説明

脱水素プロセスを改善する方法

本発明は、ラジアル型脱水素反応器から第1の脱水素触媒のある容積を除去すること;反応器に、第1の脱水素触媒より低い減少速度を有する第2の脱水素触媒のある容積を装填すること;および脱水素可能な炭化水素を反応器に導通させることを含み、第2の触媒の容積は除去された触媒の容積の多くとも90%である、脱水素プロセスを改善する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱水素プロセスを改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脱水素プロセスシステムの効率を改善する試みが継続的になされている。重要な目的の1つは、最適な運転期間の後に触媒が除去されることを確保することである。最適な運転期間の前に触媒が除去される場合、触媒は使用されない残留活性を有する。最適な運転期間の後に触媒が除去される場合、システムは最適な転化率未満においてしばらくの間操作される。ほとんどの場合、運転期間は外部要因により決定されるので、この目的はこの運転期間の間の触媒使用を最大化することになる。
【0003】
U.S.Patent Application Publication2002/0065442は、脱水素プロセスシステム性能を改善する方法を記載している。この出願公開は、触媒床の第1の環形垂直層内に収容される活性触媒材料および触媒床の第2の環形垂直層内に収容される不活性材料を含む輪状の環形の垂直型触媒床の使用を開示している。この刊行物は、触媒床の厚さが好ましくは4から36インチ、好ましくは6から24インチ、最も好ましくは約18インチであり、18インチから48インチの厚さを有する典型的な脱水素触媒床より薄いことを開示している。使用される脱水素触媒は、任意の慣用の市販または専売の脱水素触媒である。
【0004】
この刊行物は、薄型触媒床の使用が触媒床にわたる圧力降下を減らすことを開示している。薄型床はより小量の触媒を収容し、このことが触媒床の生産の低下をもたらす。さらに、触媒は時間とともに失活し、より小量の触媒を有する反応器を操作することは運転期間の低下をもたらす。
【0005】
触媒床にわたる圧力降下の低減を達成するが運転期間の低下または触媒性能の低下を回避する、脱水素システムを改善する方法を提供することが有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0065442号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ラジアル型(radial)脱水素反応器から第1の脱水素触媒のある容積を除去すること;反応器に、第1の脱水素触媒より低い減少速度を有する第2の脱水素触媒のある容積を装填すること;および脱水素可能な炭化水素を反応器に導通させることを含み、第2の触媒の容積は除去された触媒の容積の多くとも90%である、脱水素プロセスを改善する方法を提供する。
【0008】
本発明はまた、脱水素反応器内中の0.1から0.8℃/月の減少速度を有する脱水素触媒の一部を不活性材料により交換すること、および脱水素可能な炭化水素を含む供給物を反応器中に導入することを含み、反応器に入る供給物は触媒に接触してから不活性材料に接触し、および不活性材料にわたる圧力降下は脱水素触媒の交換された部分にわたる圧力降下より小さい方法を提供する。
【0009】
本発明はさらに、第1の触媒が予め除去され、および第2の触媒が装填され、第2の触媒は第1の触媒より低い減少速度を有し、および第2の触媒の容積は第1の触媒の容積の多くとも90%であるラジアル型反応器内で、脱水素可能な炭化水素を脱水素する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】脱水素反応において使用することができるラジアル型反応器を示す図である。
【図2】9の蒸気/油のモル比において操作される2種のアルキル芳香族脱水素システムの性能を示す図である。
【図3】7の蒸気/油のモル比において操作される2種のアルキル芳香族脱水素システムの性能を示す図である。
【図4】触媒の層および不活性材料の層を収容するラジアル型反応器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
脱水素可能な炭化水素を脱水素する方法は、典型的には、脱水素可能な炭化水素および蒸気を脱水素触媒と接触させて対応する脱水素された炭化水素を生成させることを含む。
【0012】
脱水素プロセスにより形成される脱水素された炭化水素は、一般式:
C=CH
を有する化合物
(式中、RおよびRは、アルキル、アルケニルもしくはフェニル基または水素原子を独立して表す。)である。
【0013】
脱水素可能な炭化水素は、一般式:
HC−CH
を有する化合物
(式中、RおよびRは、アルキル、アルケニルもしくはフェニル基または水素原子を独立して表す。)である。
【0014】
好適なフェニル基は、1個以上のメチル基を置換基として有することができる。好適なアルキル基は、一般に、1分子当たり2から20個の炭素原子、好ましくは3から8個の炭素原子を有し、例えばn−ブタンおよび2−メチルブタンが該当する。好適なアルキル置換基は、プロピル(−CH−CH−CH)、2−プロピル(即ち、1−メチルエチル、−CH(−CH)、ブチル(−CH−CH−CH−CH)、2−メチル−プロピル(−CH−CH(−CH)およびヘキシル(−CH−CH−CH−CH−CH−CH)であり、特にエチル(−CH−CH)である。好適なアルケニル基は、一般に、1分子当たり約4から約20個の炭素原子、好ましくは1分子当たり4から8個の炭素原子を有する。
【0015】
脱水素可能な炭化水素は、アルキル置換されているベンゼンであり得るが、他の芳香族化合物、例えばアルキル置換されているナフタレン、アントラセンまたはピリジンも同様に適用することができる。好適な脱水素可能な炭化水素の例は、ブチル−ベンゼン、ヘキシルベンゼン、(2−メチルプロピル)ベンゼン、(1−メチルエチル)ベンゼン(即ち、クメン)、1−エチル−2−メチル−ベンゼン、1,4−ジエチルベンゼン、エチルベンゼン、1−ブテン、2−メチルブタンおよび3−メチル−1−ブテンである。本発明の方法によりn−ブタンを1−ブテンを介して1,3−ブタジエンに転化させること、および2−メチルブタンを第三級アミレンを介してイソプレンに転化させることが可能である。
【0016】
本方法により生成させることができる脱水素された炭化水素の例は、ブタジエン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、イソプレンおよびスチレンである。
【0017】
脱水素プロセスは、気相プロセスであることが多く;プロセスにおいては、反応物質を含むガス状供給物を固体触媒と接触させる。触媒は、触媒粒子の流動床の形態で、または充填床の形態で存在することができる。このプロセスは、回分プロセスとして、または連続プロセスとして実施することができる。水素は、脱水素プロセスのさらなる生成物であり得、該脱水素は非酸化的脱水素であり得る。この脱水素プロセスを実施するための適用可能な方法の例は、参照により本明細書に組み込まれるU.S.5,689,023;U.S.5,171,914;U.S.5,190,906;U.S.6,191,065およびEP1027928に見出すことができる。
【0018】
蒸気の形態であり得る水を供給物の追加成分として適用することが有利である。水の存在により、脱水素プロセスの間に触媒上にコークスが堆積する速度が低下する。供給物中の水/脱水素可能な炭化水素のモル比は、典型的には1から50、より典型的には3から30、例えば5から10の範囲内である。
【0019】
脱水素プロセスは、典型的には500から700℃、より典型的には550から650℃、例えば600℃から640℃の範囲内の温度において実施される。一実施形態において、脱水素プロセスは、等温的に実施される。別の実施形態において、脱水素プロセスは、断熱式で実施され、この場合、温度は反応器入口温度であり、脱水素が進行するにつれ温度が典型的には最大150℃だけ、より典型的には10から120℃だけ低下し得る。絶対圧は、典型的には10から300kPa、より典型的には20から200kPaの範囲内、例えば50kPaまたは120kPaである。
【0020】
所望により、1基、2基またはこれを超える数の反応器、例えば3基または4基の反応器を使用することができる。反応器は、直列または並列において操作することができる。反応器は、互いに独立して操作してもよいし、互いに独立して操作しなくてもよく、各反応器は同一条件下で、または異なる条件下で操作することができる。
【0021】
脱水素プロセスを充填床反応器を使用する気相プロセスとして操作する場合、LHSVは、好ましくは0.01から10h−1の範囲内、より好ましくは0.1から2h−1の範囲内であり得る。本明細書において使用される「LHSV」という用語は液空間速度を意味し、この速度は、標準条件(即ち、0℃、1bar(絶対))において計測される炭化水素供給物の液体容積流量を触媒床の容積で、または触媒床の全容積(2個以上の触媒床が存在する場合)で割ったものと定義される。
【0022】
脱水素プロセスの条件は、脱水素可能な炭化水素の転化率が20から100モル%、好ましくは30から80モル%、またはより好ましくは35から75モル%の範囲内になるように選択することができる。
【0023】
触媒の活性(T65)は、脱水素プロセスにおける脱水素可能な炭化水素の転化率が65モル%である所与の操作条件下の温度と定義される。従って、より活性の高い触媒は、より活性の低い触媒より低いT65を有する。対応する選択率(S65)は、転化率が65モル%である温度における所望生成物への選択率と定義される。
【0024】
脱水素された炭化水素は、任意の公知手段により脱水素プロセスの生成物から回収することができる。例えば、脱水素プロセスは、分留蒸留または反応蒸留を含むことができる。所望により、脱水素プロセスは、生成物の少なくとも一部を水素化に供する水素化段階を含むことができ、この段階により脱水素の間に形成された任意の副生物の少なくとも一部が脱水素された炭化水素に転化される。水素化に供される生成物の部分は、副生物中に濃縮された生成物の一部であり得る。このような水素化は当分野において公知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれるU.S.5,504,268;U.S.5,156,816;およびU.S.4,822,936から公知の方法が本発明に容易に適用可能である。
【0025】
脱水素プロセスの好ましい一実施形態は、スチレンを形成するためのエチルベンゼンの非酸化的脱水素である。この実施形態は、一般に、エチルベンゼンおよび蒸気を含む供給物を、触媒を収容する反応帯域に約500℃から約700℃の温度において供給することを含む。蒸気は、一般に、供給物中に、約7から約15の蒸気/炭化水素のモル比において存在する。または、このプロセスは、約1から約7、好ましくは約2から約6という低い蒸気/炭化水素のモル比において実施することができる。このプロセスは、典型的には、スチレンの他に副生物、例えばフェニルアセチレンおよびα−メチルスチレンを小量生成する。α−メチルスチレンは、スチレンが後に重合されるときに鎖停止物質として作用するので不所望な副生物である。
【0026】
脱水素プロセスの別の好ましい実施形態は、スチレンを形成するためのエチルベンゼンの酸化的脱水素である。この実施形態は、一般に、エチルベンゼンおよび酸化剤、例えば、酸素、ヨウ化物、硫黄、二酸化硫黄または二酸化炭素を、触媒を収容する反応帯域に約500℃から約800℃の温度において供給することを含む。酸化的脱水素反応は発熱性であるので、反応はより低い温度および/またはより低い蒸気/油の比において実施することができる。
【0027】
脱水素プロセスの別の好ましい実施形態は、イソプレンを形成するためのイソアミレンの脱水素である。この実施形態は、一般に、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテンおよび3−メチル−1−ブテンを含む混合イソアミレン供給物を、触媒を収容する反応帯域に約525℃から約675℃の温度において供給することを含む。このプロセスは、典型的には、大気圧において実施される。蒸気は、一般に、供給物に、約13から約31の蒸気/炭化水素のモル比において添加される。
【0028】
脱水素プロセスの別の好ましい実施形態は、ブタジエンを形成するためのブテンの脱水素である。この実施形態は、一般に、1−ブテンおよび2−ブテン(シスおよび/またはトランス異性体)を含む混合ブチレン供給物を、触媒を収容する反応帯域に約500℃から約700℃の温度において供給することを含む。
【0029】
これらの脱水素プロセスのほとんどが吸熱性を示すので、転化率および選択率を維持するために要求される温度を維持するために追加の熱入力が望ましいことが多い。熱は、反応帯域の前、反応帯域の間(2つ以上の帯域が存在する場合)、または反応帯域に直接加えることができる。
【0030】
好適な加熱方法の好ましい実施形態は、慣用の熱交換器の使用である。プロセス流は、第1のまたは任意の後続の反応器に入る前に加熱することができる。好ましい熱源は、蒸気および他の加熱されたプロセス流を含む。
【0031】
好適な加熱方法の別の好ましい実施形態は、参照により本明細書に組み込まれるU.S.7,025,940に記載の無炎分散燃焼(flameless distributed combustion)加熱器システムの使用である。
【0032】
好適な加熱方法の別の好ましい実施形態は、接触または非接触酸化的再加熱である。この加熱方法のタイプの実施形態は、参照により本明細書に組み込まれるU.S.4,914,249;U.S.4,812,597;およびU.S.4,717,779に記載されている。
【0033】
脱水素プロセスにより生成された脱水素された炭化水素は、重合プロセスおよび共重合プロセスにおいてモノマーとして使用することができる。例えば、得られたスチレンは、ポリスチレンおよびスチレン/ジエンゴムの生成において使用することができる。より低コストの触媒を用いて本発明により達成される触媒性能の改善は、脱水素された炭化水素を生成させるより魅力的なプロセスを導き、従って、脱水素された炭化水素を生成させることおよび脱水素された炭化水素のモノマー単位を含むポリマーおよびコポリマーの製造における脱水素された炭化水素の後続の使用を含むより魅力的なプロセスを導く。
【0034】
この脱水素プロセスを実施するための脱水素反応器は、図1に示すラジアル型反応器であり得る。脱水素反応器10は、典型的には、頂部または底部における供給物入口12および供給物入口と反対側の端部における生成物出口14が垂直に配置されている。図1は、頂部における供給物入口12および底部における生成物出口14を有する下降流反応器を示すが、この反応器は上昇流反応器として操作することもできる。
【0035】
反応器10は、3つの帯域:供給帯域16、反応帯域18および流出帯域20を含む。供給物は、供給物入口12を通り供給帯域16中に入る。次いで、供給物は、脱水素触媒を含む反応帯域18を導通する。次いで、脱水素反応の生成物は、流出帯域20中を通過し、次いで生成物出口14を介して反応器から取り出される。
【0036】
反応帯域18は、1種以上の脱水素触媒を含む。さらに、反応帯域18は、以下により詳細に記載される1種以上の不活性成分を含むことができる。
【0037】
図1に示す矢印は、反応器中央部(供給帯域16)から反応器側部(流出帯域20)へ向かう反応物質の流れを示す。または、反応器は、反応物質が反応器側部から反応帯域18を通り反応器中央部に流れるように操作することができる。この配置において、帯域16は流出帯域になり、帯域20は供給帯域になる。
【0038】
脱水素触媒は、炭化水素の脱水素を提供する任意の好適な触媒組成物であり得る。脱水素触媒組成物の好ましい例は、酸化鉄、例えば、スチレンをもたらすためのエチルベンゼンの脱水素において使用される酸化鉄系の脱水素触媒を含む。触媒は、酸化カリウムをさらに含むことができる。
【0039】
酸化鉄系の脱水素触媒の酸化鉄は、酸化鉄、例えば黄色酸化鉄(針鉄鉱、FeOOH)、黒色酸化鉄(磁鉄鉱、Fe)および赤色酸化鉄(赤鉄鉱、Fe)(合成赤鉄鉱または再生酸化鉄を含む。)などの任意の1種以上を含む種々の形態であり得、または酸化カリウムと組み合わせてカリウムフェライト(KFe)を形成することができ、または酸化カリウムと組み合わせて式(KO)・(Feにより表される鉄およびカリウムの両方を含有する相の1種以上を形成することができる。
【0040】
典型的な酸化鉄系の脱水素触媒は、10から90重量パーセントの鉄(Feとして計算)および最大40重量パーセントのカリウム(KOとして計算)を含む。酸化鉄系の脱水素触媒は、通常は酸化物の形態である1種以上の助触媒金属をさらに含むことができる。これらの助触媒金属は、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mn、Tc、Re、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、Sb、Bi、S、Se、Teおよびこれらの任意の2種以上の混合物からなる群から選択することができる。助触媒金属のうち、Ca、Mg、Mo、W、Ce、La、Cu、Cr、Vおよびこれらの任意の2種以上の混合物からなる群から選択されるものが好ましい。Ca、Mg、W、MoおよびCeが最も好ましい。
【0041】
好ましい酸化鉄系の脱水素触媒は、40から90重量パーセントの鉄(Feとして計算)、5から30重量パーセントのカリウム(KOとして計算);2から20重量パーセントのセリウム(Ceとして計算);1から10重量パーセントのモリブデン(MoOとして計算);および1から10重量パーセントのアルカリ土類金属(酸化物として計算)を含む。
【0042】
脱水素触媒として使用される典型的な酸化鉄系の脱水素触媒の記載は、U.S.Patent Publication No.2003/0144566A1;U.S.Patent No.5,689,023;U.S.Patent No.5,376,613;U.S.Patent No.4,804,799;U.S.Patent No.4,758,543;U.S.Patent No.6,551,958B1;およびEP0,794,004B1を含む特許刊行物に見出すことができ、このような特許刊行物の全ては参照により本明細書に組み込まれる。
【0043】
触媒は、当業者に公知の任意の方法により調製することができる。例えば、酸化鉄、アルカリ金属またはこの化合物、銀またはこの化合物および任意の追加の触媒成分を含むペーストを形成することができる。これらの触媒成分の混合物は磨砕および/もしくは混練し、またはこれらの成分のいずれかの均一もしくは不均一溶液を酸化鉄上に含浸させることができる。各成分の十分量は、調製されるべき触媒の組成物から計算することができる。適用可能な方法の例は、参照により本明細書に組み込まれるU.S.5,668,075;U.S.5,962,757;U.S.5,689,023;U.S.5,171,914;U.S.5,190,906、U.S.6,191,065およびEP1027928に見出すことができる。
【0044】
触媒成分は、任意の好適な形態、例えば、タブレット、球体、ピル、鞍形、三葉形、捩れた三葉形、四葉形、環形、星形、中空および中実円筒体、ならびにU.S.Patent Apllication Publication2005/0232853に記載の非対称に浅裂のある粒子のペレットに成形することができる。水の好適な量、例えば、最大30重量%、典型的には2から20重量%(混合物の重量に対して計算)の添加は、ペレットへの成形を容易にすることができる。水が添加される場合、水は、か焼前に少なくとも部分的に除去することができる。好適な成形方法は、ペレット化、押出および加圧である。ペレット化、押出または加圧に代えて、混合物を噴霧または噴霧乾燥させて触媒を形成することができる。所望により、噴霧乾燥をペレット化およびか焼を含むように拡張することができる。
【0045】
触媒の成形および/または押出方法に助剤として作用する追加の化合物、例えば、飽和もしくは不飽和脂肪酸(例えば、パルミチン酸、ステアリン酸またはオレイン酸)またはこの塩、多糖から誘導された酸もしくはこの塩、またはグラファイト、デンプンもしくはセルロースを混合物と組み合わせることができる。脂肪酸または多糖から誘導された酸の任意の塩、例えば、アンモニウム塩または上記の任意の金属のいずれかの塩を適用することができる。脂肪酸は、この分子構造内に6から30個の炭素原子(両端の数を含む。)、好ましくは10から25個の炭素原子(両端の数を含む。)を含むことができる。脂肪酸または多糖から誘導された酸が使用される場合、この酸を触媒の調製において適用される金属塩と組み合わせて脂肪酸または多糖から誘導された酸の塩を形成することができる。追加の化合物の好適な量は、例えば、混合物の重量に対して最大1重量%、特に0.001から0.5重量%である。
【0046】
触媒混合物は、形成後に乾燥させ、か焼することができる。乾燥は、一般に、触媒を約30℃から約500℃、好ましくは約100℃から約300℃の温度において加熱することを含む。乾燥時間は、一般に、約2分間から5時間、好ましくは約5分間から約1時間である。か焼は、一般に、触媒を、典型的には不活性な、例えば窒素もしくはヘリウム中で、または酸化雰囲気、例えば酸素含有ガス、空気、酸素濃縮空気もしくは酸素/不活性ガス混合物中で加熱することを含む。か焼温度は、典型的には、少なくとも約600℃、または好ましくは少なくとも約700℃、より好ましくは少なくとも825℃、最も好ましくは少なくとも880℃である。か焼温度は、典型的には、高くとも約1600℃、または好ましくは高くとも約1300℃である。典型的には、か焼の持続時間は、5分間から12時間、より典型的には10分間から6時間である。
【0047】
低減少速度の触媒が開発されており、参照により本明細書に組み込まれるU.S.Patent Apllication Publication2006−0106269に開示されている。「安定」な、または「低減少速度」の脱水素触媒は、ある規定の標準反応条件下で使用された場合に平均して高くとも0.7℃/月である減少速度を示す触媒と定義される。減少速度は、好ましくは平均して高くとも0.6℃/月、より好ましくは平均して高くとも0.5℃/月である。
【0048】
減少速度は、転化率を一定に保持するために増加しなければならない平均反応器出口温度の量と定義され、1ヵ月当たりの摂氏度で表現される。転化率を維持するためのこの温度増加は、触媒の失活に起因して要求される。
【0049】
安定な、または低減少速度の脱水素触媒は、主として、これらの組成によるのでなく、これらの低減少速度により他の脱水素触媒と区別される。しかしながら、他の脱水素触媒と比較したこれらの低減少速度特性は、要求されるものではないが、組成の差異に起因し得る。
【0050】
減少速度を決定するため、脱水素反応器中に導入される供給混合物の温度は、脱水素可能な炭化水素の転化率65パーセントを提供するように調節される。減少速度は、この期間の間65パーセントの一定の転化率を維持するために必要な供給混合物温度の平均増加により決定される。減少速度は、時間経過(1ヵ月)当たりのT(65)の変化(例えば、ΔT(65)/Δ時間)または℃/月として表現される。
【0051】
慣用の脱水素触媒は、低減少速度を有するタイプのものであるとみなされず、低減少速度脱水素触媒の特性を示さない。慣用の脱水素触媒は、低減少速度脱水素触媒の減少速度より高い減少速度を示す。より高い減少速度は、慣用の脱水素触媒がより低い減少速度を有する触媒より大きい速度で使用されることにより失活する傾向があり、こうしてほとんど安定でないことを意味すると解される。従って、慣用の脱水素触媒は、平均して0.7℃/月を超える減少速度を示すが、より典型的には、この減少速度は平均して少なくとも0.75℃/月、最も典型的には、減少速度は平均して少なくとも0.8℃/月である。
【0052】
図2および3は、エチルベンゼン脱水素反応器中に使用される2種の異なる触媒の減少速度を示し:一方は低減少速度触媒であり、他方は慣用触媒である。図中のデータは、触媒の商業的運転からのものであり、平均プラント条件に正規化されている。図2は、2種の触媒の触媒減少速度を示し:Bは低減少速度触媒であり、Aは慣用触媒であり、9の蒸気/油のモル比、0.45hr−1のLHSV、65%のエチルベンゼン転化率および9psiaの平均システム圧において操作される。図3は、2種の触媒の触媒減少速度を示し:Dは低減少速度触媒であり、Cは慣用触媒であり、7の蒸気/油のモル比、0.45hr−1のLHSV、65%のエチルベンゼン転化率および9psiaの平均システム圧において操作される。
【0053】
触媒の減少速度は、反応器が触媒交換のために操作停止が必要とされる前にいかに長く反応器を操作することができるかを決定するので、触媒の重要な特徴である。触媒が失活するにつれ、反応器入口温度は一定の転化率を維持するために増加される。以下、運転終了と称される時間において、安全性および/または経済的考慮に起因して、温度をさらに増加させることはできない。典型的なエチルベンゼン脱水素プロセスシステムについて、運転終了は、通常、反応器入口温度が650℃に達したときに生じる。
【0054】
運転期間は1ヵ月から72ヵ月であり得、これより長いことも考えられる。慣用触媒が装填されている反応器は、典型的には6ヵ月から36ヵ月、より典型的には12ヵ月から24ヵ月の運転期間を有する。触媒交換の間は反応器を操作停止させるので、可能であれば反応器の運転期間を延長する経済的利点が存在することは明らかである。運転期間は、外部要因、例えば要求されるプラント維持に起因して延長することができないことが多いので、別の可能性は、運転期間を維持するが、より小量の触媒を使用することである。
【0055】
低減少速度触媒は、脱水素プロセスシステムの操作を改善するために使用することができる。一実施形態において、慣用触媒の一部または全部を脱水素反応器から除去し、低減少速度触媒を装填する。以下に記載する通り、装填される低減少速度触媒の容積は、除去された慣用触媒の容積より小さい。
【0056】
第1に、慣用触媒を脱水素反応器から除去する。この慣用触媒は、部分的にまたは完全に失活していてよい。次いで、反応器に低減少速度触媒を装填する。装填された低減少速度触媒の容積は、第1の段階において除去された慣用触媒の容積より小さい。低減少速度触媒の容積は、慣用触媒の容積の多くとも90%、好ましくは多くとも75%、より好ましくは除去された慣用触媒の容積の多くとも50%であり得る。
【0057】
低減少速度触媒の質に起因して、反応器に慣用触媒が装填される場合より小量の触媒が要求される。既存の反応器を使用する場合、このことは、触媒床中に間隙をもたらす。触媒は、好ましくは、触媒が触媒床の頂部から底部に存在するように装填される。このことは、2つの輪状の層を有する触媒床をもたらし、一方は触媒を有し、他方は空隙であってもよいし、当業者に公知の任意の不活性材料が充填されていてもよい。触媒は、スクリーンまたは他のデバイスにより適所に保持することができる。不活性材料は、反応または触媒性能を促進または阻害することによる脱水素反応に対して顕著な影響を有しない任意のものである。
【0058】
図4は、低減少速度触媒および不活性材料を収容する反応器の実施形態を示す。この反応器は、図1に示す反応器に類似するが、反応帯域18は2つの帯域:触媒帯域22および不活性帯域24に分割されている。
【0059】
不活性材料は、好ましくは、触媒床にわたる圧力降下の低減をもたらす反応器中に存在する触媒より大きい直径を有する材料である。圧力降下は、たとえ不活性材料が触媒よりわずかに大きい直径を有するにすぎない場合であっても低減される。
【0060】
反応器にわたる圧力降下を低下させることにより、反応器を、エチルベンゼン脱水素反応システムにおけるスチレンへの選択率の増加をもたらすより低い平均圧力において操作することができる。低減少速度触媒の容積がこのとき交換されている慣用触媒の容積の75%である場合、達成される選択率は、約0.3%超であり得る。低減少速度触媒の容積がこのとき交換されている慣用触媒の容積の50%である場合、達成される選択率は約0.5%超であり得る。
【0061】
反応物に入る供給物は最初に不活性物または触媒に接触することができるが、最初に触媒に接触させることが供給物にとって好ましい。供給物が最初に不活性物に接触する場合、供給物が脱水素反応温度にあるので不所望な熱反応が生じ得る。脱水素反応は、典型的には吸熱性であるので、供給物は、好ましくは最初に触媒に接触し、温度低下をもたらしてから供給物が不活性材料に接触する。
【0062】
さらに、本発明の方法は、低減少速度触媒が完全装填により装填された反応器に適用することができる。このような反応器は、通常、触媒が除去されるときに廃棄される残留活性を伴ってこの運転を終える。触媒をより完全に使用することができるように、触媒の容積を減らした触媒床を装填することが、より経済的である。このことは、以下の仮想例の使用を介してより詳細に記載する。
【0063】
以下の仮想例は、本発明を説明するために提供するが、これらの例は本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0064】
(比較例1)
本比較例は、触媒Aとして図2に記載の0.9℃/月の減少速度を有する、ラジアル型反応器中の仮想慣用エチルベンゼン脱水素触媒の操作を記載する。触媒を、9の蒸気/油のモル比、0.45hr−1のLHSV、65%のエチルベンゼンモル転化率および9psiaの平均システム圧において操作する。本比較例は、650℃の最大反応器入口温度を想定する。反応器触媒床には慣用触媒を充填させる。65%の転化率を提供するために必要な反応器入口温度を、3ヵ月および24ヵ月において評価した。データを表1に示し、このデータは、反応器が24ヵ月において運転条件の終了に達することを示す。
【0065】
(比較例2)
本比較例は、慣用触媒の全容積が除去され、反応器に触媒Bとして図2に記載の仮想低減少速度触媒が充填されている図1に記載の反応器について一定の65%の転化率を維持するための3ヵ月および24ヵ月におけるラジアル型反応器の入口温度を評価する。この触媒は、0.6℃/月の減少速度を有した。温度の他に可変的な全てのプロセスは、比較例1と同一とした。結果を表1に示し、結果は、24ヵ月において触媒の残留活性が依然として存在することを示す。
【0066】
(実施例3)
本実施例は、慣用触媒の全容積が除去され、反応器に比較例2に記載の触媒と同一の低減少速度触媒が75%充填されている比較例1の反応器について一定の65%の転化率を維持するための3ヵ月および24ヵ月における反応器の入口温度を評価する。このことは、この反応器中の触媒の容積が比較例1および2において使用された触媒の容積の75%であることを意味する。温度の他に可変的な全てのプロセスは、比較例1と同一とした。結果を表1に示し、結果は、24ヵ月においていくらかの残留触媒活性が依然として存在することを示す。
【0067】
(実施利4)
本実施例は、慣用触媒の全容積が除去され、反応器に比較例2に記載の触媒と同一の低減少速度触媒が50%充填されている比較例1の反応器について一定の65%の転化率を維持するための3ヵ月および24ヵ月における反応器の入口温度を評価する。温度の他に可変的な全てのプロセスは、比較例1と同一とした。結果を表1に示し、結果は、反応器が運転条件の終了に達したことを示す。
【0068】
これらの実施例から理解することができる通り、慣用触媒充填型の反応器または低減少速度触媒50%充填型の反応器を使用して24ヵ月の同一の運転期間を達成することが可能である。または、比較例2および実施例3の反応器は、入口温度が650℃の最大温度に達する前に24ヵ月の運転期間より長く操作することができた。実施例3および4の3ヵ月におけるより高い入口温度は、より高い液空間速度を補うために要求される。
【0069】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジアル型脱水素反応器から第1の脱水素触媒のある容積を除去すること;
反応器に、第1の脱水素触媒より低い減少速度を有する第2の脱水素触媒のある容積を装填すること;および
脱水素可能な炭化水素を反応器に導通させること
を含み、
第2の触媒の容積は除去された触媒の容積の多くとも90%である、
脱水素プロセスを改善する方法。
【請求項2】
第2の触媒の容積が、除去された触媒の容積の多くとも75%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の触媒の容積が、除去された触媒の容積の多くとも50%である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
不活性材料を反応器中に装填する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
脱水素可能な炭化水素が触媒に接触してから不活性材料に接触する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
不活性材料にわたる圧力降下が、除去された触媒にわたる圧力降下より小さい、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
第1の触媒の減少速度が、第2の触媒の減少速度の少なくとも1.1倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
第1の触媒の減少速度が、第2の触媒の減少速度の少なくとも1.5倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
第1の触媒の減少速度が、第2の触媒の減少速度の少なくとも1.8倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
第2の触媒の活性が、0.1から0.8℃/月の速度において低下する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
第1の触媒の活性が、0.8℃/月超の速度において低下する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
脱水素プロセスが、アルキル芳香族脱水素プロセスである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
脱水素反応器中の0.1から0.8℃/月の減少速度を有する脱水素触媒の一部を不活性材料により交換すること、および脱水素可能な炭化水素を含む供給物を反応器中に導入することを含み、反応器に入る供給物は触媒に接触してから不活性材料に接触し、および不活性材料にわたる圧力降下は脱水素触媒の交換された部分にわたる圧力降下より小さい方法。
【請求項14】
安定な脱水素触媒の活性が、0.4から0.6℃/月の速度において低下する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
第1の触媒が予め除去され、および第2の触媒が装填され、第2の触媒は第1の触媒より低い減少速度を有し、および第2の触媒の容積は第1の触媒の容積の多くとも90%であるラジアル型反応器中で、脱水素可能な炭化水素を脱水素する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−516559(P2011−516559A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504118(P2011−504118)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/039733
【国際公開番号】WO2009/126601
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】