射;全用量1.35μg)(n=5)のいずれかの、LCx領域中での30回の注射に対して無作為化した。上記の注射においては、FGF−2は、米国特許第5,155,214号の組換えの成熟のFGF−2(配列番号2)であった。キャリアは、10mMのチオグリセロール、135mMのNaCl、10mMのクエン酸ナトリウム、および1mMのEDTAを含有している滅菌の水溶液(pH5)であった。この実施例で提供した全用量(1.35μg)のFGF−2は、アメロイド(ameroid)ブタモデルにおいて有効であることが見出されている、冠状動脈内(IC)で送達される用量(135μg)の1/100であった。アメロイドブタモデルでは、LCxは100%を閉塞した。
【0108】
それらの心筋中にrFGF−2の注射を受けさせた動物においては、休止期のLCx領域の心筋の血流(MBF)は、PETによって測定した場合には、ベースライン(0日目)での非虚血性の中隔の値の61.3±4.4%から、手術の6ヶ月後には82.8±3.1%に増大した(p<0.001)。LCx領域についての休止期の壁の運動スコア指数(WMSI)は、ベースラインでは2.4±0.2であり、そして6ヶ月で2.2±0.2に改善された(ベースラインに対してp=0.08)。同様に、ピーク負荷期のLCx領域についてのWMSIは、ベースラインでは2.2±0.4(0日目)であり、そして6ヶ月で1.8±0.3にまで改善された(p=0.05)(図5)。ビヒクルで処置した動物においては、あらゆる時点で、MBFにおいてまたは休止期もしくはストレス期のWMSIにおいても有意な変化は存在しなかった。処置の6ヶ月後、ミニブタを屠殺し、そして処置した虚血性の心筋の毛細血管の密度を決定した。FGF−2処置したミニブタは、生理食塩水で処置したグループについての約1700に対して、約4400/単位容量の毛細血管の密度を示した(図6)。ウェスタンブロット分析は、ビヒクルを用いて観察したものに対して、慢性的な虚血のFGF−2で処置した領域においてVEGF(VEGF165として測定した)およびFGF−2の有意に大きいアップレギュレーションを明らかにした(p<0.05)。図10。驚くべきことに、VEGFおよびFGF−2のアップレギュレーションは、処置後少なくとも3ヶ月間持続した(図10)。
【0109】
従って、超低用量の脈管形成因子(例えば、rFGF−2)の直接の心筋内注射は、MBF、収縮性の保存、灌流(図4)、DSEによって測定されるような心筋の機(図5)能、および心筋の処置領域の毛細血管密度(図6)を改善する。従って、超低用量の脈管形成因子IMcの注射が、院新脈管形成を誘導するための実行可能な方法、およびCADおよび/またはMIの処置のための実行可能な別の治療を示す。
(実施例8)
「ミニブタの心筋への種々の用量のrFGF−2の投与による、インビボでの新脈管形成の誘導」
実施例7に記載した確認された冬眠心筋のモデルと同じモデルを使用して、ミニブタに、90%の左回旋状(LCx)冠状に狭窄を受けさせた。簡潔には、水圧で制御される閉塞器を、ミニブタのLCxの近位の末端の周辺に配置した。フロープローブを、水圧の閉塞器に対して遠位のLCx中に挿入し、そして閉塞器を一貫して90%の閉塞を提供するように膨張させた。4群の動物を6匹の群で試験した。群は以下の通りであった:
・IMcの中程度の用量:6匹の動物、@0.6μg/kg 全用量IMc
・LCx領域中に30回の注射、ヘパリンのIMcはなし
・IMcの高用量:6匹の動物、@6.0μg/kg 全用量IMc
・LCx領域中に30回の注射、ヘパリンのIMcはなし
・ポジティブコントロール:6匹の動物、アメロイドモデル(LCxの100%の閉塞)において@6.0μg/kgのI.C.、送達される全用量135μg
・注入の開始の5分前に70U/kgのヘパリン
・可能である場合には、1/2用量のRCA、1/2用量のLCxまたはLAD(3μg/kg/動脈)、動脈あたり10分間にわたる注入によってそれぞれ送達される(20分の全注入時間)
・ネガティブコントロール:6匹の動物−ビヒクル/生理食塩水×30回の注射 IMc。
【0110】
ミニブタを、外科手術の時点で処置グループにランダムに割り当てた。
【0111】
(第1相)
(ベースラインの確立および処置の開始)
・上記に記載するように、PETによって決定した灌流、およびDSEによる心臓の機能を用いて、すぐに冬眠心筋についてのベースラインを確立した。
【0112】
・予備処置(麻酔下):
・ベースラインの心臓の速度(HR)/血圧(BP)を記録した
・以下のために血液を回収した:
・血清の化学、CBC、心臓の酵素(例えば、損傷した心臓の筋細胞に関連する、CPK、MB、心臓のトロポニンI(「TNI」)、または心臓のトロポニンT(「TNT」))
・rFGF−2アッセイの予備処置のための遠心分離した血漿(−70℃で凍結)
・EKG(3つのリード、周期的な静脈抜去術を伴う)
・処置の間:
・HRおよびBPデータを記録した:液体を用いて低血圧を処置する
・モニターによってリズムの変化を記録した
・上記に記載した、FGF−2(中程度の用量および高用量)、ネガティブコントロール、およびポジティブコントロールを用いて、4つのグループを処置した
・処置後:
・HR/BPをベースラインに戻るまで記録した
・血清の化学、CBC、心臓の酵素、およびrFGF−2アッセイのための遠心分離した血漿の第2のセットを、処置後の可能な最新の時点(最低2時間)で回収した。血液の回収にはすべての動物について処置後の同じ時間を使用する。取り扱いについての上記を参照のこと
・EKG(3つのリード、周期的な静脈抜去術を伴う)
(第2相)
(フォローアップ@処置後3ヶ月)
・麻酔下
・HRおよびBPを記録した
・血清の化学、CBC、心臓の酵素、およびrFGF−2アッセイのための遠心分離した血漿のために血液を回収した。取り扱いについての上記を参照のこと。
【0113】
・EKGを行った(3つのリード、周期的な静脈抜去術を伴う)
・PETによって灌流、そしてDSEによる負荷での心筋の機能を決定した。2人のリーダーに対してブラインドにした処置群。
【0114】
(第3相)
(組織学および最終的な報告)
・屠殺後:ミニブタを、FGF−2またはコントロールでの処置の3ヶ月後に屠殺した。
【0115】
・心臓の全体的な病理学:注射部位または他の心臓の病理学の証拠(梗塞、傷跡、注射部位の変化、心臓周辺の変化)を記録した
・組織:隔壁、動脈壁、LCx領域
・構造についてヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した
・線維症についてトリクロムで染色した
・内皮組織を同定するためにアルカリホスファターゼについて染色した
・中央の心筋の横断面の血管全体の密度のブラインド評価を行った
・注射部位での局所的な病理学(線維症、血管の分布状態、筋細胞の欠失、梗塞など)を検索した。
【0116】
処置した虚血性の心筋の正規化された灌流の比を、ポジティブおよびネガティブコントロール(上記)を用いた処置の3ヶ月後、および「中程度」(0.6μg/kg(13.5μg))または「高」6.0μg/kg(135μg))の用量のrFGF−2(配列番号2)でのIMc処置の3ヶ月後に、PETによって決定した。このデータを、図7に棒グラフで示す。これはまた、実施例7において決定するように、「低」(0.06μg/kg(1.35μg))用量のFGF−2による正規化された灌流のデータと組合せる。図7は、正規化された灌流における最大の%変化(すなわち、27.5%の増大)が、驚くべきことに、「中程度」の用量について生じ、そして「低」および「高」用量はそれぞれ17.5%および17%のより低い変化を示すことを示す。図7のデータは、2つの別々の実験の結果(明るい棒および暗い棒)であり、「低」用量についての偽薬である「uld」(超低用量)として示される明るい色をつけた偽薬もまた、明るい色をつけた棒として示す。
【0117】
処置の1ヶ月および3ヶ月後の中程度の用量群および高い用量群で処置した虚血性の心筋についての正規化された灌流における%変化を、図8の棒グラフ中のポジティブ(IC)およびネガティブ(偽薬)コントロールと比較する。「高」用量は、処置後1ヶ月で、「中程度」の用量について達成された正規化された灌流においてより多い増大を示した。しかし、正規化された灌流における%増大は、処置後3ヶ月で、「中程度」の用量のrFGF−2のIMcについて予想以上に生じた。この予想以上の優れた結果は、「高」用量で処置したグループについてのものよりも、「中程度」の用量で処置したグループについて観察された、予想以上により大きな血管の密度によって確証づけらる。(図9)。さらに、中程度の用量で処置した群について予想以上の優れた結果の両方を示したことは、「高」用量の群(約170pg/ml)で、またはポジティブなICコントロール(約175pg/ml)で観察されたものと比較して、「中程度」の用量(約290pg/ml)での処置の3ヶ月後に観察された処置された虚血性の心筋における細胞内FGF−2の、予想以上に優れたアップレギュレーションと一致する。
従って、本発明の方法に従ってIMcで投与されるFGF−2の全ての投薬量が、灌流および心臓の機能を増大させるが、(中程度)の用量のFGF−2が予想以上に優れているようであり、これは、約0.3μg/kg(または6.75μgまたは6,750ng)から約3.0μg/kg(または67.5μgまたは67,500ng)までで生じる。
[配列表]
【表8】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。
【請求項1】
明細書中に記載の発明。
【図5】
【図6】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図6】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−52017(P2011−52017A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270963(P2010−270963)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【分割の表示】特願2001−517091(P2001−517091)の分割
【原出願日】平成12年8月11日(2000.8.11)
【出願人】(591076811)ノバルティス バクシンズ アンド ダイアグノスティックス,インコーポレーテッド (265)
【出願人】(507189666)デューク ユニバーシティ (25)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【分割の表示】特願2001−517091(P2001−517091)の分割
【原出願日】平成12年8月11日(2000.8.11)
【出願人】(591076811)ノバルティス バクシンズ アンド ダイアグノスティックス,インコーポレーテッド (265)
【出願人】(507189666)デューク ユニバーシティ (25)
【Fターム(参考)】
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