説明

脱水加工食品およびその製法

【目的】含水率の高い食品原料を、常温のまま、油を用いずに脱水加工して長期保存可能にした脱水加工食品およびその製法を提供する。
【構成】含水率4.5重量%以上の常温食品原料を脱水してなる脱水加工食品であって、食品表面全体が、二糖類糖アルコールおよび還元澱粉分解物の少なくとも一方を50重量%以上含有する糖アルコールによって均一な脱水層に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、脱水加工食品およびその製法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、軽い歯ざわりを特徴とする、いわゆるスナック菓子のような脱水加工食品(この食品は、狭義の「食品」だけではなく、菓子類等の嗜好品や果物,野菜等をも含む広義の「食品」を意味する)の需要が伸びている。
【0003】また、昨今の健康ブームを反映し、甘味を抑えたおやつとして果物の薄切りをそのまま揚げたような食品も好まれるようになっている。
【0004】これらの脱水加工食品は、食品原料を、加熱した油で揚げることにより得られるもので、この工程によって、ぱりっとした軽い歯ざわりのものになると同時に、食品原料に含まれる水分が脱水されて、保存性の高い食品となる。
【0005】しかしながら、上記のような従来の脱水加工食品は、いずれも油で揚げられており、経日とともにその油の酸化が起こるため、異臭を生じ、風味が劣化するという問題を有している。また、油による食品原料処理の際、食品原料の表面に焦げや火ぶくれができて食品の外観を損なったり、水分の多い食品原料を用いた場合には、油が撥水性なので激しい油のはねを生じ作業性が悪いという問題もある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】このように、上記従来の脱水加工食品は、いずれも脱水処理に油を用いるため、油の酸化等種々の問題を生じており、その改善が強く望まれている。
【0007】一方、ピーナッツのようなナッツ製品を、単糖類糖アルコールであるマンニットとソルビットの混合溶融物で被覆することにより見栄えをよくし、かつ長期保存を可能にする方法が提案されている(特公昭48−14061号公報)。そこで、上記単糖類糖アルコールの混合溶融物を油の代替品として用いることも考えられるが、上記単糖類糖アルコールのうち、マンニットは、溶融温度が高く、溶融温度(165〜168℃)未満で結晶化(110〜115℃)するため、予め食品原料を空炒りしてその表面温度を高め(121〜135℃)ておかないと、ナッツ類の表面に付着した溶融液のうちマンニットが即座に固化して皮膜にむらが生じるという不具合がある。このため、空炒りを行って食品表面を高温にするか、あるいは常温のままの食品を瞬時に糖アルコール浴中に浸すか糖アルコール液を噴霧しなければならない。しかしながら、上記のように空炒りを行うと、食品の種類によっては過剰な熱履歴を受けることになるため、食品本来の風味や色調が損なわれるという問題がある。また、食品を糖アルコール液に瞬時に浸したり糖アルコール液を噴霧する場合には、均一な皮膜をまんべんなく形成することができず、部分的に脱水が不充分な個所が残るため、得られた食品の保存性が悪くなるという問題を有する。しかも、ソルビットを含有する上記単糖類糖アルコール混合物の固化によって形成された皮膜は、経時的に吸湿してべたつきやすかったり、皮膜が溶けて食品原料が露出するおそれがある。
【0008】本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、含水率の高い食品原料を常温のまま、油を用いずに脱水加工して長期保存可能にした脱水加工食品およびその製法の提供をその目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明は、含水率4.5重量%以上の常温食品原料を脱水してなる脱水加工食品であって、食品表面全体が、二糖類糖アルコールおよび還元澱粉分解物の少なくとも一方を50重量%以上含有する糖アルコールによって均一な脱水層に形成されている脱水加工食品を第1の要旨とし、含水率4.5重量%以上の食品原料を準備し、二糖類糖アルコールおよび還元澱粉分解物の少なくとも一方を50重量%以上含有する糖アルコールを加熱溶融したのち、この溶融糖アルコール浴中に、上記食品原料を常温のまま完全に浸漬し、その状態を所定時間保つことにより上記食品原料を脱水する脱水加工食品の製法を第2の要旨とする。
【0010】
【作用】すなわち、本発明者らは、脱水加工食品の製法、特に脱水工程に使用する油に代えて他の材料を用いた脱水加工食品の開発について研究を重ねた結果、油に代えて、二糖類糖アルコールおよび還元澱粉分解物の少なくとも一方を50重量%(以下「%」と略す)以上含有する特殊な糖アルコールを用いると、食品の表面全体が均一に脱水され、極めて保存性に富む、全く新しいタイプの脱水加工食品が得られることをつきとめ、本発明に到達したのである。
【0011】つぎに、本発明を詳細に説明する。
【0012】本発明の脱水加工食品は、従来のように表面層が油の層で形成されているのではなく、二糖類糖アルコールおよび還元澱粉分解物の少なくとも一方を50%以上含有する糖アルコールで形成されているのであり、これが大きな特徴である。
【0013】ここに、糖アルコールとは、糖のアルデヒド基およびケトン基を還元してそれぞれ第1,第2アルコール基とした構造を有する多価アルコールのことをいい、例えば、単糖類糖アルコールであるD−ソルビット,マンニットや、二糖類糖アルコールであるマルビット、さらには水飴等の還元澱粉分解物等があげられる。ただし、本発明において用いる糖アルコールには、必ず、上記二糖類糖アルコールおよび還元澱粉分解物の少なくとも一方が、50%以上含有されていなければならない。すなわち、二糖類糖アルコールおよび還元澱粉分解物の少なくとも一方の含有割合が50%未満の糖アルコールでは、単糖類糖アルコールが主となるため、すでに述べたように、食品に対する脱水力が乏しいのみならず、食品表面に形成された皮膜が吸湿してべたついたり溶けて食品を露出させたりして不適当である。特に、単糖類糖アルコール、例えばマンニットの溶融物は、常温の食品と直接接触させると即座に固化して皮膜がでこぼこになって滑らかにならなかったり、食品原料の形状によっては表面全体にゆきわたらず未脱水部分が残り、保存性が悪いため、本発明に用いるには不適当である。
【0014】なお、本発明の脱水加工食品は、上記糖アルコールによって形成された表面脱水層を有するが、この表面脱水層の態様としては、食品原料表面を皮膜化して被覆する被覆層の態様と、糖アルコールが食品原料の表面層に浸透してそこに層を形成する態様の2種類の態様がある。
【0015】また、本発明の対象となる食品原料としては、いわゆるスナック菓子の原料であるスナック生地や、アーモンドのような種子類,果実類,野菜類,魚介類,肉類,練りもの等があげられる。これらは、単独で用いてもよいし、あるいは併用してもよい。そして、これらは、予め空炒りする等の前処理が不要で、含水率が4.5%以上であっても、常温のまま上記糖アルコールの溶融物と接触させることにより脱水することができる。したがって、本発明では、含水率が4.5%以上の常温食品原料を脱水することを対象とする。
【0016】本発明の脱水加工食品は、例えばつぎの2種類の方法により製造することができる。まず、第1の方法は、上記所定の糖アルコールと、食品原料を準備し、上記糖アルコールを加熱溶融し、この溶融糖アルコール浴中に食品原料を、常温のまま、しかも食品全体が漬かるよう浸漬し、所定時間保持して脱水処理し、ついで脱水された食品原料を溶融糖アルコール浴から取り出し、液切りを行うという方法であり、第2の方法は糖アルコールと食品原料とを混合し、これを加熱し糖アルコールを溶融させ脱水処理を施すという方法である。
【0017】これらの食品原料は、糖アルコールによって、食品表面全体が均一に脱水処理されているため、口中に入れて咀嚼した際、ぱりっとした歯ざわりが得られる。しかも、油を用いて処理されないため、油の酸敗による悪臭を生じることがない。そして、食品原料が充分に脱水されており、また、その表面脱水層が吸湿しにくいので、きわめて保存性,商品性の高い加工食品となる。
【0018】なお、上記第1および第2の方法において、糖アルコールが食品原料の表面に形成する表面脱水層の厚さ,甘さは用いる糖アルコールの種類,配合によって決まり、例えば糖アルコール中の二糖類糖アルコールあるいは還元澱粉分解物の割合が高ければ高いほど、表面脱水層が比較的厚く、好ましい甘味を有する脱水加工食品が得られる。
【0019】また、溶融糖アルコールと食品原料の接触温度は、用いる食品原料の種類等によって調整されるが、少なくとも用いる糖アルコールの融点以上で、かつ100℃以上でなければならない。糖アルコール類の融点よりも低い温度では、糖アルコール類が液相とならず、食品の表面に対し脱水層を均一に形成することができないのであり、100℃より低ければ食品原料中に含有される水分を沸騰させて蒸発除去することができず、脱水処理の目的を果たし得ないのである。
【0020】上記の接触により食品原料は、糖アルコールによってつぎのように脱水される、と考えられる。すなわち、上記のように水の沸点たる100℃以上に加熱された溶融糖アルコール中に食品原料を入れて接触させると、食品原料中に含有される水分が沸騰し、食品原料の外へ水蒸気となって出る。ところが、食品原料は完全に糖アルコール浴内に浸漬されているため、食品原料の表面は全て溶融糖アルコールと接触しており、この溶融糖アルコールが水溶性であるため、上記水蒸気は、一旦溶融糖アルコールに吸収され、その後、溶融糖アルコール浴の液面から空気中に放出される、と考えられる。
【0021】したがって、従来の油を使用した脱水処理では、含水量の高い食品原料を処理すると撥水性である油中に一度に多量の水蒸気が放出されるため水や油のはねが激しく作業に危険性が伴うのに対し、本発明の脱水処理によれば、このようなはねは生じず、穏やかに脱水処理することができるという利点を有する。
【0022】また、油による脱水処理で得られる脱水加工食品は、食品表面が焦げたり、火ぶくれになることがあるが、本発明の脱水加工食品は、油におけるような急激な脱水処理を受けないため、上記のような不良品を生じることがない。
【0023】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、脱水処理工程において油を用いず、二糖類糖アルコールおよび還元澱粉分解物の少なくとも一方を50%以上含有する特殊な糖アルコールを用いるため、従来の脱水加工食品のように油の酸敗による異臭の発生を心配する必要がなく、また上記糖アルコールが吸湿しにくく、極めて保存性,商品性に優れた脱水加工食品を提供することができる。そして、脱水処理中に、水や油のはねを生じないので安全に作業を進めることができる。しかも、得られる脱水加工食品は、口中で咀嚼した際に、ぱりっとした歯ざわりを有するだけでなくその表面が焦げたり火ぶくれになったりしていず、視覚的にも味覚的にも極めて良好な加工食品である。
【0024】さらに、本発明によれば、用いる糖アルコールが特殊であり、含水率の高い常温の食品原料と接触させてもその一部が即座に固化するようなことがないため、滑らかで均一な脱水層を形成することができる。そして、用いる糖アルコールの種類と配合によって、脱水加工の際、脱水と同時に好ましい甘味を付与することもできる。
【0025】また、食品原料に対し、空炒り等の予備加熱を施す必要がないため、熱履歴が最小限に抑えられ、より優れた風味と外観を有する脱水加工食品が得られるという利点を有する。
【0026】つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【0027】
【実施例1,比較例1】生アーモンド(1粒1.2g、含水率4.7%)を用い、180℃に加熱溶融した糖アルコール溶液(単糖類糖アルコールであるD−ソルビットと、二糖類糖アルコールであるマルビットとを50%ずつ配合)中に3分間浸漬し、てんぷらを作る要領で揚げる。つぎに、これを糖アルコール溶液から取り出し、金網上に広げて放置することにより脱水加工アーモンドを得た(実施例1)。
【0028】一方、上記糖アルコール溶液に代えてサラダ油を用いる外は全く実施例1と同様にして脱水加工アーモンドを得た(比較例1)。
【0029】このようにして得られた実施例品と比較例品について、温度55℃で10日間放置したのち、両者の変化を観察した。その結果、比較例品は油の酸敗による異臭を放っていたが、実施例品は何ら変化が認められなかった。したがって、実施例品の保存性は油を使うものに比べてずつと高いことがわかる。
【0030】
【実施例2、比較例2,3】実施例1と同様にして脱水加工アーモンドを得た。ただし、糖アルコールとして、下記の表1に示すように、単糖類糖アルコールであるD−ソルビット,マンニットと、二糖類糖アルコールであるマルビットの中から選び、表1に示す割合で用いた。
【0031】このようにして得られたアーモンド(前記実施例1品も含む)について、1粒に付着して脱水層を形成する糖アルコールの量を測定した。また、アーモンド表面が均一に脱水されているかどうかについて目視により観察した。そして、上記アーモンドをパネラー10名に喫食させ、糖アルコールの種類による甘味の影響を調べた。また、30℃,湿度70%の雰囲気下で3日間放置したのち表面層の吸湿状態を観察した。そして、その結果を表1に併せて示した。
【0032】
【表1】


【0033】上記表1の結果から、実施例品は、食品原料への糖アルコールの付着量が多く、脱水効果のみならず、好ましい甘味が付与されることがわかる。そして、単糖類を用いた比較例2,3品が吸湿しているのに対し、本発明の実施例品は吸湿しておらず、保存安定性に優れていることがわかる。さらに、単糖類のなかでもマンニットを多く含む比較例3品は、吸湿が著しいだけでなく、食品表面で部分的にマンニットが固化してむらのある皮膜になっており、皮膜が全く形成されていない部分や非常に薄い部分があって脱水層が均一に形成されていなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 含水率4.5重量%以上の常温食品原料を脱水してなる脱水加工食品であって、食品表面全体が、二糖類糖アルコールおよび還元澱粉分解物の少なくとも一方を50重量%以上含有する糖アルコールによって均一な脱水層に形成されていることを特徴とする脱水加工食品。
【請求項2】 含水率4.5重量%以上の食品原料を準備し、二糖類糖アルコールおよび還元澱粉分解物の少なくとも一方を50重量%以上含有する糖アルコールを加熱溶融したのち、この溶融糖アルコール浴中に、上記食品原料を常温のまま完全に浸漬し、その状態を所定時間保つことにより上記食品原料を脱水することを特徴とする脱水加工食品の製法。