説明

脱穀機

【課題】前部扱胴と後部扱胴と境界部における穀粒の滞留を防止し、ササリ粒の発生を低減させて、収穫効率を向上させる受網を備えた脱穀機を提供する。
【解決手段】受網46は、仕切板55,56,57によって4つの領域に区分けされていると共に、前部領域F、中部領域M、後部領域Rと穀稈搬送方向後流側に行くに従って、漏下孔50,51,52の開口面積が小さくなるように形成されている。そのため、開口面積の最も小さい前部領域Fの前部漏下孔50からは、夾雑物の少ない品質の良い漏下物が漏下する。また、中部領域Mは、前部扱胴と後部扱胴との境界部を跨ぐように形成されているが、前部漏下孔50よりも開口面積の大きな中部漏下孔51により、所定の品質を保ちつつ、扱胴の境界部において穀粒が滞留しない速度で漏下物を漏下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン、ハーベスター等に搭載される脱穀機に係り、詳しくは、その受網の形状に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、脱穀機は、扱胴を回転させて脱穀を行う扱室と、扱室の下方において脱穀された穀粒と、切れ藁などの夾雑物との選別を行う選別室と、を備えており、これら扱室と選別室との間には、出来るだけ選別室に夾雑物が漏下しないように受網が設けられている。該受網は、多数の漏下孔を有した多孔板などから形成されており、従来、受網上に多量の夾雑物や穀粒が堆積して漏下孔が詰ると脱穀性能が低下してしまうため、受網を支持するフレーム部分を多孔板に対して屈曲して形成し、漏下孔を該多孔板の全面に形成すると共に、その前端部に小孔を更に設けてその漏下能力を向上させた受網が案出されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−57117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように漏下孔や小孔の数を増やすと、単に漏下能力が向上するばかりでなく、漏下孔の開口面積を小さくして漏下物の品質を向上させることも出来る可能性があるが、上記特許文献1のように漏下孔の大きさが多孔板全体に亘って同一であると、受網の漏下能力及び選別能力がどの位置でも一定となってしまっていた。
【0005】
通常、穀粒は扱室の入口側で大半が脱穀されるが、脱穀と同時に多くの切れ藁などの夾雑物が発生すると共に、脱穀された穀粒の中には、小枝梗などが付いた枝梗付き穀粒や、穂切れ粒が混ざっている。これら夾雑物及び選別不十分な穀粒は、扱室の中を穀粒搬送方向下流側に送られる内に処理されて選別室へと漏下するが、受網の漏下孔が大きいと、大きな切れ藁などの処理前の夾雑物や、単粒化されていない穀粒が、受網の前方側からそのまま選別室に漏下物として漏下してしまう虞がある。一方、受網の漏下孔の開口面積が小さすぎると、穀粒が受網から漏下せずに夾雑物と共に扱室から排出されたり、受網上に滞留した穀粒が穀稈に突き刺さってササリ粒となってしまったりすることがある。
【0006】
特に、扱胴を穀稈搬送方向において前後に分割して形成し、前部扱胴の回転速度を後部扱胴の回転速度よりも遅くした、いわゆる差率扱胴の場合、これら前後の扱胴の回転差により前部扱胴と後部扱胴との境界部において穀粒及び夾雑物が滞留しやすく、この滞留した穀粒が巻き上げられて上述したササリ粒や、損傷粒が発生する確立が高まるという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、受網の漏下孔の開口面積を、扱室入口側よりも前部扱胴と後部扱胴との境界部に対応した位置の方が大きくすることにより、受網の選別能力及び漏下能力をその位置に応じて適宜、設定し、上記課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、穀稈から穀粒を脱穀する扱胴(16)と、該扱胴(16)を回転自在に支持する扱室(11)と、前記扱胴(16)に沿って配設され、多数の漏下孔(50,51,52,53,71,72,73,75,81,82,83,84)を有する受網(30,70,80)と、を備え、前記扱胴(16)を穀稈搬送方向の中途部で前後に分割して形成すると共に、これら2つの扱胴のうち、穀稈搬送方向上流側である前記扱室(11)の入口側に配設された前部扱胴(16a)の回転速度を、穀稈搬送方向下流側である前記扱室(11)の出口側に配設された後部扱胴(16b)の回転速度よりも遅くした脱穀機(5)において、
前記前部扱胴(16a)と後部扱胴(16b)との境界部に対応した位置の漏下孔(51)の開口面積を、前記扱室(11)の入口側から前記前部扱胴(16a)の中途部に亘って形成された漏下孔(50)の開口面積よりも、大きくした、
ことを特徴とする脱穀機(5)にある。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記受網(30,70,80)の漏下孔(50,51,52,53,71,72,73,75,81,82,83,84)の少なくとも一部を、四角形状又は六角形状とし、その対角線(l)の方向を前記扱胴(16)の回転方向(D)と略一致させた、
請求項1記載の脱穀機(5)にある。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記扱室(11)に並設されると共に、該扱室(11)の出口側に設けられた開口部(26)を介して前記扱室(11)と接続する処理室(12)と、
該処理室(12)に回転自在に支持された処理胴(25)と、を備え、
前記開口部(26)に対応した位置の前記受網(30,70,80)の漏下孔(53,75,84)を、前記扱胴(16)の回転方向に対して斜めに延びる長穴形状とした、
請求項1又は2記載の脱穀機(5)にある。
【0011】
なお、括弧内の符号等は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によると、受網の前方側の漏下孔を小さく形成して、処理されていない夾雑物及び選別不十分な穀粒を受網の前方側からすぐに選別室へと漏下させないようにすると共に、前部扱胴及び後部扱胴の境界部に対応した位置の漏下孔は、上記前方側の漏下孔よりも開口面積を大きくして漏下能力を向上させ、一定の漏下物の品質を維持しつつも穀粒の滞留を減少させ、ササリ粒や損傷粒などの発生を抑制して収穫効率を向上させることができる。
【0013】
請求項2に係る発明によると、受網の漏下孔の形状を、四角形状とし、その対角線が扱胴の回転方向と一致するように形成したことによって、四角形状の角部で枝梗付きの穀粒や、穂切れ粒などの小枝梗や、麦のひげなどを除去して単粒化することができる。また、漏下孔の形状を六角形状とすることによって、上記小枝梗などを除去する角部が増えるため、より効率的に穀粒を単粒化することができる。
【0014】
請求項3に係る発明によると、処理室と接続する扱室の開口部に対応した位置の漏下孔を、扱胴の回転方向に対して斜めに延びる長穴形状とすることによって、この斜めに延びた漏下孔に沿って脱穀された穀粒及び夾雑物などの混合物を、効率よく穀稈搬送方向後流側に送ることができる。それにより、夾雑物を効率よく扱室から排出できると共に、開口部から処理室へ選別不十分の穀粒を搬送する効率も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】脱穀機を搭載したコンバインの駆動系統図。
【図2】脱穀機の側面図。
【図3】脱穀機の扱室の斜視図。
【図4】脱穀機の扱室の側面図。
【図5】脱穀機から扱胴を外した状態を示す斜視図。
【図6】脱穀機の受網の設置状態を示す斜視図。
【図7】受網の平面図。
【図8】受網の他の実施形態を示す平面図。
【図9】受網の他の実施形態を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明をする。なお、説明中の前後左右の方向は、運転座席に着座した作業者を基準として考えるものとする。
【0017】
<第1の実施形態>
図1に示すように、コンバイン1は、走行装置により圃場を走行する機体2と、該機体2の前方に昇降自在に支持されると共に穀稈を刈取る前処理部3と、前処理部3によって刈取られた穀稈を脱穀する脱穀機5と、を備えており、該脱穀機5は、穀稈を脱穀する脱穀部6と、脱穀部6で脱穀された穀粒と脱穀の際に発生する切れ藁などの夾雑物とを選別する選別部7と、選別された穀粒を貯留するグレンタンク9と、排稈を処理する後処理部(不図示)とから構成されている。
【0018】
上記脱穀部6は、図2乃至図5に示すように、機体前後方向に沿って延設された扱室11及び処理室12によって形成されており、これら扱室11及び処理室12の下方には選別室13が配設されている。脱穀機5の側方には機体前方から後方に向けて延設されたフィードチェーン15が設けられており、上述した前処理部6において刈取られた穀稈は、該フィードチェーン15によって搬送されて扱室11に回転自在に支持された扱胴16によって脱穀されると共に、フィードチェーン15の後方に設けられた排藁チェーン17に受け渡されて上記後処理部によって処理される。
【0019】
ついで、脱穀機5の構成について詳しく説明する。上記扱胴16は、穀稈の搬送方向(機体前後方向)に長い円筒形状をしており、その外周には、複数の穀稈の方向をそろえる整梳歯17と、脱穀を行う扱歯19と、が設けられている。また、扱胴16は、その中途部において前後に分割して構成されており、これら2つの扱胴16a,16bの支持軸20,21は、穀稈搬送方向前方側である扱室11の入口11a側に設けられた前部扱胴16aの支持軸20が、穀稈搬送方向後方側である扱室11の出口側に設けられた後部扱胴16bの支持軸21に遊嵌された2重軸構造となっている(図1参照)。この前部扱胴16aの支持軸20は、後部扱胴16bの支持軸21よりもエンジン22からの動力が伝達される入力軸23との間の伝動ギヤのギヤ比が低く設定されており、前部扱胴16aは、後部扱胴16bよりも回転速度が遅くなるように構成されている。
【0020】
一般に、穀粒の殆どは(約70〜80パーセント)は、扱胴16の前部において脱穀されると共に、後部では、枝梗付き穀通や穂切粒の単粒化、ササリ粒の排稈からの分離、切れ藁の細分化等の処理が行われる。上記扱胴16は、主に脱穀を行う前部扱胴16aの回転数を遅くすることによって、損傷粒の発生及び、切れ藁などの夾雑物の発生を抑えると共に、主に穀粒の単粒化及び穀粒の夾雑物からの分離を行う後部扱胴16bの回転数を速くすることによって、これら穀粒及び夾雑物の処理能力を向上させている。
【0021】
一方、上記扱室11の後方側では処理胴25を回転自在に支持した処理室12が並設されており、これら扱室11及び処理室12は、処理室12の前方側と機体幅方向にオーバーラップした扱室11の後端部(出口側)に設けられた開口部26を介して接続している。また、処理室12の下方には、クリンプ網からなる処理網27が処理胴25に沿って設けられていると共に、扱室11の下方にも詳しくは後述する受網30が設けられており、これら受網30及び処理網27からは、脱穀された穀粒及び切れ藁などの夾雑物が混合した混合物が漏下物として選別部7の選別室13へと漏下する。
【0022】
図2に示すように、上記選別室13には、前部扱胴16aの前端部から後部扱胴16bの中途部の下方において、波板状に形成された揺動流板31が設けられていると共に、該揺動流板31の後方には開度調整可能な多数の平行フィンからなるチャフシーブ32が設けられている。また、揺動流板31の下方には選別風を起風する唐箕ファン33が設けられていると共に、上記チャフシーブ32の下方には、該唐箕ファン33からの選別風及び前後の揺動によって篩選別をするグレンシーブ35が設けられている。これら揺動流板31、チャフシーブ32及びグレンシーブ35は、その枠体が一体に形成されていると共に、該枠体が不図示の揺動手段に接続して機体前後に揺動するように構成されており、全体として穀粒を揺動選別する揺動選別体を形成している。
【0023】
上記グレンシーブ35の下方かつ、受網30の終端部の下方には、選別された穀粒を回収する1番口Aが設けられており、該1番口Aにはグレンタンク9へ穀粒を搬送する1番ラセン37が設けられている。また、1番口Aの機体後方側(穀稈搬送方向下流側)には、ターボファン39を挟んで選別不十分な穀粒を回収する2番口Bが設けられており、該2番口Bには、回収された選別不十分な穀粒を選別室13や処理室12に再度還流させる2番ラセン40が設けられている。更に、排塵は選別風によって機体後方側に吹き飛ばされて、吸引ファン41によって機外へと排出されるように構成されている。
【0024】
ついで、受網30の構成について詳しく説明をする。図3乃至図7に示すように、受網30は、穀粒を選別室13へと漏下させると共に、切れ藁などの夾雑物を取り除くための多数の漏下孔50,51,52,53が複数列整列して網目状に形成された多孔板42,43,45からなり、これら円弧状に形成された3枚の多孔板42,43,45を組み合わせることによって、扱胴16の下方側に沿った略々半円形状の1枚の受網としている。
【0025】
上記受網30は、多孔板42,43,45に対して略々90度屈曲したフレーム部46が、扱室11に設けられたレール上に載置されることによって支持されており、多孔板42,43,45の全面に上記漏下孔50,51,52,53が形成されている。また、扱胴16の外周面に対向した受網30の内周面には、3つの弓形状の仕切板55,56,57が形成されており、前部領域F、中部領域M、後部領域R、終端領域Gの4つの領域に区分けされて構成されている。
【0026】
前部領域Fを画定する第1の仕切板55は、前部扱胴16aの後方側(中途部)に対応した位置に設けられており、該前部領域Fには多数の四角形状の漏下孔50が複数列、網目状に形成されている。また、この四角形状の漏下孔50は、その対角線lが扱胴の回転方向Dと略々一致するように設けられており、その角部50aで穀粒に付着した小枝梗などを取り除くことが出来るように構成されている。更に、扱胴16によって細分化されていない切れ藁や、単粒化されていない穀粒が、処理されないまま選別室13へと漏下されないように、漏下孔50の開口面積を小さく構成している。なお、前部領域Fから漏下する漏下物は、前別室13の前方側に漏下するため上記1番口Aから回収される率が他の領域からの漏下物よりも高い。
【0027】
一方、中部領域Mは、第1の仕切版55と、後部扱胴16bの前方側に対応した位置に設けられている第2の仕切板56と、により画定されており、前部領域Fと同様に扱胴16の回転方向とその対角線の方向が略々一致した四角形状の漏下孔51が多数、設けられている。扱胴16は、中間領域の中途部に対応した位置において、前部扱胴16aと後部扱胴16bとに分割されており、これら前部扱胴16aと後部扱胴16bとの境界部を跨いだ中部領域Mの中部漏下孔51は、上述した前部領域Fの前部漏下孔50よりも、その開口面積を大きく形成されている。
【0028】
更に、後部領域Rは、第2の仕切板56と、後部扱胴16bの略々中間位置に設けられた第3の仕切板57と、によって画定されており、前部領域及Fび中部領域Mと同様に扱胴16の回転方向とその対角線の方向が略々一致した四角形状の漏下孔52が多数、設けられている。この後部領域Rに設けられた後部漏下孔52は、上述した中部領域Mの中部漏下孔51よりも、その開口面積が大きく形成されており、漏下能力が前部漏下孔50及び中部漏下孔51よりも高くなっている。言い換えれば、中部漏下孔51の開口面積は、後部漏下孔52の開口面積よりも小さくなっている。
【0029】
また、終端領域Gは、第3の仕切板57と、受網の終端(扱室の出口60(排稈口))とによって画定されており、扱胴16の回転方向Dに対して斜めに延びる長孔形状の漏下孔53が複数、形成されている。この終端領域Gは、上述した扱室11の開口部26と対向して設けられており、終端漏下孔53は、この開口部26に向けて斜めに偏倚して形成されている。
【0030】
上述したように、受網30は、前部領域F、中部領域M、後部領域Rと、穀稈搬送方向下流側に進むに従って、漏下孔の開口面積を大きく形成し(50<51<52)、受網30の前方側は穀粒の選別能力が高く、後方側は選別能力よりも漏下能力が高くなるように構成されており、中間部はこれら前方側及び後方側との中間の選別能力及び漏下能力で、一定の漏下物の品質を保ちつつ、前部扱胴16aと後部扱胴16bとの境界部において穀粒が滞留しないだけの漏下能力を有するように構成されている。
【0031】
実際には、前部漏下孔50が10ミリ角、中部漏下孔51が12ミリ角、後部漏下孔52が14ミリ角で形成されており、中部漏下孔51は、12ミリ角が最も望ましいが、10ミリ角より大きく14ミリ角よりも小さい範囲で設定することができる。また、これら3つの領域は、中部領域M、前部領域F、後部領域Rの順で穀稈搬送方向Eに長く形成されており、前部扱胴16a及び後部扱胴16bの境界部を跨ぐ中部領域Mを最も長くしている。
【0032】
更に、扱室11の開口部26に対応した部分を終端領域Gとし、該終端領域Gの漏下孔53の形状を扱胴16の回転方向Dに対して斜めに延びた長孔形状としたことによって、穀粒及び夾雑物の搬送能力を向上させ、効率的に夾雑物を扱室11から排出することが出来ると共に、より多くの選別不十分な穀粒を処理室12に送れる構成となっている。
【0033】
なお、前部領域F、中部領域M、後部領域Rを形成する多孔板(受網)43,46は、同一の物を使用しており、部品の汎用性を高めると共に、これら左右の多孔板を交換することが出来るように構成されている。
【0034】
次に、本願発明の作用について説明をする。前処理部3によって刈取られた穀稈はフィードチェーン15へ受け渡され、機体後方側へと搬送される。フィードチェーン15によって搬送されると、その穂先側は扱室11へと入り、穀稈の搬送方向Eとは直交する方向Dに回転する前部扱胴16a及び後部扱胴16bによって脱穀される。これら脱穀された穀粒は受網30上に落下し、細分化された切れ藁などの夾雑物と共に選別室13へと漏下する。この時、小枝梗などが付いたままの枝梗付き穀粒や穂切れ粒は、扱胴の扱歯19及び、その対角線lが扱胴16の回転方向と略々同じ方向の四角形状に形成された漏下孔50,51,52の角部50a,51a,52aに、枝梗が引っ掛かることによって除去され、単粒となって選別室13に漏下する。
【0035】
受網30の前部領域Fには、前部扱胴16aによって脱穀された多くの穀粒及び、それに伴う切れ藁などの夾雑物が落下するが、前部漏下孔50の開口面積が小さいため、未処理の夾雑物や単粒でない穀粒は、受網上に滞留する。漏下孔50からは、単粒化された穀粒が選別室13へと漏下すると共に、上記滞留物は、扱室11の上方に所定角度傾斜して設けられた送塵板(不図示)及び搬送される穀稈に押されて穀稈搬送方向後流側へと搬送されて行く。
【0036】
一方、前部領域Fの後方の中部領域Mでは、第1の仕切板55を越えて前部領域Fから搬送された滞留物や、新たに脱穀された穀粒が、前部領域Fと同様に穀稈搬送方向後流側に搬送され、この搬送途中において、扱胴16、特に回転速度の速い後部扱胴16bによって、穀粒が単粒化されると共に、切れ藁などの夾雑物を扱室11内で扱胴16と共に回転させて上記扱歯19及び藁切り歯14によって細分化する。これら単粒化された穀粒及び処理された夾雑物は、前部漏下孔50よりも開口面積の大きな中部漏下孔51から円滑に選別室13へと漏下するため、前部扱胴16a及び後部扱胴16bの境界部には穀粒など滞留物はほとんど滞留しない。
【0037】
更に、後部領域Rでは、中部漏下孔51よりも開口面積の大きな後部漏下孔52が設けられており、第2の仕切板56を越えて中部領域Mから搬送された滞留物及び新たに脱穀された穀粒を処理しつつも、せっかく脱穀された穀粒が機外へと排出されないように、前部領域F及び中部領域Mよりも選別室13へ穀粒を漏下させることを優先して、細分された夾雑物及び単粒化された穀粒を上記後部漏下孔52から漏下させている。
【0038】
また、後部領域Rにおいても選別室13へと漏下しなかった滞留物は、斜めに偏倚した長孔形状の終端漏下孔53によって、穀稈搬送方向後流側へと効率よく送られ、選別不十分の穀粒は開口部26を介して処理室12へと搬送されると共に、夾雑物については排稈口60から扱室外へと排出される。
【0039】
なお、前部領域Fで滞留している際に穀粒が巻き上げられてササリ粒となったとしても、その穀粒は後部扱胴16bによって再度、受網上に落下させられ、中部領域Mもしくは後部領域Rの滞留の少ない箇所の受網30から選別室13へと漏下する。
【0040】
上記のように受網30を構成したことによって、受網30の選別能力と、漏下能力を、穀稈の搬送方向位置に応じて変化させ、グレンタンク9に回収される穀粒の品質を向上させると共に、回収されずに機外へと排出される穀粒を減少させることができる。
【0041】
具体的には、前部領域Fの漏下孔50の開口面積を小さくしたことによって、扱室11の入口側で前部扱胴16aに脱穀された穀粒に含まれる枝梗付き穀粒、穂切れ粒などの単粒化されていない穀粒や、細分化されていない大きな切れ藁などを、扱胴16によって処理される前に選別室13へ漏下することを防止することができると共に、前部領域Fから漏下する穀粒の品質を向上させることができる。また、後部領域Rの漏下孔52の開口面積を大きくしたことによって、機外に排出される穀粒を減少させることができる。更に、これら前部領域F及び後部領域Rの間の中部領域Mの漏下孔51の開口面積を、前部漏下孔50及び後部漏下孔52の中間の大きさにしたことによって、前部扱胴16a及び後部扱胴16bの境界部において滞留する穀粒をなくし、ササリ粒の発生を抑制すると共に、漏下物の品質も維持することができる。また、中部領域Mを最も長く形成することによって、受網全体としての漏下能力及び選別能力を最大化することができる。
【0042】
更に、扱室11の開口部26に対応する位置の終端漏下孔53を扱胴16の回転方向Dに対して斜めに延びた長孔形状としたことによって、選別不十分な穀粒を処理室12に効率よく送ることができると共に、夾雑物を穀稈搬送方向後流側に搬送抵抗少なく送ることができ、容易に扱室11から排出することができる。
【0043】
<第2の実施形態>
次に、図8に基づいて第2の実施形態について説明をする。なお、この実施形態は、第1の実施形態と受網の漏下孔の形状以外の構成は、同一であるため、第1の実施形態と同様の構成については説明を省略すると共に、第1の実施形態と対応する構成については、同様の名称を用いるものとする。
【0044】
受網70は、3つの弓形状の仕切板によって、前部領域F、中部領域M、後部領域R、終端領域Gの4つの領域に区分けされて構成されており、前部領域F、中部領域M、後部領域Rと穀稈搬送方向下流側に向うに従って漏下孔71,72,73の開口面積が大きく形成されている。また、これら前部領域F、中部領域M、後部領域Gの漏下孔71,72,73は、正六角形状に形成されていると共に、終端領域Gの終端漏下孔75は、扱胴16の回転方向に対して斜めに延びた長孔形状となっている。
【0045】
上記前部領域F、中部領域M、後部領域Gの漏下孔71,72,73は、扱胴16の回転方向Dと、その対角線lの方向とが略々一致するように形成されており、四角形状よりも角部71a,72a,73aの多い正六角形状としたことによって、より効率的に穀粒の小枝梗や麦のひげなどを除去することができる。
【0046】
<第3の実施形態>
次に、図9に基づいて第3の実施形態について説明をする。なお、この実施形態は、第1の実施形態と受網の漏下孔の形状以外の構成は、同一であるため、第1の実施形態と同様の構成については説明を省略すると共に、第1の実施形態と対応する構成については、同様の名称を用いるものとする。
【0047】
受網80は、3つの弓形状の仕切板55,56,57によって、前部領域F、中部領域M、後部領域R、終端領域Gの4つの領域に区分けされて構成されており、前部領域F、中部領域M、後部領域Rと穀稈搬送方向下流側に向うに従って漏下孔81,82,83の開口面積が大きく形成されている。また、これら漏下孔81,82,83の形状は、前部領域Fが扱胴16の回転方向Dに対して対角線lの方向が略々一致するように形成された四角形状、中部領域Mがその長手方向nが穀稈搬送方向Eと略々一致した長方形状、後部領域R及び終端領域Gが扱胴16の回転方向Dに対して斜めに延びた長孔形状となっている。なお、後部領域Rの漏下孔83は、終端領域Gの漏下孔84よりもその幅が大きく、長さにおいて短いものとなっており、後部漏下孔83の方が漏下能力に優れ、終端漏下孔84の方が穀粒の送り能力に優れる。
【0048】
これにより、前部領域Fでは選別能力(処理能力)を高くし、後部領域Rでは漏下能力及び搬送能力を高くし、中部領域Mではこれら前部及び後部領域の中間の能力として、漏下物の品質を維持しつつ、前部扱胴16a及び後部扱胴16bの境界部における穀粒の滞留をなくし、ササリ粒の発生を抑制することができる。
【0049】
なお、上記実施の形態において、受網の領域を前部領域、中部領域、後部領域、終端領域の4つの領域に区分けしたが、必ずしもこれに限る必要はなく、漏下孔の開口面積を穀稈の搬送方向において変更するものであれば、何段階に設定してもよい。例えば、前部領域と、中部領域と、の2つの領域で構成しても良い。
【0050】
また、漏下孔の形状を、正四角形、正六角形としたが、角部を有した多角形状であればこれに限る必要はなく、単なる四角形状及び六角形状や、三角形状、五角形状、七角形状などとしても良い。更に、これら複数の多角形状を組み合わせても良い。
【0051】
更に、漏下孔は鉄板を打ち抜いて形成されるが、その角部に刃部を設けたり、打ち抜いた際に形成されたバリを取らず、このバリによって小枝梗などを効率よく除去するように構成したりしてもよい。
【0052】
また、上記多角形状の他に、実施例における漏下孔の形状は、長孔形状や、長方形状があるが、これらの形状は、どのように組み合わせても良く、また、単一の形状で全ての漏下孔を形成してもよい。例えば、受網の漏下孔の形状を全て終端漏下孔と同様に長孔形状とすると、穀粒の搬送抵抗を減らして濡れ材への適応性を向上させることができる。
【0053】
更に、上記多角形状の漏下孔の対角線は、穀粒の全長よりも長く形成することが好ましく、複数ある対角線の長さが相違する場合には、最も長い対角線が扱胴16の回転方向Dと略々一致するように形成することがより好ましい。
【符号の説明】
【0054】
5 脱穀機
11 扱室
16 扱胴
16a 前部扱胴
16b 後部扱胴
26 開口部
30,70,80 受網
50,71,81 前部漏下孔
51,72,82 中部漏下孔
52,73,83 後部漏下孔
53,75,84 終端漏下孔
l 漏下孔の対角線
D 扱胴の回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀稈から穀粒を脱穀する扱胴と、該扱胴を回転自在に支持する扱室と、前記扱胴に沿って配設され、多数の漏下孔を有する受網と、を備え、前記扱胴を穀稈搬送方向の中途部で前後に分割して形成すると共に、これら2つの扱胴のうち、穀稈搬送方向上流側である前記扱室の入口側に配設された前部扱胴の回転速度を、穀稈搬送方向下流側である前記扱室の出口側に配設された後部扱胴の回転速度よりも遅くした脱穀機において、
前記前部扱胴と後部扱胴との境界部に対応した位置の漏下孔の開口面積を、前記扱室の入口側から前記前部扱胴の中途部に亘って形成された漏下孔の開口面積よりも、大きくした、
ことを特徴とする脱穀機。
【請求項2】
前記受網の漏下孔の少なくとも一部を、四角形状又は六角形状とし、その対角線の方向を前記扱胴の回転方向と略一致させた、
請求項1記載の脱穀機。
【請求項3】
前記扱室に並設されると共に、該扱室の出口側に設けられた開口部を介して前記扱室と接続する処理室と、
該処理室に回転自在に支持された処理胴と、を備え、
前記開口部に対応した位置の前記受網の漏下孔を、前記扱胴の回転方向に対して斜めに延びる長穴形状とした、
請求項1又は2記載の脱穀機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−268729(P2010−268729A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123547(P2009−123547)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】