説明

脱顆粒促進剤及び脱顆粒抑制物質の評価方法

【課題】顆粒球における脱顆粒の促進剤、アレルギー剤の有効成分候補物質のスクリーニング方法等を提供すること。
【解決手段】カンジダ由来のβ−グルカンを有効成分とする顆粒球の脱顆粒の促進剤。次のステップを含む顆粒球の脱顆粒を抑制する物質の評価方法又は抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニング方法;被験物質、カンジダ由来のβ−グルカン、抗原物質、当該抗原物質に対する抗体及び顆粒球を共存させるステップ、前記ステップによって得られる脱顆粒のレベルと前記ステップにおいて被験物質が共存していない状態における脱顆粒のレベルとを比較するステップ。カンジダ由来のβ−グルカンを構成成分として含む顆粒球の脱顆粒を抑制する物質の評価キット又は抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニングキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顆粒球における脱顆粒の促進剤、顆粒球の脱顆粒を抑制する物質の評価方法、抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニング方法及びこれらの方法に用いるキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願書類において使用する略号及びその意義は以下の通りである。
BG:β−グルカン
BSA:ウシ血清アルブミン
CSBG:カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)由来の1,6−β−long glucosyl branched 1,3−β−グルカン
DMSO:ジメチルスルホキシド
FBS:ウシ胎児血清(fetal bovine serum)
SPG:Schizophyllum commune由来の1,6−β−mono glucosyl branched 1,3−β−グルカン
TNP:トリニトロフェニル
特許文献1には、パン酵母由来のBGを含有することを特徴とする免疫力改善食品が記載されており、その「免疫力改善」として抗アレルギーが記載されている。また特許文献2には、β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液またはβ−1,3−1,6−D−グルカンを有効成分とするアレルギー抑制剤が記載されている。
しかし、カンジダ由来のBGが顆粒球の脱顆粒を促進すること、これを脱顆粒抑制物質の評価に用いること、これを抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニングに用いること等については、開示も示唆もない。
【0003】
【特許文献1】特開2006−187258号公報
【特許文献2】特開2006−104439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、顆粒球における脱顆粒の促進剤、顆粒球の脱顆粒を抑制する物質の評価方法、抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニング方法及びこれらの方法に用いるキットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、カンジダ由来のBGが顆粒球の脱顆粒を促進することを見出し、さらにこれを脱顆粒抑制物質の評価や、抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニングに用いることができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明は、カンジダ由来のBGを有効成分とする、顆粒球の脱顆粒の促進剤(以下、「本発明促進剤」という。)を提供する。このカンジダ由来のBGは、カンジダ・アルビカンス由来のBGであることが好ましい。またBGは、1,3−β−グルカンであることが好ましい。またBGは、CSBGであることが好ましい。また「顆粒球」は、好塩基球であることが好ましい。
【0007】
また本発明は、以下のステップを少なくとも含む、顆粒球の脱顆粒を抑制する物質の評価方法(以下、「本発明評価方法」という。)を提供する。
(1)被験物質、カンジダ由来のBG、抗原物質、当該抗原物質に対する抗体及び顆粒球を共存させるステップ;
(2)前記ステップによって得られる脱顆粒のレベルと、前記ステップにおいて被験物質が共存していない状態における脱顆粒のレベルとを比較するステップ。
【0008】
また本発明は、以下の構成成分を少なくとも含む、顆粒球の脱顆粒を抑制する物質の評価キット(以下、「本発明評価キット」という。)を提供する。
(1)カンジダ由来のBG。
本発明評価キットは、さらに以下の構成成分を含むものが好ましい。
(2)顆粒球。
また本発明は、以下のステップを少なくとも含む、抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニング方法(以下、「本発明スクリーニング方法」という。)を提供する。
(1)被験物質、カンジダ由来のBG、抗原物質、当該抗原物質に対する抗体及び顆粒球を共存させるステップ;
(2)前記ステップによって得られる脱顆粒のレベルと、前記ステップにおいて被験物質が共存していない状態における脱顆粒のレベルとを比較するステップ。
また本発明は、以下の構成を少なくとも含む、抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニングキット(以下、「本発明スクリーニングキット」という。)を提供する。
(1)カンジダ由来のBG。
本発明スクリーニングキットは、さらに以下の構成成分を含むものが好ましい。
(2)顆粒球。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、顆粒球における脱顆粒の促進に有用な本発明促進剤が提供され、さらにこれを応用した顆粒球の脱顆粒を抑制する物質の極めて有効な評価方法(本発明評価方法)や、抗アレルギー剤の有効成分の候補物質の極めて有効なスクリーニング方法(本発明スクリーニング方法)が提供されることから、極めて有用である。
また、本発明評価キットや本発明スクリーニングキットを用いれば、このような評価やスクリーニングをさらに簡便、迅速、高感度かつ安価に実施することができ、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、発明を実施するための最良の形態によって本発明を詳説する。
【0011】
<1>本発明促進剤
本発明促進剤は、カンジダ由来のBGを有効成分とする、顆粒球の脱顆粒の促進剤である。
ここで用いるカンジダ由来のBGは、カンジダ属に属する真菌に由来するBGである限りにおいて特に限定されず、このようなBGは自体公知の方法で製造することができる。カンジダ由来のBGのなかでも、カンジダ・アルビカンス由来のBGであることが好ましい。またBGは、1,3−β−グルカンであることが好ましい。またBGは、CSBGであることが好ましい。このCSBGも、公知の方法で製造することができる。
【0012】
本発明促進剤は、顆粒球の脱顆粒を促進するために用いられる。本出願書類における「顆粒球」の語は、好中球、好酸球、好塩基球のみならず、肥満細胞をも含む概念として用いる。本発明促進剤はこれらのいずれの顆粒球における脱顆粒を促進するために用いることができるが、なかでも好塩基球及び/又は肥満細胞の脱顆粒を促進するために用いるものであることが好ましい。
【0013】
なお、本出願書類における「脱顆粒」とは、顆粒球の細胞内にある顆粒に蓄積されているヒスタミンなどの化学伝達物質が細胞外に放出されることを意味する。この脱顆粒の有無やレベルは、細胞外に放出されたβ−ヘキソサミニダーゼ(β-hexosaminidase)の活性を測定することによって評価することができる。例えば、細胞外に放出されたβ−ヘキソサミニダーゼ(β-hexosaminidase)が増加すれば脱顆粒が起きた(又は促進された)と評価でき、逆に減少すれば脱顆粒が抑制されたと評価することができる。より具体的な
評価方法については、後述の実施例を参照されたい。
【0014】
本発明促進剤は、このような顆粒球の脱顆粒を促進せしめる程度の量のカンジダ由来のBGを含有していればよい。本発明促進剤中に含有させるカンジダ由来のBGの量は、その具体的用途(医薬・試薬など)、適用対象、適用方法等に応じて当業者が適宜設定すべき事項であり、特に限定されないが、例えば本発明促進剤を溶液状態の剤として提供する場合には、カンジダ由来のBGとして5μg/ml〜1mg/ml程度を例示することができる。ただし、これはあくまで例示であって、本発明促進剤中のカンジダ由来のBGの量(濃度)は、これに限定されるものではない。
【0015】
また、本発明促進剤は、カンジダ由来のBGを有効成分として含有しており、かつ、かかるカンジダ由来のBGの作用・機能に悪影響を与えない限りにおいて、他の薬学的又は試薬的に許容される成分をさらに含有していてもよい。このような他の成分は、本発明促進剤の具体的用途、適用対象、適用方法等に応じて当業者が適宜設定することができる。本発明促進剤の剤形や、本発明促進剤が提供される際の形態などについても同様である。
【0016】
本発明促進剤は、固体(乾燥)状態、溶液状態、凍結状態などのさまざまな形態で提供されうる。そして本発明促進剤は、このような提供される際の状態に応じて、公知の薬学的又は試薬的方法に従って当業者が容易に製造することができる。
【0017】
本発明促進剤は、医薬や試薬、また後述するキットの構成成分等として利用することができる。
【0018】
<2>本発明評価方法
本発明評価方法は、以下のステップを少なくとも含む、顆粒球の脱顆粒を抑制する物質の評価方法である。
(1)被験物質、カンジダ由来のBG、抗原物質、当該抗原物質に対する抗体及び顆粒球を共存させるステップ;
(2)前記ステップによって得られる脱顆粒のレベルと、前記ステップにおいて被験物質が共存していない状態における脱顆粒のレベルとを比較するステップ。
【0019】
以下、ステップごとに説明する。
【0020】
ステップ(1)は、被験物質、カンジダ由来のBG、抗原物質、当該抗原物質に対する抗体及び顆粒球を共存させるステップである。
【0021】
ここにいう「被験物質」は、本発明評価方法における評価に付される物質である。またここにいう「カンジダ由来のBG」については、前記の<1>と同様である。またここで用いることができる「抗原物質」及び「当該抗原物質に対する抗体」は、その「抗原物質」と「当該抗原物質に対する抗体」が反応することにより、顆粒球における脱顆粒が惹起されるようなものである限りにおいて特に限定されず、目的等に応じて当業者が適宜選択することができる。「抗原物質」及び「当該抗原物質に対する抗体」の一例として、それぞれTNP−BSA抗原及び抗TNP−IgE抗体を例示することができる。またここにいう「顆粒球」についても、前記の<1>と同様である。
【0022】
ステップ(1)は、これらのものを共存させることにより行われる。本出願書類において「共存」とは、これらの物質分子や細胞の表面が相互に接触しうる状態にあることを意味する。これらのものを共存させる順序も、目的等に応じて当業者が適宜設定することができるが、顆粒球と抗原物質に対する抗体を予め共存させておき(感作)、その後、更にこれらに当該抗原物質とカンジダ由来のBGとを共存させる方法を採用することが好ましい。この場合において被験物質を共存させるタイミングは、その評価の目的等に応じて適宜設定することができる。例えば、顆粒球の脱顆粒を事前に抑制(予防)できるか否かを評価する場合には、顆粒球と抗原物質に対する抗体を予め共存させておく段階において被験物質を更に共存させておけばよい。また、顆粒球の脱顆粒を事後的に抑制できるか否かを評価する場合には、当該抗原物質とカンジダ由来のBGとを更に共存させた段階以後に被験物質を共存させればよい。
【0023】
これらの物質を共存させる条件も、目的等に応じて当業者が適宜設定することができ、特に限定されるものではない。その一例は、実施例を参照されたい。
【0024】
ステップ(2)は、ステップ(1)によって得られる脱顆粒のレベルと、ステップ(1)において被験物質が共存していない状態における脱顆粒のレベルとを比較するステップである。すなわち、ステップ(1)において被験物質が共存させた場合と、ステップ(1)において被験物質を共存させなかった場合における双方の脱顆粒のレベルを求め、これらを比較するステップである。
脱顆粒のレベルは、前記<1>で述べた通り、β−ヘキソサミニダーゼ(β-hexosaminidase)の活性を測定し、これを指標とすることができる。より具体的な方法については、後述の実施例を参照されたい。
【0025】
そして、ステップ(1)によって求められた脱顆粒のレベルが、ステップ(1)において被験物質が共存していない状態において求めた脱顆粒のレベルよりも低い場合には、当該被験物質が「顆粒球の脱顆粒を抑制する物質」であると評価することができる。
【0026】
<3>本発明評価キット
本発明評価キットは、以下の構成成分を少なくとも含む、顆粒球の脱顆粒を抑制する物質の評価キットである。
(1)カンジダ由来のBG。
【0027】
ここで用いることができる「カンジダ由来のBG」については、前記の<1>と同様である。本発明評価キットは、このカンジダ由来のBGを少なくとも構成成分として含んでいる限りにおいて、さらに他の構成成分を含んでいてもよい。例えば、さらに「顆粒球」を構成成分として含んでいてもよい。ここで用いることができる「顆粒球」についても、前記の<1>を同様である。
また、抗原物質や、当該抗原物質に対する抗体を、更に構成成分として含んでいてもよい。ここで用いることができる「抗原物質」や「当該抗原物質に対する抗体」については、前記<2>と同様である。また、β−ヘキソサミニダーゼ(β-hexosaminidase)の活性測定用の試薬や、陽性対照物質などを更に構成成分として含んでいてもよい。
【0028】
本発明評価キットは、本発明評価方法に従って使用することができる。
【0029】
<4>本発明スクリーニング方法
本発明スクリーニング方法は、以下のステップを少なくとも含む、抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニング方法である。
(1)被験物質、カンジダ由来のBG、抗原物質、当該抗原物質に対する抗体及び顆粒球を共存させるステップ;
(2)前記ステップによって得られる脱顆粒のレベルと、前記ステップにおいて被験物質が共存していない状態における脱顆粒のレベルとを比較するステップ。
【0030】
本発明スクリーニング方法は、前記の本発明評価方法を、抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニング方法に応用したものである。したがってその具体的な説明は、前記<2>の本発明評価方法における「顆粒球の脱顆粒を抑制する物質の評価」の語を「抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニング」に置き換えたものと同じである。
【0031】
したがって、例えばステップ(1)において、アレルギーの「予防」に着目した抗アレルギー剤の有効成分の候補物質をスクリーニングする場合には、顆粒球と抗原物質に対する抗体を予め共存させておく段階において被験物質を更に共存させておけばよく、アレルギーの治療(事後的処置)に着目した抗アレルギー剤の有効成分の候補物質をスクリーニングする場合には、抗原物質とカンジダ由来のBGとを更に共存させた段階以後に被験物質を共存させればよい。
【0032】
同様に、ステップ(2)においては、ステップ(1)によって求められた脱顆粒のレベルが、ステップ(1)において被験物質が共存していない状態において求めた脱顆粒のレベルよりも低い場合に、当該被験物質を「抗アレルギー剤の有効成分の候補物質」として選択できることとなる。
【0033】
<5>本発明スクリーニングキット
また本発明スクリーニングキットは、以下の構成を少なくとも含む、抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニングキットである。
(1)カンジダ由来のBG。
【0034】
本発明スクリーニングキットは、前記の本発明評価キットを、抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニングキットに応用したものである。したがってその具体的な説明は、前記<3>の本発明評価キットにおける「顆粒球の脱顆粒を抑制する物質の評価」の語を「抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニング」に置き換えたものと同じである。したがって、本発明スクリーニングキットは、さらに「顆粒球」などを構成成分として含んでいてもよい。これらの例示も、前記<3>と同様であることはいうまでもない。
【0035】
本発明スクリーニングキットは、本発明スクリーニング方法に従って使用することができる。
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に詳説する。まず、本実施例において用いた手法について説明する。
【0037】
(1)BGの調製
(1−1)CSBG
カンジダ・アルビカンス(Candida albicans IFO1385)を5LのC−limiting medium(炭素源としてsucroseを含む)にて27℃で48〜72時間液体培養し(ジャーファメンター使用;攪拌速度:400rpm)、アセトン処理、脱脂した後、乾燥菌体を得た。
脱脂した乾燥菌体に、1%次亜塩素酸溶液を添加し、4℃で一晩撹拌して酸化した。その後、3,000rpmで10分間遠心分離して沈殿物を回収し、BGを含有しない蒸留水を添加して撹拌後、遠心分離(3,000rpm、10分)し、その沈殿物にアセトン200mLを加え脱水沈殿物を得た。該沈殿物にDMSO 30mLを加え、1時間超音波をかけて溶解させた。3,000rpm、10分間遠心分離し、上清を得、該上清に2倍量のエタノールを撹拌しながら加えBGを析出させた後、該析出物を3,000rpm、10分間遠心分離し、沈殿物を得た。該沈殿物にアセトンを100mL加え撹拌し、3,000rpm、10分間遠心分離して脱水した沈殿物を得、減圧乾燥してBGの粉末を得、これを0.2M NaOHに40mg/mLで溶解した。これを0.5M Tris−HClで中和し、20mg/mLのCSBG溶液とした。
このCSBG溶液をRPMI1640で希釈して得た各濃度のCSBG含有培養液を、以下の実験系で使用した。
(1−2)SPG
SPGは、科研製薬株式会社製のものを用いた。
【0038】
(2)脱顆粒アッセイ系
ラット好塩基球細胞株RBL−2H3(TKG0321;東北大学加齢医学研究所 医用細胞資源センターより購入)(2.5×10/ウェル)を一晩インキュベートし(培地:56℃で30分間加温処理したFBSを終濃度10%(v/v)含有するRPMI-1640培地)、細胞培養用の24ウェル・プレートに付着させた。終濃度2μg/mlの抗TNP−IgE抗体で、37℃の条件下で2時間感作させ、その後、終濃度5μg/mlのTNP−BSA抗原を添加して37℃の条件下で30分間保持することで脱顆粒を誘導した。
抗TNP−IgE抗体又はTNP−BSA抗原と共にCSBGを添加し、培養上清に放出されたβ−ヘキソサミニダーゼ(β-hexosaminidase)の活性を測定することによって脱顆粒を評価した。
β-hexosamindase活性の測定は、基質酵素反応により生じる4−ニトロフェノール(4-nitrophenol)を測定することにより行った。すなわち、96ウェル・プレートを用いて、培養上清 50μlに3.3mM 4−ニトロフェニル−N−アセチル−β−D−グルコサミニド(4-nitrophenyl-N-acetyl-β-D-glucosaminide)(基質)を含有する0.1M クエン酸緩衝液(pH 4.5)を100μl添加して、37℃で30分間インキュベートした。その後、2M グリシン−NaOH(pH 10.7)を 100μl添加することによって酵素反応を停止させ、4−ニトロフェノール(4-nitrophenol)を生成させ、405nmにおける吸光度を測定した。
【実施例1】
【0039】
カンジダ由来のBGによる脱顆粒促進活性
上記の脱顆粒アッセイ系において、CSBGを添加するタイミングを変えて脱顆粒実験を行った。CSBGは、種々の終濃度となるように添加した。
結果を図1に示す。図1中、各CSBG濃度における左側のカラムは、上記の脱顆粒アッセイ系におけるTNP−BSA抗原添加と同時にCSBGを添加したものを、右側のカラムは、上記の脱顆粒アッセイ系における抗TNP−IgE抗体添加と同時にCSBGを添加したものをそれぞれ示す。縦軸は、コントロール(CSBGを添加しないもの)において培養上清中に放出されたβ-hexosaminidaseの活性を100%としたときの割合を百分率で示したものである。また横軸は、添加したCSBGの終濃度を示したものである。
また、図1中の「*」は、コントロールに対してp<0.05で有意差があることを、「**」は、コントロールに対してp<0.001で有意差があることをそれぞれ示す。
【0040】
図1より、TNP−BSA抗原添加と同時にCSBGを添加した場合、CSBGの濃度依存的に、脱顆粒量が有意に上昇した。このことから、カンジダ由来のBGは、脱顆粒の促進活性を有することが示された。
【実施例2】
【0041】
抗TNP−IgE抗体の濃度との関係
上記の脱顆粒アッセイ系において、感作させる抗TNP−IgE抗体の濃度を変えて脱顆粒実験を行った。結果を図2に示す。図2中、白丸はコントロール(CSBGを添加しないもの)を、黒丸はTNP−BSA抗原添加と同時にCSBGを終濃度400μg/mlとなるように添加したものをそれぞれ示す。
縦軸は、細胞溶解液中に含まれるβ-hexosaminidaseを100%としたときに、各実験条件において培養上清中に放出されたβ-hexosaminidaseの活性の割合を百分率で示したものである。また横軸は、感作に用いた抗TNP−IgE抗体の終濃度を示したものである。
また、図2中の「*」は、コントロールに対してp<0.05で有意差があることを、「**」は、コントロールに対してp<0.001で有意差があることをそれぞれ示す。
図2より、コントロールでは1μg/ml以上の抗TNP−IgE抗体で感作させると脱顆粒が定常状態に達し、細胞内に含まれるβ-hexosaminidaseの約10%が培養上清中に放出された。TNP−BSA抗原と共に400μg/mlのCSBGを添加すると、高濃度のIgE感作時において脱顆粒量が有意に上昇した。
【実施例3】
【0042】
カンジダ以外に由来するBGの効果
上記の脱顆粒アッセイ系において、CSBGとは由来及び構造が異なるBGである「SPG」をTNP−BSA抗原と共に添加し、脱顆粒実験を行った。結果を図3に示す。
図3中の縦軸は、TNP−BSA抗原及び抗TNP−IgE抗体のみを添加したコントロール条件時に培養上清中に放出されるβ-hexosaminidaseの活性を100%としたときに、各実験条件において培養上清中に放出されたβ-hexosaminidaseの活性の割合を百分率で示したものである。また横軸は、添加したCSBG又はSPGの終濃度を示したものである。
また図3中、各濃度における左側のカラムはCSBGを添加したものを、右側のカラムはSPGを添加したものをそれぞれ示す。
また、図3中の「*」は、コントロールに対してp<0.05で有意差があることを、「**」は、コントロールに対してp<0.001で有意差があることをそれぞれ示す。
図3より、CSBG添加群ではCSBGの濃度依存的に脱顆粒量が有意に上昇するが、SPG添加群では脱顆粒量の上昇は見られなかった。
【実施例4】
【0043】
RT−PCRによるmRNA発現の解析
RBL−2H3細胞(2.5×10/ウェル)を24時間インキュベートし、細胞培養用の24ウェル・プレートに付着させた。終濃度2μg/mlの抗TNP−IgE抗体で2時間感作させ、その後、終濃度5μg/mlのTNP−BSA抗原を添加して4時間保持した。その後、ISOGEN(ニッポンジーン社製)を使用して抽出したRNA(1μg)を用いてRT−PCRを行い、ヒスチジンデカルボキシラーゼ(histidine decarboxylase(HDC))、IL−4及びβ−アクチンのmRNAの検出を行った。Lumino-image analyzer(富士フィルム社製)を用いてmRNAの発現強度を数値化して検討した。
CSBGは、RBL−2H3細胞を24時間インキュベートする時又はTNP−BSA抗原を添加する時と同時に、400μg/ml添加した。
PCRの条件・サイクル数は、次の通りである;(94℃で30秒間(変性)、56℃で30秒間(アニーリング)、68℃で40秒間(伸長))、25又は35回(サイクル)。
【0044】
また、それぞれの検出対象についてのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーの塩基配列、PCR産物の塩基数を以下に示す。
【0045】
IL-4:
センスプライマー: 配列番号1に示す。
アンチセンスプライマー: 配列番号2に示す。
PCR産物の塩基数:378bp
HDC:
センスプライマー: 配列番号3に示す。
アンチセンスプライマー: 配列番号4に示す。
PCR産物の塩基数:441bp
β−アクチン:
センスプライマー: 配列番号5に示す。
アンチセンスプライマー: 配列番号6に示す。
PCR産物の塩基数:574bp
<1>IL−4 mRNAの発現
IL−4及びβ−アクチンのmRNAの発現を解析した結果を図4に示す。
図4中の(1)は抗TNP−IgE抗体及びTNP−BSA抗原を添加しない群(コントロール)、(2)は抗TNP−IgE抗体及びTNP−BSA抗原のみを添加した群、(3)は抗TNP−IgE抗体で感作させ、TNP−BSA抗原と共にCSBGを添加した群を、(4)は細胞を24時間インキュベートする際にCSBGを共存させ、その後、抗TNP−IgE抗体及びTNP−BSA抗原
を添加しなかった群、(5)は細胞を24時間インキュベートする際にCSBGを共存させ、その後、抗TNP−IgE抗体で感作させ、TNP−BSA抗原
と共にCSBGを添加した群をそれぞれ示す。PCRの増幅サイクル数は、IL−4が35回(図4中の「IL−4」における各群の左側)又は45回(図4中の「IL−4」における各群の右側)、β−アクチンが25回(図4中の「β−actin」における各群の左側)又は35回(図4中の「β−actin」における各群の右側)で行った。その結果、図4の(5)では、低サイクル数のPCRでもバンドが確認できるほど、IL−4のmRNAレベルが上昇した。
【0046】
また、Lumino-image analyzerを用いて、IL−4とβ−アクチンのmRNA発現強度を数値化した。結果を図5に示す。図5中の(1)〜(5)の意味は、前記と同様である。図5の縦軸は、β−アクチンのmRNA発現レベルに対するIL−4 mRNAの発現レベルの割合を、(1)(コントロール)を100%としたときの百分率で示した。また、図5中の「*」は、コントロールに対してp<0.05で有意差があることを示す。
その結果、(5)においては、IL−4のmRNAレベルが有意に上昇した。また(4)においても、IL−4のmRNAレベルが上昇した。
<2>ヒスチジンデカルボキシラーゼ(HDC) mRNAの発現
HDC及びβ−アクチンのmRNAの発現を解析した結果を図6に示す。
図6中の(1)〜(5)の意味は図4と同様である。ただし、PCRの増幅サイクル数は、HDC及びβ−アクチンともに25回(図6中における各群の左側)又は35回(図6中における各群の右側)で行った。その結果、図6の(4)及び(5)では、(1)(コントロール)に比してHDCのmRNAの発現が強く現れた。
【0047】
また、Lumino-image analyzerを用いて、HDCとβ−アクチンのmRNA発現強度を数値化した。結果を図7に示す。図7中の(1)〜(5)の意味は、前記と同様である。図7の縦軸は、β−アクチンのmRNA発現レベルに対するHDC mRNAの発現レベルの割合を、(1)(コントロール)を100%としたときの百分率で示した。また、図7中の「*」は、コントロールに対してp<0.05で有意差があることを、「**」は、コントロールに対してp<0.001で有意差があることをそれぞれ示す。
その結果、(3)、(4)及び(5)において、HDCのmRNAレベルが有意に上昇した。
【実施例5】
【0048】
RBL−2H3細胞おけるBGレセプターの検討
RT−PCRとフローサイトメトリーを用いて、RBL−2H3細胞におけるBGレセプターの発現を解析した。RT−PCRの解析結果を図8に、フローサイトメトリーの解析結果を図9にそれぞれ示す。
図8中の「1」のレーンはマーカー、「2」のレーンはCD11b mRNAの発現、「3」のレーンはβ−アクチン mRNAの発現をそれぞれ示す。
また、図9中の各グラフは、細胞表面における各分子の発現(上から順に、CD11b、ラクトシルセラミド、デクチン−1)を示すものである。各グラフの縦軸は細胞数を、横軸は蛍光強度をそれぞれ示す。また各グラフにおける黒色で塗られた実線部分はコントロールを、黒色で塗られていない実線部分は、それぞれ抗CD11b抗体(CALTAG社製)、抗ラクトシルセラミド抗体(Ancell社製)又は抗デクチン−1抗体(abcam社製)で細胞表面を染色した場合の結果を示す。
図8及び9から、デクチン−1とラクトシルセラミドの発現は観察されなかったが、CD11bが、mRNAレベル及び細胞表面において発現していることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】CSBGを添加するタイミングを変えた脱顆粒実験の結果を示す図である。
【図2】感作に用いる抗TNP−IgE抗体の濃度を変えた脱顆粒実験の結果を示す図である。
【図3】SPGを用いた脱顆粒実験の結果を示す図である。
【図4】IL−4及びβ−アクチンのmRNAの発現を解析した結果を示す図である。
【図5】IL−4とβ−アクチンのmRNA発現強度を数値化した結果を示す図である。
【図6】HDC及びβ−アクチンのmRNAの発現を解析した結果を示す図である。
【図7】HDCとβ−アクチンのmRNA発現強度を数値化した結果を示す図である。
【図8】RBL−2H3細胞におけるBGレセプターの発現のRT−PCRによる解析結果を示す図である。
【図9】RBL−2H3細胞におけるBGレセプターの発現のフローサイトメトリーによる解析結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンジダ由来のβ−グルカンを有効成分とする、顆粒球の脱顆粒の促進剤。
【請求項2】
カンジダ由来のβ−グルカンが、カンジダ・アルビカンス由来のβ−グルカンである、請求項1に記載の促進剤。
【請求項3】
β−グルカンが、1,3−β−グルカンである、請求項1又は2に記載の促進剤。
【請求項4】
1,3−β−グルカンが、1,6−β−ロング・グルコシル分枝1,3−β−グルカン(1,6−β−long glucosyl branched 1,3−β−グルカン)である、請求項3に記載の脱顆粒促進剤。
【請求項5】
顆粒球が、好塩基球である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の脱顆粒促進剤。
【請求項6】
以下のステップを少なくとも含む、顆粒球の脱顆粒を抑制する物質の評価方法;
(1)被験物質、カンジダ由来のβ−グルカン、抗原物質、当該抗原物質に対する抗体及び顆粒球を共存させるステップ;
(2)前記ステップによって得られる脱顆粒のレベルと、前記ステップにおいて被験物質が共存していない状態における脱顆粒のレベルとを比較するステップ。
【請求項7】
以下の構成成分を少なくとも含む、顆粒球の脱顆粒を抑制する物質の評価キット;
(1)カンジダ由来のβ−グルカン。
【請求項8】
さらに以下の構成成分を含む、請求項7に記載の評価キット。
(2)顆粒球。
【請求項9】
以下のステップを少なくとも含む、抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニング方法;
(1)被験物質、カンジダ由来のβ−グルカン、抗原物質、当該抗原物質に対する抗体及び顆粒球を共存させるステップ;
(2)前記ステップによって得られる脱顆粒のレベルと、前記ステップにおいて被験物質が共存していない状態における脱顆粒のレベルとを比較するステップ。
【請求項10】
以下の構成を少なくとも含む、抗アレルギー剤の有効成分の候補物質のスクリーニングキット;
(1)カンジダ由来のβ−グルカン。
【請求項11】
さらに以下の構成成分を含む、請求項10に記載の評価キット;
(2)顆粒球。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−50347(P2008−50347A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191644(P2007−191644)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(592068200)学校法人東京薬科大学 (32)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】