説明

脱気装置

【課題】気体透過性チューブに折れが発生することを防止でき、高い脱気性能を発揮する脱気装置を提供する。
【解決手段】本発明の脱気装置1は、被脱気液体が出入する流入口11および流出口12が形成された減圧チャンバー2と、一端が流入口11に接続され、他端が流出口12に接続された状態で減圧チャンバー2に収容され、流入口11に流入する被脱気液体が内部を通過する脱気エレメント5とを備えている。脱気エレメント5は、可撓性を有する複数本の気体透過性チューブ151からなるチューブ束15と、複数本の気体透過性チューブ151を束ねてチューブ束15とする結束部材16とを含む。結束部材16によって束ねられている部分が曲げ部分BPに含まれるように、チューブ束15が多重コイル状に曲げられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体からガスを取り去る脱気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体中の溶存ガスは、液体が流通する管の腐食、気泡の発生による圧力や熱交換率の低下、発生した気泡による液体の塗布ムラなどの原因となる。このため、液体の使用方法や使用目的によっては、脱気が必要である。
【0003】
液体の脱気には、例えば、特許文献1に開示されている脱気装置(図6参照)を用いることができる。図6に示す脱気装置101は、被脱気液体の流入口111および流出口112を有する減圧チャンバー102内に気体透過性チューブ103が収容され、その気体透過性チューブ103の一端が流入口111、他端が流出口112に接続された構造となっている。また、減圧チャンバー102には、減圧チャンバー102内の底部に達する真空引き管104が取り付けられており、真空引き管104は減圧チャンバー102が有する真空引き口113に接続されている。このような脱気装置101では、流入口111から被脱気液体を流入させて気体透過性チューブ103内を通液させるとともに、真空引き口113に接続した減圧装置により減圧チャンバー102内を減圧して、被脱気液体の脱気を行うことができる。
【特許文献1】特開平11−333206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような脱気装置では、脱気性能を向上するために、液体との接触面積を大きくできる細い気体透過性チューブを使用することが多い。細い気体透過性チューブは、減圧チャンバーに収容できるように曲げると折れが発生する場合がある。気体透過性チューブが折れていると、被脱気液体の流通抵抗が増し、脱気装置が脱気性能を十分に発揮できなくなる。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、気体透過性チューブに折れが発生することを防止でき、高い脱気性能を発揮する脱気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、被脱気液体が出入する流入口および流出口が形成された減圧チャンバーと、一端が流入口に接続され、他端が流出口に接続された状態で減圧チャンバーに収容され、流入口に流入する被脱気液体が内部を通過する脱気エレメントとを備え、脱気エレメントが、可撓性を有する複数本の気体透過性チューブからなるチューブ束と、複数本の気体透過性チューブを束ねてチューブ束とする結束部材とを含み、脱気エレメントは、可撓性を有する複数本の気体透過性チューブからなるチューブ束と、複数本の気体透過性チューブを束ねてチューブ束とする結束部材とを含み、チューブ束の少なくとも一部が当該チューブ束を曲げて形成された曲げ部分となるように減圧チャンバーに収容され、少なくとも曲げ部分の一部に結束部材が配置されている、脱気装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
上記本発明の脱気装置では、複数本の気体透過性チューブを結束部材で束ねてチューブ束にしている。そして、結束部材によって束ねられている部分が曲げ部分に含まれるようにしている。チューブ束を曲げると、気体透過性チューブには曲げによる応力が発生する。気体透過性チューブは、応力を緩和できる形態に変形しようとするが、結束部材の結束力が作用しているので容易に変形できない。結果として折れの発生が防止される。折れが発生していない気体透過性チューブには、被脱気液体がスムーズに流通するので、高い脱気性能を持った脱気装置を実現可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
図1に本発明の脱気装置の一例を示す。脱気装置1は、被脱気液体が流通する流入口11および流出口12、ならびに、減圧装置を接続する真空引き口13が形成された減圧チャンバー2を備えている。減圧チャンバー2は、底部23および開口部24を有する筒状のチャンバー本体22と、蓋部21とから構成されている。蓋部21に流入口11および流出口12が形成され、チャンバー本体22の側部25に真空引き口13が形成されている。チャンバー本体22の開口部24には、減圧チャンバー2内の気密が保持されるように蓋部21が固定されている。減圧チャンバー2には、一端が流入口11に接続され、他端が流出口12に接続された脱気エレメント5が配置されている。
【0009】
図2および図3に示すごとく、脱気エレメント5は、可撓性を有する複数本の気体透過性チューブ151からなるチューブ束15と、筒状のアダプタ141,142と、気体透過性チューブ151を束ねる結束部材16とから構成されている。アダプタ141,142は、チューブ束15の一端部に取り付けられて減圧チャンバー2の流入口11に接続する流入側アダプタ141と、他端部に取り付けられて減圧チャンバー2の流出口12に接続する流出側アダプタ142とを含む。流入側アダプタ141を介して流入口11に流入した被脱気液体は、脱気エレメント5の内部、つまり、気体透過性チューブ151の内部を流通した後に、流出側アダプタ142を介して流出口12から流出する。
【0010】
図1に示すように、脱気エレメント5は、チューブ束15が多重コイル状に曲げられた状態で減圧チャンバー2に収容されている。換言すれば、流入側アダプタ141と流出側アダプタ142との間において、チューブ束15が部分的に環状に曲げられることにより曲げ部分BPが形成され、その環状の曲げ部分BPの複数箇所に結束部材16が配置されている。このようにすれば、小サイズの減圧チャンバー2を採用しながらも、チューブ束15の長さ(気体透過性チューブ151の長さ)を稼ぐことができるので、脱気装置1の脱気能力を比較的簡単に高めることができる。
【0011】
チューブ束15に巻き付いた結束部材16は、複数本の気体透過性チューブ151を一つに束ねてチューブ束15の形態を保持する役割とともに、チューブ束15を曲げたときに個々の気体透過性チューブ151が折れることを防ぐ役割を担う。チューブ束15を図1のように多重コイル状に曲げて曲げ部分BPを形成すると、気体透過性チューブ151には曲げによる応力が発生する。すると、気体透過性チューブ151は、応力を緩和できる形態に変形しようとする。ところが、結束部材16で束ねている部分が曲げ部分BPに含まれるようにチューブ束15を曲げているので、気体透過性チューブ151は容易に変形できず、結果として折れの発生が防止される。複数の結束部材16を、曲げ部分BPに所定間隔で配置することにより、気体透過性チューブ151に働く結束力を長さ方向で均一化することができ、曲げ防止効果の向上を期待できる。
【0012】
また、流入側アダプタ141と流出側アダプタ142との間において、隣り合う気体透過性チューブ151,151同士は互いに接着されていない。すなわち、気体透過性チューブ151,151は、アダプタ141,142に接続する両端部のみ互いに接着(具体的には溶着)されている。結束部材16が気体透過性チューブ151に及ぼす結束力はそれ程大きくないので、気体透過性チューブ151は、長さ方向の前後に移動できる。一方、結束部材16は、気体透過性チューブ151の全部を被覆しているわけではなく、長さ方向に沿った複数箇所に所定間隔で配置されている。つまり、チューブ束15を曲げたとき、内周側に位置する気体透過性チューブ151は長さ方向の前後に僅かながら移動するとともに、結束部材16によって束ねられていない区間において、環の中心に向かってやや膨らむように変形する。この結果、曲げによる応力を開放することができ、折れ防止効果が高まる。
【0013】
また、気体透過性チューブ151を一つに束ねると、脱気エレメント5を減圧チャンバー2に収容させる際の作業性も向上する。また、結束部材16を用いることにより、複数本の気体透過性チューブ151が散開してしまうことを簡単に防げる。接着剤を用いたり熱溶着を行ったりして気体透過性チューブ151,151同士を結合する必要がなくなる。気体透過性チューブ151,151同士の間に隙間を生じさせることができるので、脱気エレメント5の持つ脱気性能の向上を見込める。
【0014】
上記のような結束部材16としては、例えば、紐、チューブ、チェーン、フィルムなどを使用可能であるが、薄いフィルムであることが好ましい。結束部材16がフィルムである場合、チューブ束15に巻き付けることにより、複数本の気体透過チューブ151を包み込むような形で束ねることができる。すると、結束部材16から気体透過性チューブ151に対し、結束力が面で作用するようになり、高い折れ防止効果が得られる。
【0015】
結束部材16に採用するフィルムは、気体透過性を有することが好ましい。気体透過性を有するフィルムを結束部材16に使用することで、気体透過性チューブ151の気体透過作用をほとんど妨げることなく、それら気体透過性チューブ151を結束することが可能となる。気体透過性を有するフィルムの代表としては、多孔質フィルム、もしくはその多孔質フィルムに補強材を積層した積層フィルムを例示できる。多孔質フィルムと補強材との積層フィルムを結束部材16として採用する場合、その補強材は、多孔質フィルムよりも通気性に優れることが好ましい。具体的には、樹脂や金属などからなる、織布、不織布、メッシュ、ネット、スポンジ、フォーム、発泡体、多孔質体などを補強材として使用することができる。
【0016】
結束部材16に好適な多孔質フィルムとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレンなどのフッ素樹脂類からなる多孔質フィルム、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類からなる多孔質フィルムを例示できる。中でも、気体透過性や耐薬品性に優れるという理由で、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルムがよい。
【0017】
結束部材16の形状は、短冊状とすることができる。図3の断面図に示すように、気体透過性チューブ151を束ねた結束部材16の両端同士を接着剤で固定する、または熱溶着により固定すればよい。また、結束部材16の位置ズレが生じないように、結束部材16とチューブ束15とを、接着剤等を用いて部分的に固定してもよい。また、本実施形態では、気体透過性チューブ151の長さ方向に沿った複数箇所を結束部材16で束ねるようにしている。このようにすれば、複数本の気体透過性チューブ151をより確実に束ねることが可能である。また、結束部材16の配置間隔を適切に調整することにより、気体透過性チューブ151の気体透過作用を妨げないようにすることができる。
【0018】
その他の部品について説明する。
減圧チャンバー2の蓋部21およびチャンバー本体22は、いずれも、金属、ガラスまたはプラスチックを所定形状に成形したものである。金属であれば、化学的な耐性に優れることからステンレスが好ましい。プラスチックであれば、フッ素樹脂やポリオレフィンを用いることができる。真空引き口13等を形成する必要性や耐久性を考慮すれば、減圧チャンバー2は金属製であることが望ましい。
【0019】
気体透過性チューブ151には、脱気装置に一般的に用いられるチューブを用いればよい。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレンなどのフッ素樹脂からなるチューブ、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンからなるチューブを用いればよい。単位容積あたりの膜面積を広くするために、図3に示すように、細い中空糸体を気体透過性チューブ151として使用することが好ましい。この場合、1本の中空糸体(気体透過性チューブ151)の径は、内径にして数十μm〜数mm程度の範囲であり、通常、数本〜数百本程度で一つのチューブ束15を構成する。
【0020】
また、本実施形態においては、チューブ束15を、アダプタ141,142を介して流出口11および流入口12に接続するようにしている。アダプタ141,142には、例えば、図4に示すような構造のものを採用できる。図4に示すように、アダプタ141,142は、チューブ束15の端部を固定する、くさび52、袋ナット51および口金具55を備える。チューブ束15を固定した口金具55を、Oリング53とナット54とを用いて蓋部21に形成した流入口11または流出口12に固定する。ただし、口金具55とチューブ束15とは、熱溶着性を有するフッ素樹脂系粉末を用いて溶着するようにしてもよい。また、本実施形態では、流入口11および流出口12を蓋部21に形成しているが、流入口11および/または流出口12は、チャンバー本体22の側部25や底部23に形成することも可能である。
【0021】
次に、図5に示すのは、図1の脱気装置を用いた脱気システムの構成図である。脱気システム30は、脱気前の液体を収容したタンク34と、脱気された液体のユースポイント36との間に配置されており、脱気装置1と、脱気装置1の減圧チャンバー2内を大気圧よりも低い圧力に減圧するための真空ポンプ33(減圧装置)と、真空ポンプ33と脱気装置1とを接続して真空ラインを形成する真空引き管38と、真空引き管38内の圧力を計測する真空計32と、真空ラインにおける真空計32の配置位置よりも脱気装置1寄りに設けられた漏液センサ31とを備えている。脱気装置1は、チャンバー本体22の底部23が鉛直下方に位置し、流入口11および流出口12の形成されている蓋部21が鉛直上方に位置する姿勢で設置されている。ポンプ35でタンク34の液体を汲み上げて脱気システム30に送り、脱気処理した液体をユースポイント36に送る仕組みである。
【0022】
図5に示す脱気システム30においては、脱気装置1と真空ポンプ33との間の減圧ライン上に配置した真空計32の変動をモニタすることにより、液漏れの有無を判断することが可能である。しかしながら、少量の液漏れの場合には、真空計32の変動のみから迅速に判断することは困難である。したがって、漏液センサ31の検知結果に基づいて漏液の有無を判断し、脱気処理を停止するか継続するかを決定できるようにするのが好ましい。漏液センサ31の種類は特に問わないが、例えば、2本の導線間の抵抗値の変化を検知する方式のものや、光ファイバ方式のものを使用することが可能である。なお、脱気装置1の減圧チャンバー2内に、漏液センサや真空計などの検知器を配置することも可能である。
【0023】
また、図5に示すように、脱気システム30においては、脱気装置1と真空ポンプ33との間の真空ライン上に液体トラップ39を配置するようにしてもよい。液体トラップ39は、真空引き口13を通じて真空引き管38に流れ込んだ被脱気液体が、真空ポンプ33に吸い込まれたり真空計32に接触したりすることを阻止する役割を担う。このようにすれば、真空計32や真空ポンプ33を故障から保護できる。
【0024】
上記のような液体トラップ39には、液体を貯留できる小さいチャンバーや、気体の通過は許容するが液体の通過は阻止する通気フィルタを含む部品を適用することができる。そのような通気フィルタの具体例は、フッ素樹脂やポリオレフィン樹脂の多孔質膜を含む多孔質フィルタである。なお、真空ライン上における液体トラップ39の具体的な配置位置としては、漏液センサ31と真空ポンプ33との間、好ましくは漏液センサ31と真空計32との間とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の脱気装置の一例を示す半断面図。
【図2】減圧チャンバーに収容された脱気エレメントの平面図。
【図3】脱気エレメントの要部拡大断面図。
【図4】本発明の脱気装置における気体透過性チューブの接続方法の一例を示す断面図。
【図5】本発明の脱気装置を用いた脱気システムの構成図。
【図6】従来の脱気装置の一例を模式的に示す断面図。
【符号の説明】
【0026】
1 脱気装置
2 減圧チャンバー
5 脱気エレメント
11 流入口
12 流出口
15 チューブ束
16 結束部材
141,142 アダプタ
151 気体透過性チューブ
BP 曲げ部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被脱気液体が出入する流入口および流出口が形成された減圧チャンバーと、
一端が前記流入口に接続され、他端が前記流出口に接続された状態で前記減圧チャンバーに収容され、前記流入口に流入する前記被脱気液体が内部を通過する脱気エレメントとを備え、
前記脱気エレメントは、可撓性を有する複数本の気体透過性チューブからなるチューブ束と、前記複数本の気体透過性チューブを束ねて前記チューブ束とする結束部材とを含み、前記チューブ束の少なくとも一部が当該チューブ束を曲げて形成された曲げ部分となるように前記減圧チャンバーに収容され、
少なくとも前記曲げ部分の一部に前記結束部材が配置されている、脱気装置。
【請求項2】
前記結束部材がフィルムであり、前記フィルムを前記チューブ束に巻き付けることによって前記複数本の気体透過性チューブを一つに束ねている、請求項1記載の脱気装置。
【請求項3】
前記フィルムが気体透過性を有する、請求項2記載の脱気装置。
【請求項4】
前記フィルムが多孔質フィルムを含む、請求項3記載の脱気装置。
【請求項5】
前記多孔質フィルムがポリテトラフルオロエチレンからなる、請求項4記載の脱気装置。
【請求項6】
前記複数本の気体透過性チューブを、その長さ方向に沿った複数箇所で束ねる、複数の前記結束部材を備えた、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の脱気装置。
【請求項7】
前記脱気エレメントは、前記チューブ束の一端部に取り付けられて前記流入口に接続する流入側アダプタと、他端部に取り付けられて前記流出口に接続する流出側アダプタとをさらに含み、
前記流入側アダプタと前記流出側アダプタとの間において、前記チューブ束が環状に曲げられることにより前記曲げ部分が形成され、環状の前記曲げ部分の複数箇所に所定間隔で前記結束部材が配置されている、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の脱気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−73640(P2008−73640A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257494(P2006−257494)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】