説明

脱リン材の製造方法

【課題】頻繁なメンテナンスが不要で、長期間にわたって優れた脱リン効果を安定的に発現し、且つ、強度に富んだ脱リン材の製造方法を提供する
【解決手段】体積平均粒径が5μm〜0.3mmの軽量気泡コンクリートの粉体と、普通セメント等の石灰質原料と、水とを混和して造粒し、オートクレーブ養生して脱リン材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄化槽、下水処理等のリン酸イオン含有排水中からリン酸イオンを除去する脱リン材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水質の富栄養化をもたらす原因物質として、浄化槽、下水処理の排水中からリンを除去することが強く要請されている。排水からのリン除去法としては、生物学的除去法、凝集沈殿法、吸着脱リン法、晶析脱リン法などがある。
【0003】
しかしながら、生物学的除去法は、リンを過剰に含んだ汚泥を頻繁に抜き出す必要があり、また、凝集沈殿法は、汚泥の発生量が多いため、頻繁に汚泥を抜き出す必要があり、いずれの方法も数ヶ月にわたって汚泥の引き抜きを行わない浄化槽には適用しがたい。また、吸着脱リン法は、吸着剤の交換操作や再生操作を頻繁に行わなければならないため、頻繁なメンテナンスができない浄化槽には適用しがたい。
【0004】
一方、特許文献1に開示されている晶析脱リン法は、リン酸イオンを含む排水中に種晶を存在させてヒドロキシアパタイトの結晶を成長させてリン酸イオンを排水中から除去する方法であるため、汚泥がほとんど発生しない。しかしながら、ヒドロキシアパタイトを成長させるためには、排水のpHやカルシウムイオン濃度を所定の範囲に調整する必要があり、頻繁なメンテナンスができない浄化槽には適用できない。
【0005】
また、特許文献2,3には、ケイ酸カルシウム水和物を含有する軽量気泡コンクリート(ALC)端材を脱リン材として用いる方法が開示されているが、該端材は水に浮きやすく、排水との接触効率が悪いという問題があった。
【0006】
さらにまた、特許文献4には、ケイ酸カルシウム化合物をセメントで養生して硬化させた複合体が脱リン材として開示されているが、養生が不十分な場合には強度が劣り、もろくなるため、養生に長時間を要し、製造効率が悪いという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開平10−235344号公報
【特許文献2】特開昭62−183898号公報
【特許文献3】特開平7−6028号公報
【特許文献4】特開2001−205276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記問題点に鑑み、カルシウムイオンの添加やpH調整、汚泥の引き抜きといった頻繁なメンテナンスが不要で、長期間にわたって優れた脱リン効果を安定的に発現し、且つ、強度に富んだ脱リン材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の脱リン材の製造方法は、体積平均粒径が5μm〜0.3mmのケイ酸カルシウム水和物含有粉体と、石灰質原料と、水との混和物を造粒し、オートクレーブ養生することにより硬化させることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、上記混和物におけるケイ酸カルシウム水和物含有粉体と石灰質原料の重量比がケイ酸カルシウム水和物含有粉体/石灰質原料=40/60〜70/30であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カルシウムイオンの添加やpH調整等を行わなくても長期間にわたって安定してリン酸イオン含有排水よりリン酸イオンを除去する脱リン効果を発現する脱リン材が得られ、浄化槽からの排水を始めとして、各種、家庭排水や工業排水の脱リン処理に好適に用いられる。また、本発明によれば、オートクレーブ養生によって強度に富んだ脱リン材を短時間で製造できるため、生産効率が高い。さらに、本発明による脱リン材は自重で排水中に浸没し、浮遊しないため、脱リン材を排水中に浸没させるための部材等を必要とせず、簡易に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明について以下に具体的に説明する。
【0013】
本発明においては、特定の粒径のケイ酸カルシウム水和物含有粉体を石灰質原料及び水と混和して水硬性の組成物を調製し、これを造粒して、オートクレーブ養生することにより、脱リン材として適度な空隙を有する造粒体が得られる。
【0014】
本発明において用いられるケイ酸カルシウム水和物含有粉体とは、好ましくはケイ酸カルシウム水和物を60〜90重量%含有する粉体であり、具体的には、軽量気泡コンクリート(ALC)の粉砕物や、ALC製造工場、ALCを用いた建設現場、ALCを用いて構築された建築物の解体現場などで発生するALCの残材、端材、粉末等のALC廃材から補強材などの不要な部材を取り除いて粉砕したものを好ましく用いることができる。ALCは、ケイ石のようなケイ酸質材料と、セメントや生石灰のような石灰質原料とを混合したスラリー状組成物に発泡剤、気泡剤等の気泡生成剤を添加混合した後、発泡、硬化させ、オートクレーブ養生して得られる。このようにして製造されるALCには、未反応のケイ石成分が残っており、そのため、石灰質原料を加えてオートクレーブ養生することにより、未反応のケイ石成分から新たにトバモライト結晶が生成し、得られる脱リン材の強度が向上する。
【0015】
本発明において用いられるケイ酸カルシウム水和物含有粉体は、体積平均粒径が5μm〜0.3mmである。体積平均粒径が0.3mmよりも大きい場合には、脱リン材の強度が低下する上に水に浮遊しやすくなり、浄化槽に充填する際に所定量の脱リン材を充填しにくくなるため好ましくない。特に、ケイ酸カルシウム水和物含有粉体の原料としてALCを用いた場合には、ALCの粉体中に粗大な細孔が残存するため、より水に浮遊しやすくなる。また、5μm未満である場合には、脱リン材内部の空隙が小さくなり、排水が該空隙に浸透しにくくなる上、粉砕に要するエネルギー及び時間が大であり、生産性が低下するため好ましくない。
【0016】
本発明において用いられる石灰質原料としては、普通ポルトランドセメント、高炉セメント、早強セメント、中庸熱セメント、ジェットセメント、アルミナセメントや、或いは、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントなどの混合セメントが使用できる。これらは単独で用いても、混合して用いても良い。
【0017】
本発明においては、上記ケイ酸カルシウム水和物含有粉体と石灰質原料にさらに水を加えて混和する。混和物におけるケイ酸カルシウム水和物含有粉体と石灰質原料の重量比はケイ酸カルシウム水和物含有粉体/石灰質原料=30/70〜80/20が好ましいが、さらに好ましくは40/60〜70/30である。ケイ酸カルシウム水和物含有粉体と石灰質原料との総量中、ケイ酸カルシウム水和物含有粉体が30重量%未満の場合には、脱リン材の脱リン効果が低下する場合があり、また、80重量%を超えると脱リン材の強度が低下するため好ましくない。
【0018】
また、上記混和物における水の量は、特に限定されないが、石灰質原料100重量部に対して水を30〜100重量部、固形物(ケイ酸カルシウム水和物含有粉体+石灰質原料)100重量部に対して20〜90重量部が好ましい。水の量がそれぞれの下限値未満の場合には、石灰質原料の水和反応及び効果反応が十分に進行しないことがあり、逆に水の量がそれぞれの上限値を超えると、混和物がスラリー状になり、造粒が困難になって良好な造粒体が得られなくなることがあり、いずれの場合も好ましくない。
【0019】
ケイ酸カルシウム水和物含有粉体と石灰質原料と水との混和には、一般的な混練機が用いられ、例えば、モルタルミキサー、オムニミキサー、アイリッヒミキサー、二軸強制撹拌ミキサーなどを用いることができる。
【0020】
水硬性の混和物は所定の粒度に造粒する。本発明において好ましい造粒体は平均粒径が0.3〜10mmである。
【0021】
次いで、得られた造粒体をオートクレーブ養生することにより目的とする脱リン材が得られる。オートクレーブ養生の条件としては、高温高圧水の温度が150〜270℃、好ましくは170〜240℃であり、高温高圧水の圧力が0.3〜3.3MPa、好ましくは0.8〜2.5MPaである。また、養生時間は1〜10時間が好ましい。高温高圧水の温度が150℃未満であると養生時間が長くなり、また、270℃を超える温度にするには特殊な装置が必要になり経済的でない。
【0022】
前記したように、本発明においては、上記オートクレーブ養生の際に、ケイ酸カルシウム水和物含有粉体に含まれる未反応のケイ石成分より新たにトバモライト結晶が生成することから、得られる脱リン材の強度が向上する。
【実施例】
【0023】
本発明をさらに詳しく説明するため以下に実施例を挙げるが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
ケイ酸カルシウム水和物含有粉体として、ケイ酸カルシウム水和物を76重量%含有するALC端材をジョークラッシャーで粗粉砕し、さらにハンマーミルで微粉砕することにより体積平均粒径が32μmの粉体を得た。尚、体積平均粒径はマイクロトラック社製レーザー式粒度分布計で測定した。
【0025】
上記ケイ酸カルシウム水和物含有粉体75重量部、普通ポルトランドセメント25重量部、及び水50重量部をオムニミキサーで混練した後、平均粒径が2.8mmになるように造粒した。
【0026】
次いで、得られた造粒体を室温で2時間、予備養生した後、180℃、1MPaで4時間オートクレーブ養生を行い、脱リン材を得た。
【0027】
得られた脱リン材を24時間、リン酸イオン濃度0.5mg−PO4/lである排水中に浸漬した後、リン酸イオン吸着量をJIS K 0102に準拠して測定した。その結果、本例の脱リン材のリン酸イオン吸着量は、脱リン材1g当たりリン酸イオン換算で100mg−PO4/gであった。
【0028】
(比較例1)
脱リン材として実施例1でケイ酸カルシウム水和物含有粉体の材料として用いたALC端材(平均粒径2.9mm)を用いた以外は実施例1と同様にして24時間、リン酸イオン含有排水に浸漬した後、リン酸イオン吸着量を測定したところ、69mg−PO4/gであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積平均粒径が5μm〜0.3mmのケイ酸カルシウム水和物含有粉体と、石灰質原料と、水との混和物を造粒し、オートクレーブ養生することにより硬化させることを特徴とする脱リン材の製造方法。
【請求項2】
混和物におけるケイ酸カルシウム水和物含有粉体と石灰質原料の重量比がケイ酸カルシウム水和物含有粉体/石灰質原料=40/60〜70/30である請求項1に記載の脱リン材の製造方法。

【公開番号】特開2008−100159(P2008−100159A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284461(P2006−284461)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】