説明

脱硫装置

【課題】上水を大量に使用せず、安定して硫化水素を除去することができるバイオガスの脱硫装置を提供する。
【解決手段】脱硫装置1は、メタン発酵槽2と、生物脱硫反応槽3と、ガス通路11と、排出ガス通路12と、空気注入ファン21と、ガス通路11に設けた硫化水素の含有量を検出するための硫化水素センサ31と、排出ガス通路12に設けた酸素の含有量を検出するための酸素センサ32と、前記硫化水素センサ31及び酸素センサ32と接続し、空気注入ファン21を制御するための制御装置41とを具備するバイオガスの脱硫装置1であって、前記制御装置41は、硫化水素センサ31の検知した硫化水素の含有量及び酸素センサ32の検知した酸素の含有量から、前記空気注入ファン21の空気注入量を決定するように制御した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオガスに含まれる硫化水素等の不純物を微生物の働きにより除去するバイオガスの脱硫装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品工場やその他の工場から排出される有機性廃水その他の廃水、またはその他の有機性廃棄物をメタン発酵させてバイオガスを発生させるバイオガス発生装置の技術が公知となっている。前記バイオガス発生装置は、有機性廃水等のメタン発酵を行うメタン発酵槽を具備する。前記バイオガス発生装置で発生したバイオガスは、例えば、発電用のガスエンジン、ガスタービン、燃料電池等の燃料ガスとして利用される。しかし、前記バイオガスは、硫化水素を含んでおり、硫化水素を含んだバイオガスを燃料ガスとして利用した場合、硫化水素がエンジン等の機械部分を腐蝕し、また、燃焼の結果、硫黄酸化物を含んだ排気ガスが発生することで、環境に負担をかける。
【0003】
そこで、前記バイオガスに含まれる硫化水素を低減するバイオガスの脱硫装置が公知となっている。例えば、メタン発酵槽中に空気を導入して前記バイオガスと混合させることにより、硫化水素を除去する技術が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、前記脱硫装置では、メタン発酵槽内での空気とバイオガスとの接触が少ないため、硫化水素の除去率が安定しなかった。
また、メタン発酵槽で発生したバイオガスをスクラバーに導入することにより硫化水素を除去する技術が公知となっている(例えば、特許文献2参照)。前記スクラバーは、微生物が付着する充填材を充填した反応塔と、バイオガスに水を散布するスプレーノズルを具備している。そして、前記反応塔内へ、バイオガスを、空気を添加してから導入し、前記スプレーノズルから上水及びスクラバー内を通過した循環水を反応塔内に常時噴射してバイオガスが含有する硫化水素を洗浄、除去するものである。
【0004】
しかし、前記脱硫装置では、大量の上水を必要とするため、ランニングコスト、及びイニシャルコスト共に大きかった。また、循環水は酸性となることから、アルカリ性の中和剤を大量に投入する必要があった、さらに、硫化物が含まれた廃水の処理が必要なため、ランニングコスト及びイニシャルコストが共に大きかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−325577号公報
【特許文献2】特開2006−143780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は係る課題に鑑み、上水を大量に使用せず、安定して硫化水素を除去することができるバイオガスの脱硫装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、メタン発酵槽と、生物脱硫反応槽と、前記メタン発酵槽から発生したバイオガスを生物脱硫反応槽へと送るためのガス通路と、脱硫されたバイオガスを排出する排出ガス通路と、前記生物脱硫反応槽の入口へ空気を注入するための空気注入装置と、前記ガス通路に設けた硫化水素の含有量を検出するための硫化水素センサと、前記排出ガス通路に設けた酸素の含有量を検出するための酸素センサと、前記硫化水素センサ及び酸素センサと接続し、空気注入装置を制御するための制御装置と、を具備するバイオガスの脱硫装置であって、前記制御装置は、硫化水素センサの検知した硫化水素の含有量及び酸素センサの検知した酸素の含有量から、前記空気注入装置の空気注入量を決定するように制御するものである。
【0009】
請求項2においては、前記生物脱硫反応槽は、バイオガスを通過させる配管から構成されており、前記配管には、充填材を設けるものである。
【0010】
請求項3においては、前記配管内部に、定期的にメタン発酵槽から排出される排水を通水し、定期的に上水を通水するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
請求項1においては、上水を大量に使用せず、安定して硫化水素を除去することができる。
【0013】
請求項2においては、配管内壁に微生物が付着し、配管内で硫化水素の酸化を効率よく行うことができる。
【0014】
請求項3においては、充填材表面に微生物の層(バイオフィルム)が形成されることとなり、バイオガスと微生物とが接触する面積が増加するので、硫化水素の酸化を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施例に係る脱硫装置のブロック図。
【図2】本実施例に係る生物脱硫反応槽を示す正面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明の実施例である脱硫装置1の全体構成について図1を用いて説明する。
脱硫装置1は、メタン発酵槽2と、生物脱硫反応槽3と、メタン発酵槽2から発生したバイオガスを生物脱硫反応槽3へと送るためのガス通路11と、脱硫されたバイオガスを排出する排出ガス通路12と、ドレン水を排出するドレン管14と、生物脱硫反応槽3の入口へ空気を注入するための空気注入装置である空気注入ファン21と、ガス通路11に設けた硫化水素の含有量を検出するための硫化水素センサ31と、排出ガス通路12に設けた酸素の含有量を検出するための酸素センサ32と、硫化水素センサ31及び酸素センサ32と接続し、空気注入ファン21を制御するための制御装置41と、を具備する。
【0017】
メタン発酵槽2は、例えば、UASB型の反応槽で、その底部には有機性廃水をメタン発酵槽2の下部に供給する廃水供給部が配設されている。また、メタン発酵槽2にはメタン発酵菌の集合体であるグラニュール菌体が投入されており、該グラニュール菌体により有機性廃水内の酢酸がメタンと炭酸ガスに分解され、メタン発酵が進行し、バイオガスが発生する。
また、メタン発酵槽2において、メタン発酵を終えた後の排水は排水管13を通って一部は生物脱硫反応槽3へ送られ、残りは排出される。
【0018】
生物脱硫反応槽3は、微生物によりバイオガス内の硫化水素と空気中の酸素とを使用して硫化水素を酸化させ、硫酸を生成させる反応槽である。メタン発酵槽2で発生したバイオガス内の硫化水素は、バイオガスを利用するエンジンや燃焼装置を腐蝕させるため、生物脱硫反応槽3において脱硫を行うものである。生物脱硫反応槽3の詳しい構成については後述する。
【0019】
ガス通路11は、メタン発酵槽2から発生したバイオガスを生物脱硫反応槽3へと送るための通路であり、メタン発酵槽2に設けた気体排出口2a及び生物脱硫反応槽3に設けた気体導入口3aと連結している。
排出ガス通路12は、生物脱硫反応槽3から脱硫されたバイオガスを排出するための通路である。また、空気注入ファン21でバイオガスに空気を注入した場合には、バイオガスと空気との混合気体を排出する。
ドレン管14は、生物脱硫反応槽3を通過したドレン水を排出するための管であり、その中途部に開閉可能のドレン管用弁61が設けられている。
【0020】
空気注入ファン21は、生物脱硫反応槽3の入口へ空気を注入するためのものである。空気注入ファン21は回転速度を調節することや送風側バルブ64の開度調整をすることにより、生物脱硫反応槽3内へ注入する空気注入量を調節することができる。なお、本実施例においては、空気注入装置を空気注入ファン21で構成したが、これに限定するものではなく、ポンプやコンプレッサによって構成することができる。
【0021】
硫化水素センサ31は、ガス通路11に設けられており、脱硫前のバイオガス中における硫化水素の含有量を検出する。このように構成することにより、脱硫前のバイオガス中における硫化水素の含有量を検出して、硫化水素の含有量に対して注入する酸素の量を算出するフィードフォワード制御をすることができる。
【0022】
酸素センサ32は、排出ガス通路12に設けられており、脱硫後のバイオガス中における酸素の含有量を検出する。このように構成することにより、脱硫後のバイオガス中における酸素の含有量を検出して、注入する酸素の量を算出するフィードバック制御をすることができる。
【0023】
制御装置41は、入力側に硫化水素センサ31及び酸素センサ32を接続しており、出力側に空気注入ファン21を接続している。前記制御装置41は、RAMやROM等で構成された記憶部とCPU等で構成された演算部とから構成されている。
【0024】
次に生物脱硫反応槽3の構成について図1及び図2を用いて説明する。
生物脱硫反応槽3は、図2に示すように、ケース50と該ケース50内に収納されてバイオガスを通過させる配管51から構成されている。
配管51は、一端のケース50への導入口52と他端のケース50からの排出口53を具備しており、導入口52はガス通路11に、排出口53は排出ガス通路12にそれぞれ連結されている。
なお、生物脱硫反応槽3は、ケース50を設けず、配管51のみで構成することもできる。
また、配管51は、断面視円状の管で構成されており、生物脱硫反応槽3の上部から下部へと螺旋状に巻かれている。配管51の内面には硫化水素を酸化させる微生物が付着している。導入口52は螺旋の上端に設けられており、排出口53は螺旋の下端に儲けられている。
【0025】
配管51内には、より多くの微生物を付着させるための充填材55が収納されている。充填材55には、例えばセラミック、プラスチック、または金属等によって構成された多数の円筒状の充填物が充填されており、個々の充填物周面に微生物を付着させることができるよう構成されている。また、充填材55に充填された充填物は遊動可能に設けているので、配管51内にバイオガスを通過させたときに、効率よく微生物による硫化水素の酸化を行わせることができる。このように構成することにより、配管51内壁及び充填材55に微生物が付着し、配管51内で硫化水素の酸化を効率良く行うことができる。なお、充填材55に充填する充填物は、円筒状に限られず様々な形状とすることも可能である。また、充填材55の位置は限定されるものではなく、配管51内全部に設けることも可能であるし、配管51内の一部に設けることも可能であるし、複数箇所に設けることも可能である。
【0026】
また、配管51は、上水を通水することも可能となっている。前記上水は上水管15を通して配管51へ通水され、図1に示す上水用弁62を開閉することにより、通水・断水を切り替えることが可能となっている。また、前記上水は、配管51の導入口52より、例えば一日に一回所定量のみ配管51へ通水される。前記上水は配管51内部を通過し排出口53からドレン管14(図1参照)を通してドレン水として排出される。
前記上水は、配管51内部を通過する際に配管51内壁及び充填材55へ水分を与えるのみならず、配管51内壁及び充填材55にこびりついた硫酸等の硫黄酸化物を洗い流す。これによって、少ない上水で生物脱硫反応槽3に設けた配管51内の洗浄を行うことができる。従来のスクラバーで構成した脱硫装置においては、大量の上水が必要であり、また、大量の上水を排出するため排水処理が必要であったが、上水を所定量のみ通水することにより、大量の上水が不要となる。また、排出されるドレン水に含まれる硫黄酸化物は少量であり、メタン発酵槽2から排出される排水に流入させて処理することができるため、廃水処理が不要となる。
【0027】
また、配管51は、メタン発酵槽2でメタン発酵をし終えて排出される排水を通水することも可能となっている。前記排水は、排水管13を通して通水され、図1に示す排水用弁63を開閉することにより、通水・断水を切り替えることが可能となっている。また前記排水は、配管51の導入口52より、例えば、一日に一回所定量を通水される。前記排水は、配管51内部を通過し排出口53からドレン管14(図1参照)を通してドレン水として排出される。そして、前記排水は配管51内部を通過する際に配管51内壁及び充填材55へ水分を与えるだけでなく、配管51内壁及び充填材55に前記排水内に生息する微生物を付着させることができる。このように構成することにより、配管51内壁及び充填材55の表面に微生物の層(バイオフィルム)が形成されることとなり、バイオガスと微生物とが接触する面積が増加するので、硫化水素の酸化を効率よく行うことができる。また、上水と同様に配管51内の洗浄を行うことができるので、使用する上水を削減することができる。
【0028】
次に、制御装置41による空気注入ファン21の空気注入量の制御について説明する。
まず、ガス通路11に設けた硫化水素センサ31によって、ガス通路11中を流れるバイオガスの硫化水素の含有量を検出する。
そして、硫化水素の含有量から算出した硫化水素の物質量に対して二倍の物質量となる酸素を含んだ空気の量を算出し、空気注入ファン21の空気注入量を出力する。例えば、1molの硫化水素が検出された場合には、2molの酸素を含む空気を注入するものである。硫化水素が微生物によって硫酸へと酸化される際の化学式は、
S+2O→HSO
で表される。
【0029】
すなわち、硫化水素を酸化させるためには硫化水素の量に対して二倍の量の酸素が必要となるため、前記制御を行うものである。
そして、前記バイオガス中の硫化水素が減少し、発生した硫酸は上水、排水、またはバイオガスの凝縮水に含まれることとなり、ドレン水として排出口53より排出される。
このように脱硫前の硫化水素の含有量から空気注入量を制御するため、安定して硫化水素を除去することができる。
【0030】
また、排出ガス通路12に設けた酸素センサ32によって、排出ガス通路12中を流れるバイオガスと空気との混合気体中の酸素の含有量を検出する。
そして、酸素の含有量が一定値以上であった場合には、空気注入ファン21の空気注入量を減少させる。
このように構成することにより、余剰空気が生物脱硫反応槽3内へ入るのを防止することができる。すなわち、硫化水素の酸化に必要な酸素を含む空気のみを注入することにより、バイオガスが希釈されることを防ぎ、高カロリーを有するガスを得ることができる。
【0031】
以上のように、脱硫装置1は、メタン発酵槽2と、生物脱硫反応槽3と、前記メタン発酵槽2から発生したバイオガスを生物脱硫反応槽3へと送るためのガス通路11と、脱硫されたバイオガスを排出する排出ガス通路12と、生物脱硫反応槽3の入口へ空気を注入するための空気注入ファン21と、ガス通路11に設けた硫化水素の含有量を検出するための硫化水素センサ31と、排出ガス通路12に設けた酸素の含有量を検出するための酸素センサ32と、前記硫化水素センサ31及び酸素センサ32と接続し、空気注入ファン21を制御するための制御装置41とを具備するバイオガスの脱硫装置1であって、前記制御装置41は、硫化水素センサ31の検知した硫化水素の含有量及び酸素センサ32の検知した酸素の含有量から、前記空気注入ファン21の空気注入量を決定するように制御したものである。このように構成することにより、上水を大量に使用せず、安定して硫化水素を除去することができる。
【0032】
また、生物脱硫反応槽3は、バイオガスを通過させる配管51から構成されており、配管51の内壁には、充填材55を固設するものである。このように構成することにより、配管51内壁に微生物が付着し、配管51内で硫化水素の酸化を効率よく行うことができる。
【0033】
また、配管51内部に、定期的にメタン発酵槽2から排出される排水を通水し、定期的に上水を通水するものである。このように構成することにより、充填材55表面に微生物の層(バイオフィルム)が形成されることとなり、バイオガスと微生物とが接触する面積が増加するので、硫化水素の酸化を効率よく行うことができる。
【符号の説明】
【0034】
1 脱硫装置
2 メタン発酵槽
3 生物脱硫反応槽
11 ガス通路
12 排出ガス通路
21 空気注入ファン
31 硫化水素センサ
32 酸素センサ
41 制御装置
51 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン発酵槽と、生物脱硫反応槽と、
前記メタン発酵槽から発生したバイオガスを生物脱硫反応槽へと送るためのガス通路と、
脱硫されたバイオガスを排出する排出ガス通路と、
前記生物脱硫反応槽の入口へ空気を注入するための空気注入装置と、
前記ガス通路に設けた硫化水素の含有量を検出するための硫化水素センサと、
前記排出ガス通路に設けた酸素の含有量を検出するための酸素センサと、
前記硫化水素センサ及び酸素センサと接続し、空気注入装置を制御するための制御装置と、
を具備するバイオガスの脱硫装置であって、
前記制御装置は、
硫化水素センサの検知した硫化水素の含有量及び酸素センサの検知した酸素の含有量から、前記空気注入装置の空気注入量を決定するように制御する、
ことを特徴とするバイオガスの脱硫装置。
【請求項2】
前記生物脱硫反応槽は、バイオガスを通過させる配管から構成されており、
前記配管には、充填材を設ける、
ことを特徴とする請求項1に記載のバイオガスの脱硫装置。
【請求項3】
前記配管内部に、定期的にメタン発酵槽から排出される排水を通水し、定期的に上水を通水する、
ことを特徴とする請求項2に記載のバイオガスの脱硫装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−215735(P2010−215735A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62085(P2009−62085)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】