説明

脳保護作用剤

【課題】食物由来で安全な脳保護作用剤を提供する。
【解決手段】本発明の脳保護作用剤は、紫芋発酵液を主成分とする。紫芋発酵液は、例えば(1)紫芋を剥皮し、剥いた紫芋の表面をクエン酸処理した後、冷凍する工程、(2)冷凍された紫芋を解凍する工程、(3)解凍された紫芋を蒸煮する工程、(4)蒸された紫芋と米麹とをタンクに仕込み、50〜70℃の温度で18〜28時間、紫芋を発酵させる工程、(5)発酵された紫芋を圧搾し、搾汁と固形残渣とに分離する工程、および(6)前記搾汁にさらにクエン酸を添加して酸度を調整する工程により得られたものである。この脳保護作用剤は、特に脳梗塞の予防に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳保護作用剤に関し、より詳細には天然由来で安全性に優れた脳保護作用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会がますます進展する中、多くの高齢者が高血圧、動脈硬化や心疾患が発端となって、脳内血流が停滞し、脳梗塞になり、また脳神経細胞死を招く危険にさらされている。これらの症状が過激であると、身体麻痺、痴呆症等に進行することもある。脳梗塞等で損傷した脳は、現状では再生が困難であるため、日常から動脈硬化、心疾患、脳梗塞等を予防するような生活を送ることが大事となる。
【0003】
脳梗塞予防剤、血栓予防剤などの脳保護作用剤として、現在、エダラボン(商品名ラジカット)、アスピリン、ワーファリンなどが使用されている。これらは、化学物質であり、長期にわたる服用での副作用が心配である。
【0004】
天然の食物由来の脳保護作用剤としては、イチョウ葉エキス(特開2007−277183)、ヤマブシタケ(2006−129743)、紅花の搾汁エキス混合物(特開2001−346555)、冬虫夏草の熱水抽出物(特開2003−292452)などが公知である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記の天然食物由来の脳保護作用剤と同様に、食物由来で安全な脳保護作用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に対して鋭意研究開発を進めた結果、紫芋発酵液の脳保護作用が顕著であることを発見し、本発明に至った。すなわち、本発明は、紫芋発酵液を主成分とする脳保護作用剤を提供する。
【0007】
甘藷をクエン酸発酵して得られるクエン酸を含有する飲料とする従来技術として、特開2001−69957号公報(クエン酸含有飲料及びその製造方法)、特開2003−33163号公報(サツマイモ搾汁液の濃縮方法、健康飲料の製造方法及び健康飲料)、特開2004−121221号公報(甘しょ焼酎蒸留粕を原料とする健康食品素材と健康飲料及びそれらの製造方法)などがある。しかし、これらの従来技術からは、紫芋発酵液に脳梗塞予防等の脳保護作用があることは全く知られていなかった。
【0008】
上記紫芋発酵液は、例えば
(1)紫芋を剥皮し、剥いた紫芋の表面をクエン酸処理した後、冷凍する工程、
(2)冷凍された紫芋を解凍する工程、
(3)解凍された紫芋を蒸煮する工程、
(4)蒸された紫芋と米麹とをタンクに仕込み、50〜70℃の温度で18〜28時間、紫芋を発酵させる工程、
(5)発酵された紫芋を圧搾し、搾汁と固形残渣とに分離する工程、および
(6)前記搾汁にさらにクエン酸を添加して酸度を調整する工程
により得られたものである。
【0009】
前記紫芋発酵液は、また、
(1)紫芋を剥皮し、剥いた紫芋の表面をクエン酸処理した後、冷凍する工程、
(2)冷凍された紫芋を解凍する工程、
(3)解凍した紫芋を圧搾し、搾汁と固形残渣とに分離する工程、および
(4)搾汁液と米麹とをタンクに仕込み、50〜70℃の温度で18〜28時間、紫芋を発酵させる工程、
(5)前記搾汁にさらにクエン酸を添加して酸度を調整する工程
により得られたものである。
【0010】
本発明の脳保護作用剤は、前記紫芋発酵液を凍結乾燥し、粉末または錠剤状に加工したものでもよい。
【0011】
本発明の脳保護作用剤は、特に脳梗塞の予防に有用である。
【発明の効果】
【0012】
紫芋にはポリフェノール類、クエン酸、鉄分やカリウム分等のミネラルが豊富に含まれるが、低タンパク質である。また、紫芋発酵液は、他の酢よりも循環系の亢進作用が高い。本発明の紫芋発酵液を主成分とする脳保護作用剤には、循環障害によって惹起される脳梗塞の予防作用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の脳保護作用剤をより詳細に説明する。本発明の脳保護作用剤の主成分は、紫芋発酵液である。紫芋発酵液は、例えば以下の工程により調製することができる。
【0014】
(1)クエン酸処理・冷凍工程
紫芋を剥皮し、剥いた紫芋の表面をクエン酸処理した後、冷凍する。原料の紫芋は、紫芋であれば特に制限が無く、例えばアヤムラサキ、ナカムラサキ、種子島紫、山川紫、パープルスイートロード、宮農36号および九州109号が挙げられる。
【0015】
紫芋の表皮近くには、不良部分やアク成分が多いため、1〜2mm剥皮して取り除く。次いで、剥いた紫芋の表面をクエン酸処理する。このクエン酸処理は、主に保存状態の向上や酸化防止のために行われる。
【0016】
使用するクエン酸は、甘藷その他のでんぷん質原料をクエン酸発酵させたものや結晶クエン酸などのいかなる形態のものでよいが、芋風味を付与する点で甘藷由来のクエン酸が好ましい。特に好ましい原料は、後述する搾汁工程(5)で得られる紫芋固形残渣に含有されるクエン酸、または残渣をクエン酸発酵させたものである。
【0017】
クエン酸処理の手段は、通常、クエン酸水溶液の塗布や浸漬である。クエン酸水溶液の濃度は、通常10〜50%、好ましくは20〜30%である。
【0018】
クエン酸の塗布された紫芋は、通常、−80〜−10℃、好ましくは−25〜−15℃の温度にて冷凍保管される。冷凍は、紫芋の細胞膜を破壊するのに有効である。
【0019】
(2)解凍工程
冷凍された紫芋を、室温まで解凍する。冬場は常温、夏場は冷蔵庫で解凍することが好ましい。解凍した芋は、蒸煮しやすいように、例えば1〜2cm四方に切断するとよいが、切断しなくてもよい。
【0020】
(3)蒸煮工程
適宜切断した紫芋を、通常、80〜100℃、好ましくは90〜100℃の温度で、20〜60分間、好ましくは20〜40分間、蒸煮する。蒸煮は、雑菌を死滅させ、その後の麹菌の増殖を促す。
【0021】
(4)発酵工程
蒸された紫芋と米麹とをタンクに仕込み、紫芋を高温で発酵させる。米麹は、蒸した米に麹菌を繁殖させたものである。米麹には、でんぷんをブドウ糖に分解するアミラーゼが多く含まれ、これが紫芋のでんぷん質を分解し、さらに発酵させる。また、米麹に含まれる糖分が、紫芋発酵液の甘みの増強に寄与する。
【0022】
使用する米麹は、通常、アスペルギウス属に属する麹菌であってデンプン分解能の大きいものであればよい。例えば黄麹菌(Aspergillus oryzae)、黒麹菌(Aspergillus awamori, Aspergillus niger)、白麹菌(Aspergillus kawachi)などが挙げられる。中でも、黄麹菌が好ましい。
【0023】
前記米麹を作る(製麹)するには、上記麹菌の胞子を蒸米に接菌し、約35℃の温度で約3日間放置する。その後、胞子が発芽し、蒸米が麹菌の菌糸で覆われた米麹が得られる。米麹は、市販のものを使用してもよく、例えば「黄麹菌」(徳島精工株式会社製)などがある。
【0024】
蒸した紫芋と米麹とを、タンクに仕込み、加水する。米麹の使用量は、蒸した紫芋100重量部に対して、通常、100〜230重量部、好ましくは130〜200重量部である。
【0025】
次いで、50〜70℃、好ましくは55〜65℃の温度で、通常、18〜28時間、好ましくは20〜24時間放置して、紫芋のでんぷん質を分解させ、発酵させる。その間、適宜、攪拌してもよい。
【0026】
糖度は、通常、5〜35%の範囲にあり、好ましくは10〜35%、特に好ましくは20〜35%である。
【0027】
(5)搾汁工程
発酵された紫芋を麻袋に入れて、圧搾機などで圧縮する。圧縮の程度は、通常、6〜14MPaでよく、好ましくは8〜12MPaである。得られた搾汁液は、適宜、フィルター、中空糸膜でのろ過や遠心分離機にかけて、微細な浮遊物を除去する。搾汁液は、適宜、濃縮または希釈してもよい。
【0028】
(6)酸度調整工程
工程(5)で得られた適宜、清澄済みの紫芋搾汁液へ、クエン酸を添加して酸度を調整する。クエン酸水溶液は、紫芋固形残渣由来のものが芋の風味を保つ上で好ましい。紫芋加工飲料製品として適するクエン酸濃度は、通常、500〜4000mg/100mlであり、好ましくは800〜3000mg/100ml、特に好ましくは1000〜2800mg/100mlである。具体的には、紫芋搾汁液へ、クエン酸の粉末を添加して、クエン酸濃度を上記範囲へ調整する。
【0029】
得られた紫芋発酵液は、80℃以上、好ましくは90〜98℃の温度で、10〜15分の加熱殺菌することが好ましい。
【0030】
紫芋発酵液は、以下に示す工程:
(1)紫芋を剥皮し、剥いた紫芋の表面をクエン酸処理した後、冷凍する工程、
(2)冷凍された紫芋を解凍する工程、
(3)解凍した紫芋を圧搾し、搾汁と固形残渣とに分離する工程、および
(4)搾汁液と米麹とをタンクに仕込み、50〜70℃の温度で18〜28時間、紫芋を発酵させる工程、
(5)前記発酵液にさらにクエン酸を添加して酸度を調整する工程
によっても製造可能である。
【0031】
この製造方法は、生芋を搾汁した後に米麹とともに発酵させる以外は、前述の製造方法と同様である。
【0032】
工程(3)と工程(4)との間に、搾汁液を殺菌する工程を付加してもよい。殺菌は、通常、70〜80℃で1〜10分間行われる。
【0033】
本発明の脳保護作用剤に含有される紫芋発酵液の濃度(希釈度)は、脳保護作用剤の摂取量によって変わってくるが、通常、1〜100重量%でよく、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは100重量%(紫芋発酵液原液)である。紫芋発酵液の濃度が1重量%以下であると、脳保護作用を得るのに必要な量を摂取できない場合がある。なお、希釈する場合は、蒸留水が好ましい。
【0034】
本発明の脳保護作用剤は、上記液剤を濃縮したエキスからなるシロップ剤でもよい。シロップ剤は、瓶詰めやカプセルの形態で処方される。さらに、本発明の脳保護作用剤は、液剤やシロップ剤のほかに、粉末、顆粒、錠剤、カプセルのような形態に加工されてもよい。紫芋発酵液を凍結乾燥して、粉末にした後、適宜、打錠やカプセル化する。
【0035】
本発明の脳保護作用剤には、必須成分の紫芋発酵液のほかに、薬理学上使用可能な担体・賦形剤、結合剤、滑沢剤、潤滑剤、崩壊剤、界面活性剤、乳化剤、溶解補助剤、吸収促進剤、pH調整剤、光沢剤、安定化剤、酸化防止剤、保存剤、湿潤剤、着色剤、芳香剤賦形剤、その他の助剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で添加することができる。
【0036】
本発明の脳保護作用剤の用法は、経口投与である。本発明の脳保護作用剤の用量は、患者の症状、体重、投与間隔、投与方法、他の臨床的作用を左右する種々の因子を考慮して決定され得る。典型的には、成人男性一日あたりの紫芋発酵液原液の摂取量として、通常、10〜40mlでよく、好ましくは、20〜30mlであり、さらに好ましくは25〜30mlである。
【実施例】
【0037】
〔実施例1〕
(脳保護作用剤の調製)
紫芋(品種:アヤムラサキ)を洗浄後、剥皮した。剥いた紫芋を、用意しておいたクエン酸濃度25%のクエン酸水溶液(紫芋固形残渣由来のもの)へ浸した後、−25℃で10日間、冷凍保存した。
【0038】
冷凍保存された紫芋を室温まで解凍し、次いで蒸煮しやすい大きさ(約5cm四方)に切断した。切断した紫芋を、100℃の温度で40分間蒸煮した。
【0039】
次いで、蒸した紫芋60kgと、市販の乾燥米麹(製品名KL−3、徳島精工株式会社製)100kgとを容積1500Lのタンクに仕込み、約60℃で20時間放置し、紫芋を発酵させた。
【0040】
発酵された紫芋を麻袋に入れて、圧搾機にて10MPaの荷重をかけて圧搾し、搾汁と固形残渣とに分離した。得られた搾汁をさらにフィルターろ過して、不純物を除去した。
【0041】
ろ過した搾汁にクエン酸水溶液を添加し、酸度を1400mg/100mlに調整した。得られた搾汁のpHは、3.0であった。搾汁を温度90℃で10分間殺菌して、液量230Lの紫芋発酵液を得た。
【0042】
本発明の紫芋発酵液の脳保護作用を、黒酢および米酢と比較するために、初代培養脳神経細胞を用いた内毒素(Lipopolysaccharide、以下、単に「LPS」という)誘発細胞障害に対する神経保護作用、ならびに、中大脳動脈閉塞マウスモデルの梗塞体積に対する阻害作用を調査した。
【0043】
1.内毒素誘発細胞障害に対する神経保護作用
(各酢の内毒素誘発細胞障害に及ぼす影響)
細胞組織におけるNO発生をLPSによる組織障害の程度の指標とした。その理由を、以下に説明する。一般的に、組織障害の生じる際、細胞内へのCa2+が異常流入することが知られている。この異常の流入は、種々の細胞内情報系を活性させるが、その中の一つにPhospholipase A2を主体としたアラキドン酸カスケードの活性化が挙げられる。アラキドン酸の過剰産生は、その代謝酵素であるシクロオキシゲナーゼ(殊に、組織障害時や炎症発現時に誘発されるII型)の活性上昇を誘発させ、プロスタグランジン類の産生を促進する。この産生が炎症性反応を増長させ、組織内ではNO合成酵素の活性化に繋がる。NOは、さらに、活性酸素をはじめとするフリーラジカルの余剰産生を誘導し、組織障害へと発展する。これらの根拠から、LPSによるNO産生は、何らかの機序でLPSが組織障害を惹起することの指標として使用可能である。
【0044】
(初代培養神経細胞の作製)
以下の手順で、ラット小脳顆粒細胞を作成した。まず、Wistar系ラット(チャールスリバー株より入手)で同腹の生後8日齢を雌雄の区別なく10匹用い、それぞれの小脳を摘出した。小脳は、約400umに細切後、牛血清アルブミン、トリプシンMg2+、Ca2+等を含有するKrebs−HEPES緩衝液中で処理し顆粒細胞を分取した。分取した細胞は、牛胎児血清、KCI、グルタミンを含有するBasal Medium Eagle液(製品名GL−1、コージンバイオ株製)中に播種し、37℃に保温した5%COインキュベーター(ASTEC製)内で培養を開始した。
【0045】
小脳顆粒細胞を播種後8〜10日間培養することにより、神経細胞とグリア細胞が共存(神経細胞:グリア細胞=6:4)する初代培養細胞を作製し、以下の実験に用いた。なお、培養細胞は、Krebs−HEPES緩衝液(136mM NaCl、10 mM glucose、20 mM HEPES、5 mM KCI、1.3 mM MgCl、 1.2 mM CaClpH7.4)で洗浄し、同緩衝液で実験を行った。
【0046】
(紫芋発酵液の適用)
上記で得られた紫芋発酵液を最終濃度が0.0626%、0.125%、0.25%および0.5%となるようにそれぞれ希釈し、LPSの添加と同時に培養脳神経細胞に適用した。条件は、37℃で20時間とした。また、比較例として、黒酢(製品名:製品名:坂元醸造のくろ酢)または米酢(製品名:福山醸造の米酢)を上記と同じ濃度で希釈し、前記細胞に適用した。
【0047】
(NOx(NO/NO)の測定)
細胞外のNOxは、HPLC−UV system(製品名ENO−10、ElCOM製)を用いてNOおよびNOに分類し、Griess法により定量測定を行った。NO/NOの分離および還元カラム、ならびに反応コイルは、35℃に設置したカラムオーブン(製品名ATC−10、EICOM製)中で使用した。
【0048】
NOおよびNOは、測定開始後、それぞれ、約4分および6分で測定ピークを検出した。測定結果は、NOおよびNOの面積(AUC)で比較した。LPS(E.coli026:B6、DIFCOLABORATORIES、MI、USA)は、10および20ug/mlの各濃度で用いた。LPSを投与した直後からNO/NOの測定を開始した。測定結果は、各値のNOとNOの和を求めてNOxとして表示した。
【0049】
初代培養脳神経細胞の正常細胞外におけるNOx値は約50pmol(43.1±8.5)であったが、LPS(10ug/mI)を20時間培養細胞に適用すると、NOx産生は、約1.7倍(75.0±4.5)に増量した。
【0050】
LPS誘発のNOx生産に対する紫芋発酵液の添加効果を図1に示す。図1の縦軸(阻害率)は、LPS単独での実測値を100%とした場合の各濃度の紫芋発酵液での成績を百分率で計算したものである。LPS誘発のNOx産生値に対して、その違いが統計的に有意な差を有する群には*印を付けた(*:P<0.05)。図1が示すように、0.25および0.5%の紫芋発酵液濃度で有意な抑制効果が観察された。
【0051】
LPS誘発のNOx産生に対する黒酢の影響を図2に示す。表示の仕方は紫芋発酵液と同じである。LPS誘発のNOx量の増量に対して、黒酢は、0.25および0.5%濃度で抑制が観察された。しかし、0.5%濃度での増量抑制は統計学的に有意な結果ではなかった。
【0052】
LPS誘発のNOx産生に対する米酢の影響を図3に示す。表示の仕方は紫芋発酵液と同じである。LPS誘発のNOx量の増量に対して、米酢は、0.25および0.5%の濃度で抑制が観察された。しかし、これらは統計的に有意な差ではなかった。
【0053】
以上の結果をまとめると、紫芋発酵液や黒酢は、LPS誘発のNO産生を明らかに抑制したことから、細胞保護作用を有することが示唆される。
【0054】
2.中大脳動脈閉塞マウスの脳梗塞に及ぼす影響
(紫芋発酵液、黒酢または米酢の投与)
原液(×1)、10倍希釈液(×10)または100倍希釈液(×100)を、マウスに21日間経口投与した。なお、希釈には、蒸留水を用いた。
【0055】
(中大脳動脈閉塞マウスモデルの作製)
マウスを2% halothane吸収により麻酔を導入させ、続いて1% halothane吸入によって麻酔を維持し、手術台上に固定した。手術用顕微鏡(オリンパス OMK−1F)下で、頸部の中央を切開し、左側総頸動脈と外頸動脈を結紮した。総頸動脈を切開し、塞栓子が中大脳動脈(MCA)の起始部に到達するように、内頸動脈と外頸動脈の分岐部から内頸動脈を経由して9mm挿入した。再灌流は、塞栓子を手前に引くことによって行った。塞栓子は、長さ11mmの8−0ナイロンモノフィラメント(Ethilon:Ethicon. NJ. USA)の先端から4mmをシリコン樹脂(Xantopren:Bayer Dental. Osaka. Japan)でコーティングしたものを用いた。コーティングの部分の直径は、体重により適切な太さを選択した。閉塞時間は4時間とした。
【0056】
(TTC染色による梗塞巣体積の測定)
中大脳動脈閉塞24時間後に、マウスに過量のペントバルビタールを腹腔内投与し、断頭した。取り出した脳をドライアイスで凍結し、大脳皮質を含む脳の前額断スライスを2mm間隔で作製した。切片を、2% 2.3.5−triphenyltetrazolium chloride(TTC、Sigma社より購入)溶液中で、37℃、30分間インキュベートした。スライドガラス上に並べ、デジタルスチルカメラ(MVC−FD91、SONY(株)製)で撮影した。梗塞巣体積は、割面の写真から梗塞巣面積を画像解析ソフト(NIH lmage 1.62)で測定した。中大脳動脈閉塞後に生じる梗塞体積に及ぼす紫芋発酵液、黒酢および米酢の影響を、図4に示す。
【0057】
(神経症状)
中大脳動脈閉塞・再灌流による運動障害を肉眼的に判断するために、5段階にスコア化した。スコアの基準は、以下の通りである。なお、再開通直後に測定した。
0:normal posture
1:flexion of torso and of contralateral foreI imb upon lifting of the animal by the tail
2:circling to the contralateral side but normal posture at rest
3:continuous circling to the contralateral side
4:rolling to the contralateral side
神経症状(再開通直後)のスコア平均値ならびに標準誤差を表1に示す。
【0058】
【表1】

*:p<0.05
【0059】
図4から、紫芋発酵液の投与は、梗塞の大きさを抑制し、しかも、明らかな用量依存的な抑制であったことがわかる。特に、原液(×1)を連続投与した群では、梗塞抑制に対して統計学的に有意な変化が認められた。表1に示す神経症状のスコア平均値についても、紫芋発酵液には用量依存的に改善が認められ、原液投与群で統計学的に有意な変化(*:p<0.05)が認められた。
【0060】
黒酢には、原液投与群で連続投与での明らかな抑制効果が認められた(図4)。表1の神経症状については、全体的なスコアが低下したものの、顕著な改善が認められなかった。むしろ、腹を擦るような行動が観察された。
【0061】
米酢には、連続投与でいずれの投与群も梗塞巣に及ぼす影響が無かった(図4)。神経症状に関しても、改善効果は認められなかった(表1)。また、米酢の原液で連続投与した群では、強酸による胃腸障害、殊に漬瘍が剖検で認められた。このため、実験遂行途中で死亡した例があった。
【0062】
以上の結果は、紫芋発酵液や黒酢の連続投与が中大脳動脈閉塞によって生じる脳梗塞の抑制効果を有し、脳梗塞の予防に効果的であることを示唆する。しかし、黒酢の原液による連続投与は、漬瘍形成を促進することもあり、原液使用の場合においては紫芋発酵液の方が安全であると思われる。
【0063】
以上のとおり、In Vitro系とIn Vivo系での脳機能障害モデルに対して紫芋発酵液原液の連続的な投与は、脳梗塞の予防となり得ることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】LPS誘発のNOx産生に対する紫芋発酵液添加による抑制効果を示す図である。
【図2】LPS誘発のNOx産生に対する黒酢添加による抑制効果を示す図である。
【図3】LPS誘発のNOx産生に対する米酢添加による抑制効果を示す図である。
【図4】紫芋発酵液、黒酢および米酢の脳梗塞に及ぼす影響を梗塞巣の体積での比較した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫芋発酵液を主成分とする脳保護作用剤。
【請求項2】
前記紫芋発酵液が、
(1)紫芋を剥皮し、剥いた紫芋の表面をクエン酸処理した後、冷凍する工程、
(2)冷凍された紫芋を解凍する工程、
(3)解凍された紫芋を蒸煮する工程、
(4)蒸された紫芋と米麹とをタンクに仕込み、50〜70℃の温度で18〜28時間、紫芋を発酵させる工程、
(5)発酵された紫芋を圧搾し、搾汁と固形残渣とに分離する工程、および
(6)前記搾汁にさらにクエン酸を添加して酸度を調整する工程
により得られたものであることを特徴とする、請求項1に記載の脳保護作用剤。
【請求項3】
前記紫芋発酵液が、
(1)紫芋を剥皮し、剥いた紫芋の表面をクエン酸処理した後、冷凍する工程、
(2)冷凍された紫芋を解凍する工程、
(3)解凍した紫芋を圧搾し、搾汁と固形残渣とに分離する工程、および
(4)搾汁液と米麹とをタンクに仕込み、50〜70℃の温度で18〜28時間、紫芋を発酵させる工程、
(5)前記発酵液にさらにクエン酸を添加して酸度を調整する工程
より得られたものであることを特徴とする、請求項1に記載の脳保護作用剤。
【請求項4】
さらに、前記紫芋発酵液を凍結乾燥し、粉末、錠剤またはカプセル状に加工したことを特徴とする、請求項2または3に記載の脳保護剤。
【請求項5】
前記脳保護作用が、脳梗塞の予防である、請求項1〜4のいずれかに記載の脳保護作用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−292747(P2009−292747A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145876(P2008−145876)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(503027861)トーシン株式会社 (8)
【Fターム(参考)】