説明

脱皮後、発芽させたハトムギからなる食品素材又は食品及び該発芽ハトムギの製造方法

【課題】高い含量のGABAを含むとともに、グルタミン酸及び/又は糖類を豊富に含むことにより、嗜好性に優れ、且つハトムギの原形を維持した食品素材又は食品とすることにより他の食品との差別性を有する食品素材又は食品を提供すること。また、高い発芽率を有し、効果的に腐敗微生物の増殖を抑制することができるとともに、高い栄養価を維持した発芽ハトムギの製造方法を提供すること。
【解決手段】脱皮後、発芽させたハトムギからなる食品素材又は食品であって、前記ハトムギ中のGABA(γ-アミノ酪酸)の含量が2.8mg/100gを超えることを特徴とする食品素材又は食品、及び、脱皮したハトムギを殺菌工程、発芽工程及び成長停止工程によって、発芽させることを特徴とする、GABAが富化された発芽ハトムギの製造方法であって、前記発芽工程において、湿度調整及び/又は潅水と、温度調整が行われることを特徴とする製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱皮後、発芽させたハトムギからなる食品素材又は食品、及び該発芽ハトムギの製造方法に関する。詳細には、本発明に係る脱皮後、発芽させたハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)は、γ-アミノ酪酸(以下GABAと表記する)が2.8mg/100を超える含量で含まれている。また、本発明の発芽ハトムギの製造方法は、脱皮したハトムギを(1)殺菌工程、(2)発芽工程及び(3)成長停止工程により、発芽させることを特徴とする、GABAが富化された発芽ハトムギの製造方法であって、前記(2)発芽工程において、湿度調整及び/又は潅水と、温度調整が行われることを特徴とする製造方法である。
【背景技術】
【0002】
従来から、GABAは、血圧降下作用、肝機能改善作用、肥満防止作用、更年期障害改善作用・不定愁訴改善作用、睡眠障害精神安定鎮静作用、消臭作用等の種々の効果を有することから、飲料水、健康食品、或いは医学治療の一貫として広く用いられている。
【0003】
このGABAを含むものとして、例えば、米、アワ、小豆、大麦、ヒエ等の穀類が挙げられる。一般的に、GABAの上記効果をもたらすためには、GABAを一定量、詳細には、1日10mg以上摂取することが好ましい。例えば、胚芽100g中にGABAをおよそ2.5mg含む穀物により、GABAを摂取するためには、穀物400〜500gが必要となる。即ち、通常の食事において穀物類を食することによりGABAを摂取するためには、該穀物中に、出来る限り多くのGABAを含有していることが望ましい。さらに、麦茶等の飲料によって摂取する場合には、お湯で抽出の際に希釈されてしまうため、より一層高いGABA含量が望まれる。
【0004】
このような問題を鑑みて、穀類中にGABAの含量を高めるための発明が創出されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、穀類の種子を発芽させることにより、発芽させていないものに比べ、アラニンとGABAを富化させる技術が開示されている。詳細には、殻付又は殻なしのハトムギを発芽させることにより、GABAの含量を2.8mg/100gまで高められることが開示されている。しかしながら、この2.8mg/100gという含量もまた、十分な含量とは言えず、このようなハトムギによってGABAの効果をもたらすことは困難であると言わざるを得ない。
【0005】
確かに、特許文献1及び特許文献2に記載のように、殻付の穀物種子を用いた場合、殻があることで雑菌の汚染が少なく、発芽の処理は容易であるという利点があるものの、サプリメントなどに加工するため、殻を割る工程で、殻と同時にGABAが蓄積している芽生えの部分も除去され、蓄積したGABAも、この工程で失われてしまう。さらに、出芽時に殻を突き破って芽が出るので、芽揃いが悪く、GABAが最大限蓄積するように発芽処理時間を調節する事は困難であるという問題があった。
【0006】
そこで、殻なし、即ち、予め脱皮された種子を発芽させることにより、GABAを最大限蓄積させるとともに、芽揃いが良く、発芽処理時間を調節することが可能になると考えられる。また、脱皮された種子を用いると、発芽処理後の脱皮操作の必要もなく、機能成分を保持したまま、加工・新製品化が可能になるという利点も有する。
しかしながら、脱皮された種子は、殻が無いため雑菌の汚染に曝されやすく、発芽処理にも高度な技術が要求される。即ち、脱皮した種子を発芽させると、発芽率が極端に下がるという問題があり、この問題を解消する技術は、未だ確立されていないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開2003−159017号公報
【特許文献2】特開2005−013242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、即ち、本発明者は、漢方のヨクイニンとして知られる脱皮したハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)を発芽させるにあたり、高い発芽率を維持するとともに、GABAを最大限蓄積させることを実現することにより本発明に至った。
【0009】
本発明の課題は、高いGABA含量を有することにより、血圧降下作用、肝機能改善作用、肥満防止作用、更年期障害改善作用・不定愁訴改善作用、睡眠障害精神安定鎮静作用、消臭作用等を発揮するために必要なGABA量を消費者が容易に摂取することを可能とする食品素材及び食品を提供することにある。
本発明の他の課題は、高い含量のGABAを含むとともに、グルタミン酸又は糖類から選択される一種以上を豊富に含むことにより、嗜好性に優れる食品素材及び食品を提供することにある。
本発明の他の課題は、ハトムギの原形を維持した食品素材又は食品とすることにより他の食品との差別性を有する食品素材又は食品を提供することにある。
【0010】
本発明の他の課題は、GABA、グルタミン酸、糖類等が富化された発芽ハトムギの製造方法を提供することにある。
本発明の他の課題は、高い発芽率を有するともに、効果的に腐敗微生物の増殖を抑制することができる発芽ハトムギの製造方法を提供することにある。
本発明のさらなる課題は、高い栄養価を維持した発芽ハトムギの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、脱皮後、発芽させたハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)からなる食品素材又は食品であって、前記ハトムギ中のGABA(γ-アミノ酪酸)の含量が2.8mg/100gを超えることを特徴とする食品素材又は食品に関する。
請求項2に係る発明は、前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)中に、グルタミン酸及び/又は糖類が含まれることを特徴とする請求項1記載の食品素材又は食品に関する。
請求項3に係る発明は、前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)がその原形のまま、又は前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)が粉末状又は粒状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の食品素材又は食品に関する。
請求項4に係る発明は、脱皮したハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)を、以下の(1)〜(3)の工程によって、発芽させることを特徴とする、GABAが富化された発芽ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)の製造方法であって、
(1)殺菌工程
(2)発芽工程
(3)成長停止工程
前記(2)発芽工程において、湿度調整及び/又は潅水と、温度調整が行われることを特徴とする製造方法に関する。
請求項5に係る発明は、前記(2)発芽工程において、前記(1)殺菌工程を経た前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)を吸水させる処理を施すことを特徴とする請求項4記載の製造方法に関する。
請求項6に係る発明は、前記湿度が10〜90%、及び/又は前記温度が15〜40℃に調整されることを特徴とする請求項4又は5に記載の製造方法に関する。
請求項7に係る発明は、前記潅水が、前記(1)殺菌工程を経た前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)100gに対して、水1〜5ml/hrの条件で行われることを特徴とする請求項4乃至6いずれかに記載の製造方法に関する。
請求項8に係る発明は、前記(1)殺菌工程が、以下(a)又は(b)を含むことを特徴する請求項4乃至7いずれかに記載の製造方法に関する。
(a)1〜20分間、前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)を50℃〜80℃の水に浸漬又は洗浄する
(b)1〜30分間、前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)をpH5以下の溶液に浸漬又は洗浄する
請求項9に係る発明は、前記(3)成長停止工程が、前記(2)発芽工程を経た前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)の乾燥又は凍結処理を含むことを特徴とする請求項4乃至8のいずれかに記載の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の食品素材又は食品は、高いGABA含量を有しているため、血圧降下作用、肝機能改善作用、肥満防止作用、更年期障害改善作用・不定愁訴改善作用、睡眠障害精神安定鎮静作用、消臭作用等を発揮するために必要なGABA量を消費者が容易に摂取することを可能にする。
本発明の食品素材又は食品は、高い含量のGABAを含むとともに、グルタミン酸又は糖類から選択される一種以上を豊富に含んでいるため、嗜好性に優れる。
本発明の食品素材又は食品は、脱皮したハトムギの種子、即ち漢方として知られるヨクイニンを用いる。従って、GABA及びグルタミン酸等の他に、ヨクイニンが有する利水滲湿・清熱・排膿・除痺・健脾止瀉の作用、肌の荒れ、にきびやさめ肌への好適な効果を提供できるため、極めて優れた健康食品となり得る。
本発明の食品素材又は食品は、脱皮した後、ハトムギ種子を発芽させ、発芽後に脱皮する必要がないため、ハトムギの原形のまま食することができる。このようにハトムギの原形を維持した食品素材又は食品は、他のそれらと差別性を有する。
【0013】
本発明の発芽ハトムギの製造方法によって得られる、脱皮後、発芽させたハトムギは、GABA、グルタミン酸、及び糖類が富化されている。また、脱皮ハトムギの発芽においては、高い発芽率を有するともに、腐敗微生物の増殖を効果的に抑制することが出来る。
本発明の発芽ハトムギの製造方法によると、脱皮ハトムギを発芽のために、水に浸漬する必要がないため、水溶性成分が溶出することなく、高い栄養価を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の食品素材又は食品は、脱皮した後、発芽させたハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)(以下、脱皮発芽ハトムギという場合がある)からなる。本発明において、ハトムギを発芽させる前の段階、即ちハトムギの種子を脱皮したもの(以下、脱皮ハトムギという場合がある)は、漢方のヨクイニンとしても知られ、利水滲湿・清熱・排膿・除痺・健脾止瀉の作用や、肌の荒れ、にきびやさめ肌にも有効であることから従来から広く用いられている。
【0015】
本発明に係る脱皮発芽ハトムギは、2.8mg/100g(脱皮発芽ハトムギ100g中に2.8mg)を超える含量のGABAを含む。より好ましくは、7.5mg/100g以上含む。
【0016】
本発明に係る脱皮発芽ハトムギは、前記GABAとともに、好ましくは、さらに、グルタミン酸を含む。このグルタミン酸の含量は、好ましくは、30mg/100g以上、さらに望ましくは90mg/100g以上である。グルタミン酸が、上記の含量である場合、旨味が増強されるため、本発明の食品素材又は食品の嗜好性が向上する。
【0017】
本発明に係る脱皮発芽ハトムギは、前記GABAとともに、好ましくは、さらに、糖類を含む。前記糖類として、フルクトース、グルコース、マルトースが挙げられ、好ましくは、マルトースである。この糖類の含量は、好ましくは、500mg/100g以上である。
【0018】
本発明に係る脱皮発芽ハトムギを、図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る脱皮発芽ハトムギの写真である。図中に示される符号(a)は芽生えの長さを表す。
本発明の食品素材又は食品とされる脱皮発芽ハトムギとして、(a)が、好ましくは5〜15mmであり、より望ましくは8〜12mmである。芽生えの長さが5mm未満の場合、または、15mmを超える場合はGABAの蓄積が少ないためいずれの場合も好ましくない。
【0019】
本発明の食品素材又は食品は、脱皮発芽ハトムギからなり、該脱皮発芽ハトムギは、脱皮後発芽させているため、発芽後の脱穀工程が不要であるため、その原形のままで食品素材又は食品とすることができる。また、本発明に係る脱皮発芽ハトムギは、発芽前に脱皮しているから、発芽後の脱皮工程により栄養価が失われることが無いため、ハトムギの発芽時に生成する栄養価を維持したまま、消費者に提供することができる。
本発明に係る脱皮発芽ハトムギは、そのまま食してもよく、或いは、粉末状又は粒状に成形して食品素材又は食品とされてもよい。前記食品素材は、任意の食品に添加され、又は加工・調理されてもよい。
【0020】
以下、本発明の脱皮発芽ハトムギの製造方法について説明する。
本発明においては、ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)種子を脱皮したものが用いられる。脱皮する方法は特に限定されない。
【0021】
次に、上記の方法により脱皮したハトムギを以下の工程(1)〜(3)によって処理することにより、本発明に係るGABAが富化された発芽ハトムギが製造される。
(1)殺菌工程
(2)発芽工程
(3)成長停止工程
【0022】
(1)殺菌工程
一般的に脱皮処理されたハトムギは、雑菌の汚染に曝されやすい。そこで、微生物汚染を抑制し、腐敗発生を防止する必要がある。本発明においては、脱皮発芽ハトムギが食用とされること考慮するとともに、高い発芽率を維持するために、好ましくは次の(a)又は(b)の条件で殺菌工程が行われる。
(a)1〜20分間、脱皮ハトムギを50℃〜80℃の水に浸漬又は洗浄する
(b)1〜30分間、脱皮ハトムギをpH5以下の溶液に浸漬又は洗浄する
【0023】
殺菌工程(a)における水として特に限定されないが、通常、水道水が用いられる。
殺菌工程(a)において、好ましくは20秒〜20分間、より望ましくは40秒〜3分間浸漬又は洗浄が行われる。20秒未満の場合、殺菌が不十分であり、20分を超えると、発芽率が低下するためいずれの場合も好ましくない。
殺菌工程(a)において、好ましくは50℃〜80℃の水、より望ましくは60℃〜70℃の水で浸漬又は洗浄が行われる。50℃未満の場合、殺菌が不十分であり、80℃を超えると、発芽率が低下するためいずれの場合も好ましくない。
【0024】
殺菌工程(b)において、好ましくは20秒〜30分間、より望ましくは40秒〜10分間洗浄が行われる。20秒未満の場合、殺菌が不十分であり、30分を超えると、発芽率が低下するためいずれの場合も好ましくない。
殺菌工程(b)において、好ましくはpH5以下の溶液、より望ましくはpH3〜pH4の溶液で浸漬又は洗浄が行われる。pH5を超える場合、殺菌が不十分であるために好ましくない。
前記pH5以下の溶液としては、例えば、塩酸、リン酸、有機酸などが挙げられるが、好ましくはリン酸、有機酸が用いられる。このリン酸、有機酸を用いて殺菌処理した場合、pH緩衝作用が大きいため、使用溶液のpH上昇が少なくなり望ましい。
殺菌工程(a)及び(b)における浸漬は、定法を用いることができる。例えば、ざる等に入れて浸漬する方法、プラスチック製ネットに入れて浸漬する方法が挙げられる。
殺菌工程(a)及び(b)における洗浄は、定法を用いることができる。例えば、流水によりかけ流しする方法が挙げられる。
【0025】
(2)発芽工程
殺菌工程を経た脱皮ハトムギは、次に、発芽工程によって発芽させて脱皮発芽ハトムギとする。この発芽工程では、湿度調整及び/又は潅水と、温度調整が行われた環境下で脱皮ハトムギを発芽させる。
前記温度は15℃〜40℃、好ましくは20℃〜30℃に調整される。15℃未満である場合、および40℃を超える場合、発芽率が低下するためいずれの場合も望ましくない。
前記湿度は10%〜90%、好ましくは30%〜50%に調整される。10%未満である場合、発芽率が低下するため、また、90%を超えると雑菌の増殖が活発となるためいずれの場合も望ましくない。
【0026】
前記潅水は、脱皮ハトムギ100gに対して、水を好ましくは0.1〜5m/hr、より望ましくは、1〜3ml/hrの条件で行うことがより望ましい。或いは、好ましくは0.1%以下の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を1〜3ml/hrの条件がより望ましい。
従来の方法、即ちハトムギを水に浸漬させて発芽させるという方法は、長時間の浸漬によりハトムギの水溶成分が溶出し、栄養価が低下するという問題が生じる。しかしながら、本発明の製造方法によると、長時間の浸漬を必要としないため、水溶性成分の流出を抑え、栄養価が高い脱皮発芽ハトムギを製造することが出来る。
本発明に係る発芽工程において、脱皮ハトムギに予め吸水させる処理を施してもよい。この吸水方法として、殺菌工程の直後に10〜30℃の水に10〜180分浸漬させて吸水させる方法が挙げられる。この条件によると、栄養価の低下を抑え、かつ発芽率が優れる。
尚、本発明においては、前記温度調整、湿度調整及び吸水させる処理を組み合わせて行うことが望ましい。
【0027】
(3)成長停止工程
発芽工程を経た脱皮発芽ハトムギは、次に、成長停止工程により、前記脱皮発芽ハトムギの成長又は発芽が停止される。脱皮ハトムギは発芽により、脱皮発芽ハトムギ中のGABA含量を著しく増加させる。詳細には、発芽工程開始から1~3日間で、経時的にGABA含量が増加し、その後、減少する性質がある。従って、成長を止め、GABA含量の減少を抑えることにより、高いGABA含量を維持することが可能となる。
【0028】
脱皮発芽ハトムギの成長を止める方法としては、脱皮発芽ハトムギを乾燥又は凍結する方法がある。
前記乾燥は、例えば熱風乾燥する方法、減圧乾燥する方法等が挙げられる。
前記凍結は、例えば冷凍する方法、凍結真空乾燥する方法等が挙げられる。
尚、この成長停止工程は、好ましくは、発芽工程開始から1〜3日後、より望ましくは、1〜2日後に行う。この時間調整を行うことにより、脱皮発芽ハトムギ中に高いGABA含量を維持することが可能となる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明する。
(試験例1)殺菌工程に関する試験
(1)殺菌処理条件と発芽率に関する試験
本発明の脱皮発芽ハトムギの製造方法における殺菌工程で行われる殺菌処理について検討した。各殺菌処理を施した脱皮ハトムギの発芽率を比較することにより、好適な殺菌処理方法を検討した。
<方法>
まず、脱皮ハトムギを水洗した後、以下表1に示される水溶液(又は温度条件)と時間、処理条件で殺菌処理を施した。その後、蒸留水で3回すすぎ、処理後脱皮ハトムギを、ろ紙をひいたシャーレに播種した。次に発芽工程においては、温度条件25℃〜30℃で培養、潅水は蒸留水を3ml/hr/100gハトムギで行った。播種後、4日目に発芽率を測定した。結果を表1及び図2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1中の「発芽率」が示すように、65℃の蒸留水で1分浸漬を行うと約70%の発芽率を示し、または酸溶液(酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、pH3.5)で3分間浸漬を行うと約75%の発芽率を示した。従って、これらの殺菌処理方法は、本発明の脱皮発芽ハトムギ種子の製造方法において好適な方法であると考えられる。
【0032】
(2)菌数の測定試験
<方法>
殺菌工程における殺菌処理として、(A)播種前に水道水で種子のかけらやほこり等を濯いで除き、65℃の蒸留水に1分間浸漬し、蒸留水ですすいだものと、(B)水洗処理のみのものを、それぞれシャーレ上に播種した。次に、発芽工程として、潅水は蒸留水を1.5ml/hr/100gハトムギで行ったものを(A)(B)それぞれ10gとり、10倍量の生理食塩水を加え、ストマッカーに120秒かけ、生理食塩水で適宜希釈して標準寒天(SA)培地に植菌し、30℃、48時間培養後、コロニー数を数えた。結果を以下の表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2が示すように、本発明の脱皮発芽ハトムギの製造方法の殺菌工程における「65℃の蒸留水に1分間」浸漬することにより、効果的に菌を抑制できることが分かる。
【0035】
(試験例2)発芽工程に関する試験
(1)潅水の条件の検討
本発明の発芽工程に行われる潅水の条件について、以下の試験により検討した。
<方法>
脱皮ハトムギの100gを水洗したのち、65℃の蒸留水で1分間浸漬し、蒸留水で3回すすいだ。ろ紙をひいたシャーレに脱皮ハトムギを播種し、潅水量は以下の表3に従い、25〜30℃で培養し、播種後4日目に発芽率を測定した。結果を表3及び図3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
最も発芽率が良好なものは、脱皮ハトムギに1.5ml/h/100gの条件で潅水を行ったものであった。
【0038】
(2)吸水種子における発芽時の湿度条件の検討
<方法>
脱皮ハトムギ100gを、65℃の蒸留水に1分間浸漬殺菌し、3時間吸水(吸水量は飽和状態)させた後、30℃で湿度0〜97%の条件で培養し、2日後の発芽率を計数した。結果を表4及び図4に示す。
【0039】
【表4】

【0040】
上記結果より、十分吸水させた種子を用いた場合、湿度11%以上の条件で良好な発芽率を示すことがわかる。
【0041】
(試験例3)脱皮発芽ハトムギ種子のGABA含量の測定
表5に示す試験により、本発明の製造方法によって得られた脱皮発芽ハトムギ(実施例1)のGABA含量と水に浸漬することによって発芽させた脱皮発芽ハトムギ(比較例1・[特開2005-13242号公報]に記載の方法に基づき発芽させたもの)のGABA含量の比較を行った。
<方法>
脱皮ハトムギ、実施例1及び比較例1それぞれ100gずつを、表5の殺菌、発芽、成長停止工程により処理した後、凍結真空乾燥し、電動ミルサーで破砕し、粉末にした。尚、発芽工程の期間は、以下表6及び7に従った。粉末試料に蒸留水を加え、30分間撹拌し、沈殿を遠心分離で除去、煮沸および限外ろ過で除タンパク質したものをキャピラリー電気泳動(CE)で分析することにより、それぞれの方法によって得られた脱皮発芽ハトムギ中のGABA及びグルタミン酸の含量を求めた。また、液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析することにより、糖類の含量を求めた。実施例1の結果を表6に、比較例1の結果を表7に示す。それらの結果を図5の(a)〜(c)に示し、両者を比較した。
【0042】
【表5】

【0043】
【表6】

【0044】
【表7】

【0045】
上記のごとく、実施例1では、発芽前と発芽後と比較すると、全成分とも増加しているが、比較例1では、全成分とも減少している。
次に、実施例1と比較例1を比較すると、例えば発芽工程2日目におけるGABA含量は、実施例1が24.7mg/100gであるのと比べ、比較例1は、2.7mg/100gであった。以上の結果より、本発明の製造方法によって得られた脱皮発芽ハトムギ種子は、水に浸漬することにより発芽処理を行った脱皮発芽ハトムギ種子よりも顕著に高いGABA含量を有することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る脱皮発芽ハトムギの写真である。
【図2】試験例1(1)殺菌処理条件と発芽率に関する試験での殺菌条件における発芽率の測定結果を示す図である。
【図3】試験例2(1)潅水の条件の検討での各潅水条件における発芽率の測定結果を示す図である。
【図4】試験例2(2)吸水種子における発芽時の湿度条件の検討での各湿度条件における発芽率の測定結果を示す図である。
【図5】試験例3の脱皮発芽ハトムギのGABA含量の測定における、実施例及1及び比較例1中の(a)GABA・(b)グルタミン酸・(c)糖含量の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱皮後、発芽させたハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)からなる食品素材又は食品であって、前記ハトムギ中のGABA(γ-アミノ酪酸)の含量が2.8mg/100gを超えることを特徴とする食品素材又は食品。
【請求項2】
前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)中に、グルタミン酸及び/又は糖類が含まれることを特徴とする請求項1記載の食品素材又は食品。
【請求項3】
前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)がその原形のまま、又は前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)が粉末状又は粒状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の食品素材又は食品。
【請求項4】
脱皮したハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)を、以下の(1)〜(3)の工程によって、発芽させることを特徴とする、GABAが富化された発芽ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)の製造方法であって、
(1)殺菌工程
(2)発芽工程
(3)成長停止工程
前記(2)発芽工程において、湿度調整及び/又は潅水と、温度調整が行われることを特徴とする製造方法。
【請求項5】
前記(2)発芽工程において、前記(1)殺菌工程を経た前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)を吸水させる処理を施すことを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記湿度が10〜90%、及び/又は前記温度が15〜40℃に調整されることを特徴とする請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記潅水が、前記(1)殺菌工程を経た前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)100gに対して、水1〜5ml/hrの条件で行われることを特徴とする請求項4乃至6いずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記(1)殺菌工程が、以下(a)又は(b)を含むことを特徴する請求項4乃至7いずれかに記載の製造方法。
(a)1〜20分間、前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)を50℃〜80℃の水に浸漬又は洗浄する
(b)1〜30分間、前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)をpH5以下の溶液に浸漬又は洗浄する
【請求項9】
前記(3)成長停止工程が、前記(2)発芽工程を経た前記ハトムギ(Coix Lachrymajobi L. var. ma-yuen Stapf)の乾燥又は凍結処理を含むことを特徴とする請求項4乃至8のいずれかに記載の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−259739(P2007−259739A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87935(P2006−87935)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000225142)奈良県 (42)
【出願人】(505062075)太陽食品株式会社 (3)
【Fターム(参考)】