説明

脱水システム及び脱水方法

【課題】 膜性能の向上を図った脱水システムを提供する。
【解決手段】 脱水装置1本体内に、液体50を通すための上下に延びる一以上の流路を有する水分離膜の下部に液体入口を、上部に液体出口を有してなる水分離膜部10と、該水分離膜部の外側面と、装置本体内壁とで規定されるシェル部11とを備える脱水装置1であって、液体が該流路を上昇しながら該液体中の水分が該水分離膜を透過して該シェル部に放出されて液体が脱水される脱水装置1と、該シェル部11を減圧する減圧手段13と、該水分離膜部に供給する前の液体を加圧する加圧手段と、加圧した液体を加熱する加熱手段とを備えてなる脱水システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱水システム及び脱水方法に関する。さらに詳しくは、水との共沸組成を持つエタノールやプロパノールと水との混合物、あるいは酸と水との混合物などを効率的に脱水することができる脱水システム及び脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油燃料を代替する燃料源として、エタノールが注目されており、その市場規模は、2010年に5500万キロリットルと予測されている。しかし、メタノールを燃料として採用するためには、トウモロコシ等のバイオ原料から得た粗製物を蒸留精製し、少なくとも99.7wt%以上に脱水しなければならない。
従来、脱水にあたっては、希薄エタノール水溶液を、蒸留塔で蒸留することにより、エタノール/水系の共沸点近くまで濃縮し、次いで脱水するといったことが行われている。
【0003】
脱水するための手法としては、エントレーナを加え、共沸蒸留で脱水する方法がある。しかし、この方法では、三成分系を共沸蒸留し、さらにエントレーナを回収するといった工程を踏む必要があり、多大の熱エネルギーを必要とするといったような幾つかの欠点があった。
【0004】
また、モレキュラーシーブ槽を複数並列し、これらをバッチ切替しながら脱水する方法もある。しかし、この方法でも、モレキュラーシーブ槽の再生に多大なエネルギーを消費するという難点があった。
【0005】
さらに、膜分離器を用いたパーベーパレーション法膜分離により、完全に相互溶解する液体混合物から水を分離する方法が知られている(特許文献1:特開平7−124444号公報)。パーベーパレーション法膜分離は、相互溶解する液体混合物の分離において、分離性のよさ、省エネルギーといった利点を有する。
【特許文献1】特開平7−124444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パーベーパレーション法膜分離は、エタノール燃料等の精製において有望な方法であるが、実用化に向けて、さらなる高性能が求められている。特に、高純度のエタノール無水物等をさらに高い効率で得ることが求められている。
【0007】
水分離膜反応器を用いてパーベーパレーション法膜分離を行う場合に、処理対象となる流体の温度が高いほど水分離膜の膜性能を表す透過フラックス(単位はkg/m2h)が大きくなり、分離性能が良くなることが知られている。しかし、流体の温度を上げて分離性能を向上させるために、液体混合物をガス化するまで加熱すると、気化熱に伴って加熱量が増大するという問題があった。また、液体混合物をガスと液体の混相になるまで加熱すると、キャビテーションにより、膜の破壊が生ずるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、液体混合物を液体状態のまま高温化することにより、上記問題を生ずることなく透過フラックスを増加させ、結果的に膜性能を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、脱水システムであって、脱水装置本体内に、液体を通すための上下に延びる一以上の流路を有する水分離膜の下部に液体入口を、上部に液体出口を有してなる水分離膜部と、該水分離膜部の外側面と、装置本体内壁とで規定されるシェル部とを備える脱水装置であって、該液体が該流路を上昇しながら該液体中の水分が該水分離膜を透過して該シェル部に放出されて液体が脱水される脱水装置と、該シェル部を減圧する減圧手段と、該水分離膜部に供給する前の液体を加圧する加圧手段と、該水分離膜部に供給する前の加圧した液体を加熱する加熱手段とを備えてなることを特徴とする。
ここで、水分離膜部に供給する前の液体を加圧する加圧手段は、脱水装置の前段に設けられたものであってもよく、脱水装置の後段に設けられたものであってもよく、それらの両方であってもよい。脱水装置の後段に設けられた加圧手段も、脱水装置の前段に設けられる加圧手段と同様に液体を加圧された状態で脱水装置に供給することができる。
【0010】
さらに、本発明に係る脱水システムでは、別の形態で、前記脱水装置の後段に、液体の濃度分析装置を備えてなることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明に係る脱水システムでは、別の形態で、前記脱水装置の前段に、前記濃度分析装置に接続された、液体の流量調節装置をさらに備えてなるように構成している。
【0012】
さらに、本発明に係る脱水システムでは、別の形態で、前記脱水装置が二以上の水分離膜部を有し、該脱水装置が二以上直列に接続されており、隣り合う前後の脱水装置を接続する管に、前段の脱水装置から回収された液体を混合する混合機をさらに備えてなるように構成している。
【0013】
本発明は、別の側面で、脱水方法であり、上下に延びる一以上の流路を有する水分離膜の下部入口から上部出口に向けて液体を流し、該水分離膜の外側を減圧して、該液体中の水分を該水分離膜の外側に透過させる脱水方法であって、該液体を加圧下で昇温させた後に該水分離膜に供給することを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係る脱水方法では、別の形態で、脱水された前記液体の無水物濃度または水分濃度を測定し、該濃度に応じて前記水分離膜に供給する液体の量を調節することを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明に係る脱水方法では、また別の形態で、前記水分離膜を、二以上並列して脱水を行う工程と、各水分離膜から回収された液体を混合する工程と、混合された液体をさらに水分離膜を用いて脱水する工程とを含んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、液体を加圧下、高温で水分離膜部に供給することにより、液体のガス化に伴う問題を生ずることなく膜分離性能を増大させ、高い脱水性能を実現する脱水システムおよび脱水方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明に係る脱水装置、脱水システム及び脱水方法について、その実施の形態を参照しながらさらに詳細に説明する。
図1に、本発明に係る脱水システムの一実施の形態を示す。
図1に示す脱水システムは、主たる構成要素として、脱水装置1本体内に、水分離膜部10と、シェル部11と、真空ダクト14とを備えた脱水装置1と、減圧手段13と、昇圧用ポンプ12と、熱交換器16と、圧力調節装置15とを備えている。
【0018】
脱水装置1の水分離膜部10は、脱水装置1本体内にあって、水分離膜10dから構成されており、液体の入口10aが鉛直方向下側に、出口10bが上側にあって、その内部には、液体を通すための上下に延びる一以上の中空部である液体の流路10cが形成されている。シェル部11は、水分離膜部10の側面の外側にある。シェル部11には、真空ダクト14が設けられ、真空ダクト14は減圧装置13に接続されている。
【0019】
水分離膜部10は、無水物と水との混合物である液体50を、無水物と水とに分離する。かかる水分離膜部10としては、様々な形態のものが知られており、市販されている。本実施形態による水分離膜部10としては、一例として、モノリス型のものと、チューブラ型の水分離膜部を用いることができる。
【0020】
図2Aおよび図2Bにモノリス型の水分離膜部110の例を挙げて説明する。図2Bは、図2AのA−Aにおける断面である。モノリス型の水分離膜部は、円柱状の水分離膜110dに複数の液体を通すための上下に延びる一以上の中空部である、液体の流路110cが設けられたものである。かかる水分離膜においては、水分離膜内部の液体の流路110cを、膜の一次側、または供給側といい、水分離膜110dの外側を、膜の二次側、または透過側とよぶ。
【0021】
このような水分離膜部を用いたパーベーパレーション法膜分離においては、水分離膜部110を、好ましくは、流路の方向が鉛直方向と平行になるように設置する。そして、水分離膜部110の透過側を減圧しながら、鉛直方向下側の入口110aから液体50を供給し、重力と逆の向きに流して、鉛直方向上側の出口110bから液体50を回収する。かかる操作により、液体50中の水が、水蒸気51となって、水分離膜110dの側面から、透過側に引き抜かれる。その結果、水分離膜部出口110bから回収される液体50は、脱水されたものとなっている。
【0022】
図示したモノリス型の水分離膜部110は、概略的なものであるが、一例として、直径が30mmの円柱状の水分離膜に対して、直径が3mmの穴を30個設けた水分離膜部を用いることができる。別の例として、直径が150〜200mmの水分離膜部に対して、直径が2mmの穴を200個設けた水分離膜部を用いることができる。水分離膜部の長さは、所望の膜性能に応じて当業者が適宜決定することができるが、一例として、150mmから1mのものを用いることができる。
【0023】
別の例として、図3Aおよび図3Bにチューブラ型の水分離膜部を挙げて説明する。図3Bは、図3AのB−Bにおける断面である。チューブラ型の水分離膜部210は、水分離膜210dの内部に液体の流路210cがひとつだけ設けられたものである。チューブラ型の水分離膜部210も、その設置態様および作用効果は、モノリス型の水分離膜部と同様である。チューブラ型の水分離膜部の一例としては、外径が10mm、内径が7mmのものを用いることができ、別の例としては、外径が30mm、内径が22mmのものを用いることができる。長さは、一例として、150mmから1mのものを用いることができる。
【0024】
水分離膜部を構成する水分離膜の材質としては、無機材でナノオーダーまたはそれ以下の孔径が精密に制御された微細孔多孔膜を用いることができる。微細孔多孔膜は、小分子ガスを通し、大分子ガスを排除する分子ふるい効果を発現し、その透過係数は温度上昇とともに増加する活性化拡散の挙動を示す。微細孔多孔膜の例としては、炭素膜、シリカ膜、ゼオライト膜が挙げられる。本実施形態においては、水分離膜としては、細孔径10オングストローム以下のシリカ系又はゼオライト系の無機水分離膜が好適である。
【0025】
また、特許第2808479号記載の無機水分離膜も適用可能である。該特許第2808479号の無機水分離膜は、無機多孔体の細孔内に、エトキシ基又はメトキシ基を含むアルコキシシランの加水分解を経て得られたシリカゲルを担持することによって得られる耐酸性複合分離膜である。
【0026】
水分離膜部の形態、サイズ、および材質は、使用目的に応じて当業者が適宜選択することができる。本実施形態においては、水分離膜部は、物理的強度に優れた水分離膜材により構成されることが好ましい。水分離膜部内の流路に、加圧された液体を供給して用いるためである。
【0027】
脱水装置1本体内のシェル部11は、水分離膜部10の周囲にあって、水分離膜の透過側にあたり、水分離膜部10の側面から放出される水蒸気51の流路となる部分である。本実施形態においては、シェル部11は、水分離膜部10の側面と、脱水装置1本体の内壁とにより規定される空間部分である。シェル部11は、水分離膜部に供給する前の液体50、または水分離膜部10から回収される液体50が流れ込むことがないように構成されている。
【0028】
シェル部11には、真空ダクト14が設けられる。真空ダクト14は、減圧装置13に接続する接続口である。真空ダクト14は、シェル部11に放出された水蒸気51を回収する。真空ダクト14は、図示するように横向きに設けられてもよく、鉛直方向下向きに設けられてもよく、その向きが限定されるものではない。また、その取り付け位置および数が限定されるものではない。
【0029】
減圧装置13は、シェル部11を減圧して、水分離膜部10から放出された水蒸気51を吸引する手段である。圧力を、10〜100torr(1333.22〜13332.2Pa)程度にまで減圧するものであればよく、通常の減圧ポンプ等を用いることができる。
【0030】
昇圧用ポンプ12は、脱水装置1及び熱交換器16の前段に設けられる加圧手段である。昇圧用ポンプ12は、処理対象となる液体50を所定の圧力にまで加圧するものであって、通常の昇圧用ポンプ等を用いることができる。液体50を、好ましくは2atmから10atmにまで加圧できるものであればよい。
【0031】
熱交換器16は、脱水装置1の前段であって、昇圧用ポンプ12の後段に設けられる加熱手段である。熱交換器16は、その前段の昇圧用ポンプ12等の加圧手段で所定の圧力にまで加圧された液体50を、好ましくは、かかる圧力における共沸点付近であって、共沸点未満の温度にまで昇温する。加熱手段としては、通常の熱交換器、ヒータ等を用いることができる。
【0032】
圧力調節装置15は、脱水装置1の後段に設けられる加圧手段である。圧力調節装置15は、脱水装置1から回収される液体50の圧力を測定し、必要に応じて後段のバルブを開閉して、圧力を所定の値に調節するものである。
【0033】
次に、本実施の形態に係る脱水システムにより液体を脱水する方法の一形態を説明する。本実施の形態に係る脱水システムの対象とする液体50は、一般的には、水と相互溶解する液体および水の混合物である。具体的には、エタノールと水との混合物、プロパノールと水との混合物、又は酢酸などの酸と水との混合物が挙げられる。液体は、原料となる混合物を、蒸留塔やアルコール選択膜で処理して、アルコールまたは酸の濃度を、80〜95wt%としたものである。以下、燃料として有用なエタノールと水との混合物を液体の一例として脱水方法を説明する。本実施の形態に係る脱水装置に供給する液体におけるエタノール濃度は、好ましくは、95wt%である。
【0034】
図1に示すように、95wt%のエタノールと、5wt%の水との混合物である液体50を昇圧用ポンプ12で加圧する。液体の圧力が、常圧より大きくなるように加圧することが好ましく、1.5〜10atmに加圧することが好ましく、2〜3atmに加圧することがさらに好ましい。しかし、加圧の程度は、使用する水分離膜の物理的強度との関係で、当業者が適宜決定することができる。
【0035】
加圧した液体50は、好ましくは熱交換器などで昇温する。液体の温度は、圧力との関係で決定され、所定の圧力において共沸点付近であって共沸点未満の温度とすることが好ましい。例えば、共沸点より10から30℃低い温度から、共沸点未満の温度範囲にまで昇温することが好ましい。また、液体50に含まれる無水物の分解温度より低い温度内となるようにする必要がある。一例として、好ましい処理対象の液体50として挙げられるエタノールと水の混合物においては、供給時の温度は、90〜150℃とすることができる。また、エタノールの分解温度は200℃であるため、エタノールを含む液体50の供給時の温度は、200℃より低い温度である。
【0036】
昇温したあとの液体50は、水分離膜部10の液体入口10aから供給する。液体50の供給流速は、0.5〜1m/secとすることが好ましい。しかし、供給流速は、透過フラックスとの関係で当業者が適宜決定することができる。
【0037】
液体50を水分離膜部10に供給しながら、シェル部11を減圧する。このとき、シェル部11の圧力が、10〜100torr(1333.22〜13332.2Pa)程度となるように減圧することが好ましい。水分離膜の供給側と透過側の差圧により分離を促進するためである。本実施形態では、供給側の液体が加圧されているため、液体50を常圧下で供給する場合と比較して、供給側と透過側の差圧が特に大きくなっており、水分離膜部10からの水蒸気51の透過がより促進されることとなる。
【0038】
液体50は、水分離膜部10の下から上へ流路10cを通過する。このあいだに、流路10cを流れる液体50中の水が、分離膜10dを介してシェル部11へ水蒸気51として取り出される。出口10bから回収される液体50は、含有する水濃度が低下したものとなっている。液体50の圧力は、脱水装置1の後段にある圧力調節装置15により監視し、必要に応じて最適値に調節する。シェル部11へ放出された水蒸気51は、真空ダクト14から回収される。回収された水蒸気51は、その後段で、冷却器で凝縮される。
【0039】
本実施形態では、説明を簡単にするため、一つの水分離膜部を備える脱水装置の形態を図示したが、脱水装置1は、脱水装置本体内に複数の水分離膜部10を並列に接続して備えることができる。この場合、複数の水分離膜部10は、脱水装置本体内に平行に設置することができる。この場合も、シェル部11は、脱水装置本体の内壁と、複数の水分離膜部10の外側面とで規定される一つの連続した空間となっていて、その内部を水蒸気が移動することができる。脱水装置本体内に複数の水分離膜部を並列に接続して設けることにより、一つの脱水装置にて一度に処理する流体の量を増やすことができる。
また、本実施形態では、脱水装置の前段に昇圧用ポンプを、後段に圧力調節装置を設けた形態、すなわち加圧手段が脱水装置の前後に二つ設けられた形態を図示したが、例えば、原料の元圧が高い場合には脱水装置の前段の昇圧用ポンプがなく、後段の圧力調節装置のみで圧力を調節するシステムであってもよい。あるいは、後段の圧力調節装置がなく、前段の昇圧用ポンプのみで圧力を調節するシステムであってもよい。いずれの形態であっても、加圧手段は、脱水装置に供給される液体を加圧された状態とすることができる。
【0040】
また、本実施形態の変形形態として、シェル部11にダクトを介して接続した減圧装置に代えて、シェル部に不活性ガスの供給口と排出口とを設けることもできる。かかる形態においては、シェル部に不活性ガスを流すことにより、図1に示す本実施の形態と同様の作用、効果を得ることができる。不活性ガスとしては、一例として、窒素、アルゴンなどを用いることができる。供給される不活性ガスの流速は、例えば、5〜15m/sec以上とすることが好ましい。
【0041】
さらに、本実施形態の別の変形形態として、シェル部11の上方であって、水分離膜部10の出口10b付近に加熱手段を備え、シェル部11の下方であって、水分離膜部10の入口10a付近に減圧手段に接続されるダクトが設けられているものであってもよく、シェル部11の上方であって、水分離膜部10の出口10b付近に加熱した不活性ガスを供給する機構をさらに備えるものであってもよい。かかる変形形態においては、シェル部11において、上方から下方に向かう熱対流を形成する。そして、熱対流により、水分離膜部10の出口10b付近を流れる液体10を、水分離膜を介してシェル部11から加熱し、水分離膜部10の出口10b付近での透過フラックスを上げることができる。
本実施形態にかかる上下に延びる水分離膜部においては、出口に近づくにつれて水の気化熱により液体の温度が低下し、透過フラックスが下がるという現象がみられる。水分離膜部をシェル部11に設けた加熱手段で加熱することにより、処理対象となる液体の温度の低下を防止し、透過フラックスを高く保つことができる。
【0042】
図1に示す本実施の形態にかかる方法によれば、液体50を加圧して水分離膜反応部10に供給することにより、膜性能を上げることができる。
膜性能は、透過フラックスで評価することができ、透過フラックスは温度に比例することが知られている。図4は、エタノールと水の混合物について、異なる圧力における温度と透過フラックスの関係を概略的に示すグラフである。破線は、常圧における液体混合物の温度と透過フラックスの関係を示す。常圧での液体混合物の共沸点は約80℃であり、それより高い温度ではガスを含んだ状態となる。したがって、常圧で、80℃以上の液体を膜反応部10に供給すると、高い透過フラックスは得られるものの、キャビテーションや加熱量の問題から不利である。実線は、2atmにおける液体の温度と透過フラックスの関係を示す。2atmでの液体混合物の共沸点は約100℃であり、約100℃まで昇温してもエタノールと水の混合物は液体のままである。そして、約100℃付近での透過フラックスは、約80℃付近での透過フラックスより約20%増加するため、水分離性能を上昇させることができる。そして、常圧のときと比較して、供給側と透過側との差圧が大きくなることにより、透過性が約20%増加するという利点もある。
【0043】
このように、水分離膜部10に供給する液体50を、加圧下で共沸点付近であって共沸点未満まで昇温することによって、水分離膜部10において、高い透過フラックスを得ることができ、液体50の気化による問題点を生ずることなく、膜性能を高めることができる。そして、液体50中のエタノール濃度が、燃料に適する99.7wt%以上となるまで脱水することができる。
【0044】
次に、図5に、本発明に係る脱水システムの別の実施の形態を示す。
図5の脱水システムは、主たる構成要素として、脱水装置1と、液体濃度分析装置2、流量調節装置3と、減圧装置13と、昇圧用ポンプ12とを備えている。減圧装置13は脱水装置の1シェル部11に接続されている。液体濃度分析装置2は脱水装置1の後段に設けられている。昇圧用ポンプ12および流量調節装置3は脱水装置1の前段に設けられている。そして、液体濃度分析装置2と流量調節装置3とが接続されている。
【0045】
脱水装置1は、図1について説明した実施の形態、またはその変形形態にかかる装置を用いることができ、同一の構成・作用を持つ。なお、図5に示した脱水装置1は模式的なものであって、液体の流れの向きや、複数の水分離膜部の設置方向や入口及び出口の位置を正確に示したものではない。
【0046】
液体濃度分析装置2は、脱水装置1から排出された液体中の、無水物または水分の濃度を測定する。具体的には、ガスクロマトグラフィー分析装置、密度計などを用いることができる。オンラインで測定することができるものが好ましい。
流量調節装置3は、脱水装置1に供給する液体の量を調節する。流量調節装置3は液体濃度分析装置2からの濃度情報に応じて、脱水装置1に供給する液体の量を増減させるように、バルブ4をコントロールするものを使用することができる。
【0047】
次に、本実施の形態に係る脱水システムにより、エタノールと水の混合物である液体50を脱水する方法の一形態を説明する。
図5に示すように、エタノール濃度が95wt%の液体50は、昇圧用ポンプ12で昇圧され、熱交換器16を経て、脱水装置1に送られる。脱水装置1では、液体50から水が水蒸気51として分離され、エタノール濃度が高くなった液体50が回収される。脱水装置1の後段の液体濃度測定装置であるガスクロマトグラフィー2では、回収された液体中のエタノール濃度または水分濃度を測定する。エタノール濃度または水分濃度の測定は、オンラインで随時行う。そして、ガスクロマトグラフィー2は、測定結果を、ガスクロマトグラフィー2に接続されている流量調節装置3に送信する。流量調節装置3では、エタノール濃度の測定結果に基づいて、脱水装置1に供給する液体50量を調節する。具体的には、エタノール濃度が低いときには、バルブ4を操作して脱水装置1に供給する液体50を低減させるようにする。かかる操作により、脱水装置1の出口の液体50中のエタノール濃度をモニタリングし、流量調節装置3にフィードバックすることで、安定した品質のエタノールを得るシステムを実現することが可能となる。
【0048】
図5に示す本実施形態の変形形態として、液体濃度分析装置のみを含み、流量調節装置を含まない脱水システムとすることもできる。このとき、ガスクロマトグラフィーなどの液体濃度分析装置は、回収されるエタノールの濃度を単にモニタリングすることができ、場合により、例えば水分離膜の取替え時期の指標を得ることができる。
【0049】
図5に係る実施の形態およびその変形形態によれば、液体濃度分析装置2を備えることにより、脱水装置1出口での液体50中のエタノールなどの無水物の濃度、または水分濃度を検出することができるため、安定した品質の無水物を得ることができる。
【0050】
次に、図6に、本発明に係る脱水システムの別の実施の形態を示す。
図6の脱水システムは、主たる構成要素として、第一の脱水装置1と、第二の脱水装置1と、混合機5と、液体濃度分析装置2、流量調節装置3と、減圧装置13と、昇圧用ポンプ12とを備えている。二つの脱水装置1は、管で直列に接続されている。そして、混合機5は、第一の脱水装置の後段であって、第二の脱水装置の前段に設けられる。
【0051】
脱水装置1は、図1について説明した実施の形態、またはその変形形態にかかる装置を用いることができ、同一の構成・作用を持つ。特に、図6に示す脱水システムにおいては、第一の脱水装置1は、装置本体内に複数の水分離膜部10を並列に接続して備える並列処理型のものである。
混合機5は、第一の脱水装置1から回収された、脱水された液体を混合するものである。混合機5としては、管中に設けられた羽根状のものを用いることができる。
【0052】
次に、本実施の形態に係る脱水システムにより、エタノールと水の混合物を脱水する方法の一形態を説明する。
図6に示すように、95wt%のエタノールを含む液体50は、昇圧用ポンプ12で昇圧し、好ましくは熱交換器16で加熱して、第一の脱水装置1に送られる。第一の脱水装置1では、各水分離膜部で液体50から水が水蒸気51として分離され、エタノール濃度が高くなった液体50が回収される。各水分離膜部から回収された液体50は、各水分離膜部の個体差によりエタノール濃度が異なっている場合がある。これらの液体50は、次いで、一つの管に集められて混合機5に供給される。そして、混合機5で十分に混合され、均一の濃度になって、第二の脱水装置1に供給される。第二の脱水装置1では、液体50からさらなる水が水蒸気51として分離され、さらに純度の高い無水エタノールが回収される。
【0053】
本実施形態の変形形態として、三以上の脱水装置が管で直列に接続されているものであってもよい。この場合も、同様に二段目以降の各脱水装置の前段に混合機が設けられる。すなわち、隣り合う二つの脱水装置の間に、混合機が設けられる。また、本実施の形態に係る脱水システムでは、液体濃度測定装置2及び流量調節装置3を含まないものであってもよい。
また、図示する実施形態においては、昇圧用ポンプは、第一の脱水装置の前段にのみ設け、圧力調節装置は第二の脱水装置の後段にのみ設けているが、各脱水装置について、前段に昇圧用ポンプと、後段に圧力調節装置を設けることもできる。
【0054】
図6にかかる実施の形態およびその変形形態によれば、混合機5を備えることにより、複数の水分離膜部を備える脱水装置1において生じうる、各水分離膜部から回収される液体50中の無水物濃度のばらつきをなくし、均一化したうえで、次の脱水装置1に送ることができる。かかる操作がないと、第一の脱水装置1での脱水が無駄になってしまう場合がある。例えば、ある水分離膜部から回収された液体50は無水物濃度が目的濃度以上の99.9%にまで脱水されており、別の水分離膜部から回収された液体50は目的濃度に達しない97.0%にまでしか脱水されなかった場合、混合機5がないと、それらは、そのままの濃度で第二の脱水装置1に供給することになる。このとき、無水物濃度が99.9%の液体50を第二の脱水装置1の水分離膜部に供給し、脱水しても、大きな脱水効果が得られることはなく、処理が無駄になってしまう一方、無水物濃度が97.0%の液体50を第二の脱水装置1水分離膜部に供給し、脱水しても、目的濃度に達することができず、最終的に得られる液体50の無水物濃度が全体として目的濃度に達しないことになる場合がある。これに対し、混合機5で混合することにより、液体50中の無水物濃度を均一化し、第二の脱水装置1に供給した場合、少なくとも無駄な工程は生じず、第一の脱水装置1での脱水効果が次の段階の装置で生かされることになる。このように、混合機5を備えることで、第一の脱水装置1での脱水効果を確実に次の装置に反映させ、総合的な脱水システムとしての安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る脱水システムの一実施の形態を説明する概念図である。
【図2】本発明に係る水分離膜部の一実施の形態を説明する概念図である。
【図3】本発明に係る水分離膜部の他の実施の形態を説明する概念図である。
【図4】液体の温度、圧力及び透過フラックスの関係を示すグラフである。
【図5】本発明に係る脱水システムの他の実施の形態を説明する概念図である。
【図6】本発明に係る脱水システムの他の実施の形態を説明する概念図である。
【符号の説明】
【0056】
1 脱水装置
2 液体濃度測定装置
3 流量調節装置
4 バルブ
5 混合機
10、110、210 水分離膜部
10a、110a、210a 液体入口
10b、110b、210b 液体出口
10c、110c、210c 流路
10d、110d、210d 水分離膜
11 シェル部
12 昇圧用ポンプ
13 減圧装置
14 ダクト
15 圧力調節装置
16 熱交換器
50 液体
51 水蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水装置本体内に、
液体を通すための上下に延びる一以上の流路を有する水分離膜の下部に液体入口を、上部に液体出口を有してなる水分離膜部と、
該水分離膜部の外側面と、装置本体内壁とで規定されるシェル部と
を備える脱水装置であって、該液体が該水分離膜を上昇しながら、該液体中の水分が該水分離膜を透過し、該シェル部に移動して液体が脱水される脱水装置と、
該シェル部を減圧する減圧手段と、
該水分離膜部に供給する前の液体を加圧する加圧手段と、
該水分離膜部に供給する前の加圧した液体を加熱する加熱手段と
を備えてなる脱水システム。
【請求項2】
前記脱水装置の後段に、液体の濃度分析装置を備えてなる請求項1に記載の脱水システム。
【請求項3】
前記脱水装置の前段に、前記濃度分析装置に接続された、液体の流量調節装置をさらに備えてなる請求項2に記載の脱水システム。
【請求項4】
前記脱水装置が二以上の水分離膜部を有し、該脱水装置が二以上直列に接続されており、隣り合う前後の脱水装置を接続する管に、前段の脱水装置から回収された液体を混合する混合機をさらに備えてなる請求項1に記載の脱水システム。
【請求項5】
上下に延びる一以上の流路を有する水分離膜の下部入口から上部出口に向けて液体を流し、該水分離膜の外側を減圧して、該液体中の水分を該水分離膜の外側に透過させる脱水方法であって、
該液体を加圧下で昇温させた状態で該水分離膜に供給する脱水方法。
【請求項6】
脱水された前記液体の無水物濃度または水分濃度を測定し、該濃度に応じて前記水分離膜に供給する液体の量を調節する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記水分離膜を、二以上並列して脱水を行う工程と、
各水分離膜から回収された液体を混合する工程と、
混合された液体をさらに水分離膜を用いて脱水する工程と
を含んでなる請求項5または6に記載の脱水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−221176(P2008−221176A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66287(P2007−66287)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】