説明

脱水、濃縮用ベルトおよびその製造方法

【課題】 濃縮用ベルトで生じる織物の上下層の剥離、経糸破断による無端状織物の破断、ガイド突起の脱落、不十分なガイド性能、ガイド取り付け部と織物の境界で生じる織物の切断等を改善したものである。
【解決手段】 合成樹脂フィラメントで製織した織物からなる無端状織物と、抗屈曲エレメントと、ガイド突起とからなる脱水、濃縮用ベルトにおいて、織物が上面側経糸と上面側緯糸で構成された上面側層と、下面側経糸と下面側緯糸で構成された下面側層とを、上面側緯糸の上と下面側緯糸の下を通って上下層を織り合わせる経糸接結糸で接結した二層織物であって、ガイド突起を抗屈曲エレメントが取り付けられた抗屈曲部に、ガイド突起の外側端部を織物端部よりも内側に、且つガイド突起の内側端部を抗屈曲エレメントの内側端部よりも20〜50mm外側に位置する場所に、融着して取り付けた、脱水、濃縮用ベルトとその方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に新聞紙等の故紙から脱墨、脱灰分等により再生した紙資料の水溶液からインキ粒子、灰分等を除去する洗浄工程、またそれを脱水したり、パルプ原料を濃縮するためのベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新聞紙や雑誌等の故紙から脱墨、脱灰分等により再生した紙資料の水溶液からインキ粒子、灰分等を除去する洗浄処理や、パルプ原料を脱水、濃縮する行程では濃縮機が使用されている。
濃縮機には幾つかの種類があるが、いずれも紙資料やパルプ原料等の水分量を減らすための機構となっている。その一つとして、2つのロールとそれに掛けられた織物からなる無端状のベルトを用いた濃縮機がある。これはロールとベルトの間にパルプ原料等を供給し、インナーロールとベルト間のニップ圧と高速回転による遠心力を利用して連続的に紙資料の水溶液からインキ粒子、灰分、紙を形成しない微細繊維、余剰水分等を除去するものである。
故紙等の紙資料の濃縮は製紙とは異なり、資料がベルト上に均一に少量づつ供給されるのではなく、固形分が不均一に分散した状態で放出される。そのため織物に不均一に大きな荷重がかかり、回転する無端状ベルトが斜行するとベルトが変形して裂けてしまうこともある。この現象を防止するため織物の巾方向端部にガイド突起を設け、またガイド突起と織物との境界面の織物の切断を防止する目的で抗屈曲エレメントを設けることが試みられた。
そのような技術としては、特開平2−14090号公報にガイドを織物に縫いつけた構成のものが示されている。縫合による固着はガイドと織物の間に遊びができるため織物端部の切断がいくらか緩和される利点があるが、逆にガイド性能が低くベルトが蛇行してしまったり、ガイド突起が脱落したり、抗屈曲エレメントと織物の境界面でベルトが裂けてしまうことがある。また、特開平4−361682号公報にはガイドを織物本体に融着した構成のものが示されている。この方法は縫合よりもガイド性が高く、またガイド突起が織物から脱落しにくい。しかしながら、特開平2−14090号公報、特開平4−361682号公報に示されているいずれのベルトにおいても、織物本体の構造によっては織物構成糸が織物内部で摩耗して上下層が分離してしまったり、抗屈曲エレメントとの境界面で織物が裂けてしまうことがある。特に、脱水、濃縮用ベルトとして一般的に使用されている上下層を緯糸接結糸で織り合わせた織物の場合には、接結糸が上下層間で揉まれて摩耗切断し、上下層が分離してしまうことがある。
【0003】
それを改善するために三層に配置された緯糸を経糸で織り合わせた織物を用いた濃縮用ベルトが開発された。特開平8−144185公報の図1には織物の経糸に沿った断面図が示されている。この技術は従来の緯糸接結糸を用いた二層構造の織物で生じる、緯糸接結糸の内部摩耗による上下層の分離の対策として考えられたものである。張力の掛かる縦方向の糸で各緯糸を織り合わせた構造のため、接結糸となる経糸が内部で揉まれて切断してしまうことは少ないが、表裏の擦過摩耗により経糸が一部で切断されると張力が掛けられて走行している無端状織物はその部分から破断してしまうことがある。
また、これら従来文献にしめされたいずれのベルトにおいても、ガイド性能は未だ十分ではなく、激しい蛇行が生じるとガイド突起がロール上に乗り上げてしまったり、それによって抗屈曲エレメントと織物の境目で織物が切断してしまうこともあった。
このように現在では、ガイド性能、ガイド突起の固着強度、織物の破断、境界面の切断等、濃縮用ベルトとして要求される性能を併せ持つベルトは開発されていなかった。
【特許文献1】特開平2−14090号公報
【特許文献2】特開平4−361682号公報
【特許文献3】特開平8−144185公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の濃縮用ベルトで生じる織物の上下層の剥離、経糸破断による無端状織物の破断、ガイド突起の脱落、不十分なガイド性能、ガイド取り付け部と織物の境界で生じる織物の切断等の、従来技術の濃縮用ベルトで解決できなかった多くの問題を改善したものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
「1. 合成樹脂フィラメントで製織した織物からなる無端状織物と、この無端状織物の巾方向耳部の少なくとも一端に配設した抗屈曲エレメントと、ガイド突起とからなる脱水、濃縮用ベルトにおいて、
織物が上面側経糸と上面側緯糸で構成された上面側層と、下面側経糸と下面側緯糸で構成された下面側層とを、上面側緯糸の上と下面側緯糸の下を通って上下層を織り合わせる経糸接結糸で接結した二層織物であって、
抗屈曲エレメントは、抗屈曲エレメントの無端状織物の巾方向中心側端部(以下、内側端部とする)から無端状織物の耳端側端部(以下、外側端部とする)までの巾30mm以上のポリウレタン樹脂製のものであり、該抗屈曲エレメントを織物耳部の織物空間の85%以上に充填することで織物に取り付けて抗屈曲部とし、
ガイド突起はガイド突起の無端状織物の巾方向中心側端部(以下、内側端部とする)から無端状織物の耳端側端部(以下、外側端部とする)までの巾を有するポリウレタン樹脂製のものであり、
ガイド突起を抗屈曲エレメントが取り付けられた抗屈曲部に、ガイド突起の内側端部が抗屈曲エレメントの内側端部よりも外側に、且つガイド突起の外側端部が下記数式1を満たす、織物端部よりもY(mm)以上内側に位置する場所に融着して取り付けてなる、脱水、濃縮用ベルト。
【0006】
【数2】

【0007】
ここで、
Y:ガイド突起の外側端部から織物端部までの長さ(mm)
L:無張力状態でのベルトの周長(mm)
2A:無張力状態でおおよそ弛みがないように2つのロールに掛けた時のロールに接触していない部分のベルトの長さ(mm)
ΔL:ベルトを構成する織物のストレッチ量(mm)
2. ガイド突起を抗屈曲エレメントが取り付けられた抗屈曲部に、ガイド突起の外側端部を織物端部よりも5mm以上内側に、且つガイド突起の内側端部を抗屈曲エレメントの内側端部よりも20〜50mm外側に位置する場所に取り付けた、1項に記載された脱水、濃縮用ベルト。
3. 二層織物が、1本の上面側経糸と1本の下面側経糸が上下に配置した経糸の組と、
経糸の組のうち上面側経糸を上経糸接結糸とした、上経糸接結糸と下面側経糸とからなる上経糸接結糸の組
及び/または経糸の組のうち下面側経糸を下経糸接結糸とした、下経糸接結糸と上面側経糸とからなる下経糸接結糸の組
とから構成された、1項または2項に記載された脱水、濃縮用ベルト。
4. 二層織物が、1本の上面側経糸と1本の下面側経糸が上下に配置した経糸の組と、
少なくとも1組の経糸の組の上面側経糸を上経糸接結糸とし、下面側経糸を下経糸接結糸とした、上経糸接結糸と下経糸接結糸とからなる上下経糸接結糸の組
とから構成された、1項または2項に記載された脱水、濃縮用ベルト。
5. 抗屈曲エレメントの外側端部を、織物の端部よりも内側に位置するように取り付けてなる、1項ないし4項のいずれか1項に記載の脱水、濃縮用ベルト。
6. 抗屈曲エレメントの外側端部を、織物の端部よりも外側に位置するように取り付けてなる、1項ないし4項のいずれか1項に記載の脱水、濃縮用ベルト。
7. 抗屈曲エレメントが巾30〜70mm、厚さ1〜3mmのウレタンシートであって、このウレタンシートを織物に加熱圧着して織物の内部空間に充填させたことを特徴とする、1項ないし6項のいずれか1項に記載された脱水、濃縮用ベルト。
8. 抗屈曲エレメントの内側端部が直線状でないことを特徴とする、1項ないし7項のいずれか1項に記載された脱水、濃縮用ベルト。
9. 抗屈曲エレメントの内側端部が波形である、8項に記載された脱水、濃縮用ベルト。
10. 抗屈曲エレメントの内側端部と織物本体との境界に樹脂を塗布してなる、1項ないし9項のいずれか1項に記載された脱水、濃縮用ベルト。
11. 合成樹脂フィラメントで製織した織物からなる無端状織物の耳部の少なくとも一端に、抗屈曲エレメントと、ガイド突起を融着により固着した、1項ないし10項のいずれか1項に記載された脱水、濃縮用ベルトの製造方法。」
に関する。
本出願の発明で使用する用語を定義する。
抗屈曲エレメントの外側端部:巾を持った抗屈曲エレメントにおいて、織物の耳端に近い側の端部
抗屈曲エレメントの内側端部:脱水、濃縮するエリア(無端状織物の中心側)に近い側の端部
ガイド突起の外側端部:巾を持ったガイド突起において、織物の耳端に近い側の端部
ガイド突起の内側端部:脱水、濃縮するエリア(無端状織物の中心側)に近い側の端部
【発明の効果】
【0008】
ガイド性と耐切断強度、ガイド突起の固着強度、織物の耐剥離性、織物の経糸破断によるベルトの耐破断性、等の濃縮用ベルトとして要求される性能に優れた脱水、濃縮用ベルトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、新聞紙や雑誌等の故紙から脱墨、脱灰分等により再生した紙資料の水溶液からインキ粒子、灰分等を除去する洗浄処理や、パルプ原料を脱水、濃縮する濃縮機で使用される濃縮用ベルトに関するものであり、合成樹脂フィラメントで製織した織物を周知の方法で無端状とした無端状織物の巾方向耳部の少なくとも一端に抗屈曲エレメントと、ガイド突起とを固着したものである。
本明細書において、ベルトや織物の方向については走行方向、そしてそれと垂直な向きを巾方向と表現しており、走行方向とは無端状の織物の円周方向に相当するものである。また、織物の説明の中で巾方向端部または織物端部、耳端部、耳部等とあるが、それらは全て同じ部分を示している。また、抗屈曲エレメントの説明の中で内側端部、外側端部と表現している部分があるが、巾を持った抗屈曲エレメントにおいて、織物の耳端に近い側を外側端部と表現しており、脱水、濃縮するエリアに近い側を内側端部と表現している。また、ガイド突起の端部についても同じように外側端部、内側端部と表現している。ベルトの表裏については、無端状織物の内側をロール接触面として表現している。織物の上下については上面側層、下面側層等としているが、どちらをロール接触面としても構わない。
【0010】
織物は上面側経糸と上面側緯糸で構成された上面側層と、下面側経糸と下面側緯糸で構成された下面側層とを有し、上面側緯糸の上と下面側緯糸の下を通って上下層を織り合わせる経糸接結糸で接結した二層織物である。上面側層を資料の供給面とすると、下面側層は水分等の出口側となる。一般的には資料供給面は繊維を留めるために線径が小さく目が細かい構造とすればよく、水分の出口側は水はけをよくするためと、織物剛性を確保するために線径が大きく目の粗い構造とすればよい。このように、上下層からなる2つの層を接結糸で織り合わせた構造の場合、独立した各層に応じた織物デザインを選択できるため、好ましい。これは従来の緯糸三層経糸一層織物や、緯糸二層経糸一層織物、単層織物からなるベルトではなし得なかったものである。
【0011】
また、従来の緯糸三層経糸一層構造の織物では経糸の全てが上下緯糸を織り合わせる接結糸であったため、1本またはその付近の2、3本またはそれ以上の経糸が、ロールやスクレーパー等の擦過や、織物内部で糸がもまれて摩耗切断すると、その近辺の経糸から資料の重さや張力に耐えられなくなった経糸が徐々に切断していき、穴があいたり、最終的には織物全体が破断してしまうことがあった。ところが、本発明のように経糸接結糸の他に上面側経糸、下面側経糸が独立して存在すれば、例え1本の経糸接結糸が切断しても、組織や機能等が異なるその他の経糸が存在するため、それらの経糸が縦方向の張力を受け持ち、それ以上多くの縦方向の糸が破断することは少ない。特に水分の出口側の経糸に太くて剛性の高い糸を用いれば破断防止効果は向上する。
二層織物を構成する経糸は、1本の上面側経糸と1本の下面側経糸が上下に配置した経糸の組と、接結糸からなるものであり、接結糸の組織や配置割合、配置場所等特に限定はされない。好ましい実施例としては、経糸の組のうち1組以上を、上面側経糸を上経糸接結糸とした、上経糸接結糸と下面側経糸とからなる上経糸接結糸の組を配置したものや、経糸の組のうち下面側経糸を下経糸接結糸とした、下経糸接結糸と上面側経糸とからなる下経糸接結糸の組を配置したもの、また経糸の組のうち上面側経糸を上経糸接結糸とし、下面側経糸を下経糸接結糸とした、上経糸接結糸と下経糸接結糸とからなる上下経糸接結糸の組を配置したものとすればよい。
【0012】
本明細書において上経糸接結糸は、本来配置されるべき上面側経糸を接結糸として置き換えたものであり、特別なものではない。上経糸接結糸は少なくとも1本の上面側緯糸の上と、少なくとも1本の下面側緯糸の下を通る組織のものである。同様に、下経糸接結糸は、本来配置されるべき下面側経糸を接結糸として置き換えたものであり、特別なものではない。下経糸接結糸は少なくとも1本の上面側緯糸の上と、少なくとも1本の下面側緯糸の下を通る組織のものである。これらは、各経糸接結糸がどの糸に代わって上下層を接結しているか、またどの糸とペアを組んでいるかを明確にするために表現したものである。
【0013】
接結糸の配置として好ましい実施例は、各接結の組を構成する2本の経糸を上面側経糸、下面側経糸の一部として機能させたものがある。詳しく説明すると、上下経糸接結糸の組において、一方の上経糸接結糸が上面側緯糸と織り合わされて上面側層の一部を形成しているとき、その下側では下経糸接結糸が下面側緯糸と織り合わされて下面側層の一部を形成する組織とし、逆に下経糸接結糸が下面側緯糸と織り合わされて下面側層の一部を形成しているとき、その上側では上経糸接結糸が上面側緯糸と織り合わされて上面側層の一部を形成する組織とすると、他の上面側経糸、下面側経糸と同じように上面側層、下面側層の一部を形成するため均一な表面とすることができ、部分的な摩耗や、部分的な繊維の刺さり込み、不均一な脱水等がなく好ましい。特に経糸接結糸の線径や組織を上面側経糸と同じにすると、均一な脱水表面が形成され、また局所的な摩耗もないため好ましい。しかし、本発明は脱水、濃縮用のベルトであって、表面均一なパルプシート等を形成することが目的でないため、製紙用織物等に要求されるような厳しい均一性等は必要とはされていなく、そのため線径や組織等特に限定されない。
【0014】
本発明に使用される糸は用途や目的に応じて選択すればよいが、例えば、モノフィラメントの他、マルチフィラメント、スパンヤーン、捲縮加工や嵩高加工等を施した一般的にテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーンと称される加工糸、あるいはこれらを撚り合わせる等して組み合わせた糸が使用できる。また、糸の断面形状も円形だけでなく四角形状や星型等の短形状の糸や楕円形状、中空等の糸が使用できる。また、糸の材質としても、自由に選択でき、一般的に使用されているポリエステル、ポリアミドのみならず、化学繊維、合成繊維等が使用できる。もちろん、共重合体や目的に応じてさまざまな物質をブレンドしたり含有させた糸を使用してもよい。
濃縮用ベルトとしては一般的には、経糸には剛性があり、寸法安定性に優れるポリエステルモノフィラメントを用いるのが好ましい。また、緯糸にはポリエステルモノフィラメントとポリアミドモノフィラメントを交互に配置する等、交織してもよい。
ここでは上下に配置された上面側経糸、下面側経糸が同比率で配置されているように示しているが、その他にも上面側経糸の配置比率を下面側経糸よりも多くしても構わなく、またその逆も可能である。経糸接結糸の配置比率も、織物の完全組織の中で1本以上配置すればよい。
このようにして製織された織物は、周知の方法により無端状とする。
【0015】
そして、織物の耳部の少なくとも一端に抗屈曲エレメントを取り付ける。抗屈曲エレメントは、織物上に取り付けたガイドと織物の境界、または最も切断しやすいロール端部との接触部に生じる織物の切断を防止するためのものである。ガイドはベルトの走行を安定させる目的で配置するので剛性を必要とする。織物耳端部に取り付けるガイドは織物よりも剛性があるため、ガイドを取り付けた織物の境界、また織物のロール端部と接触する部分に応力が集中し、そこから織物が切断してしまうことがある。これらを防止する目的で抗屈曲エレメントは取り付けられている。
抗屈曲エレメントの材質はポリウレタン樹脂製とし、特にエーテル系またはエステル系のポリウレタン樹脂が好ましい。この材料は強度が高く、耐摩耗性も良好で、織物との結合も良く、可撓性が大きいのでインナーロールでの折り返しが良好であるからである。樹脂の剛性や量、硬さによっては連続のものであってもよく、さらにベルトを折り返しやすくさせるために適当な長さに切った抗屈曲エレメントを走行方向に不連続に配置しても構わない。
取り付け方はポリウレタン樹脂を溶融させ、織物空間の85%以上に充填し固着する。85%以下では抗屈曲効果が小さく、固着強度も不充分である。抗屈曲エレメントは、熱可塑性のシート状のものを用いても、流動性のある熱硬化性の樹脂を用いても構わない。シート自体を熱融着させてもよく、シートを熱融着させるための樹脂を織物内に充填し、それを介して固着させてもよい。シートの場合、織物の厚さを考慮すると1mm〜3mm程度の厚さのもので十分であり、シートを織物端部に重ね加熱圧着して樹脂を織物の内部に充分浸透させ、反対側の表面近傍まで浸透させる。また、抗屈曲エレメントを取り付けた後、抗屈曲エレメントの内側端部と織物本体との境界に樹脂を塗布することで、抗屈曲エレメントをよりしっかりと織物に取り付け、はがれを防止することができる。この樹脂の種類、塗布量は限定されなく、境界面から少し内側にかけて塗布するとよい。
【0016】
そして、抗屈曲エレメントの巾は30mm以上とする。特に30〜70mm程度とするのが好ましい。巾が少なくとも30mm以上ないと単にガイドだけを配設した織物と同じように、抗屈曲エレメントの内側端部に負荷がかかり、ここから織物が切断してしまうことがある。また、抗屈曲エレメントは脱水する通水孔を埋めて取り付けるため、あまり広すぎるとワーク面が小さくなってしまい操業性に問題を来す。
抗屈曲エレメントは織物耳端部付近に取り付けていればよく、織物の両端にそれぞれ取り付けても、片側だけに取り付けてもよい。詳細な取り付け位置は特に限定されず、抗屈曲エレメントの外側端部が織物端部よりも内側であっても、外側であっても構わない。抗屈曲エレメントの外側端部を、織物の端部よりもわずかに外側に位置するように取り付けると、織物端部が外側に露出しないので糸ホツレの心配がなく好ましい。また、抗屈曲エレメントの外側端部を、織物の端部よりも内側に位置するように取り付けると、ガイド性能が向上する。詳細についてはガイド突起の取り付け位置の部分で説明する。その他、抗屈曲エレメントの外側端部と織物端部が揃っていてももちろん構わない。
抗屈曲エレメントの内側端部については、ロールに少しかかるくらいの位置に取り付ける。抗屈曲エレメントの内側端部がロール端部よりも外側にあると、その部分に応力が集中し境目で織物が切断しまうためである。また、内側端部を直線状にしても構わないが、波形や鋸型等にすることで応力が分散され織物がより切断しにくくなる。
このような点を考慮し、取り付け位置と巾、形状を調整して取り付ければよい。
抗屈曲エレメントは織物のどちら側から取り付けてもよく、ロール接触面側から取り付ければロール端部との擦過で生じる摩耗を抗屈曲エレメントに受け持たせ、織物の切断を防止できる。しかし、その反対側からであっても、織物の内部空間の85%以上に剛性、耐摩耗性に優れたポリウレタン樹脂を充填しているため屈曲はしにくく、摩耗も十分防ぐことができる。
【0017】
同様にガイド突起もポリウレタン樹脂製とし、特にエーテル系またはエステル系のポリウレタン樹脂製が好ましい。そして、このガイド突起を抗屈曲エレメントが取り付けられた抗屈曲部に融着により固着する。これらのポリウレタン樹脂は強度が高く、耐摩耗性も良好で、織物との結合も良く、可撓性が大きいのでインナーロールでの折り返しが良好であるからである。抗屈曲エレメントは織物内部にポリウレタン樹脂を充填して固着させたが、ガイド突起をその充填された樹脂と一体に融着結合して固着させてもよい。例えば、抗屈曲エレメントとなるポリウレタン樹脂製のシートを織物端部に重ね加熱圧着して樹脂を織物の内部に充分浸透させ、反対側の表面近傍まで浸透させ、次いで織物のシートを圧着した反対面からポリウレタン樹脂で成形した突起を加熱圧着して、織物内部で両ポリウレタン樹脂を融着して一体とすることにより固着させる。その際、ガイド突起を構成するポリウレタン樹脂と、織物内に充填したポリウレタン樹脂を同じ材質にすると固着強度が増してより好ましい。その他にも、織物を介さずに抗屈曲エレメントを配設した側に融着して取り付けても構わない。
【0018】
ガイド突起の機能であるガイド性は非常に重要であり、もしガイド突起がないとベルトが蛇行し、ついにはベルトが変形して供給された全ての紙資料を十分に脱水、濃縮することができなくなる。ベルト端部にガイド突起を設ければ、突起が障害物となりベルトがそれ以上内側に行きにくくなる。ガイド突起がベルトの端部に配設されていれば、ベルトが内側、外側へと蛇行しにくくなる。さらにベルト端部のガイド突起が織物ごとロールを抱くように内向きに折れ曲がっていれば、ガイド突起がロール上にさらに乗り上げにくいため、ガイド性能はさらに向上する。
詳しく説明すると、ベルトは2本のロールによって張力が掛けられ、その状態でロールが回転することでベルトが走行する。張力が掛けられると合成樹脂製のフィラメントで製織された織物は一般的に伸ばされるが、同時に伸縮力により縮もうとする力が働く。2本のロールによって張力を掛けられたベルトでは、ベルトの巾がロールの巾と同じか、それよりも狭ければ、ベルトの巾方向の端から端までほぼ均一に張力が掛かった状態となり、ベルト全巾にわたり大きな張力差は生じない。ところが、ベルトの巾がロールの巾よりも広かった場合は、ベルトのロール端部から外側にはみ出た部分はロールに直接張架されないので、織物が縮もうとする力を遮るものがないため、ロールに支持されない部分は周長が縮み、そしてその周長の差からベルトはロール端部から、ロールを抱くように内向きに曲がる。
これは伸縮性のある無端状ベルトが張架された場合に起こる作用であり、ガイド突起や抗屈曲エレメントが配設されていても同じように、ベルトを構成する織物の巾がロール巾より大きければ、ロール端部を境界としてベルトを構成する織物がベルトの耳端部に取り付けられているガイド突起共々ロールを抱くように内向きに曲がる。しかしながら、前述したような従来から使用されている脱水、濃縮用ベルトは、未だベルトの蛇行やそれによる織物の切断が絶えず、よりガイド性の高いベルトが求められているのが事実である。
【0019】
そこで本発明では合成樹脂製の織物の伸縮性を利用し、ガイド突起よりも外側に織物が存在するようにガイド突起を取り付けることで、ガイド性の向上を図った。
ガイド突起よりも外側に織物が存在する本発明のベルトでは、まず他の合成樹脂製のベルトと同じように、ベルトに張力を掛けると織物のロール端部から織物端部までの部分がロール端部の部分を支点に、ガイド突起ごとロールを抱くように内向きに曲がる。そして、それに加えガイド突起より外側に織物が存在するために、さらに内側に向かおうとする力が大きくなる。これは力を与える力点を、支点からより遠い所に位置させることで、作用点に大きな力を生み出させる「てこの原理」と、織物が縮もうとする力を利用したものである。上記で説明したように、ロールにより支持されていなく、且つガイド突起と重なって配置されていない部分の織物の収縮力により、ロールを抱くようにロール端部から内向きに曲がろうとする。その力はロール端部を支点とすると、本発明のベルトは従来のガイド突起の外側端部と織物端部を揃えて取り付けられたベルトよりも力点が遠い位置になるため、結果的に従来よりも大きな内向きに曲がる力となり、ガイド突起がロールに乗り上げにくくなる。もし、ガイド突起の外側端部と織物端部が揃っていた場合、内向きに曲がろうとする力がガイド突起に阻止され、織物は内向きに曲がりにくくガイド性の向上は図れない。
【0020】
ガイド突起の詳細な取り付け位置は、ガイド突起の内側端部を抗屈曲エレメントの内側端部よりも20〜50mm外側、且つガイド突起の外側端部が以下の数式(1)を満たす、織物端部よりもY(mm)以上内側に位置する場所に取り付けることで、上記のようなガイド性の向上がおこる。
【0021】
【数3】

【0022】
数式(1)、および以下に示す各数式では、Yをガイド突起の外側端部から織物端部までの長さ(mm)、Lを無張力状態でのベルトの周長(mm)、2Aを無張力の状態でおおよそ緩みのないように2つのロールに掛け入れたときのロールに接触していない部分のベルトの長さ(mm)、ΔLを使用に適する張力が掛けられた時の織物の伸び量(mm)、Dをロールの直径(mm)、LSを使用に適する張力が掛けられた時のベルトの周長(mm)、LTを使用時の張力が掛けられた状態のベルトのうちロールに支持されていない織物端部の周長(mm)としている。また、Aの正確な値に関しては、ベルト長さとロールの周長から導き出すことができる。
詳しく説明するために図6に各長さの概略を示し、また以下にこの数式(1)を導き出すための数式(2)〜(6)に示した。以下については従来技術のベルトと比較しやすいようにガイド突起の外側端部から織物が内向きに曲がるとして説明する。
まず、無張力状態でのベルトの周長L(mm)を求める。Lは無張力の状態でおおよそ緩みのないように2つのロールに掛け入れたときのロールに接触していない部分のベルトの長さ2Aと、ロールと接している部分の長さπDの総和から求められる。
【0023】
【数4】

【0024】
次に、使用時に必要な程度の張力を掛けた状態のベルトの周長LS(mm)を求める。一般的にベルトは張力が掛けられた方向に伸びる性質があるため、以下の数式(3)のように無張力状態よりもベルトの伸び量ΔLの分だけ長くなる。
【0025】
【数5】

【0026】
そして、上記で説明したように、ガイド突起よりも外側に織物が存在する本発明のベルトでは、ガイド突起より外側にある部分の織物がロールを抱くように内向きに曲がっており、張力の関係から織物端部の周長はガイド突起の外側端部の周長より短くなっている。この時の織物端部の周長LT(mm)は数式(4)のようになる。
【0027】
【数6】

【0028】
ベルトは2つのロールによって直接支持されて張力が掛けられているが、ガイド突起より巾方向外側に存在する部分の織物は、ガイド突起の外側端部から外側に向かうにつれて張力が小さくなっていき、そしてベルトの最端である織物端部ではほぼ無張力の状態と同じであると考えられる。その結果以下の数式(5)が成り立つことになる。
【0029】
【数7】

【0030】
この数式(5)に数式(4)を代入すると数式(6)が成り立つ。
【0031】
【数8】

【0032】
以上から、この数式(6)をYについて解くと数式(1)のようになる。
【0033】
【数9】

【0034】
このYはガイド突起の外側端部から織物端部までの長さ(mm)を表しており、この式によって求められたYが、その条件下でガイド性を向上させるために必要な長さとなる。つまり、ガイド突起の外側端部が織物端部よりもY(mm)以上内側に位置するようにガイド突起を取り付ければ、ガイド性能の向上が見込まれるということになる。
【0035】
また、このような条件でガイド突起を取り付けた時、どの程度ガイド性が向上するかについて以下に説明する。それを説明するにあたり、tを織物の張力(kg/mm)、xを使用に適する張力が掛けられた時の織物の伸び量(変数:mm)、εを織物の伸び係数とした。そして、ガイド突起の外側端部から織物が内向きに曲がる力について説明するために図7〜9にグラフや図を示した。ここでは説明の都合上、ガイド突起の外側端部とロールに支持されている織物の部分では同じ張力が働いていると仮定した。
まず、織物の伸びと張力の関係を近似した図7のグラフより数式(7)を導くことができる。
【0036】
【数10】

【0037】
そして、上記の仮定からガイド突起の外側端部で張力が最大となり、またその時の織物の伸び量ΔLも最大となる。そして、ガイド突起の外側端部から織物端部に向かって行く程張力、織物の伸び量共に小さくなっていき、最終的にベルトの最も外側にある織物端部では張力が0になり、それに伴い織物の伸び量も0となる。これらのガイド突起の外側端部から織物端部間での伸び量の変化については、図8に点線で示されている。図8は図6のロール上の一部を抜粋したものであって、y軸はロールの中心方向に向かって伸びている。図8では織物端部の伸び量をy軸上の0点とし、最高点をガイド突起の外側端部での伸び量とした。
図8の点線で示した織物の伸び量の関係を数式で表したものが以下の数式(8)である。Yがガイド突起の外側端部から織物端部までの織物の長さであり、そのうちy点の部分では織物の伸びがxとなることを示す。
【0038】
【数11】

【0039】
そして、上記数式(7)に数式(8)を代入すると数式(9)のようになる。ここで求められる張力tはロール中心方向に向かう一ライン上の一点での張力であり、図8上においてはy点での張力を示すものであることがわかる。
【0040】
【数12】

【0041】
次にこの一ライン上における、ガイド突起外側端部から織物端部にかかる張力の総和を求める。上記の通りガイド突起の外側端部から織物端部までの長さはYであるため、0からYにかかる張力の総和を数式(9)を利用して導き出すことができる。
【0042】
【数13】

【0043】
数式(10)で求めた総張力Tがガイド突起の外側端部に掛かっていると仮定すると、次にこの総張力がどの程度ロール中心方向に向かう力Pとなっているかを求める。この力Pが大きい程ロール中心方向に向かう力が大きいことを示し、ガイド突起がロールに乗り上げにくくなる。
まず、力Pを求めるためにベルトがロールと接触している微小長さでの力Fを求める。微小長さとは、図9に示すロール角θでのその円周部分の長さ「θ・D/2」をいう。
【0044】
【数14】

【0045】
ここでθ/2が十分小さいことから、数式(12)のように近似することができる。
【0046】
【数15】

【0047】
よって、数式(12)を数式(11)に代入すると数式(13)となる。
【0048】
【数16】

【0049】
次にロールの中心方向への力Pは、力Fを微小長さで除することで求められるため、数式(14)のように表すことができる。
【0050】
【数17】

【0051】
そして、数式(14)に数式(10)を代入する。
【0052】
【数18】

【0053】
数式(15)よりガイド突起の外側端部で、織物がロール中心へ向かおうとする力Pが求められる。もしガイド突起の外側端部と織物端部が揃って取り付けられていれば、織物の伸縮力を利用した内向きの力Pは十分働かないため、ガイド性の向上は図れない。本発明のように収縮性のある織物がガイド突起よりも外側に存在しているため、このような力は作用するのである。
【0054】
以上から、本発明のようにガイド突起を数式(1)を満たす、ガイド突起の外側端部を織物端部よりもY(mm)以上内側に位置する場所に取り付けることで、ガイド性が向上することが理解できる。また、理論上はガイド突起を上記の数式(1)で求めたY(mm)以上織物端部よりも内側に取り付ければよいが、抗屈曲エレメントの配置位置によっても条件が変わってくるため、実際使用されている一般的な脱水、濃縮装置をも鑑みて、ガイド突起の外側端部を織物端部よりも5mm以上内側に、且つガイド突起の内側端部を抗屈曲エレメントの内側端部よりも20〜50mm外側になるように配置すれば少なからず上記のような理論が成り立つ。
ガイド突起の外側端部を織物端部よりもYmm以上内側の位置に取り付けしないと、ガイド突起から外側に出る織物が少なすぎて上記で述べたような、特別なガイド性能が発揮されない。また、ガイド突起の内側端部を抗屈曲エレメントの内側端部よりも20mm以上外側にしないと、最も切断しやすいガイド突起の内側端部と織物の境界、または織物がロール端部と接触する部分に抗屈曲部がかからなくなってしまい、織物の屈曲や切断を防止することができなくなってしまう。また、抗屈曲エレメントは脱水する通水孔を埋めて取り付けるため、ガイド突起の内側端部を抗屈曲エレメントの内側端部よりも50mm以上外側にくるよう取り付けると、ワーク面が小さくなってしまい操業性に問題を来す。また、蛇行可能巾を広げてしまうことになるため、ガイド性能の低下にも繋がる。
以上から、織物巾とロール巾、ガイド突起の取り付け位置、抗屈曲エレメントの取り付け位置は、全てのバランスを考慮して決定する必要がある。
ガイド突起の形状はベルトの蛇行を防止するための案内ガイドとなる形状であればよく断面矩形、円形、三角形、四角形、断面が台形状等の突起であってもよい。ガイド突起は連続した棒状体でも、不連続な何本かの棒状体で形成してもよいが、不連続状とするとインナーロールでの折り返しが一層良好になる。
【実施例】
【0055】
次に本発明を実施例をあげ図面を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
図1は本発明の脱水、濃縮用ベルトを用いた濃縮機の側面図を示している。脱水用ベルト1は2つのロール11に張力が掛けられた状態で掛けられており、紙資料の水溶液12を、資料供給口13からロール11とベルト1の間に向けて供給し、インナーロールとベルト間のニップ圧と高速回転による遠心力を利用して、連続的に紙資料の水溶液からインキ粒子、灰分、紙を形成しない微細繊維、余剰水分等を除去する。故紙等の紙資料の濃縮は製紙とは異なり、資料がベルト上に均一に少量づつ供給されるのではなく、固形分が不均一に分散した状態で放出される。そのため織物に不均一に大きな荷重がかかり、回転する無端状ベルトが斜行するとベルトが変形して裂けてしまうこともある。
そのため、織物2の端部近傍にガイド突起4と、ガイド突起と織物との境界面の織物の切断を防止する目的で抗屈曲エレメント3を設けた(図2参照)。抗屈曲エレメント3とガイド突起4は、織物の両耳端に融着により取り付けた。
本実施例では織物の目の粗い側から抗屈曲エレメントとなるポリウレタン樹脂シートを重ね加熱圧着して溶融させ、織物の内部、そして織物の反対側の表面近傍に到達するくらいまで浸透させる。次いで織物のシートを圧着した反対面からポリウレタン樹脂で成形したガイド突起を加熱圧着し、織物内部で両ポリウレタン樹脂を融着して一体とした。
【0056】
本発明のベルトは紙資料の水溶液を脱水するものであるため、ベルトに使用する織物は図2に示されているような、上層と下層を有する織物が好ましく、一般的には資料供給面は繊維を留めるために線径が小さく目が細かい構造とし、その反対側は水はけをよくするためと、織物剛性を確保するために線径が大きく目の粗い構造とするとよい。特に、本発明では接結糸の内部摩耗による上下層の剥離を防止する目的で、経糸接結糸を用いた2層織物とした。
図3には本発明の織物を構成する経糸接結糸の組と、経糸の組の断面図を示した。下図が経糸の組で、上面側経糸7と下面側経糸8が上下に配置している。そして、図3の上図が上下層を織り合わせる経糸接結糸の組であり、経糸の組を構成する上面側経糸の代わりに、上面側緯糸と下面側緯糸の両方を織り合わせる上経糸接結糸5を配置し、そして下面側経糸の代わりに上面側緯糸と下面側緯糸の両方を織り合わせる下経糸接結糸6を配置したものである。経糸接結糸の組では、これら2本が協働して上面側表面では上面側経糸として機能し、下面側表面では下面側経糸として機能する。この経糸接結糸の組を経糸の組の代わりに、完全組織中に少なくとも1組以上配置してなる。
本実施例では上経糸接結糸と下経糸接結糸からなる上下経糸接結糸の組を用いた織物としたが、上経糸接結糸と下面側経糸からなる経糸接結糸の組としてもよく、また下経糸接結糸と上面側経糸からなる経糸接結糸の組としても構わない。
本発明のように経糸接結糸の他に上面側経糸、下面側経糸が独立して存在すれば、例え経糸接結糸が内部摩耗や表裏面での擦過摩耗により切断しても、組織や機能等が異なる上面側経糸や下面側経糸が存在するため、それらの経糸が縦方向の張力を受け持ち、それ以上多くの縦方向の糸が破断することは少ない。特に本実施例のように下面側経糸に上面側経糸よりも太くて剛性の高い糸を用いれば破断防止効果は向上する。
【0057】
そして、図2に示すように、抗屈曲エレメントの内側端部3bは、ロール11に少しかかるくらいの位置となるようにする。抗屈曲エレメントの内側端部3bがロール端部11aよりも外側にあると、その部分に応力が集中し境目で織物が切断してしまうためである。
図4には、本発明の脱水、濃縮用ベルトのその他の実施例を示した。図2のベルトはガイド突起の外側端部4aが、抗屈曲エレメントの外側端部3aより内側に配置されている例であったが、図4のように、ガイド突起の外側端部4aと、抗屈曲エレメントの外側端部3aを揃えて配置していても構わない。しかしガイド突起は、抗屈曲エレメントが取り付けられた抗屈曲部のうち、ガイド突起の外側端部を織物端部よりもYmm以上内側、且つガイド突起の内側端部を抗屈曲エレメントの内側端部よりも20〜50mm外側に位置する場所に取り付ける必要がある。
というのも、ガイド突起や抗屈曲エレメントが配設されている濃縮用ベルトは、ロールにより張架されると伸縮力によって織物は縮もうとするが、織物のロール端部から外側の部分は直接ロールに張架されていないため、織物のロール端部から織物端部までの部分がロール端部の部分を支点に、ガイド突起ごとロールを抱くように内向きに曲がる。さらに本発明のベルトではそれに加えガイド突起より外側に織物が存在するために、さらに内側に向かおうとする力が大きくなる。これは力を与える力点を、支点からより遠い場所に位置させることで、作用点に大きな力を生み出させる「てこの原理」と、織物が縮もうとする力を利用したものである。つまり、ロールにより支持されていない、織物がガイド突起と重なっていない部分も、ロールを抱くようにロール端部から内向きに曲がろうとするからである。その力はロール端部を支点とすると、本発明のベルトは従来のガイド突起の外側端部と織物端部を揃えて取り付けられたベルトよりも力点が遠い位置になるため、結果的に従来よりも大きな内向きに曲がる力となり、ガイド突起がロールに乗り上げにくくなる。もし、ガイド突起の外側端部と織物端部が揃っていたり、ガイド突起の外側端部が織物端部よりも外側に位置した場合には、力点となる伸縮性のある織物がより遠い位置にないため、本発明のベルトに比べたら内向きに曲がる力が小さく、本発明のベルトよりもガイド性が向上しにくい。
【0058】
た、実際に実機を想定し、数式(1)に数値を入れたときのガイド突起の取り付け位置を求めてみた。
Y:ガイド突起の外側端部から織物端部までの長さ(mm)
L:無張力の状態でのベルトの周長(mm)、L=6140
2A:無張力状態でおおよそ弛みがないように2つのロールに掛けた時のロールに接触していない部分のベルトの長さ(mm)、A=1500
ΔL:ベルトを構成する織物のストレッチ量(mm)、ΔL=30.7mm
【0059】
【数19】

【0060】
以上の式から、ガイド突起の外側端部を織物端部よりも少なくとも2.39mm以上内側で、且つガイド突起の内側端部を抗屈曲エレメントの内側端部よりも20〜50mm外側の位置に融着により固着したベルトとすることで、従来の濃縮用ベルトよりも優れたガイド性能、固着強度等を有する脱水、濃縮用ベルトとなる。
【0061】
次にガイド突起の取り付け位置を変えてガイド性能を比較した試験を行った。ガイド性能のみを比較するため、ガイド突起、抗屈曲エレメントの配置位置を変えただけでその他の条件は同じとした。濃縮機は図1のマシンとほぼ同等な機構のマシンを用い、故紙等の紙資料の水溶液をインナーロールとベルト間に供給し、プレスと円心脱水により脱水、濃縮した。ガイド性の評価としては本実施例のベルトと従来例のベルトを濃縮機のロールに掛け入れて走行させ、紙資料の塊が時々入るような不規則な量、状態の紙原料をベルト上に供給し、特に蛇行が発生したときのベルトのガイド性を確認し評価した。
【0062】
(実施例2)
抗屈曲エレメントの巾は50mmである。
ガイド突起の外側端部を織物端部よりも10mm内側に配置した。
抗屈曲エレメントの外側端部を織物端部よりも5mm内側に配置した。
それ以外は、実施例1と同様にした。
【0063】
(従来例1)
抗屈曲エレメントの巾は50mmである。
ガイド突起の外側端部と抗屈曲エレメントの外側端部と織物端部を揃えて配置した。
それ以外は、実施例1と同様にした。
【0064】
(ガイド性能評価結果)
脱水濃縮機にて本発明のベルトと従来例のベルトをほぼ同条件で使用した結果、いずれも比較的大きな塊の紙資料が供給されるとその原料の重さによりベルトは蛇行するが、本発明のベルトはガイド突起の存在によりしばらくすると蛇行は解消され、その結果数ヶ月間良好に使用された。それに対して、従来例のベルトはベルト上に紙資料の塊が供給されると何回かは蛇行が修正されたが、ついにはガイド突起がロール上に乗り上げ抗屈曲エレメントの内側端部の境目で織物が裂けてしまい、使用不可能となってしまった。
以上の試験結果より、ガイド突起の配設位置を変えることで優れたガイド性能を発現することが明らかとなった。
【0065】
このように、ガイド突起の配設位置を、抗屈曲エレメントを固着させた抗屈曲部のうち、ガイド突起の外側端部を織物端部よりもYmm以上(5mm以上)内側、且つガイド突起の内側端部を抗屈曲エレメントの内側端部よりも20〜50mm外側の位置に融着により固着したベルトとすることで、従来の濃縮用ベルトよりも優れたガイド性能、固着強度等を有する脱水、濃縮用ベルトとなる。
【0066】
次に織物の構造を変えたことによる織物の内部摩耗を比較した試験と、ガイド突起の位置を変えてガイド性能を比較するための試験を行った。
(内部摩耗試験)
内部摩耗のみを比較するために、織物の構造を変えただけでその他の条件は同じとした。濃縮機は図1のマシンとほぼ同等な機構のマシンを用い、故紙等の紙資料の水溶液をインナーロールとベルト間に供給し、プレスと円心脱水により脱水、濃縮した。そして、内部摩耗試験の結果として試験終了後に織物の一部を適当な大きさにカットし、その織物の上下層の間で接結糸を切断して上下層を剥離し、剥離した織物の内部の摩耗を確認した。図10に従来例の上面側層の内部の表面写真を、そして図11に本実施例の上面側層の内部の表面写真を示した。
【0067】
(本発明)
実施例1のベルトを用いた。
上面側経糸と上面側緯糸で構成された上面側層と、下面側経糸と下面側緯糸で構成された下面側層とを、上面側緯糸の上と下面側緯糸の下を通って上下層を織り合わせる経糸接結糸で接結した二層織物で、織物の完全組織が、1本の上面側経糸と1本の下面側経糸が上下に配置した6組の経糸の組と、1組の経糸の組の上面側経糸を上経糸接結糸とし、下面側経糸を下経糸接結糸とした、上経糸接結糸と下経糸接結糸とからなる2組の上下経糸接結糸の組とから構成され、上面側緯糸と下面側緯糸の配置比率が2:1の16シャフトの二層織物。
【0068】
(従来例)
従来例1のベルトを用いた。
上面側経糸と上面側緯糸で構成された上面側層と、下面側経糸と下面側緯糸で構成された下面側層とを、上面側経糸の上と下面側経糸の下を通って上下層を織り合わせる緯糸接結糸で接結した二層織物で、上面側経糸と下面側経糸の両方を織り合わせる接結糸を2本を組にして、緯糸間に緯糸2本に対して緯糸接結糸を1組の割合で配置した、上面側緯糸と下面側緯糸の配置比率が2:1の16シャフトの二層織物。
【0069】
(内部摩耗試験結果)
図10を見るとわかるように、従来例のベルトは接結糸の緩みから織物内部の糸が擦れ、糸が荒れた状態となっている。この状態では接結糸のみならず他の経糸、緯糸も直に摩耗破断してしまうような、かなり摩耗限界に近いレベルであるといえる。また、糸が毛羽立ってしまうと繊維がつまったりして脱水性にも悪影響を与えてしまうことがある。
それに対して、本発明のベルトは図11のように接結糸の緩みが起こらないため、上下層が擦れることがなくほとんど摩耗していないことが見て取れる。経糸接結糸を用いた本発明の織物は従来の織物に比べ内部摩耗が極めて少なく、非常に優れたベルトであるといえる。
以上から、上下層を縦方向に伸びる接結糸で織り合わせる構造の織物を使用することで、上下層間の糸の緩みの発生が生じにくくなり内部摩耗の発生を防止することができる。また、ガイドの取り付け位置を織物端部よりも内側に配置することでガイド性の向上が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、特に新聞紙等の故紙から脱墨、脱灰分等により再生した紙資料の水溶液からインキ粒子、灰分等を除去し、それを脱水したり、パルプ原料を濃縮するためのベルトとして、織物の剥離や織物切断、破断、そしてガイド突起の脱落等がなく、特に故紙等を脱水、濃縮する洗浄機や濃縮機に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】脱水、濃縮用ベルトを用いた濃縮機の側面図である。
【図2】ロール上に張架した本発明のベルトの耳端部の詳細図である。
【図3】本発明のベルトの織物を構成する経糸接結糸の組と経糸の組の断面図である。
【図4】本発明のベルトの他の実施例の耳端部の詳細図である。
【図5】本発明のベルトをロールに掛けた状態のロール上の断面図である。
【図6】2つのロールにかけられているベルトの側面図である。
【図7】ワイヤーの伸びと張力の関係図
【図8】ガイド突起外側端部から織物端部までのワイヤーの伸び量の関係
【図9】微小長さでの力Fの関係図
【図10】内部摩耗試験後の従来例のベルトの上面側層内部表面写真である。
【図11】内部摩耗試験後の本発明のベルトの上面側層内部表面写真である。
【符号の説明】
【0072】
1 脱水用ベルト
2 織物
2a 織物の巾方向端部
3 抗屈曲エレメント
3a 抗屈曲エレメントの外側端部
3b 抗屈曲エレメントの内側端部
4 ガイド突起
4a ガイド突起の外側端部
4b ガイド突起の内側端部
5 下経糸接結糸
6 上経糸接結糸
7 上面側経糸
8 下面側経糸
9 上面側緯糸
10 下面側緯糸
11 インナーロール
11a ロール端部
12 紙資料
13 資料供給口
12 資料取り出し口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂フィラメントで製織した織物からなる無端状織物と、この無端状織物の巾方向耳部の少なくとも一端に配設した抗屈曲エレメントと、ガイド突起とからなる脱水、濃縮用ベルトにおいて、
織物が上面側経糸と上面側緯糸で構成された上面側層と、下面側経糸と下面側緯糸で構成された下面側層とを、上面側緯糸の上と下面側緯糸の下を通って上下層を織り合わせる経糸接結糸で接結した二層織物であって、
抗屈曲エレメントは、抗屈曲エレメントの無端状織物の巾方向中心側端部(以下、内側端部とする)から無端状織物の耳端側端部(以下、外側端部とする)までの巾30mm以上のポリウレタン樹脂製のものであり、該抗屈曲エレメントを織物耳部の織物空間の85%以上に充填することで織物に取り付けて抗屈曲部とし、
ガイド突起はガイド突起の無端状織物の巾方向中心側端部(以下、内側端部とする)から無端状織物の耳端側端部(以下、外側端部とする)までの巾を有するポリウレタン樹脂製のものであり、
ガイド突起を抗屈曲エレメントが取り付けられた抗屈曲部に、ガイド突起の内側端部が抗屈曲エレメントの内側端部よりも外側に、且つガイド突起の外側端部が下記数式1を満たす、織物端部よりもY(mm)以上内側に位置する場所に融着して取り付けてなる、脱水、濃縮用ベルト。
【数1】

ここで、
Y:ガイド突起の外側端部から織物端部までの長さ(mm)
L:無張力状態でのベルトの周長(mm)
2A:無張力状態でおおよそ弛みがないように2つのロールに掛けた時のロールに接触していない部分のベルトの長さ(mm)
ΔL:ベルトを構成する織物のストレッチ量(mm)
【請求項2】
ガイド突起を抗屈曲エレメントが取り付けられた抗屈曲部に、ガイド突起の外側端部を織物端部よりも5mm以上内側に、且つガイド突起の内側端部を抗屈曲エレメントの内側端部よりも20〜50mm外側に位置する場所に取り付けた、請求項1に記載された脱水、濃縮用ベルト。
【請求項3】
二層織物が、1本の上面側経糸と1本の下面側経糸が上下に配置した経糸の組と、
経糸の組のうち上面側経糸を上経糸接結糸とした、上経糸接結糸と下面側経糸とからなる上経糸接結糸の組
及び/または経糸の組のうち下面側経糸を下経糸接結糸とした、下経糸接結糸と上面側経糸とからなる下経糸接結糸の組
とから構成された、請求項1または2に記載された脱水、濃縮用ベルト。
【請求項4】
二層織物が、1本の上面側経糸と1本の下面側経糸が上下に配置した経糸の組と、
少なくとも1組の経糸の組の上面側経糸を上経糸接結糸とし、下面側経糸を下経糸接結糸とした、上経糸接結糸と下経糸接結糸とからなる上下経糸接結糸の組
とから構成された、請求項1または2に記載された脱水、濃縮用ベルト。
【請求項5】
抗屈曲エレメントの外側端部を、織物の端部よりも内側に位置するように取り付けてなる、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の脱水、濃縮用ベルト。
【請求項6】
抗屈曲エレメントの外側端部を、織物の端部よりも外側に位置するように取り付けてなる、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の脱水、濃縮用ベルト。
【請求項7】
抗屈曲エレメントが巾30〜70mm、厚さ1〜3mmのウレタンシートであって、このウレタンシートを織物に加熱圧着して織物の内部空間に充填させたことを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載された脱水、濃縮用ベルト。
【請求項8】
抗屈曲エレメントの内側端部が直線状でないことを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1項に記載された脱水、濃縮用ベルト。
【請求項9】
抗屈曲エレメントの内側端部が波形である、請求項8に記載された脱水、濃縮用ベルト。
【請求項10】
抗屈曲エレメントの内側端部と織物本体との境界に樹脂を塗布してなる、請求項1ないし9のいずれか1項に記載された脱水、濃縮用ベルト。
【請求項11】
合成樹脂フィラメントで製織した織物からなる無端状織物の耳部の少なくとも一端に、抗屈曲エレメントと、ガイド突起を融着により固着した、請求項1ないし10のいずれか1項に記載された脱水、濃縮用ベルトの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−154377(P2007−154377A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353435(P2005−353435)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000229818)日本フイルコン株式会社 (58)
【Fターム(参考)】