説明

脱燐用アルミニウム材およびその製造方法

【課題】燐酸等に対する吸着作用を示す物質は粉末状であったため、被処理液の処理に際しては、吸着体を処理液中に分散させ処理後に固形分と液体を分離するために濾過するか、若しくはバインダー物質を用いて造粒する等した後、造粒体の粒径よりも小さな穴を備えた適当な容器に吸着体を詰める等して固定する必要があった。
【解決手段】多孔質のアルミニウム材を60〜90℃の熱水中に30分〜3時間浸漬させる熱水処理を施した後、300〜650℃で1〜24時間保持する加熱処理を施し、表面に燐酸を吸着する皮膜を設けたことを特徴とする脱燐用アルミニウム材、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は河川や湖沼等水中に含まれる燐を吸着し、除去するために使用される脱燐用アルミニウム材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川や湖沼等の水中に含まれる燐酸あるいは燐酸塩を除去するために、各種脱燐剤が提案されている。例えば、珪酸カルシウムをシリカゾル等のバインダーを加えて成形する脱燐剤の製造方法(特許文献1参照)や、鉱山から排出される鉄、アルミニウムを多く含む鉱水のpHを調整して沈殿させた沈殿物を回収し、水に不溶性の樹脂で固めた脱燐剤を製造する方法(特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−192663号公報
【特許文献2】特開2000−342960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術は燐酸等に対する吸着作用を示す物質が粉末状であるため、被処理液の処理に際しては、吸着体を処理液中に分散させ処理後に固形分と液体を分離するために濾過するか、若しくはバインダー物質を用いて造粒する等した後、造粒体の粒径よりも小さな穴を備えた適当な容器に吸着体を詰める等して固定する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は鋭意検討の結果、純アルミニウムあるいはアルミニウム合金(以下、アルミニウム材とする。)の表面に燐酸吸着作用を有する皮膜を形成させる表面改質を施すことで、バインダーを使用することなく、そのまま水中に投入して利用できる脱燐用吸着体を開発するに至った。
【0006】
また、アルミニウム材の形状を揃えておくことで、吸着体が破過した際にカートリッジの要領で吸着体を交換することができる。
【0007】
すなわち、請求項1記載の第1の発明は、アルミニウム材に熱水処理および、前記熱水処理に続いて加熱処理を施し、表面に燐酸を吸着する皮膜を設けたことを特徴とする脱燐用アルミニウム材である。また、請求項2記載の第2の発明は、前記アルミニウム材が多孔質構造であることを特徴とする請求項1に記載の脱燐用アルミニウム材である。
【0008】
更に請求項3記載の第3の発明は、アルミニウム材を60〜90℃の熱水中に30分〜3時間浸漬させる熱水処理を施した後、300〜650℃で1〜24時間保持する加熱処理を施し、表面に燐酸を吸着する皮膜を設けたことを特徴とする脱燐用アルミニウム材の製造方法である。そして、請求項4記載の第4の発明は、前記アルミニウム材が、多孔質構造であることを特徴とする請求項3に記載の脱燐用アルミニウム材の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、アルミニウム材の表面に燐酸吸着作用を有する皮膜を形成させることで、バインダーを使用することなく、表面処理したままで水中に投入して利用できる脱燐用アルミニウム材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(a)脱燐用アルミニウム材
本発明の脱燐用アルミニウム材は、熱水処理および、前記熱水処理に続いて加熱処理を施すことで表面に燐酸吸着に適した皮膜を形成させたアルミニウム材である。
【0011】
(b)アルミニウム材
本発明に使用されるアルミニウム材の合金組成は特に限定されず、純アルミニウム又はアルミニウム合金が好適に用いられる。アルミニウム合金としては、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系が用いられる。また、アルミニウム材の機能を高めるために、適宜微量元素を添加したアルミニウム合金を使用してもよい。アルミニウム材は表面に加工油等の汚れが付着しているものもあることから、表面改質を行う前に脱脂等を行い、表面を清浄化することが好ましい。脱脂剤としては水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性水溶液の他、市販の薬剤を使用することができる。
【0012】
(c)多孔質アルミニウム材
本発明の脱燐用アルミニウム材の脱燐作用は、アルミニウム材表面に設けた燐酸吸着能を有する皮膜の反応によるものであるから、脱燐の性能は使用するアルミニウム材の表面積に大きく依存する。従って、本発明で使用するアルミニウム材は比表面積の大きな多孔質アルミニウム材が特に好ましい。多孔質アルミニウム材とは、外部環境と繋がった多数の孔を有するアルミニウム材のことを指し、例えば押し固めたアルミニウムの粉末や線を焼き固めた焼結体、アルミニウム線を用いて織った金網、多孔質の鋳型を用いて鋳造により作製したスポンジ状アルミニウム材、アルミニウムの板や箔を加工して作製したハニカム状アルミニウム材、エキスパンドメタル、パンチングメタル等が挙げられる。また、上記に挙げた構造体がアルミニウム以外の物質で構成され、その表面がアルミニウム材で覆われた多孔質体を使用することもできる。上述のとおり、燐酸吸着体として利用する上では比表面積の大きなものが好ましく、アルミニウム粉末の焼結の際にアルミニウム粉末にスペーサー材を混ぜ、焼結時若しくは焼結後にスペーサー材を除去して意図的に孔を形成させた多孔質アルミニウム焼結体が特に好ましいが、多孔質アルミニウム材を上記焼結体に限定するものではない。このアルミニウム焼結体はスペーサー材として樹脂粒や水溶性の塩等を使用し、アルミニウム粉末と所定の割合で混合した混合粉末を任意の形状に加圧成形した後、大気中、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気中、又は真空中においてアルミニウム粉末の融点付近の温度で焼結することで作製できる。スペーサー材として樹脂粉末を使用した場合にはスペーサー材は焼結時に除去され、水溶性の塩を使用した場合には焼結後、焼結体を水に浸漬させることでスペーサーが除去され多孔質アルミニウム材ができる。比較的比表面積の小さい金網やエキスパンドメタル、パンチングメタル等の板状のアルミニウム材を使用する際には、単板では燐酸吸着量が期待できないことから重ねる等して使用することが好ましい。
【0013】
(d)表面改質方法
アルミニウム材の表面改質はアルミニウム材を熱水中に浸漬させる熱水処理を施した後、続いて加熱処理を施すというように、二段階の処理を経てなされる。一段階目の熱水処理において、アルミニウム材表面に水和酸化皮膜が形成される。熱水処理に特に好ましい処理温度が60〜80℃であることから、燐酸の吸着にはベーマイト(Al・HO)よりもバイヤライト(Al・HO)主体の皮膜の方が好ましい。二段階目の加熱処理を施すことで水和酸化皮膜の一部の水酸基が脱離すると共に、処理温度が上昇するにつれて結晶化が進む。加熱処理時に減少した水酸基は水中に投入することでアルミニウム材表面の皮膜に再び形成される。この際に形成される水酸基が熱処理前の皮膜に比べて高い燐酸吸着能を示す。
【0014】
(e)熱水処理方法
熱水処理はアルミニウム材を60〜90℃、好ましくは60〜70℃の熱水に30分〜3時間浸漬させることで行われる。アルミニウム材を浸漬させる水には、イオン交換水や蒸留水等を使用できる。
【0015】
燐酸の吸着は皮膜表面の水酸基がHを取り込んで正に帯電することで、これが負に帯電している燐酸イオン(中性付近ではHPO2−)と結びつき、吸着が為されると考えられている。熱水の温度が60℃より低い場合、燐酸吸着に有効な皮膜が形成されず、熱処理を施しても十分な燐酸吸着量が得られない。一方、熱水の温度が90℃を超えると水和酸化皮膜のベーマイト化が進行するが、これに伴って燐酸吸着量が減少するため上限は90℃とした。熱水処理後、熱処理を施す前に乾燥してもしなくても構わない。熱水処理時間が30分を下回る場合、皮膜の形成が不十分で燐酸吸着能が劣る。一方で熱水処理時間が3時間を越えた場合、それ以上処理時間を延ばしても燐酸吸着能が変化しないことから処理時間の上限は3時間とした。
【0016】
(f)加熱処理方法
加熱処理は熱水処理を施したアルミニウム材を300〜650℃、好ましくは350〜600℃で1〜24時間保持することで行われる。加熱処理温度が300℃より低い場合、熱水処理時に形成された水和酸化皮膜に由来する水酸基の脱離が不十分で、十分な燐酸吸着能が得られない。加熱処理温度が650℃より高い場合、比表面積(つまり、単位重量あたりの面積)が減少し、燐酸吸着量が減少する。また、アルミニウム材の融点付近に達することで軟化および融解のために形状のひずみといった問題が生じる。加熱処理時間が30分より短い場合、十分な燐酸吸着能の向上効果が得られない。一方、加熱処理時間を24時間より長くした場合、燐酸吸着能がそれ以上変化しないことから処理時間の上限は24時間とした。
【実施例】
【0017】
以下に実施例及び比較例に基づいて、本発明の実施態様を具体的に説明する。
【0018】
(実施例1〜15及び比較例1〜9)
金属粉末として、粒径約3μmの純アルミニウム粉末と、粒径約500μmの塩化ナトリウム粉末を使用し、体積比で純アルミニウム粉末:塩化ナトリウム=1:9の割合で混合した混合物を調整した。この混合粉末を金型に充填し、10tonの荷重を掛け、φ13mm×t10mmの大きさに加圧成形した。加圧成形した圧粉体に対して650℃で3時間保持する熱処理を施した後、流水中に浸漬させることで塩化ナトリウムを除去し、多孔質アルミニウム材を作製した。前記多孔質アルミニウム材に対し、表面改質として表1に記載した熱水処理と加熱処理を施し、その燐酸吸着能の評価を行った。
【0019】
【表1】

【0020】
(a)燐酸吸着量の測定
イオン交換水に燐酸二水素ナトリウムを溶かして燐酸濃度を100ppmとした100mlの水溶液中に、表面改質を施した多孔質アルミニウム材を一週間浸漬させ、浸漬後の燐酸濃度をイオンクロマトグラフで測定した。測定結果から多孔質アルミニウム材の単位重量当たりの燐酸吸着量を求め、下記基準で評価した。
◎:4mg−PO/g≦浸漬後燐酸量
○:3.5mg−PO/g≦浸漬後燐酸量<4mg−PO/g
×:浸漬後燐酸量<3.5mg−PO/g
◎及び○を合格とし、×を不合格とした。
【0021】
評価結果を、表1に示す。表1に示すように、実施例1〜15ではいずれも燐酸吸着量が合格であった。
【0022】
比較例1では、表面改質が為されていないために吸着性の皮膜が形成されておらず、燐酸吸着量が少なかった。
比較例2では、加熱処理が為されていないために皮膜の吸着能が不十分で、燐酸吸着量が劣った。
比較例3では、燐酸吸着能を発揮する皮膜の下地となる水和酸化皮膜が形成されていないため、加熱処理を施しても燐酸吸着量が少なかった。
比較例4では、水熱処理の温度が低いために水和酸化皮膜が形成されず、燐酸吸着量が少なかった。
比較例5では、熱水処理の温度が高過ぎたために水和酸化皮膜のベーマイト化が進み、燐酸吸着量が劣った。
比較例6では、熱水処理時間が短過ぎたために十分な厚さの皮膜が形成されず、燐酸吸着量が劣った。
比較例7では、加熱処理温度が低過ぎたために水和酸化皮膜の脱水が進まず、燐酸吸着量が劣った。
比較例8では、加熱処理温度が高過ぎたために皮膜の結晶化の進行と共に表面積が減少し、燐酸吸着量が劣った。
比較例9では、加熱処理時間が短過ぎたために水和酸化皮膜の脱水が進まず、燐酸吸着量が劣った。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明による脱燐用アルミニウム材は、アルミニウム材に比較的単純な処理を施すことで作製でき、また、吸着体自体を簡単に交換できることから、河川や湖沼の燐酸塩の濃化による富栄養化を防ぐ手段として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純アルミニウムあるいはアルミニウム合金(以下、アルミニウム材とする。)に熱水処理および、前記熱水処理に続いて加熱処理を施し、表面に燐酸を吸着する皮膜を設けたことを特徴とする脱燐用アルミニウム材。
【請求項2】
前記アルミニウム材が多孔質構造であることを特徴とする請求項1に記載の脱燐用アルミニウム材。
【請求項3】
アルミニウム材を60〜90℃の熱水中に30分〜3時間浸漬させる熱水処理を施した後、300〜650℃で1〜24時間保持する加熱処理を施し、表面に燐酸を吸着する皮膜を設けたことを特徴とする脱燐用アルミニウム材の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム材が、多孔質構造であることを特徴とする請求項3に記載の脱燐用アルミニウム材の製造方法。

【公開番号】特開2012−96177(P2012−96177A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246316(P2010−246316)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】