説明

脱穀装置の受網構造

【課題】未処理物の漏下を抑えて扱室内での単粒化処理を促進する一方、単粒化された穀粒の漏下を促進する。
【解決手段】外周面に複数の扱歯16aが突設された扱胴16を扱室20内に回転自在に支持すると共に、多数の漏下孔21a〜21cが形成された円弧状の受網21を扱胴16の下側に沿って配置し、扱胴16が脱穀した穀粒を受網21の漏下孔21a〜21cから漏下させる脱穀装置3において、漏下孔21a〜21cを、扱胴回転方向に狭く、扱胴回転軸方向に長い長孔とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン、ハーベスタなどの脱穀装置の受網構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンバイン、ハーベスタなどの脱穀装置では、外周面に複数の扱歯が突設された扱胴を扱室内に回転自在に支持すると共に、多数の漏下孔が形成された円弧状の受網を扱胴の下側に沿って配置し、扱胴が脱穀した穀粒を受網の漏下孔から漏下させるようになっている。受網としては、金属板又は樹脂板からなる円弧状の多孔板が広く採用されており、このような受網によれば、漏下孔の形状や大きさを任意に設定できるという利点がある。例えば、特許文献1に示される受網は、漏下孔の形成領域が扱胴回転軸方向に3区分されており、形成領域毎に漏下孔の大きさを相違させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−184464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示される受網の漏下孔は、扱胴回転方向の寸法と扱胴回転軸方向の寸法が同じ正方形又は菱形の同一形状であり、前側から後側に向けて孔面積を徐々に大きくしているに過ぎないので、各形成領域に求められる漏下性能を発揮することが困難であった。例えば、多くの穀粒が脱粒される前側形成領域では、未処理物(枝梗付着粒、穂切れ粒など)の漏下を抑えつつ、単粒化された穀粒を積極的に漏下させたいという要求があるが、単粒化された穀粒の漏下を促進すべく従来形状の漏下孔を大きくすると、未処理物の漏下も増加してしまうため、要求を満たすことが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、外周面に複数の扱歯が突設された扱胴を扱室内に回転自在に支持すると共に、多数の漏下孔が形成された円弧状の受網を扱胴の下側に沿って配置し、扱胴が脱穀した穀粒を受網の漏下孔から漏下させる脱穀装置において、前記漏下孔を、扱胴回転方向に狭く、扱胴回転軸方向に長い長孔としたことを特徴とする。
また、前記受網における漏下孔の形成領域を扱胴回転軸方向に3区分し、中間形成領域には、扱胴回転軸方向の長さが前側形成領域に形成される漏下孔と同じで、かつ、扱胴回転方向の幅が前側形成領域に形成される漏下孔よりも広い漏下孔を形成したことを特徴とする。
また、前記受網における漏下孔の形成領域を扱胴回転軸方向に3区分し、後側形成領域には、扱胴回転方向の幅が中間形成領域に形成される漏下孔と同じで、かつ、扱胴回転軸方向の長さが中間形成領域に形成される漏下孔よりも長い漏下孔を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、漏下孔は、扱胴回転方向に狭いので、未処理物の漏下を抑えて扱室内での単粒化処理を促進する一方、扱胴回転軸方向に長いので、単粒化された穀粒の漏下を促進することができる。
また、請求項2の発明によれば、中間形成領域の漏下孔は、扱胴回転方向の幅が前側形成領域に形成される漏下孔よりも広いので、穀粒の漏下をさらに促進する一方、扱胴回転軸方向の長さが前側形成領域に形成される漏下孔と同じなので、中間形成領域の処理物に多く含まれる長藁の漏下を抑えることができる。
また、請求項3の発明によれば、後側形成領域の漏下孔は、扱胴回転方向の幅が中間形成領域に形成される漏下孔と同じで、かつ、扱胴回転軸方向の長さが中間形成領域に形成される漏下孔よりも長いので、穀粒の漏下をさらに促進し、穀粒ロスを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】コンバインの左側面図である。
【図2】コンバインの伝動図である。
【図3】脱穀部の内部側面図である。
【図4】扱室の斜視図である。
【図5】扱室の平面図である。
【図6】受網の斜視図である。
【図7】受網の平面図である。
【図8】第二実施形態に係る受網の正面図である。
【図9】第二実施形態に係る受網の平面図である。
【図10】第三実施形態に係る受網の平面図である。
【図11】第二実施形態に係る受網の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1はコンバインであって、該コンバイン1は、茎稈を刈り取る前処理部2と、刈り取った茎稈から穀粒を脱穀して選別する脱穀装置3と、選別した穀粒を貯留する穀粒タンク4と、穀粒タンク4内の穀粒を機外に排出する排出オーガ5と、脱穀済みの排藁を後処理する後処理部6と、オペレータが乗車する操縦部7と、クローラ式の走行部8とを備えて構成されている。
【0009】
操縦部7の後下方には、エンジン9が搭載されている。図2に示すように、エンジン9の動力は、走行HST10及び走行トランスミッション11を介して走行部8に伝動されると共に、搬送HST12及びギヤケース13を介して前処理部2や脱穀フィードチェン14に伝動され、さらには、穀粒タンク4から排出オーガ5に亘って内装される穀粒排出ラセン15や、脱穀装置3に設けられる扱胴16、処理胴17、排藁チェン18及び選別部19にも伝動されるようになっている。
【0010】
図3に示すように、脱穀装置3は、脱穀フィードチェン14によって搬送される茎稈の穂先側を導入する扱室20と、扱室20内に回転自在に内装され、外周に突設される複数の扱歯16aで茎稈から穀粒を脱粒させる扱胴16と、扱胴16の下側に沿って配置され、扱室20から穀粒を漏下させる受網21と、受網21から漏下せずに扱室20の終端まで達した処理物を受け入れる処理室22と、処理室22内に回転自在に内装され、処理物を単粒化処理する処理胴17と、処理胴17の下側に沿って配置され、処理室22から穀粒を漏下させる第二の受網23と、受網21、23から漏下した穀粒を揺動選別する揺動選別体24と、該揺動選別体24の前方で選別風を起風する圧風ファン25と、一番物を回収する一番ラセン26と、二番物を回収する二番ラセン27と、二番ラセン27の前方で二番選別風を起風する二番選別ファン28と、揺動選別体24の終端部上方に設けられ、脱穀装置3内の塵埃を排出する吸引ファン29とを備えて構成されている。そして、一番ラセン26によって回収された一番物は、図示しない揚穀筒を介して穀粒タンク4に貯留され、二番ラセン27によって回収された二番物は、図示しない二番還元筒を介して揺動選別体24上に還元されるようになっている。
【0011】
揺動選別体24は、受網21から漏下した穀粒を後方へ順次搬送するグレンパン30と、グレンパン30の後方で穀粒を篩い選別するチャフシーブ31と、該チャフシーブ31から漏下した穀粒をさらに篩い選別するグレンシーブ32と備える揺動アッセンブリであり、図示しない駆動機構(クランク機構、カム機構など)によって所定の周期で連続的に往復揺動される。
【0012】
図2、図4及び図5に示すように、本実施形態の扱胴16は、前側扱胴16Fと後側扱胴16Rに分割されており、それぞれ異なる速度で回転駆動されるようになっている。つまり、脱粒比率(約80%)の高い扱室20の前側領域では、前側扱胴16Fを低速回転させることにより、高速回転による必要以上の屑(穂切れなど)の発生や穀粒の損傷を防止することができる一方、未処理物が多く含まれる扱室20の後側領域では、後側扱胴16Rを高速回転させることにより、未処理物の単粒化処理を促進させることができるようになっている。
【0013】
図6及び図7に示すように、本実施形態の受網21は、多数の漏下孔21a〜21cが打ち抜き加工された円弧状の多孔板を用いて形成されている。受網21における漏下孔21a〜21cの形成領域は、扱胴回転軸方向に3区分されており、中間形成領域Bには、前側形成領域Aの漏下孔21aよりも孔面積が大きい漏下孔21bを形成し、後側形成領域Cには、中間形成領域Bの漏下孔21bよりも孔面積が大きい漏下孔21cを形成している。
【0014】
ここで、扱胴16の分割部は、受網21の中間形成領域Bに位置させることが好ましい。つまり、扱胴16の分割部では、処理物の移送が停滞しやすくなるが、前側形成領域Aの漏下孔21aよりも大きい漏下孔21bが形成された中間形成領域Bに位置することにより、穀粒の漏下を促進して処理物の停滞を少なくでき、しかも、中間形成領域Bの漏下孔21bは、後側形成領域Cの漏下孔21cよりも小さいので、過剰な漏下を抑制して処理不足による選別精度の低下を回避することができる。
【0015】
尚、図6及び図7に示すように、後側形成領域Cの後方には、処理室22に連通する排塵口33、扱室20内の未処理物を排塵口33へ導くガイド34、脱穀済みの排藁を扱室20から排出するための排稈口35が形成されている。
【0016】
受網21に形成される漏下孔21a〜21cの形状は、扱胴回転方向に狭く、扱胴回転軸方向に長い長孔としてある。例えば、扱胴回転方向の幅Wが8〜10mm、扱胴回転軸方向の長さLが24〜30mmの長方形とする。このような漏下孔21a〜21cによれば、扱胴回転方向に狭いので、未処理物の漏下を抑えて扱室20内での単粒化処理を促進する一方、扱胴回転軸方向に長いので、単粒化された穀粒の漏下を促進することができる。
【0017】
また、前述の如く受網21における漏下孔21a〜21cの形成領域を扱胴回転軸方向に3区分するにあたり、中間形成領域Bには、扱胴回転軸方向の長さが前側形成領域Aに形成される漏下孔21aと同じで、かつ、扱胴回転方向の幅が前側形成領域Aに形成される漏下孔21aよりも広い漏下孔21bを形成することが好ましい。例えば、前側形成領域Aに形成される漏下孔21aの扱胴回転方向の幅W1が8mm、扱胴回転軸方向の長さL1が24mmである場合、中間形成領域Bに形成される漏下孔21bは、扱胴回転方向の幅W2を10mm、扱胴回転軸方向の長さL2を24mmとする。
【0018】
このようにすると、中間形成領域Bの漏下孔21bは、扱胴回転方向の幅W2が前側形成領域Aに形成される漏下孔21aよりも広いので、穀粒の漏下をさらに促進する一方、扱胴回転軸方向の長さL2が前側形成領域Aに形成される漏下孔21aと同じなので、中間形成領域Bの処理物に多く含まれる長藁の漏下を抑えることができる。
【0019】
また、後側形成領域Cには、扱胴回転方向の幅W3が中間形成領域Bに形成される漏下孔21bと同じで、かつ、扱胴回転軸方向の長さL3が中間形成領域Bに形成される漏下孔21bよりも長い漏下孔21cを形成することが好ましい。例えば、中間形成領域Bに形成される漏下孔21bの扱胴回転方向の幅W2が10mm、扱胴回転軸方向の長さL2が24mmである場合、後側形成領域Cに形成される漏下孔21cは、扱胴回転方向の幅W3を10mm、扱胴回転軸方向の長さL3を30mmとする。
【0020】
このようにすると、後側形成領域Cの漏下孔21cは、扱胴回転方向の幅W3が中間形成領域Bに形成される漏下孔21bと同じで、かつ、扱胴回転軸方向の長さL3が中間形成領域Bに形成される漏下孔21bよりも長いので、穀粒の漏下をさらに促進し、穀粒ロスを抑えることができる。
【0021】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、外周面に複数の扱歯16aが突設された扱胴16を扱室20内に回転自在に支持すると共に、多数の漏下孔21a〜21cが形成された円弧状の受網21を扱胴16の下側に沿って配置し、扱胴16が脱穀した穀粒を受網21の漏下孔21a〜21cから漏下させる脱穀装置3において、漏下孔21a〜21cを、扱胴回転方向に狭く、扱胴回転軸方向に長い長孔としたので、漏下孔21a〜21cは、扱胴回転方向に狭いことによって、未処理物の漏下を抑えて扱室20内での単粒化処理を促進する一方、扱胴回転軸方向に長いことによって、単粒化された穀粒の漏下を促進することができる。
【0022】
また、受網21における漏下孔21a〜21cの形成領域を扱胴回転軸方向に3区分し、中間形成領域Bには、扱胴回転軸方向の長さL2が前側形成領域Aに形成される漏下孔21aと同じで、かつ、扱胴回転方向の幅W2が前側形成領域Aに形成される漏下孔21aよりも広い漏下孔21bを形成したので、中間形成領域Bの漏下孔21bは、扱胴回転方向の幅W2が前側形成領域Aに形成される漏下孔21aよりも広いことによって、穀粒の漏下をさらに促進する一方、扱胴回転軸方向の長さL2が前側形成領域Aに形成される漏下孔21aと同じであることによって、中間形成領域Bの処理物に多く含まれる長藁の漏下を抑えることができる。
【0023】
また、受網21における漏下孔21a〜21cの形成領域を扱胴回転軸方向に3区分し、後側形成領域Cには、扱胴回転方向の幅W3が中間形成領域Bに形成される漏下孔21bと同じで、かつ、扱胴回転軸方向の長さL3が中間形成領域Bに形成される漏下孔21bよりも長い漏下孔21cを形成したので、後側形成領域Cの漏下孔21cは、扱胴回転方向の幅W3が中間形成領域Bに形成される漏下孔21bと同じで、かつ、扱胴回転軸方向の長さW3が中間形成領域Bに形成される漏下孔21bよりも長いことによって、穀粒の漏下をさらに促進し、穀粒ロスを抑えることができる。
【0024】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されないことは勿論であって、特許請求の範囲内において任意の変更が可能であることは言うまでもない。例えば、図8や図9に示すように、受網21の非作用側(外周面側)に、漏下孔21a〜21cを扱胴回転軸方向に仕切る板状又は線状の仕切部材21dを設けてもよい。このようにすると、漏下孔21a〜21cに入った単粒以外の未処理物は、仕切部材21dで一時的に保持され、扱歯16aの処理作用を十分に受けてから漏下されることになり、その結果、枝梗付着粒や穂切れ粒の単粒化を促し、選別精度を向上させることができる。また、図9に示すように、仕切部材21dの左右端部をR形状(例えば、断面円形状)とした場合には、受網21との間に鋭角的に溝部が形成されるので、ここで枝梗を引っ掛け、枝梗付着粒を減少させることができる。
【0025】
また、図10及び図11に示すように、漏下孔21a〜21cの扱胴回転下手側の端縁に、ギザギザ状の切欠き21eを形成してもよい。このようにすると、漏下孔21a〜21cに入った単粒以外の未処理物は、ギザギザ状の切欠き21eで一時的に保持され、扱歯16aの処理作用を十分に受けてから漏下されることになり、その結果、枝梗付着粒や穂切れ粒の単粒化を促し、選別精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 コンバイン
3 脱穀装置
16 扱胴
16a 扱歯
20 扱室
21 受網
21a 漏下孔
21b 漏下孔
21c 漏下孔
A 前側形成領域
B 中間形成領域
C 後側形成領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に複数の扱歯が突設された扱胴を扱室内に回転自在に支持すると共に、多数の漏下孔が形成された円弧状の受網を扱胴の下側に沿って配置し、扱胴が脱穀した穀粒を受網の漏下孔から漏下させる脱穀装置において、
前記漏下孔を、扱胴回転方向に狭く、扱胴回転軸方向に長い長孔としたことを特徴とする脱穀装置の受網構造。
【請求項2】
前記受網における漏下孔の形成領域を扱胴回転軸方向に3区分し、中間形成領域には、扱胴回転軸方向の長さが前側形成領域に形成される漏下孔と同じで、かつ、扱胴回転方向の幅が前側形成領域に形成される漏下孔よりも広い漏下孔を形成したことを特徴とする請求項1記載の脱穀装置の受網構造。
【請求項3】
前記受網における漏下孔の形成領域を扱胴回転軸方向に3区分し、後側形成領域には、扱胴回転方向の幅が中間形成領域に形成される漏下孔と同じで、かつ、扱胴回転軸方向の長さが中間形成領域に形成される漏下孔よりも長い漏下孔を形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の脱穀装置の受網構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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