説明

脱ガス装置

【課題】金属溶湯中のHガスや介在物などの除去を十分に行なうことができる脱ガス装置を提供する。
【解決手段】本発明の脱ガス装置1は、金属溶湯を攪拌体5により回転攪拌して脱ガスをする脱ガス室4を備え、脱ガス室4から金属溶湯を流し出す開口部3を側壁1bに設け、該開口部3を囲う囲い板6を、回流する金属溶湯の下流側を開放させて配し、該囲い板6の金属溶湯の流れを受ける面を側壁1bに対して傾斜面6aとしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金などの金属溶湯の脱ガス処理を行なう脱ガス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金などの鋳造では、鋳造前に金属溶湯中のHガスや酸化物等の介在物などを除去するため、脱ガス処理を行なう。この脱ガス処理を行なう脱ガス装置(脱ガス炉ともいう。)としては、例えば、金属溶湯を脱ガス室で脱ガス用攪拌体より回転攪拌してHガスや介在物などを除去し、この脱ガスした金属溶湯を、脱ガス室の底付近に設けた開口部より曲管を経由して流し出し、鋳型に出湯するものがある(下記特許文献1,2参照)。
【0003】
また、金属溶湯を脱ガス処理槽でガス放出手段により回転攪拌してHガスや介在物などを除去し、この脱ガスした金属溶湯を、仕切板の下方に設けた開口から流し出し、鋳型に出湯するものがある(下記特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平5−65527号公報
【特許文献2】特開平5−65554号公報
【特許文献3】特開2003−240449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1〜3に記載の脱ガス装置では、金属溶湯中のHガスや介在物などが十分に除去できないことがあった。
本発明者は、これらの原因を究明したところ、脱ガス室(又は脱ガス処理槽)の底付近に金属溶湯を流し出す開口(又は曲管)が設けてあると、十分に攪拌されず、不活性ガスで処理されずに流れ出る金属溶湯があり、Hガス(又は吹き込んだ不活性ガス)が金属溶湯中に残留してしまうためであることが解かった。
また、曲管が底付近に配してあると、乱流を起こし、介在物が金属溶湯中に混入しやすいことが解かった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、金属溶湯中のHガスや介在物などの除去を十分に行なうことができる脱ガス装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の脱ガス装置は、金属溶湯を攪拌体により回転攪拌して脱ガスをする脱ガス室を備えた脱ガス装置において、脱ガス室から金属溶湯を流し出す開口部を側壁に設け、該開口部を囲う囲い板を、回流する金属溶湯の下流側を開放させて配し、該囲い板の金属溶湯の流れを受ける面を前記側壁に対して傾斜面としたことを特徴とするものである。
【0008】
このようにすることにより、開口部の周囲に囲い板を設けたため、金属溶湯は、脱ガス室で脱ガス用攪拌体より送出した処理ガス(ArやNなどの不活性ガス)の微細な気泡と一緒に十分に回転攪拌され、脱ガスを十分に行なうことができる。また、囲い板の金属溶湯の流れを受ける面を傾斜面としたことにより、金属溶湯の流れを乱すことがなく、介在物が金属溶湯中に混入しにくくなる。
【0009】
前記囲い板の高さ方向の幅は、前記開口部の高さ方向の幅よりも広くするのが好ましく、これにより、金属溶湯が、不活性ガスで処理されずに流れ出ることを防止できる。
【0010】
前記脱ガス装置は、上面視略矩形状に形成することが好ましく、特に略正方形状に形成するのが好ましい。このようにした場合、前記開口部を、前記側壁の端部側に設けるのが好ましい。
このように脱ガス室を上面視略矩形状に形成することにより、金属溶湯が回流しやすくなるため、乱流を防ぐことができ、介在物が金属溶湯中に混入することを防ぐことができる。開口部を、側壁の端部側に設けることにより、不活性ガスで処理されずに流出する金属溶湯が少なくなり、より一層脱ガスを十分に行なうことができる。
【0011】
前記開口部と入湯口とは、上面視において、最遠方に配するのが好ましい。例えば、脱ガス室を上面視した場合の攪拌体の回転中心を基準として点対称となるように、入湯口と開口部とを設けるのがよい。脱ガス室が略正方形状のときには、一側壁の端部に入湯口を設けた場合、該端部から対角線上に存在する端部を開口部とするのがよい。また、平面方向だけでなく、高さ方向でも最遠方とするのがよく、例えば、入湯口を脱ガス室の上方に設けた場合、開口部を下方に設けるのがよい。
このように入湯口と開口部とを最遠方に設けることにより、金属溶湯の滞留時間が長くなり、金属溶湯の脱ガスを十分に行なうことができる。
【0012】
前記傾斜面の角度は、前記側壁に対して30°〜60°とするのが好ましく、このような角度が、最も乱流を防ぐことができ、介在物が金属溶湯中に混入することを防ぐことができる。
【0013】
なお、本発明において、「回流する金属溶湯の下流側」とは、攪拌体の回転軸と開口部との間の金属溶湯の流れの下手側の意である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を用いて説明する。
図1は本発明の一実施形態の脱ガス装置の斜視図、図2は図1の装置の上面図である。
【0015】
本発明の一実施形態の脱ガス装置1は、図1又は2に示すように、周囲に側壁を設けた略立方体状の槽であり、一側壁1aに入湯口2を設け、この側壁1aに対向する側壁1bに開口部3を設けてあり、槽内に、攪拌体5を配して脱ガス室4としてある。
【0016】
脱ガス室4は、入湯口2から入湯されたアルミニウム合金などの金属溶湯を、貯留し、室内に配してある攪拌体5で回転攪拌させ、不活性ガスを送り込んで脱ガスし、側壁1bの下方に設けた開口部3から流し出す箇所である。
本実施形態では、脱ガス室4を、略立方体状に形成してあり、このようにすれば、金属溶湯の滞留時間が均等なものとなり、不活性ガスを均質に分散させることができる。もちろん、脱ガス室4の形状はこれに限定するものではなく、例えば、脱ガス室4を、上面視略矩形状や上面略視円形状に形成することもできる。
【0017】
入湯口2は、側壁1aの上方の一端部側(図2では下側)から外方に突出するように形成してあり、この上面2aには溝2bを形成し、金属溶湯を脱ガス室4内に入湯できるようにしてある。
【0018】
攪拌体5は、円盤形状としてあり、この略中心に、上方に伸びた軸部5aを設け、これを回転軸として回転し、金属溶湯を攪拌するようにしてある。軸部5aは、円筒状に形成してあり、この内部をガス通路5bとし、不活性ガスが通り、軸部5aの先端から不活性ガスを金属溶湯中に放出させるようにしてある。
攪拌体5は、脱ガス室4の略中央に配するのが好ましい。
【0019】
開口部3は、脱ガス室4から金属溶湯を流し出せるようにした略矩形状の孔であり、側壁1bの下方の他端部側(図2では上側)、つまり入湯口2とは反対の端部側に設け、入湯口2と対角線上に位置するように設けてある。このように、開口部3を、入湯口2と対角線上に設けることにより、金属溶湯の攪拌時間が長くなり、脱ガスを十分に行なうことができる。
本実施形態のように脱ガス室を略矩形状にした場合は、開口部を、一側壁とそれに連結する他の側壁との連結部付近に設けるのが好ましく、さらに、側壁内側の幅を三等分したうちの一端部側に位置させるのが好ましい。
また、開口部を、脱ガス室の内接円(図2の二点破線)よりも外側に形成するのが好ましい。
【0020】
側壁1bには、開口部3の側方から脱ガス室4側に突出させた上面視略三角形状の囲い板6を形成してある。囲い板6は、金属溶湯が回流せずに流れ出ることを防止するため、回流する金属溶湯の上流側を閉塞し、下流側を開放するように配してある。つまり、図2に示すように、攪拌体5が、矢印Aの方向に回転している場合は、攪拌体5の軸部5aと側壁1bとの間の金属溶湯の流れは、図2の下側から上側への流れ(図2のX方向)になるため、囲い板6は、図2の右側が開放するように配する。
【0021】
開口部3の上限は、脱ガス室4の底面4aから攪拌体5の下面までの間に位置していることが好ましい。開口部3の下限は、脱ガス室4の底面4aと略同じ高さや脱ガス室4の底面4aから5〜10mm程度の高さなどとすることが好ましい。底面4aと略同じ高さにすると、脱ガス室4の金属溶湯の掃除がしやすくなり、底面4aから5〜10mm程度の高さにすると、沈んだ介在物が金属溶湯中に混入しにくくなる。
また、囲い板6の高さ方向の幅は、開口部3の高さ方向の幅よりも広く形成するのが好ましく、例えば、開口部3の高さ方向の幅よりも10〜20mm幅広とするのが好ましい。
【0022】
囲い板6の金属溶湯の流れを受ける面は、傾斜面6aとしてあり、好ましくは、側壁1bに対して20°〜70°(金属溶湯の流れの方向(図2のX方向)に対しては110°〜160°)の角度にし、より好ましくは、側壁1bに対して25°〜65°(金属溶湯の流れの方向(図2のX方向)に対しては115°〜155°)の角度にし、特に好ましくは、側壁1bに対して30°〜60°(金属溶湯の流れの方向(図2のX方向)に対しては120°〜150°)の角度にする。
さらに、囲い板6を、脱ガス室4の内接円(図2の二点破線)よりも外方に位置させることが好ましい。
本実施形態では、囲い板6は、傾斜面6aを金属溶湯の流れの方向(図2のX方向)に対して、45°とし、傾斜面6aの裏側面6bと開口部3の側面3aとが略同一平面となるように形成してある。
裏側面6bの幅は、側壁1bの幅に対して10〜50%にするのが好ましい。これより短すぎると囲い板6の効果が少なくなり、長すぎても効果の向上はなく、メンテナンスがしにくくなる。また、裏側面6bの幅は、開口部3の幅に対しては50〜100%とするのが好ましい。
【0023】
上記形態では、囲い板6を、上面視略三角形状としてあるが、図3に示すように、矩形状板の囲い板61とし、側壁1bに対して斜めに配して傾斜面61aを形成することもできる。
【0024】
また、本発明でいう傾斜面は、湾曲面又は屈曲面も含むものであり、図4に示すように、湾曲状に凹ました湾曲面62aを有する囲い板62や、図5に示すように、内側に屈曲、つまり上面視くの字状に形成した屈曲面63aを有する囲い板63としても、同様の効果を得ることができる。
なお、湾曲面62aとする場合は、湾曲面62aの始点(図4のS点)と終点(図4のF点)とを結ぶ線は、好ましくは、側壁1bに対して20°〜70°(金属溶湯の流れの方向(図4のX方向)に対しては110°〜160°)の角度にし、より好ましくは、側壁1bに対して25°〜65°(金属溶湯の流れの方向(図4のX方向)に対しては115°〜155°)の角度にし、特に好ましくは、側壁1bに対して30°〜60°(金属溶湯の流れの方向(図4のX方向)に対しては120°〜150°)の角度にする。
屈曲面63aとする場合も上記と同様に、屈曲面63aの始点(図5のS点)と終点(図5のF点)とを結ぶ線は、好ましくは、側壁1bに対して20°〜70°(金属溶湯の流れの方向(図5のX方向)に対しては110°〜160°)の角度にし、より好ましくは、側壁1bに対して25°〜65°(金属溶湯の流れの方向(図5のX方向)に対しては115°〜155°)の角度にし、特に好ましくは、側壁1bに対して30°〜60°(金属溶湯の流れの方向(図5のX方向)に対しては120°〜150°)の角度にする。
【0025】
強度的な観点からは、囲い板は、図1又は2に示したように、上面視略三角形状にすることが好ましい。側壁の下方に開口部を設けた場合、上面視略三角形状の方が、脱ガス室底面との接する面積を広く取ることができるからである。
乱流防止、製造コスト、脱ガス室の清掃の観点からは、囲い板の傾斜面は、平面或いは湾曲面とするのが好ましい。
【0026】
なお、図2〜5に示す、符号7は、そうじ口であり、凹部7aに浮遊した介在物などを集め、除去することができる。
【0027】
上記装置1は、入湯口2から金属溶湯を脱ガス室4に流し込み、貯留し、攪拌体5により金属溶湯を回転攪拌させ、不活性ガスを微細ガスにして送り込み脱ガスする。この際、開口部3の周囲には囲い板6を設けてあるため、金属溶湯が不活性ガスで処理されずに流れ出ることがなく、金属溶湯の脱ガスを十分に行なうことができる。また、傾斜面6aを形成したため、金属溶湯の乱流を防ぐことができるため、金属溶湯に介在物が混入しにくくなる。
本発明の脱ガス装置は、単独で用いることもできるが、複数並べて用いることもできる。例えば、2つの脱ガス装置を並べて上流側を第一脱ガス装置とし、下流側を第二脱ガス装置とし、第一脱ガス装置の下方端部に第一入湯口を設け、それと対角線上の上方端部に第一開口部を設け、第二脱ガス装置の上方端部に第二入湯口を設け、それと対角線上の下方端部に第二開口部を設けた構成とすることができる。この場合、第一開口部及び第二開口部の両方に囲い板を設けてもよく、第一開口部、第二開口部のどちらかに囲い板を設けてもよい。どちらかに設ける場合は、第二開口部に設けるのが好ましい。
【0028】
なお、図1〜5に示した装置は、本発明の特徴を理解しやすくするため、蓋材を省略して記載してあり、本来では、上方を蓋材で覆い使用するものである。
【0029】
上記実施形態の構成態様は、本発明を限定するものとして挙げたものではなく、技術目的を共通にするかぎり変更は可能であり、本発明はそのような変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の脱ガス装置の一実施形態を示した斜視図である。
【図2】図1に示した脱ガス装置の上面図である。
【図3】図1に示した脱ガス装置の一変形例を示した上面図である。
【図4】図1に示した脱ガス装置の他の変形例を示した上面図である。
【図5】図1に示した脱ガス装置の他の変形例を示した上面図である。
【符号の説明】
【0031】
1脱ガス装置
1a側壁
1b側壁
2入湯口
2a上面
2b溝
3開口部
4脱ガス室
4a底面
5攪拌体
5a回転軸
5bガス通路
6,61,62,63囲い板
6a,61a,62a,63a傾斜面
6b裏側面
7そうじ口
7a凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯を攪拌体により回転攪拌して脱ガスをする脱ガス室を備えた脱ガス装置において、脱ガス室から金属溶湯を流し出す開口部を側壁に設け、該開口部を囲う囲い板を、回流する金属溶湯の下流側を開放させて配し、該囲い板の金属溶湯の流れを受ける面を前記側壁に対して傾斜面とした脱ガス装置。
【請求項2】
囲い板の高さ方向の幅を、前記開口部の高さ方向の幅よりも広くした請求項1に記載の脱ガス装置。
【請求項3】
前記脱ガス室を、上面視略矩形状に形成した請求項1又は2に記載の脱ガス装置。
【請求項4】
前記開口部を、前記側壁の端部側に設けた請求項3に記載の脱ガス装置。
【請求項5】
前記開口部と入湯口とを、上面視において、最遠方に配した請求項1〜4のいずれかに記載の脱ガス装置。
【請求項6】
前記傾斜面の角度を、前記側壁に対して30°〜60°とした請求項1〜5のいずれかに記載の脱ガス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−39744(P2009−39744A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206473(P2007−206473)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【特許番号】特許第4183732号(P4183732)
【特許公報発行日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】