説明

脱気装置及び画像形成装置

【課題】気体室内を負圧にして液体に溶存する気体を脱気する脱気手段が駆動停止した際に、気体室内を大気開放する開放動作をすることなく、当該脱気手段が起動可能な圧力に気体室内の圧力を上昇させることを課題とする。
【解決手段】液体流路内の液体に溶存する気体が透過可能な透過部材によって、当該液体流路と仕切られた気体室と、前記気体室内の気体を排出路を通じて排出して前記気体室内を負圧とすることで、前記液体に溶存する気体を当該液体から脱気する脱気手段と、前記排出路を大気に常時開放し、前記脱気手段の排出動作時において前記液体から脱気可能な圧力に前記気体室を維持するように前記排出路に流入する前記大気に対して流入抵抗を付与する抵抗付与手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱気装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、以下の構成が開示されている。すなわち、0.01〜0.1μm程度の微細な孔を持つ気体透過膜16を、外径0.1〜0.5mm程度のチューブ状にし、それを複数本束ねて端部を結束し、その結束された端部に自己封止弁17を取付けて脱気ユニット15を構成する。この脱気ユニット15を、例えばインクジェットヘッド34の共通インク部14内に配設し、外部から自己封止弁17に脱気キャップ10を接続し、脱気キャップ10の内部をチューブポンプ4で吸引すると、チューブ状気体透過膜16の内部が負圧となり、インク中に溶解する気体がチューブ状気体透過膜16の内部に吸引されて排出される。インク中の気体溶解量が減少するとキャビティ13内の気泡も小さくなって、最終的には消滅する。
また、従来からある真空ポンプとして、一旦駆動を停止したあと再度駆動する場合、ある程度まで吸気側の圧力を上昇させる必要があるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−224312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、気体室内を負圧にして液体に溶存する気体を脱気する脱気手段が駆動停止した際に、気体室内を大気開放する開放動作をすることなく、当該脱気手段が起動可能な圧力に気体室内の圧力を上昇させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、液体流路内の液体に溶存する気体が透過可能な透過部材によって、当該液体流路と仕切られた気体室と、前記気体室内の気体を排出路を通じて排出して前記気体室内を負圧とすることで、前記液体に溶存する気体を当該液体から脱気する脱気手段と、前記排出路を大気に常時開放しつつ、前記脱気手段による排出動作時において前記液体から脱気可能な圧力に前記気体室を維持するように前記排出路に流入する前記大気に対して流入抵抗を付与する抵抗付与手段と、を備える脱気装置である。
【0006】
請求項2の発明は、前記抵抗付与手段は、前記脱気手段による排出動作時において、前記液体が沸騰しない圧力に前記気体室を維持するような前記流入抵抗を付与する請求項1に記載の脱気装置である。
【0007】
請求項3の発明は、前記抵抗付与手段は、前記排出路の径より開口径が小さく、前記排出路を大気に常時開放する開口と、前記開口を外側から覆い、前記開口の開口径よりも大きく、前記流入抵抗を付与する抵抗体と、を備える請求項1又は2に記載の脱気装置である。
【0008】
請求項4の発明は、前記抵抗付与手段は、前記排出路を大気に常時開放する開口を覆う多孔質膜である請求項1又は2に記載の脱気装置である。
【0009】
請求項5の発明は、液体流路内の液体によって画像を形成する画像形成部と、前記脱気手段による排出動作停止時において、前記抵抗付与手段が、前記画像形成部の電源投入から画像形成動作が開始可能とされるまでの時間内に、脱気可能な圧力から前記脱気手段が起動可能な圧力へ前記気体室を上昇させるような前記流入抵抗を付与する請求項1〜4のいずれか1項に記載の脱気装置と、を備える画像形成装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1の構成によれば、気体室内を負圧にして液体に溶存する気体を脱気する脱気手段が駆動停止した際に、気体室内を大気開放する開放動作をすることなく、当該脱気手段が起動可能な圧力に気体室内の圧力を上昇させることができる。
【0011】
本発明の請求項2の構成によれば、液体が沸騰する圧力に気体室を維持する場合に比べ、液体の成分変動が抑制される。
【0012】
本発明の請求項3の構成によれば、抵抗体の表面にゴミ等が付着しても、抵抗体の面積が開口の開口径と同じである場合に比べ、大気に付与される流入抵抗が変化しにくい。
【0013】
本発明の請求項4の構成によれば、多孔質材が膜状ではない場合に比べ、膜面積を変えることによる流入抵抗の設定が、微細に設定できる。
【0014】
本発明の請求項5の構成によれば、画像形成装置の電源が不意に落とされた場合でも、画像形成部による画像形成動作が開始可能とされるまでに、脱気手段の再起動が可能な状態となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】インクジェット記録装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】インク供給機構の構成を示す概略図である。
【図3】脱気装置の構成を示す概略図である。
【図4】大気開放機構の構成を示す概略図である。
【図5】大気開放機構における流入抵抗を付与する構成を示す概略図である。
【図6】気体室内の圧力と、インク中の溶存酸素量との関係を示すグラフである。
【図7】多孔質膜の膜面積と、気体室内の圧力との関係を示すグラフである。
【図8】各色のインク供給機構において、大気解放機構及びポンプ等が共通化された構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を図面に基づき説明する。
【0017】
本実施形態では、画像形成装置の一例として、インク滴を吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置について説明する。
【0018】
なお、画像形成装置としては、インクジェット記録装置に限定されるものではない。画像形成装置としては、例えば、フィルムやガラス上にインク等を吐出してカラーフィルタを製造するカラーフィルタ製造装置、有機EL溶液を基板上に吐出してELディスプレイパネルを形成する装置、溶解状態の半田を基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成する装置、金属を含む液体を吐出して配線パターンを形成する装置及び液滴を吐出して膜を形成する各種の成膜装置であってもよく、液体によって画像を形成する画像形成装置であればよい。
【0019】
(インクジェット記録装置の構成)
まず、インクジェット記録装置の構成を説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の構成を示す概略図である。
【0020】
図1に示すように、インクジェット記録装置10は、用紙等の記録媒体Pが収容される記録媒体収容部12と、記録媒体Pに画像を記録する画像記録部(画像形成部の一例)14と、記録媒体収容部12から画像記録部14へ記録媒体Pを搬送する搬送手段16と、画像記録部14によって画像が記録された記録媒体Pが排出される記録媒体排出部18と、を備えている。
【0021】
画像記録部14は、液体を吐出する吐出部の一例として、インク滴を吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録ヘッド20Y、20M、20C、20K(以下、20Y〜20Kと示す)を備えている。
【0022】
また、インクジェット記録ヘッド20Y〜20Kは、ノズル(図示省略)が形成されたノズル面22Y〜22Kをそれぞれ有している。このノズル面22Y〜22Kは、インクジェット記録装置10での画像記録が想定される記録媒体Pの最大幅と同程度か、又はそれ以上の記録可能領域を有している。なお、記録媒体Pの幅は、記録媒体Pの搬送方向Hと直交する方向(図1における紙面の奥行き方向)の長さである。
【0023】
さらに、インクジェット記録ヘッド20Y〜20Kは、記録媒体Pの搬送方向Hの下流側から、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の色の順で並列に並べられており、その各色に対応したインク滴を、圧電方式によって、複数のノズルから吐出し、画像を記録する構成となっている。なお、インクジェット記録ヘッド20Y〜20Kにおいて、インク滴を吐出させる構成は、サーマル方式等の他の方式によって吐出させる構成であっても良い。
【0024】
インクジェット記録装置10には、液体を貯留する貯留部として、各色のインクを貯留するインクタンク21Y、21M、21C、21K(以下、21Y〜21Kと示す)が設けられている。このインクタンク21Y〜21Kから、各インクジェット記録ヘッド20Y〜20Kへインクが供給される。なお、インクジェット記録ヘッド20Y〜20Kへ供給されるインクとしては、水性インク、油性インク、溶剤系インク等、各種インクの使用が可能である。
【0025】
搬送手段16は、記録媒体収容部12内の記録媒体Pを1枚ずつ取り出す取出ドラム24と、画像記録部14のインクジェット記録ヘッド20Y〜20Kへ記録媒体Pを搬送しその記録面(表面)をインクジェット記録ヘッド20Y〜20Kに対面させる搬送体としての搬送ドラム26と、画像が記録された記録媒体Pを記録媒体排出部18へ送り出す送出ドラム28と、を有している。そして、取出ドラム24、搬送ドラム26、送出ドラム28は、それぞれ記録媒体Pがその周面に静電的吸着手段、或いは吸引や粘着などの非静電的吸着手段によって保持されるように構成されている。
【0026】
また、取出ドラム24、搬送ドラム26、送出ドラム28には、それぞれ記録媒体Pの搬送方向下流側端部を挟んで保持する保持手段としてのグリッパー30が、例えば2組ずつ備えられており、これら3個のドラム24、26、28は、それぞれその周面に記録媒体Pを、グリッパー30によってこの場合は2枚まで保持可能に構成されている。そして、グリッパー30は、各ドラム24、26、28の周面に2つずつ形成された凹部24A、26A、28A内に設けられている。
【0027】
具体的には、各ドラム24、26、28の凹部24A、26A、28A内の予め定められた位置に、各ドラム24、26、28の回転軸32に沿って回転軸34が支持されており、この回転軸34には、その軸方向に間隔をおいて複数のグリッパー30が固定されている。したがって、回転軸34が、図示しないアクチュエーターによって正逆両方向に回転することにより、グリッパー30が各ドラム24、26、28の周方向に沿って正逆両方向に回転し、記録媒体Pの搬送方向下流側端部を挟んで保持したり、離したりするようになっている。
【0028】
つまり、グリッパー30は、その先端部が各ドラム24、26、28の周面から若干突出するように回転することで、取出ドラム24の周面と搬送ドラム26の周面とが対面する受渡位置36において、取出ドラム24のグリッパー30から搬送ドラム26のグリッパー30へ記録媒体Pを受け渡すようになっており、搬送ドラム26の周面と送出ドラム28の周面とが対面する受渡位置38において、搬送ドラム26のグリッパー30から送出ドラム28のグリッパー30へ記録媒体Pを受け渡すようになっている。
【0029】
また、インクジェット記録装置10は、インクジェット記録ヘッド20Y〜20Kをメンテナンスするメンテナンスユニット(図示省略)を備えている。メンテナンスユニットは、インクジェット記録ヘッド20Y〜20Kのノズル面を覆うキャップ、予備吐出(空吐出)された液滴を受ける受け部材、ノズル面を清掃する清掃部材、ノズル内のインクを吸引するための吸引装置等を有しており、メンテナンスユニットがインクジェット記録ヘッド20Y〜20Kに対向する対向位置に移動し、各種のメンテナンスを行う。
【0030】
次に、インクジェット記録装置10の画像記録動作(画像形成動作の一例)について説明する。
【0031】
記録媒体収容部12から取出ドラム24のグリッパー30により1枚ずつ取り出されて保持された記録媒体Pは、取出ドラム24の周面に吸着されつつ搬送され、受渡位置36において、取出ドラム24のグリッパー30から搬送ドラム26のグリッパー30へ受け渡される。
【0032】
搬送ドラム26のグリッパー30により保持された記録媒体Pは、その搬送ドラム26に吸着されつつインクジェット記録ヘッド20Y〜20Kの画像記録位置まで搬送され、そのインクジェット記録ヘッド20Y〜20Kから吐出されるインク滴により、記録面に画像が記録される。
【0033】
記録面に画像が記録された記録媒体Pは、受渡位置38において、搬送ドラム26のグリッパー30から送出ドラム28のグリッパー30へ受け渡される。そして、送出ドラム28のグリッパー30により保持された記録媒体Pは、その送出ドラム28に吸着されつつ搬送され、記録媒体排出部18へ排出される。以上のように、一連の画像記録動作が行われる。
【0034】
(インク供給機構の構成)
次に、画像記録部14のインクジェット記録ヘッド20Y〜20Kへインクを供給するインク供給機構42Y〜42Kの構成について説明する。なお、インクジェット記録ヘッド20Y〜20Kの各々に対応するインク供給機構42Y〜42Kは、互いに同一の構成であるので、以下ではインクジェット記録ヘッド20Yに対応するインク供給機構42Yを例に挙げて説明する。図2は、インクジェット記録ヘッド20Yへインクを供給するインク供給機構42Yを示す概略図である。
【0035】
図2に示すように、インクジェット記録ヘッド20Yは、インクを吐出する吐出部としての吐出モジュール40を複数備えている。吐出モジュール40の各々には、吐出モジュール40の外部から内部へインクを供給可能な供給口40Aと、供給口40Aを通じて供給されたインクを吐出モジュール40の内部から外部へ排出可能な排出口40Bと、が設けられている。
【0036】
一方、インク供給機構42Yは、イエロー(Y)のインクを貯留する前述のインクタンク21Yを備えている。インクタンク21Yには、管内をインクが流通可能とされた供給側の共通管(以下、供給側共通管という)46の一端が接続されている。
【0037】
供給側共通管46のインクタンク21Yに対する他端側(図2の左側)には、それぞれの管内をインクが流通可能とされた複数の供給側の個別管(以下、供給側個別管という)50の一端が、供給側共通管46の異なる位置に各々接続されている。供給側個別管50の他端は、それぞれ対応する複数の吐出モジュール40の供給口40Aに各々接続されている。
【0038】
これにより、インクタンク21Yから供給側個別管50へインクが流通可能な供給側の共通流路(以下、供給側共通流路という)47が、供給側共通管46の管内に形成される。また、供給側共通流路47から吐出モジュール40の供給口40Aへインクが流通可能な供給側の個別流路(以下、供給側個別流路という)51が、供給側個別管50の管内に形成される。
【0039】
また、供給側個別流路51(供給側個別管50)には、供給側個別流路51を開閉可能な第1開閉機構としての供給側のバルブ(以下、供給側バルブという)52が各々設けられている。供給側個別管50には、供給側個別流路51内の圧力変動を緩和する緩衝器44が設けられている。
【0040】
また、供給側共通流路47(供給側共通管46)には、供給側共通流路47内に圧力を付与する第1圧力付与手段としての供給側のポンプ(以下、供給側ポンプという)48が設けられている。供給側ポンプ48は、インク流通方向の最上流側で供給側共通流路47に接続された供給側個別流路51の接続部51Aから見てインク流通方向の上流側に配置されている。
【0041】
供給側ポンプ48は正転及び逆転が可能とされており、供給側バルブ52の開放状態において供給側ポンプ48が正転された場合は、供給側共通流路47に圧力(正圧)が与えられ、インクタンク21Yに貯留されているインクが、供給側共通流路47及び供給側個別流路51を流通し、各吐出モジュール40の供給口40Aを介して、各吐出モジュール40に供給されるようになっている。
【0042】
また、供給側共通流路47には、インクに溶存する気体(具体的には、空気)を脱気(除去)する脱気装置60が、インクタンク21Yと供給側ポンプ48との間の位置に設けられている。この脱気装置60の具体的な構成については、後述する。
【0043】
また、インクタンク21Yには、それぞれの管内をインクが流通可能とされた複数の排出側の共通管(以下、排出側共通管という)54の一端が接続されている。排出側共通管54のインクタンク21Yに対する他端側(図2の左側)には、管内をインクが流通可能とされた排出側の個別管(以下、排出側個別管という)55の一端が、排出側共通管54の異なる位置に各々接続されている。排出側個別管55の他端は、それぞれ対応する吐出モジュール40の排出口40Bに各々接続されている。
【0044】
これにより、吐出モジュール40の排出口40Bから排出側共通管54へインクが流通可能な排出側の個別流路(以下、排出側個別流路という)57が、排出側個別管55の管内に形成される。また、排出側個別流路57からインクタンク21Yへインクが流通可能な排出側の共通流路(以下、排出側共通流路という)53が、排出側共通管54の管内に形成される。
【0045】
また、排出側個別流路57(排出側個別管55)には、排出側個別流路57を開閉可能な第2開閉機構としての排出側のバルブ(以下、排出側バルブという)56が各々設けられている。また、排出側個別管55には、排出側個別流路57内の圧力変動を緩和する緩衝器45が設けられている。
【0046】
また、排出側共通流路53(排出側共通管54)には、排出側共通流路53内に圧力を付与する第2圧力付与手段としての排出側のポンプ(以下、排出側ポンプという)62が設けられている。具体的には、排出側ポンプ62は、インク流通方向の最下流側で排出側共通流路53に接続された排出側個別流路57の接続部57Aから見てインク流通方向の下流側に配置されている。
【0047】
排出側ポンプ62も、供給側ポンプ48と同様に、正転及び逆転が可能とされており、排出側ポンプ62が正転された場合は、排出側共通流路53に圧力(正圧)が与えられる。
【0048】
また、排出側バルブ56の開放状態において排出側ポンプ62が逆転された場合、排出側共通流路53に圧力(負圧)が与えられ、インクが吐出モジュール40から、排出側個別流路57及び排出側共通流路53を通じてインクタンク21Yへ回収されるようになっている。
【0049】
上述したように、本実施形態に係るインク供給機構42Yでは、インクタンク21Y、供給側共通流路47、個々の供給側個別流路51、インクジェット記録ヘッド20Yの個々の吐出モジュール40、個々の排出側個別流路57、排出側共通流路53により、インクを循環させるための循環経路が形成される。
【0050】
(脱気装置60の構成)
次に、脱気装置60の構成を説明する。
【0051】
脱気装置60は、図3に示すように、供給側共通流路47の一部を構成するインク容器62を備えている。インク容器62内部に形成されたインク室62Aは、インクで満たされている。
【0052】
インク室62Aには、インク室62A内のインクに溶存する気体が透過可能な透過部材の一例としての中空糸膜64が複数設けられている。各中空糸膜64は、両端が開放された円筒状(管状)に形成されている。中空糸膜64の内部には、中空糸膜64によってインク室62Aと仕切られた気体室64Aが形成されている。中空糸膜64は、気体(空気)を通過してインク(液体)を通過させない気液分離膜であり、気体室64Aには、インク室62A内のインクは流入せず、気体のみが流入するようになっている。
【0053】
なお、透過部材としては、筒状の中空糸膜64に限られず、平面状の膜体であってもよく、インク流路と気体室64Aとが仕切られていればよい。
【0054】
複数の中空糸膜64の軸方向一端部(図3における上端部)には、複数の中空糸膜64の開放端を閉鎖する閉鎖部材66が設けられている。複数の中空糸膜64の軸方向他端部(図3における下端部)には、中空糸膜64内の気体が排出される排出管70の一端部と中空糸膜64とを連結する連結部材68が設けられている。
【0055】
排出管70内には、気体が流通可能な内部空間(通路)70Aが形成されている。この内部空間70Aは、連結部材68によって、中空糸膜64の気体室64Aと通じており、中空糸膜64の気体室64Aと内部空間70Aとの間で気体が流通可能とされている。
【0056】
排出管70の他端部には、3つの接続口を有する継ぎ手72の第1接続口72Aが接続されている。継ぎ手72の第2接続口72Bには、中空糸膜64からの気体が排出される排出管74の一端部が接続されている。
【0057】
排出管74の他端部には、気体室64A内を負圧とする(減圧する)ことで、インクに溶存する気体をインクから脱気する脱気手段の一例としてのポンプ76が設けられている。
【0058】
本実施形態では、排出管70、継ぎ手72及び排出管74によって中空糸膜64の気体が排出される排出路78が形成されている。すなわち、排出管70、継ぎ手72及び排出管74を通る中空糸膜64からポンプ76までの経路が、中空糸膜64の気体が排出される排出経路となっている。
【0059】
ポンプ76は、所謂、真空ポンプで構成されており、ポンプ76は、気体室64A内の気体を排出路78を通じて吸気して外部に排出することで、気体室64A内を負圧とするようになっている。なお、ポンプ76は、排出路78側(吸気側)の圧力が、予め定められた圧力(例えば、−50kPa)以上である場合に起動可能となる(起動可能圧力)。また、排出路78(気体室64A)側が閉鎖された空間である場合において、排出路78(気体室64A)側の圧力を、予め定められた圧力(例えば、−98kPa)に到達させることが可能である(到達圧力)。到達圧力は、気体室64A内において維持したい圧力(例えば、後述の−95kPa〜−85kPaの範囲の圧力)よりも低い圧力(負圧側の圧力)とされる。また、ポンプ76は、インクジェット記録装置10の装置電源が投入(オン)されることで、駆動を開始し、装置電源が切断(オフ)されることで、駆動を停止するようになっている。なお、インクジェット記録装置10の装置電源の投入及び切断によって、画像記録部14の電源も投入及び切断されるようになっている。また、インクジェット記録装置10の装置電源が投入(オン)された状態において、ポンプ76の駆動及びその停止がなされる構成であってもよい。
【0060】
継ぎ手72の第3接続口72C側には、排出路78を大気に常時開放し、その開放により排出路78に流入する大気に対して流入抵抗を付与する抵抗付与手段の一例としての大気開放機構80が設けられている。
【0061】
大気開放機構80は、図4に示すように、排出路78を大気に常時開放する開口(絞り流路)82Aが形成された開放部材82と、開口82Aを通じて外部から流入した大気が流通する流通管84(図3参照)と、開口82Aを外側から覆い大気に対して流入抵抗を付与する抵抗体の一例としての多孔質膜86と、を備えて構成されている。
【0062】
開放部材82は、開口82Aから流入した大気が流通可能な流通路82Bが内部に形成された筒状にとされている。開放部材82の軸方向一端部は、流通管84が接続される接続口82Cとされ、開放部材82の軸方向一端部は、開口82Aによって開放されている。
【0063】
流通管84の内部には、図3に示すように、流通路82Bと通じて大気が流通可能な流通路84Bが形成されている。流通管84の一端部は、開放部材82の接続口82Cに接続され、流通管84の他端部は、継ぎ手72の第3接続口72Cに接続されている。
【0064】
本実施形態では、開放部材82の開口82A、開放部材82の流通路82B、流通管84の流通路84B及び継ぎ手72によって大気を排出路78に流入させる流入路が形成されている。
【0065】
多孔質膜86は、具体的には、例えば、TEMISH(四ふっ化エチレン樹脂多孔質膜、登録商標、日東電工製)が用いられる。多孔質膜86は、図5に示すように、開口82Aを外側から覆うように、開放部材82に貼り付けられる。具体的には、円板状の中心部を開口82Aよりも大きい径の円孔88Aで切り抜いて環状とした両面テープ88で、多孔質膜86は貼り付けられている。多孔質膜86の円孔88Aに対向する部分86Aで大気が流通し、この部分で流通抵抗を付与するようになっている。この流通抵抗を付与する部分(有効開口部)86Aの面積が、開口82Aよりも大きい面積とされている。
【0066】
このように、本実施形態では、排出路78の径より小さい径とされた開口82Aと、多孔質膜86とによって、排出路78に流入する大気に対して流入抵抗を付与する構成とされている。
【0067】
そして、本実施形態では、ポンプ76による排出動作時においてインクから脱気可能な圧力(負圧)に気体室64Aを維持するように、開口82A及び多孔質膜86の流入抵抗が設定されている。また、ポンプ76による排出動作停止時において、インクジェット記録装置10の電源投入から画像記録部14による画像記録動作が開始可能とされるまでの時間内に、脱気可能な圧力からポンプ76が起動可能な起動可能圧力へ排出路78(気体室64A)内の圧力を上昇させる(負圧を低下させる)ように、開口82A及び多孔質膜86の流入抵抗が設定されている。
【0068】
ポンプ76による排出動作時における気体室64A(排出路78)内の脱気可能な圧力は、具体的には、ポンプ76による排出動作時において、インクに溶存する気体を所望の範囲に除去でき、かつ、インク室62A内の温度におけるインク(インクの溶媒成分)が沸騰しない圧力とされている。
【0069】
所望の範囲とは、図6に示すように、インク中の溶存酸素量が、約16%以下となる範囲であり、インクに溶存する気体を所望の範囲に除去できる圧力とは、−85kPa以下となる圧力である。また、インクが沸騰しない圧力とは、図6に示すように、気体室64A(排出路78)内の圧力が−95kPa以上となる圧力である。従って、気体室64A(排出路78)内の圧力が、−95kPa〜−85kPaの範囲となる圧力に維持されるように、開口82A及び多孔質膜86の流入抵抗が設定されている。
【0070】
具体的には、開口82Aは、孔径が、例えば0.3mmとされ、長さが、例えば0.5mmとされる。多孔質膜86は、有効開口部86Aの径が例えば、1.6mmとされ(面積約2.00mm)、ガーレー数が35秒とされる。なお、ガーレー数とは、JIS P 8117のガーレー試験法による通気度をいう。
なお、図7に示すように、多孔質膜86の面積を約2.00mmとすることで、ポンプ76駆動時の排出路78(気体室64A)の圧力を−95kPa〜−85kPaの範囲となる圧力に維持される流入抵抗に設定される。
【0071】
(本実施形態の作用)
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0072】
本実施形態に係る脱気装置60では、ポンプ76が駆動して、排出路78を通じて気体室64A内の気体を吸気して外部に排出することで、中空糸膜64内部の気体室64A内を負圧とする。これにより、インク室62A内のインクに溶存する気体が、中空糸膜64を介して気体室64Aに吸気され、当該気体が当該インクから脱気される。
【0073】
なお、本実施形態では、排出路78が大気に常時開放されているため、ポンプ76が気体室64A内の気体を排出路78を通じて排出する期間においても、多孔質膜86及び開口82Aを介して排出路78内に大気が流入するが、当該大気に対して、多孔質膜86及び開口82Aが流入抵抗を付与するので、排出路78内に流入する大気量が制限される。これにより、排出路78内に流入する大気がポンプ76によって排出され、排出路78内に流入する大気量と、ポンプ76が排出する気体量とがつりあった状態となり、気体室64A内は、インク室62A内のインクから気体を脱気可能な圧力に維持される。
【0074】
より具体的には、多孔質膜86及び開口82Aが流入抵抗を付与することで、気体室64A内の圧力は、インクに溶存する気体を所望の範囲に除去できる圧力に維持される。
【0075】
これにより、ポンプ76の性能に依存することなく、インクに溶存する気体を所望の範囲に除去する状態が維持され、インク吐出の安定性が維持される。
【0076】
また、多孔質膜86及び開口82Aが流入抵抗を付与することで、気体室64A内の圧力は、インク室62A内の温度におけるインクが沸騰しない圧力に維持される。これにより、インク室62A内のインク(特に、中空糸膜64近傍のインク)の成分変動が抑制される。
【0077】
ポンプ76による排出動作が停止すると、多孔質膜86及び開口82Aを介して排出路78内に流入した大気は、ポンプ76によって排出されることなく、排出路78を介して気体室64Aに流入する。
【0078】
本実施形態では、排出路78が大気に常時開放されているため、排出路78(気体室64A)を大気開放する開放動作(例えば、排出路78を大気開放する開放弁の開閉動作)をすることなく、ポンプ76が起動可能な起動可能圧力に、気体室64A内の圧力が上昇する。また、本実施形態では、排出路78を大気に対して開放及び閉鎖する開閉弁、それを駆動するための駆動機構・駆動源が不要となる。
【0079】
本実施形態では、具体的には、インクジェット記録装置10の電源投入から画像記録部14による画像記録動作が開始可能とされるまでのウォームアップ時間(準備動作時間)内に、ポンプ76が起動可能な起動可能圧力に気体室64Aを上昇させる。
【0080】
これにより、例えば、インクジェット記録装置10の電源が不意に落とされた場合でも、画像記録部14による画像記録動作が開始可能とされるまでに、ポンプ76の再起動可能な状態となる。
【0081】
また、本実施形態では、多孔質膜86の有効開口部86Aの面積は、開口82Aの開口径よりも大きくされている。これにより、多孔質膜86にゴミ等が付着しても、多孔質膜86の有効開口部86Aの面積が開口82Aの開口径と同じである場合に比べ、大気が流入する時に付与される流入抵抗が変化しにくい。
【0082】
なお、上記実施形態では、流入抵抗を付与する抵抗体として、多孔質膜86を用いたが、膜状でなくてもよく、その他の多孔質材(例えば、スポンジ)であってもよく、流入抵抗を付与できるものであればよい。
【0083】
流入抵抗を付与する構成としては、排出路78より小さい径とされた開口82A及び抵抗体(多孔質膜86)の両方を用いていたが、どちらか一方で構成してもよい。従って、抵抗体(多孔質膜86)を有せず開口82Aの開口径を調整することで必要な流入抵抗を付与する構成、排出路78と同一径とされた開口に対して抵抗体(多孔質膜86)を設ける構成であってもよい。
【0084】
脱気装置60は、供給側共通流路47に対して設けられる構成でなくてもよく、インクが流通する流路内であればよい。
【0085】
また、本実施形態では、各色に対応したインク供給機構42Y〜42Kのそれぞれに、脱気装置60が設けられる構成であったが、図8に示すように、インク供給機構42Y〜42Kにおいて、排出管70、継ぎ手72、排出管74、大気開放機構80及びポンプ76が共通化された構成であってもよい。この構成では、排出管70が、各インク供給機構42Y〜42Kの脱気装置60における中空糸膜64と、連結部材68によって連結されている。なお、各インク供給機構42Y〜42Kの脱気装置60における中空糸膜64からポンプ76までの経路は、同一長さであってもよいし、異なっていてもよい。
【0086】
本発明は、上記の実施形態に限るものではなく、種々の変形、変更、改良が可能である。例えば、上記に示した変形例は、適宜、複数を組み合わせて構成しても良い。
【符号の説明】
【0087】
10 インクジェット記録装置(画像形成装置の一例)
14 画像記録部(画像形成部の一例)
47 供給側共通流路(液体流路の一例)
60 脱気装置
64A 気体室
64 中空糸膜(透過部材の一例)
76 ポンプ(脱気手段の一例)
78 排出路
80 大気開放機構
82A 開口
86 多孔質膜(抵抗体の一例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体流路内の液体に溶存する気体が透過可能な透過部材によって、当該液体流路と仕切られた気体室と、
前記気体室内の気体を排出路を通じて排出して前記気体室内を負圧とすることで、前記液体に溶存する気体を当該液体から脱気する脱気手段と、
前記排出路を大気に常時開放しつつ、前記脱気手段による排出動作時において前記液体から脱気可能な圧力に前記気体室を維持するように前記排出路に流入する前記大気に対して流入抵抗を付与する抵抗付与手段と、
を備える脱気装置。
【請求項2】
前記抵抗付与手段は、前記脱気手段による排出動作時において、前記液体が沸騰しない圧力に前記気体室を維持するような前記抵抗を付与する請求項1に記載の脱気装置。
【請求項3】
前記抵抗付与手段は、
前記排出路の径より開口径が小さく、前記排出路を大気に常時開放する開口と、
前記開口を外側から覆い、前記開口の開口径よりも大きく、前記流入抵抗を付与する抵抗体と、
を備える請求項1又は2に記載の脱気装置。
【請求項4】
前記抵抗付与手段は、前記排出路を大気に常時開放する開口を覆う多孔質膜である請求項1又は2に記載の脱気装置。
【請求項5】
液体流路内の液体によって画像を形成する画像形成部と、
前記脱気手段による排出動作停止時において、前記抵抗付与手段が、前記画像形成部の電源投入から画像形成動作が開始可能とされるまでの時間内に、脱気可能な圧力から前記脱気手段が起動可能な圧力へ前記気体室を上昇させるような前記流入抵抗を付与する請求項1〜4のいずれか1項に記載の脱気装置と、
を備える画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−10247(P2013−10247A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144323(P2011−144323)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【特許番号】特許第4894971号(P4894971)
【特許公報発行日】平成24年3月14日(2012.3.14)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】